(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねた連続繊維束に対して、加温状態のダイ中にて溶融状態のポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂を含浸させて一体化した後、4〜50mmの長さに切断するPAS樹脂含浸長繊維ペレットの製造方法であって、
前記PAS樹脂含浸長繊維ペレットが難燃剤を含まず、
前記PAS樹脂含浸長繊維ペレット中の前記連続繊維の含有割合が20〜60質量%であり、
使用するPAS樹脂の粘度(温度310℃、せん断速度1200s-1)が50〜250Pa・sであり、
前記ダイの設定温度が340℃以上で390℃以下である、PAS樹脂含浸長繊維ペレットの製造方法。
前記連続繊維が、ガラス繊維、カーボン繊維、ステンレス繊維、アラミド繊維から選ばれるものである、請求項1又は2に記載のPAS樹脂含浸長繊維ペレットの製造方法。
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によりPAS樹脂含浸長繊維ペレットを製造した後、前記PAS樹脂含浸長繊維ペレット100質量部に対して0.005〜0.1質量部の脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、およびポリエチレンワックスからなる群から選ばれる1種又は2種以上からなる滑剤成分を添加混合する、PAS樹脂組成物の製造方法。
前記滑剤成分が、エチレンビスステアリン酸アミド、モンタン酸エステルワックス、ポリグリセリンステアレート、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムおよびポリエチレンワックスからなる群から選ばれる1種又は2種以上からなる、請求項4記載のPAS樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<PAS樹脂含浸長繊維ペレットの製造方法>
本発明の製造方法は、連続繊維を長さ方向に揃えた状態で束ねた連続繊維束に対して、加温状態のダイ中にて溶融状態のポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂を含浸させて一体化した後、4〜50mmの長さに切断する工程を有しているものである。
【0010】
PAS樹脂は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などを挙げることができる。
【0011】
引張強さなど機械特性の優れた繊維強化されたPAS樹脂成形体を得るには、原料に使用するPAS樹脂の分子量が高いことが好ましいが、分子量が高すぎると溶融状態の流動性が悪くなる。
PAS樹脂の分子量および流動性の指標となる、温度310℃、せん断速度1200sec
−1の粘度は、50〜250Pa・sが好ましく、60〜230Pa・sがより好ましく、70〜220Pa・sがさらに好ましい。前記条件におけるPAS樹脂の粘度が、50Pa・sより小さいと、成形体の機械特性、とりわけ引張強さが低くなる。また250Pa・sより大きいと加温状態のダイ中におけるPAS樹脂の連続繊維束への含浸性が低下する。
本発明に用いられるPAS樹脂は、前記粘度の異なるPAS樹脂を混合して上記粘度範囲となるようにしたものも使用することができる。
【0012】
連続繊維は、ガラス繊維、カーボン繊維、ステンレス繊維、アラミド繊維から選ばれるものが好ましい。
連続繊維束の繊維本数は、好ましくは100〜30000本、より好ましくは500〜25000本、さらに好ましくは1000〜15000本、特に好ましくは2000〜10000本である。
【0013】
熱可塑性樹脂(但し、PAS樹脂を除く)を使用した樹脂含浸繊維束長繊維ペレットの製造方法自体は公知であり、例えば、特開2013−107979号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)、特開2013−121988号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)、特開2012−52093号公報(実施例1〜9)、特開2012−131104号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造、製造例2の樹脂含浸炭素繊維長繊維束の製造)、特開2012−131918号公報(製造例1の樹脂含浸炭素繊維束の製造、製造例2の樹脂含浸ガラス繊維束の製造)、特開2011−162905号公報(実施例1)、特開2004−14990号公報(実施例1〜7)に記載の方法に準じて製造することができる。
【0014】
本発明の製造方法では、前記ダイの設定温度は340℃以上であり、345℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましい。
前記温度が340℃よりも低い場合は、溶融したPAS樹脂の流動性が十分でなく、加温状態のダイ中におけるPAS樹脂の連続繊維束への含浸性が低下し、PAS樹脂含浸長繊維ペレットの製造が困難となる。
一方、前記ダイの設定温度が高すぎると、成形体の機械特性、とりわけ引張強さが低下する。前記の使用するPAS樹脂の粘度が高い場合、すなわち分子量が高い場合は、380℃乃至390℃程度まで設定することができるが、粘度が低い場合には、370℃程度を上限設定温度の目安にすることが好ましい。なお、使用するPAS樹脂の前記粘度が250Pa・s以下であれば、370℃の設定温度で本発明のPAS樹脂含浸長繊維ペレットの製造はできる。
本発明の製造方法では、前記ダイの設定温度の上限は390℃以下であり、380℃以下が好ましく、370℃以下がより好ましい。ダイの設定温度が高すぎる場合は引張強さなどの機械的特性の低下が顕著になる。
【0015】
PAS樹脂含浸長繊維ペレット中の連続繊維の含有割合は20〜60質量%、25〜55質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましく、40〜50質量%がさらに好ましく、合計で100質量%となる残部割合がPAS樹脂である。なお、前記割合は、実質的に原料基準と同一である。
