(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着層は、前記ゴム層の外周面に密着させられたフッ素樹脂系の接着剤から形成された内側層と、前記内側層の外周面に密着させられ前記表層の内周面に密着させられた非導電性シリコーンゴム系の接着剤から形成された外側層を有する
ことを特徴とする請求項3または4に記載の定着装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0012】
電子写真方式を利用した画像形成装置は、搬送される記録媒体である紙のシート上にトナーからなる画像(トナー像)を形成する。画像形成装置の詳細は図示しないが、画像形成装置は、感光体ドラムと、感光体ドラムの周囲に配置された帯電器、露光器、現像器、転写器、および定着器を有する。この実施形態においては、トナーをプラスに帯電されることにより、シートにトナーが付着しており、このシートが定着器に搬送される。
【0013】
図1に示すように、定着器は、移動可能な定着ベルト(定着装置)1と回転可能な加圧ロール2を有する。定着ベルト1と加圧ロール2の間のニップをシートSが通過する間に、トナーTがシートSに定着させられる。定着ベルト1と加圧ロール2は、シートS上のトナーTを加圧する。定着ベルト1は、トナーTを加熱することにより溶融する。
【0014】
加圧ロール2は、芯材3と、芯材3の外周を被覆する弾性層4と、弾性層4の外周を被覆する離型層5を有する。
【0015】
芯材3は、硬質の丸棒である。芯材3の材料は、限定されないが、例えば鉄、アルミニウム等の金属または樹脂材料であってよい。芯材3は、中空であっても、中実であってもよい。
【0016】
弾性層4は、芯材3の外周面に全周にわたって固着された円筒であり、例えばスポンジのような多孔質弾性材料から形成されている。弾性層4は、多孔質ではない弾性材料から形成されてもよい。
【0017】
離型層5は、弾性層4の外周面に全周にわたって固着された薄い層であり、シートPに定着したトナーTから加圧ロール2が離れやすくする。
図1は、シートPの1つの面にトナー像が形成される様子を示すが、シートPの1つの面にトナーTが定着された後に、シートPの他の面にトナーTが定着されることがあることに留意されたい。この場合、トナーTはニップにおいて加圧ロール2に接触させられる。
【0018】
離型層5は、トナーTから離れやすい合成樹脂材料から形成されている。離型層5の材料は、好ましくは、フッ素樹脂である。このようなフッ素樹脂は、例えば、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、またはテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)である。
【0019】
定着ベルト1は円筒であって、見方を変えれば、厚さが小さい円筒壁体を持つロールと考えることもできる。定着ベルト1の内部には、樹脂製の定着パッド6が配置されている。定着パッド6は、定着ベルト1を加圧ロール2に押し付けて、定着ベルト1と加圧ロール2の間のニップの幅を適切に維持する。ニップにおいて、定着ベルト1と加圧ロール2は、相互の押し付けにより、わずかに変形させられている。
【0020】
定着ベルト1の近傍には、加熱装置7が配置されている。加熱装置7は、ニップで加圧ロール2に熱を奪われて冷却された定着ベルト1を再加熱する。
図1の例では、加熱装置7は、公知の電磁誘導加熱装置7Aと磁場吸収部材7Bを有し、電磁誘導加熱装置7Aは定着ベルト1の外側に配置され、磁場吸収部材7Bは定着ベルト1の内側に配置されている。
【0021】
但し、加熱装置のタイプは
図1の例示に限定されない。例えば、
図2に示すように、加熱装置として定着ベルト1の内部に配置されたハロゲンヒーター8などの発熱源が使用されてもよい。
【0022】
図1および
図2の例では、定着パッド6が使用されているが、定着パッド6の代わりに定着ベルト1の内部に回転可能な定着ロールが配置されてもよい。
【0023】
図3に示すように、定着ベルト1は、基材11、摺動層12、プライマー層13、ゴム層14、接着層15、および表層16を有する。
【0024】
基材11は金属製の円筒である。基材11の材料は、例えば、ニッケル、ステンレス鋼でもよいし、ニッケルの層とニッケルの層の間に銅の層が挟まれて、基材11が構成されていてもよい。基材11は、定着ベルト1の剛性を確保し、定着ベルト1の熱伝導性を高める。
