(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の車両の一実施形態としての電動自転車について図面を参照しながら説明する。
【0017】
<車両構造>
電動自転車10は、
図1に示すように、前輪73と、後輪78と、自転車フレーム67と、バッテリ2と、バッテリ2により供給される電力によってアシスト力を発生する電動アシストユニット20と、を備え、電動アシストユニット20が発生するアシスト力が出力可能に構成された電動アシスト自転車である。
【0018】
自転車フレーム67は、前端のヘッドパイプ68と、ヘッドパイプ68から後下りに車体前方から後方へ延びるダウンパイプ69と、ダウンパイプ69の後端に固着されて左右に延びる支持パイプ66(
図2参照)と、支持パイプ66から上方に立ち上がるシートポスト71と、支持パイプ66から後方側に延出される左右一対のリヤフォーク70と、を備える。
【0019】
ヘッドパイプ68にはフロントフォーク72が操向可能に支承され、フロントフォーク72の下端に前輪73が軸支されている。フロントフォーク72の上端には操向ハンドル74が設けられている。シートポスト71から後方側に延出される左右一対のリヤフォーク70の後端間には、駆動輪としての後輪78が軸支されている。シートポスト71には、上端にシート76を備える支持軸75が、シート76の上下位置を調整可能として装着されている。
【0020】
シート76の下方でシートポスト71の前部には、電動アシストユニット20へ電力を供給するバッテリ2が着脱可能に固定されている。
【0021】
自転車フレーム67の支持パイプ66を同軸に貫通するクランク軸83の左端及び右端には一対のクランクペダル79が連結される。クランクペダル79に加えられた踏力はクランク軸83へ伝達され、駆動スプロケット80を介して無端状のチェーン82へ入力される。チェーン82は、駆動スプロケット80と、後輪78の車軸に設けられた従動スプロケット81とに巻掛けられている。
【0022】
電動アシストユニット20は、
図1及び
図2に示すように、モータMとクランク軸83とがユニット化され、自転車フレーム67の支持パイプ66周りに後付け可能に構成される。したがって、ユーザーは既に所有する、又は新たに所有する非電動自転車を特定の製造者、販売者、修理者(以下、製造者等と称する。)のところに持って行って、製造者等が既設のクランク軸を取り外し電動アシストユニット20及びバッテリ2を取り付けることで、非電動自転車を電動化することができる。また、ユーザーは電動アシストユニット20が後付けされて電動化された自転車の所有者から借り受けて使用してもよい。
【0023】
電動アシストユニット20は、モータMの出力軸21と、クランク軸83とがケース24の内部に平行に配置される。クランク軸83は、筒状のスリーブ26の内側に第1ワンウェイクラッチ28を介して回転自在に支持されており、このスリーブ26の外周側にモータMの出力軸21に設けられたモータ出力ギヤ21aと噛み合う従動ギヤ26a及び駆動スプロケット80が固定されている。したがって、モータMのトルクが、モータ出力ギヤ21a、従動ギヤ26a、及びスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達される。
【0024】
また、従動スプロケット81と後輪78との間には第2ワンウェイクラッチ32が設けられている。
【0025】
このように構成された電動自転車10では、クランクペダル79を前進方向(正回転方向とも称す)に漕いだ場合には、第1ワンウェイクラッチ28が係合してクランク軸83の正回転動力がスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達され、さらにチェーン82を介して従動スプロケット81に伝達される。このとき第2ワンウェイクラッチ32も係合することで、従動スプロケット81に伝達された正回転動力が、後輪78に伝達される。
【0026】
一方、クランクペダル79を後進方向(逆回転方向とも称す)に漕いだ場合には、第1ワンウェイクラッチ28が係合せず、クランク軸83の逆回転動力がスリーブ26に伝達されずクランク軸83が空転する。
【0027】
また、例えば電動自転車10を前進方向に押し進める場合のように、後輪78から前進方向(正回転方向)の正回転動力が入力される場合、第2ワンウェイクラッチ32が係合せず、後輪78の正回転動力が従動スプロケット81に伝達されない。そのため、後輪78は、従動スプロケット81に対し相対回転する。一方、電動自転車10を後進方向に押し進める場合のように、後輪78から後進方向(逆回転方向)の逆回転動力が入力される場合には、第2ワンウェイクラッチ32が係合して後輪78の逆回転動力が従動スプロケット81に伝達され、さらにチェーン82を介して駆動スプロケット80に伝達される。また、このとき第1ワンウェイクラッチ28も係合することから、駆動スプロケット80に伝達された逆回転動力が、クランク軸83及びクランクペダル79に伝達されてクランク軸83及びクランクペダル79が逆回転する。
【0028】
電動アシストユニット20には、モータMの回転速度を検知するモータ回転数センサSE1が設けられている。また、スリーブ26には運転者がクランクペダル79を踏む力(以下、ペダル踏力)によって発生するトルク値Tqを検知するトルクセンサSE2が設けられている。モータ回転数センサSE1は、モータMの出力軸21の外周部に設けられた磁石及びホールICから構成される。トルクセンサSE2は、スリーブ26の外周部に配設された磁歪式のトルクセンサから構成される。なお、本実施形態では、説明を簡単にするため、モータ出力ギヤ21aと従動ギヤ26aとのギヤ比を1とし、モータMの回転数とスリーブ26の回転数とは常に一致するものとする。したがって、モータ回転数センサSE1の出力値は、スリーブ26の回転数と見なすことができる。後輪78には、後輪78の回転数を取得する後輪回転数センサSE3が設けられている。
