(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正値調整部が、前記安定化係数が前記最大値を超えた場合、前記調整安定化係数を所定時間にわたって前記最大値に保持することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の能動型振動騒音低減装置。
【背景技術】
【0002】
車室内におけるエンジン回転に起因する不快な周期性騒音(エンジンこもり音)に対し、演算量の少ない適応ノッチフィルタ(SAN型フィルタ;Single frequency Adaptive Notch Filter)を利用して適応制御を行う能動型振動騒音低減装置が提案されている(特許文献1)。エンジンこもり音の他にも、車両走行時におけるプロペラシャフトなどの回転体に起因する車室内周期性騒音に対し、適応型フィルタ(適応ノッチフィルタ)を利用した能動型振動騒音低減装置も提案されている(特許文献2)。
【0003】
これらの能動型振動騒音低減装置は
図19に示すような構成とされている。この装置ではまず、エンジン回転数や車速等の車両情報に基づいて周期性騒音の周波数fが推定され、参照信号となる余弦波信号rc及び正弦波信号rsが生成される。次に、これらの参照信号が、余弦波信号rc用の第1フィルタ係数W0及び正弦波信号rs用の第2フィルタ係数W1を有する適応ノッチフィルタにより処理されることで制御信号uが生成され、制御信号uに基づく相殺音が制御スピーカから出力される。騒音低減の制御対象位置には、騒音(相殺後の騒音)を検出するためのマイク(誤差マイク)が設置されており、フィルタ係数更新部は、誤差マイクにおける音圧(誤差信号e)が最小になるように、LMS等の適応アルゴリズムを用いて上記適応ノッチフィルタのフィルタ係数の更新(適応制御)を行う。適応更新は2変数(W0、W1)のみであるため、計算負荷が少なく適応速度が速いことがこの手法の特徴である。
【0004】
ただし、制御スピーカと誤差マイクとの間に、電子回路特性を含む音響特性Cが存在するため、適応ノッチフィルタのフィルタ係数の更新にはこの音響特性Cを考慮する必要がある。そこで、これらの能動型振動騒音低減装置では、事前に音響特性Cをフィルタの伝達特性C^(1つの周波数において、振幅特性と位相特性とを持つ、1つの複素数を用いて表される伝達特性)として計測(同定)し、同定した伝達特性C^を補正フィルタのフィルタ係数C^(実部の係数C^0及び虚部の係数C^1を有する伝達関数)に設定することが行われている。参照信号は、参照信号補正部を構成するこれらの補正フィルタによる伝達要素を用いたフィルタ処理(フィルタリング)によって補正された後に、適応ノッチフィルタの係数更新に用いられる。このことから、この形の制御系はFiltered−X型と呼ばれている。なお、「^」(ハット)は、同定値又は推定値を意味するものであり、図や数式では記号の上に付されているが、本文中では記号の後に付して示される。
【0005】
上記のように、Filtered−X型制御系では、補正フィルタのフィルタ係数C^に、事前に測定したフィルタ係数が設定される固定フィルタである。一方、実際の音響特性Cは、スピーカ、マイクなどの経年変化や、窓やドアなどの開閉状態、シート位置、乗車人数など、車両状態によって変化する。音響特性Cが変化すると、音響特性Cとフィルタ係数C^との間に差が生じ、この差により、適応ノッチフィルタの更新過程が発散し、騒音が増幅されることや異常音が発生することがある。
【0006】
そこで本出願人は、制御系の安定性を向上させるために、安定化係数αを導入し、制御出力の大きさを抑制する手法を採用した能動型振動騒音低減装置を提案している(特許文献3)。この能動型振動騒音低減装置は、簡略化すると
図20に示すような構成となっており、以下の原理で動作する。
【数1】
ここで、e':補正誤差信号、e:誤差信号、α:安定化係数、u:制御信号、C^:事前に同定した伝達特性、e:誤差信号、d:誤差マイクに入力する騒音、y:誤差マイクに到達する到達制御音、y^:到達制御音の推定値、である。
【0007】
この制御系では、安定化のための係数(以下、安定化係数αという)を用いて補正されたみかけ上の(仮想の)補正誤差信号e'が最小(ゼロ)になるように適応ノッチフィルタのフィルタ係数Wが更新され、この場合に必要となる到達制御音yは、本来の1/(1+α)となる。したがって、安定化係数αが0以上の値に設定されることで、過度な制御音出力が抑制され、システムの安定性が向上する。その反面、到達制御音yが小さくなることで、制御対象位置(誤差マイク設置位置)における消音性能が小さくなる。そのため、ドアや窓などが全閉のときなどの、音響特性Cとフィルタ係数C^とが一致している状態では、安定化係数αを小さくして消音性能を優先することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の安定性向上技術における安定化係数αは、固定値を持つパラメータであり、能動型騒音低減装置の制御で異常音が発生することがないように、想定される最悪条件(音響特性Cの変化が最も大きい条件)に応じて事前に設定される。しかしながら、そのような設定とされると以下の問題が生じる。