(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1から
図10を参照し、本発明の一実施形態に係る吊り天井構造について説明する。ここで、本実施形態は、例えば学校、病院、生産施設、体育館、プール、空港ターミナルビル、オフィスビル、劇場、シネコン等の建物の天井として用いられる吊り天井の構造に関するものである。
【0020】
本実施形態の吊り天井(吊り天井構造)Aは、例えば、
図1に示すように、野縁と野縁受けからなる天井下地1と、天井下地1に取り付けられて天井面を形成する天井材(天井パネル)2と、天井下地1及び天井材2を吊り下げ支持する吊り部材(吊りボルト)3とを備えて構成されている。なお、天井下地は必ずしも野縁と野縁受けで構成されていなくてもよく、例えば、Tバーを備えて構成されていてもよい。
【0021】
野縁は、例えば断面コ字状に形成された溝形鋼であり、水平に延設され、且つ水平の一方向(x方向)の横方向に所定の間隔をあけ、平行に複数配設されている。
【0022】
野縁受けは、例えば断面コ字状に形成された溝形鋼であり、水平に延設され、且つ水平の他方向(y方向)の横方向に所定の間隔をあけ、平行に複数配設されている。また、このとき、野縁受けは、野縁と交差するように配設されるとともに、複数の野縁上に載置した状態で配設される。そして、各野縁受けは、野縁と交差する部分で、野縁接続用金具(クリップ)を使用することにより野縁に接続されている。
【0023】
吊り部材3は、円柱棒状に形成されるとともに外周面に雄ネジの螺刻を有する吊りボルトであり、上端を上階の床材等の上部構造(建物躯体)4に固着、または鋼製の根太等に緊結して垂下され、下端側を、吊り部材接続用金具(ハンガー)を用いることにより野縁受けに接続して複数配設されている。また、複数の吊り部材は、所定の間隔をあけて分散配置されている。
【0024】
天井材(天井パネル)2は、2枚のボードを貼り付けて一体に積層形成したものであり、例えば天井付帯設備等の重量と併せて、1m
2あたり20kg程度の重量で形成されている。そして、この天井材2は、複数の野縁の下面にビス止めなどして設置されている。なお、天井材2は、1枚および3枚以上のボードで構成されていてもよい。
【0025】
そして、この吊り天井Aでは、吊り部材2を介して建物の上部構造3に、野縁及び野縁受けからなる天井下地1と天井材2とが吊り下げ支持されている。また、天井下地1と天井下地1に取り付けた天井材2によって天井部5、この天井部5によって室内側の天井面がそれぞれ形成されている。
【0026】
本実施形態の吊り天井Aにおいては、天井部5と建物の上部構造3の間の天井裏空間Hの天井部5の外周端部側、すなわち、天井裏空間Hの壁、柱、梁等の建物構成部材(建物躯体)側に、上端を上部構造3に接続して、束材6が上下方向に延設(垂設)されている。また、この束材6は、天井部5の外周端部に沿う方向に所定の間隔をあけて複数設けられている。そして、これら複数の束材6の下端に横方向(一方向、他方向)に延びる端部構造部材7が接続され、端部構造部材7を介して複数の束材6が一体に連結されるとともに、端部構造部材7が束材6を介して建物躯体に接続されている。本実施形態では、これら束材6や端部構造部材7として、例えばH形鋼、I形鋼、溝形鋼などの形鋼や角鋼管などの管材が使用されている。なお、端部構造部材7は建物躯体に接続して設けられていればよく、必ずしも束材6を介して建物躯体に接続されていなくてもよい。
【0027】
本実施形態の吊り天井Aにおいては、天井部5の下方に、且つ天井部5の下面(天井面)に沿って水平に、断面略逆U字状で略棒状の引張材(フェイルサポート)10と平板帯状のつなぎ材11とが格子状に配設されている。さらに、引張材10とつなぎ材11は、例えばアルミ押出形鋼、スチール部材などであり、一端部及び他端部を端部構造部材7に接続し、端部構造部材7を介して束材6に接続されている。すなわち、本実施形態の引張材10及びつなぎ材11は、束材6や端部構造部材7の支持体を介して建物躯体に接続されている。
【0028】
引張材10は、その中間部を天井部5の下方からタッピングビスなどの接続固定手段で天井材2(天井部5)及び天井下地1に固定して設けられている。つなぎ材11は、その中間部を天井部5の下方からタッピングビスなどの接続固定手段で天井材2(天井部5)、必要に応じて天井下地1に固定して設けられている。
【0029】
ここで、以下、引張材10及びつなぎ材11を合せ、サポート材(10、11)という。
【0030】
本実施形態では、サポート材(10、11)が天井部5の下方で例えば900〜2400mmピッチの格子状に配設されている。
【0031】
そして、上記構成からなる本実施形態の吊り天井Aにおいては、天井部5の下方に配設されたサポート材(10、11)が、一端部及び他端部を束材6、端部構造部材7を介して建物躯体に接続し、中間部を天井材2や天井下地1に接続して配設されているため、地震時に、サポート材(10、11)によって天井部5が建物躯体と一体に挙動し、天井部5の揺れが抑制される。
【0032】
