(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961086
(24)【登録日】2021年10月14日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】高電子移動度トランジスタ及び高電子移動度トランジスタを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20211025BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20211025BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/80 F
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-528357(P2020-528357)
(86)(22)【出願日】2018年8月20日
(65)【公表番号】特表2021-504955(P2021-504955A)
(43)【公表日】2021年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2018031463
(87)【国際公開番号】WO2019163163
(87)【国際公開日】20190829
【審査請求日】2020年5月22日
(31)【優先権主張番号】15/900,867
(32)【優先日】2018年2月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】テオ、クーン・フー
(72)【発明者】
【氏名】チョウドリー、ナディム
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2016/0126340(US,A1)
【文献】
特表2018−511169(JP,A)
【文献】
特開2017−073525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 29/812
H01L 29/778
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、
層のスタックを含むチャネル半導体構造体であって、前記層のスタックは、前記層の材料の分極の大きさの順に重なり合って配置されて、前記スタックにおける層の各対によって形成されたヘテロ接合において複数のキャリアチャネルを形成し、前記層のスタックは第1の層及び第2の層を含み、前記第1の層の分極の大きさは、前記スタックにおいて前記第1の層の下に配置された前記第2の層の分極の大きさより大きく、前記チャネル半導体構造体の階段状輪郭を形成するように、前記第1の層の幅は前記第2の層の幅より小さいものと、
高濃度にドープされた半導体材料を含むソース半導体構造体であって、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにキャリアを提供するものと、
前記高濃度にドープされた半導体材料を含むドレイン半導体構造体であって、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにおける前記キャリアを受け取るものと、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ソース半導体構造体に配置されたソース電極と、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ドレイン半導体構造体に配置されたドレイン電極と、
前記キャリアチャネルの導電率を変調するように、前記HEMTの長さに沿って前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置されたゲート電極であって、前記チャネル半導体構造体の前記階段状輪郭をたどって踏面及び蹴込部を有する階段形状を有するものと、
を備える、HEMT。
【請求項2】
前記ゲート電極と前記チャネル半導体構造体との間に配置された誘電体の層、を更に備える、請求項1に記載のHEMT。
【請求項3】
前記踏面は同一の幅を有する、請求項1に記載のHEMT。
【請求項4】
前記踏面は異なる幅を有する、請求項1に記載のHEMT。
【請求項5】
前記蹴込部は同一の高さを有する、請求項1に記載のHEMT。
【請求項6】
前記蹴込部は異なる高さを有する、請求項1に記載のHEMT。
【請求項7】
前記ソース電極と前記ゲート電極との間の距離は、前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間の距離より小さい、請求項1に記載のHEMT。
【請求項8】
前記チャネル半導体構造体の材料は、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、及び窒化アルミニウム(AlN)のうちの1つ又は組合せを含む、請求項1に記載のHEMT。
【請求項9】
ソース半導体領域及びドレイン半導体領域は、窒化ガリウム(GaN)および窒化インジウムガリウム(InGaN)のうちの1つ又は組み合わせを含む、請求項1に記載のHEMT。
