(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定解釈されるものではなく、公知の他の構成要素を組み合わせて本発明の技術思想を実現してもよい。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係るインバータ装置を含む回転電動機駆動システムの構成を示す図である。
図1に示す回転電動機駆動システム1は、モータMG100、インバータINV100および上位コントローラVCM100を備える。なお、インバータINV100は、本発明の一実施形態に係るインバータ装置に相当するものである。
【0010】
回転電動機であるモータMG100は、例えばY結線構造を有する三相交流モータである。モータMG100は、U相コイル巻線C110、V相コイル巻線C120およびW相コイル巻線C130を有しており、これらの各コイル巻線に所定の交流電流が流れることで生じる回転磁界により、不図示の回転子が回転して駆動力を発生する。U相コイル巻線C110、V相コイル巻線C120およびW相コイル巻線C130は、共通の中性点N100で接続されている。モータMG100には、回転子の回転角を検出する回転角センサR140が設けられている。
【0011】
モータMG100は、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池で構成されるバッテリ(図示なし)を電源として、インバータINV100により駆動電流が供給される。インバータINV100は、演算制御装置INV200、駆動回路INV300およびパワーモジュールINV400を備えている。
【0012】
パワーモジュールINV400は、U相アーム、V相アームおよびW相アームをそれぞれ構成する複数の電力用半導体スイッチング素子を備えている。U相アームはU相コイル巻線C110に、V相アームはV相コイル巻線C120に、W相アームはW相コイル巻線C130にそれぞれ対応する。パワーモジュールINV400は、駆動回路INV300からドライブ信号として入力されるPWMゲートパルス信号に基づき、各スイッチング素子のオンオフのタイミングを制御する。これにより、バッテリの正極と負極にそれぞれ接続された二相の電源ラインから供給される直流電力を三相交流電力に変換し、モータMG100の各コイル巻線に接続された三相のラインへと供給する機能を有する。パワーモジュールINV400とモータMG100の間に設けられた配線には電流センサCT100が取り付けられており、この電流センサCT100によってモータMG100の各コイル巻線に流れる電流が検出される。また、パワーモジュールINV400には温度センサTS100が取り付けられており、この温度センサTS100によってスイッチング素子の近傍の温度が検出される。
【0013】
演算制御装置INV200は、上位コントローラVCM100から入力されるトルク指令や、回転角センサR140、電流センサCT100、温度センサTS100の各センサからの入力情報に基づいて、パワーモジュールINV400の各スイッチング素子のスイッチングタイミングを制御するためのゲート駆動信号(運転指令)を生成する。演算制御装置INV200は、生成したゲート駆動信号を駆動回路INV300に出力する。駆動回路INV300は、演算制御装置INV200から入力されるゲート駆動信号(運転指令)に基づいてPWMゲートパルス信号を生成し、パワーモジュールINV400に出力する。
【0014】
演算制御装置INV200は、各スイッチング素子のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータ(マイコン)を備えている。マイコンへの入力情報には、モータMG100に対して要求される目標トルク値、モータMG100の各コイル巻線を流れている電流値、モータMG100の回転子の回転角、パワーモジュールINV400の温度などが含まれる。目標トルク値は、上位コントローラVCM100から入力されるトルク指令によって与えられる。各コイル巻線の電流値、回転子の回転角、パワーモジュールINV400の温度の各情報は、回転角センサR140、電流センサCT100、温度センサTS100からそれぞれ入力される。なお、上位コントローラVCM100は、例えばモータMG100が車両走行用のモータであれば、車両全体の制御を行う車両コントローラに相当する。
【0015】
