【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/先端複合技術型シリコン太陽電池、高性能CIS太陽電池の技術開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明においては、以下の実施形態に限定されない。
【0017】
図1に模式的に示すように、本発明の一実施形態における光電変換素子(代表的には、太陽電池)10は、透明基板1、透明電極層2、電子輸送層3、ペロブスカイト化合物を含む光吸収層4、正孔輸送層5および金属電極層6をこの順に有する。なお、電子輸送層3と正孔輸送層5が入れ替わってもよい。
【0018】
透明基板1としては、代表的には、ガラスやフィルムといった光を透過可能な透光性を有する、透明な基板が用いられる。ガラスとしては、例えば、無アルカリガラスを用いることができる。フィルムとしては、例えば、PETやアラミドフィルム、ポリイミドフィルムなどを用いることができる。
【0019】
透明電極層2としては、例えば、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)等の単層膜、あるいはこれらを積層してなる積層膜が挙げられる。耐湿性の点から、FTOを用いることが好ましい。透明電極層の膜厚は、例えば、抵抗率の点から、500nm〜1000nmが好ましく、650nm〜1000nmがより好ましい。また、透明電極層のヘイズ率は、例えば、光学的な観点から、5%〜20%が好ましく、10%〜15%がより好ましい。ヘイズ率の測定は、JIS K7136に準拠して測定することが可能である。透明電極層は、その形成材料に応じて、任意の適切な製膜方法にて作製すればよい。例えば、スプレー熱分解などが好ましい。
【0020】
電子輸送層3は、任意の適切な材料で形成され得る。電子輸送層の形成材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物に代表される無機材料、フェニルC
61酪酸メチルエステルをはじめとするフラーレン系材料や、ペリレン系材料等の有機材料が挙げられる。これらの中でも、無機材料が好ましく用いられる。電子輸送層には、ドナーが添加されていてもよい。具体例としては、電子輸送層の形成材料として酸化チタンを採用する場合、ドナーとして、イットリウム、ユウロピウム、テルビウム等が用いられる。
【0021】
電子輸送層3は、ブロッキング層3aを含む。ブロッキング層3aは、電子輸送と逆電子移動を抑制し得る層である。ブロッキング層は、TiO
2やZnOなどの金属酸化物からなる層であることが好ましく、中でも、コンパクトTiO
2等が好ましい。このような材料を用いることで、例えば、
図1に示すように、透明電極層2表面を緻密に覆うことができる。ブロッキング層の膜厚は、例えば、光学的および電子注入の観点から、5nm〜100nmが好ましく、10nm〜50nmがより好ましい。
【0022】
1つの実施形態においては、
図1に示すとおり、電子輸送層3は、ブロッキング層3aに加えて、さらに多孔質担体層3bを含むのが好ましい。多孔質担体層3bは、ブロッキング層3a上の光吸収層4が配置される側に形成される。多孔質担体層を設けることで、光吸収層の塗布性が向上する。
【0023】
光電変換素子は、代表的には、基板に、各層を順次積層することにより作製される。この場合、
図1に示すように、光吸収層4よりも電子輸送層3が透明基板1側に配置される形態では、電子輸送層3を形成してから光吸収層4が形成される。
【0024】
多孔質担体層の形成材料としては、上記ブロッキング層の形成材料に含まれる成分を含むことが好ましい。ブロッキング層との密着性が向上し得るからである。その結果、電子輸送層と光吸収層との密着性の向上にも寄与し得る。例えば、多孔質担体層の形成材料としては、金属酸化物を用いることができ、そのうち多孔質TiO
2やAl
2O
2を用いることが好ましい。多孔質担体層の膜厚は、50nm〜300nmが好ましく、100nm〜200nmがより好ましい。このような範囲とすることで、例えば、光学的な吸収ロスを低減しつつ、後述するペロブスカイト型結晶構造の光吸収層を良好に形成することが期待できる。
