特許第6960382号(P6960382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6960382-練歯磨組成物 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960382
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】練歯磨組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20211025BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20211025BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20211025BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   A61K8/44
   A61K8/73
   A61Q11/00
   A61K8/46
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-160296(P2018-160296)
(22)【出願日】2018年8月29日
(65)【公開番号】特開2020-33291(P2020-33291A)
(43)【公開日】2020年3月5日
【審査請求日】2019年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 由布子
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/168879(WO,A1)
【文献】 特開2009−155217(JP,A)
【文献】 特開2015−117206(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165134(WO,A1)
【文献】 特開2016−204262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)(B)及び(C)
(A)κ−カラギーナン(a1)を含む粘結剤
(B)アルキル硫酸塩及びN−アシルアミノ酸塩から選ばれる1種又は2種以上のアニオン界面活性剤
(C)リンゴ酸、フィチン酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸又はその塩
を含有し、
成分(a1)の含有量が成分(A)100質量%中に80質量%以上であり、
組成物中における成分(a1)の含有量が1.2質量%以上5質量%以下であり、かつ
組成物中における成分(a1)の含有量と成分(B)の含有量との質量比((a1)/(B))が0.25以上5以下であり、組成物中における成分(a1)の含有量と成分(C)の含有量とのモル比((a1)/(C))が0.00001以上0.01以下である、練歯磨組成物。
【請求項2】
成分(C)の含有量が、酸換算量で0.5質量%以上5質量%以下である、請求項に記載の練歯磨組成物。
【請求項3】
水(D)を5質量%以上60質量%以下含有する、請求項1又は2に記載の練歯磨組成物。
【請求項4】
カルボキシメチルセルロースナトリ
ウム(a3)の含有量が、成分(A)100質量%中に15質量%未満である、請求項1〜のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【請求項5】
マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛及び錫から選ばれる1種又は2種以上の多価金属の含有量が、金属原子換算量で0.5質量%未満である、請求項1〜のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【請求項6】
成分(B)の含有量が、0.25質量%以上2質量%以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【請求項7】
粉末状の外観を呈する成分(a1)を配合してなる、請求項1〜のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【請求項8】
成分(A)が、キサンタンガム(a2)を含む請求項1〜のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【請求項9】
成分(a2)の含有量が、成分(A)100質量%中に2質量%以上30質量%以下である、請求項に記載の練歯磨組成物。
【請求項10】
バイオフィルム形成抑制剤である、請求項1〜のいずれか1項に記載の練歯磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム形成抑制効果に優れる練歯磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、練歯磨組成物は、容器からの良好な吐出性のほか、歯ブラシへの載置のしやすさや歯表面への付着のしやすさ等の使用感を確保し得る適度な粘性を有する組成物であり、こうした粘性を付与するため、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の粘結剤が用いられている。かかる練歯磨組成物について、さらに所望の効果を発揮させるべく種々の技術が開発されており、特に粘結剤として、カラギーナンを用いることに着目した技術も知られている。
【0003】
カラギーナンには、κ型、ι型、及びλ型なる3種類の構造のものが存在することが知られるなか、κ型のものを用いる技術として、例えば特許文献1には、κ−カラギーナンからなるカラギーナンを含む口腔用組成物が開示されており、外観や性状、使用感を高める試みがなされている。また特許文献2には、κ−カラギーナンとアルギン酸アルカリ金属塩とを併用したフッ化物配合口腔用組成物が開示されており、フッ化物を配合しながらも保存安定性を高め、良好な使用感をもたらしている。
