(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。文中の数字の間にある「〜」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0011】
<異材接合体>
まず、本実施形態に係る異材接合体について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の異材接合体は、樹脂製リブ1(1’)と金属基体2との接合部を有しており、少なくても一部の接合部において、該金属基体2が該樹脂製リブ1(1’)の内側に突出する凸状部を形成している。凸状部の存在によって、樹脂製リブ1(1’)と金属基体2との接触面積を大きくすることができ、樹脂製リブ1(1’)と金属基体2とを互いに強固に接合させることができる。したがって、射出成形後の熱可塑性樹脂の収縮等による異材接合体の変形や、外力が加えられた場合であっても変位量が少なく、また金属基体2からの樹脂製リブ1(1’)の剥がれを少なくすることができる。これにより、異材接合体は、優れた強度を有する。さらに、長期間使用した場合であっても、異材接合体の変形を抑えることができる。
【0012】
凸状部の形状は、円錐状乃至半球状の突起構造であってもよいし、これら突起構造の連続体と見なせる溝構造であってもよい。接合部でのソリ発生抑制効果や外力による変形低減効果に優れている点、金属面への突起構造の付与容易性から、凸状部は溝構造であることが好ましい。
【0013】
円錐状乃至半球状突起は、例えば金属板のエンボス加工やタレットパンチプレス法を用いた方法によって形成可能である。金属板への溝構造付与は、例えばプレス成型による形成が容易であることから、凸状部としては溝構造が好んで採用される。
金属基体2に形成された凸状部が円錐状乃至半球状である場合、その最大直径は金属基体の厚みによっても変わるが、金属基体厚みが0.2mm〜1mmの範囲の場合、通常0.1mm〜10mm、好ましくは0.5mm〜5mm、より好ましくは1mm〜3mm程度である。直径が0.1mm〜10mmの範囲にあると異材接合体のソリ発生や外力による変位量を効果的に抑制できる。
【0014】
金属基体2に形成される、好ましい凸状部としての溝構造は樹脂製リブ1の長手方向に連続的に伸びるように形成されている。この場合、凸状部を介しての、樹脂製リブ1(1’)と金属基体2との接触面積を大きくすることができ、樹脂製リブ1(1’)と金属基体2とを互いに強固に接合させることができる。溝構造は、
図1、
図2に示されるような断面が逆V字型溝2aであってもよいし、
図3に示されるような互いに平行な二本の逆V字型断面の溝2aが一定距離をおいて隣接して形成されていてもよいし、
図4に示されるような断面が逆V字型溝2aとV字型溝2bが一定距離をおいて隣接して形成されていてもよいし、
図5に示されるような断面が逆V字型溝2aとV字型溝2bが距離をおかず連続形成されている溝形状(S字型断面の溝2c)であってもよい。
本実施形態においては、樹脂製リブは金属基体の片面側のみに形成されていてもよいし(例えば、
図4又は
図5に示す例において、樹脂製リブ1及び樹脂製リブ1’のうちの一方のみが設けられていてもよい。)、金属基体の両面に樹脂製リブが対向するように形成されていてもよい(例えば、
図1、
図2又は
図3に示す例において、樹脂製リブ1が設けられた面とは反対側に、他の樹脂製リブが設けられていてもよい。)が、変形防止の観点からは金属基体の両面に樹脂製リブが対向配置されていることが好ましい。なお、本実施形態において、「対向する」とは金属基体の一方の面に形成された樹脂製リブの少なくても一部と、他方の面に形成された樹脂製リブの少なくても一部とが金属基体面の垂直方向において互いに対向していることを言う。
本実施形態においては、通常金属基体の片面のみに樹脂製リブ1がマウントされて接合される場合は、
図1、
図2および
図3に例示された模式図のように一本または二本以上の複数本の逆V字型断面の溝が樹脂製リブ接合面に形成された金属基体2が好んで用いられる。一方で金属基体1の両面に、各々樹脂製リブ1および樹脂製リブ1’が対向するようにしてマウント接合される場合は、
図4および
図5に例示された模式図のように逆V字型断面溝とV字型断面溝の両方が樹脂製リブ1と樹脂製リブ1’の接合面に形成された金属基体2が好んで用いられる。
