(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
<実施の形態1>
以下、本発明の実施の形態1に係る半導体装置が、半導体材料としてSiCを含む、プレーナゲート型のSiC−RC−IGBTである例について説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態1に係る半導体装置A1の構成を示す断面図である。
図1に示すように、半導体装置A1は、IGBTとして機能するIGBT領域IGと、FWDとして機能するFWD領域FWとが規定された、SiCを含むSiC−RC−IGBTである。なお、IGBT領域IGとFWD領域FWとは互いに隣接しているが、これに限ったものではない。
【0023】
図1の半導体装置A1は、半導体層5と、半導体領域2と、第1導電型のカソード領域3と、コレクタ電極1と、第2導電型のベース領域6と、第1導電型のエミッタ領域7と、第2導電型のベースコンタクト領域8と、ゲート電極9と、層間絶縁膜10と、エミッタ電極11とを備える。半導体層5は、第1導電型のドリフト層5aと、第1導電型のフィールドストップ層(FS層)5bとを含み、半導体領域2は、第2導電型のコレクタ領域2aを含む。
【0024】
なお、本実施の形態1では、第1方向は下方向、第1方向と逆方向である第2方向は上方向、ドリフト層5aの下方向側の表面はC面、ドリフト層5aの上方向側の表面はSi面、第1導電型はn型、第2導電型はp型であるものとする。また、以下の説明では、各層または各領域の下方向側の表面を「下面」、上方向側の表面を「上面」と記すこともある。
【0025】
FS層5bは、IGBT領域IGにおいてドリフト層5aと半導体領域2のコレクタ領域2aとの間に隣接して配設されている。また、FS層5bは、FWD領域FWにおいてドリフト層5aとカソード領域3との間に隣接して配設されている。
【0026】
半導体領域2のコレクタ領域2aは、IGBT領域IGにおいて、半導体層5のFS層5bと下方向に隣接して配設されている。カソード領域3は、FWD領域FWにおいて、半導体層5のFS層5bと下方向に隣接して配設されている。コレクタ電極1は、半導体領域2のコレクタ領域2aとカソード領域3とに接続されている。
【0027】
ベース領域6は、IGBT領域IG及びFWD領域FWにおいて、ドリフト層5aの上面内に選択的に配設されている。ベースコンタクト領域8は、IGBT領域IG及びFWD領域FWにおいて、ベース領域6の上面内に選択的に配設されている。エミッタ領域7は、IGBT領域IGにおいて、ベース領域6の上面内にベースコンタクト領域8と隣接して配設されている。ゲート電極9は、エミッタ領域7の一部及びベースコンタクト領域8以外のベース領域6上に層間絶縁膜10を介して配設されており、当該ベース領域6にチャネルを形成可能である。エミッタ電極11は、エミッタ領域7及びベースコンタクト領域8に接続されている。
【0028】
ドリフト層5aの不純物濃度及び厚み、つまり半導体装置A1の厚み方向の長さは、それぞれ1×10
13cm
−3以上1×10
15cm
−3以下、及び、100μm以上300μm以下の範囲内であることが望ましい。ドリフト層5aの厚みを100μm以上とする理由は、ドリフト層5aの厚みが半導体装置の耐圧性能に資するためである。例えば、半導体装置の耐圧を13kVに確保するためには、ドリフト層5aの不純物濃度及び厚みが、それぞれ2×10
14cm
−3、及び、100μmなどであればよい。
【0029】
また、ドリフト層5aのZ
1/2センターの密度は、5×10
11cm
−3以下であることが望ましい。ここで、Z
1/2センターとは、SiC結晶中の炭素空孔が関連する点欠陥のことを指す。Z
1/2センターが、SiCにおいてライフタイムキラー(キャリア再結合中心)となることは、一般的によく知られている事実である。Z
1/2センター密度が高くなると、SiC中のキャリア寿命が短くなって、伝導度変調効果が促進されず、オン電圧の低い半導体装置が得られない。このため長いキャリア寿命を得るという観点からはZ
1/2センター密度は低いほど好ましいが、半導体装置のスイッチング特性を考慮すれば、Z
1/2センター密度は1×10
10cm
−3以上であることが望ましい。なお、Z
