(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960685
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】半径方向に剛性を及び長手方向に可撓性を有する多要素血管内ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/958 20130101AFI20211025BHJP
A61F 2/915 20130101ALI20211025BHJP
【FI】
A61F2/958
A61F2/915
【請求項の数】16
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2019-518228(P2019-518228)
(86)(22)【出願日】2016年10月7日
(65)【公表番号】特表2019-528987(P2019-528987A)
(43)【公表日】2019年10月17日
(86)【国際出願番号】US2016055953
(87)【国際公開番号】WO2018067171
(87)【国際公開日】20180412
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】517308415
【氏名又は名称】エフェモラル メディカル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】サントス,ジェイソン デロス
(72)【発明者】
【氏名】ヘイグ,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ,ルイス ビー.
【審査官】
中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−529102(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0364935(US,A1)
【文献】
特表2015−515319(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0152835(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/958
A61F 2/915
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内ステントを製造するための方法において、
複数のステント要素が膨張可能なバルーンの長手方向長さに沿って直列に位置決めされ且つ複数の前記ステント要素が互いに接触しないように、多数の個々の前記ステント要素を備える多要素ステントを前記バルーン上に装填することを含み、
複数の前記ステント要素は、前記ステント要素が骨格運動中に標的血管部位において互いに接触しないように間隔をおいて配置され、
各ステント要素間の距離
(G)が、標的血管部位における拡張状態にある前記ステント要素の直径
(D)と、骨格運動中の前記標的血管部位の最大屈曲中にステント要素間に生成された角度
(θ)とに
基づき、
前記ステントが、前記標的血管部位への移植後に半径方向に剛性を及び長手方向に可撓性を有するように構成
され、
各ステント要素間の前記距離
(G)が、
以上であり、
前記角度(θ)が、前記標的血管部位における最大曲げ半径(r)と、前記標的血管部位におけるステント要素の最大長さ(L)に基づいて、以下の式、
tan(θ/2)=(L/2)/r
により求められることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、各ステント要素間の前記距離が、前記ステント要素の長さの増加に伴って増加することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、各ステント要素間の距離が、少なくとも、
((LEC)+GEC−GC)/(E−1))+G
以上であり、Lがステント要素の長さ、Eが多要素ステントにおける要素の数、C が前記標的血管部位における前記ステント要素の前記最大軸方向圧縮率であり、
Gが、
である、
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、各ステント要素間の前記距離が、前記多要素ステントにおける要素の数の増加に伴って減少することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法において、各ステント要素間の前記距離が、骨格運動中の前記標的血管部位における前記ステント要素の前記最大軸方向圧縮率の増加に伴って増加することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記ステント要素の長さが等しいことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記多要素ステントが3つ以上のステント要素で構成され、且つ各ステント要素間の前記距離が等しいことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記ステント要素の各々が、前記バルーンに装着されている間及び移植後に少なくとも0.5ミリメートルの距離だけ離隔されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、前記ステントが、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリ(D−乳酸)(PDLA)、ポリ(D,L−乳酸)(PDLLA)、半結晶性ポリラクチド、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ヨウ化デスアミノチロシル−チロシンエチルエステル)カーボネート、ポリカプロラクトン(PCL)、サリチル酸系ポリマー、ポリジオキサノン(PDS)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリ(ヨウ化デスアミノチロシル−チロシンエチルエステル)カーボネート、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ポリイミノカーボネート、及び脂肪族ポリカーボネート、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、ポリカーボネートウレタンを含むポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニル、エチレンビニルアルコール、ポリシロキサン及び置換ポリシロキサンを含むシリコーン、ポリエチレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート−コ−PEG、PCL−コ−PEG、PLA−コ−PEG、PLLA−コ−PCL、ポリアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、及びこれらの組み合わせを含む材料から形成されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記材料が円筒管材に押出成形されることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、前記ステントが、マグネシウム、ステンレス鋼、白金クロム、又はコバルトクロムを含む材料から形成されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記ステントが、ステント要素を形成するパターンで管材をレーザ切断することにより形成されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、前記ステント要素が抗増殖剤でコーティングされることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、前記ステント要素が、拡張前状態にあるときに半径方向よりも長手方向に長い複数の菱形クローズドセルを備えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、前記ステント要素が、前記拡張前状態において長手方向よりも半径方向に長い複数の菱形クローズドセルを備えることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、拡張前状態にある各ステント要素間の距離が、前記拡張状態にある各ステント要素間の距離以下であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、概して、医療器具の分野に関する。より具体的には、本出願は、血管(動脈及び静脈)の開存性(血流)を維持することを目的とする血管内ステントの設計及び製造に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症は、世界中における死亡及び身体障害の主な原因であり、全ての人間の死亡率のほぼ3分の1を占める。アテローム性動脈硬化症は、以前は柔らかくしなやかであった動脈が、経時的に硬く脆くなり、その後、脂肪質のコレステロールプラークの成長により塞がれる、動脈老化の病理過程である。コレステロールプラークは、重要臓器への血液及び酸素の流れを減少させるのに十分に大きく成長するにつれて、胸痛(狭心症)、壊疽(重症虚血肢)及び一過性虚血発作(軽度の脳卒中)といった臨床症候群を引き起こす。複雑な石灰化及び血栓を伴う、不安定プラークは、プラークが内部に存在する動脈を突然破裂させ閉塞させる可能性がある。プラークにより、心臓発作(心筋梗塞症)、急性動脈虚血及び脳卒中といった急性臨床事象が発生する。
【0003】
