(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6961052
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ロックタイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/20 20060101AFI20211025BHJP
F16D 43/02 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
F16D41/20 A
F16D43/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-136655(P2020-136655)
(22)【出願日】2020年8月13日
【審査請求日】2020年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】藤川 知寿
【審査官】
筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0115793(US,A1)
【文献】
特開2007−092801(JP,A)
【文献】
特開2018−115727(JP,A)
【文献】
特開2009−204146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/20
F16D 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材及び前記出力部材は軸方向に延びる入力係止片及び出力係止片を夫々備えており、前記入力係止片及び前記出力係止片は断面円形の内部空間を備えたハウジング内において周方向に2個の間隙が存在するよう組み合わせて配置されており、
前記ハウジングの内周面には線材を巻回して形成されたコイルばねが装着され、前記コイルばねの軸方向の両端には前記線材が内方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成されており、前記コイルばねの両端の前記フック部は前記2個の間隙の夫々に挿入され、
前記入力部材が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねの前記フック部をばねの締め方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力部材を回転させるが、前記出力部材を回転させようとしても、前記出力係止片が前記コイルばねの前記フック部をばねの緩め方向に押して、前記出力部材が回転不能となるロックタイプ双方向クラッチにおいて、
前記入力部材及び前記出力部材は前記共通の回転軸に沿って延びる断面円形の入力支持軸及び出力支持軸を夫々備え、前記入力支持軸及び前記出力支持軸の軸方向端面は、軸方向に見て前記コイルばねの両端の前記フック部の中間で相互に当接し、
前記入力係止片及び前記出力係止片は前記入力支持軸及び前記出力支持軸の夫々の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させた基端部を備えている、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記出力支持軸は円筒形状であって、前記出力支持軸の内側には、前記入力支持軸の軸方向端面に形成された前記共通の回転軸と同心の嵌合軸が相対回転可能に挿入されている、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
前記コイルばねの軸方向の両端に形成された前記フック部は、前記ハウジング内において直径方向に対向して位置する、請求項1又は2に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項4】
前記ハウジングの内周面には径方向内側に突出する円環形状の片側支持片が、前記入力係止片の外周面には径方向外方に延びる円弧形状の他側支持片が夫々形成されており、前記コイルばねは前記片側支持片及び前記他側支持片によって軸方向に支持されている、請求項1乃至3のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項5】
前記入力部材は比較的軟質の合成樹脂製で、前記出力部材は比較的硬質の合成樹脂製である、請求項1乃至4のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項6】