【0029】
電動アシストユニット20を制御する制御装置40は、モータMを制御するモータ制御部41(
図3〜
図5参照)を備え、モータ制御部41は、トルクセンサSE2の出力値であるトルク値Tqから運転者がクランクペダル79を踏む力(以下、ペダル踏力)を算出し、このペダル踏力と電動アシスト自転車1の車速に応じたアシスト比とによって定められるアシスト力が発生するように、モータMをPWM制御する。
【0030】
ここで、電動自転車10の各部材の回転数の関係と変速比とについて説明する。
一般的に変速比は、入力部の回転数に対する出力部の回転数である。電動自転車10では、入力部の回転数がスリーブ26の回転数であり、出力部の回転数が後輪78の回転数である。本実施形態では、モータ出力ギヤ21aと従動ギヤ26aとのギヤ比を1としているため、スリーブ26の回転数は、モータ回転数センサSE1で検出されるモータMの回転数と等しい。また、スリーブ26の回転数は、第1ワンウェイクラッチ28が係合した状態ではクランク軸83の回転数と等しい。
【0031】
スリーブ26の回転は、駆動スプロケット80と従動スプロケット81との外径の違いにより変速され、さらに従動スプロケット81と後輪78との間に任意的に設けられる切替変速装置30によってさらに変速される。これらがスリーブ26に入力された動力を後輪78に伝達する動力伝達機構Tを構成する。
【0032】
入力部の回転数であるスリーブ26の回転数をNi[rpm]、出力部の回転数である後輪78の回転数をNo[rpm]、駆動スプロケット80と従動スプロケット81との変速比をRg、切替変速装置30の変速比をRtとすると、後輪78の回転数No[rpm]は以下の(1)式で表される。
【0033】
No[rpm]=Ni[rpm]×Rg×Rt (1)
【0034】
(1)式において、駆動スプロケット80と従動スプロケット81との変速比Rgは、駆動スプロケット80の外径をD[m]、従動スプロケット81の外径をd[m]とすると、以下の(2)式で表される。
【0036】
切替変速装置30の変速比Rtは、適宜設定される。
【0037】
また、動力伝達機構Tの変速比(以下、複合変速比と称する)Rcとすると、複合変速比Rcは、(3)式のように、駆動スプロケット80と従動スプロケット81との変速比Rgと、切替変速装置30の変速比Rtと、の乗算で表される。なお、本実施形態のように、切替変速装置30が設けられていない電動自転車10では、Rt=1である。
【0039】
(3)式を用いて(1)式を書き換えると、後輪78の回転数No[rpm]は、スリーブ26の回転数Ni[rpm]と、動力伝達機構Tの複合変速比Rcと、を用いて、以下の(4)式で表される。
【0040】
No[rpm]=Ni[rpm]×Rc (4)
【0041】
また、(4)式の後輪78の回転数No[rpm]と、後輪78の周長Ct[m]とを用いると、電動自転車10の速度(以下、車速と称する)No′[km/h]は、以下の(5)式で表される。
【0042】
No′[km/h]=Ni[rpm]×Rc×Ct[m]×60/1000 (5)
【0043】
さらに、入力部であるスリーブ26が1回転する間に電動自転車10が進む距離(以下、進行距離と称する)をL[m]とすると、進行距離L[m]は以下の(6)式で表される。
【0045】
図8に示す基準となる電動自転車(
図8のベース)を想定した場合、駆動スプロケット80の歯数(フロントコグ)が44、従動スプロケット81の歯数(リアコグ)が13であるので、複合変速比Rcは、3.38となり、(4)式の後輪78の回転数No[rpm]は、以下の(7)式で表される。
【0046】
No[rpm]=Ni[rpm]×3.38 (7)
【0047】
また、
図8に示す基準となる電動自転車(
図8のベース)の後輪78の周長Ctは2096×10
−3[m]なので、(5)式の電動自転車10の車速No′[km/h]は、以下の(8)式で表される。
【0048】
No′[km/h]=Ni[rpm]×3.38×(2096×10
−3[m])×60/1000 (8)
【0049】
さらに、
図8に示す基準となる電動自転車(
図8のベース)の複合変速比Rcは、3.38であり、後輪78の周長Ctは2096×10
−3[m]なので、(6)式の電動自転車10のスリーブ26が1回転する間に電動自転車10が進む進行距離L[m]は、以下の(9)式で表される。
【0050】
L[m]=3.38×2096×10
−3[m]≒7084×10
−3
(9)
【0051】
モータ制御部41は、製造者等によって、予め電動自転車10が法規に適合するようにプログラムされている。日本の法規では、
図8の実線(
図10の実線Pも同様)で示されるように、車速が10[km/h]まではアシスト比の上限値が2で、車速が10[km/h]から24[km/h]までの間にアシスト比を2から0まで漸減させる必要がある。制御装置40のモータ制御部41は、例えば、
図8に示すように、日本の法規制(実線)に対し、これを超えないように一点鎖線(
図8のベース)で示すアシスト比となるようにプログラムされている。なお、
図8の一点鎖線で示す例では、10[km/h]未満の領域及び10[km/h]から24[km/h]の領域でアシスト比の上限に対して所定の余裕幅(マージン)が確保されるよう設定されている。
