(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸に結合するハブと、前記ハブの軸方向の両側に配置されると共に前記軸に対して回転可能な第1部材および第2部材と、前記第1部材および前記第2部材と前記ハブとの連結を選択するセレクト装置と、を備えるクラッチであって、
前記第1部材は、前記ハブに対向する第1面に第1穴が形成され、
前記第1穴の前記ハブ側を向く第2面に配置される第1係合子と、
前記第1穴の内側と前記第1係合子との間に配置される圧縮ばねと、を備え、
前記第2部材は、前記ハブに対向する第1面に第2穴が形成され、
前記第2穴の前記ハブ側を向く第2面に配置される第2係合子と、
前記第2穴の内側と前記第2係合子との間に配置される圧縮ばねと、を備え、
前記ハブは、前記第1係合子が係合する第3穴が形成された第1面と、前記第2係合子が係合する第4穴が形成された第2面と、を備え、
前記セレクト装置は、前記ハブの前記第2面と前記第2部材との間に配置される第1セレクタと、
前記ハブの前記第1面と前記第1部材との間に配置される第2セレクタと、
前記第1セレクタ及び前記第2セレクタを軸方向に移動させるフォーク部材と、を備え、
前記第1係合子は、前記第2係合子よりも径方向の外側に配置されるクラッチ。
前記セレクト装置は、前記第1セレクタから前記ハブの内部を通って前記第3穴まで延びる第1干渉部材と、前記第2セレクタから前記ハブの内部を通って前記第4穴まで延びる第2干渉部材と、を備え、
前記第1干渉部材は、前記第1部材と前記ハブとの連結が解除されるときに前記第1係合子に干渉し、
前記第2干渉部材は、前記第2部材と前記ハブとの連結が解除されるときに前記第2係合子に干渉する請求項1記載のクラッチ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照してクラッチ10の概略構成について説明する。
図1は一実施の形態におけるクラッチ10の中心線Oを含む模式的な断面図である。クラッチ10は、軸11に結合するハブ20(駆動側)と、ハブ20の軸方向の両側に配置される第1部材30及び第2部材60(被動側)と、第1部材30及び第2部材60とハブ20との連結を選択するセレクト装置90と、を備えている。
【0017】
ハブ20は、中央を貫通する軸11に結合し軸11と一体に回転する円板状の部材である。第1部材30及び第2部材60は、中央を貫通する軸11に相対回転可能に配置された円板状の部材である。クラッチ10は、第1部材30に配置された第1係合子40とハブ20とが係合すると、第1部材30は軸11と共に回転し、第2部材60は軸11を空転する。第2部材60に配置された第2係合子70とハブ20とが係合すると、第2部材60は軸11と共に回転し、第1部材30は軸11を空転する。第1部材30及び第2部材60の外周にはギヤの歯が形成されている。実施形態では、第1部材30は第2部材60よりも歯数が少ない高速ギヤであり、第2部材60は低速ギヤである。
【0018】
図2(a)はハブ20の第1面21の正面図である。
図2(a)では、ハブ20の内周のスプラインの図示が省略されている(
図2(b)においても同じ)。ハブ20の第1面21は、第1部材30(
図1参照)の第1面31に対向する。第1面21には、複数の第3穴22が、同一円周上に周方向に互いに間隔をあけて形成されている。第3穴22は軸方向(
図2(a)紙面垂直方向)から見て略矩形状である。第1面21には、第3穴22を周方向に繋ぐリング溝23が形成されている。第1面21は、リング溝23と同一円周上に複数のピン穴28が開口する。第3穴22よりも径方向の内側に複数のピン穴24が形成されている。ピン穴24は同一円周上にあり、周方向に互いに間隔があいている。
【0019】
図2(b)はハブ20の第2面25の正面図である。第2面25は、第2部材60(
図1参照)の第1面61に対向する。第2面25には、複数の第4穴26が、同一円周上に周方向に互いに間隔をあけて形成されている。第4穴26は軸方向(
図2(b)紙面垂直方向)から見て略矩形状である。第2面25には、第4穴26を周方向に繋ぐリング溝27が形成されている。リング溝27の直径は、第1面21(