演算制御装置INV200のマイコンは、例えば次のような演算を行う。まず、上位コントローラVCM100から入力された目標トルク値に基づいて、モータMG100のd軸およびq軸の電流指令値を演算する。次に、電流センサCT100から入力された各コイル巻線の電流値と、回転角センサR140から入力された回転子の回転角とに基づいて、d軸およびq軸の電流値を演算する。そして、d軸およびq軸の電流指令値と電流値の差分を演算し、この差分に基づいてd軸およびq軸の電圧指令値を演算する。その後、回転角センサR140から入力された回転子の回転角に基づいて、演算されたd軸およびq軸の電圧指令値をU相、V相およびW相の電圧指令値に変換する。そして、求められたU相、V相およびW相の電圧指令値に基づく変調波と、予め設定された搬送波(三角波)とを比較し、その比較結果に基づくPWM変調を行うことにより、パルス状のPWM信号(PWMパルス)を生成する。演算制御装置INV200は、こうして生成されたPWM信号を、パワーモジュールINV400が実施する電力変換動作を制御するためのゲート駆動信号として、駆動回路INV300に出力する。
【0016】
駆動回路INV300は、演算制御装置INV200から入力されたゲート駆動信号を増幅し、PWMゲートパルス信号としてパワーモジュールINV400の各スイッチング素子に出力する。これにより、パワーモジュールINV400の各スイッチング素子にスイッチング動作を行わせ、直流電力から三相交流電力への電力変換動作を実施させる。
【0017】
次に、演算制御装置INV200における制御方式の決定方法について説明する。演算制御装置INV200では、PWM変調を行う際に、複数の制御方式からいずれかを選択し、選択した制御方式に応じた変調波を用いることで、生成されるPWM信号を変化させることができる。このとき演算制御装置INV200が選択可能な制御方式には、例えば、通常の正弦波を変調波として用いる正弦波PWM制御方式や、正弦波に三次高調波を重畳させたものを変調波として用いる三次調波重畳PWM制御方式や、台形波を変調波として用いる過変調PWM制御方式や、矩形波を変調波として用いる矩形波制御方式などが知られている。なお、演算制御装置INV200が選択可能な制御方式は、これ以外の制御方式を含んでいてもよい。
【0018】
ここで、演算制御装置INV200が実施する処理の一例を説明する。演算制御装置INV200は、まず電流演算処理を行う。電流演算処理では、上位コントローラVCM100から入力されたトルク指令が示すトルク値と、モータMG100の現在の回転数とを、演算制御装置INV200内に保持された電流指令マップと照合する。電流指令マップは、モータMG100の動作状態に関するマップ情報であり、実測やシミュレーションによって予め設定されたモータMG100のトルク、回転数および電流の関係を表している。電流指令マップは、例えば演算制御装置INV200内のメモリ(図示なし)に記憶保持されている。この電流指令マップを用いることで、トルク指令で要求されたトルクをモータMG100が出力するのに必要な電流を演算することができる。なお、モータMG100の現在の回転数は、回転角センサR140から入力される回転子の回転角の時間変化に基づいて算出することができる。
【0019】
電流演算処理によって必要な電流が求められたら、次に演算制御装置INV200は、電流電圧変換を行うことで、モータMG100に対して出力すべき電圧を求める。続いて演算制御装置INV200は、変調率演算を行うことで変調率を演算する。変調率演算では、電流電圧変換によって求められた電圧をバッテリの直流電圧と比較し、これらの比から変調率を求める。
【0020】
変調率が求められたら、演算制御装置INV200は、制御方式決定を行って制御方式を決定する。制御方式決定では、変調率演算によって求められた変調率に基づき予め設定された複数の制御方式のうちいずれかを選択することで、PWM変調波を生成する際に用いる制御方式を決定する。例えば、変調率が1.00以下の場合は正弦波PWM制御方式を選択し、変調率が1.00を超えて1.15以下の場合は三次調波重畳PWM制御方式を選択する。また、変調率が1.15を超えて1.27未満の場合は過変調PWM制御方式を選択し、変調率が1.27の場合は矩形波制御方式を選択する。
【0021】
制御方式決定によって制御方式を決定したら、演算制御装置INV200は、その制御方式に応じた変調波を用いて電圧指令信号を生成し、この電圧指令信号を用いてPWM変調を行うことで、PWM信号を生成する。これにより、演算制御装置INV200において、変調率に基づいて選択した制御方式を用いたモータMG100の制御が行われる。
