【文献】
Li Zhang et al.,Development of Patient-Derived Human Monoclonal Antibodies Against Nucleocapsid Protein of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 for Coronavirus Disease 2019 Diagnosis,Frontiers in Immunology,2020年11月13日,Volume 11 | Article 595970,pp.1-11,doi: 10.3389/fimmu.2020.595970
【文献】
山川賢太郎 他,イムノクロマト法を用いた新型コロナウイルスSARS-CoV-2抗原検出試薬の開発,医学と薬学,2020年05月27日,Vol.77, No.6,pp.937-944
【文献】
Qiaozhen Ye et al.,Architecture and self-assembly of the SARS-CoV-2 nucleocapsid protein,Protein Science,2020年07月12日,Vol.29,pp.1890-1901
【文献】
Hiroaki Kariwai et al.,Characterization and epitope mapping of monoclonal antibodies to the nucleocapsid protein of severe acute respiratory syndrome coronavirus,Japanese Journal of Veterinary Research,2002年,Vol.55, No.4,pp.115−127
【文献】
Wei Feng et al.,Molecular Diagnosis of COVID-19: Challenges and Research Needs,Analytical Chemistry,2020年06月23日,Vol.92,pp.10196-10209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記捕捉抗体及び前記検出抗体が、SARS-CoV又はSARS-CoV-2のヌクレオタンパク質とサンドイッチ免疫複合体を形成するが、MERS-CoVのヌクレオタンパク質、並びに、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-229のウイルス抗原とはサンドイッチ免疫複合体を形成しない請求項1に記載の方法。
前記捕捉抗体が、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、前記検出抗体が、配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む請求項1又は2に記載の方法。
前記捕捉抗体及び前記検出抗体が、互いに同一又は異なって、IgG、還元型IgG、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv、ダイアボディ又はトリアボディである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記標識物質が、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ及びルシフェラーゼからなる群より選択される少なくとも1つの酵素である請求項9に記載の方法。
前記標識物質が、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ及びルシフェラーゼからなる群より選択される少なくとも1つの酵素である請求項24に記載の試薬キット。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のウイルス抗原を測定する方法(以下、「測定方法」ともいう)では、所定のCDRを含む捕捉抗体及び検出抗体を用いる免疫学的測定法により、試料中のウイルス抗原をインビトロで測定する。本実施形態において、捕捉抗体とは、被検物質と特異的に結合する抗体であって、自身が固相に固定されることにより被検物質を固相上に捕捉するための抗体をいう。検出抗体とは、被検物質と特異的に結合する抗体であって、自身が標識物質で標識されることにより検出可能なシグナルを提供するための抗体をいう。検出抗体は通常、固相に固定されないが、標識物質自体が粒子などの固相である場合がある。
【0011】
免疫学的測定法は、サンドイッチ免疫複合体を形成する工程を含む限り、特に限定されない。サンドイッチ免疫複合体とは、捕捉抗体と被検物質と検出抗体とを含む複合体であって、捕捉抗体と検出抗体とが該被検物質上の互いに異なる部位に結合した状態にある複合体をいう。そのような免疫学的測定法としては、例えばサンドイッチELISA法、免疫クロマト法などが挙げられる。それらの中でも、サンドイッチELISA法が特に好ましい。サンドイッチELISA法として、特開平1-254868号公報に記載の免疫複合体転移法を用いてもよい。
【0012】
本明細書において「ウイルス抗原を測定する」との用語は、ウイルス抗原の測定値を取得すること、及び、試料中のウイルス抗原の量又は濃度の値を決定することを包含する。ウイルス抗原の測定値は、試料中のウイルス抗原の量又は濃度を反映する値であり得る。ここで、「量又は濃度を反映する値」とは、後述の標識物質の種類に依る値であり、例えば、発光強度の測定値、蛍光強度の測定値、放射線強度の測定値、光学密度の測定値などが挙げられる。試料中のウイルス抗原の量又は濃度の値は、例えば、ウイルス抗原の測定値及びキャリブレータの測定値に基づいて決定できる。キャリブレータとは、対照試料の一種であり、被検物質又はそれに対応する標準物質を既知濃度で含む、被検物質の定量用試料である。
【0013】
本明細書において「抗体」との用語は、全長の抗体及びそのフラグメントを包含する。抗体のクラスは、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。IgGのサブクラスは特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のいずれであってもよい。抗体のフラグメントとしては、例えば還元型IgG(rIgG)、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、一本鎖抗体(scFv)、ダイアボディ、トリアボディなどが挙げられる。これらの抗体フラグメントを調製する方法自体は公知である。抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。抗体は、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ラクダ、アルパカ、ニワトリなどのいずれの動物に由来する抗体であってもよい。好ましくは、抗体はマウスのモノクローナル抗体である。
【0014】
本実施形態では、捕捉抗体及び検出抗体は、互いに同一又は異なって、全長の抗体でもよいし、抗体フラグメントでもよい。捕捉抗体及び検出抗体の両方が抗体フラグメントである場合、フラグメントの種類は、捕捉抗体と検出抗体との間で同じでもよいし、異なってもよい。捕捉抗体及び検出抗体はいずれもモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0015】