【請求項10】
高電子移動度トランジスタ(HEMT)を製造する方法であって、
基板と、層のスタックを含むチャネル半導体構造体とを準備することであって、前記層のスタックは、前記層の材料の分極の大きさの順に重なり合って配置されて、前記スタックにおける層の各対によって形成されたヘテロ接合において複数のキャリアチャネルを形成し、前記層のスタックは第1の層及び第2の層を含み、前記第1の層の分極の大きさは、前記スタックにおいて前記第1の層の下に配置された前記第2の層の分極の大きさより大きく、前記チャネル半導体構造体の階段状輪郭を形成するように、前記第1の層の幅は前記第2の層の幅より小さいものと、
高濃度にドープされた半導体材料を含むソース半導体構造体を形成することであって、前記ソース半導体構造体は、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにキャリアを提供するものと、
前記高濃度にドープされた半導体材料を含むドレイン半導体構造体を形成することであって、前記ドレイン半導体構造体は、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにおける前記キャリアを受け取るものと、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ソース半導体構造体に配置されたソース電極を形成することと、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ドレイン半導体構造体に配置されたドレイン電極を形成することと、
前記キャリアチャネルの導電率を変調するように、前記HEMTの長さに沿って前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置されたゲート電極を形成することであって、前記ゲート電極は、前記チャネル半導体構造体の前記階段状輪郭をたどって踏面及び蹴込部を有する階段形状を有するものと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記ソース電極、前記ドレイン電極、および前記ゲート電極は、電子ビーム物理蒸着(EBPVD)、ジュール蒸発、化学気相成長及びスパッタリングプロセスのうちの1つ又は組合せを使用して形成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記チャネル半導体構造体は、化学気相成長(CVD)、有機金属化学気相成長(MOCVD)、分子ビームエピタキシー(MBE)、有機金属気相成長エピタキシー(MOVPE)、プラズマ促進化学気相成長(PECVD)及びマイクロ波プラズマ堆積のうちの1つ又は組合せを使用して作製される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、高周波応用のための高電子移動度トランジスタ等の半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおいて、ケイ素(Si)及びガリウムヒ素(GaAs)等の材料は広く応用されてきた。しかしながら、これらの比較的よく知られている半導体材料は、バンドギャップが比較的小さく(例えば、室温で、Siの場合は1.12eV、GaAsの場合は1.42eV)及び/又は絶縁破壊電圧が比較的小さいため、より高出力及び/又は高周波応用にはそれほど適していない可能性がある。
【0003】
Si及びGaAsによって提示される難題を考慮して、高出力、高温及び/又は高周波応用並びにデバイスに対する関心は、炭化ケイ素(室温でα−SiCの場合は2.996eV)及びIII族窒化物(例えば、室温でGaNの場合は3.36eV)等の広バンドギャップ半導体材料に向かった。これらの材料は、通常、ガリウムヒ素及びケイ素と比較して、より高い絶縁破壊電界強度及びより高い電子飽和速度を有する。
【0004】
高出力及び/又は高周波応用に対して特に関心のあるデバイスは、高電子移動度トランジスタ(HEMT)であり、それは、或る特定の場合では、変調ドープ電界効果トランジスタ(MODFET)としても知られている。これらのデバイスは、異なるバンドギャップエネルギーを有する2つの半導体材料のヘテロ接合に2次元電子ガス(2DEG)が形成されるため、多くの環境下で動作上の利点を提供することができ、そこでは、バンドギャップの小さい材料ほど高い電子親和力を有する。2DEGは、アンドープの(「意図的にドープされていない」)、バンドギャップのより小さい材料における蓄積層であり、例えば10
13cm
−2を超える非常に高いシート電子濃度を含むことができる。さらに、バンドギャップのより広い半導体において発生する電子は2DEGに移動し、それにより、イオン化不純物散乱が低減するため高電子移動度が可能になる。
【0005】
高キャリア濃度及び高キャリア移動度のこの組合せにより、HEMTに対して非常に大きい相互コンダクタンスを与えることができ、高周波応用に対して金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)に比較して強力な性能上の利点を提供することができる。
