特許第6961075号(P6961075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961075
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】難燃性フェノール樹脂発泡体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
   C08J9/04 103
   C08J9/04CEZ
   C08J9/04 101
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-515627(P2020-515627)
(86)(22)【出願日】2019年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2019018079
(87)【国際公開番号】WO2019208811
(87)【国際公開日】20191031
【審査請求日】2020年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2018-86916(P2018-86916)
(32)【優先日】2018年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-225588(P2018-225588)
(32)【優先日】2018年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】三堀 寿
(72)【発明者】
【氏名】菊池 典晃
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 政美
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−035033(JP,A)
【文献】 特開昭60−035032(JP,A)
【文献】 特開平01−126349(JP,A)
【文献】 特開平05−032814(JP,A)
【文献】 特開昭61−095038(JP,A)
【文献】 特開昭61−238833(JP,A)
【文献】 特開平03−179041(JP,A)
【文献】 特開平03−160038(JP,A)
【文献】 特開昭61−000243(JP,A)
【文献】 特開2005−015725(JP,A)
【文献】 特開平02−049037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00− 9/42
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素、ハイドロフルオロカーボン、塩素化ハイドロフルオロオレフィン、非塩素化ハイドロフルオロオレフィン、塩素化炭化水素から選ばれる少なくとも一つを含み、密度が30〜80kg/m、独立気泡率が85%以上であり、コーンカロリーメーターによる発熱性試験において総発熱量8MJ/mに達する時間が20分以上である、フェノール樹脂発泡体。
【請求項2】
平均気泡径が70μm以上180μm以下である、請求項1に記載のフェノール樹脂発泡体。
【請求項3】
X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度の少なくともいずれかにピークが存在する、請求項1又は2に記載のフェノール樹脂発泡体。
【請求項4】
X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、最も強度の大きいピークの回折角度2θが、14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度の少なくともいずれかに存在する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフェノール樹脂発泡体。
【請求項5】
X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度にピークが存在する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフェノール樹脂発泡体。
【請求項6】
X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度にピークが存在し、かつ、14.9〜15.9度におけるピークの最大強度をA、16.2〜17.2度におけるピークの最大強度をBとしたとき、0.5≦A/B≦4.5である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフェノール樹脂発泡体。
【請求項7】
X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度にピークが存在し、かつ、14.9〜15.9度におけるピークの最大強度をA、16.2〜17.2度におけるピークの最大強度をBとしたとき、1.0≦A/B≦4.5である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフェノール樹脂発泡体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年4月27日および2018年11月30日にそれぞれ、日本国に特許出願された特願2018−086916および特願2018−225588の優先権を主張するものであり、この先の出願の開示全体をここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は、難燃性フェノール樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、省エネルギーの観点から、断熱材が広く使われるようになってきている。中でも高い断熱性能と経済性とから、合成樹脂発泡体が広く普及しているが、合成樹脂発泡体は火災時に延焼拡大が速く、爆燃現象や有毒ガスの発生などを伴う危険性があることから、高断熱性能、かつ、国土交通大臣認定の不燃認定を取得した、断熱材がこれまで望まれてきた。
【0004】
このような中、断熱性能が高いフェノール樹脂発泡体は、現存する樹脂発泡体の中では最も難燃性が優れており、他のどの樹脂発泡体よりも火災に対する安全性が高いことが知られている。しかし、フェノール樹脂発泡体といえども国土交通大臣認定の不燃材料に匹敵するほどの難燃性は有しておらず、更なる難燃性向上の試みがなされてきたもののこれまで実現できていなかった。
【0005】
例えば特許文献1〜3には、難燃剤を用いることで、フェノール樹脂発泡体の難燃性能が向上することが開示されている。
【0006】
