(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
コロイダルシリカ、ヒュームドシリカなどのシリカ系研磨粒子を含む半導体研磨用組成物は、ウェーハを研磨する際に発生した研磨屑が研磨パッドに蓄積し、グレージングという現象が起きる。グレージングが起きると、研削加工量の減少といった研磨性能の低下や、研磨用組成物によっては研磨パッドに着色が生じるという問題が生じる。
【0003】
グレージングを防止するためには、アルカリを添加してpHを11以上にするという方法がある。しかし、高pH領域では研磨粒子の分散安定性が低下し、その結果、研磨粒子の凝集及び溶解が生じるという問題が新たに生じる。
【0004】
特開2004−335723号公報(特許文献1)は、研磨粒子の分散安定性を損なうことなく、グレージングの発生を防止するために、シリカ系研磨粒子の含有量が組成物全量の0.05〜3.0重量%でありかつシリカ系研磨粒子と研磨促進剤との重量比(研磨促進剤/シリカ系研磨粒子)が0.8〜20である半導体研磨用組成物を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態による研磨用組成物は、シリカ砥粒と、塩基性化合物を含む研磨促進剤と、水とを含む。シリカ砥粒の総表面積は150m
2/L以上である。シリカ砥粒の平均2次粒子径は35nm以上である。
【0011】
シリカ砥粒は例えば、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルアルミナ、ヒュームドアルミナ、酸化セリウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等である。これらのうち、コロイダルシリカが好適に用いられる。
【0012】
塩基性化合物は、ウェーハの表面をエッチングして化学的に研磨する研磨促進剤として機能する。塩基性化合物は、例えば、無機アルカリ化合物、アミン化合物等である。
【0013】
無機アルカリ化合物は、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸水素塩等が挙げられる。無機アルカリ化合物は、具体的には、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム(K
2CO
3)、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等である。
【0014】
アミン化合物は、例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム及びその塩、複素環式アミン等である。具体的には、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、ピペラジン塩酸塩、炭酸グアニジン等が挙げられる。
【0015】
上述した塩基性化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。塩基性化合物の合計の含有量は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物全体の0.1〜7質量%である。塩基性化合物の含有量の下限は、好ましくは1.5質量%である。塩基性化合物の含有量の上限は、好ましくは6質量%である。
【0016】
pHは9.0〜12.0である。研磨用組成物のpHは、上記塩基性化合物を配合することによって調整することができる。
【0017】
シリカ砥粒の総表面積は、次の式(1)により算出される。
シリカ砥粒の総表面積(m
2/L)=シリカ砥粒の比表面積(m
2/g)×希釈後のスラリー4L中に含まれるシリカ砥粒の質量(g)÷スラリーの使用量(L)…(1)
【0018】
式(1)中、シリカ砥粒の比表面積は、パルスNMR法により測定されるシリカ砥粒の単位質量当たりの表面積(m
2/g)である。シリカ砥粒の比表面積は、例えば米Xigo nanotools社製のパルスNMR評価装置「Acron area」を用いて測定することができる。
【0019】
シリカ砥粒の総表面積の下限は150m
2/Lであるが、好ましくは160m
2/L、さらに好ましくは178m
2/Lである。シリカ砥粒の総表面積の上限は、特に限定されないが、例えば5000m
2/L、10000m
2/L、又は100000m
2/Lでもよい。
【0020】
研磨用組成物中のシリカ砥粒は通常、複数のシリカ砥粒が凝集して2次粒子を形成した状態で分散している。シリカ砥粒の平均2次粒子径は、動的光散乱法により測定されるシリカ砥粒の2次粒子径の平均である。平均2次粒子径は、例えば大塚電子製の動的光散乱装置「ELS−Z2」を用いて測定することができる。
【0021】
平均2次粒子径の下限は35nmであるが、好ましくは40nm、さらに好ましくは45nmである。平均2次粒子径の上限は、特に限定されないが、シリカ砥粒が沈降しにくいように、好ましくは130nmである。ただし、平均2次粒子径の上限は、例えば100nm、90nm、85nm、又は82nmでもよい。
【0022】
