特許第6960998号(P6960998)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6960998二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法のための触媒組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6960998
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法のための触媒組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 309/30 20060101AFI20211025BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20211025BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   C07D309/30 D
   B01J31/24 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-535229(P2019-535229)
(86)(22)【出願日】2017年11月8日
(65)【公表番号】特表2020-508965(P2020-508965A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】TH2017000080
(87)【国際公開番号】WO2018124978
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2020年7月3日
(31)【優先権主張番号】1601007808
(32)【優先日】2016年12月28日
(33)【優先権主張国】TH
(73)【特許権者】
【識別番号】513160707
【氏名又は名称】ピーティーティー グローバル ケミカル パブリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】スチーウィン・チョトチャットチャワンクル
(72)【発明者】
【氏名】ポンピモン・ウォンマハシリクン
(72)【発明者】
【氏名】ソーポン・ケーオティプ
(72)【発明者】
【氏名】カンピー・ポンプライ
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 Journal of the American Chemical Society,1988年,Vol.110,No.10,p3207−3212,https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/ja00218a033
【文献】 Journal of Organometallic Chemistry,2012年,Vol.696,No.26,p4309−4314,doi:10.1016/j.jorganchem.2011.10.011
【文献】 Inorganic Chemistry,1999年,Vol.38,No.20,p4510−4514,doi:10.1021/ic981450j
【文献】 日本化学会誌,1985年,Vol.1985,No.3,p533−536,doi:10.1246/nikkashi.1985.533
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからδ−ラクトンを製造するための触媒であって、該触媒が、
a)サリチルアルデヒドパラジウム(II)、3−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジブチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−ブロモサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−クロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、3,5−ジクロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、3−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)、及び5−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)から選択されるパラジウム金属錯体、及び
b)トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン)、又はそれらの混合物から選択されるリン化合物
を含む、触媒。
【請求項2】
前記a)のパラジウム金属錯体が、サリチルアルデヒドパラジウム(II)、4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジブチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−クロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、及び3,5−ジクロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)から選択される、請求項に記載の二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからδ−ラクトンを製造するための触媒。
【請求項3】
前記b)のリン化合物がトリフェニルホスフィンである、請求項に記載の二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからδ−ラクトンを製造するための触媒。
【請求項4】
前記組成物a)とb)との比が、1:1〜1:5の間にある、請求項1に記載の二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからδ−ラクトンを製造するための触媒。