【0006】
窒化ガリウム/窒化アルミニウムガリウム(GaN/AlGaN)材料系で製造される高電子移動度トランジスタには、上述した高い絶縁破壊電界、それらの広いバンドギャップ、大きい伝導帯オフセット及び/又は高い飽和電子ドリフト速度を含む材料特性の組合せにより、大量のRF電力を発生させる可能性がある。RFトランジスタに対する最も重要な性能指標の1つは線形性である。線形性の高いトランジスタは、低雑音増幅器(LNA)又は電力増幅器(PA)で使用される場合、消費する電力が相対的に低い。したがって、高い線形性とより高い電力密度とを有するトランジスタを設計することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いくつかの実施の形態は、トランジスタの電圧に対してg
m3値を低減させることによってトランジスタの線形性を改善することができるという認識に基づく。具体的には、g
m3に対する大きさが低いほど、線形性が高くなる。いくつかの実施の形態は、g
m3の値は閾値電圧の周囲でゼロに近いという認識に基づく。しかしながら、ゼロに近いg
m3の値を有する閾値電圧の領域は、通常、非常に小さく、こうした小さいゲート電圧範囲においてトランジスタを動作させることを略非現実的にする。
【0008】
いくつかの実施の形態は、異なる閾値電圧を有する複数のキャリアチャネルを有する一方で、それらの全てのチャネルが同じゲート電圧によって動作するように、半導体デバイスを製造することができる、という認識に基づく。さらに、閾値電圧は、1つのこうしたチャネルのg
m3が別のチャネルのg
m3を破壊的に干渉し、互いを打ち消すように、設計することができる。したがって、N個のこうした垂直に積み重ねられたチャネルを有する複合デバイスは、広範囲のゲート電圧に対してゼロに近いg
m3を提供することができる。このg
m3の破壊的干渉の現象を、本明細書では「導関数重ね合わせ(Derivative Superposition)」と呼ぶ。
【0009】
いくつかの実施の形態は、導関数重ね合わせは、層のスタックを含むチャネル半導体構造体によって達成することができ、層のスタックは、層の材料の分極の大きさの順に重なり合って配置されて、スタックにおける層の各対によって形成されたヘテロ接合において複数のキャリアチャネルを形成する、という別の認識に基づく。例えば、層のスタックは、第1の層と、スタックにおいて第1の層の下に配置された第2の層とを含む。第1の層の分極の大きさは、第2の層の分極の大きさより大きいように選択される。さらに、半導体構造体の階段状輪郭を形成するように、第1の層の幅は第2の層の幅より小さいように選択される。
【0010】
それらの実施の形態において、各チャネルの幅は変化し、チャネルの各々に対する閾値電圧は、チャネル幅の関数である。これは、このマルチチャネルピラミッドデバイスが、重なり合って垂直に積み重ねられた複数のチャネルを有し、各チャネルは異なる閾値電圧を有し、全てのチャネルが同じゲート電圧によって動作する、ということを意味する。閾値電圧は、1つのこうしたチャネルのg
m3が別のチャネルのg
m3を破壊的に干渉し、少なくとも一部には互いを打ち消すように設計される。したがって、N個のこうした垂直に積み重ねられたチャネルを有する複合デバイスは、導関数重ね合わせを用いてより広範囲のゲート電圧に対してゼロに近いg
m3を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、1つの実施の形態は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)であって、
層のスタックを含むチャネル半導体構造体であって、前記層のスタックは、前記層の材料の分極の大きさの順に重なり合って配置されて、前記スタックにおける層の各対によって形成されたヘテロ接合において複数のキャリアチャネルを形成し、前記層のスタックは第1の層及び第2の層を含み、前記第1の層の分極の大きさは、前記スタックにおいて前記第1の層の下に配置された前記第2の層の分極の大きさより大きく、前記チャネル半導体構造体の階段状輪郭を形成するように、前記第1の層の幅は前記第2の層の幅より小さい、チャネル半導体構造体と、
高濃度にドープされた半導体材料を含むソース半導体構造体であって、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにキャリアを提供するソース半導体構造体と、
前記高濃度にドープされた半導体材料を含むドレイン半導体構造体であって、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにおける前記キャリアを受け取る、ドレイン半導体構造体と、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ソース半導体構造体に配置されたソース電極と、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ドレイン半導体構造体に配置されたドレイン電極と、