【0015】
なお本発明において、V字型形状の断面とは厳密なV字形状(断面が二等辺三角形)のみならず、その頂点部が鈍角形状をしたU字型形状や半球状形状、或いは角形状(四角形、五角形等)などの断面のすべてを包含するものである。このような断面形状を有する金属基体は単位重量当たりの断面二次モーメントが大きく、また公知の金属加工によって調製することが可能である。代表的な方法は、プレス機械を用いた曲げ加工であり、具体的には型曲げ(突き曲げ、V曲げ)、折り曲げ(押さえ曲げ、L曲げ)および逆押さえ曲げ(U曲げ)を挙げることができる。これらの中から一つの方法を選ぶか、場合によっては適宜組み合わせることによって本実施形態に係る金属基体2を得ることができる。
【0016】
凸状部の構造は、
図1から
図5に示した例に限定されない。他の例において、複数の凸状部が樹脂製リブ1の長手方向に沿って並んでいてもよい。
【0017】
金属基体2に接合する樹脂の形状は、
図1から
図5に示した樹脂製リブ1の形状(線形状)に限定されない。他の例において、金属基体2に接合する樹脂は、金属基体2の表面に沿って面状に広がっていてもよい。
【0018】
後述するように、金属基体の片面に樹脂製リブが接合された異材接合部は、通常は、電子部品収納用筐体を構成する長方形状の蓋板、側板、底板の格子部の補強用に供され、一方で金属基体の両面に樹脂製リブが接合された異材接合部は前記各板の周縁部の補強用に供されることが好ましいが、本発明はこの実施態様に何ら限定するものではない。
なお、溝構造の深さは、金属基体の厚みによっても変わるが、金属基体厚みが0.2mm〜1mmの範囲の場合、通常0.1mm〜10mm、好ましくは0.5mm〜5mm、より好ましくは1mm〜3mm程度である。深さが0.1mm〜10mmの範囲にあると異材接合体のソリ発生を効果的に抑制でき、また外力が加えられた場合の変形防止効果に優れる。
【0019】
金属基体2に形成される逆V字形状断面を持つ溝の流路部分、すなわち、樹脂製リブ1が接合されていない側の面には、樹脂が埋設されていてもよいし、埋設されていなくてもよい。
図1は、溝の流路に樹脂1”が埋設されている場合の実施態様を示した模式図であり、
図2は、溝の流路に樹脂が埋設されていない場合の実施態様の模式図である。溝の流路に樹脂が埋設されている場合、電子部品収納用筐体としての軽量化効果が損なわれる方向になるが、筐体としての機械強度(ソリ防止効果等)は増す方向であり、また筐体としての外観や意匠性向上にもつながるので好ましい。なお、外観をさらに向上させるために、樹脂埋設後の金属表面に塗装処理してもよい。逆V字形状断面の金属基体2の表面に、後述するように射出成形法(インサート成形)などの手段を用いて樹脂製リブ1を接合一体化する際に、金属の裏面側の溝流路部分に同時に樹脂を埋設することは成形条件の微変更によって容易に達成可能であるので、通常は、溝の流路部分にも樹脂1”を埋設する態様が好んで採用される。
【0020】
本実施形態においては、金属基体2の上に接合されている樹脂製リブ1は、お互いに交差する点を含む。具体的には、例えば
図7に例示した電子部品収納用筐体の蓋板の場合、周縁部上の6か所および金属基体2の中心部に位置する交点の1か所である。このような樹脂製リブ同士の交点を構成する金属基体の凸状部の形状は、例えば
図6に示される交差点3の形状を持ち、このような構造の凸状部は前記したプレス加工方法によって形成することが可能である。なお、交差点3の形状は図示した形状に何ら限定されるものではない。
【0021】
図7および
図8に示す例では、樹脂製リブ1は、金属基体2の縁に沿って延伸する一の部分(樹脂製リブ4)と、この一の部分によって囲まれた領域内で格子状に延伸する他の部分(樹脂製リブ5)と、を含んでいる。
図8に示すように、樹脂製リブ4は、
図5に示したS字型溝を有していてもよく、樹脂製リブ5は、
図2に示した逆V字型溝を有していてもよい。
【0022】
以下、本実施形態に係る異材接合体を構成する各部材について説明する。
<金属基体>