【0052】
しかしながら、電動アシストユニット20が予め組み込まれた完成車と違い、電動アシストユニット20が後付けされた電動自転車10では改造・改修が比較的容易で、電動自転車10が誤って法規に適合しない状態になることが想定される。例えば、駆動スプロケット80が大径化されたり(
図8のFr大径化)、従動スプロケット81が小径化されたり(
図8のRr小径化)、後輪78が大径化される(
図8のホイール大径化)ことで、法規に適合しない状態になるおそれがある。
【0053】
このような電動自転車10が法規に適合しない状態が放置されることを回避するため、以下で示す動力伝達機構の異常判定処理によって、電動自転車10が法規に適合しない状態が監視される。
【0054】
<制御装置>
異常判定処理を行う制御装置40は、
図3〜
図5に示すように、上記したモータ制御部41と、第1の時間である電動アシストユニット20の組付け時(以下、組付け時と称する)に取得した動力伝達機構Tの全体である伝達区間の変速比に関連する情報である第1変速比関連情報を記憶するメモリ42と、メモリ42から第1変速比関連情報を取得する第1変速比関連情報取得部43と、第2の時間のである電動アシストユニット20の組付け時より所定時間後(以下、組付け後)のその伝達区間の変速比に関連する情報である第2変速比関連情報を取得する第2変速比関連情報取得部44と、動力伝達機構Tの異常状態を判定する異常判定部45と、動力伝達機構Tの異常状態等を報知する報知部46と、を備える。なお、取得とは、入手、算出、推定、検出を含む概念である。
【0055】
(第1例)
図3は、第1例の機能ブロック図である。第1例では、第1変速比関連情報及び第2変速比関連情報として、上記した複合変速比Rcが用いられる。
【0056】
第1例では、製造者等がメモリ42に電動アシストユニット20の組付け時における、動力伝達機構Tの複合変速比Rc(以下、組付け時の複合変速比Rcを参照複合変速比Rc1と称する)を記憶させる。参照複合変速比Rc1は、上記した(4)式で求められる。即ち、電動アシストユニット20の組付け時における入力部の回転数Ni[rpm]と、出力部の回転数No[rpm]と、から算出される。入力部の回転数Ni[rpm]及び出力部の回転数No[rpm]は、回転数センサ等によって検出される。以下の説明では、入力部の回転数Ni[rpm]としてモータMの回転数を用い、出力部の回転数No[rpm]として後輪78の回転数を用いる。本実施形態では、モータMの回転数はモータ回転数センサSE1で検出され、後輪78の回転数は後輪回転数センサSE3で検出される。
【0057】
第1変速比関連情報取得部43は、メモリ42から参照複合変速比Rc1を取得する。第2変速比関連情報取得部44は、電動アシストユニット20の組付け後における、モータMの回転数Ni[rpm]と、出力部の回転数である後輪78の回転数No[rpm]と、を取得し、動力伝達機構Tの複合変速比Rc(以下、電動アシストユニット20の組付け後の複合変速比Rcを現複合変速比Rc2と称する)を算出する。
【0058】
異常判定部45は、第1変速比関連情報取得部43で取得された参照複合変速比Rc1と、第2変速比関連情報取得部44で算出された現複合変速比Rc2とを比較し、現複合変速比Rc2が参照複合変速比Rc1より大きい場合に動力伝達機構Tの異常を判定する。ここで、異常判定部45には、トルクセンサSE2によって検出されるトルク値Tqが入力される。異常判定部45は、トルク値が零の場合に異常判定を行わない。これは、ペダル踏力又はモータMの駆動力によるトルクが作用していないときに電動アシストユニット20の異常判定を行うと動力伝達機構Tの変速比を正確に取得できないためである。トルクセンサSE2のトルク値Tqが零より大きいときに動力伝達機構Tの異常判定等を行うことで、判定精度をあげることができる。
【0059】
なお、トルクセンサSE2のトルク値Tqが零より大きければよく、ペダル踏力及びモータMの駆動力の少なくとも一方が、必ずしも後輪78まで伝達される必要はなく、第2ワンウェイクラッチ32が係合する程度に出力されていればよい。逆にいうと、異常判定処理時に、制御装置40は、第2ワンウェイクラッチ32が係合する程度にモータMから駆動力が出力するようにモータMを制御してもよい。
【0060】
報知部46は、動力伝達機構Tが法規に適合しないなどの異常があった際に、運転者への注意表示を行ったり、製造者等や所有者へ報知したりする。運転者への注意表示をすることで、動力伝達機構Tが法規不適合状態であることを運転者に認識させることができる。また、製造者等や所有者へ報知することで、動力伝達機構Tが法規不適合状態となる改造・改修が行われた可能性があることを製造者や所有者が認識することができる。報知部46は、動力伝達機構Tに上記の異常があった際に限らず、現複合変速比Rc2が参照複合変速比Rc1より小さい場合にも、運転者に注意及び/又は製造者等や所有者に報知するようにしてもよい。
【0061】
モータ制御部41は、動力伝達機構Tが法規に適合しないなどの異常があった際に、モータMの駆動を抑制する又は禁止することができる。モータMの駆動を抑制する又は禁止することで、電動自転車10が法規に適合しない状態で走行されることを回避できる。モータMの駆動を抑制するとは、例えば、モータMから小さな駆動力しか出力できないように制御することをいう。また、モータ制御部41は、現複合変速比Rc2に基づいて、法規を逸脱しない範囲でモータMから駆動力を出力するように制御してもよい。
【0062】
(第2例)