アテローム性動脈硬化症は国際的に流行している。多くの先進国は危険因子の修正において大きな進歩を遂げているが、アテローム性動脈硬化症の世界的な有病率は依然として増加している。2010年には、世界中で、推定1,670万人の死亡がアテローム性動脈硬化症に起因するものであった。そして、予測により2030年までに2,330万人に増加することが示唆されている。経済的コストは膨大である。米国だけでも、2010年の心疾患の直接及び間接的な推定費用は2,044億ドルであった。
【0004】
何十年もの間、動脈内の閉塞性アテロームプラークに対して利用できる唯一の治療法は、外科的バイパス移植術であった。1977年には、同軸ワイヤ上を前進させた腔内バルーンにより内部でプラークを引き伸ばしプラークに亀裂を入れることができる新たな方法が導入された。いわゆる「経皮経管冠動脈バルーン血管形成術」(PTCA)の開発は、動脈閉塞性疾患に対する新たな非外科的療法の時代の到来を告げた。その分野は、単独のバルーン血管形成術に対して優れた開存成績をもたらすことが示された冠動脈内金属ステントの開発により更に進歩した。
【0005】
血管内ステントは、1980年代の導入以来、根本的に変わってきている。工学技術、冶金術及び製造での改良を通じて、現代のステントは、ますます良好な可撓性、追跡可能性、半径方向強度、適合性、レオロジー特性、生体適合性及び放射線不透過性を呈する。2つの主要な設計カテゴリ、すなわち、バルーン拡張型ステント(BES)及び自己拡張型ステント(SES)が出現している。両種類とも、疾患動脈の流路を増大させ維持することを目的としているが、この機能を根本的に異なる方式で果たす。
【0006】
バルーン拡張型ステント(BES)
アテロームプラークの治療に広く適用される第1の種類のステントは、ステンレス鋼で構成された開放メッシュ管として設計されたバルーン拡張型ステント(BES)であった。血管形成術用バルーン上に圧着されたときに、動脈樹を通して同軸にバルーン拡張型ステントを前進させてプラーク内に直接留置することができた。ステント移植により、バルーン血管形成術単独と比較して大きく且つ耐久性のある流路が作り出された。
【0007】
現代において、バルーン拡張型ステントは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の事実上あらゆる場合において及び全ての末梢インターベンション処置の約半分において留置される。
【0008】
図1は、7mmの標的血管内で膨張させたバルーン拡張型ステントの力解析を示している。バルーンの膨張中に、ステントは、符号(a)で示す7mmに達したときに血管に接触する。バルーン、動脈、及びステントを一緒に点(b)に達する9mmまで膨張させる。これにより、動脈内に張力(図ではおよそ0.13N/mm)が発生する。バルーンの空気が抜かれたときに、動脈内の張力が、ステントの半径方向抵抗力(点(c))と等しくなるまでステントを再圧縮させる。点(b)と(c)との直径の差は、ステント反跳と称される。
【0009】
動脈内腔は圧着されたステントの直径よりも常に大きいので、バルーン及びステントの初期拡張は動脈壁に接触せずに起こる。拡張したステントが最初に壁に接触したときに(符号(a)で表す)、引き伸ばされた動脈が、拡張したバルーン及びステントに対向する内向きの力を及ぼし始める。(操作者により決定された)最大膨張率が図中の点(b)により図示されている。最大膨張率は概して、引き伸ばされた動脈を弛緩させるために1〜3分間維持される。最終的にバルーンの空気が抜かれてバルーンが引き抜かれたときに、動脈の内向きの動脈張力とステントの半径方向外向きの抵抗力との間で平衡が達成されるまで、拡張させた動脈内に発生した張力がステントを部分的に再収縮させる。バルーン最大膨張時のステント直径とバルーン引き抜き後のステント直径との差は、一般にステント反跳と称される。
【0010】
BESは、剛性を有し且つ変形しない医療器具である。BESは、標的病変内でBESの送達バルーンを膨張させて血管壁に剛性足場を埋め込むことにより留置される。最終的なステント形状は、バルーンにより生じる変形により成形され、標的動脈の対向する圧潰力により適所に保持される。その構造は永久的である。時間が経過した後の器具の再画像化により、概して、処置中に達成された直径又は形状に変化がないことが明らかにされる。
【0011】
これらの設計入力を行うために、BESは、剛性の医療器具である。BESは、典型的には、15.8〜28.9N/cmの圧力下でBESの円筒形状を維持する。これらは、人体内で観察される血管圧をはるかに上回る非生理的な力であり、実際に、BESは、BESが存在する血管の剛性の10倍以上の剛性を有する。BESは、非常に剛性が高いので、限られた数の解剖学的部位、すなわち、冠動脈、腎動脈及び総腸骨動脈などの、最小限の動き又は高度に予測可能な動きを伴う部位にしか移植できない。BESは、可撓性がもともと欠如しているので、頸動脈、鎖骨下動脈、外腸骨動脈、総大腿動脈、浅大腿動脈及び膝窩動脈を含む多くの重要な末梢血管床においては絶対的に禁忌とされる。
【0012】
BESの剛性もまた、BESの使用可能な長さを厳しく制限する。長すぎるBESは、湾曲する動脈を損傷させるか又はねじり、再狭窄、血栓症、偽動脈瘤形成、並びに、ある場合には、器具の破損及び移動をもたらす。ステント製造業者は、長すぎるBESの危険性を知っており、ステント製造業者の器具を制限された長さでのみ利用可能にする。末梢動脈のアテローム性動脈硬化病変は数百cmの長さである可能性があるが、最も長い利用可能なBESは僅か60mmである。
【0013】
自己拡張型ステント(SES)
早くも1969年には、血管内ステントが剛性ではなく可撓性を有するべきであると理論付けられた。最初に航空宇宙用途で開発された、ニチノールと呼ばれるニッケルチタン製の等原子合金が、血管の足場に理想的な機械的特性を示すと考えられていた。1つの特性は、超弾性、すなわち、実質的な変形後に金属が元の形状に戻る能力であった。この超弾性により、動いている動脈内での可撓性と、四肢屈曲による一時的な圧潰後に動脈内腔を再形成する能力とが確保された。もう1つの特性は、形状記憶、すなわち、ある温度でアニールされ、低温で実質的に変形し、次いで、元の温度に加熱されたときに元の形状に戻る合金の能力であった。これにより、自己拡張型管状ニチノール血管内ステント(SES)の開発が可能になった。これらのステントは、体温(37℃)でニチノール管をレーザ切断し、次いで、送達システムへの装填を可能にするために冷却時に管を変形させることにより作り出される。器具が最終的に体温で血管内に留置されたときに、器具は、拡張して元のアニールされた形状をとる。
【0014】
臨床用途に承認された最初の自己拡張型ニチノールステントは、ニチノール製の簡単なコイル状ワイヤであった。自己拡張型ニチノールステントは、1992年にアメリカ市場に導入された。その直後に継ぎ目のないニチノール管が利用可能になり、レーザ切断された管状ニチノールステントの開発が可能になった。現代において、管状ニチノールSESは、外腸骨動脈及び浅大腿動脈などの長くて柔軟な血管内に留置される最も一般的な器具である。
【0015】
SESの血管内留置により発生する力は、BESとは大きく異なる。SESは、BESと比較してはるかに穏やかであり且つ血管を完全とは言えない程度にしか拡張させない。
図2は、7mmの標的血管内で膨張させた自己拡張型ステントの力解析を示している。ステントは、点(a)において血管壁に接触するまでステントの送達システムにより留置される。血管とステントの両方が点(b)まで拡張し、この点では、ステントの外力が血管の圧縮力との平衡に達している。操作者は、SES送達システムを取り外して、器具及び血管を更に拡張させるためにSES送達システムを8.5mmの血管形成術用バルーンと交換する。バルーンは、点(c)における8.5mmまで拡張され、次いで、空気が抜かれて取り外される。ステント付き血管を更に拡張させる作用により、血管の直径が>8mm(d)に増加する。
【0016】
設計により、SESは、ほんの0.39〜1.7N/cm(29〜128mmHg)の範囲の圧力において、容易に変形する。それゆえ、SESをより十分に拡張させるために、SESは、留置後に規定通りにバルーンを用いて事後拡張される。しかしながら、バルーン拡張が繰り返された後でも、比較的脆弱なSESは、反跳する疾患動脈を十分に拡張させることができないことが多い。
【0017】
その結果は、不十分な処置後直径及び術中の成果である。このことは、アテローム性動脈硬化症の大きな負担がかかる特に末梢動脈内の、SESで頻発する。ある研究では、標的病変の拡張不足(≧30%の残存狭窄と定義される)がSES移植後の70%の症例で観察された。ある場合には、利用できる唯一の治療法は、より脆弱なSESの内側により頑丈なBESを移植することである。
【0018】
SESを使用する第2の欠点は、不安を掻き立てるSESの破損傾向である。バルーン拡張型ステント留置術後には時々観察されるだけだが、SESの破損は、驚くほど一般的であり、ある臨床報告では65%に上る。十分に理解されていないが、この現象の魅力的な1つの仮説は、破損が、SFA内に留まるステントに及ぼされる特有の生体力学的力の作用であり得るということである。脚の運動は複雑な動きである。つまり、歩行中の股関節及び膝関節への負荷により、動脈が軸方向に繰り返し圧縮され、多次元の湾曲、ねじれ及びよじれさえも生じる可能性がある。ステントが剛性ではなく且つ動脈と共に動くので、繰り返し変形により、単一若しくは多数のストラットの破損又は、重症例では、ステントの完全な切断が生じる可能性がある。当然のことながら、SESの破損は、長く且つ/又は重なり合うステントの移植後に並びにより活動的な患者においてよく起こる。血管内ステントの破損と再狭窄との関係が相関関係か因果関係かについては意見が分かれているが、血管内ステントの破損は再狭窄と明らかに関連がある。
