【文献】
J. Biol. Chem.,1994年,vol.269, no.23,p.16371-16375
【文献】
Nucleic Acids Res.,2017年09月,vol.45, no.20,p.11525-11534, Supplementary Data
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列が、一方のter配列としてoriCの5’側に配列番号1〜14に示される配列のいずれか1つを含む配列が挿入され、他方のter配列としてoriCの3’側に配列番号1〜14に示される配列の相補配列を含む配列が挿入されたものである、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
核酸であって、273bp〜2.0kbの長さを有する線状DNAであり、oriC、ならびに、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列および/またはDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を含む、
ここで当該ter配列は、oriCの近傍または隣接した領域に存在する、
ここで、前記DNAマルチマー分離酵素はCreまたはXerCDである、そして、
ここで、前記ter配列は、Tusタンパク質またはRTPタンパク質に結合されると複製が阻害される、
前記核酸。
OE配列が、配列番号25(5’−CTGTCTCTTATACACATCT−3’)で示される配列およびその相補配列を含み、工程(1)の線状DNAの5’末端に配列番号25で示される配列を含むOE配列が挿入されており、当該線状DNAの3’末端に配列番号25で示される配列の相補配列を含むOE配列が挿入されている、請求項7または8に記載の方法。
核酸であって、311bp〜2.0kbの長さを有する線状DNAであり、oriC、ならびに、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列および/またはDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を含み、そして両末端にOutside end (OE) 配列を含む、
ここで当該ter配列は、oriCの近傍または隣接した領域に存在する、
ここで、前記DNAマルチマー分離酵素はCreまたはXerCDである、そして、
ここで、前記ter配列は、Tusタンパク質またはRTPタンパク質に結合されると複製が阻害される、
前記核酸。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。
【0038】
<環状DNA>
鋳型として用いる環状DNAは、二重鎖であることが好ましい。鋳型として用いる環状DNAは、DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含むものであれば、特に制限はされず、微生物の環状染色体等の天然の環状DNA、天然の環状DNAを酵素処理等によって切断したもの等に別のDNA断片を連結し、それを環状化した環状DNA、天然において直鎖状で存在するDNAを環状化処理した環状DNA、すべて人工的に合成した環状DNA等を例示することができる。DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(oriC)(以下、単に「複製開始配列」または「oriC」と記載することがある)としては、たとえば大腸菌、枯草菌等の細菌に存在する公知の複製開始配列を、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等の公的なデータベースから入手することができる。また、DnaA活性を有する酵素と結合可能なDNA断片をクローニングし、その塩基配列を解析することによって、複製開始配列を得ることもできる。
【0039】
本発明において鋳型として用いる環状DNAは、もともと複製開始配列を含む環状DNAであってもよいし、もともとは複製開始配列を含まない環状DNAに複製開始配列を導入したものであってもよい。
【0040】
鋳型として用いる環状DNAを、もともとは複製開始配列を含まない環状DNAに複製開始配列を導入して調製する方法は、当業者に公知の手法を利用することができる。一態様において、複製開始配列を含まない環状DNAへの複製開始配列の導入は、複製開始配列を含む線状DNAであってその両末端にOutside end (OE) 配列を含み5’末端リン酸化された線状DNAである、複製開始配列を含むトランスポゾンDNAと、トランスポゼースとを緩衝液中に添加して複製開始配列を含むトランスポゾームを形成し、複製開始配列を含むトランスポゾームと複製開始配列を含まない環状DNAを緩衝液中で反応させて転移反応を行うことにより行ってもよい。
【0041】
本発明において鋳型として用いる環状DNAは、目的に応じて、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン等の薬剤耐性マーカー遺伝子配列を含むものであってよい。
【0042】
本発明において鋳型として用いる環状DNAは、精製されたものであってもよいが、環状DNAを含む菌体抽出物等の懸濁液の形態であってもよい。また、1種類の環状DNAを鋳型として用いてもよいが、たとえばDNAライブラリーのような複数種類の環状DNAの混合物を1つの試験管内で鋳型として用いてもよい。
【0043】
本発明において鋳型として用いる環状DNAの長さに制限はないが、たとえば1 kb(1000塩基長)以上、5 kb(5000塩基長)以上、8 kb(8,000塩基長)以上、10 kb(10,000塩基長)以上、50 kb(50,000塩基長)以上、100 kb(100,000塩基長)以上、200 kb(200,000塩基長)以上、500 kb(500,000塩基長)以上、1000 kb(1,000,000塩基長)以上、または2000 kb(2,000,000塩基長)以上の長さとすることができる。
【0044】
<第一、第二および第三の酵素群>
1.
第一の酵素群
本明細書において第一の酵素群とは、環状DNAの複製を触媒する酵素群を意味する。
【0045】
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群としては、たとえばKaguni JM & Kornberg A. Cell. 1984, 38:183-90に記載された酵素群を用いることができる。具体的には、第一の酵素群として、以下:DnaA活性を有する酵素、1種以上の核様体タンパク質、DNAジャイレース活性を有する酵素または酵素群、一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素、DNAプライマーゼ活性を有する酵素、DNAクランプ活性を有する酵素、およびDNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素または酵素群、からなる群より選択される酵素または酵素群の1つ以上、または当該酵素または酵素群のすべての組み合わせ、を例示することができる。
【0046】
DnaA活性を有する酵素としては、大腸菌のイニシエータータンパク質であるDnaAと同様のイニシエーター活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDnaAを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaAは単量体として、反応液中、1nM〜10μMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは1nM〜〜5μM、1nM〜3μM、1nM〜1.5μM、1nM〜1.0μM、1nM〜500nM、50nM〜200nM、50nM〜150nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0047】
核様体タンパク質は、核様体に含まれるタンパク質をいう。本発明に用いる1種以上の核様体タンパク質は、大腸菌の核様体タンパク質と同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のIHF、すなわちIhfAおよび/またはIhfBの複合体(ヘテロ二量体またはホモ二量体)や、大腸菌由来のHU、すなわちhupAおよびhupBの複合体を好適に用いることができる。大腸菌由来のIHFはヘテロ/ホモ2量体として反応液中、5nM〜400nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜200nM、5nM〜100nM、5nM〜50nM、10nM〜50nM、10nM〜40nM、10nM〜30nM、の範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。大腸菌由来のHUは反応液中、1nM〜50nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜50nM、5nM〜25nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0048】
DNAジャイレース活性を有する酵素または酵素群としては、大腸菌のDNAジャイレースと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のGyrAおよびGyrBからなる複合体を好適に用いることができる。大腸菌由来のGyrAおよびGyrBからなる複合体はヘテロ4量体として反応液中、20nM〜500nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20nM〜400nM、20nM〜300nM、20nM〜200nM、50nM〜200nM、100nM〜200nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0049】
一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))としては、大腸菌の一本鎖DNA結合タンパク質と同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のSSBを好適に用いることができる。大腸菌由来のSSBはホモ4量体として、反応液中、20nM〜1000nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20nM〜500nM、20nM〜300nM、20nM〜200nM、50nM〜500nM、50nM〜400nM、50nM〜300nM、50nM〜200nM、50nM〜150nM、100nM〜500nM、100nM〜400nM、の範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0050】
DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaBと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDnaBを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaBはホモ6量体として反応液中、5nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜100nM、5nM〜50nM、5nM〜30nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0051】
DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaCと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDnaCを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaCはホモ6量体として反応液中、5nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜100nM、5nM〜50nM、5nM〜30nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0052】
DNAプライマーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaGと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDnaGを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaGは単量体として、反応液中、20nM〜1000nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20nM〜800nM、50nM〜800nM、100nM〜800nM、200nM〜800nM、250nM〜800nM、250nM〜500nM、300nM〜500nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0053】
DNAクランプ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaNと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDnaNを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaNはホモ2量体として反応液中、10nM〜1000nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは10nM〜800nM、10nM〜500nM、20nM〜500nM、20nM〜200nM、30nM〜200nM、30nM〜100nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0054】
DNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素または酵素群としては、大腸菌のDNAポリメラーゼIII*複合体と同様の活性を有する酵素または酵素群であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、およびHolEのいずれかを含む酵素群、好ましくは大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、およびDnaEの複合体を含む酵素群、さらに好ましくは大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、およびHolEの複合体を含む酵素群を好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAポリメラーゼIII*複合体はヘテロ多量体として反応液中、2nM〜50nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは2nM〜40nM、2nM〜30nM、2nM〜20nM、5nM〜40nM、5nM〜30nM、5nM〜20nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0055】
2.
第二の酵素群
本明細書において第二の酵素群とは、岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する酵素群を意味する。
【0056】
本発明において、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAとは、DNA複製反応によって合成された2つの環状DNAがつながった状態にあるものをいう。
【0057】
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群としては、たとえばDNAポリメラーゼI活性を有する酵素、DNAリガーゼ活性を有する酵素、およびRNaseH活性を有する酵素、からなる群より選択される1つ以上の酵素または当該酵素の組み合わせを例示することができる。
【0058】
DNAポリメラーゼI活性を有する酵素としては、大腸菌のDNAポリメラーゼIと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDNAポリメラーゼIを好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAポリメラーゼIは単量体として反応液中、10nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20nM〜200nM、20nM〜150nM、20nM〜100nM、40nM〜150nM、40nM〜100nM、40nM〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0059】
DNAリガーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDNAリガーゼと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のDNAリガーゼまたはT4ファージのDNAリガーゼを好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAリガーゼは単量体として反応液中、10nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは15nM〜200nM、20nM〜200nM、20nM〜150nM、20nM〜100nM、20nM〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0060】
RNaseH活性を有する酵素としては、RNA:DNAハイブリッドのRNA鎖を分解する活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のRNaseHを好適に用いることができる。大腸菌由来のRNaseHは単量体として反応液中、0.2nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.2nM〜200nM、0.2nM〜100nM、0.2nM〜50nM、1nM〜200nM、1nM〜100nM、1nM〜50nM、10nM〜50nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0061】
3.