図2(a)参照)のピン穴24が円周上に形成された円の直径に等しい。第2面25は、リング溝27と同一円周上に複数のピン穴24が開口する。第4穴26よりも径方向の外側に複数のピン穴28が形成されている。ピン穴28は同一円周上にあり、周方向に互いに間隔をあけている。ピン穴28が円周上に形成された円の直径は、第1面21(
図2(a)参照)のリング溝23の直径に等しい。
【0020】
図3は
図1のIII−III線におけるクラッチ10の断面図である。
図3では、第1部材30(ギヤ)の外周の歯の図示が省略されている。第1部材30は、軸11の中心線Oに交差する(本実施形態では中心線Oに直交する)平坦面状の第1面31に第1係合子40及び第1リテーナ50が配置されている。第1係合子40は、第1面31に形成された第1穴32にそれぞれ収容されている。第1穴32は、複数が同一円周上に形成されている。第1面31には、第1穴32を周方向に繋ぐリング溝36が形成されている。リング溝36の直径は、ハブ20(
図2(a)参照)に形成されたリング溝23の直径と等しい。
【0021】
第1係合子40は、軸方向から見て矩形状に形成された第1支柱41及び第2支柱45を備えている。第1支柱41及び第2支柱45は、複数が同一円周上に交互に配置されている。第1支柱41は、第1の周方向(矢印R方向、以下「第1方向」と称す)の端部から径方向の両側へ向けて腕44が突出し、第2支柱45は、第2の周方向(反矢印R方向、以下「第2方向」と称す)の端部から径方向の両側へ向けて腕44が突出する。
【0022】
第1面31には、第1穴32のうち径方向の両側へ向けて広がる凹部32a,32bが形成されている。凹部32bの周方向の長さは、凹部32a及び腕44の周方向の長さよりも長い。第1係合子40は第1穴32に配置される。第1支柱41に設けられた腕44は凹部32bに配置され、第2支柱45に設けられた腕44は凹部32aに配置される。その結果、第1支柱41は第1穴32内を周方向にスライドできる。
【0023】
第1リテーナ50は、第1係合子40よりも径方向の内側に配置された環状の板材であり、放射状に延びる複数の第1腕51及び第2腕52が、周方向に交互に設けられている。第1リテーナ50は、第1部材30に配置された圧縮ばね53(
図7(b)参照)の復元力により、軸11を中心に第2方向(反矢印R方向)に付勢されている。第1リテーナ50が第2方向に付勢された状態で、第1腕51は第1支柱41に当接し、第2腕52は第2支柱45の一部を覆う。
【0024】
図5(a)は
図3のVa−Va線におけるクラッチ10の断面図である。第1部材30の第1面31に形成された第1穴32には、ハブ20(
図1参照)側を向く第2面33が形成されている。第1穴32のうち径方向の両側へ向けて広がる凹部32a,32b(
図3参照)は、第2面33に連なる。第2面33に第1支柱41及び第2支柱45が配置され、凹部32a,32bに腕44が配置される。
【0025】
第2面33よりも第1面31から離れた位置にある第1穴32の底面34と第1係合子40との間に、圧縮ばね49(本実施形態では、ねじりコイルばね)が配置される。圧縮ばね49は、第1係合子40をハブ20側へ付勢する。本実施形態では、第1穴32は第1部材30を貫通し、第1部材30に固定された円環状の底部材35によって第1穴32の底面34が形成されている。
【0026】
第1支柱41は、第1方向(矢印R方向)に位置する第1端部42に腕44が設けられる。第1リテーナ50の第1腕51は第1端部42に当接し、腕44はハブ20(
図1参照)の第1面21に押さえられるので、圧縮ばね49の弾性力が加えられた第1支柱41は、第1端部42を中心にして第2端部43がハブ20側へ移動できる。ハブ20側へ移動した第2端部43は、ハブ20に形成された第3穴22(
図2(a)参照)に係合できる。
【0027】
第2支柱45は、第2方向(反矢印R方向)に位置する第2端部47に腕44が設けられる。腕44はハブ20(
図1参照)の第1面21に押さえられるが、第1リテーナ50の第2腕52が、第1方向(矢印R方向)に位置する第1端部46を覆った状態では、圧縮ばね49の弾性力が加えられても、第2支柱45の第1端部46はハブ20側へ移動できない。
