(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記除去部で処理された前記地下水中の前記三価鉄の濃度が0.1mg/Lより低くなるよう前記還元剤添加部において前記除去部で処理された前記地下水に添加する前記還元剤の添加量が調節される、
請求項8に記載の地下水リチャージシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されている目詰まり防止装置は、粘土粒子等の浮遊物質(Suspended solids:以後、SSとする)成分の除去を主な目的としたものであるため、目詰まり現象の発生を根本的に抑えることができないという問題があった。また、リチャージウェルの通水性能を回復させるためにリチャージを中止して時間をかけてリチャージウェルの逆洗をしても、リチャージウェル近傍の地盤が目詰まりしてしまうために初期の注水性能まで回復することは困難であった。
【0007】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、リチャージウェル付近の地盤の目詰まりの原因は粘土粒子等のSS成分の他に、鉄が顕著に寄与していることを突き止めた。通常、地下水中の鉄は二価の形態(二価鉄)で存在しているが、従来のリチャージシステムで行われているように、密閉配管内を通って地表に汲み上げられても、ディープウェル(揚水井戸)やリチャージウェル内部で僅かな空気に触れれば、三価の形態(三価鉄、即ち不溶価性鉄)に変わる。特に、三価鉄は、低濃度であっても、注水側の地盤及びリチャージウェルのスクリーンおよびフィルター材に顕著な目詰まりを引き起こす。本発明者は、こうしたリチャージウェルの注水部近傍に三価鉄が到達するのを防止するための地下水リチャージシステムの構成について検討し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、リチャージシステムの通水性能を保持し、注水井戸付近の地盤の目詰まりを防止することができる地下水リチャージシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る地下水リチャージシステムは、揚水した地下水を地盤内へ注水するリチャージ工法を行うための地下水リチャージシステムであって、前記地下水を揚水するための密閉された揚水井戸と、前記揚水井戸から揚水された前記地下水を導入し、前
記地下水中に存在する浮遊物質成分及び酸化金属を除去する除去部と、前記除去部で処理された前記地下水に還元剤を添加する還元剤添加部と、前記除去部で処理された前記地下水
の酸化
還元電位を検知する検知部と、前記還元剤が添加された前記地下水を前記地盤内へ注水するための注水井戸と、を備え、前記検知部で検知された前記酸化
還元電位が前記還元剤添加部にフィードバックされる。
上述の地下水リチャージシステムは、前記還元剤添加部において前記除去部で処理された前記地下水に添加する前記還元剤の添加量を前記検知部からフィードバックされた前記酸化
還元電位に基づいて調節する制御部をさらに備えてもよい。
上述の地下水リチャージシステムでは、
前記除去部で処理された前記地下水に添加する前記還元剤の量は、前記酸化還元電位が前記地下水が完全に酸化力を失っていることを示す値以下になるように調節されてもよい。
【0011】
上述の地下水リチャージシステムでは、
前記除去部で処理された前記地下水に添加する前記還元剤の量は、前記酸化還元電位が200mV以下
になるように調節されてもよい。
【0012】
上述の構成によれば、還元剤添加部によって還元剤が添加された地下水は、既存の構成を備えた注水井戸から地盤内に注水されても、注水井戸付近の地盤の目詰まりを充分且つ良好に防止し得る状態となる。
【0013】
上述の地下水リチャージシステムでは、前記揚水井戸の水位は、前記地下水の揚水位置より高くなるように構成されてい
てもよい。
【0014】
上述の構成によれば、揚水井戸において、地下水の揚水時の空気混入及び空気混入による地下水の酸化、地下水中の二価鉄の酸化がより確実に抑えられる。
【0015】
上述の地下水リチャージシステムでは、前記除去部は、バネ式ろ過器から構成されてい
てもよい。
【0016】