第三の酵素群
本明細書において第三の酵素群とは、2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する酵素群を意味する。
【0062】
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群としては、たとえばPeng H & Marians KJ. PNAS. 1993, 90: 8571-8575に記載された酵素群を用いることができる。具体的には、第三の酵素群として、以下:トポイソメラーゼIV活性を有する酵素、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素、およびRecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素、から成る群より選択される1つ以上の酵素または当該酵素の組み合わせを例示することができる。
【0063】
トポイソメラーゼIII活性を有する酵素としては、大腸菌のトポイソメラーゼIIIと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のトポイソメラーゼIIIを好適に用いることができる。大腸菌由来のトポイソメラーゼIIIは単量体として反応液中、20nM〜500nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20nM〜400nM、20nM〜300nM、20nM〜200nM、20nM〜100nM、30〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0064】
RecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のRecQと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえば大腸菌由来のRecQを好適に用いることができる。大腸菌由来のRecQは単量体として反応液中、20nM〜500nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20nM〜400nM、20nM〜300nM、20nM〜200nM、20nM〜100nM、30〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0065】
トポイソメラーゼIV活性を有する酵素としては、大腸菌のトポイソメラーゼIVと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、たとえばParCとParEの複合体である大腸菌由来のトポイソメラーゼIVを好適に用いることができる。大腸菌由来のトポイソメラーゼIVはヘテロ4量体として反応液中、0.1nM〜50nMMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.1nM〜40nM、0.1nM〜30nM、0.1nM〜20nM、1nM〜40nM、1nM〜30nM、1nM〜20nM、1nM〜10nM、1nM〜5nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0066】
上記の第一、第二および第三の酵素群は、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出および精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
【0067】
上記第一、第二および第三の酵素群として、上記に示す大腸菌由来の酵素以外を用いる場合は、上記大腸菌由来の酵素について特定された濃度範囲に対して、酵素活性単位として相当する濃度範囲で用いることができる。
【0068】
上記酵素の無細胞タンパク質発現系を含む反応液を、そのまま鋳型となる環状DNAと混合して、環状DNAの複製または増幅のための反応混合液を形成してもよい。無細胞タンパク質発現系は、上記酵素をコードする遺伝子の塩基配列に相補的な配列からなるRNAを含む総RNA(total RNA)、mRNA、またはin vitro転写産物などを鋳型RNAとする無細胞翻訳系であってもよいし、各酵素をコードする遺伝子または各酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターなどを鋳型DNAとする無細胞転写翻訳系であってもよい。
【0069】
<環状DNAの複製方法(A)>
一態様において本願は、無細胞系における環状DNAの複製または増幅方法であって、以下の工程:
(1)鋳型となる環状DNAと、以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群、
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群、および
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群、
を含む反応液との反応混合物を形成する工程;および
(2)工程(1)において形成した反応混合物を反応させる工程;
を含み、
ここで当該環状DNAは、DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含み、そして、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、および/または、XerCDが認識する塩基配列、をさらに含み、
ここで当該環状DNAがter配列を有する場合、前記工程(1)の反応液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDが認識する塩基配列を有する場合、前記工程(1)の反応液はさらにXerCDタンパク質を含む、前記方法(以下、本明細書において「方法(A)」と記載することがある)に関する。
【0070】
理論により制限されるものではないが、方法(A)は
図1に示す複製サイクルを通じて、またはこの複製サイクルを繰り返すことにより、環状DNAを複製または増幅する。本明細書において、環状DNAを複製するとは、鋳型となる環状DNAと同一の分子を生じることを意味する。環状DNAの複製は、反応後の反応物中の環状DNA量が、反応開始時の鋳型となる環状DNA量に対して増加していることで確認できる。好ましくは、環状DNAの複製は、反応開始時の環状DNA量に対して、反応物中の環状DNA量が少なくとも2倍、3倍、5倍、7倍、9倍に増大することをいう。環状DNAを増幅するとは、環状DNAの複製が進み、反応物中の環状DNAの量が反応開始時の鋳型となる環状DNA量に対して指数的に増大することを意味する。したがって、環状DNAの増幅は、環状DNAの複製の一態様である。本明細書において環状DNAの増幅は、反応開始時の鋳型となる環状DNA量に対して、反応物中の環状DNA量が少なくとも10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、または10000倍に増大することをいう。
【0071】
本願の方法において「無細胞系における」とは、細胞内における複製反応ではないことを意味するものである。すなわち、無細胞系で実施する本願の方法は、インビトロで行われるものであることを意図する。以下に記載する「方法(B)」においても同様である。
【0072】
反応液と混合する環状DNAについては、上記<環状DNA>の項目に記載した通りである。1反応あたりに用いる鋳型DNAの量に特に制限はなく、例えば、反応開始時に10ng/μl以下、5ng/μl以下、1ng/μl以下、0.8ng/μl以下、0.5ng/μl以下、0.1ng/μl以下、50pg/μl以下、5pg/μl以下、0.5pg/μl以下、50fg/μl以下、5fg/μl以下、0.5fg/μl以下の濃度で反応液中に存在させてもよい。さらには、反応開始時に、1反応あたり1分子の環状DNAを鋳型として存在させて複製または増幅に用いることもできる。
【0073】
方法(A)に用いる鋳型となる環状DNAは、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、および/または、XerCDが認識する塩基配列、を含む。当該環状DNAがter配列を有する場合、工程(1)の反応液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDが認識する塩基配列を有する場合、工程(1)の反応液はさらにXerCDタンパク質を含む。
【0074】
ter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質および/またはXerCDは市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出および精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
【0075】
DNA上のter配列およびter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質の組合せは、複製終結を行う機構である。この機構は、複数種の細菌において見出されており、例えば、大腸菌においてはTus-terシステム(Hiasa, H., and Marians, K. J., J. Biol. Chem., 1994, 269: 26959-26968;Neylon, C., et al., Microbiol. Mol. Biol. Rev., September 2005, p.501-526)、バチルス属細菌ではRTP-terシステム(Vivian, et al., J. Mol. Biol., 2007, 370: 481-491)として知られている。本願の方法においては、この機構を利用することにより、副産物であるDNAマルチマーの生成を抑制することが可能である。DNA上のter配列およびter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質の組合せについて、その生物学的由来に特に制限はない。
【0076】
好ましい態様において本願の方法は、ter配列およびTusタンパク質の組合せを用いる。Tusタンパク質との組合せで用いるter配列は、5’−GN[A/G][T/A]GTTGTAAC[T/G]A−3’(配列番号1)、より好ましくは5’−G[T/G]A[T/A]GTTGTAAC[T/G]A−3’(配列番号2)、5’−GTATGTTGTAACTA−3’(配列番号3)、5’−AGTATGTTGTAACTAAAG−3’(配列番号4)、5’−GGATGTTGTAACTA−3’(配列番号5)、5’−GTATGTTGTAACGA−3’(配列番号6)、5’−GGATGTTGTAACTA−3’(配列番号7)、5’−GGAAGTTGTAACGA−3’(配列番号8)、または5’−GTAAGTTGTAACGA−3’(配列番号9)、を含む配列であってよい。Tusタンパク質の由来は特に限定されないが、好ましくは大腸菌由来のTusタンパク質である。Tusタンパク質は、反応液中1nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは2nM〜200nM、2nM〜100nM、5nM〜200nM、5nM〜100nM、10nM〜100nM、20nM〜100nM、20nM〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0077】
別の好ましい態様において本願の方法は、ter配列およびRTPタンパク質の組合せを用いる。RTPタンパク質との組合せで用いるter配列は、5’−AC[T/A][A/G]ANNNNN[C/T]NATGTACNAAAT−3’(配列番号10)、好ましくは5’−ACTAATT[A/G]A[A/T]C[T/C]ATGTACTAAAT−3’(配列番号11)、5’−ACTAATT[A/G]A[A/T]C[T/C]ATGTACTAAATTTTCA−3’(配列番号12)、5’−GAACTAATTAAACTATGTACTAAATTTTCA−3’(配列番号13)、または5’−ATACTAATTGATCCATGTACTAAATTTTCA−3’(配列番号14)を含む、23〜30塩基の長さの配列である。ter配列として配列番号10〜12の配列を含み、23〜30塩基の長さを有する配列を選択する場合、当該配列は、配列番号13または14に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を有するものであってもよい。RTPタンパク質の由来は特に限定されないが、好ましくはバチルス属細菌由来のRTPタンパク質、より好ましくは枯草菌(Bacillus subtilis)由来のRTPタンパク質である。Tusタンパク質は、反応液中1nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは2nM〜200nM、2nM〜100nM、5nM〜200nM、5nM〜100nM、10nM〜100nM、20nM〜100nM、20nM〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。 ter配列について「oriCに対して外向きに挿入する」とは、ter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質の組合せの作用により、oriCより外側に向かう方向の複製に対しては複製を許容する一方、oriCに向かって入ってくる方向の複製に対しては複製を許容せず停止する方向でter配列を挿入することを意味する。
図3(a)および
図5におけるter配列の矢印は、oriCに対して1対のter配列がそれぞれ外向きの方向で挿入されている状態を示す。したがって、ter配列について「oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対の」とは、一方がoriCの5’側に配列番号1〜14に示される配列のいずれか1つを含む配列が挿入され、他方がoriCの3’側に配列番号1〜14に示される配列の相補配列を含む配列が挿入された状態を意味する。
【0078】
ter配列は、oriCに対してそれぞれ外向きに1対挿入されている限り、いずれの位置に存在していてもよい。例えば、1対のter配列は、oriCに対して対極となる領域に存在していてもよく、oriCの両側の近傍または隣接した領域に存在していてもよい。oriCの両側の近傍または隣接した領域に存在する場合は、oriCと1対のter配列を機能性カセットとして調製できるため、oriCおよび1対のter配列のDNAへの導入が簡便になり、鋳型となる環状DNAの調製コストが低減されるという利点がある。