前記入力係止片及び前記出力係止片の断面は共に円弧形状である、請求項1乃至5のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材と出力部材との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力部材(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力部材(従動側)からの動力伝達は、出力部材を回転不能として遮断するロックタイプ双方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から作業機器等を駆動する動力伝達系、例えば、モーターにより物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置となったとき、モーターを停止すると物品が自動的にその位置を保持するような作動が求められる場合がある。そのため、入力軸(入力部材)及び出力軸(出力部材)を備えたロックタイプの双方向クラッチを用いて、入力軸を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力軸の回転により物品を昇降させる装置が知られている。この装置の双方向クラッチでは、モーターにより入力軸を正・逆回転したときは、出力軸が連動して正・逆回転し物品を昇降させる一方、出力軸を正・逆回転しようとすると、出力軸がロックされた状態となって物品の落下を防止する。
【0003】
下記特許文献1には、上述したとおりのロックタイプ双方向クラッチの一例が開示されている、かかるロックタイプ双方向クラッチにあっては、入力部材及び出力部材は軸方向に延びる入力係止片及び出力係止片を夫々備えており、入力係止片及び出力係止片は断面円形の内部空間を備えたハウジング内において周方向に2個の間隙が存在するよう組み合わせて配置されている。ハウジングの内周面には線材を巻回して形成されたコイルばねが装着され、コイルばねの軸方向の両端には線材が内方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成されており、コイルばねの両端のフック部は2個の間隙の夫々に挿入されている。そして、入力部材が回転したときは、入力係止片がコイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、コイルばねと共に出力部材を回転させるが、出力部材を回転させようとしても、出力係止片がコイルばねのフック部をばねの緩め方向に押して、出力部材が回転不能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−92801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、特許文献1に開示された従来のロックタイプ双方向クラッチにあっては、入力係止片は共通の回転軸に対して垂直な入力板から軸方向に延出しており固定端である入力板からの軸方向長さは比較的長いため、入力係止片の先端側でコイルばねのフック部を押す際には入力係止片に大きな回転モーメントが付加され、それ故に、大きな回転トルクを入力部材から出力部材に伝達しようとすると、入力係止片が上記回転モーメントにより倒れて(破損して)しまう虞がある。
【0006】
この点、特許文献1に開示された従来のロックタイプ双方向クラッチにあっては、出力部材には共通の回転軸に沿って延びる断面円形の出力支持軸が形成され、出力係止片はその全体が出力支持軸の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させることで形成されており、後述するとおりの理由により倒れにくい。しかしながら、入力係止片は入力板を固定端とした所謂片持ち梁状態であるため倒れやすく、装置全体にかかる回転トルクの許容値は入力係止片が倒れることのない比較的小さなトルク値に制限されてしまう。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、大きな回転トルクが付加されても入力係止片及び出力係止片が破損しにくく、装置全体にかかる回転トルクの許容値が大きい、新規且つ改良されたロックタイプ双方向クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、共通の回転軸に沿って延びる断面円形の入力支持軸及び出力支持軸を入力部材及び出力部材に夫々設け、入力支持軸及び出力支持軸の夫々の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させて入力係止片及び出力係止片の基端部を構成することで上記主たる技術的課題を解決することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成するロックタイプ双方向クラッチとして、共通の回転軸を中心として回転可能な入力部材及び出力部材を備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材及び前記出力部材は軸方向に延びる入力係止片及び出力係止片を夫々備えており、前記入力係止片及び前記出力係止片は断面円形の内部空間を備えたハウジング内において周方向に2個の間隙が存在するよう組み合わせて配置されており、
前記ハウジングの内周面には線材を巻回して形成されたコイルばねが装着され、前記コイルばねの軸方向の両端には前記線材が内方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成されており、前記コイルばねの両端の前記フック部は前記2個の間隙の夫々に挿入され、