図4Aは、第2例の機能ブロック図である。第2例では、第1変速比関連情報及び第2変速比関連情報として、上記した車速No′[km/h]が用いられる。
【0063】
第2例では、製造者等がメモリ42に電動アシストユニット20の組付け時における、車速No′[km/h](以下、組付け時の車速No′を参照車速No′1と称する)を記憶させる。参照車速No′1は、上記した(5)式で求められる。即ち、参照車速No′1は、モータMの回転数Ni[rpm](以下、このときのモータMの回転数をNi1[rpm]と称する)と、動力伝達機構Tの参照複合変速比Rc1と、後輪78の周長Ct[m]と、から算出される。参照複合変速比Rc1は、第1例と同様に、(4)式に基づいてモータMの回転数Ni[rpm]と、後輪78の回転数No[rpm]と、から算出される。
【0064】
第1変速比関連情報取得部43は、メモリ42から参照車速No′1[km/h]を取得する。第2変速比関連情報取得部44は、電動アシストユニット20の組付け後の速度情報として、モータMの回転数がNi1[rpm]のときにおける電動自転車10の実際の車速である実車速No′2[km/h]を取得する。実車速No′2[km/h]は、電動自転車10が、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)から送信される速度情報を取得する受信機11を備えている場合、受信機11から取得され得る。また、実車速No′2[km/h]は、運転者が所有する携帯端末を用いてGPSから送信される速度情報からも取得され得る。さらに、実車速No′2[km/h]は、GPSから得られる速度情報の代わりに、電動自転車10にサイクルコンピュータ等の測定装置12が搭載されている場合、測定装置12から得られる速度情報から取得されてもよい。即ち、実車速No′2[km/h]は、参照車速No′1[km/h]を用いずに取得した車速No′[km/h]である。
【0065】
異常判定部45は、第1変速比関連情報取得部43で取得された参照車速No′1[km/h]と、第2変速比関連情報取得部44で取得された実車速No′2[km/h]とを比較し、実車速No′2[km/h]が参照車速No′1[km/h]より大きい場合に動力伝達機構Tの異常を判定する。異常判定部45には、トルクセンサSE2によって検出されるトルク値Tqが入力され、トルク値が零の場合に異常判定を行わない点は、第1例と同様である。報知部46及びモータ制御部41の機能は第1例と同様である。第1変速比関連情報及び第2変速比関連情報として車速No′[km/h]が用いられる場合、車速No′[km/h]は、後輪78の周長Ctの成分も含むので、後輪78の大径化による異常も後輪78の小径化による異常も判定することができる。
【0066】
(第2例の変形例)
図4Bは、第2例の変形例の機能ブロック図である。上記した第2例では、第2変速比関連情報取得部44は、参照車速No′1[km/h]を算出したときと同じである、電動アシストユニット20の組付け後においてモータMの回転数がNi1[rpm]のとき、電動自転車10の実際の車速である実車速No′2[km/h]を取得する必要があった。しかしながら、第2変速比関連情報取得部44は、電動アシストユニット20の組付け後においてモータMの回転数Ni[rpm]に関わらず、上記した(5)式を変形した以下の(10)式から現複合変速比Rc2を取得することができる。
【0067】
Rc=No′[km/h]×1/Ni[rpm]×1/Ct[m]×1000/60 (10)
【0068】
具体的には、第2変速比関連情報取得部44は、メモリ42から後輪78の周長Ct[m]を取得し、モータ回転数センサSE1からモータMの回転数Ni[rpm]を取得し、GPSや測定装置12から速度情報として実車速No′2[km/h]を取得し、(10)式から現複合変速比Rc2を算出する。
【0069】
そして、異常判定部45は、メモリ42に記憶されていた参照複合変速比Rc1と、第2変速比関連情報取得部44で算出された現複合変速比Rc2とを比較し、現複合変速比Rc2が参照複合変速比Rc1より大きい場合に動力伝達機構Tの異常を判定してもよい。異常判定部45には、トルクセンサSE2によって検出されるトルク値Tqが入力され、トルク値が零の場合に異常判定を行わない点は、第1例と同様である。報知部46及びモータ制御部41の機能は第1例と同様である。(10)式から得られる現複合変速比Rc2が用いられる場合、現複合変速比Rc2を算出するための車速No′[km/h]は後輪78の周長Ctの成分を含むので、後輪78の大径化による異常も後輪78の小径化による異常も判定することができる。
【0070】
また、本変形例によれば、電動アシストユニット20の組付け後においてモータMの回転数Ni[rpm]に関わらず、動力伝達機構Tの異常を判定することができる。
【0071】
(第3例)
図5は、第3例の機能ブロック図である。第3例では、第1変速比関連情報及び第2変速比関連情報として、上記した進行距離L[m]が用いられる。
【0072】
第3例では、製造者等がメモリ42に電動アシストユニット20の組付け時における、進行距離L[m](以下、組付け時の進行距離Lを参照進行距離L1と称する)を記憶させる。参照進行距離L1[m]は、(6)式に基づいて参照複合変速比Rc1と、後輪78の周長Ct[m]と、から算出される。参照複合変速比Rc1については、第1例で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0073】