【0079】
DNA上のXerCDが認識する配列およびXerCDタンパク質の組合せは、DNAマルチマーの分離を行う機構である(Ip, S. C. Y., et al., EMBO J., 2003, 22: 6399-6407)。XerCDタンパク質は、XerCとXerDの複合体である。XerCDタンパク質が認識する配列としてはdif配列、cer配列、psi配列が知られている(Colloms, et al., EMBO J., 1996, 15(5):1172-1181;Arciszewska, L. K., et al., J. Mol. Biol., 2000, 299:391-403)。本願の方法においては、この機構を利用することにより、副産物であるDNAマルチマーの生成を抑制することが可能である。DNA上のXerCDが認識する配列およびXerCDタンパク質の組合せについて、その生物学的由来に特に制限はない。また、XerCDにはその促進因子が知られており、例えばdifにおける機能はFtsKタンパク質によって促進される(Ip, S. C. Y., et al., EMBO J., 2003, 22:6399-6407)。一態様において、本願の方法における反応液中にFtsKタンパク質を含めてもよい。
【0080】
XerCDが認識する配列は、5’−GGTGCG[C/T][A/G][T/C]AANNNNNNTTATG[T/G]TAAA[T/C]−3’(配列番号15)、5’−GGTGCG[C/T]A[T/C]AANNNNNNTTATG[T/G]TAAAT−3’(配列番号16)、5’−GGTGCGC[A/G][T/C]AANNNNNNTTATGTTAAA[T/C]−3’(配列番号17)、5’−GGTGCG[C/T][A/G]CAANNNNNNTTATG[T/G]TAAA[T/C]−3’(配列番号18)、5’−GGTGCGCATAANNNNNNTTATGTTAAAT−3’(配列番号19)、5’−GGTGCGTACAANNNNNNTTATGGTAAAT−3’(配列番号20)、5’−GGTGCGCGCAANNNNNNTTATGTTAAAC−3’(配列番号21)、5’−GGTGCGCATAATGTATATTATGTTAAAT−3’(配列番号22/dif配列)、5’−GGTGCGTACAAGGGATGTTATGGTAAAT−3’(配列番号23/cer配列)、もしくは5’−GGTGCGCGCAAGATCCATTATGTTAAAC−3’(配列番号24/psi配列)、またはそれらいずれかの相補配列を含む配列であってよい。配列番号15〜24の1〜11番目の塩基部分はXerC結合部位であり、配列番号15〜24の18〜28番目の塩基部分はXerD結合部位である。配列番号15〜21の12〜17番目の塩基部分(NNNNNNで示される6塩基部分)は、XerCまたはXerDの結合領域ではないため、配列は特に限定されない。好ましくは、配列番号15〜21の12〜17番目の塩基(NNNNNNで示される6塩基部分)の配列は、配列番号22〜24の12〜17番目の塩基の配列に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を有するものであってもよい。
【0081】
XerCDタンパク質は、好ましくは大腸菌由来のXerCDタンパク質である。XerCDタンパク質は、反応液中1nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜200nM、5nM〜150nM、10nM〜200nM、10nM〜150nM、20nM〜200nM、20nM〜150nM、20nM〜100nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0082】
XerCDが認識する配列は、環状DNA上のいずれの位置に存在していてもよい。例えば、XerCDが認識する配列は、oriCに対して対極となる領域に存在していてもよく、oriCの近傍または隣接した領域に存在していてもよい。oriCの近傍または隣接した領域に存在する場合は、oriCとXerCDが認識する配列を機能性カセットとして調製できるため、oriCおよびXerCDが認識する配列のDNAへの導入が簡便になり、鋳型となる環状DNAの調製コストが低減されるという利点がある。
【0083】
本明細書において、2つの塩基配列の同一性%は、視覚的検査及び数学的計算によって決定することができる。また、コンピュータープログラムを用いて同一性%を決定することもできる。そのような配列比較コンピュータープログラムとしては、例えば、米国国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlから利用できるBLASTNプログラム(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-10):バージョン2.2.7、又はWU-BLAST2.0アルゴリズム等があげられる。WU-BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されているものを用いることができる。
【0084】
反応液中に含まれる第一、第二、及び第三の酵素群については、上記<第一、第二および第三の酵素群>の項目に記載した通りである。
【0085】
ある態様において、本願の方法に用いる第一の酵素群は、DnaA活性を有する酵素、1種以上の核様体タンパク質、DNAジャイレース活性を有する酵素または酵素群、一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素、DNAプライマーゼ活性を有する酵素、DNAクランプ活性を有する酵素、およびDNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素または酵素群、の組み合わせを含んでいてよい。ここにおいて、1種以上の核様体タンパク質はIHFまたはHUであってよく、DNAジャイレース活性を有する酵素または酵素群は、GyrAおよびGyrBからなる複合体であってよく、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素はDnaBヘリカーゼであってよく、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素はDnaCヘリカーゼローダーであってよく、DNAプライマーゼ活性を有する酵素はDnaGプライマーゼであってよく、DNAクランプ活性を有する酵素はDnaNクランプであってよく、そして、DNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素または酵素群は、DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、およびHolEのいずれかを含む酵素または酵素群であってよい。
【0086】
別の態様において、本発明の方法に用いる第二の酵素群は、DNAポリメラーゼI活性を有する酵素およびDNAリガーゼ活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。あるいは、第二の酵素群は、DNAポリメラーゼI活性を有する酵素、DNAリガーゼ活性を有する酵素、およびRNaseH活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。
【0087】
また別の態様において、本願の方法に用いる第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素および/またはトポイソメラーゼIV活性を有する酵素を含んでいてよい。あるいは、第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素およびRecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。あるいはまた、第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素、RecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素、およびトポイソメラーゼIV活性を有する酵素の組み合わせであってもよい。
【0088】
反応液は、緩衝液、ATP、GTP、CTP、UTP、dNTP、マグネシウムイオン源、およびアルカリ金属イオン源を含むものであってよい。
【0089】
反応液に含まれる緩衝液は、pH7〜9、好ましくはpH8、において用いるのに適した緩衝液であれば特に制限はない。例えば、Tris-HCl、Hepes-KOH、リン酸緩衝液、MOPS-NaOH、Tricine-HClなどが挙げられる。好ましい緩衝液はTris-HClである。緩衝液の濃度は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されないが、Tris-HClの場合、例えば10mM〜100mM、10mM〜50mM、20mMの濃度を選択できる。
【0090】
ATPは、アデノシン三リン酸を意味する。反応開始時に反応液中に含まれるATPの濃度は、例えば0.1mM〜3mMの範囲であってよく、好ましくは0.1mM〜2mM、0.1mM〜1.5mM、0.5mM〜1.5mMの範囲であってよい。
【0091】
GTP、CTPおよびUTPは、それぞれグアノシン三リン酸、シチジン三リン酸、およびウリジン三リン酸を意味する。反応開始時に反応液中に含まれるGTP、CTPおよびUTPの濃度は、それぞれ独立して、例えば0.1mM〜3.0mMの範囲であってよく、好ましくは0.5mM〜3.0mM、0.5mM〜2.0mMの範囲であってよい。
【0092】
dNTPは、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、およびデオキシチミジン三リン酸(dTTP)の総称である。反応開始時に反応液中に含まれるdNTPの濃度は、例えば0.01〜1mMの範囲であってよく、好ましくは0.05mM〜1mM、0.1mM〜1mMの範囲であってよい。
【0093】
マグネシウムイオン源は、反応液中にマグネシウムイオン(Mg
2+)を与える物質である。例えば、Mg(OAc)
2、MgCl
2、およびMgSO
4、などが挙げられる。好ましいマグネシウムイオン源はMg(OAc)
2である。反応開始時に反応液中に含まれるマグネシウムイオン源の濃度は、例えば、反応液中にマグネシウムイオンを5〜50mMの範囲で与える濃度であってよい。
【0094】
アルカリ金属イオン源は、反応液中にアルカリ金属イオンを与える物質である。アルカリ金属イオンとしては、例えばナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)が挙げられる。アルカリ金属イオン源の例として、グルタミン酸カリウム、アスパラギン酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および酢酸ナトリウム、が挙げられる。好ましいアルカリ金属イオン源はグルタミン酸カリウムである。反応開始時に反応液中に含まれるアルカリ金属イオン源の濃度は、反応液中にアルカリ金属イオンを100mM〜300mMの範囲で与える濃度であってよいが、これに限定されない。先行する出願との兼ね合いにおいては、上記のアルカリ金属イオン源の濃度から150mMが除かれてもよい。
【0095】
反応液はさらに、タンパク質の非特異吸着抑制剤または核酸の非特異吸着抑制剤を含んでいてもよい。好ましくは、反応液はさらに、タンパク質の非特異吸着抑制剤および核酸の非特異吸着抑制剤を含んでいてもよい。タンパク質の非特異吸着抑制剤及び/または核酸の非特異吸着抑制剤が反応液中に存在することで、タンパク質同士および/またはタンパク質と環状DNAの非特異吸着や、タンパク質および環状DNAの容器表面への付着を抑制することができ、反応効率の向上が期待できる。
【0096】
タンパク質の非特異吸着抑制剤とは、本願の方法における複製または増幅反応とは無関係なタンパク質である。そのようなタンパク質としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム、ゼラチン、ヘパリン、およびカゼインなどが挙げられる。タンパク質の非特異吸着抑制剤は反応液中、0.02〜2.0mg/mlの範囲、好ましくは0.1〜2.0mg/ml、0.2〜2.0mg/ml、0.5〜2.0mg/mlの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0097】
核酸の非特異吸着抑制剤とは、本願の方法における複製または増幅反応とは無関係な核酸分子または核酸類似因子である。そのような核酸分子または核酸類似因子としては、例えば、tRNA(トランスファーRNA)、rRNA(リボソーマルRNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、グリコーゲン、ヘパリン、オリゴDNA、poly(I-C)(ポリイノシン−ポリシチジン)、poly(dI-dC)(ポリデオキシイノシン−ポリデオキシシチジン)、poly(A)(ポリアデニン)、およびpoly(dA)(ポリデオキシアデニン)などが挙げられる。核酸の非特異吸着抑制剤は反応液中、1〜500ng/μlの範囲、好ましくは10〜500ng/μl、10〜200ng/μl、10〜100ng/μlの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。先行する出願との兼ね合いにおいては、核酸の非特異吸着抑制剤としてtRNAを選択する場合、tRNAの濃度から50ng/μlが除かれてもよい。
【0098】
反応液はさらに、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼまたはRecG型ヘリカーゼを含んでいてもよい。好ましくは、反応液はさらに、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼおよびRecG型ヘリカーゼを含んでいてもよい。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼおよび/またはRecG型ヘリカーゼが反応液中に存在することで、複製または増幅反応中に二重鎖切断などによって生じる直鎖状DNAの量を低減し、目的のスーパーコイル産物の収率向上が期待できる。