【0025】
摺動層12は、基材11の内周に被覆された一様な厚さの層である。摺動層12は、定着パッド6またはその他の定着器の部品と摺動可能に接触する。摺動層12は、摩擦係数が小さい材料、例えば、フッ素樹脂から形成されている。好ましいフッ素樹脂は、例えば、PTFE、PFA、FEP、またはETFEである。
【0026】
プライマー層13は、基材11の外周に被覆された一様な厚さの層である。プライマー層13は、摺動層12とゴム層14を接着する役割を有する。プライマー層13の材料は、ゴム層14の材料に依存して異なりうる。
【0027】
ゴム層14は、プライマー層13の外周に被覆された一様な厚さの層である。ゴム層14は、定着ベルト1において最も厚い層であり、ゴム層14によって、トナーTの定着に有用な適切な弾性を定着ベルト1は有する。ゴム層14は、例えばシリコーンゴムから形成されている。ゴム層14がシリコーンゴム製である場合、プライマー層13はシリコーンゴム系の接着剤から形成されることが好ましい。
【0028】
接着層15は、ゴム層14の外周に被覆された一様な厚さの層である。接着層15は、ゴム層14と表層16を接着する役割を有する。この実施形態では、接着層15は、フッ素樹脂系の接着剤から形成された単一の層である。接着層15をシリコーンゴム系の接着剤またはフッ素ゴム系の接着剤から形成することも考えられる。
【0029】
表層16は、接着層15の外周に被覆された一様な厚さの層である。表層16は、シートPに定着したトナーTから定着ベルト1が離れやすくする。表層16は、トナーTから離れやすい合成樹脂材料から形成されている。表層16の材料は、好ましくは、フッ素樹脂である。好ましいフッ素樹脂は、例えば、PFA、PTFE、FEP、またはETFEである。
【0030】
図4は、他の実施形態に係る定着ベルト1を示す。定着ベルト1では、接着層15は二層、すなわち内側層151と外側層152から構成されている。他の特徴は、定着ベルト1と同じである。
【0031】
内側層151はゴム層14の外周面に密着させられ、外側層152は内側層151と表層16の間に介在する。すなわち外側層152は、内側層151の外周面に密着させられ、表層16の内周面に密着させられている。内側層151はフッ素樹脂系の接着剤から形成され、外側層152は非導電性シリコーンゴム系の接着剤から形成されている。
【0032】
図3および
図4の実施形態において、上記の層の間に他の層が介在していてもよい。
【0033】
以下、定着ベルト1の製造方法を説明する。以下に述べる方法は、単一層の接着層15を有する定着ベルト1に関する。
【0034】
まず、
図5に示すように、円筒形の金属筒11Aを準備する。金属筒11Aは、完成品の定着ベルト1において基材11に相当するが、完成品の定着ベルト1の数倍の長さを有する。金属筒11Aは、例えば電鋳によって製造することができる。
【0035】
次に、
図5に示すように、金属筒11Aの内部にスプレイノズル20を挿入し、スプレイノズル20を移動させながら、スプレイノズル20に管21で摺動層12の材料を供給し、スプレイノズル20から摺動層12の材料を噴射させる。この後、加熱して材料を硬化させることにより、摺動層12を形成する。
【0036】
次に、
図6に示すように、スプレイノズル23を移動させながら、金属筒11Aの外周面にスプレイノズル23によってプライマー層13の材料13Aを噴射させる。この後、加熱して材料13Aを乾燥させることにより、プライマー層13を形成する。
【0037】
次に、
図7に示すように、金属筒11Aを軸線周りに回転させ、ゴム供給装置24でゴム層14の材料14Aをプライマー層13の外周面に供給しながら、先端が直線状のブレード25でゴム層14の材料14Aを平滑に(すなわち一様な厚さを持つように)均す。このようにして、プライマー層13の表面をゴム層14の材料でコートする。この後、加熱して材料14Aを硬化させることにより、ゴム層14を形成する。
【0038】
接着層15がフッ素樹脂系の接着剤から形成される場合には、次に、
図6と同様にスプレイノズルを移動させながら、ゴム層14の外周面にスプレイノズルによって接着層15の材料を噴射させる。
【0039】
一方、接着層15がシリコーンゴム系の接着剤またはフッ素ゴム系の接着剤から形成される場合、
