(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記強化繊維シートが、一方向に引き揃えられた強化繊維からなる強化繊維シートが、繊維軸方向を互いに変えて順次積層された強化繊維シートである請求項1または2に記載の強化繊維ステッチ基材。
前記ステッチ糸が、極性基を有する有機化合物がステッチ糸の質量に対して0.1〜10wt%付着したステッチ糸である請求項1〜5のいずれか1項に記載の強化繊維ステッチ基材。
請求項1〜7の何れか1項に記載の強化繊維ステッチ基材と、前記強化繊維ステッチ基材100質量部に対して1〜20質量部のバインダー樹脂と、を含むプリフォーム材。
請求項1〜7の何れか1項に記載の強化繊維ステッチ基材と、前記強化繊維ステッチ基材100質量部に対して20〜60質量部のマトリクス樹脂組成物と、を含む繊維強化複合材料。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の強化繊維ステッチ基材、プリフォーム材、及び繊維強化複合材料、並びにこれらの製造方法について説明する。
1. 強化繊維ステッチ基材
本発明の強化繊維ステッチ基材は、強化繊維シートがステッチ糸によりステッチされて成る。本発明において、ステッチ糸は、極性基を有する有機化合物が付着したステッチ糸である。このようなステッチ糸を使用することにより、ステッチ糸の単糸と繊維強化複合材料を構成するマトリクス樹脂との界面において、特に冷熱衝撃に起因する局所的な応力を減少させることができる。そのため、得られる繊維強化複合材料において、ステッチ糸に起因するマイクロクラックの形成を抑制できる。
【0015】
本発明の強化繊維ステッチ基材の目付は、200〜2000g/m
2とすることが好ましく、200〜1000g/m
2がより好ましい。また、強化繊維ステッチ基材の厚さは、成形品の用途等により適宜選択するものであるが、通常0.1〜2mmが好ましい。
【0016】
1−1. ステッチ糸
本発明において、ステッチ糸は、極性基を有する有機化合物が付着したステッチ糸である。極性基を有する有機化合物が付着したステッチ糸を用いることにより、ステッチ糸の単糸と繊維強化複合材料を構成する熱硬化性樹脂との界面において、特に冷熱衝撃に起因する界面剥離の発生と、それに続く局所的な応力集中を減少させることができる。そのため、このようなステッチ糸を強化繊維ステッチ基材に用いることで、得られる繊維強化複合材料において、ステッチ糸に起因するマイクロクラックの形成を抑制できる。
【0017】
本発明において、有機化合物は、極性基を有していれば、特に限定されるものではなく、脂肪族化合物であっても、芳香族化合物であってもよい。また、複素化合物であってもよい。ステッチ糸とマトリクス樹脂の接着性の観点から、炭素、水素からなる化合物であることが好ましく、酸素、窒素を複素原子として含む化合物であっても良い。化合物として、炭素、水素、酸素、窒素の合計含有量が90%以上の化合物であることが好ましい。ステッチ糸とマトリクス樹脂の接着性の観点からは、脂肪族化合物であることが好ましく、ポリオキシアルキレン骨格を有する化合物であることがより好ましい。
【0018】
本発明において、極性基を有する有機化合物に含まれる極性基としては、マトリクス樹脂と親和性を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、水酸基、アミノ基、フェノール基、ラクタム基、エポキシ基などが好ましく挙げられる。マトリクス樹脂として、硬化性樹脂を用いる場合、マトリクス樹脂を硬化させる際に、マトリクス樹脂と反応し共有結合を形成する極性基であることが好ましい。
【0019】
かかる極性基の反応性が高すぎると、有機化合物を繊維に付与する際の処理剤としての安定性が損なわれる場合があるため、極性基としては、水酸基、フェノール基、エポキシ基がより好ましい。複合材料のマトリクス樹脂として、エポキシ樹脂と組み合わせて用いる場合、エポキシ基であることが特に好ましい。
【0020】
また、極性基を複数個有する有機化合物であることが好ましい。極性基の数は2個以上が好ましい。極性基の数の上限は特に限定されないが、官能基量として、50mmol/gもあれば十分であり、25mmol/g以下であることがより好ましい。2個の極性基は有機化合物の両端に存在するのが最も好ましい。2個以上の極性基を有すると、有機化合物によりステッチ糸とマトリクス樹脂とが接着され、ステッチ糸に起因するマイクロクラックの形成をより抑制しやすい。
【0021】
本発明において、脂肪族化合物とは、非環式直鎖状飽和炭化水素、分岐状飽和炭化水素、非環式直鎖状不飽和炭化水素、分岐状不飽和炭化水素、または上記炭化水素の炭素原子(CH
3,CH
2,CH,C)を酸素原子(O)、窒素原子(NH,N)、硫黄原子(SO
3H,SH)、カルボニル原子団(CO)に置き換えた鎖状構造の化合物をいい、脂肪族アルコールとは、官能基としてヒドロキシル基を有する脂肪族化合物を、脂肪族ポリオールとは、ヒドロキシル基を2つ以上有する脂肪族化合物を、それぞれいう。
【0022】
本発明で用いる脂肪族化合物としては、特に限定されるものではないが、非環式直鎖状炭化水素であることが好ましい。また、不可避な不純物を除く複素原子として、酸素原子(O)のみを有する化合物であることが好ましく、ポリオキシエチレン基などの、ポリオキシアルキレン基(ポリオキシアルキレン骨格)を有する化合物であることがより好ましい。
【0023】