特許文献1には、高い断熱性能を維持しつつも、特定の界面活性剤やリン系難燃剤を用いることで難燃性能が向上したフェノール樹脂発泡体が開示されている。しかし、難燃性能の指標としては酸素指数が用いられている。この試験は、材料が燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度(容量%)を測定するものであり、燃焼の持続が前提の試験なので、これら実施例で示された材料の難燃性能はいずれも、燃焼しないことを前提にしている国土交通大臣認定の不燃材料に求められる難燃性能とは比べ物にならないほど低いものといえる。
【0007】
また、特許文献2及び特許文献3においては、得られたフェノール樹脂発泡体の燃焼試験を各々、昭和45年12月建設省告示第1828号に基づく表面加熱試験、又は、JIS A 1321に基づく試験、としている。これらは、現在の国土交通大臣の認定を受けるための試験規格である発熱性試験(ISO5660Part−1 コーンカロリーメーター)に匹敵する内容の材料試験といえるものの、特許文献2及び3に記載のフェノール樹脂発泡体は、100kg/m3をはるかに超える程度にまで高密度化されている上、いずれも断熱性能が低く、不燃性との両立が実現できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017−210618号公報
【特許文献2】特開平10−259266号公報
【特許文献3】特開平06−80814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、100kg/m3未満の低密度でありながら、高断熱性能を有しつつも、国土交通大臣認定の不燃材料となり得る高い難燃性能を発現するフェノール樹脂発泡体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明は以下の通りである。
【0011】
[1]炭化水素、ハイドロフルオロカーボン、塩素化ハイドロフルオロオレフィン、非塩素化ハイドロフルオロオレフィン、塩素化炭化水素から選ばれる少なくとも一つを含み、密度が30〜80kg/m、独立気泡率が85%以上であり、コーンカロリーメーターによる発熱性試験において総発熱量8MJ/mに達する時間が20分以上である、フェノール樹脂発泡体。
[2]平均気泡径が70μm以上180μm以下である、[1]のフェノール樹脂発泡体。
3]X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度の少なくともいずれかにピークが存在する、[1]又は[2]のフェノール樹脂発泡体。
]X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、最も強度の大きいピークの回折角度2θが、14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度の少なくともいずれかに存在する、[1]〜[3]のいずれかのフェノール樹脂発泡体。
]X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度にピークが存在する、[1]〜[]のいずれかのフェノール樹脂発泡体。
]X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度にピークが存在し、かつ、14.9〜15.9度におけるピークの最大強度をA、16.2〜17.2度におけるピークの最大強度をBとしたとき、0.5≦A/B≦4.5である、[1]〜[]のいずれかのフェノール樹脂発泡体。
[7]X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度にピークが存在し、かつ、14.9〜15.9度におけるピークの最大強度をA、16.2〜17.2度におけるピークの最大強度をBとしたとき、1.0≦A/B≦4.5である、[1]〜[]のいずれかのフェノール樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フェノール樹脂発泡体が、高断熱性能を有し、100kg/m3未満の低密度でありながら、発泡体の厚み方向上下面に不燃性の面材を利用することなく、発泡体全体が不燃材料となり得る高い難燃性能を発現するため、取り扱いが容易になることに加えて、発泡体を切断等により複雑な形状にしても、また、設置向きや方向を変えても、不燃材料として用いることができるようにもなる。それゆえ、これまで形状の制約によって適用できなかった用途においても高性能のフェノール樹脂発泡体が利用可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、不燃性発現のために必要となる難燃剤の適正な選定を行い、更には不燃性発現のために必要となる添加量を見極めるとともに、フェノール樹脂の密度及び生産条件を最適化することで、これまで実現し得なかった、高断熱性能化と不燃化を両立するフェノール樹脂発泡体を見出したものである。
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0015】
また、本実施形態のフェノール樹脂発泡体は、コーンカロリーメーターを用いて実施例に示す条件で行った発熱性試験において、加熱開始後20分間の総発熱量8MJ/m2以下を達成することができる。
【0016】
本実施形態のフェノール樹脂発泡体は、「フェノール樹脂」に界面活性剤と難燃剤を加えた「フェノール樹脂組成物」に、更に、発泡剤、有機酸を含有する酸性硬化剤を添加して、発泡性および硬化性を付与した「発泡性フェノール樹脂組成物」を混合機に仕込み、混合した後に混合機から「発泡性フェノール樹脂組成物」を吐出し、加熱下に発泡・硬化させて製造される。なお、面材やサイディング等が付いている場合には、これを除いたフェノール樹脂から構成される部分を、「フェノール樹脂発泡体」と定義する。
【0017】
フェノール樹脂としては、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の存在下に、フェノール類とアルデヒド類を40〜100℃の温度範囲で加熱合成して得られるレゾール型フェノール樹脂を用いる。フェノール類とアルデヒド類の使用モル比は1:1から1:4.5の範囲内が好ましく、より好ましくは1:1.5から1:2.5の範囲内である。
【0018】
フェノール樹脂合成の際に好ましく使用されるフェノール類としては、フェノールの他、レゾルシノール、カテコール、o−、m−およびp−クレゾール、キシレノール類、エチルフェノール類、p−tertブチルフェノール等が挙げられる。また、2核フェノール類も使用できる。
【0019】
またフェノール樹脂合成の際に好ましく使用されるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの他、グリオキサール、アセトアルデヒド、クロラール、フルフラール、ベンズアルデヒド等が挙げられ、これらの誘導体もまた使用できる。
