特許第6960862号(P6960862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6960862ゼラチン溶液と該ゼラチン溶液からなる紡糸液、および、該紡糸液を用いた繊維集合体の製造方法と該ゼラチン溶液を用いたフィルムならびに複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960862
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ゼラチン溶液と該ゼラチン溶液からなる紡糸液、および、該紡糸液を用いた繊維集合体の製造方法と該ゼラチン溶液を用いたフィルムならびに複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 4/00 20060101AFI20211025BHJP
   D04H 1/4266 20120101ALI20211025BHJP
【FI】
   D01F4/00 Z
   D04H1/4266
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-3911(P2018-3911)
(22)【出願日】2018年1月15日
(65)【公開番号】特開2019-123955(P2019-123955A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2020年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−509470(JP,A)
【文献】 特表2011−525128(JP,A)
【文献】 特表2010−521994(JP,A)
【文献】 特開平04−237494(JP,A)
【文献】 特開平05−268960(JP,A)
【文献】 特表2013−535532(JP,A)
【文献】 特表2013−515128(JP,A)
【文献】 特開2012−232070(JP,A)
【文献】 特開2002−188011(JP,A)
【文献】 特開2005−163204(JP,A)
【文献】 特開2001−089929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−9/04
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素系化合物とゼラチンを含有するゼラチン溶液からなる、紡糸液であって、静電気力の作用により細径化させると共に繊維化し、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成するために使用する、紡糸液。
【請求項2】
請求項に記載の紡糸液を静電気力の作用により細径化させると共に繊維化して、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成する工程を備えた、繊維集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼラチン溶液と該ゼラチン溶液からなる紡糸液、および、該紡糸液を用いた繊維集合体の製造方法と該ゼラチン溶液を用いたフィルムならびに複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンを溶媒に溶解してなるゼラチン溶液は、様々な産業用途に有用な材料を調製可能な溶液である。例えば、ゼラチン溶液を紡糸液として用いて紡糸することでゼラチン繊維を備える繊維集合体を調製でき、ゼラチン溶液をシート状に展開した後、溶媒を除去することでゼラチンフィルムを調製でき、ゼラチン溶液を被覆対象物に付与した後、溶媒を除去することで被覆対象物の表面にゼラチン被膜を備える複合体を調製できるなど、ゼラチン溶液を用いて様々な産業用途に有用な材料を調製できる。
しかしながら、特開2001−089929号公報(特許文献1)や特開2005−163204号公報(特許文献2)などにも開示されている通り、ゼラチン溶液はゲル化し易いなど安定性に劣るという問題を有していた。特に、25℃などの室温条件下において、よりゲル化し易いなど安定性に劣るという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−089929号公報
【特許文献2】特開2005−163204号公報
【0004】
そして、安定性に劣るゼラチン溶液を用いた場合には、様々な産業用途に有用な材料を調製するのが困難であった。特に、該ゼラチン溶液からなる紡糸液において、次の問題が生じるものであった。
【0005】
平均繊維径や繊維径のCV値が小さい繊維からなる繊維集合体(例えば、不織布など)は、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れることが知られている。
ゼラチン繊維を備える繊維集合体の製造方法として、ゼラチンを溶媒に溶解してなる紡糸液を用いる方法、例えば、静電気力を作用させて紡糸液を細径化させると共に繊維化し、紡糸された繊維を捕集して繊維集合体を製造する静電紡糸法や、随伴気流を作用させて紡糸液を細径化させると共に繊維化し、紡糸された繊維を捕集して繊維集合体を製造する方法(例えば、特開2011−012372号公報など)などが知られている。