上述の構成によれば、揚水井戸から揚水された地下水は、バネ式ろ過器によってろ過されるため、地下水で析出した僅かな三価鉄等の酸化金属がバネ式ろ過器のバネ式フィルターに捕捉され、目詰まりを生じても、バネ式ろ過器に逆洗用エアーが付加され、圧力が制御されることで、容易且つ略自動的に、三価鉄等の酸化金属やSS成分も除去及び排出される。従って、自浄効果に優れ、メンテナンスの負担が少ない地下水リチャージシステムが得られる。
【0017】
上述の地下水リチャージシステム
では、
前記酸化金属は不溶価性鉄を含んでもよい。
上述の地下水リチャージシステムでは、前記不溶価性鉄は前記揚水井戸から揚水された前記地下水中の二価鉄が酸化された三価鉄であってもよい。
上述の地下水リチャージシステムでは、前記除去部で処理された前記地下水中の前記三価鉄の濃度が0.1mg/Lより低くなるよう前記還元剤添加部において前記除去部で処理された前記地下水に添加する前記還元剤の添加量が調節されてもよい。
上述の地下水リチャージシステムでは、前記揚水井戸から揚水された前記地下水は密閉された通水管を介して前記注水井戸に導かれてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の地下水リチャージシステムによれば、揚水井戸から揚水された地下水に含まれ、注水井戸のフィルターや注水井戸付近の地盤の目詰まりの根本的な原因となる二価鉄をできる限り酸化させずに密閉された通水管内を通水し、それでも僅かに析出した三価鉄をろ過部によって除去すると共に、還元剤添加部によって地下水を還元状態にする。従って、揚水井戸から揚水された地下水を地盤内に注水した際に地盤の目詰まりを良好に防止し得る還元状態にすることができる。これにより、地下水リチャージシステムの通水性能を良好に保持し、地盤の目詰まりを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る地下水リチャージシステムの一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更することができる。
【0022】
図1は、本実施形態の地下水リチャージシステム11の構成を示す概略図である。
図1に示すように、地下水リチャージシステム11は、掘削工事等を行う現場に設置されるものであり、揚水井戸1によって、帯水層(地盤)S2内から揚水した地下水Wを注水井戸2へ導き、注水井戸2から帯水層(地盤)S3内に注水するリチャージ工法を行うためのシステムである。
【0023】
図1に例示する地盤は、地表面Gから深さ方向Jに沿って帯水層S1,S2,S3,…と粘土層C1,C2,…が交互に繰り返される構造を備えている。なお、リチャージ工法を適用可能であれば、地盤の構造や揚水位置及び注水位置は、特に限定されない。
【0024】
図1に示すように、地下水リチャージシステム11は、地下水Wを揚水するための揚水井戸1と、揚水井戸1から揚水された地下水Wを導入し、地下水W中に存在する浮遊物質成分及び酸化金属を除去する除去部20と、除去部20で処理された地下水Wに地下水Wの酸化還元電位が所定値以下になるまで還元剤Reを添加する還元剤添加部14と、還元剤Reが添加された地下水Wを帯水層(地盤)S3内へ注水するための注水井戸2と、を備え、揚水井戸1から揚水された地下水Wを密閉された揚水管(通水管)8A及び通水管8B,8C,8Dを介して注水井戸2に導くシステムである。
【0025】
揚水井戸1は、帯水層S2内の地下水Wを汲み上げるための公知の排水設備であり、具体的には、土留めD,Dによって区画された掘削領域X内に設置されたディープウェル(所謂、深井戸)からなる。揚水井戸1の下端部付近には、地下水位以深の地盤(
図1では、帯水層S2)内に埋設されたスクリーン1aが形成されており、スクリーン1aから地盤内の地下水Wが流入して揚水井戸1内に地下水Wが貯まる。また、揚水井戸1の上端には蓋が取り付けられており、蓋によって揚水井戸1の上端は密閉されており、揚水井戸1は密閉構造になっている。
【0026】
揚水井戸1から揚水された地下水Wには、鉄が二価の状態で、即ち溶解性を有する二価鉄として存在している。地下水W中の二価鉄は、揚水される過程、その後の処理がなされる途中で僅かにでも空気等に触れると、三価鉄に変化する。本実施形態の地下水リチャージシステム11では、揚水後から除去部20で処理されるまでの過程で地下水Wに溶存している二価鉄の酸化及び析出を極力抑えることが重要である。そして、地下水W中の二価鉄の酸化及び析出を抑えることは、地下水Wの二価鉄の濃度が高い程、重要である。
【0027】
図2(a)は、一般的な揚水井戸において地下水を揚水する際の様子を示しており、