【0020】
レゾール型フェノール樹脂の合成時、もしくは合成後には、必要に応じて尿素、ジシアンジアミドやメラミン等の添加剤を添加してもよい。尿素を添加する場合は、予めアルカリ触媒でメチロール化した尿素をレゾール型フェノール樹脂に混合することが好ましい。
【0021】
合成後のレゾール型フェノール樹脂は、通常過剰な水分を含んでいるので、発泡に適した粘度にするために脱水を行うことが好ましい。
【0022】
フェノール樹脂には、脂肪族炭化水素または高沸点の脂環式炭化水素、或いは、それらの混合物や、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の粘度調整用の希釈剤、その他必要に応じてフタル酸系化合物等、種々の添加剤を添加することもできる。フェノール樹脂、およびフェノール樹脂組成物の40℃における粘度は、好ましくは5,000mPa・s以上25,000mPa・s以下である。
【0023】
後述する、混合機を用いて混合する工程に供する、フェノール樹脂の水分量は、2.0質量%以上8.0質量%以下であり、好ましくは2.5質量%以上6.5質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以上5.0質量%以下である。難燃剤を添加し、更にフェノール樹脂中の水分量が多いと気泡膜が破泡しやすくなり、独立気泡率の低下、すなわち断熱性能の低下を引き起こす。これに対して、難燃剤添加時にフェノール樹脂の水分量が8.0質量%以下であれば、添加した難燃剤量によらず、気泡膜の破泡を防止し、断熱性能を維持することができる。また、2.0質量%以上であれば、粘度上昇を抑制し設備内の送液を容易に実現することができる。
【0024】
フェノール樹脂に加える界面活性剤としては、ノニオン系の界面活性剤が効果的であり、例えば、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であるアルキレンオキサイドや、アルキレンオキサイドとヒマシ油との縮合物、アルキレンオキサイドと、ノニルフェノール、ドデシルフェノールのようなアルキルフェノールとの縮合生成物、アルキルエーテル部分の炭素数が14〜22のポリオキシエチレンアルキルエーテル、更にはポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系化合物、ポリアルコール類等が好ましい。これらの界面活性剤は単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
界面活性剤の使用量は、フェノール樹脂100質量部に対して0.3質量部以上10質量部以下の範囲とすることが好ましい。
【0026】
フェノール樹脂に加える難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウムが好ましく、中でもタイエンC=II(製品名/太平化学産業製)、タイエンK(製品名/太平化学産業製)、Exolit AP 423(製品名/クライアントケミカルズ株式会社製)等が好ましく使用され得る。これらは単独で使用しても良いし、複数を併用してもよい。
【0027】
フェノール樹脂組成物に対する難燃剤の添加量は、フェノール樹脂100質量部あたり10質量部以上35質量部以下が好ましく、より好ましくは13質量部以上30質量部以下、更に好ましくは15質量部以上25質量部以下である。複数の難燃剤を用いる場合の添加質量部は、全ての難燃剤の添加質量部を合計したものとする。
【0028】
フェノール樹脂に加える発泡剤としては、炭化水素、ハイドロフルオロカーボン、塩素化ハイドロフルオロオレフィン、非塩素化ハイドロフルオロオレフィン、および、塩素化炭化水素等を用いることが好ましい。
【0029】
炭化水素としては、炭素数が3〜7の環状または鎖状のアルカン、アルケン、アルキンが好ましく、具体的には、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、シクロヘキサン、等を挙げることができる。その中でも、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ネオペンタンのペンタン類およびノルマルブタン、イソブタン、シクロブタンのブタン類が好適に用いられる。
【0030】
ハイドロフルオロカーボンとしては、ハイドロフルオロプロペン、ハイドロクロロフルオロプロペン、ハイドロブロモフルオロプロペン、ハイドロフルオロブテン、ハイドロクロロフルオロブテン、ハイドロブロモフルオロブテン、ハイドロフルオロエタン、ハイドロクロロフルオロエタン、ハイドロブロモフルオロエタン等を挙げることができる。
【0031】
塩素化ハイドロフルオロオレフィンとしては、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(例えば、ハネウェルジャパン株式会社製、製品名:Solstice(登録商標)LBA)などが挙げられる。
【0032】
非塩素化ハイドロフルオロオレフィンとしては、1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(例えば、ハネウェルジャパン株式会社製、製品名:Solstice(登録商標)1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンなどが挙げられる。
【0033】
塩素化ハイドロフルオロオレフィン又は非塩素化ハイドロフルオロオレフィンを使用する場合、全発泡剤におけるこれら発泡剤の含有割合は、30質量%以上であることが好ましい。
【0034】
塩素化炭化水素としては、炭素数が2〜5の直鎖状または分岐状の塩素化脂肪族炭化水素を好ましく利用できる。結合している塩素原子の数は1〜4が好ましく、例えば、ジクロロエタン、プロピルクロリド、イソプロピルクロリド、ブチルクロリド、イソブチルクロリド、ペンチルクロリド、イソペンチルクロリドなどが挙げられる。これらのうち、クロロプロパンであるプロピルクロリド、イソプロピルクロリドが、より好ましく用いられる。
【0035】
なお、上述の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよく、任意に選択できる。
【0036】
発泡性フェノール樹脂組成物中の好ましい発泡剤の量は、発泡剤の種類、フェノール樹脂との相性や、温度、滞留時間等の発泡・硬化条件により変わり得るが、フェノール樹脂および界面活性剤との合計100質量部に対して、10.0質量部以下であり、4.5質量部以上10.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以上9.0質量部以下であることが更に好ましい。
