(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂から成る外層と,前記外層よりも低融点の熱可塑性樹脂から成るヒートシール層を備えた積層フィルムであり,ヒートシールにより封止されて包装容器の少なくとも一部となる包装用のヒートシールフィルムにおいて,
前記外層の内面に部分的にマイクロ波吸収層を形成すると共に,
少なくとも前記マイクロ波吸収層の形成位置における前記ヒートシール層に,複数の凹部を形成したことを特徴とする包装用ヒートシールフィルム。
前記外層が二軸延伸フィルムから成り,前記ヒートシール層が無延伸フィルムから成ることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の包装容器用ヒートシールフィルム。
前記凹部を前記マイクロ波吸収層の形成位置及び少なくともその外側3mm幅の範囲に形成したことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の包装容器用ヒートシールフィルム。
熱可塑性樹脂から成る外層と,前記外層よりも低融点の熱可塑性樹脂から成るヒートシール層を備えたヒートシールフィルムを備え,前記ヒートシールフィルムの周縁部をヒートシールして周縁ヒートシール部を形成することにより,前記周縁ヒートシール部の内周側に,被包装物が包装される包装領域が形成される包装容器において,
前記ヒートシールフィルムのうち,前記周縁ヒートシール部を除く位置における前記外層の内面に,部分的にマイクロ波吸収層を形成すると共に,
少なくとも前記マイクロ波吸収層の形成位置における前記ヒートシール層に,複数の凹部を形成したことを特徴とする包装容器。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品や冷凍食品の包装等に使用されるヒートシール袋や,ヒートシールフィルムによって開口部が被蓋された包装用トレー等の包装容器が各種食品の包装に使用されている。
【0003】
このような包装容器に包装された食品は,ヒートシールによって包装容器内に封止・密封された状態で流通する共に,これを購入した需要者等は,食用に供する前に必要に応じて加熱するが,電子レンジの普及により,このような加熱方法として電子レンジによるマイクロ波を利用した加熱が主流となりつつある。
【0004】
ここで,ヒートシールにより密封された包装容器に収容されている食品を電子レンジで加熱すると,マイクロ波による誘電加熱によって食品に含まれる水分が蒸気となり,密封された包装容器内の圧力が上昇して包装容器が破裂し,内部の食品を飛散させるおそれがある。
【0005】
そのため,このような食品の飛散を防止するために,電子レンジによる加熱を開始すると,包装容器の一部に自動で蒸気抜き穴が形成され,上昇した包装容器内部の圧力を逃がすことができるように構成した包装容器が各種提案されている。
【0006】
このような包装容器100の一例として,後掲の特許文献1には,
図9に示すように食品包装用トレー105の開口部を封止するヒートシールフィルム104の所定の位置に,金属の蒸着層等のマイクロ波により発熱する導電発熱材107を設け,電子レンジで加熱した際,この導電発熱材107を設けた位置のヒートシールフィルム104を加熱溶融させて蒸気抜き穴130を形成するように構成した包装容器100が提案されている(特許文献1の請求の範囲)。
【0007】
また,後掲の特許文献2には,
図10に示すようにヒートシール袋110である包装容器100を提案するもので,このヒートシール袋110の周縁溶着部106と連結して袋の内方に張り出した,突き出し部135aを備えた張り出しシール部135を設け,この張り出しシール部135内に形成された未シール領域136内のフィルムに,マイクロ波吸収層107’を設ける構成を開示する(特許文献2の請求項1他)。
【0008】
なお,前出の特許文献1及び特許文献2のように,マイクロ波を吸収して発熱する材料によって蒸気抜き穴130を形成するものではないが,本願の出願人は,
図11に示すように,食品包装用の包装容器として,合成樹脂フィルム製の内層102及び外層103の少なくとも2層の積層フィルム104にて形成された包装袋110であって,スリット137を形成した前記外層103と,前記内層102に前記スリット137を被覆する幅で形成したヒートシール部138を設け,前記スリット137に対峙する凹凸条を前記内層102に複数混在させた包装体110を提案している(特許文献3の請求項1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上で従来技術として説明した包装容器100中,特許文献1に記載の包装容器100(