第1変速比関連情報取得部43は、メモリ42から参照進行距離L1[m]を取得する。第2変速比関連情報取得部44は、電動アシストユニット20の組付け後の移動距離情報として、進行距離L[m](以下、電動アシストユニット20の組付け後の進行距離Lを実進行距離L2と称する)を取得する。実進行距離L2[m]は、電動自転車10が、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)から送信される移動距離情報を取得する受信機11を備えている場合、受信機11から取得され得る。また、実進行距離L2[m]は、運転者が所有する携帯端末を用いてGPSから送信される移動距離情報からも取得され得る。さらに、実進行距離L2[m]は、GPSから得られる移動距離情報の代わりに、電動自転車10にサイクルコンピュータ等の測定装置12が搭載されている場合、測定装置12から得られる移動距離情報から取得されてもよい。即ち、実進行距離L2[m]は、参照進行距離L1を用いずに取得した進行距離Lである。
【0074】
異常判定部45は、第1変速比関連情報取得部43で取得された参照進行距離L1[m]と、第2変速比関連情報取得部44で取得された実進行距離L2[m]とを比較し、実進行距離L2[m]が参照進行距離L1[m]より大きい場合に動力伝達機構Tの異常を判定する。異常判定部45には、トルクセンサSE2によって検出されるトルク値Tqが入力され、トルク値が零の場合に異常判定を行わない点は、第1例と同様である。報知部46及びモータ制御部41の機能は第1例と同様である。第1変速比関連情報及び第2変速比関連情報として進行距離L[m]が用いられる場合、進行距離L[m]は、後輪78の周長Ctの成分を含むので、後輪78の大径化による異常も後輪78の小径化による異常も判定することができる。
【0075】
以下、制御装置40が行う参照値設定処理及び動力伝達機構の異常判定処理について
図6及び
図7を参照しながら説明する。参照値設定処理及び動力伝達機構の異常判定処理では、第1例(
図3)を用いて説明するが、第2例(
図4A)、
図2例の変形例(
図4B)、第3例(
図5)についても同様に行うことができる。
【0076】
<参照値設定処理>
参照値設定処理は、後に行われる動力伝達機構の異常判定処理のために、電動アシストユニット20の組付け時における複合変速比Rcである参照複合変速比Rc1を取得する処理である。
【0077】
図6に示すように、先ず、製造者等は、電動自転車10を漕いでモータMの回転数Ni[rpm]を測定するとともに(S11)、後輪78の回転数No[rpm]を測定する(S12)。これらの測定は、ローラー台(サイクルトレーナー)の上で、電動自転車10を移動させずに漕いで行ってもよく、実際に電動自転車10を走行して行ってもよい。
【0078】
続いて、ステップS11で得られたモータMの回転数Ni[rpm]と、ステップS12で得られた後輪78の回転数No[rpm]とを用いて、上記した(4)式から参照複合変速比Rc1を算出する(S13)。
【0079】
ステップS13で得られた参照複合変速比Rc1は、製造者等により制御装置40のメモリ42に記憶される。なお、この参照複合変速比Rc1は、必ずしも制御装置40のメモリ42に記憶される必要はなく、製造者等がアクセス可能なサーバーに記憶されてもよい。制御装置40のメモリ42に記憶しておくことで、通信環境によらず参照複合変速比Rc1を取得することができる。
【0080】
<動力伝達機構の異常判定処理>
動力伝達機構の異常判定処理は、電動アシストユニット20の組付け後に、動力伝達機構Tの異常を判定する処理であり、電動アシストユニット20の組付け後に動力伝達機構Tが法規不適合状態であることを検出する処理である。
【0081】
制御装置40は、
図7に示すように、電動自転車10の走行中において所定の制御時間の経過を待って(S21)、モータMの回転数Ni[rpm]を測定するとともに(S22)、後輪78の回転数No[rpm]を測定する(S23)。続いて、ステップS22で測定されたモータMの回転数Ni[rpm]と、ステップS23で測定された後輪78の回転数No[rpm]とから、上記した(4)式に基づいて現複合変速比Rc2を算出する(S24)。
【0082】
続いて、メモリ42に記憶されていた参照複合変速比Rc1と、現複合変速比Rc2とを比較して(S24)、現複合変速比Rc2が参照複合変速比Rc1以下であれば(S25のYES)、動力伝達機構Tが法規適合状態であると判定(正常判定)する(S26)。一方、現複合変速比Rc2が参照複合変速比Rc1以下でない、即ち、現複合変速比Rc2が参照複合変速比Rc1より大きければ(S25のNO)、続いてスリーブ26に作用するトルク値Tqを測定し(S27)、トルク値Tqが零であるか否かを判定する(S28)。
【0083】
その結果、トルク値Tqが零の場合(S28のYES)、異常判定を保留し(S29)、制御フローはステップS22に戻る。また、トルク値Tqが零でない場合(S28のNO)、即ち、スリーブ26にペダル踏力又はモータMの駆動力によるトルクが入力されている場合、動力伝達機構Tが暫定的に法規不適合状態である(暫定的な異常状態)と判定する(S30)。
【0084】
動力伝達機構Tが暫定的に法規不適合状態である(暫定的な異常状態)と判定された場合、暫定的な異常状態と検出された後の経過時間(以下、異常継続時間WTと称する)を計測し(S31)、異常継続時間WTが所定時間Tlim内かどうかを検出する(S32)。その結果、異常継続時間WTが所定時間Tlim内であれば(S32のYES)、動力伝達機構Tが一時的に法規不適合状態である(一時的な異常状態)と判定し(S33)、制御処理はステップS22に戻る。一方、ステップS32において、異常継続時間WTが所定時間Tlimを超えていれば(S32のNO)、動力伝達機構Tが永続的に法規不適合状態である(永続的な異常状態)であるとして異常判定し(S34)、異常対応アクションを行う(S35)。