【請求項5】
前記組成物a)とb)との比が、1:3〜1:4の間にある、請求項に記載の二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからδ−ラクトンを製造するための触媒。
【請求項6】
a)サリチルアルデヒドパラジウム(II)、3−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジブチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−ブロモサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−クロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、3,5−ジクロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、3−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)、及び5−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)から選択されるパラジウム金属錯体、及び
b)トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン)、又はそれらの混合物から選択されるリン化合物
を含む触媒を使用する、有機溶媒中での二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法。
【請求項7】
前記a)のパラジウム金属錯体が、サリチルアルデヒドパラジウム(II)、4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジブチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−クロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、及び3,5−ジクロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)から選択される、請求項6に記載のδ−ラクトンの製造方法。
【請求項8】
前記b)のリン化合物がトリフェニルホスフィンである、請求項に記載のδ−ラクトンの製造方法。
【請求項9】
前記組成物a)とb)との比が、1:1〜1:5の間にある、請求項に記載のδ−ラクトンの製造方法。
【請求項10】
前記組成物a)とb)との比が、1:3〜1:4の間にある、請求項に記載のδ−ラクトンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
科学は、二酸化炭素及びオレフィンからのδ−ラクトンの製造方法のための触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素ガスは、例えば、石炭、セメント、及び電子産業といった、石油及び石油化学産業を含む、多くの産業において、燃焼から発生する温室効果ガスのうちの1つである。二酸化炭素ガスは低毒性ではあるものの、大量に放出された二酸化炭素ガスは、地球の表面温度を上昇させる温室効果を生み出す。
【0003】
このような次第ではあるが、二酸化炭素は再生可能な資源である。さらに二酸化炭素ガスは、尿素、サリチル酸、環状カルボン酸エステル、及びラクトンといった高価な化学物質の生産におけるC1ビルディングブロックとして使用されている。しかしながら、二酸化炭素ガスの利用の主な問題点は、二酸化炭素ガスの化学的に不活性な性質である。したがって、二酸化炭素ガスを所望の化学物質へと変換するためには、高反応性物質との反応又は触媒の使用が必要とされる。
【0004】
ラクトンは興味深い環状のエステル基である。というのは、ポリエステルの合成の前駆体として利用することができるからである。ラクトンはまたその他多くの高価な誘導体を製造するための前駆体でもある。二酸化炭素からのラクトンの合成は、触媒を使用して、二酸化炭素と小分子との短鎖重合により行うことが可能である。
【0005】
Journal of the Chemical Society、 Chemical Communications (1976)及びBulletin of the Chemical Society of Japan (1978)では、Pdジホスフィン錯体を触媒として使用する、ジメチルホルムアミド溶媒中での二酸化炭素及び1,3−ブタジエンの反応からのγ−ラクトンの合成について、開示されている。ラクトンは、開始の1,3−ブタジエンと比較して、15%の選択性で、12.3%まで合成することが可能であることが発見されている。
【0006】
Inorganica Chimica Acta (1978)、 Journal of the Chemical Society、 Perkin Transactions 1 (1980)、及び米国特許第4167513号では、δ−ラクトンの合成における、触媒としてのPd−モノホスフィン錯体及びベンゼンといった無極性溶媒の使用について開示されている。
【0007】
米国特許第4393224号では、触媒系としてパラジウムホスフィン錯体三級アミン及びキノン又はヒドロキノン化合物を使用する二酸化炭素ガス及び1,3−ブタジエンの反応によるδ−ラクトンの合成法について開示されている。該反応は、89%のδ−ラクトンの選択性を有していた。
【0008】
Synthesis(1983)及び欧州特許出願公開第0124725号では、触媒として、酸化数2のパラジウム(Pd(II))錯体及びアセチルアセトナトといったβ−ジカルボニル配位子、アリル又はジエン、及びリン配位子を有するビスカルボキシラートを使用する、二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの合成について開示されている。
【0009】
Journal of the American Chemical Society (1988)及び仏国特許第2617163号では、触媒として、カチオン性パラジウム錯体の使用について開示されており、δ−ラクトンの生成のための配位子は、リン化合物又はニトリル又はハロゲン化物の群内のものであった。