第1に、安定化係数αの設定は制御安定性と消音性能のトレードオフであり、想定の最悪条件の発生頻度が低いのにもかかわらず、制御安定性を確保するために安定化係数αを大きく設定しなければならず、消音性能が小さくなる。第2に、想定の最悪条件を上回るような音響特性Cの変化が発生する場合、必ずしも制御安定性を保証することはできず、騒音の増幅や異常音が発生することがある。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑み、音響特性Cに変化が発生しても、確実な制御安定性と良好な消音性能を両立させることが可能な能動型振動騒音低減装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために、本発明のある実施形態は、振動騒音源(2)から発生する振動騒音を打ち消すための打消振動音を発生する打消振動音発生部(12)と、前記振動騒音と前記打消振動音との相殺誤差を誤差信号(e)として検出する誤差信号検出部(11)と、前記誤差信号が入力され、前記打消振動音発生部に前記打消振動音を発生させるための制御信号(u)を供給する能動型振動騒音制御部(13)とを備える能動型振動騒音低減装置(10)であって、前記能動型振動騒音制御部は、前記振動騒音源の振動周波数に同期する参照信号(r(rc、rs))を生成する参照信号生成部(21)と、前記参照信号を、事前に同定した前記打消振動音発生部から誤差信号検出部までの音響特性(C)を表す模擬伝達特性(C^)で補正し、補正参照信号(r'(rc'、rs'))を生成する参照信号補正部(25)と、前記参照信号に基づいて、前記制御信号(u)を生成する適応ノッチフィルタ(26)と、適応アルゴリズムを用いて前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数(W(W0、W1))を逐次更新するフィルタ係数更新部(27)と、前記誤差信号(e)を補正する安定性向上部(50)とを備え、前記安定性向上部が、補正参照信号に基づいて、前記誤差信号検出部に到達する前記打消振動音の推定値である到達制御音推定値(y^)を生成し、当該到達制御音推定値に安定化係数(α)を乗じて誤差信号補正値(αy^)を生成する補正値生成部(51)と、前記誤差信号補正値を用いて前記誤差信号を補正して補正誤差信号(e')を生成する誤差信号補正部(46)とを備え、前記フィルタ係数更新部(27)は、前記補正参照信号(rc'、rs')及び前記補正誤差信号(e')に基づいて、前記フィルタ係数(W(W0、W1))を逐次更新し、前記安定性向上部(50)は、前記補正誤差信号(e')及び前記補正参照信号(y^)に基づいて、適応アルゴリズムを用いて前記安定化係数(α)を逐次更新する安定化係数更新部(56)を更に備える。
【0012】
この構成によれば、制御中に安定化係数更新部が安定化係数を適応的に調整することができ、必要な場合のみ、安定化係数を大きくすることで、確実な制御安定性と良好な消音性能を両立させることが可能である。
【0013】
上記構成において、前記安定性向上部(50)が、前記安定化係数(α)の調整度合いが異なる複数のモードを有し、前記安定化係数に基づいて選択したモードの調整度合いに応じ、前記安定化係数を調整して得た調整安定化係数(α')を前記補正参照信号(y^)に乗じることで前記誤差信号補正値を調整する補正値調整部(61)と、前記誤差信号(e)を前記補正値調整部により調整された調整後補正値(α'y^)を用いて補正する誤差信号調整部(64)とを更に備え、前記フィルタ係数更新部(27)は、前記補正参照信号(rc'、rs')及び前記誤差信号調整部により補正された調整誤差信号(e'')に基づき、前記フィルタ係数(W(W0、W1))を逐次更新するとよい。
【0014】
この構成によれば、安定化係数の適応処理とは別に、適応ノッチフィルタのフィルタ係数の更新に利用する調整安定化係数をモードに応じて段階的に設定することができる。
【0015】
上記構成において、前記複数のモードが、前記安定化係数(α)が所定の最小値(α
min)よりも小さい場合に、前記最小値を前記調整安定化係数(α')に設定する制御出力制限モードと、前記安定化係数が前記最小値よりも大きな所定の閾値(α
th)よりも大きい場合に、前記閾値よりも大きな所定の最大値(α
max)を前記調整安定化係数に設定する安定性確保モードと、前記安定化係数が前記最小値以上且つ前記閾値以下の場合に、前記安定化係数を前記調整安定化係数に設定する適応モードとを含むとよい。
【0016】
この構成によれば、安定化係数の値に応じたモード毎に、適応ノッチフィルタのフィルタ係数の更新に利用する調整安定化係数を段階的に設定することで、更なる安定性の向上と乗員耳元での消音効果の確保が可能である。
【0017】
上記構成において、前記補正値調整部(61)が、前記振動騒音源の振動周波数に応じて前記安定化係数(α)の前記最小値(α
min)を設定するとよい。
【0018】
この構成によれば、誤差信号検出部での音圧と実際の耳元での音圧の差を、振動騒音源の振動周波数に応じて縮小することができる。
【0019】
上記構成において、前記補正値調整部(61)は、前記安定化係数(α)が前記最大値(α
max)を超えた場合、前記調整安定化係数(α')を所定時間(t)にわたって前記最大値に保持するとよい。
【0020】
