特許第6960287号(P6960287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6960287ゴム変性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法、シート及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960287
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ゴム変性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法、シート及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 55/00 20060101AFI20211025BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20211025BHJP
   C08F 290/04 20060101ALI20211025BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20211025BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20211025BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C08L55/00
   C08F2/44
   C08F290/04
   B65D65/02 E
   C08F279/02
   C08L51/04
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-177666(P2017-177666)
(22)【出願日】2017年9月15日
(65)【公開番号】特開2019-52251(P2019-52251A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 優
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−284591(JP,A)
【文献】 特開2011−202071(JP,A)
【文献】 特開2004−307841(JP,A)
【文献】 特開2006−022257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/02
C08F 2/44
C08F 290/04
B65D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状重合体及び前記ゴム状重合体に内包されたスチレン系重合体を含み、かつ外側にスチレン系単量体がグラフト重合されたゴム状重合体粒子とマトリックス相とからなるゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
(a)マトリックス相は、数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、(メタ)アクリル酸エステルとのスチレン系共重合体を含み、前記共役ジビニル化合物は、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、又はポリフェニレンエーテルの主鎖構造と、前記モノビニル化合物と共重合可能なオレフィン性二重結合と当該オレフィン性二重結合と共役系を形成する構造と、を有し、
(b)前記共役ジビニル化合物の割合が、前記モノビニル化合物と前記(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モルに対して2.0×10−6〜4.0×10−4モルであり、
(c)前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が、前記スチレン系共重合体を100質量%として、20〜55質量%であり、
(d)前記マトリックス相は、重量平均分子量(Mw)が10万〜40万であり、
(e)前記マトリックス相は、分子量100万以上の成分の割合が1.0〜8.0%であることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記マトリックス相と前記ゴム状重合体粒子との屈折率の差が±0.005以下である、請求項1に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)が1000〜30000である、請求項1又は2に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記共役ジビニル化合物が鎖状である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記共役ジビニル化合物中に含まれる共役ビニル基は、アクリロイル基、又はビニル基で置換されたアリール基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記共役ジビニル化合物の共役ビニル基が末端に位置する、請求項1〜のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
最大立ち上がり比が0.7〜3.0である、請求項1〜のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記共役ジビニル化合物が、(水添)ポリブタジエンジ(メタ)アクリレートである、請求項1〜のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
連続溶液重合又は連続塊状重合を用いることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、シート。
【請求項11】
請求項9に記載のシートからなることを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシート、包装容器、キャリアテープ等の成形に適する透明なゴム変性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法、当該ゴム変性スチレン系樹脂組成物を含むシート及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系共重合体は、食品容器等の包装材料や住宅の断熱材用途等の発泡ボードの原料、キャリアテープやブリスターパック容器といった工業材料等、様々な分野で使用されている。特に、工業材料の用途では、シート表面の外観と耐衝撃性のバランスに優れた透明なスチレン系樹脂シートが求められている。更には近年の成形品の形状の複雑化、多様化に伴い、シートの2次成形性の向上した材料が求められている。
【0003】
このようなスチレン系樹脂として、特許文献1には、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体とスチレン−共役ジエン系ブロック共重合体とのブレンド組成物において、それぞれの樹脂組成、混合比、及び溶液粘度を特定の範囲に調整することにより、シート表面の外観と耐衝撃性のバランスに優れた、更には成形性に優れた透明なスチレン系樹脂組成物が得られると記載されている。特許文献2には、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックと共役ジエンを主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体に、スチレン系単量体とアクリル酸エステル(メタクリル酸エステル)系単量体からなる重合体を連続相とし、ゴム状弾性体を分散相とし、且つ分散相のゴム状弾性体の粒子径を最適化した透明なゴム変性スチレン系共重合体を加え、更に鉱油を適量配合することにより、透明性、強度、成形性のバランスに優れた重合体組成物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−292548号公報
【特許文献2】特開2004−323561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のスチレン系樹脂組成物では、成形加工性については十分ではなく、更なる改良の余地があることが分かった。特許文献2に記載の重合体組成物も成形加工性については十分ではなく、更なる改良の余地があることが分かった。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、本発明の目的は、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができる、透明なゴム変性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を進めた結果、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のマトリックス相を、所定の共役ジビニル化合物と所定のモノビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとで、適切な含有比で構成するとともに、マトリックス相の分子量及び高分子量の割合を適切な範囲に制御することで、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができるゴム変性スチレン系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記に示すとおりである。