本実施形態に係る金属基体2を構成する金属材料は特に限定されないが、電子部品収納用筐体用途に用いる場合は電磁波シールド性を有する金属が好ましく、例えば、鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、チタンおよびチタン合金等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、入手容易性と金属基体としての強度の視点から、鉄、ステンレス、アルミニウム合金、マグネシウム合金および銅合金から選ばれる一種又は二種以上の金属が好ましく、さらに軽量性および易加工性等の点から、アルミニウム合金およびマグネシウム合金がより好ましく、アルミニウム合金が特に好ましい。
【0023】
アルミニウム合金は特に限定されないが、アルミニウムを主成分とする合金である。具体的には、アルミニウムと、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、およびニッケル等から選択される少なくとも1種の金属との合金を例示することができる。
本実施形態に係るアルミニウム合金としては、日本工業規格(JIS H4140)で規定されている国際アルミニウム合金名の4桁の数字が、2000番台のアルミニウム/銅系合金、3000番台のアルミニウム/マンガン系合金、4000番台のアルミニウム/ケイ素系合金、5000番台のアルミニウム/マグネシウム系合金、6000番台のアルミニウム/マグネシウム/ケイ素系合金、7000番台のアルミニウム/亜鉛/マグネシウム系合金、アルミニウム/亜鉛/マグネシウム/銅系合金等が好適に用いられる。これらの中でも、入手容易性、機械・熱特性の視点から5000番台のアルミニウム/マグネシウム合金が特に好んで用いられる。
【0024】
本実施形態に係る金属基体2の厚みは、全ての場所で同一厚みであっても、場所によって厚みが異なっていてもよい。金属基体2の平均厚みは好ましくは0.2mm以上3.0mm以下、より好ましくは0.2mm超え2.0mm以下、特に好ましくは0.2mm超え1.0mm以下である。
金属基体2の平均厚みが上記下限値以上であることにより、得られる電子部品収納用筐体の機械的強度、放熱特性および電磁波シールド特性をより良好にすることができる。
金属基体2の平均厚みが上記上限値以下であることにより、得られる電子部品収納用筐体をより軽量にすることができる。さらに金属基体2の平均厚みが上記上限値以下であることにより、例えば展開図状の金属基体2を構成する各面の境界部を折り曲げることがより容易となり、電子部品収納用筐体の生産性を向上させることができる。
【0025】
金属基体2の形状は、好ましくは板状である。金属基体2は上記金属材料を、切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工等公知の方法によって所定の形状に加工された後に、後述する粗化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
【0026】
金属基体2の樹脂製リブ1との接合部表面には、例えば、間隔周期が5nm以上500μm以下である凸部が林立した微細凹凸構造が形成されている。微細凹凸構造には、樹脂が侵入している。
ここで、微細凹凸構造の間隔周期は凸部から隣接する凸部までの距離の平均値であり、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真、あるいは表面粗さ測定装置を用いて求めることができる。
電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡により測定される間隔周期は通常500nm未満の間隔周期であり、具体的には金属基体2の接合部表面を撮影する。その写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とする。一方、500nmを超える間隔周期は通常、表面粗さ測定装置を用いて求める。
なお、通常、金属基体2の接合部表面だけでなく、金属基体2の表面全体に対し、表面粗化処理が施されているため、金属基体2の接合部表面と同一面又は反対面の、接合部表面以外の箇所から間隔周期を測定することもできる。
【0027】
上記間隔周期は、好ましくは10nm以上300μm以下、より好ましくは20nm以上200μm以下である。