【0037】
本実施形態においては、フェノール樹脂発泡体の製造に発泡核剤をさらに使用してもよい。発泡核剤としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気などの、発泡剤よりも沸点が50℃以上低い低沸点物質のような気体発泡核剤を添加することができる。また、水酸化アルミニウム粉、酸化アルミニウム粉、炭酸カルシウム粉、タルク、はくとう土(カオリン)、珪石粉、珪砂、マイカ、珪酸カルシウム粉、ワラストナイト、ガラス粉、ガラスビーズ、フライアッシュ、シリカフューム、石膏粉、ホウ砂、スラグ粉、アルミナセメント、ポルトランドセメント等の無機粉、および、フェノール樹脂発泡体の粉砕粉のような有機粉等の固体発泡核剤を添加することもできる。これらは、単独で使用してもよいし、気体及び固体の区別なく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。発泡核剤の添加タイミングは、発泡性フェノール樹脂組成物を混合する混合機内に供給されていればよく、任意に決めることができる。
【0038】
気体発泡核剤の発泡剤に対する添加量は、発泡剤の量を100質量%として、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。また、固体発泡核剤の添加量は、フェノール樹脂および界面活性剤との合計100質量部に対して、3.0質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは4.0質量部以上8.0質量部以下である。
【0039】
フェノール樹脂組成物に加える酸性硬化剤としては、酸成分として有機酸を含むものを用いる必要がある。有機酸としては、アリールスルホン酸、或いは、これらの無水物が好ましい。アリールスルホン酸およびその無水物としては、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、置換フェノールスルホン酸、キシレノールスルホン酸、置換キシレノールスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等、および、それらの無水物が挙げられる。これらは、一種類で用いても、二種類以上組み合わせてもよい。なお、本実施形態では、硬化助剤として、レゾルシノール、クレゾール、サリゲニン(o−メチロールフェノール)、p−メチロールフェノール等を添加してもよい。また、これらの硬化剤は、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の溶媒で希釈してもよい。
【0040】
酸性硬化剤の使用量は、その種類により異なるが、フェノール樹脂の不燃化と高独立気泡率化のためには、酸成分としての有機酸を、以下の関係式を満たすように添加する必要がある。すなわち、得られる発泡体の密度をx(kg/m3)、フェノール樹脂と界面活性剤との合計100質量部に対する有機酸量をy(質量部)とすると、13.0−0.1x≦y≦17.0−0.1xとすることが必要である。なお、14.0−0.1x≦yとすることが好ましく、15.0−0.1x≦yとすることがより好ましく、15.5−0.1x≦yとすることが更に好ましい。酸成分としての有機酸としては、パラトルエンスルホン酸一水和物等が利用され得る。また任意に、ジエチレングリコール等の希釈剤を併用してもよい。有機酸量を、(13.0−0.1x)部以上とすることにより、難燃剤添加の影響を受けることなく発泡体としての硬化が進行しやすく、独立気泡率を高めることができる。一方、有機酸量を、(17.0−0.1x)部以下とすることで、発泡成形時のフォーム内部温度の上昇を抑制し、独立気泡率を高めることができる。
【0041】
なお、発泡性フェノール樹脂組成物に含まれる界面活性剤、難燃剤、発泡剤は、予めフェノール樹脂に添加しておいてもよいし、酸性硬化剤と同時にフェノール樹脂に添加してもよい。
【0042】
本実施形態のフェノール樹脂発泡体の密度は、30kg/m3以上80kg/m3以下であり、好ましくは35kg/m3以上70kg/m3以下、より好ましくは45kg/m3以上65kg/m3以下である。密度が30kg/m3以上であると難燃性能が高くなり、80kg/m3以下であると、フェノール樹脂発泡体が取り扱い易くなるため、好ましい。
【0043】
密度は、有機酸量による調整の他、発泡剤の割合、発泡性フェノール樹脂組成物の温度、混合した発泡性フェノール樹脂組成物を下面材上に吐出する工程における予成形のタイミング、更には、発泡剤の添加量との比、温度や滞留時間等の硬化条件などの変更により所望の値に調整できる。
【0044】
本実施形態のフェノール樹脂発泡体の難燃性を、コーンカロリーメーターを用いて実施例に示す一定条件で評価すると、20分間の総発熱量が8MJ/m2に到達せず、非常に高い難燃性能、すなわち不燃性能を示す。
【0045】
更に、70℃において30週間経過後のコーンカロリーメーターによる発熱性試験においても、総発熱量8MJ/m2に到達する時間が20分以上となることが好ましい。70℃において30週間放置するという加速条件においても前記条件を満たせば、前述の通り、常温で30年という長期に亘っても安定的に難燃性が維持できている、すなわち、長期耐久性にも優れているといえる。発泡体の密度が30kg/m3を下まわる場合、70℃で30週間経過により、樹脂が僅かながら脆くなることで、コーンカロリーメーターによる発熱性試験において、試料に亀裂が生じやすくなり、総発熱量8MJ/m2に到達する時間が短くなる。
【0046】
本実施形態のフェノール樹脂発泡体の独立気泡率は、85%以上であり、好ましくは90%以上である。独立気泡率は断熱性能の目安となるため、85%以上であると断熱性能が良好となり好ましい。
【0047】
独立気泡率は主に、フェノール樹脂の反応性や温度の調整、更には硬化温度条件などの変更により所望の値に調整できる。
【0048】
本実施形態のフェノール樹脂発泡体の平均気泡径は、好ましくは70μm以上180μm以下であり、より好ましくは70μm以上150μm以下、更に好ましくは、70μm以上130μm以下である。平均気泡径が70μm以上であると、発泡体の密度を本発明の範囲としやすくなる。この結果、発泡体における樹脂部の伝熱割合を低減しやすくなるため、フェノール樹脂発泡体の断熱性能が向上しやすくなる。また逆に、平均気泡径が180μm以内であれば、輻射による熱伝導を抑制しやすくなる。平均気泡径は、例えば、フェノール樹脂の反応性や温度の調整、発泡核剤の添加量、発泡剤の添加量と酸性硬化剤として用いられる有機酸の添加量との比、更には硬化温度条件などの変更により所望の値に調整できる。
【0049】