ポリオキシアルキレン基の重合度は、特に限定はないが、例えば、オキシエチレン基を有する場合、処理剤を施した後のステッチ糸の擦過特性を考慮するとポリオキシエチレン基の平均重合度nが15以上の有機化合物を含むことが好ましく、平均重合度nが20以上の有機化合物を含むことがより好ましい。平均重合度nの上限は特に限定されるものではないが、処理剤としての取り扱い性の観点から、50もあれば十分である。一方、処理剤を施した後のステッチ糸とマトリクス樹脂との界面接着特性を考慮するとポリオキシエチレン基の平均重合度nが30以下の有機化合物を含むことが好ましく、平均重合度nが15以下の有機化合物を含むことがより好ましい。この場合、平均重合度nの下限は特に限定されるものではないが、処理剤としての取り扱い性の観点から、5もあれば十分である。
【0024】
極性基としてエポキシ基を有する有機化合物としては、芳香族基を有する芳香族エポキシ化合物と、脂肪族基のみからなる脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。本発明においては、1種類又は複数種類の脂肪族エポキシ化合物を含むことが好ましい。
【0025】
脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、脂肪族アルコールまたは脂肪族ポリオールと、エピハロヒドリンとの反応等によって得られる、モノグリシジルエーテル化合物、ジグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエーテル化合物などのグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
【0026】
ジグリシジルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等がある。
【0027】
ポリグリシジルエーテル化合物としては、例えば、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等がある。
【0028】
有機化合物の数平均分子量は、処理剤を施した後のステッチ糸の擦過特性を考慮すると400以上であることが好ましく、450以上、2000以下の範囲内がより好ましく、700以上1500以下の範囲内が特に好ましい。これによりステッチ糸の取り扱い性が向上し、ステッチ加工の加工性を向上させることもできる。一方、処理剤を施した後のステッチ糸とマトリクス樹脂との界面接着特性を考慮すると有機化合物の数平均分子量は2000以下であることが好ましく、200以上、1600以下の範囲内がより好ましく、300以上1300以下の範囲内が特に好ましい。これによりステッチ糸とマトリクス樹脂との界面接着特性が向上し、ステッチ加工のマイクロクラック耐性を向上させることもできる。数平均分子量Mは、以下の(1)式により算出される。
M=1/Σ(樹脂iの重量分率/樹脂iの分子量) ・・・(1)
なお、iは1からkまでの自然数であり、kは有機化合物の種類数である。
【0029】
本発明においては、分子量が1000以上の有機化合物を含むものが好ましい。分子量が高い場合、有機化合物の分子が大きくなり、処理剤を付与した際に、ステッチ糸の表面に留まりやすいため、ステッチ糸の表面を効率的に被覆できる。
【0030】
分子量が1000以上の有機化合物の含有量は、有機化合物の総量に対して、30wt%以上が好ましく、40〜90wt%の範囲内がより好ましく、50〜80wt%の範囲内がさらに好ましい。
【0031】
また、分子量が500以下の有機化合物を含むものも好ましく、分子量が350以下の有機化合物を含むものがより好ましくい。分子量が低い場合、有機化合物の分子が小さいため、ステッチ糸の単繊維間へ処理剤が浸透性しやすくなり、処理剤の付着均一性を高めることができる。分子量が500以下の有機化合物の含有量は、有機化合物の総量に対して、10wt%以上が好ましく、20〜50wt%の範囲内がより好ましい。
【0032】
本発明において、ステッチ糸は極性基を有する有機化合物以外に、ステッチ糸の製造過程などで付与された繊維用油剤を含んでいてもよい。そのような繊維用油剤を含まないか、あるいは付与されていた繊維用油剤をあらかじめ除去したステッチ糸に対して、極性基を有する有機化合物を付与してステッチ糸として用いることが、ステッチ糸に起因するマイクロクラックの形成を抑制する観点からは好ましい。ここでステッチ糸が繊維用油剤を含まないとは、極性基を有する有機化合物以外の油剤の付着量が1質量%以下であることを意味する。また、必要に応じて、極性基を有する化合物を付与する前のステッチ糸に対して、繊維の表面の親水性を向上させ、マトリクス樹脂との接着性を向上させるため、親水性処理を行うことも好ましい。親水性処理としては、コロナ処理やプラズマ処理などが例示できる。
【0033】
極性基を有する有機化合物の付着量は、ステッチ糸の全質量に対して、0.1〜10wt%の範囲内が好ましく、1〜8wt%の範囲内がより好ましく、2.5〜7wt%の範囲内がさらに好ましい。処理剤の付着量をこの範囲とすることで、ステッチ糸に起因するマイクロクラックの形成をより抑制しやすくなる。処理剤の付着量が少なすぎる場合、複合材料におけるステッチ糸とマトリクス樹脂との密着性が低下する場合があり、一方、付着量が多すぎる場合、ステッチ糸の取り扱い性が低下し、強化繊維ステッチ基材の生産性が低下する場合がある。
【0034】