図9参照)では,電子レンジによって加熱した際,蓋材であるヒートシールフィルム104のうち導電発熱材107の形成範囲がマイクロ波によって加熱,溶融されてこの部分のヒートシールフィルム104に蒸気抜き穴130が生じることで,包装容器100の蒸気を逃がして包装容器100が破裂することを防止できるようになっている。
【0011】
しかし,上記構成の包装容器100では,溶融したヒートシールフィルム104の下方には食品が収容されていることから,導電発熱材107の形成範囲のヒートシールフィルム104が溶融して落下すると,食品に異物として混入することになる。
【0012】
このように,溶融した樹脂が食品内に異物として混入することを防止するために,前掲の特許文献2に記載のヒートシール袋110(
図10参照)では,張り出しシール部135内の未シール領域136のフィルムにマイクロ波吸収層107’を設けることで,この部分のフィルムが溶融しても,この溶融した樹脂は張り出しシール部135を超えて食品内に混入することがなく,また,その後,ヒートシール袋110内の圧力上昇によってヒートシール袋が膨張すると,張り出しシール部135が突き出し部135aを起点として剥離を開始することで,蒸気抜き穴130を介して圧力を逃がすことができるようになっている。
【0013】
しかし,上記構成のヒートシール袋110では,マイクロ波吸収層107’を設けるだけでなく,更に,周縁溶着部106と連結した張り出しシール部135を設ける必要があり,製袋時の工程数が増えるために作業が煩雑となる。
【0014】
また,張り出しシール部135を周縁溶着部106と連結して設ける構成であることから,マイクロ波吸収層107’,従って,蒸気抜き穴130は周縁溶着部106の近傍に形成されることとなるため,ヒートシール袋110を寝かせた状態で加熱すると,食品,特にカレーやシチュー等の液状の食品では蒸気抜き穴130を介して内容物が吹き出す可能性があり,上記構成の放気構造は,スタンディングパウチのように立てた状態で加熱することができるヒートシール袋110のように,蒸気抜き穴130を設ける部分の周縁溶着部106を食品よりも高所に配置した状態とすることができる包装容器に適用が限定される。
【0015】
なお,特許文献1及び特許文献2に記載されているように,導電発熱材107の塗布やマイクロ波吸収層107’の形成により蒸気抜き穴130を形成する構成では,マイクロ波の吸収に伴って導電発熱材107やマイクロ波吸収層107’が発熱し,この部分のヒートシールフィルム104が溶け落ちて蒸気抜き穴130が形成されることから,導電発熱材107やマイクロ波吸収層107’の形状に対応した形状の蒸気抜き穴130が,導電発熱材107やマイクロ波吸収層107’を設けた位置に,設けた数だけ形成される。
【0016】
また,包装容器100の複数個所に導電発熱材107の塗布やマイクロ波吸収層107’を形成して複数個の蒸気抜き穴130を形成した場合であっても,各蒸気抜き穴130は電子レンジによる加熱を開始した後,略同時に形成されることとなる。
【0017】
そのため,一旦放気を開始すると,蒸気抜き穴130全体の開孔面積は略一定となることから,形成する蒸気抜き穴130の大きさ及び数を,放気開始時の比較的低い圧力を基準に設定すると,その後に生じる更なる圧力上昇に対応できずに包装容器100の破裂や食品の飛散が生じるおそれがある一方,形成する蒸気抜き穴130の大きさや数を,包装容器100内で生じる最大圧力に対応して設定すると,加熱開始直後のように包装容器100内の圧力が比較的低い状態では包装容器100内の圧力が上昇するまでに比較的長時間を要するため,食品を「蒸す」等といった作用を及ぼし難くなる。
【0018】
これに対し,前掲の特許文献3に記載の包装容器100(包装袋110)では,外層103にスリット137を形成すると共に,少なくとも内層102表面に,前記スリット137に対峙する凹凸条を複数混在させた構成を採用することで,包装袋110の内圧上昇に応じてスリット137部分の内層102が引き伸ばされると,この部分の内装102のうち,凹条部分にピンホールが生じ,内部圧力の上昇に伴って,形成されるピンホール数,又は既に形成されているピンホールの孔径が徐々に拡大することで包装袋110内の圧力を早期に高めることができると共に,包装袋110内の更なる圧力上昇に対しても,放気量が増大することで内部圧力を維持しつつ,包装袋110の破裂等を防止することができるものとなっており,加熱時に「蒸し」の要素を加えることが好ましい,例えばシュウマイ等の食品であっても好適に加熱することができるものとなっている。
【0019】
しかし,上記構成の特許文献3に記載の包装袋110では,一般に内層102に比較して高強度である外層103にスリット137を設けていることから,スリットの形成部分の強度が低下しており,輸送中や保管中,あるいは店舗での陳列の際に多数積み重ねる等して包装袋110に圧力が加わると破損して内容物が漏れ出る危険性がある。