【0019】
最後に、BESが付与する比較的一時的な力とは異なり、SESの特有の機構及び設計により、残念なことに、治療される動脈に連続的で慢性的な外向きの力が確実に加わる。BESを用いたステント留置術は、動脈が引き伸ばされるときに初期摂動を引き起こす。しかしながら、留置された時点で、BESは剛性を有するので力が静的である。対照的に、SESを含む血管は、異物との相互作用と、器具が及ぼす慢性的な外向きの力(COF)とを絶えず受ける。これらの力は、SESが移植時に「過大な寸法」でなければならないために発生する。SESが留置後に移動しないことを確実にするために、ステントの製造業者の公称直径は、標的病変の基準血管直径(RVD)を上回らなければならない。器具の最終直径は、定義によれば、その公称の形状記憶直径よりも小さいので、ステントは、その公称直径が達成される時(達成するとして)まで血管壁に外向きの伸張力を及ぼす。これらの器具が通常移植される血管の動きを考慮すると、SESは、SESが接触する血管壁に連続的且つ慢性的な摂動を及ぼす。このことは、SESを用いて治療された動脈の長期開存性が比較的低く、実際に、再狭窄が、1年後の全ての末梢血管インターベンションのおよそ40%を困難にすることを説明している。これにより、心臓専門医、血管外科医及び介入放射線医の最近の国際委員会が、現在の技術水準のSFAステント留置術では、1年目では約60%の一次開存率しか得られず、開存率が長期にわたって低下し続けることを示唆している。
【0020】
BESとSESとの相違の概要
BESとSESの両方がアテローム性動脈硬化動脈の治療を目的としていることが、基本的に、BESとSESの唯一の類似点である。2つの器具は、実質的に他の全ての点(すなわち、材料、設計、パターン、製造方法、送達様式及び血管反応)において異なる。BES及びSESにより発生する力がBES及びSESの直径と共にどのように変化するかが並べて描かれている
図3には、BESとSESとの相違の例示が示されている。
【0021】
拡張させたBESは剛性を有する。つまり、BESは、5N/mmもの力、すなわち、人体内で達成されるにしても、めったに達成されない力に耐えることができる。BESは形状記憶を有さない。つまり、変形した場合、BESは、変形したままになり、動脈開存性に継続的な脅威を与える。対照的に、SESは、血管内にはるかに小さな力しか発生させない。つまり、力があまりに小さいので、SESは、標的病変の十分な拡張の達成に失敗することが多い。しかしながら、SESは、高度の形状記憶を示すので、動脈運動又は動脈圧縮により一時的に変形した場合に完全拡張状態に戻る。
【0022】
当然のことながら、2種類のステントはまた、血管内において非常に異なる細胞反応を引き起こす。一見すると、血管系が、より穏やかなSESとは対照的に、硬い非生理学的BESに対してより厳しい炎症及び過形成反応を呈することが想定され得る。しかしながら、このことは事実ではない。BES移植の外傷は、炎症及び血管平滑筋細胞(VSMC)活性化を誘発するが、その反応は、一時的であるとともに、加わる力が平衡になりステントが動かないので、自然に治癒する傾向がある。この点において、BESに対する血管反応は、人間の体内の動かない異物に対する血管反応と同様である。侵入した抗原を分離するか又は遮断することを目的とする線維化及び瘢痕化が後に続く初期炎症反応が生じる。
【0023】
BESを用いて治療された実験用動脈の30日間の反応は、驚くほど一貫した知見であった。それは、数ヶ月安定した後、ヒト冠動脈、腎動脈及び総腸骨動脈に移植された裸の金属ステントが概して長期開存性を享受するという臨床観察に類似している。
【0024】
対照的に、SES移植に対する血管反応がより深刻になる傾向にある。ステントは比較的小さな半径方向力を呈するので、ステントをBESと同様に拡張させて病変に埋め込むことができない。むしろ、ステントは、その公称(製造)直径が標的病変の基準血管直径(RVD)を上回るように血管壁に対して過大な寸法でなければならない。これは、器具が動的動脈系内に留置された時点で器具が適所に留まることを確実にする唯一の方式である。
【0025】
SESの過大寸法は、全ての器具が部分圧縮状態で留置されることを確実にする。ステントの固有の自己拡張型設計を考慮すると、ステントは、器具が最終的にその公称直径を達成する時(達成するとして)まで、血管壁に慢性的な外向きの力を及ぼし続ける。穏やかなステントがそれ自体を十分に拡張させるのに十分な力を及ぼし得ることはめったにないので、COFは、患者の生涯にわたって持続し得る。このステントは、根本的に異なる種類の異物、すなわち、動いてステントの宿主を押圧し、煩わせ、宿主と相互作用し続けるものである。
【0026】
正味の反応は、器具の過大寸法の程度と器具の滞留時間との両方によって決まる。骨格筋と共に反復運動を呈する動脈内における寸法が非常に過大である場合、反応が深刻になる可能性がある。異物に適応して異物を排除するために、動脈が動脈内腔をSMCとフィブリンで完全に満たし、動脈が血流のための導管としては役に立たなくなる。
【0027】
要するに、BESは、動脈樹内の閉塞性病変の血管内治療に好ましい器具である。BESは、機械的に不活性であるので、動脈が容易且つ確実に治癒する一時的な病理学的反応のみを誘発する。BESの唯一の不利な点は、骨格運動に対応するのに可撓性を必要とする長い動脈への移植をBESの剛性が妨げることである。
【0028】
それゆえ、現在利用可能なステントよりも設計、開発及び製造が容易である、末梢血管系において使用されるステントを有することが有利である。理想的には、そのようなステントは、上で説明したように、末梢血管ステントにかかる応力に耐えるのに十分な強度を有すると同時に所望の可撓性及び適合性プロファイルを有する。これにより、ステントが長い蛇行血管の治療においてより有用で有効且つ安全なものになる。これらの目的の少なくとも幾つかは、以下で説明する実施形態により達成される。
【発明の概要】
【0029】
本明細書における実施形態は、多数の独立した繰り返しの剛性足場ユニットの同時留置により人間の長くて自然に動く柔軟な血管の内腔完全性を維持するための機器について説明する。実施形態は、血管内に狭い間隔で配置されるが骨格運動又は心筋収縮により血管が動いたときでさえ互いに接触しない多数の繰り返しの剛性ユニットを含み得る。
【0030】
幾つかの実施形態において、ステントは、バルーンの膨張により血管の長さに沿って同時に移植される、関節運動し得る多数の剛性要素を含み得る。ステントの各要素は、従来のバルーン拡張型ステントの半径方向力と大きさが同様か又はそれよりも大きな、比較的高い半径方向力(剛性)を有し得る。各要素はまた、比較的短く且つ剛性であり得るので、バルーンの膨張時に各要素の公称直径に直ちに達し、したがって各要素が血管に慢性力を及ぼさない。追加的に、各要素は長さが比較的短いので、各要素が内部に移植される動脈と調和して、各々が個別に動いてもよい。このようにして、かかるステントは、血管の長さ、関節への近接度、又は可動域にかかわらず、体内の何れの血管にも安全に使用され得る。
【0031】
一態様において、血管内ステントを製造する方法は、ステント要素がバルーンの長手方向長さに沿って直列に位置決めされ且つステント要素が互いに接触しないように、多数の個々のステント要素を備える多要素ステントを膨張可能なバルーン上に装填することを含み得る。ステント要素は、ステント要素が骨格運動中に標的血管部位において互いに接触しないように間隔をおいて配置される。ステントは、標的血管部位への移植後に半径方向に剛性を及び長手方向に可撓性を有するように構成される。
【0032】
各ステント要素間の距離は、標的血管部位における拡張状態にあるステント要素の直径と、骨格運動中の標的血管部位の最大屈曲中にステント要素間に生成された角度とに基づいてもよい。実施形態において、各ステント要素間の距離は、骨格運動中の標的血管部位の最大屈曲中にステント要素間に生成された角度の余弦に基づく。実施形態において、各ステント要素間の距離は、標的血管部位における拡張状態にあるステント要素の直径の増加に伴って増加する。各ステント要素間の距離は更に、ステント要素の長さに基づいてもよい。実施形態において、各ステント要素間の距離は、ステント要素の長さの増加に伴って増加する。各ステント要素間の距離は更に、多要素ステントにおける要素の数に基づいてもよい。実施形態において、各ステント要素間の距離は、多要素ステントにおける要素の数の増加に伴って減少する。各ステント要素間の距離が更に、標的血管部位におけるステント要素の最大軸方向圧縮率に基づいてもよい。実施形態において、各ステント要素間の距離は、標的血管部位におけるステント要素の最大軸方向圧縮率の増加に伴って増加する。
【0033】
ある特定の実施形態において、ステント要素の長さが等しい。多要素ステントは、3つ以上のステント要素で構成されてもよい。このような実施形態において、各ステント要素間の距離は等しくてもよい。ステント要素の各々は、バルーンに装着されている間及び移植後に少なくとも0.5ミリメートルの距離だけ離隔されてもよい。
【0034】