【0085】
異常対応アクションは、上記した報知部46による運転者への注意表示、製造者等や所有者への報知、モータ制御部41によるモータMの駆動の抑制又は禁止を含む。
【0086】
また、異常対応アクションとして、制御装置40は、ステップS24で得られた現複合変速比Rc2に基づいてアシスト制御のプログラムを更新してもよい。これにより、更新後には改造・改修後の動力伝達機構Tに基づいて新たに設定されたプログラムによってモータMが制御されるので、電動自転車10が法規に適合しない状態から法規に適合した状態に戻すことができる。
【0087】
また、ステップS24で、現複合変速比Rc2が参照複合変速比Rc1以下(S25のYES)の場合は、動力伝達機構Tが法規適合状態ではあるが、現複合変速比Rc2と参照複合変速比Rc1とが所定以上乖離しているときには、変速比に変化が生じている他の異常状態と判定してもよい。
【0088】
また、ステップS28では、スリーブ26に作用するトルク値Tqが零であるか否かを判定したが、モータMが発生しているトルク値が零であるか否かを判定してもよい。言い換えると、クランクペダル79が設けられたクランク軸83をトルク流れ方向において最上流側とした場合に、トルクセンサSE2は第1ワンウェイクラッチ28よりも下流側のトルクを取得してもよい。
【0089】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0090】
図9は、第1変形例の動力伝達機構Tの模式図である。
第1変形例の動力伝達機構Tは、従動スプロケット81と第2ワンウェイクラッチ32との間に変速比を切り替え可能な切替変速装置30を含む。
【0091】
したがって、第1変形例の動力伝達機構Tの変速比は、駆動スプロケット80及び従動スプロケット81の歯数(コグ)によって決まる変速比と切替変速装置30の変速比とを乗算した値となる。このように、切替変速装置30を含む動力伝達機構Tであっても、上記した参照値設定処理及び動力伝達機構の異常判定処理により、動力伝達機構Tの異常判定を行うことができる。
【0092】
なお、動力伝達機構Tが切替変速装置30を含む場合、参照値設定処理においてメモリ42に記憶される情報は、切替変速装置30が最も大きな変速比である変速段である場合における参照複合変速比Rc1である。例えば、3段の切替変速装置30において、1段、2段、3段と次第に変速比が大きくなる場合に、予め定められたプログラムに沿ってモータMを制御すると、1段及び2段の変速段においては
図10のT1の一点鎖線、T2の二点鎖線で示すように、法規に適合している状態が維持されるが、3段の変速段においては
図10のT3の点線で示すように、法規に適合しない事態が生じ得る。動力伝達機構Tが変速比を切り替え可能な切替変速装置30を含む場合、切替変速装置30が最も大きな変速比である変速段である場合における変速比に基づいて参照複合変速比Rc1を設定することで、電動自転車10が法規に適合しない状態をより精度よく判定することができる。
【0093】
図11は、第2変形例の動力伝達機構Tの模式図である。
上記実施形態では、モータ出力ギヤ21aと従動ギヤ26aとのギヤ比を1とし、スリーブ26の回転数とモータMの回転数とが一致するように構成したが、第2変形例では、スリーブ26の回転数とモータMの回転数とが一致せず、モータ出力ギヤ21aと従動ギヤ26aとの間で所定の変速が行われる。
【0094】
具体的に説明すると、電動アシストユニット20は、モータMの出力軸21と、アイドル軸22と、クランク軸83と、を有し、これらがケース24の内部に平行に配置される。クランク軸83は、筒状のスリーブ26の内側に第1ワンウェイクラッチ28を介して回転自在に支持されており、このスリーブ26の外周側に従動ギヤ26a及び駆動スプロケット80が固定されている。アイドル軸22には、モータMの出力軸21に設けられたモータ出力ギヤ21aと噛み合う中間従動ギヤ22aと、クランク軸83に設けられた従動ギヤ26aと噛み合う中間駆動ギヤ22bと、が設けられ、モータMのトルクが、モータ出力ギヤ21a、中間従動ギヤ22a、アイドル軸22、中間駆動ギヤ22b、従動ギヤ26a、及びスリーブ26を介して駆動スプロケット80に伝達される。
【0095】
この第2変形例の動力伝達機構Tの複合変速比Rcは、駆動スプロケット80と従動スプロケット81との変速比と、モータ出力ギヤ21aから従動ギヤ26aまでの変速比と、切替変速装置30の変速比と、を乗算した値となる。
【0096】
このような動力伝達機構Tの異常判定では、回転数センサをスリーブ26に配置し、スリーブ26から後輪78までの変速比、即ち、駆動スプロケット80と従動スプロケット81との変速比と、切替変速装置30の変速比と、を乗算した値に関連する変速比情報に基づいて、上記した参照値設定処理及び動力伝達機構の異常判定処理を行ってもよい。
【0097】
また、動力伝達機構Tの異常判定では、動力伝達機構Tの全体の変速比に関連する変速比情報に限らず、スリーブ26から後輪78までの動力伝達機構Tの一部の変速比に基づいて、上記した参照値設定処理及び動力伝達機構の異常判定処理を行ってもよい。
【0098】
なお、上記実施形態及び第1、第2変形例の電動アシストユニット20では、モータMの出力軸21と、クランク軸83とが平行に配置されていたが、
