特許第6961152号(P6961152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961152カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、それを用いた非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6961152
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、それを用いた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20211025BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211025BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20211025BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20211025BHJP
【FI】
   C01B32/174
   H01M4/62 Z
   H01M4/139
   H01M4/13
【請求項の数】18
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2021-34455(P2021-34455)
(22)【出願日】2021年3月4日
【審査請求日】2021年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2020-116805(P2020-116805)
(32)【優先日】2020年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博友
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 哲朗
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−325008(JP,A)
【文献】 特開2007−297255(JP,A)
【文献】 特開2018−053375(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2007−0065270(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/174
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ。
(1)カーボンナノチューブ2gおよびイオン交換水200mLを計量し超音波ホモジナイザーを使用して1分間氷冷下分散処理を行った後、25℃で1時間以上静置したカーボンナノチューブ水分散液のpHが8.0〜10.0であること。
(2)カーボンナノチューブのBET比表面積が、200〜800m/gであること。
(3)カーボンナノチューブの平均繊維長(nm)をY、カーボンナノチューブのBET比表面積(m/g)をXとした際、Y=−aX+b(a、bは定数であり、2.2≦a≦3.5、2300≦b≦5000)であること。
【請求項2】
カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1560〜1600cm−1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310〜1350cm−1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5〜4.5であることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ。
【請求項3】
カーボンナノチューブの平均外径が、5〜20nmであることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ。
【請求項4】
カーボンナノチューブの体積抵抗率が1.0×10−2〜3.0×10−2Ω・cmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のカーボンナノチューブ。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のカーボンナノチューブと、分散剤と、水性液状媒体とを含むカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率が1〜100Paであることを特徴とする請求項5記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であることを特徴とする請求項5または6記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
分散剤が、カーボンナノチューブ100質量部に対して、10〜100質量部含まれることを特徴とする請求項5〜7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
pHが、7〜11であることを特徴とする請求項5〜8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項10】
レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50)が1〜20μmであることを特徴とする、請求項5〜9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項11】
カーボンナノチューブ分散液100質量部中に、0.4質量部以上2.5質量部以下のカーボンナノチューブを含む分散液であって、カーボンナノチューブ分散液の粘度をB型粘度計を用いて、6rpmで測定した粘度をα、60rpmで測定した粘度をβとした際に、α/βが、2.0≦α/β≦6.0を満たすことを特徴とする請求項5〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項12】
請求項5〜11いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液と、バインダー樹脂とを含むカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項13】
バインダー樹脂が、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムおよびポリアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項12記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項14】
請求項12または請求項13記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物と、活物質とを含む合材スラリー。
【請求項15】
請求項14記載の合材スラリーの塗工膜である電極膜。
【請求項16】