幾つかの実施形態において、ステントは、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリ(D−乳酸)(PDLA)、ポリ(D,L−乳酸)(PDLLA)、半結晶性ポリラクチド、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ヨウ化デスアミノチロシル−チロシンエチルエステル)カーボネート、ポリカプロラクトン(PCL)、サリチル酸系ポリマー、ポリジオキサノン(PDS)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリ(ヨウ化デスアミノチロシル−チロシンエチルエステル)カーボネート、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ポリイミノカーボネート、及び脂肪族ポリカーボネート、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、ポリカーボネートウレタンを含むポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニル、エチレンビニルアルコール、ポリシロキサン及び置換ポリシロキサンを含むシリコーン、ポリエチレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート−コ−PEG、PCL−コ−PEG、PLA−コ−PEG、PLLA−コ−PCL、ポリアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、又はこれらの組み合わせを含む材料から形成されてもよい。選択された材料が、円筒管材に押出成形されてもよい。他の実施形態において、ステントは、マグネシウム、ステンレス鋼、白金クロム、又はコバルトクロムを含む材料から形成されてもよい。管材は、ステント要素を形成するパターンでレーザ切断されてもよい。実施形態において、ステント要素は、抗増殖剤でコーティングされる。
【0035】
ステント要素は、拡張前状態にあるときに半径方向よりも長手方向に長い複数の菱形クローズドセルを備え得る。実施形態において、ステント要素は、拡張状態では長手方向よりも半径方向に長い複数の菱形クローズドセルを備える。拡張前状態にある各ステント要素間の距離は、拡張状態にある各ステント要素間の距離以下であってもよい。
【0036】
本開示のこの態様及び他の態様について本明細書で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本実施形態は、添付の図面と併せて解釈されると以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲からより容易に明らかになる他の利点及び特徴を有する。
【0038】
【
図1】
図1は、7mmの標的血管内で膨張させたバルーン拡張型ステントの力解析を示す。
【
図2】
図2は、7mmの標的血管内で膨張させた自己拡張型ステントの力解析を示す。
【
図3】
図3は、BES及びSESにより発生する力がBES及びSESの直径と共にどのように変化するかを並べて描いている。
【
図5A】
図5Aは、バルーン拡張型多要素ステントの留置を描いている。
図5Aでは、バルーンに装着された多要素ステントを病変まで前進させている。
【
図5B】
図5Bは、バルーン拡張型多要素ステントの留置を描いている。
【
図5C】
図5Cは、バルーン拡張型多要素ステントの留置を描いている。
【
図6A】
図6Aは、脚の異なる量の屈曲中の例示された、遠位SFA及び膝窩動脈内に配置された自己拡張型ニチノールステントの側面図である。
【
図6B】
図6Bは、脚の異なる量の屈曲中の例示された、遠位SFA及び膝窩動脈内に配置された自己拡張型ニチノールステントの側面図である。
【
図6C】
図6Cは、脚の異なる量の屈曲中の例示された、遠位SFA及び膝窩動脈内に配置された自己拡張型ニチノールステントの側面図である。
【
図7】
図7は、骨格運動中の標的血管部位の最大屈曲中にステント要素間に生成された角度を描いている。
【
図8A】
図8Aは、股関節及び膝関節の完全屈曲中の膝窩動脈内の移植された多要素ステントを示す。
【
図9A】
図9Aは、多要素ステントの代替の実施形態を例示する。
【
図16】
図16は、一実施形態による、ステントを作り出すために使用されるマイクロステレオリソグラフィの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
ある特定の実施形態を参照しながら本発明を開示してきたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更がなされ得、且つ均等物で置換され得ることを理解するであろう。加えて、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の教示に対して特定の状況又は材料に適合するように多くの修正がなされてもよい。
【0040】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、以下の用語は、文脈上別段の明確な指示がない限り、本明細書において明確に関連する意味を持つ。「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」の意味は、複数形の言及を含む。「〜の中(in)」の意味は、「〜の中(in)」及び「〜の上(on)」を含む。図面を参照すると、同様の番号は、全ての図を通じて同様の部分を表す。追加的に、単数形の言及は、別段の明示がない限り又は本明細書の開示に矛盾しない限り、複数形の言及を含む。
【0041】
「例示的」という単語は、本明細書では「例、事例、又は例示として役立つこと」を意味するために使用される。本明細書に「例示的」として説明されるいかなる実装形態も、他の実装形態よりも有利であると必ずしも解釈されるべきではない。
【0042】
種々の実施形態について、図を参照しながら本明細書で説明する。図面は、原寸に比例したものではなく、実施形態の説明を容易にすることを意図したものに過ぎない。図面は、本発明の包括的な説明として意図されたものでも、本発明の範囲の限定として意図されたものでもない。加えて、例示の実施形態は、示される全ての態様又は利点を有する必要はない。特定の実施形態と併せて説明する態様又は利点は、必ずしもその実施形態に限定されるものではなく、そのように例示されていなくても他の任意の実施形態において実現することができる。
【0043】
本明細書における実施形態は、軸方向可撓性を維持すると同時に半径方向剛性支持を与えることで長くてしなやかな血管の流路(開存性)を維持する血管内器具の設計を説明する。従来、可撓性を維持して、生体の動きに必要な血管の湾曲に対応するように、長い血管内で使用されるように意図された血管内器具を、比較的弱い半径方向強度を有するように設計しなければならない。これらの従来の血管内器具の相対的脆弱さは、血流のための有用で十分な通路を永続的に維持する血管内器具の能力を制限する。
【0044】
対照的に、本明細書で説明する器具は、多要素血管ステント(又は「血管足場」)である。これらのステントは、円筒状の多数の短い剛性ステントセグメント又は要素で構成され、これらは、互いに別個であるが、まとめて多要素ステントと称されることがある。
【0045】
概して、本明細書で説明する多要素ステントの各要素は、蛇行末梢血管などの、多要素ステントが内部に配置される血管の応力に耐えるように所望のレベルの強度を与えるのに十分な剛性を有する。同時に、多要素ステントはまた、多要素ステントが多数の別個の要素から構成されることにより可撓性であり、これにより、湾曲した蛇行血管内への配置が可能となる。
【0046】
追加的に、典型的にはバルーン拡張型ステントが自己拡張型ステントよりも頑丈であるので、本明細書で説明する多要素ステントは通常、自己拡張型よりもむしろバルーン拡張型である。ステントのバルーン拡張可能な各要素は、説明した構造及び材料により比較的高い半径方向力(剛性)を有し得る。ステント要素は、鋼又はコバルトクロム製のものなどの、従来のバルーン拡張型金属ステントの半径方向強度と大きさが同様か又はそれよりも大きな、自己拡張型ステントよりも著しく高い半径方向強度を有する場合に、半径方向に剛性を有するものと定義される。
【0047】
ステント要素は、膨張可能なバルーンに直列に装着された場合に、長い血管内に並べて同時に移植することができる。生体の運動中に、要素は、個々の形状及び強度を維持しながら個別に動くことができ、その一方で、血管の介在する非ステント要素は、妨害されずにねじれ、湾曲し且つ回転することができる。その結果、堅固に維持された流路を有する治療された血管が、生体の運動中に制限されない可撓性を享受する。
【0048】
説明する実施形態は、(1)動脈壁への器具の一時的な影響と正確な移植の相対的な容易さとを考慮すると、バルーン拡張により留置される剛性器具が血管内ステントの最適設計を示し、(2)長い剛性器具を骨格の動きにより湾曲し且つねじれる動脈内に安全に移植でき、(3)介在する非ステント動脈要素が妨害されずに動くことを可能にする多数の短いBESを用いて、湾曲し且つねじれる長い動脈を効果的に治療でき、(4)標的動脈の既知の予測可能な曲げ特性によりステント要素の長さ、数及び間隔を決定でき、且つ(5)動脈に足場が一時的に形成されればよい、つまり、ステントの遅い溶解は治療の長期有効性にほとんど影響を及ぼさないという原理を利用する。
【0049】
図4Aは、本明細書で説明する、多要素ステント400の一実施形態を例示している。多要素ステント400は、多数のステント要素401を備える。個々のバルーン拡張型ステント要素401は、送達を容易にするために膨張可能なバルーン403上に圧着される。
図4Bは、
図4Aのステント要素401の拡大図である。個々の要素401は、バルーン403の長手方向長さに沿って直列に位置決めされるとともに、ステント要素401が互いに接触しないように間隔をおいて配置される。更に、間隔は、留置後、ステント要素401が骨格運動中に接触しないか又は重なり合わないような間隔である。要素401の数、要素の長さ、及び要素401間の隙間402は、標的血管部位によって異なってもよい。実施形態において、多要素ステント400における各要素401は、同じ長さを有する。3つ以上の要素401を、したがって2つ以上の隙間402を有する多要素ステントにおいて、隙間は、同じ長さを有し得る。
【0050】
図5A〜
