特許第6960404号(P6960404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960404
(24)【登録日】2021年10月13日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20211025BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20211025BHJP
   C08K 5/28 20060101ALI20211025BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20211025BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20211025BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08L79/08 Z
   C08K5/28
   C08K5/04
   C08L61/06
   C08L63/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-530440(P2018-530440)
(86)(22)【出願日】2017年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2017027555
(87)【国際公開番号】WO2018021565
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2020年4月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-149289(P2016-149289)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】藤原 寛
(72)【発明者】
【氏名】熊崎 敦
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0135824(KR,A)
【文献】 国際公開第2016/158674(WO,A1)
【文献】 特開2015−064484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C08L 79/08
C08K 5/29
C08K 5/13
G03F 7/023
H05K 3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むポリイミド樹脂:
【化1】
は少なくとも1つの環構造を有する4価の有機基であり、Xに結合する4つのカルボニル基のうちの2つずつは対をなしてXおよび窒素原子とともに五員環を形成しており;
は、水素、炭素数1〜9のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基であり;
Yは、下記一般式群(I)および一般式群(II)からなる群から選択される2価の有機基であり、R11〜R26は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜9のアルキル基である
【化1A】
【化1B】
【請求項2】
さらに、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む、請求項1に記載のポリイミド樹脂:
【化2】
は少なくとも1つの環構造を有する4価の有機基であり、Xに結合する4つのカルボニル基のうちの2つずつは対をなしてXおよび窒素原子とともに五員環を形成しており;
およびRは、それぞれ独立に任意の2価の有機基であり;
〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基であり;
rは1以上の整数である。
【請求項3】
およびRが、それぞれ独立に炭素数1〜9のアルキレン基である、請求項2に記載のポリイミド樹脂。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を50〜95モル%含み、前記一般式(1)で表される繰り返し単位と前記一般式(2)で表される繰り返し単位の合計が55〜100モル%である、請求項2または3に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
重量平均分子量が3000〜150000である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂と、熱硬化性化合物とを含む樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱硬化性化合物が、エポキシ化合物、メチロール化合物、またはメトキシメチル化合物を含有する、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱硬化性化合物が、1分子中に2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物を含有する、請求項6または7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱硬化性化合物が、1分子中に2個以上のメチロール基を有する化合物、または1分子中に2個以上のメトキシメチル基を有する化合物を含有する、請求項6または7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリイミド樹脂100重量部に対して前記熱硬化性化合物を5〜400重量部含有する、請求項6〜9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
さらにポジ型感光剤を含有する、請求項6〜10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポジ型感光剤がナフトキノンジアジド化合物である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記ポリイミド樹脂100重量部に対して前記ポジ型感光剤を15〜100重量部含有する請求項11または12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
さらにノボラック樹脂を含有する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂、およびこれを含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐熱性や電気絶縁性に優れることから、固体素子の絶縁膜、パッシベーション膜、半導体集積回路、フレキシブル配線板等の絶縁被覆材料等に用いられている。ポリイミド樹脂は一般に有機溶媒に対する溶解性が低いが、所定の官能基を導入することにより有機溶媒に対する溶解性を付与できることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1および特許文献2には、ポリイミド樹脂に特定のフェノール性水酸基を有する繰り返し単位を導入することにより可溶性を持たせることが開示されている。特許文献1では当該ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物が開示されている。特許文献2には当該ポリイミド樹脂と感光剤とを含むポジ型感光性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−35650号公報