1/2センター密度は、例えばDLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)法、ICTS(Iso−thermal Capacitance Transient Spectroscopy)法などにより測定することができる。
【0030】
ドリフト層5aのキャリア寿命は、3μs以上50μs以下の範囲内であることが望ましい。なお、キャリア寿命は、例えばμ−PCD(Microwave Photo Conductivity Decay)法、PL(Photo Luminescence)法、FCA(Free Carrier Absorption)法などにより測定することができる。Z
1/2センター密度を上記範囲内とすることで、キャリア寿命を上記範囲内にすることができ、その結果として、低オン電圧、かつ、低ターンオフ損失の半導体装置が実現できる。
【0031】
ドリフト層5aの下面上には、FS層5bが配設されている。FS層5bの不純物濃度及び厚みは、それぞれ1×10
16cm
−3以上1×10
18cm
−3以下、及び、1μm以上10μm以下の範囲内であることが望ましい。FS層5bは、半導体装置のオフ時におけるドリフト層5aでの空乏層の伸展を抑制する層として機能する。例えば、半導体装置の耐圧を13kVに確保するためには、ドリフト層5aの不純物濃度及び厚みが、それぞれ2×10
14cm
−3、及び、100μmなどであり、FS層5bの不純物濃度及び厚みが、それぞれ7×10
16cm
−3、及び、2μmなどであればよい。
【0032】
FS層5bの不純物濃度のプロファイルは、半導体装置の厚み方向に一定である「ボックスプロファイル」であってもよく、半導体装置の厚み方向に勾配をつける「傾斜(またはグラディエント)プロファイル」であってもよい。なお、ドリフト層5aの不純物濃度を高くすること、及び、ドリフト層5aの厚みを厚くすることの少なくともいずれか1つが実現された構成では、半導体装置のオフ時におけるドリフト層5aでの空乏層の伸展を抑制する必要がない場合がある。このような場合には、半導体層5はFS層5bを含まなくてもよく、ドリフト層5aが、半導体領域2のコレクタ領域2a及びカソード領域3に隣接していてもよい。
【0033】
半導体領域2のコレクタ領域2aは、FS層5bと下方向に隣接して配設されたエピタキシャル成長層である。当該コレクタ領域2aの不純物濃度及び厚みは、それぞれ1×10
17cm
−3以上5×10
18cm
−3以下、及び、0.5μm以上3μm以下の範囲内であることが望ましい。
【0034】
カソード領域3は、FS層5bと下方向に隣接して配設されている。当該カソード領域3の不純物濃度は、1×10
18cm
−3以上1×10
20cm
−3以下の範囲内であることが望ましい。また、カソード領域3の厚みは、コレクタ領域2aの厚みよりも大きい。例えば、コレクタ領域2aの厚みが2μmである場合、カソード領域3の厚みは3μmなどである。
【0035】
なお、コレクタ領域となる半導体形成層の、FWD領域FW側の露出している表面からイオン注入を行うことによってカソード領域3が形成される場合には、「カソード領域3の厚み」は、半導体装置の厚み方向の不純物濃度分布において、カソード領域3の下面から不純物濃度の最大ピーク位置までの長さ(イオン注入深さ)であると定義する。段階的に注入エネルギーを例えば高から低へ変化させる多段イオン注入法によってカソード領域3が形成される場合には、「カソード領域3の厚み」は、最大の注入エネルギーにより形成される不純物濃度分布において、カソード領域3の下面から不純物濃度の最大ピーク位置までの長さ(イオン注入深さ)であると定義する。
【0036】
コレクタ電極1は、コレクタ領域2a、及び、カソード領域3とオーミック性接触を有する。
【0037】
ドリフト層5aの上面内には、ベース領域6、エミッタ領域7、ベースコンタクト領域8が配設されている。ベース領域6、エミッタ領域7、及び、ベースコンタクト領域8の不純物濃度は、それぞれ、1×10
17cm
−3以上1×10
19cm
−3以下、1×10
18cm
−3以上1×10
20cm
−3以下、及び、1×10
19cm
−3以上1×10
21cm