図5Cは、バルーン拡張型多要素ステントの留置を描いている。
図5Aでは、バルーン上に装着された多要素ステントを病変まで前進させている。
図5Bでは、バルーン及びステントが拡張されている。
図5Cでは、多要素ステントを依然として動脈内に残したまま、バルーンが抜き取られている。
【0051】
適切なステント要素長さ及びステント要素間の間隔は、四肢動脈の長さ及び持続的な動きを考慮すると重要である。ステント要素が長すぎる場合、ステントは、十分な長手方向可撓性を欠くことになる。要素が互いに非常に接近して配置された場合には、要素が運動中に重なり合って、同様に十分な長手方向可撓性が欠如することがある。これにより、ステント要素が破損することがある。血管内ステントの破損は、再狭窄と明らかに関連がある。同じように、要素が短すぎた場合又は要素が非常に広い間隔で配置された場合、病変が標的病変に十分に接触しない場合がある。要素の適切な長さ及び間隔は、標的動脈の既知の特徴により決定されてもよい。
【0052】
図6A〜
図6Cは、脚の異なる量の屈曲中の例示された、遠位SFA及び膝窩動脈内に配置された自己拡張型ニチノールステント600の側面図である。
図6Aは、脚が中立位置にあり、最小限の屈曲/ほとんど伸展された状態のステント600を例示している。
図6Bは、部分的屈曲(70°の膝関節屈曲/20°の股関節屈曲)中のステント600を例示しており、円及び曲げ半径602がステント600の屈曲角度及び曲げ変形を例示している。
図6Cは、より大きな屈曲(90°の膝関節屈曲/90°の股関節屈曲)中のステント600を例示している。
図6A〜
図6Cに例示するように、ステント600は、脚の動きにより著しく変形する。描かれた円は、変形の程度を説明するための曲げ半径602の使用を例示している。(小半径602を有する)小さな円の周囲で湾曲するステントはより大きく変形し、例えば、
図6Cの変形の大きなステントは、
図6Bの変形の小さなステント600よりも小さな曲げ半径602を有する。
図6Aのほぼ真っ直ぐなステントは、正確に推定するには大きすぎる非常に大きな曲げ半径を有する。
【0053】
表1には、大腿膝窩動脈内への移植後のステント変形が示されている。完全な真直度に180°の値が割り当てられる。撓み(°)は、四肢の種々の程度の屈曲中の曲げ角度の差として算出される。SFAステントと比較して膝窩ステントの顕著な湾曲に留意されたい。
【0054】
個々の要素の長さ及び間隔は、器具の予定した解剖学的部位により部分的に決定される。例えば、利用可能な解剖学的及び生理学的データは、浅大腿動脈(SFA)が大腿部及び膝関節の屈曲中に最小限にのみ湾曲して圧縮され(約7°の湾曲及び約5%の圧縮)、それゆえ、SFA用に意図された器具における個々のステント要素がかなり狭い間隔で配置される(つまり、脚が曲げられたときでもステント要素が重なり合わない)ことを示唆している。対照的に、膝窩動脈は、股関節及び膝関節を屈曲させたときに、より著しく変形する(約60°の湾曲及び約8%の圧縮)。それゆえ、膝窩動脈用に意図された器具における個々のステント要素は、ステント要素が骨格運動中に重なり合わないようにより広い間隔で配置されなければならない。
【0055】
図7は、骨格運動中の標的血管部位の最大屈曲中にステント要素701間に生成された角度θを描いている。角度θは、各解剖学的部位に対して最大曲げ半径と個々のステント要素701の最大長さとにより決定される算出された角度である。SFA用では、角度θは8.473°と算出される。膝窩用では、角度θは25.609°と算出される。
【0056】
実施形態において、要素間の必要最小限の隙間は、標的血管部位における拡張状態にある予定したステント直径(D)と標的血管部位における血管(θ)の最大屈曲中にステント要素間に生成された角度とを使用して算出することができる。隙間(G)は、式を使用して算出されてもよい。
与えられた式から分かるように、他の全ての因子が同じままであれば、各ステント要素間の距離は、ステント要素の直径の増加に伴って増加する。同様に、他の全ての因子が同じままであれば、各ステント要素間の距離は、SFA内よりも膝窩内においてより大きくなる。表2は、この式を使用して算出された隙間を示している。
【0057】
ステント要素間の理想的な隙間長さはまた、四肢屈曲中の軸方向ステント圧縮又は短縮により影響を受ける場合がある。表3は、大腿膝窩動脈内への移植後の軸方向ステント圧縮を示している。軸方向圧縮量は、種々の程度の四肢屈曲中に測定されたステント長さの間の差として算出される。
【0058】
軸方向圧縮を考慮に入れた理想的な隙間長さは、式を使用して算出されてもよい。
Gap=((LEC+GEC−GC)/(e−1))+G
Lはステント要素の長さである。Eはステント要素の数である。Gは、先の式を使用して算出された隙間長さである。Cは、標的血管部位での最大軸方向圧縮率である。SFA用では、Cはおよそ5%である。膝窩用では、Cはおよそ8%である。
【0059】
この式から分かるように、他の全ての因子が同じままであれば、各ステント要素間の距離は、ステント要素の長さの増加に伴って増加する。同じように、他の全ての因子が同じままであれば、各ステント要素間の距離は、多要素ステントにおける要素の数の増加に伴って減少する。同様に、他の全ての因子が同じままであれば、各ステント要素間の距離は、標的血管部位におけるステント要素の最大軸方向圧縮率の増加に伴って増加する。表4には、浅大腿動脈用に意図された器具の器具直径と長さと要素の数と要素間隔とのおおよその関係が示されている。表5には、膝窩動脈用に意図された器具の器具直径と長さと要素の数と要素間隔とのおおよその関係が示されている。
【0060】
図8Aは、股関節及び膝関節の完全屈曲中の膝窩動脈内の移植された多要素ステントを示している。
図8Bは、3次元で示す
図8Aの移植器具を描いている。個々のステント要素801は、動脈が高度に湾曲したときでもステント要素801が重なり合わないように間隔をおいて配置される。妨害されない動脈運動は、ステントの無い隙間802の屈曲又は伸展によりもたらされる。
【0061】
本明細書で説明するステントは、種々の異なる材料から形成されてもよい。実施形態において、ステントは、マグネシウム、ステンレス鋼、白金クロム、若しくはコバルトクロム、又はその他などの、金属を含む材料から形成されてもよい。
【0062】
代替的に、ステントはポリマーから形成されてもよい。実施形態において、ステント又はステント要素は、光開始剤として2%DMPA及び光吸収剤として0.10%Tinuvin327が添加された、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを含む非生体再吸収性材料を使用して作製されてもよい。種々の代替の実施形態において、ステント又はステント要素は、限定されるものではないが、ポリ(L−乳酸)(PLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(ヨウ化デスアミノチロシル−チロシンエチルエステル)カーボネート、又はその他などの、任意の好適な生体吸収性材料から作られてもよい。
【0063】
代替の実施形態では、ステントを構築するために任意の適切なポリマーが使用されてもよい。「ポリマー」という用語は、ランダム、交互、ブロック、グラフト、分岐、架橋、混合物、混合物の組成物、及びこれらの変形例を含め、天然又は合成にかかわらず、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどを含む重合反応生成物を含むことが意図されている。ポリマーは、真溶液中に粒子として飽和若しくは懸濁してもよく、又は有益な薬剤に過飽和してもよい。ポリマーは、生体適合性又は生体分解性とすることができる。限定ではなく例示の目的で、ポリマー材料としては、限定されるものではないが、ポリ(D−乳酸)(PDLA)、ポリ(D,L−乳酸)(PDLLA)、ポリ(ヨウ化デスアミノチロシル−チロシンエチルエステル)カーボネート、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、サリチル酸系ポリマー、半結晶性ポリラクチド、ホスホリルコリン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ−D,L−乳酸、ポリ−L−乳酸、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、シアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、ポリイミノカーボネート、及び脂肪族ポリカーボネート、フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン、ポリカーボネートウレタンを含むポリウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン酢酸ビニル、エチレンビニルアルコール、ポリシロキサン及び置換ポリシロキサンを含むシリコーン、ポリエチレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート−コ−PEG、PCL−コ−PEG、PLA−コ−PEG、PLLA−コ−PCL、ポリアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、及びこれらの組み合わせが挙げられ得る。他の好適なポリマーの非限定な例としては、一般には熱可塑性エラストマー、ポリオレフィンエラストマー、EPDMゴム及びポリアミドエラストマー、及びアクリルポリマーを含む生体安定性プラスチック材料、並びにその誘導体、ナイロン、ポリエステル、及びエポキシが挙げられる。幾つかの実施形態において、ステントは、ポリ(D,L−乳酸)(PDLLA)のような材料を用いた、1つ又は複数のコーティングを含み得る。しかしながら、これらの材料は、単なる例であり、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【0064】