図8に示すように、ゴム層14の周囲に接着層15の材料15Aをコートし、金属筒11Aをリング26に挿入する。リング26を金属筒11Aの軸線方向に沿って移動させることにより、リング26の内周面で材料15Aを平滑に(すなわち一様な厚さを持つように)均す。
【0040】
次に、
図9に示すように、接着層15の材料15Aの周囲にチューブ16Aを配置する。すなわち金属筒11Aをチューブ16Aに挿入する。チューブ16Aは、完成品の定着ベルト1において表層16に相当するが、完成品の定着ベルト1の数倍の長さを有する。
【0041】
次に、
図10に示すように、チューブ16Aとともに金属筒11Aをリング27に挿入する。リング27を金属筒11Aの軸線方向に沿って移動させることにより、リング27の内周面でチューブ16Aを径方向内側に押圧し、接着層15の材料15Aとチューブ16Aの密着性を高める。
図9および
図10においては、チューブ16Aのみを断面として示す。この後、加熱して材料15Aを硬化させることにより、接着層15を形成すると同時に、接着層15とチューブ16Aを固定する。
【0042】
このようにして
図11に示す長尺の円筒1Aが得られる。そして、
図11に示すように、円筒1Aを軸線方向に対して垂直な方向に切断することにより、完成品の定着ベルト1が得られる。
【0043】
二層の接着層15を有する定着ベルト1(
図4参照)を製造する場合には、ゴム層14の周囲に接着層15の内側層151の材料(フッ素樹脂系の接着剤)を移動するスプレイノズルによってコートし、さらにその周囲に外側層152の材料(非導電性シリコーンゴム系の接着剤)をコートし、
図8と同様にその材料をリングで均せばよい。
【0044】
出願人は、定着ベルト1のいくつかの層の材料と厚さが異なるサンプルを製造し、これらのサンプルの電気的特性を測定し、さらに各サンプルが静電オフセットを有効に抑制するか否かを調査した。サンプルの
諸元を
図12に示す。
【0045】
各サンプルについて、基材11と摺動層12とプライマー層13は共通である。具体的には、基材11は、電鋳で製造されたニッケル製のシームレスな円筒であって、直径は40mm、厚さは40μmであった。摺動層12は、PTFEから形成され、厚さは12μmであった。
【0046】
プライマー層13は、非導電性シリコーンゴム系の接着剤である東レ・ダウコーニング株式会社(日本国東京)製の「DY 39−042」から製造した。上記のように、プライマー層13の材料13Aはスプレイノズル20で金属筒11Aにコートされ、150℃で1分間、加熱して材料13Aを乾燥させることにより、プライマー層13を形成した。プライマー層13の厚さは2μmであった。
【0047】
ゴム層14は、非導電性シリコーンゴムである信越化学工業株式会社(日本国東京)製の「X−34−2008−2」から製造した。上記のように、ゴム層14の材料14Aは、ブレード25で平滑化され、150℃で加熱することにより硬化された。
【0048】
各サンプルにおけるゴム層14の厚さは
図12に示す通りであった。ゴム層14の厚さの相違による電気的特性の相違を調べるため、サンプル3のゴム層14の厚さは、他のサンプルと異なる。サンプル3については、ゴム層14の厚さは300μmであった。他のサンプルについては、ゴム層14の厚さは285μmであった。定着ベルト1において、基材11以外の層は、特に導電体であると明記していない限り、基本的に誘電体から形成されている。定着ベルト1における基材11と表層16の表面の間の静電容量は、定着ベルト1の帯電しやすさを表す指標であると考えることができ、基材11と表層16の表面の間の誘電体の厚さが大きいほど、静電容量は小さい。そして、静電容量が小さいほど、トナーTに近接する表層16の表面での帯電が抑制され、静電オフセットを抑制することができると出願人は考えた。
【0049】
サンプル1について、接着層15は、内側層151と外側層152を有する二層構造であった。内側層151は、電気抵抗が小さい非導電性フッ素樹脂系の接着剤であるケマーズ社(米国デラウェア)製の「PJ−CL990」から厚さ2μmに製造した。外側層152は、非導電性シリコーンゴム系の接着剤である信越化学工業株式会社製の「KE−1880」から、厚さ15μmに製造した。サンプル1の製造においては、ゴム層14の周囲に接着層15の内側層151の材料をコートし、その材料をリングで均し、100℃で5分間加熱して乾燥した内側層151を得て、さらに内側層151の周囲に外側層152の材料をコートし、その材料をリングで均した。
