特許第6960310号(P6960310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960310
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】粗面導電体及び生体センシングデバイス
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20211025BHJP
   D06M 15/63 20060101ALI20211025BHJP
   D06M 15/61 20060101ALI20211025BHJP
   D06M 15/647 20060101ALI20211025BHJP
   H01B 7/06 20060101ALI20211025BHJP
   A61B 5/263 20210101ALI20211025BHJP
   H01B 5/14 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   B32B27/18 J
   D06M15/63
   D06M15/61
   D06M15/647
   H01B7/06
   A61B5/263
   !H01B5/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-218280(P2017-218280)
(22)【出願日】2017年11月13日
(65)【公開番号】特開2018-94913(P2018-94913A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2020年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-237770(P2016-237770)
(32)【優先日】2016年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久留島 康功
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 隆裕
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/115440(WO,A1)
【文献】 特開2014−108134(JP,A)
【文献】 特開平06−296594(JP,A)
【文献】 特開2008−297331(JP,A)
【文献】 特開2014−048559(JP,A)
【文献】 特開2015−117364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/18
D06M 15/63
D06M 15/61
D06M 15/647
H01B 7/06
A61B 5/263
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Raが0.1μm以上である粗面樹脂基材(I)上に、導電性高分子(a)と熱可塑性樹脂(b)とを含む導電性コーティング層(II)を有する粗面導電体であって、
導電性コーティング層(II)のRaは0.1μm以上であり、
2倍に延伸処理した後の表面抵抗率は1,000,000,000Ω/□以下であり、
粗面樹脂基材(I)が、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む
ことを特徴とする粗面導電体。
【請求項2】
粗面樹脂基材(I)が繊維集合体である、請求項に記載の粗面導電体。
【請求項3】
粗面樹脂基材(I)が繊維上にプライマー層を有する繊維集合体である、請求項1または2に記載の粗面導電体。
【請求項4】
導電性コーティング層(II)が分子内に水酸基を2つ以上有するポリエーテル(c)をさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の粗面導電体。
【請求項5】
ポリエーテル(c)がシリコーン変性ポリエーテル(c1)である、請求項に記載の粗面導電体。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の粗面導電体を備えることを特徴とする生体センシングデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗面導電体及び生体センシングデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類のようなウェアラブル用途に用いられるフレキシブル電極として、PEDOT/PSS等の導電性高分子を含む導電性組成物を基材繊維に含浸させて得られる導電性部材を備えた繊維電極が開発されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、従来の導電性部材は、延伸性が低く、高倍率で延伸したり、延伸を複数回繰り返すことによって導電性が大幅に低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/073673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、延伸性及び延伸後の導電性に優れる粗面導電体、及び、該粗面導電体を備える生体センシングデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のRaを有する粗面樹脂基材(I)上に、導電性高分子(a)と熱可塑性樹脂(b)とを含む導電性コーティング層(II)を有する粗面導電体であって、導電性コーティング層(II)が特定のRaを有し、2倍に延伸処理した後の表面抵抗率が1,000,000,000Ω/□以下である粗面導電体が、延伸性及び延伸後の導電性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明の粗面導電体は、Raが0.1μm以上である粗面樹脂基材(I)上に、導電性高分子(a)と熱可塑性樹脂(b)とを含む導電性コーティング層(II)を有する粗面導電体であって、導電性コーティング層(II)のRaは0.1μm以上であり、2倍に延伸処理した後の表面抵抗率は1,000,000,000Ω/□以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の粗面導電体は、粗面樹脂基材(I)が、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0008】