本実施形態において、捕捉抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR2及び配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域を含む。また、捕捉抗体は、配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR2及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。以下に、捕捉抗体の各CDRのアミノ酸配列を示す。以下において、CDRH1、CDRH2及びCDRH3はそれぞれ、重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3を表す。CDRL1、CDRL2及びCDRL3はそれぞれ、軽鎖のCDR1、CDR2及びCDR3を表す。各CDRのアミノ酸配列は、カバット法に基づく配列である。本明細書において「カバット法に基づく」とは、CDR及び可変領域のアミノ酸残基の番号付けは、カバットらによるナンバリング・スキーム(Kabat E.A.ら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991), NIH Publication No.91-3242参照)に従うことをいう。
【0016】
[捕捉抗体のCDRのアミノ酸配列]
・CDRH1:TSGTGVS (配列番号1)
・CDRH2:HIYWDDDKRYNPSLKS (配列番号2)
・CDRH3:SNYGYDLDY (配列番号3)
・CDRL1:KASQNVGTNVV (配列番号4)
・CDRL2:SASYRYS (配列番号5)
・CDRL3:QQYNNYPLT (配列番号6)
【0017】
本実施形態において、検出抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR2及び配列番号9のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域を含む。また、検出抗体は、配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2及び配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。以下に、検出抗体の各CDRのアミノ酸配列を示す。各CDRのアミノ酸配列は、カバット法に基づく配列である。
【0018】
[検出抗体のCDRのアミノ酸配列]
・CDRH1:DYYMY (配列番号7)
・CDRH2:TISDGGSYTYYPDSVKG (配列番号8)
・CDRH3:AADYGGYFDY (配列番号9)
・CDRL1:SASQGISN (配列番号10)
・CDRL2:YTSSLHS (配列番号11)
・CDRL3:QQYSKLPYT (配列番号12)
【0019】
配列番号1〜6のアミノ酸配列をそれぞれ含む6つのCDRを含む捕捉抗体と、配列番号7〜12のアミノ酸配列をそれぞれ含む6つのCDRを含む検出抗体は、同一のウイルス抗原に特異的に結合するが、認識するエピトープは互いに異なる。そのため、捕捉抗体及び検出抗体がウイルス抗原と結合する場合、サンドイッチ免疫複合体が形成される。
【0020】
一実施形態では、捕捉抗体は、配列番号1〜6のアミノ酸配列をそれぞれ含む6つのCDRを含むヒト化抗体であってもよい。また、検出抗体は、配列番号7〜12のアミノ酸配列をそれぞれ含む6つのCDRを含むヒト化抗体であってもよい。ヒト化抗体とは、公知のCDRグラフティング法により、非ヒト由来の抗体のCDRの遺伝子配列をヒト抗体遺伝子に移植して得られる抗体である。
【0021】
捕捉抗体は、配列番号1〜3のアミノ酸配列をそれぞれ含むCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域として、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含んでもよい。また、捕捉抗体は、配列番号4〜6のアミノ酸配列をそれぞれ含むCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域として、配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含んでもよい。以下に、配列番号13及び14で表される可変領域のアミノ酸配列を示す。下線部はCDRを示す。これらの可変領域のアミノ酸配列は、カバット法に基づく配列である。
【0022】
[捕捉抗体の可変領域のアミノ酸配列]
・重鎖可変領域
QVTLKESGPGILQPSQTLSLTCSFSGFSLS
TSGTGVSWIRQPSGKGLEWLA
HIYWDDDKRYNPSLKSRLTVSKDTSGNQVFLKITSVDTADTATYYCAR
SNYGYDLDYWGQGTTLTVSS (配列番号13)
・軽鎖可変領域
DIVMTQSQKFMSTSVGDRVSVTC
KASQNVGTNVVWYQQKPGQSPKALIY
SASYRYSGVPDRFTGSGSGTDFTLTISNVQSEDLAEYFC
QQYNNYPLTFGSGTKLEIKRA (配列番号14)
【0023】
検出抗体は、配列番号7〜9のアミノ酸配列をそれぞれ含むCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域として、配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含んでもよい。また、検出抗体は、配列番号10〜12のアミノ酸配列をそれぞれ含むCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域として、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含んでもよい。以下に、配列番号15及び16で表される可変領域のアミノ酸配列を示す。下線部はCDRを示す。これらの可変領域のアミノ酸配列は、カバット法に基づく配列である。
【0024】
[検出抗体の可変領域のアミノ酸配列]
・重鎖可変領域
EVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFS
DYYMYWVRQTPEKRLEWVA
TISDGGSYTYYPDSVKGRFTISRDNAKNNLYLQMSSLKSDDTAKYYCAR
AADYGGYFDYWGQGTTLTVSS (配列番号15)
・軽鎖可変領域
DIQLTQTTSSLSASLGDRVTISC
SASQGISNYLNWYQQKPDGTVKLLIY
YTSSLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEPEDIATYYC
QQYSKLPYTFGGGTKLEIKRA (配列番号16)
【0025】
一実施形態では、捕捉抗体は、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号14のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むキメラ抗体であってもよい。また、検出抗体は、配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むキメラ抗体であってもよい。キメラ抗体とは、ある種(species)に由来する抗体の可変領域と、それとは異種に由来する抗体の定常領域とが連結した抗体である。
