特許第6960345号(P6960345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6960345ガスタービン燃焼器及びトランジションピースフロースリーブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960345
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ガスタービン燃焼器及びトランジションピースフロースリーブ
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/18 20060101AFI20211025BHJP
   F23R 3/42 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   F02C7/18 C
   F23R3/42 D
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-16175(P2018-16175)
(22)【出願日】2018年2月1日
(65)【公開番号】特開2019-132218(P2019-132218A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正平
(72)【発明者】
【氏名】苅宿 充博
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−115784(JP,A)
【文献】 特開2018−003830(JP,A)
【文献】 特開2015−178830(JP,A)
【文献】 特開平09−310622(JP,A)
【文献】 特開2011−236896(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0031783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/18
F23R 3/42
F23R 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の燃焼ガスが内部に流れる燃焼器のトランジションピースと、該トランジションピースの周囲にあって、該トランジションピースを内包するトランジションピースフロースリーブと、該トランジションピースフロースリーブと前記トランジションピースの間に形成され、圧縮機から吐出された圧縮空気を流す流路と、前記トランジションピースフロースリーブの前記圧縮機側の面である腹側面と前記腹側面と対向する面である背側面及び前記背側面と前記腹側面とを接続する側面のそれぞれの出口側に複数設けられ、前記圧縮機から吐出された圧縮空気を前記流路に導くインピンジメント孔とを備えたガスタービン燃焼器であって、
前記トランジションピースフロースリーブの腹側面に、前記インピンジメント孔に入る前記圧縮空気の流量を制御する整流構造物が配置されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記整流構造物は、前記圧縮空気の流れに対し上流から下流に向かって受圧投影面積が拡大するように構成されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記整流構造物は、前記トランジションピース及び前記トランジションピースフロースリーブの腹側面を固定する腹側ガイドに支持されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記整流構造物は、前記トランジションピースフロースリーブの腹側面の出口側に複数設けられた前記インピンジメント孔の燃焼器バーナ側に配置されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記整流構造物は、円錐状、四角錐状又は三角錐状の整流板であることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項6】
請求項5に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記整流板の表面に、角或いは円形の突起が少なくとも1つ設置されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記整流板の下流端面は、複数の湾曲及び/又は凹凸形状に形成されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記トランジションピースフロースリーブの側面に、前記インピンジメント孔に入る前記圧縮空気の流量を制御する少なくとも1つの第2の整流構造物が配置されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項9】