【0025】
電子輸送層3は、その形成材料に応じて、任意の適切な方法により形成され得る。形成方法としては、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライプロセスや、スピンコート法、スプレー法、バーコート法等のウェットプロセスが挙げられる。
【0026】
光吸収層4は、ペロブスカイト型結晶構造の感光性材料(ペロブスカイト化合物)を含む。ペロブスカイト化合物は、一般式ABX
3で表される。式中、Aは1価のカチオンである。1価のカチオンとしては、例えば、アルカリ金属カチオンや有機カチオンのような1価のカチオンが挙げられる。さらに具体的には、メチルアンモニウムカチオン(CH
3NH
3+)、ホルムアミジニウムカチオン(NH
2CHNH
2+)、セシウムカチオン(Cs
+)が挙げられ、単一でもよいし、複数種のカチオンを混合させてもよい。Bは2価の金属イオンであり、PbやSnが好ましい。Xはハロゲンであり、F,Cl,Br,Iが挙げられる。3個のXは、全て同一のハロゲン元素であってもよく、複数のハロゲン元素が混在していてもよい。例えば、ハロゲンの種類や比率を変更することにより、分光感度特性を変化させることができる。光吸収層4はCuKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折測定において、2θ=13.9°付近に現れる(002)回折ピークと2θ=14°付近に現れる(110)回折ピークを有し、(002)面のピークの強度I(002)と(110)面のピークの強度I(110)のピーク強度比I(110)/I(002)が、1.50から3.00とすることで、高効率なペロブスカイト型光電変換素子が形成される。また、ピーク強度比I(110)/I(002)が、1.50から2.00がより好ましい。光吸収層4の膜厚は50nm〜700nmが好ましく、例えば、光の吸収効率と励起子拡散長の観点から200nm〜500nmがより好ましい。
【0027】
ペロブスカイト化合物を含む光吸収層は、上記電子輸送層と同様、ドライプロセスやウェットプロセスにより基板上に形成され得る。これらのプロセスは、グローブボックスなどの密閉下でアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気中にて実施される。ペロブスカイト化合物を含む光吸収層は、例えば、ペロブスカイト化合物を構成する材料を含有する塗布液(例えば、溶液)を、スピンコート法等により塗布することにより形成される。具体的には、ペロブスカイト化合物としてCH
3NH
3PbI
3を採用する場合、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒に、ヨウ化鉛とヨウ化メチルアンモニウムを混合して得られる溶液をスピンコート法にて塗布し、塗膜を加熱することにより、CH
3NH
3PbI
3結晶を成長させることができる。塗膜の表面に貧溶媒を接触させることにより、結晶性を向上させることもできる。連続して複数枚の光吸収層を形成する場合、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒が、光吸収層の形成雰囲気中に余剰に存在すると、ペロブスカイト化合物の形成を阻害するため、各光電変換素子の光吸収層を形成する前に、新たなアルゴンや窒素等の不活性ガスにより、光吸収層の形成雰囲気の置換作業が行われる。なお、新たな不活性ガスによる置換作業は、光吸収層の形成前に毎回、実施される必要はなく、不活性ガスの置換作業を行わないで複数の光吸収層を形成した後に、新たな不活性ガスによる置換作業が行われ、続いて複数の光吸収層を形成してもよい。また、ロールトゥロールなど大面積の光吸収層を一度に形成する場合においては、適宜、光吸収層の形成雰囲気を、新たな不活性ガスに置換する作業が行われる。
【0028】
ドライプロセスとウェットプロセスとの組み合わせにより、ペロブスカイト化合物を含む光吸収層を形成することもできる。例えば、真空蒸着法によりヨウ化鉛の薄膜を形成し、その表面にヨウ化メチルアンモニウムのイソプロピルアルコール溶液を接触させることにより、CH
3NH
3PbI