本願出願人は、ゼラチン繊維からなる繊維集合体を、平均繊維径や繊維径のCV値が小さい繊維からなる態様で提供するため、ゼラチンを溶媒に溶解してなる紡糸液を調製し、該紡糸液を用いて繊維集合体を製造することを試みた。
しかし、調製した紡糸液はゲル化するなど安定性に劣るという問題を有していた。
そして、このように安定性に劣る紡糸液を用いて繊維集合体を製造すると、紡糸時にノズル先からの紡糸液の吐出が安定しない、あるいは、ノズル先から紡糸液が吐出されない結果、繊維化がなされず繊維集合体が製造できないことがあった。あるいは、繊維集合体を製造できたとしても、製造した繊維集合体にショットなどの非繊維物が多く存在する、および/または、製造した繊維集合体における平均繊維径や繊維径のCV値が意図せず大きくなり、望む態様の繊維集合体を提供できないものであった。
【0006】
また、安定性に劣るゼラチン溶液を用いて、ゼラチンフィルムや被覆対象物の表面にゼラチン被膜を備える複合体を製造した場合、製造したフィルムや複合体に、凹凸のある部分や剛性などの各種物性が局所的に異なる部分などの不均一な部分が存在して、望む態様のフィルムや複合体を提供できないものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、安定性に優れるゼラチン溶液と該ゼラチン溶液からなる紡糸液、および、望む態様の繊維集合体やフィルムあるいは複合体を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
「〔尿素系化合物とゼラチンを含有するゼラチン溶液からなる、紡糸液であって、静電気力の作用により細径化させると共に繊維化し、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成するために使用する、紡糸液。
〕請求項に記載の紡糸液を静電気力の作用により細径化させると共に繊維化して、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成する工程を備えた、繊維集合体の製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0009】
本願出願人は検討を続けた結果、ゼラチン溶液に尿素系化合物を配合することによって、ゼラチン溶液がゲル化するのを防止できるなどゼラチン溶液の安定性を向上できることを見出した。
そのため、本発明にかかるゼラチン溶液ならびにゼラチン溶液からなる紡糸液は安定性に優れる。
そして、紡糸液を静電気力の作用により細径化させると共に繊維化し、捕集体上に捕集することで前記捕集体上に繊維ウェブを形成する工程を備えた繊維集合体の製造方法において、本発明にかかる安定性に優れた紡糸液を用いることで、ノズル先からの紡糸液の吐出が安定した状態で紡糸を行うことができるため、ショットなどの非繊維物が多く存在するのを防止して、および/または、平均繊維径や繊維径のCV値が意図せず大きくなるのを防止して、望む態様の繊維集合体を製造することができる。
【0010】
また、本発明にかかるゼラチン溶液を用いることで、凹凸のある部分や剛性などの各種物性が局所的に異なる部分などの不均一な部分が存在するのを防止して、望む態様のフィルムや複合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、尿素系化合物とゼラチンを含有するゼラチン溶液ならびに該ゼラチン溶液からなる紡糸液(以降、ゼラチン溶液や紡糸液と称することがある)にかかるものであり、例えば以下の構成など各種構成を適宜選択できる。
【0012】
本発明でいう尿素系化合物とは、その化学構造に尿素骨格(N−C(O)−N又はN−C(S)−N)を有する化合物であり、例えば、尿素、チオ尿素、ヒドロキシ尿素、ジメチロール尿素、ジアセチル尿素、エチレン尿素、フェニル尿素、トリフェニル尿素、テトラフェニル尿素、N−ベンゾイル尿素、N,N′−ジベンゾイル尿素、リン酸グアニル尿素、N,N′−ジメチルアセチル尿素、ベンゼンスルホニル尿素、p−トルエンスルホニル尿素、炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキル尿素(例えば、メチル尿素、ジメチル尿素、トリメチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、エチル尿素、ジエチル尿素など)、ホルミル尿素などを、単体あるいは複数種類の混合物として使用できる。なお、これら尿素の塩(例えば、硝酸塩、塩酸塩など)であっても良い。
【0013】
特に、後述するようにゼラチン溶液や細径化した紡糸液から、溶媒を除去する工程(例えば、加熱工程や、水などに浸漬することで溶媒を除去する工程)において、溶媒と共に除去可能な尿素系化合物を使用するのが好ましい。このような尿素系化合物を含有するゼラチン溶液や紡糸液を用いることで、最終的に尿素系化合物が存在していない材料(尿素系化合物が存在していない繊維集合体やフィルムあるいは複合体など)、あるいは、尿素系化合物の存在量の少ない材料(尿素系化合物の存在量の少ない繊維集合体やフィルムあるいは複合体など)を提供することができる。このような除去可能な尿素系化合物として、尿素、ジメチル尿素、フェニル尿素などを使用することができる。