本発明の粗面導電体は、粗面樹脂基材(I)が繊維集合体であることが好ましい。
【0009】
本発明の粗面導電体は、粗面樹脂基材(I)が繊維上にプライマー層を有する繊維集合体であることが好ましい。
【0010】
本発明の粗面導電体は、導電性コーティング層(II)が分子内に水酸基を2つ以上有するポリエーテル(c)をさらに含むことが好ましく、ポリエーテル(c)がシリコーン変性ポリエーテル(c1)であることが好ましい。
【0011】
本発明の生体センシングデバイスは、本発明の粗面導電体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粗面導電体は、特定のRaを有する粗面樹脂基材(I)上に、導電性高分子(a)と熱可塑性樹脂(b)とを含む導電性コーティング層(II)を有する粗面導電体であって、導電性コーティング層(II)が特定のRaを有し、2倍に延伸処理した後の表面抵抗率が1,000,000,000Ω/□以下であるため、延伸性及び延伸後の導電性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<粗面導電体>>
本発明の粗面導電体は、
Raが0.1μm以上である粗面樹脂基材(I)上に、導電性高分子(a)と熱可塑性樹脂(b)とを含む導電性コーティング層(II)を有する粗面導電体であって、
導電性コーティング層(II)のRaは0.1μm以上であり、
2倍に延伸処理した後の表面抵抗率は1,000,000,000Ω/□以下であることを特徴とする。
【0014】
<粗面樹脂基材(I)>
粗面樹脂基材(I)の材質としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン、ポリスチレン、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中では、伸縮性及び機械強度の観点から、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン及びポリスチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0015】
粗面樹脂基材(I)のRa(算術平均粗さ)は、0.1μm以上である限り特に限定されないが、0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。Raが0.1μm未満であると、導電性コーティング層(II)のRaを0.1μm以上に調整することが困難になることがある。粗面樹脂基材(I)のRaが0.1μm未満であっても、導電性コーティング層(II)に微粒子を添加し、Raを0.1μm以上に調整することが出来るが、その場合は延伸性が低下することがある。Raの上限は、特に限定されないが、例えば5.0μmである。なお、本明細書において、Raとは、JIS B0601に準拠して測定した算術平均粗さをいう。
【0016】
粗面樹脂基材(I)のRz(最大高さ)は、特に限定されないが、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。Rzが0.5μm未満であると、導電性コーティング層(II)のRaを0.1μm以上に調整することが困難になることがある。Rzの上限は、特に限定されないが、例えば20.0μmである。なお、本明細書において、Rzとは、JIS B0601に準拠して測定した十点平均粗さをいう。
【0017】
粗面樹脂基材(I)の形状としては、特に限定されないが、繊維集合体、シート、フィルム等が挙げられる。ここで、シートとは厚さが0.2〜500mmのものをいい、フィルムとは厚さが1〜200μmのものをいう。これらの中では、通気性の観点から、繊維集合体であることが好ましい。
【0018】
粗面樹脂基材(I)の形状が繊維集合体である場合、繊維集合体内部に導電性コーティング層形成用組成物がしみ込むのを防ぎ、表面抵抗率の面内バラつきを低減させる観点から、繊維上にプライマー層を有する繊維集合体であることが好ましい。
【0019】
<導電性コーティング層(II)>
導電性コーティング層(II)は、Raが0.1μm以上である粗面樹脂基材(I)上に、導電性高分子(a)と熱可塑性樹脂(b)とを含む導電性コーティング層形成用組成物を塗布して形成される。そこで、まずは導電性コーティング層形成用組成物の組成について説明する。
【0020】
導電性高分子(a)は、導電性コーティング層形成用組成物に導電性を付与するための配合物である。導電性高分子(a)としては特に限定されず、従来公知の導電性高分子を用いることができ、具体例としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。中でも、チオフェン環を分子内に含むことで導電性が高い分子ができやすい点で、分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子が好ましい。導電性高分子(a)は、ポリ陰イオン等のドーパントと複合体を形成していてもよい。