動的光散乱法により測定される平均2次粒子径は、研磨用組成物に原料として配合するシリカ砥粒の1次粒子径及び2次粒子径の大きさによって調整することができる。研磨用組成物に原料として配合するシリカ砥粒の1次粒子径及び2次粒子径が大きいほど、動的光散乱法を用いて測定される平均2次粒子径も大きくなる。
【0023】
動的光散乱法により測定される平均2次粒子径は、研磨用組成物に配合する化合物の影響によっても変化する。動的光散乱法により測定される平均2次粒子径は、概ね、pHが高くなると、小さくなる傾向がある。
【0024】
本実施形態による研磨用組成物は、上記の他、キレート剤、界面活性剤、水溶性高分子等、研磨用組成物の分野で一般に知られた配合剤を任意に配合することができる。
【0025】
本実施形態による研磨用組成物は、上記配合剤及び水を適宜混合することによって作製される。
【0026】
以上で説明した研磨用組成物は、適当な濃度となるように水で希釈した後、ウェーハの研磨に用いられる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【実施例】
【0028】
上記実施形態の効果を確認するため、次の表1に示される通り、9種類の研磨用組成物(スラリー)を作製し、試験を行った。
【表1】
【0029】
比較例1〜5及び実施例1〜3は、原液のスラリーを水で希釈した研磨用組成物である。実施例4は、原液のスラリー(水で希釈されていないもの)からなる研磨用組成物である。
【0030】
シリカ砥粒の総表面積は、上記式(1)により算出した。
【0031】
シリカ砥粒の比表面積は、米Xigo nanotools社製のパルスNMR評価装置「Acron area」を用いて測定した。測定条件は、磁場:0.3T、測定周波数:13MHz、測定核:
1H NMR、測定方法:CPMG パルスシークエンス法、サンプル量:500μL以上、温度:25℃、Specific Surface Relaxivity(Ka):0.00026g/m
2/msとした。
【0032】
比較例1〜5及び実施例1〜3については、水で希釈した4Lの研磨用組成物(希釈後のスラリー)に含まれるシリカ砥粒の総表面積が上記の値になるようにシリカ砥粒の濃度を調整した。
【0033】
シリカ砥粒の平均2次粒子径は、大塚電子社製の動的光散乱装置「ELS−Z2」を用いて測定した。
【0034】
塩基性化合物として、水酸化カリウム(KOH)0.5%、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)1.8%、ジエチレントリアミン(DETA)1.5%を用い、pHを10.0以上に調整した。
【0035】
比較例1〜4及び実施例2についてはスラリー4L中に含まれる砥粒量を22g、比較例5についてはスラリー4L中に含まれる砥粒量を36g、実施例1についてはスラリー4L中に含まれる砥粒量を48g、実施例3についてはスラリー4L中に含まれる砥粒量を64g、実施例4についてはスラリー4L中に含まれる砥粒量を1488gとなるように水で希釈して4Lの研磨用組成物を調製した。
【0036】
希釈前の研磨用組成物中のシリカ砥粒の含有量は0.50〜31.0質量%であった。
【0037】
作製した研磨用組成物を使用し、8インチのシリコンウェーハを研磨した。研磨に用いた装置及びパッド、並びに研磨条件は次の通り。
【0038】
研磨装置:片面研磨装置
研磨パッド:ニッタ・ハース社製「SUBA
TM840」
研磨条件:
研磨時間:40分×2回
定盤の回転速度:115rpm
キャリアの回転速度:100rpm
研磨荷重:300g/cm
2
スラリーの供給速度:300mL/分
定盤の冷却温度:25℃
スラリーの冷却温度:25℃
スラリー量:4L
スラリー供給:循環
【0039】
[グレージング評価方法]
40分の研磨を2回繰り返した後、研磨パッド(研磨布)を目視で観察し、着色の有無を確認した。
【0040】
図1の写真に示されるように、研磨パッドの着色を視認するとともに、色差計(コニカミノルタ社製の色彩色差計データプロセッサ「DP−400」)を用い、ΔE
*abの値を測定した。色差ΔE
*abが1.6未満のものを「着色なし」、1.6以上のものを「着色あり」とみなした。表1では、「着色なし」を「グレージングが発生していない」として「○」で示し、「着色有」を「グレージングが発生している」として「×」で示す。色差計を用いて着色の程度を数値化しているが、目視によれば、比較例4の1.6付近に着色の程度が大きく変化する変曲点があることが明らかにわかる。色差ΔE
*abが1.6未満においては、その数値がそのまま着色の程度を示すものではない。
【0041】
[試験結果]
シリカ砥粒の総表面積が150m
2/L以上で、かつ、平均2次粒子径が35nm以上であれば、グレージングの発生を抑制できることを確認した。
【0042】
グレージングの発生原因は、研磨時にシリコンとアルカリが反応し、珪酸イオンが発生し、飽和濃度を超え、水溶液中に溶解できなくなり、研磨パッドの表面上に析出して堆積するためと考えられる。シリカ砥粒の総表面積を大きくすると、析出物がシリカ砥粒の表面に吸着又は粒子成長により留まると考えられる。公知のBET法を用いた表面積の測定法では、乾燥したシリカへの窒素吸着で測定されており、水溶液中でのシリカ砥粒の表面積と異なる。本試験結果により、水溶液中におけるシリカ砥粒の総表面積がグレージングの発生と関連していることが判明した。