(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960867
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】積層造形装置
(51)【国際特許分類】
B22F 12/70 20210101AFI20211025BHJP
B22F 12/41 20210101ALI20211025BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20211025BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20211025BHJP
B29C 64/371 20170101ALI20211025BHJP
【FI】
B22F12/70
B22F12/41
B33Y30/00
B29C64/153
B29C64/371
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-13245(P2018-13245)
(22)【出願日】2018年1月30日
(65)【公開番号】特開2019-131846(P2019-131846A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】特許業務法人ぱるも特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】丸小 恭諒
(72)【発明者】
【氏名】物種 武士
【審査官】
坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−526694(JP,A)
【文献】
特開2002−134057(JP,A)
【文献】
特開平10−275583(JP,A)
【文献】
千田 裕彦,粘性流領域における真空排気の理論計算とその応用,住友電工テクニカルレビュー,日本,2010年,第176号,P.1-7,特に、「2-2 気体の運動状態に着目した区分」
【文献】
高橋 主人,真空技術者資格認定試験の問題解説,真空技術,日本,2017年,Vol.60, No.2,P.72-74,特に、「1.気体の流れ」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00−12/90
B33Y 30/00
B29C 64/153
B29C 64/371
B22F 3/105
B22F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料により形成される粉末床を真空チャンバ内で積層しながら各層の粉末床を選択的に固化させる工程を繰り返すことにより三次元形状の造形物を製造する積層造形装置であって、
前記粉末材料を固化させる電子ビームを前記粉末床に照射する電子ビーム照射手段と、
前記電子ビームの走査範囲に設けられ、高さを調整可能な載置台と、
前記載置台に載置され、前記粉末床を形成する粉末床形成部と、
前記電子ビームの照射によって陽イオン化するガスを前記電子ビームの通過領域に導入するガス導入部とを備え、
前記ガス導入部は、クヌーセン数が0.3よりも大きい分子流の状態で、前記ガスを前記通過領域に導入することを特徴とする積層造形装置。
【請求項2】
前記ガス導入部は、前記粉末材料が敷き詰められる造形領域部を有する床部に設置されている請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記ガス導入部は、前記電子ビーム照射手段を収納する収納室に設置されている請求項1に記載の積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば金属粒体からなる粉末材料により形成される粉末床を真空室内で積層しながら各層の粉末床を選択的に固化させる工程を繰り返すことにより三次元形状の造形物を製造する積層造形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームの照射により溶融凝固可能な金属粒体などからなる粉末材料により形成される粉末床を真空室内で積層しながら、各層の粉末床を選択的に固化させることにより三次元形状の造形物を製造する積層造形装置が知られている。このように電子ビームを用いる積層造形装置では、電子ビームの照射により粉末材料が負に帯電するため、個々の粉末材料同士がクーロン力により互いに反発し合い粉末材料が飛散する虞がある。そこで、装置の真空室内に補助ガスを導入し、電子ビームの照射点近傍で補助ガスを正に帯電させることで粉末材料を電気的に中性化させるものがある(例えば、特許文献1参照)。また、粉末材料の粉表面の伝導度を増加させる反応性ガスを供給しながら、作業領域上に配置された材料に電子ビームを照射するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−526694号公報