【0028】
第1リテーナ50が第1方向へ回転すると、第1支柱41の第2端部43に加え、第2支柱45の第1端部46もハブ20側へ移動できる。ハブ20の第3穴22(
図2(a)参照)は、第1支柱41の第2端部43及び第2支柱45の第1端部46が同じときに両方とも係合できる位置に形成されている。
【0029】
図4は
図1のIV−IV線におけるクラッチ10の断面図である。
図4では、第2部材60(ギヤ)の外周の歯の図示が省略されている。第2部材60は、軸11の中心線Oに交差する(本実施形態では中心線Oに直交する)平坦面状の第1面61に第2係合子70及び第2リテーナ80が配置されている。第2係合子70は、第1面61に形成された第2穴62にそれぞれ収容されている。第2穴62は、複数が同一円周上に形成されている。第2穴62が円周上に形成された円の直径は、第1穴32(
図3参照)が円周上に形成された円の直径よりも小さい。第1面61には、第2穴62を周方向に繋ぐリング溝66が形成されている。リング溝66の直径は、ハブ20(
図2(b)参照)に形成されたリング溝27の直径と等しい。
【0030】
第2係合子70は、軸方向から見て矩形状に形成された第1支柱71及び第2支柱75を備えている。第1支柱71及び第2支柱75は、複数が同一円周上に交互に配置されている。第1支柱71は、第1方向(矢印R方向)の端部から径方向の両側へ向けて腕74が突出し、第2支柱75は、第2方向(反矢印R方向)の端部から径方向の両側へ向けて腕74が突出する。
【0031】
第1面61には、第2穴62のうち径方向の両側へ向けて広がる凹部62a,62bが形成されている。凹部62bの周方向の長さは、凹部62a及び腕74の周方向の長さよりも長い。第2係合子70は第2穴62に配置される。第1支柱71に設けられた腕74は凹部62bに配置され、第2支柱75に設けられた腕74は凹部62aに配置される。その結果、第1支柱71は第2穴62内を周方向にスライドできる。
【0032】
第2リテーナ80は、第2係合子70よりも径方向の内側に配置された環状の板材であり、放射状に延びる複数の第1腕81及び第2腕82が、周方向に交互に設けられている。第2リテーナ80は、第2部材60に配置された圧縮ばね83(
図7(b)参照)の復元力により、軸11を中心に第1方向(矢印R方向)に付勢されている。第2リテーナ80が第1方向に付勢された状態で、第1腕81は第1支柱71に当接し、第2腕82は第2支柱75の一部を覆う。圧縮ばね83によって第2リテーナ80が付勢される方向は、圧縮ばね53によって第1リテーナ50が付勢される方向と反対である。
【0033】
図5(b)は
図4のVb−Vb線におけるクラッチ10の断面図である。第2部材60の第1面61に形成された第2穴62は、ハブ20(
図1参照)側を向く第2面63が形成されている。第2穴62のうち径方向の両側へ向けて広がる凹部62a,62b(
図4参照)は、第2面63に連なる。第2面63に第1支柱71及び第2支柱75が配置され、凹部62a,62bに腕74が配置される。
【0034】
第2面63よりも第1面61から離れた位置にある第2穴62の底面64と第2係合子70との間に、圧縮ばね79(本実施形態では、ねじりコイルばね)が配置される。圧縮ばね79は、第2係合子70をハブ20側へ付勢する。本実施形態では、第2穴62は第2部材60を貫通し、第2部材60に固定された円環状の底部材65によって第2穴62の底面64が形成されている。
【0035】
第1支柱71は、第2方向(反矢印R方向)に位置する第2端部73に腕74が設けられる。第2リテーナ80の第1腕81は第2端部73に当接し、腕74はハブ20(
図1参照)の第1面21に押さえられるので、圧縮ばね79の弾性力が加えられた第1支柱71は、第2端部73を中心にして第1端部72がハブ20側へ移動できる。ハブ20側へ移動した第1端部72は、ハブ20に形成された第4穴26(
図2(b)参照)に係合できる。
【0036】
第2支柱75は、第1方向(矢印R方向)に位置する第1端部76に腕74が設けられる。腕74はハブ20(