〔1〕スチレン系重合体を内包したゴム状重合体を含むゴム状重合体粒子とマトリックス相とからなるゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
(a)マトリックス相は、数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、(メタ)アクリル酸エステルとのスチレン系共重合体を含み、
(b)前記共役ジビニル化合物の割合が、前記モノビニル化合物と前記(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モルに対して2.0×10-6〜4.0×10-4モルであり、
(c)前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が、前記スチレン系共重合体を100質量%として、20〜55質量%であり、
(d)前記マトリックス相は、重量平均分子量(Mw)が10万〜40万であり、
(e)前記マトリックス相は、分子量100万以上の成分の割合が1.0〜8.0%であることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。
〔2〕前記マトリックス相と前記ゴム状重合体粒子との屈折率の差が±0.005以下である、〔1〕に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
〔3〕前記共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)が1000〜30000である、〔1〕又は〔2〕に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
〔4〕前記共役ジビニル化合物が鎖状である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
〔5〕前記共役ジビニル化合物の共役ビニル基が末端に位置する、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
〔6〕最大立ち上がり比が0.7〜3.0である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
〔7〕前記共役ジビニル化合物が、(水添)ポリブタジエンジ(メタ)アクリレートである、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
〔8〕連続溶液重合又は連続塊状重合を用いることを特徴とする、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
〔9〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、シート。
〔10〕〔9〕に記載のシートからなることを特徴とする、成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができる、透明なゴム変性スチレン系樹脂組成物及びその製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例及び比較例で得られたスチレン系共重合体について、横軸にヘンキーひずみを、縦軸に伸長粘度をプロットした両対数グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0011】
〈ゴム変性スチレン系樹脂組成物〉
本実施形態におけるゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系重合体を内包したゴム状重合体を含むゴム状重合体粒子とマトリックス相とからなるゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
(a)マトリックス相は、数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、(メタ)アクリル酸エステルとのスチレン系共重合体を含み、
(b)前記共役ジビニル化合物の割合が、前記モノビニル化合物と前記(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モルに対して2.0×10-6〜4.0×10-4モルであり、
(c)前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が、前記スチレン系共重合体を100質量%として、20〜55質量%であり、
(d)前記マトリックス相は、重量平均分子量(Mw)が10万〜40万であり、
(e)前記マトリックス相は、分子量100万以上の成分の割合が1.0〜8.0%であることを特徴とする。
本実施形態におけるゴム変性スチレン系樹脂組成物では、マトリックス相を、所定の共役ジビニル化合物と所定のモノビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとで、適切な含有比で構成するとともに、マトリックス相の分子量及び高分子量の割合を上記のように適切な範囲に制御することにより、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができる、ゴム変性スチレン系樹脂組成物とすることができる。
具体的には、理論に限定されないが、本実施形態では、得られるスチレン系共重合体の分子鎖を、モノビニル化合物で主に構成される複数の分子鎖部分と、それらの分子鎖部分間を相互に連結する共役ジビニル化合物由来の部分とで形成し易くすることができるとともに、その際の分子鎖部分間の間隔を所定の距離にすることができる(スチレン系共重合体の分子鎖中に「H」字状となる分岐部分を有す形状にし易いと推測される)。
そして、このようにスチレン系共重合体を形成することにより、スチレン系共重合体のそれぞれの分子鎖が相互に効果的に絡み合いし易くすることができ(このような効果を「絡み合い効果」とも称す)、それゆえにゴム変性スチレン系樹脂組成物の成形加工性を向上させることができる。また、同時に、本実施形態では、共役ジビニル化合物の含有量、並びに、マトリックス相の分子量及び高分子量の割合を所定の範囲としているので、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の成形加工性を効果的に向上させつつ、ゴム変性スチレン系樹脂組成物がゲル状化することを効果的に防止することができ、フィルムやシートに加工した際に機械的強度の低下を抑制することができていると推測される。
従って、本実施形態によれば、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができる、ゴム変性スチレン系樹脂組成物を提供することができる。
【0012】
〈マトリックス相〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物のマトリックス相は、数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、(メタ)アクリル酸エステルとのスチレン系共重合体を含む。
【0013】
〈分子量〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物において、ゴム状重合体粒子を取り除いたマトリックス相の重量平均分子量(Mw)は、10万〜40万であり、好ましくは12万〜30万、より好ましくは14万〜25万である。マトリックス相のMwを10万〜40万にすることにより、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の強度を確保しつつ、ゲル状物質の発生を抑えてより成形加工性と流動性を向上させることができる。
なお、本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物において、上記の重量平均分子量(Mw)は、スチレン系単量体をラジカル重合する際に、共役ジビニル化合物の種類及び添加量、反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、溶媒の種類及び量、連鎖移動剤の種類及び添加量等によって制御することができる。
具体的には、上記の重量平均分子量(Mw)等の制御は、限定されるものではないが、例えば、製造方法において、重合する際の重合開始剤の添加量を増加させ、重合の反応温度を低くする方法、重合溶媒の使用量を少なくする方法、重合する際の滞留時間を長くする方法等により制御することができ、このようにすることで、得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物において、分子鎖を所望の形状とさせつつ、高分子量成分側も適切に増加させることができる。
なお本開示で、スチレン系共重合体やマトリックス相の重量平均分子量(Mw)、後述の分子量100万以上の割合は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定される微分分子量分布の重量割合である。
【0014】
〈高分子量成分の割合〉
本実施形態のマトリックス相における分子量100万以上の割合は、1.0〜8.0%であり、2.0〜7.0%であることが好ましく、3.0〜6.0%がより好ましい。マトリックス相における分子量100万以上の割合を1.0〜8.0%の範囲にすることにより、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができる、ゴム変性スチレン系樹脂組成物を得ることができる。