図2(b)は地下水リチャージシステム11の揚水井戸1において地下水Wを揚水する際の様子を示している。なお、
図2(a),(b)では、スクリーン1aは省略する。一般的な揚水井戸では、揚水ポンプP1の吸水口(揚水位置)Paが揚水井戸1内の空気環境に露出されるか否かのぎりぎりまで地下水Wを吸い上げる。そうすると、
図2(a)に示すように、吸水口Paが揚水井戸1内の空気環境に露出し、吸水口Paから地下水だけではなく空気も一緒に吸い上げられ、地下水Wの酸化及び地下水W中の二価鉄の酸化が促進されていた。
従って、地下水リチャージシステム11の揚水井戸1では、井戸内の水位が揚水ポンプP1の吸水口Paよりも高く保たれている。また、地下水Wの酸化及び地下水W中の二価鉄の酸化をより確実に防止する観点から、揚水井戸1内には予め、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性気体が封入されていることが好ましい。不活性気体は特に限定されないが、コスト等の点から、窒素が好適である。
【0028】
図3は、三価鉄の濃度を調整した水を一定の水頭差H(即ち、
図3に示すH)で通水したカラム試験を行った際の試験装置の構成を示す模式図である。
図3に示す試験装置において、カラム50の内径Dは、30mmとした。底部に地盤内の土を想定した豊浦砂Sを入れ、水槽52において撹拌しつつ三価鉄の濃度を調整した水WF´をカラム50に通水した。通水初期の水WFの通水速度は15mL/minから16mL/minとした。カラムSを透過した水WFは、水槽54に導入した。水槽54には、一定の水頭差Hを保持するために、水槽54において所定の位置より上位の地下水WFを排出する機構と、排出された地下水WFを溜める水槽56を付設した。
【0029】
図4は、三価鉄の濃度を0.05mg/Lから10mg/Lまでグラフ内に記載した数値のように変化させ、前述のカラム試験を行った際の測定結果を示すグラフである。実験に用いた水道水(鉄およびその化合物の濃度は0.01mg/Lから0.02mg/L)を用いて前述のカラム試験を行った際の測定結果も併せて示す。グラフの横軸は、カラム50への通水の経過時間を示し、グラフの縦軸は、カラム50から水槽54への通過水WFの量を示す。豊浦砂Sが目詰まりしなければ、グラフにおいて、カラム50への通水の経過時間とカラム50へ通水した水WFの量との関係が線形(
図3に示す(線形)の直線)となる。
図3に示すように、水中の三価鉄の濃度が0.1mg/L以上であると、短時間で豊浦砂Sに目詰まりが生じて、通水量(即ち、注水量)が維持できなくなることがわかる。
従って、地下水リチャージシステム10において、地下水Wが注水井戸付近の地盤の目詰まりを充分且つ良好に防止し得る状態となるためには、地下水W中の三価鉄の濃度は少なくとも0.1mg/Lより小さく、好ましくは0.05mg/Lより小さく、より好ましくは、0.01mg/Lより小さいことが重要である。
【0030】
図1に示すように、揚水井戸1と除去部20の間は、密閉された揚水管8Aによって連通されている。揚水管8Aの一端は、揚水井戸1の上端から揚水井戸1内に挿入されており、揚水管8Aの他端は、除去部20の導入口に接続されている。揚水井戸1内に挿入された揚水管8Aの一端は、揚水井戸1内に配置された揚水ポンプP1の吐出口に接続されており、揚水ポンプP1によって、揚水井戸1内の地下水Wが揚水管8A内を通って除去部20内に圧送される。
【0031】
除去部20は、揚水管8A内を通ってろ過部20内に圧送された地下水Wを導入し、地下水W中のSS成分や、密閉された環境下で揚水されても僅かに混入した空気によって析出した地下水W中の鉄及びマンガンをはじめとする酸化金属(即ち、三価鉄等)を除去するための設備であり、バネ式ろ過器から構成される装置を備えている。具体的にバネ式ろ過器としては、例えば、特開平8−196821号公報に開示されている液体ろ過フィルターエレメントや特許1822317号公報等に開示されているバネ式フィルターろ過装置等に例示される装置が挙げられる。バネ式ろ過器は、非常にさびにくい材質からなるステンレス(SUS)を、特殊な線の形状に加工し、この固いバネ線材をコイル状に巻いたバネ式フィルターにプリコート材を付着させた後、プリコート材に付着した残留物をプリコート材ごと一緒に落とすという構想に基づいている。このようなバネ式ろ過器は、特に優れた自浄効果、逆洗再生機能を有しており、メンテナンスを略不要とする等、本発明における地下水Wのろ過に好適な特徴や条件を備える。