極性基を有する化合物の付与方法は、限定するものではないが、例えば、ローラー浸漬法、ローラー接触法により極性基を有する化合物を含んだ溶液(以下、「処理剤溶液」という)をステッチ糸に付着させた後に乾燥させてもよいし、処理剤溶液をスプレーでステッチ糸に吹き付けてもよい。なお、ローラー浸漬法が、生産性、均一付着性において、好ましく利用できる。処理剤溶液の溶媒には、極性基を有する有機化合物を溶解または分散させることができる溶媒であれば特に限定はないが、取扱性、安全性の面から、水が好ましい。水系の処理剤溶液としては、例えば、水溶性の化合物を水に溶解させた水溶性処理剤溶液、有機化合物を乳化剤等で乳化させたエマルション系処理剤溶液、粒子状の有機化合物を水に分散させたサスペンジョン系処理剤溶液が挙げられ、水溶性処理剤溶液を用いることが好ましい。
【0035】
水溶性の有機化合物を利用することで、処理剤溶液の粘度が低くなり、繊維束間への処理剤の浸透性が向上する。特に、処理剤として、分子量が500以下、好ましくは350以下の脂肪族エポキシ化合物を含むことで処理剤が繊維束間へ浸透しやすくなる。有機化合物の溶剤を除いた組成物としての粘度は、20〜200mPa・sの範囲内が好ましく、40〜150mPa・sの範囲内がより好ましい。
【0036】
ステッチ糸表面に形成される処理剤の膜厚は2〜100nmの範囲であることが好ましく、4nm〜50nmの範囲内がより好ましい。
【0037】
処理剤溶液で処理した後のステッチ糸は、処理剤溶液の溶媒等を蒸散させるため乾燥処理が施される。乾燥にはエアドライヤーを用いることが好ましい。乾燥温度は特に限定されるものではないが、汎用的な水系処理剤溶液の場合は通常100〜180℃の範囲内に設定される。また、乾燥工程の後、200℃以上の熱処理工程を経ることも可能である。
【0038】
本発明においてステッチ糸として用いる繊維の種類は、特に限定されるものではないが、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などのポリオレフィン繊維、脂肪族ポリアミド繊維、半芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリアミド繊維などのポリアミド繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維などを用いることが好ましい。
【0039】
これらの繊維の中でも、繊維を構成する化合物の化学構造中に極性基を有する繊維を用いることが好ましい。化学構造中に極性基を有する繊維は、マトリクス樹脂との親和性に優れ、ステッチ糸とマトリクス樹脂との界面剥離をさらに抑制しやすい。極性基としては、水酸基、エポキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基などが好ましく上げられる。中でも、水酸基またはアミド基を有する繊維が特に好ましい。このような極性基は、繊維を構成する化合物の化学構造の主鎖中に含まれていても、側鎖に含まれていてもよいが、マトリクス樹脂との接着性を向上させる観点から、主鎖中に含まれていることが好ましい。
【0040】
また、マトリクス樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、極性基として、水酸基、アミノ基、エポキシ基などの反応性基を有すると、繊維強化複合材料の製造過程でマトリクス樹脂と繊維の界面で、繊維に含まれる反応性基と熱硬化性樹脂が反応し共有結合を形成できるため、ステッチ糸とマトリクス樹脂との界面接着性をより高くすることができる。
【0041】
本発明で用いるステッチ糸は、繊維表面に非晶構造を有するステッチ糸であることが好ましく、繊維表面に細孔を有するステッチ糸であることも好ましい。繊維表面の非晶構造や細孔構造にはマトリクス樹脂が含浸しやすいため、ステッチ糸とマトリクス樹脂の界面接着性が高く、ステッチ糸とマトリクス樹脂との界面剥離をさらに抑制しやすい。
【0042】
本発明において、ステッチ糸は、180℃で2時間加熱し冷却した後の繊維軸方向の線膨張係数が−1×10
−6〜70×10
−6/Kのステッチ糸であることが好ましく、5×10
−6〜50×10
−6/Kであることがより好ましい。なお、本発明において線膨張係数は、−50〜70℃の温度範囲で測定された線膨張係数である。また、繊維強化複合材料とする際に組み合わせるマトリクス樹脂の線膨張係数(CTEm(×10
−6/K))以下であることが好ましく、ステッチ糸の線膨張係数を、CTEm(×10
−6/K)〜(CTEm−30)(×10
−6/K)の範囲とすることが好ましい。また、ステッチ糸の線膨張係数は、強化繊維シートに用いる強化繊維の繊維方向の線膨張係数(CTEf(×10
−6/K))以上であることも好ましく、CTEf(×10
−6/K)〜(CTEf+30)(×10
−6/K)の範囲とすることが好ましい。
【0043】
このような線膨張係数を有するステッチ糸を用いると、ステッチ糸とマトリクス樹脂相との熱膨張の体積差が小さいため、ステッチ糸とマトリクス樹脂相との界面に生じる内部応力や界面剥離が発生しにくい。このような線膨張係数を有するステッチ糸を用いることにより、ステッチ糸と繊維強化複合材料を構成する樹脂との界面剥離をより抑制できる。
【0044】