【特許文献2】特表2011−506761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、真空室内に導入されるガスは容易に拡散するため、特許文献1及び特許文献2に記載のものでは、粉末材料の飛散を防止するためのガスを真空室内全体に導入することになり、特に大型の造形物を造形する場合のように、真空室が大型化すると必要なガス量も増大して生産コストが増大してしまうという問題点がある。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、電子ビームの照射によって帯電した粉末材料同士が互いに反発して飛散することを防止しつつ、飛散防止のために真空室内に導入されるガスの量を低減することができる積層造形装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の積層造形装置は、粉末材料により形成される粉末床を真空チャンバ内で積層しながら各層の粉末床を選択的に固化させる工程を繰り返すことにより三次元形状の造形物を製造する積層造形装置であって、粉末材料を固化させる電子ビームを粉末床に照射する電子ビーム照射手段と、電子ビームの走査範囲に設けられ、高さを調整可能な載置台と、載置台に載置され、粉末床を形成する粉末床形成部と、電子ビームの照射によって陽イオン化するガ
スを電子ビームの通過領域に導入するガス導入部とを備え
、ガス導入部は、クヌーセン数が0.3よりも大きい分子流の状態で、ガスを通過領域に導入するものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の積層造形装置によれば、電子ビームの照射によって陽イオン化するガスの分子流を電子ビームの通過領域に噴出するガス導入部を備えたため、電子ビームの照射によって帯電した粉末材料同士が互いに反発して飛散することを防止しつつ、飛散防止のために真空室内に導入されるガスの量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】この発明の実施の形態1における積層造形装置を示す概略図である。
【
図2A】この発明の実施の形態1に係るガス導入部を示す側面図である。
【
図2B】この発明の実施の形態1に係るガス導入部を示す平面図である。
【
図3】この発明の実施の形態2における積層造形装置を示す概略図である。
【
図4A】この発明の実施の形態2に係るガス導入部を示す側面図である。
【
図4B】この発明の実施の形態2に係るガス導入部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下に、この発明の実施の形態1を
図1から
図2Bに基づいて説明する。
図1は、実施の形態1における積層造形装置を示す概略図である。積層造形装置100において、真空チャンバ1の上方に設置された電子銃室3、すなわち収納室には、電子銃2、すなわち電子ビーム照射手段が収納されている。電子銃2は真空チャンバ1の床部1aに対向しており、所定の走査範囲に対して電子ビームEBを照射するものである。電子銃室3の床部3aには電子銃室3と真空チャンバ1とを連通する開口部3bが設けられており、電子銃2から照射される電子ビームEBは開口部3bを介して真空チャンバ1内に照射される。開口部3bは図示しないシャッターによって開閉可能となっており、電子ビームEBが照射される時以外開口部3bを閉じることで真空チャンバ1と電子銃室3を遮断し、真空チャンバ1内の真空度を維持することが可能となっている。
【0010】
電子ビームEBは、電磁力によって偏向させることで照射箇所を操作可能である。また、電子ビームEBは電子銃2から床部1aまでの間で所定の広がり角度をもって広がる。実施の形態1では、電子ビームEBの照射先が走査範囲内を移動する際に電子ビームの経路が動く領域を電子ビームEBの通過領域とし、真空チャンバ1内の通過領域を通過領域S1、電子銃室3内の通過領域を通過領域S2としている。開口部3bの面積は、床部3aの高さにおける通過領域S2の水平断面積以上であり、電子ビームEBが通過領域S2内のどの経路を通っても、電子ビームEBが開口部3bを介して真空チャンバ1内に進入するようになっている。また、電子ビームEBの広がりは下方ほど大きいので、通過領域S1の水平断面積は、通過領域S2の水平断面積よりも大きい。
【0011】
床部1aには、三次元積層造形物8の原料である粉末材料7が敷き詰められる造形領域部1bが電子ビームEBの走査範囲に形成されている。造形領域部1bの底面は、昇降機構6により高さを調整可能な作業土台5、すなわち載置台により形成されており、作業土台5を昇降させることにより造形領域部1bの深さが調整される。
【0012】