この構成によれば、制御が不安定になりやすい安定性確保モードと、制御が案的な適応モードとが短時間で繰り返して切り換えられることによる聴感上の違和感を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明によれば、音響特性Cに変化が発生しても、確実な制御安定性と良好な消音性能を両立させることが可能な能動型振動騒音低減装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1〜
図3は、本発明に係る能動型振動騒音低減装置10の第1〜第3適用例を示す構成図である。これらの例では、能動型振動騒音低減装置10が車両1に適用されている。
【0025】
図1に示すように、車両1には走行駆動源としてエンジン2が搭載されている。能動型振動騒音低減装置10は、車室3内の騒音を検出する振動騒音検出部である誤差マイク11と、騒音を打ち消すための制御音として、騒音と逆位相の打消音(打消振動音)を発生する打消振動音発生部であるスピーカ12と、能動型振動騒音制御部13とを有している。誤差マイク11は、例えば前部座席の上方及び後部座席の上方の天井に取り付けられる。スピーカ12は、オーディオシステムのスピーカ12であってもよく、前部ドア及び後部ドアに取り付けられたドアスピーカである。誤差マイク11は、振動騒音源であるエンジン2からの騒音とスピーカ12からの打消音との相殺誤差を誤差信号eとして検出する誤差信号検出部として機能する。能動型振動騒音制御部13には、エンジン回転数や車速等の車両情報と誤差マイク11により検出された誤差信号eとが供給される。能動型振動騒音制御部13は、これらの車両情報と誤差信号eとに基づいて、スピーカ12を駆動するための制御信号uを生成し、スピーカ12に発生させる打消音を制御することにより、エンジン2の振動に起因して乗員に伝わるエンジン騒音(エンジンこもり音)を低減する。この場合、能動型振動騒音制御部13は、能動型騒音制御部として機能する。
【0026】
図2に示す能動型振動騒音低減装置10は、車室3内の騒音を検出する誤差マイク11と、騒音の原因となるエンジン2の振動を打ち消すための、当該振動と逆位相の打消振動(打消振動音)を発生する打消振動音発生部である振動アクチュエータ14と、能動型振動騒音制御部13とを有している。誤差マイク11は
図1に示す能動型振動騒音低減装置10のものと同様である。振動アクチュエータ14は、発生した打消振動をエンジン2に与えられるように構成されており、例えばアクティブエンジンマウントにより構成されている。能動型振動騒音制御部13には、エンジン回転数や車速等の車両情報と誤差マイク11により検出された誤差信号eとが供給される。能動型振動騒音制御部13は、これらの車両情報と誤差信号eとに基づいて、振動アクチュエータ14を駆動するための制御信号uを生成し、振動アクチュエータ14に発生させる打消振動を制御することにより、エンジン2の振動を低減し、エンジン振動に起因して乗員に伝わるエンジン騒音(エンジンこもり音)を低減する。この場合、能動型振動騒音制御部13は能動型振動制御部として機能する。
【0027】
図3に示す能動型振動騒音低減装置10は、車室3内の騒音の原因となるエンジン2の振動を検出する振動騒音検出部である振動センサ15と、エンジン2の振動を打ち消すための打消振動を発生する振動アクチュエータ14と、能動型振動騒音制御部13とを有している。振動センサ15は、エンジン2に取り付けられ、エンジン2の回転によって発生するエンジン振動と振動アクチュエータ14によってエンジン2に与えられた打消振動との合成である誤差振動を誤差信号eとして検出する誤差信号検出部として機能する。振動アクチュエータ14は
図2に示す能動型振動騒音低減装置10のものと同様である。能動型振動騒音制御部13には、エンジン回転数や車速等の車両情報と振動センサ15により検出された誤差信号eとが供給される。能動型振動騒音制御部13は、これらの車両情報と誤差信号eとに基づいて、振動アクチュエータ14を駆動するための制御信号uを生成し、振動アクチュエータ14に発生させる打消振動を制御することにより、エンジン振動を低減し、エンジン2の振動に起因して乗員に伝わるエンジン騒音(エンジンこもり音)を低減する。この場合も、能動型振動騒音制御部13は能動型振動制御部として機能する。
【0028】
このように、本発明に係る能動型振動騒音低減装置10は、様々な態様での適用が可能である。これらの例以外では、例えば、駆動源としてエンジン2の代わりにモータが搭載されており、能動型振動騒音低減装置10が振動騒音の発生源となるモータの振動騒音を低減するように構成されてもよい。或いは、能動型振動騒音低減装置10が、車両1の走行時におけるプロペラシャフト、ドライブシャフト等の駆動系回転体の振動騒音に起因して乗員に伝わる駆動系騒音を低減するように構成されてもよい。すなわち、能動型振動騒音低減装置10は、回転運動によって周期的な振動騒音を発生するエンジン2又は駆動系の振動騒音を低減することができる。
【0029】
以下に説明する各実施形態では、車両1が駆動源としてエンジン2を備え、能動型振動騒音低減装置10が、振動騒音検出部として誤差マイク11を備え、打消振動音発生部としてスピーカ12を備え、能動型振動騒音低減部13が能動型騒音制御部として機能するものとする。
【0030】
≪第1実施形態≫
まず、
図4〜
図12を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