ステッチ糸の線膨張係数は、用いる繊維の材質固有の線膨張係数や、繊維を製造する際に繊維に付与する延伸処理や熱処理によって調整することができる。本発明のステッチ糸として、ガラス転移温度(Tg)もしくは軟化点が180℃以下の繊維を用いる場合、固有の線膨張係数が所望の範囲にある繊維を選択することが、ステッチ糸の線膨張係数を目的の範囲内に調整しやすいため、好ましい。一方、ステッチ糸として、Tgもしくは軟化点が180℃を超える繊維もしくはTgを持たない繊維を用いる場合、繊維を製造する際に延伸処理や熱処理によって所望の線膨張係数となるよう調整することができる。
【0045】
特に特定されるものではないが、ステッチ糸の繊度は、10〜70dTexが好ましく、15〜40dTexがより好ましい。また、ステッチ糸の単糸直径は、10〜40μmであることが好ましい。ステッチ糸のフィラメント数は1〜50本が好ましく、4〜24本がより好ましい。
【0046】
本発明の強化繊維ステッチ基材は、ステッチ糸の使用量が1〜10g/m
2であることが好ましく、2〜5g/m
2であることがより好ましい。
1−2. 強化繊維シート
本発明において用いる強化繊維シートは、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、金属繊維等の通常の繊維強化材に用いる材料が使用できる。中でも炭素繊維が好ましい。繊維方向の線膨張係数(CTEf)が−10×10
−6〜10×10
−6/Kの範囲にある強化繊維を用いることが好ましい。
【0047】
本発明において、強化繊維シートは、強化繊維の連続繊維束をシート状に加工した強化繊維シートを用いることが好ましく、一方向に引き揃えられた強化繊維から成る強化繊維シートを用いることがより好ましい。また、一方向に引き揃えられた強化繊維からなる強化繊維シートが、繊維軸方向を互いに変えて順次積層された強化繊維シート(積層基材)を用いることが特に好ましい。強化繊維シートは、複合材料を成形する際のシートの賦形性を高めるために、シートに切込みを入れるなどしてシートを構成する強化繊維を部分的に切断してもよいが、得られる複合材料の物性を向上させる観点から、連続繊維として用いることが好ましい。強化繊維を切断して使用する場合も、強化繊維の繊維長は10cm以上の長さを保つことが好ましい。
【0048】
強化繊維シートの積層構成としては、強化繊維の繊維軸方向を互いに変えて順次積層されていることが好ましく、繊維軸を0°、±45°、90°から適宜選択される角度で変えて積層されることがより好ましい。これらの角度は、強化繊維の糸条の繊維軸方向が、強化繊維ステッチ基材の所定の方向に対してそれぞれ0°、±45°、90°であることを意味する。特に−45°、0°、+45°、90°、90°、+45°、0°、−45°の積層構成を有することが好ましい。このような角度で積層されることにより、得られる繊維強化複合材料の等方性を高くすることができる。強化繊維シートの積層数に制限はないが、2〜8層程度とすることが好ましい。
【0049】
本発明の強化繊維ステッチ基材は、上記の強化繊維シートがステッチ糸によりステッチされている。強化繊維ステッチ基材のステッチの仕方は特に制限されるものではないが、ステッチ糸により複数の強化繊維シートが縫合されていることが好ましく、ステッチ糸により全強化繊維シートが縫合され、一体化されていることがより好ましい。
【0050】
本発明で用いる各強化繊維シートは、それぞれ一方向に引き揃えられた強化繊維の糸条のみで構成されていることが好ましく、当該一方向以外の方向に他の糸条(緯糸)が用いられていないことが好ましい。強化繊維が一方向に引き揃えられていることで、強化繊維糸条の直線性が向上し、得られる繊維強化複合材料の力学特性が向上する。また、繊維強化複合材料を形成した後において樹脂リッチ部分の発生を抑制し、マイクロクラックの形成を抑制しやすい。
【0051】
本発明の強化繊維ステッチ基材は、強化繊維シート表面にプリフォームを形成するためのバインダー樹脂が付着していてもよく、また、樹脂シートや不織布等が更に積層されていても良い。
【0052】
本発明の強化繊維ステッチ基材は、上記のような強化繊維シートを、極性基を有する有機化合物が付着したステッチ糸でステッチすることにより製造することができる。
【0053】
2. プリフォーム材
本発明の強化繊維ステッチ基材を用いて繊維強化複合材料を成型する場合には、強化繊維ステッチ基材をそのまま用いることもできるが、取扱い性、作業性の観点から強化繊維ステッチ基材を積重して予備成形したプリフォーム材を用いることが好ましい。
【0054】
プリフォーム材の製造は、プリフォーム作製型の一面に本発明の強化繊維ステッチ基材、又は、本発明の強化繊維ステッチ基材と他の強化繊維基材とを所望の厚さとなるまで積み重ね、必要に応じてバインダーとなる樹脂(バインダー樹脂)の粉体を散布あるいはバインダー樹脂の樹脂シートを積層して、加熱プレート等を用いたプレス等により加圧下加熱して予備成形することにより行う。加熱によりバインダーとなる樹脂が溶融し、本発明の強化繊維ステッチ基材同士、又は、本発明の強化繊維ステッチ基材と他の強化繊維シートとが型に倣って成型され、型の形状を保持したプリフォーム材となる。
【0055】
バインダー樹脂として用いる樹脂材料は、特に制限はなく、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリエーテルスルホンなどの熱可塑性樹脂、およびそれらの混合物を適宜用いることができる。これらの樹脂は粉末を散布して用いても良いし、シートや不織布等に形成して本発明の強化繊維ステッチ基材に積層しても良い。あるいは本発明の強化繊維ステッチ基材を構成する強化繊維の各糸条に予め付着させても良い。