【0026】
本実施形態では、捕捉抗体及び検出抗体は、ウイルス抗原に結合する活性を減少させないようにアミノ酸配列が改変されてもよい。そのようなアミノ酸配列の改変としては、アミノ酸残基の置換、欠失、付加及び/又は挿入が挙げられる。各抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、重鎖又は軽鎖の定常領域であってもよいし、可変領域であってもよい。可変領域を改変する場合は、フレームワーク領域(FR)を改変することが好ましい。FRとは、抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のそれぞれに存在する、CDR以外の領域である。FRは、3つのCDRを連結する足場の役割を果たし、CDRの構造安定性に寄与する。抗体のアミノ酸配列の改変は、DNA組み換え技術及びその他の分子生物学的技術などの公知の方法により、抗体遺伝子に変異を導入することにより行うことができる。
【0027】
改変されるアミノ酸残基の数は、通常10残基以下であり、好ましくは5残基以下、より好ましくは3残基以下である。抗体のアミノ酸配列の改変としては、保存的置換が好ましい。保存的置換とは、あるアミノ酸残基を、その残基の側鎖と化学的に同様の性質を有する側鎖を持つアミノ酸残基に置換することである。アミノ酸配列の保存的置換自体は、当該技術分野において公知である。あるいは、米国特許出願公開第2018/0179298号明細書に記載される、抗体のFR3のアミノ酸残基を改変することを含む抗体の抗原に対する親和性を制御する方法により、抗体のアミノ酸配列を改変してもよい。また、米国特許出願公開第2019/0040119号明細書に記載される、抗体の可変領域の80番目のアミノ酸残基及び定常領域の171番目のアミノ酸残基をシステインにすることを含む抗体の熱安定性を向上する方法により、抗体のアミノ酸配列を改変してもよい。
【0028】
本実施形態では、捕捉抗体は、あらかじめ固相に固定されていてもよい。捕捉抗体の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、捕捉抗体と固相とを直接結合させてもよいし、捕捉抗体と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、抗体と特異的に結合する分子を固相上に固定化し、該分子と抗体との結合を介して、抗体を固相上に固定することが挙げられる。抗体と特異的に結合する分子としては、プロテインA又はG、抗体を特異的に認識する抗体(二次抗体)などが挙げられる。また、抗体と固相との間を介在する物質の組み合わせを用いて、捕捉抗体を固相上に固定することもできる。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチン類とアビジン類、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。ビオチン類とは、ビオチン、並びにデスチオビオチン及びオキシビオチンなどのビオチン類縁体を含む。アビジン類とは、アビジン、並びにストレプトアビジン及びタマビジン(登録商標)などのアビジン類縁体を含む。ハプテンと抗ハプテン抗体の組み合わせとしては、2, 4-ジニトロフェニル(DNP)基を有する化合物と抗DNP抗体との組み合わせが挙げられる。例えば、あらかじめビオチン類(又はDNP基を有する化合物)で修飾した捕捉抗体と、あらかじめアビジン類(又は抗DNP抗体)を結合した固相とを用いることにより、ビオチン類とアビジン類との結合(又はDNP基と抗DNP抗体との結合)を介して、捕捉抗体を固相上に固定できる。
【0029】
固相の素材は特に限定されず、例えば有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロムおよびフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子及びマイクロプレートが好ましい。粒子としては、磁性粒子が特に好ましい。
【0030】
本実施形態では、検出抗体は、あらかじめ標識物質で標識されていてもよい。標識物質は特に限定されないが、例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)、及び、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質が挙げられる。シグナル発生物質としては、蛍光物質、放射性同位元素、発色物質などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば酵素が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、
125I、
14C、
32Pなどが挙げられる。発色物質としては、金ナノコロイドなどの金属コロイドが挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。好ましい標識物質は酵素であり、アルカリホスファターゼが特に好ましい。
【0031】
本実施形態では、標識物質として、標識二次抗体を用いてもよい。標識二次抗体とは、上記の標識物質で標識された抗体であって、検出抗体を特異的に認識する抗体である。標識二次抗体が検出抗体に結合することにより、該検出抗体は、間接的に標識物質で標識される。
【0032】
捕捉抗体及び検出抗体は、DNA組み換え技術及びその他の分子生物学的技術などの公知の方法により、例えば次のようにして作製できる。まず、任意のマウス抗体を産生するハイブリドーマからRNAを抽出する。ハイブリドーマは、Kohler G.及びMilstein C., Nature, vol.256, pp.495-497, 1975などに記載の公知の方法により得ることができる。抽出したRNAを用いて、逆転写反応及びRACE(Rapid Amplification of cDNA ends)法により、該抗体の重鎖及び軽鎖のそれぞれをコードするポリヌクレオチドを合成する。これらのポリヌクレオチドにおいて、CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2及びCDRL3をコードする各塩基配列を、PCR法により、配列番号1〜6又は配列番号7〜12のアミノ酸配列をコードする塩基配列に置換することで、捕捉抗体又は検出抗体の重鎖及び軽鎖のそれぞれをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。あるいは、任意のマウス抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチドにおいて、可変領域をコードする塩基配列を配列番号13又は15のアミノ酸配列をコードする塩基配列に置換し、該抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチドにおける可変領域をコードする領域の塩基配列を配列番号14又は16のアミノ酸配列をコードする塩基配列に置換してもよい。得られたポリヌクレオチドを公知の発現用ベクターに組み込む。重鎖をコードするポリヌクレオチド及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドは、それぞれが独立して発現し得るように1つの発現ベクターに組み込まれてもよいし、2つの発現ベクターに別個に組み込まれてもよい。