−3以下の範囲内であることが望ましい。また、ベース領域6、エミッタ領域7、及び、ベースコンタクト領域8の不純物濃度のプロファイルは、半導体装置の厚み方向に一定とである「ボックスプロファイル」であってもよく、半導体装置の厚み方向に勾配をつける「傾斜(もしくはグラディエント)プロファイル」または「レトログレードプロファイル」であってもよい。
【0038】
ベース領域6、エミッタ領域7、及び、ベースコンタクト領域8の厚みは、それぞれ、0.5μm以上3μm以下、0.2μm以上1μm以下、及び、0.2μm以上1μm以下の範囲内であることが望ましい。ゲート電極9は、ゲート絶縁膜として機能する層間絶縁膜10によってベース領域6から離間して配設されている。エミッタ電極11は、エミッタ領域7及びベースコンタクト領域8のそれぞれの上面に配設され、かつ、層間絶縁膜10によってゲート電極9から離間して配設されている。
【0039】
<製造方法>
次に、本実施の形態1に係る半導体装置A1、つまりプレーナゲート型SiC−RC−IGBTの製造方法について説明する。
【0040】
図2に示すように、第1導電型のSiC基板であるSiC支持基板100の主面(Si面)上に、第1導電型の第1半導体形成層35aを、エピタキシャル成長法により形成する。第1半導体形成層35aは、以下に説明する工程を経てドリフト層5aになる。以下、第1半導体形成層35aとドリフト層5aとは実質的に同じであるものとして説明する。
【0041】
なお、SiC支持基板100と第1半導体形成層35aとの間に、第1半導体形成層35aよりも不純物濃度の高い第1導電型または第2導電型のバッファ層(図示せず)を形成してもよい。これにより、SiC支持基板100に含まれる結晶欠陥であるBPD(Basal Plane Dislocation)を、バッファ層でTED(Threading Edge Dislocation)に転換することによって、BPDを含まない、または、BPDの密度が極めて小さい第1半導体形成層35aを実現できる。
【0042】
次に、SiC支持基板100の下面(C面)に対して、研削(グラインディング)、研磨(ポリッシング)、化学的機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)、もしくは、これらの方法の組み合わせ、または、その他の方法による加工処理を施し、SiC支持基板100を除去する。
【0043】
これにより、
図3に示すように、SiC支持基板100が除去され、第1半導体形成層35aの下面(C面)が露出する。第1半導体形成層35aの厚みは、上述した加工処理前後で同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
次に、第1半導体形成層35aの下面及び上面の少なくともいずれか一方に格子間炭素誘起イオンを導入する処理を施す。当該処理は、単一の注入エネルギーで行ってもよく、段階的に例えば高から低へ変化させた注入エネルギーで行ってもよい。格子間炭素誘起イオンは、例えば、炭素、珪素、水素及びヘリウムの少なくともいずれか1つのイオンを含む。本実施の形態1では、第1半導体形成層35aの下面及び上面に対して、格子間炭素誘起イオンとして、炭素イオンを注入するが、これに限ったものではない。
【0045】
図4に示すように、上述した炭素イオン注入により、余剰な格子間炭素原子が存在する領域である余剰格子間炭素含有領域35cが形成される。当該炭素イオン注入におけるイオン注入ドーズ量は、1×10
13cm
−2〜1×10
16cm
−2の範囲内であることが望ましく、注入エネルギーは10keV〜10MeVの範囲内であることが望ましい。また、当該炭素イオン注入における第1半導体形成層35aの温度は、10℃〜1000℃の範囲内であることが望ましく、500℃〜800℃の範囲内であることがより望ましい。当該炭素イオン注入におけるイオン注入ドーズ量及び注入エネルギーの少なくともいずれか1つは、第1半導体形成層35aの下面及び上面に関して互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0046】
次に、余剰格子間炭素含有領域35cを含む第1半導体形成層35aに対して熱処理を施す。これにより、余剰な格子間炭素原子が第1半導体形成層35aの内部に拡散し、第1半導体形成層35aに存在するZ