図1参照)の第1面21に押さえられるが、第2リテーナ80の第2腕82が、第2方向(反矢印R方向)に位置する第2端部77を覆った状態では、圧縮ばね79の弾性力が加えられても、第2支柱75の第2端部77はハブ20側へ移動できない。
【0037】
第2リテーナ80が第2方向(反矢印R方向)へ回転すると、第1支柱71の第1端部72に加え、第2支柱75の第2端部77もハブ20側へ移動できる。ハブ20の第4穴26(
図2(b)参照)は、第1支柱71の第1端部72及び第2支柱75の第2端部77が同じときに両方とも係合できる位置に形成されている。
【0038】
図1へ戻って説明する。セレクト装置90は、軸方向の力を発生するアクチュエータ91と、アクチュエータ91の力が伝えられるフォーク部材92と、ハブ20の外周に配置されフォーク部材92が外周に嵌合するスリーブ94と、スリーブ94によって軸方向へ移動する第1セレクタ97及び第2セレクタ101と、を備えている。アクチュエータ91とフォーク部材92との間にばね93が介在する。第1セレクタ97は、ハブ20の第2面25と第2部材60との間に配置される。第2セレクタ101は、ハブ20の第1面21と第1部材30との間に配置される。
【0039】
ばね93は、アクチュエータ91の力を蓄える部材である。ばね93は、金属ばね、空気ばね、ゴム弾性体など適宜採用できる。アクチュエータ91とフォーク部材92との間にばね93が介在するので、第1係合子40や第2係合子70にトルクが伝えられているときにアクチュエータ91が力を発生すると、スリーブ94は軸方向へ移動できないが、アクチュエータ91の力がばね93に蓄えられる。
【0040】
スリーブ94は、軸方向の外側から第1セレクタ97と干渉する第1操作部95と、軸方向の外側から第2セレクタ101と干渉する第2操作部96と、を備えている。本実施形態では、第1操作部95及び第2操作部96は、スリーブ94の全周に亘って径方向の内側へ向けて鍔状に突出している。
【0041】
セレクト装置90は、第1セレクタ97からハブ20の内部を通って第3穴22まで延びる第1干渉部材98と、第2セレクタ101からハブ20の内部を通って第4穴26まで延びる第2干渉部材102と、を備えている。第1セレクタ97と第1干渉部材86とは分かれており、第2セレクタ101と第2干渉部材102とは分かれている。
【0042】
第1干渉部材98は、ハブ20の第1面21に形成されたリング溝23(
図2(a)参照)に挿入されるリング99と、ハブ20を軸方向に貫通するピン穴28に挿入されるピン100と、を備えている。ハブ20の第3穴22からリング99が退出した状態では、ピン100は、ハブ20の第2面25から軸方向に一部が突出する。第1セレクタ97によって軸方向に押されたピン100はリング99を押す。ハブ20の第3穴22にリング99が進入すると、第1係合子40は第3穴22に係合できなくなる。
【0043】
第2干渉部材102は、ハブ20の第2面25に形成されたリング溝27(
図2(b)参照)に挿入されるリング103と、ハブ20を軸方向に貫通するピン穴28に挿入されるピン104と、を備えている。ハブ20の第4穴26からリング103が退出した状態では、ピン104は、ハブ20の第1面21から軸方向に一部が突出する。第2セレクタ101によって軸方向に押されたピン104はリング103を押す。ハブ20の第4穴26にリング103が進入すると、第2係合子70は第4穴26に係合できなくなる。
【0044】
図4に戻って説明する。第1セレクタ97は、ハブ20に配置されたピン100の位置に一致する円環部106と、スリーブ94の第1操作部95(
図1参照)と干渉する干渉部107と、干渉部107と円環部106とを連結する連結部108と、を備えている。第2部材60の第1面61には、第1セレクタ97の円環部106及び連結部108、並びに、スリーブ94の一部が収容される円環状の凹部67が形成されている。第1面61に形成された凹部67に第1セレクタ97及びスリーブ94の一部が収容されるので、ハブ20(
図1参照)の第2面25と第2部材60の第1面61とを近づけた状態で、ハブ20と第2部材60との間に第1セレクタ97を配置できる。
【0045】