【0022】
図2は、上記の各制御方式の比較図である。
図2(a)に示す正弦波PWM制御方式は、生成される電流の高調波成分が他の制御方式よりも少ないことが特徴である。本方式を採用することで、モータMG100を回転させた場合の騒音が他の制御方式と比較して少なく、モータ効率も良い。しかし一方で、直流電圧利用率が最も低いという弱点がある。
【0023】
図2(b)に示す三次調波重畳PWM制御方式は、全ての相に同一の電圧変動を加えても線間電圧には影響がないという三相交流の特性を利用して、電流基本波の三次高調波を正弦波に重畳させることで、電流高調波を増やさずに電圧利用率を改善したことが特徴である。なお、前述の例では、変調率が0〜1の場合は正弦波PWM制御方式を選択し、変調率が1〜1.15の場合は三次調波重畳PWM制御方式を選択することとしたが、変調率が0〜1の場合には、正弦波PWM制御方式と三次調波重畳PWM制御方式のどちらを利用してもよい。以下の説明では、三次調波重畳PWM制御を含めて正弦波PWM制御と呼ぶ場合もある。
【0024】
図2(c)に示す過変調PWM制御方式は、変調率が上昇するにしたがって生成されるPWMパルスが密になることで、複数のPWMパルスが結合してON期間が連続するという特徴がある。
【0025】
図2(d)に示す矩形波制御方式は、変調率が1.27のときに採用される制御方式であり、直流電圧利用率が最も高いことが特徴である。しかし、上記3種の制御方式と比較すると、電流高調波が増えるという弱点がある。
【0026】
車両に搭載される回転電動機駆動システム1において、インバータINV100によりモータMG100の制御を行う際には、車両の運転状況に応じた最適なモータ制御を実現するために、変調率に応じて制御方式を適宜切り替える必要がある。しかし、一般的に制御方式の切替時にはトルクが不連続となり、トルク変動が生じる。トルク変動は車両の乗員へ不快感を与えるため、できるだけ抑制する必要がある。
【0027】
そこで、本実施形態のインバータINV100では、演算制御装置INV200において、制御方式の切替時には二つの制御方式によって生成された電圧指令信号を合成する。そして、合成後の電圧指令信号を用いてPWM変調を行い、PWM信号を生成する。以下にその詳細について説明する。
【0028】
図3は、従来の制御方式切替と本発明による制御方式切替のトルク出力の比較例を示す図である。なお、
図3では、モータMG100の回転数の増減に応じて変化する変調率に従って、正弦波PWM制御方式から過変調PWM制御方式へと、または反対に、過変調PWM制御方式から正弦波PWM制御方式へと切り替える場合のトルク出力の例を示しているが、他の制御方式間で切り替えを行う場合も同様である。
【0029】
図3(a)は、インバータINV100において従来の制御方式切替を実施した場合のモータMG100からのトルク出力の模式図である。
図3(a)に示すように、低回転から高回転まで最大限のトルクを維持するようにトルク指令が与えられているときに、モータMG100の回転数を上昇または下降させた場合、従来の制御方式切替では、制御方式の切替点において、モータMG100の出力トルクに急激な変動が発生する。この現象は、主に制御方式ごとの誤差要因によって生じるものである。すなわち、制御方式の切替の前後において、本来はモータMG100から同一のトルクを出力する必要がある。しかしながら、インバータINV100では、制御方式ごとに異なる誤差要因を持つことが原因で、制御方式が切り替わると同一の電圧指令から異なる電圧出力結果をもたらすPWMパルスを生成してしまうことになる。その結果、平均電圧としては同等であっても、瞬間的な電圧出力、つまり制御方式の切替時点の前後でのPWMパルス出力は急変することとなる。したがって、制御方式の切替時点ではモータMG100に流れる電流が急変し、トルク変動の要因となる。
【0030】
以上説明したように、制御方式の切替時におけるモータMG100のトルク変動は、モータMG100に流れる電流の変動によって引き起こされる。そのため、制御方式の切替時にトルク変動が生じても、切替直後から電流フィードバック制御によって電圧指令自体に補正がかかることで、一定時間後にはトルク指令に追従したトルクをモータMG100から出力することができる。
【0031】