1/2センターと結合することによって、ドリフト層5aが形成される。当該熱処理の温度は、1000℃〜2000℃の範囲内であることが望ましく、1500℃〜1700℃の範囲内であることがより望ましい。本実施の形態1では、第1半導体形成層35aの下面及び上面に対して炭素イオン注入を施し、続く熱処理によって余剰な格子間炭素原子を第1半導体形成層35aの内部に拡散させているので、ドリフト層5aの厚み方向におけるZ
1/2センター密度は、ドリフト層5aの中央部で最大値をとり、ドリフト層5aの下面または上面に向かうにつれ減少する。低オン電圧、かつ、低ターンオフ損失の半導体装置を実現するためには、ドリフト層5aのZ
1/2センター密度は1×10
10cm
−3以上5×10
11cm
−3以下の範囲内であることが望ましく、ドリフト層5aのキャリア寿命は、3μs以上50μs以下の範囲内であることが望ましい。
【0047】
なお、以上の説明では、ドリフト層5aにおけるZ
1/2センター密度を低減するために、炭素イオン注入及び熱処理を施す方法を説明した。Z
1/2センター密度を低減する方法は、しかしこれに限ったものではなく、例えば、第1半導体形成層35aを熱酸化することにより、熱酸化の過程で生じる余剰な格子間炭素原子を第1半導体形成層35aの内部に拡散させる方法を用いてもよい。
【0048】
次に、ドリフト層5aの下面及び上面に対して、研削、研磨、CMP、RIEなどの方法による加工処理を施す。これにより、炭素イオン注入により生成された注入欠陥を含むダメージ層を除去することができ、半導体装置のリーク電流を低減することができる。当該加工処理による除去量は、0.5μm以上30μm以下の範囲内であることが望ましく、3μm以上10μm以下の範囲内であることがより望ましい。
【0049】
次に、ドリフト層5aの下面上に、FS層5bと、第2導電型の第2半導体形成層32aとを、エピタキシャル成長法によりこの順に形成する。第2半導体形成層32aは、以下に説明する工程を経てコレクタ領域2aになる。以下、第2半導体形成層32aとコレクタ領域2aとは実質的に同じであるものとして説明する。
【0050】
上記エピタキシャル成長法により、
図5に示すように、ドリフト層5a/FS層5b/第2半導体形成層32aの積層構造が形成される。なお、エピタキシャル成長法によって形成される第2半導体形成層32aの不純物元素としてアルミニウムを用いる場合、ドリフト層5aの下面におけるアルミニウムの取り込み効率が低いので、ドリフト層5aの不純物濃度の上限が高々5×10
18cm
−3に制限される。第2半導体形成層32a、ひいては第2半導体形成層32aから形成されるコレクタ領域2aが、エピタキシャル成長法及びイオン注入法のいずれで形成されているかは、例えばTEM(Transmission Electron Microscope)などによる解析を行うことで判別できる。コレクタ領域2aがイオン注入法で形成されている場合には、pn接合部の近傍の断面TEM像において、注入欠陥に起因するコントラストが生じるが、本実施の形態1のようにコレクタ領域2aがエピタキシャル成長法で形成されている場合には、上記コントラストは生じない。
【0051】
次に、ドリフト層5aの上面の予め定められた領域に対してイオン注入を施す。これにより、
図6に示すように、ドリフト層5aの上面内の予め定められた領域に、ベース領域6、エミッタ領域7、及び、ベースコンタクト領域8が形成される。当該イオン注入は、単一の注入エネルギーで行ってもよく、段階的に例えば高から低へ変化させた注入エネルギーで行ってもよい。また、予め定められた領域にイオン注入を施すために、イオン注入は注入マスクを介して行う。注入マスクとしては、例えば写真製版用のフォトレジストや酸化膜を用いる。当該イオン注入に用いられる不純物元素としては、第1導電型を実現する場合には、例えばリン、窒素などが用いられ、第2導電型を実現する場合には、例えばアルミニウム、ボロンなどが用いられる。
【0052】
次に、
図7に示すように、第2半導体形成層32aのFWD領域FW側の露出している下面から、FS層5bの下部までの予め定められた領域にカソード領域3を形成し、残りの第2半導体形成層32aをコレクタ領域2aとして形成する。本実施の形態1では、カソード領域3は第1導電型のイオン注入を行うことによって形成される。具体的には、カソード領域3は、第2半導体形成層32aに対するカウンタードーピングによって形成される。カウンタードーピングとは、対象となる領域が元来有している導電型と反対の導電型を実現するための不純物元素をイオン注入する方法である。