これにより、捕捉抗体又は検出抗体の重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを取得する。発現ベクターの種類は特に限定されず、哺乳動物細胞用発現ベクターであってもよいし、大腸菌用発現ベクターであってもよい。得られた発現ベクターを適当な宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞又は大腸菌)に形質転換又はトランスフェクションすることにより、捕捉抗体又は検出抗体を得ることができる。また、配列番号1〜6及び配列番号7〜12のアミノ酸配列をコードする塩基配列を利用して、公知のCDRグラフティング法(例えば、Jones P.T.ら, Nature, vol.321, pp.522-525, 1986、Co M.S.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.93, pp.7843-7848, 1996など参照)により、ヒト化抗体としての捕捉抗体及び検出抗体を作製してもよい。
【0033】
本実施形態では、ウイルス抗原は、上記の捕捉抗体及び検出抗体と結合してサンドイッチ免疫複合体が形成される限り、特に限定されない。そのようなウイルス抗原としては、例えばSARS-CoVのヌクレオタンパク質、SARS-CoV-2のヌクレオタンパク質などが挙げられる。ヌクレオタンパク質(以下、「Nタンパク質」とも呼ぶ)は、ウイルスの核酸と共に存在するタンパク質であり、ヌクレオカプシドタンパク質とも呼ばれる。
【0034】
捕捉抗体及び/又は検出抗体がウイルス抗原と特異的に結合せず、サンドイッチ免疫複合体が実質的に形成されない場合、そのウイルス抗原は、本実施形態の測定方法における被検物質ではない。一実施形態では、捕捉抗体及び検出抗体は、SARS-CoV又はSARS-CoV-2のNタンパク質とサンドイッチ免疫複合体を形成するが、MERS-CoVのNタンパク質、並びに、HCoV-NL63、HCoV-229E及びHCoV-OC43のウイルス抗原(例えば、Nタンパク質を含むウイルス溶解物)とはサンドイッチ免疫複合体を実質的に形成しない。
【0035】
本実施形態では、試料には、ウイルス抗原又は該ウイルス抗原を含むウイルスを含む試料だけでなく、ウイルス抗原又は該ウイルス抗原を含むウイルスが含まれる疑いのある試料も包含される。そのような試料として、生体試料が好適に用いられる。生体試料とは、生体から採取された試料である。生体試料としては、鼻咽頭拭い液、唾液、鼻汁、喀痰、全血、血漿、血清、気管支肺胞洗浄液、脳脊髄液、リンパ液などが挙げられる。生体試料の他には、排泄物、下水、河川水、海水、土壌などが用いられ得る。排泄物としては、例えば尿、大便などが挙げられる。
【0036】
本実施形態では、試料は液状であることが好ましい。液状の試料は、溶液に限られず、懸濁液、ゾルなどを含む。試料が液状ではない場合、例えば、試料に適切な水性媒体を添加して液状にしてもよい。そのような水性媒体は、後述の測定を妨げない限り特に限定されず、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有する限り、特に限定されない。そのような緩衝液は、例えばACES、HEPES、MES、PIPESなどのグッドの緩衝液、トリエタノールアミン塩酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)などが挙げられる。液状の試料に不溶性の夾雑物が含まれる場合、例えば遠心分離、ろ過などの公知の手段により、該試料から夾雑物を除去してもよい。必要に応じて、液状の試料を上記の水性媒体で希釈してもよい。
【0037】
試料が、上記のウイルス抗原を含むウイルスを含む場合、該ウイルスからウイルス抗原を遊離させるために、抽出試薬を試料に添加してもよい。抽出試薬とは、試料中のウイルスを溶解して、Nタンパク質などのウイルス抗原を抽出するための試薬をいう。そのような試薬としては、例えば、界面活性剤を含む緩衝液などが挙げられる。界面活性剤は、後述の測定を妨げない限り特に限定されず、例えばNP-40、Tween(登録商標)-20、Triton(登録商標) X-100などが挙げられる。市販の抽出試薬を用いてもよい。抽出試薬は、キレート剤を含んでもよい。キレート剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウム塩又はカリウム塩などが挙げられる。
【0038】
本実施形態の測定方法では、まず、捕捉抗体とウイルス抗原と検出抗体とを含むサンドイッチ免疫複合体を形成する。サンドイッチ免疫複合体は、ウイルス抗原を含み得る試料と捕捉抗体と検出抗体とを混合することにより形成できる。好ましい実施形態では、捕捉抗体とウイルス抗原と検出抗体とを含むサンドイッチ免疫複合体を固相上に形成する。例えば、ウイルス抗原を含み得る試料と捕捉抗体と検出抗体とを混合してサンドイッチ免疫複合体を形成した後、該複合体を含む溶液を、捕捉抗体を固定できる固相と接触させることにより、該複合体を固相上に形成させることができる。あるいは、あらかじめ固相に固定された捕捉抗体を用いてもよい。すなわち、固相に固定された捕捉抗体と、被検物質を含み得る試料と、検出抗体とを混合することにより、上記の複合体を固相上に形成させることができる。
【0039】
本実施形態の測定方法は、固相上に形成されたサンドイッチ免疫複合体を検出する工程を含む。固相上のサンドイッチ免疫複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、ウイルス抗原を測定できる。例えば、検出抗体が標識物質で標識されている場合、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、ウイルス抗原を測定できる。検出抗体に対する標識二次抗体を用いた場合は、検出抗体に結合した標識二次抗体の標識物質により生じるシグナルを検出することにより、ウイルス抗原を測定できる。本実施形態では、あらかじめ標識物質で標識された検出抗体を用いることが好ましい。
【0040】
本明細書において「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。
【0041】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本実施形態では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0042】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0043】
標識物質が放射性同位体である場合、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。標識物質が蛍光物質である場合、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0044】
シグナルの検出結果は、試料中のウイルス抗原の測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、ウイルス抗原の測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値からネガティブコントロールの測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。ネガティブコントロールは適宜選択してもよく、例えば、ウイルス抗原を含まない緩衝液などが挙げられる。