【0056】
プリフォーム材を構成するバインダー樹脂の量は、本発明の強化繊維ステッチ基材100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、5〜10質量部であることがより好ましい。プリフォーム材の厚さは使用目的によっても異なるが、1〜40mmが好ましい。
【0057】
プリフォーム材は、公知のレジントランスファー成形法(RTM法)または、レジンフィルムインフュージョン成形法(RFI法)などの成形方法により繊維強化複合材料とすることができる。上記方法で作製したプリフォーム材は、プリフォーム後においてもその3次元の形状を保持している。このため、プリフォーム材をプリフォーム作製型から繊維強化複合材料の作製型に形状を崩さずに移動することが可能である。従って、繊維強化複合材料を作製する成形型に直接積層する必要が無く、成形型の占有時間を削減することができ、繊維強化複合材料の生産性が向上する。
【0058】
3. 繊維強化複合材料(FRP)
本発明の繊維強化複合材料は、本発明の強化繊維ステッチ基材と、マトリクス樹脂組成物とを含んで成る。繊維強化複合材料は、強化繊維ステッチ基材と、マトリクス樹脂組成物と、を複合化した状態で成形させることにより作製される。本発明の強化繊維ステッチ基材に、マトリクス樹脂組成物を含侵させ、ステッチ基材とマトリクス樹脂組成物が複合化した状態で成形させることにより作製される。繊維強化複合材料の作製方法としては、特に制限はなく、強化繊維基材にあらかじめマトリクス樹脂組成物を含侵させたプリプレグを成形してもよく、レジントランスファー成形法(RTM法)や、レジンフィルムインフュージョン成形法(RFI法)等により成形と同時に強化繊維基材とマトリクス樹脂組成物とを複合化しても良い。本発明の強化繊維ステッチ基材は、RTM法やRFI法による成形方法により好ましく用いることができる。マトリクス樹脂の線膨張係数(CTEm)としては、40×10
−6〜70×10
−6/Kが好ましい。
【0059】
本発明で用いるマトリクス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性マトリクス樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂を予備重合した樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂が、特に好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤以外に、通常用いられる着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。マトリクス樹脂の耐衝撃性を向上させるため、熱可塑性樹脂を含んでいることが好ましい。
【0060】
マトリクス樹脂として用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0061】
本発明の繊維強化複合材料は、複雑形状の繊維強化複合材料を効率よく得られるという観点から、RTM法を用いることが好ましい。ここで、RTM法とは型内に配置した強化繊維ステッチ基材に、マトリクス樹脂として硬化前の液状の熱硬化性樹脂組成物または溶融した熱可塑性樹脂組成物を含浸した後、マトリクス樹脂を硬化あるいは固化させて繊維強化複合材料を得る方法を意味する。
【0062】
本発明において、RTM法に用いる型は、剛性材料からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛性材料のオープンモールドと可撓性のフィルム(バッグ)を用いることも可能である。後者の場合、強化繊維ステッチ基材は、剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムの間に設置することができる。剛性材料としては、スチールやアルミニウムなどの金属、繊維強化プラスチック(FRP)、木材、石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムの材料には、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが用いられる。
【0063】
RTM法において、剛性材料のクローズドモールドを用いる場合は、加圧して型締めし、マトリクス樹脂組成物を加圧して注入することが通常行われる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することも可能である。吸引を行い、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみでマトリクス樹脂組成物を注入することも可能である。この方法は、複数の吸引口を設けることにより大型の部材を製造することができるため、好適に用いることができる。
【0064】
RTM法において、剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムを用いる場合は、吸引を行い、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみでマトリクス樹脂を注入しても良い。大気圧のみでの注入で良好な含浸を実現するためには、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。さらに、強化繊維ステッチ基材の設置に先立って、剛性材料の表面にゲルコートを塗布することが好ましく行われる。
