特許第6960336号(P6960336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6960336-研磨用組成物 図000018
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960336
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20211025BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20211025BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C09K3/14 550Z
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
   H01L21/304 622D
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-545787(P2017-545787)
(86)(22)【出願日】2016年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2016081115
(87)【国際公開番号】WO2017069202
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-209327(P2015-209327)
(32)【優先日】2015年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】杉田 規章
(72)【発明者】
【氏名】知念 美佳
(72)【発明者】
【氏名】松下 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 修平
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/189684(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/084091(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/061771(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/148399(WO,A1)
【文献】 特開2012−216723(JP,A)
【文献】 特開2014−130958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨用組成物であって、
砥粒と、
下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも一種類の水溶性高分子と、
アルカリ化合物と、
を含み、動的光散乱法を用いて測定された前記研磨組成物中の粒子の平均粒子径が14nm以下である、研磨用組成物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用組成物において、
さらに、非イオン性界面活性剤を含む、研磨用組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の研磨用組成物において、
前記非イオン性界面活性剤は、下記一般式(2)で示される2つの窒素を有するアルキレンジアミン構造を含み、該アルキレンジアミン構造の2つの窒素に、少なくとも1つのブロック型ポリエーテルが結合されたジアミン化合物であって、該ブロック型ポリエーテルが、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とが結合してなるジアミン化合物である、研磨用組成物。
【化2】
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の研磨用組成物において、
さらに、多価アルコールを含む、研磨用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の研磨用組成物において、
前記多価アルコールは、メチルグルコシドのアルキレンオキシド誘導体である、研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、研磨用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CMP(Chemical Mechanical Polishing)によるシリコンウェーハの研磨は、3段階または4段階の多段階の研磨を行なうことで高精度の平坦化を実現している。最終段階の研磨工程で使用するスラリーには、一般的に、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)及びポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性高分子が用いられている。
【0003】
例えば、特開2012−216723号公報には、1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも1種類の水溶性高分子と、アルカリとを含む研磨用組成物が開示されている。
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、近年、より厳しい水準で表面欠陥を抑制することや、表面の曇り(ヘイズ)を低減することが求められている。
【0005】
この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、表面欠陥及びヘイズを低減可能な研磨用組成物を提供することである。
【0006】
この発明の実施の形態によれば、研磨用組成物は、砥粒と、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも一種類の水溶性高分子と、アルカリ化合物と、を含み、動的光散乱法を用いて測定された研磨組成物中の粒子の平均粒子径が55nm以下である。