【0045】
本実施形態では、シグナル強度の測定値を検量線に当てはめて、試料中のウイルス抗原の量又は濃度の値を決定してもよい。検量線は、複数のキャリブレータの測定値から作成できる。キャリブレータの測定値は、キャリブレータを、試料と同様に、本実施形態の測定方法により測定して得られる。検量線は、X軸にキャリブレータ中のウイルス抗原の濃度をとり、Y軸に測定値(例えばシグナル強度)をとったXY平面に、複数のキャリブレータの測定値をプロットし、最小二乗法などの公知の方法により直線又は曲線を得ることで作成できる。本実施形態では、キャリブレータは、例えば、ウイルス抗原を含まない緩衝液に、組換え型ウイルス抗原を任意の濃度で添加することで調製できる。ウイルス抗原を含まないキャリブレータとして、ウイルス抗原を含まない緩衝液そのものを用いてもよい。
【0046】
本実施形態の測定方法は、市販の全自動免疫測定装置により行ってもよい。全自動免疫測定装置とは、ユーザが試料をセットして測定開始の指示を入力すると、測定試料の調製及びその免疫測定を自動的に行って、被検物質の測定結果を出力する装置である。そのような全自動免疫測定装置としては、例えばHISCL(登録商標)-5000やHISCL-800などのHISCLシリーズ(シスメックス株式会社)又はHI-1000(シスメックス株式会社)が挙げられる。HISCLシリーズの装置は、固相として磁性粒子を用いるサンドイッチELISA法により測定を行う。
【0047】
本実施形態においては、サンドイッチ免疫複合体の形成と該複合体の検出との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、サンドイッチ免疫複合体を構成しない成分をいう。例えば、ウイルス抗原と結合しなかった余剰の捕捉抗体及び検出抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0048】
さらなる実施形態は、免疫学的測定法により試料中のウイルス抗原を測定するための抗体セット(以下、「抗体セット」とも呼ぶ)である。本明細書において「抗体セット」との用語は、免疫学的測定法に用いられる捕捉抗体及び検出抗体を少なくとも含む、複数の抗体の組み合わせをいう。免疫学的測定法の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同じである。本実施形態の抗体セットは、免疫学的測定法においてウイルス抗原とサンドイッチ免疫複合体を形成する捕捉抗体及び検出抗体を含む。本実施形態の抗体セットに含まれる捕捉抗体及び検出抗体の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同じである。本実施形態の抗体セットは、上記の本実施形態の測定方法に好適に用いられる。
【0049】
さらなる実施形態は、捕捉抗体及び検出抗体を含む試薬キット(以下、「試薬キット」とも呼ぶ)である。本実施形態の試薬キットは、免疫学的測定法により試料中のウイルス抗原を測定するために用いられる。本実施形態の試薬キットは、1つ以上の試薬を含む。免疫学的測定法、捕捉抗体及び検出抗体の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同じである。
【0050】
一実施形態では、試薬キットは、捕捉抗体を含む試薬と、検出抗体を含む試薬とを含む。抗体を含む試薬の形態は特に限定されず、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。抗体を含む試薬が液体である場合、溶媒は、抗体を溶解して保存できる限り特に限定されない。溶媒としては、例えば水、生理食塩水、PBS、TBS、グッドの緩衝液などが挙げられる。グッドの緩衝液としては、例えばMES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどが挙げられる。
【0051】
抗体を含む試薬は、公知の添加物を含んでいてもよい。添加物としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)などタンパク質安定化剤、アジ化ナトリウムなどの防腐剤、塩化ナトリウムなどの無機塩類などが挙げられる。
【0052】
一実施形態では、試薬キットは、捕捉抗体を含む試薬と、検出抗体を含む試薬と、固相とを含んでもよい。あるいは、捕捉抗体は、あらかじめ固相に固定されていてもよい。固相の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同じである。好ましい固相は、磁性粒子又はマイクロプレートである。
【0053】
検出抗体は、あらかじめ標識物質で標識されていてもよい。あるいは、試薬キットは、捕捉抗体を含む試薬と、検出抗体を含む試薬と、標識二次抗体を含む試薬とを含んでもよい。標識物質及び標識二次抗体の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同じである。好ましい標識物質は酵素である。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。好ましい酵素は、アルカリホスファターゼである。検出抗体が酵素で標識されている場合、又は試薬キットが酵素標識二次抗体を含む場合、試薬キットは、酵素に対する基質をさらに含んでもよい。基質の詳細は、本実施形態の測定方法について述べたことと同じである。
【0054】
本実施形態の試薬キットは、各試薬を収容した容器を箱に梱包して、ユーザに提供されてもよい。箱には、添付文書が同梱されてもよい。添付文書には、試薬キットの構成、各試薬の組成、使用方法、保存方法などが記載されてもよい。
【0055】
本実施形態の試薬キットの一例を、
図1Aに示す。
図1Aにおいて、11は、試薬キットを示し、12は、捕捉抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、13は、検出抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、14は、梱包箱を示し、15は、添付文書を示す。この例において、捕捉抗体は、固相(例えば磁性粒子)に固定されていてもよい。また、検出抗体は、標識物質で標識されていてもよい。
【0056】
さらなる実施形態の試薬キットの一例を、
図1Bに示す。
図1Bにおいて、21は、試薬キットを示し、22は、捕捉抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、23は、検出抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、24は、梱包箱を示し、25は、添付文書を示し、26は、固相としてのマイクロプレートを示す。この例において、検出抗体は、標識物質で標識されていてもよい。
【0057】
さらなる実施形態の試薬キットの一例を、
図1Cに示す。
図1Cにおいて、31は、試薬キットを示し、32は、捕捉抗体を含む試薬を収容した第1容器を示し、33は、酵素で標識された検出抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、34は、酵素に対する基質を含む試薬を収容した第3容器を示し、35は、梱包箱を示し、36は、添付文書を示す。この例において、捕捉抗体は、固相(例えば磁性粒子)に固定されていてもよい。