請求項8に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記第2の整流構造物は、前記インピンジメント孔に入る前記圧縮空気の燃焼器バーナ側の流れを遮るように配置されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記第2の整流構造物は、前記インピンジメント孔の周方向間と、前記インピンジメント孔が形成されていない前記トランジションピースフロースリーブの側面に配置されている整流板であることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項11】
請求項10に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記インピンジメント孔の周方向間と、前記インピンジメント孔が形成されていない前記トランジションピースフロースリーブの側面に配置されている前記整流板は、前記トランジションピースフロースリーブの側面の軸方向と上下方向に段階的にずれて複数個配置されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項12】
請求項11に記載のガスタービン燃焼器であって、
前記インピンジメント孔の周方向間に配置されている前記整流板より、前記インピンジメント孔が形成されていない前記トランジションピースフロースリーブの側面に配置されている前記整流板が大きいことを特徴とするガスタービン燃焼器。
【請求項13】
高温の燃焼ガスが内部を流れるトランジションピースを内包する燃焼器のトランジションピースフロースリーブであって、
前記トランジションピースフロースリーブは、該トランジションピースフロースリーブの前記圧縮機側の面である腹側面と前記腹側面と対向する面である背側面及び前記背側面と前記腹側面とを接続する側面のそれぞれの出口側に複数のインピンジメント孔を備えていると共に、前記トランジションピースフロースリーブの腹側に、前記インピンジメント孔に入る圧縮空気の流量を制御する整流構造物が配置されていることを特徴とするトランジションピースフロースリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスタービン燃焼器及びトランジションピースフロースリーブに係り、特に、トランジションピースフロースリーブの背側面と腹側面及び側面のそれぞれの出口側に複数設けられ、トランジションピースフロースリーブとトランジションピースの間に形成された流路に圧縮機から吐出された圧縮空気を導くインピンジメント孔を備えているものに好適なガスタービン燃焼器及びトランジションピースフロースリーブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスタービン燃焼器においては、燃焼及び冷却に使用される圧縮機から吐出される圧縮空気は、トランジションピースフロースリーブの内側に導入され、燃焼器のバーナへ導かれる。
【0003】
通常、トランジションピースフロースリーブの背側面と腹側面及び側面には、インピンジメント孔(空気導入孔)が軸方向に数列、各列の周方向に数十個配置されている。
【0004】
また、圧縮機から吐出された圧縮空気がトランジションピースフロースリーブに直接衝突する構造の場合、圧縮機から吐出された圧縮空気の流れの変動により、不安定な圧縮空気の導入、動圧変動に伴いトランジションピースが振動し、各部に摩耗や損傷(クラック)が発生する恐れがある。
【0005】
また、各インピンジメント孔の位置において流量に偏差がついた場合、特に流量が多いインピンジメント孔では、流速が速いことにより意図しない動圧変動や過大な圧力損失を発生させる恐れがある。
【0006】
ガスタービン燃焼器において、トランジションピースフロースリーブの外表面に、トランジションピースフロースリーブに供給される圧縮空気を整流して複数のインピンジメント孔の各孔に導入される圧縮空気の偏差を緩和する技術が特許文献1−3に記載されている。
【0007】
この特許文献1には、ガスタービン燃焼器のライナーは、冷却孔付きトランジションピースフロースリーブにより囲撓されて冷却孔を介して供給される空気によって冷却され、トランジションピースは、多孔スリーブにより囲撓されて多孔スリーブの孔(インピンジメント孔)を介して圧縮空気が供給されてトランジションピースと衝突した後に、ライナーとトランジションピースフロースリーブとの間の空間に流れ、ライナーに冷却スリーブが存在するため、トランジションピースからライナー部のライナーとトランジションピースフロースリーブとの間の空間に流入するクロスフローが冷却スリーブの凹部に沿って流れ、凸部がジェットフローのガイドの役割を果たすと共に、クロスフローが凹部に流れるように誘導するので、ジェットフローがクロスフローに影響を受けず、その結果、ライナーを効果的に冷却することが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、ライナー内筒の後端部にトランジションピースが装着され、トランジションピースの外側を所定間隔を置いてトランジションピースフロースリーブで包囲して冷却用通路が形成され、トランジションピースフロースリーブには、多数の円形の冷却孔が穿設され、この冷却孔より冷却空気を導きトランジションピースに向けて噴出させさせることが記載されている。