【特許文献2】特開2004−94118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている樹脂組成物を用いて形成した塗膜は、硬化密度が低く、加湿試験後にクラックが発生する問題があった。特許文献2に開示されている感光性樹脂組成物はアルカリ現像性が低く、微細パターンの解像性に改善の余地があった。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、溶解性、基板との接着性、耐久性、アルカリ現像性等の物性バランスに優れ、導体回路パターンの絶縁被覆材料やポジ型レジスト材料等に好適に用いられるポリイミド樹脂、および樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリイミド樹脂は、複数のフェノール性水酸基を有する所定のジアミン成分を含み、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。本発明のポリイミド樹脂は、さらに下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0008】
【化1】
【化2】
【0009】
は4価の有機基である。Xに結合する4つのカルボニル基のうちの2つずつは対をなしてXおよび窒素原子とともに五員環を形成している。XはXと同様の4価の有機基である。Rは、水素、炭素数1〜9のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基である。Yはフェノール性水酸基を有する2価の有機基である。RおよびRは、それぞれ独立に任意の2価の有機基であり、好ましくは炭素数1〜9のアルキレン基である。R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基である。rは1以上の整数である。
【0010】
本発明のポリイミド樹脂は一般式(1)で表される繰り返し単位を50〜95モル%含むことが好ましい。本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)で表される繰り返し単位と一般式(2)で表される繰り返し単位の合計が55〜100モル%であることが好ましい。本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)および一般式(2)以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。本発明のポリイミド樹脂の重量平均分子量は3000〜150000が好ましい。
【0011】
上記のポリイミド樹脂を他の化合物と混合することにより、熱硬化性樹脂組成物や感光性樹脂組成物を調製できる。熱硬化性樹脂組成物は、上記のポリイミド樹脂と、熱硬化性化合物とを含む。熱硬化性化合物としては、エポキシ化合物、メチロール化合物、メトキシメチル化合物等が好ましい。感光性樹脂組成物は、上記のポリイミド樹脂と、ポジ型感光剤とを含む。ポジ型感光剤としてはナフトキノンジアジド化合物が好ましい。感光性樹脂組成物は、さらに熱硬化性化合物を含むことが好ましい。感光性樹脂組成物は、さらにノボラック樹脂を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイミド樹脂は、有機溶媒に対する溶解性が高く、熱硬化性樹脂や感光剤等との相溶性にも優れている。本発明のポリイミド樹脂を配合した樹脂組成物は、耐熱性、基板との接着性等に優れ、熱硬化性樹脂組成物や、感光性樹脂組成物として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例4の樹脂組成物の露光・現像後のパターンの光学顕微鏡像およびレーザー顕微鏡により測定した断面形状である。
図2】実施例5の樹脂組成物の露光・現像後のパターンの光学顕微鏡像およびレーザー顕微鏡により測定した断面形状である。
図3】比較例1の樹脂組成物の露光・現像後のパターンの光学顕微鏡像およびレーザー顕微鏡により測定した断面形状である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ポリイミド樹脂]
(ポリイミドの構造)
本発明のポリイミド樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む。
【0015】
【化3】
【0016】
一般式(1)において、Xは少なくとも1つの環構造を有する4価の有機基である。Xはテトラカルボン酸二無水物の残基であり、Xに結合する4つのカルボニル基のうちの2つずつが対をなし、一対のカルボニル基の2つの炭素原子は、Xおよび窒素原子とともに五員環を形成している。Rは、水素、炭素数1〜9のアルキル基、または炭素数1〜10のアルコキシ基である。Yはフェノール性水酸基を有する2価の有機基である。
【0017】
一般式(I)で表される繰り返し単位を含むポリイミドは、例えば下記一般式(1a)で表されるテトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(1b)で表されるジアミンとの反応により得られるポリアミド酸を脱水閉環することにより得られる。
【0018】
【化4】
【0019】
4価の有機基であるXは、一般式(1a)で表されるテトラカルボン酸二無水物の残基である。テトラカルボン酸二無水物としては、ポリイミドの合成に用いられる各種のテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、芳香族化合物でもよく、脂環式化合物でもよい。芳香族テトラカルボン酸二無水物は、1つの芳香環(単環または縮合多環)に4つのカルボニルが結合していてもよく、異なる芳香環に2つずつのカルボニルが結合していてもよい。
【0020】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラカルボキシブタン二無水物等が挙げられる。1つの芳香環に4つのカルボニルが結合している芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。異なる芳香環に2つずつのカルボニル基が結合している芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および下記式(4)〜(9)の化合物が挙げられる。
【0021】
【化5】
【0022】