【0058】
本実施形態の試薬キットは、キャリブレータをさらに含んでもよい。キャリブレータは、例えば、ウイルス抗原を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、組換え型ウイルス抗原を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。
【0059】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
製造例: SARS-CoVのNタンパク質と特異的に結合する抗体の作製
(1) 抗原の作製
SARS-CoVのゲノムRNA配列(GenBankのアクセッション番号:AY274119)を用いて、Fujimoto K.ら, 2008, J. Clin. Microbiol., vol.46, p.302-310に記載の方法により、SARS-CoVのNタンパク質をコードする全長cDNAを合成した。得られたcDNAを、pQE30ベクター(QIAGEN社)のHisタグ(6つのヒスチジン残基)をコードする配列の下流に組み込んで、SARS-CoV NP発現ベクターを得た。得られた発現ベクターを用いて、常法により、大腸菌にHisタグ付加組換え型Nタンパク質を発現させた。常法により、大腸菌を溶解して可溶性画分を取得し、組換え型Nタンパク質をHis-Trap HPカラム(QIAGEN社)で精製した。
【0061】
(2) ハイブリドーマの作製及びスクリーニング
作製した組換え型Nタンパク質及び完全フロイントアジュバントの混合物でBalb/cマウス(7週齢、メス)を免疫し、Kohler G.及びMilstein C., Nature, vol.256, pp.495-497, 1975に記載の方法により、SARS-CoVのNタンパク質に対する抗体を産生するハイブリドーマを作製した。得られたハイブリドーマについて、抗原に反応性を示す抗体を産生する株をELISA法により選択した。選択したハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングし、抗体を安定に産生する株をさらに選択した。これにより、SARS-CoVのNタンパク質と特異的に結合する抗体を産生する2種のハイブリドーマを得た。以下、これらのハイブリドーマを「クローン1」及び「クローン2」とも呼ぶ。
【0062】
(3) モノクローナル抗体の精製
取得した各ハイブリドーマの培養上清(10O mL)を0.22μmフィルタ一でろ過して不溶物を除去した。ろ過した培養上清を、1mLのProtein G-sepharose 4B(GE Healthcare社)を充填したカラムに通し、抗体をカラムに吸着させた。カラムから非特異吸着分を除去した後、カラムを酸性条件におくことでモノクローナル抗体を遊離させた。回収したモノクローナル抗体を、100倍量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で透析して精製した。以下、クローン1のハイブリドーマの培養上精から精製したモノクローナル抗体を「第1抗体」とも呼び、クローン2のハイブリドーマの培養上精から精製したモノクローナル抗体を「第2抗体」とも呼ぶ。
【0063】
(4) 抗体のアミノ酸配列の解析
取得した各ハイブリドーマからtotal RNAを抽出し、5'-RACE法により、重鎖及び軽鎖の可変領域を含む部位をコードするcDNAを合成した。得られたcDNAをプラスミドベクターに組み込み、各抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域をコードする塩基配列をシーケンシングにより解析した。取得した塩基配列からアミノ酸配列を予測し、カバット法に基づく各抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を取得した。また、各CDRのアミノ酸配列を取得した。
【0064】
第1抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は、以下のとおりであった。
・重鎖可変領域
QVTLKESGPGILQPSQTLSLTCSFSGFSLSTSGTGVSWIRQPSGKGLEWLAHIYWDDDKRYNPSLKSRLTVSKDTSGNQVFLKITSVDTADTATYYCARSNYGYDLDYWGQGTTLTVSS (配列番号13)
・軽鎖可変領域
DIVMTQSQKFMSTSVGDRVSVTCKASQNVGTNVVWYQQKPGQSPKALIYSASYRYSGVPDRFTGSGSGTDFTLTISNVQSEDLAEYFCQQYNNYPLTFGSGTKLEIKRA (配列番号14)
【0065】
第1抗体の軽鎖及び重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列は、以下のとおりであった。これらのCDRのアミノ酸配列は、カバット法に基づく配列である。
・CDRH1:TSGTGVS (配列番号1)
・CDRH2:HIYWDDDKRYNPSLKS (配列番号2)
・CDRH3:SNYGYDLDY (配列番号3)
・CDRL1:KASQNVGTNVV (配列番号4)
・CDRL2:SASYRYS (配列番号5)
・CDRL3:QQYNNYPLT (配列番号6)
【0066】
第2抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は、以下のとおりであった。
・重鎖可変領域
EVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSDYYMYWVRQTPEKRLEWVATISDGGSYTYYPDSVKGRFTISRDNAKNNLYLQMSSLKSDDTAKYYCARAADYGGYFDYWGQGTTLTVSS (配列番号15)
・軽鎖可変領域
DIQLTQTTSSLSASLGDRVTISCSASQGISNYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSSLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEPEDIATYYCQQYSKLPYTFGGGTKLEIKRA (配列番号16)
【0067】
第2抗体の軽鎖及び重鎖のCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列は、以下のとおりであった。これらのCDRのアミノ酸配列は、カバット法に基づく配列である。
・CDRH1:DYYMY (配列番号7)
・CDRH2:TISDGGSYTYYPDSVKG (配列番号8)
・CDRH3:AADYGGYFDY (配列番号9)
・CDRL1:SASQGISN (配列番号10)
・CDRL2:YTSSLHS (配列番号11)
・CDRL3:QQYSKLPYT (配列番号12)
【0068】
実施例1: SARS-CoV-2のNタンパク質の免疫学的測定
製造例で得た第1抗体及び第2抗体を用いて、全自動免疫測定装置のための試薬を調製し、これらの試薬によりSARS-CoV-2のNタンパク質を測定した。
【0069】
(1) 抗原溶液の調製