【0032】
除去部20のバネ式ろ過器に用いられているバネ式フィルターは、従来、排水(濁水)処理を主な目的として用いられているが、ろ過処理にあたり、最初の段階でバネ式フィルターにコーティングするプリコート材(即ち、ろ過助剤)を適切に選択することにより、バネ式フィルターでろ過される粒子径(即ち、ろ過精度)を定めることができる。また、精密なろ過を高速且つ低圧で実現することができる。
【0033】
また、除去部20のバネ式ろ過器には、凝集剤等の添加物は不要である。
図5(a)は、除去部20のバネ式ろ過器のバネ式フィルターにおける通常運転(リチャージ運転)時の様子を示す概略図であり、
図5(b)は、バネ式フィルターの目詰まり成分を除去するための逆洗運転時の様子を示す概略図である。通常運転時は、
図5(a)に示すように、SS成分や酸化金属を含む地下水Wがバネ式ろ過器に導入され、バネ式ろ過器の導出口から、ろ過された地下水Wが流出する。バネ式フィルターの自浄効果としては、
図5(b)に示すように、バネ式フィルターにSS成分や、鉄及びマンガンをはじめとする酸化金属(即ち、三価鉄等)が目詰まりし、ろ過効率が所定の効率より落ちた時点で、除去部20のバネ式ろ過器の導出側に接続され、密閉された注水管8b(
図1参照)等を介して逆洗用エアーが圧入されることでバネ式フィルターの内側から外側への圧力が自動的に付加及び制御される。これにより、所謂、逆洗が行われ、バネ式フィルターに捕捉された目詰まり成分は、濃縮液として
図1に不図示の排水管等を介して回収及び廃棄可能とされている。
【0034】
図6は、除去部20のバネ式ろ過器に用いられるバネ式フィルターとして、バネ式フィルターろ過装置(製造元:株式会社モノベエンジニアリング)を用いた場合のバネ式フィルターによるろ過性能の一例を示すグラフである。このろ過性能の測定では、バネ式フィルターのバネ一本あたりへの流量は1L/minで一定にし、通水中の三価鉄の濃度は2mg/Lとなるようにした。このような条件の下で、バネ式ろ過器内の圧力変化を測定した。また、プレコート材としては、シリカ#600H(平均粒径:38μm、通過率:2.2darcy、製造元:中央シリカ株式会社)を使用した。
【0035】
図6に示すように、バネ式ろ過器の内圧が200kPaに達した時点で洗浄を行うと仮定すると、プレコート材としてシリカ#600Hを用いた場合は、約60分に1回洗浄する(即ち、1日に24回洗浄することに相当する)ことになる。このような洗浄頻度は処理対象の水中のSS成分や三価鉄の濃度に依存するが、洗浄頻度から考えてもわかるように、人力に頼る除去資材又はろ過資材の洗浄や交換では、処理対象の水を、バネ式フィルターを用いた場合と同程度に地盤が目詰まりしないようなSS成分や三価鉄の濃度に保つことは難しい。なお、上述のプリコート材を用いた場合、ろ過後の水に含まれる三価鉄の濃度は0.05mg/L以下となった。このろ過後の水を
図3に示すカラム試験装置で通水した結果、
図4において「処理水」で示すように、水道水と同程度でほとんど目詰まりしないことがわかった。このことからも、バネ式フィルターでろ過した水は目詰まりの原因物質が良好に除去され、長期の注水が可能な水質になっていることがわかる。
【0036】
なお、除去部20の構成は、上述したバネ式ろ過器に限定されず、除去部20に導入された地下水Wに含まれるSS成分及び析出した三価鉄等の産科金属を除去できる能力を有するものであれば、特に限定されない。例えば、除去部20は、フィルタープレス、ベルトプレス、バックフィルター、遠心分離機、砂ろ過器等の何れかであってもよい。
【0037】
図1に示すように、除去部20とろ過水タンク32との間は、密閉された通水管8Bによって連通されている。通水管8Bの一端は、ろ過部20の導出部に接続されており、通水管8Bの他端は、ろ過水タンク32の内部に開放されている。ろ過部20でろ過された地下水Wは、通水管8B内を通ってろ過水タンク32の内部に供給される。
【0038】
ろ過水タンク32は、除去部20でろ過された地下水Wを収容すると共に所定の位置から導出することができるように構成されている。また、ろ過水タンク32の上端には蓋が取り付けられており、蓋によってろ過水タンク32の上端は密閉されており、ろ過水タンク32は密閉構造になっている。なお、ろ過水タンク32は、前述のように密閉可能に構成されていれば特に限定されず、公知の地下水用タンク等を適用することができる。
【0039】