【0004】
一方、構造の異なる複数種類のカラギーナンを併用した技術も知られている。例えば特許文献3には、クロルヘキシジン塩類とソジウムモノフルオロホスフェートとともに、κ−カラギーナンとι−カラギーナンとを特定量で混合した混合カラギーナンを配合し、良好な保形性や外観等の確保を試みた練歯磨組成物が開示されている。また特許文献4には、キサンタンガム、トラガカントガム、グアールガム、カラヤガム、硫酸コンドロイチン、ポリガラクツロン酸、アルギン酸ナトリウム、及びカッパ/ラムダ型のカラジーナンよりなる群から選択される多糖類を有効成分とする歯垢抑制のための口腔用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−300120号公報
【特許文献2】特開昭56−115711号公報
【特許文献3】特開昭54−11243号公報
【特許文献4】特開平1―213222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、粘結剤のなかでも特にカラギーナンは、過剰な増粘性を発現しやすいため、かかるカラギーナンを練歯磨組成物に配合するにあたり、その使用量を制限せざるを得ないことでも知られている。
こうしたなか、口腔内において、歯垢や舌苔等によるバイオフィルムの形成をさらに効果的に抑制する練歯磨組成物を得ようとするにあたって、上記特許文献1〜3では、κ−カラギーナンに着目しつつも、液分離を抑制しながら保存安定性や使用感等を高めようとすることに留まるのみであることから、別途さらなる検討が必要である。一方、上記特許文献4には、「キサンタンガムおよびグアールガム、及びトラガカントガムは試験したうちでもっとも効果的であり、各々濃度0.05%、0.15%および0.35%で凝集を50%抑制する作用があった。」及び「試験した最も高濃度のものは0.5%カラジーナンであるが、これは濃厚すぎるためいずれの方法でも凝集を評価することができないような溶液であった」との記載があり、バイオフィルムの形成を効果的に抑制するには、未だ不十分な検討に留まるものであることは明らかである。
【0007】
このような状況において、本発明者により、カラギーナンのなかでもκ−カラギーナンを特定の条件下で用いると、極めて有用性の高いバイオフィルム形成抑制効果を発現することが判明した。
すなわち、本発明は、良好な使用感を保持しつつ、優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮することのできる練歯磨組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、予想外にも、粘結剤であるκ−カラギーナンを特定量としつつ、特定のアニオン界面活性剤と特定の質量比で併用することにより、優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮するとともに良好な使用感を保持した練歯磨組成物が得られることを見出した。
【0009】
したがって、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)κ−カラギーナン(a1)を含む粘結剤
(B)アルキル硫酸塩及びN−アシルアミノ酸塩から選ばれる1種又は2種以上のアニオン界面活性剤
を含有し、
組成物中における成分(a1)の含有量が1.2質量%以上7質量%以下であり、かつ
組成物中における成分(a1)の含有量と成分(B)の含有量との質量比((a1)/(B))が0.25以上5以下である練歯磨組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の練歯磨組成物によれば、特定量のκ−カラギーナンを特定のアニオン界面活性剤と特定の質量比で併用することによって、有効かつ効果的にバイオフィルムの形成抑制効果を発揮することができるだけでなく、過度に増粘することなく適度な粘性を保持することもでき、良好な保形性や容器からの吐出性、及び歯表面への付着性等を発現し得る優れた使用感をもたらすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、試験例1における「カラギーナンの種類の相違によるバイオフィルム形成抑制効果の検証」の結果を示す棒グラフである。縦軸はバイオフィルム形成抑制率(%)を表し、横軸は対照、及び界面活性剤水に溶解させた各カラギーナンの種類を表す。
図2図2は、試験例2における「アニオン界面活性剤の種類の相違によるバイオフィルム形成抑制効果の検証」の結果を示す棒グラフである。縦軸はバイオフィルム形成抑制率(%)を表し、横軸は対照、及びκ−カラギーナン水に溶解させた各アニオン界面活性剤の種類を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の練歯磨組成物は、成分(A)の粘結剤として、成分(a1)のκ−カラギーナンを含む。従来より粘結剤としての使用で知られるカラギーナンには、硫酸基の位置や数が異なるκ−カラギーナン、ι−カラギーナン、及びλ−カラギーナンなる3種類が存在するなか、図1にも示すように、κ−カラギーナンはアニオン界面活性剤と併用することによって、全く予想外にもその他の種類には認められない優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮することが判明したため、本発明においてこれを用いるものである。
【0013】
本発明の練歯磨組成物では、成分(a1)のκ−カラギーナンが、成分(B)の特定のアニオン界面活性剤とともに複合体様の構造体を歯表面等に形成し、優れたバイオフィルムの形成抑制効果の発揮に寄与するものと推定される。
【0014】