ウイルス抗原として、SARS-CoV-2の組換え型Nタンパク質であるSARS-CoV-2 Nucleocapsid-His recombinant Protein (Sino Biological社)を用いた。この抗原を抽出試薬又は希釈用バッファーで希釈して、100 pg/mL、1,000 pg/mL又は10,000 pg/mLの濃度でウイルス抗原を含む抗原溶液を調製した。抽出試薬の組成は、0.3% NP-40 (ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル)、15 mM EDTA・2Na、60 mM NaOH、6 mM ACES (N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、0.22 M NaCl及び15 mM NaN
3であり、pHは7.0であった。希釈用バッファーの組成は、80 mMトリエタノールアミン塩酸塩、1% BSA及び0.1% NaN
3であり、pHは7.5であった。
【0070】
(2) 試薬の調製
R1試薬(捕捉抗体を含む試薬)は、第1抗体又は第2抗体を慣用の手法によりビオチンで標識して、R1試薬用バッファー(100 mM HEPES、150 mM NaCl、25 mM EDTA・2Na、2.5%カゼインNa、1% BSA、0.09% NaN
3、0.015% Antifoam SI、pH7.5)に溶解して調製した。R1試薬中の各抗体の濃度は1μg/mLであった。R2試薬(固相)として、ストレプトアビジン固定化磁性粒子を含むHISCL R2試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R3試薬(検出抗体を含む試薬)は、第1抗体又は第2抗体を慣用の手法によりアルカリホスファターゼ(ALP)で標識して、R3試薬用バッファー(100 mM MES、150 mM NaCl、1 mM MgCl
2、0.1 mM ZnCl
2、1% BSA、50 mg/LスカベンジャーALP、0.09% NaN
3、0.015% Antifoam SI、pH6.5)に溶解して調製した。R3試薬中の各抗体の濃度は400 ng/mLであった。R4試薬(測定用バッファー)として、HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R5試薬(基質溶液)として、CDP-Star(登録商標)を含むHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。磁性粒子の洗浄液として、HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)を用いた。
【0071】
(3) 測定
上記のR1〜R5試薬を用いて全自動免疫測定装置HISCL-800(シスメックス株式会社)により、測定を行った。まず、捕捉抗体として第1抗体を用い、検出抗体として第2抗体を用いて測定を行った。具体的な操作は、次のとおりであった。第1抗体を含むR1試薬(60μL)に抗原溶液(10μL)を加えて混合した後、R2試薬(30μL)を加えて混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子に、第2抗体を含むR3試薬(60μL)を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR4試薬(50μL)及びR5試薬(100μL)を添加し、よく混合して、化学発光強度を測定した。次いで、捕捉抗体として第2抗体を用い、検出抗体として第1抗体を用いて測定を行った。この測定は、第1抗体を含むR1試薬に替えて、第2抗体を含むR1試薬を用い、第2抗体を含むR3試薬に替えて、第1抗体を含むR3試薬を用いたこと以外は上記と同様にして行った。また、バックグラウンドを測定するため、抗原溶液に替えて、抗原を含まない抽出試薬又は希釈用バッファーを用いたこと以外は上記と同様にして、測定を行った。各抗原溶液の測定値及びバックグラウンドから、測定のSN比を算出した。
【0072】
(4) 結果
各測定のSN比を表1に示す。表中、「測定1」とは、捕捉抗体として第1抗体を用い、検出抗体として第2抗体を用いた測定であり、「測定2」とは、捕捉抗体として第2抗体を用い、検出抗体として第1抗体を用いた測定である。「抗原溶液A」とは、希釈用バッファーを用いて調製した抗原溶液であり、「抗原溶液B」とは、抽出試薬を用いて調製した抗原溶液である。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から分かるように、測定1のSN比は、測定2のSN比よりも顕著に高かった。このことから、第1抗体は、免疫学的測定における捕捉抗体に適しており、第2抗体は、免疫学的測定における検出抗体に適していることが示された。すなわち、捕捉抗体として第1抗体を用い、検出抗体として第2抗体を用いるサンドイッチELISA法により、試料中のSARS-CoV-2のNタンパク質を良好に測定できることが示された。また、測定1では、抗原溶液A及びBのいずれでもSN比が高かったことから、界面活性剤は測定に特に影響しないことが示された。
【0075】
実施例2: SARS-CoV、SARS-CoV-2及びMERS-CoVのNタンパク質との反応性
第1抗体及び第2抗体をそれぞれ捕捉抗体及び検出抗体として用いる免疫学的測定により、SARS-CoV及びMEAS-CoVのNタンパク質を測定できるか否かを検討した。比較のため、SARS-CoV-2のNタンパク質も測定した。
【0076】
(1) 抗原溶液の調製
ウイルス抗原として、製造例で作製したSARS-CoVの組換え型Nタンパク質、実施例1と同じ市販のSARS-CoV-2の組換え型Nタンパク質、及びMERS-CoVの組換え型Nタンパク質を用いた。なお、MERS-CoVの組換え型Nタンパク質は、公知のカイコ発現系を用いて常法により作製された。これらの組換え型Nタンパク質を実施例1の希釈用バッファーで希釈して、100 pg/mLの濃度で各ウイルス抗原を含む抗原溶液を調製した。
【0077】
(2) 測定
試薬は、実施例1で調製した第1抗体を含むR1試薬及び第2抗体を含むR3試薬、並びにHISCL R2試薬、HISCL R4試薬及びHISCL R5試薬(いずれもシスメックス株式会社)を用いた。これらの試薬を用いてHISCL-800(シスメックス株式会社)により、実施例1と同様にして、各抗原溶液を測定した。また、バックグラウンドとして、抗原溶液に替えて、抗原を含まない希釈用バッファーを用いたこと以外は上記と同様にして、測定を行った。各測定の発光強度(HISCLカウント値)を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
(3) 結果
表2から分かるように、SARS-CoV-2及びSARS-CoVのNタンパク質を測定したときの発光強度は、バックグラウンドに比べて顕著に高かった。一方、MERS-CoVのNタンパク質を測定したときの発光強度は、バックグラウンドと同程度であった。これらのことから、第1抗体及び第2抗体は、SARS-CoV-2及びSARS-CoVのNタンパク質とサンドイッチ免疫複合体を形成するが、MERS-CoVのNタンパク質とはサンドイッチ免疫複合体を形成しないことが示唆された。
【0080】
実施例3: HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-229のウイルス抗原との反応性