一方、本実施形態の吊り天井Aにおいては、長辺方向に配設された引張材10と天井面(天井材2、天井部5)の間に、天井面の略全面を覆うように複数の落下防止部材12が介設されている。
【0033】
すなわち、本実施形態の吊り天井Aでは、平板状で帯状のつなぎ材11を下方からビス止めして天井パネル2と面接触するように設置した後、落下防止部材12を配設するとともに引張材10で挟み込むようにし、引張材10を天井パネル2に下方からビス止めする。これにより、落下防止部材12が天井面を被覆するように配設されて保持される。
【0034】
また、サポート材(10、11)がその交差部でビス止めするなどして接合されていることにより、地震時にサポート材(10、11)で引張力が伝達され、天井部5の揺れが効果的に抑制される。
【0035】
より具体的に、落下防止部材12は、例えばネット、メッシュ、FRPグリッド等の網目状、格子状に形成されたものであり、つなぎ材11を天井部5に取り付けた後に、天井面を被覆するように配置しつつ天井パネル2の間に挟み込むように引張材10を配置し、この引張材10を下方から天井パネル2、天井下地1にビス止めすることによって取り付けられている。
【0036】
また、本実施形態では、落下防止部材12の端部に縫製などによって生地などの定着部が一体に設けられている。そして、隣り合う落下防止部材12の定着部同士を重ね、重ね継手の定着部を挟み込むように引張材10を配設し、定着部を貫通するようにビス止めすることによって、複数の落下防止部材12が好適に固定して設置されている。
【0037】
これにより、引張材10のみで落下防止部材12を天井パネル2との間に挟み込んで保持しながら取り付ける場合と比較し、容易に天井面全体を覆うように落下防止部材12を設置することができる。
【0038】
そして、例えば岩綿吸音板等の小さな天井材2を多数設置して天井面を形成し、このような小さな天井材2が地震時に脱落するような場合に、落下防止部材12でこれを受け止めることができる。さらに、地震時に天井材2などに破損が生じた際、天井材2の小片等を落下防止部材12で受け止めることができる。
【0039】
これにより、本実施形態の吊り天井構造Aにおいては、サポート材(10、11)を設けることで天井部5の揺れを抑えることが可能になるとともに、引張材10で挟み込んで落下防止部材12を、天井面を被覆するように取り付けることで、天井下に部材や小片などが脱落することを防止できる。
【0040】
したがって、本実施形態の吊り天井構造Aによれば、引張材10(及びつなぎ材11)による天井部5の横揺れ防止と、落下防止部材12(及びつなぎ材11)による天井小片の落下等の防止の効果をより確実に発揮でき、且つ施工性の向上を図ることが可能になる。
【0041】
なお、落下防止部材12は、必ずしも網目状、格子状に形成されていなくてもよく、例えば、膜状、シート状に形成されていても、繊維シートなどを樹脂で天井部5に貼設して形成されていてもよいが、標準構成として難燃性高強度繊維素材ネットを用いることが好ましい。
【0042】
また、引張材10としては、厚さ3.2mmのSGCC材またはSGHC材を曲げ加工した溝形鋼を標準構成とし、つなぎ材11としては、厚さ3.2mmのSGCC材またはSGHC材のフラットバーを標準構成とすることが好ましい。
【0043】
サポート材(10、11)の接合箇所においては、中間部が接合材を介して普通ボルトで緊結する接合を標準構成とし、端部が接合材を隅肉溶接したガセットプレートと端部構造部材7を普通ボルトで緊結する接合を標準構成とすることが好ましい。
【0044】
つなぎ材11の接合部は、中間部が接合材を介してドリルビスで緊結する接合を標準構成とし、端部が接合材を隅肉溶接したガセットプレートと端部構造部材7を普通ボルトで緊結する接合を標準構成とすることが好ましい。
【0045】
ここで、上記のように引張材10とつなぎ材11と落下防止部材12と端部構造部材7を備えてなる本実施形態の吊り天井構造A(以下、フェイルサポート工法という)の設計(仕様設定方法)の一例について以下に示す。
【0046】
(A)天井の設計用震度
既存天井の設計用震度は、平成25年国土交通省告示第771号に規定される水平震度、鉛直震度を下回らないものとする。
【0047】
具体的に、本実施形態のフェイルサポート工法を適用する建築物が高さ60m以下で免震建築物以外の場合は、天井の設計用震度は、平成25年国土交通省告示第771号に規定される水平震度、鉛直震度を下回らないものとし、以下の各項による。なお、高さ60mを越える超高層建築物や免震建築物の場合は、当該建築物の特性を考慮して、水平震度は0.5を下回らない範囲で適切に定める。
【0048】
(A−1)水平震度K
h
天井の設計用水平震度K
hは、天井を設ける階に応じて、表1の数値を下回らないものとする。
【0050】
(A−2)鉛直震度K
v
天井の鉛直震度を考慮する場合は、天井の設計用鉛直震度K
vは1.0を下回らないものとする。
【0051】
(B)サポート材等の張力の算定
(B−1)水平荷重時張力
水平荷重時張力は、サポート材等の部材1本当たりの地震時水平力とする。
【0052】
すなわち、水平地震動による天井面の水平力に対しては、サポート材等の張力は次の式(1)で算定する。
【0054】