なお、本実施形態のマトリックス相の分子量100万以上の割合は、スチレン系単量体をラジカル重合する際に、共役ジビニル化合物の種類及び添加量、反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、溶媒の種類及び量、連鎖移動剤の種類及び添加量等によって制御することができる。
具体的には、上記の分子量100万以上の割合等の制御は、限定されるものではないが、例えば製造方法において、重合する際の重合開始剤の添加量を増加させ、重合の反応温度を低くする方法、重合溶媒の使用量を少なくする方法、重合する際の滞留時間を長くする方法等により制御することができ、このようにすることで、得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物において、低分子量成分側を低減させて、分子量100万以上の割合を適切にしつつ、高分子量成分側を増加させることができる。
【0015】
〈スチレン系共重合体〉
《モノビニル化合物》
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、少なくともスチレン系化合物を含むモノビニル化合物が(ゴム変性スチレン系樹脂組成物を形成する単量体として)含まれており、モノビニル化合物は、スチレン系化合物(モノマー)のみからなっていても、スチレン系化合物とともにスチレン系化合物と共重合可能な他のモノビニル基を有する化合物からなっていてもよい。モノビニル化合物としては、スチレン系化合物の他、スチレン系化合物と共重合可能であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロニトリル等のビニル系化合物、並びにジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、及び核置換マレイミド等が挙げられる。また、スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
また、モノビニル化合物におけるスチレン系化合物の含有量としては、モノビニル化合物の含有量のうち30モル%以上が好ましく、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは45モル%以上である。
【0016】
《モノビニル化合物の含有量》
本実施形態のマトリックス相を構成するモノビニル化合物の含有量は、スチレン系共重合体を100質量%として、ゴム状重合体粒子との屈折率の差の観点から、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは40〜80質量%、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0017】
《共役ジビニル化合物》
本実施形態における共役ジビニル化合物は、数平均分子量(Mn)が850〜100000であり、分子内に共役ビニル基を少なくとも2つ有する化合物である。また、本実施形態における共役ジビニル化合物は、網目状ではなく、鎖状であることが好ましく、主鎖には側鎖を有していても有していなくてもよい。鎖状であることにより、分子鎖をよりリニアな形状にすることができ、それにより、絡み合い効果を向上させ易い傾向があるためである。なお側鎖は、例えば炭素数6以下が好ましく、炭素数4以下がより好ましい。
【0018】
更に、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基は、分子内の任意に位置させることができるが、少なくとも2つの共役ビニル基のうちの2つの共役ビニル基は、分子中の異なる末端に位置していることが好ましい。また、共役ジビニル化合物が鎖状の場合には、当該2つの共役ビニル基は、主鎖の異なる末端に位置していることがより好ましい(すなわち、主鎖の両末端が共役ジビニル基になっていることがより好ましい)。共役ビニル基が末端に位置していることにより重合反応性を高めることができる。
【0019】
更に、共役ジビニル化合物が鎖状であり、共役ビニル基が3つ以上存在する場合には、3つ以上の共役ビニル基のうち2つの共役ビニル基は末端に位置していることが好ましいが、残りの1つ以上の共役ビニル基も末端に位置していることがより好ましい。
【0020】
なお、共役ジビニル化合物における共役ビニル基の数が多い場合には、分岐点が増え、反応器や原料を回収する工程においてゲル化が起こり易くなる可能性が生じ、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の透明性の悪化や、反応器の洗浄が必要になり生産性が低下することがある。これらの観点から、共役ジビニル化合物における共役ビニル基の数は、5つ以下であることが好ましく、4つ以下であることがより好ましく、3つ以下であることが更に好ましい。また、同様な観点から、共役ジビニル化合物の共役ビニル基は2つであることが特に好ましい。
【0021】
ここで、「末端」とは、分子鎖の最も端となる位置(原子)とすることができるが、共役ビニル基は末端付近に存在すれば、モノビニル化合物と効果的な反応性を有しゲル化も抑制できるので、本実施形態において「末端」とは、分子鎖中で、分子鎖の最も端となる位置(原子)を含む、ある程度の範囲の部分(端部分)とすることもできる(換言すれば、共役ビニル基を分子鎖の末端付近に位置させることができる)。当該ある程度の範囲の部分とは、限定されるものではないが、分子鎖の最も端となる位置(原子)から共役ジビニル化合物の伸び切り鎖長の20%以下の範囲であることが好ましく、15%以下の範囲がより好ましく、10%以下の範囲が更に好ましく、5%以下の範囲が更により好ましい。
【0022】
本実施形態において共役ビニル基とは、モノビニル化合物と共重合可能なオレフィン性二重結合と、当該オレフィン性二重結合と共役系を形成する構造(限定されないが例えばカルボニル基、アリール基等)とを有する基である。共役ビニル基としては、特に限定されないが、例えばアクリロイル基、ビニル基で置換されたアリール基が挙げられ、また、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基を有する構造としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ビニル、マレイン酸、フマル酸等が付加した構造も挙げられる。なお、少なくとも2つの共役ビニル基は、相互に同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
本実施形態の共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850〜100000、好ましくは1000〜100000、より好ましくは1000〜80000、更に好ましくは1200〜80000、更により好ましくは1500〜60000、特に好ましくは1500〜30000である。数平均分子量(Mn)が850未満の場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が短いため、共役ジビニル化合物に結合したポリマー鎖間の距離が短くなり、十分な絡み合い効果が得られず、成形加工性に劣る。分子量が100000を超える場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が長くなり、末端にある共役ビニル基の反応性が低下し(共役ジビニル化合物の分子量が大きいので末端の共役ビニル基が反応しにくくなる)、高分子量成分の生成量が低下することがある。
なお、共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を意味する。
【0024】
本実施形態の共役ジビニル化合物の主鎖構造としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン等のポリオレフィンやポリスチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0025】
具体的な共役ジビニル化合物としては、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート(「(水添)」は、水素添加された又は水素添加されていない化合物を指す。以下同様である。)、ポリエチレングリコール末端(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端(メタ)アクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端(メタ)アクリレート等の末端ジ(メタ)アクリレート化合物、並びに(水添)ポリブタジエン末端ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコール末端ウレタンアクリレート、ポリプロピレングリコール末端ウレタンアクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端ウレタンアクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端ウレタンアクリレート等の末端ウレタンアクリレート化合物等が挙げられる。例えば、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレートの場合は、数平均分子量(Mn)が850〜100000となるように繰返し単位のプロピレングリコールの結合数が決められる。共役ジビニル化合物は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物との相溶性の観点から、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート、ポリスチレン末端(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル末端ジビニルであることが好ましい。なお、化合物名中の「末端」や「両末端」は、最も端の両方に共役ビニル基が位置することを意味する。