成分(a1)のκ−カラギーナンの含有量は、バイオフィルムの形成抑制効果を確保する観点から、本発明の練歯磨組成物中に、1.2質量%以上であって、好ましくは1.7質量%以上であり、さらに好ましくは2.5質量%以上である。また、成分(a1)のκ−カラギーナンの含有量は、適度な粘度も確保する観点から、本発明の練歯磨組成物中に、7質量%以下であって、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3.6質量%以下であり、更に好ましくは3.2質量%以下である。
【0015】
さらに、成分(a1)のκ−カラギーナンの含有量は、バイオフィルムの形成抑制効果を有効に高める観点から、成分(A)の粘結剤100質量%中に、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、またさらに好ましくは93質量%以上であり、またさらに好ましくは95質量%以上であり、またさらに好ましくは96質量%以上であり、殊さらに好ましくは98質量%以上である。また、成分(a1)のκ−カラギーナンの含有量は、バイオフィルムの形成抑制効果を確保する観点から、成分(A)の粘結剤100質量%中に、100質量%であってもよく、適度な粘度を付与する観点から、98質量%以下であってもよい。
【0016】
成分(a1)は、一層優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮する練歯磨組成物を得る観点からも適度な粘度を確保する観点からも、粉末状の外観を呈する状態で練歯磨組成物へ配合するのが好ましい。
【0017】
成分(A)の粘結剤として、優れたバイオフィルムの形成抑制効果を確保しつつ、優れた使用感も保持する観点からは、成分(a1)のκ−カラギーナンのほか、さらに成分(a2)のキサンタンガムを含有するのが好ましい。かかるキサンタンガムは、良好な保形性や容器からの吐出性を保持しつつ、成分(a1)によるバイオフィルムの形成抑制効果を相乗的に高めることができる。
【0018】
成分(a2)のキサンタンガムの含有量は、優れたバイオフィルムの形成抑制効果の発揮と良好な保形性や容器からの吐出性の保持とを両立させる観点から、成分(A)の粘結剤100質量%中に、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは7質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは4質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以下である。
【0019】
成分(A)の粘結剤は、上記成分(a1)のκ−カラギーナン、及び成分(a2)のキサンタンガムのほか、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の粘結剤として、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ペクチン、トラガントガム、アラビアガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、タマリントガム、サイリウムシードガム、ポリビニルアルコール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、及びメトキシエチレン無水マレイン酸共重合体等から選ばれる1種又は2種以上を適宜含有してもよい。
【0020】
なお、成分(A)の粘結剤は、優れたバイオフィルムの形成抑制効果の発揮と適度な粘度の付与とを良好に両立させる観点から、成分(a3)のカルボキシメチルセルロースナトリウムの含有を制限するのが好ましい。具体的には、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量は、成分(A)の粘結剤100質量%中に、好ましくは15質量%未満であり、より好ましくは10質量%未満であり、さらに好ましくは5質量%未満であり、或いは本発明の練歯磨組成物において、成分(A)の粘結剤中にカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有しないのが好ましい。
【0021】
成分(A)の含有量は、優れたバイオフィルムの形成抑制効果の発揮させる観点から、本発明の練歯磨組成物中に、好ましくは1.2質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.7質量%以上であり、殊更に好ましくは2質量%以上であり、殊更に好ましくは2.5質量%以上である。また、成分(A)の含有量は、適度な粘度も確保する観点から、本発明の練歯磨組成物中に、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、殊更に好ましくは3.5質量%以下である。
【0022】
本発明の練歯磨組成物は、成分(B)として、アルキル硫酸塩及びN−アシルアミノ酸塩から選ばれる1種又は2種以上のアニオン界面活性剤を含有する。かかる成分(B)のアニオン界面活性剤を成分(a1)に対して適切な含有比率で含有することにより、上記成分(a1)と相まって歯面上に海島構造のような膜状複合体様の構造体を形成し、バイオフィルムの形成抑制効果を一層効果的に高めることができる。
アルキル硫酸塩としては、好ましくは炭素数6から30の直鎖又は分岐のアルキル硫酸塩であり、より好ましくは炭素数8から24の直鎖又は分岐のアルキル硫酸塩であり、更に好ましくは炭素数8から18の直鎖又は分岐のアルキル硫酸塩である。具体的には、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、パルミチル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、成分(a1)との相乗的なバイオフィルムの形成抑制効果を有効に発揮する観点から、ミリスチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0023】