図3(b)は、インバータINV100において本発明による制御方式切替を実施した場合のモータMG100からのトルク出力の模式図である。本発明による制御方式切替では、前述のように、制御方式の切替時には切替前後の二つの制御方式によって生成された電圧指令信号を合成し、合成後の電圧指令信号を用いてPWM変調を行う。このようなPWM制御を一定の切替期間中に行うことで、切替期間中にPWM信号を緩やかに移行させるようにする。その結果、モータMG100に流れる電流の急変を緩和して、
図3(b)に示すように、トルク変動を緩和、解消することができる。
【0032】
なお、合成後の電圧指令信号を用いてPWM変調を行う切替期間中には、電流値が指令値から乖離することでトルク変動が発生する可能性がある。しかしながら、電流フィードバック制御によって狙った電流が出力されるように電圧指令値が補正されるため、理想的にはトルク変動を皆無にできる。もし切替期間中にトルク変動が発生する場合には、切替期間を長くすることで、切替期間中に電流フィードバックが効果を発揮してトルク変動が抑制されるように調整すればよい。
【0033】
次に、従来の制御方式切替と本発明による制御方式切替での切替時の電圧指令信号の変化について、
図4および
図5を参照して以下に説明する。なお、
図4、
図5では、三次調波重畳PWM制御方式から矩形波制御方式へと切り替える場合の電圧指令信号の変化例をそれぞれ示しているが、他の制御方式間で切り替えを行う場合も同様である。
【0034】
図4は、従来の制御方式切替を実施した場合の、各制御方式の最終的な電圧出力への寄与率と電圧指令信号波形の例を示した図である。
図4に示すように、従来の制御方式切替では、変調率が所定の閾値を跨いで変化すると、その時点を制御切替点として瞬間的に制御方式が切り替わり、それに応じて電圧指令信号の波形も瞬時に切り替わる。ここで、制御切替点とされる変調率の閾値は、前述のように制御方式ごとに定められた変調率の範囲に従って設定される。
【0035】
図5は、本発明による制御方式切替を実施した場合の、各制御方式の最終的な電圧出力への寄与率と電圧指令信号波形の例を示した図である。
図5に示すように、本発明による制御方式切替では、切替前と切替後の間に切替期間が存在する。この切替期間中は、切替前の制御方式である三次調波重畳PWM制御方式で生成した電圧指令信号と、切替後の制御方式である矩形波制御方式で生成した電圧指令信号とを、その合計が100%となるように、それぞれ所定の寄与率で合成する。なお、以下の説明では、切替前の制御方式を「第1の制御方式」、切替後の制御方式を「第2の制御方式」と呼ぶこともある。また、第1の制御方式で生成される電圧指令信号を「第1の電圧指令信号」、第2の制御方式で生成される電圧指令信号を「第2の電圧指令信号」と呼ぶこともある。
【0036】
第1電圧指令信号と第2の電圧指令信号を合成する際には、切替期間の経過に応じて、第1の電圧指令信号の寄与率を徐々に低下させるとともに、第2の電圧指令信号の寄与率を徐々に上昇させる。これにより、本発明による制御方式切替では、切替期間中に電圧指令信号が時間をかけて徐々に変化し、制御方式の移行が連続的に行われるようにする。その結果、制御方式の切替に伴う電圧出力の変動を抑制し、トルク変動を抑制することができる。
【0037】
なお、切替期間中に第1、第2の電圧指令信号にそれぞれ寄与率を反映する計算は、例えば、PWM変調において搬送波とコンペアマッチするための値をマイコン内で設定する際に、第1の電圧指令信号には0以上1以下で可変の係数を乗算し、第2の電圧指令信号には1から当該係数を減じた値を乗算して、これらの乗算結果を加算することにより実現できる。さらに、この係数を時間に応じて減少させることで、第1の電圧指令信号の寄与率を徐々に低下させるとともに、第2の電圧指令信号の寄与率を徐々に上昇させることができる。
【0038】
図6は、本発明の一実施形態に係るインバータ装置における演算制御装置のブロック図である。
図6に示すように、本実施形態のインバータINV100において、演算制御装置INV200は、その機能として、電圧指令生成部610、電圧指令信号生成部620、合成処理部670および搬送波比較部680の各機能ブロックを備える。演算制御装置INV200は、例えばマイコンにおいて所定のプログラムを実行することにより、これらの機能ブロックを実現することができる。
【0039】
電圧指令生成部610は、