【0026】
《共役ジビニル化合物の含有量》
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物における共役ジビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モル当たり2.0×10-6〜4.0×10-4モルであり、好ましくは5.0×10-6〜3.5×10-4モル、より好ましくは1.5×10-5〜3.0×10-4モル、更により好ましくは2.0×10-5〜2.5×10-4モルである。含有量が2.0×10-6モル未満の場合は、高分子同士の十分な絡み合いが生じにくく、ひずみ硬化が発現しない、あるいはひずみ硬化度合いが小さいために、成形品の肉厚が不均一であったり、成形時に成形品が破けることがあったりして、成形加工性が劣る。一方、含有量が4.0×10-4モルを超える場合は、ゲル状物質の発生が多く、機械的強度が低下する。
なお本開示で、モノビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モル当たりの共役ジビニル化合物の含有量は、1H−NMR及び13C−NMRを使用して測定される値である。
【0027】
《(メタ)アクリル酸エステル》
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステルは、炭素数が4〜20であることが好ましく、より好ましくは4〜10である。
エステル部分としては、エチル、ブチルといった脂肪族炭化水素、シクロヘキシルといった脂肪族環状炭化水素等が挙げられ、ブチルが好ましい。
具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、酢酸ビニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸テトラデシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸パルミチン、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸テトラデシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ヘキサデシル、メタクリル酸パルミチン、メタクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0028】
《(メタ)アクリル酸エステルの含有量》
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物における(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、スチレン系共重合体を100質量%として、20〜55質量%であり、好ましくは25〜50質量%、より好ましくは30〜45質量%である。(メタ)アクリル酸エステルの含有量が20質量%より少ない場合、屈折率をゴム状重合体粒子に合わせた透明な組成物において、耐衝撃性が低下して好ましくない。また、(メタ)アクリル酸エステルの含有量が55質量%を超える場合は、ゴム状重合体粒子との透明な組成物を得ようとすれば、ゴム状重合体粒子の共役ジエンの含有量が増加し、耐衝撃性は向上するものの、スチレン系共重合体との相溶性が悪化し、シート表面に梨子状模様が発生し易く、透明性が悪くなり、好ましくない。更にはシート表面に共役ジエンの架橋に起因すると思われる異物の発生が多くなり、好ましくない
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂組成物における(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、1H−NMRや13C−NMRを使用して測定される値である。
【0029】
〈スチレン系共重合体の製造方法〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、例えば、以下に示す重合方法により予めスチレン系共重合体を製造した後に、製造することもできる。
(重合工程)
本実施形態のスチレン系共重合体の重合方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等、公知のスチレン重合方法が挙げられる。これらの重合法は、バッチ重合法であっても連続重合法であってもよく、生産性の点から連続重合法であることが好ましい。連続塊状重合法としては、例えば、モノビニル化合物、共役ジビニル化合物、必要に応じて溶剤、重合触媒、及び連鎖移動剤等を添加及び混合して、単量体類を含む原料溶液を調製する。直列及び/又は並列に配列された1個以上の反応器と、未反応単量体等の揮発性成分を除去する脱揮工程のための脱揮装置とを備えた設備に、上記原料溶液を連続的に送入し、段階的に重合を進行させる方法が挙げられる。
【0030】
反応器としては、例えば、完全混合型反応器、層流型反応器、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型反応器等が挙げられる。これら反応器の配列の順序に特に制限は無い。
【0031】
本実施形態のスチレン系共重合体を重合する際には、重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶媒、有機過酸化物等の重合開始剤及び連鎖移動剤を使用することができる。重合溶媒は、一般的に連続塊状重合や連続溶液重合において重合速度や分子量等を調整するために用いられる。重合溶媒としては、特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにヘキサン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。重合溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ゲル化の制御、生産性の向上、分子量の増大等の観点から、通常、重合反応器内の全てのモノマー、ポリマー、溶媒等の混合溶液組成に対して1〜50質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態のスチレン系共重合体を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させることができる。重合開始剤としては、特に制限はないが、有機過酸化物、例えば、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、及びn−ブチル−4,4ービス(t−ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、及びジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、及びイソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、並びにt−ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。重合開始剤は、モノビニル化合物に対して0.005〜0.08質量%使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、特に制限はないが、例えば、α−メチルスチレンダイマー、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、及びn−オクチルメルカプタン等を挙げることができる。連鎖移動剤は、モノビニル化合物に対して0.01〜0.50質量%使用することが好ましい。
【0033】
〈脱揮工程〉
脱揮装置としては、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができ、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。脱揮装置の配列としては、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、及び加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したもの等が挙げられる。揮発成分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
【0034】
脱揮工程の条件は特に制限されず、例えば、スチレン系共重合体の重合を塊状重合で行う場合は、最終的に未反応のモノビニル化合物が、スチレン系共重合体中に好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進めることができる。脱揮処理により、未反応物(モノビニル化合物)及び/又は溶剤等の揮発分を除去することができる。
【0035】
脱揮処理の温度は、通常、190〜280℃程度である。脱揮処理の圧力は、好ましくは0.1〜50kPa、より好ましくは0.13〜13kPa、更に好ましくは0.13〜7kPa、特に好ましくは0.13〜1.3kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して脱揮する方法や、揮発成分を除去するよう設計された押出機等を通して脱揮することが望ましい。
【0036】