ここに、添字dは水平地震動の作用方向で天井の短辺(x方向/一方向)または長辺(y方向/他方向)のいずれかの方向、H
dはサポート材等の張力、K
hは設計用水平震度、wは天井面の単位体積重量(天井面構成部材や照明器具などの自重にサポート材及び落下防止部材などの重量を加算したもの)、b
dはサポート材等の設置間隔(支配幅)、l
dはサポート材等の支点間距離を表し、b
d、l
dは水平地震動の作用方向の数値を用いる。
【0055】
(B−2)鉛直荷重時張力
鉛直荷重時張力は、引張材1本当たりの等分布荷重に対して、懸垂線理論を用いて算出するか、または膜張力略算式を用いて算出する。
【0056】
詳細に、鉛直地震動や重力加速度、落下による衝撃等による鉛直力に対しては、引張材1本当たりの張力は、懸垂線の理論式を用いて算定するか、または膜張力略算式を用いて算定する。なお、つなぎ材(長辺方向の鋼材)は、鉛直荷重を負担しない。
【0057】
a)懸垂線の基礎式
図2に示すように、単位長さ当たりの設計用荷重を受ける長さの部材(引張材)において、OC部分の垂直方向における力の釣り合いは、次の式(2)で表される。なお、Vは垂直方向の力、qは引張材の単位長さあたりの設計用荷重、SはOC部分の引張材の長さである。
【0059】
一方、
図2のC点におけるたわみの接線勾配は、次の式(3)で表される。なお、Hは引張材に作用する水平力である。
【0061】
図2における曲線の長さは、式(4)で与えられるため、以上の式を用いて懸垂線の微分方程式(式(5))が得られる。
【0064】
したがって、(dy/dx)
x=0=y
x=0=0より、式(5)の解は式(6)となる。
【0066】
また、引張材の引張力Pは次の式(7)で与えられる。
【0068】
b)張力によるたわみで形成される懸垂線
式(4)より、引張材の全長は次の式(8)で表される。なお、Lは引張材の全長、lは引張材の支点間距離である。
【0070】
また、引張材の伸びは式(9)となるため、サポート材等の伸びにより形成される懸垂線についてL−△L=lと見做すと、式(10)が得られる。なお、Eは引張材のヤング率、Aは引張材の断面積である。
【0073】
この式(10)に対し、2分法等の反復解法を用いることで水平力Hが求められる。さらに、Hを用いて引張材のたわみδ及び張力Pは、次の式(11)、式(12)で与えられる。
【0076】
c)膜張力略算式による張力とたわみの算定
膜張力の略算式を示す。
これは、支点間に張られた膜材料の支点間の膜張力を求める略算法で、鉛直等分布荷重に対して、初期状態でサグが無い場合の水平力H、鉛直力V、張力P、たわみδは、それぞれ次の式(13)〜式(16)により算定される。但し、膜張力略算式は、引張材の支点間距離lに対するたわみδの比(サグ比δ/l)が0.1以下の場合に適用する。
【0081】
なお、懸垂線理論式と膜張力略算式による計算結果の比較では、式(12)に対する式(15)の張力の比が1.000であり、式(11)に対する式(16)のたわみの比が0.998〜1.000であって、両者が良い整合を示すことを確認している。
【0082】
上記を踏まえ、以下、設計例を具体的に説明する。
【0083】
(C)基本構成
例えば
図1に示したように、天井下面に引張材(フェイルサポート)10及びつなぎ材11を配置し、落下防止部材(ここでは落下防止ネット)12と組み合わせて、天井の落下防止を行う。すなわち、引張材が荷重を負担し、落下防止ネットが天井の部分的な損傷による小片の落下を防止する。
【0084】
天井下面の引張材及びつなぎ材は、短辺方向(x方向、一方向)に配置される引張材と長辺方向(y方向、他方向)に配置されるつなぎ材の設置間隔は、既存天井の野縁の配置などに従って計画するが、天井の短辺方向、長辺方向共に概ね1820mm程度の格子状とする。
【0085】
溝形鋼の引張材を取り付ける前にフラットバーのつなぎ材を天井パネルに取り付けるものとし、室内側から約@303mm間隔でφ4mmラッパ頭タッピングビスによってつなぎ材、天井パネルを貫通して固定する。次に、落下防止ネットの定着部(ケダーなど)を室内側から約@303mm間隔でφ4mmラッパ頭タッピングビスによってつなぎ材に取り付けた後に、引張材は、室内側から約@303mm間隔でφ5mm六角頭ドリルビスによって引張材、落下防止部材、つなぎ材、天井パネル、野縁を貫通して固定する。φ4mmラッパ頭タッピングビスの耐力は、φ4mm皿頭タッピングビスの耐力を準用するものとする。
【0086】
長辺方向は、天井直下に配置されたつなぎ材のみとしている。つなぎ材は、落下防止部材と引張材を取り付ける前に、室内側から約@303mm間隔でφ4mmラッパ頭タッピングビスによってつなぎ材、天井パネル、野縁を貫通して固定する。
【0087】
サポート材の交差部では、サポート材を連続させ、引張材と併用するつなぎ材は連続させない。そのため、サポート材に生じる張力は、引張材のみで伝達させるものとする。サポート材の両端部は、端部接合金物を介して端部構造部材にピン接合する。
【0088】