PAS樹脂含浸長繊維ペレットに含まれる繊維の長さは、PAS樹脂含浸長繊維ペレットと同じである。
【0016】
<PAS樹脂組成物の製造方法>
本発明の組成物の製造方法は、上記したPAS樹脂含浸長繊維ペレットの製造方法によりPAS樹脂含浸長繊維ペレットを製造した後、さらに滑剤成分を添加混合する方法である。
滑剤成分は、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、およびポリエチレンワックスからなる群から選ばれる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。滑剤成分は沸点が観測されないか、300℃以上であることが好ましく、沸点が330℃以上であることがより好ましい。
【0017】
脂肪族アミドとしては、具体的には、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
脂肪族エステルとしては、具体的には、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28〜30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
モンタン酸エステル系ワックスは金属塩を形成していると成型時の金型離型性にも好適に寄与する。さらには、モンタン酸エステル化物と、モンタン酸と水酸化カルシウムとのケン化物との混合ワックスも使用できる。
【0019】
脂肪族エステルには、グリセリン有機酸エステル、ポリグリセリン有機酸エステル、ソルビタン有機酸エステル、プロピレングリコール有機酸エステル、高級アルコール有機酸エステルも含まれる。これらは、炭素数40未満の脂肪酸から誘導されるものであることが最も好ましい。具体的には、ステアリン酸モノグリセライド、クエン酸飽和脂肪酸モノグリセライド、ソルビタンステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ポリグリセリンステアレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、ポリエチレンワックスとは、例えばチグラー触媒にて重合されるポリエチレンワックスであれば、問題なく使用できる。さらに、極性プラスチックへの相溶性を高める為に酸化されたポリエチレンワックスであることが好ましい。溶融粘度としては、140℃下で、3000mPa・s以下であることが好ましい。
【0021】
脂肪酸金属塩としては、好ましくは炭素数16〜36の高級脂肪酸の金属塩で、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのうち、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが好ましい。
【0022】
これら具体的な化合物の中で、滑剤成分は、エチレンビスステアリン酸アミド、モンタン酸エステルワックス、ポリグリセリンステアレート、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムおよびポリエチレンワックスからなる群から選ばれる1種または2種以上が好ましく、モンタン酸エステルワックス、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選ばれる1種または2種以上がより好ましい。
【0023】
本発明の組成物では、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、およびポリエチレンワックスからなる群を除いた他の外部滑剤は必要ないが、他の外部滑剤と併用するときは、外部滑剤中の脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、およびポリエチレンワックスからなる群の含有割合が95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。
【0024】
PAS樹脂含浸長繊維ペレットと滑剤の含有割合は、PAS100質量部に対して滑材が0.005〜0.1質量部、好ましくは0.005〜0.05質量部、より好ましくは0.005〜0.02質量部である。
滑剤は累積分布値90%に対応する粒子径(D90)として表される粒子径が100μm以下であるものが好ましく、5〜75μmのものがより好ましく、10〜60μmのものがさらに好ましい。
滑剤成分の累積分布値90%に対応する粒子径(D90)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、「Microtrac MT3300EX II」(商品名)、Microtrac社製)を用い、分散媒に例えばエタノールなどの溶媒を用いて測定することができる。
【0025】
本発明の組成物は、組成物の用途に応じて公知の添加剤を添加することもできる。
公知の添加剤としては、安定剤、可塑剤、耐光剤、耐電防止剤
、着色剤などを挙げることができる
が、難燃剤は含まない。
【実施例】
【0026】
(1)PPS粘度(Pa・s)
PPSのペレットを140℃、3時間の条件で乾燥後、東洋精機製キャピログラフ1Bにより溶融粘度を測定した。
この際、キャピラリーは、1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、設定温度は310℃とした。PPSのペレットを装置に導入し、5分間保持した後、ズリ速度1200sec
-1での溶融粘度を測定した。溶融粘度が高いほど分子量が高く、流動性が悪いため、これを分子量と流動性の指標とした。
【0027】
(2)引張強さ(MPa)
ISO527に準拠して測定した。
下記条件にてISO多目的試験片A型形状品(厚み4mm)を作製して、引張強さ測定用の試験片とした。
装置:(株)日本製鋼所製、J−150EII
シリンダー温度330℃
金型温度:160℃
スクリュー:長繊維専用スクリュー
スクリュー径:51mm
ゲート形状20mm幅サイドゲート