異なる芳香環に2つずつのカルボニルが結合しているテトラカルボン酸二無水物や脂環式テトラカルボン酸二無水物を用いた場合に、ポリイミド樹脂の溶解性や透明性が向上する傾向がある。中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物や式(8)の酸二無水物を用いた場合に、熱膨張係数が小さくなる傾向がある。2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4’−オキシジフタル酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を用いた場合に溶媒への溶解性がさらに向上する傾向がある。式(4)〜(7)のテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミドは、高温に加熱するとポリベンゾオキサゾール環を持つポリイミドへと変換され、耐熱性および耐薬品性等が向上する傾向がある。本発明のポリイミド樹脂は、2種以上のテトラカルボン酸二無水物残基を含んでいてもよい。
【0023】
一般式(1b)のYはフェノール性水酸基を有する2価の有機基である。Yは、好ましくは、フェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位にメチレン基を有する。フェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位にメチレン基を有する2価の有機基Yとしては、下記一般式群(I)で表される基が挙げられる。
【0024】
【化6】
【0025】
11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜9のアルキル基である。
【0026】
Yは、2以上のフェニレンを有していてもよい。例えば、Yは、下記一般式群(II)で表されるように、メチレンを介して2つのフェニレンが結合し、それぞれのフェノール性水酸基のオルト位またはパラ位にメチレン基を有する基であってもよい。
【0027】
【化7】
【0028】
13〜R26は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1〜9のアルキル基である。
【0029】
上記一般式群(I)および一般式群(II)で表される2価の有機基の具体例としては、下記の有機基が挙げられる。
【0030】
【化8】
【0031】
これらの中でも、2価の有機基Yとして、2,6−ジメチレン−4−メチル−フェノール、2,6−ジメチレン−4−t−ブチル−フェノール、ビス(2−ヒドロキシ−3−メチレン−5−メチルフェニル)メタン、またはビス(4−ヒドロキシ−5−メチレン−3−メチルフェニル)メタンを有するポリイミドは、有機溶媒に対して高い溶解性を示す。特に、Yが2,6−ジメチレン−4−t−ブチル−フェノールである場合に、低沸点溶媒への溶解性が向上する傾向がある。
【0032】
一般式(1b)で表されるジアミンは、例えばアミノフェノール化合物とメチロール化合物またはメトキシメチル化合物との反応により得られる。
【0033】
メチロール化合物としては、上記の置換基Yの2つのメチレンのそれぞれにヒドロキシ基が結合した化合物が挙げられる。メトキシメチル化合物としては、上記の置換基Yの2つのメチレンのそれぞれにメトキシ基が結合した化合物が挙げられる。
【0034】
アミノフェノール化合物としては、水酸基のオルト位にアミノ基を有するフェノール化合物が用いられる。水酸基のオルト位にアミノ基を有するフェノール化合物としては、2−アミノフェノール、2−アミノ−3−メチルフェノール、2−アミノ−4−メチルフェノール、2−アミノ−5−メチルフェノール、2−アミノ−6−メチルフェノール、2−アミノ−3−エチルフェノール、2−アミノ−4−エチルフェノール、2−アミノ−5−エチルフェノール、2−アミノ−6−エチルフェノール、2−アミノ−3−t−ブチルフェノール、2−アミノ−4−t−ブチルフェノール、2−アミノ−6−t−ブチルフェノール等が挙げられる。中でも、反応性の点で2−アミノフェノール、2−アミノ−4−メチルフェノール、および2−アミノ−6−t−ブチルフェノール等が好ましい。
【0035】
メチロール化合物またはメトキシメチル化合物に対して2モル当量のアミノフェノール化合物を反応させることにより、一般式(1b)で表されるジアミンが得られる。メチロール化合物およびメトキシメチル化合物の自己縮合反応を抑制するためには、メチロール化合物とメトキシメチル化合物の総合計に対して、モル比で1.5倍以上のアミノフェノール化合物を反応させることが好ましい。ジアミンの収率を向上させるためには、メチロール化合物とメトキシメチル化合物の合計に対して、モル比で2〜3倍のアミノフェノール化合物を反応させることが好ましい。一方、アミノフェノール化合物の量を、メチロール化合物およびメトキシメチル化合物の合計の2倍未満とすることにより、所定の比率で一官能のアミンが生成する。ジアミン中に所定比で一官能のアミンを含めることにより、末端にフェノール構造を有するポリアミド酸およびポリイミドが得られ、アルカリに対する溶解性が向上する場合がある。
【0036】
反応温度は、メチロール化合物やメトキシメチル化合物の反応活性温度以上とすればよい。具体的には150℃〜250℃が好ましく、160〜200℃がより好ましい。反応後の溶液はそのままジアミン溶液としてポリアミド酸の重合に用いてもよい。
【0037】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。例えば、一般式(1)の繰り返し単位に加えて、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むことにより、ポリイミド樹脂の基板との接着性が向上する傾向がある。
【0038】
【化9】
【0039】
一般式(2)において、Xは4価の有機基であり、一般式(1)におけるXと同様、テトラカルボン酸二無水物の残基である。RおよびRは、それぞれ独立に任意の2価の有機基であり、好ましくは炭素数1〜9のアルキレン基であり、特に好ましくはプロピレン基である。R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリール基である。rは1以上の整数である。
【0040】
一般式(2)の構造単位を含むポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とシロキサン構造を含むジアミンとの反応により得られるポリアミド酸を脱水閉環することにより得られる。シロキサン構造を含むジアミンとしては、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(2−アミノエチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノフェニル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリメチルフェニルシロキサン、α,ω−ビス(2−アミノエチル)ポリメチルフェニルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノフェニル)ポリメチルフェニルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)ポリメチルフェニルシロキサン、α,ω−ビス(4−アミノブチル)ポリメチルフェニルシロキサン等が挙げられる。中でも、基板との接着性向上の観点から、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンやα,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサンが好適に用いられる。