本実施形態におけるフェノール樹脂発泡体は、熱伝導率が好ましくは0.030W/m・K以下である。より好ましくは0.028W/m・K以下であり、更に好ましくは0.026W/m・K以下である。熱伝導率は、例えば、フェノール樹脂の組成や粘度、発泡剤の種類や割合、気泡核剤の割合、硬化条件、発泡条件等により調整できる。
【0050】
更に、70℃において30週間経過後の熱伝導率も0.045W/m・K以下であることが好ましく、より好ましくは0.043W/m・K以下であり、更に好ましくは0.041W/m・K以下である。欧州における「断熱材の熱抵抗及び熱伝導率に関する経年評価」に係る規格「EN13166 ANNEX.C」に、「70℃で25週間処理後の試験体を25年後相当とする」との記載がある。これによれば、1週間が1年に相当するため、70℃で30週間経過後は、常温で30年に相当する。初期の熱伝導率が良好であっても、セル膜に微細な孔が開いている、すなわち破泡している場合においては、上記経過後の熱伝導率は上記範囲を満たさず良好な断熱材とはいえない。70℃において30週間放置するという加速条件においても上記条件を満たせば、長期的にも安定的に断熱性が良好に維持できている、すなわち、長期耐久性にも優れているといえる。
【0051】
本実施形態のフェノール樹脂発泡体は、好ましくは、X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが、14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度の少なくともいずれかにピークが存在する。そして、前記X線回折パターンにおける最も強度の大きいピークの回折角度2θが、14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度の少なくともいずれかに存在することがより好ましく、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度に、共にピークが存在することが更に好ましい。
【0052】
また、X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θが14.9〜15.9度、及び16.2〜17.2度にピークが存在し、かつ、14.9〜15.9度におけるピークの最大強度をA、16.2〜17.2度におけるピークの最大強度をBとしたとき、0.5≦A/B≦4.5であることが、特に好ましく、1.0≦A/B≦4.5であることが、最も好ましい。
【0053】
なお、X線回折法による分析で得られるX線回折パターンにおいて、回折角度2θのピークの角度位置、および最大強度は、後述する、難燃剤の組合せ及び添加量により、調整され得る。
【0054】
本実施形態のフェノール樹脂発泡体は、これを単体で使用できる他、外部部材と接合させて様々な用途に用いることもできる。外部部材の例としては、ボード状材料およびシート状・フィルム状材料の1およびその組み合わせがある。ボード状材料としては、普通合板、構造用合板、パーティクルボード、OSB、などの木質系ボード、および、木毛セメント板、木片セメント板、石膏ボード、フレキシブルボード、ミディアムデンシティファイバーボード、ケイ酸カルシウム板、ケイ酸マグネシウム板、火山性ガラス質複層板などが好適である。また、シート状・フィルム状材料としては、ポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布、無機質充填ガラス繊維不織布、ガラス繊維不織布、紙、炭酸カルシウム紙、ポリエチレン加工紙、ポリエチレンフィルム、プラスチック系防湿フィルム、アスファルト防水紙、アルミニウム箔(孔あり・孔なし)が好適である。
【0055】
次に、上述したフェノール樹脂発泡体の製造方法の詳細について説明する。
【0056】
フェノール樹脂発泡体の製造方法としては、フェノール樹脂、界面活性剤、難燃剤、発泡剤、および、有機酸を含有する酸性硬化剤とを含む発泡性フェノール樹脂組成物を、混合機を用いて混合する工程と、混合した発泡性フェノール樹脂組成物を面材上に吐出する工程、前記面材上に吐出した発泡性フェノール樹脂組成物に、上方から面材を被せて発泡、硬化させつつ、予成形を行う工程と、発泡および硬化反応を行わせる主工程である本成形を行う工程と、その後にフェノール樹脂組成物中の水分を放散させる後硬化を行う工程と、を備える連続製造方式を採用することが可能である。
【0057】
連続製造方式における、予成形工程および本成形工程において、夫々予成形および本成形を行う方法としては、スラット型ダブルコンベアを利用する方法や、金属ロールもしくは鋼板を利用する方法、さらには、これらを複数組み合わせて利用する方法等、製造目的に応じた種々の方法が挙げられる。このうち、例えば、スラット型ダブルコンベアを利用して成形する場合には、上下の面材で被覆された発泡性フェノール樹脂組成物をスラット型ダブルコンベア中へ連続的に案内した後、加熱しながら上下方向から圧力を加えて、所定の厚みに調整しつつ、発泡および硬化させ、板状に成形することができる。
【0058】
フェノール樹脂発泡体の少なくとも上下面に配される面材としては、可撓性を有する面材(可撓性面材)が用いられる。使用される可撓性面材としては、主成分がポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等からなる不織布および織布や、クラフト紙、ガラス繊維混抄紙、水酸化カルシウム紙、水酸化アルミニウム紙、珪酸マグネシウム紙等の紙類や、ガラス繊維不織布のような無機繊維の不織布等が好ましく、これらを混合、または積層して用いてもよい。中でも、得られるフェノール樹脂発泡体積層体から面材を剥離し発泡体のみを利用する場合には、剥離後に廃棄可能な安価な材料が好ましい。これら面材は、通常ロール状の形態で提供されている。
【0059】
予成形を行う工程において、最初に予成形されるときの発泡性フェノール樹脂組成物の温度は、35℃以上70℃以下が好ましい。
【0060】
予成形工程に続く本成形工程の加熱温調条件は、65℃以上100℃以下であることが望ましい。該区間において、無端スチールベルト型ダブルコンベアまたはスラット型ダブルコンベア、もしくはロール等を用いて本成形を行うことができる。
【0061】
後硬化工程は、予成形工程および本成形工程後に行われる。後硬化工程の温度は、90℃以上120℃以下であることが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例および比較例によって本発明を更に詳細に説明する。
【0063】
<フェノール樹脂Aの合成>