【0007】
【化1】
【0008】
この発明の実施の形態によれば、研磨用組成物は、動的光散乱法を用いて測定された研磨組成物中の粒子の平均粒子径が55nm以下である。通常、研磨組成物中の粒子の平均粒子径を55nm以下にすると、被研磨面が疎水性になり、かえって表面欠陥数やヘイズが増加する。また、研磨組成物中の粒子の平均粒子径が小さい場合には、電気二重層引斥力によって研磨後のウェーハ表面に粒子が再付着してパーティクルになりやすいので、欠陥数が増加する場合がある。しかし、上述した水溶性高分子及びアルカリ化合物を含む研磨用組成物では、研磨組成物中の粒子を小さくしても被研磨面を親水性に維持することができる。そのため、本発明の実施の形態によれば、研磨組成物中の粒子の平均粒子径を55nm以下にすることによって、研磨後のシリコンウェーハの表面欠陥の抑制及びヘイズの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例7、実施例13、及び実施例14のアルカリ化合物の配合量と欠陥数及びヘイズ値の関係を示すグラフである。
図2図2は、実施例27、比較例7、及び比較例8の砥粒の平均粒子径と欠陥数及びヘイズ値の関係を示すグラフである。
図3図3は、比較例9〜比較例12の砥粒の平均粒子径と欠陥数及びヘイズ値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
この発明の実施の形態による研磨用組成物COMP1は、砥粒と、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも一種類の水溶性高分子と、アルカリ化合物とを含み、動的光散乱法を用いて測定された研磨組成物中の粒子の平均粒子径が55nm以下である。
【0012】
【化1】
【0013】
研磨用組成物COMP1は、シリコンの研磨に用いられる。
【0014】
この明細書において、「研磨組成物中の粒子」とは、砥粒に水溶性高分子等が付着して粒子状に分散したものをいう。
【0015】
研磨用組成物COMP1に含まれる粒子の平均粒子径は、55nm以下である。ここでの「平均粒子径」は、研磨用組成物COMP1を測定の対象物として、動的光散乱法を用いて測定したときに示される数値である。本明細書において、以下、動的光散乱法を用いて研磨用組成物中の粒子を測定したときの平均粒子径を、単に「研磨用組成物中の粒子の平均粒子径」と記載することがある。
【0016】
研磨用組成物COMP1中の粒子の平均粒子径は、上述の通り、55nm以下である。研磨用組成物COMP1中の粒子の平均粒子径が55nm以下であるので、粒子の有する機械的研磨作用が低下し、ウェーハへのダメージが低減するので、ウェーハの表面特性を向上させることができる。研磨用組成物COMP1中の粒子の平均粒子径は、33nm以下が好ましく、14nm以下がさらに好ましい。
【0017】
通常、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径を55nm以下にすると、被研磨面が疎水性になり、かえって表面欠陥数やヘイズが増加する。また、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径が小さい場合には、電気二重層引斥力によって研磨後のウェーハ表面に粒子が再付着してパーティクルになりやすいので、欠陥数が増加する場合がある。しかし、上式(1)で表される水溶性高分子及びアルカリ化合物を用いることによって、研磨用組成物中の粒子を小さくしても被研磨面を親水性に維持することができる。そのため、研磨用組成物COMP1では、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径を小さくして表面欠陥及びヘイズを低減することができる。
【0018】
砥粒としては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルアルミナ、ヒュームドアルミナ及びセリア等を用いることができる。シリコンウェーハの表面平滑性を向上させる観点からは、砥粒として、コロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0019】
砥粒として、動的光散乱法を用いて測定された平均粒子径が50nm以下の砥粒を配合し、かつ、水溶性高分子として、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも一種類の水溶性高分子を配合すれば、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径を55nm以下にすることができる。なお、本明細書の以下の記載において単に「平均粒子径」というときは、動的光散乱法を用いて測定された平均粒子径を意味するものとする。砥粒の平均粒子径は、31nm以下が好ましく、12nm以下がさらに好ましい。
【0020】
研磨用組成物COMP1の原液に対する砥粒の配合量は、例えば、1.5〜9.5重量%である。
【0021】
上式(1)で表される水溶性高分子は、変性ポリビニルアルコール(PVA)である。変性PVAとして、いずれの重合度のものを用いてもよい。また、変性PVAとして、いずれのケン化度のものを用いてもよい。変性PVAとしては、1種類を単独で配合しても、2種以上を配合しても、いずれでもよい。
【0022】
変性PVAは、分子構造中に炭素の二重結合を有する。つまり、変性PVAの分子は、変形しにくい直線的な構造となっている。そのため、変性PVAがウェーハの表面に保護膜を形成すると、直線的な構造が並んだり、それらが重なり合ったりした、隙間の少ない高密度な保護膜となる。
【0023】
アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、複素環式アミン、炭酸塩、水酸化物、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0024】