第1抗体及び第2抗体をそれぞれ捕捉抗体及び検出抗体として用いる免疫学的測定により、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-229のウイルス抗原を測定できるか否かを検討した。
【0081】
(1) 抗原溶液の調製
ウイルス抗原として、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-229Eの不活化溶液であるCoronavirus Strain: OC43 Lysate (1 mg)、Coronavirus Strain: NL63 Lysate (1 mg)及びCoronavirus Strain: 229E Lysate (1 mg)(いずれもZeptoMetrix社)を用いた。これらの不活化溶液は、精製したウイルスを、界面活性剤を含む溶液で溶解し、加熱により不活化して調製され、タンパク質を1 mg含む。これらの不活化溶液を実施例1の希釈用バッファーで希釈して、10 ng/mL、100 ng/mL又は1,000 ng/mLの濃度でタンパク質を含む抗原溶液を調製した。
【0082】
(2) 測定
実施例2と同じR1〜R5試薬を用いてHISCL-800(シスメックス株式会社)により、実施例1と同様にして、各抗原溶液を測定した。また、バックグラウンドとして、抗原溶液に替えて、抗原を含まない希釈用バッファーを用いたこと以外は上記と同様にして、測定を行った。各測定の発光強度(HISCLカウント値)を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
(3) 結果
表3から分かるように、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-229Eの不活化溶液に含まれるタンパク質を測定したときの発光強度は、バックグラウンドと同程度であった。このことから、第1抗体及び第2抗体は、HCoV-OC43、HCoV-NL63及びHCoV-229Eのウイルス抗原とはサンドイッチ免疫複合体を形成しないことが示唆された。
【0085】
実施例4: 検出限界の検討
第1抗体及び第2抗体をそれぞれ捕捉抗体及び検出抗体として用いる免疫学的測定の検出限界を、SARS-CoV-2のNタンパク質を低濃度で含む抗原溶液を用いて検討した。
【0086】
(1) 抗原溶液の調製
ウイルス抗原として、SARS-CoV-2 Nucleocapsid-His recombinant Protein (Sino Biological社)を用いた。この抗原をキャリブレータ希釈用バッファー又は実施例1の抽出試薬に添加して、1 pg/mL、2 pg/mL、3 pg/mL、4 pg/mL、5 pg/mL、又は10 pg/mLの濃度でウイルス抗原を含む抗原溶液を調製した。抗原溶液は、各濃度について10個ずつ調製した(n=10)。キャリブレータ希釈用バッファーとは、界面活性剤を含まず、検量線作成用の標準物質溶液を希釈するためのバッファーである。キャリブレータ希釈用バッファーの組成は、80 mMトリエタノールアミン塩酸塩、1% BSA及び0.1% NaN
3であり、pHは7.5であった。
(2) 測定
実施例2と同じR1〜R5試薬を用いてHISCL-800(シスメックス株式会社)により、実施例1と同様にして、各抗原溶液を測定した。また、バックグラウンドとして、抗原溶液に替えて、抗原を含まないキャリブレータ希釈用バッファー又は抽出試薬を用いたこと以外は上記と同様にして、測定を行った。各抗原溶液についての発光強度(HISCLカウント値)の平均値(Av)、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を表4に示す。表中、「抗原溶液C」とは、キャリブレータ希釈用バッファーを用いて調製した抗原溶液であり、「抗原溶液D」とは、抽出試薬を用いて調製した抗原溶液である。また、抗原濃度に対して発光強度の平均値をプロットしたグラフを
図2A及びBに示す。
【0087】
【表4】
【0088】
(3) 結果
図2A及びBから分かるように、SARS-CoV-2のNタンパク質を10 pg/mL以下の低い濃度で含む試料であっても、抗原濃度に応じたシグナルが検出された。表4より、キャリブレータ希釈用バッファーを用いて調製した抗原溶液については、検出限界(LoD)は1 pg/mL以上であり、抽出試薬を用いて調製した抗原溶液については、LoDは2 pg/mL以上であった。
【0089】
実施例5: 免疫学的測定とPCR法との相関
SARS-CoV-2を含む市販の生体試料を本実施形態の測定方法及びPCR法で測定し、各方法で得られた測定値を比較して、本実施形態の測定方法とPCR法との間に相関が認められるか否かを検討した。
【0090】
(1) 生体試料の前処理
SARS-CoV-2感染患者の鼻咽頭拭い液(36検体)をCantor Bioconnect社より購入した。各検体(500μL)と実施例1の抽出試薬(500μL)とを混合して、抗原溶液を調製した。得られた抗原溶液は、免疫学的測定に用いた。また、QIAamp Viral RNA Mini kit (QIAGEN社)を用いて、上記の各検体からRNAを抽出した。得られたRNA溶液は、PCR法による測定に用いた。
【0091】
(2) 免疫学的測定
実施例2と同じR1〜R5試薬を用いてHISCL-800(シスメックス株式会社)により、実施例1と同様にして、抗原溶液を測定した。また、バックグラウンドとして、抗原溶液に替えて、抗原を含まないキャリブレータ希釈用バッファーを用いたこと以外は上記と同様にして、測定を行った。
【0092】
(3) PCR法による測定
PCR法による測定は、国立感染症研究所により作成された「病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1」(令和2(2020)年3月19日)に記載の「TaqManプローブを用いたリアルタイムone-step RT-PCR法による2019-nCoVの検出」の手順に従って行った。リアルタイムRT-PCR試薬として、QuantiTect(登録商標) Probe RT-PCR kit (QIAGEN社)を用いた。増幅反応は、当該キットに添付のマニュアルに記載の条件を用いて行った。リアルタイムRT-PCRに用いたプライマーセット及びプローブの配列は下記のとおりであった。以下、「FAM」は蛍光色素(フルオロセインアミダイト)を示し、「BHQ」はブラックホールクエンチャーを示す。
【0093】
Forward:5'- CACATTGGCACCCGCAATC -3'(配列番号17)
Reverse:5'- GAGGAACGAGAAGAGGCTTG -3'(配列番号18)
Probe: 5'- FAM-ACTTCCTCAAGGAACAACATTGCCA-BHQ -3'(配列番号19)
【0094】
(4) 結果
X軸に発光強度(HISCLカウント値)をとり、Y軸にウイルスRNA濃度(copies/μL)をとったXY平面に、各検体についての本実施形態の測定方法及びPCR法による測定値をプロットした。得られたグラフを
図3に示す。
図3から分かるように、本実施形態の測定方法とPCR法との間に相関が認められることが示唆された。
【解決手段】配列番号1〜6のアミノ酸配列を含むCDRを含む捕捉抗体と、配列番号7〜12のアミノ酸配列を含むCDRを含む検出抗体とを含む抗体セット、及びそれらの抗体を用いて試料中のウイルス抗原を測定することにより、上記の課題を解決する。