【0020】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,包装容器の大幅な強度低下を招くことなく,内圧の上昇による包装用容器の膨張により,適宜間隔で複数の微細の開孔を徐々に形成して少しずつ蒸気の放出を開始すると共に,内圧の上昇に伴って開孔数,又は開孔面積を増大することで破損等を防止することで,包装用容器内の温度及び圧力を高く維持して高圧調理及び高温調理をすることができる上,蒸らしを必要とする食品に対しても充分な蒸らし効果を発揮する,ヒートシール袋やヒートシールトレー等の包装用容器,及び前記ヒートシール袋の製袋,あるいは,前記ヒートシールトレーの蓋として使用する包装用のヒートシールフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0022】
上記目的を達成するために,本発明の包装用ヒートシールフィルム4は,
熱可塑性樹脂から成る外層3と,前記外層3よりも低融点の熱可塑性樹脂から成るヒートシール層2を備えた積層フィルムであり,ヒートシールにより封止されて包装容器の一部となる包装用のヒートシールフィルム4において,
前記外層3の内面に部分的にマイクロ波吸収層7を形成すると共に,
少なくとも前記マイクロ波吸収層7の形成位置における前記ヒートシール層2に,複数の凹部8を形成したことを特徴とする(請求項1)。
【0023】
前記マイクロ波吸収層7は,その平面形状を円形,三角形,四角形,その他の多角形や各種の幾何学形状として形成することもできるが,好ましくは幅0.5〜3.0mmの線状に形成する(請求項2)。
【0024】
このようにマイクロ波吸収層7を線状のものとして形成する場合,その長さは好ましくは5〜200mm,より好ましくは30〜70mmである(請求項3)。
【0025】
上記いずれの構成のヒートシールフィルム4においても,前記外層3を二軸延伸フィルムにより,前記ヒートシール層2を無延伸フィルムにより形成することが好ましい(請求項4)。
【0026】
なお,前記凹部8は,前記マイクロ波吸収層7の形成位置のみならず,少なくともその外側3mm幅の領域,一例として3mm〜20mm幅の領域にも形成することが好ましい(請求項5)。
【0027】
また,本発明の包装容器1は,
熱可塑性樹脂から成る外層3と,前記外層3よりも低融点の熱可塑性樹脂から成るヒートシール層2を備えたヒートシールフィルム4を備え,前記ヒートシールフィルム4の周縁部をヒートシールして周縁ヒートシール部6を形成することにより,前記周縁ヒートシール部6の内周側に,被包装物が包装される包装領域30が形成される包装容器1において,
前記ヒートシールフィルム4のうち,前記周縁ヒートシール部6を除く位置における前記外層3の内面に,部分的にマイクロ波吸収層7を形成すると共に,
少なくとも前記マイクロ波吸収層7の形成位置における前記ヒートシール層2に,複数の凹部8を形成したことを特徴とする(請求項6)。
【0028】
前記マイクロ波吸収層7は,幅0.5〜3.0mmの線状に形成することが好ましい(請求項7)。
【0029】
この場合,前記マイクロ波吸収層7を,好ましくは長さ5〜200mm,より好ましくは30〜70mmに形成する(請求項8)。
【0030】
上記いずれの構成においても,前記外層3が二軸延伸フィルムから成り,前記ヒートシール層2が無延伸フィルムから成るヒートシールフィルム4の使用が好ましい(請求項9)。
【0031】
更に,前記凹部8は,前記マイクロ波吸収層7の形成範囲のみならず,少なくともその外側3mm幅の領域,一例として3mm〜20mm幅の領域に対しても形成することが好ましい(請求項10)。
【発明の効果】
【0032】
以上で説明した本発明の構成より,本発明の包装用ヒートシールフィルム4及びこれを使用した包装容器1では,食品を包装した状態で電子レンジによってマイクロ波で誘電加熱すると,マイクロ波吸収層7が発熱してこの部分のヒートシールフィルム4を加熱する。
【0033】
このようにしてマイクロ波吸収層7の形成部分におけるヒートシールフィルム4の加熱が継続されると,他の部分に比較して薄肉となっている凹部8が溶融し,その中央部分が破れてピンホール21が生じて蒸気の放出が開始される。
【0034】
このようにして形成されたピンホール21は熱収縮によって孔径を拡大するが,凹部8に対し凹部8の周縁部分は肉厚となっているために凸部22が形成されており,凸部22を超えて熱収縮によるピンホール径の拡大は生じ難く,孔径の拡大が抑制されることで,比較的小径の孔,すなわち,ピンホール21の状態が維持される。