落下防止部材は天井落下防止ネットとし、ケダーを端部に縫製した定尺幅のロール形状で施工現場に搬入する。ケダーは、一般には間仕切りポールやテントバーに膜材を取付ける定着部材として用いられていて、塩化ビニル製のロープ状芯材に膜材を巻き付けたものである。天井落下防止ネットは、天井の短辺方向は連続した1枚ものとし、長辺方向は引張材ごとに分割されたものとする。引張材位置でネットのケダー同士を重ね合わせて、引張材とつなぎ材の間に挟み込むことによって、ネット相互の重ね継手と引張材の定着を行う。
【0089】
天井重量が大きい場合や引張材の支点間距離が長い場合は、引張材に生じる張力が大きくなる。引張材の断面に比較して張力が過大となる場合には、引張材の中間部(概ね2等分位置)に吊り材(M16吊りボルト等)を設け、中間支持とすることができる。中間支持材の吊り元は、既存インサート、スラブへのあと施工アンカーを用いることなく、既存梁または既存梁間等に新設した横架材の側部に設けたあと施工アンカーまたはガセットプレートを介して定着する。
【0090】
(D)改修設計の方針
本実施形態のフェイルサポート工法は、天井下面のサポート材が荷重を負担することで天井の大規模な崩落を防止し、落下防止部材が天井の部分的な損傷による小片の落下を防止することを目的とした天井改修工法である。
【0091】
サポート材の内、短辺方向(x方向、一方向)に設置された引張材は、天井落下衝撃荷重ならびに脱落後の天井の自重とx方向の地震時水平力を負担し、端部構造部材に張力として伝達する。また、長辺方向(y方向、他方向)に設置されたつなぎ材は、脱落後の天井のy方向の地震時水平力を負担し、端部構造部材に張力として伝達する。
【0092】
引張材の設計は、天井の落下衝撃荷重による張力と天井脱落後の天井面に作用する地震時水平力と天井自重による組合せ張力を以下のように算出し、母材と接合部の断面検定を行うこととする。
【0093】
また、つなぎ材の設計は、天井脱落後の天井面に作用する地震時水平力に対して、母材と接合部の断面検定を行うこととする。
【0094】
a)天井自重を支持する場合の引張材と中間支持材の張力は、等分布荷重として引張材に作用するものとし、懸垂線理論による反復解法または膜張力略算式により張力を求める。
【0095】
b)天井落下衝撃による引張材と中間支持材の張力は、天井自重を支持する場合の張力に、天井落下実験で求めた衝撃割増係数を乗じることによって求める。
【0096】
c)天井脱落後の天井面に作用する地震時水平力は、引張材とつなぎ材がそれぞれの方向を負担し、引張力として端部構造部材に直接伝えるものとする。
【0097】
本実施形態のフェイルサポート工法は、天井短辺方向(x方向)の引張材が天井落下衝撃荷重と脱落後の天井自重を負担する一方向の構造システムである。ただし、天井脱落後の地震時水平力に対しては、短辺方向(x方向)の引張材と長辺方向(y方向)のつなぎ材が、それぞれの方向の水平力を負担すると仮定して張力を算定する。
【0098】
(E)設計法の概要
(E−1) 設計用震度の算定
天井面の水平震度は、K
h=2.2を標準とする。多層建築物の階に応じて天井面の水平震度を定める場合は、表1に準拠する。なお、超高層建築物や免震建築物の場合は、建物の動特性を考慮して、水平震度は0.5を下回らない範囲で適切に定める。また、天井面の鉛直震度は、天井の支持スパン長が15m未満(12m以下)であるため考慮しない。
【0099】
(E−2) 構造検討の手順
フェイルサポート工法による既存天井の落下防止措置に関する検討は、下記の手順で行う。
【0100】
1)中間支持がない場合
a)天井自重を支持する場合に生じる引張力の張力算定
b)水平震度K
hによる地震時水平力の算定
c)天井自重による張力に落下衝撃割増係数を乗じることによって求めた天井全面落下時の張力に対する引張材の断面検定
d)天井自重によるたわみに落下衝撃割増係数を乗じることによって求めた天井全面落下時のたわみに対する引張材の検討
e)天井脱落後の地震時水平力と天井自重による張力の組合せに対する引張材とつなぎ材の断面検定
【0101】
2)中間支持がある場合
a)天井自重を支持する場合に生じる引張材と中間支持材の張力算定
b)水平震度K
hによる地震時水平力の算定
c)天井自重による張力に落下衝撃割増係数を乗じることによって求めた天井全面落下時の張力に対する引張材と中間支持材の断面検定
d)天井自重によるたわみに落下衝撃割増係数を乗じることによって求めた天井全面落下時のたわみに対する引張材の検討
e)天井脱落後の地震時水平力と天井自重による張力の組合せに対する引張材とつなぎ材の断面検定
【0102】
短辺方向(x方向)の引張材は、天井全面落下時の衝撃荷重ならびに脱落後の天井自重とx方向の地震時水平力を負担し、長辺方向(y方向)のつなぎ材は、天井脱落後のy方向の地震時水平力を負担するものとしてそれぞれの張力を算定し、天井周囲の端部構造部材に伝達できるように設計を行う。なお、天井全面落下時の引張材の最大たわみの検討を行い、落下衝撃によるたわみに起因した人災を生ぜずに、避難経路の確保に支障がないことを確認する。
【0103】
引張材は、溝形鋼−40×40×3.2mm+FB−40×3.2mm、つなぎ材はFB−40×3.2mmを標準とし、材質はSGHC材またはSGCC材を標準とする。
【0104】
(E−3) 天井自重に対する引張材の張力の算定