【0041】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)で表される繰り返し単位を50モル%以上含有することが好ましい。一般式(1)で表される繰り返し単位が50モル%以上であれば、各種の有機溶媒に対して高い溶解性を示すとともに、ポリイミド樹脂をポジ型感光性樹脂組成物として用いる場合にアルカリ現像性に優れる。本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)で表される繰り返し単位と一般式(2)で表される繰り返し単位の合計が55モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましい。本発明のポリイミド樹脂は、一般式(2)で表される繰り返し単位を5モル%以上含有することが好ましい。一般式(1)の繰り返し単位の含有量が50〜95モル%であり、一般式(2)で表される繰り返し単位が5〜30モル%であることが好ましい。これらの範囲内であればポリイミド樹脂に耐熱性および接着性を付与できる。繰り返し単位の含有量および含有比は、ポリアミド酸の重合に用いるジアミンの種類および使用量(モル比)を調整することにより、ポリイミド樹脂中の一般式(1)の繰り返し単位と一般式(2)の繰り返し単位の比率を適切な範囲とすることができる。
【0042】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)および一般式(2)以外の任意のポリイミド構造単位を有していてもよい。任意のポリイミド構造単位は、下記の一般式(3)で表される。
【0043】
【化10】
【0044】
一般式(3)において、Xは4価の有機基であり、一般式(1)におけるXと同様、テトラカルボン酸二無水物の残基である。Zは2価の有機基であり、ジアミンの残基である。ジアミンとしては、ポリイミドの合成に用いられる各種のジアミンを特に制限なく用いることができ、芳香族化合物でもよく、脂環式化合物でもよい。芳香族ジアミンは、1つの芳香環(単環または縮合多環)に2つのアミノ基が結合していてもよく、異なる芳香環に1つずつのアミノ基が結合していてもよい。p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンを用いることによりポリイミドの耐熱性が向上する傾向がある。2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のフッ素含有ジアミンを用いることにより、塗膜の透明性や撥水性をコントロールできる。
【0045】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(3)で表される繰り返し単位の含有量が0〜40モル%であることが好ましい。
【0046】
(ポリアミド酸)
実質的に等モルの酸二無水物とジアミンとを有機溶媒中で反応させることにより、ポリアミド酸が得られる。ポリアミド酸の合成反応に用いられる有機溶媒は極性溶媒が好ましい。有機極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒;ヘキサメチルホスホルアミド;γ−ブチロラクトン等が挙げられる。必要に応じて、これらの有機極性溶媒と、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素とを組み合わせて用いることもできる。
【0047】
各モノマーの添加順序は特に限定されない。例えば、テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒に溶解した溶液にジアミンを添加してもよく、ジアミン成分を有機極性溶媒に溶解した溶液にテトラカルボン酸二無水物を添加してもよい。一般式(1b)で表されるジアミンの溶液に、テトラカルボン酸二無水物、および必要に応じて他のジアミンを添加してもよい。分子量の制御等を目的として、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンのいずれか一方を過剰量として反応させてプレポリマーを形成し、テトラカルボン酸二無水物とが実質的に等モルとなるように残部のモノマーを添加して後重合を行ってもよい。ここでいう「溶解」とは、溶媒が溶質を完全に溶解する場合の他に、溶質が溶媒中に均一に分散されて実質的に溶解しているのと同様の状態になる場合を含む。ポリアミド酸の重合における反応時間および反応温度は特に限定されない。
【0048】
膜強度と有機溶媒への溶解性とを両立する観点から、本発明のポリイミド樹脂の重量平均分子量は、3000〜150000が好ましく、5000〜50000がより好ましく、6000〜35000がさらに好ましい。ポリイミドの重量平均分子量をこの範囲に制御するためには、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの比率を調整して、ポリアミド酸の分子量を制御することが望ましい。より具体的には、テトラカルボン酸二無水物の総モル量/ジアミンの総モル量を、0.80〜1.20の範囲でとすることが望ましい。エンドキャップ成分として一官能のアミンおよび/または酸無水物を用いることにより、過度の分子量の増大を抑制することもできる。
【0049】
(イミド化)
ポリアミド酸の脱水閉環によりポリイミドが得られる。イミド化反応は、ポリアミド酸を溶解している溶液中で行うことが望ましい。溶液中でのポリアミド酸のイミド化方法としては、加熱により脱水閉環する熱的イミド化法、脱水剤および触媒用いる化学的イミド化法が挙げられる。
【0050】
熱イミド化方法としては、ポリアミド酸溶液に共沸溶媒であるキシレンやトルエンを混合し、水を排出しながら溶液を加熱しイミド化することが望ましい。イミド化を効率よく進めるために、加熱温度は120〜250℃が好ましく、150〜200℃がより好ましい。
【0051】
化学的イミド化方法に用いられる脱水剤としては、無水酢酸等の脂肪族酸二無水物や芳香族酸二無水物等が挙げられる。触媒としては、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、イソキノリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ルチジン等の複素環式第3級アミン類等が挙げられる。ポリアミド酸に対する脱水剤および触媒の添加量は、ポリアミド酸のアミド基に対して、0.01〜10モル当量が好ましく、0.5〜5モル当量がより好ましい。化学イミド化では、イミド化反応を促進するために、脱水剤および触媒を添加したポリアミド酸溶液を加熱してもよい。加熱温度は200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0052】