3の結晶が得られる。蒸着膜の表面に溶液を接触させる方法としては、例えば、スピンコート等により溶液を塗布する方法や、溶液中に蒸着膜を浸漬する方法が挙げられる。例えば、後述するシリコン基板の光入射側にテクスチャ構造が形成されている場合等、均一に溶液に接触させる観点から、浸漬法が好ましく用いられる。
【0029】
正孔輸送層5は、従来公知の材料を適宜選択すればよく、例えば、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(Spiro−OMeTAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアニリン誘導体等が挙げられる。また、正孔輸送層の材料としては、MoO
3、WO
3、NiO等の金属酸化物等も挙げられる。
【0030】
正孔輸送層は、単層でもよく、複数の層からなる積層構造でもよい。正孔輸送層の膜厚は、1nm〜200nmであることが好ましい。
【0031】
正孔輸送層は、例えば、上述したSpiro−OMeTAD等の正孔輸送材料を含有する溶液を用いて、スプレー法等により光吸収層4上に製膜される。
【0032】
金属電極層6の形成材料としては、例えば、金、銀等の金属が用いられる。金属電極の製膜には、スパッタ法やイオンプレーティング法等のPVD法や抵抗加熱などといった公知の技術を用いればよく、生産性の観点からはスパッタ法が好ましい。スパッタ製膜は、代表的には、製膜室(チャンバー)内に、アルゴンや窒素等の不活性ガスを導入しながら行われる。
【0033】
図示しないが、例えば、キャリア注入特性を改善するために、正孔輸送層5と金属電極層6との間に、酸化モリブデンなどのホール注入層を形成してもよい。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態における積層型の光電変換素子の概略断面図である。光電変換素子100は、光入射側(図の上側)から、第一の光電変換ユニット(トップセル)20および第二の光電変換ユニット(ボトムセル)30をこの順に有する。
【0035】
積層型の光電変換素子を構成する光電変換ユニットの1つとして、上記ペロブスカイト化合物を含む光吸収層を有するペロブスカイト型光電変換ユニットが採用される。
図2では、第一の光電変換ユニット20に、ペロブスカイト型光電変換ユニットが採用されている。第一の光電変換ユニット20は、ペロブスカイト化合物を含む光吸収層4と光吸収層4の片側に配置された電子輸送層3と光吸収層4のもう片側に配置された正孔輸送層5とを有する。
図2では、光吸収層4の光入射側に正孔輸送層5が配置されている。電子輸送層3は、ブロッキング層3aと多孔質担体層3bとを含む。なお、各層の詳細については、上述のとおりである。
【0036】
上記ペロブスカイト型光電変換ユニットと組み合わせる光電変換ユニット(
図2では、第二の光電変換ユニット30)には、任意の適切な光電変換ユニットが採用され得る。1つの実施形態においては、高効率化が期待されるため、ペロブスカイト型光電変換ユニットよりもバンドギャップが狭い光電変換ユニットが好ましく用いられる。ペロブスカイト型光電変換ユニットよりもバンドギャップが狭い光電変換ユニットとしては、例えば、シリコン系光電変換ユニット(代表的には、結晶シリコン系光電変換ユニット)が挙げられる。結晶シリコン系光電変換ユニットは、代表的には、結晶シリコン基板と、結晶シリコン基板の片側に配置される第一導電層と、結晶シリコン基板のもう片側に配置される第二導電層とを有する。結晶シリコン基板の導電型は、n型であってもp型であってもよい。第一導電層の導電型と第二導電層の導電型とは異なる。具体的には、一方がp型であり、他方がn型である。
【0037】
第二の光電変換ユニット30の基板31(結晶シリコン基板)の光入射側に配置されている第一導電層32は、第一の光電変換ユニット20の光入射側に配置される導電層(正孔輸送層5)と同一の導電型を有し、第二の光電変換ユニット30の基板31の裏側に配置されている第二導電層33は、第一の光電変換ユニット20の裏側に配置される導電層(電子輸送層3)と同一の導電型を有する。