脂肪族アミンとしてはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0025】
複素環式アミンとしては、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン及びN−メチルピペラジン等が挙げられる。
【0026】
炭酸塩としては、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。
【0027】
水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0028】
第4級アンモニウム塩としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0029】
アルカリ化合物としては、例示したこれらの化合物のうち1種類を単独で配合してもよく、2種以上を配合してもよい。
【0030】
アルカリ化合物は、研磨速度や研磨用組成物の他の組成とのバランスの観点から、研磨用組成物COMP1の原液に対する配合量が0.005重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、0.15重量%以上であることがさらに好ましい。また、アルカリ化合物の配合量は、1.0重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましい。アルカリ化合物の配合量が0.005重量%より小さいと、ウェーハ表面へのエッチング力が弱まって研磨速度が遅くなり、1次研磨や2次研磨で生じた研磨傷を取りきれなくなる虞がある。また、アルカリ化合物の配合量が1.0重量%を超えると、砥粒が凝集しやすくなり、欠陥数やヘイズ値が悪化する虞がある。また、アルカリ化合物の配合量が1.0重量%を超えると、ウェーハの表面が過度にエッチングされ、ウェーハの表面粗さが増加するため、研磨後のウェーハの表面の欠陥数が増加したり、ヘイズ値が悪化したりする虞がある。
【0031】
研磨用組成物COMP1は、アルカリ化合物を含む結果、例えば、pHが8〜12の範囲に設定される。
【0032】
研磨用組成物COMP1は、さらに、非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えば、下記式(2)や式(3)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)エチレンジアミン(つまり、ポロキサミン)等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、他にも、ポロキサマー、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0033】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等が挙げられる。ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート等が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン等が挙げられる。
【0034】
【化2】
【0035】
【化3】
【0036】
ウェーハ表面には、水溶性高分子(PVA系樹脂)が吸着してウェーハの表面を保護している。研磨用組成物COPM1がさらに非イオン性界面活性剤を含む場合には、非イオン性界面活性剤が水溶性高分子の分子と分子との間に入り込んでウェーハの表面に緻密に吸着すると考えられる。このように、非イオン性界面活性剤が保護膜の隙間を埋めることにより、保護膜の密度や強度が向上し、ウェーハの表面の保護効果が向上する。したがって、研磨用組成物COPM1にさらに非イオン性界面活性剤を配合すると、ウェーハ表面の保護効果が高まり、研磨後のウェーハの欠陥数及びヘイズ値が低減すると考えられる。
【0037】
非イオン性界面活性剤の配合量は、例えば、研磨用組成物の原液の重量に対して0.001〜0.05重量%であり、0.01〜0.03重量%であることがより好ましい。非イオン性界面活性剤の配合量が0.001重量%よりも小さい場合には、ウェーハの表面へのコーティング力が弱まり、アルカリエッチングや砥粒からのダメージからウェーハを保護できなくなるため、欠陥数とヘイズ値が悪化する虞がある。非イオン性界面活性剤の配合量が0.02重量%よりも大きい場合には、欠陥数が増加する虞がある。非イオン性界面活性剤としては、1種類を単独で配合してもよく、2種類以上を配合してもよい。
【0038】
研磨用組成物COMP1は、非イオン性界面活性剤に加え、さらに、多価アルコールを含むことが好ましい。多価アルコールは、1分子中に2以上のヒドロキシ基を含むアルコールである。多価アルコールとしては、例えば、糖と糖以外の有機化合物とがグリコシド結合した配糖体(グリコシド)、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。また、多価アルコールには、配糖体(グリコシド)、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコールにアルキレンオキシドが付加した多価アルコールアルキレンオキシド付加物等も含まれる。配糖体としては、例えば、下式(4)で示される、メチルグルコシドのアルキレンオキシド誘導体等が挙げられる。
【0039】
【化4】
【0040】
メチルグルコシドのアルキレンオキシド誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリオキシプロピレンメチルグルコシド等が挙げられる。
【0041】