上記間隔周期が上記下限値以上であると、微細凹凸構造の凹部に樹脂製リブ1を構成する熱可塑性樹脂組成物(A)が十分に浸入することができ、金属基体2と樹脂製リブ1との接合強度をより向上させることができる。また、上記間隔周期が上記上限値以下であると、金属基体2と樹脂製リブ1との接合部分に隙間が生じるのを抑制できる。その結果、金属―樹脂界面の隙間から水分等の不純物が浸入することを抑制できるため、電子部品収納用筐体100を高温、高湿下で用いた際、強度低下の抑制や成形収縮によって引き起こされるソリ発生を抑制できる。
【0028】
上記間隔周期を有する微細凹凸構造を形成する方法としては、NaOH等を含有する無機塩基水溶液および/またはHCl、HNO
3等を含有する無機酸水溶液に金属基体2を浸漬する方法;陽極酸化法により金属基体2を処理する方法;機械的切削、例えばダイヤモンド砥粒研削またはブラスト加工によって作製した凹凸を有する金型パンチをプレスすることにより金属基体2表面に凹凸を形成する方法や、サンドブラスト、ローレット加工、レーザー加工により金属基体2表面に凹凸形状を作製する方法;国際公開第2009/31632号パンフレットに開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属基体2を浸漬する方法等が挙げられる。これらの方法は、金属基体2を構成する金属材料の種類や、上記間隔周期の範囲内において形成する凹凸形状によって使い分けることが可能である。本実施形態においては、NaOH等を含有する無機塩基水溶液および/またはHCl、HNO
3等を含有する無機酸水溶液に金属基体2を浸漬する方法が、金属基体2を広範囲にわたってまとめて処理することができることや、また金属基体2と樹脂製リブ1との接合力に優れることから好ましい。
また、上記間隔周期を有する微細凹凸構造を形成する方法は特に限定されないが、例えば、国際公開第2015/008847号に記載された金属表面の粗化処理方法を使用することもできる。
【0029】
<樹脂製リブ>
本実施形態に係る樹脂製リブ1は熱可塑性樹脂組成物(A)の成形体、好ましくは射出成形体である。熱可塑性樹脂組成物(A)は、熱可塑性樹脂(P1)を必須成分として含み、必要に応じてその他の配合剤(P2)を含む。なお、本明細書においては便宜上、熱可塑性樹脂組成物(A)は熱可塑性樹脂(P1)のみからなる系も含むとして記載する。
【0030】
(熱可塑性樹脂(P1))
熱可塑性樹脂(P1)としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール−ポリ塩化ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、アミノポリアクリルアミド樹脂、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、ABS、ACS、AES、AS、ASA、MBS、エチレン−塩化ビニルコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニルグラフトポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素化エチレンポリプロピレン樹脂、PFA、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリパラメチルスチレン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグルタミン酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0031】
これらの中でも、金属基体2と樹脂製リブ1との接合強度向上効果をより効果的に得ることができる観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリアセタール樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。好適には、電子部品収納用筐体の機械強度、耐ソリ変形性、軽量性、EMI耐性、および放熱特性が総合的にバランスしているという理由によって、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0032】
(その他の配合剤(P2))