前記入力部材が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねの前記フック部をばねの締め方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力部材を回転させるが、前記出力部材を回転させようとしても、前記出力係止片が前記コイルばねの前記フック部をばねの緩め方向に押して、前記出力部材が回転不能となるロックタイプ双方向クラッチにおいて、
前記入力部材及び前記出力部材は前記共通の回転軸に沿って延びる断面円形の入力支持軸及び出力支持軸を夫々備え
、前記入力支持軸及び前記出力支持軸の軸方向端面は、軸方向に見て前記コイルばねの両端の前記フック部の中間で相互に当接し、
前記入力係止片及び前記出力係止片は前記入力支持軸及び前記出力支持軸の夫々の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させた基端部を備えている、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチが提供される。
【0010】
好ましくは、
前記出力支持軸は円筒形状であって、前記出力支持軸の内側には、前記入力支持軸の軸方向端面に形成された前記共通の回転軸と同心の嵌合軸が相対回転可能に挿入されてい
る。好適には、前記コイルばねの軸方向の両端に形成された前記フック部は、前記ハウジング内において直径方向に対向して位置する。前記ハウジングの内周面には径方向内側に突出する円環形状の片側支持片が、前記入力係止片の外周面には径方向外方に延びる円弧形状の他側支持片が夫々形成されており、前記コイルばねは前記片側支持片及び前記他側支持片によって軸方向に支持されているのが好適である。前記入力部材は比較的軟質の合成樹脂製で、前記出力部材は比較的硬質の合成樹脂製であるのが良い。前記入力係止片及び前記出力係止片の断面は共に円弧形状であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のロックタイプ双方向クラッチによれば、共通の回転軸に沿って延びる断面円形の入力支持軸及び出力支持軸の夫々の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させて入力係止片及び出力係止片の基端部が構成されている、つまり入力係止片及び出力係止片の基端部はその全体が入力支持軸及び出力支持軸と一体であってこれらに固定されていることに起因して、入力係止片及び出力係止片における固定端からの軸方向長さは短縮される。これにより、入力係止片及び出力係止片が夫々の先端側でコイルばねのフック部を押す際には、入力係止片及び出力係止片が受ける回転モーメントはその腕の長さが短縮されたことに起因して減少し、入力係止片及び出力係止片が倒れることは防止される。従って、装置全体にかかる回転トルクの許容値は大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチの好適実施形態の全体構成を示す図。
【
図2】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの分解斜視図。
【
図3】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの入力部材を単体で示す図。
【
図4】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの出力部材を単体で示す図。
【
図5】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチのハウジング本体を単体で示す図。
【
図6】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチのシールドを単体で示す図。
【
図7】
図1に示すロックタイプ双方向クラッチの作動を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成されたフリータイプ双方向クラッチの好適実施形態について添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0014】
図1及び
図2を参照して説明すると、本発明に従って構成された、全体を番号2で示すフリータイプ双方向クラッチは、共通の回転軸oを中心として回転可能な入力部材4及び出力部材6を備えている。ここで、以下の説明における「軸方向片側」及び「軸方向他側」とは、特に指定しない限り、
図1のA−A断面及びB−B断面に示される状態を基準として、「軸方向片側」は同図において左側を、「軸方向他側」は同図において右側のことを言う。
【0015】
