(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960864
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】鋼製地中連続壁凸状接合部の保護構造および保護方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/05 20060101AFI20211025BHJP
E04B 1/61 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
E02D29/05 B
E04B1/61 505A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-8508(P2018-8508)
(22)【出願日】2018年1月23日
(65)【公開番号】特開2019-127706(P2019-127706A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川越 建嗣
【審査官】
山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−073363(JP,A)
【文献】
特開平05−331841(JP,A)
【文献】
米国特許第06042306(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/05
E04B 1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製地中連続壁と鉄筋コンクリート構造体との凸状接合部の保護構造であって、
前記保護構造は少なくとも前記凸状接合部を覆う被覆材と、
前記鋼製地中連続壁に溶接して固定された前記被覆材のずれ止め材と、
前記被覆材に重ねられた蓋材と、から形成され、
前記被覆材は吸水可能な素材からなり、
前記ずれ止め材は少なくとも前記被覆材の上下および/または左右の側面から該被覆材を挟み込むように固定され、
前記蓋材が前記ずれ止め材に溶接して固定されたこと、
を特徴とする鋼製地中連続壁凸状接合部の保護構造。
【請求項2】
鋼製地中連続壁と鉄筋コンクリート構造体との凸状接合部の保護方法であって、
前記凸状接合部の上から吸水可能な被覆材を覆い、
前記被覆材の上下および/または左右の側面から該被覆材を挟み込むようにずれ止め材を前記鋼製地中連続壁に溶接固定し、
前記被覆材に蓋材を重ね、
前記蓋材を前記ずれ止め材に溶接して固定すること、
を特徴とする鋼製地中連続壁凸状接合部の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に開削による地下構造物において、両フランジ鋼板を有する鋼製連壁部材を泥水で掘削した溝に立て込み、コンクリートを打設して構築する土留め壁と、鉄筋コンクリート床版や梁などの鉄筋コンクリート構造体との接合部である、鋼製連壁部材側の凸状接合部の保護構造および保護方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼製地中連続壁とは、嵌合継手を有する鋼製連壁部材を相互に連結しながら地中に建て込み、コンクリート充填を行い壁体を構築するものである。RC地中連続壁等の従来工法に比べ、SC構造であるがゆえに薄壁を可能とし、現場での作業スペースを縮小できること、鉄筋架台の製作や配筋作業の省力化ができるなどの特徴を有しているため、近年、都市型の地中連続壁工法として、地下道路,地下駅,立坑,地下駐車場,下水処理場等、主に地下の開削構造物への適用実績を増やしている。
【0003】
本工法は、仮設土留めとしての使用に加え、本体壁として利用可能なことがその特徴として挙げられる。この場合、鋼製連壁部材と鉄筋コンクリート床版等の本体構造物と鉄筋等で接合する必要があり、接合方法には、溶接カップラー方式、異形鉄筋スタッド方式等がある。いずれの方式においても、接合部は鋼製連壁部材の掘削側壁面より突出した凸状の接合部を有することになる。