図4は、第1実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10の機能ブロック図である。
図4に示すように、能動型振動騒音制御部13には、エンジン/駆動系信号Xが供給される。エンジン/駆動系信号Xは、エンジン2の出力軸の回転周波数などの振動周波数に同期するエンジンパルスであってよい。能動型振動騒音制御部13は、エンジン/駆動系信号Xに基づいて、参照信号r(rc、rs)を生成する参照信号生成部21を備えている。参照信号生成部21では、周波数検出回路22がエンジン/駆動系信号Xから振動騒音源の振動周波数、すなわち車室3内の騒音になる振動騒音の周波数fを検出する。検出された周波数fは、余弦波発生回路23及び正弦波発生回路24に供給される。余弦波発生回路23は、供給された周波数fに基づく参照信号rである余弦波信号rcを生成する。正弦波発生回路24は、供給された周波数fに基づく参照信号rである正弦波信号rsを生成する。参照信号生成部21により生成された参照信号r(rc、rs)は、参照信号補正部25及び適応ノッチフィルタ26に供給される。
【0031】
参照信号補正部25においては、
事前に同定したスピーカ12から誤差マイク11までの音響特性Cを模擬的に表す模擬伝達特性C^が予め設定されている。模擬伝達特性C^は、ある周波数fの振動騒音の振幅特性及び位相特性が設定された関数である。模擬伝達特性C^は、1つの複素数を用いて表すことができ、実部C^0と虚部C^1とを有している。
【0032】
余弦波信号rcは、模擬伝達特性C^の実部C^0を係数に有する第1フィルタ31に入力される。正弦波信号rsは、模擬伝達特性C^の虚部C^1を係数に有する第2フィルタ32に入力される。また、正弦波信号rsは、模擬伝達特性C^の実部C^0を係数に有する第3フィルタ33に入力される。余弦波信号rcは、模擬伝達特性C^の虚部C^1の極性を反転させた値を係数に有する第4フィルタ34に入力される。
【0033】
第1フィルタ31の出力及び第2フィルタ32の出力は第1加算器36にて加算されて補正余弦波信号rc'になり、フィルタ係数更新部27に供給される。第3フィルタ33の出力及び第4フィルタ34の出力は第2加算器37にて加算されて補正正弦波信号rs'になり、フィルタ係数更新部27に供給される。
【0034】
適応ノッチフィルタ26は、いわゆるSANフィルタ(Single frequency Adaptive Notch filter)である。適応ノッチフィルタ26では、第1フィルタ係数W0が設定された第1適応フィルタ41に余弦波信号rcが供給され、第2フィルタ係数W1が設定された第2適応フィルタ42に正弦波信号rsが供給される。これらの第1適応フィルタ41及び第2適応フィルタ42は、フィルタ係数W(W0、W1)が適応的に設定される制御フィルタであり、フィルタ係数Wの周波数について入力信号に対して逆位相の信号を出力する。これらのフィルタ係数W(W0、W1)の詳細については後述する。
【0035】
適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41にてフィルタリングされた余弦波信号rc及び、適応ノッチフィルタ26の第2適応フィルタ42にてフィルタリングされた正弦波信号rsは、第3加算器43にて加算されて制御信号uになる。すなわち、適応ノッチフィルタ26は、参照信号r(rc、rs)に基づいて制御信号uを生成する制御信号生成部をなす。制御信号uはD/A変換器44にてアナログ信号に変換されてスピーカ12に供給される。スピーカ12は供給される制御信号uに基づいて、騒音源であるエンジン2・駆動系から発生する騒音を打ち消すための制御音を発生する。
【0036】
誤差マイク11は、車室3内の騒音、すなわち、主にエンジン2・駆動系から発生する所定周波数の周期性騒音dとスピーカ12により発生されて誤差マイク11に到達する到達制御音yとが合成された相殺誤差である騒音を誤差信号eとして検出する。なお、誤差マイク11が検出する騒音には、上記相殺誤差の騒音だけでなく、エンジン2・駆動系以外の騒音も含まれる。誤差信号eは、A/D変換器45にてデジタル信号に変換され、第4加算器46にて補正されてみかけ上の(仮想の)補正誤差信号e'になり、フィルタ係数更新部27に供給される。第4加算器46は後述する安定性向上部50の一部であり、第4加算器46が行う補正の詳細については後述する。
【0037】
フィルタ係数更新部27は、適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41の第1フィルタ係数W0を適応的に更新する第1フィルタ係数更新部47と、適応ノッチフィルタ26の第2適応フィルタ42の第2フィルタ係数W1を適応的に更新する第2フィルタ係数更新部48とを備えている。第1フィルタ係数更新部47は、参照信号補正部25から供給される補正余弦波信号rc'及び補正誤差信号e'に基づいて、LMSアルゴリズムを用いて補正誤差信号e'が最小になるように、第1適応フィルタ41の第1フィルタ係数W0を算出する。第1フィルタ係数更新部47は、サンプリング時間毎に第1適応フィルタ41の係数演算を行い、第1適応フィルタ41の第1フィルタ係数W0を算出した値に更新する。第2フィルタ係数更新部48は、参照信号補正部25から供給される補正正弦波信号rs'及び補正誤差信号e'に基づいて、LMSアルゴリズムを用いて補正誤差信号e'が最小になるように、第2適応フィルタ42の第2フィルタ係数W1を算出する。第2フィルタ係数更新部48は、サンプリング時間毎に第2適応フィルタ42の係数演算を行い、第2適応フィルタ42の第2フィルタ係数W1を算出した値に更新する。