図3に示すように、天井自重は、x方向の引張材に作用する等分布荷重q
xとして、次の式(17)により算定する。
【0106】
ここに、wは天井面の単位面積重量(天井面構成部材や照明器具などの自重にサポート材及び落下防止部材などの重量を加算したもの)、b
xは引張材の設置間隔(1本当たりの支配幅)、l
xは引張材の支点間距離である。引張材の張力P
xは、引張材1本当たりの等分布荷重q
xに対する張力として、次の式(18)または式(19)を用いて算定する。
【0109】
(E−4) 地震時水平力の算定
天井面に生じる地震時水平力は、短辺方向(x方向)と長辺方向(y方向)のそれぞれのサポート材1本当たりについて、次の式(20)により算定する。なお、x方向が引張材、y方向がつなぎ材である。
【0111】
ここに、H
x、H
yはx方向、y方向のサポート材1本当たりの地震時水平力、K
hは天井面の水平震度、wは天井面の単位面積重量(天井面構成部材や照明器具などの自重にサポート材(引張材10,つなぎ材11)および接合部、ネット等の重量を加算したもの)、b
x、b
yはサポート材の設置間隔(1本当たりの支配幅)、l
x、l
yはサポート材の支点間距離で
図4による。
【0112】
(E−5) 落下衝撃割増係数
a) 引張材及び中間支持材に対する落下衝撃割増係数
静的な天井自重に対する引張材の張力とたわみを懸垂線理論式または膜張力略算式により算定し、天井落下実験結果に基づいて定めた表2の衝撃割増係数φ、αを乗じて、落下衝撃時の引張材の張力とたわみを算定する。また、中間支持ありの場合の天井落下実験結果に基づいて定めた中間支持材の鉛直力の割増係数βも表2による。
【0114】
b)落下防止ネットに対する落下衝撃割増係数
落下防止ネットに対する落下衝撃割増係数は、「建築物における天井脱落対策に係わる技術基準の解説(平成25年10月 国土交通省国土技術政策総合研究所、独立行政法人建築研究所、一般社団法人新・建築士制度普及協会)」に従い、天井とネット自重を3.3倍に割増すこととする。
【0115】
(E−6)サポート材の設計用張力の算定
a)引張材の設計用張力
引張材の設計用張力T
xは、次の式(21)により算定する。
【0117】
ここで、T
x1は天井落下衝撃時の張力、T
x2は脱落後の天井自重と地震時水平力の組み合わせによる張力、φは天井脱落時の張力の割増係数で表2の数値、P
xは天井自重に対する張力で式(12)または式(15)による。H
xはx方向の地震時水平力による張力で式(20)による。
【0118】
b)つなぎ材の設計用張力
つなぎ材の設計用張力T
yは、次の式(22)により算定する。
【0119】
【数22】
ここで、H
yはy方向の地震時水平力による張力で式(20)による。
【0120】
(E−7)天井全面落下時のたわみの検討
天井全面落下時の最大たわみd
maxは、次の式(23)により算定する。
【0122】
ここで、αは天井落下時のたわみの割増係数で表2の数値、δ
xは天井自重に対する引張材のたわみで式(11)または式(16)により算定する。
【0123】
(E−8)天井全面落下時の中間支持材の鉛直力の算定
天井全面落下時の中間支持材の衝撃鉛直力N
Sは、次の式(24)により算定する。
【0125】
ここで、βは天井落下時の中間支持材鉛直力の割増係数で表2の数値、P
xは天井自重に対する引張材の張力で式(12)または式(15)により算定する。Hは天井自重に対する引張材の張力の水平成分である。中間支持材の設計では式(24)で算出した荷重に対して、1.2倍程度の耐力上の余裕を持たせるものとする。
【0126】
(F)引張材の断面検定
引張材の母材ならびに接合部の短期許容引張力が設計用張力以上であることを検定する。
【0127】
引張材は、溝形鋼−40×40×3.2とFB−40×3.2のSGHCまたはSGCC材(降伏点205N/mm
2以上)を使用することを標準とする。引張材は、支点間距離が最大12mまでの天井に使用するが、材せいが40mmの溝形鋼であり、中間支持がない場合は鉛直荷重に対し梁としてではなく、カテナリーとして抵抗する。
【0128】
一方、中間支持が有る場合は、内端(中間支持側端部)の曲げモーメントの影響により、張力やたわみがカテナリーよりも減少するため、引張材としての張力の検定は安全側の評価となる。
【0129】
さらに、中間支持が有る場合の天井落下衝撃に関する検討では、実大天井落下実験で引張材の損傷が観察されなかったこと、梁要素にトリリニア型の復元力を仮定した弾塑性の動的応答解析において、内端部の梁要素は降伏するが他の部位は全て弾性域にとどまり、内端部の塑性変形も小さく靭性的な余裕があること、などが明らかになっている。そのため、中間支持が有る場合の引張材は、天井の落下衝撃に対して内端部の曲げ降伏を許容し、梁としての曲げ検定は行わない。すなわち、中間支持が無い場合と同様に、引張材としての張力の検定を行う。
【0130】
(F−1)引張材の母材の検定
引張材の母材の有効断面積A
eは、溝形鋼の断面のみを対象とし、接合部のボルト孔による断面欠損を考慮して、次の式(25)で算定する。
【0132】
引張材の短期許容引張力P
aは、降伏点f
y=205N/mm