【0099】
直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの5’末端もしくは3’末端から逐次的に加水分解する酵素である。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの5’末端もしくは3’末端から逐次的に加水分解する活性を有する物であれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。例えば、RecBCD、λエキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼIII、エキソヌクレアーゼVIII、T5エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、およびPlasmid-Safe
TM ATP-Dependent DNase (epicentre)などを用いることができる。好ましい直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼはRecBCDである。直鎖状DNAエキソヌクレアーゼは反応液中、0.01〜1.0U/μlの範囲、好ましくは0.1〜1.0U/μlの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。直鎖状DNAエキソヌクレアーゼについての酵素活性単位(U)は、37℃、30分の反応において、直鎖状DNAの1nmolのデオキシリボヌクレオチドを酸可溶性とするのに必要な酵素量を1Uとした単位である。
【0100】
RecG型ヘリカーゼは、伸張反応の終結時に複製フォーク同士が衝突してできる副次的なDNA構造を解消するヘリケースと考えられている酵素である。RecG型ヘリカーゼは、大腸菌由来のRecGと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のRecGを好適に用いることができる。大腸菌由来のRecGは単量体として反応液中、100nM〜800nMの範囲、好ましくは100nM〜500nM、100nM〜400nM、100nM〜300nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。RecG型ヘリカーゼは、上記大腸菌由来のRecGについて特定された濃度範囲に酵素活性単位として相当する濃度範囲で用いることができる。
【0101】
反応液はさらに、アンモニウム塩を含んでいてもよい。アンモニウム塩の例としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および酢酸アンモニウムが挙げられる。特に好ましいアンモニウム塩は硫酸アンモニウムである。アンモニウム塩は反応液中、0.1mM〜100mMの範囲、好ましくは0.1mM〜50mM、1mM〜50mM、1mM〜20mMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0102】
第二の酵素群の一つとして、DNAリガーゼ活性を有する酵素として大腸菌由来のDNAリガーゼを用いる場合、その補因子であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が反応液中に含まれる。NADは反応液中、0.01mM〜1.0mMの範囲、好ましくは0.1mM〜1.0mM、0.1mM〜0.5mMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
【0103】
本発明の方法に用いる反応液はさらに、還元剤を含んでいてもよい。好ましい還元剤の例としては、DTT、β-メルカプトエタノール、およびグルタチオンが挙げられる。好ましい還元剤はDTTである。
【0104】
本発明の方法に用いる反応液はまた、ATPを再生するための酵素および基質を含んでいてもよい。ATP再生系の酵素と基質の組み合わせとしては、クレアチンキナーゼとクレアチンホスフェート、およびピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビン酸が挙げられる。ATP再生系の酵素としてはミオキナーゼが挙げられる。好ましいATP再生系の酵素と基質の組み合わせはクレアチンキナーゼおよびクレアチンホスフェート、である。
【0105】
上記工程(2)は、工程(1)において形成した反応混合物を反応させる工程である。工程(2)は、例えば、15℃〜80℃、15〜50℃、15℃〜40℃、の温度範囲で反応混合物を反応させる工程であってよい。好ましくは、工程(2)は、等温条件下で保温する工程であってもよい。等温条件としては、DNA複製反応が進行することのできるものであれば特に制限はないが、たとえばDNAポリメラーゼの至適温度である20℃〜80℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、25℃〜50℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、25℃〜40℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、30℃程度とすることができる。本明細書において「等温条件下で保温する」、「等温で反応させる」の用語は、反応中に上記の温度範囲に保つことを意味する。保温時間は、目的とする環状DNAの複製産物または増幅産物の量に応じて適宜設定することができるが、たとえば1〜24時間とすることができる。
【0106】
あるいは、上記工程(2)として、工程(1)において形成した反応混合物を、30℃以上でのインキュベーションおよび27℃以下でのインキュベーションを繰り返す温度サイクル下で、インキュベートする工程を含んでいてもよい。30℃以上でのインキュベーションは、oriCを含む環状DNAの複製開始が可能な温度範囲であれば特に限定はなく、例えば、30〜80℃、30〜50℃、30〜40℃、37℃であってよい。30℃以上でのインキュベーションは、特に限定されないが、1サイクルあたり10秒〜10分間であってもよい。27℃以下でのインキュベーションは、複製開始が抑制され、DNAの伸張反応が進行する温度であれば特に限定はなく、例えば、10〜27℃、16〜25℃、24℃、であってよい。27℃以下でのインキュベーションは、特に限定されないが、増幅する環状DNAの長さに合わせて設定することが好ましく、例えば1サイクルにつき、1000塩基あたり1〜10秒間であってもよい。温度サイクルのサイクル数は特に限定されないが、10〜50サイクル、20〜40サイクル、25〜35サイクル、30サイクルであってもよい。
【0107】
本願の方法は、上記反応混合物を等温条件下で保温する工程の後に、目的に応じて、環状DNAの複製産物または増幅産物を精製する工程を含んでもよい。環状DNAの精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
【0108】
本願の方法を用いて複製または増幅した環状DNAは、反応後の反応混合物をそのまま、あるいは適宜精製したものを、形質転換等のその後の目的に用いることができる。
【0109】
<環状DNAの複製方法(A’)>
XerCDとdifの組合せと同様に、Creとその認識配列loxPの組合せを用いてもDNAマルチマーの分離を導くことができることが知られている(Ip, S. C. Y., et al., EMBO J., 2003, 22:6399-6407)。本発明者らは、方法(A)におけるXerCDとdifの組合せの代わりに、DNAマルチマー分離酵素およびその認識配列の組合せを用いても、副生成物であるDNAマルチマーの生成を抑制できることを見出した。
【0110】
一態様において本願は、無細胞系における環状DNAの複製または増幅方法であって、以下の工程:
(1)鋳型となる環状DNAと、以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群、
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群、および
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群、
を含む反応液との反応混合物を形成する工程;および
(2)工程(1)において形成した反応混合物を反応させる工程;
を含み、
ここで当該環状DNAは、DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含み、そして、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、および/または、DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列、をさらに含み、
ここで当該環状DNAがter配列を有する場合、前記工程(1)の反応液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を有する場合、前記工程(1)の反応液はさらにDNAマルチマー分離酵素を含む、前記方法(以下、本明細書において「方法(A’)」と記載することがある)に関する。
【0111】
すなわち、方法(A')は、方法(A)における「XerCD」を「DNAマルチマー分離酵素」に、「XerCDが認識する塩基配列」を「DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列」にそれぞれ拡張した範囲の方法である。したがって、方法(A)の各構成について<環状DNAの複製方法(A)>の項目において記載した説明は、方法(A')に対しても適用される。
【0112】
DNAマルチマー分離酵素は、遺伝子の組換えを生じさせることにより、DNAマルチマーの分離を導くことができる酵素である。特定の塩基配列を認識して、当該塩基配列の部位で遺伝子の組換えを生じさせることができる部位特異的組換え酵素は、DNAマルチマー分離酵素として利用できる。DNAマルチマー分離酵素により認識される特定の塩基配列を、「DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列」と記載する。DNAマルチマー分離酵素およびDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列の組合せによる遺伝子の組み換えにより、DNAマルチマーの分離を導くことができる。方法(A’)においては、この機構を利用することにより、副産物であるDNAマルチマーの生成を抑制することが可能である。DNAマルチマー分離酵素は、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて生成したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出及び精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
【0113】
DNAマルチマー分離酵素と当該DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列の組合せは、XerCDとdif配列、CreとloxP配列(Siegel, R. W., et al.., FEBS Lett., 2001, 499(1-2): 147-153; Araki, K., et al., Nucleic Acids Res.: 1997, 25(4): 868-872)、出芽酵母(Saccharomyces verevisiae)由来の組換え酵素FLPとFRT配列(Broach, J. R., et al., Cell, 1982, 29(1):227-234)、バクテリオファージD6由来の組換え酵素DreOとrox配列(Anastassiadis, K., et al., Dis. Model. Mech., 2009, 2: 508-515)、チゴサッカロマイセス・ロキシー(zygosacchromyces rouxii)由来の組換え酵素RとRS配列(Araki, H., et al., J. Mol. Biol., 1985, 182(2): 191-203)、セリン組換え酵素ファミリー(例えば、Gin、γδ、Tn3、およびHin)とそれらの認識配列(Smith, M. C., et al., Mol. Microbiol., 2002, 44: 299)、が挙げられるがこれらに限定されない。
【0114】
XerCDとdif配列については、<環状DNAの複製方法(A)>の項目において上述したとおりである。
【0115】
Cre及びloxP配列の組合せについて、その生物学的由来に特に制限はない。Creは、好ましくはバクテリオファージP1由来のCreタンパク質である。Creは、反応液中0.01〜200mU/μlの範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.1〜150mU/μl、0.1〜100mU/μl、0.5〜100mU/μl、0.5〜80mU/μl、0.1〜50mU/μl、1〜50mU/μl、1〜30mU/μlの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。
【0116】
Creが認識するloxP配列は、loxPコンセンサスである5’−ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT−3’(配列番号30)、もしくは変異loxP配列(小文字部分はコンセンサスに対する変異塩基)である5’−ATAACTTCGTATAGtATACATTATACGAAGTTAT−3’(配列番号31/lox511)、5’−ATAACTTCGTATAGgATACtTTATACGAAGTTAT−3’(配列番号32/lox2272)、5’−ATAACTTCGTATAtacctttcTATACGAAGTTAT−3’(配列番号33/loxFAS)、5’−ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAcggta−3’(配列番号34/lox RE)、5’−taccgTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT−3’(配列番号35/lox LE)、またはそれらいずれかの相補配列を含む配列であってよい。
【0117】