【0038】
このように、能動型振動騒音制御部13では、参照信号補正部25が、参照信号r(余弦波信号rc、正弦波信号rs)を模擬伝達特性補正C^で補正し、補正参照信号r'(補正余弦波信号rc'、補正正弦波信号rs')を生成する。フィルタ係数更新部27の第1フィルタ係数更新部47及び第2フィルタ係数更新部48は、対応する補正参照信号r'(補正余弦波信号rc'、補正正弦波信号rs')及び補正誤差信号e'に基づいて、適応アルゴリズムを用いて適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41及び第2適応フィルタ42のフィルタ係数W(W0、W1)を逐次更新する。
【0039】
これにより、適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41及び第2適応フィルタ42によりフィルタリングされる余弦波信号rc及び正弦波信号rsが最適化され、制御信号uに基づいてスピーカ12が発生する制御音によって、エンジン2・駆動系からの周期性騒音dが打ち消され、室内騒音が低減する。
【0040】
また能動型振動騒音制御部13は、スピーカ12からの制御音による騒音低減性能を安定化させるための安定性向上部50を備えている。安定性向上部50には、参照信号補正部25から補正余弦波信号rc'及び補正正弦波信号rs'が供給されると共に、第4加算器46から補正誤差信号e'が供給される。
【0041】
安定性向上部50では、第1フィルタ係数W0が設定された補正値生成部51の第1フィルタ52に補正余弦波信号rc'が供給され、第2フィルタ係数W1が設定された補正値生成部51の第2フィルタ53に補正正弦波信号rs'が供給される。安定性向上部50の第1フィルタ52の第1フィルタ係数W0には、適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41の第1フィルタ係数W0と同じ値が適応的に設定される。安定性向上部50の第2フィルタ53の第2フィルタ係数W1には、適応ノッチフィルタ26の第2適応フィルタ42の第2フィルタ係数W1と同じ値が適応的に設定される。
【0042】
補正値生成部51の第1フィルタ52によりフィルタリングされた補正余弦波信号rc'及び、補正値生成部51の第2フィルタ53によりフィルタリングされた補正正弦波信号rs'は、補正値生成部51の第5加算器54にて加算されて到達制御音推定値y^になり、補正値生成部51の補正フィルタ55に供給される。到達制御音推定値y^は、誤差マイク11に到達する周期性騒音dに対して逆位相の推定値、すなわち誤差マイク11に到達する打消音である到達制御音yの推定値である。補正フィルタ55は、適応的な安定化係数αを備えており、到達制御音推定値y^に適応的な安定化係数αを乗じることにより、誤差信号eに対する補正値である誤差信号補正値αy^を生成する。生成された誤差信号補正値αy^は、第4加算器46に供給され、補正のために誤差信号eに加算される。すなわち、第4加算器46は、誤差信号補正値αy^を用いて誤差信号eを補正して補正誤差信号e'を生成する誤差信号補正部として機能する。これにより、みかけ上の補正誤差信号e'が第4加算器46より出力される。
【0043】
第4加算器46より出力される補正誤差信号e'は、上記のようにフィルタ係数更新部27に供給される他、安定性向上部50に供給される。安定性向上部50は、補正フィルタ55の安定化係数αを適応的に更新する安定化係数更新部56を更に備えている。安定化係数更新部56は、第5加算器54より供給される到達制御音推定値y^と、第4加算器46より供給されるみかけ上の補正誤差信号e'とに基づいて、補正誤差信号e'が最小になるように、補正フィルタ55の安定化係数αを適応的に更新する。以下に具体的に説明する。
【0044】
サンプリング時刻を「
n」とすると、安定化係数更新部56は、下記の補正誤差信号e'に関する評価関数Jを用いて更新を行う。具体的には、安定化係数更新部56は、下式にて表される評価関数Jnが最小(ゼロ)になるようにLMSアルゴリズムを用いて安定化係数αを適応的に調整する。
【数2】
ここで、J:評価関数、
n:サンプリング時刻、e':補正誤差信号、e:誤差信号、α:安定化係数、y^:到達制御音推定値、r:参照信号、C^:模擬伝達特性、W:フィルタ係数、*:フィルタリング演算、である。
【0045】
これを図示すると
図5に示されるような誤差曲面上の動作点により表すことができる。安定化係数αは評価関数Jの接線の勾配の負方向に沿って更新され、サンプリングステップ毎の安定化係数αの更新量は、ステップサイズパラメータμを乗じることで調整される。具体的には、安定化係数αは、下式に示されるように演算される。
【数3】
ここで、
n+1:次回のサンプリング時刻、μ:ステップサイズパラメータ、である。上式中の−2μe'y^
nが安定化係数αの更新量である。
【0046】