【0050】
サンプル2〜4について、接着層15は、単一の層であり、非導電性フッ素樹脂系の接着剤であるケマーズ社製の「PJ−CL990」から製造した。
【0051】
サンプル5について、接着層15は、単一の層であるが、非導電性シリコーンゴム系の接着剤である信越化学工業株式会社製の「KE−1880」から製造した。
【0052】
サンプル6について、接着層15は、単一の層であるが、非導電性フッ素ゴム系の接着剤である信越化学工業株式会社製の「SIFEL2617」から製造した。
【0053】
サンプル2〜6の製造においては、ゴム層14の周囲に接着層15の材料をコートし、その材料をリングで均した。接着層15の厚さは、
図12に示す通りであった。
【0054】
サンプル1の内側層151の材料、およびサンプル2〜4の接着層15の材料はエマルションの状態であるが、サンプル1の硬化した内側層151、およびサンプル2〜4の接着層15は、高純度のフッ素を含有すると考えられる。
【0055】
接着層15の材料がサンプルによって異なるのは、接着層15の材料の相違による電気的特性の相違を調べたためである。定着ベルト1における基材11と表層16の表面の間に、電気陰性度が高い(電子を引き付ける力が強い)フッ素が存在することにより、サンプル1〜4,6では、トナーTに近接する表層16の表面での帯電が抑制され、静電オフセットを抑制することができると出願人は予想した。フッ素の電気陰性度は、あらゆる原子の中で最大の3.98であり、これに対して、シリコーンゴムの主成分であるシリコンの電気陰性度は1.90である。
【0056】
また、定着ベルト1の厚さ方向での電気抵抗が静電オフセットに関係すると出願人は考えた。静電オフセットは、定着ベルト1に与えられた電界の除去の後に表層16が高い分極状態から低い分極状態(誘電緩和状態)に迅速に変化することにより、抑制されると考えられる。つまり、誘電緩和時間τが小さいことが望ましい。竹内学,「トナーの帯電に及ぼす雰囲気の影響」,日本画像学会誌39巻3号,2000年,p.270-277によれば、誘電緩和時間τは、下式によって計算することができる。
τ=CR (式1)
ここでCは定着ベルト1の厚さ方向での静電容量であり、Rは定着ベルト1の厚さ方向での電気抵抗である。
【0057】
静電容量Cは下式によって計算することができる。
C=εS/d (式2)
ここでεは定着ベルト1の複素誘電率の虚部であり、Sは面積であり、dは厚さである。
【0058】
式1から静電容量Cおよび/または電気抵抗Rが小さいことが望ましい。
図13は、層の材料の電気的特性を示す(これらの電気的特性の測定方法は後述する)。電気抵抗が小さい非導電性フッ素樹脂系の接着剤(「PJ−CL990」)を接着層15に使用することにより、誘電緩和時間τを短縮し、静電オフセットを抑制することができると出願人は考えた。したがって、接着層15がフッ素樹脂を含むサンプル1〜4では、静電オフセットを抑制することができると出願人は予想した。
【0059】
各サンプルについて、表層16は、厚さが30μmのPFA製のチューブから製造した。
【0060】
各サンプルの特徴を整理すると、以下の通りである。
【0061】
サンプル1は、接着層15が、非導電性フッ素樹脂系材料から形成された内側層151と非導電性シリコーンゴム系材料から形成された外側層152を有することを特徴とする。
【0062】
サンプル2,3,4は、接着層15が非導電性フッ素樹脂系材料から形成された単一の層であることを特徴とする。そして、サンプル2は接着層15の厚さがサンプル3,4のそれより小さいことを特徴とする。サンプル3,4は、接着層15の厚さがサンプル2のそれより大きいことを特徴とし、サンプル4はゴム層14の厚さが他のサンプルのそれより大きいことを特徴とする。
【0063】
サンプル5は、接着層15が、非導電性シリコーンゴム系材料から形成された単一の層であることを特徴とする。
【0064】
サンプル6は、接着層15が、非導電性フッ素ゴム系材料から形成された単一の層であることを特徴とする。
【0065】
各サンプルについて、