【0065】
RTM法において、マトリクス樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、強化繊維ステッチ基材にマトリクス樹脂組成物を含浸した後、加熱硬化が行われる。加熱硬化時の型温は、通常、熱硬化性樹脂組成物の注入時における型温より高い温度が選ばれる。加熱硬化時の型温は80〜200℃であることが好ましい。加熱硬化の時間は1分〜20時間が好ましい。加熱硬化が完了した後、脱型して繊維強化複合材料を取り出す。その後、得られた繊維強化複合材料をより高い温度で加熱して後硬化を行っても良い。後硬化の温度は150〜200℃が好ましく、時間は1分〜4時間が好ましい。
【0066】
マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂組成物をRTM法で強化繊維ステッチ基材に含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。具体的な含浸圧力は、0.001〜10MPaであり、0.01〜1MPaであることが好ましい。RTM法を用いて繊維強化複合材料を得る場合、エポキシ樹脂組成物の粘度は、100℃における粘度が、5000mPa・s未満であることが好ましく、1〜1000mPa・sであることがより好ましい。
【0067】
マトリクス樹脂組成物の量は、強化繊維ステッチ基材100質量部に対して20〜60質量部であることが好ましく、30〜40質量部であることがより好ましい。
【0068】
本成型法においては、マトリクス樹脂組成物の粘度は、注入温度において、0.01〜1Pa・sが好ましい。注入する樹脂を予め加熱する等の方法で処理して注入時の粘度を上記範囲に調節しておくことが好ましい。
【0069】
このようにして得られた繊維強化複合材料は、マイクロクラックの発生が抑制された複合材料となる。複合材料のクラック密度は低いことが好ましく、具体的には、クラック密度が0.30個/(cm・ply)以下であることが好ましく、0.20個/(cm・ply)以下であることがより好ましく、0.15個/(cm・ply)以下であることが更に好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に記載する。
【0071】
[ステッチ糸]
・ステッチ糸1:EMS−CHEMIE社製 ポリアミド繊維 Grilon(登録商標) K−178 23T4 繊度:23dTex 単糸数:4本
・ステッチ糸2:KBセーレン株式会社製 液晶ポリエステル繊維 ゼクシオン(登録商標)28T6 繊度:28dTex 単糸数:6本
・ステッチ糸3:旭化成株式会社製 銅アンモニアレーヨン繊維(セルロース繊維) ベンベルグ(登録商標)33T24 繊度:33dTex 単糸数:24本
【0072】
[処理剤溶液]
・油剤1:芳香族エポキシ化合物 「jER−827」(登録商標)(三菱ケミカル株式会社製 ビスフェノールA型エポキシ樹脂 エポキシ基数:2個 エポキシ当量:180〜190g/Eq)の50wt%アセトン溶液(ビスフェノールA型エポキシとアセトンとの重量比が1:1になるように混合)
・油剤2:脂肪族エポキシ化合物 「デナコール」(登録商標)EX832 (ナガセケムテックス(株)製 ポリオキシエチレンジグリシジルエーテル エポキシ基数:2個 エポキシ当量:284g/Eq、ポリオキシエチレン基の平均重合度n:9)の5wt%水溶液(ポリオキシエチレンジグリシジルエーテルと水との重量比が1:19になるように混合)
・油剤3:脂肪族エポキシ化合物 「デナコール」(登録商標)EX832 (ナガセケムテックス(株)製 ポリオキシエチレンジグリシジルエーテル エポキシ基数:2個 エポキシ当量:284g/Eq、ポリオキシエチレン基の平均重合度n:9)の50wt%水溶液(ポリオキシエチレンジグリシジルエーテルと水との重量比が1:1になるように混合)
・油剤4:脂肪族エポキシ化合物 「デナコール」(登録商標)EX861 (ナガセケムテックス(株)製 ポリオキシエチレンジグリシジルエーテル エポキシ基数:2個 エポキシ当量:551g/Eq、ポリオキシエチレン基の平均重合度n:23)の5wt%水溶液(ポリオキシエチレンジグリシジルエーテルと水との重量比が1:19になるように混合)
・油剤5:脂肪族ポリエーテル化合物 「アデカポリエーテル」(登録商標)P1000 (株式会社ADEKA製 ポリプロピレンポリオール(ポリオキシアルキレン骨格を有する化合物) 分子量:1000、水酸基数:2個)の10wt%エタノール溶液(ポリプロピレンポリオールとエタノールとの重量比が1:9になるように混合)
【0073】
[強化繊維]
強化繊維として、炭素繊維束“テナックス(登録商標)”HTS40−12K (帝人(株)製、引張強度4.2GPa、引張弾性率240GPa、線膨張係数:−0.5×10
−6/K)を用いた。
【0074】
[液状熱硬化性樹脂]
繊維強化複合材料のマトリクス樹脂として、アミン硬化型エポキシ樹脂を利用した。その組成は以下の通りである。また、硬化物の線膨張係数は、55×10
−6/Kであった。
(エポキシ樹脂)
・テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン (ハンツマン・ジャパン株式会社製 Araldite(登録商標) MY721) 20質量部