また、安定性向上のため、安定化係数αは、以下の式に示されるように0以上の値に設定される。
【数4】
【0047】
騒音増幅や異常音が発生した場合、騒音と制御音とがうまく相殺できていないことから、誤差信号eに含まれる到達制御音yの成分が著しく増大する。補正誤差信号e'も同様に著しく増大する。そこで、本実施形態の能動型振動騒音制御部13は、相殺誤差を安定させるために、誤差信号eを補正する安定性向上部50を備える。安定性向上部50は、補正誤差信号e'が小さくなるように、安定化係数αを大きくなる方向に適応更新し、到達制御音yを抑制するように動作する。到達制御音yが小さくなる結果、誤差マイク11における音圧の増幅が軽減される。能動型振動騒音制御部13による効果は、以上のように定性的にも理解できる。
【0048】
次に、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10について確認した作用効果について説明する。
図6は、
図1に示す能動型振動騒音低減装置10における想定する音響特性Cの変化を示すグラフである。
図6に示すように、3000〜4500rpmのエンジン回転数に対応する周波数帯域(100Hz〜150Hzの音響特性C)において、音響特性Cが薄い線で示す当初の特性から濃い線で示す現在の特性に変化し、制御パラメータである模擬伝達特性C^と現在の実際の音響特性Cとの間に差分が生じているものと想定する。
【0049】
このような条件において、実施形態に係る能動型振動騒音制御部13が騒音低減制御を実行すると、安定化係数αが
図7に「本発明」として示されるように更新される。なお、
図7中に薄い線で示す従来例では、安定化係数αが0.4の値で固定されている。
図7に示されるように、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10では、実際の音響特性Cと模擬伝達特性C^との差分が大きい場合にのみ、安定化係数αが大きくなるように適応更新される。
【0050】
これにより、制御フィルタである適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41及び第2適応フィルタ42の振幅(制御音の出力に相当)は、
図8に示されるようなる。
図8に示されるように、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10では、安定化係数αが0.4の一定値とされる従来例に比べ、適応ノッチフィルタ26の振幅が抑制される。
【0051】
その結果、
図9に示されるように、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10では、3000rpm以下のエンジン回転数では、濃い線で示す本発明では、薄い線で示す従来例の値に比べて5〜10dBほど音圧レベルが低い(消音性能が高い)。実際の音響特性Cが変化する3000〜4500rpmのエンジン回転数領域においては、騒音増幅が抑制される。特に、3600rpm付近のエンジン回転数領域では、騒音増幅が従来例に比べて大幅に軽減している。また、実際の音響特性Cに変化がない4500rpm以上のエンジン回転数領域では、消音性能が回復している。
【0052】
また、音響特性Cに変化が生じず、制御パラメータである模擬伝達特性C^と実際の音響特性Cとの間に差がない場合、安定化係数αは
図10に示されるようになる。
図10に示されるように、実際の音響特性Cと模擬伝達特性C^と間で差がない場合、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10では、安定化係数αが常に小さく保たれる。
【0053】
このときの適応ノッチフィルタ26の振幅は
図11に示されるようになる。
図11に示されるように、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10と従来例とでは、適応ノッチフィルタ26の振幅に大差はない。
【0054】
一方、
図12に示されるように、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10では、全制御帯域において従来例よりも5〜10dB程度低い音圧レベル(高い消音性能)が実現される。以上の結果から、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10の優位性を確認することができる。
【0055】
このように、安定性向上部50が、補正フィルタ55や第4加算器46に加え、補正誤差信号e'及び到達制御音推定値y^に基づいて、適応アルゴリズムを用いて安定化係数αを逐次更新する安定化係数更新部56を備えている。そのため、制御中に安定化係数αが適応的に調整され、必要な場合のみ、安定化係数αが大きくなることで、確実な制御安定性と良好な消音性能との両立が可能である。
【0056】
≪第2実施形態≫
次に、
図13〜
図18を参照して本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態の能動型振動騒音低減装置10は、安定性向上部50の構成及び、誤差信号eについて2つの仮想の値を生成する点で第1実施形態と異なっている。以下、具体的に説明する。
【0057】