図14に示す方式で、定着ベルト1の厚さ方向での電気抵抗R(Ω)および静電容量C(pF)を測定した。この方式は、二端子測定法であり、2つの電極28,29を定着ベルト1の内周面(摺動層12の表面)と外周面(表層16の表面)にそれぞれ接触させ、LCRメータ30で電気抵抗と静電容量を測定した。使用したLCRメータ30は、日置電機株式会社(日本国長野)製の「3522−50」であった。測定に使用された周波数は1kHzであった。さらに、汎用的考察のため、測定された電気抵抗を電極28,29の面積A(定着ベルト1への接触面積、4.524cm
2)で除算し、定着ベルト1の厚さ方向での単位面積あたりの電気抵抗R/Aを計算した。さらに、汎用的考察のため、測定された静電容量を電極28,29の面積Aで除算し、定着ベルト1の厚さ方向での単位面積あたりの静電容量C/Aを計算した。定着ベルト1の厚さ方向での単位面積あたりの電気抵抗R/A(Ω/cm
2)および静電容量C/A(pF/cm
2)を
図12に示す。
【0066】
図13に示す層の材料の電気抵抗Rは、これらの材料から膜をそれぞれ別個に製造し、これらの膜の電気抵抗を上記と同様の方式で測定することによって得た。測定に使用した膜の厚さを
図13に示す。
図13に示す層の材料の複素誘電率の虚部εは、これらの膜の静電容量Cを上記と同様の方式で測定した後、式2に従って、計算した(この場合、Sは電極28,29の面積であり、dは膜の厚さである)。
【0067】
また、各サンプルについて、
図15に示す方式で、表層16での電荷減衰量ΔV(kV)を測定した。この測定では、23℃、55%(相対湿度)の環境下で、定着ベルト1に帯電ロール31を接触させ、定着ベルト1を60rpmで回転させ、直流電源32から帯電ロール31を介して定着ベルト1に電荷を供給した。帯電ロール31の抵抗値は、5×10
6Ωであった。直流電源32は、トレック社(米国ニューヨーク)製の「610C」であった。
【0068】
定着ベルト1の外周面(表層16の表面)には、表面電位計33のプローブ34を近接させ、表面電位を測定した。定着ベルト1におけるプローブ34の近接位置は、帯電ロール31が定着ベルト1に接触する位置から90度離れている。表面電位計33は、モンローエレクトロニクス社(米国ニューヨーク)の「Model 244A」であり、プローブは「Model 244A」に付属の標準プローブ「1017A」であった。
【0069】
以上の条件の下、表面電位計33で表層16の表面電位を監視し、表層の表面が−1kVに帯電された状態を60秒間維持した。その後、帯電ロール31を定着ベルト1から離間させることにより、帯電を終了した。帯電終了から120秒経過後、表層16の表面の電荷減衰量ΔV(kV)を測定した。電荷減衰量ΔVは、定着ベルト1の帯電しにくさを表す指標である。電荷減衰量ΔVを
図12に示す。
【0070】
また、式1に従って、定着ベルト1の厚さ方向での静電容量Cと定着ベルト1の厚さ方向での電気抵抗Rの積である誘電緩和時間τを計算した。誘電緩和時間τ(msec)も
図12に示す。
図12の単位msecは単位mF・Ωに置換可能である。
【0071】
また、汎用的考察のため、定着ベルト1の厚さ方向での単位面積あたりの静電容量C/A(pF/cm
2)および単位面積あたりの電気抵抗R/A(Ω/cm
2)の積C・R/A
2(FΩ/cm
4)を計算した。
図12の単位FΩ/cm
4は単位sec/cm
4に置換可能である。
【0072】
また、各サンプルを画像形成装置に装着し、各サンプルの静電オフセット抑制効果を評価した。使用した画像形成装置は、京セラドキュメントソリューションズ株式会社(日本国大阪)製の「TASKalfa 5550ci」である。この評価においては、紙のシートに白ベタ画像を印刷し、白ベタ画像にカブリ(印刷されるべきでない箇所に印刷されること)の有無を判断するため、色彩色差計(chroma meter、コニカミノルタ株式会社(日本国東京)製「CR−400」)を用いて、画像内7箇所についてL*値(L* value、明度)を測定した。L*値が
95.5以上であれば、カブリがないか微小であり、静電オフセット抑制効果が良好であると評価した。L*値が
95.5未満であれば、カブリが無視できず、静電オフセット抑制効果が不良であると評価した。
【0073】
評価結果を
図12に示す。サンプル1〜4については、静電オフセット抑制効果が良好であり、サンプル5,6については、静電オフセット抑制効果が不良であった。
【0074】