前記キャリアチャネルの導電率を変調するように、前記HEMTの長さに沿って前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置されたゲート電極であって、前記
チャネル半導体構造体の前記階段状輪郭をたどって
踏面及び蹴込部を有する階段形状を有する、ゲート電極と、
を備える、HEMTを開示する。
【0012】
別の実施の形態は、高電子移動度トランジスタ(HEMT)を製造する方法であって、
基板と、層のスタックを含むチャネル半導体構造体とを準備することであって、前記層のスタックは、前記層の材料の分極の大きさの順に重なり合って配置されて、前記スタックにおける層の各対によって形成されたヘテロ接合において複数のキャリアチャネルを形成し、前記層のスタックは第1の層及び第2の層を含み、前記第1の層の分極の大きさは、前記スタックにおいて前記第1の層の下に配置された前記第2の層の分極の大きさより大きく、前記
チャネル半導体構造体の階段状輪郭を形成するように、前記第1の層の幅は前記第2の層の幅より小さい、準備することと、
前記チャネル半導体構造体をエッチングして前記トランジスタの活性領域を画定することと、
高濃度にドープされた半導体材料を含むソース半導体構造体を形成することであって、前記ソース半導体構造体は、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにキャリアを提供する、形成することと、
前記高濃度にドープされた半導体材料を含むドレイン半導体構造体を形成することであって、前記ドレイン半導体構造体は、前記チャネル半導体構造体に電気的に接続されて全てのキャリアチャネルにおける前記キャリアを受け取る、形成することと、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ソース半導体構造体に配置されたソース電極を形成することと、
各キャリアチャネルと電気的に接触するように前記ドレイン半導体構造体に配置されたドレイン電極を形成することと、
前記キャリアチャネルの導電率を変調するように、前記HEMTの長さに沿って前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に配置されたゲート電極を形成することであって、前記ゲート電極は、前記
チャネル半導体構造体の前記階段状輪郭をたどって
踏面及び蹴込部を有する階段形状を有する、形成することと、
を含む、方法を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】1つの実施の形態による半導体デバイスの3次元概略図である。
【
図1B】いくつかの実施の形態によるデバイスの幅に沿ったチャネルの中央における断面図である。
【
図1C】いくつかの実施の形態によりエピ層及びそれらの相対的な配置の選択に使用される異なるIII−N材料に対する自発分極の値の例を列挙する表である。
【
図1D】1つの実施の形態による半導体デバイスの動作を模擬する回路接続を示す図である。
【
図2A】いくつかの実施の形態による異なるフィン幅を有する複数のチャネルにより、いくつかの実施の形態による半導体デバイスの線形性がいかに改善されるかを例示するプロットである。
【
図2B】いくつかの実施の形態による異なるフィン幅を有する複数のチャネルにより、いくつかの実施の形態による半導体デバイスの線形性がいかに改善されるかを例示するプロットである。
【
図3】単一チャネルを備えたHEMTに対するg
m対V
gs曲線と、いくつかの実施の形態による提案されるピラミッドトランジスタに対するg
m対V
gs曲線とを示すプロットである。
【
図4】単一チャネルを備えたHEMTに対するg
m3対V
gs特性と、いくつかの実施の形態による提案されるピラミッドトランジスタに対するg
m3対V
gs曲線とを示すプロットである。
【
図5】単一チャネルを備えたHEMTに対するI
DS対V
gs特性と、いくつかの実施の形態による提案されるピラミッドトランジスタに対するI
DS対V
gs曲線とを示すプロットである。
【
図6】1つの実施の形態によるHEMTのソース電極、ゲート電極及びドレイン電極の相対的な配置を示す図である。
【
図7】いくつかの実施の形態による半導体デバイスを製造する方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1Aは、1つの実施の形態による半導体デバイスの3D概略図を示す。半導体デバイスは、ソース電極110と、ドレイン電極120と、外部電源に電気的に接続するゲート電極130とを含む。ソース電極の真下の半導体領域はソース領域140と呼び、ドレイン電極の真下の半導体領域はドレイン領域150と呼び、ゲート電極の真下の半導体領域はチャネル領域160と呼ぶ。ここでは、チャネル領域は、複数のヘテロ構造を含み、複数のヘテロ構造は複数の2DEGチャネルを形成するようになっている。同じゲート電極を備えたこれらの垂直に積み重ねられた複数のチャネルの導電率を変調するためにチャネル領域に、複数の
踏面及び蹴込部を含むピラミッド状構造体が形成されている。
【0015】