第4加算器46は、A/D変換器45から供給される誤差信号eに、補正フィルタ55から供給される誤差信号補正値αy^を加算することで、補正誤差信号e'(以下、補正誤差信号e'という)を生成する。第4加算器46にて生成された補正誤差信号e'は、安定化係数更新部56に供給され、誤差信号補正値αy^の生成に必要な安定化係数αの更新に用いられる。これらの点は第1実施形態と同じである。具体的には、安定化係数更新部56は、αの更新について、第1実施形態と同様な下式で更新する。
【数5】
【0058】
安定性向上部50は、上記の構成に加え、α'決定回路62(
図14)を備える補正値調整部61を有している。α'決定回路62は、補正フィルタ55にて適応的に設定される安定化係数αの値(値のコピー)を受けて、モードに応じた段階的な値になるように調整された調整安定化係数α'を決定する。モードは安定化係数αの値に応じてα'決定回路62によって選択される。モードには、例えば、制御出力制限モード、適応モード、安定性確保モードなどが設定される。
【0059】
図14は、
図13中の補正値調整部61のブロック図である。
図14に示されるように、補正値調整部61は、α'決定回路62及び乗算器63を有している。α'決定回路62は、適応的に調整されるαに基づき、適応ノッチフィルタ26のフィルタ係数Wの更新に利用される調整安定化係数α'を、予め設定された所定の最小値α
min、予め設定された所定の最大値α
max及び、それらの中間的な適応値α
adpの三段階に分けて、下式に基づいて自動的に設定する。下式(1)は安定性確保モードで用いられ、下式(2)は制御出力制限モードで用いられ、下式(3)は適応モードで用いられる。
【数6】
ここで、α
th:所定の閾値、である。
【0060】
具体的には、安定化係数αが所定の閾値α
th(例えば、0.8)よりも大きい場合、α'決定回路62は、安定性確保モードを選択し、閾値α
thよりも大きな最大値α
max(例えば、5.0)を調整安定化係数α'に設定する。閾値α
thは、制御が不安定になりそうな状況を示す判定基準として比較的高い値に設定される。安定化係数αが閾値α
thよりも大きくなると、α'決定回路62は、騒音増幅や異常音が発生する可能性が高いと判断し、調整安定化係数α'を最大値α
max(安定性確保モード)に切り替え、確実な安定性と騒音増幅の軽減を狙う。
【0061】
安定化係数αが所定の最小値α
min(例えば、0.55)よりも小さい場合、α'決定回路62は、制御出力制限モードを選択し、調整安定化係数α'が小さくなり過ぎないように、最小値α
minを調整安定化係数α'に設定する。最小値α
minは調整安定化係数α'に設定され得る最小の値として、0以上の比較的小さな値に設定される。最小値α
minの狙いの1つは、最低限のシステム安定性を確保することである。最小値α
minの狙いの2つ目は、乗員耳元での消音量を確保することである。
【0062】
図15に示されるように、車室内騒音を低減する場合、誤差マイク11をルーフライニングに設置することが多く、その位置は実際に消音したい乗員耳元に対し、音圧が高いことがある。その場合、誤差マイク11の設置位置における騒音を消すために大きな制御音が出力され、乗員耳元の音圧はこの過剰な制御音により、増幅される可能性がある。この状況を対策するために、最小値α
minが設けられており、制御音の大きさを制限することで、乗員耳元の消音が確保される。
【0063】
その他の場合(安定化係数αが所定の閾値α
th以下、且つ所定の最小値α
min以上の場合)、α'決定回路62は、適応モードを選択し、安定化係数αを調整せずにそのまま調整安定化係数α'に設定する。
【0064】
ここで、誤差マイク11と耳元位置の音圧の大小関係は、振動騒音源であるエンジン/駆動系信号Xの振動周波数によって変わる。そのため、安定化係数αの最小値α
minは振動騒音源の振動周波数ごとに設定されることが好ましい。これを実現するために、α'決定回路62は、アドレスに周波数検出回路22により検出された振動騒音の周波数fを、データに最小値α
minの値を持つテーブルを利用する。
図16は、安定化係数αの最小値α
minのテーブルを示すブロック図である。α'決定回路62は、周波数検出回路22(
図13)で求めた振動騒音の周波数fをポインタとして、最小値α
minの値をテーブルから読み込む。
【0065】
また、安定、不安定モード間の短時間切り換えの繰り返しによる聴感上の違和感を防ぐために、α'
n=α
maxになった場合、α'決定回路62は、所定時間tにわたって、α'
n=α
maxとなるように調整安定化係数α'の値を保持する(言い換えれば、安定性確保モードを保持する)。この保持処理は下式に示されるように行われる。
【数7】
ここで、cnt:カウンタ、Fs:サンプリング周波数、である。カウンタcnt=0の場合は、上記の条件式(2)、(3)が実行される。
【0066】
図14に示すように、乗算器63は、α'決定回路62により決定された調整安定化係数α'を、第5加算器54から供給される到達制御音推定値y^に乗じることにより、調整後補正値α'y^を生成する。
【0067】
図13に示すように、補正値調整部61により生成された調整後補正値α'y^は、第6加算器64に供給され、補正のために誤差信号eに加算される。すなわち、第6加算器64は、調整後補正値α'y^を用いて誤差信号eを補正して調整誤差信号e''を生成する誤差信号調整部として機能する。調整誤差信号e''は、段階的に設定した調整安定化係数α'を用いて下式により計算される。