【0021】
分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子の中でも、導電性や化学的安定性に極めて優れている点で、ポリ(3,4−二置換チオフェン)がより好ましい。また、導電性高分子が、ポリ(3,4−二置換チオフェン)、又は、ポリ(3,4−二置換チオフェン)とポリ陰イオン(ドーパント)との複合体である場合、低温かつ短時間で粗面導電体を形成することができ、生産性にも優れることとなる。なお、ポリ陰イオンは導電性高分子のドーパントであり、その内容については後述する。
【0022】
ポリ(3,4−二置換チオフェン)としては、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)としては、以下の式(I):
【0023】
【化1】
【0024】
で示される反復構造単位からなる陽イオン形態のポリチオフェンが好ましい。
ここで、R及びRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、又は、R及びRが結合している場合にはC1−4のアルキレン基を表す。C1−4のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
また、R及びRが結合している場合、C1−4のアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基等が挙げられる。これらの中では、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基が好ましく、1,2−エチレン基がより好ましい。C1−4のアルキル基、及び、C1−4のアルキレン基は、その水素の一部が置換されていても良い。C1−4のアルキレン基を有するポリチオフェンとしては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
【0025】
導電性高分子(a)の重量平均分子量は、500〜100000であることが好ましく、1000〜50000であることがより好ましく、1500〜20000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が500未満であると、導電性コーティング層形成用組成物とした場合に要求される粘度を確保することができないことや、導電性コーティング層(II)の導電性が低下することがある。
【0026】
ドーパントは特に限定されないが、ポリ陰イオンが好ましい。ポリ陰イオンは、ポリチオフェン(誘導体)とイオン対をなすことにより複合体を形成し、ポリチオフェン(誘導体)を水中に安定に分散させることができる。ポリ陰イオンとしては、特に限定されないが、例えば、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸等)、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等)等が挙げられる。これらのカルボン酸ポリマー類及びスルホン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類及びビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物との共重合体であっても良い。これらの中では、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0027】
ポリスチレンスルホン酸は、重量平均分子量が20000〜500000であることが好ましく、40000〜200000であることがより好ましい。分子量がこの範囲外のポリスチレンスルホン酸を使用すると、ポリチオフェン系導電性高分子の水に対する分散安定性が低下する場合がある。なお、重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
【0028】
導電性高分子(a)とポリ陰イオンとの複合体としては、導電性に特に優れることから、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体であることが好ましい。
【0029】
導電性高分子(a)の導電率は、特に限定されないが、導電性コーティング層(II)に十分な導電性を付与する観点からは、0.01S/cm以上であることが好ましく、1S/cm以上であることがより好ましい。
【0030】
熱可塑性樹脂(b)としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、カルボキシル基含有樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0031】
ポリエステル系樹脂としては、2つ以上のカルボキシル基を分子内に有する化合物と2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物とを重縮合して得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0032】