床部1a上には、粉末ボックス91に収納された粉末材料7を作業土台5の上に敷き詰める粉末床形成機構92が設置されている。粉末床形成機構92は、造形領域部1bの上部を移動、往復しながら所定量の粉末材料7を造形領域部1b内に供給し、作業土台5の上に粉末材料7を敷き詰める。粉末ボックス91は、例えば直方体の箱体であり、粉末床形成機構92が下方に来ると粉末材料7を落下させ、粉末床形成機構92に粉末材料7を供給する。粉末材料7は、固化して三次元造形物を構成する粉末状の材料であり、電子銃2からの電子ビームEBが照射されることで溶融凝固又は焼結して固化する。粉末材料7は、例えばコバルトクロムモリブデン合金やチタン合金などの金属粒体の粉末材料であるが、これに限られるものではなく電子ビームEBの照射により溶融凝固又は焼結可能なものであればよい。
【0013】
また、床部1aにはガス導入部10が設置されている。ガス導入部10は、造形領域部1bの近傍に配置され、噴出管104を介して電子ビームEBの通過領域S1に分子流状態の飛散防止ガスGを局所的に導入する。また、ガス導入部10は、真空チャンバ1の側壁に設けられたガス供給部13に配管103を介して接続されている。ガス供給部13は、真空チャンバ1の外部に設けられた容器12に配管102を介して接続されており、容器12に保持されている飛散防止ガスGをガス導入部10に供給する。容器12は、配管101を介して真空ポンプ11と接続されており、真空ポンプ11により減圧された飛散防止ガスGを保持している。
【0014】
ガス導入部10及びプレート4についてより詳細に説明する。
図2A及び
図2Bは、ガス導入部10を示す側面図及び平面図である。なお、実際はプレート4の周囲にも粉末材料7が敷き詰められるが、
図2A及び
図2Bではプレート4の周囲に敷き詰められる粉末材料を省略している。プレート4は、例えば断面正方形状の金属製のプレートであり、電子ビームEBが照射される範囲に溝部4aが設けられている。作業土台5の上に粉末材料7が敷き詰められる際には溝部4a内にも粉末材料7が敷き詰められ、1層目の粉末床71が形成される。
【0015】
ガス導入部10は、電子ビームEBの通過領域S1側の側面に複数の噴出管104が設けられている。それぞれの噴出管104は、例えば断面円形状の細管であり、床部1aから高さV1でガス導入部10に設けられ、ガス導入部10から電子ビームEBの通過領域S1に向かって延びている。噴出管104の通過領域S1側の端と溝部4aとの間は所定の距離H1離れている。複数の噴出管104は、プレート4の幅方向に沿って配列されており、その本数はプレート4の幅に合わせて設定され、噴出管104から噴出する飛散防止ガスGがプレート4の上部全体をカバーするようになっている。このため、電子ビームEBが通過領域S1内のどのような経路を通過しても、電子ビームEBが飛散防止ガスGを照射することとなり、電子ビームEBの照射によって飛散防止ガスGが陽イオン化される。なお、飛散防止ガスGとしては電子ビームEBの照射によって陽イオン化されるものであれば特に限られるものではないが、粉末材料の酸化を防ぐ観点から、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを用いることが望ましい。
【0016】
飛散防止ガスGは、分子流として噴出管104から導入される。より具体的には、飛散防止ガスGの流れが粘性流であるか分子流であるかを示す指数であるクヌーセン数Kが、0.3より大きくなるように設定される。実施の形態1では、系の代表長を噴出管104の内径Dとしているので、クヌーセン数Kは、飛散防止ガスGの平均自由工程λ及び噴出管104の内径Dを用いてK=λ/Dで表される。クヌーセン数Kの設定は、平均自由工程λ及び噴出管104の内径Dを調整することで行う。平均自由工程λは飛散防止ガスGの圧力を調整することで調整可能である。クヌーセン数Kの調整のために内径Dを小さくする場合、内径Dの変化量に応じて噴出管104の本数を増やし、噴出管104全体の幅をプレート4の幅に合わせる。
【0017】
分子流として導入される飛散防止ガスGは、粘性流の場合のような拡散が起こることが抑制されており、
図2Bに示すように噴出管104から直線的に流れるため、飛散防止ガスGは電子ビームEBの通過領域S1に局所的に導入される。
【0018】
次に、動作について説明する。真空チャンバ1内を真空引きして真空チャンバ1内の真空度を安定させた後、プレート4の上面から床部1aの上面までの高さが粉末床71の1層分になるように作業土台5の高さを調整し、作業土台5に対して予熱用の電子ビームを照射することで作業土台5を加熱する。予熱用の電子ビームは、ビーム出力やビームフォーカス、ビーム走査速度などのビームパラメータを調整し、粉末材料を溶融凝固させる電子ビームEBよりも出力を抑制したものである。作業土台5の加熱後、作業土台5の上に粉末材料7を敷き詰める。この際、プレート4の溝部4aにも粉末材料7が敷き詰められ、1層目の粉末床71が形成される。1層目の粉末床71は、加熱された作業土台5からの熱伝導により予熱される。これにより1層目の粉末床71を形成する粉末材料が昇温するので、電子ビームEBの照射によって粉末材料が負に帯電し、粉末材料同士がクーロン力により反発して飛散することが抑制される。上記のような昇温によって粉末材料の飛散を抑制することができるのは、昇温に伴う電気抵抗の低下により電荷が導通し、粉末材料の帯電が抑制されるためである。