【0009】
更に、特許文献3には、トランジションピースフロースリーブによりトランジションピースを対流冷却するガスタービンであって、圧縮機から導入された高圧空気が、ディフューザから腹側の車室と背側の車室に導入され、トランジションピースと、その外周に設置されたトランジションピースフロースリーブの間隙を流れた後に、ライナーとライナー外周の同心円上に配置されたライナーフロースローブとの間隙を通る流れとなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−135111号公報
【特許文献2】特許第3054420号公報
【特許文献3】特開2000−146186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のトランジションピースフロースリーブ周りの構造では、圧縮機から吐出された圧縮空気がトランジションピースフロースリーブに直接衝突して、圧縮空気の流れに変動が発生することからトランジションピースフロースリーブが加振され、クラックや摩耗が発生する原因になる恐れがある。
【0012】
また、トランジションピースフロースリーブに設けられているインピンジメント孔から内側へ導入される圧縮空気は、インピンジメント孔の位置(上流側か下流側)により数倍程度の流入空気量に差が発生するため、圧損を増加させてしまう。
【0013】
更に、従来の構造では、燃焼器バーナ側(上流側)のインピンジメント孔から多くの圧縮空気が流入するため、トランジションピース本体のタービン側(下流側)の冷却が不足してしまう。即ち、圧縮機からの圧縮空気が車室内に導入されて複数のインピンジメント孔に入る際に、インピンジメント孔の燃焼器バーナ側(上流側)の孔に圧縮空気が多く入るため、タービン側(下流側)のインピンジメント孔に入る圧縮空気が少なくなり、タービン側(下流側)の冷却が不足してしまう。
【0014】
また、圧縮空気が導入されるトランジションピースフロースリーブの腹側の車室内の圧縮空気の流量に比較し、トランジションピースフロースリーブの背側の車室内の圧縮空気の流量が少なく、腹側の車室と背側の車室に流量偏差が生じる課題もある。
【0015】
これに対して、特許文献1には、トランジションピースからライナー部のライナーとトランジションピースフロースリーブとの間の空間に流入するクロスフローが冷却スリーブの凹部に沿って流れ、凸部がジェットフローのガイドの役割を果たすと共に、クロスフローが凹部に流れるように誘導するので、ジェットフローがクロスフローに影響を受けず、その結果、ライナーを効果的に冷却することが記載されているが、インピンジメント孔の入口での流量偏差を緩和する効果は無く、インピンジメント孔の入口での圧力損失の低減は見込めない。
【0016】
また、特許文献2には、トランジションピースの外側を所定間隔を置いてトランジションピースフロースリーブで包囲して冷却用通路が形成され、トランジションピースフロースリーブには、多数の円形の冷却孔が穿設され、この冷却孔より冷却空気を導きトランジションピースに向けて噴出させさせることが記載されているが、トランジションピースフロースリーブに導入空気を調整する機能を有することは記載されていない。
【0017】
更に、特許文献3には、圧縮機から導入された高圧空気が、ディフューザからトランジションピースフロースリーブの腹側面と背側面の車室に導入され、トランジションピースと、その外周に設置されたトランジションピースフロースリーブの間隙を流れた後に、ライナーとライナー外周の同心円上に配置されたライナーフロースローブとの間隙を通る流れとなることが記載されていますが、トランジションピースフロースリーブの入り口となるインピンジメント孔で偏差を緩和することは記載されていない。