また、尿素、ジメチル尿素、フェニル尿素などの分子量が低い(低分子化合物あるいはモノマーの)尿素系化合物を使用するのが好ましい。このような尿素系化合物を含有するゼラチン溶液や紡糸液を用いることで、よりゼラチン溶液や紡糸液に含有させる尿素系化合物の質量を少なくでき、最終的に尿素系化合物が存在していない材料(尿素系化合物が存在していない繊維集合体やフィルムあるいは複合体など)、あるいは、尿素系化合物の存在量の少ない材料(尿素系化合物の存在量の少ない繊維集合体やフィルムあるいは複合体など)を提供することができる。
【0014】
本発明でいうゼラチンとは、コラーゲンを水や熱などの作用によって変性させたものであり、本発明ではゼラチンの誘導体も含む概念である。
ゼラチン溶液や紡糸液に含まれるゼラチンの質量は、求める材料を提供できるようゼラチン溶液の使用条件などに合わせ適宜選択するものである。具体的には、溶媒の質量を100部としたときに、0.001〜100質量部であることができ、0.01〜75質量部であることができ、0.1〜50質量部であることができる。
【0015】
本発明にかかるゼラチン溶液や紡糸液を構成する溶媒の種類は、少なくとも尿素系化合物とゼラチンを共に溶解可能な溶媒であるならば、適宜選択できるものであるが、例えば、水(蒸留水、イオン交換水など)、あるいはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、グリセリンなどのアルコール類、あるいはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類などを、単体あるいは複数種類の混合溶媒として使用できる。
【0016】
ゼラチン溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量は、ゼラチン溶液や紡糸液に含まれるゼラチンの質量に合わせ、求める材料を提供できるよう適宜選択するものである。しかし、ゼラチン溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量があまりにも少ない場合には、ゼラチン溶液や紡糸液の安定性を向上する効果が十分発揮されない恐れがあり、ゼラチン溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量があまりにも多い場合には、材料を製造することが困難となる恐れがある。
そのため、ゼラチン溶液や紡糸液に含まれる尿素系化合物の質量は適宜調整するが、ゼラチン溶液や紡糸液に含まれるゼラチンの質量を100部としたときに、1〜100質量部であるのが好ましく、5〜70質量部であるのがより好ましく、10〜50質量部であるのが最も好ましい。
【0017】
本発明のゼラチン溶液や紡糸液が安定性に優れている理由は完全に明らかになっていないが、ゼラチンにおける高分子鎖間の水素結合を生じる水酸基やアミノ基、カルボキシル基などの化学構造部分に対し、尿素系化合物のアミド構造部分が親和性を有していることで、溶媒中でゼラチンの自己架橋などの安定性の低下をもたらす望まない反応(ゲル化など)が進行し難くなるためだと考えられる。
この効果は分子量の低い(分子構造が小さいことでゼラチンにおける高分子鎖間の水素結合を生じる水酸基やアミノ基、カルボキシル基などの化学構造部分とより親和性が高いと考えられる)尿素などの尿素系化合物を採用することで、効果的に発揮される。
【0018】
本発明にかかるゼラチン溶液や紡糸液は、必要に応じて、他の有機樹脂や各種添加剤を含有していても良い。
他の有機樹脂の種類は適宜選択できるが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機樹脂を単体あるいは複数で含有できる。
ゼラチン溶液や紡糸液に含有されている他の有機樹脂の質量は、求める材料を提供できるよう紡糸条件など材料の調製条件などに合わせ適宜選択できる。
【0019】
また、各種添加剤の種類は適宜選択できるが、例えば、架橋剤、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、例えばアルミナやシリカなどの無機粒子や無機フィラー、活性炭やチャコールブラック、紡糸安定化剤などを添加できる。紡糸安定化剤の種類は適宜選択できるが、例えば、塩化カルシウムや塩化リチウムなどの金属塩や、特開2012―46844号公報に開示されているような有機酸と窒素化合物からなる塩などを、単体あるいは複数種類の混合物として使用できる。
また、ゼラチン溶液や紡糸液に含有されている各種添加剤の質量は、求める材料を提供できるよう紡糸条件など材料の調製条件などに合わせ適宜選択するものである。具体的には、ゼラチン溶液や紡糸液の質量を100部としたときに、0.01〜30質量部存在することができ、0.1〜20質量部存在することができ、1〜10質量部存在することができる。
【0020】
架橋剤の種類は適宜選択できるが、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドなどのアルデヒド類、ブチルグリシジルエーテルやエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物などを使用できる。架橋剤はゼラチン溶液に直接添加してもよいし、ゼラチンの繊維集合体あるいはフィルムあるいは複合体を架橋剤溶液に含浸することで、架橋剤の添加を行ってもよい。