【0053】
ここで、カソード領域3とFS層5bとの非接触を抑制するために、第2半導体形成層32aの厚みよりも深い位置までイオン注入を施す。これは、カウンタードーピングにより形成されるカソード領域3の厚みが、コレクタ領域2aの厚みよりも必然的に大きくなることを意味する。カソード領域3とFS層5bとの非接触を抑制する理由は、デバイス不良に起因する半導体装置の製造コスト増大を防ぐためである。仮に、カソード領域3とFS層5bとの間に、第2半導体形成層32aが残存すると、本来のFWDとしての機能(ドリフト層5a内の過剰キャリアをコレクタ側へ戻す機能)が損なわれるため、SiC−RC−IGBTとして動作せず、デバイス不良となる。そこで本実施の形態1では、カソード領域3の厚みが、コレクタ領域2aの厚みよりも厚くなるように、注入エネルギーを選択してイオン注入を施す。
【0054】
カソード領域3を形成するためのイオン注入において、不純物元素が窒素である場合、実用的な注入エネルギー範囲である10keV〜3MeVにおける注入深さは100nm〜3μm程度である。この場合、第2半導体形成層32aの厚みが3μmよりも厚くなると、カウンタードーピングによりカソード領域3を形成することが困難になる。したがって、イオン注入法によりカソード領域3を形成する場合には、第2半導体形成層32aの厚みの上限は3μmに制限されることが望ましい。
【0055】
続いて、イオン注入された不純物元素を活性化させるための熱処理を施す。当該熱処理の温度は1400℃〜1800℃の範囲内であることが望ましい。ただし、当該熱処理により、熱平衡状態でSiC結晶中の炭素空孔が発生して、Z
1/2センター密度が高くなってしまう(ドリフト層5aのキャリア寿命が短くなってしまう)ことがある。そこで、このことを抑制するため、熱処理の温度は1650℃以下であることがより望ましい。
【0056】
次に、
図8に示すように、以上によって得られた構造体を酸素雰囲気中で熱酸化することで、ドリフト層5aなどの上面上にゲート絶縁膜200を形成する。ゲート絶縁膜200の厚みは、例えば10nm以上100nm以下の範囲内であることが望ましい。当該熱酸化において、コレクタ領域2a、及び、カソード領域3が熱酸化されることを抑制するために、これらが露出している面をTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)膜などの堆積酸化膜などで保護してもよい。本実施の形態1では、ゲート絶縁膜200としてSiCの熱酸化膜を用いたが、高温シリコン酸化膜(High Temperature Oxide:HTO)、アルミニウム酸化膜(Al
2O
3)、ハフニウム酸化膜(Hf
2O
3)などの各種堆積膜をゲート絶縁膜200として用いてもよい。
【0057】
続いて、ゲート絶縁膜200上の予め定められた領域に、堆積膜としてゲート電極9を形成する。ゲート電極9の材料としては、例えばpoly−Siが用いられる。これにより、
図8に示すように、ゲート絶縁膜200によってベース領域6から離間されたゲート電極9が形成される。
【0058】
続いて
図9に示すように、ゲート電極9の上部及び側部上に、堆積膜として、ゲート絶縁膜200と接続された絶縁膜を形成することによって層間絶縁膜10を形成し、その後、エミッタ電極11を形成する。層間絶縁膜10のうち
図9の工程で形成される絶縁膜としては、例えばTEOSなどを用いる。エミッタ電極11は、例えばアルミニウム、チタン、ニッケル、金、銀、銅、もしくは、それらの合金、または、それらの積層構造を含む。エミッタ電極11は、例えば電子ビーム蒸着法やスパッタ法を用いて形成される。これにより、
図9に示すように、層間絶縁膜10によってゲート電極9から離間されたエミッタ電極11が形成される。エミッタ電極11は、エミッタ領域7、及び、ベースコンタクト領域8とオーミック性接触を有している。
【0059】
最後に、
図10に示すように、コレクタ領域2a及びカソード領域3の露出面に、コレクタ電極1を形成する。これにより、ドリフト層5aなどに関してエミッタ電極11の逆側にコレクタ電極1が形成される。コレクタ電極1の材料及び形成方法は、エミッタ電極11と同様である。コレクタ電極1は、コレクタ領域2a、及び、カソード領域3とオーミック性接触を有している。以上によって、