このように、
図1Aの半導体デバイスは、高電子移動度トランジスタ(HEMT)である。
HEMTのチャネル領域160は、層のスタックを含むチャネル半導体構造体によって形成されており、層のスタックは、層の材料の分極の大きさの順に重なり合って配置されて、スタックにおける層の各対によって形成されたヘテロ接合に複数のキャリアチャネルを形成する。ソース領域140は、高濃度にドープされた半導体材料を含むソース半導体構造体によって形成され、ソース半導体構造体は、チャネル半導体構造体に電気的に接続されて、全てのキャリアチャネルにキャリアを提供する。同様に、ドレイン領域150は、高濃度にドープされた半導体材料を含むドレイン半導体構造体によって形成され、ドレイン半導体構造体は、チャネル半導体構造体に電気的に接続されて、全てのキャリアチャネルにおけるキャリアを受け取る。
【0016】
図1AのHEMTでは、ソース電極110は、ソース半導体構造体140の上に配置されて、各キャリアチャネルと電気的に接触し、ドレイン電極120は、ドレイン半導体構造体の上に配置されて、各キャリアチャネルと電気的に接触する。ゲート電極130は、HEMTの長さに沿ってソース電極とドレイン電極との間に配置されて、キャリアチャネルの導電率を変調する。
【0017】
様々な実施の形態において、チャネル半導体構造体は、チャネル半導体構造体の階段状輪郭を形成する異なる幅の層のスタックを含む。そのために、ゲート電極130もまた、チャネル半導体構造体の階段形状をたどる
踏面及び蹴込部を有する階段形状を有する。
【0018】
図1Bは、1つの実施の形態による半導体デバイスのチャネル半導体構造体によって形成されたチャネル領域の断面を示す。異なる実施態様では、チャネル半導体構造体は、層のスタック、例えば、第1の層と、スタックにおいて第1の層の下に配置された第2の層とを含む。第1の層の分極の大きさは第2の層の分極の大きさより大きく、半導体構造体の階段状輪郭を形成するように、第1の層の幅は第2の層の幅より小さい。
【0019】
この例では、チャネル領域は3つのヘテロ構造、すなわち、層101と層102との間に形成された第1のヘテロ構造、層102と層103との間に形成された第2のヘテロ構造、及び層103と層104との間に形成された第3のヘテロ構造を含む。各ヘテロ構造界面は、2DEG(2次元電子ガス)チャネル199、188及び177を形成する。異なる実施の形態は、N+1個の異なるIII−N層とともにN個の2DEGチャネルを有することができる。異なる実施の形態では、III−N層の全てが、層の自発分極の大きさがその層の真下の層の分極の大きさより高いという条件を満たす。
【0020】
図1Cは、いくつかの実施の形態によりエピ層及びそれらの相対的な配置の選択のために使用される異なるIII−N材料に対する自発分極の値の例を列挙する表190を示す。例えば、通常、Ga面III−N材料の分極は負である。異なる自発分極の2つのIII−N材料が重なり合って成長する場合、自発分極電荷の絶対値に応じて、界面に2DEG(2次元電子ガス)チャネル又は2DHG(2次元正孔ガス)チャネルのいずれかが形成される。上部で成長したIII−N材料が、すぐ下の材料より高い自発分極の絶対値を有する場合、2DEGが生じ、状況が反対である場合、代わりに2DHGが生じる。三元半導体の分極は、ヴェガード則191によって見つけることができる。
【0021】
いくつかの実施の形態では、各チャネルの幅は変化し、チャネルの各々に対する閾値電圧はチャネル幅の関数である。これは、いくつかの実施の形態によるHEMTが、重なり合って垂直に積み重ねられた複数のチャネルを有し、各チャネルが異なる閾値電圧を有し、チャネルの全てが同じゲート電圧によって動作する、ということを意味する。特定のキャリアチャネルの閾値電圧は、チャネルにおける2DEG濃度によって決まる(通常、キャリア濃度が上昇することにより、閾値電圧ははるかに負の領域まで移動する)とともに、チャネルのフィン幅によって決まる(フィン幅が低減することにより、閾値電圧は正の領域に向かって移動する)。
【0022】
図1A及び
図1Bの例示的なデバイスは、177、188及び199と符号が付されている3つの2DEGチャネルを含む。これらのチャネルの各々の幅は異なり、したがって、いくつかの実施の形態によりトランジスタの線形性を改善するために使用される閾値電圧の変動に寄与する。上述したように、III−N層の各々は、上部の層がその真下の層より高い分極の絶対値を有するように選択される。こうした選択により、2DEGチャネル177、188及び199が異なるキャリア濃度を有することが確実になる。2DEGキャリア濃度の変動は、閾値電圧変動にも寄与する。したがって、回路の観点から、
図1A及び
図1Bに描くトランジスタ構造体は、各々が異なる閾値電圧を有するが同じゲート電圧によって動作する、3つの異なるトランジスタの並列の組合せとみなすことができる。
【0023】
図1Dはこうした回路接続を示し、トランジスタT177、T188及びT199が、2DEGキャリアチャネル177、188及び199によってそれぞれ形成されたトランジスタを表す。
【0024】
閾値電圧は、1つのこうしたチャネルのg