・トリグリシジル−p−アミノフェノール (ハンツマン・ジャパン株式会社製 Araldite(登録商標) MY0510) 30質量部
・トリグリシジル−m−アミノフェノール (ハンツマン・ジャパン株式会社製 Araldite(登録商標) MY0610) 30質量部
・ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂 (ハンツマン・ジャパン株式会社製 Araldite(登録商標) PY306) 20質量部
[硬化剤]
・4,4’−ジアミノ−3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン (ロンザジャパン株式会社製 Lonzacure(登録商標)M−MIPA) 67質量部
【0075】
[評価方法]
(1) 冷熱衝撃試験
冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製 TSA−73EH−W)を用い、繊維強化複合材料に1000回の冷熱サイクルを与えた。冷熱サイクルの1サイクルは、15分間−55℃の平坦域、それに続く70℃の温度に達する15分間の温度変化域、それに続く15分間70℃の平坦域、それに続く−55℃の温度に戻る15分間の温度変化域から成るよう設定し、かかるサイクルを1000回繰り返した。
【0076】
(2) クラック密度
前記冷熱衝撃試験後の繊維強化複合材料試験片の内部における断面の亀裂数を顕微鏡観察により計測した。顕微鏡として株式会社キーエンス製 VHX−5000を用い、200倍拡大にて観察を行った。具体的には、冷熱衝撃試験後の試験片(幅80mm*長さ50mm*厚さ5mm)を幅40mm*長さ25mmの4等分に切断し、厚み方向の切断面を鏡面研磨し、長辺及び短辺それぞれを観察面とした。顕微鏡観察の微小亀裂の観察範囲は50mm
2以上とし、計測された亀裂数を積層数と観察面の幅で割ることでクラック密度の値を算出することができる。クラック密度の単位は個/(cm・ply)である。長辺及び短辺の観察から得られたクラック密度の値は平均化し、最終的なクラック密度とした。
【0077】
(3)処理剤付着量
ステッチ糸に対する処理剤の付着量は以下の方法により測定した。エタノールとベンゼンの混合液を溶剤としてソックスレー抽出法により、ステッチ糸より処理剤を抽出した後、処理剤の含まれる溶液を乾燥し、得られた固形分を秤量することによって求めた。
【0078】
ステッチ糸を70℃で1時間乾燥させ、約5g測り取った。(この時の質量をM
1とする。)エタノールとベンゼンの混合液を溶剤としてソックスレー抽出法に準拠し、4時間還流して、ステッチ糸に付着した処理剤を溶媒抽出した。抽出後、ステッチ糸を取り除き、溶剤を濃縮させ、抽出物を秤量瓶(風袋をM
2とする)に移し、105℃で2.5時間乾燥したのち抽出物量(M
3)を測定し、下記式により油剤の付着量を求めた。
処理剤付着量[M(質量%)]=(M
3−M
2)/M
1×100
【0079】
〔実施例1〕
ステッチ糸として、ステッチ糸1を用いた。有機溶剤によりステッチ糸を洗浄し、ステッチ糸の表面に付着している繊維用油剤を除去した。ステッチ糸の洗浄は、有機溶剤としてエタノールとベンゼンの混合液を用い、ソックスレー抽出器を用いて12時間の循環洗浄により行った。洗浄後のステッチ糸は真空乾燥機で12時間の乾燥処理を行った。次いで、繊維用油剤を除去したステッチ糸を処理剤溶液中に連続的に浸漬し、処理剤を付与した。処理剤溶液として油剤1を用いた。次いで、ローラーにて余分な水分を除去した後、熱風乾燥器を用いて、ステッチ糸を100℃で1時間乾燥させた。乾燥後の処理剤付着量は、2.8wt%であった。
【0080】
200本の強化繊維を一方向の引き揃えた強化繊維シートを4枚作製し、−45°、0°、+45°、90°の順で角度を変えて積層し、繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維シートが4枚積層された積層シートを作製した。次いで、処理剤を付与したステッチ糸で、積層シートを厚み方向に貫通して縫合(ステッチ)し、強化繊維ステッチ基材(一層あたり強化繊維目付:190g/m
2、ステッチ糸使用量:4g/m
2、強化繊維ステッチ基材合計目付:764g/m
2)を得た。
【0081】
得られた強化繊維ステッチ基材を300×300mmにカットした。次いで、500×500mmの離型処理したアルミ板の上に、強化繊維ステッチ基材を6枚重ねて積層体(プリフォーム材[−45°/0°/+45°/90°]
3s)とした。
【0082】
次いで得られた積層体と液状熱硬化性樹脂組成物を用いて、レジン・トランスファー・モールディング法により繊維強化複合材料を製造した。まず、積層体の上に、離型性機能を付与した基材であるピールクロスのRelease Ply C(AIRTECH社製)と樹脂拡散基材のResin Flow 90HT(AIRTECH社製)を積層した。その後、樹脂注入口と樹脂排出口の形成のためのホースを配置し、全体をナイロンバッグフィルムで覆い、シーラントテープで密閉し、内部を真空にした。続いてアルミ板を120℃に加温し、バック内を5torr以下に減圧した後、樹脂注入口を通して、真空系内へ100℃に加熱した上記の液状熱硬化性樹脂(ステッチ基材100質量部に対して33質量部)の注入を行った。注入した液状熱硬化性樹脂がバック内に充満し、積層体に含浸した状態で180℃に昇温し、180℃で2時間保持して、繊維強化複合材料を得た。