熱可塑性樹脂組成物(A)には、個々の機能を付与する目的でその他の配合剤(P2)を含んでもよい。その他の配合剤(P2)は、充填材(F1)、および難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃性改質剤から選ばれる添加剤(F2)が挙げられる。
【0033】
本実施形態において、金属基体2と樹脂製リブ1との線膨張係数差の調整や、樹脂製リブ1の機械的強度を向上させる観点から、樹脂製リブ1は充填材(F1)をさらに含むことが好ましい。
上記充填材(F1)としては、例えば、ハイドロタルサイト類、窒化ホウ素の如き金属窒化物、酸化アルミニウムの如き金属酸化物、水酸化アルミニウムの如き金属水酸化物、炭化ホウ素の如き金属炭化物、炭酸マグネシウムの如き金属炭酸化物、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、線膨張抑制性、電気絶縁性、放熱特性、機械強度(耐ソリ変形性を含む)の観点から好ましくは、ハイドロタルサイト類、ガラス繊維、金属窒化物、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。
上記充填材(F1)の形状は特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等どのような形状であってもよい。
【0034】
樹脂製リブ1が充填材(F1)を含む場合、その含有量は、樹脂製リブ1全体を100質量%としたとき、例えば、5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは20質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上90質量%以下、特に好ましくは50質量%以上90質量%以下である。
【0035】
本実施形態において、熱可塑性樹脂組成物(A)には、種々の機能を付与する目的で、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃性改質剤から選ばれる添加剤(F2)を含んでもよい。該熱可塑性樹脂組成物(A)に占める、添加剤(F2)の合計量は、例えば10質量%以下、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%程度である。
【0036】
(熱可塑性樹脂組成物(A)の製造方法)
熱可塑性樹脂組成物(A)の製造方法は特に限定されず、一般的に公知の方法により製造することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。まず、熱可塑性樹脂(P1)、必要に応じてその他の配合剤(P2)を、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機等の混合装置を用いて、混合または溶融混合することにより、熱可塑性樹脂組成物(A)が得られる。
【0037】
<電子部品収納用筐体の作製方法>
次に、本実施形態に係る電子部品収納用筐体の製造方法について説明する。
本発明に係る実施形態の樹脂製リブ301が接合された展開図状金属板(展開図状異材接合体)の構造の一例を、
図9に模式的に示した。つまり、
図9に示す例では、異材接合体が、電子部品収納用筐体が展開された展開図状平面構造となっている。
本実施形態に係る電子部品収納用筐体の製造方法は、例えば、以下の工程(a)〜(c)を含む。
(a)金属製の底板201と、金属製の底板201に一体的に連結された金属製の側板202(202−1、202−2、202−3、および202−4)と、を備え、少なくとも樹脂製リブ301が接合される接合部表面に微細凹凸構造を有する展開図状金属板を準備する工程
(b)展開図状金属板を金型内に設置し、熱可塑性樹脂組成物(A)を上記金型内に注入して展開図状金属板の表面に樹脂製リブ301を接合して展開図状の異材接合体20を製造する工程
(c)展開図状の異材接合体20の底板201と側板202との境界線部205を折り曲げて、展開図状の異材接合体20を箱型状にする工程
本実施形態に係る電子部品収納用筐体の製造方法は、折り曲げ加工前の中間製品である展開図状金属板や展開図状の異材接合体20の形状が平板状であるので、大量中間製品の保管効率や運搬効率が向上するという利点を有する。
【0038】
(工程(a))