したがって、定着ベルト1の厚さ方向での静電容量Cと定着ベルト1の厚さ方向での電気抵抗Rの積である誘電緩和時間τが22msec未満(定着ベルト1の厚さ方向での単位面積あたりの静電容量C/A(pF/cm
2)および単位面積あたりの電気抵抗R/A(Ω/cm
2)の積C・R/A
2が1.1×10
−3FΩ/cm
4未満)である場合に、静電オフセットを有効に抑制することができることが分かった。
図12から明らかなように、静電容量Cはサンプル1〜6についてほぼ同等であるのに対して、電気抵抗が大きいシリコーンゴムとフッ素ゴムを接着層15が含むサンプル5,6は、電気抵抗が小さいフッ素樹脂を接着層15が含むサンプル1〜4よりも大きな電気抵抗Rを有し、このために長い誘電緩和時間τを要する。したがって、接着層15がフッ素樹脂、より具体的には非導電性フッ素樹脂を含む場合に、静電オフセットを有効に抑制することができることが分かった。好ましくは、定着ベルト1の厚さ方向での電気抵抗Rは、3.3×10
8Ω以下(定着ベルト1の厚さ方向での単位面積あたりの電気抵抗R/Aは、7.2×10
7Ω/cm
2以下)である。
【0075】
ゴム層14の厚さがより大きいサンプル3については、サンプル4に比べて静電容量Cが小さく、誘電緩和時間τが短かった。これは、ゴム層14の厚さがより大きいためであると考えられる。
【0076】
接着層15の厚さがより小さいサンプル2については、サンプル4に比べて電気抵抗Rが小さく、誘電緩和時間τが短かった。これは、接着層15の厚さがより小さいためであると考えられる。
【0077】
二層の接着層15を有するサンプル1については、サンプル2に比べて電気抵抗Rが小さく、誘電緩和時間τが短かった。
【0078】
また、評価結果から明らかなように、表層16の表面が−1kVに帯電されて帯電終了時点から120秒経過後の電荷減衰量ΔVが0.20kV以上、0.25kV以下であることが好ましい。電荷減衰効果が高ければ、接着層15の表面が帯電されても、誘電緩和時間τが小さく、静電オフセットが抑制されると理解することができる。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0080】
例えば、摺動層12は必ずしも不可欠ではない。
【0081】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0082】
条項1. プラスに帯電されたトナー像が形成されたシートに回転しながら接触して、前記トナー像を前記シートに定着させる、筒状の定着装置であって、
金属製の筒状の基材と、
前記基材の外周に被覆されたゴム層と、
前記ゴム層の外周に被覆された接着層と、
前記接着層の外周に被覆された樹脂製の表層と
を有し、
前記定着装置の厚さ方向での単位面積あたりの静電容量C/Aと前記定着装置の厚さ方向での単位面積あたりの電気抵抗R/Aの積C・R/A
2が1.1×10
−3FΩ/cm
4未満であることを特徴とする定着装置。
【0083】
条項2. 前記定着装置の厚さ方向での単位面積あたりの電気抵抗R/Aは、7.2×10
7Ω/cm
2以下である。
ことを特徴とする条項1に記載の定着装置。
【0084】
条項3. 前記接着層は、フッ素樹脂を含む
ことを特徴とする条項1または2に記載の定着装置。
【0085】
条項4. 前記接着層は、非導電性フッ素樹脂を含む
ことを特徴とする条項1または2に記載の定着装置。
【0086】
条項5. 前記接着層は、フッ素樹脂系の接着剤から形成された単一の層である
ことを特徴とする条項3または4に記載の定着装置。
【0087】
条項6. 前記接着層は、前記ゴム層の外周面に密着させられたフッ素樹脂系の接着剤から形成された内側層と、前記内側層の外周面に密着させられ前記表層の内周面に密着させられた非導電性シリコーンゴム系の接着剤から形成された外側層を有する
ことを特徴とする条項3または4に記載の定着装置。
【0088】
条項7. 前記表層の表面が−1kVに帯電されて帯電終了時点から120秒経過後の電荷減衰量ΔVが0.20kV以上、0.25kV以下である
ことを特徴とする条項1から6のいずれか1項に記載の定着装置。
【0089】
条項8. 前記表層は、絶縁性パーフルオロアルコキシフッ素樹脂から形成されている
ことを特徴とする条項1から7のいずれか1項に記載の定着装置。
【0090】
条項9. 前記ゴム層は、非導電性シリコーンゴムから形成されている
ことを特徴とする条項1から8のいずれか1項に記載の定着装置。