【0010】
さらに、Journal of Molecular Catalysis A: Chemical (1997)では、有機溶媒中でのパラジウム錯体とともに、δ−ラクトンの合成反応のための触媒として、ニトリル基を有するリン配位子の使用について開示されている。δ−ラクトンの選択性は74%であった。
【0011】
同様にして、Journal of Organometallic Chemistry (2012)では、アセトニトリル溶媒中での、三級アミンホスフィンとして二座配位子を有するパラジウム錯体によるδ−ラクトンの合成について、開示されている。該錯体は、79%の選択性で60%収率まで与えることが可能であった。Tetrahedron Letters (2016)及び中国特許第105622560号では、配位子フリーの条件の下でのパラジウムナノ粒子及び4級アンモニウム塩について開示されている。該触媒は、94%の選択性で51%のδ−ラクトン生成物を与えることがわかっている。
【0012】
しかしながら、開示されているように、二酸化炭素及び1,3−ブタジエンの反応によるδ−ラクトンの合成に関する触媒は、パラジウム錯体及びリン、β−ジカルボニル、アリル又はジエン、カルボキシラート、アミン、ニトリル、又はジベンジリデンアセトン配位子のみに限られている。触媒活性を発展させるための前記化合物の構造的進歩についての開示は見当たらない。さらに、配位子の基本的な構造は、電子的及び立体的特性の両方に限定されている。
【0013】
こうした理由から、本発明は、二酸化炭素及び1,3−ブタジエンの反応によるδ−ラクトンの合成に関する触媒系の効率を向上させることを目的とする。該触媒組成物は、パラジウム錯体及びその誘導体を含むサリチルアルデヒド配位子及びリンホスフィン基を触媒として含み、容易に合成することが可能で、空気及び湿気に対して安定であり、及びδ−ラクトンへの良好な選択性で、δ−ラクトンの合成反応を効率的に触媒することが可能である。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、良好なδ−ラクトンの選択性でδ−ラクトンの合成反応を効率的に触媒することが可能な二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法のための触媒組成物に関し、該触媒組成物は、以下を含む:
a)構造式(I)に示すパラジウム金属錯体
【化1】
[式中、R1、R2、R3及びR4は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミン基、又は要すればアルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ベンジル基、又はヘテロ原子を含む環式炭化水素から選択される基を表す]、及び
b)一般式PR(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基から選択される)を有するホスフィン基から選択されるリン化合物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法のための触媒組成物に関し、本発明による触媒は、良好なδ−ラクトンへの選択性で効率的にδ−ラクトンの合成反応を触媒することが可能である。さらに、本発明による触媒は、容易に合成することが可能であり、空気及び湿気に対して安定である。本発明による触媒は、以降の詳細な説明に従って述べることが可能である。
【0016】
この本文で示されている任意の態様は、別段述べられていない限り、その適用を含んで、本発明の他の態様を参照する。
【0017】
この本文で使用される専門用語及び科学用語は、別段述べられていない限り、当業者に理解されるように、定義を有する。
【0018】
ここで述べられる任意のツール、装置、方法、又は化学物質は、本発明においてのみ特有なツール、装置、方法、又は化学物質であると述べられていない限り、当業者に一般的に作業され又は使用される、ツール、装置、方法、又は化学物質を意味する。
【0019】
請求項又は明細書中の『含む(comprising)』を伴う単数形の名詞又は単数代名詞の使用は、『1つ(one)』及びまた『1つ以上(one or more)』、『少なくとも1つ(at least one)』、及び『1つより多く(one or more than one)』を指す。
【0020】
本出願において開示されている及び請求されているすべての組成物及び/又は方法は、本発明と著しく異なる実験なく、及び有用な異議とともに得られる、及び具体的に請求項中に述べられていないが、当業者による本実施形態と同一のものとして生じる、任意のアクション、性能、改変又は調節由来の実施形態を対象とすることを目的とする。それゆえ、当業者にはっきりと理解される任意のささいな改変又は調節を含む、本実施形態と置換可能な又は同様の対象物は、添付の請求項に現れるように、本発明の精神、範囲、及び概念にあるものとして解されるべきである。
【0021】
本出願を通じて、用語『およそ(about)』は、ここに現れ、示すもののうち、物理的性質の変更から生じる変化又は偏向を含む前記装置又は方法を使用する、装置、方法、又は個人の何らかのエラーから変化し又は逸脱し得る、任意の数を意味する。
【0022】
以降、本実施形態の発明を本発明の範囲を何ら限定することなく、示す。
【0023】
本発明は、良好なδ−ラクトンの選択性でδ−ラクトンの合成反応を効率的に触媒することが可能な二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法のための触媒組成物に関し、該触媒組成物は、以下を含む:
a)構造式(I)に示すパラジウム金属錯体
【化2】
[式中、R、R、R及びRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミン基、又は要すればアルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ベンジル基、又はヘテロ原子を含む環式炭化水素から選択される基を表す]、及び