出芽酵母(Saccharomyces verevisiae)由来の組換え酵素FLPは、反応液中1nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜200nM、5nM〜150nM、10nM〜200nM、10nM〜150nM、20nM〜200nM、20nM〜150nM、20nM〜100nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。FLPが認識するFRT配列は、5’−GAAGTTCCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTC−3’(配列番号36)、またはその相補配列を含む配列であってもよい。
【0118】
バクテリオファージD6由来の組換え酵素DreOは、反応液中1nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜200nM、5nM〜150nM、10nM〜200nM、10nM〜150nM、20nM〜200nM、20nM〜150nM、20nM〜100nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。DreOが認識するrox配列は、5’−TAACTTTAAATAATGCCAATTATTTAAAGTTA−3’(配列番号37)、またはその相補配列を含む配列であってもよい。
【0119】
チゴサッカロマイセス・ロキシー(zygosacchromyces rouxii)由来の組換え酵素Rは、反応液中1nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜200nM、5nM〜150nM、10nM〜200nM、10nM〜150nM、20nM〜200nM、20nM〜150nM、20nM〜100nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。酵素Rが認識するRS配列は、Araki, H.ら(J. Mol. Biol., 1985, 182(2): 191-203)が開示する配列、またはその相補配列を含む配列であってもよい。
【0120】
セリン組換え酵素ファミリー(γδ、Tn3、Gin、およびHin)は、反応液中1nM〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5nM〜200nM、5nM〜150nM、10nM〜200nM、10nM〜150nM、20nM〜200nM、20nM〜150nM、20nM〜100nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。γδ、Tn3とそれらの認識配列resは、Grindley N. D. F..ら(Cell, 1982, 30: 19-27)が開示する配列、またはその相補配列を含む配列であってもよい。Ginとその認識配列は、Kahmann. R.ら(Cell, 1985, 41: 771-780)が開示する配列、またはその相補配列を含む配列であってもよい。Hinとその認識配列は、Glasgow. A. C.ら(J. Biol. Chem., 1989, 264: 10072-10082)が開示する配列、またはその相補配列を含む配列であってもよい。
【0121】
DNAマルチマー分離酵素が認識する配列は、環状DNA状のいずれの位置に存在していてもよい。例えば、DNAマルチマー分離酵素が認識する配列は、oriCの近傍または隣接した領域に存在していてもよく、oriCに対して対極となる領域に存在していてもよい。
【0122】
<環状DNAの複製方法(B)>
一態様において本願は、無細胞系における環状DNAの複製または増幅方法であって、以下の工程:
(1)oriCトランスポゾンとトランスポゼースを緩衝液中に添加してoriCトランスポゾームを形成する、ここでoriCトランスポゾンはDnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含む線状DNAであってその両末端にOutside end (OE) 配列を含む線状DNAである;
oriCトランスポゾームとoriCを含まない環状DNAを緩衝液中で反応させて転移反応を行う;
ことにより、oriCを含む環状DNAを調製する工程;
(2)(1)で得られたoriCを含む環状DNAと、以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群、
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群、および
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群、
を含む反応液との反応混合物を形成する工程;および
(3)工程(2)において形成した反応混合物を反応させる工程;
を含む、前記方法(以下、本明細書において「方法(B)」と記載することがある)に関する。
【0123】
理論により制限されるものではないが、方法(B)はトランスポゾンを利用してoriCを含まない環状DNAにoriCを導入することによりoriCを含む環状DNAを調製し、当該oriCを含む環状DNAを複製または増幅するものである。概略図を
図2に示す。
図2において「トランポゾーム形成」、「転移反応」で示す工程が上記工程(1)に対応する。複製または増幅は、上記工程(2)および(3)において
図1に示す複製サイクルを通じて、またはこの複製サイクルを繰り返すことにより、環状DNAを複製または増幅する。環状DNAの複製および増幅についての定義は、方法(A)について上述したとおりである。
【0124】
反応液と混合するoriCを含む環状DNAについては、上記<環状DNA>の項目に記載した通りである。1反応あたりに用いるoriCを含む環状DNAの量は、方法(A)における鋳型DNAの量について上述したとおりである。
【0125】
また、反応液中に含まれる酵素群、反応液中に含まれてもよい他の成分についての説明は、方法(A)と同様である。さらに、上記工程(3)は、方法(A)における工程(2)と同様に行う。環状DNAの複製産物または増幅産物を精製する工程をさらに含むこと、および本願の方法を用いて複製または増幅した環状DNAの利用についても、方法(A)と同様である。
【0126】
oriCトランスポゾンの両端のOE配列は、トランスポゼースが認識し、OE配列として利用可能であることが当業者に知られた配列であればいかなる配列であってもよい。好ましい態様において、OE配列は、配列番号25(5’−CTGTCTCTTATACACATCT−3’)で示される配列またはその相補配列を含み、工程(1)の線状DNAの5’末端に配列番号25で示される配列を含むOE配列が挿入されており、当該線状DNAの3’末端に配列番号25で示される配列の相補配列を含むOE配列が挿入されている。
【0127】
上記工程(1)においてoriCトランスポゾーム形成に用いるoriCトランスポゾンの濃度は、20〜200nMであってもよく、好ましくは40〜160nMであってもよい。
【0128】
トランスポゼースは、OE配列を認識してトランスポゾームを形成し、環状DNA中にトランスポゾンDNAを転移させる酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のトランスポゼースを好適に用いることができる。特に好ましいのは高活性Tn5変異(E54K、L372P)タンパク質である(Goryshin, I. Y., and Reznikoff, W. S., J. Biol. Chem., 1998, 273: 7367-7374)。トランスポゼースは、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出および精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。トランスポゼースとして高活性Tn5変異(E54K、L372P)タンパク質を用いる場合、上記工程(1)においてoriCトランスポゾーム形成に用いる濃度は、50〜200nMであってもよく、好ましくは80〜150nMであってもよい。
【0129】
工程(1)で用いる緩衝液は、pH6〜9、好ましくはpH7.5、において用いるのに適した緩衝液であれば特に制限はない。例えば、Tris-酢酸、Tris-HCl、Hepes-KOH、リン酸緩衝液、MOPS-NaOH、Tricine-HClなどが挙げられる。好ましい緩衝液はTris-酢酸またはTris-HClである。緩衝液の濃度は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されないが、Tris-酢酸またはTris-HClの場合、例えば10mM〜100mM、10mM〜50mM、20mMの濃度を選択できる。
【0130】
工程(1)においてoriCトランスポゾームを形成する工程は、30℃程度の温度で30分程度保温することにより行う。
【0131】
工程(1)の転移反応は、トランスポゼースの至適温度、例えば37℃で行う。転移反応を行う時間は、当業者が適宜選択することができ、例えば15分程度であってもよい。また、工程(1)の転移反応において、tRNAを添加してもよい。工程(1)の転移反応においてtRNAを添加する濃度は、例えば、10〜200ng/μl、30〜100ng/μl、50ng/μlの濃度を選択できる。
【0132】
一態様において、工程(2)のoriCを含む環状DNAは、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、および/または、XerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列をさらに含んでいてもよい。この場合、当該環状DNAがter配列を有する場合、前記工程(2)の反応液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を有する場合、前記工程(2)の反応液はさらにXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素を含む。
【0133】
あるいは別の態様において、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、および/または、XerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を、oriCトランスポゾンの一部に含めるよう調製し、1対のter配列および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列についてもトランスポゾンを利用して環状DNAに導入してもよい。すなわち、この態様は、工程(1)の線状DNAがoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、および/または、XerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列、をさらに含み、そして当該線状DNAがter配列を有する場合、前記工程(2)の反応液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を有する場合、前記工程(2)の反応液はさらにXerCDタンパク質を含むものである。
【0134】
ここで、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列、ならびにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素についての定義および説明は、方法(A)または方法(A')について上述したとおりである。
【0135】
一態様において、方法(B)はさらに、(4)工程(3)の反応物において複製または増幅された環状DNAからoriCトランスポゾンを除去する工程、を含んでいてもよい。
【0136】
oriCトランスポゾンを除去する工程は、0.1〜30nM、好ましくは1〜20nM、より好ましくは3〜10nMのトランスポゼースによる処理、およびExoIIIのような直鎖状二重鎖DNA依存性1本鎖DNAエキソヌクレアーゼによるDNA末端の1本鎖化の処理を含んでいてもよい。トランスポゼースによる処理に用いる緩衝液は、工程(1)で用いる緩衝液を用いてもよい。1本鎖DNAエキソヌクレアーゼによる処理に用いられる緩衝液は、1本鎖DNAエキソヌクレアーゼが作用する条件であればいかなる組成の緩衝液を用いてもよい。
【0137】
また、oriCトランスポゾンを除去する工程は、さらに、oriCトランスポゾンの配列に含まれる制限酵素部位に対応する制限酵素による処理を含んでいてもよい。この処理は、oriCトランスポゾンを特異的に切断することを目的とする。よって、この場合、oriCトランスポゾンには含まれるが、複製・増幅された環状DNA中oriCトランスポゾン領域以外の領域には含まれない制限酵素部位に対応する制限酵素を選択する。oriCトランスポゾンに含まれる領域特異的な二重鎖切断には、制限酵素の代わりにCRISPR-Cas9を用いてもよい。この場合、ガイドRNAにはoriCトランスポゾンに含まれる領域特異的な配列を指定する。
【0138】
<機能性カセット(核酸)>
一態様において本願は、oriC、ならびに、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を含む核酸に関する。好ましくは、前記核酸は線状DNAであり、さらに好ましくは前記核酸は二重鎖核酸である。前記核酸の長さは、環状DNAの調製に利用できるものであれば特に限定されない。好ましい態様において前記核酸の長さは、273bp〜2.0kb、273bp〜1.5kb、または273bp〜1.0kbの長さである。前記核酸の最短の長さは273bpであるが、これはoriCが245bpであり、そして1対のter配列またはDNAマルチマー分離酵素認識配列の中でも最短のものであるdif配列が28bpであることから、これらを直接連結した場合の長さである。
【0139】
上記の核酸は、本願の方法(A)において鋳型となる環状DNAを調製するための機能性カセットとして利用できる。
【0140】
別の態様において本願は、oriC、ならびに、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を含み、そして両末端にOutside end (OE) 配列を含む核酸に関する。好ましくは、前記核酸は線状DNAであり、さらに好ましくは前記核酸は二重鎖核酸である。前記核酸の長さは、環状DNAの調製に利用できるものであれば特に限定されない。好ましい態様において前記核酸の長さは、311bp〜2.0kb、311bp〜1.5kb、または311bp〜1.0kbの長さである。前記核酸の最短の長さは311bpであるが、これはoriCが245bpであり、1対のter配列またはDNAマルチマー分離酵素認識配列の中でも最短のものであるdif配列が28bpであり、そしてOE配列が2つで38bpであることから、これらを直接連結した場合の長さである。