【0035】
このようにして孔が形成される本願のヒートシールフィルム4は,このマイクロ波吸収層7の形成部分全体が溶融することなく,前述したピンホール21が形成された状態が維持されると共に,包装容器1内の圧力上昇に応じてマイクロ波吸収層7の形成部分に生じるピンホール21の数が増加し,及び/又はピンホール21の開孔面積が広がることで,包装容器1の内圧を維持しながら蒸気を少しずつ抜くことができた。
【0036】
その一方で,ヒートシールフィルム4の外層3には特許文献3の包装袋とは異なりスリット等を設けていない構成であることから,電子レンジによる加熱を行うまではヒートシールフィルム4に大幅な強度低下が生じず,搬送,保管や陳列等に際して包装容器1に圧力が加わった場合であっても破裂等を生じ難くすることができた。
【0037】
また,包装容器1内の圧力放出は,前述したように先ず凹部8の形成部分にピンホール21が形成され,その後,徐々にこのピンホール21が広がり,及び/又はピンホール21の数が増えて圧力上昇に対応するようになっているため,放気開始時の破裂音等の発生もなく,また,溶融樹脂が食品内に落下して異物として混入することも防止できるものとなっている。
【0038】
特に,食品に対する溶融樹脂の落下を防止するために特許文献2のヒートシール袋における張り出しシール部のような構成を設けない場合には,製袋時の工程数を減らすこともできた。
【0039】
更に,前記マイクロ波吸収層7を,幅0.5〜3.0mmの線状に形成した構成,より好ましくはこのマイクロ波吸収層7の長さを5〜200mm,より好ましくは30〜70mmの範囲で形成した構成では,ピンホールの開孔面積をより一層,緩やかに増大することで,容器内の圧力をより長時間にわたって保持することができた。
【0040】
更に,前記外層3を二軸延伸フィルム,前記ヒートシール層2を無延伸フィルムとした構成では,外層3を強化することができると共に,ヒートシール層2が伸び易くなることで凹部8の形成部分にピンホール21がより形成され易いものとすることができた。
【0041】
なお,前記凹部8を前記マイクロ波吸収層7の形成範囲及びその外側に少なくとも3mm幅で形成したことで,内部圧力の上昇に伴い,マイクロ波吸収層7の形成位置のみならずその周縁部にまで,ピンホールの形成範囲を拡大させることで,より広範な容器内の圧力変化に対応することができた。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に,本発明の実施形態を,添付図面を参照しながら以下に説明する。
【0044】
〔包装容器の全体構成〕
図1及び
図2に,本発明の電子レンジ加熱用包装容器の構成例を示す。
【0045】
図1の包装容器1は,本発明のヒートシールフィルム4を使用して製袋した包装袋10であり,
図1(A)は2枚のヒートシールフィルム4のヒートシール層2を相互に重ね合わせて4辺をヒートシールして形成された4方シール袋,
図1(B)は,1枚のヒートシールフィルム4のヒートシール層2が重なるように2つ折りにして3辺をヒートシールして形成した3方シール袋,
図1(C)は,1枚のヒートシールフィルム4のヒートシール層2が重なるように3つ折りにしてシールした所謂「合掌貼り」としたヒートシール袋であり,これらのヒートシール袋は,いずれも本願における包装容器の対象となると共に,図示した包装袋の他,所謂「スタンディングパウチ」と呼ばれる包装袋や,
図2に示すように食品包装用トレー5やカップ等の開口縁にヒートシールフィルム4のヒートシール層2を重ね合わせてヒートシールした,ヒートシールトレー10’等,構成要素にヒートシールフィルム4を含むものは,いずれも,本願で対象とする包装容器1に含み得る。
【0046】
なお,このような包装容器1を構成するヒートシールフィルム4において,ヒートシールによりフィルム同士あるいはトレー5の開口縁等とヒートシールされる周縁の部分は,本明細書において周縁ヒートシール部6と記載し,
図1及び
図2中に,「網掛け」で示した部分が,この周縁ヒートシール部6に該当する。
【0047】
〔ヒートシールフィルム〕
(1)全体構成
本発明の包装用ヒートシールフィルム4は,
図4(C)に示すように熱可塑性樹脂から成る外層3と,前記外層3よりも低融点の熱可塑性樹脂から成るヒートシール層2を備えた積層構造を有する,ヒートシールによる溶着に使用するフィルムであり,前記外層3とヒートシール層2の間に,1層以上の中間層(図示せず)を有するものであっても良い。
【0048】
このヒートシールフィルム4のうち,前記周縁ヒートシール部6となる部分を除いたいずれかの位置における前記外層3の内面(ヒートシール層2側の面)には,その一部分にマイクロ波吸収層7を形成すると共に,少なくとも前記マイクロ波吸収層7の形成位置における前記ヒートシール層2に,複数の凹部8が形成されている。