図2では、第一導電層32はp型であり、第二導電層33はn型である。したがって、第一の光電変換ユニット20と第二の光電変換ユニット30とは直列接続されており、両者は同一方向の整流性を有する。
【0038】
上記結晶シリコン系光電変換ユニットの具体例として、拡散型シリコン光電変換ユニット、ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットが挙げられる。拡散型シリコン光電変換ユニットは、例えば、結晶シリコン基板の表面にホウ素やリン等のドープ不純物を拡散させて導電層(導電型シリコン系半導体層)を形成することにより得られる。ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットは、例えば、単結晶シリコン基板に、非晶質シリコンや微結晶シリコン等の非単結晶シリコン系薄膜を製膜して導電層を形成することにより得られる。ここで、単結晶シリコン基板と非単結晶シリコン系薄膜との間で、ヘテロ接合が形成されている。ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットは、単結晶シリコン基板と導電型シリコン系薄膜との間に、真性シリコン系薄膜を有することが好ましい。真性シリコン系薄膜を有することにより、単結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ、表面パッシベーションを有効に行うことができる。
【0039】
1つの実施形態においては、第二の光電変換ユニット30(結晶シリコン系光電変換ユニット)に、上記ヘテロ接合シリコン光電変換ユニットが採用される。本実施形態では、基板31として、例えば、n型の単結晶シリコン基板が用いられる。図示しないが、基板31は、光閉じ込め等の観点から、その表面にテクスチャ構造(凹凸構造)が形成されていてもよい。
【0040】
n型の単結晶シリコン基板31の光入射側には、真性シリコン系薄膜(図示せず)を介して、p型シリコン系薄膜(第一導電層32)が形成され、n型の単結晶シリコン基板31の裏側には、真性シリコン系薄膜(図示せず)を介して、n型シリコン系薄膜(第二導電層33)が形成される。ここで、真性シリコン系薄膜は、上述の表面パッシベーションをより有効に行う等の観点から、基板31の表面に、任意の適切な方法により、真性非晶質シリコン薄膜を製膜することで形成されることが好ましい。真性シリコン系薄膜の膜厚は、2nm〜15nm程度が好ましい。
【0041】
上記導電型シリコン系薄膜(導電層32,33)の形成材料としては、例えば、非晶質シリコン、微結晶シリコン(非晶質シリコンと結晶質シリコンを含む材料)や、非晶質シリコン合金、微結晶シリコン合金等が用いられる。シリコン合金としては、例えば、シリコンオキサイド、シリコンカーバイド、シリコンナイトライド、シリコンゲルマニウム等が挙げられる。これらの中でも、導電型シリコン系薄膜は、非晶質シリコン薄膜であることが好ましい。導電型シリコン系薄膜(導電層32,33)の膜厚は、3nm〜30nm程度が好ましい。
【0042】
光電変換素子100は、例えば、予め、第二の光電変換ユニット30を作製し、第二の光電変換ユニット30上に、第一の光電変換ユニット20を構成する各層を順次形成することにより作製される。1つの実施形態においては、第一の光電変換ユニット20(トップセル)と第二の光電変換ユニット30(ボトムセル)との間には、両ユニットの電気的な接続や、電流マッチングのための入射光量の調整等を目的として、中間層(図示せず)を設けてもよい。別の実施形態においては、トップセルの最下層(
図2では、電子輸送層3)および/またはボトムセルの最上層(
図2では、第一導電層32)に、中間層の機能の一部または全部を持たせてもよい。
【0043】
図示しないが、光入射側(図の上側)に配置される第一の光電変換ユニット20の光入射面には透明電極層が形成される。この透明電極層の表面には、キャリアの取出し効率を向上させる観点から、例えば、パターン状の金属電極が設けられていてもよい。第二の光電変換ユニット30の光入射側と反対側(裏側)には、裏面電極が設けられる。例えば、第二の光電変換ユニット30の裏面には、透明電極層が形成され、この透明電極層上には、裏面金属電極が設けられる。