2を用いて、次の式(26)で算定する。
【0134】
引張材の母材の検定では、短期許容引張力P
aが設計用張力T
xを上回ることを確認する。
【0135】
(F−2)引張材の接合部の検定
引張材の接合部は、母材の溝形鋼−40×40×3.2の内側に、接合部材:溝形鋼−33.6×45×3.2(SGHCまたはSGCC材)を挿入して、普通ボルトM12を用いて接合する。溝形鋼と併用するフラットバー(FB−40×3.2)はつなぎ材位置で切断し、相互には接合しない。
引張材の接合部の必要強度P
jは、母材の許容耐力と同様に、次の式(27)で算定する。
【0137】
a)中間接合部の検討
中間接合部は、
図5に示すように、引張材(10):溝形鋼−40×40×3.2、接合部材:溝形鋼−33.6×45×3.2、普通ボルトM12を用いることを標準とする。ボルトは支圧接合とし、ボルトのゆるみ止めとして皿ばね座金を用いる。引張材のボルト孔の孔径は14mm、接合部材の孔径は16mmとする。
【0138】
i)接合部材の検討
接合部材の有効断面積A
ejは、A
ej=371−16×3.2×2=268.6mm
2となる。
よって、接合部材に作用する応力度は、P
j/A
ej=53.4×10
3/268.6=198.8≦205N/mm
2・・・OKとなる。
【0139】
ii)普通ボルトの検討
ボルト孔は6箇所あるため、ボルト孔1箇所が負担する支圧力S
bは、S
b=53.4×10
3/6=8900Nとなる。
母材のボルト孔の支圧による応力度は、
図6に示すように、8900/12×3.2=232≦1.25F=256N/mm
2・・・OKとなる。
【0140】
b)端部接合部の検討
端部接合部は、
図7に示すように、中間接合部で用いた溝形鋼−33.6×45×3.2(SGHCまたはSGCC)をベースプレート付きガセットプレート(ベースプレート13、ガセットプレート14、リブプレート15)に溶接することを標準とし、接合部の必要強度Pjを用いて検討を行う。引張材の母材と接合部材の接合は、中間接合部と同様であるので、以下では検定を省略する。
【0141】
c)接合部材の溶接長さの検定
接合部材とガセットプレートの隅肉溶接部のせん断応力度は次の式(28)のようになる。
【0143】
なお、τ
pは溶接部の短期せん断応力度、aはのど厚(3.2mm×0.7=2.2mm)、l
wは有効溶接長さ(250mm)、
sf
wは溶接部の短期許容せん断応力度である。
【0144】
また、めっき鋼材を隅肉溶接するため、溶接長さは必要な有効溶接長さに対して2割の余裕を持たせることとする。
【0145】
d)ベースプレートと端部接合部材の接合部の検定
・ガセットプレートが取合うベースプレートと端部構造部材を接合するボルト耐力の検定
ボルトは4×M12とすれば、ボルト1本当たりが負担する応力は、P
b=P
j/4=53.4/4=13.4kNとなる。よって、P
b/
sP
b=13.4/20.2=0.66≦1.0・・・・OKとなる。なお、P
bはボルト1本が負担する引張応力、
sP
bはボルトの短期許容引張応力である。
【0146】
・ベースプレートの検定
ベースプレートは、厚さが16mm、材質がSS400とし、形状は
図7に示すものとする。ベースプレートの設計は、日本建築学会「鋼構造接合部設計指針」(2012年版)の露出柱脚の設計法に従って行う。
【0147】
a=40mm、b=2×a=80mm、P
b=13.4kN、
sf
t=235N/mm
2(短期許容引張応力度)より、M=P
b×a=13.4×40×10
−3=0.536kNm、Z=b×t
2/6=80×16
2/6=3412mm
3となり、
bM=Z×
sf
t=3412×235×10
−6=0.802≧M・・・・OKとなる。
【0148】
(F−3)端部構造部材の設計
フェイルサポート工法を適用する既存天井の周囲には端部構造部材を新設し、端部接合部を標準仕様としてサポート材を緊結する。端部構造部材は、柱や梁などの既存躯体に緊結し、サポート材の張力を既存躯体に伝達する。端部構造部材は、SS400材のH形鋼を横使いで使用するのを標準とするが、他の部材を用いる場合は個別に検討する。
【0149】
a)長期荷重時の検討
端部構造部材の自重qに対して、単純支持梁として応力解析を行い、曲げモーメント
LM
max、中央部のたわみ
Ld
maxを算定する。長期の断面検定は、弱軸曲げとして次の式(29)のように行う。
【0151】
b)水平荷重時の検討
サポート材の設計用張力を集中荷重P
1として与え、単純支持梁として応力解析を行って、曲げモーメント
SM
max、中央部のたわみ
Sd
maxを算定する。短期の断面検定は、長期荷重時と水平荷重時を組合わせた応力とたわみに対して、次の式(30)、式(31)のように行う。
【0155】
a)衝撃鉛直力に対する断面検定
中間支持材の母材ならびに定着部は、天井全面落下時の衝撃鉛直力N
Sに対して、1.2倍以上の耐力余裕度を持たせる設計を行う。そのため、断面検定では、応力度比が0.8以下であることを確認する。
【0156】
中間支持材の断面検定は、天井全面落下時の衝撃鉛直力N
Sに対して次の式(32)により行う。
【0158】