【0018】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、圧縮機から吐出された圧縮空気によるトランジションピースフロースリーブへの加振力を低減し、クラックや摩耗の発生を抑制することができるガスタービン燃焼器及びトランジションピースフロースリーブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のガスタービン燃焼器は、上記目的を達成するために、高温の燃焼ガスが内部に流れる燃焼器のトランジションピースと、該トランジションピースの周囲にあって、該トランジションピースを内包するトランジションピースフロースリーブと、該トランジションピースフロースリーブと前記トランジションピースの間に形成され、圧縮機から吐出された圧縮空気を流す流路と、前記トランジションピースフロースリーブの前記圧縮機側の面である腹側面と前記腹側面と対向する面である背側面及び前記背側面と前記腹側面とを接続する側面のそれぞれの出口側に複数設けられ、前記圧縮機から吐出された圧縮空気を前記流路に導くインピンジメント孔とを備えたガスタービン燃焼器であって、前記トランジションピースフロースリーブの腹側面に、前記インピンジメント孔に入る前記圧縮空気の流量を制御する整流構造物が配置されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のトランジションピースフロースリーブは、上記目的を達成するために、高温の燃焼ガスが内部を流れるトランジションピースを内包する燃焼器のトランジションピースフロースリーブであって、前記トランジションピースフロースリーブは、該トランジションピースフロースリーブの前記圧縮機側の面である腹側面と前記腹側面と対向する面である背側面及び前記背側面と前記腹側面とを接続する側面のそれぞれの出口側に複数のインピンジメント孔を備えていると共に、前記トランジションピースフロースリーブの腹側に、前記インピンジメント孔に入る圧縮空気の流量を制御する整流構造物が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧縮機から吐出された圧縮空気によるトランジションピースフロースリーブへの加振力を低減し、クラックや摩耗の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一般的な発電プラント向けガスタービン燃焼器の全体構成を示す図である。
図2】本発明のガスタービン燃焼器におけるトランジションピース周りの圧縮空気の流動について説明するためのガスタービン燃焼器のタービン側の詳細を示す図である。
図3図2のA−A線に沿った断面図である。
図4】本発明のガスタービン燃焼器の実施例1のガスタービン燃焼器のタービン側の詳細を示す図である。
図5】本発明のガスタービン燃焼器の実施例2として整流板の具体的構成の一例を示す斜視図である。
図6】本発明のガスタービン燃焼器の実施例3として整流板の具体的構成の他の例を示す斜視図である。
図7】本発明のガスタービン燃焼器の実施例4として1つのトランジションピースフロースリーブを示す斜視図である。
図8】隣接した2つのトランジションピースフロースリーブを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図示した実施例に基づいて本発明のガスタービン燃焼器及びトランジションピースを説明する。なお、以下で説明する各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
【0024】
図1に、本発明の対象となる一般的な発電プラント向けガスタービン燃焼器の全体構成を示す。
【0025】
図1に示すように、本発明の対象となるガスタービン燃焼器は、高温の燃焼ガス107が内部に流れる燃焼器のトランジションピース4と、このトランジションピース4の周囲にあって、トランジションピース4を内包するトランジションピースフロースリーブ5と、このトランジションピースフロースリーブ5とトランジションピース4の間に形成され、圧縮機300から吐出された高温高圧の圧縮空気100を流す流路9と、トランジションピース4に接続されるライナー6と、トランジションピースフロースリーブ5に接続され、ライナー6の外周に同心円上に配置されて圧縮空気100の流れ102が通る間隙を形成するライナーフロースリーブ7とから概略構成されている。
【0026】
そして、空気圧縮機300から導入された圧縮空気100は、ディフューザ1から腹側の車室2(車室内の内周側の空間)と背側の車室3(車室内の外周側の空間)に導入され、トランジションピースフロースリーブ5とトランジションピース4とで形成される間隙(流路9)に流入する(矢印20、21で示す)。
【0027】
即ち、ディフューザ1から腹側の車室2に導入された圧縮空気100は、その一部がトランジションピース4の腹側からトランジションピースフロースリーブ5とトランジションピース4とで形成される流路9に入る流れ20となり、残りは隣接するトランジションピース4の間をすり抜けて背側の車室3に回り込んだ後に、トランジションピースフロースリーブ5とトランジションピース4とで形成される流路9に入る流れ21となる。
【0028】