【0049】
(2)外層
ヒートシールフィルム4の前記外層3には,耐熱性,気密性を有する合成樹脂フィルムを使用することが好ましく,そのような合成樹脂としては,一例としてナイロン(NY)や,ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げることができる。
【0050】
また,応力強化のために,外層3には一軸延伸又は二軸延伸したフィルムの使用が好ましく,例えば,二軸延伸ナイロン(ONY),二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(OPET),二軸延伸ポリプロピレン(OPP)等といった二軸延伸フィルム全般が好適に使用可能である。
【0051】
また,上述した二軸延伸フィルムに,シリカ蒸着,アルミナ蒸着,バリアコート剤の塗工等のように,バリア加工を施して使用しても良い。
【0052】
外層3は,ヒートシール時における加熱によっても溶融しない耐熱性を有することが必要で,後述するヒートシール層2の樹脂との比較において高融点の樹脂を使用し,一例として,外層3に使用される合成樹脂フィルムの材料として,215〜225℃の融点を有する二軸延伸ナイロン(ONY),又は265℃の融点を有するポリエチレンテレフタレート(PET)の使用が好ましく,本実施形態では,厚み25μmのONYを使用した。
【0053】
(3)ヒートシール層
前述したヒートシール層2としては,ヒートシール性を付与するために前述した外層よりも低融点の樹脂を使用し,一例としてオレフィン系無延伸フィルムが好適に使用可能である。
【0054】
このようなヒートシール性を有する合成樹脂として,直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),低密度ポリエチレン(LDPE),中密度ポリエチレン(MDPE),高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン,未延伸ポリプロピレン(CPP)等が挙げられる。
【0055】
また,ヒートシール層2に使用される合成樹脂フィルムは,応力により伸長しやすいフィルムであることが好ましく,例えば未延伸フィルムであることが好ましいが,これに限定されない。
【0056】
ヒートシール層2に使用する合成樹脂としては,前述した外層3に使用する合成樹脂よりも低融点のものを使用することが必要で,好ましくは外層3とヒートシール層2の樹脂の融点差が50℃以上あることが好ましい。
【0057】
前述したように,外層3に使用する合成樹脂として,215〜225℃の融点を有する二軸延伸ナイロン(ONY)や,265℃の融点を有するポリエチレンテレフタレート(PET)を使用する本実施形態では,ヒートシール層2に使用する合成樹脂として105〜115℃の融点を有する低密度ポリエチレン(LDPE),110〜130℃の融点を有する中密度ポリエチレン(MDPE),105〜130℃の融点を有する直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),135〜150℃の融点を有する高密度ポリエチレン(HDPE),135〜165℃の融点を有する無延伸ポリプロピレン(CPP)を使用することができる。
本実施形態では,一例として厚み50μmのLLDPEフィルムを使用した。
【0058】
(4)マイクロ波吸収層
前述した外層3のうち,後に周縁ヒートシール部6となる部分を除いた位置のいずれかの位置の内面(ヒートシール層2側の面)には,マイクロ波吸収層7が,所定の形状で形成されている。
【0059】
このマイクロ波吸収層7は,電子レンジで使用する帯域のマイクロ波を吸収する層であり,マイクロ波吸収性を有する微粒子,その他のマイクロ波吸収性を有する材料が添加されたインクや塗料を塗布することにより,あるいは,マイクロ波吸収性を有する金属等を蒸着させる等して形成した層であり,前述したマイクロ波を吸収して発熱する性質を有する層を形成することができるものであれば,既知の各種の材料及び積層技術を利用して形成したものであって良い。
【0060】
マイクロ波吸収層7を,マイクロ波吸収性を有する材料を添加したインキや塗料の塗布により形成する場合,添加するマイクロ波吸収性の材料としては,アルミ等の金属の粉体,黒鉛やカーボンブラック等の炭素や各種塩等の非金属製の粉体等が使用でき,また,アルミ等の金属の蒸着によってマイクロ波吸収層7を形成するものとしても良い。
【0061】