【0019】
粉末床71の予熱後、容器12に保持されている飛散防止ガスGをガス導入部10へ送り、噴出管104を通して飛散防止ガスGを電子ビームEBの通過領域S1に局所的に導入する。
【0020】
次に、予め設定した照射パターンに従って電子ビームEBを1層目の粉末床71に照射し、1層目の粉末床71の粉末材料を選択的に固化させる。この際、粉末床71の近傍では通過領域S1に導入された飛散防止ガスGが電子ビームEBに照射され、飛散防止ガスGと電子ビームEBの相互作用により陽イオンが生じる。この陽イオンは、電子ビームEBの照射により負に帯電した1層目の粉末床71の粉末材料7を電気的に中和する。1層目の粉末床71について粉末材料の固化が完了したら電子ビームEBの照射をやめ、作業土台5の高さを2層目の粉末床(図示なし)の厚さ分だけ下げて、1層目の場合と同様にして1層目の粉末床71の上に2層目の粉末床を形成する。2層目の粉末床は、電子ビームEBにより固化された1層目の粉末床71の余熱によって昇温するため、2層目の粉末床を形成する粉末材料が電子ビームEBの照射により負に帯電してクーロン力により反発し、粉末材料7が飛散することが抑制される。
【0021】
2層目の粉末床の形成後、1層目の場合と同様に飛散防止ガスGを電子ビームEBの通過領域S1に局所的に導入し、電子ビームEBを照射して2層目の粉末床71の粉末材料を選択的に固化させる。なお、2層目の粉末床に対して電子ビームEBを照射する前に、予熱用の電子ビームを照射して2層目の粉末床を再予熱してもよい。3層目以降も同様にし、粉末床を積層しながら各層の粉末床を選択的に固化させる工程を繰り返すことにより、作業土台5の上に三次元積層造形物8を製造する。
【0022】
実施の形態1による効果について説明する。実施の形態1の効果を確認するため、飛散防止ガスGを局所的に導入する場合と導入しない場合とで、負に帯電した粉末材料がクーロン力により反発して飛散するときの電子ビームEBの電流値を「許容電流値」としてそれぞれ計測し、比較した。許容電流値の計測では、まず真空チャンバ1内の真空度を安定させ、金属粒体からなる粉末材料7を溝部4aに厚さ100μmで一様に敷き詰めた後、敷き詰められた粉末材料7に対して電子ビームEBを照射する。また、粉末材料の予熱は行わず、常温のままの粉末材料7に対して電子ビームEBを照射している。この条件の下、電子ビームEBの電流値を徐々に増加させていき、粉末材料の飛散が確認されたときの電子ビームEBの電流値を計測する。粉末材料7の飛散の有無の確認は、電子ビームEBの照射後の約2秒間、真空チャンバ1の覗き窓(図示なし)より真空チャンバ1内を目視確認することで行う。許容電流値の比較においては、飛散防止ガスGを局所的に導入する場合と導入しない場合で計測をそれぞれ複数回行い、平均値を算出して比較する。上記のようにして許容電流値を計測した結果、飛散防止ガスGを導入しない場合の許容電流値の平均値は約0.6mA、飛散防止ガスGを局所的に導入した場合の許容電流値の平均値は約1.1mAであり、局所的な飛散防止ガスGの導入により許容電流値が上昇する効果があることが確認できた。このような効果があるのは、飛散防止ガスGの導入が局所的なものであっても、通過領域S1に導入された飛散防止ガスGと電子ビームEBの相互作用によって生じた陽イオンにより、帯電した粉末材料7を電気的に中和されたためと考えられる。
【0023】
実施の形態1によれば、電子ビームの照射によって帯電した粉末材料同士が互いに反発して飛散することを防止しつつ、真空室内に導入される飛散防止ガスの量を低減することができる。より具体的には、電子ビームの照射によって陽イオン化する飛散防止ガスの分子流を電子ビームの通過領域に導入するガス導入部を備えたため、電子ビームの通過領域に飛散防止ガスを局所的に導入することが可能となっている。このため、真空チャンバ全体に飛散防止ガスを導入する必要がなく、真空室内に導入される飛散防止ガスの量が低減されている。導入される飛散防止ガスの量の低減は、飛散防止ガスに係るコストを低減するとともに、真空チャンバ内のガス分子の増加を抑制し、真空度の低下を抑制することができる。これにより、飛散防止ガスのガス分子と電子ビームの衝突による電子ビームのエネルギーの低下も抑制されるため、電子ビームへのエネルギー投入量の増加を抑制することができる。
【0024】
また、ガス導入部を真空チャンバの床部に設置したので、飛散防止ガスが粉末床の近傍に導入され、より効果的に粉末材料の飛散を防止することができる。
【0025】
実施の形態2.