ここで、βは天井落下時の中間支持材鉛直力の衝撃割増係数で表2よりβ=3.0、P
xは天井自重に対する引張材の張力で式(12)または式(15)による。Hは天井自重に対する引張材の張力の水平成分である。また、
SF
Sは中間支持材の短期許容引張力で、M16ボルト(ボルト材質4T)の使用を標準とすれば、
SF
S=37.6kNである。
【0159】
b)中間支持材の取付け
中間支持材として、M16ボルト(ボルト材質4T)を用いる場合は、引張材の溝形鋼に対して、
図8に示すように取り付ける。
【0160】
c)中間支持材の定着部の検討
中間支持材の定着部は、ガセットプレートとベースプレートを介して既存躯体(主として天井内の上部梁)に緊結する。既存躯体が鉄骨梁の場合はリンダプターを用い、RC梁の場合はあと施工アンカーを用いて、それぞれベースプレートを既存梁に緊結する。中間支持材の近傍にスラブ以外の既存躯体がない場合は、鉄骨の横架材を既存の梁間に新設するなどして、中間支持材の定着部を支持するものとする。
【0161】
(G)つなぎ材の断面検定
つなぎ材の母材ならびに接合部の短期許容引張力が設計用張力以上であることを検定する。
【0162】
つなぎ材と引張材との交差部では、つなぎ材のFB−40×3.2を連続させるものとし、引張材の溝形鋼と併用するフラットバーFB−40×3.2は連続させない。
【0163】
(G−1)つなぎ材の母材の検定
つなぎ材は、FB−40×3.2(SGHCまたはSGCC材)を標準とする。
つなぎ材の母材の有効断面積Aeは、接合部のドリルビス孔による断面欠損を考慮して、次の式(33)で算定する。
【0165】
つなぎ材の短期許容引張力P
aは、降伏点f
y=205N/mm
2を用いて、次の式(34)で算定する。
【0167】
つなぎ材の母材の検定では、短期許容引張力P
aが設計用張力T
yを上回ることを確認する。
【0168】
(G−2)つなぎ材の接合部の検定
つなぎ材の接合部は、スプライスプレートを被せてドリルビス打ちを行う。接合に用いるドリルビスは、テクスビス5φ(日本パワーファスニング社のMBテクス又は同等品)を用いるものとする。
【0169】
つなぎ材の接合部の必要強度P
jは、母材の許容耐力と同じく、次の式(35)で算定する。
【0171】
a)テクスビスによる鋼板接合部の許容せん断耐力
2枚の薄板鋼板をドリルビスで締め付けた場合の鋼板接合部の許容せん断力は、「薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き(一般社団法人 日本鉄鋼連盟編、2014年版)」に従い、次の式(36)によって求める。
【0173】
ここで、R
as1は ねじの斜め抜け出しによる長期許容せん断耐力(N)、R
as2はねじ頭側鋼板の支圧による長期許容せん断耐力(N)、R
as3はねじ先側鋼板の支圧による長期許容せん断耐力(N)、R
as4はねじ先のせん断破断による長期許容引張り耐力(N)である。また、t
1はねじ頭側鋼板の設計板厚(公称板厚t
e1の90%)(mm)、t
2はねじ先側鋼板の設計板厚(公称板厚t
e2の90%)(mm)、F
1はねじ頭側鋼板の許容応力度の基準強度(=205N/mm
2)、F
2はねじ先側鋼板の許容応力度の基準強度(=205N/mm
2)、dはドリルねじの呼び径(mm)、F
dはドリルねじの許容応力度の基準強度(=570N/mm
2)である。A
dはドリルねじの断面積(=πd
2/4)(mm
2)、A
deはドリルねじの有効断面積(=0.55A
d)(mm
2)である。
【0174】
上記の計算結果より、表3の接合部耐力を得る。
【0176】
b)中間接合部の検討
つなぎ材11(FB−40×3.2)同士の中間接合部は、
図9に示すように、つなぎ材と同厚、同幅、同材質の接合部材FB−40×3.2を重ね、径5mmのドリルビス6本を用いて接合することを標準とする。
【0177】
3.2mm厚の鋼材に対するドリルビスの短期許容せん断力は、表3より、
sR
as=3552Nである。したがって、中間接合部のドリルビスの必要本数は、P
j/
sR
as=19.7×1000/3552=5.5本≒6本となる。
【0178】
c)端部接合部の検討
端部接合部は、
図10に示すように、つなぎ材11(FB-40×3.2)をベースプレート付きガセットプレート(ベースプレート13、ガセットプレート14、リブプレート15)に溶接することを標準とし、接合部の必要強度P
jを用いて検討を行う。
【0179】
i)つなぎ材の溶接長さの検定
つなぎ材とガセットプレートの隅肉溶接部のせん断応力度は、次の式(37)のようになる。
【0180】
【数37】
なお、τ
pは溶接部の短期せん断応力度、aはのど厚(3.2mm×0.7=2.2mm)、l
wは有効溶接長さ(100mm)、
sf
wは溶接部の短期許容せん断応力度である。
【0181】
また、めっき鋼材を隅肉溶接するため、溶接長さは必要な有効溶接長さに対して2割の余裕を持たせることとする。
【0182】
ii)ベースプレートと端部接合部材の接合部の検定
・ガセットプレートが取合うベースプレートと端部構造部材を接合するボルト耐力の検定
ボルトは4×M12とすれば、ボルト1本当たりが負担する応力は、P