多価アルコールは、水溶性高分子と比べて、分子量が小さい。そのため、研磨によってウェーハの表面に新たな研磨面が現れてから、その新たな研磨面に多価アルコールが吸着するまでの時間が短くなる。新たな研磨面が現れてから多価アルコールが即座に薄膜を形成するので、ウェーハ表面に有機物や異物、砥粒が付着するのを防ぐ。つまり、研磨用組成物COMP1が多価アルコールを含む場合には、ウェーハの表面に変性PVAの保護膜を形成する前段階として、多価アルコールの薄膜が形成され、ウェーハ表面の保護効果が高まっていると考えられる。
【0042】
多価アルコールとしては、1種類を用いても、2種類以上を併用してもよい。表面欠陥を抑制し且つヘイズを低減する観点からは、多価アルコールを2種類以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0043】
研磨用組成物COMP1において、多価アルコールの配合量は、変性PVAの配合量より小さいことが好ましい。また、研磨用組成物COMP1が非イオン性界面活性剤を含む場合、多価アルコールの配合量は、非イオン性界面活性剤の配合量よりも小さいことが好ましい。多価アルコールによる膜は撥水性を有するので、多価アルコールの配合量が大きいと、ウェーハ表面が撥水性となってしまう虞がある。
【0044】
研磨用組成物COMP1が非イオン性界面活性剤を含有し、さらに、多価アルコールを含む場合には、研磨用組成物は、ウェーハ研磨時に次のように作用すると考えられる。まず、研磨によって、ウェーハに新たな研磨面が現れると、分子量の小さい多価アルコールが、直ちにウェーハ表面に多価アルコールの薄膜を形成する。この後、変性PVA及び非イオン性界面活性剤による高密度な膜がウェーハ表面に形成され、ウェーハの表面が効果的に保護される。
【0045】
この発明の実施の形態においては、研磨用組成物COMP1は、必要とされる特性に応じて、さらに、キレート剤、酸性物質等を含んでいてもよい。
【0046】
キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤、有機スルホン酸系キレート剤等が挙げられる。
【0047】
アミノカルボン酸系キレート剤には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム等が含まれる。
【0048】
有機ホスホン酸系キレート剤には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等が含まれる。
【0049】
酸性物質としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、酸性リン酸エステル塩、ホスホン酸塩、無機酸塩、アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、多価アルコール部分エステル、カルボン酸アミド等が挙げられる。
【0050】
研磨用組成物COMP1は、上記式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも1種類の水溶性高分子、砥粒、アルカリ化合物及びその他の配合材料を適宜混合して水を加えることによって作製される。また、研磨用組成物COMP1は、砥粒、上記式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも1種類の水溶性高分子、アルカリ化合物及びその他の配合材料を、順次、水に混合することによって作製される。そして、これらの成分を混合する手段としては、モノジナイザー、及び超音波等、研磨用組成物の技術分野において常用される手段が用いられる。
【0051】
上記説明した研磨用組成物COMP1は、砥粒と、1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも一種類の水溶性高分子と、アルカリ化合物とを含み、さらに、非イオン性界面活性剤を含んでいてもよく、非イオン性界面活性剤に加えてさらに多価アルコールを含んでいてもよいと説明した。これに対し、砥粒と、1,2−ジオール構造単位を有するビニルアルコール系樹脂から選ばれた少なくとも一種類の水溶性高分子と、アルカリ化合物と、多価アルコールとを含み、非イオン性界面活性剤を含有しない研磨用組成物COMP2についても本発明の一実施形態に含まれる。
【0052】
上記の研磨用組成物COMP1、COMP2によれば、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径が55nm以下であり、粒子の有する機械的研磨作用が低下してウェーハへのダメージが低減するので、研磨するウェーハの欠陥数及びヘイズ値を低減することができる。そのため、研磨用組成物COMP1を用いてウェーハの研磨を行うことにより、ウェーハの最終研磨において要求される高い水準の表面特性を満足することができる。
【0053】
以上、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。具体的には、以下の実施例1〜実施例27、及び比較例1〜比較例8の研磨用組成物を作製し、それぞれの研磨用組成物を用いてシリコンウェーハの研磨を行った。そして、研磨における欠陥数の測定及びヘイズ値の測定を行った。
【0055】
(研磨用組成物)
実施例1〜実施例27、及び比較例1〜比較例8の研磨用組成物の組成について説明する。なお、各研磨用組成物の組成を表1〜表6にも示す。表1〜表6において、各成分の重量%は、研磨用組成物(原液)全体に対する重量%を表す。
【0056】
実施例1の研磨用組成物は、3.5重量%の砥粒(1)、0.10重量%の水酸化アンモニウム(NHOH)、及び0.1重量%の水溶性高分子(変性PVA)を水に配合して全体で100重量%としたものである。
【0057】
ここで使用した砥粒(1)は、コロイダルシリカであり、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は50nmであった。また、ここでは重合度450、分子量20000の変性PVAを使用した。動的散乱法による平均粒子径は、大塚電子株式会社製の粒径測定システム「ELS−Z2」を用いて測定した。
【0058】