以下に、この発明の実施の形態2を
図3から
図4Bに基づいて説明する。なお、
図1から
図2Bと同一又は相当部分については同一の符号を付し、その説明を省略する。実施の形態2は、ガス導入部を電子銃室に設置した点が実施の形態2と異なる。
図3は、実施の形態2における積層造形装置を示す概略図である。積層造形装置200において、電子銃室3の床部3aにはガス導入部20が設置されている。ガス導入部20は、開口部3bの近傍に配置され、噴出管204を介して電子ビームEBの通過領域S2に分子流状態の飛散防止ガスGを局所的に導入する。また、ガス導入部20は、電子銃室3の側壁に設けられたガス供給部23に配管203を介して接続されている。ガス供給部23は容器12に配管202を介して接続されており、容器12に保持されている飛散防止ガスGをガス導入部20に供給する。
【0026】
ガス導入部20についてより詳細に説明する。
図4A及び
図4Bは、ガス導入部20を示す側面図及び平面図である。ガス導入部20は、開口部3b側の側面に複数の噴出管204が設けられている。噴出管204は、例えば断面円形状の複数の細管かであり、床部3aから高さV2でガス導入部20に設けられ、ガス導入部20側から開口部3bに向かって延びている。噴出管204の開口部3b側の端と開口部3bとの間は所定の距離H2離れている。複数の噴出管204は、開口部3bの幅方向に沿って配列されており、その本数は開口部3bの幅に合わせて設定され、噴出管204から噴出する飛散防止ガスGが開口部3bの上部全体をカバーするようになっている。このため、電子ビームEBが通過領域S2内のどのような経路を通過しても、電子ビームEBが飛散防止ガスGを照射することとなり、電子ビームEBの照射により飛散防止ガスGが陽イオン化される。
飛散防止ガスGが分子流として噴出管204から導入され、通過領域S2に局所的に導入される点は実施の形態1と同様である。また、クヌーセン数Kの調整のために噴出管204の内径Dを小さくする場合、内径Dの変化量に応じて噴出管204の本数を増やし、噴出管204全体の幅を開口部3bの幅に合わせる。
【0027】
その他の構成については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0028】
次に、動作について説明する。実施の形態1と同様に、真空チャンバ1内の真空度を安定させ、作業土台5の高さを調整した後に作業土台5を予熱用の電子ビームで加熱する。作業土台5の加熱後、作業土台5の上、及びプレート4の溝部4aに粉末材料7を敷き詰め、溝部4a内に1層目の粉末床71を形成する。1層目の粉末床71は、作業土台5からの熱伝導により予熱される。粉末床71の予熱後、容器12に保持されている飛散防止ガスGをガス導入部20へ送り、噴出管204を通して飛散防止ガスGを電子ビームEBの通過領域S2に局所的に導入する。
【0029】
飛散防止ガスGを通過領域S2に導入した後、予め設定した照射パターンに従って電子ビームEBを1層目の粉末床71に照射する。この際、電子銃室3内の開口部3bの近傍にて飛散防止ガスGと電子ビームEBが相互作用して陽イオンが生じる。この陽イオンは、開口部3bを通って真空チャンバ1内に入り、1層目の粉末床71の近傍に達して、電子ビームEBの照射により負に帯電した1層目の粉末床71の粉末材料7を電気的に中和する。1層目の粉末床71について粉末材料の固化が完了したら電子ビームEBの照射をやめ、作業土台5の高さを2層目の粉末床(図示なし)の厚さ分だけ下げる。その後、1層目の場合と同様にして1層目の粉末床71の上に2層目の粉末床を形成する。以降については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0030】
実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に飛散防止ガスの分子流を電子ビームの通過領域に導入するガス導入部を備えたため、電子ビームの照射によって帯電した粉末材料同士が互いに反発して飛散することを防止しつつ、真空室内に導入される飛散防止ガスの量を低減することができる。
【0031】
また、導入する飛散防止ガスの量をさらに低減することができる。より具体的には、飛散防止ガスを電子ビームの通過領域に導入するガス導入部を電子銃室内に設置したため、ガス導入部に設けられた噴出管がカバーすべき幅が、実施の形態1よりも小さくなっている。これは、上述したように電子ビームは所定の広がり角度を持ち、下方ほど広がりが大きくなるためで、電子銃室内の通過領域の水平断面積は真空チャンバ内の通過領域の水平断面積よりも小さいためである。そして、噴出管がカバーすべき幅は電子ビームの通過領域の幅であるため、実施の形態2において噴出管がカバーすべき幅は、実施の形態1において噴出管がカバーする必要があった幅よりも小さく、噴出管の本数を削減できるとともに、導入する飛散防止ガスの量をさらに低減することが可能となっている。
【0032】
また、この発明は、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態や構成を適宜組み合わせたり、構成を一部変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 真空チャンバ、1a 床部、1b 造形領域部、2 電子銃、3 電子銃室、4 プレート、4a 溝部、5 作業土台、7 粉末材料、71 粉末床、8 三次元積層造形物、10、20 ガス導入部、104、204 噴出管、100、200 積層造形装置、EB 電子ビーム、G 飛散防止ガス、S1、S2 通過領域、