b)一般式PR(式中、Rはアルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基から選択される)のホスフィン基から選択されるリン化合物。
【0024】
1つの実施形態において、前記a)のパラジウム金属錯体において、R、R、R及びRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、1〜4個の炭素原子を有するアルキル、1〜4個の炭素原子を有するアルコキシ、又は一般式NR(式中、Rは1〜4個の炭素原子を有するアルキルである)を有する2級アミンから選択される基を表す。
【0025】
1つの実施形態において、前記a)パラジウム錯体において、R、R、R及びRは、独立して、水素原子、塩素原子、臭素原子、メチル原子、エチル原子、イソプロピル原子、n−ブチル原子、tert−ブチル原子、メトキシ原子、エトキシ原子、イソ−プロポキシ原子、n−ブトキシ原子、tert−ブトキシ原子、ジメチルアミン原子、ジエチルアミン原子、ジ−n−ブチルアミン原子から選択されるが、これらに限定されない。
【0026】
1つの実施形態において、前記a)のパラジウム金属錯体は、サリチルアルデヒドパラジウム(II)、メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−メトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジブチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−ブロモサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−クロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、3,5−ジクロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、3−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)、及び5−メチルサリチルアルデヒドパラジウム(II)から選択してよいが、これらに限定されない。
【0027】
好ましくは、前記a)のパラジウム金属錯体は、サリチルアルデヒドパラジウム(II)、4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、4−ジブチルアミノサリチルアルデヒドパラジウム(II)、5−クロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)、及び3,5−ジクロロサリチルアルデヒドパラジウム(II)から選択される。
【0028】
1つの実施形態において、前記a)のパラジウム金属錯体は、パラジウム金属塩と一群のサリチルアルデヒド配位子及びその誘導体から、pH条件およそ5〜8の下、合成することが可能であり、配位子へのパラジウムの反応におけるモル比は、3:1〜1:3の範囲にある。
【0029】
1つの実施形態において、前記パラジウム金属塩前駆体は、塩化パラジウム(PdCl)、臭化パラジウム(PdBr)、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(TFA))又は酢酸パラジウム(Pd(OAc))から選択することが可能であるが、これらに限定されない。好ましくは、前記パラジウム金属塩前駆体は、塩化パラジウムである。
【0030】
本発明の別の実施形態において、前記サリチルアルデヒド配位子及びその誘導体は、サリチルアルデヒド、3−メトキシサリチルアルデヒド、4−メトキシサリチルアルデヒド、5−メトキシサリチルアルデヒド、4,6−ジメトキシサリチルアルデヒド、4−ジエチルアミノサリチルアルデヒド、4−ジブチルアミノサリチルアルデヒド、5−ブロモサリチルアルデヒド、5−クロロサリチルアルデヒド、3,5−ジクロロサリチルアルデヒド、3−メチルサリチルアルデヒド、4−メチルサリチルアルデヒド、及び5−メチルサリチルアルデヒドから選択することが可能であるが、これらに限定されない。
【0031】
1つの実施形態において、前記b)のリン化合物は、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、又はそれらの混合物から選択されるが、これらに限定されない。好ましくは、前記b)のリン化合物は、トリフェニルホスフィンから選択される。
【0032】
1つの実施形態において、前記組成物a)とb)との比は、1:1〜1:5の範囲にあり、好ましくは、前記組成物a)とb)との比は、1:3〜1:4の範囲にある。
【0033】
本発明の別の態様において、本発明は、本発明に従って得られた触媒の、有機溶媒中での二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法に関する使用に関する。
【0034】
1つの実施形態において、前記有機溶媒中での二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法は、以下の工程を含む。:
工程i)本発明による触媒、二酸化炭素、及び1,3−ブタジエンを有機溶媒で満たした反応容器に加える工程(二酸化炭素の1,3−ブタジエンに対するモル比は1:1〜1:3の範囲にあり、パラジウム錯体の1,3−ブタジエン前駆体に対するモル比は1:1,000〜1:3,000の範囲にある)、及び
ii)該反応容器を60〜120℃の範囲の温度で1〜10時間、加熱する工程。
【0035】
好ましくは、有機溶媒中での二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからのδ−ラクトンの製造方法は、以下の工程を含む。:
工程i)本発明による触媒、二酸化炭素、及び1,3−ブタジエンを有機溶媒で満たした反応容器に加える工程(二酸化炭素の1,3−ブタジエンに対するモル比は1.2:1〜1.5:1の範囲にあり、パラジウム錯体の1,3−ブタジエン前駆体に対するモル比は1:1,500〜1:1,700の範囲にある)、及び