実施例2の研磨用組成物は、実施例1の研磨用組成物に、さらに、0.015重量%のポロキサミン(1)を配合したことを除いて、実施例1と同一の組成を有する。
【0059】
ここでは、ポロキサミン(1)として、式(2)で示されるものを使用した。ポロキサミン(1)のエチレンオキシドとプロピレンオキシドの質量比EO/POは、EO/PO=40/60であり、分子量は6900であった。
【0060】
実施例3及び実施例4の研磨用組成物は、実施例2の研磨用組成物のポロキサミン(1)の配合量を、それぞれ、0.020重量%及び0.025重量%としたことを除いて、実施例2と同一の組成を有する。
【0061】
実施例5の研磨用組成物は、実施例3の研磨用組成物に、さらに、0.0050重量%の多価アルコール(1)を配合したことを除いて、実施例3と同一の組成を有する。
【0062】
ここで使用した多価アルコール(1)は、式(5)で示されるポリオキシプロピレンメチルグルコシドであり、分子量は774であった。
【0063】
【化5】
【0064】
実施例6の研磨用組成物は、実施例5の研磨用組成物の多価アルコール(1)の配合量を0.0100重量%としたことを除いて、実施例5と同一の組成を有する。
【0065】
実施例7の研磨用組成物は、実施例5の研磨用組成物のポロキサミン(1)の配合量を0.015重量%としたことを除いて、実施例5と同一の組成を有する。
【0066】
実施例8の研磨用組成物は、実施例7の研磨用組成物の多価アルコール(1)の代わりに0.0050重量%の多価アルコール(2)を配合したことを除いて、実施例7と同一の組成を有する。
【0067】
ここで使用した多価アルコール(2)は、式(6)で示されるポリオキシエチレンメチルグルコシドであり、分子量は634であった。
【0068】
【化6】
【0069】
実施例9の研磨用組成物は、実施例7の研磨用組成物の多価アルコール(1)の配合量を0.0025重量%とし、さらに、0.0025重量%の多価アルコール(2)を配合したことを除いて、実施例7と同一の組成を有する。
【0070】
実施例10の研磨用組成物は、実施例7の研磨用組成物のポロキサミン(1)の代わりに0.015重量%のポロキサミン(2)を配合したことを除いて、実施例7と同一の組成を有する。
【0071】
ここでは、ポロキサミン(2)として、式(3)で示されるものを使用した。ポロキサミン(2)のエチレンオキシドとプロピレンオキシドの質量比EO/POは、EO/PO=80/20であり、分子量は25000であった。
【0072】
実施例11及び実施例12の研磨用組成物は、それぞれ、実施例2及び実施例7の研磨用組成物の砥粒(1)の代わりに3.5重量%の砥粒(2)を配合したことを除いて、実施例2及び実施例7と同一の組成を有する。
【0073】
ここで使用した砥粒(2)は、コロイダルシリカであり、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は30nmであった。
【0074】
実施例13及び実施例14の研磨用組成物は、実施例7の研磨用組成物のアルカリ化合物の配合量を、それぞれ、0.15重量%及び0.20重量%としたことを除いて、実施例7と同一の組成を有する。
【0075】
実施例15及び実施例16の研磨用組成物は、実施例2の研磨用組成物の砥粒(1)の配合量を、それぞれ、5.5重量%及び7.5重量%としたことを除いて、実施例2と同一の組成を有する。
【0076】
実施例17の研磨用組成物は、ポロキサミン(1)を配合しないことを除いて、実施例6と同一の組成を有する。
【0077】
実施例18及び実施例19の研磨用組成物は、実施例17の研磨用組成物の多価アルコール(1)の配合量を、それぞれ、0.0200重量%及び0.0300重量%としたことを除いて、実施例17と同一の組成を有する。
【0078】
実施例20の研磨用組成物は、実施例17の研磨用組成物に、さらに、0.0100重量%の多価アルコール(2)を配合したことを除いて、実施例17と同一の組成を有する。
【0079】
実施例21〜実施例26の研磨用組成物は、実施例7の研磨用組成物の砥粒(1)の代わりに、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径がそれぞれ31nm、25nm、19nm、16nm、12nm、及び5nmの砥粒を配合したことを除いて、実施例7と同一の組成を有する。これらの砥粒は、すべてコロイダルシリカであり、配合量は3.5重量%である。
【0080】
実施例27の研磨用組成物は、実施例1の研磨用組成物のアルカリ化合物の配合量を0.019重量%としたことを除いて、実施例1と同一の組成を有する。
【0081】
比較例1の研磨用組成物は、実施例1の研磨用組成物の砥粒(1)の代わりに3.5重量%の砥粒(3)を配合したことを除いて、実施例1と同一の組成を有する。
【0082】
ここで使用した砥粒(3)は、コロイダルシリカであり、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は70nmであった。
【0083】
比較例2の研磨用組成物は、比較例1の研磨用組成物に、さらに、0.015重量%のポロキサミン(1)を配合したことを除いて、比較例1と同一の組成を有する。
【0084】
比較例3の研磨用組成物は、比較例2の研磨用組成物のポロキサミン(1)の配合量を0.020重量%としたことを除いて、比較例2と同一の組成を有する。
【0085】
比較例4の研磨用組成物は、比較例2の研磨用組成物のアルカリ化合物の配合量を0.20重量%としたことを除いて、比較例2と同一の組成を有する。
【0086】
比較例5の研磨用組成物は、比較例2の研磨用組成物に、さらに、0.0050重量%の多価アルコール(1)を配合したことを除いて、比較例2と同一の組成を有する。
【0087】
比較例6の研磨用組成物は、実施例1の研磨用組成物の砥粒(1)の代わりに3.5重量%の砥粒(4)を配合したことを除いて、実施例1と同一の組成を有する。
【0088】