b=P
j/4=19.7/4=4.9kNとなる。よって、P
b/
sP
b=4.9/20.2=0.24≦1.0・・・・OKとなる。なお、P
bはボルト1本が負担する引張応力、
sP
bはボルトの短期許容引張応力である。
【0183】
・ベースプレートの検定
ベースプレートは、厚さが9mm、材質がSS400とし、形状が図
10に示すものとする。ベースプレートの設計は、日本建築学会「鋼構造接合部設計指針」(2012年版)の露出柱脚の設計法に従って行う。
【0184】
a=40mm、b=2×a=80mm、P
b=4.9kN、
sf
t=235M/mm
2(短期許容引張応力度)より、M=P
b×a=4.9×40×10
−3=0.196kNm、Z=b×t
2/6=80×9
2/6=1080mm
3となり、
bM=Z×
sf
t=1080×235×10
−6=0.254≧M・・・・OKとなる。
【0185】
(H)天井落下防止ネットの検討
天井落下防止ネットは、難燃性高強度繊維素材ネットを天井下面に設置し、@1.82m間隔の位置で、つなぎ材と引張材に挟み込んで定着することを標準とする。
【0186】
以下の検討では、天井の単位面積質量を25kg/m
2以下とした場合に、標準仕様のネットが天井落下に対して安全であることを確認する。なお、標準仕様によらない場合は、別途検討を行う。
【0187】
(H−1) ネット材料
天井落下防止ネットは、協立工業株式会社の難燃性高強度繊維素材ネット ベクトランフィックスネット FS840(8×40)(φ1.31mm一目巾40mm)を標準とする。ネットの破断強度および長期・短期の許容引張耐力は、表4による。
【0189】
(H−2)ネット定着部
天井落下防止ネットの端部は、ケダーが縫製されたものとし、引張材の溝形鋼とフラットバーのつなぎ材の間にケダーを挟み込むことで、ネット相互の重ね継手と定着部を形成する。その定着部の許容耐力は、実験結果より表5による。
【0191】
(H−3)ネットの検討
以下のネットの検討では、天井の単位面積質量は、25kg/m
2以下を標準とする。
【0192】
a)設計荷重
・サポート材の質量
引張材(溝形鋼−40×40×3.2+FB−40×3.2)の質量:2.75+1.00=3.75kg/m
つなぎ材(FB−40×3.2)の質量:1.00kg/m
【0193】
天井の単位面積当たりのサポート材の質量:(3.75×1.82+1.00×1.82)/(1.82×1.82)=2.6kg/m
2
サポート材の接合部等による割増し:2.6×1.10=2.9kg/m
2
【0194】
・ネットの質量
ネット材およびネット端部定着ケダー等の質量:γ=0.2kg/m
2
以上より、天井の質量を25kg/m
2とした場合のネットの設計用荷重w
Nは、w
N=25.0+2.9+0.2=28.1kg/m
2→275N/m
2となる。
【0195】
b)ネットに生じる応力
ネットの設計用荷重に対する天井落下時の衝撃割増係数はφ
N=3.3とする。
【0196】
天井落下時のネットの衝撃荷重Wは、次の式(38)で算定する。
【0198】
ネットの支点間距離はB=1.82m、ネットの引張剛性はE
t=640kN/mとする。天井落下時のネットの衝撃荷重を等分布荷重Wとする場合と集中荷重P=W×Bとする場合の二通りについて、ネット張力を以下のように算定する。
【0199】
1)等分布荷重:Wとして
W=0.908kN/m
2、伸びを考慮してH=H
a=H
b=
3√(E
tW
2B
2/24)=4.18kN/m、V=V
a=V
b=1/2W×B=0.83kN/m、T
a=T
b=√(H
2+V
2)=4.26kN/m=T
1
ネットの変形量 : δ
δ=
3√(3WB
4/64E
t)=0.090m
【0200】
2)集中荷重:Pとして
P=W×B=1.65kN/m、伸びを考慮してH=H
a=H
b=
3√(E
tP
2/8)=6.02kN/m、V=V
a=V
b=P/2=0.825kN/m、T
a=T
b=√(H
2+V
2)=6.08kN/m=T
2
ネットの変形量 : δ
δ=
3√(PB
3/8E
t)=0.125m
【0201】
以上から、天井落下に伴うネット張力は、次の式(39)で与えられる。
【0203】
ここに、T
1は等分布荷重Wによる張力、T
2は集中荷重Pによる張力、
nT
iはネットの初期張力で
nT
i=0.00kN/mとする。
【0204】
c)落下防止ネットの許容耐力
落下防止ネットの許容耐力f
tは、次の式(40)で算定する。
【0206】
ここに、ネット材の短期許容引張耐力:f
t1=7.63kN/m(表4)、ネット端部定着部の短期許容引張耐力:f
t2=6.67kN/m(表5)である。
【0207】
そして、天井落下に伴うネットの検定は、T/f
t=6.08/6.67=0.91<1.0・・・・OKとなる。
【0208】
以上より、ネット材と端部定着部は、天井落下衝撃荷重に対して十分な耐久性を発現できる。これにより、信頼性の高い吊り天井構造を実現することが可能になる。
【0209】
以上、本発明に係る吊り天井構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。