反応器に52質量%ホルムアルデヒド水溶液(52質量%ホルマリン)3,500kgと99質量%フェノール2,510kg(不純物として水を含む)を仕込み、プロペラ回転式の攪拌機により攪拌し、温調機により反応器内部液温度を40℃に調整した。次いで48質量%水酸化ナトリウム水溶液をpHが8.7になるまで加えた後85℃まで昇温して、反応を行わせた。反応液のオストワルド粘度が160平方ミリメートル毎秒(=160mm2/s、25℃における測定値)に到達した段階で、反応液を冷却し、フェノール樹脂中の尿素含有量が4.6質量%となるように尿素を添加した。その後、反応液を30℃まで冷却し、パラトルエンスルホン酸一水和物の50質量%水溶液を、pHが6.3になるまで添加した。得られた反応液を薄膜蒸発機によって濃縮処理し、40℃における粘度が13,200mPa・s、水分量が4.1質量%のフェノール樹脂Aを得た。
【0064】
<フェノール樹脂Bの合成>
反応器に52質量%ホルムアルデヒド水溶液(52質量%ホルマリン)3,500kgと99質量%フェノール2,510kg(不純物として水を含む)を仕込み、プロペラ回転式の攪拌機により攪拌し、温調機により反応器内部液温度を40℃に調整した。次いで48質量%水酸化ナトリウム水溶液をpHが8.7になるまで加えた後85℃まで昇温して、反応を行わせた。反応液のオストワルド粘度が160平方ミリメートル毎秒(=160mm2/s、25℃における測定値)に到達した段階で、反応液を冷却し、フェノール樹脂中の尿素含有量が4.6質量%となるように尿素を添加した。その後、反応液を30℃まで冷却し、パラトルエンスルホン酸一水和物の50質量%水溶液を、pHが6.3になるまで添加した。得られた反応液を薄膜蒸発機によって濃縮処理し、40℃における粘度が7,800mPa・s、水分量が7.9質量%のフェノール樹脂Bを得た。
【0065】
<フェノール樹脂Cの合成>
反応器に52質量%ホルムアルデヒド水溶液(52質量%ホルマリン)3,500kgと99質量%フェノール2,510kg(不純物として水を含む)を仕込み、プロペラ回転式の攪拌機により攪拌し、温調機により反応器内部液温度を40℃に調整した。次いで50質量%水酸化ナトリウム水溶液をpHが8.7になるまで加えた後85℃まで昇温して、反応を行わせた。反応液のオストワルド粘度が60平方ミリメートル毎秒(=60mm2/s、25℃における測定値)に到達した段階で、反応液を冷却し、尿素を570kg(ホルムアルデヒド仕込み量の15モル%に相当)添加した。その後、反応液を30℃まで冷却し、パラトルエンスルホン酸一水和物の50質量%水溶液を、pHが6.4になるまで添加した。得られた反応液を薄膜蒸発機によって濃縮処理し、40℃における粘度が6,900mPa・s、水分量が10.1質量%のフェノール樹脂Cを得た。
【0066】
<フェノール樹脂組成物の粘度測定>
回転粘度計(東機産業(株)製、R−100型、ローター部は3°×R−14)を用い、40℃で3分間安定させた後の測定値をフェノール樹脂の粘度とした。
【0067】
<フェノール樹脂の水分量測定>
水分量を測定した脱水メタノール(関東化学製)に、フェノール樹脂を3質量%から7質量%の範囲で溶解して、その溶液の水分量から脱水メタノール中の水分を除して、フェノール樹脂の水分量を求め、フェノール樹脂から水分量の差分をフェノール樹脂の樹脂量とした。測定にはカールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製、MKC−510)を用いた。
【0068】
(実施例1)
<フェノール樹脂発泡体の製造>
表1に示すように、合成したフェノール樹脂Aの100質量部に対して、界面活性剤としてエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドのブロック共重合体とポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルを質量比率でそれぞれ50%ずつ含有する組成物を3.5質量部の割合で混合し、更に、難燃剤としてタイエンC=II(太平化学産業製)を22.0質量部添加して、二軸押出機((株)テクノベル製) によって混練することで難燃剤入りフェノール樹脂組成物を得た。
【0069】
その後、難燃剤入りフェノール樹脂組成物100質量部に対して、発泡剤としてイソプロピルクロリド40質量%と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン60質量%の混合物3.1質量部、発泡核剤として窒素を発泡剤に対して0.40質量%、更に、酸性硬化剤としてキシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を10.6質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は8.5質量部)添加し、30℃に温調した回転数可変式のミキシングヘッドに供給した。
【0070】
混合し、得られた発泡性フェノール樹脂組成物をマルチポート分配管にて分配し、移動する面材上に供給した。なお、混合機(ミキサー)は、特開平10−225993号に開示されたものを使用した。即ち、混合機の上部側面に、フェノール樹脂および発泡核剤を含む発泡剤の導入口があり、回転子が攪拌する攪拌部の中央付近の側面に酸性硬化剤の導入口を備えている混合機を使用した。攪拌部以降は発泡性フェノール樹脂組成物を吐出するためのノズルに繋がっている。また、混合機は、酸性硬化剤導入口までを混合部(前段)、酸性硬化剤導入口〜攪拌終了部を混合部(後段)、攪拌終了部〜ノズルを分配部とし、これらにより構成されている。分配部は先端に複数のノズルを有し、混合された発泡性フェノール樹脂組成物が均一に分配されるように設計されている。ここで、混合機およびノズルは、各々温調水により温度を調節できるようになっており、温調水温度はともに23℃とした。また、マルチポート分配管の吐出口には、発泡性フェノール樹脂組成物の温度を検出できるように熱電対が設置してあり、ミキシングヘッドの回転数は650rpmに設定した。このとき面材上に吐出した発泡性フェノール樹脂組成物の温度は44℃であった。面材上に供給した発泡性フェノール樹脂組成物は、予成形工程に導入されるが、このときの予成形工程の設備温度は60℃とした。なお、予成形は、上方からの被覆面材の上方より、金属ロールにて行った。
【0071】
続いて、発泡性フェノール樹脂組成物は二枚の面材で挟み込まれるようにして、83℃に加熱されたスラット型ダブルコンベアに導入され、15分の滞留時間で硬化させ、更に110℃のオーブンで2時間加熱して、フェノール樹脂発泡体積層板を得た。なお、面材としては、上下面材共に目付量30g/m2のポリエステル不織布(旭化成エルタスE05030)を使用した。フェノール樹脂発泡体積層板の両面から面材を丁寧に剥がして、厚み30mmのフェノール樹脂発泡体を得た。
【0072】
その後、後述の方法でフェノール樹脂発泡体の密度と平均気泡径を測定したところ、密度は60.0kg/m3、平均気泡径は105μmであった。更に、得られたフェノール樹脂発泡体に対し、後述する方法で熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。