【0044】
上記透明電極層の形成材料としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)等の酸化物や、酸化インジウム錫(ITO)等の複合酸化物等が好ましく用いられる。また、In
2O
3やSnO
2にWやTi等をドープした材料を用いてもよい。このような透明導電性酸化物は、透明性を有しかつ低抵抗であるため、光励起キャリアを効率よく収集できる。透明電極層の製膜方法は、スパッタ法やMOCVD法等が好ましい。透明導電性酸化物以外に、Agナノワイヤ等の金属細線や、PEDOT−PSS等の有機材料も用いられる。
【0045】
光入射側の透明電極層としてITO等の金属酸化物が用いられる場合、光電変換素子は、その最表面には反射防止膜(例えば、MgF等の低屈折率材料から構成される)を有することが好ましい。反射防止膜を最表面に有することにより、空気界面での屈折率差を小さくして反射光を低減し、光電変換素子に取り込まれる光量を増大できる。
【0046】
上記裏面金属電極は、パターン状であってもよく、面状であってもよい。裏面電極には、長波長光の反射率が高く、かつ導電性や化学的安定性が高い材料を用いることが望ましい。このような特性を満たす材料としては、例えば、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。裏面電極は、例えば、印刷法、各種物理気相蒸着法、めっき法等により形成される。
【0047】
また、光電変換素子100における第一の光電変換ユニット20において、光吸収層4の光入射側とは反対側に正孔輸送層5が配置されてもよい。その場合には、第二の光電変換ユニット30の第一導電層32はn型であり、第二導電層33はp型である。
【0048】
上記光電変換素子は、例えば、基板とバックシートとの間に、封止材を介して光電変換素子を封止することで、モジュール化される。その場合には、インターコネクトを介して複数の光電変換素子を直列または並列に接続した後に封止してもよく、上記ペロブスカイト型光電変換ユニットのみの場合は、従来の薄膜太陽電池と同様にスクライブによる集積化を行うことで、光電変換素子を直列または並列に接続した後に封止してもよい。上記光電変換素子は、光吸収層が連続して形成されているにも関わらず、各光電変換素子は、高い変換効率を有しているため、上記光電変換素子を、直列または並列に接続してモジュール化した場合であっても、小さい変換効率を示す光電変換素子による、太陽電池モジュールの効率低下を抑制することができ、高いモジュール効率を実現することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、本実施例における各層の膜厚は、断りがない限り、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、S−4800)にて断面観察により算出した値である。
【0050】
(実施例1〜実施例5)
[FTO基板処理工程]
ガラス基板1および透明導電膜2として、基板サイズ3cm×3cm、ヘイズ率13.6%のFTO基板(旭硝子製)を5枚用いた。これらのFTO基板を、超純水、エタノール、アセトンにてそれぞれ10分間超音波洗浄した後に乾燥した。その後、FTO基板に、UVオゾンにて30分間表面処理を施した。
【0051】
[電子輸送層形成工程]
UVオゾン処理後の各FTO基板上に、電子輸送層3(ブロッキング層3a)として、コンパクトTiO
2を31nmの膜厚で形成した。具体的には、500℃に加熱した基板表面に、0.3mlのチタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)と4.0mlのエタノール溶液の混合溶液をスプレーパイロリシス法にて噴霧することで形成した。
【0052】
続いて、各基板のコンパクトTiO
2膜を形成した側に、金属酸化物の多孔質担体層3bとして、メソポーラスTiO