ポリウレタンとしては、イソシアネート基を有する化合物とヒドロキシル基を有する化合物とを共重合させて得られた高分子化合物であれば特に限定されず、例えば、エステル・エーテル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン、アクリル系ポリウレタン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0033】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体を主たる構成モノマー(例えば、50モル%以上)として含んでいれば共重合性単量体と重合していてもよく、この場合、(メタ)アクリル系単量体及び共重合性単量体のうち、少なくとも一方が酸基を有していればよい。(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、酸基を有する(メタ)アクリル系単量体[(メタ)アクリル酸、スルホアルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド等]又はその共重合体、酸基を有していてもよい(メタ)アクリル系単量体と、酸基を有する他の重合性単量体[他の重合性カルボン酸、重合性多価カルボン酸又は無水物、ビニル芳香族スルホン酸等]及び/又は上記共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル単量体等]との共重合体、酸基を有する他の重合体単量体と(メタ)アクリル系共重合性単量体[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等]との共重合体、ロジン変性ウレタンアクリレート、特殊変性アクリル樹脂、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートエマルジョン等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル系樹脂の中では、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体等)、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体(アクリル酸−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等)等が好ましい。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、塩素化ポリプロピレン、非塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、非塩素化ポリエチレン等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0035】
カルボキシル基含有樹脂としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、エチレン、メチルビニルエーテル等のビニル系単量体と無水マレイン酸の共重合体の酸無水物を開環、又はハーフエステル化、あるいはハーフアミド化した樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0036】
導電性コーティング層形成用組成物において、熱可塑性樹脂(b)の含有量は、特に限定されないが、導電性高分子(a)の固形分100重量部に対して30〜10000重量部であることが好ましく、50〜5000重量部であることがより好ましい。熱可塑性樹脂(b)の含有量が30重量部未満であると延伸性が低下する場合があり、10000重量部を超えると導電性コーティング層形成用組成物中の導電性高分子(a)の割合が減るため、十分な導電性を確保することが出来なくなる場合がある。
【0037】
導電性コーティング層形成用組成物は、導電性高分子(a)、熱可塑性樹脂(b)以外に、任意に他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、分子内に水酸基を2つ以上有するポリエーテル(c)、溶媒、酸化防止剤、防腐剤、スリップ剤、剥離剤、消泡剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0038】
本発明の粗面導電体において、導電性コーティング層形成用組成物が延伸性付与剤として分子内に水酸基を2つ以上有するポリエーテル(c)をさらに含有することが、延伸性及び延伸後の導電性をより向上させることができることから好ましい。ポリエーテル(c)を含有することで延伸性及び延伸後の導電性が向上する理由は、導電性高分子(a)の分子間に介在するポリエーテル(c)が、導電性高分子(a)との間に水素結合を形成するためと推測される。
【0039】
ポリエーテル(c)において、1分子当たりの水酸基の数は、2以上である限り特に限定されないが、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。1分子当たりの水酸基の数が2未満であると、導電性コーティング層形成用組成物の延伸性が低下する場合がある。
【0040】
ポリエーテル(c)の具体例としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン変性ポリエーテル(c1)、ポリグリセリン、プルラン、ポリエーテルポリオール及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中では、レベリング性を兼ね備えるという観点から、シリコーン変性ポリエーテル(c1)が好ましい。
【0041】
シリコーン変性ポリエーテル(c1)としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン主鎖の両末端にポリエーテルのあるタイプ、シリコーン主鎖に複数のポリエーテル側鎖が結合されているタイプ、ポリエーテル主鎖にシリコーン側鎖が結合されているタイプ等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0042】