マイクロ波吸収層7の形成は,当初より外層3内面の所定位置にインキや塗料を所定形状に塗布し,あるいは金属等を蒸着することにより形成するものとしても良いが,例えばパスター加工のように予め外層3となるフィルムの片面全体にマイクロ波吸収インキを塗布しておき,その後,マイクロ波吸収層7として残す部分以外のインキを除去することにより形成するものとしても良い。
【0062】
マイクロ波吸収層7の平面形状は特に限定されず,
図5に示すように円形に形成する他,三角形,四角形,その他の多角形や幾何学形状等,各種の形状を採用可能であり,その大きさや形成数も包装容器の大きさや発生する蒸気量との関係で適宜,設定することができる。
【0063】
マイクロ波吸収層7を,後述する線状を除く上記形状に形成する場合,これに限定されるものではないが,一例として直径あるいは長辺を3〜20mm程度大きさに形成することができる。
【0064】
このマイクロ波吸収層7は,好ましくは
図4に示すように線状に形成することができ,この場合,幅0.5〜3.0mmの線状に形成する。
【0065】
このようにマイクロ波吸収層7を線状に形成する場合,その形成長さは,包装容器のサイズや蒸気発生量に応じて設定可能であるが,マイクロ波吸収層7をこのような線状に形成する場合,その長さはおよそ5〜200mm,好ましくは30〜70mmの範囲であり,本実施形態では,幅125mm,長さ200mmの4方シール袋に設ける線状のマイクロ波吸収層7として幅1mm,長さ50mmのマイクロ波吸収層7を設けている。
【0066】
(5)凹部
以上で説明したマイクロ波吸収層7の形成位置に対応する位置のヒートシール層2には,デボス加工(凹加工)あるいはエンボス加工(凹凸加工)を行う等して,複数の凹部8を形成する。
【0067】
マイクロ波吸収層の形成位置に対する凹部8の形成は,予めヒートシール層2となるフィルムのうち,少なくとも積層時,マイクロ波吸収層7の形成位置に対応する位置に配置される部分に,凸版ロール等との接触によって事前に凹部8を形成しておき,このヒートシール層2となるフィルムを,マイクロ波吸収層7を形成した後の外層3となるフィルムにラミネートすることで形成するものとしても良い。
【0068】
または,マイクロ波吸収層7が形成された外層3となるフィルムに,ヒートシール層2となるフィルムをラミネートしてヒートシールフィルム4を形成した後,このヒートシールフィルム4のうち,少なくとも前記マイクロ波吸収層7が形成されている位置のヒートシール層2に事後的に凹部8を形成するものとしても良い。
【0069】
本実施形態では,ヒートシールフィルム4を形成した後の前記ヒートシール層に事後的に凹部8を形成する構成を採用した。
【0070】
このような凹部8の形成は,一例とした
図3(A)に示すように表面に凸部が形成された凸版12と,平坦な表面を有する対向板13間に,ヒートシール層2が凸版12側,外層3が対向板13側を向くようにヒートシールフィルム4を配置すると共に,前記凸版12と対向板13間でヒートシールフィルム4を挟持すると共にヒートシール層2の軟化温度や溶融温度まで加熱して,凸版12の表面に形成した凸部をヒートシール層2に転写することでヒートシール層2に凹部8を形成するものとしても良く,或いは,
図3(B)に示すように表面に凸部が形成された,加熱した凸版ロール12’と,平坦な表面を有する対向ロール13’間に,ヒートシール層2が凸版ロール12’側,外層3が対向ロール13’側を向くようにヒートシールフィルム4を挟持して通過させることで,凸版ロール12’の表面に形成されている凸部をヒートシール層2に連続して転写することで凹部8を形成するものとしても良く,ヒートシール層2に対する凹部8の形成は,既知の各種の方法により形成することができる。
【0071】
なお,
図3(A)及び
図3(B)を参照した説明では,ヒートシールフィルム4のうちのヒートシール層2側に対してのみ前述した凹部8を形成する場合を例に挙げて説明したが,前述した例では平坦な表面に形成している対向板13や対向ロール13’の表面にも凹凸を形成し,外層3側にも凹凸が形成されるように構成するものとしても良い。
【0072】
形成する凹部8は,比較的小さなものを多数形成することが好ましく,一例として1個あたりが平面視で0.1〜2mm程度の直径又は長辺を有するものを0.1〜2mm程度の間隔で,ヒートシール層の厚みに対し約10〜90%の深さで繰り返し模様として形成することができ,本実施形態では,
図4(B)に示すように,網目格子状に配列された矩形状の凸部を有する凸版12を使用して,ヒートシール層2に矩形状の凹部8を転写・形成した。
【0073】
前述した凹部8は,マイクロ波吸収層7の形成範囲と同一の範囲に形成するものとしても良いが,好ましくは,
図1,
図4及び
図5に示すように,マイクロ波吸収層7の形成範囲の他,その外周側の少なくとも3mm幅の範囲にも前述した凹部8を形成した凹部形成領域9とすることが好ましい。