2膜を200nmの膜厚で形成した。具体的には、重量比2:7にてチタニアペースト(商品名:18NR−T、Transparent Titania Paste Dyesol社製)とエタノールとを混合し、これに超音波処理を施して得られた分散液を、基板上にマイクロピペットを用いて0.25ml滴下し、スピンコートを5000rpmの速度にて30秒実施した後、基板を500℃の電気炉にて30分間焼成することで、電子輸送層を形成したFTO基板を5枚準備した。
【0053】
[光吸収層形成工程]
続いて、1枚目のFTO基板のコンパクトTiO
2膜を形成した側に、光吸収層4として、FA
0.83MA
0.17Pb(I
0.83Br
0.17)
3を、窒素雰囲気中において480nmの膜厚に形成した。具体的には、PbI
2、FAI、MABr、PbBr
2各試薬をモル比0.83:0.83:0.17:0.17にて調合し、これを体積比4:1にて混合したDMF、DMSO混合溶液に1.25mol/Lとなるよう調整し、得られた混合溶液0.36mlを基板上にマイクロピペットにて滴下し、スピンコートを1000rpmの速度にて10秒実施した後、6000rpmの速度にて20秒回転させている最中に、さらにクロロベンゼンを0.27mlマイクロピペットにて滴下した後、基板を基板温度100℃として60分間焼成することで、黒色の光吸収層4が形成された。
【0054】
1枚目の電子輸送層を形成したFTO基板に対し光吸収層4を形成した後に、光吸収層の形成雰囲気を新たな窒素に置換した。続いて、電子輸送層が形成された2枚目のFTO基板に対しても上述した方法で光吸収層を形成した。他の3枚のFTO基板に対しても、各基板に光吸収層を形成させる前に、光吸収層の形成雰囲気を新たな窒素に置換した後に、上述した方法で光吸収層4を形成した。
【0055】
[正孔輸送層形成工程]
続いて、各基板のFA
0.83MA
0.17Pb(I
0.83Br
0.17)
3を形成した側に、正孔輸送層5として、Spiro−OMeTADを200nmの膜厚で形成した。具体的には、Spiro−OMeTAD、LiTFSi(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、tBP(tert−ブチルピリジン)、Co錯体(FK209:dyesol社製)をそれぞれ70mmol/L、35mmol/L、200mmol/L、2mmol/Lの濃度で含むクロロベンゼン溶液0.18mlを基板上にマイクロピペットにて滴下し、スピンコートを3000rpmの速度にて30秒実施した後、基板を基板温度70℃として30分間焼成することで正孔輸送層5を形成した。
【0056】
[金属電極層形成工程]
その後、各基板の正孔輸送層を形成した側に、金属電極層6として、Auを200nmの膜厚で抵抗加熱蒸着により形成した。こうして、ペロブスカイト型光電変換素子を5枚作製した。
【0057】
(比較例1〜比較例5)
下記の表1に示すように、光吸収層形成工程において、光吸収層の形成後に新たな窒素への置換作業を行わずに、5枚連続して光吸収層の形成を行った点を除いては実施例1〜実施例5と同様にして、ペロブスカイト型光電変換素子を作製した。
【0058】
[評価方法]
ソーラーシミュレータを用いて100mW/cm
2の照度の光を、各実施例および各比較例で得られた光電変換素子に照射し、各光電変換素子の電流−電圧特性を測定して変換効率(Eff)を測定した。また、各実施例および各比較例で得られた光電変換素子においてCuKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折測定を行い、2θ=14°近傍にて観測できる光吸収層4に含まれるペロブスカイトに由来した(002)面、(110)面のピークについて
図3に示すように、擬ヴォイト関数によって、最小二乗法にてフィッティングを行い、ピーク分離を実施した
。分離したピークに関して(002)面のピークの強度I(002)と(110)面のピークの強度I(110)のピーク強度比I(110)/I(002)を算出した。評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1〜実施例5、及び比較例1から比較例5から、光吸収層の形成前に、光吸収層の形成雰囲気を窒素に置換することにより、複数の基板に対し、光吸収層を連続して形成させた場合であっても、高い変換効率が維持されている光電変換素子が作製されていることが分かる。