図1の上位コントローラVCM100から入力された目標トルク値に基づいて電圧指令を生成し、電圧指令信号生成部620へ出力する。電圧指令信号生成部620は、電圧指令生成部610からの電圧指令を受けて、制御方式の切替が実施されるときには、所定の切替期間において切替前後の二つの制御方式、すなわち第1、第2の制御方式で変調波をそれぞれ生成し、第1、第2の電圧指令信号として合成処理部670へ出力する。合成処理部670は、電圧指令信号生成部620から出力されたこれらの電圧指令信号をそれぞれ所定の割合で合成して合成電圧指令信号を生成し、搬送波比較部680へ出力する。搬送波比較部680は、合成処理部670で生成された合成電圧指令信号と所定の搬送波とを比較することでPWM変調を行い、PWM信号を生成する。搬送波比較部680により生成されたPWM信号は、ゲート駆動信号として演算制御装置INV200から駆動回路INV300に出力され、駆動回路INV300が行うPWMゲートパルス信号の生成に利用される。
【0040】
電圧指令信号生成部620は、複数の制御方式を有しており、電圧指令生成部610からの電圧指令に基づいて、その中で二つの制御方式を選択する。
図6の例では、電圧指令信号生成部620が合計四つの制御方式、すなわち正弦波PWM制御630、三次調波重畳PWM制御640、過変調PWM制御650および矩形波制御660を有しており、これらの中から二つの制御方式を選択する。なお、本発明はこれに限定されず、他の制御方式を選択可能としてもよい。そして、選択した二つの制御方式でそれぞれ生成した二種類の電圧指令信号を、第1、第2の電圧指令信号として合成処理部670へ出力する。
【0041】
具体的には、電圧指令信号生成部620は、例えば変調率が1.00を跨いで増加方向に変化する場合には、第1の制御方式として正弦波PWM制御630を、第2の制御方式として三次調波重畳PWM制御640をそれぞれ選択する。同様に、変調率が1.15を跨いで増加方向に変化する場合には、第1の制御方式として三次調波重畳PWM制御640を、第2の制御方式として過変調PWM制御650をそれぞれ選択し、変調率が1.27まで増加する場合には、第1の制御方式として過変調PWM制御650を、第2の制御方式として矩形波制御660をそれぞれ選択する。また、例えば変調率が1.00を跨いで減少方向に変化する場合には、第1の制御方式として三次調波重畳PWM制御640を、第2の制御方式として正弦波PWM制御630をそれぞれ選択する。同様に、変調率が1.15を跨いで減少方向に変化する場合には、第1の制御方式として過変調PWM制御650を、第2の制御方式として三次調波重畳PWM制御640をそれぞれ選択し、変調率が1.27から減少する場合には、第1の制御方式として矩形波制御660を、第2の制御方式として過変調PWM制御650をそれぞれ選択する。
【0042】
なお、電圧指令信号生成部620は、切替期間以外では一つの制御方式のみを選択してもよい。この場合、合成処理部670は、電圧指令生成部610から入力された電圧指令信号をそのまま搬送波比較部680へ出力すればよい。あるいは、切替期間中と同様に、電圧指令信号生成部620において二つの制御方式を選択することで、二種類の電圧指令信号を生成してもよい。この場合、合成処理部670においていずれか一方の寄与率を0とすることで、他方の電圧指令信号のみが搬送波比較部680へ出力されるようにすればよい。
【0043】
図7は、従来の制御方式切替と本発明による制御方式切替のPWMパルス波形の比較例を示す図である。なお、
図7では、三次調波重畳PWM制御方式から過変調PWM制御方式へと、または反対に、過変調PWM制御方式から三次調波重畳PWM制御方式へと切り替える場合のPWMパルス波形の例を示しているが、他の制御方式間で切り替えを行う場合も同様である。
【0044】
図7(a)は、従来の制御方式切替を実施した場合のPWMパルス波形の例を示している。
図7(a)に示すように、従来の制御方式切替では、制御方式が切り替わる制御切替点を境に、PWMパルスのデューティが急変してしまう。なお、前述のように制御切替点は、変調率が所定の閾値を跨いで変化したタイミングに相当するものであり、制御方式ごとに定められた変調率の範囲に従って設定される。
【0045】
図7(b)は、本発明による制御方式切替を実施した場合のPWMパルス波形の例を示している。
図7(b)に示すように、本発明による制御方式切替では、切替期間中のPWMパルスのデューティは、第1の電圧指令信号におけるPWMパルスのデューティと、第2の電圧指令信号におけるPWMパルスのデューティとの間で、任意の値に設定される。ここで、
図7(b)における切替期間は、
図7(a)に示した制御切替点、すなわち変調率が所定の閾値を跨いで変化したタイミングを含むものである。なお、切替期間の長さは任意に定めることが出来るが、トルク変動を十分に解消できる範囲内でなるべく短いほうが好ましい。