その後、流路9に流入した圧縮空気100は、流れ101で示すように、ライナー6とライナー6の外周に同心円上に配置されたライナーフロースリーブ7との間隙を通る流れ102となる。そして、流れを反転させバーナ部に導入する流れ103、104となり、燃料系統200、201から供給される燃料と混合し、ライナー6内部の燃焼室8で火炎105、106を形成し高温高圧の燃焼ガス107となる。その後に、トランジションピース4からタービン301に導入する燃焼ガス108となるが、ガスタービンでは、高温高圧の燃焼ガス108が断熱膨張する際に発生する仕事量を、タービン301において軸回転力に転換することにより、発電機302から出力を得ている。
【0029】
なお、タービン301における軸回転力を利用して、発電機302の代わりに別の圧縮機を回転させることで、ガスタービンを流体圧縮の動力源として使用するプラントもある。
【0030】
ところで、近年、図1に示した一般的な発電プラント向けガスタービン燃焼器において、トランジションピースフロースリーブ5の背側面と腹側面及び側面のそれぞれの出口側(タービン側)に、圧縮機300から吐出された圧縮空気100をトランジションピース4の冷却空気として流路9に導く複数のインピンジメント孔22を備えた構成(図8参照)が採用されている。
【0031】
図2に、トランジションピースフロースリーブ5の出口側(タービン側)に、圧縮機300から吐出された圧縮空気100を流路9に導く複数のインピンジメント孔22を備えた構成を示す。
【0032】
図2に示すように、トランジションピースフロースリーブ5の出口側(タービン側)には、圧縮機300から吐出された圧縮空気100を流路9に導く複数(図2では3箇所)のインピンジメント孔22が形成されている。
【0033】
より具体的には、インピンジメント孔22は、図8に示すように、トランジションピースフロースリーブ5の出口側の全面(背側面、腹側面、両側面)に、周方向に複数列に亘って配列されている。また、図3に示すように、トランジションピースフロースリーブ5は、トランジションピース4を内包するように配置されており、トランジションピースフロースリーブ5とトランジションピース4の間隙に流路9が形成されている。
【0034】
この構成におけるトランジションピース4周りの圧縮空気100の流動は、以下のようになる。即ち、ディフューザ1から腹側の車室2に導入された圧縮空気100は、その一部がトランジションピース4の腹側からインピンジメント孔22を介してトランジションピースフロースリーブ5とトランジションピース4とで形成される流路9に入る流れ20となり、残りは隣接するトランジションピース4の間をすり抜けて背側の車室3に回り込んだ後に、インピンジメント孔22を介して流路9に入る流れ21となる。
【0035】
各インピンジメント孔22では、トランジションピースフロースリーブ5と所定の間隙を空けて配置されたトランジションピース4に向かって圧縮空気100を噴出させ、トランジションピース4の外表面に衝突させることでトランジションピース4を冷却している。
【0036】
ところが、図2の構成では、圧縮機300から吐出された圧縮空気100は、トランジションピース4とトランジションピースフロースリーブ5を固定する腹側面に設けられた腹側ガイド11付近に動圧を保ったまま衝突してしまい、この衝突により、トランジションピース4やトランジションピースフロースリーブ5を加振し、クラックや各部摩耗を発生させる原因となる可能性がある。
【0037】
また、トランジションピースフロースリーブ5に設けたインピンジメント孔22から流路9に導入された圧縮空気100は、トランジションピースフロースリーブ5の内側へ流れるが、燃焼器軸方向の下流側(タービン側)は、図8に示すように、周方向に隣り合う燃焼器缶(トランジションピース4とトランジションピースフロースリーブ5で形成される箱状の物体)の間隔(2つの燃焼器缶の周方向間隔)は、燃焼器軸方向下流側(タービン側)に向かうに従って狭くなっていく。このため、下流側は空気が流れにくく、複数形成されているインピンジメント孔22のうち、燃焼器軸方向上流側(バーナ側)のインピンジメント孔22(図2の3つあるインピンジメント孔22の左側)に多くの空気が流れる。
【実施例1】
【0038】
そこで、上記した問題点を解決するようにしたのが、本発明のガスタービン燃焼器である。
【0039】
図4に、本発明のガスタービン燃焼器の実施例1を示す。
【0040】
図4に示す本実施例のガスタービン燃焼器は、図2及び図3に示した構成と略同一であるが、本実施例では、トランジションピースフロースリーブ5の腹側面に、インピンジメント孔22に入る圧縮空気100の流量を制御する整流構造物として整流板12を配置したものである。
【0041】
この整流板12は、トランジションピース4及びトランジションピースフロースリーブ5の腹側面を固定する腹側ガイド11に支持されており、しかも、腹側ガイド11に空気の流れに対し上流から下流に向かって受圧投影面積の拡大するように、例えば、円錐状に形成されている(他に、四角錐状或いは三角錐状であっても構わない)。