【0021】
ゼラチン溶液や紡糸液の温度や粘度は、求める材料を提供できるよう紡糸条件など材料の調製条件に合わせ適宜選択するものである。具体的には、ゼラチン溶液や紡糸液の温度は0〜100℃であることができ、10〜80℃であることができ、20〜60℃であることができる。また、ゼラチン溶液や紡糸液の粘度は25℃において10〜30000mPa・sであることができ、100〜20000mPa・sであることができ、1000〜10000mPa・sであることができる。
【0022】
次いで、本発明にかかる紡糸液を用いた、繊維集合体の製造方法について例示し説明する。なお、すでに説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0023】
繊維集合体の製造方法は適宜選択できるが、例えば、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているようなガスの作用により紡糸する方法、特開2011−32593号公報に開示されているような電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法、遠心紡糸法などを用いることができる。そして、これらの製造方法を用いて紡糸液を細径化させるとともに繊維化して、例えばネットあるいはドラムやベルトコンベアなどの捕集体上に捕集することで、捕集体上に繊維ウェブを形成できる。
これらの中でも静電紡糸法や、特開2009−287138号公報に開示されているようなガスの剪断作用により紡糸する方法を用いることで、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を紡糸しやすく、繊維径が揃っており、しかも連続した極細繊維からなる繊維集合体を製造しやすいため好適である。
【0024】
このようにして製造した繊維ウェブは、そのまま繊維集合体として使用することもできるが、繊維ウェブから溶媒や尿素系化合物を除去するため加熱装置へ供してもよい。加熱装置の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いることができる。加熱装置による繊維ウェブの加熱温度は適宜選択するが、溶媒や尿素系化合物を揮発あるいは分解し揮発させ除去可能であると共に、構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。
また、上述のようにして製造した繊維ウェブあるいは繊維集合体を、水などに浸漬することで、構成繊維中に残留している溶媒や尿素系化合物を溶出させることで除去してもよい。
更に、上述のようにして製造した繊維ウェブあるいは繊維集合体を、表面を平滑とするためカレンダー処理など加圧処理する工程へ供してもよい。
【0025】
このようにして製造した繊維集合体は、そのまま各種用途に使用してもよいが、樹脂膜と複合化する工程、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体を製造する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの各種二次工程を経て、様々な産業用資材として使用可能な繊維集合体を備えた材料を調製してもよい。
【0026】
また、ゼラチンを備えるフィルムや複合体は、ゼラチン溶液を従来知られているフィルムや複合体の製造方法へ供することによって製造できる。
具体的には、本発明にかかるゼラチン溶液をシート状に展開した後、前記シート状に展開したゼラチン溶液から溶媒を除去する工程を備えた、フィルムの製造方法を採用できる。製造するフィルムの厚さは要望に合わせ適宜選択でき、通気性を有していないフィルムであっても通気性を有するフィルムであってもよい。あるいは、発泡フィルムであってもよい。
また、本発明にかかるゼラチン溶液を被覆対象物に付与した後、前記被覆対象物に付与したゼラチン溶液から溶媒を除去する工程を備えた、被覆対象物の表面にゼラチン被膜を備える複合体の製造方法を採用できる。被覆対象物の種類や、複合体におけるゼラチン被膜の厚さは要望に合わせ適宜選択できる。
なお、上述した繊維集合体から残留している溶媒や尿素系化合物を除去する方法と同様にして、フィルムや複合体から残留している溶媒や尿素系化合物を除去することができる。
製造したフィルムや複合体も同様に、そのまま各種用途に使用してもよいが、樹脂膜と複合化する工程、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体を製造する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの各種二次工程を経て、様々な産業用資材として使用可能なフィルムや複合体を備えた材料を調製してもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0028】
(比較例1)
イオン交換水70質量部とゼラチン(WAKO社製)30質量部を混合した後、混合液を60℃まで加熱することでイオン交換水にゼラチンを溶解させ、60℃のゼラチン溶液Aを調製した。
【0029】
(比較例2)
60℃のゼラチン溶液Aへ、ゼラチン溶液中のゼラチン100質量部に対し塩化カルシウム(WAKO社製)を10質量部となるように混合して溶解させ、60℃のゼラチン溶液Bを調製した。