(ポリイミド樹脂の抽出)
溶液からのポリイミド樹脂の抽出方法は特に限定されない。例えば、ポリイミド溶液と貧溶媒とを混合することによりポリイミド樹脂を析出させればよい。ポリイミド溶液と貧溶媒との混合は、ポリイミド溶液を貧溶媒中に投入する方法、およびポリイミド樹脂溶液に貧溶媒を投入する方法のいずれでもよい。貧溶媒は、ポリイミドの貧溶媒であり、ポリイミド樹脂の溶媒と混和可能であればよく、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリオール類等が挙げられる。
【0053】
攪拌しながらポリイミド溶液と貧溶媒とを混合することにより、固形のポリイミド樹脂が得られる。フレーク状のポリイミド樹脂を得るために、ポリイミド溶液の3倍以上の貧溶媒で抽出することが好ましい。得られた固形のポリイミド樹脂は、ソックスレー洗浄等により洗浄を行うことが好ましい。洗浄後のポリイミド樹脂は、真空乾燥や熱風乾燥等により乾燥することが好ましい。乾燥温度は、ポリイミド樹脂のガラス転移温度よりも低い温度で、かつ、溶媒、触媒および脱水剤の沸点よりも高い温度が望ましい。
【0054】
[樹脂組成物]
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1b)で表されるジアミンに由来するフェノール構造を有する。この構造は1つの繰り返し単位中に、イミドの窒素原子に結合している2つのフェニレンおよびこれらの2つのフェニレンに結合した少なくとも1つのフェニレンのそれぞれに、フェノール性水酸基を有しているため、水酸基の密度が高い。この水酸基は、各種の有機溶媒に対する溶解性を付与する作用を有する。そのため、本発明のポリイミド樹脂は、低沸点溶媒に対しても高い溶解性を示し、各種の基板表面への絶縁被膜の形成に好適に用いられる。
【0055】
一般式(1b)で表されるジアミンに由来するフェノール性水酸基は、メチロールやエポキシ等の熱硬化性化合物との反応点(架橋点)となる。そのため、本発明のポリイミド樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物は、架橋密度が高く耐久性に優れる。また、一般式(1b)で表されるジアミンに由来するフェノール性水酸基は、ポリイミド樹脂にアルカリ可溶性を付与する作用も有する。そのため、本発明のポリイミド樹脂を含む樹脂組成物は、アルカリ可溶性のレジスト材料等にも好適に用いられる。
【0056】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、(A)成分として上記のポリイミド樹脂、および(B)成分として熱硬化性化合物を含有する。
【0057】
(B:熱硬化性化合物)
(B)成分の熱硬化性化合物は、熱により(A)成分に架橋構造を導入できれば特に限定されない。例えば、エポキシ化合物、メチロール化合物、メトキシメチル化合物、ビスマレイミド化合物、ビスアリルナジイミド化合物、ヒドロシリル化合物、アリル化合物、不飽和ポリエステル化合物等の熱硬化性化合物;高分子鎖の側鎖または末端にアリル基、ビニル基、アルコキシシリル基、ヒドロシリル基、等の反応性基を有する側鎖反応性基型熱硬化性高分子等を用いることができる。熱硬化性化合物は2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0058】
この中でも、ポリイミドのフェノール性水酸基との反応性に優れることから、エポキシ化合物、メチロール化合物、メトキシメチル化合物等を用いることが好ましい。ポリイミドとこれらの熱硬化性化合物との熱硬化膜は、金属箔等の導体や回路基板に対する良好な接着性示し、かつ高い耐熱性を有する。
【0059】
エポキシ化合物は、1分子中に2個以上のグリシジル基を有するものが好ましく、ビスフェノール型エポキシ化合物、ビスフェノールAノボラック型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、アルキルフェノールノボラック型エポキシ化合物、ポリグリコール型エポキシ化合物、環状脂肪族エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ウレタン変性エポキシ化合物、ゴム変性エポキシ化合物、エポキシ変性ポリシロキサン等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0060】
メチロール化合物としては、中心骨格に2個以上のメチロール基が結合した化合物が好ましく、2,6−ジヒドロキシメチル-4−メチルフェノール、2,4−ジヒドロキシメチル−6−メチルフェノール、2,6−ジヒドロキシメチル−4−t−ブチルフェノール、2,4−ジヒドロキシメチル−4−t−ブチルフェノール、ビス(2−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチル−5−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチル−5−メチルフェニル)メタンが挙げられる。
【0061】
メトキシメチル化合物としては、中心骨格に2個以上のメトキシメチル基が結合した化合物が好ましく、2,6−ジメトキシメチル−4−メチルフェノール、2,4−ジメトキシメチル−6−メチルフェノール、2,6−ジメトキシメチル−4−t−ブチルフェノール、2,4−ジメトキシメチル−4−t−ブチルフェノール、ビス(2−メトキシ−3−ヒドロキシメチル−5−メチルフェニル)メタン、ビス(4−メトキシ−3−ヒドロキシメチル−5−メチルフェニル)メタン、メチル化メラミン樹脂が挙げられる。
【0062】
熱硬化性樹脂組成物は、(A)ポリイミド樹脂100重量部に対して、(B)熱硬化性化合物を5〜400重量部含有することが好ましい。(A)成分と(B)成分の重量比(A)/(B)は、20/80〜95/5がより好ましい。この範囲であれば、靭性が高く、かつ屈曲性に優れる熱硬化膜が得られる。
【0063】
(溶剤)
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記の(A)成分および(B)成分に加えて溶媒を含むことが好ましい。溶媒は、(A)成分および(B)成分を溶解可能であれば特に限定されず、例えば、ポリアミド酸の重合用溶媒として前述した有機溶媒等が用いられる。
【0064】
<ポジ型感光性樹脂組成物>
(C:ポジ型感光剤)
上記の(A)ポリイミド樹脂および(B)熱硬化性化合物、ならびに溶媒に加えて、(C)成分としてポジ型感光剤を含有することにより、ポジ型感光性樹脂組成物が得られる。ポジ型感光性樹脂組成物は、(A)ポリイミド樹脂100重量部に対して、(C)ポジ型感光剤を、15〜100重量部含有することが好ましい。ポジ型感光剤は2種以上を用いてもよい。