はじめに、金属製の底板201と、金属製の底板201に一体的に連結された金属製の側板202(202−1、202−2、202−3、および202−4)と、を備え、少なくとも樹脂製リブ301が接合される接合部表面に微細凹凸構造を有する展開図状金属板を準備する。側板202−2には、開口部207が形成されており、側板202−4には、スリット209が形成されている。
ここで、展開図状金属板は電子部品収納用筐体を構成する金属基体2に相当し、少なくとも樹脂製リブ301が接合される接合部表面に、例えば国際公開2015/008847号に開示された粗化処理を施すことによって得ることができる。樹脂製リブ301は、
図1から
図5及び
図7に示した樹脂製リブ1に相当する。
金属基体2および粗化処理の詳細はここでは省略する。
【0039】
(工程(b))
次いで、展開図状金属板を金型内に設置し、熱可塑性樹脂組成物(A)を上記金型内に注入して展開図状金属板の表面に樹脂製リブ301を接合する。
樹脂製リブ301を接合する方法としては、例えば、射出成形法(インサート成形法)、トランスファー成形法、圧縮成形法、反応射出成形法、ブロー成形法、熱成形法、プレス成形法等が挙げられる。これらの中でも射出成形法が好ましい。すなわち、樹脂製リブ301は射出成形体であることが好ましい。
【0040】
(工程(c))
次いで、底板201と側板202との境界線部205を折り曲げて、異材接合体20を箱型状にすることにより、電子部品収納用筐体を得る。
展開図状の異材接合体20を箱型状にする方法は特に限定されず、一般的に公知の方法を用いることができる。例えば、底板201と側板202との境界線部205を折り曲げ、必要に応じて蓋板203を取り付けることにより電子部品収納用筐体が得られる。
この際、隣接する側板202同士、および側板202と必要に応じて連結された蓋板203とを機械的手段で係合してもよい。機械的係合手段としては特に限定されないが、ネジ止め等が挙げられる。
【0041】
本発明の異材接合体は、前記の電子部品収納用筐体の外に、大きな強度と剛性が要求される自動車のバックドア、バンパーなどの支持部、熱交換器や送風機などの支持部、乗用車のフロント部やリヤー部品、ドアのしきい、事務機の支持枠、装飾用部品などの構造部材に幅広く適用することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、本実施形態を、実施例および比較例を用いて詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。なお、実施例を説明するための図面として
図10および
図11を利用する。
【0044】
〔実施例1〕
実施例1においては、金属基体をアルミニウム合金板とし、金属基体の全周縁部に形成されたS字溝E2cの両面に両面樹脂製リブE4を接合し、周縁部以外の中心部に金属基体の長手方向に沿って形成された逆V字型溝E2aの片面(
図10の上面側)に片面樹脂製リブE5Lを接合し、周縁部以外の中心部に金属基体の短手方向に沿って形成された逆V字型溝E2aの片面(
図10の上面側)に片面樹脂製リブE5Sを接合した。このようにして得られた異材接合体について、負荷応力による変形量を求めた。
【0045】
(粗化アルミニウム合金板の作製)
形状が180mm(長手)×129mm(短手)×0.3mm(厚み)アルミニウム合金板(JIS H4000に規定された合金番号5052)を準備した。次いで、プレス機によって、上記アルミニウム合金板の全周縁部にS字型溝を、中心部(長手方向と短手方向)に逆V字型溝を形成させた。なお、このアルミニウム合金板には、樹脂が固定側(キャビティ側)から可動側(コア側)に流動連通が可能なように複数個の樹脂貫通用の小孔が設けられている。
次いで、上記アルミニウム合金板を市販の脱脂剤を用いて脱脂処理した後、水酸化ナトリウムを15質量%と酸化亜鉛を3質量%含有するアルカリ系エッチング剤(30℃)が充填された一の処理槽に3分間浸漬(以下の説明では「アルカリ系エッチング剤処理」と略称する場合がある)後、30質量%の硝酸(30℃)にて、1分間浸漬し、アルカリ系エッチング剤処理をさらに1回繰り返し実施した。次いで、得られたアルミニウム合金板を、塩化第二鉄を3.9質量%と、塩化第二銅を0.2質量%と、硫酸を4.1質量%とを含有する酸系エッチング水溶液が充填された他の一の処理槽に、30℃下で5分間浸漬し搖動させた。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分間)をアルミニウム合金板に対して行い、その後、アルミニウム合金板を乾燥させることによって粗化アルミニウム合金板を得た。