N−アシルアミノ酸塩のアシル基としては、成分(a1)との相乗的なバイオフィルムの形成抑制効果を有効に発揮する観点から、炭素数4〜30の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖を有する脂肪酸を由来としたものが好ましく、炭素数6〜26の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖を有する脂肪酸を由来としたものがより好ましく、炭素数8〜24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖を有する脂肪酸を由来としたものがさらに好ましい。
【0024】
このような脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これら脂肪酸のなかでも、良好な保存安定性をも確保する観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びオレイン酸から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、なかでもミリスチン酸がより好ましい。また、N−アシルアミノ酸のアシル基は、上記の脂肪酸の混合脂肪酸を由来としたもの、例えば、ヤシ油、パーム核油等を原料にして得られたものであってもよい。なかでも、ヤシ油脂肪酸又はパーム核脂肪酸由来のものが好ましく、ヤシ油脂肪酸由来のものがより好ましい。
【0025】
N−アシルアミノ酸のアミノ酸部分としては、成分(a1)との相乗的なバイオフィルムの形成抑制効果を有効に発揮する観点から、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、スレオニン、メチルアラニン、サルコシン、リジン及びアルギニンから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。なかでも、N−アシルアミノ酸のアミノ酸部分は、酸性アミノ酸であるのが好ましく、グルタミン酸、アスパラギン酸がより好ましく、グルタミン酸がさらに好ましい。N−アシルアミノ酸塩には、L体、D体、及びラセミ体があり、これらのいずれであってもよい。
【0026】
N−アシルアミノ酸塩の塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム、亜鉛等の他の無機塩;アンモニウム塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、N−アシルアミノ酸塩の塩としては、香味や入手容易性の点から、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0027】
N−アシルアミノ酸塩としては、具体的には、N−アシルザルコシン酸ナトリウム、N−アシルグルタミン酸ナトリウム、N−アシルアラニンナトリウム等が挙げられ、より具体的にはN−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、N−ミリストイルザルコシン酸ナトリウム等のN−C10-16アシルザルコシン酸ナトリウム;N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、N−ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−C10-16アシルグルタミン酸ナトリウム;N−ラウロイルアラニンナトリウム、N−ミリストイルアラニンナトリウム等のN−C10-16アシルアラニンナトリウム等が挙げられる。
【0028】
成分(B)の含有量は、成分(a1)と相まってバイオフィルムの形成抑制効果を有効に高める観点から、本発明の練歯磨組成物中に、好ましくは0.25質量%以上であり、より好ましくは0.6質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。また、成分(B)の含有量は、良好な使用感を保持する観点から、本発明の練歯磨組成物中に、好ましくは3質量%以下であり、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1.8質量%以下であり、さらに好ましくは1.6質量%以下である。
【0029】
本発明の練歯磨組成物中における成分(a1)の含有量と成分(B)の含有量との質量比((a1)/(B))は、成分(a1)と成分(B)により、バイオフィルムの形成抑制効果が相乗的に高まることを確保する観点から、0.25以上であって、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1以上であり、さらに好ましくは1.3以上であり、殊更に好ましくは1.8以上であり、5以下であって、好ましくは4以下であり、より好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは2.5以下である。
【0030】
本発明の練歯磨組成物は、成分(C)として、リンゴ酸、フィチン酸、クエン酸及びこれらの塩から選ばれる1種又は2種以上の有機酸又はその塩を含有してもよい。成分(C)は、成分(a1)の成分(B)との分散性を高めて、バイオフィルムの形成抑制効果を相乗的かつ効果的に向上させることができる。
【0031】
リンゴ酸及びクエン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
フィチン酸は、別名myo−イノシトール6リン酸ともいい、イノシトールリン酸エステル化合物である。フィチン酸の塩としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等が挙げられ、なかでもアルカリ金属塩が好ましい。
【0032】