図3に戻って説明する。第2セレクタ101は、ハブ20に配置されたピン104の位置に一致する円環部109と、スリーブ94の第2操作部96(
図1参照)と干渉する干渉部110と、干渉部110と円環部109とを連結する連結部111と、を備えている。第1部材30の第1面31には、第2セレクタ101の円環部109が収容される円環状の第1凹部37と、第1凹部37よりも径方向の外側に位置する円環状の第2凹部38と、が形成されている。第2凹部38はスリーブ94の一部が収容される。
【0046】
第1面31には、第1穴32を避けて、第1凹部37と第2凹部38とに連なり径方向へ延びる溝39が形成されている。溝39は連結部111が収容される。第1凹部37に円環部109が収容され、溝39に連結部111が収容され、第2凹部38にスリーブ94の一部が収容されるので、ハブ20(
図1参照)の第1面21と第1部材30の第1面31とを近づけた状態で、ハブ20と第1部材30との間に第2セレクタ101を配置できる。
【0047】
図6は
図3のVI−VI線におけるクラッチ10の断面図である。溝39に収容された連結部111の一部であって第1リテーナ50と重なる部分112は、第1リテーナ50よりもハブ20(
図1参照)から遠くに位置する。これにより、第1リテーナ50よりもハブ20の近くに部分112が位置する場合に比べて、第1リテーナ50と連結部111(部分112)とが重なる軸方向の厚さの分だけ、ハブ20(
図1参照)の第1面21と第1部材30の第1面31とを近づけられる。
【0048】
図7から
図9を参照して、第1部材30(高速ギヤ)にハブ20が連結した状態から、第1部材30とハブ20との連結を解除して第2部材60(低速ギヤ)にハブ20が連結するまでのクラッチ10の動作を説明する。
図7(a)は第1部材30がハブ20に連結したクラッチ10の中心線Oを含む模式的な断面図であり、
図7(b)はこのときのクラッチ10の周方向の模式的な断面図である。
図7(a)では中心線Oを境にした片側の図示が省略されている(
図8(a)、
図9(a)において同じ)。また、
図7(b)に示す矢印の長さは、第1方向(矢印R方向)におけるハブ20、第1部材30及び第2部材60の回転数の高低を表している(
図8(b)、
図9(b)において同じ)。
【0049】
図7(a)及び
図7(b)に示すように、第1部材30にハブ20が連結した状態では、第1セレクタ97がハブ20から軸方向に離れた位置にあり、第2セレクタ101がハブ20の軸方向に近い位置にある。これにより、リング99が退出したハブ20の第3穴22に第1係合子40の第1支柱41及び第2支柱45が係合し、ハブ20と第1部材30とが一体に回転する。一方、リング103が進入したハブ20の第4穴26に第2係合子70は係合できないので、第2部材60は軸11を空転する。
【0050】
第1部材30とハブ20との連結を解除するには、ハブ20の第3穴22にリング99を進入させて第3穴22から第1支柱41及び第2支柱45を退出させる必要がある。そこで、アクチュエータ91はフォーク部材92及びスリーブ94を第1部材30側へ移動させる力を出力する。しかし、第1支柱41及び第2支柱45が伝えるトルクが大きい状態では、第1支柱41及び第2支柱45は第3穴22から退出できないので、フォーク部材92及びスリーブ94は軸方向へ移動できず、ばね93が圧縮される。
【0051】
図8(a)は第2部材60とハブ20とが滑り状態にあるクラッチ10の中心軸Oを含む模式的は断面図であり、
図8(b)はこのときのクラッチ10の周方向の模式的な断面図である。第1支柱41及び第2支柱45が伝えるトルクが小さくなると、圧縮されていたばね93の復元力によって、フォーク部材92、スリーブ94(第1操作部95)及び第1セレクタ97が軸方向の第1部材30側へ押され、リング99がハブ20の第3穴22に進入し、第1支柱41及び第2支柱45が第3穴22から退出する。
【0052】
スリーブ94が軸方向の第1部材30側へ押されると、第2セレクタ101は、スリーブ94の第2操作部96の干渉を受けなくなる。そうすると、第2部材60に配置された圧縮ばね79の復元力によって、第2係合子70のうち、第2リテーナ80によって規制されていない第1支柱71がハブ20側へ移動する。このときは、ハブ20の回転数は第2部材60の回転数より高いので、第1支柱71はハブ20の第4穴26に係合できずにハブ20を擦りながら揺動する。