【0030】
(実施例1)
60℃のゼラチン溶液Aへ、ゼラチン溶液中のゼラチン100質量部に対し塩化カルシウムを10質量部、および、尿素10質量部となるように混合して溶解させ、60℃のゼラチン溶液Cを調製した。
【0031】
(実施例2)
溶解させる尿素の質量を50質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして60℃のゼラチン溶液Dを調製した。
【0032】
(実施例3)
溶解させる尿素系化合物を、フェニル尿素50質量部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして60℃のゼラチン溶液Eを調製した。
【0033】
(実施例4)
溶解させる尿素系化合物を、ジメチル尿素50質量部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして60℃のゼラチン溶液Fを調製した。
【0034】
(実施例5)
60℃のゼラチン溶液Aへ、ゼラチン溶液中のゼラチン100質量部に対し塩化カルシウムを5質量部、および、尿素100質量部となるように混合して溶解させ、60℃のゼラチン溶液Gを調製した。
【0035】
上述のようにして調製した各ゼラチン溶液を以下の測定方法へ供することで、各ゼラチン溶液の安定性を評価した。
(ゼラチン溶液の安定性の確認)
各ゼラチン溶液を25℃まで冷却した。そして、25℃の各ゼラチン溶液がゲル化しているか否か目視で確認した。
確認の結果、25℃に冷却した比較例のゼラチン溶液はいずれもゲル化していたが、25℃に冷却した実施例のゼラチン溶液はいずれもゲル化していなかった。
【0036】
上述のようにして調製した各ゼラチン溶液を25℃まで冷却した。そして、25℃の各ゼラチン溶液を紡糸液として、以下条件の静電紡糸装置へ供することで不織布の製造を試みた。
(紡糸液、および、該紡糸液を用いた不織布の製造方法)
内径が0.44mmの金属製のノズルに、アース処理されたパワーサプライを接続した。ノズル先端部の開口と対面するように、アース処理された捕集体(アルミホイル)を設けた。この時、ノズル先端部と捕集体との最短距離が、10cmとなるように調整した。ノズルをパワーサプライにより5−15kVとなるように印加して、ノズルと捕集体の間に電界を形成した。
ノズルの開口から紡糸液を吐出量が0.5cc/時間となるようにして吐出させ、紡糸液を電界に導いて、紡糸液をノズル先端部の開口から捕集体へと飛翔させると共に細径化させ、繊維化して捕集体上に捕集し繊維ウェブを調製することを試みた。なお、本工程における紡糸環境は、温度25℃、湿度40%RHに調整した。
このようにして繊維ウェブが得られた場合、得られた繊維ウェブを電気炉(TABAI社製PHH200)へ供し140℃で30分間加熱処理することで、繊維ウェブを構成する繊維中に残留している水を揮発させて(ならびに、繊維ウェブに尿素系化合物が残留している場合には、該尿素系化合物も揮発させて)除去し、不織布を製造することを試みた。
【0037】
(比較例3−4)
25℃のゼラチン溶液A−Bはゲル化していたためノズルから吐出できず、不織布を製造できなかった。そのため、25℃のゼラチン溶液A−Bは紡糸液として使用できなかった。
【0038】
(実施例6−10)
25℃のゼラチン溶液C−Gはいずれもゲル化していなかったためノズルから吐出でき、安定した状態で紡糸が行えたため不織布を製造することができた。そのため、25℃のゼラチン溶液C−Gは紡糸液として使用できるものであった。そして、製造したゼラチン不織布には、いずれも、ショットなどの非繊維物の存在が少なく、平均繊維径(300nm)および繊維径のCV値(0.2)が小さいものであった。
【0039】
以上から、本発明にかかるゼラチン溶液および該ゼラチン溶液からなる紡糸液は安定性に優れているものであり、本発明にかかる紡糸液を用いることで、望む態様の繊維集合体を製造できる。
【0040】
(実施例6)
実施例2のゼラチン溶液をPETフィルム上にコーター(スリット幅:1mm)を用いてシート状に展開することで付与した。その後、ガラス板上に展開されたゼラチン溶液をガラス板ごとオーブン(加熱温度:80℃)へ供することで、シート状に展開したゼラチン溶液から水を除去することで、PETフィルム表面にゼラチン被膜を備える複合体(ゼラチン被膜の厚さ:80μm)を製造した。そして、PETフィルムからゼラチン被膜を剥離することで、ゼラチンフィルム(厚さ:80μm)を製造した。
このようにして製造した複合体におけるゼラチン被膜の主面、および、フィルムの主面は、凹凸が少なく外観のよいものであった。
【0041】
以上から、本発明にかかるゼラチン溶液を用いることで、凹凸のある部分や剛性などの各種物性が局所的に異なる部分などの不均一な部分が存在するのを防止して、望む態様のフィルムや複合体を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のゼラチン溶液と該ゼラチン溶液からなる紡糸液、および、該紡糸液を用いた繊維集合体の製造方法とゼラチン溶液を用いたフィルムならびに複合体の製造方法によって、例えば、マスクや貼付薬用基材などの衛生材料、止血材、創傷被覆材、癒着防止材、人工硬膜、細胞培養基材、再生医療用材料などの様々な産業用資材として使用可能な材料を提供できる。