成分(C)としては、成分(a1)の成分(B)との分散性をより有効に高めて、バイオフィルムの形成抑制効果を相乗的かつ効果的に向上させる観点、及び味や使用感等の観点から、リンゴ酸及びクエン酸から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、リンゴ酸がより好ましい。
【0033】
成分(C)の含有量は、成分(a1)の成分(B)との分散性を有効に高めて、バイオフィルムの形成抑制効果を相乗的かつ効果的に向上させる観点から、本発明の練歯磨組成物中に、酸換算量にて、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、さらに好ましくは1.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
【0034】
本発明の練歯磨組成物中における成分(a1)の含有量と成分(C)の含有量とのモル比((a1)/(C))は、成分(a1)の分散性を有効に高めて、適度な粘度を保持しつつ、優れたバイオフィルムの形成抑制効果を確保する観点から、好ましくは0.00001以上であって、より好ましくは0.00005以上であり、より更に好ましくは0.0001以上であり、好ましくは0.01以下であり、より好ましくは0.005以下である。
【0035】
本発明の練歯磨組成物は、成分(D)として、水を含有することが好ましい。本発明における成分(D)の水とは、練歯磨組成物に配合した精製水等だけでなく、例えば処方する際に用いる70%ソルビトール液(水溶液)のように、配合した各成分に含まれる水分をも含む、練歯磨組成物中に含まれる全水分を意味する。かかる成分(D)を含有することにより、良好な保形性を保持しつつ、各成分を良好に溶解又は分散させて口腔内で良好に拡散させることができる。
【0036】
成分(D)の含有量は、本発明の練歯磨組成物中に、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上であり、よりさらに好ましくは25質量%以上であり、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。
なお、成分(D)の水の含有量は、配合した水分量及び配合した成分中の水分量から計算によって算出することもできるが、例えばカールフィッシャー水分計で測定することができる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業(株))を用いることができる。この装置では、練歯磨組成物を5gとり、無水メタノール25gに懸濁させ、この懸濁液0.02gを分取して水分量を測定することができる。
【0037】
本発明の練歯磨組成物においては、成分(a1)及び成分(B)により形成された複合体様の構造体によって、優れたバイオフィルムの形成抑制効果を充分に発揮させる観点から、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛及び錫から選ばれる1種又は2種以上の多価金属の含有を制限するのが好ましい。
【0038】
これらマグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛及び錫から選ばれる1種又は2種以上の多価金属の含有量は、本発明の練歯磨組成物中に、金属原子換算量で、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満であり、さらに好ましくは0.01質量%未満であり、或いは本発明の練歯磨組成物は、これらマグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛及び錫から選ばれる1種又は2種以上の多価金属を含有しないのが好ましい。
【0039】
本発明の練歯磨組成物は、バイオフィルムの形成抑制効果を有効に発揮する観点から、さらに糖アルコールを含有することが好ましい。かかる糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元パラチノース及びマンニトールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、水への溶解性が高く、組成物をなめらかな感触にする観点から、ソルビトール、及びキシリトールから選ばれる1種又は2種がより好ましい。
かかる糖アルコールの含有量は、本発明の練歯磨組成物中に、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0040】
本発明の練歯磨組成物は、さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、成分(B)以外の界面活性剤;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物や、モノフルオロリン酸ナトリウム等の含フッ素化合物;グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の湿潤剤や甘味剤;リン酸水素ナトリウム等のpH調整剤;香料;第4級アンモニウム化合物、ビグアニド化合物、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、チモール及びβ−グリチルレチン酸等の薬効成分やその他の有効成分;色素等を含有することができる。
【0041】
本発明の練歯磨組成物の25℃におけるB8H粘度は、優れたバイオフィルム形成抑制効果を発揮しつつ良好な保形性や容器からの吐出性等を保持する観点から、好ましくは800dPa・s以上であり、より好ましくは1000dPa・s以上であり、さらに好ましくは1100dPa・s以上であり、よりさらに好ましくは1200dPa・s以上であり、よりさらに好ましくは1700dPa・s以上であり、好ましくは4000dPa・s以下であり、好ましくは3500dPa・s以下であり、より好ましくは2800dPa・s以下であり、より好ましくは2500dPa・s以下である。