【0053】
図9(a)は第2部材60がハブ20に連結したクラッチ10の中心線Oを含む模式的な断面図であり、
図9(b)はこのときのクラッチ10の周方向の模式的な断面図である。ハブ20の回転数を低くしていくと、第2部材60の回転数がハブ20の回転数と一致したときに第1支柱71は機械的にハブ20の第4穴26に係合し、第1支柱71は第2リテーナ80を第2方向(反矢印方向)へ回転させる。その結果、第2リテーナ80の第2腕82によって移動が規制されていた第2支柱75が、ハブ20側へ移動する。
【0054】
第4穴26は、揺動した第1支柱71及び第2支柱75が同じときに両方とも係合できる位置に形成されているので、第1支柱71及び第2支柱75はハブ20の第4穴26にスムーズに係合する。従って、このときに衝撃や異音を生じ難くできる。第1支柱71及び第2支柱75がハブ20の第4穴26に係合すると第2部材60とハブ20との連結が完了し、ハブ20と第2部材60とが一体に回転する。一方、リング99が進入したハブ20の第3穴22に第1係合子40は係合できないので、第1部材30は軸11を空転する。
【0055】
このように第2部材60をハブ20に連結するときは、ハブ20の回転数を低くしていき、第2部材60の回転数がハブ20の回転数と一致すると第1支柱71がハブ20に係合する。第2部材60の回転数とハブ20の回転数が一致してから連結することで、連結直後の衝撃を抑制できる。
【0056】
なお、第2係合子70によって第2部材60(低速ギヤ)にハブ20が連結した状態から、第2部材60とハブ20との連結を解除して、第1係合子40によって第1部材30(高速ギヤ)にハブ20が連結するまでのクラッチ10の動作は、第2係合子70が第1係合子40に置き換わるが、上述の動作と同様である。
【0057】
但し、第1部材30にハブ20を連結するときは、第1部材30の回転数よりもハブ20の回転数を低くしておく。第1支柱41はハブ20の第3穴22に係合できずにハブ20を擦りながら揺動する。ハブ20の回転数を高くしていくと、第1部材30の回転数がハブ20の回転数と一致したときに第1支柱41は機械的にハブ20の第3穴22に係合し、第1支柱41は第1リテーナ50を第1方向(矢印方向)へ回転させる。その結果、第1リテーナ50の第2腕52によって移動が規制されていた第2支柱45が、ハブ20側へ移動する。第3穴22は、揺動した第1支柱41及び第2支柱45が同じときに両方とも係合できる位置に形成されているので、第1支柱41及び第2支柱45はハブ20の第3穴22にスムーズに係合する。これにより、第1部材30とハブ20との連結が完了し、ハブ20と第1部材30とが一体に回転する。
【0058】
このように第1部材30をハブ20に連結するときは、ハブ20の回転数を第1部材30の回転数より一旦低くした後にハブ20の回転数を高くしていく。第1部材30の回転数がハブ20の回転数と一致すると第1支柱41がハブ20に係合する。第1部材30は高速ギヤなので、連結後に要求される回転数は低い。従って、ハブ20の回転数を一旦低くして第1部材30をハブ20に連結することで、連結直後の衝撃を抑制できる。
【0059】
クラッチ10は、切り換え時にハブ20の回転数と第1部材30や第2部材60の回転数とを異ならせた後、ハブ20の回転数を変化させて機械的に切り換えができる。従って、ドッグクラッチのように円筒端面の凹凸の回転数を検出して、回転数が合うまで待ってからクラッチをつなぐような制御を不要にできる。よって、クラッチ10の切換時間を短縮できる。さらに、クラッチ10の切り換え時の制御を簡素化できる。
【0060】
クラッチ10は、第1部材30の第1面31に形成された第1穴32に配置された第1係合子40が、ハブ20の第1面21に形成された第3穴22に係合するので、第1係合子40の軸方向の厚さに関わらず、第1部材30の第1面31とハブ20の第1面21との軸方向の距離を短くできる。また、第2部材60の第1面61に形成された第2穴62に配置された第2係合子70が、ハブ20の第2面25に形成された第4穴26に係合するので、第2係合子70の軸方向の厚さに関わらず、第2部材60の第1面61とハブ20の第2面25との軸方向の距離を短くできる。