【0083】
得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。その結果、クラック密度は、0.10個/(cm・ply)と低く、クラック発生の少ない繊維強化複合材料が得られた。
【0084】
〔比較例1〕
ステッチ糸としてステッチ糸1を用いた。ステッチ糸に対して、有機溶剤による洗浄及び処理剤の付与を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。その結果、クラックの発生が確認され、クラック密度は、0.46個/(cm・ply)と実施例1と比較して高いものであった。
【0085】
〔実施例2〕
ステッチ糸として、ステッチ糸2を用いた以外は、実施例1と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。ステッチ糸の処理剤付着量は1.2wt%であった。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。その結果、クラック密度は、0.09個/(cm・ply)ととても低く、クラック発生の少ない繊維強化複合材料であった。
【0086】
〔比較例2〕
ステッチ糸としてステッチ糸2を用いた。ステッチ糸に対して、有機溶剤による洗浄及び処理剤の付与を行わなかった以外は、実施例2と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。その結果、クラックの発生が確認され、クラック密度は、0.24個/(cm・ply)と実施例2と比較して高いものであった。
【0087】
〔実施例3〕
ステッチ糸として、ステッチ糸3を用いた以外は、実施例1と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。ステッチ糸の処理剤付着量は4.9wt%であった。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。結果を表1に記載した。得られた繊維強化複合材料のクラック密度は、0.10個/(cm・ply)ととても低く、クラック発生の少ない繊維強化複合材料が得られた。
【0088】
〔実施例4〕
処理剤として油剤2を用いた以外は、実施例3と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。ステッチ糸の処理剤付着量は、2.4wt%であった。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。結果を表1に記載した。得られた繊維強化複合材料のクラック密度は、0.20個/(cm・ply)と低く、クラック発生の少ない繊維強化複合材料が得られた。
【0089】
〔実施例5〕
処理剤として油剤3を用いた以外は、実施例3と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。ステッチ糸の処理剤付着量は5.8wt%であった。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。結果を表1に記載した。得られた繊維強化複合材料のクラック密度は、0.13個/(cm・ply)ととても低く、クラック発生の少ない繊維強化複合材料が得られた。
【0090】
〔実施例6〕
処理剤として油剤4を用いた以外は、実施例3と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。ステッチ糸の処理剤付着量は1.8wt%であった。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。結果を表1に記載した。得られた繊維強化複合材料のクラック密度は、0.19個/(cm・ply)ととても低く、クラック発生の少ない繊維強化複合材料が得られた。
【0091】
〔実施例7〕
処理剤として油剤5を用いた以外は、実施例3と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。ステッチ糸の処理剤付着量は1.2wt%であった。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。結果を表1に記載した。得られた繊維強化複合材料のクラック密度は、0.28個/(cm・ply)と低く、クラック発生の少ない繊維強化複合材料が得られた。
【0092】
〔比較例3〕
ステッチ糸としてステッチ糸3を用いた。ステッチ糸に対して、有機溶剤による洗浄及び処理剤の付与を行わなかった以外は、実施例3と同様にして、強化繊維ステッチ基材及び繊維強化複合材料を得た。得られた繊維強化複合材料を用いてクラック密度を測定した。結果を表1に記載した。比較例3で得られた繊維強化複合材料では、クラックの発生が確認され、クラック密度は、0.54個/(cm・ply)と実施例3〜7と比較してとても高いものであった。
【0093】
【表1】
本発明の強化繊維ステッチ基材は、強化繊維から成る強化繊維シートが、ステッチ糸によりステッチされて成る強化繊維ステッチ基材であって、ステッチ糸が、極性基を有する有機化合物が付着したステッチ糸である強化繊維ステッチ基材である。極性基を有する有機化合物は、ポリオキシアルキレン骨格を有する化合物であることが好ましく、エポキシ基を有する化合物であることも好ましい。極性基を有する有機化合物は、ステッチ糸の質量に対して0.1〜10wt%付着していることが好ましい。