【0065】
(C)成分のポジ型感光剤は、光照射により酸を発生させる化合物(光酸発生剤)であり、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、キノンジアジド化合物等のポジ型レジストに用いられる感光剤を特に制限なく用いることができる。中でも、(A)成分のポリイミド樹脂への分散性および相溶性に優れ、高解像度のパターン形成が可能であることから、キノンジアジド化合物が好ましい。
【0066】
キノンジアジド化合物としては、ポリヒドロキシ化合物とキノンジアジドとのエステル、ポリアミノ化合物とキノンジアジドのアミド、ポリヒドロキシポリアミノ化合物とキノンジアジドとのエステル結合および/またはアミド等が挙げられる。これらポリヒドロキシ化合物やポリアミノ化合物は、ヒドロキシ基およびアミノ基の合計の50モル%以上がキノンジアジドで置換されていることが好ましい。キノンジアジド化合物は、5−ナフトキノンジアジドスルホニル基、または4−ナフトキノンジアジドスルホニル基のいずれを有するナフトキノンジアジドが特に好ましい。
【0067】
(D:ノボラック樹脂)
ポジ型感光性樹脂組成物は、(D)成分としてノボラック樹脂を含むことが好ましい。ノボラック樹脂を含むことにより、光感度やコントラストが向上し、パターンの高解像度化が可能となる。現像性向上の観点から、(A)ポリイミド樹脂100重量部に対する(D)ノボラック樹脂の含有量は、500重量部以下が好ましく、5〜400重量部がより好ましい。ノボラック樹脂は2種以上を用いてもよい。
【0068】
ノボラック樹脂は、一般的なポジ型感光性樹脂組成物に用いられるものを特に制限なく用いることができる。ノボラック樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との重縮合により得られる。フェノール類としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール等が挙げられる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロロアセトアルデヒド等が挙げられる。アルデヒド類の使用量は、フェノール類1モルに対し、0.6モル以上が好ましく、0.7モル以上がより好ましい。ノボラック樹脂の平均分子量は、1000〜20000が好ましく、1500〜15000がより好ましい。
【0069】
一般的なノボラック樹脂は融点が100〜150℃であり、耐熱性が十分ではない。本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、(A)ポリイミドおよび(B)熱硬化性化合物を含有し、現像後に熱硬化を行うことにより、高い耐熱性を有する。(A)ポリイミドは、フェノール性水酸基を有するため、アルカリ現像液に対する高い溶解性を示し、かつ(C)ポジ型感光剤や(D)ノボラック樹脂との相溶性および分散性に優れる。そのため、本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、ノボラック樹脂を単体で用いたポジ型感光性樹脂組成物と同等の高解像度を実現できる。
【0070】
<樹脂組成物に含まれる他の成分>
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、有機又は無機のフィラー、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、安定剤、酸化防止剤、シランカップリング剤等の各種添加剤;熱硬化性化合物の硬化剤、硬化促進剤、および触媒等が含まれていてもよい。感光性樹脂組成物には、上記に加えて現像助剤が含まれていてもよい。
【0071】
(硬化剤、硬化促進剤、硬化触媒)
エポキシ化合物の硬化剤としては、フェノール樹脂、酸無水物、アミノ樹脂類、ユリア樹脂類、メラミン樹脂類、ジシアンジアミド、ジヒドラジン化合物類、イミダゾール化合物類、ポリメルカプタン化合物類、イソシアネート類等が挙げられる。硬化剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して、1〜100重量部の範囲内で用いることが好ましい。エポキシ化合物の硬化促進剤としては、ホスフィン系化合物、アミン系化合物、ボレート系化合物等、イミダゾール類、イミダゾリン類等が挙げられる。硬化促進剤は、(A)ポリイミド樹脂と(B)成分としてのエポキシ化合物の合計100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲内で用いることが好ましい。
【0072】
メチロール化合物の硬化触媒としては、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸、塩酸、硝酸等の酸触媒が用いられる。
【0073】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤としては、エポキシ基、オキセタニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、アミド基またはメルカプト基と、アルコキシシリル基とを有するものが挙げられる。中でも、エポキシ基、メルカプト基またはオキセタニル基を含むシランカップリング剤を用いた場合に、(A)ポリイミド樹脂および(B)熱硬化性化合物との反応性が高く、硬化膜と基板との接着性が向上する傾向がある。樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、(A)ポリイミド樹脂100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.1〜15重量部がより好ましい。
【0074】
(現像助剤)
ポジ型感光性樹脂組成物の現像助剤としては、フェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。フェノール性水酸基を有する化合物としては、ビフェノール、メタクレゾール、パラクレゾール、オルトクレゾール、4M2B、3M6B、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、キシレノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールAF、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールG、ビスフェノールM、ビスフェノールS、ビスフェノールP、ビスフェノールPH、ビスフェノールTMC、ビスフェノールZ、Bis−Z、TekP−4HBPA、TrisP−HAP、TrisP−PA、BisRS−2P、BisRS−3P、BisP−AP、BisP−TMC、BIR−PC、BIR−PTBP、BIR−BIPC−F等が挙げられる。感光性樹脂組成物における現像助剤の含有量は、(A)ポリイミド樹脂100重量部に対して、3〜40重量部が好ましい。
【0075】