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明すると、入力部材4は比較的軟質の合成樹脂により成形され、軸方向に延びる入力係止片8を備えている。図示の実施形態においては、入力係止片8は、断面が円弧形状である単一の板状片である。入力係止片8の軸方向他側端部には径方向外方に延びる円弧形状の他側支持片10が形成されている。他側支持片10については後に言及する。入力部材4は共通の回転軸oに沿って延びる断面円形の入力支持軸12をも備えており、入力係止片8の基端部14は、入力支持軸12の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させて構成されている。つまり、入力係止片8の基端部14はその全体が入力支持軸12と一体でありこれに固定されている(
図3の下段B−B断面も参照されたい)。図示の実施形態においては、入力支持軸12は円筒形状であって内側には軸方向に延びる入力貫通穴16が規定されている。
図3の上段左右側面及び下段B−B断面を参照することによって理解されるとおり、入力貫通穴16の断面は、軸方向片側端部のみが円形であって、軸方向片側端部を除く部分はD字形である。入力貫通穴16には図示しないモーターの如き駆動源から延びるシャフトが挿通され、入力部材4は駆動源に接続される。入力支持軸12の軸方向他側端面には、入力貫通穴16の軸方向他端の外周縁を囲繞して軸方向に延びる円筒形状の嵌合軸18が形成されている。嵌合軸18の外径は入力支持軸12の外径よりも小さく、嵌合軸18の延出端は軸方向に見て入力係止片8の延出端と整合している。一方、入力支持軸12の軸方向片側端面には、入力貫通穴16の軸方向片側端の外周縁を囲繞して軸方向に突出する円環形状の回転被支持部20が形成されている。回転被支持部20の外径は入力支持軸12の外径よりも小さい。
【0016】
図1及び
図2と共に
図4を参照して説明すると、出力部材6は比較的硬質の合成樹脂により成形され、軸方向に延びる出力係止片22を備えている。図示の実施形態においては、出力係止片22は、断面が円弧形状である単一の板状片である。出力係止片22と入力係止片8との位置関係については後述する。出力部材6は共通の回転軸oに沿って延びる断面円形の出力支持軸24をも備えており、出力係止片22の基端部26は、出力支持軸24の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させて構成されている。つまり、出力係止片22の基端部26はその全体が出力支持軸24と一体でありこれに固定されている(
図4の下段A−A断面も参照されたい)。図示の実施形態においては、出力支持軸24は円筒形状であって、軸方向片側は開放されて内側には入力部材4の嵌合軸18が挿通されている。
図1のA−A断面及びB−B断面に示すとおり、出力支持軸24の軸方片側向端面は入力支持軸12の軸方向他側端面と当接し、かかる当接位置は軸方向に見て後述するコイルばねの両端に設けられたフック部の中間である。一方、出力支持軸24の軸方向他側は軸方向に延びる出力軸部28により閉塞されている。出力軸部28の延出端部の断面形状は非円形であって、これは図示しない昇降装置の如き従動部材に接続される。出力支持軸24の軸方向他側端部の外周面には、径方向外方に延びる円環形状の出力フランジ30が形成されており、出力係止片22の軸方向他側端は出力フランジ30に接続されている。
【0017】
ここで、入力部材4の入力係止片8及び出力部材6の出力係止片22は、
図1のC−C断面に示すとおり、後述するハウジング内において周方向に2個の間隙31が存在するよう組み合わせて配置される。入力係止片8及び出力係止片22が上記のとおりに組み合わされて配置されると、入力係止片8における基端部14を除く部分の内周面は出力部材6の出力支持軸24の外周面と、出力係止片22における基端部26を除く部分の内周面は入力部材4の入力支持軸12外周面と夫々摺動自在に対向する。
【0018】
上述したとおり、入力係止片8及び出力係止片22はハウジング32に収容されている。ハウジング32は
図5に示すハウジング本体34と
図6に示すシールド35とから構成されている。
図1及び
図2と共に
図5を参照して説明すると、ハウジング本体34は合成樹脂製であって、共通の回転軸oに対して垂直に配置される円形の端板36及び端板36の外周縁から軸方向に延びる円筒形状の外周壁38を備えたカップ形状である。端板36の中央には入力部材4の回転被支持部20が挿入されてこれを回転可能に支持する軸穴40が形成されている。端板36には軸穴40の外周縁を囲繞してハウジング本体34の内側に向かって軸方向に僅かに突出する円環形状の支持突条42も形成されている。支持突条42は後述するとおりにして入力係止片8及び出力係止片22が組み合わされて設置された際に、入力支持軸12の軸方向片側端面と共に、入力係止片8の基端面及び出力係止片22の延出端面の夫々(つまり夫々の軸方向片側端面)の内周縁部を支持する。端板36の外周面には径方向外方に突出する一対の耳部44が設けられている。一対の耳部44の各々には軸方向に貫通する固定穴46が形成されており、固定穴46にボルトの如き図示しない適宜の固定具を挿通することでハウジング本体34は壁等に固定される。外周壁38の内側には断面円形の内部空間48が規定されており、この内部空間48に入力係止片8及び出力係止片22は配置される。外周壁38の内周面における軸方向片側(閉塞側)端部には径方向内側に突出する円環形状の片側支持片50が形成されている。片側支持片50は端板36にも接続されている。外周壁38の内周面における軸方向他側(開放側)端部には、シールド35が嵌り込む周状の装着溝52が設けられている。装着溝52には周方向に等角度間隔をおいて3つの没入部54が形成されており、夫々の没入部54には、装着溝52に嵌り込んだシールド35を嵌合固定するための嵌合凹部56が設けられている。