【0141】
上記の核酸は、本願の方法(B)においてoriCトランスポゾンとしてはたらく機能性カセットとして利用できる。
【0142】
ここで、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列、ならびにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素についての定義および説明は、方法(A)および方法(A')について上述したとおりである。
【0143】
上記の機能性カセットは、方法(A)、(A’)および(B)の鋳型となるoriCを含む環状DNAの調製コストが低減される点で有用である。
【0144】
<キット>
一態様において本願は、環状DNAの複製または増幅用キットであって、
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群;
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群;
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群;
oriC、ならびに、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列および/またはXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を含む線状DNA;および
当該線状DNAがter配列を有する場合、ter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質、および/または、当該線状DNAがXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を有する場合、当該配列に対応するXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素;
の組み合わせを含む、前記キット(以下、本明細書において「キット(A)」と記載することがある)に関する。キット(A)は、本願の方法(A)または(A’)を行うためのキットである。
【0145】
本発明のキット(A)に含まれる各構成品についての具体的な成分および濃度については、上記<第一、第二、第三の酵素群>、<環状DNAの増幅方法(A)>、<環状DNAの増幅方法(A’)>の項目において記載した通りである。
【0146】
別の態様において本願は、環状DNAの複製または増幅用キットであって、
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群;
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群;
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群;
oriCトランスポゾン、ここでoriCトランスポゾンはDnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含む線状DNAであってその両末端にOutside end (OE) 配列を含む線状DNAである;および
トランスポゼース;
の組み合わせを含む、前記キット(以下、本明細書において「キット(B)」と記載することがある)に関する。キット(B)は、本願の方法(B)を行うためのキットである。
【0147】
ある態様において、キット(B)におけるoriCトランスポゾンは、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、および/または、XerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列、をさらに含んでいてもよい。この場合、キット(B)は、ter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質、および/または、oriCトランスポゾンに挿入されたDNAマルチマー分離酵素が認識する配列に対応するDNAマルチマー分離酵素、をさらに含んでいてもよい。
【0148】
本発明のキット(B)に含まれる各構成品についての具体的な成分および濃度については、上記<第一、第二、第三の酵素群>、<環状DNAの増幅方法(B)>の項目において記載した通りである。
【0149】
本願のキット(A)および(B)は、上記の構成品を1つのキットにすべて含むものであってもよく、また、本願の方法に利用する目的のためのキットであれば、上記の構成品の一部を含まないものであってもよい。上記の構成品の一部を含まないキットである場合、実施者が、増幅時に必要な成分を、当該キットに追加して、それぞれ本願の増幅方法(A)および(B)を実施することができる。
【0150】
本願のキット(A)および(B)は、さらに、タンパク質の非特異吸着抑制剤、核酸の非特異吸着抑制剤、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ、RecG型ヘリカーゼ、アンモニウム塩、NAD、還元剤、ならびに、ATP再生系の酵素および基質の組み合わせ、から選択される1以上の成分を含む追加の構成品を含んでいてもよい。追加の構成品は、1つのキットとして本願のキットに含まれていてもよく、または本願のキットとともに使用することを前提とした別のキットとして提供されてもよい。
【0151】
本願のキット(A)および(B)は、上記構成品の混合物を1つに包装したものを含むものであってもよいが、上記構成品を個別に、あるいは数種類ずつまとめて混合したものを別個に包装したものを含むものであってよい。本願のキット(A)および(B)はまた、それぞれ本願の環状DNAの増幅方法(A)および(B)を実施するための指示が記載された説明書を含むものであってもよい。
【実施例】
【0152】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の範囲に限定されるものではない。
【0153】
実施例1:終結配列terとTusタンパク質を利用したDNAマルチマー抑制を伴う環状DNAの複製
<材料と方法>
鋳型となる環状DNAを次のように調製した。M13mp18プラスミドベクターにoriC断片を挿入し、8.0 kb環状DNAとした。この8.0 kb環状DNAにおけるoriCと対極となる領域に、2つの向かい合うter配列(下線)を含むDNA断片((5’−ACTT
TAGTTACAACATACTTATT-N
176-AATAA
GTATGTTGTAACTAAAGT−3’(配列番号26))を挿入し、ter挿入8.0 kb環状DNAとした(
図3(a))。ter挿入8.0 kb環状DNAを鋳型DNAとして用い、8.0 kb環状DNAはter配列を含まない対照DNAとして用いた。
【0154】
Tusは、Tusの大腸菌発現株から、アフィニティーカラムクロマトグラフィーおよびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で生成し、調製した。
【0155】
表1に示す組成の反応液、および表1に示す組成に加えてTusを終濃度が2nMまたは5nMとなるように添加した反応液、を調製した。これらの反応液のそれぞれに鋳型DNAまたは対照DNAを終濃度が0.8 ng/μlとなるように添加して氷上で混合した後、30℃のインキュベータで1時間保温し、反応させた。1反応あたりの総容量は10マイクロリットルとなるようにした。反応液に[α−
32P]dATPを添加しておき、DNA複製反応後、反応液の一部をアガロースゲル電気泳動(0.5% 1×TAE、150 V、100分間、14℃)した後、BASイメージングプレートにて
32P取り込み産物を検出し、目的のスーパーコイル構造産生を確認した。
【0156】
【表1】
【0157】
表中、SSBは大腸菌由来SSB、IHFは大腸菌由来IhfAおよびIhfBの複合体、DnaGは大腸菌由来DnaG、DnaNは大腸菌由来DnaN、PolIII*は大腸菌由来DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、およびHolEのからなる複合体であるDNAポリメラーゼIII*複合体、DnaBは大腸菌由来DnaB、DnaCは大腸菌由来DnaC、DnaAは大腸菌由来RNaseH、Ligaseは大腸菌由来DNAリガーゼ、PolIは大腸菌由来DNAポリメラーゼI、GyrAは大腸菌由来GyrA、GyrBは大腸菌由来GyrB、Topo IVは大腸菌由来ParCおよびParEの複合体、Topo IIIは大腸菌由来トポイソメラーゼIII、RecQは大腸菌由来RecQを表す。
【0158】
SSBは、SSBの大腸菌発現株から、硫安沈殿およびイオン交換カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0159】
IHFは、IhfAおよびIhfBの大腸菌共発現株から、硫安沈殿およびアフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0160】
DnaGは、DnaGの大腸菌発現株から、硫安沈殿、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0161】
DnaNは、DnaNの大腸菌発現株から、硫安沈殿および陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0162】
PolIII*は、DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQおよびHolEの大腸菌共発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0163】
DnaB, DnaCは、DnaBおよびDnaCの大腸菌共発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0164】
DnaAは、DnaAの大腸菌発現株から、硫安沈殿、透析沈殿、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0165】
GyrA, GyrBは、GyrAの大腸菌発現株とGyrBの大腸菌発現株の混合物から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0166】
Topo IVは、ParCの大腸菌発現株とParEの大腸菌発現株の混合物から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0167】
Topo IIIは、Topo IIIの大腸菌発現株から、硫安沈殿およびアフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0168】
RecQは、RecQの大腸菌発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0169】
RNaseH、Ligase、PolIは市販の大腸菌由来の酵素を用いた(タカラバイオ株式会社)。
【0170】
<結果>
複製産物の検出結果を
図3に示す。
【0171】
ter挿入8.0 kb環状DNAを鋳型として用い、かつ反応液中にTusを含む場合は、副産物であるマルチマーの生成を抑制しつつ、目的のスーパーコイル構造の環状DNAが複製ないし増幅されることが確認できた。一方、ter配列を含まない8.0kb環状DNAを鋳型として用いた場合、および、反応液中にTusを含まない場合は、目的のスーパーコイル構造の環状DNAの生成が観察されたが、副産物であるマルチマーの生成も観察された。
【0172】
Tus-terシステムは、環状染色体において複製終結を行う機構である。本実施例に示す実験結果は、環状DNAの複製・増幅反応にこのシステムを組み込むことにより、非特異的なDNAマルチマーの生成を抑えることが可能であることが確認された。
【0173】
実施例2:部位特異的組換え配列difとXerCDを利用したDNAマルチマー抑制を伴う環状DNAの複製
<材料と方法>
鋳型となるdif挿入12 kb環状DNAは、環状DNAのoriCと対極となる領域にdif配列(配列番号22)を含むよう、大腸菌細胞内組換え反応によって調製した(
図4(a))。具体的には、λファージの組換えタンパク質群を発現している大腸菌を用い、細胞内組換え反応によって、oriCとカナマイシン耐性遺伝子を含むカセットと大腸菌染色体のdif上流側4.2kb領域および下流側6.0 kb領域とを含む、目的の長さの環状DNAを調製した。
【0174】
dif配列を含まない対照DNAとして、実施例1に記載の8.0 kb環状DNAを用いた。
【0175】
XerCDは、XerCおよびXerDの大腸菌共発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0176】
実施例1の表1に示す組成の反応液、および表1に示す組成に加えてXerCDを終濃度が3.5nM、7nM、14nM、または35nMとなるように添加した反応液、を調製した。これらの反応液のそれぞれに鋳型DNAまたは対照DNAを終濃度が0.8 ng/μlとなるように添加して氷上で混合した後、30℃のインキュベータで1時間保温し、反応させた。1反応あたりの総容量は10マイクロリットルとなるようにした。反応液に[α−
32P]dATPを添加しておき、実施例1と同様に、反応後の副生産物を検出し、その構造を確認した。
【0177】
<結果>
複製産物の検出結果を
図4(b)に示す。
【0178】
dif挿入12 kb環状DNAを鋳型として用い、かつ反応液中にXerCDを含む場合は、副産物であるマルチマーの生成を抑制しつつ、目的のスーパーコイル構造の環状DNAが複製ないし増幅されることが確認できた。一方、dif配列を含まない8.0kb環状DNAを鋳型として用いた場合、および、反応液中にXerCDを含まない場合は、目的のスーパーコイル構造の環状DNAの生成が観察されたが、副産物であるマルチマーの生成も観察された。
【0179】