【0046】
得られた粗化アルミニウム合金板の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」から求めた間隔周期の平均値は143μmであった。
【0047】
(インサート成形による異材接合体の作製)
日本製鋼所社製の射出成形機(JSW J400AD110H)に専用の金属インサート金型を装着し、該金型内に上記方法で得られた粗化アルミニウム合金板を設置した。次いで、その金型内に熱可塑性樹脂組成物として、ガラス繊維強化ポリプロピレン(プライムポリマー社製V7100、ポリプロピレン(230℃、2.16kg荷重のMFR=18g/10分)80質量部、ガラス繊維20質量部)を、シリンダー温度230℃、金型温度55℃、射出速度100mm/秒、保圧15MPa、保圧時間5秒、冷却時間50秒条件にて射出成形を行い、異材接合体を作製した。なお、異材接合体において、前記熱可塑性樹脂部材は粗化アルミニウム合金板の周縁部については両面に対向するように接合されて樹脂製リブE4が形成され、周縁部以外の中心部については、片面(
図10の上面側)のみに接合されて樹脂製リブ(E5LおよびE5S)が形成されている。このようにして形成された樹脂製リブの幅(w)は共通して3.6mm、樹脂リブ部高さ(h)は共通して2.1mmであった。
【0048】
(変位量の測定)
島津製作所製の曲げたわみ測定装置オートグラフを用いて、上記異材接合体のセンター部位に垂直方向10Nの外力をかけた場合(
図10における符号F)の変位量を測定(25℃)した結果、1.1mmであった。
【0049】
〔実施例2〕
実施例2においては、実施例1で用いたアルミニウム合金板の全周縁部に形成されたS字溝E2cの両面に両面樹脂製リブ(E4)を接合し、周縁部以外の中心部の内、長手方向に形成された逆V字型溝E2aの片面(
図10の上面側)に片面樹脂製リブ(E5L)を接合した。なお、中心部の内、短手方向には、溝構造を形成させることなく片面樹脂製リブ(E5S)を接合した。このようにして得られた異材接合体について、負荷応力による変形量を求めた。
【0050】
(粗化アルミニウム合金板の作製)
実施例1で用いたアルミニウム合金板とまったく同じ合金板を準備した。次いで、プレス機によって、上記アルミニウム合金板の全周縁部にS字型溝を、中心部の内長手方向のみに逆V字型溝を形成させた。なお、このアルミニウム合金板には、樹脂が固定側(キャビティ側)から可動側(コア側)に流動連通が可能なように複数個の樹脂貫通用の小孔が設けられている。
次いで、上記アルミニウム合金板を実施例1に記載した粗化方法とまったく同様な方法で薬液エッチングを行い粗化アルミニウム合金板を作製した。
【0051】
得られた粗化アルミニウム合金板の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」から求めた間隔周期の平均値は143μmであった。
【0052】
(インサート成形による異材接合体の作製)
日本製鋼所社製の射出成形機(JSW J400AD110H)に専用の金属インサート金型を装着し、該金型内に上記方法で得られた粗化アルミニウム合金板を設置した。次いで、実施例1に記載した方法とまったく同様な方法で射出成形を行い、異材接合体を作製した。なお、異材接合体において、前記熱可塑性樹脂部材は粗化アルミニウム合金板周縁部については両面に対向するように接合されて樹脂製リブ(E4)が形成され、周縁部以外の中心部については片面(
図10の上面側)のみに接合されて樹脂製リブ(E5LとE5S)が形成されている。このようにして形成された樹脂製リブの幅(w)は共通して3.6mm、樹脂リブ部高さ(h)は共通して2.1mmであった。
【0053】
(変位量の測定)
島津製作所製の曲げたわみ測定装置オートグラフを用いて、上記異材接合体のセンター部位に垂直方向10Nの外力をかけた場合(
図10における符号F)の変位量を測定(25℃)した結果、1.3mmであった。
【0054】
〔比較例〕