ii)該反応容器を70〜80℃の範囲の温度で3〜4時間、加熱する工程。
【0036】
本発明によるδ−ラクトンの製造の各工程において、具体的に述べない限り、前記有機溶媒は、アセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ピリジン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、又はそれらの混合物から選択することが可能であるが、これらに限定されない。好ましくは、前記有機溶媒は、アセトニトリル、炭酸エチレン、又はそれらの混合物から選択される。
【0037】
本発明によるδ−ラクトンの製造方法は、工程が撹拌蒸発、真空乾燥などから選択され得るが、それらに限定されない乾燥工程を要すればさらに含んでいてよい。
【0038】
1つの態様において、本発明によるδ−ラクトンの製造方法は、反応容器中で行ってよいが、固定床の反応容器に限定されない。作業は、回分式又は連続式で行ってよい。
【0039】
以降のものは、本発明の1つの実施形態にすぎない実施例であり、決して本発明の限定であることを目的としていない。
【実施例1】
【0040】
パラジウム錯体触媒の合成
触媒1(CAT1)の合成
およそ15mLのサリチルアルデヒドエタノール溶液(7.0%w/v)を塩化パラジウム(PdCl)の塩酸溶液(1.7%w/v)に加えた。塩化パラジウムのサリチルアルデヒドに対する反応のモル比は1:2であった。20分間撹拌した。得られた物質をろ過して、エタノールで洗浄した。黄緑色の固体を触媒1として得た。
【0041】
触媒2(CAT2)の合成
4mLの4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドアセトン溶液を塩化パラジウム(PdCl)の塩酸溶液(0.75モル)に加えた。塩化パラジウムの4,6−ジメトキシサリチルアルデヒドに対する反応のモル比は1:1.75であった。15分間撹拌した後、該混合物のpHをpH7.5が得られるまで、水酸化ナトリウム(2モル)で調節した。pHを調節した後、混合物を一晩撹拌した。得られた物質をろ過して、アセトンで洗浄した。暗黄色の固体を触媒2として得た。
【0042】
触媒3(CAT3)の合成
およそ0.2〜0.25gの4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドを1:3の比で蒸留水及びアセトンを混合したものおよそ8mLに溶解させたものを0.6mLの3モル塩化パラジウム(PdCl)塩酸溶液に加えた。塩化パラジウムの4−ジエチルアミノサリチルアルデヒドに対する反応のモル比は1:2であった。60分間撹拌した後、該混合物のpHをpH7.5が得られるまで水酸化ナトリウム(2モル)で調節した。pHを調節した後、混合物を一晩撹拌した。得られた物質をろ過して、アセトンで洗浄した。暗黄色の固体を触媒3として得た。
【0043】
触媒4(CAT4)の合成
4mLの4−ジブチルアミノサリチルアルデヒドアセトン溶液(5.6%w/v)を塩化パラジウム(PdCl)の塩酸溶液(0.75モル)に加えた。塩化パラジウムの4−ブチルアミノサリチルアルデヒドに対する反応のモル比は1:2であった。15分間撹拌した後、該混合物のpHをpH7.5が得られるまで水酸化ナトリウム(2モル)で調節した。pHを調節した後、混合物を一晩撹拌した。得られた物質をろ過して、アセトンで洗浄した。暗黄色の固体を触媒4として得た。
【0044】
触媒5(CAT5)の合成
5mLの5−クロロサリチルアルデヒドアセトン溶液(3.5%w/v)を塩化パラジウム(PdCl)の塩酸溶液(1.2モル)に加えた。塩化パラジウムの5−クロロサリチルアルデヒドに対する反応のモル比は、1:2であった。15分間撹拌した後、該混合物のpHをpH7.5が得られるまで水酸化ナトリウム(2モル)で調節した。pHを調節した後、混合物を一晩撹拌した。得られた物質をろ過して、アセトンで洗浄した。暗黄色の固体を触媒5として得た。
【0045】
触媒6(CAT6)の合成
4mLの3,5−ジクロロサリチルアルデヒドアセトン溶液(4.4%w/v)を塩酸の塩化パラジウム(PdCl)の塩酸溶液(0.75モル)に加えた。塩化パラジウムの3,5−ジクロロサリチルアルデヒドに対する反応のモル比は1:2であった。15分間撹拌した後、該混合物のpHをpH7.5が得られるまで水酸化ナトリウム(2モル)で調節した。pHを調節した後、混合物を一晩撹拌した。得られた物質をろ過して、アセトンで洗浄した。暗黄色の固体を触媒6として得た。
【実施例2】
【0046】
δ−ラクトン化合物の調製
触媒1〜6(CAT1〜CAT6)を参照触媒(REF CAT)としてアセチルアセトナトパラジウム(Pd(acac))と比較して、二酸化炭素及び1,3−ブタジエンからδ−ラクトンを製造する触媒効率について試験した。試験は、以下の方法に従って行った。
【0047】
およそ15〜30ミリグラムの触媒、40〜50ミリグラムのリン化合物、及びおよそ7.5グラムの炭酸エチレンを反応容器に加えた。それから、4グラムの各1,3−ブタジエン及び二酸化炭素を液体窒素で下げた温度で、反応容器中へ濃縮した。反応容器を80℃で4時間加熱した。反応が完結した後、反応容器の温度を室温まで下げた。残った前駆体は真空蒸発で除いた。δ−ラクトン生成物の黄色の混合溶液を得て、ガスクロマトグラフィーにより同定した。
【0048】
本発明による触媒の構造
合成した触媒1〜触媒6の構造を表1、2に示す。
【0049】
表1、2:本発明による触媒の構造
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
δ−ラクトン化合物の形成
参照触媒(Pd(acac)2)と比較した、触媒CAT1〜CAT6の二酸化炭素と1,3−ブタジエン間の反応からのδ−ラクトンの生成についての触媒効率を表3に示す。
【0053】
表3:本発明による触媒のδ−ラクトンの生成についての触媒効率
【0054】
【表3】
【0055】
本発明の最良の形態は、本発明の明細書中に与えられているものである。