ここで使用した砥粒(4)は、コロイダルシリカであり、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は99nmであった。
【0089】
比較例7及び比較例8の研磨用組成物は、実施例27の研磨用組成物の砥粒の代わりに、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径がそれぞれ70nm及び62nmの砥粒を配合したことを除いて、実施例27と同一の組成を有する。これらの砥粒は、すべてコロイダルシリカであり、配合量は3.5重量%である。
【0090】
上記の実施例及び比較例の研磨用組成物に対し、以下の研磨条件で研磨を行った。そして、それぞれについて欠陥数、ヘイズ値、及び研磨用組成物中の粒子の平均粒子径の測定を行った。以下、研磨条件及び各測定方法について説明する。
【0091】
(研磨条件)
研磨装置(SPP800S、岡本工作機械製作所製)を用い、研磨パッド(SUPREME(登録商標) RN−H、ニッタ・ハース株式会社製)に、31倍に希釈された実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8の研磨用組成物を1000mL/分の割合で供給して、4分間、シリコンウェーハの研磨を行った。用いたシリコンウェーハは、直径が300mmのP型半導体のものであり、結晶方位が(100)であった。このときの研磨条件としては、シリコンウェーハにかける圧力が0.012MPa、研磨定盤の回転速度が40rpm、キャリアの回転速度が39rpmであった。
【0092】
(欠陥数測定方法)
上記の実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8について、ウェーハ欠陥検査・レビュー装置(レーザーテック株式会社製の「MAGICS M5640」)を用いて欠陥数の測定を行った。測定時のウェーハ欠陥検査・レビュー装置の最高感度は、D37mVに設定した。
【0093】
(ヘイズ値測定方法)
上記の実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8について、ウェーハ表面検査装置(日立エンジニアリング社製の「LS6600」)を用いて、ヘイズ値の測定を行った。
【0094】
(研磨用組成物中の粒子の平均粒子径の測定)
上記の実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8について、動的光散乱法を用いて、研磨用組成物を測定対象物として、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径の測定を行った。測定には、大塚電子株式会社製の粒径測定システム「ELS−Z2」を用いた。
【0095】
このようにして測定した欠陥数、ヘイズ値、及び、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径の結果を、表1〜表6に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】
【0102】
(実施例の評価)
研磨用組成物が砥粒、アルカリ化合物及び変性PVAを含む実施例1及び比較例1を比較すると、配合する砥粒の径が小さい(平均粒子径:50nm)実施例1は、砥粒の径が大きい(平均粒子径:70nm)比較例1よりも、シリコンウェーハの欠陥数及びヘイズ値が著しく良好となることが分かる。
【0103】
研磨用組成物の砥粒を砥粒(3)から径の小さい砥粒(1)に変更することにより、シリコンウェーハの欠陥数及びヘイズ値が良好となることは、研磨用組成物が砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、及びポロキサミンを含む実施例2と比較例2の比較、並びに実施例3と比較例3の比較からも確認できる。
【0104】
また、研磨用組成物の砥粒を砥粒(3)から径の小さい砥粒(1)に変更することにより、シリコンウェーハの欠陥数及びヘイズ値が良好となることは、研磨用組成物が砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、ポロキサミン及び多価アルコールを含む実施例7と比較例5の比較からも確認できる。
【0105】
研磨用組成物の砥粒を、砥粒(1)(平均粒子径:50nm)からさらに小径の砥粒(2)(平均粒子径:30nm)に変更した場合について検討する。研磨用組成物が砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、及びポロキサミンを含む実施例2と実施例11との比較から、砥粒(1)を砥粒(2)に変更することにより、欠陥数が低減する一方、ヘイズ値は大きくなることが分かる。また、研磨用組成物が砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、ポロキサミン、及び多価アルコールを含む実施例7と実施例12との比較から、砥粒(1)を砥粒(2)に変更することにより、欠陥数が同等の値を示す一方、ヘイズ値は大きくなることが分かる。ヘイズ値が大きくなる原因として、小径の砥粒(2)では、砥粒(1)よりも、1次研磨または2次研磨において発生した研磨傷による表面粗さをとる効果が小さいためであると考えられる。
【0106】
研磨用組成物にポロキサミンを配合していない実施例1と、実施例1の研磨用組成物にさらにポロキサミンを配合した実施例2とを比較すると、欠陥数及びヘイズ値の両方が低減していることが分かる。
【0107】
ウェーハ表面には、変性PVAが吸着してウェーハの表面を保護している。研磨用組成物がさらにポロキサミンを含む場合には、ポロキサミンが変性PVAの分子と分子との間に入り込んでウェーハの表面に吸着すると考えられる。このため、実施例2では、ウェーハ表面の保護効果が高まり、研磨後のウェーハの欠陥数及びヘイズ値が低減していると考えられる。
【0108】