鋼製地中連続壁の施工は、RC地中連続壁の施工と同様に、安定液掘削工法で行う。安定液掘削を行った後、鋼製連壁部材を建て込み、コンクリートを打設充填する。コンクリートの硬化後、必要に応じて切梁支保工等を設置して鋼製地中連続壁を支保しながら、連壁内部の掘削を行うこととなるが、掘削に伴い、本体構造物との接合部に回り込んだコンクリートを斫り・撤去等して、接合部を予め露出させておく必要がある。
【0004】
一般に、コンクリートの斫り作業はブレーカーやピック等で行われるが、いずれの作業も衝撃を伴うため、接合部が変形する等の損傷を生じることが懸念される。
そこで、特許文献1には、接合部を構成する棒鋼の雄雌ネジ部に予め保護キャップを用いて保護した状態で泥水掘削溝に建て込み、コンクリートを打設することで鋼製地中連続壁を構築する手段が開示されている。
保護キャップは雄雌ネジ部のネジ山に螺合可能に加工された部材であり、雄雌ネジ部に掘削中の土砂やコンクリートが入り込むことを防ぐ効果が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−73363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の保護方法では、保護キャップを被覆しているコンクリート、保護キャップを介して、斫りによる衝撃がほぼ直接的に雄雌ネジ部を構成する接合部に伝達されてしまう。
また、保護キャップは個々の雄雌のネジ部のみ保護することを目的に設置されるため、コンクリートは保護キャップの周囲に充填され、硬化することになる。このため、各ネジ部間の狭小な箇所に硬化したコンクリートも斫り対象となるため、斫り作業に時間を要し、接続部が斫りによる衝撃に曝されることになる。
【0007】
コンクリート斫りによる直接的な衝撃を緩和する目的で、複数の雄雌ネジ部からなる凸部形状に合わせて凹部を設けた発泡合成樹脂(発泡スチロール等)からなる被覆材によって接合部全体を覆う保護方法が行われる場合もある。
しかしながら、発泡合成樹脂素材を用いた被覆材は吸水しないため、安定液内の水圧やコンクリートの側圧による圧縮力によって潰れることで、本来の衝撃力を緩和するという緩衝材としての機能が損なわれてしまう。さらに、撤去の際、粉々になった発泡合成樹脂が周辺に飛散し、回収に手間を要する。
【0008】
発泡合成樹脂を用いた被覆材の代わりに、薄厚鋼板で接合部全体を覆う箱型のカバーを鋼製連壁部材に溶接固定する方法もある。この場合、コンクリートの側圧によって潰れない程度にカバー内面からリブなどの補強を要し、各接合部単位で接合部を覆える大きさにカバーを製作しなければならず、製作コストと製作手間を要する。
また、斫り作業後、不要になったカバーをスクラップとして廃棄する必要が生じる。
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであって、安定液内やコンクリートの打設中であっても形状を保つことができ、接合部とコンクリートとの縁切りを容易にできる鋼製地中連続壁と鉄筋コンクリート構造体との凸状接合部の保護構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明の鋼製地中連続壁凸状接合部の保護構造は、鋼製地中連続壁と鉄筋コンクリート構造体との凸状接合部の保護構造であって、前記保護構造は少なくとも前記凸状接合部を覆う被覆材と、前記鋼製地中連続壁に溶接して固定された前記被覆材のずれ止め材と、前記被覆材に重ねられた蓋材とから形成され、前記被覆材は吸水可能な素材からなり、前記ずれ止め材は少なくとも前記被覆材の上下および/または左右の側面から該被覆材を挟み込むように固定され、前記蓋材が前記ずれ止め材に溶接して固定されたことを特徴としている。
【0011】
また、本発明の鋼製地中連続壁凸状接合部の保護方法は、鋼製地中連続壁と鉄筋コンクリート構造体との凸状接合部の保護方法であって、前記凸状接合部の上から吸水可能な被覆材を覆い、前記被覆材の上下および/または左右の側面から該被覆材を挟み込むようにずれ止め材を前記鋼製地中連続壁に溶接固定し、前記被覆材に蓋材を重ね、前記蓋材を前記ずれ止め材に溶接して固定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋼製地中連続壁凸状接合部の保護構造および保護方法を使用すれば、被覆材に吸水可能な素材を用いるため、安定液の水圧やコンクリートによって過大な圧縮力を受けることはなく、ほぼ気中と同様な形状が保たれる。被覆材の形状が保たれることで、接合部周辺のコンクリート斫り作業においても確実に縁切りが図られるため、斫り作業に伴う衝撃が直接接合部に伝わることがなく、接合部の衝撃による変形等の懸念も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】(a)本実施形態の保護構造を含む鋼製部材接合部の断面図である。(b)本実施形態の保護構造を含む鋼製部材接合部の平面図である。