【0074】
凹部形成領域9は,
図4及び
図5に示すように一定の幅及び長さを有するものとして形成するものとしても良いが,本実施形態では,
図1(A)に示すようにマイクロ波吸収層7と重なる位置に,約10mmの幅を有する帯状の凹部形成領域9を,ヒートシールフィルム4のMDに連続して形成し,この凹部形成領域9内に,平面視において一辺約0.1mmの矩形状の凹部を,MD及びTDに約0.4mmの等間隔で連続形成した。
【0075】
〔作用等〕
以上のように構成されたヒートシールフィルム4は,ヒートシール層2側が内側となるように重ね合わせて
図1(A)〜(C)に示すように周縁ヒートシール部6をヒートシールして製袋され,又は,
図2に示すように食品包装用トレー5の開口部周縁にヒートシール層2を重ね合わせた状態で周縁ヒートシール部6をヒートシールして包装容器1が形成されており,前述したヒートシールフィルム4が包装容器1の一部を構成している。
【0076】
このように構成された包装容器1では,内部に食品を包装した状態で電子レンジによる加熱を行うと,内部に収容された食品の加熱に伴い発生した蒸気によって包装容器1内の圧力が上昇して包装容器1が膨らみ始めると共に,マイクロ波吸収層7が,電子レンジより発せられたマイクロ波を吸収して発熱して,マイクロ波吸収層7の形成位置におけるヒートシールフィルム4を加熱して軟化させる。
【0077】
このヒートシールフィルム4の軟化により,このマイクロ波吸収層7の形成位置のうち,凹部8が形成されている部分にピンホール21が生じ,包装容器1内の水蒸気が放気される。
【0078】
このようにして形成されるピンホール21は,一つ一つの大きさは微小であることから,容器内の水蒸気の放出が開始されるものの,放気量は僅かであるために包装容器1内の圧力を保持できると共に,包装容器1内の圧力が上昇すると,形成されるピンホール21の数が増え,又は,各ピンホール21の大きさが増大することで,上昇分の圧力を含め,包装容器1内の圧力をうまく逃がすことができ,これにより包装容器1の破裂や,破裂に伴う食品の飛散を防止しつつ,包装容器1内の圧力を比較的高い状態に維持したままで加熱を行うことができる。
【0079】
ここで,前掲の特許文献1や2に記載されているように,マイクロ波吸収層を形成することで蒸気抜き穴が形成されるようにした従来の包装容器(
図7及び
図8参照)では,電子レンジを使用した加熱によってヒートシールフィルム4がマイクロ波吸収層7の形状に対応した形状に溶融することで,マイクロ波吸収層7の形状に対応した形状の蒸気抜き穴が形成されるものとなっている(特許文献1の明細書第3頁第8〜10行,特許文献2[0026]欄)。
【0080】
これに対し,本願の構成では,マイクロ波吸収層7の形状に対応したヒートシールフィルム4の溶融,従って,マイクロ波吸収層7の形状に対応した形状の蒸気抜き穴は形成されず,前述したようにマイクロ波吸収層7の形成範囲のうち,凹部8の形成によって薄肉となった部分にピンホール21が形成されると共に,マイクロ波吸収層7の形成領域全体が溶融することなく,形成されたピンホール21が維持されることで,包装容器1内の圧力を比較的高い状態に維持できるという,従来技術からは予測できない特有の効果を得ることができるものとなっている。
【0081】
また,本発明の包装容器1では,前述したようにピンホール21が形成されるのみで,マイクロ波吸収層7の形成範囲全体のヒートシールフィルム4を溶融させるものではないため,溶融した樹脂を受け止めるための構成等を別途設けることなしに,外層3やヒートシール層2の溶融物が落下して食品に混入することも防止することができるものとなっている。
【0082】
このように,本発明の包装容器1において,ヒートシールフィルム4のうち,マイクロ波吸収層7の形成範囲全体が溶融することなく,マイクロ波吸収層7の形成範囲のうち,凹部8の形成部分にピンホール21が形成される原理は明らかではないが,以下のような原理でピンホール21が形成されるものと推察される。
【0083】
すなわち,前述したように,食品を包装した包装容器1を電子レンジ内に投入してマイクロ波の照射を開始すると,食品の加熱に伴う蒸気の発生により包装容器1内の圧力が上昇して,加熱前には
図6(A)に示すように平坦な状態であったヒートシールフィルム4は,
図6(B)に示すように全体として外向きに膨出すると共に,マイクロ波吸収層7が発熱を開始して,マイクロ波吸収層7の形成範囲に対応する位置のヒートシールフィルム4が加熱されて軟化する。
【0084】
このようにマイクロ波吸収層7の発熱に伴うヒートシールフィルム4の加熱によって,マイクロ波吸収層7の形成範囲にあるヒートシールフィルム4は軟化すると共に,他の部分に比較して薄肉である凹部8の形成部分が他の部分よりも先に溶融し,容器内の圧力上昇とも相俟って