m3が別のチャネルのg
m3を破壊的に干渉し、互いを打ち消すように、設計されている。したがって、N個のこうした垂直に積み重ねられたチャネルを有する複合デバイスは、非常に高範囲のゲート電圧に対してゼロに近いg
m3を提供することができる。このg
m3の破壊的干渉の現象を、本明細書では「導関数重ね合わせ」と呼ぶ。
【0025】
いくつかの実施態様では、チャネル半導体構造体の材料は、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)、窒化アルミニウムガリウム(AlGa
N)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)、アルミニウムヒ素(AlAs)及びインジウムアルミニウムガリウムヒ素(InAlGaAs)のうちの1つ又は組合せを含む。さらに又は代替的に、ソース半導体領域及びドレイン半導体領域は、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)のうちの1つ又は組合せを含む。
【0026】
いくつかの実施態様では、半導体デバイスは、ゲート電極130とチャネル領域160を形成するチャネル半導体構造体との間に配置された、誘電体の層107を含む。1つの実施の形態では、領域107の材料としては、二酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素(Si
xN
y)、酸化窒化ケイ素水素(silicon oxide nitride hydrogen)(Si
xO
yN
zH
w)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)を挙げることができるが、それらに限定されない。誘電体領域層107は、パッシベーション層として形成することができる。さらに又は代替的に、いくつかの実施態様では、半導体デバイスは、半導体デバイスに機械的安定性を提供するように、バッファー層105及び基板106を含む。
【0027】
図2A及び
図2Bは、チャネル領域にピラミッド形状を有する垂直に積み重ねられたマルチチャネルHEMTにより、半導体デバイスの線形性がいかに改善されるかを例示するプロットを示す。g
m3は、以下の式によって数学的に定義され、
【0029】
任意のトランジスタの線形性の顕著な特徴である。g
m3の大きさが低いほど、線形性は高くなる。
【0030】
図2Aは、トランジスタのg
m3対V
gsゲート電圧のプロットを示す。この曲線で留意すべきことは、いかなるg
m3曲線も、201と符号が付されている1つの正の領域(陰影付けされている)と、202と符号が付されている1つの負の領域(陰影付けされていない)とを有する、ということである。正の領域から負の領域への移行は、閾値電圧の周囲で発生する。この図において203と符号が付されている領域は、ゼロに近いg
m3値を有するため、動作に対して理想的な領域である。しかしながら、問題は、V
gs軸に沿ったこの領域の広がりが非常に小さく、こうした小さいゲート電圧範囲でトランジスタを動作させることを略不可能にするということである。
【0031】
図2Bは、
図1Bにそれぞれ示す2つの垂直に積み重ねられたチャネル199及び188に対するg
m3対V
gsプロット210及び220を示す。ここでは、チャネルの(各チャネルの幅の関数である)閾値電圧は、
チャネル199のg
m3曲線の負の領域が
チャネル188のg
m3曲線の正の領域とオーバーラップするように(正:in such a way)設計されている。したがって、これらの2つの垂直に積み重ねられたチャネルのみを有するトランジスタは、230と符号が付されている曲線のようなg
m3曲線を有することになる。留意すべき1つのことは、g
m3値がゼロ又はゼロに近いゲート電圧領域が強化されているということである。この種のg
m3の破壊的干渉を「導関数重ね合わせ」と呼ぶ。
【0032】
図3は、従来の単一チャネルHEMTに対するg
m対V
gs曲線(320と符号が付されている)と、いくつかの実施の形態による、2DEGチャネルの各々に対して異なる閾値電圧を促進するようにピラミッド形状を有する垂直に積み重ねられたマルチチャネルを備えるHEMTに対する、g
m対V
gs曲線(310と符号が付されている)とを示す。いくつかの実施の形態は、トランジスタの線形性が、ゲート電圧に対する相互コンダクタンスの上昇によって決まるという認識に基づく。相互コンダクタンスが徐々に増大することにより高い線形性がもたらされ、一方で、相互コンダクタンスが急速に増大することにより、線形性が低くなる。この図に示すように、いくつかの実施の形態の原理を採用するトランジスタの相互コンダクタンス310は、相互コンダクタンスと比較して低速に上昇する。この例では、3つの異なるチャネルのみが使用されている。しかしながら、より多くの垂直に積み重ねられたチャネルにより、更に高い線形性がもたらされる。さらに、いくつかの実施の形態のデバイスのピークg
mは、従来のHEMTのピークg
mより高い値を有し、これは、そのいくつかの実施の形態のデバイスの複数のチャネルに起因する可能性がある。