【
図3】本実施形態の保護方法のうち、鋼製部材接合部の上から第一の被覆材を被覆するステップを示す。
【
図4】本実施形態の保護方法のうち、鋼製部材接合部の上に被覆した第一の被覆材に接合部に該当する箇所に切り込みを入れるステップを示す。
【
図5】本実施形態の保護方法のうち、第二の被覆材を被覆するステップを示す。
【
図6】本実施形態の保護方法のうち、第二の被覆材の上から蓋材を重ねずれ止め材に固定するステップを示す。
【
図7】本実施形態の保護構造を含む鋼製部材を掘削溝に建て込んだ後、コンクリートを打設した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は工場で鉄骨加工して建設現場に搬入された状態の鋼製地中連続壁用の鋼製部材3の斜視図である。鋼製部材1は鋼板からなるウェブ31と前後両側のフランジ32a,32bと、このフランジ32a,32bの両端の継手隙間33を有する鋼管形状継手34とから構成され、長手方向と直交する横断面が略H形に構成されている。ウェブ31の代わりに、フランジ32a,32bとを断続する平鋼あるいは棒鋼で連結する場合もある。継手14は鋼矢板継手等の他の嵌合継手であっても良い。
【0015】
前述の通り、鋼製部材3は、工場で鉄骨加工して建設現場に搬入され、泥水掘削溝1に沿って建て込み、隣り合う鋼製部材1の鋼管形状継手34同士を継手間隙間33を介して接合することで泥水掘削溝1内に鋼製地中連続壁2が形成される(
図7参照のこと。)。
【0016】
本実施形態の鋼製地中連続壁凸状接合部の保護構造を
図2を用いて説明する。
図2(a),(b)に示す通り、泥水掘削溝1に鋼製部材3を建て込んだ場合、本体構造物の鉄筋等との接合するための凸状接合部36,36・・・は、鋼製部材1の掘削側に面するフランジ32aとなる面に配置される。
保護構造4は、凸状接合部36,36・・・が纏まって配置されている領域を包含するように、矩形形状の第1の被覆材41が凸状接合部36,36・・・の上から被覆され、第一被覆材41aと略同形状の第二被覆材41bが第1の被覆材に重ねられ、第一被覆材41aおよび第二被覆材41bの側面を取り囲むようにずれ止め材42a,42b,42c,42dが枠状にフランジ32aに固定されている。さらに第二被覆材41bを押さえ込むように、矩形形状の蓋材43が第二被覆材41bの上から重ねられ、蓋材43の四辺端部はそれぞれずれ止め材42a,42b,42c,42dに固定されている。
【0017】
第一被覆材41aおよび第二被覆材41bともに、本実施形態ではポリウレタン合成樹脂を発泡成型して製造された合成スポンジ(ウレタンスポンジ)を使用したが、吸水可能であれば、天然スポンジであっても良いし、メラミン樹脂やゴムを原料とした樹脂素材であっても良い。速やかに吸水し、一旦吸水した水を保水する効果の高い、多孔質や海綿といった構造が望ましい。
本実施形態の被覆材41は、泥水掘削溝1内で安定液を吸水した状態で、コンクリートが打設されるため、コンクリートによる側圧の増分に抵抗できる程度の弾性力(反発力)を有する必要がある。具体的には、被覆材41の水深における安定液の水圧とコンクリートの側圧との差分に対して抵抗できる程度の弾性力であることが好ましい。
第一被覆材41aと第二被覆材41bは前記機能を果たせれば同じ素材であっても良いし、異なる素材であっても良い。
第一被覆材41aの凸状接合部36,36・・・との干渉部分は、
図4に後述する第一被覆材41aを貫通する十字状の切り込み44を入れたり、刳り貫く等の措置を施しておくことで、凸状接合部36,36・・・を第一被覆材41a内に確実に挿通することができる。
【0018】