【0046】
図8は、合成処理部670で合成電圧指令信号を生成する処理のフローチャートである。合成処理部670は、演算制御装置INV200において変調率が変化することで切替期間が設定され、その切替期間の開始時点に達すると、
図8のフローチャートに示す処理を開始する。
【0047】
ステップ800において、合成処理部670は、電圧指令信号生成部620から入力される第1、第2の電圧指令信号に対して、係数A、Bの初期値をそれぞれ設定する。ここでは、第1の電圧指令信号に対する係数Aの初期値を1とし、第2の電圧指令信号に対する係数Bの初期値を0とする。ステップ800を実行したら、ステップ820に進む。
【0048】
ステップ820において、合成処理部670は、現在の係数A、Bの値に応じた合成後のコンペアマッチレジスタカウントを算出する。ここでは、電圧指令信号生成部620からそれぞれ出力される第1、第2の電圧指令信号の値を、それぞれ第1、第2の制御方式のコンペアマッチレジスタカウントとして、これらに係数A、Bをそれぞれ乗算したものを加算することで、合成後のコンペアマッチレジスタカウントを算出する。なお、ステップ800からステップ820に進んだ場合は、係数A、Bがそれぞれ初期値の1と0に設定されている。そのため、合成後のコンペアマッチレジスタカウントは、第1の制御方式のコンペアマッチレジスタカウントと同一の値となる。
【0049】
ステップ830において、合成処理部670は、ステップ820で算出した合成後のコンペアマッチレジスタカウントを、合成電圧指令信号として搬送波比較部680へ出力する。
【0050】
ステップ840において、合成処理部670は、現在の係数Bの値が1であるか否かを判定する。現在の係数Bの値が1である場合は、切替期間の終了時点に到達したと判断し、
図8のフローチャートに示す処理を終了する。一方、現在の係数Bの値が1未満である場合は、まだ切替期間中であると判断してステップ810に戻る。
【0051】
ステップ810において、合成処理部670は、係数A、Bの値をそれぞれ更新する。ここでは、予め設定された調整値αを用いて、現在の係数Aの値から調整値αを減算することで係数Aを更新するとともに、1から更新後の係数Aの値を減算することで係数Bを更新する。ここで、調整値αは0以上1未満の値であり、切替期間中に合成処理部670が合成電圧指令信号を出力する回数に応じて設定される。例えば、切替期間中の合成電圧指令信号の出力回数が10回であれば、α=0.1と設定される。これにより、係数Aの値を時間の経過に応じて減少させるとともに、係数Bの値を時間の経過に応じて増加させることができる。なお、調整値αの値を可変とすることで、合成電圧指令信号の出力回数を調整し、それによって切替期間の長さを調整できるようにしてもよい。
【0052】
ステップ810で係数A、Bの値をそれぞれ更新したらステップ820に進み、更新後の係数A、Bの値を用いて、合成後のコンペアマッチレジスタカウントを算出する。その後は、ステップ840で係数Bの値が1になったと判定されるまで、上記の処理を繰り返し実行する。
【0053】
次に、従来の制御方式切替と本発明による制御方式切替での切替時のPWMパルスの挙動および電圧指令信号について、
図9および
図10を参照して以下に説明する。なお、
図9、
図10では、三次調波重畳PWM制御方式から矩形波制御方式へと切り替える場合の例をそれぞれ示しているが、他の制御方式間で切り替えを行う場合も同様である。
【0054】
図9は、従来の制御方式切替を実施した場合のPWMパルスの挙動と電圧指令信号の例を示した図である。
図9に示すように、従来の制御方式切替を実施する演算制御装置では、
図6の合成処理部670の代わりに、二つの制御方式を切り替える切替処理部670Aが設けられている。この従来の演算制御装置において、電圧指令信号生成部620は、電圧指令生成部610からの電圧指令に基づき、三次調波重畳PWM制御方式または矩形波制御方式のいずれか一方を利用して、それぞれの制御方式に応じた電圧指令信号を生成する。切替処理部670Aは、電圧指令信号生成部620が電圧指令信号の生成に利用する制御方式を切り替えるように制御することで、制御方式の切替を行う。搬送波比較部680は、電圧指令信号と搬送波を比較することでPWM変調を行い、PWM信号を形成するPWMパルス681を出力する。
【0055】
以上説明した従来の演算制御装置では、制御方式の切替の前後で異なる電圧指令信号が搬送波比較部680に対して入力される。そのため、制御方式の切替時にはトルク変動が発生する。