ろ過水タンク32の内部には、通水管8Bの他端に加え、密閉された還元剤供給管8cの一端が配置されている。還元剤供給管8cの他端は、還元剤添加部14の還元剤添加装置15の還元剤排出口に接続されており、ろ過部20でろ過されてろ過水タンク32に収容された地下水Wに対して、還元剤供給管8cを介して還元剤添加部14から還元剤Reが供給可能とされている。
【0040】
還元剤添加部14は、ろ過部20でろ過(処理)された地下水Wを還元状態にするための構成である。本実施形態では、還元剤添加部14は、ろ過部20でろ過されてろ過水タンク32に収容された地下水Wに還元剤Reを添加する還元剤添加装置15と、還元剤添加装置15によって還元剤Reが添加される前の地下水W の酸化還元電位を検知し、検知した酸化還元電位を還元剤添加装置15にフィードバックする第一還元電位検知部26、及び、還元剤添加装置15によって還元剤Reが添加された後の地下水W の酸化還元電位を検知し、検知した酸化還元電位を還元剤添加装置15にフィードバックする第二還元電位検知部
(検知部)27の少なくとも何れか一方と、を備えている。そして、還元剤添加部14は、第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27の少なくとも何れか一方からフィードバックされた情報に基づいて還元剤Reの添加量を調節可能に構成されている。
【0041】
還元剤添加装置15は、密閉された還元剤供給管8cの他端に還元剤Reを排出可能であれば、特に限定されない。
還元剤添加部14の還元剤添加装置15から供給される還元剤Reは、地下水Wを還元可能な物質を含むものであれば、特に限定されない。このような物質としては、例えばチオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、水硫化ナトリウム等が挙げられる。チオ硫酸ナトリウムは、観賞魚の脱塩素用材料として利用されるなど安全性が高い物質であるため、好適である。
【0042】
第一還元電位検知部26は、除去部20で処理された後に通水管8B内を流れる地下水Wの一部を導入し、導入した地下水Wの酸化還元電位を検知可能であれば、特に限定されない。通水管8Bには、必要に応じて、地下水Wの一部を第一還元電位検知部26に導入するための揚水ポンプP2が設けられている。検知された地下水Wの酸化還元電位は還元剤添加装置15に直接フィードバックされ、フィードバックされた情報に基づいて還元剤添加装置15(還元剤添加部14)における還元剤Reの供給量(添加量)が調節されてもよい。本実施形態では、第一還元電位検知部26によって検知された地下水Wの酸化還元電位は、信号S26として制御部30に送られる。
【0043】
第二還元電位検知部27は、還元剤添加装置15から還元剤Reが供給され、ろ過水タンク32から密閉された通水管8Cに導出された地下水Wの一部を導入し、導入した地下水Wの酸化還元電位を検知可能であれば、特に限定されない。通水管8Cには、必要に応じて、地下水Wの一部を第二還元電位検知部27に導入するための揚水ポンプP3が設けられている。検知された地下水Wの酸化還元電位は還元剤添加装置15に直接フィードバックされ、フィードバックされた情報に基づいて還元剤添加装置15(還元剤添加部14)における還元剤Reの供給量(添加量)が調節されてもよい。本実施形態では、第二還元電位検知部27によって検知された地下水Wの酸化還元電位も信号S27として制御部30に送られる。
【0044】
還元剤添加部14は、第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27の少なくとも一方を備えているが、注水井戸2に供給される地下水Wの酸化還元電位を所定値以下にして地下水Wをより確実に還元状態にすると共に、地下水Wに対する還元剤Reの過剰添加及び添加不足を確実に防ぐためには、第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27の両方が設けられていることが好ましい。なお、第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27は、一体化されていてもよく、互いに共有して一つの検知部として構成されていてもよい。
【0045】