図2に示す通り、ずれ止め材42a,42b,42c,42dには同仕様の山形鋼(アングル)を用いており、被覆材41の四側面を取り囲むように、フランジ32aに逆L字状に隅肉溶接によって固定される。ずれ止め材42a,42b,42c,42dは被覆材41のずれ止めとしての機能が確保できれば、被覆材41の上下または左右の側面の二側面のみであっても良く、素材や形状、フランジ32aへの固定方法、固定箇所等も限定されない。
【0019】
図2に示す通り、蓋材43にはメッシュ筋を用い、被覆材43の上面に重ねられ、その四辺端部はそれぞれずれ止め材42a,42b,42c,42dの上面に溶接固定されている。蓋材43は被覆材41をその上面から押さえるという機能を有し、その機能が果たされれば素材や形状、ずれ止め材42a,42b,42c,42dへの固定方法、固定箇所等は限定されないが、本実施形態のメッシュのような衝撃に対してある程度柔軟な構造の方が、コンクリートの斫りによる衝撃を吸収し、斫り作業を容易にするのでより望ましいと言える。
【0020】
凸状接合部36,36・・・の周囲にコンクリートが回り込まないように、凸状接合部36,36・・・を直接保護、被覆する第一被覆材41aには適度な押圧力を与えておくために、
図2(a)に示す通り、第二被覆材41bの厚さは、ずれ止め材42a,42b,42c,42dの被覆材を押さえる面と第一被覆材41aとの隙間より厚いものが望ましい。
【0021】
次に、本実施形態の鋼製地中連続壁凸状接合部の保護方法について
図3〜
図7を用いて説明する。
図3に示す通り、先ず凸状接合部36,36・・・が纏まって配置されている領域を包含するように成型された矩形形状の第一被覆材41aを凸状接合部36,36・・・の上から被せる。
次に
図4に示す通り、凸状接合部36,36・・・の位置に合わせて第一被覆材41aに印をつけ、各印に十字状の切り込み44を入れた後、第一被覆材41aに凸状接合部36,36・・・を挿通させながら、第一被覆材41aをフランジ32aの上面に第一被覆材41aの下面が密着するように設置する。前述の通り、第一被覆材41aとフランジ32aとの密着性が担保できれば、十字状の切り込み44に係らず、凸状接合部36,36・・・の位置、形状寸法に合わせて第一被覆材41aを刳り貫いても良い。
【0022】
次に
図5に示す通り、第一被覆材41aの四側面を取り囲むように、逆L字状に枠状に配置したずれ止め材42a,42b,42c,42dである山形鋼(アングル)をフランジ32aの上面に隅肉溶接固定した後、第一被覆材41aと同形状、同素材の第二被覆材41bを第一被覆材41aの上から重ねるように、第一被覆材41aとずれ止め材42a,42b,42c,42dとの間に生じた隙間に挿入する。
【0023】
最後に
図6に示す通り、メッシュ筋である蓋材43を第二被覆材41bの上から、第二被覆材を押さえるように重ね、その四辺端部をずれ止め材42a,42b,42c,42dに溶接固定する。
【0024】
本実施形態の保護法方により施工された保護構造により、凸状接合部36,36・・・が保護された鋼製部材3が泥酔掘削溝1内の所定の位置、所定の深度に建て込まれ、その後コンクリート5が打設され、鋼製地中連続壁2が構築された状態を
図7に示す。最終的に内空側の掘削進捗に応じ、凸状接合部36,36・・・を露出させるべく、該当箇所のコンクリート5をブレーカー等の重機によって斫り撤去する作業が行われる。
【0025】
本実施形態の鋼製地中連続壁凸状接合部の保護構造および保護方法を使用すれば、被覆材に吸水可能な素材を用いるため、安定液の水圧やコンクリートの側圧によって圧縮力を受けることはなく、気中とほぼ同様な形状が保たれる。被覆材の形状が保たれることで、接合部周辺のコンクリート斫り作業においても確実に縁切りが図られるため、斫り作業に伴う衝撃が直接接合部に伝わることがなく、接合部の衝撃による変形等の懸念も生じない。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、第二被覆材41bは必須の構成ではなく、凸状接合部36,36・・・が適切に保護されれば、無くても良い。
【符号の説明】
【0027】
1 泥水掘削溝
2 鋼製地中連続壁
3 鋼製部材
36 凸状接合部
4 保護構造
41 被覆材
42 ずれ止め材
43 蓋材
5 コンクリート