図12で示す第3変形例のように、モータMの出力軸21が、クランク軸83に対し垂直に配置されてもよい。モータMの動力は、例えば、傘歯車機構等によりアイドル軸22に動力が伝達される。
【0099】
図13は、第4変形例の動力伝達機構Tの模式図である。
第4変形例の動力伝達機構Tは、
図13に示すように、チェーン82が、駆動スプロケット80、モータMのモータ出力ギヤ21a、及び後輪78の車軸に設けられた従動スプロケット81に巻掛けられ、モータMの動力が直接にチェーン82に伝達されるように構成されている。このような動力伝達機構Tであっても、上記した参照値設定処理及び動力伝達機構の異常判定処理により、動力伝達機構Tの異常判定を行うことができる。
【0100】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0101】
例えば、車両として電動自転車10を例示したが、これに限らず、クランクペダル79からの入力のない二輪車、二輪車以外の三輪車、四輪車であってもよい。
【0102】
また、本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0103】
(1) 車両(電動自転車10)を駆動する動力が入力される入力部(スリーブ26)と、
前記入力部に入力された動力を出力する出力部(後輪78)と、
前記入力部に入力された前記動力を前記出力部に伝達する動力伝達機構(動力伝達機構T)と、を備える、車両であって、
第1の時間に取得した前記動力伝達機構の全体又は一部である伝達区間の変速比(複合変速比Rc)に関連する情報である第1変速比関連情報(参照複合変速比Rc1、参照車速No′1、参照進行距離L1)と、
前記第1の時間よりも後の第2の時間に取得した前記伝達区間の変速比(複合変速比Rc)に関連する情報である第2変速比関連情報(現複合変速比Rc2、実車速No′2、実進行距離L2)と、に基づいて、
前記動力伝達機構の異常を判定する、又は、前記動力伝達機構を利用した駆動を抑制する若しくは禁止する、車両。
【0104】
(1)によれば、不適合な改造・改修等により変速比関連情報に変化が生じた場合、不適合な改造・改修の前後の変速比関連情報である第1変速比関連情報と第2変速比関連情報とに基づいて、動力伝達機構の異常を判定する、又は、動力伝達機構を利用した駆動を抑制する若しくは禁止することで、車両が法規に適合しない状態を回避できる。
【0105】
(2) (1)に記載の車両であって、
前記第1変速比関連情報を記憶する記憶部(メモリ42)をさらに備える、車両。
【0106】
(2)によれば、車両が第1変速比関連情報を記憶する記憶部を備えるので、通信環境によらず第1変速比関連情報を取得することができる。
【0107】
(3) (1)又は(2)に記載の車両であって、
前記第2変速比関連情報を取得する第2変速比関連情報取得部(第2変速比関連情報取得部44)をさらに備える、車両。
【0108】
(3)によれば、車両は第2変速比関連情報を取得する変速比関連情報取得部をさらに備えるので、車両の走行中に第2変速比関連情報を取得することができる。
【0109】
(4) (3)に記載の車両であって、
前記第2変速比関連情報取得部は、全地球測位システムから走行情報(実車速No′2、実進行距離L2)を取得する、車両。
【0110】
(4)によれば、全地球測位システムを利用することで走行情報を取得することができる。
【0111】
(5) (4)に記載の車両であって、
前記全地球測位システムから送信される前記走行情報を取得する受信機(受信機11)をさらに備える、車両。
【0112】
(5)によれば、運転者が受信機を所持していなくても全地球測位システムから送信される走行情報を取得できる。
【0113】
(6) (3)に記載の車両であって、
前記車両の走行情報を測定する測定装置(測定装置12)をさらに備え、
前記第2変速比関連情報取得部は、前記測定装置から走行情報(実車速No′2、実進行距離L2)を取得する、車両。
【0114】
(6)によれば、全地球測位システムを利用してなくても車速測定装置から走行情報を取得することができる。
【0115】
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の車両であって、
前記第1変速比関連情報及び前記第2変速比関連情報は、前記動力伝達機構の変速比(複合変速比Rc)、前記車両の速度(車速No′)、又は、前記入力部が1回転する間に前記車両が進む進行距離(進行距離L)である、車両。
【0116】
(7)によれば、不適合な改造・改修の前後の動力伝達機構の変速比、車両の速度、又は、入力部が1回転する間に車両が進む進行距離を比較することで、車両が法規に適合しない状態を容易に検出することができる。また、車両の速度、及び入力部が1回転する間に車両が進む進行距離は、出力部の周長の成分を含むので、出力部を大径化した場合の異常及び出力部を小径化した場合の異常も判定することができる。
【0117】
(8) (7)に記載の車両であって、
前記第1変速比関連情報及び前記第2変速比関連情報は、前記車両の速度である、車両。
【0118】
(8)によれば、不適合な改造・改修の前後の車速を比較することで、車両が法規に適合しない状態を容易に検出することができる。また、車速は、出力部の周長の成分を含むので、出力部を大径化した場合の異常も判定することができる。
【0119】
(9) (1)〜(8)のいずれかに記載の車両であって、
前記入力部に入力される動力を取得する動力取得部(トルクセンサSE2)をさらに備え、
前記車両は、前記動力取得部が取得した前記動力が零より大きいとき、前記動力伝達機構の異常を判定する、又は、前記動力伝達機構を利用した駆動を抑制する若しくは禁止する、車両。