【0073】
<フェノール樹脂発泡体の密度>
200mm角のフェノール樹脂発泡体を試料とし、JIS K7222に従い質量と見かけ容積を測定して求めた。なお、発泡体の密度xに基づいて定められる、有機酸の添加部数yの範囲(13.0−0.1x≦y≦17.0−0.1x)を満たす場合を「Y」、満たさない場合を「N」と評価した。
【0074】
<フェノール樹脂発泡体の平均気泡径>
フェノール樹脂発泡体の厚み方向のほぼ中央を表裏面に平行に切削して得た試験片の切断面を50倍に拡大した写真を撮影し、得られた写真上にボイドを避けて9cmの長さ(実際の発泡体断面における1,800μmに相当する)の直線を4本引き、各直線が横切った気泡の数に準じて測定したセル数を各直線で求め、それらの平均値で1,800μmを割った値を平均気泡径とした。なお、本方法はJIS K6402に記載の方法を参考にしている。
【0075】
<フェノール樹脂発泡体の独立気泡率>
ASTM−D−2856に従い測定した。具体的には、フェノール樹脂発泡体積層板より面材を取り除いた後、直径30mm〜32mmの円柱形試料をコルクボーラーで刳り貫き、フェノール樹脂発泡体の厚み方向中心が中心となるように高さ9mm〜13mmに切り揃えた後、空気比較式比重計(東京サイエンス社製、1,000型)の標準使用方法により試料容積を測定した。その試料容積から、試料質量とフェノール樹脂の密度から計算した壁(気泡以外の部分)の容積を差し引いた値を、試料の外寸から計算した見かけの容積で割り、100をかけた値を独立気泡率として求めた。なお、フェノール樹脂の密度は1.3kg/Lとした。なお、フェノール樹脂発泡体の厚みが30mm以下の場合には、直径30mm〜32mmの円柱形試料をコルクボーラーで刳り貫き、フェノール樹脂発泡体の厚み方向中心が中心となるように高さ4mm〜6mmに切り揃えた後同様の評価を行った。
【0076】
<フェノール樹脂発泡体の熱伝導率>
JIS A 1412−2:1999に準拠し、以下の方法で23℃の環境下におけるフェノール樹脂発泡体の熱伝導率を測定した。
【0077】
フェノール樹脂発泡体を600mm角に切断し、切断により得られた試片を23±1℃、湿度50±2%の雰囲気に入れ、24時間ごとに質量の経時変化を測定し、直近の質量からの変化率が0.2質量%以下になるまでその状態を保持した。直近の質量からの変化率が0.2質量%以下となった600mm角のフェノール樹脂発泡体を、傷つけないように面材を剥がしてから、同環境下に置かれた熱伝導率の測定装置に導入した。
【0078】
熱伝導率の測定は、試験体1枚、対称構成方式の測定装置(英弘精機社、商品名「HC−074/600」)を用い行った。23℃の環境下における熱伝導率は、低温板が13℃、高温板が33℃の条件で測定した。
【0079】
なお、熱伝導率の測定は、常温に置いていたフェノール樹脂発泡体、および70℃において30週間放置したフェノール樹脂発泡体に対して行った。
【0080】
<フェノール樹脂発泡体のX線回折法による分析>
フェノール樹脂発泡体のX線回折分析装置としては、Rigaku製のSmartLabを使用した。試料については、試料中心部付近を切り出し、測定試料とし、試料セル(AL製)に充填した。測定条件は、以下の通りである。X線管球は、Cu Kα、光学系は、平行ビームとし、管電圧・管電流を45kV−200mA、スキャン範囲は5〜80度、スキャンステップを0.02度、スキャンスピードを10度/分、検出器を一次元半導体検出器とした。
【0081】
なお、実施例1で得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0082】
<コーンカロリーメーターによるフェノール樹脂発泡体の難燃性能評価>
厚みが50mm以内のフェノール樹脂発泡体の評価においては、フェノール樹脂発泡体から、(99±1)mm×(99±1)mmのサンプルを切り出し、ISO−5660に準拠し、輻射強度50kW/m2にて加熱したときの総発熱量が8MJ/m2に到達する時間を測定した。なお、フェノール樹脂発泡体の厚みが50mmを超える場合には、厚み方向の上下面のうち、どちらか片面を一面として厚み方向に垂直にスライス切断することで試料の厚みが50mmとなるようにした上で、非切断面を加熱面側として評価する。また、難燃性能評価用試料に面材、サイディング等が付いている場合にはこれを取り除いて、フェノール樹脂発泡体とする。上記総発熱量が8MJ/m2に到達する時間が21.0分以上であれば「A」、20.5分以上21.0分未満であれば「B」、20.0分以上20.5分未満であれば「C」、20分未満であれば「D」と評価した。
【0083】
試験時間は、試験体表面に輻射熱が照射され、同時に電気スパークが作動してからとした。酸素、一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度は5秒以内の間隔で測定した。
【0084】
なお、難燃性の評価は、常温に置いていたフェノール樹脂発泡体、および70℃において30週間放置したフェノール樹脂発泡体に対して行った。
【0085】
(実施例2)
表1に示すように、難燃剤としてタイエンK(太平化学産業製)を22.0質量部添加した以外は実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、16.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0086】
(実施例3)
表1に示すように、難燃剤としてタイエンC=IIを17.0質量部及びタイエンKを5.0質量部添加した以外は実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.5°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0087】
(実施例4)
表1に示すように、難燃剤としてタイエンC=IIを20.0質量部及びタイエンKを2.0質量部添加した以外は実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.5°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0088】
(実施例5)
表1に示すように、難燃剤としてタイエンC=IIを12.0質量部及びタイエンKを10.0質量部添加した以外は実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、16.6°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0089】