【数8】
これにより、みかけ上の調整誤差信号e''が第6加算器64から出力される。調整誤差信号e''は、第1フィルタ係数更新部47及び第2フィルタ係数更新部48に供給され、適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41及び第2適応フィルタ42の更新に用いられる。
【0068】
具体的には、第1フィルタ係数更新部47は、参照信号補正部25から供給される補正余弦波信号rc'及び調整誤差信号e''に基づいて、LMSアルゴリズムを用いて調整誤差信号e''が最小になるように、適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41の第1フィルタ係数W0を算出する。第2フィルタ係数更新部48は、参照信号補正部25から供給される補正正弦波信号rs'及び調整誤差信号e''に基づいて、LMSアルゴリズムを用いて調整誤差信号e''が最小になるように、適応ノッチフィルタ26の第2適応フィルタ42の第2フィルタ係数W1を算出する。
【0069】
これにより、適応ノッチフィルタ26の第1適応フィルタ41及び第2適応フィルタ42によりフィルタリングされる余弦波信号rc及び正弦波信号rsが最適化され、制御信号uに基づいてスピーカ12が発生する制御音によって、エンジン2・駆動系からの周期性騒音dが打ち消され、室内騒音が低減する。
【0070】
次に、本実施形態に係る能動型振動騒音制御部13について確認した作用効果について説明する。第1実施形態と同様に、
図6に示される音響特性Cの変化が発生した場合を想定する。
【0071】
このような条件において、実施形態に係る能動型振動騒音制御部13が騒音低減制御を実行すると、安定化係数αが
図17に「本発明」として示されるように更新される。
図17に示されるように、実施形態に係る能動型振動騒音低減装置10では、実際の音響特性Cと模擬伝達特性C^との差分が大きいときに、適応されている安定化係数αが閾値α
thを超え、調整安定化係数α'が最大値α
maxに適応的に設定される。安定化係数αが最小値α
minよりも小さいときは、調整安定化係数α'が小さくなり過ぎないように調整安定化係数α'が最小値α
minに適応的に設定される。それ以外の時は、安定化係数αの値がそのまま調整安定化係数α'に設定される。
【0072】
その結果、
図18に示すように、3000rpm以下のエンジン回転数では、濃い線で示す本発明では、薄い線で示す従来例と同様に、誤差マイク11の位置における騒音レベルが抑えられる。3000〜4500rpmの音響特性Cが変化するエンジン回転数領域においては、本実施形態では従来例や第1実施形態(
図7)に比べて更なる騒音増幅の抑制が実現される。また、本実施形態では、4500rpm以上の音響特性Cに変化がないエンジン回転数領域では、消音性能が回復している。
【0073】
このように本実施形態では、補正値調整部61が、安定化係数αの調整度合いが異なる複数のモードを有し、安定化係数αに基づいて選択したモードの調整度合いに応じ、安定化係数αを調整して得た調整安定化係数α'を到達制御音推定値y^に乗じることで、誤差信号補正値αy^を調整後補正値α'y^へ調整する。そして、第6加算器64が、第1フィルタ係数更新部47及び第2フィルタ係数更新部48に供給するための誤差信号eを、調整後補正値α'y^を用いて補正する。そのため、安定化係数αの適応処理とは別に、適応ノッチフィルタ26のフィルタ係数W(W0、W1)の更新に利用する調整安定化係数α'をモードに応じて段階的に設定することができる。
【0074】
また、補正値調整部61は、最小値α
minを調整安定化係数α'に設定する制御出力制限モードと、安定化係数αが閾値α
thよりも大きい場合に、最大値α
maxを調整安定化係数α'に設定する安定性確保モードと、安定化係数αをそのまま調整安定化係数α'に設定する適応モードとを有する。このように、安定化係数αの値に応じたモード毎に、適応ノッチフィルタ26のフィルタ係数W(W0、W1)の更新に利用する調整安定化係数α'が段階的に設定されることで、更なる安定性の向上と乗員耳元での消音効果の確保が可能である。
【0075】
また
図16を参照して説明したように、補正値調整部61は、振動騒音の周波数fに応じて安定化係数αの最小値α
minを設定する。これにより、誤差マイク11での音圧と実際の耳元での音圧との差を、振動騒音源の振動周波数に応じて縮小することが可能である。
【0076】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、一例として能動型振動騒音低減装置10が
図1に示す構成を有するものとして説明したが、
図2や
図3の構成を有していてもよい。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、数式、手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。また、上記実施形態は適宜組み合わせることが可能である。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。