【0120】
(9)によれば、入力部に動力が作用していないときに動力伝達機構の異常判定等を行うと変速比を正確に取得できない場合があるため、動力取得部が取得した動力が零より大きいときに動力伝達機構の異常判定等を行うことで、判定精度をあげることができる。
【0121】
(10) (9)に記載の車両であって、
乗員の踏力が入力されるクランク軸(クランク軸83)と、
前記踏力をアシストするモータ(モータM)と、
前記モータの動力が入力される入力軸(スリーブ26)と、
前記クランク軸と前記入力軸との間に介装されるワンウェイクラッチ(第1ワンウェイクラッチ28)と、をさらに備え、
前記動力取得部は、前記ワンウェイクラッチよりも下流側の動力を取得するよう設けられている車両。
【0122】
(10)によれば、クランク軸をトルク流れ方向において最上流側とする電動アシスト車両において、ワンウェイクラッチよりも下流側に動力取得部が設けられるので、モータの動力の入力に基づいて、高い判定精度で動力伝達機構の異常判定等を行うことができる。
【0123】
(11) (1)〜(10)のいずれかに記載の車両であって、
前記動力伝達機構は、変速比を切り替え可能な切替変速装置(切替変速装置30)を含み、
前記第1変速比関連情報は、前記切替変速装置が最も大きな変速比である変速段である場合における変速比関連情報である、車両。
【0124】
(11)によれば、動力伝達機構が変速比を切り替え可能な切替変速装置を含む場合、切替変速装置が最も大きな変速比である変速段である場合における変速比関連情報を第1変速比関連情報とすることで、車両が法規に適合しない状態をより精度よく判定することができる。
【0125】
(12) (1)〜(11)のいずれかに記載の車両であって、
前記車両は、前記第2変速比関連情報が前記第1変速比関連情報に対して、前記動力伝達機構の変速比が増えたことを示すとき、前記動力伝達機構の異常を判定する、車両。
【0126】
(12)によれば、動力伝達機構の変速比が減ったときには、車両が法規に適合しない状態とはならないので、動力伝達機構の変速比が増えたときに異常を判定することで、車両が法規に適合しない状態を適切に判定することができる。
【0127】
(13) (1)〜(12)のいずれかに記載の車両であって、
前記車両は、前記動力伝達機構の異常を判定可能に構成され、
前記車両は、前記動力伝達機構の異常を判定したとき、注意表示を行う、車両。
【0128】
(13)によれば、動力伝達機構が法規不適合状態であることを乗員に認識させることができる。
【0129】
(14) (1)〜(13)のいずれかに記載の車両であって、
前記車両は、前記動力伝達機構の異常を判定可能に構成され、
前記車両は、前記動力伝達機構の異常を判定したとき、使用者、所有者、製造者、販売者、修理者、の少なくとも一つに報知する、車両。
【0130】
(14)によれば、動力伝達機構が法規不適合状態となる改造・改修が行われたことを使用者等が認識することができる。
【0131】
(15) 車両(電動自転車10)を駆動する動力が入力される入力部(スリーブ26)と
前記入力部に入力された動力を出力する出力部(後輪78)と、
前記入力部に入力された前記動力を前記出力部に伝達する動力伝達機構(動力伝達機構T)と、を備える、車両であって、
前もって取得した前記動力伝達機構の全体又は一部である伝達区間の変速比(参照複合変速比Rc1)と前記入力部の回転状態量(回転数Ni)とに基づいて求めた前記車両の速度(車速No′)である第1速度情報(参照車速No′1)と、
前記変速比を用いずに取得した前記車両の速度(車速No′)である第2速度情報(実車速No′2)と、に基づいて、
前記動力伝達機構の異常を判定する、又は、前記動力伝達機構を利用した駆動を抑制する若しくは禁止する、車両。
【0132】
(15)によれば、不適合な改造・改修等により変速比関連情報に変化が生じた場合、不適合な改造・改修の前後の速度情報である第1速度情報と第2速度情報とに基づいて、動力伝達機構の異常を判定する、又は、動力伝達機構を利用した駆動を抑制する若しくは禁止することで、車両が法規に適合しない状態を回避できる。
【0133】
(16) 車両(電動自転車10)に搭載される動力伝達機構(動力伝達機構T)の異常監視方法であって、
第1の時間に、前記動力伝達機構の全体又は一部である伝達区間の変速比(複合変速比Rc)に関連する情報である第1変速比関連情報(参照複合変速比Rc1、参照車速No′1、参照進行距離L1)を取得するステップと、
前記第1の時間よりも後の第2の時間に、前記伝達区間の変速比(複合変速比Rc)に関連する情報である第2変速比関連情報(現複合変速比Rc2、実車速No′2、実進行距離L2)を取得するステップと、
前記第1変速比関連情報と前記第2変速比関連情報とに基づいて、前記動力伝達機構の異常を判定する、又は、前記動力伝達機構を利用した駆動を抑制する若しくは禁止するステップと、を備える、動力伝達機構の異常監視方法。
【0134】
(16)によれば、不適合な改造・改修等により変速比関連情報に変化が生じた場合、不適合な改造・改修の前後の変速比関連情報である第1変速比関連情報と第2変速比関連情報とに基づいて、動力伝達機構の異常を判定する、又は、動力伝達機構を利用した駆動を抑制する若しくは禁止することで、車両が法規に適合しない状態を回避できる。
【0135】
なお、本出願は、2019年9月11日出願の日本特許出願(特願2019−165698)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。