【0019】
図1及び
図2と共に
図6を参照して説明すると、シールド35は合成樹脂製であって円板形状のシールド主部58を備えている。シールド主部58の中央には、出力部材6の出力軸部28が挿通されてこれを回転可能に支持する軸穴60が形成されている。シールド主部58の軸方向片側面(内部空間48を臨む側の面)の外周縁部には周方向に連続して延びる外周溝62が形成されている。シールド主部58の外周縁部には軸方向片側に向かって突出する突出片64が周方向に等角度間隔をおいて複数個(図示の実施形態においては3個)形成されている。シールド主部58において突出片64を含む角度領域66の外径は局所的に低減せしめられており、突出片64の外周面における軸方向中間部には径方向外方に突出する円弧状の嵌合凸部68が設けられている。シールド主部58の外周縁部における、突出片64の径方向内側には局所的に肉厚が低減せしめられた凹所70が形成されている。シールド主部58の軸方向他側面には軸穴60の外周縁を囲繞して軸方向に突出する円環形状の突出部72も設けられている。シールド35は、ハウジング本体34の開口端において突出片64がハウジング本体34の没入部54と整合せしめられた状態でハウジング本体34の端板36に向かって軸方向に押圧されることで、突出片64の先端部がハウジング本体34の外周壁38の内側に進入し、嵌合凸部68が嵌合凹部56と嵌合することでハウジング本体34と組み合される。嵌合凸部68が外周壁38の内側に進入する際には、突出片64は凹所70の存在に起因してこれを基端として径方向内側に容易に弾性変形可能である。
【0020】
図1及び
図2を参照して説明すると、ハウジング32(ハウジング本体34)の内周面にはコイルばね74が装着されている。コイルばね74は金属製の線材を巻回して形成され、螺旋状に巻回されたコイル主部76と、軸方向の両端において内方に曲げられたフック部78a及び78bとを備えている。自由状態におけるコイルばねの外径(つまりコイル主部76の外径)はハウジング32の内部空間48の径よりも大きい。従って、コイルばね74はハウジング本体34の外周壁38の内側に圧入される。若しくは、コイルばね74は一時的に縮径された状態で外周壁38の内側に進入した後に上記縮径が解除されてハウジング本体34の外周壁38の内側に装着される。従って、入力部材4が回転していないときは、コイル主部76の外周面はハウジング本体34の外周壁38の内周面に密着している。フック部78a及び78bは夫々周方向の異なる位置に形成されており、これらは、
図1のC−C断面に示すとおり、入力係止片8及び出力係止片22が組み合わせて配置されることにより画成された2個の間隙31の夫々に挿入されている。図示の実施形態においては、フック部78a及び78bはハウジング32内において直径方向に対向して位置している。かようなコイルばね74は、図示の実施形態においては、入力部材4及び出力部材6がハウジング32の内部空間48において所要とおりに組み合わされるとハウジング本体34に形成された片側支持片50及び入力部材4の入力係止片8に形成された他側支持片10によって軸方向に支持される(
図1のB−B断面を参照されたい)。
【0021】
続いて、
図7を参照して本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチの作動について説明する。
図7のA−A断面及びC−C断面は共に
図1のA−A断面及びC−C断面と対応するものである。
図7(a)のA−A断面の矢印に示すように、入力部材4が、例えば、駆動源のモーターにより回転軸oの周りを反時計方向(同図の軸方向の右方から見て)に回転すると、同図のC−C断面に示すとおり、入力部材4に形成された入力係止片8も回転軸oの周りを同方向に回転する。回転軸o周りに回転した入力係止片8は回転方向前方にあるフック部、即ちコイルばね74の軸方向他側端部にあるフック部78aに当接し、フック部78aをばねの締め方向に押してハウジング32(ハウジング本体34の外周壁38の内周面)に対するコイルばね74の密着力を弱める。そして、かかる密着力に入力部材4の回転力が打ち勝つと、入力係止片8がフック部78aを押してコイルばね74がハウジング32に対して回転し、入力係止片8はフック部78aを介して出力係止片22を押し、出力部材6は入力部材4及びコイルばね74と一体となって回転する。このとき、図示の実施形態においては、出力支持軸24の内側には入力部材4の嵌合軸18が挿通せしめられていることで、両者間の所謂芯ぶれは防止される。また、コイルばね74は入力部材4に形成された他側支持片10及びハウジング32に形成された片側支持片50によって軸方向に支持されているため、縮径しても脱落することはない。さらにまた、入力係止片8の基端面及び出力係止片の延出端面の夫々(つまり夫々の軸方向片側端面)はその全体がハウジング32の端板36と当接するのではなく、夫々の径方向内側部分のみが端板36に形成された支持突条42と当接することから、接触面積が低減され摩擦抵抗は軽減される。入力部材が時計方向に回転した場合は、入力係止片8がコイルばね74のフック部78bに当接することを除いては反時計方向に回転した場合と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0022】