図1の半導体装置A1が完成する。
【0060】
<実施の形態1のまとめ>
本実施の形態1に係る半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、pn接合部(FS層5bとコレクタ領域2aとの界面)の近傍には注入欠陥が生成されない。このため、半導体装置のオン時における少数キャリア注入の阻害を抑制することができるので、伝導度変調効果が促進され、低オン電圧なSiC−RC−IGBTを実現できる。さらに本実施の形態1では、カソード領域3の厚みがコレクタ領域2aの厚みよりも厚い。このため、FS層5bとカソード領域3との間における第2半導体形成層32aの残存、ひいてはデバイス不良を抑制することができるので、製造コストが安価なSiC−RC−IGBTを実現できる。
【0061】
なお、本実施の形態1では、ベース領域6、エミッタ領域7及びベースコンタクト領域8はイオン注入法を用いて形成されているが、これらの一部、または、全部は、エピタキシャル成長法を用いて形成されてもよい。また、格子間炭素誘起イオン注入、余剰な格子間炭素原子を第1半導体形成層35aの内部に拡散させるための熱処理、ダメージ層除去のための加工処理を施すタイミングは、適宜に変更が可能である。具体的には、これら処理のタイミングは、FS層5b及び第2半導体形成層32aをエピタキシャル成長法で形成した後であってもよく、ベース領域6、エミッタ領域7及びベースコンタクト領域8をイオン注入で形成した後であってもよい。
【0062】
<変形例>
実施の形態1では、カソード領域3をイオン注入法(カウンタードーピング)で形成する場合を説明したが、ここでは、変形例として、カソード領域3をエピタキシャル成長法で形成する場合を説明する。
【0063】
本変形例では、ドリフト層5aの下面に、FS層5b及び第2半導体形成層32aを、エピタキシャル成長法によりこの順に形成する工程を行った後、第2半導体形成層32aの下面にRIEなどの加工処理を施すことによって、FWD領域FW側の第2半導体形成層32aを除去する。ここで重要なのは、第2半導体形成層32aの除去によってFS層5bを露出させ、FS層5bの下部も除去すること、つまり、加工処理による除去の厚みがコレクタ領域2aの厚みよりも大きいことである。
【0064】
続いて、FS層5b及びコレクタ領域2aが露出している面に、カソード領域3をエピタキシャル成長法で形成する。なお、エピタキシャル成長法によって形成されるカソード領域3の不純物元素としては、例えば窒素を用いる。
【0065】
続いて、カソード領域3が露出している下面に対して、研磨、CMPなどの方法による加工処理を施す。これにより、コレクタ領域2aの下面上に成長された余分なエピタキシャル成長膜を除去して、コレクタ領域2aの下面を露出させ、かつ、コレクタ領域2aの下面、及び、カソード領域3の下面が平坦化される。
【0066】
カソード領域3をエピタキシャル成長法で形成する本変形例においても、実施の形態1と同様に、カソード領域3の厚みはコレクタ領域2aの厚みよりも大きい。このため、実施の形態1と同様に、FS層5bとカソード領域3との間における第2半導体形成層32aの残存、ひいてはデバイス不良を抑制することができるので、半導体装置の製造コストの増大を抑制することができる。
【0067】
<実施の形態2>
図11は、本発明の実施の形態2に係る半導体装置A2の構成を示す断面図である。本実施の形態2に係る半導体装置A2は、実施の形態1と同様に、プレーナゲート型のSiC−RC−IGBTである。以下、本実施の形態2に係る構成要素のうち、上述の構成要素と同じまたは類似する構成要素については同じ参照符号を付し、異なる構成要素について主に説明する。
【0068】
半導体装置A2の半導体領域2は、コレクタ領域2aとコレクタ電極1との間に隣接して配設された第2導電型のキャリア供給領域2bをさらに含む。なお、キャリア供給領域2bの不純物濃度は、コレクタ領域2aの不純物濃度よりも高い。具体的には、当該キャリア供給領域2bの不純物濃度は、1×10
19cm
−3以上1×10
21cm