第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27としては、例えば、ORP(Oxidation−Reduction Potential:酸化還元電位)センサー、溶存酸素センサー等が挙げられる。構成が簡易で設置もし易い点から、第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27としては、ORPセンサーが好ましい。ORPセンサーを用いる際には、地下水W中に共存する酸化体と還元体との間の平衡状態によって定まる電位であるORPが適宜設定される。地下水Wが注水井戸付近の帯水層(地盤)S3の目詰まりを充分且つ良好に防止し得る状態として、還元剤を添加した後には地下水W中に酸化剤が残存しないことが好ましく、第一酸化剤検知部26及び第二酸化剤検知部27のORPセンサーにより測定される酸化還元電位は少なくとも200mV以下であり、好ましくは100mV以下であり、より好ましくは0mV以下であることが好ましい。
【0046】
なお、除去部20で処理された地下水W中のSS成分の残量は、図示していない濁度計等を用いて測定可能である。地下水Wが地盤内に注水された際に地盤の目詰まりを良好に防止し得る点から、例えば、除去部20で処理された地下水W中のSS成分の濃度は1mg/Lより少ない状態であることが確認されることが好ましい。
【0047】
本実施形態の地下水リチャージシステム11は、制御部30を備えている。制御部30は、第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27からフィードバックされた信号(情報)S26,S27に基づいて還元剤添加装置15における還元剤Reの供給量(添加量)を適度に設定し、還元剤添加装置15に信号S15として送る機能を有する。
制御部30を構成するものとしては、例えばコンピュータが挙げられるが、上述した機能を有していれば、特に限定されない。
【0048】
なお、制御部30は、還元剤Reが添加された後にろ過水タンク32から導出された地下水Wの酸化還元電位が上述した所定値より大きいことを第二還元電位検知部27のフィードバックから検知した場合は、地下水Wのろ過水タンク32からの導出を中止する機能を有していることが好ましい。
即ち、制御部30は、制御プログラム等が内蔵されたコンピュータで構成されていることが好ましい。前述の制御プログラムは、コンピュータに、第二還元電位検知部27で検知された地下水Wの酸化還元電位を取り込む手順と、地下水Wの酸化還元電位が予め設定した閾値(所定値)以下であれば、ろ過水タンク32の導出口と通水管8Cとを連通状態にする手順と、地下水Wの酸化還元電位が閾値を超えていれば、ろ過水タンク32の導出口と通水管8Cとを非連通状態にする手順と、を実行させるように構成されていることが好ましい。
【0049】
ろ過水タンク32と注水井戸2との間は、密閉された通水管8C及び通水管8Cの途中から分岐し、密閉された通水管8Dによって連通されている。通水管8Cの一端は、ろ過水タンク32の導出口に接続されており、通水管8Cの他端は、注水井戸2のうち注水井戸2Bの所定水位より深部内に開放されている。通水管8Cの一端側には、地下水Wと地下水Wに添加された還元剤Reとを混合するための攪拌装置24が設けられている。攪拌装置24としては、例えば小型で簡易な構成からなるスタティックミキサー等を用いることができるが、地下水Wと還元剤Reとを混合可能であれば、特に限定されない。
【0050】
通水管8Dの一端は、通水管8Cの途中に接続されており、通水管8Dの他端は、注水井戸2のうち注水井戸2Aの所定水位より深部内に開放されている。ろ過水タンク32から導出され、酸化還元電位が所定値以下とされた地下水Wは、通水管8C,8D内を通って注水井戸2A,2Bに供給される。
【0051】
注水井戸2は、前述のように二つの注水井戸2A,2Bを備えている。但し、注水井戸2が備える井戸数は特に限定されない。
注水井戸2A,2Bは、還元状態の地下水Wを帯水層S3内に注水ための公知の注水設備(所謂、リチャージウェル)であり、具体的には、掘削領域Xの外に設置された井戸からなる。注水井戸2A,2Bには、地下水位以深の地盤(