〈ゴム状重合体粒子〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム状重合体粒子は、ゴム状重合体の内側にスチレン系重合体を内包し、かつ、外側にスチレン系単量体がグラフト重合したものである。ゴム状重合体粒子は、樹脂中でマトリックス相に分散する。
【0037】
《ゴム状重合体》
ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン−ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は一種以上用いることができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを用いることもできる。
ゴム状重合体の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の質量に対して好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%である。
なお本開示で、ゴム状重合体の含有量は、後述の[実施例]の項で説明する手順で測定される値である。
【0038】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物100質量%に対し、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%である。ゴム状重合体粒子の含有量を5〜40質量%の範囲にすることで剛性と衝撃性のバランスに優れたものが得られる。ゴム状重合体粒子の含有量が40質量%を超える場合、ゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する時に重合系の溶液粘度が高くなり、運転が難しくなる傾向となる。ここで、ゴム状重合体粒子の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のトルエン不溶分の含有量として測定することができる。
また、ゴム状重合体粒子の膨潤指数は、好ましくは7〜14、より好ましくは8〜13である。膨潤指数が7〜14の範囲内であれば機械的強度に優れる。ゴム状重合体粒子の膨潤指数は、ゴム変性スチレン樹脂組成物中のトルエン不溶分の膨潤指数として測定することができる。
なお本開示で、トルエン不溶分の含有量、膨潤指数は、後述の[実施例]の項で説明する手順で測定される値である。
【0039】
ゴム状重合体粒子のゴム粒子径は、好ましくは0.4〜3.0μm、より好ましくは0.5〜2.5μm、更に好ましくは0.6〜1.5μmである。0.4〜3.0μmの範囲にすることにより、剛性と機械的強度と透明性に優れたものが得られる。ゴム粒子径は、重合工程のゴム状分散粒子を形成させる領域(相転移)で反応器の撹拌機の回転数、用いるゴム状重合体の分子量や1,2−ビニル結合含有量、開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量等で調整することが出来る。
なお本開示で、ゴム粒子径は、超薄切片法による透過型電子顕微鏡写真から計測される値である。
【0040】
〈屈折率〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、マトリックス相とゴム状重合体粒子との屈折率の差が±0.005以下であることが好ましく、好ましくは±0.003以下である。屈折率の差が±0.005以下であることにより、透明性の優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物が得られる。
なお本開示で、屈折率は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0041】
〈メルトマスフローレート(MFR)〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(MFR)は、0.5〜8.0g/10分が好ましい。より好ましくは1.0〜7.0g/10分、更に好ましくは1.5〜6.0g/10分、とりわけ好ましくは1.8〜5.0g/10分である。メルトマスフローレートを0.5〜8.0g/10分の範囲にすることにより、より成形加工性と流動性のバランスに優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物が得られる。
なお本開示で、メルトマスフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0042】
〈最大立ち上がり比〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物の最大立ち上がり比は、好ましくは0.7〜3.0、より好ましくは0.7〜2.0、更に好ましくは0.7〜1.8、とりわけ好ましくは0.7〜1.5である。本願明細書において、「最大立ち上がり比」とは、(最大立ち上がりひずみの非線形領域の伸長粘度/最大立ち上がりひずみの線形領域の伸長粘度)を意味し、「最大立ち上がりひずみ」とは、伸長粘度が最大となる時のヘンキーひずみを意味する。最大立ち上がり比は、最大立ち上がりひずみにおけるひずみ硬化の度合いを表す指標となる。最大立ち上がり比が大きいほど、ひずみ硬化度合いが大きく、成形加工性に優れる。最大立ち上がり比が0.7以上であると、高ひずみ時、つまり樹脂が成形加工時に薄く伸ばされた際に伸長粘度を一定値以上に維持するため、成形品の肉厚が均一になることや、成形時に破れにくくなる傾向がある。最大立ち上がり比が3.0以下であると、成形時の伸長粘度が高くなり過ぎないため、生産性と成形性のバランスの観点から好ましい。
なお本開示で、最大立ち上がり比は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0043】
〈ビカット軟化温度〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜90℃、更により好ましくは80〜90℃である。60℃未満では、成形品の耐熱温度が低下し、熱変形しやすくなる場合がある。一方、100℃を超える場合は、ゴム状重合体粒子の量が少なく、衝撃強度が低下する場合がある。
なお本開示で、ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠して、荷重49N、昇温速度50℃/時間にて測定される値である。
【0044】
〈全光線透過率〉
透明性の指標としては、全光線透過率(%)を用いることができる。
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物を0.6mm厚みに成形したときの全光線透過率は、透明性の観点から、88%以上であることが好ましい。より好ましくは89%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
なお本開示で、全光線透過率は、JIS K7105に準拠して測定される値である。
【0045】
〈曇り度〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物を0.6mm厚みに成形したときの曇り度(%)は、4.5%以下であることが好ましく、より好ましくは2.0%以下である。曇り度の下限は特にない。この範囲であれば、透明な成形品を得ることができる。
なお本開示で、曇り度は、ISO14728に準拠して測定される値である。
【0046】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物の原料溶液は、スチレン系化合物を含むモノビニル化合物、共役ジビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、及びゴム状重合体を含む。本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物の構成要素となる共役ジビニル化合物は、モノビニル化合物類、重合溶媒等に溶解した状態で、必要に応じて反応器の途中から添加することもできる。
【0047】
〈添加剤等〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶媒、有機過酸化物等の重合開始剤や連鎖移動剤を使用することができる。重合溶媒は連続塊状重合や連続溶液重合において重合速度や分子量等を調整するために用いる。溶媒として、特に制限はないが、芳香族炭化水素類、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えばメチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。更に、重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の溶剤、例えば脂肪族炭化水素類等を芳香族炭化水素類に混合することができる。これらの溶剤は、単量体に対して、25質量%を超えない範囲で使用するのが好ましい。溶剤が25質量%を超えると、重合速度が著しく低下し、かつ、得られる樹脂の衝撃強度の低下が大きくなる。また、溶剤の回収のために、多量のエネルギーを要するので経済性も劣ってくる。溶剤は、重合が進み、比較的高粘度になってから添加してもよいし、あるいは重合前から添加しておいてもよいが、重合前に5〜20質量%の割合で添加しておく方が、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0048】
特に共役ジビニル化合物の添加量を多くしたい場合には、ゲル化を抑制する観点から重合溶媒を使用することが好ましい。これにより、先に示した共役ジビニル化合物の添加量を増量することができ、ゲルが生じにくい。