図6(C),(D)中の紙面右側の凹部8に形成されたピンホールのように,凹部8の中央が破けてピンホール21が形成される。
【0085】
このようにして形成されたピンホール21は,
図6(C),(D)の紙面左側のピンホール21のようにヒートシールフィルム4の熱収縮によってその孔径を拡大するが,この孔径の拡大は凹部8の周縁に形成された凸部22を超えてその外側に拡張し難く,その結果,1の凹部8で生じたピンホール21は,隣接する凹部8で生じたピンホール21と連結し難く,マイクロ波吸収層7の形成範囲全体に広がり難くなっている結果,比較的小径の開孔であるピンホール21の状態が維持されることで,蒸気の放出量を制御できたものと考えられる。
【0086】
その結果,本発明の包装容器1では,電子レンジによる加熱を開始した後,比較的早い段階から,加熱が終了するまでの間,包装容器1内を継続的に比較的高い圧力状態に維持することができ,しかも,前述したようにピンホール21の形成状態が維持され,ヒートシールフィルム4のうちマイクロ波吸収層7が形成されている部分の全体が溶け落ちることがないので,溶け落ちた樹脂を受けとめるための構造等を設けることなしに,食品に樹脂が異物として混入することも防止できたものと考えられる。
【実施例】
【0087】
本発明のヒートシールフィルムと,比較例のヒートシールフィルムを共に電子レンジで加熱することにより孔の形成状態を確認した。
【0088】
使用したヒートシールフィルムは,外層を二軸延伸ナイロン(厚さ25μm),内層であるヒートシール層を未延伸の低密度ポリエチレン(厚さ50μm)としたもので,前記外層の内面側(ヒートシール層側)に,幅1.0mm,長さ30mmの直線状のマイクロ波吸収層7を形成したもの,直径7.5mmのマイクロ波吸収層7を形成したもの,2種類のヒートシールフィルムを準備した。
【0089】
実施例1として,前述の直線状のマイクロ波吸収層7が形成されたヒートシールフィルムのヒートシール層に,マイクロ波吸収層と重なる位置に,一辺0.3mmの矩形状の凹部8を,0.1mm間隔(凸部22の幅)で連続して形成したものを使用した。
【0090】
実施例2として,前述の円形のマイクロ波吸収層が形成されたヒートシールフィルムのヒートシール層に,マイクロ波吸収層と重なる位置に,一辺0.3mmの矩形状の凹部8を,0.1mm間隔(凸部22の幅)で連続して形成したものを使用した。
【0091】
比較例1は,前述の直前状のマイクロ波吸収層7が形成されたヒートシールフィルム(凹部8を設けていないもの)である。
【0092】
比較例2は,前述の円形のマイクロ波吸収層7が形成されたヒートシールフィルム(凹部8を設けていないもの)である。
【0093】
上記各ヒートシールフィルム(125mm×200mm)と,同じく外層を二軸延伸ナイロン,ヒートシール層を未延伸の低密度ポリエチレンとするヒートシールフィルム(125mm×200mm)間に,濡らしたティッシュペーパーを挟んだ状態で4辺を約5mm幅でヒートシールして4辺ヒートシール袋を形成し,前述したマイクロ波吸収層7を備えたヒートシールフィルムが上側となるようにそれぞれ電子レンジ内に配置して,1000Wで60秒間加熱した。
【0094】
電子レンジによる加熱後の孔の形成状態を
図7(A),(B),及び
図8(A),(B)にそれぞれ示す。
【0095】
ヒートシール層に凹部を形成していない比較例1及び比較例2のヒートシールフィルムを使用した包装袋では,加熱に伴う水蒸気の発生によって袋内の圧力が上昇して膨らむものの,マイクロ波吸収層の形成部分におけるヒートシールフィルムが溶融してピンホールが生じると,比較例1のように直線状のマイクロ波吸収層を設けたものにあっては,このピンホールはマイクロ波吸収層の形成方向に孔径を短時間で広げてピンホール相互がつながり合ってスリット状の穴を形成することで〔
図7(B)〕,また,比較例2のように円形のマイクロ波吸収層を設けたものでは,マイクロ波吸収層の幅方向を横断する方向に孔径を広げて粗大な孔を形成することで〔
図8(B)〕,いずれのヒートシールフィルムを使用して形成したヒートシール袋においても,孔の形成と同時に袋内の圧力が一気に開放されて袋がしぼんでしまった。
【0096】
これに対し,ヒートシール層に凹部を形成した本願のヒートシールフィルムを使用した包装袋では,実施例1の直線状のマイクロ波吸収層を形成したもの〔
図7(A)〕,及び実施例2の円形のマイクロ波吸収層を形成したもの〔
図8(A)〕のいずれにおいても,形成されたピンホールが孔径を大きく広げることなく,それぞれ独立した孔として形成されていることで,孔の形成後においても包装袋を膨らんだ状態,従って内部に圧力がかかった状態を維持することができた。