図1では、帯水層S3)内に埋設されたスクリーン2aが形成されており、スクリーン2aから注水井戸2A,2B内の地下水Wが流出して帯水層S3内に地下水Wが注入される。また、注水井戸2の上端には蓋が取り付けられており、蓋によって注水井戸2の上端は密閉されており、注水井戸2は密閉構造になっている。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の地下水リチャージシステム11では、揚水井戸1から揚水された地下水Wが密閉された揚水管8Aを介して除去部20に導入される。密閉された揚水井戸1及び揚水管8A内でも僅かに混入された空気等があれば、地下水W中の二価鉄は酸化され、三価鉄が析出される。析出された三価鉄やマンガン等の酸化金属は、粘土粒子等のSS成分と共に除去部20を通すことで地下水Wから除去することができる。即ち、除去部20によって地下水W中の目詰まり起因成分を除去することができる。そして、除去部20でろ過された地下水Wには、その酸化還元電位が所定値以下になるまで還元剤添加部14によって還元剤Reが添加され、地下水Wは充分に還元される。従って、揚水井戸1から揚水された地下水Wを注水井戸2付近の地盤の目詰まりの原因となる成分が除去され、還元された状態とすることができるため、地下水Wを注水井戸2から地盤内に注水しても、注水井戸2のフィルター等や注水井戸2付近の地盤の目詰まりを長期にわたり防止することができる。
上述した作用効果により、本実施形態の地下水リチャージシステム11は、従来、注水側の地盤や注水井戸に設けられたスクリーンやフィルターの目詰まりの頻度が高くなる地下水W、即ち、二価鉄を比較的多く含む地下水Wに対しても対応することができる。
【0053】
本実施形態の地下水リチャージシステム11によれば、地下水の酸化還元電位の所定値を200mV以下とすることで、還元剤添加部14によって還元剤Reが添加された地下水Wは、既存の構成を備えた注水井戸2から地盤内に注水しても、注水井戸2付近の地盤の目詰まりを充分且つ良好に防止し得る状態となる。
【0054】
上述の構成によれば、揚水井戸1内の水位が地下水Wの揚水位置である揚水ポンプP1の吸水口Paより高くなるように構成されていることで、地下水Wの揚水時の空気混入及び空気混入による地下水Wの酸化及び地下水W中の二価鉄の酸化をより確実に抑えることができる。
【0055】
上述の構成では、揚水井戸1から揚水された地下水Wは、バネ式ろ過器によってろ過されるため、地下水Wで析出した僅かな三価鉄やマンガン等の酸化金属がバネ式ろ過器のバネ式フィルターに捕捉され、目詰まりを生じても、バネ式ろ過器に逆洗用エアーが付加され、圧力が制御される。従って、上述の構成によれば、三価鉄やマンガン等の酸化金属及びSS成分を容易、且つ略自動的に除去及び排出することができる。従って、自浄効果に優れ、メンテナンスの負担が少ない地下水リチャージシステム11を構築することができる。また、地下水リチャージシステム11の性能を容易に高く保持することができる。
また、本実施形態の地下水リチャージシステム11によれば、地下水Wに溶存している二価鉄の酸化及び析出を極力抑え、バネ式ろ過器の逆洗運転の頻度をより少なくし、逆洗運転に必要な費用(例えば、プレコート材、逆洗用動力、濃縮物処理等にかかる費用)を抑えることができる。即ち、従来の排水処理用のフィルター等を用いる地下水リチャージシステムに比べて、バネ式ろ過器を用いた地下水リチャージシステム11によって、ランニングコストを格段に抑えることができる。
【0056】
また、本実施形態の地下水リチャージシステム11によれば、第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27の少なくとも一方によって地下水Wの酸化還元電位を検知し、還元剤添加装置15にフィードバックすることにより、還元剤Reの過剰添加又は添加不足を抑え、地下水Wを効率良く、地盤内に注水した際に目詰まりを良好に防止し得る還元状態にすることができる。第一還元電位検知部26及び第二還元電位検知部27の両方を用いることで、地下水Wをより効率良く、地盤内に注水した際に目詰まりを良好に防止し得る還元状態にすることができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、上述の実施形態では、地下水Wの水質はリチャージ工法の実施前にある程度把握可能であることをふまえ、
図7に示すように、揚水井戸1から揚水された地下水Wに対して、前述の水質から算出される一定量の還元剤を添加してもよい。これにより、揚水後から除去部20でろ過される前までの地下水Wの酸化及び三価鉄の析出をより確実に防止し、バネ式ろ過器の逆洗頻度も抑えることができる。
【0059】
また、例えば揚水井戸1から揚水された地下水Wの状態を観察するために、揚水された地下水Wが一旦、密閉されたノッチタンク等に収容されても構わない。