【0028】
使用したPAS樹脂
A−1:ポリプラスチックス(株)製PPS樹脂、DURAFIDE 0220C9(310℃、せん断速度1200sec
−1における粘度210Pa・s)
A−2:ポリプラスチックス(株)製PPS樹脂、DURAFIDE 0203C6(310℃、せん断速度1200sec
−1における粘度28Pa・s)
A−3:A−1とA−2を質量比1:1で混合したPPS樹脂(せん断速度1200sec
−1における粘度72Pa・s)
A−4:A−1とA−2を質量比1:2で混合したPPS樹脂(せん断速度1200sec
−1における粘度51Pa・s)
【0029】
実施例1(PPS樹脂含浸カーボン長繊維ペレット)
炭素長繊維(トレカT700S(東レ(株)製)からなる24000本の繊維束)を、予備加熱装置による230℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。
そのとき、樹脂フィーダーから、PPS樹脂(A−3)を99.7質量部および安定剤 BASFジャパン(株)製IRGAFOS168を0.3質量部ドライブレンドしたものを投入し、2軸押出機(シリンダー温度最高345℃)で溶融させてクロスヘッドダイ(設定温度360℃)に供給し、表1に記載の割合で、繊維束にPPS樹脂を含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより切断し、PPS樹脂含浸カーボン長繊維ペレットを得た。
PPS樹脂含浸カーボン長繊維ペレットを切断して確認したところ、カーボン長繊維が長さ方向にほぼ平行になっており、中心部まで樹脂が含浸されていた。
【0030】
実施例2
クロスヘッドダイの設定温度が380℃である以外は、実施例1と同様の方法でPPS樹脂含浸カーボン長繊維ペレットを得た。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例3(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
ガラス長繊維からなる集束剤で束ねられた繊維束(ガラス繊維:約4000本の繊維の束)をクロスヘッドダイに通した。
そのとき、樹脂フィーダーから、PPS樹脂(A−1)を99.7質量部および安定剤BASFジャパン(株)製IRGAFOS168を0.3質量部ドライブレンドしたものを投入し、2軸押出機(シリンダー温度最高345℃)で溶融させてクロスヘッドダイ(設定温度350℃)に供給し、表2に記載の割合で、繊維束にPPS樹脂を含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
このようにして得たPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを切断して確認したところ、ガラス長繊維が長さ方向にほぼ平行になっており、中心部まで樹脂が含浸されていた。
【0033】
実施例4(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
使用したPPS樹脂がA−3であるほかは、実施例3と同様の方法でPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0034】
実施例5(PPS樹脂組成物)
実施例4で製造したPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット100質量部に対し、ステアリン酸カルシウム(堺化学工業(株)製 SC−100)0.01質量部をドライブレンドすることでPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0035】
実施例6(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
クロスヘットダイの設定温度が370℃であるほかは、実施例4と同様の方法でPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0036】
実施例7(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
使用したPPS樹脂がA−4、クロスヘットダイの設定温度が370℃であるほかは、実施例3と同様の方法でPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0037】
実施例8(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
クロスヘットダイの設定温度が390℃であるほかは、実施例7と同様の方法でPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0038】
比較例1(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
使用したPPS樹脂がA−2、ガラス繊維の質量分率が40%、クロスヘットダイの設定温度が390℃であるほかは、実施例3と同様の方法でPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0039】
比較例2(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
クロスヘットダイの設定温度が370℃であるほかは、比較例1と同様の方法でPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0040】
比較例3(PPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレット)
使用したPPS樹脂がA−2であるほかは、実施例3と同様の方法でPPS樹脂含浸ガラス長繊維ペレットを得た。
【0041】
【表2】
【0042】
比較例1〜3では、使用したPAS樹脂の粘度が低すぎたため、十分な引張強さが得られなかった。
また実施例4と実施例
5を比べると、外部滑剤の有無によって引張強さに9MPaの差があった。