【0061】
また、第1係合子40及び第2係合子70はそれぞれ圧縮ばね49,79によって付勢されており、第1係合子40及び第2係合子70の係合が解除されている状態では、第1係合子40はハブ20の第1面21及び第3穴22を擦りながら揺動し、第2係合子70はハブ20の第2面25及び第4穴26を擦りながら揺動する。そのため、ドッグクラッチのように、凹凸のかみ合い長さやクラッチを切るための隙間(空間)を確保しなくて済む。さらに、それらの面の間に第1セレクタ97及び第2セレクタ101がそれぞれ配置される。よって、クラッチ10の軸方向の長さを短縮できる。
【0062】
クラッチ10は、第1係合子40が第2係合子70よりも径方向の外側に配置される。よって、第1係合子40から軸11までの距離と第2係合子70から軸までの距離とが同じ場合に比べ、クラッチ10の構造、特に第1係合子40や第2係合子70の係合を解除する構造を簡素化できる。
【0063】
クラッチ10は、第1セレクタ97からハブ20の内部を通って第3穴22まで延びる第1干渉部材98が、第1部材30とハブ20との連結が解除されるときに第1係合子40に干渉する。第2セレクタ101からハブ20の内部を通って第4穴26まで延びる第2干渉部材102は、第2部材60とハブ20との連結が解除されるときに第2係合子70に干渉する。よって、第1係合子40や第2係合子70とハブ20との連結を解除する機構を簡素化できる。
【0064】
クラッチ10は、第2部材60の第1面61に凹部67が形成され、第1セレクタ97の円環部106及び連結部108が凹部67に収容される。ハブ20の第2面25から突出したピン100の一部も凹部67に収容される。従って、ピン100の突出長さ、円環部106及び連結部108の厚さに関わらず、第2部材60の第1面61とハブ20の第2面25との軸方向の距離を短くできる。
【0065】
第2部材60に形成された凹部67にはスリーブ94の軸方向の一部が収容され、凹部67よりも径方向の外側の部分はハブ20側へせり出しているので、第2部材60のギヤの歯の軸方向の長さを長くすることができる。よって、歯当たり面積を大きくできる。
【0066】
クラッチ10は、第1部材30の第1面31に第1凹部37が形成され、第2セレクタ101の円環部109が第1凹部37に収容される。ハブ20の第1面21から突出したピン104の一部も第1凹部37に収容される。従って、ピン104の突出長さ、円環部109の厚さに関わらず、第1部材30の第1面31とハブ20の第1面21との軸方向の距離を短くできる。
【0067】
第1部材30に形成された第2凹部38にはスリーブ94の軸方向の一部が収容され、第2凹部38よりも径方向の外側の部分はハブ20側へせり出しているので、第1部材30のギヤの歯の軸方向の長さを長くすることができる。よって、歯当たり面積を大きくできる。
【0068】
クラッチ10は、第1部材30の第1面31に、第1穴32を避けて径方向の外側から内側へ向かって延びる溝39が形成され、第2干渉部材102と分かれた第2セレクタ101の連結部111は、溝39の内側に配置される。よって、第1部材30の第1面31とハブ20の第1面21との間に第2セレクタ101が配置されたときの軸方向の距離を抑制できる。
【0069】
第1部材30の第1面31に配置された第1リテーナ50は、第1係合子40のうち第2支柱45の揺動を規制し、第1支柱41と第3穴22との係合に連動して第2支柱45の第3穴22への係合を許容する。これにより、ハブ20に対して第1部材30が第1方向(矢印R方向)へ相対回転するときの、第2支柱45の第1端部46の第3穴22への衝突による第1端部46や第3穴22の損傷を防止できる。さらに、第2支柱45の係合によって、ハブ20に対する第1部材30の相対回転が規制されることによるイナーシャの変化に伴うショックを防止できる。
【0070】