−3以下の範囲内であることが望ましい。また、当該キャリア供給領域2bの厚みは、コレクタ領域2aの厚みに比べて小さい。具体的には、当該キャリア供給領域2bの厚みは、0.2μm以上1μm以下の範囲内であることが望ましい。
【0069】
<製造方法>
次に、本実施の形態2に係る半導体装置A2の製造方法について説明する。本実施の形態2に係る半導体装置A2の製造方法は、実施の形態1に係る半導体装置A1の製造方法と構成が類似している。したがって以下では、本実施の形態2に係る半導体装置A2の製造方法のうち、実施の形態1に係る半導体装置A1の製造方法と異なる部分について説明する。
【0070】
本実施の形態2では、実施の形態1の
図1〜
図5の工程と同様の工程を行うことによって、
図5の構造体を形成する。その後、
図12に示すように、第2半導体形成層32aのIGBT領域IG側の露出している下面から予め定められた領域に対して、第2導電型のイオン注入を行うことによって、第2半導体形成層32aよりも不純物濃度が高い不純物領域32bを形成する。不純物領域32bは、以下に説明する工程を経てキャリア供給領域2bになる。以下、不純物領域32bとキャリア供給領域2bとは実質的に同じであるものとして説明する。
【0071】
上記イオン注入の不純物元素としては、例えばアルミニウム、ボロンなどが用いられる。不純物領域32bを形成するためのイオン注入は、単一の注入エネルギーで行ってもよく、段階的に例えば高から低へ変化させた注入エネルギーで行ってもよい。このように、キャリア供給領域2bとなる不純物領域32bは、エピタキシャル成長法ではなく、イオン注入法を用いて形成することが望ましい。
【0072】
ここで、注入エネルギーを高くして不純物領域32bを形成すると、pn接合部(FS層5bと第2半導体形成層32aとの界面)にまで注入欠陥が生成されてしまう場合がある。この場合、半導体装置のオン時に少数キャリア注入が阻害されるので、伝導度変調効果が促進されず、オン電圧が増大してしまう。このため、不純物領域32bを形成するためのイオン注入は、注入エネルギーを十分に低くする必要がある。具体的には、不純物領域32bを形成するためのイオン注入エネルギー(多段イオン注入法の場合には最大の注入エネルギー)は、200keV以下であることが望ましい。
【0073】
ここで例えば、不純物濃度及び厚みが、それぞれ1×10
18cm
−3、2μmである第2半導体形成層32aを形成したとする。つまり、第2半導体形成層32aの下面からpn接合部までの厚みが2μmである第2半導体形成層32aを形成したとする。
【0074】
そして、第2半導体形成層32aに対して、イオン注入ドーズ量を4×10
15cm
−2、注入エネルギーを200keVとして不純物領域32bを形成したとする。この場合、不純物領域32bの厚み、つまり、不純物領域32bのイオン注入を施した下面(不純物領域32bの露出面)から不純物濃度の最大ピーク位置までの長さ(イオン注入深さ)は、約0.25μmとなる。注入欠陥は、不純物領域32bの下面に対して、最大ピーク位置(約0.25μm)よりも、さらに深い位置(例えば約1μm)まで形成される。
【0075】
このことに鑑みて本実施の形態2では、上述したpn接合部は、不純物領域32bの下面に対して、注入欠陥の位置(約1μm)よりも、さらに深い位置(2μm)に設けている。つまり本実施の形態2では、TB>4×TAが成り立つように構成している。ここで、TAは、不純物領域32b(キャリア供給領域2b)の厚みであり、TBは、不純物領域32b(キャリア供給領域2b)の下面から第2半導体形成層32a(コレクタ領域2a)の上面までの厚みである。このような構成によれば、半導体装置のオン時に少数キャリア注入が阻害されることなく、伝導度変調効果が促進され、低オン電圧が実現できる。
【0076】
その後、
図6の工程と同様の工程によって、ベース領域6、エミッタ領域7、及び、ベースコンタクト領域8が形成される。次に、
図7の工程と同様の工程によって、第2半導体形成層32aのFWD領域FW側の露出している下面から、FS層5bの下方向側の部分までの予め定められた領域にカソード領域3を形成し、残りの第2半導体形成層32a及び残りの不純物領域32bをそれぞれコレクタ領域2a及びキャリア供給領域2bとして形成する。なお、カソード領域3は、実施の形態1と同様にイオン注入によって形成されてもよいし、変形例と同様にエピタキシャル成長法によって形成されてもよい。その後、