【0042】
また、この整流板12は、トランジションピースフロースリーブ5の腹側面の出口側に複数(本実施例では3個)設けられたインピンジメント孔22のうち、最も燃焼器バーナ側に形成されているインピンジメント孔22に近い位置に配置されている。
【0043】
従って、整流板12が無い従来構造の場合は、圧縮機300から吐出された圧縮空気100は、流速をある程度保ったまま、流れに対しほぼ垂直に配置されたトランジションピースフロースリーブ5の面に衝突するが、上述した本実施例の構成によれば、腹側ガイド11に空気の流れに対し上流から下流に向かって受圧投影面積の拡大するように円錐状に形成されている整流板12により、圧縮空気100のトランジションピースフロースリーブ5に対する入角は小さくなり、また、整流板12の表面を流れる間の摩擦損失により流速も減少する。
【0044】
しかも、整流板12の端では、流れが剥離し渦を発生することでさらに流速は低減され、トランジションピースフロースリーブ5に到達する時点では静圧を回復し、圧縮空気100によるトランジションピースフロースリーブ5の加振力が低減される。
【0045】
また、トランジションピースフロースリーブ5のインピンジメント孔22に、トランジションピースフロースリーブ5の内外差圧分で圧縮空気100が均等に流入するので、過大な流量が特定のインピンジメント孔22に流れることによる圧力損失やトランジションピース4の軸方向のインピンジメント孔22における流量偏差を緩和できる。これにより、トランジションピース4の軸方向の温度偏差を低減し、冷却性能を向上することができる。
【0046】
更に、圧縮空気100が導入されるトランジションピースフロースリーブ5の腹側の車室2内の圧縮空気100の流量に比較し、トランジションピースフロースリーブ5の背側の車室3内の圧縮空気100の流量が少なく、腹側の車室2と背側の車室3に流量偏差が生じていたが、整流板12が設置されていることにより、トランジションピースフロースリーブ5のインピンジメント孔22に、トランジションピースフロースリーブ5の内外差圧分で圧縮空気100が均等に流入されるので、腹側の車室2と背側の車室3に流れる圧縮空気100の流量偏差を緩和できる。
【0047】
このような本実施例によれば、広い面積で圧縮機300から吐出された圧縮空気100を整流板12で受けることにより、動圧によるトランジションピースフロースリーブ5の加振力を低減することができ、クラックや摩耗の発生を抑制することができる。
【0048】
また、トランジションピースフロースリーブ5に形成された各インピンジメント孔22に均等に、圧縮機300から吐出された圧縮空気100が流入することにより、圧損を低減することができる。
【0049】
更に、トランジションピースフロースリーブ5に形成されたインピンジメント孔22の下流側(タービン側)に、従来よりも多く圧縮空気100を流すことで、トランジションピース4の冷却を改善することができる。
【0050】
即ち、従来では、インピンジメント孔22に流入する圧縮空気100は、ディフューザ1の出口(車室の入口)から見て最も近い位置となるトランジションピースフロースリーブ5の腹側に配置されたインピンジメント孔22に集中していたが、本実施例によれば、トランジションピースフロースリーブ5の背側に廻り込む圧縮空気100の流量を増加させることができる。この結果、トランジションピースフロースリーブ5の背側に配置されたインピンジメント孔22から導入される圧縮空気(冷却空気)100の流量が増加することになり、トランジションピース4の腹側と背側間の温度偏差を緩和させることが可能となる。
【実施例2】
【0051】
図5に、本発明のガスタービン燃焼器の実施例2として整流板12の具体的構成の一例を示す。
【0052】
該図に示す本実施例の整流板12は、円錐状の整流板12の表面に、角や円形の突起23を少なくとも1つ(1つ又は複数個)設けている。
【0053】
なお、図5では、突起23が整流板12の表面に、周方向及び軸方向に規則的に設けているが、突起23は規則的に設ける必要はなく、不規則(ランダム)に設けても良い。
【0054】
この角や円形の突起23を整流板12に設けることにより、突起23の表面を圧縮空気100が流れることにより、流体摩擦並びに突起23の下流に誘起される微小渦の効果で、圧縮空気100の流速は減少されるので、更なる効果が期待できる。
【実施例3】
【0055】
図6に、本発明のガスタービン燃焼器の実施例3として整流板12の具体的構成の他の例を示す。
【0056】
該図に示す本実施例の整流板12は、その整流板12の下流端面24が、1つ又は複数の湾曲形状及び/又は凹凸形状に形成されている。
【0057】