【0049】
重合開始剤として、特に制限はないが、有機過酸化物、例えば、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4ービス(t−ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t−ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。スチレン系単量体に対して0.005〜0.08質量%添加することが好ましい。
【0050】
連鎖移動剤としては、例えばα−メチルスチレンリニアダイマー、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1−フェニルー2−フルオレン、ジベンテン、クロロホルム等のメルカプタン類、テルペン類、ハロゲン化合物、テレピノーレン等のテレピン類等を挙げることができる。この連鎖移動剤の使用量は、特に制限はないが、一般的には単量体に対して、0.005〜0.3質量%程度添加することが好ましい。
【0051】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム状重合体を溶解したスチレン系化合物に共役ジビニル化合物を添加して連続重合することにより得られるが、加工の容易さを付与したり、強度の向上のために、予め重合されたスチレン系樹脂や流動パラフィン類等の添加剤を押出機で溶融ブレンドしたり、ペレット状態でドライブレンドして用いることもできる。
【0052】
上記のスチレン系樹脂や添加剤としては、流動性の改良のためのGP−PS樹脂や強度向上のためのゴム質を含有する成分としてHIPS樹脂、MBS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂やSBS等の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが挙げられ、添加剤は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中に1%〜50%程度含まれていてもよい。
また、ゴム変性スチレン系樹脂組成物には、未反応モノマーの回収工程における高分子の熱分解を抑制するために、例えば2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−フェニルペンチル)エチル]−4,6−ジ−t−フェニルペンチルアクリレートのような加工安定剤が含まれていてもよい。また、ゴム変性スチレン系樹脂組成物には、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸及びその塩やエチレンビスステアリルアミド等の滑剤、流動パラフィン等の可塑剤、酸化防止剤が含まれていてもよい。その他、スチレン系樹脂の分野で慣用されている添加剤、例えば、核剤、難燃剤、着色剤等と本実施形態の目的を損なわない範囲で組み合わせて、ゴム変性スチレン系樹脂組成物に添加してもよい。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク等の核剤、ヘキサブロモシクロドデカン等の難燃剤、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤等が挙げられる。また、ゴム変性スチレン系樹脂組成物をペレットとする場合には、当該ペレットの外部潤滑剤として、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等をペレットにまぶして使用してもよい。
【0053】
酸化防止剤は、一般的に、熱成形時又は光暴露により生成したハイドロパーオキシラジカル等の過酸化物ラジカルを安定化するか、又は生成したハイドロパーオキサイド等の過酸化物を分解することができる成分である。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、過酸化物分解剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ラジカル連鎖禁止剤として、過酸化物分解剤は、系中に生成した過酸化物を更に安定なアルコール類に分解して自動酸化を防止することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されないが、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スタイレネイテドフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキレイテッドビスフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、及び3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキシスピロ〔5・5〕ウンデカン等が挙げられる。過酸化物分解剤としては、以下に限定されないが、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の有機リン系過酸化物分解剤、並びにジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、及び2−メルカプトベンズイミダゾール等の有機イオウ系過酸化物分解剤が挙げられる。酸化防止剤の添加量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物100質量部に対して、0.01〜1質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜0.5質量部である。
【0054】
〈ゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法の一例としては、ゴム状重合体を溶解したスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と共役ジビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルと、必要に応じて重合溶媒、重合触媒、連鎖移動剤等を添加混合し、直列及び/又は並列に配列された1個以上の反応器と未反応単量体等を除去する揮発分除去工程を備えた設備に連続的に単量体類を送入し、段階的に重合を進行させる所謂、連続塊状重合法が好適に用いられる。反応器の様式としては、完全混合型、層流型、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型の反応器等が例示される。これら反応器の配列の順序に特に制限は無いが、層流型反応器が好適に用いられる。脱揮工程は、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は、加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが挙げられるが、揮発分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は、加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
あるいは、上記共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとを、前述のように共重合することによって得られたスチレン系共重合体と、ゴム状重合体の存在下、スチレン系単量体及び任意に追加の単量体を重合して得られた上記共役ジビニル化合物を含まない従来のゴム変性スチレン系樹脂(HIPS)とを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて溶融混練する方法等で得ることもできる。
【0055】
〈シート〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、押出成形、射出成形等の公知の成形法によって各種成形することができるが、押出成形用に好適であり、Tダイシート押出機、二軸延伸加工装置、インフレーション加工装置を用いて、シートやフィルムに成形することができる。シートの場合は単層であっても良く、多層シートの一部として用いても良い。シートの厚みは、成形品での用途により変化し、特に限定されるものではないが、通常は0.2〜3.0mmである。フィルムの場合も同様に特に限定されるものではないが、通常は10〜200μmである。
【0056】
〈成形品〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物からなるシートは、真空成形や真空圧空成形等の熱成形により、種々の形状に二次成形され、各種包装容器に用いることができる。該シートを使用した成形品の具体的な例としては、食品トレー、弁当容器、カップ、デザート容器、アイスクリーム容器、冷菓容器、ヨーグルト容器、ミルクポーション、惣菜容器、豆腐容器等が挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
《測定及び評価方法》
測定及び評価方法は以下のとおりである。
【0059】
(1)スチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数の測定
スチレン系共重合体における、スチレン(モノビニル化合物)と(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数は、1H−NMR及び13C−NMRを使用して測定した。なお、測定装置としては、日本電子(株)社製のJEOL−ECA500を使用した。溶媒としてクロロホルム−d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0060】