ポリエーテル(c)の融点(融点が存在しない場合はガラス転移温度)は、130℃以下である限り特に限定されないが、100℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。融点(融点が存在しない場合はガラス転移温度)が130℃を超えると、導電性コーティング層形成用組成物の延伸性が低下する場合がある。
【0043】
ポリエーテル(c)の沸点(沸点が存在しない場合は分解温度)は、特に限定されないが、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。沸点(沸点が存在しない場合は分解温度)が300℃未満であると、加工プロセスにおける加熱処理でポリエーテル(c)が揮発又は分解してしまい、導電性コーティング層形成用組成物の延伸性が低下する場合がある。
【0044】
導電性コーティング層形成用組成物において、ポリエーテル(c)の含有量は、特に限定されないが、導電性高分子(a)の固形分100重量部に対して10〜2000重量部であることが好ましく、30〜1000重量部であることがより好ましい。ポリエーテル(c)の含有量が10重量部未満であると、導電性コーティング層形成用組成物の延伸性が低下する場合があり、2000重量部を超えると、導電性コーティング層形成用組成物中の導電性高分子(a)の割合が減るため、十分な導電性を確保することが出来なくなることがある。
【0045】
溶媒としては、特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン;アセトン;アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0046】
溶媒は、水、又は、水と有機溶媒との混合物であることが好ましい。導電性コーティング層形成用組成物が溶媒として水を含有する場合、水の含有量は、特に限定されないが、導電性高分子(a)の固形分100重量部に対して、20〜1000000重量部が好ましく、200〜500000重量部がより好ましい。水の含有量が20重量部未満であると、粘度が高くなりハンドリングが困難になることがあり、1000000重量部を超えると、導電性コーティング層形成用組成物の濃度が低くなりすぎて液使用量が増えることがある。
【0047】
溶媒として水と有機溶媒との混合物を含有する場合、有機溶媒は、メタノール、エタノール、2−プロパノール、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。有機溶媒の含有量は特に限定されず、導電性高分子(a)の固形分100重量部に対して、20〜700000重量部が好ましく、200〜350000重量部がより好ましい。また、水と有機溶媒との比率(水:有機溶媒)は、重量比で、100:0〜5:95が好ましく、100:0〜30:70がより好ましい。
【0048】
溶媒は、導電性コーティング層形成用組成物を用いて形成される導電性コーティング層(II)中には残留しないことが好ましい。なお、本明細書においては、導電性コーティング層形成用組成物の全ての成分を完全に溶解させるもの(即ち、「溶媒」)と、不溶成分を分散させるもの(即ち、「分散媒」)とは特に区別せずに、いずれも「溶媒」と記載する。
【0049】
導電性コーティング層形成用組成物の固形分は、特に限定されないが、0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%であることがより好ましい。導電性コーティング層形成用組成物の固形分が0.1重量%未満であると、十分な導電性を発現できないことがあり、10重量%を超えると、導電性コーティング層形成用組成物の貯蔵安定性が悪くなることがある。
【0050】
本発明の粗面導電体は、粗面樹脂基材(I)上に、上述の導電性コーティング層形成用組成物を塗布することにより導電性コーティング層(II)を形成して製造される。粗面樹脂基材(I)上に導電性コーティング層形成用組成物を塗布した場合、粗面樹脂基材(I)と導電性コーティング層形成用組成物との比率(重量比)は、通常、200:1〜5:1となる。一方、粗面樹脂基材(I)を導電性コーティング層形成用組成物に含浸した場合、粗面樹脂基材(I)と導電性コーティング層形成用組成物との比率(重量比)は、通常、1:1〜1:10となる。
【0051】
粗面樹脂基材(I)上に上述の導電性コーティング層形成用組成物を塗布した後、乾燥処理を行うことにより導電性コーティング層(II)を形成することができる。乾燥処理の処理温度は、特に限定されないが、30〜150℃であることが好ましく、50〜130℃であることがより好ましい。処理温度が30℃未満であると、乾燥に長時間を要することがあり、150℃を超えると、粗面樹脂基材(I)が変形することがある。処理時間は、特に限定されないが、0.5〜60分間であることが好ましく、1〜30分間であることがより好ましい。処理時間が0.5分間未満であると、溶媒が残存することがあり、60分間を超えると、粗面樹脂基材(I)が変形することがある。
【0052】
導電性コーティング層(II)のRa(算術平均粗さ)は、0.1μm以上である限り特に限定されないが、0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。Raが0.1μm未満であると、表面積が小さくなり生体センシングの感度が低下することや、粗面導電体を重ねて保管する際にブロッキングが生じることがある。Raの上限は、特に限定されないが、例えば5.0μmである。
【0053】