XerCD-difシステムは、環状染色体において染色体分離を行う機構である。すなわち、XerCD-difシステムは、DNAマルチマーの分離を行う機構である。本実施例に示す実験結果は、環状DNAの複製・増幅反応にこのシステムを組み込むことにより、非特異的なDNAマルチマーの生成を抑えることが可能であることが確認された。
【0180】
実施例3:環状DNAにおけるter配列またはdif配列の位置による影響
実施例1および2においては、ter配列またはdif配列は環状DNAにおけるoriCと対極となる領域に位置するよう、鋳型DNAを調製した。実施例3においては、ter配列またはdif配列をoriCの近傍にまたは隣接した位置に配置した環状DNAについて、複製・増幅反応を行った。
【0181】
<材料と方法>
15 kb環状DNA構築のため、大腸菌ゲノムを鋳型にoriCを含まない15kb DNA断片を増幅し、調製した。
【0182】
oriCの近傍の位置にter配列を配置した環状DNAとして、15kb-ori-ter環状DNAを次のように調製した。上記の15kb DNA断片に、ori-terカセットを連結し、環状化して作成した(
図5)。ori-terカセット(0.38 kb)の配列は次の通りであり、oriCカセット(小文字)の両端に外向きのter配列(下線)を有する。
ori-terカセット:5’−
AGTATGTTGTAACTAAAGATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATacagatcgtgcgatctactgtggataactctgtcaggaagcttggatcaaccggtagttatccaaagaacaactgttgttcagtttttgagttgtgtataacccctcattctgatcccagcttatacggtccaggatcaccgatcattcacagttaatgatcctttccaggttgttgatcttaaaagccggatccttgttatccacagggcagtgcgatcctaataagagatcacaatagaacagatctctaaataaatagatcttctttttaatacccaggatccATTTAACATAATATACATTATGCGCAC
CTTTAGTTACAACATACT−3’(配列番号27)
【0183】
oriCの近傍の位置にdif配列を配置した環状DNAとして、15kb-ori-dif環状DNAを次のように調製した。上記の15kb DNA断片に、ori-difカセットを連結、環状化して作成した(
図5)。ori-difカセット(0.32 kb)の配列は次の通りであり、oriCカセット(小文字)の上流側に隣接してdif配列(下線)を有する。
ori-difカセット:5’−
ATTTAACATAATATACATTATGCGCACCAAGTATacagatcgtgcgatctactgtggataactctgtcaggaagcttggatcaaccggtagttatccaaagaacaactgttgttcagtttttgagttgtgtataacccctcattctgatcccagcttatacggtccaggatcaccgatcattcacagttaatgatcctttccaggttgttgatcttaaaagccggatccttgttatccacagggcagtgcgatcctaataagagatcacaatagaacagatctctaaataaatagatcttctttttaatacccaggatcc−3’(配列番号28)
【0184】
terおよびTusに依存したDNAマルチマー生成抑制を検討するために、以下の表2に示す組成に加えて、Tusを終濃度が0、2、6、20、または60nMとなるように添加した反応液に、環状DNAを終濃度が0.5ng/μl、5pg/μl、50fg/μl、または0.5fg/μlになるように加え、30℃で3時間または17時間反応させた。
【0185】
XerCDによるDNAマルチマー生成抑制を検討するために、以下の表2に示す組成に加えて、XerCDを終濃度が0、30、または60nMとなるように添加下反応液に、環状DNAを終濃度が0.5ng/μlとなるように加え、30℃で2時間反応させた。
【0186】
反応物について、アガロースゲル電気泳動(0.5% 1×TBE、60V、60分間)を行い、SybrGreen I(タカラバイオ株式会社)で染色し、DNAを検出した。
【0187】
【表2】
【0188】
表中の各酵素は、実施例1に記載した酵素と同じものであり、実施例1に記載した方法により調製または入手した。
【0189】
<結果1> terおよびTusに依存したDNAマルチマー生成抑制
(1)Tusタイトレーション
複製・増幅産物の検出結果を
図6に示す。鋳型DNA量は0.5ng/μlであり、
図6に示すとおりの量のTusを用い、反応は30℃で3時間行った。
【0190】
15kb-ori-ter環状DNAを鋳型として用い、かつ反応液中にTusを含む場合、副産物であるマルチマーの生成を抑制しつつ、目的のスーパーコイル構造の環状DNAが複製ないし増幅されることが確認できた。また、反応液中のTusの濃度を高めていくことで、マルチマーの生成を抑制する効果は高くなった。具体的には、Tusを20nMまたは60nM存在させた場合には、マルチマーの生成はほとんど確認できないレベルまで低減された。
【0191】
一方、15kb-ori-dif環状DNAを鋳型として用い、かつ反応液中にTusを含む場合は、マルチマー生成を抑制する効果は観察されなかった。これは、マルチマー生成抑制効果に、Tus-terシステムが寄与していることを示している。
【0192】
また、上記の結果は、鋳型となる環状DNAにおいてter配列がoriCの近傍または隣接した位置に配置した場合であっても、DNAマルチマー生成抑制効果が得られることを示している。すなわち、ter配列の環状DNAにおける挿入位置はDNAマルチマー生成抑制効果に影響を与えない。
【0193】
(2)DNAタイトレーション
複製・増幅産物の検出結果を
図7に示す。
図7に示すとおりの量の鋳型DNAおよびTusを用い、反応は30℃で17時間行った。
【0194】
15kb-ori-ter環状DNAを鋳型として用い、かつ反応液中にTusを含む場合、副産物であるマルチマーの生成を抑制しつつ、目的のスーパーコイル構造の環状DNAが複製ないし増幅されることが確認できた。特に、鋳型DNA量を0.5fg/μlまで減少させても、この効果が観察できることを確認した。
【0195】
<結果2> XerCDによるDNAマルチマー生成抑制
複製・増幅産物の検出結果を
図8に示す。鋳型DNA量は0.5ng/μlであり、
図8に示すとおりの量のXerCDを用い、反応は30℃で2時間行った。
【0196】
15kb-ori-dif環状DNAを鋳型として用い、かつ反応液中にXerCDを含む場合、副産物であるマルチマーの生成を抑制しつつ、目的のスーパーコイル構造の環状DNAが複製ないし増幅されることが確認できた。また、反応液中のXerCDの濃度を高めていくことで、マルチマーの生成を抑制する効果は高くなった。
【0197】
また、上記の結果は、鋳型となる環状DNAにおいてdif配列がoriCの近傍または隣接した位置に配置した場合であっても、DNAマルチマー生成抑制効果が得られることを示している。すなわち、dif配列の環状DNAにおける挿入位置はDNAマルチマー生成抑制効果に影響を与えない。
【0198】
上記結果1および2より、ter配列およびdif配列はoriCに隣接してまたはその近傍に配置しても効率よく機能し、DNAマルチマー生成を抑制した。ter配列およびdif配列をoriCの近傍に配置できることは、これらの配列をoriCとともに機能性カセットとして環状DNAの構築に利用できることを意味する。
【0199】
実施例4:トランスポゾンを利用したoriCカセット導入(1)
本願の方法による環状DNAの複製ないし増幅のためには、鋳型となる環状DNAにoriCを導入する必要がある。実施例4では、oriCカセットをトランスポゾンを利用して導入することを検討した(
図2)。
【0200】
<材料と方法>
トランスポゼース(Tnp)として、高活性Tn5変異(E54K, L372P)タンパク質を用いた。このタンパク質は大腸菌発現株から硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
【0201】
oriCトランスポゾンとして、oriCを含む配列の両端にOutside end (OE) 配列(下線)を有する次の配列からなるDNA断片を5’リン酸化して用いた。
oriCトランスポゾン:5’−
CTGTCTCTTATACACATCTgaagatccggcagaagaatggctgggatcgtgggttaatttactcaaataagtatacagatcgtgcgatctactgtggataactctgtcaggaagcttggatcaaccggtagttatccaaagaacaactgttgttcagtttttgagttgtgtataacccctcattctgatcccagcttatacggtccaggatcaccgatcattcacagttaatgatcctttccaggttgttgatcttaaaagccggatccttgttatccacagggcagtgcgatcctaataagagatcacaatagaacagatctctaaataaatagatcttctttttaatacccaggatcccaggtctttctcaagccgac
AGATGTGTATAAGAGACAG−3’(配列番号29)
【0202】
oriC転移反応は、116 nM Tnpと48 nM oriCトランスポゾンをバッファー(10 mM Tris-酢酸 [pH 7.5]、15% glycerol、50 mM グルタミン酸カリウム、1 mM DTT、0.1 mM EDTA)中で30℃、30分間保温し、oriCトランスポゾームとした。oriCトランスポゾーム(0.5μl)とターゲットDNA(10fM)とをバッファー(5μl;10 mM Tris-HCl [pH 7.5]、150 mM グルタミン酸カリウム、10 mM Mg(oAc)
2)中で37℃、15分間保温し転移反応を行なった。ターゲットDNAとして、15 kbの大腸菌遺伝子発現プラスミドあるいは高度好熱菌サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)HB8株から抽出した9.3 kbプラスミド(pTT8プラスミド)を用いた。その後70℃、5分間の熱失活処理を行った。
【0203】
実施例3の表2に示した組成の反応液に、上記のoriC転移反応の反応混合物の一部(0.5μl)を加え、30℃で3時間反応させた。反応物について、アガロースゲル電気泳動(0.5% 1×TBE、60 V、60分間)を行い、SybrGreen(タカラバイオ株式会社)で染色し、DNAを検出した。
【0204】
<結果>
ターゲットDNAとして、15 kbの大腸菌遺伝子発現プラスミドを用いた場合の結果を
図9に、高度好熱菌サーマス・サーモフィルスHB8株から抽出した9.3 kbプラスミド(pTT8プラスミド)を用いた場合の結果を
図10に示す。
【0205】
Tnpを存在させたoriC転移反応の反応混合物の一部を、環状DNAの複製・増幅方法に用いた場合、複製産物/増幅産物であるスーパーコイルの産生が確認された。一方、oriC転移反応においてTnpが存在しない場合は、環状DNAの複製・増幅方法を行っても複製産物/増幅産物は確認されなかった。
【0206】
また、上記の結果は特に、10fM(0.1pg/μl)という非常に低濃度のターゲットDNAに対してもoriCを効率よく導入でき、そして本願の環状DNAの複製・増幅方法により増幅可能であったことを示している。このことは、oriCカセットをトランスポゾン化することで、容易かつ高効率にターゲットDNAにoriCの導入が達成され、そしてそのようにして得られたoriCを含む環状DNAについても本願の環状DNAの複製・増幅方法により効率的に増幅されることを示すものである。
【0207】
実施例5:トランスポゾンを利用したoriCカセット導入(2)
トランスポゼース(Tnp)及びoriCトランスポゾンは、実施例4と同じものを使用した。
【0208】
oriC転移反応は、116 nM Tnpと144 nM oriCトランスポゾンをバッファー(10 mM Tris-酢酸 [pH 7.5]、15% glycerol、50 mM グルタミン酸カリウム、1 mM DTT、0.1 mM EDTA)中で30℃、30分間保温し、oriCトランスポゾームとした。oriCトランスポゾーム(0.5μl)、ターゲットDNA(1 pM(50pg(3×10
6分子)/5μl)、及びtRNA(50ng/μl)をバッファー(5μl;10 mM Tris-HCl [pH 7.5]、150 mM グルタミン酸カリウム、10 mM Mg(oAc)
2)中で37℃、15分間保温し転移反応を行なった。ターゲットDNAとして、15 kbの大腸菌遺伝子発現プラスミドを用いた。その後70℃、5分間の熱失活処理を行った。
【0209】
実施例3の表2に示した組成の反応液5μlに、上記のoriC転移反応の反応混合物の一部(0.5μl)を加え、30℃で4時間反応させた。反応物について、アガロースゲル電気泳動(0.5% 1×TBE、60 V、55分間)を行い、SybrGreen I(タカラバイオ株式会社)で染色し、DNAを検出した。結果を
図11に示す。実施例4と同様、Tnpを存在させたoriC転移反応の反応混合物の一部を、環状DNAの複製・増幅反応に用いた場合、複製産物/増幅産物であるスーパーコイルの産生が確認された。一方、oriC転移反応においてTnpが存在しない場合は、環状DNAの複製・増幅反応を行っても複製産物/増幅産物は確認されなかった。
【0210】
また、oriC転移反応において、ターゲットDNAの添加量を、1 pM(50pg(3×10
6分子)/5μl)、0.1 pM(5pg(3×10
5分子)/5μl)、10 fM(500fg(3×10
4分子)/5μl)、及び1 fM(50fg(3×10
3分子)/5μl)に変化させて、上記と同様の反応を行った。結果を
図12に示す。この結果は、1fM(50fg(3000分子)/5μl)という非常に低濃度のターゲットDNAに対してもoriCを効率よく導入でき、そして本願の環状DNAの複製・増幅方法により増幅可能であったことを示している。
【0211】
実施例6:oriCトランスポゾン転移による好熱菌プラスミドの増幅
oriC転移反応においてターゲットDNAとして高度好熱菌サーマス・サーモフィルスHB8株から抽出した9.3 kbのプラスミド(pTT8プラスミド)を50 fg用いたほかは、実施例5と同様にoriC転移反応および環状DNAの複製・増幅反応を行った。結果を