(2)(メタ)アクリル酸エステルの含有量の測定
スチレン系共重合体における、(メタ)アクリル酸エステルの含有量(質量%)は、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量し、求めた。
試料調製:樹脂ペレット30mgをd6−DMSO 0.75mLに60℃で4〜6時間加熱溶解した。
測定機器:日本電子(株)製JNM ECA−500
測定条件:測定温度25℃、観測核1H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
【0061】
(3)分子量の測定
共役ジビニル化合物やマトリックス相の数平均分子量(Mn)、後述の実施例及び比較例にて得られたスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、分子量100万以上の割合は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
装置:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM−H(内径4.6mm)を2本直列に接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ−H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料調製:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:示差屈折率検出器(RI−8020)
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F−850、F−450、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0062】
(4)メルトマスフローレート(MFR)測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO1133に準拠し、200℃、49Nの荷重条件にて測定した。
【0063】
(5)ビカット軟化温度の測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)は、ISO 306に準拠して測定した。荷重は49Nとした。昇温速度は50℃/時間とした。
【0064】
(6)最大立ち上がり比の測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物の最大立ち上がり比の測定は、以下の粘弾性測定に基づいて行った。
装置名:粘弾性測定装置 ARES−G2(TA Instruments社製)
測定システム:ARES−EVFオプション
試験片寸法:長さ20mm、厚さ1.0mm、幅10mm
伸長ひずみ速度:0.01/秒
温度:130℃
測定雰囲気:窒素気流中
予熱時間:2分
予備伸長ひずみ速度:0.03/秒、
予備伸長長さ:0.295mm
予備伸長後緩和時間:2分
粘弾性測定は、試験片をローラーに取り付け、温度が測定温度で安定した後、上記の予熱時間、静置し、予熱を行った。予熱終了後、上記の条件で予備伸長を行った。予備伸長後、2分間静置し、予備伸長で生じた応力を緩和させ、測定した。
【0065】
上記の粘弾性測定で得られた結果に基づき、横軸にヘンキーひずみを、縦軸に伸長粘度をプロットした両常用対数グラフを作成し、ヘンキーひずみが0.5〜0.8の範囲を線形領域として累乗近似曲線を作成した(例えば、図1の線形領域外挿線)。ひずみ硬化が起こると、この線形領域を外挿した近似曲線上の伸長粘度よりも、測定された伸長粘度が高くなる。
最大立ち上がり比は、(ヘンキーひずみが3.0における非線形領域の伸長粘度/ヘンキーひずみが3.0における線形領域の伸長粘度)で算出した。
図1に、実施例及び比較例で得られたスチレン系共重合体について、横軸をヘンキーひずみとし縦軸を伸長粘度としてプロットした両対数グラフを示す。
【0066】
(7)トルエン不溶分の含有量、膨潤指数の測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のトルエン不溶分の含有量(質量%)、膨潤指数を以下のように測定した。沈澱管にゴム変性スチレン系樹脂組成物1.00gを精秤し(この質量をW1とする)、トルエン20ミリリットルを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所社製、SS−2050A ローター:6B−N6L)にて温度4℃、回転数20000rpm、遠心加速度45100×Gで60分間遠心分離した。沈澱管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。トルエンを含んだ不溶分の質量を精秤し(この質量をW2とする)、引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤した(この質量をW3とする)。
下記式により、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のトルエン不溶分の含有量及び膨潤指数、即ち、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子の含有量及び膨潤指数を求めた。
トルエン不溶分の含有量=W3/W1×100
トルエン不溶分の膨潤指数=W2/W3
【0067】
(8)ゴム状重合体の含有量の測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量(質量%)を以下のように測定した。メスフラスコにゴム変性スチレン系樹脂組成物0.4gを精秤し(この質量をWとする)、クロロホルム75mLを加えてよく分散させた後、一塩化ヨウ素18gを1000mLの四塩化炭素に溶かした溶液20mLを加え、冷暗所に保存し、8時間後にクロロホルムを加え、標線に合わせた。これを25mL採取し、ヨウ化カリウム10gを水800mL、エタノール200mLの混合液に溶かした溶液60mLを加え、チオ硫酸ナトリウム10gを1000mLの水に溶かした溶液(この溶液のモル濃度をxとする)で滴定した。本試験AmL、空試験BmLとし、ゴム状重合体の含有量(質量%)は以下の式により求めた。
ゴム状重合体の含有量=10.8×x×(B−A)/W
【0068】
(9)ゴム粒子径の測定
ゴム状重合体粒子のゴム粒子径(μm)の測定は、超薄切片法による透過型電子顕微鏡写真をとり、写真中の粒子1000個の粒子径を測定して次の式で求めた。
ゴム粒子径=Σni・ Di4/Σni・Di3
(式中、niは、粒子径Diを有するゴム粒子の個数である。また、Diは、粒子の長径と短径の平均値である。)
【0069】
(10)シャルピー衝撃強度の測定
後述の実施例及び比較例にて得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物を、射出成形機(EC60N、東芝機械社製)により、シリンダー温度230℃、金型温度45℃、射出圧力80MPa、射出速度26mm/sで成形して、ISO金型タイプAの試験片を得た。得られた試験片について、シャルピー衝撃強度(kJ/m2)を、ISO179に準拠して、ノッチ有で測定した。
【0070】
(11)引張降伏強度の測定
上記(10)で得られた試験片について、引張降伏強度(MPa)を、ISO527に準拠して測定した。
【0071】
(12)屈折率の測定
マトリックス相とゴム状重合体粒子の屈折率は、マトリックス相とゴム状重合体粒子とを上記(7)トルエン不溶分の含有量、膨潤指数の測定と同じ方法で分離し、溶媒のトルエンを乾燥させた後、アッベ屈折計を用いて、25℃で測定し、差を算出した。
【0072】
(13)シートの深絞り成形性の評価
30mmφシート押出機(創研株式会社製)を用いてゴム変性スチレン系樹脂組成物を押し出し、厚さ0.5mmのシートを作成した。得られたシートから縦250mm×横250mmの大きさの試験片を切り出し、創研製のシート容器成型機を用いて、このシート成型機の固定枠で試験片を挟み、ヒータの平均温度を200℃、雰囲気温度を130℃に設定し、20秒間加熱した。次いで、径10cm深さ6cmの丼容器の金型(温度40℃)に固定枠ごとスライドさせて真空成形を行い、成形体を20個ずつ成形した。この成形体の側面に引裂きが生じていないかを目視で確認し、引裂きが起こらず成形可能であった成形体の個数を深絞り成形性の指標とした。
【0073】
(14)全光線透過率、曇り度の測定
30mmφシート押出機(創研株式会社製)を用いてゴム変性スチレン系樹脂組成物を押し出し、厚さ0.6mmのシートを作成した。得られたシートについて、全光線透過率(%)をJIS K 7105に準拠して測定した。また、曇り度(%)をISO14728に準拠して測定した。
【0074】
《材料》
実施例及び比較例においては、以下の材料を用いた。
【0075】
〈スチレン系共重合体〉
〈モノビニル化合物〉
スチレン:スチレンモノマー[旭化成株式会社製]
【0076】
〈共役ジビニル化合物〉
共役ジビニル化合物1、3及び4は、下記の方法に基づいて製造した。
【0077】
〈共役ジビニル化合物1〉