なお、B8H粘度とは、B型粘度計(TVB−10形粘度計 東機産業)を用いて測定される値を意味し、具体的には、製造後少なくとも24時間室温(25℃)で静置した練歯磨組成物を、ロータH−7、回転数2.5rpm、1分間の条件で測定することができる。
【0042】
本発明の練歯磨組成物の口腔内への適用方法は、塗布、又は歯ブラシによるブラッシングのいずれであってもよい。
また、本発明の口腔用組成物は、バイオフィルム形成抑制剤としても使用し得る。
【0043】
本発明の口腔用組成物は、成分(B)と成分(a1)との分散性を高めて、一層優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮する練歯磨組成物を得る観点から、予め成分(B)と成分(a1)とを配合及び混合した後、その他の成分を適宜配合する工程を含む製造方法により得るのが好ましく、この際、成分(B)と成分(a1)との分散性をより高める観点から、成分(a1)として粉末状の外観を呈するものを用いるのが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0045】
[試験例1:カラギーナンの種類の相違によるバイオフィルム形成抑制効果の検証]
κ−カラギーナンにはソアギーナMV101(三菱化学フーズ(株))、ι−カラギーナンにはMV201(三菱化学フーズ(株))、λ−カラギーナンにはML200(三菱化学フーズ(株))を用い、各カラギーナン2質量%とラウリル硫酸ナトリウム2質量%をイオン交換水に混合溶解させ、試験液を作製した。
次いで、歯牙のモデルとしてエナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイト粉末を約1cm角の平板に圧縮加工したペレット板(アパタイトペレット:HOYA株式会社製)(以下、HAP板と略す)を用い、得られた試験液をイオン交換水に溶解させたもの(試験液25質量%)1mLにヒトから採取した唾液に37℃、90分間処理したHAP板を2分間浸漬した。HAP板をイオン交換水1mLにて洗浄した後、ヒトから採取した唾液にスクロースを添加した培養液(スクロース:5質量%)に浸漬し、嫌気条件下にて37℃、1日間培養した。
培養後、HAP板表面についたバイオフィルムを歯垢染色液にて染色し、染色された面積を画像処理(RBGによる色分解後の平均値:測定機器VH-7000(キーエンス製):解析ソフトWIN ROOF(ミタニ製))にて数値化し、各々の試験液についてのバイオフィルム形成抑制率(%)を求めた。なお、カラギーナンの濃度と界面活性剤の濃度がともに0質量%である精製水を対照とした。
結果を図1に示す。
上記結果より、成分(B)の存在下においては、κ−カラギーナンは、ι−カラギーナン及びλ−カラギーナンとは異なり、優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮することが確認された。
【0046】
[試験例2:アニオン性界面活性剤の種類の相違によるバイオフィルム形成抑制効果の検証]
アニオン性界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウムを、ノニオン性界面活性剤としてコカミドプロピルベタイン用いて、κ−カラギーナン2質量%と各界面活性剤2質量%とをイオン交換水に混合溶解させ、試験液を作製した。
次いで、試験例1と同様の実験を行い、各々の試験液についてのバイオフィルム形成抑制率(%)を求めた。なお、対照を界面活性剤の濃度が0質量%のものとした。
結果を図2に示す。
上記結果より、成分(a1)の存在下においては、特定のアニオン性界面活性剤を用いた場合にκ―カラギーナンの単独溶液に対して優れたバイオフィルムの抑制効果を発揮し、炭素鎖の鎖長に基づき、より優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮することが確認された。
【0047】
[実施例1〜9、比較例1〜2]
表1〜5に示す処方にしたがって、水溶性成分(成分(a1)及び(B)を除く)を加熱混合した後、粉体原料と成分(a1)、成分(B)及び香料成分を混合することにより、各練歯磨組成物を得た。得られた練歯磨組成物を用い、下記方法にしたがって、評価及び測定を行った。なお、いずれの練歯磨組成物も、マグネシウム、アルミニウム、鉄、亜鉛及び錫から選ばれる1種又は2種以上の多価金属の含有量は0.01質量%未満であった。
結果を表1〜5に示す。
【0048】
《バイオフィルム形成抑制効果の評価》
歯牙のモデルとして前述のHAP板を用いた。まず、得られた各練歯磨組成物をイオン交換水に溶解させて各試験液(練歯磨組成物:25質量%)を調製した。次いで、得られた試験液1mLに、ヒトから採取した唾液に37℃、90分間処理したHAPを2分間浸漬した。HAP板をイオン交換水1mLにて洗浄した後、ヒトから採取した唾液にスクロースを添加した培養液(スクロース:5質量%)に浸漬し、嫌気条件下にて37℃、1日間培養した。
培養後、HAP板表面についたバイオフィルムを歯垢染色液にて染色し、染色された面積を画像処理(RBGによる色分解後の平均値:測定機器VH-7000(キーエンス製):解析ソフトWIN ROOF(ミタニ製))にて数値化した。バイオフィルム形成量は、試験液の代わりにイオン交換水処理にて処理したときのHAP表面に形成されたバイオフィルム形成量を基準(100%)として算出した。
【0049】
《粘度の測定》
製造後の練歯磨組成物を粘度測定用の容器に詰め、25℃の恒温器で24時間保存した後、B型粘度計(TVB−10形粘度計 東機産業)を用いて、ロータH−7、回転数2.5rpm、1分間の条件で測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
上記結果より、特定の条件下において、特定量のκ−カラギーナンを特定のアニオン界面活性剤と特定の質量比で用いることにより、優れたバイオフィルムの形成抑制効果を発揮する練歯磨組成物が得られることが確認された。
図1
図2