ステント要素は、種々の形状及び構成を備え得る。ステント要素の幾つか又は全ては、交差するストラットにより形成されたクローズドセル構造を備え得る。クローズドセル構造は、菱形、正方形、長方形、平行四辺形、三角形、五角形、六角形、七角形、八角形、クローバー形、小葉形、円形、楕円形、及び/又は卵形の幾何形状を備え得る。クローズドセルはまた、H形スロット、I形スロット、J形スロット、及びその他などの、スロット形状も備え得る。追加的又は代替的に、ステントは、螺旋構造、蛇行構造、ジグザグ構造などの、オープンセル構造を備え得る。ストラットの交差部は、尖ったセル角部、直角をなすセル角部、丸みを帯びたセル角部、先端の丸いセル角部、平坦なセル角部、傾斜したセル角部、及び/又は面取りされたセル角部を形成してもよい。実施形態において、ステントは、異なるセル形状、向き、及び/又は大きさを有する多数の異なるセルを備え得る。種々のセル構造が「MULTI−ELEMENT BIORESORBABLE INTRAVASCULAR STENT」という名称のPCT国際出願第PCT/US16/20743号明細書において説明されており、この特許文献の全開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。実施形態において、ステント要素は、拡張前状態にあるときに半径方向よりも長手方向に長い複数の菱形クローズドセルを備え得る。ステント要素はまた、拡張状態にあるときに長手方向よりも半径方向に長い複数の菱形クローズドセルを備え得る。
【0065】
図4Bに戻ると、この例示的な実施形態では、ステント要素401は、菱形のクローズドセルパターンを有する。要素401は、混ぜ合わされた菱形クローズドセル404、405を備える。菱形セル404は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。同様に、菱形セル405は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。追加的又は代替的に、菱形セル404及び菱形セル405は、交互のパターンで螺旋状に整合されてもよい。実施形態において、菱形セル404及び菱形セル405は、円周方向にオフセットされる。追加的に、菱形セル405は、隣り合う4つの菱形セル404間の中心位置に形成されてもよい。長手方向に整合された菱形セル404の2つの角部間のストラット406の幅は、長手方向に整合された菱形セル405の2つの角部間のストラット407の幅よりも大きい。
【0066】
図9Aは、多要素ステントの代替の実施形態を例示している。
図9Bは、
図9Aのステント要素の拡大図である。ステントは、菱形又は他のクローズドセルパターンを有し得る。この実施形態において、ステントは、混ぜ合わされた大きなセル及び小さなセルを備える。大きなセルは、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。同様に、小さなセルは、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。追加的又は代替的に、小さなセル及び大きなセルは、交互のパターンで螺旋状に整合されてもよい。実施形態において、小さなセル及び大きなセルは、円周方向にオフセットされる。追加的に、小さなセルは、隣り合う4つの大きなセル間の中心位置に形成されてもよい。
図9Bに例示する実施形態において、大きなクローズドセルの第1の開口寸法(1)は約0.68mmであり、隣接する小さなクローズドセルの第2の開口寸法(2)は約0.39mmであり、長手方向に整合された大きなクローズドセルの2つの上下の角部間のストラットの幅である第3の寸法(3)は約0.25mmであり、螺旋状に整合された大きなクローズドセル及び小さなクローズドセルの2つの真っ直ぐな部分間のストラットの幅である第4の寸法(4)は約0.2mmであり、且つ円周方向に整合された大きなクローズドセルの2つの左右の角部間のストラットの幅である第5の寸法(5)は約0.12mmである。これらの寸法は、単に例示的な目的で提示されたものに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0067】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのより幅広のストラットは、ステント要素の長さに沿った螺旋を形成してステント要素各々の半径方向の強度を高めるために多数のセル間に延びる。幾つかの実施形態において、より幅広のストラットは、1つのステント要素の一方の端部から反対側の端部に延びる。他の実施形態において、より幅広のストラットは、1つのステント要素の一方の端部から反対側の端部に延びない。
【0068】
図10A〜
図10Cは、クローバー形又は小葉形セル構成を有するステント要素の実施形態を例示している。
図10〜
図10Cは4つの小葉を備えたセルを描いているが、セルは、任意の数の小葉を有し得る。
図10Aは、小葉形セル構造を有する要素の2次元図である。
図10Bは、
図10Aのセルの拡大図である。
図10Cは、円筒を形成するように
図10Aの2次元セルが左から右に丸められた円筒形態にある
図10Aのステント要素を示している。この実施形態において、要素1000は、混ぜ合わされた小葉形クローズドセル1001、1002を備える。小葉形セル1001は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。同様に、小葉形セル1002は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。追加的又は代替的に、小葉形セル1002及び小葉形セル1001は、交互のパターンで螺旋状に整合されてもよい。実施形態において、小葉形セル1002及び小葉形セル1001は、円周方向にオフセットされる。追加的に、小葉形セル1002は、隣り合う4つの小葉形セル1001間の中心位置に形成されてもよい。
図10A〜
図10Cに例示する実施形態において、長手方向に整合された長手方向小葉1003は、円周方向に整合された円周方向小葉1004よりも大きい。代替的に、長手方向小葉1003は、円周方向小葉1004と同じ大きさであってもよい。長手方向に整合された隣り合う小葉形セル1001の長手方向小葉1003は、長手方向連結ストラット1005により連結されてもよい。円周方向に整合された隣り合う小葉形セル1001の円周方向小葉1004は、円周方向連結ストラット1006により連結されてもよい。実施形態において、長手方向連結ストラット1005は、円周方向連結ストラット1006よりも幅広である。代替的に、長手方向連結ストラット1005は、円周方向連結ストラット1006と同じ幅を有し得る。要素1000は、拡張前のバルーンに装着されたときに圧着形態をとってもよい。同じように、要素1000は、バルーンにより拡張されたときに拡張形態をとってもよい。凹面1007は、小葉形セル1001が圧着状態から拡張状態に移行するにつれて小葉形要素1000の中心から離れる。
【0069】
図11A、
図11Bは、クローバー形又は小葉形セル構成を有するステント要素の代替の実施形態を例示している。
図11A、
図11Bは4つの小葉を備えたセルを描いているが、セルは、任意の数の小葉を有し得る。
図11Aは、この小葉形セル構造を有する要素の2次元図である。
図11Bは、
図11Aのセルの拡大図である。
図11Aのセル構造を備えたステント要素は、円筒を形成するための左から右への丸める向きを有する。この実施形態において、要素1100は、混ぜ合わされた小葉形クローズドセル1101、1102を備える。小葉形セル1101は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。同様に、小葉形セル1102は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。追加的又は代替的に、小葉形セル1102及び小葉形セル1101は、交互のパターンで螺旋状に整合されてもよい。実施形態において、小葉形セル1102及び小葉形セル1101は、円周方向にオフセットされる。追加的に、小葉形セル1102は、隣り合う4つの小葉形セル1101間の中心位置に形成されてもよい。実施形態において、長手方向に整合された長手方向小葉1103は、円周方向に整合された円周方向小葉1104よりも大きくてもよい。代替的に、長手方向小葉1103は、円周方向小葉1104と同じ大きさであってもよい。長手方向に整合された隣り合う小葉形セル1101の長手方向小葉1103は、長手方向連結ストラット1105により連結されてもよい。円周方向に整合された隣り合う小葉形セル1101の円周方向小葉1104は、円周方向連結ストラット1106により連結されてもよい。実施形態において、長手方向連結ストラット1105は、円周方向連結ストラット1106よりも幅広である。代替的に、長手方向連結ストラット1105は、円周方向連結ストラット1106と同じ幅を有し得る。要素1100は、拡張前のバルーンに装着されたときに圧着形態をとってもよい。同じように、要素1100は、バルーンにより拡張されたときに拡張形態をとってもよい。凹面1107は、小葉形要素1100が圧着状態から拡張状態に移行するにつれて小葉形セル1101の中心から離れる。
【0070】
図12A〜
図12Fは、ラチェット構成を有するステント要素の実施形態を例示している。
図12A〜
図12Fには菱形構成を備えたセルが描かれているが、セルは、任意のクローズドセル構成を有し得る。
図12Aは、ラチェット構成を有する要素の2次元図である。