撹拌機、温度計及び還流冷却管を取り付けた容量5Lの反応容器内に、ポリブタジエン両末端アルコール(Mn:1900)2742g、アクリル酸メチル379g、n−ヘキサン380g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.8194g、及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.5533gを仕込んだ。得られた混合物を塩化カルシウム管内に通しながら、その混合物に空気を吹き込み、80〜85℃で還流脱水を行った。この混合物に含まれている水分をカールフィッシャー法により測定し、その含水量が200ppm以下であることを確認した。その後、エステル交換触媒として、テトラn−ブチルチタネート1.3685gを上記混合物に添加し、生成したメタノールをその共沸溶媒であるn−ヘキサンの還流下で反応系外に留去しながら、攪拌下で80〜85℃の反応温度で10時間反応させた。
次に、反応容器内の温度を75〜80℃に調整し、使用したアクリル酸メチル及びn−ヘキサンの95%以上が留出するまで減圧度70〜2kPaで濃縮し、過剰のアクリル酸メチルとn−ヘキサンを回収した。得られたポリブタジエン両末端ジアクリレート2070gに、トルエン2000g、アセトン200g、イオン交換水20g、及びエステル交換触媒としてハイドロタルサイト(組成式Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O)〔協和化学工業(株)製、商品名:キョーワード500PL〕20gを添加し、75〜80℃で2時間処理した。次に、反応容器内の温度を75〜80℃に調整し、減圧度90〜35kPaで濃縮することにより、トルエンとアセトンと水の混合留出液400gを回収し、得られた濃縮液を空気加圧下で濾過して触媒及び吸着剤を分離し、更に温度60〜80℃及び減圧度30〜0.8kPaで溶媒を脱気し、共役ジビニル化合物1を得た。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、共役ジビニル化合物1のポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率を測定したところ99.3%であった。また、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は1900であった。
【0078】
共役ジビニル化合物2:ポリブタジエン末端アクリレート[大阪有機化学工業社製:BAC‐45] Mn:4800
【0079】
〈共役ジビニル化合物3〉
ポリブタジエン両末端アルコールの分子量をMn:25000に変更した以外は同様の条件にて製造した共役ジビニル化合物3は、ポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率が99.5%であった。また、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は26000であった。
【0080】
〈共役ジビニル化合物4〉
ポリブタジエン両末端アルコールの分子量をMn:57000に変更した以外は同様の条件にて製造した共役ジビニル化合物4は、ポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率が99.2%であった。また、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は58000であった。
【0081】
共役ジビニル化合物5:芳香族ウレタンアクリレート[巴工業社製:CN9782] Mn:5200
共役ジビニル化合物6:(2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオール・2,6−ジメチルフェノール重縮合物)とクロロメチルスチレンとの反応生成物[三菱ガス化学株式会社製:OPE−2ST]Mn:1200
共役ジビニル化合物7:1,3−ブチレンジオールジメタクリレート[和光純薬工業株式会社製] 分子量:226
共役ビニル化合物8:NKエステル A−GLY−20E[新中村化学工業株式会社製] 分子量:1295、共役ビニル化合物8の1分子中の平均の共役ビニルの数は3である。
共役ジビニル化合物9:ジビニルベンゼン[和光純薬工業社製] 分子量:130
共役ジビニル化合物10:ポリエチレングリコールジメタクリレート[シグマアルドリッチ社製] 分子量:750
【0082】
なお、共役ジビニル化合物2〜7、9、10は、分子中の最も端の両方に共役ビニル基を有している。
【0083】
〈(メタ)アクリル酸エステル〉
メタクリル酸メチル:旭化成社製
アクリル酸ブチル:和光純薬工業社製
【0084】
〈ゴム状重合体〉
ポリブタジエン:[旭化成社製:アサプレン(登録商標)625A]
【0085】
〈その他〉
重合開始剤1:1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン[日油社製:パーヘキサC]
連鎖移動剤2:n−ドデシルメルカプタン[和光純薬工業社製]
エチルベンゼン:[和光純薬工業社製]
【0086】
<実施例1>
スチレン単量体39.8質量部、エチルベンゼン11.5質量部、メタクリル酸メチル35.2質量部、アクリル酸ブチル4.5質量部、上述の製造方法で得られた共役ジビニル化合物1(Mn:1900)を0.064質量部(スチレン1モルに対して4.0×10-5モル)、ポリブタジエンを9質量部、重合開始剤1を0.014質量部、添加して原料溶液を調製した。調製した原料溶液を、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2Lの層流型反応器−1に3L/時で連続的に供給し、温度を122℃/128℃/129℃に調整した。攪拌機の回転数は毎分88回転とした。続いて層流型反応器−1と直列に接続された、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2Lの層流型反応器−2に反応液を送った。連鎖移動剤2を、反応器−1からの反応液100質量部に対して0.3質量部添加した。温度は120℃/126℃/127℃とした。続いて層流型反応器−2と直列に接続された、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2Lの層流型反応器−3に反応液を送った。温度は127℃/135℃/142℃とした。続いて層流型反応器−3からの反応液を240℃、1.5〜2.0kPaに調整された2段真空ベント付き押出機に供給し、未反応モノマーや溶媒等の揮発成分を取り除き、ストランド状に押し出した樹脂をカッティングしてペレットを得た。固形分濃度は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定した。
実施例1の製造条件と分析結果を表1に示す。
【0087】
<実施例2〜7>
実施例2〜7は、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、ゴム変性スチレン系樹脂組成物を得た。
実施例2〜7の測定及び評価結果を表1にまとめる。
なお、実施例3のスチレン系樹脂組成物は、図1に示すように、ARES−EVFの測定においてひずみ硬化が発現したことがわかる。
【0088】
<比較例1〜6>
比較例1〜6は、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、ゴム変性スチレン系樹脂組成物を得た。
比較例1〜6の測定及び評価結果を表1にまとめる。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から明らかなように、共役ジビニル化合物を含まない比較例1では、ARES−EVFの測定においてひずみ硬化が発現しなかった。
マトリックス相とゴム状重合体粒子との屈折率差が0.0118と大きい比較例2では、全光線透過率が85.1%と低く、曇り度も大きかった。
共役ジビニル化合物の数平均分子量Mnが226、130、750と小さい比較例3、5、6では、最大立ち上がり比が小さく、深絞り成形性に劣る。
分子量100万以上の成分の割合が8.5%と多かった比較例4では、ゲル状物質が多く、最大立ち上がり比を安定して測定することができなかった。また全光線透過率が87.1%と低く、曇り度も大きかった。また深絞り成形時に成形品の一部が破れやすく、深絞り成形性も劣っていた。
【0091】
これに対し、数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、(メタ)アクリル酸エステルとのスチレン系共重合体を含み、前記共役ジビニル化合物の割合が、前記モノビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステルとの総量1モル当たり2.0×10-6〜4.0×10-4モルであり、前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が、前記スチレン系共重合体を100質量%として、20〜55質量%であり、前記マトリックス相は、重量平均分子量(Mw)が10万〜40万であり、前記マトリックス相は、分子量100万以上の割合が1.0〜8.0%、である、実施例1〜7のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、適切な特性を有し、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができるものであることがわかる。
【0092】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によるスチレン系共重合体は、表面の外観と成形加工性のバランスに優れたシートを成形することができ、成形条件幅が広い特長を生かして、例えば家電、事務機製品、雑貨、住宅設備等の成形材料や食品包装材料等として広く利用することができる。
図1