また、砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、及びポロキサミン(1)を配合した研磨用組成物であって、ポロキサミン(1)の配合量を変更した実施例2〜実施例4を比較すると、ポロキサミン(1)の配合量が多くなるほど、欠陥数及びヘイズ値の両方が低減していることが分かる。
【0109】
実施例7及び実施例10より、研磨用組成物に配合するポロキサミンの種類をポロキサミン(1)からポロキサミン(2)に変更すると、より優れた欠陥数及びヘイズ値が得られることが分かる。これは、ポロキサミン中のEO/PO比の違いと、ポロキサミンの分子量の違いが影響しているためであると考えられる。
【0110】
ポロキサミン中のEO/PO比の違いについて検討すると、ポロキサミン(1)のEO/PO比は、40/60である一方で、ポロキサミン(2)のEO/POは80/20である。そのため、EOの割合の高いポロキサミン(2)を含む研磨用組成物の方が、親水性が高くなり、ウェーハ表面への濡れ広がりやすくなってウェーハ表面の保護効果が高まると考えられる。
【0111】
ポロキサミンの分子量の違いについて検討すると、ポロキサミン(1)の分子量は6900である一方で、ポロキサミン(2)の分子量は25000である。ポロキサミン(2)の方がポロキサミン(1)よりも分子量が大きいため、ウェーハ表面に吸着した際にウェーハを被覆する層が厚くなり、ウェーハ表面の保護効果が高まると考えられる。
【0112】
砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、及びポロキサミン(1)を含む研磨用組成物において、多価アルコールを配合していない実施例2及び実施例3と、実施例2及び実施例3のそれぞれの研磨用組成物にさらに多価アルコール(1)を配合した実施例7及び実施例5とを比較すると、研磨用組成物がさらに多価アルコール(1)を含むことにより、欠陥数及びヘイズ値の両方が低減していることが分かる。
【0113】
研磨用組成物がさらにポロキサミンと変性PVAと比較して分子量が小さい多価アルコール(1)を含むことにより、ウェーハ研磨面に即座に吸着し薄膜を形成する。そのため、研磨用組成物によるウェーハ表面の保護効果が高まっていると考えられる。
【0114】
また、砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、ポロキサミン、及び多価アルコールを配合した研磨用組成物であって、多価アルコールの配合量を変更した実施例5と実施例6を比較すると、多価アルコールの配合量が多くなるほど、欠陥数及びヘイズ値の両方が低減していることが分かる。
【0115】
研磨用組成物に含まれる多価アルコールの種類を変更した実施例7〜実施例9より、多価アルコールとして多価アルコール(1)を用いても、多価アルコール(2)を用いても、あるいは両者を併用しても、多価アルコールを配合しない実施例2よりも、欠陥数及びヘイズ値の両方が良好となることが分かる。
【0116】
用いる多価アルコールの種類について検討すると、プロピレン系の多価アルコール(1)を用いた実施例7は、エチレン系の多価アルコール(2)を用いた実施例8よりも、欠陥数が小さくなっている。ヘイズ値については、実施例7と実施例8とで同等の値となっている。これは、多価アルコール(1)の方が欠陥数が小さくなったのは、多価アルコール(1)の方が分子量が小さく、より緻密にウェーハをコーティングすることができたためであると考えられる。
【0117】
実施例2と実施例8との比較により、多価アルコール(2)は、ヘイズ値を悪化させないで欠陥数を大きく低減する。また、実施例2と実施例7との比較により、多価アルコール(1)は、ヘイズ値を悪化させないで欠陥数を多価アルコール(2)を用いる場合よりも大きく低減する。したがって、多価アルコール(1)は、多価アルコール(2)よりも欠陥数を低減する効果が大きい。
【0118】
実施例7、実施例21〜実施例26、比較例2、及び比較例6は、砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、ポロキサミン(1)及び多価アルコール(1)を配合した研磨用組成物についての実施例及び比較例であり、それぞれの砥粒の平均粒子径を変更したものである。これらの実施例及び比較例から、砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、ポロキサミン(1)及び多価アルコール(1)を配合した研磨用組成物では、平均粒子径が小さくなるほど、欠陥数及びヘイズ値が小さくなる傾向があることが分かる。
【0119】
実施例2、実施例15及び実施例16では、砥粒(1)の配合量を3.5%、5.5%、及び7.5%と変化させている。これらの欠陥数及びヘイズ値は3つとも同程度であることから、砥粒の配合量は研磨性能に大きく影響しないと考えられる。
【0120】
実施例17〜実施例20の研磨用組成物は、砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、及び多価アルコールを配合したものであり、ポロキサミンを含んでいない。実施例17〜実施例20によれば、欠陥数及びヘイズ値を著しく低減できる。
【0121】
研磨用組成物がポロキサミンを含まない一方で多価アルコールを含む実施例17及び実施例20によれば、多価アルコールとして多価アルコール(1)と多価アルコール(2)とを併用した実施例20においても、良好な欠陥数及びヘイズ値が得られることが分かる。
【0122】
実施例7、実施例13、及び実施例14は、砥粒、アルカリ化合物、変性PVA、ポロキサミン及び多価アルコールを配合した研磨用組成物についての実施例であり、それぞれのアルカリ化合物の配合量を変更したものである。これらの実施例によれば、アルカリ化合物の配合量が0.15重量%から0.20重量%の実施例13及び実施例14において、より良好な欠陥数及びヘイズ値が得られていることが分かる。
【0123】