整流板12の下流端面が、1つ又は複数の湾曲形状及び/又は凹凸形状に形成とすることで、整流板12の下流端面24の下流側に流れの剥離を発生させることができるので、実施例2と同様に流速を減少させることができ、更なる効果が期待できる。
【実施例4】
【0058】
図7に、本発明のガスタービン燃焼器の実施例4として、1つのトランジションピースフロースリーブ5を示す。
【0059】
図7に示す本実施例では、実施例1の構成に加え、トランジションピースフロースリーブ5の側面に、インピンジメント孔22に入る圧縮機300から吐出された圧縮空気100の流量を制御する複数の第2の整流構造物である整流板25a、25bが配置されている(この整流板は、少なくとも1つ(整流板25a)があれば良い)。
【0060】
上記した整流板25a、25bは、インピンジメント孔22に入る圧縮空気100の燃焼器バーナ側の流れを遮るように配置され、整流板25aはインピンジメント孔22の周方向間に、整流板25bはインピンジメント孔22が形成されていないトランジションピースフロースリーブ5の側面にそれぞれ配置されている。
【0061】
このインピンジメント孔22の周方向間に配置されている整流板25aと、インピンジメント孔22が形成されていないトランジションピースフロースリーブ5の側面に配置されている整流板25bは、トランジションピースフロースリーブ5の側面の軸方向と上下方向に段階的にずれて複数個配置されていると共に、インピンジメント孔22の周方向間に配置されている整流板25aより、インピンジメント孔22が形成されていないトランジションピースフロースリーブ5の側面に配置されている整流板25bが大きく形成されている。
【0062】
従来構造では、ガスタービン燃焼器のタービン入口(燃焼器のトランジションピース4の出口)の周方向におけるガス温度の偏差を小さくするため、隣り合うトランジションピース4の特に下流端(タービン側)の間隔は狭い(図8参照)。
【0063】
このため、燃焼器の軸方向下流端(タービン側)を流れる圧縮空気100の流量は少なく、インピンジメント孔22からトランジションピースフロースリーブ5の内部に流入する圧縮空気100の量も少ない。反対に上流側(バーナ側)のインピンジメント孔22の位置では、隣り合うトランジションピース4間の通過流速が速く、トランジションピースフロースリーブ5の背側、腹側と比べ、こちらも流入する圧縮空気100の量は少ない。
【0064】
上述した本実施例では、トランジションピースフロースリーブ5の側面に、複数の整流板25a、25bを設置しているので、この整流板25a、25bにより、燃焼器の軸方向上流側(バーナ側)の圧縮空気100の流れを遮ることができ、流速の低下、剥離渦の発生及び下流側への流れ方向の修正により、各インピンジメント孔22に均等の圧縮空気100を流入することができる。
【0065】
合わせて、燃焼器の軸方向上流側(バーナ側)は、隣り合うトランジションピース4の間隔が広いため(トランジションピース4は、隣接するトランジションピース4と平行に配置されているわけではなく、燃焼器の軸方向上流側(バーナ側)が広く、燃焼器の軸方向下流側(タービン側)が狭くなるように傾斜して配置されているため、燃焼器の軸方向上流側(バーナ側)は、隣り合うトランジションピース4の間隔が広くなるため)、燃焼器の軸方向下流側(タービン側)よりも大きな整流板25bを設けることで、従来構造と比較して燃焼器軸方向のインピンジメント孔22への流入空気量を均一化させることが可能となる。
【0066】
このような本実施例によれば、実施例1の効果に加え、従来構造では流入量が少なかったトランジションピースフロースリーブ5の側面部の流速を低減し、静圧を回復させることができ、また、燃焼器の軸方向のインピンジメント孔22への圧縮空気100の流入量を均一化することで、トランジションピースフロースリーブ5の燃焼器の軸方向下流側(タービン側)に位置するインピンジメント孔22に、従来構造以上(平均値に近い)の圧縮空気100を流すことで、トランジションピース4の本体の軸方向下流側における冷却を改善することができる。
【0067】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…ディフューザ、2…車室(腹側)、3…車室(背側)、4…トランジションピース、5…トランジションピースフロースリーブ、6…ライナー、7…ライナーフロースリーブ、8…燃焼室、9…トランジションピースとトランジションピースフロースリーブで形成される流路、11…腹側ガイド、12、25a、25b…整流板、22…インピンジメント孔、23…突起、24…整流板の下流端面、100…圧縮空気、105、106…火炎、107、108…燃焼ガス、200、201…燃料系統、300…圧縮機、301…タービン、302…発電機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8