図12Bは、
図12Aのセルの拡大図である。
図12Cは、
図12Aのセルの斜視図である。
図12Dは、ラチェット1207を示す
図12Cのセルの断面図である。
図12Eは、
図12Dのラチェット1207の拡大図である。
図12Fは、断面で示すラチェット1207の代替図である。
図12Aのセル構造を備えたステント要素は、円筒を形成するための左から右への丸める向きを有する。この実施形態において、要素1200は、混ぜ合わされたラチェットセル1201及び非ラチェットセル1202を備える。ラチェットセル1201は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。同様に、非ラチェットセル1202は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。追加的又は代替的に、非ラチェットセル1202及びラチェットセル1201は、交互のパターンで螺旋状に整合されてもよい。実施形態において、非ラチェットセル1202及びラチェットセル1201は、円周方向にオフセットされる。追加的に、非ラチェットセル1202は、隣り合う4つのラチェットセル1201間の中心位置に形成されてもよい。
図12A〜
図12Fに例示する実施形態において、ラチェットセル1201は、非ラチェットセル1202と同じか又は類似の大きさを有し得る。代替的に、ラチェットセル1201は、非ラチェットセル1202よりも大きいか又は小さくてもよい。長手方向に整合された隣り合うラチェットセル1201は、長手方向連結ストラット1205により連結されてもよい。円周方向に整合された隣り合うラチェットセル1201は、円周方向連結ストラット1206により接続されてもよい。実施形態において、長手方向連結ストラット1205は、円周方向連結ストラット1206よりも大きな長さ又は幅を有し得る。代替的に、長手方向連結ストラット1205は、円周方向連結ストラット1206と同じ長さ又は幅を有し得る。ラチェットセル1201は、長手方向に整合されたラチェットストラット1203を備える。ラチェットセル1201及び/又は長手方向連結ストラット1205の長手方向に整合された角部は、ラチェットストラット1203の直線状ラック1209を収納するための空洞1208を備え得る。爪1210は、直線状ラック1209の歯1211に係合する。要素1200は、拡張前のバルーンに装着されたときに圧着形態をとってもよい。同じように、要素1200は、バルーンにより拡張されたときに拡張形態をとってもよい。直線状ラック1207は、ラチェット要素1200が圧着状態から拡張状態に移行するにつれて空洞1208内へ長手方向に移動する(
図12Eには下から上へ及び
図102には右から左へ移動するものとして描かれている)。ラチェット1207は、それにより要素1200の半径方向の強度を増加させる。
【0071】
図13A〜
図13Fは、双安定性ばねバンド構成を有するステント要素の実施形態を例示している。
図13A〜
図13Fには菱形構成を備えたセルが描かれているが、セルは、任意のクローズドセル構成を有し得る。
図13Aは、双安定性ばねバンド構成を有する要素の2次元図である。
図13Bは、
図13Aのセルの拡大図である。
図13Cは、
図13Aのセルの斜視図である。
図13Dは、双安定性ストラット1303の湾曲を示す
図13Cのセルの断面図である。
図13Eは、
図13Dの双安定性ストラット1303の拡大図である。
図13Fは、断面で示す双安定性ストラット1303の代替図である。
図13Aのセル構造を備えたステント要素は、円筒を形成するための左から右への丸める向きを有する。この実施形態において、要素1300は、混ぜ合わされた双安定性セル1301及び非双安定性セル1302を備える。双安定性セル1301は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。同様に、非双安定性セル1302は、繰り返しパターンで長手方向及び/又は円周方向に整合されてもよい。追加的又は代替的に、非双安定性セル1302及び双安定性セル1301は、交互のパターンで螺旋状に整合されてもよい。実施形態において、非双安定性セル1302及び双安定性セル1301は、円周方向にオフセットされる。追加的に、非双安定性セル1302は、隣り合う4つの双安定性セル1301間の中心位置に形成されてもよい。
図13A〜
図13Fに例示する実施形態において、双安定性セル1301は、非双安定性セル1302と同じか又は類似の大きさを有し得る。代替的に、双安定性セル1301は、非双安定性セル1302よりも大きいか又は小さくてもよい。長手方向に整合された隣り合う双安定性セル1301は、長手方向連結ストラット1305により連結されてもよい。円周方向に整合された隣り合う双安定性セル1301は、円周方向連結ストラット1306により接続されてもよい。実施形態において、長手方向連結ストラット1305は、円周方向連結ストラット1306よりも大きな長さ又は幅を有し得る。代替的に、長手方向連結ストラット1305は、円周方向連結ストラット1306と同じ長さ又は幅を有し得る。双安定性セル1301は、円周方向に整合された双安定性ストラット1303を備える。双安定性ストラット1303は、双安定性ばねバンド構成を有する。実施形態において、双安定性ストラット1303は、凹凸形状を有する。双安定性ストラット1303は、真っ直ぐな形態か又は双安定性ストラット1303が凹方向に湾曲する湾曲形態をとってもよい。真っ直ぐな形態にある双安定性ストラット1303の剛性は、要素1300の半径方向の強度を増加させる。
図13C〜
図13Fに描かれているように、双安定性ストラット1303の凹曲線は長手方向に向けられ、且つ円筒要素1300の近位開口又は遠位開口に面する。要素1300は、拡張前のバルーンに装着されたときに圧着形態をとってもよい。同じように、要素1300は、バルーンにより拡張されたときに拡張形態をとってもよい。双安定性ストラット1303は、圧着形態では湾曲構成を有する。拡張状態では、双安定性ストラットは、真っ直ぐな構成を有する。
【0072】
図14A、
図14Bは、ピボット構成を有するステント要素の実施形態を例示している。
図14Aは、ピボット構成を有する要素の2次元図である。
図14Bは、
図14Aのセルの拡大図である。
図14Aのセル構造を備えたステント要素は、円筒を形成するための左から右への丸める向きを有する。この実施形態において、要素1400は、2つのより大きなセル1401と、1組のより小さなセル1402との交互配列を備える。2つのより大きなセル1401は、2つのより大きなセル1401を離隔する自由に動くピボットストラット1403の湾曲を可能にする。要素1400は、拡張前のバルーンに装着されたときに圧着形態をとってもよい。同じように、要素1400は、バルーンにより拡張されたときに拡張形態をとってもよい。
図14A、
図14Bは、要素1400が圧着状態にあるときに生じる剛性の低い不安定な構成にあるピボットストラット1403を描いている。拡張させたときに、ピボットストラット1403の頂点1404が、右から左に(
図14A、
図14Bにおける向きに基づく)動き、それにより、ピボットストラット1403の剛性が増加するとともに、要素1400の半径方向強度が増加する。
【0073】
図15A〜
図15Fは、波形又はアーチ形構成を有するステント要素の実施形態を例示している。
図15Aは、波形構成を有する円筒要素の側面図である。
図15Bは、波形要素の上面図である。
図15Cは、
図15Bの要素の拡大図である。
図15Dは、波形構成を有する円筒要素の斜視図である。
図15Fは、
図15Eの要素の拡大図である。要素1500は、凸状山部1501と凹状溝部1502とを交互に備える。実施形態において、
図15A、
図15D、及び
図15Eに描かれているように、要素1500は中実壁を備え得る。実施形態において、波形要素1500は、およそ3mmの長手方向長さを有し得る。代替的に、波形要素は、1〜2mmの長手方向長さを有し得る。短い長手方向長さは、ステント要素1500が中実壁を備えて配置されることを可能にする。別の実施形態において、波形要素1500は、波形円筒に切断されたセルパターンを有し得る。代替的に、アーチ、山部、及びセルパターンを有する要素1500が、付加製造プロセスを使用して製造されてもよい。要素1500は、拡張前のバルーンに装着されたときに圧着形態をとってもよい。同じように、要素1500は、バルーンにより拡張されたときに拡張形態をとってもよい。波形セル1500が圧着状態から拡張状態に移行するにつれて、山部1501及び/又は谷部1502が広がる。
【0074】