比較例においては、実施例1で用いたアルミニウム合金板の周縁部にも中心部にも溝構造を形成させずに、周縁部には樹脂製リブ(E4)を両面に接合し、中心部のうちの長手方向に沿って片面に樹脂製リブ(E5L)を接合し、中心部のうちの短手方向に沿って片面に樹脂製リブ(E5S)を接合した。このようにして得られた異材接合体について、負荷応力による変形量を求めた。
【0055】
(粗化アルミニウム合金板の作製)
アルミニウム合金基体(JIS H4000に規定された合金番号5052)を切断し、形状が180mm(横幅)×129mm(縦幅)×0.3mm(厚み)アルミニウム合金板を準備した。次いで、上記アルミニウム合金板を実施例1に記載した粗化方法とまったく同様な方法で薬液エッチングを行い粗化アルミニウム合金板を作製した。
【0056】
得られた粗化アルミニウム合金板の表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」から求めた間隔周期の平均値は143μmであった。
【0057】
(インサート成形による異材接合体の作製)
日本製鋼所社製の射出成形機(JSW J400AD110H)に専用の金属インサート金型を装着し、該金型内に上記方法で得られた粗化アルミニウム合金板を設置した。次いで、実施例1に記載した方法とまったく同様な方法で射出成形を行い、異材接合体を作製した。なお、異材接合体において、前記熱可塑性樹脂部材は粗化アルミニウム合金板周縁部については両面に対向するように接合されて樹脂製リブ(E4)が形成され、周縁部以外の中心部については片面(
図10の上面側)のみに接合されて樹脂製リブ(E5LとE5S)が形成されている。このようにして形成された樹脂製リブの幅(w)は共通して3.6mm、樹脂リブ部高さ(h)は共通して2.1mmであった。
【0058】
(変位量の測定)
島津製作所製の曲げたわみ測定装置オートグラフを用いて、上記異材接合体のセンター部位に垂直方向10Nの外力をかけた場合(
図10における符号F)の変位量を測定(25℃)した結果、1.7mmであった。
【0059】
実施例1の変位量、実施例2の変位量及び比較例の変位量の比較より、変位量は、金属基体(アルミニウム合金板)に形成された溝構造によって、低減されるといえる。
【0060】
この出願は、2018年2月26日に出願された日本出願特願2018−031889号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
以下、参考形態の例を付記する。
[1]
樹脂製リブと金属基体との接合部を有する異材接合体であって、
少なくても一部の接合部において前記金属基体が該樹脂製リブの内側に突出する凸状部を形成している異材接合体。
[2]
前記凸状部が、樹脂製リブの長手方向に連続的に伸びるように形成された溝構造である前記[1]に記載の異材接合体。
[3]
前記樹脂製リブが金属基体の片面に接合されており、且つ前記溝構造の断面が逆V字型形状である一本の溝を含む前記[2]に記載の異材接合体。
[4]
前記樹脂製リブが金属基体の両面にお互いが対向するように接合されている前記[2]または[3]に記載の異材接合体。
[5]
前記溝構造の断面が逆V字型形状およびV字型形状である、互いに平行な二本の溝を含む前記[2]〜[4]のいずれか一に記載の異材接合体。
[6]
前記接合部が、金属表面の少なくても接合部に形成された微細凹凸形状に樹脂が侵入することによる異材接合である前記[1]〜[5]のいずれか一に記載の異材接合体。
[7]
前記金属基体を構成する金属が、鉄、ステンレス、アルミニウム合金、マグネシウム合金および銅合金から選ばれる一種または二種以上である前記[1]〜[6]のいずれか一に記載の異材接合体。
[8]
前記樹脂製リブが、熱可塑性樹脂および充填材を含んでなる熱可塑性樹脂組成物から形成されている前記[1]〜[7]のいずれか一に記載の異材接合体。
[9]
前記樹脂製リブが、前記熱可塑性樹脂組成物を前記金属基体上へ射出成形することによって形成される前記[8]に記載の異材接合体。
[10]
前記[1]〜[9]のいずれか一に記載の異材接合体であって、
前記異材接合体は電子部品収納用筐体が展開された展開図状平面構造である異材接合体。
[11]
前記[1]〜[10]のいずれか一項に記載の異材接合体を有する電子部品収納用筐体。