[樹脂組成物の使用態様]
上記の各成分を溶媒に溶解することにより、本発明の樹脂組成物(溶液)が得られる。樹脂溶液を基板上に塗布し、溶媒を乾燥し、得られた塗膜を加熱して硬化させることにより、硬化被膜が形成される。塗布方法としては、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、ダイコート等が挙げられる。塗布膜厚は、通常、乾燥後の膜厚が0.1〜150μmになるように設定される。溶媒の乾燥は、オーブン、ホットプレート、赤外線等により、50〜150℃の程度の温度で、1分〜2時間程度行うことが好ましい。乾燥後の熱硬化は、150〜300℃程度の温度で、5分〜5時間程度行うことが好ましい。硬化被膜は、シリコンウェハ、ガラス基板、プリント配線板の基板上を被覆するための被覆形成材等、電子材料の回路面の絶縁保護材料として好適に用いることができる。
【0076】
ポジ型感光剤を含む感光性樹脂組成物は、基板上に樹脂溶液を塗布し、溶媒を乾燥して塗膜を形成した後、露光および現像によるパターニングが行われる。感光性樹脂組成物の塗膜上に所定のパターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射することにより露光が行われる。活性光線としては、紫外線、可視光線、電子線、X線等が用いられる。特に、水銀ランプのi線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)等用いることが好ましい。
【0077】
露光後に現像液を用いて露光領域の樹脂組成物膜を溶解除去することにより、パターンが形成される。現像液としては、テトラメチルアンモニウム、ジエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ性水溶液が用いられる。露光領域では、感光剤(光酸発生剤)から発生する酸によりアルカリ性水溶液への溶解速度が向上している。(A)ポリイミド樹脂がフェノール性水酸基を有するため、露光領域ではポリイミド樹脂もアルカリ可溶性を示す。現像後に加熱を行い、非露光領域に残存した塗膜を熱硬化することにより、耐熱性および耐溶剤性が向上する。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0079】
ポリイミド樹脂の重量平均分子量は、以下の条件で測定した。
使用装置:東ソー GPC−8020
カラム:昭和電工製 ShodexGPC KD−802M(内径8mm×300mm)×2本
溶離液:30mM LiBr+20mM HPO/DMF
流速:0.6mL/min
カラム温度:40℃
検出器:東ソー RI−8020
試料濃度:0.4重量%
注入量:30μL
基準物質:ポリエチレンオキサイド
【0080】
<合成例1>
(フェノール構造含有ジアミンの合成)
300mlのセパラブルフラスコ中で、2−アミノフェノール13.3g(122mmol)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)12.1gに溶解し、さらに2,6−ビス(メトキシメチル)−4−t−ブチルフェノール14.6g(61.1mmol)、およびシュウ酸0.219g(2.43mmol)を加えて溶解し、170℃で5時間反応させた。反応により発生するメタノールをトラップし、メタノールの発生量から反応の進行をモニタし、2,6−ビス(メトキシメチル)−4−t−ブチルフェノールが全て反応したことを確認した後、反応容器を室温にまで冷却した。次いで、NMP82.2gを追加して反応溶液を希釈した。
【0081】
(ポリアミド酸の重合およびイミド化)
上記のフェノール構造含有ジアミン溶液に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン1.77g(6.79mmol)、および4,4’−オキシジフタル酸無水物21.1g(67.9mmol)を添加し、室温で3時間攪拌してポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液にトルエンを10g添加し、180℃に加熱して、発生する水を排出しながらイミド化反応を5時間行った。完全に水の発生が終わったことを確認して反応を終了した。得られたポリイミド溶液を水2リットルに注いで析出させ、ろ過および水洗を3回繰り返した後、80℃に加熱した真空オーブン中で72時間真空乾燥を行って水分および溶媒を除去し、フレーク状のポリイミド樹脂(重量平均分子量:31000)を得た。
【0082】
<合成例2>
500mlのセパラブルフラスコを用い、反応スケールを1.77倍に変更して、合成例1と同様にフェノール構造含有ジアミン(108mmol)を合成した。フェノール構造含有ジアミン溶液に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン3.11g(12mmol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物17.60g(60mmol)、および4,4’−オキシジフタル酸無水物18.56g(60mmol)を添加し、室温で3時間攪拌してポリアミド酸溶液を得た。その後、合成例1と同様に、イミド化、水中での析出、水洗および乾燥を行い、フレーク状のポリイミド樹脂(重量平均分子量:11400)を得た。
【0083】
<合成例3>
(フェノール構造含有ジアミンの合成)
500mlのセパラブルフラスコ中で、2−アミノフェノール21.17g(194mmol)をNMP153.5gに溶解し、さらにビス(2−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチル−5−メチルフェニル)メタン26.494g(91.9mmol)、およびシュウ酸1.590g(17.67mmol)を加えて溶解し、170℃で5時間反応させた。反応により発生する水をトラップし、水の発生量から反応の進行をモニタし、ビス(2−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチル−5−メチルフェニル)メタンが全て反応したことを確認した後、反応容器を室温にまで冷却した。
【0084】
(ポリアミド酸の重合およびイミド化)
上記のフェノール構造含有ジアミン溶液に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン1.33g(5.10mmol)、4,4’−オキシジフタル酸無水物15.84g(51mmol)、および4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物22.68g(51mmol)を添加し、室温で3時間攪拌してポリアミド酸溶液を得た。その後、合成例1と同様に、イミド化、水中での析出、水洗および乾燥を行い、フレーク状のポリイミド樹脂(重量平均分子量:10300)を得た。
【0085】
<比較合成例1>