種々の実施形態では、任意の好適な治療薬(又は「薬物」)をステントに含めるか、コーティングするか、又は別様に付着させてもよい。そのような治療薬の例としては、限定されるものではないが、抗血栓薬、抗凝固薬、抗血小板剤、抗脂質剤、血栓溶解薬、抗増殖剤、抗炎症剤、過形成を抑制する薬剤、平滑筋細胞阻害剤、抗生物質、増殖因子阻害剤、細胞接着阻害剤、細胞接着促進剤、抗有糸分裂剤、抗フィブリン薬、抗酸化剤、抗腫瘍薬、内皮細胞回復を促進する薬剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、代謝拮抗剤、抗アレルギー物質、ウイルスベクター、核酸、モノクローナル抗体、チロシンキナーゼ阻害剤、アンチセンス化合物、オリゴヌクレオチド、細胞透過促進剤、血糖降下剤、脂質低下剤、タンパク質、核酸、赤血球産生刺激に有用な薬剤、血管新生剤、抗潰瘍/逆流防止剤、及び抗嘔吐剤/制吐薬、フェノフィブラートなどのPPARαアゴニスト、ロシグリタザオン(rosiglitazaone)及びピオグリタゾンなどの選択されたPPAR−γゴニスト、ヘパリンナトリウム、LMWヘパリン、ヘパロイド、ヒルジン、アルガトロバン、ホルスコリン、バプリプロスト(vapriprost)、プロスタサイクリン及びプロスタサイリン(prostacylin)類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン)、糖タンパク質IIb/IIIa(血小板膜受容体アンタゴニスト抗体)、組み換えヒルジン、トロンビン阻害剤、インドメタシン、サリチル酸フェニル、β−エストラジオール、ビンブラスチン、ABT−627(アストラセンタン)、テストステロン、プロゲステロン、パクリタキセル、メトトレキセート、フォテムシン(fotemusine)、RPR−101511A、シクロスポリンA、ビンクリスチン、カルベジオール、ビンデシン、ジピリダモール、メトトレキセート、葉酸、トロンボスポンジン模倣薬、エストラジオール、デキサメタゾン、メトリザミド、イオパミドール、イオヘキソール、イオプロミド、イオビトリドール、イオメプロール、イオペントール、イオベルソール、イオキシラン、イオジキサノール、及びイオトロラン、アンチセンス化合物、平滑筋細胞増殖の阻害剤、脂質低下薬、放射線不透過剤、抗腫瘍薬、ロバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、セリバスタチン及びフルバスタチンなどのHMG CoAレダクターゼ阻害剤、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0075】
抗血栓薬、抗凝固薬、抗血小板剤、及び血栓溶解薬の例としては、限定されるものではないが、ヘパリンナトリウム、未分画ヘパリン、ダルテパリン、エノキサパリン、ナドロパリン、レビパリン、アルドパリン、及びセルタパリン(certaparin)などの、低分子ヘパリン、ヘパリン類似物質、ヒルジン、アルガトロバン、ホルスコリン、バプリプロスト、プロスタサイクリン及びプロスタサイリン(prostacylin)類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗トロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa(血小板膜受容体アンタゴニスト抗体)、組み換えヒルジン、ビバリルジンなどのトロンビン阻害剤、トロンビン阻害剤、並びにウロキナーゼ、組み換えウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、アテプラーゼ(ateplase)、及びテネクテプラーゼなどの、血栓溶解薬が挙げられる。
【0076】
細胞増殖抑制剤又は抗増殖剤の例としては、限定されるものではないが、ラパマイシン、及びエベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ノボリムス、及びピメクロリムスを含むラパマイシン類似体、アンジオペプチン、カプトプリル、シラザプリル、又はリシノプリルなどの、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、ニフェジピン、アムロジピン、シルニジピン、レルカニジピン、ベニジピン、トリフルペラジン(trifluperazine)、ジルチアゼム、及びベラパミルなどの、カルシウムチャネル遮断薬、線維芽細胞増殖因子アンタゴニスト、魚油(オメガ3脂肪酸)、ヒスタミンアンタゴニスト、ロバスタチン、エトポシド及びトポテカンなどのトポイソメラーゼ阻害剤、並びにタモキシフェンなどの抗エストロゲン剤が挙げられる。
【0077】
抗炎症剤の例としては、限定されるものではないが、コルヒチン及びグルココルチコイド、例えば、ベタメタゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、ブデソニド、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、及びヒドロコルチゾンが挙げられる。非ステロイド性抗炎症剤としては、限定されるものではないが、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、ジフルニサル、アセトミノフェン、インドメタシン、スリンダク、エトドラク、ジクロフェナク、ケトロラク、メクロフェナム酸、ピロキシカム、及びフェニルブタゾンが挙げられる。
【0078】
抗腫瘍薬の例としては、限定されるものではないが、アルトレタミン、ベンダムシン(bendamucine)、カルボプラチン、カルムスチン、シスプラチン、シクロホスファミド、フォテムスチン、イホスファミド、ロムスチン、ニムスチン、プレドニムスチン、及びトレオスルフィン(treosulfin)を含むアルキル化剤、ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセルを含む抗有糸分裂剤、メトトレキセート、メルカプトプリン、ペントスタチン、トリメトレキサート、ゲムシタビン、アザチオプリン、及びフルオロウラシルを含む代謝拮抗物質、及び塩酸ドキソルビシン及びマイトマイシンなどの、抗生物質、エストラジオールなどの内皮細胞回復を促進する薬剤が挙げられる。
【0079】
抗アレルギー剤としては、限定されるものではないが、ペルミロラストカリウムニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン、及び一酸化窒素が挙げられる。
【0080】
有益な薬剤は溶媒を含み得る。溶媒は、任意の単一の溶媒か又は溶媒の組み合わせであってもよい。限定ではなく例示の目的で、好適な溶媒の例としては、水、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、ケトン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、酢酸塩、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0081】
ステントは、付加法又は除去法を使用して製造されてもよい。説明する実施形態の何れかにおいて、ステント又はステント要素は、シートとして製造されて円筒形態に丸められてもよい。代替的に、ステント又はステント要素は、付加製造プロセスを使用して円筒形態に製造されてもよい。実施形態において、ステントは、材料を円筒管材に押出成形することにより形成されてもよい。幾つかの実施形態において、より長いステント要素は、製造プロセス中に形成され、次いで、より小さなステント要素/要素に切断されて、多要素ステントを提供してもよい。実施形態において、ステント管材は、ステント要素を形成するパターンでレーザ切断されてもよい。
【0082】
ここで
図16を参照すると、一実施形態では、ステントは、マイクロステレオリソグラフィシステム100(又は「3D印刷システム」)を使用して製造されてもよい。種々の実施形態において使用され得る現在利用可能なシステムの幾つかの例としては、限定されるものではないが、MakiBox A6,Makible Limited,Hong Kong、CubeX,3D Systems,Inc.,Circle Rock Hill,SC、及び3D−Bioplotter(EnvisionTEC GmbH,Gladbeck,Germany)が挙げられる。
【0083】
マイクロステレオリソグラフィシステムは、照明器と、動的パターン発生器と、画像形成装置と、Zステージとを含み得る。照明器は、光源と、フィルタと、電子シャッタと、コリメータレンズと、動的マスクを形成する、デジタルミラーデバイス(DMD)に一様に強い光を投影する反射ミラーとを含み得る。
図7は、DMDボードと、Zステージと、ランプと、プラットフォームと、樹脂バットと、対物レンズとを含む、マイクロステレオリソグラフィシステム100の一実施形態のこれらの構成部品の幾つかを示している。3D印刷/マイクロステレオリソグラフィシステム及び他の付加製造システムの詳細は、当技術分野で周知であるので、本明細書では説明しない。しかしながら、種々の実施形態によれば、任意の付加製造システム又はプロセスが、現在既知であるか又は今後開発されるかにかかわらず、本発明の範囲内においてステントを作製するために使用される可能性がある。換言すれば、本発明の範囲は、何れの特定の付加製造システム又はプロセスにも限定されない。
【0084】
一実施形態において、システム100は、動的マスク投影マイクロステレオリソグラフィを使用してステントを作製するように構成されてもよい。一実施形態において、作製方法は、第1に、コンピュータプログラムを使用して3Dモデルをスライスし、システムにおいて画像を層毎に結合して積層することにより3D微細構造足場を形成するステップを含み得る。一実施形態において、システムの反射ミラーは、動的マスクを形成する、DMDに一様に強い光を投影するために使用される。動的パターン発生器は、マスクに類似した黒白領域を作り出すことにより、製作モデルのスライスされたセクションの画像を生成する。最後に、画像を積み重ねるために、分解能Zステージが上下に移動して、次の硬化のために樹脂表面を新しくする。Zステージ構築サブシステムは、一実施形態では、約100nmの分解能を有するとともに、基板を取り付けるためのプラットフォームと、ポリマー溶液を収容するためのバットと、溶液の温度を制御するためのホットプレートとを含む。Zステージは、下方深くに移動し、所定の位置まで上方に移動し、次いで、溶液が均一に分配されるまで一定時間待つことにより、所望の層厚さの新たな溶液表面を作り出す。
【0085】
特定の実施形態を示し説明してきたが、これら実施形態は、本発明を限定することを意図するものではない。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、実施形態の何れに対しても種々の変更及び修正がなされ得る。本発明は、代替案、修正、及び均等物を網羅するように意図されている。