図1は、アルカリ化合物の配合量を横軸、欠陥数及びヘイズ値を縦軸にとって、実施例7、実施例13、及び実施例14の結果をグラフ化したものである。図1のグラフより、アルカリ化合物の配合量が0.1〜0.2重量%の範囲において、欠陥数及びヘイズ値が小さい値となっていることが分かる。
【0124】
実施例27、比較例7、及び比較例8は、砥粒、アルカリ化合物、及び変性PVAを配合した研磨用組成物についての実施例及び比較例であり、それぞれの砥粒の平均粒子径を変更したものである。これらの実施例及び比較例から、平均粒子径が小さくなるほど、欠陥数及びヘイズ値が小さくなる傾向があることが分かる。
【0125】
図2は、砥粒の平均粒子径を横軸、欠陥数及びヘイズ値を縦軸にとって、実施例27、比較例7、及び比較例8の結果をグラフ化したものである。図2のグラフより、平均粒子径が小さくなるほど、欠陥数及びヘイズ値が小さくなる傾向があることが分かる。特に、平均粒子径が50nm以下になると、欠陥数及びヘイズ値が顕著に小さくなることが分かる。
【0126】
研磨用組成物中の粒子の平均粒子径に着目すると、平均粒子径が50nmの砥粒(1)が配合された実施例1〜実施例10、実施例13〜実施例20、及び実施例27では、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径が54〜55nmとなっている。また、平均粒子径が30nmの砥粒(2)が配合された実施例11、実施例12では、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径が34〜35nmとなっている。つまり、研磨用組成物に含まれる粒子の平均粒子径は、研磨用組成物に含まれる砥粒の単体の平均粒子径の1.2倍以下となっている。また、実施例21〜実施例26においても、もとの平均粒子径が5nmと非常に小さい実施例26を除けば、研磨用組成物に含まれる粒子の平均粒子径は、研磨用組成物に含まれる砥粒の単体の平均粒子径の1.2倍以下となっている。
【0127】
研磨用組成物に、水溶性高分子としてヒドロキシエチルセルロース(HEC)が配合されている場合には、HECの分子が砥粒の周りに絡みついて、研磨用組成物中の粒子の平均粒子径が、砥粒単体の大きさよりも大きく検出されてしまう。HEC分子が砥粒の周りに絡みつきやすいのは、HEC分子が立体的な3次元の構造を有することが理由であると考えられる。一般的に、研磨用組成物が水溶性高分子としてHECを含む場合には、研磨用組成物に含まれる粒子の平均粒子径は、研磨用組成物に含まれる砥粒の単体の平均粒子径の1.3〜1.7倍程度となることが知られている。
【0128】
これに対し、本実施形態の研磨用組成物COMP1には、変性PVAが配合されているので、砥粒の周りに水溶性高分子が絡みつきにくい。これは、変性PVAの分子中に含まれる炭素二重結合により、変性PVAの分子が直線的な構造を有することが理由であると考えられる。そのため、研磨用組成物の中で、砥粒は砥粒単体の大きさと同程度の大きさの粒子として存在している。したがって、研磨用組成物に含まれる粒子の平均粒子径は、研磨用組成物に含まれる砥粒の単体の平均粒子径の1.2倍以下となっていると考えられる。
【0129】
次に、変性PVAを配合した効果を確認するため、変性PVAに代えて、HECを配合した比較例9〜12の研磨用組成物を作製した。比較例9〜12の研磨用組成物の組成を表7に示す。表7において、各成分の重量%は、研磨用組成物(原液)全体に対する重量%を表す。
【0130】
比較例9の研磨用組成物は、5重量%の砥粒、0.4重量%の水酸化アンモニウム(NHOH)、及び0.35重量%の水溶性高分子(HEC)を水に配合して全体で100重量%としたものである。ここで使用した砥粒は、コロイダルシリカであり、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は40nmであった。また、HECは、分子量80万のものを使用した。
【0131】
比較例10〜12の研磨用組成物は、比較例9の研磨用組成物の砥粒の代わりに、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径がそれぞれ60nm、70nm、及び73nmの砥粒を配合したことを除いて、比較例9と同一の組成を有する。これらの砥粒は、すべてコロイダルシリカであり、配合量は5重量%である。
【0132】
上記の研磨用組成物に対し、実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8の場合と同じ研磨条件で研磨を行い、研磨後の欠陥数及びヘイズ値を測定した。ただし、欠陥数の測定は、実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8の場合とは異なり、LS6600を用いて行った。そのため、欠陥数については、実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8の結果と絶対値での比較はできない。
【0133】
研磨用組成物中の粒子の平均粒子径の測定も、実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例8の場合と同様にして行った。結果を表7に示す。
【0134】
【表7】
【0135】
図3は、砥粒の平均粒子径を横軸、欠陥数及びヘイズ値を縦軸にとって、比較例9〜比較例12の結果をグラフ化したものである。図3のグラフより、変性PVAに代えてHECを配合した研磨組成物では、図2の場合とは反対に、平均粒子径が小さくなるほど欠陥数及びヘイズ値が大きくなる傾向があることが分かる。特に、平均粒子径が40nm以下の比較例9では、欠陥数及びヘイズ値ともに測定不能であった。
【0136】
また、研磨用組成物に含まれる粒子の平均粒子径は、研磨用組成物に含まれる砥粒の単体の平均粒子径の1.2倍よりも大きく、約1.5〜1.8倍になっていた。
【0137】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明は、研磨用組成物について利用可能である。
図1
図2
図3