【0033】
図4は、従来のHEMTのg
m3対V
gs特性420とともに、いくつかの実施の形態によるトランジスタのg
m3対V
gs特性410のプロットを示す。上述したように、g
m3は、デバイスの線形性の指標であり、高い線形性は低いg
m3を指す。理想的な線形トランジスタは、ゼロに非常に近いg
m3を有するべきである。この例から、いくつかの実施の形態によるトランジスタのg
m3は、従来のHEMTのg
m3より小さいことが極めて明白である。
【0034】
図5は、従来のHEMTのI
DS対V
gs特性520とともに、いくつかの実施の形態によるトランジスタのI
DS対V
gs特性510のプロットを示す。ここで留意すべき510の2つの特有の特徴は、以下の通りである。すなわち、(i)相対的に低いゲート電圧では、510におけるドレイン電流は520と比較して低速に上昇し、上述したように、トランジスタ性能においてより高い線形性をもたらし、(ii)ピークドレイン電流値は520より510の方が高く、これは、複数のチャネルが同じ印加電圧によって動作しているためである。いくつかの実施の形態のデバイスは、ソース端子及びドレイン端子において並列に接続された複数のトランジスタを有する複合トランジスタとみなすことができ、それらのゲート端子は互いに結合されている。
【0035】
図6は、ソース電極、ゲート電極及びドレイン電極の相対的な配置を示す、1つの実施の形態によるデバイスの上面図を示す。この実施の形態では、ソースとゲートとの間の距離L
SDは、ゲートとドレインとの間の距離L
GDより
小さい。いくつかの実施態様では、L
SDが大きいことによりソース抵抗が増大し、それにより、デバイスの線形性が低減するため、L
SDは可能な限り小さくなければならない。しかしながら、カットオフ周波数を低減させる寄生容量を増大させるため、L
SDはそれほど小さくすることができない。ほとんどの応用では、L
SDは500nm未満である。L
GDは、デバイスの絶縁破壊電圧によって決まる。絶縁破壊電圧を高くするためには、L
GDが大きい必要がある。L
GDはまた、チャネルを形成するために使用される半導体の材料特性によって決まり、広バンドギャップ材料は、比較的小さいL
GDでより高い絶縁破壊電圧を与える。例えば、デバイスの絶縁破壊電圧がV
BRである場合、GaN系デバイスの
【0037】
である。いかなるRFトランジスタの絶縁破壊電圧も、最大RF出力電力
【0039】
と直接関係がある。したがって、絶縁破壊電圧が高いことにより、より高い出力電力が得られる。
【0040】
図7は、いくつかの実施の形態による半導体デバイスを製造する方法のブロック図を示す。本方法は、基板を準備すること(710)と、少なくとも2つのヘテロ構造を備えた半導体構造体を作製すること(720)とを含む。ヘテロ構造の材料は、ヘテロ構造の各々の界面に2DEGチャネルが形成されるように選択される。いくつかの実施の形態によれば、限定されないが、化学気相成長(CVD)、有機金属化学気相成長(MOCVD)、分子ビームエピタキシー(MBE)、有機金属気相成長エピタキシー(MOVPE)及びプラズマ促進化学気相成長(PECVD)並びにマイクロ波プラズマ堆積システムを含む、様々な方法を、これらのヘテロ構造半導体層の成長及び形成に適合させることができる。
【0041】
本方法は、次いで、ウェットエッチング又はドライエッチングによりトランジスタの活性領域を画定すること(730)を含む。
【0042】
本方法は、ソース半導体領域及びドレイン半導体領域の形成740を更に含み、この形成は、ソース領域及びドレイン領域からヘテロ構造を選択的にエッチングすることと、その後のソース領域及びドレイン領域における適切な半導体の選択的な堆積とによって行うことができる。
【0043】
さらに、方法はまた、チャネル領域におけるピラミッド構造体の形成750も含み、この形成は、ドライエッチング法及びウェットエッチング法のうちの一方又は組合せによって行うことができる。
【0044】
さらに、本方法はまた、電子ビーム蒸着、ジュール蒸発(joule evaporation)、化学気相成長及びスパッタリングプロセスのうちの1つ又は組合せを使用して、キャリアチャネルに電気的に接続するためのソース電極及びドレイン電極の形成760も含む。そして、真空又はN2環境において、サンプルを、800℃を超えて焼きなましてオーミック接触を形成する。
【0045】
さらに、方法はまた、チャネル領域からゲート金属を絶縁するためのゲート誘電体の堆積770も含み、これにより、ゲート漏れが低減し、トランジスタのRF性能が向上する。その後、リソグラフィ→金属蒸着→リフトオフ、及び金属蒸着→リソグラフィ→エッチングのうちの1つ又は組合せを用いることによって、ゲート金属蒸着が行われる。
【0046】
ここで、リソグラフィは、限定されないが、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィを含み、これらを使用して実施することができる。金属蒸着は、電子ビーム蒸着、ジュール蒸発、化学気相成長及びスパッタリングプロセスのうちの1つ又は組合せを使用して行うことができる。