500mlのセパラブルフラスコ中で、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン24.9g(96.3mmol)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン1.47g(5.7mmol)、および3−アミノフェノール2.47g(22.7mmol)を、NMP96.0gに溶解し、4,4’−オキシジフタル酸無水物35.2g(113mmol)を添加して室温で3時間攪拌してポリアミド酸溶液を得た。その後、合成例1と同様に、イミド化、水中での析出、水洗および乾燥を行い、フレーク状のポリイミド樹脂(重量平均分子量:11900)を得た。
【0086】
<比較合成例2>
500mlのセパラブルフラスコ中で、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−(3,5−ジメチル−4−アミノベンジル)フェノール]24.92g(52.7mmol)をNMP58.0gに溶解し、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン0.722g(2.8mmol)、および4,4’−オキシジフタル酸無水物16.36g(52.7mmol)を添加して室温で3時間攪拌してポリアミド酸溶液を得た。その後、合成例1と同様に、イミド化、水中での析出、水洗および乾燥を行い、フレーク状のポリイミド樹脂(重量平均分子量:41000)を得た。
【0087】
[ポリイミド樹脂の溶解性の評価]
γ−ブチルラクトン(GBL)、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセタート(PGMEA)、およびNMPのそれぞれに、合成例および比較合成例で得られたポリイミド樹脂を固形分濃度が30%となるように添加して、室温で攪拌し、溶解性を目視で観察した。溶液を室温で24時間静置後に、再度溶解性を目視で観察した。評価結果を表1に示す。表1では、ポリイミドが完全に溶解しており、24時間静置後にも析出やゲル化が生じていなかったものをA;溶媒に不溶であったものをX;その他をBとした。
【0088】
【表1】
【0089】
合成例1〜3のポリイミド樹脂は、GBL、PGMEAおよびNMPのいずれに対しても溶解し、不溶成分の残存はみられなかった。比較合成例1のポリイミド樹脂は、GBLおよびNMPには溶解したが、PGMEAに対しては不溶であった。比較合成例1のポリイミド樹脂のGBL溶液は室温にて24時間静置後にゲル化していた。比較合成例2のポリイミド樹脂は、NMPおよびGBLには溶解したが、PGMEAに対する溶解性が乏しかった。
【0090】
[熱硬化性樹脂組成物の調製および評価]
<実施例1>
合成例1のポリイミド樹脂10g、4,5−ジメトキシ−1,3−ビス(メトキシメチル)イミダゾリジン−2−オン(三和ケミカル製「ニカラックMX−280」)5g、およびシュウ酸0.1gを、PGMEA35gに溶解して、樹脂組成物(溶液)を調製した。この溶液を、ガラス板の表面に乾燥厚みが10μmとなる様に塗布して、窒素雰囲気下のオーブンで室温から250℃まで加熱して溶媒の乾燥および硬化を行った。
【0091】
<実施例2および実施例3>
合成例1のポリイミド樹脂に代えて、合成例2および合成例3のポリイミド樹脂を用いて、実施例1と同様に樹脂組成物を調製し、塗膜の形成、乾燥および硬化を行った。
【0092】
実施例1〜3の硬化膜は、いずれもクラックの無い良好な膜であった。121℃/100%RHの環境試験装置内に300時間静置後にもクラックの発生はみられず、良好な耐久性を示した。なお、比較合成例1および比較合成例2のポリイミド樹脂は、PGMEAに対する溶解性が乏しいため、樹脂組成物の調製および評価は行わなかった。
【0093】
[ポジ型感光性樹脂組成物の調製および評価]
<実施例4>
合成例1のポリイミド樹脂100重量部、5−ナフトキノンジアジドスルホニル基を有する感光剤(東洋合成工業製「TPA30」)45重量部、熱硬化性化合物として2,6−ビス(メトキシメチル)−4−[3,5−ビス(メトキシメチル)−4−ヒドロキシフェニル]フェノール12重量部および4,5−ジメトキシ−1,3−ビス(メトキシメチル)イミダゾリジン−2−オン(三和ケミカル製「ニカラックMX−280」)20重量部、ノボラック樹脂(旭有機材製「TR6050G」)125重量部、現像助剤(本州化学製「TrisP−PHBA−s」)12重量部、ならびにシランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)1重量部を、470重量部のGBAに溶解して、感光性樹脂組成物を調製した。
【0094】
<実施例5>
合成例2のポリイミド樹脂:100重量部、感光剤(TPA30):25重量部、ビス[3−(4−ヒドロキシベンジル)−4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル]メタンと5−ナフトキノンジアジドスルホン酸とのエステル化物(東洋合成工業製「CNB−300」):25重量部、熱硬化性化合物としてTMOM−BP:12重量部およびテトラブトキシメチルグリコールウリル(三和ケミカル製「ニカラックMX-279」):23重量部、TR6050G:78重量部、TR4020G:45重量部、TrisP−PHBA−s:12重量部、ならびに3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン:1重量部を、510重量部のGBLに溶解して、感光性樹脂組成物を調製した。
【0095】
<比較例1>
合成例2のポリイミド樹脂に代えて比較合成例2のポリイミド樹脂100重量部を用いたこと以外は実施例5と同様にして感光性樹脂組成物を調製した。
【0096】
<露光および現像>
実施例4〜6および比較例1の感光性樹脂組成物を、最終厚みが6μmになるように6インチのシリコンウェハ上にスピンコータ(MIKASA製 MS−A150)を用いて塗布し、ホットプレート上で115℃3分間の予備乾燥を行った。その後、パターンマスクを介して、積算光量300mJ/cmの紫外線を塗布膜に照射して露光を行い、25℃の環境下で2.38重量%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液により現像を行った。
【0097】
実施例4,5および比較例1の感光性樹脂組成物を現像後のシリコンウェハの平面の光学顕微鏡観察、およびライン/スペース=10μm/10μmのパターン領域のレーザー顕微鏡による形状観察を行った。実施例4の光学顕微鏡観察像および断面形状を図1、実施例5の光学顕微鏡観察像および断面形状を図2、比較例1の光学顕微鏡観察像および断面形状を図3に示す。
【0098】
実施例4,5では、現像後のパターンの残膜率が100%であり、パターン形状も良好であった。一方、比較例1では、露光部分と非露光部分の境界が不鮮明であり、パターン不良が生じていた。これらの結果から、実施例4,5では、感光剤によるアルカリ可溶化機構が適切に作用し、かつポリイミド樹脂が適切なアルカリ可溶性を示すため、アルカリ現像による微細パターンの形成が可能であることが分かる。

図1
図2
図3