【0056】
図10は、本発明による制御方式切替を実施した場合のPWMパルスの挙動と電圧指令信号の例を示した図である。
図10に示すように、本実施形態の演算制御装置INV200において、電圧指令信号生成部620は、電圧指令生成部610からの電圧指令に基づき、三次調波重畳PWM制御方式と矩形波制御方式の両方を利用して、それぞれの制御方式に応じた電圧指令信号を生成する。合成処理部670は、電圧指令信号生成部620から出力される二種類の電圧指令信号を、前述のようにしてそれぞれの割合を制御して合成することで、制御方式の切替を行う。搬送波比較部680は、合成処理部670から出力される合成電圧指令信号と搬送波を比較することでPWM変調を行い、PWM信号を形成するPWMパルス681を出力する。
【0057】
以上説明した本実施形態の演算制御装置INV200では、電圧指令信号生成部620において生成された二種類の電圧指令信号が合成処理部670によって合成され、搬送波比較部680に対して入力される。そのため、制御方式の切替時には、二種類の電圧指令信号の差異を合成処理部670において吸収し、トルク変動を抑えることができる。
【0058】
なお、上記の実施形態では、電圧指令信号生成部620が合計四つの制御方式、すなわち正弦波PWM制御630、三次調波重畳PWM制御640、過変調PWM制御650および矩形波制御660を有しており、変調率に応じてこれらの中から二つの制御方式を選択する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、正弦波PWM制御630、三次調波重畳PWM制御640、過変調PWM制御650および矩形波制御660のうち、いずれか三つの制御方式のみを電圧指令信号生成部620が有しており、その中でいずれか二つの制御方式を変調率に応じて選択してもよい。あるいは、電圧指令信号生成部620が二つの制御方式のみを有しており、その二つの制御方式を常に選択してもよい。いずれの場合であっても、電圧指令信号生成部620が二つの制御方式でそれぞれ生成した第1、第2の電圧指令信号を、合成処理部670においてそれぞれ所定の割合で合成することにより、合成電圧指令信号を生成することができる。この合成電圧指令信号を用いて搬送波比較部680がPWM信号を生成することにより、制御方式の切替に伴う電圧出力の変動を抑制し、トルク変動を抑制することができる。
【0059】
また、上記の実施形態では、制御方式の切替時において、二つの制御方式により生成した二種類の電圧指令信号を合成する例を説明したが、これ以外の任意のタイミングで電圧指令信号の合成を行ってもよい。その例を、以下に
図11、
図12を参照して説明する。
【0060】
図11は、電圧指令信号における高調波成分の削除方法を説明する図である。
図11(a)に示すように、例えば矩形波制御を行う場合に用いられる矩形波の変調波には、基本波である正弦波に対して、5次、7次、11次・・・の各次数の高調波成分が含まれる。ここで、
図11(b)に示すように、矩形波に対して5次高調波成分の逆相に相当する変調波を重畳することで、矩形波から5次高調波成分を削除できることが知られている。
【0061】
本実施形態の演算制御装置INV200では、高調波成分を削除する前の元の制御方式による変調波を第1の電圧指令信号とし、削除しようとする高調波成分の逆相に相当する変調波を第2の電圧指令信号とすることで、上記のような高調波成分の削除が可能である。
図12は、本発明の一実施形態による高調波成分の削減方法の実現例を説明する図である。例えば、
図12に示すように、矩形波1210を第1の電圧指令信号とし、5次高調波成分の逆相に相当する変調波1220を第2の電圧指令信号とする。そして、第1の電圧指令信号では矩形の中心部分の寄与率を0%とし、第2の電圧指令信号では中心部分を除いた部分の寄与率を0%として、これらの電圧指令信号を合成する。このとき第1、第2の電圧指令信号に対してそれぞれ乗算される前述の係数A、Bは、第1の電圧指令信号に含まれる高調波のうち、第2の電圧指令信号で削除しようとする高調波に基づいて設定される。その結果、矩形波から5次高調波成分が削除された変調波1230を、合成電圧指令信号として出力することができる。
【0062】