本発明の粗面導電体の2倍に延伸処理した後の表面抵抗率は、1,000,000,000Ω/□以下である限り特に限定されないが、10,000,000Ω/□以下であることが好ましく、5,000,000Ω/□以下であることがより好ましい。2倍に延伸処理した後の表面抵抗率が1,000,000,000Ω/□を超えると、生体情報のセンシングが不可能となることがある。なお、本明細書において、「2倍に延伸」とは、長さが2倍になるまで延伸したことをいう。
【0054】
本発明の粗面導電体の用途は、特に限定されないが、例えば、生体センシングデバイス、延伸成形加工工程を経て製造される包装材料、及びその原料として好適に用いることができる。
【0055】
<<生体センシングデバイス>>
本発明の生体センシングデバイスは、本発明の粗面導電体を備えることを特徴とする。生体センシングデバイスとしては、特に限定されないが、例えば、脳波、事象関連電位、誘発電位、筋電図、心電図等の生体電気信号の記録、及び生体に対する電気刺激のための体表面装着型の生体電極や、心臓ペースメーカーや人工内耳等に用いられる体内埋め込み型の生体電極等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。
【0057】
(使用材料)
1.粗面樹脂基材(I)
・ポリエステルマイクロファイバー(帝人フロンティア株式会社製、フレキシング)
・ポリウレタンフィルム(ディーアイシーバイエルポリマー社製、T−9280)
・ポリスチレンフィルム(特開2012−200906号公報の実施例4に記載の方法により得られたもの)
・ポリエステルフィルム(非粗面)(笠井産業株式会社製、A−PET)
【0058】
2.プライマー
・アクリル系水性インキ(株式会社ミノグループ製、バインダーBM、固形分48重量%)
【0059】
3.導電性高分子(a)
・PEDOT:PSS(ヘレウス社製、Clevios P、固形分1.3重量%)
・PEDOT:PSS中和品(Clevios Pをテトラメチルアンモニウム水溶液にて中和したもの、固形分1.4重量%)
・高導電PEDOT:PSS(ヘレウス社製、Clevios PH1000、固形分1.2重量%)
・ポリアニリン(ORMECON社製、D 1033、固形分1.9重量%)
【0060】
4.熱可塑樹脂(b)
・ポリエステル(高松油脂株式会社製、ペスレジンS−250、固形分30重量%)
・ポリウレタン(株式会社ADEKA製、アデカボンタイターHUX−350、固形分30重量%)
【0061】
5.ポリエーテル(c)
・シリコーン変性ポリエーテル(信越化学工業株式会社製、X−22−4272、1分子当たりの水酸基数:2、固形分100重量%)
・シリコーン変性ポリエーテル(信越化学工業株式会社製、KF−6015、1分子当たりの水酸基数:0、固形分100重量%)
・ポリエーテルポリオール(株式会社ADEKA製、アデカポリエーテルEDP−450、1分子当たりの水酸基数:4、固形分100重量%)
【0062】
6.熱硬化性樹脂
・メラミン(日本カーバイド株式会社製、ニカラックMX−43、固形分100重量%)
【0063】
7.フィラー
・シリカ(株式会社日本触媒製、シーホスター(登録商標)KE−W30、固形分20重量%)
【0064】
(実施例1〜4、比較例1、2)
粗面樹脂基材(I)として、表1に示す種類・形状の基材を用いた。実施例1のみ、アクリル系水性インキ100重量部に株式会社ミノグループ製堅牢増進剤Fを2重量部加え、撹拌したものを#100のメッシュにて基材上にスクリーン印刷した後、150℃の送風乾燥機にて3分間乾燥することにより、基材上にプライマー層を形成したものを粗面樹脂基材(I)として用いた。粗面樹脂基材(I)のRaを下記の方法により測定した。
表1に示す重量比(固形分比)で各成分を混合し、固形分率が1重量%となるようにエタノールで希釈後、3重量%のエチレングリコールを添加することにより、導電性コーティング層形成用組成物を得た。得られた導電性コーティング層形成用組成物を、粗面樹脂基材(I)上にワイヤーバーを用いてウェット膜厚7μmで塗布し、100℃の送風乾燥機にて3分間乾燥することにより、導電性コーティング層(II)を形成し、粗面導電体を得た。得られた導電性コーティング層(II)のRaを下記の方法により測定した。また、得られた粗面導電体について、下記の方法により表面抵抗率及び2倍延伸後の表面抵抗率を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0065】
(評価方法)
1.Ra
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製原子間力顕微鏡装置Nanocuteを使用し、DFMモード、スキャン速度0.5Hzにて測定した。
【0066】
2.表面抵抗率
導電性コーティング層(II)の表面抵抗率と装置の測定可能レンジに応じて、下記の方法から選択し、評価した。
表面抵抗率が1.0E+06(Ω/□)未満の場合:三菱化学株式会社製ロレスタGP MCP−T600のESPプローブを用いて10Vの印加電圧にて測定した。
表面抵抗率が1.0E+06(Ω/□)〜1.0E+08(Ω/□)の場合:三菱化学株式会社製ハイレスタUP(MCP−HT450型)のUAプローブを用いて10Vの印加電圧にて測定した。
表面抵抗率が1.0E+08(Ω/□)以上の場合:三菱化学株式会社製ハイレスタUP(MCP−HT450型)のUAプローブを用いて250Vの印加電圧にて測定した。
【0067】
3.2倍延伸後の表面抵抗率
各実施例及び比較例で得られた粗面導電体を10cm×10cmの大きさにカットし、一辺をステージに固定し、反対側の一辺を引っ張り、10cm×20cmに伸びた状態で全体をステージに固定することにより、粗面導電体を2倍に延伸した。比較例1のみ、110℃で加熱しながら延伸を行った。その後、上記2.に記載した方法により表面抵抗率を測定した。
【0068】
【表1】