一方、
図7(b)のA−A断面の矢印に示すように、出力部材6側からの回転トルクにより、出力部材6を回転軸oの周りに時計方向(同図の軸方向の右方から見て)に回転させようとしても、出力係止片22がコイルばね74のフック部78aをばねの緩め方向に押して、ハウジング32に対するコイルばね74の密着力を強めるため、出力係止片22はハウジング32に対して回転しない。この点は、出力部材6を反時計方向に回転させようとした場合も同様である(このときは、出力係止片22がフック部78bと当接する)。従って、出力部材6からの入力部材4への回転の伝達は、出力部材6が回転不能となり遮断される。
【0023】
本発明のロックタイプ双方向クラッチによれば、入力支持軸12及び出力支持軸24の夫々の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させて入力係止片8及び出力係止片22の基端部14及び26が構成されている、つまり入力係止片8及び出力係止片22の基端部14及び26はその全体が入力支持軸12及び出力支持軸24と一体であってこれらに固定されていることに起因して、入力係止片8及び出力係止片22における固定端からの軸方向長さは短縮される。これにより、入力係止片8及び出力係止片22が夫々の先端側でコイルばね74のフック部78a又は78bを押す際には、入力係止片8及び出力係止片22が受ける回転モーメントはその腕の長さが短縮されたことに起因して減少し、入力係止片8及び出力係止片22が倒れることは防止される。従って、装置全体にかかる回転トルクの許容値は大きくなる。
本発明のロックタイプ双方向クラッチにあっては更に、入力支持軸12及び出力支持軸24の軸方向端面は、軸方向に見てコイルばね74の両端のフック部78a及び78bの中間で相互に当接していることから、入力係止片8及び出力係止片22の各々が受ける回転モーメントの腕の長さをバランスよく低減させることができる。
【0024】
本実施形態のロックタイプ双方向クラッチにあってはさらに、
コイルばね74の両端のフック部78a及び78bは入力係止片8及び出力係止片22が組み合わせて配置される際に画成される2個の間隙31に夫々挿入されていることに起因して、入力部材4及び出力部材6が回転する際には入力係止片8又は出力係止片22がフック部78a又は78bに当接するまでの所謂遊びが存在し、かかる遊びの間は入力部材4及び出力部材6は相対回転する。入力部材4及び出力部材6が相対回転する際には、例えば入力係止片8の内周面及び出力支持軸24の外周面のように相互に対向する面は摺動することとなるため、両面のいずれか一方又はその両方が摩耗する虞がある。しかしながら、本実施形態のロックタイプ双方向クラッチにあっては、入力部材4は出力部材6よりも軟質の合成樹脂材料により成形されていることから、入力部材4と出力部材6との相対回転によっては、出力部材6は摩耗せず入力部材4のみが摩耗する。そのため、入力部材4の方が出力部材6よりも交換頻度は高く、従って、本実施形態のロックタイプ双方向クラッチにあっては、交換すべき部品の在庫を管理しやすい。
【0025】
以上、本発明に従って構成されたロックタイプ双方向クラッチについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、入力係止片及び出力係止片は共に断面円弧形状の単一の板状片であったが、これに替えて、共に周方向に間隔をおいて配置された一対の棒状片としてもよい。この場合、一対の棒状片である入力係止片の一方と一対の棒状片である出力係止片の一方とで、一対の棒状片である入力係止片の他方と一対の棒状片である出力係止片の他方とで夫々間隙を画成する。
【符号の説明】
【0026】
2:ロックタイプ双方向クラッチ
4:入力部材
6:出力部材
8:入力係止片
12:入力支持軸
14:(入力係止片の)基端部
22:出力係止片
24:出力支持軸
26:(出力係止片の)基端部
31:間隙
32:ハウジング
74:コイルばね
78a及び78b:フック部
【要約】 (修正有)
【課題】大きな回転トルクが付加されても入力係止片及び出力係止片が破損しにくく、装置全体にかかる回転トルクの許容値が大きい新規のロックタイプ双方向クラッチを提供すること。
【解決手段】共通の回転軸oに沿って延びる断面円形の入力支持軸12及び出力支持軸24を入力部材4及び出力部材6に夫々形成し、入力支持軸12及び出力支持軸24の夫々の外周面の所要角度領域を局所的に径方向外方に偏倚させて入力係止片8及び出力係止片22の基端部14及び26を構成する。
【選択図】
図1