図13に示す。
【0212】
pTT8プラスミドをKpn I及びNhe Iで消化すると、
図14のプラスミドマップで表されるように、5.3 kb、1.7 kb、1.3 kbおよび1.0 kbの断片が生じる。上記反応による複製産物/増幅産物を、制限酵素であるKpn I及びNhe Iで消化した。結果を
図14に示す。上記反応による複製産物/増幅産物をKpn I及びNhe Iで消化すると、pTT8プラスミドと同様に、5.3 kb、1.7 kb、1.3 kb、および1.0 kbの断片が確認された。このことは、上記反応による複製産物/増幅産物が、pTT8プラスミドに対してoriCトランスポゾン転移した環状DNAが複製・増幅されたものであることを示している。
【0213】
これらの結果は、GC含有率の高い(GC含有率約70%)かつ異種細胞由来の9.3 kbプラスミドを用いた場合も、実施例5と同様、非常に低濃度のターゲットDNAに対してもoriCを効率よく導入でき、そして本願の環状DNAの複製・増幅方法により増幅可能であったことを示している。
【0214】
実施例7:oriCトランスポゾン転移によるλDNAの増幅
λDNAは、バクテリオファージ由来の直鎖状DNAである。これを環状化し、oriCトランスポゾン転移によりoriCを導入した環状DNAを調製して、本願の環状DNAの複製・増幅方法を行った。
【0215】
(1)
アニーリングおよびギャップリペア反応
アニーリング反応を以下のように行った。λDNA(48kb/東洋紡)160ng/μlを、バッファー(10 mM Tris-HCL (pH 7.5), 50 mM NaCl, 1 mM EDTA)中に加えて、5μlの溶液を得た。この溶液を、65℃で5分間保温した後、−0.5℃/30秒の降温速度で4℃まで冷却し、λDNAの両末端のCOS部位を連結し環状化した。
【0216】
ギャップリペア反応を以下のように行った。アニーリング反応後の溶液0.5μlを、50 nM リガーゼ、50 nM Pol I、20mU/μl Exo III、5 nM Gyrase、0.1 mg/ml BSAを含む反応液(反応バッファーとして、表2に示した組成の反応バッファー(すなわち、表2の酵素群は含まない反応バッファー)を用いた)に加えて、30℃で16時間反応させた。
【0217】
ギャップリペア反応の反応物について、アガロースゲル電気泳動(0.5% 1×TBE、60 V、55分間)を行い、SybrGreen I(タカラバイオ株式会社)で染色し、DNAを検出した。結果を
図15に示す。ギャップリペア反応を行った反応物において、ギャップのない環状化されたDNAの存在を示すスーパーコイルのバンドが観察された。
【0218】
(2)
oriCトランスポゾン転移とλDNAの増幅
ギャップリペア反応の反応物1μlをターゲットDNAを含む溶液として用い、実施例5と同様にoriC転移反応及び環状DNAの複製・増幅反応を行った。ここで、環状DNAの複製・増幅反応に際しては、実施例3の表2に示した組成の反応液に、さらに60 nM RecG及び0.5U/μlのRecJf(NEB社)を加えたものを用いた。RecGは、RecGの大腸菌発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で生成し、調製した。結果を
図16に示す。
【0219】
λDNAを制限酵素HindIIIで消化すると、27 kb、9.4 kb、6.6 kb、2.3 kbおよび2.0 kbの断片が生じる。上記反応による複製産物/増幅産物を、制限酵素であるHindIIIで消化した(37℃、3時間)。結果を
図17に示す。上記反応による複製産物/増幅産物をHindIIIで消化すると、λDNAと同様に、27 kb、9.4 kb、6.6 kb、2.3 kbおよび2.0 kbの断片が確認された。このことは、上記反応による複製産物/増幅産物が、λDNAが環状化されたDNAに対してoriCトランスポゾン転移した環状DNAが複製・増幅されたものであることを示している。
【0220】
これらの結果は、直鎖状DNAについても、環状化した後にoriC転移反応を行うことで、本願の環状DNAの複製・増幅反応を利用できることを示している。
【0221】
実施例8:oriCトランスポゾンの除去(1)
oriC転移反応により環状DNAに導入されたoriCを除去できるかどうかを検討した。
【0222】
(1)
環状DNA
実施例5のoriCトランスポゾンは、カナマイシン(Km)耐性遺伝子およびoriCを含む。一方、15 kbの大腸菌遺伝子発現プラスミドは、アンピシリン(Amp)耐性遺伝子を含んでいる。実施例5のoriC転移反応により得られたプラスミドのうち、15 kbの大腸菌遺伝子発現プラスミドのアンピシリン耐性遺伝子をコードする領域にoriCトランスポゾンが転移された環状DNA(p15k::Km-oriC、と表記する)を選抜・回収した。具体的には、実施例5のoriC転移反応により得られたプラスミドを大腸菌に形質転換し、Amp感受性、Km耐性となった形質転換体をスクリーニングすることにより、クローニングした。
【0223】
(2)
oriCトランスポゾンの脱落
oriC転移反応により転移されたoriCトランスポゾンに相当する領域はトランスポゼースにより脱落させる。また、oriC転移反応によりoriCトランスポゾンが転移される際にoriCトランスポゾンの両端に9bpの領域が重複して形成されるので、oriCトランスポゾンの除去にあたっては、連結後に、この9bpの領域が重複して存在しないように処理する必要がある。oriCトランスポゾンが抜き出されて生じた9bp領域を含むDNA末端について、直鎖状二重鎖DNA依存性1本鎖DNAエキソヌクレアーゼであるExo IIIを用いた末端部分の1本鎖化を行う。その後、9bp領域の重複部分を利用して1本鎖同士のアニーリングを行い環状化を導く。
図18に模式図を示す。
【0224】
具体的には、以下の反応を行った。
【0225】
oriCトランスポゾン脱落反応は、0〜30nM(0nM、3nM、10nM及び30nM)トランスポゼース、及び2ng/μl p15k::Km-oriCをバッファー(5μl;10 mM Tris-HCl [pH 7.5]、150 mM グルタミン酸カリウム、10 mM Mg(oAc)
2)中で、37℃、16時間保温することで行った。その後70℃、5分間の熱失活処理を行った。
【0226】
oriCトランスポゾン脱落反応物1μlに、Takara ExoIIIバッファー(50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 5 mM MgCl
2、1 mM DTT)、ExoIII (Takara) 20mU/μlを加えて、最終体積を5μlとした。この混合物を30℃で10分間反応させてExoIIIによる処理を行った。
【0227】
ExoIIIで処理した反応物を、65℃で5分間保温した後、−0.5℃/30秒の降温速度で4℃まで冷却してアニーリングした。
【0228】
(3)
形質転換によるoriCトランスポゾン脱落の確認
上記(2)で得られた試料2μlと、ケミカルコンピテント細胞(大腸菌DH5α)50を、用いて大腸菌を形質転換した。
アンピシリン 100μg/ml、カナマイシン 25μg/mlを含むプレートに形質転換細胞を播種し、37℃で一晩インキュベートした。
【0229】
上記(2)でトランスポゼースを添加しなかったとき(0nM)のコロニー形成を100として、トランスポゼースの濃度を変化させた場合の相対コロニー形成ユニット(%)を算出した。
【0230】
(4)
結果
結果を
図19および
図20に示す。
【0231】
図19の結果より、カナマイシン耐性の形質転換細胞は、加えたトランスポゼースの濃度に応じて減少することが明らかとなった。トランスポゼースを30nM添加すると、カナマイシン耐性の形質転換細胞はほとんど存在しなくなった。このことは、トランスポゼースの添加により、oriCトランスポゾンを脱落させることができることを示している。
【0232】
また、
図20の結果より、ExoIII処理に依存して、oriCトランスポゾンの挿入によって一旦破壊されたアンピシリン遺伝子が復帰できることが明らかとなった。
【0233】
実施例9:oriCトランスポゾンの除去(2)
ExoIII処理と並行して、oriCトランスポゾンの配列に含まれる制限酵素部位に対応する制限酵素による処理を並行して行うことを検討した。模式図を
図21に示す。
【0234】
(1)
環状DNA
実施例8と同じ環状DNAを用いた。
【0235】
(2)
oriCトランスポゾンの脱落
oriCトランスポゾン脱落反応は、10nM トランスポゼースを用いた他は、実施例8と同様に行った。
【0236】
oriCトランスポゾン脱落反応物1μlに、Takara ExoIIIバッファー(50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 5 mM MgCl
2、1 mM DTT)、ならびに、ExoIII (Takara) 20mU/μlのみ、又はExoIII (Takara) 20mU/μl及びNheI (NEB) 0.6U/μlを加えて、最終体積を5μlとした。この混合物を30℃で10分間反応させてExoIIIによる処理を行った。
【0237】
ExoIIIおよびNheIで処理した反応物を、65℃で5分間保温した後、−0.5℃/30秒の降温速度で4℃まで冷却してアニーリングした。
【0238】
(3)
形質転換によるoriCトランスポゾン脱落の確認
実施例8と同様に形質転換した。コロニー形成ユニットを算出した。
【0239】
(4)
結果
結果を表3に示す
【0240】
【表3】
【0241】
この結果は、トランスポゾンDNA部位を制限酵素(NheI)で切断することにより、環状DNAよりトランスポゼースで脱落しなかったトランスポゾン含有プラスミドがバックグラウンドとして残留する問題を減少させることが可能であることを示している。
【0242】
実施例10:CreによるDNAマルチマー生成抑制
<材料と方法>
pUC19(タカラバイオ社)を鋳型にプライマーSUE1156:5’−CTATGCGGCATCAGAGCAG−3’(配列番号38)及びSUE1361:5’−GTTAAGCCAGCCCCGACAC−3’(配列番号39)を用いたPCRにより、2.6 kbのpUC DNA断片を調製した。
【0243】
oriCの近傍の位置にloxP配列を配置した環状DNAとして、pUC19-OLDT環状DNAを次のように調製した。pUC DNA断片とOLDTカセットを連結、環状化して作成した。OLDTカセット(0.41 kb)の配列は次の通りであり、oriCカセット(小文字部分)の上流側に隣接してloxP配列(下線部分)を有する。
OLDTカセット:5’−CGCGTCAGCGGGTGTTGGCGGGTGTCGGGGCTGGCTTAACAGTATGTTGTAACTAAAG
ATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTATACAGATCGTGCgatctactgtggataactctgtcaggaagcttggatcaaccggtagttatccaaagaacaactgttgttcagtttttgagttgtgtataacccctcattctgatcccagcttatacggtccaggatcaccgatcattcacagttaatgatcctttccaggttgttgatcttaaaagccggatccttgttatccacagggcagtgcgatcctaataagagatcacaatagaacagatctctaaataaatagatcttctttttaatacCCAGGATCCATTTAACATAATATACATTATGCGCACCTTTAGTTACAACATACTATGCGGCATCAGAGCAGATTGTACTGAGAGTGCACCAT−3’(配列番号40)
【0244】
loxP配列を持たない対照環状DNAとして、pUC-OriC300環状DNAを次のように調製した。pUC DNA断片とOriC300カセットを連結、環状化して作成した。oriC300カセット(0.41 kb)の配列は次の通りであり、oriCカセット(小文字部分)を有する。
OriC300カセット:5’−CGCGTCAGCGGGTGTTGGCGGGTGTCGGGGCTGGCTTAACAGTATGTTGTAACTAAAgatctactgtggataactctgtcaggaagcttggatcaaccggtagttatccaaagaacaactgttgttcagtttttgagttgtgtataacccctcattctgatcccagcttatacggtccaggatcaccgatcattcacagttaatgatcctttccaggttgttgatcttaaaagccggatccttgttatccacagggcagtgcgatcctaataagagatcacaatagaacagatctctaaataaatagatcttctttttaatacTTTAGTTACAACATACTATGCGGCATCAGAGCAGATTGTACTGAGAGTGCACCAT−3’(配列番号41)
【0245】
Creは、NEB社より購入したものを用いた。
【0246】
実施例3の表2に示す組成の反応液、及び表2に示す組成に加えてCreを終濃度が1mU/μl、3mU/μl、10mU/μlまたは30mU/μlとなるように添加した反応液、を調製した。これらの反応液のそれぞれにpUC19-OLDT環状DNAまたはpUC-OriC300環状DNAを終濃度が0.01ng/μlとなるように添加して氷上で混合した後、33℃のインキュベータで3時間保温し、反応させた。
【0247】
反応物について、アガロースゲル電気泳動(0.5% 1×TBE、60V、60分間)を行い、SybrGreen I(タカラバイオ株式会社)で染色し、DNAを検出した。
【0248】
<結果>
複製・増幅産物の検出結果を
図22に示す。
【0249】
oriC近傍にloxP配列を配置したpUC-OLDT環状DNAを鋳型として用い、かつ反応液中にCreを含む場合、副産物であるマルチマーの生成を抑制しつつ、目的のスーパーコイル構造の環状DNAが複製ないし増幅されることが確認できた。このとき、マルチマーからモノマーへの分離の中間産物の出現も見られた。また、反応液中のCreの濃度を高めていくことで、マルチマーの生成を抑制する効果は高くなった。
【0250】
loxP配列を持たないpUC19-OriC300環状DNAを鋳型として用いた場合にはCreの効果は観察されなかった。