本実施形態の演算制御装置INV200によれば、任意のタイミングで上記の処理を行うことにより、所望の高調波を削除した変調波を用いてPWM信号を生成することができる。このPWM信号を用いてモータMG100の制御を行うことで、モータMG100に流れる電流において高調波を抑制することができる。なお、上記では矩形波から5次高調波成分を削除する例を説明したが、同様の手法により、任意の変調波から任意の高調波成分を除去することが可能である。
【0063】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0064】
(1)インバータINV100は、直流電力を交流電力に変換する電力変換動作を実施するものであり、電圧指令信号生成部620、合成処理部670および搬送波比較部680を備えた演算制御装置INV200を有する。電圧指令信号生成部620は、複数の制御方式を有し、複数の制御方式のうち第1の制御方式に基づいて生成した第1の電圧指令信号と、複数の制御方式のうち第1の制御方式とは異なる第2の制御方式に基づいて生成した第2の電圧指令信号とを出力する。合成処理部670は、第1の電圧指令信号および第2の電圧指令信号を所定の割合で合成した合成電圧指令信号を生成する。搬送波比較部680は、合成電圧指令信号に基づいて電力変換動作を制御するためのゲート駆動信号であるPWM信号を生成する。このようにしたので、制御方式の切替時にモータMG100において発生するトルク変動を抑制できる。
【0065】
(2)合成処理部670は、第1の制御方式から第2の制御方式への切り替えが行われるときに、合成電圧指令信号を生成する。具体的には、電圧指令信号生成部620は、変調率が所定の閾値を跨いで変化したときに、第1の制御方式から第2の制御方式への切り替えを行う。合成処理部670は、
図5や
図7(b)に示したように、変調率が閾値を跨いだタイミングを含む所定の切替期間において、合成電圧指令信号を生成する。このようにしたので、制御方式の切替時には、確実に合成電圧指令信号を生成してトルク変動の抑制を実現できる。
【0066】
(3)合成処理部670は、第1の制御方式から第2の制御方式への切り替えが行われないときに、合成電圧指令信号を生成するようにしてもよい。このようにすれば、任意のタイミングで合成電圧指令信号を生成することが可能となる。
【0067】
(4)合成処理部670は、0以上1以下で可変の係数Aを第1の電圧指令信号に乗算した値と、1から係数Aを減じた値である係数Bを第2の電圧指令信号に乗算した値とを加算することで、合成電圧指令信号を生成する(ステップ810〜830)。このようにしたので、合成処理部670において、第1の電圧指令信号と第2の電圧指令信号を所定の割合で合成した合成電圧指令信号を容易に生成することができる。
【0068】
(5)上記の係数Aは、時間の経過に応じて減少する。このようにしたので、制御方式の移行が連続的に行われるようにして、トルク変動を確実に抑制できる。
【0069】
(6)なお、
図12で説明したように、上記の係数Aは、第1の電圧指令信号に含まれる所定の高調波に基づいて設定されるようにしてもよい。このようにすれば、モータMG100に流れる電流において任意の高調波成分を抑制することができる。
【0070】
(7)電圧指令信号生成部620は、正弦波の変調波を用いて電圧指令信号を生成する正弦波PWM制御630と、正弦波に三次高調波が重畳された変調波を用いて電圧指令信号を生成する三次調波重畳PWM制御640と、台形波の変調波を用いて電圧指令信号を生成する過変調PWM制御650と、矩形波の変調波を用いて電圧指令信号を生成する矩形波制御660と、の少なくとも二つ以上を有しており、変調率に応じてこれらの中から二つの制御方式を選択することができる。すなわち、第1の制御方式および第2の制御方式の一方を、正弦波PWM制御630、三次調波重畳PWM制御640、または過変調PWM制御650のいずれかとし、第1の制御方式および第2の制御方式の他方を、矩形波制御660とすることができる。また、第1の制御方式および第2の制御方式の一方を、正弦波PWM制御630、または三次調波重畳PWM制御640のいずれかとし、第1の制御方式および第2の制御方式の他方を、過変調PWM制御650とすることもできる。さらに、第1の制御方式および第2の制御方式の一方を正弦波PWM制御630とし、第1の制御方式および第2の制御方式の他方を三次調波重畳PWM制御640とすることもできる。このようにしたので、任意の制御方式間の移行時において本発明を適用し、トルク変動の抑制を図ることができる。
【0071】
以上説明した実施形態や変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。