なお、第2セレクタ101のうち溝39の内側に配置される連結部111のうち、第1リテーナ50と軸方向に重なる部分112は、第1リテーナ50よりもハブ20から遠くに位置する。よって、第1リテーナ50の動作を第2セレクタ101が阻害しないようにしつつ、第1部材30の第1面31とハブ20の第1面21との距離を抑制できる。
【0071】
セレクト装置90は、軸方向の力を発生するアクチュエータ91と、ハブ20の外周に配置されるスリーブ94を軸方向に移動するフォーク部材92と、の間にばね93が介在する。スリーブ94の第1操作部95は、軸方向の外側から第1セレクタ97に干渉し、スリーブ94の第2操作部96は、軸方向の外側から第2セレクタ101に干渉する。
【0072】
ばね93は、ハブ20に連結している部材(第1部材30及び第2部材60)とハブ20との連結を解除する前にアクチュエータ91の力を蓄える。ばね93は、ハブ20に連結している部材とハブ20との連結を解除するときに、蓄えた力を解放してフォーク部材92を軸方向へ移動する。それに伴い、スリーブ94を介して第1セレクタ97又は第2セレクタ101が移動する。従って、被動側・駆動側間の相対速度の検出をしなくても、アクチュエータ91を駆動するだけで係合を解除できる。さらに、被動側・駆動側間の相対速度の検出をしなくても、第1部材30や第2部材60とハブ20とを連結できる。よって、クラッチ10の制御を簡素化できる。
【0073】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、第1係合子40及び第2係合子70の数や形状、第1係合子40が係合する第3穴22や第2係合子70が係合する第4穴26の数は例示であり、適宜設定できる。
【0074】
実施形態では、第1部材30が高速ギヤ、第2部材60が低速ギヤに設定される場合(変速機の場合)について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1部材30を低速ギヤ、第2部材60を高速ギヤに設定することは当然可能である。また、クラッチ10は変速機に用いるものに限られない。クラッチ10は、同心軸上にある駆動側・被動側間においてトルクの伝達・遮断を行うものに適宜採用できる。
【0075】
実施形態では、圧縮ばね49,79としてねじりコイルばねを用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ねじりコイルばねの代わりに、圧縮コイルばね等の他の圧縮ばねを用いることは当然可能である。
【0076】
実施形態では、第1係合子40及び第2係合子70が、それぞれ第1支柱41,71及び第2支柱45,75を備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2支柱45,75を省略して、クラッチ10を、一方向に回転を伝達する一方向クラッチとすることは当然可能である。
【0077】
実施形態では、第1係合子40及び第2係合子70の揺動を規制する第1リテーナ50及び第2リテーナ80が第1部材30及び第2部材60にそれぞれ配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1リテーナ50や第2リテーナ80を省略することは当然可能である。第1リテーナ50や第2リテーナ80を省略する場合には、第1係合子40や第2係合子70の第1支柱41,71が第1穴32や第2穴62内をスライドできないように、第1穴32や第2穴62(凹部32b,62b)の周方向の長さを短くする。
【0078】
実施形態では、リング99,103を介して第1係合子40及び第2係合子70を軸方向に押し付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。リング99,103を省略し、ピン100,104の先端形状や第1係合子40、第2係合子70の形状を変更することで、ピン100,104を介して第1係合子40及び第2係合子70を軸方向に押し付けることは当然可能である。
【0079】
実施形態では、第1係合子40や第2係合子70が同一形状の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子40や第2係合子70の長さ、幅、厚さが互いに異なるようにすることは当然可能である。