(実施例6)
表1に示すように、難燃剤としてタイエンC=IIを15.5質量部及びタイエンKを6.5質量部添加した以外は実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0090】
(実施例7)
表1に示すように、難燃剤としてExolit AP 423(クライアントケミカルズ株式会社)を17.0質量部及びタイエンKを5.0質量部添加した以外は実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0091】
(実施例8)
表1に示すように、フェノール樹脂Bを用いる以外は実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0092】
(実施例9)
表1に示すように、フェノール樹脂と界面活性剤との合計100質量部に対する、キシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を8.8質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は7.0質量部)添加した以外は、実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.3°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0093】
(実施例10)
表1に示すように、フェノール樹脂と界面活性剤との合計100質量部に対する、キシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を13.7質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は11.0質量部)添加した以外は、実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0094】
(実施例11)
表1に示すように、難燃剤入りフェノール樹脂組成物100質量部に対して、発泡剤としてイソプロピルクロリド40質量%と1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン60質量%の混合物10.0質量部、発泡核剤として窒素を発泡剤に対して0.40質量%、更に、酸性硬化剤としてキシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を13.7質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は11.1質量部)添加し、30℃に温調した回転数可変式のミキシングヘッドに供給する際の樹脂組成物の供給量を調整することで、フェノール樹脂発泡体の密度を35kg/m3とした以外は、実施例1と同様にしてフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0095】
(実施例12)
表1に示すように、難燃剤入りフェノール樹脂組成物100質量部に対して、発泡剤としてシクロペンタン75質量%とイソペンタン25質量%の混合物2.7質量部とした以外は、実施例1と同様にしてフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られたフェノール樹脂発泡体の、X線回折法による分析で得られたX線回折パターンにおいて、15.4°に存在するピークの強度が最も大きかった。
【0096】
(比較例1)
表1に示すように、フェノール樹脂組成物100質量部に対して、発泡剤の添加部数を4.2質量部とし、キシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を7.0質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は5.6質量部)添加し、難燃剤を無添加とする以外は、実施例1と同様にして、密度38.7kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
(比較例2)
表1に示すように、フェノール樹脂組成物100質量部に対して、発泡剤の添加部数を6.3質量部とし、キシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を4.4質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は3.5質量部)添加する以外は、比較例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
(比較例3)
表1に示すように、フェノール樹脂と界面活性剤との合計100質量部に対する、キシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を8.5質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は6.8質量部)添加した以外は、実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。
【0099】
(比較例4)
表1に示すように、フェノール樹脂と界面活性剤との合計100質量部に対する、キシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を14.0質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は11.2質量部)添加した以外は、実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。
【0100】
(比較例5)
表1に示すように、特許文献1に相当するフェノール樹脂Cを用い、発泡剤として1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンのみを用い、更に、フェノール樹脂と界面活性剤との合計100質量部に対する、キシレンスルホン酸80質量%とジエチレングリコール20質量%の混合物からなる組成物を11.0質量部(有機酸の、フェノール樹脂および界面活性剤の合計100質量部に対する添加量は8.8質量部)添加した以外は、実施例1と同様にして、密度60.0kg/m3のフェノール樹脂発泡体を作製した。その後、熱伝導率の測定、X線回折法分析、及び難燃性評価を行った。結果を表2に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、不燃レベルの高度な難燃性能が求められる用途において、これまで形状の制約からフェノール樹脂発泡体が利用できなかった用途においても、高断熱性能を有するフェノール樹脂発泡体の利用が可能となる。