図8〜
図10の工程と同様の工程によって、
図11の半導体装置A2が完成する。
【0077】
<実施の形態2のまとめ>
本実施の形態2に係る半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、コレクタ領域2aよりも不純物濃度の高いキャリア供給領域2bが配設されている。このような構成によれば、実施の形態1に係る半導体装置に比べて、少数キャリア注入効率が向上し、さらに低オン電圧なSiC−RC−IGBTを実現できる。
【0078】
<実施の形態3>
図13は、本発明の実施の形態3に係る半導体装置A3の構成を示す断面図である。本実施の形態3に係る半導体装置A3は、実施の形態1,2と同様に、プレーナゲート型のSiC−RC−IGBTである。以下、本実施の形態3に係る構成要素のうち、上述の構成要素と同じまたは類似する構成要素については同じ参照符号を付し、異なる構成要素について主に説明する。
【0079】
本実施の形態3では、複数のキャリア供給領域2bが、コレクタ領域2aの下面内に選択的に配設されている。具体的には、複数のキャリア供給領域2bが、コレクタ領域2aの下面内の予め定められた領域において互いに離間して配設されている。当該複数のキャリア供給領域2bの不純物濃度及び厚みは、実施の形態2に記載の数値範囲と同様である。
【0080】
本実施の形態3に係る半導体装置によれば、コレクタ領域2aよりも不純物濃度の高い複数のキャリア供給領域2bが配設されている。このため、実施の形態2に係る半導体装置に比べて、少数キャリア注入効率を、キャリア供給領域2bの設計によって制御することができる。したがって、低オン電圧を維持しつつ、低ターンオフ損失なSiC−RC−IGBTを実現できる。
【0081】
<実施の形態4>
図14は、本発明の実施の形態4に係る半導体装置A4の構成を示す断面図である。実施の形態1〜3に係る半導体装置A1〜A3は、プレーナゲート型(半導体装置の厚み方向に対してチャネルが垂直に形成される構造)のSiC−RC−IGBTであった。これに対して、本実施の形態4に係る半導体装置A4は、トレンチゲート型(半導体装置の厚み方向に対してチャネルが水平に形成される構造)のSiC−RC−IGBTである。ただし、この点を除けば、本実施の形態4に係る半導体装置A4は、実施の形態1〜3の半導体装置A1〜A3と類似する。以下、本実施の形態4に係る構成要素のうち、上述の構成要素と同じまたは類似する構成要素については同じ参照符号を付し、異なる構成要素について主に説明する。
【0082】
図14に示すように、ドリフト層5aの上面内には、ベース領域6、エミッタ領域7、及び、ベースコンタクト領域8が形成されている。ゲート電極9は、ベース領域6、エミッタ領域7及びドリフト層5aに跨るトレンチ内にゲート絶縁膜12を介して配設されている。そして、ゲート電極9は、ゲート絶縁膜12によってベース領域6から離間して配設されている。このゲート電極9は、実施の形態1に係るゲート電極9と同様に、ベース領域6にチャネルを形成可能である。
【0083】
本実施の形態4に係る半導体装置によれば、トレンチ型のゲート構造を備えるので、実施の形態1に係る記載の半導体装置に比べて、セルピッチ(単位セル同士の間隔)が縮小され、チャネル幅密度(単位セルの面積に占めるチャネル幅の割合)が向上する。この結果、チャネル抵抗成分が低減され、さらに低オン電圧なSiC−RC−IGBTを実現できる。
【0084】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態及び各変形例を自由に組み合わせたり、各実施の形態及び各変形例を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0085】
本発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての態様において、例示であって、本発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、本発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。