正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極または負極の少なくとも一方が、請求項15記載の電極膜を含んでなる非水電解質二次電池。
【請求項17】
請求項1〜4いずれか記載のカーボンナノチューブを含んでなる非水電解質二次電池。
【請求項18】
請求項16または請求項17記載の非水電解質二次電池を含んでなる車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブに関する。さらに詳しくは、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ分散液と樹脂とを含む樹脂組成物、カーボンナノチューブ分散液と樹脂と活物質とを含む合材スラリー、その塗工膜である電極膜、電極膜と電解質とを具備してなる非水電解質二次電池、カーボンナノチューブを含んでなる非水電解質二次電池、それを含んでなる車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及や携帯機器の小型軽量化及び高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、さらに、その二次電池の高容量化が求められている。このような背景の下で高エネルギー密度、高電圧という特徴から非水系電解液を用いる非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池が多くの機器に使われるようになっている。
【0003】
これらリチウムイオン二次電池に用いられる負極材料としては、リチウム(Li)に近い卑な電位で単位質量あたりの充放電容量の大きい黒鉛に代表される炭素材料が用いられている。しかしながらこれらの電極材料は質量当たりの充放電容量が理論値に近いところまで使われており、電池としての質量当たりのエネルギー密度は限界に近づいている。従って、電極としての利用率を上げるため、放電容量には寄与しない導電助剤やバインダーを減らす試みが行われている。
【0004】
導電助剤としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、フラーレン、グラフェン、微細炭素材料等が使用されている。特に微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブが多く使用されている。例えば、黒鉛やシリコン負極にカーボンナノチューブを添加することにより、電極抵抗を低減したり、電池の負荷抵抗を改善したり、電極の強度を上げたり、電極の膨張収縮性を上げることで、リチウム二次電池のサイクル寿命を向上させている。(例えば、特許文献1、2および3参照)また、正極にカーボンナノチューブを添加することにより、電極抵抗を低減する検討も行われている。(例えば、特許文献4参照)中でも、外径10nm〜数10nmの多層カーボンナノチューブは比較的安価であり、実用化が期待されている。
【0005】
平均外径が小さいカーボンナノチューブを用いると、少量で効率的に導電ネットワークを形成することができ、リチウムイオン二次電池用の正極および負極中に含まれる導電助材量を低減することができる。また、繊維長が大きいカーボンナノチューブを用いた場合も同様の効果があることが知られている。(例えば、特許文献6参照)しかしながら、これらの特徴を有するカーボンナノチューブは凝集力が強く分散が困難であるため、十分な分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を得ることができなかった。
【0006】
そこで、様々な分散剤を用いてカーボンナノチューブを分散安定化する方法が提案されている。例えば、水溶性高分子ポリビニルピロリドン等のポリマー系分散剤を用いた水及びNMP(N−メチル−2−ピロリドン)への分散が提案されている(特許文献4、および5参照)。しかしながら、特許文献4では、外径10〜150nmのカーボンナノチューブを用いて作製した電極の評価を行っているが、電極抵抗が高い問題があった。特許文献5では、単層カーボンナノチューブを用いた分散の検討が行われているが、溶媒中にカーボンナノチューブを高濃度分散することが困難であった。特許文献7では、酸性官能基を有するトリアジン誘導体を含むカーボンナノチューブ分散液が提案されているが、水性液状媒体中にカーボンナノチューブを分散した場合、カーボンナノチューブが凝集しやすい問題があった。特許文献8では、二層カーボンナノチューブを用いた分散の検討が行われているが、カーボンナノチューブの酸化処理や超音波分散が必要であり、溶媒中にカーボンナノチューブを高濃度分散することが困難であった。特許文献9では、リチウムイオン二次電池の導電助剤として適切なカーボンナノチューブとするために、ボールミル型分散機を使用して、外径150nmのカーボンナノチューブを2〜7μm程度に分散したカーボンナノチューブ分散液が作製されているが、十分な導電性を得るためにカーボンナノチューブを多く使用する必要があった。したがって、外径が小さく、繊維長が大きいカーボンナノチューブを分散媒に高濃度かつ均一に分散したカーボンナノチューブ分散液を得ることは、用途拡大に向けた重要な課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−155776号公報
【特許文献2】特開平4−237971号公報
【特許文献3】特開2004−178922号公報
【特許文献4】特開2011−70908号公報
【特許文献5】特開2005−162877号公報
【特許文献6】特開2012−221672号公報
【特許文献7】特開2020−11872号公報
【特許文献8】特開2010−254546号公報
【特許文献9】特開2014−182892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、密着性および導電性の高い電極膜を得るために、高い分散性を有するカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物および合材スラリーを提供することである。さらに詳しくは、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。発明者らは、pHが8.0〜10.0であり、BET比表面積が200〜800m/gであり、カーボンナノチューブの繊維長(nm)をY、カーボンナノチューブのBET比表面積(m/g)をXとした際、Y=−aX+b(a、bは定数であり、2.2≦a≦3.5、2300≦b≦5000)であるカーボンナノチューブを使用することにより、導電性および密着性に優れた電極膜が得られること、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池が得られることを見出した。発明者らは、かかる発見を基に、本発明をするに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブに関する。
(1)カーボンナノチューブ水分散液のpHが8.0〜10.0であること。
(2)カーボンナノチューブのBET比表面積が、200〜800m/gであること。
(3)カーボンナノチューブの繊維長(nm)をY、カーボンナノチューブのBET比表面積(m/g)をXとした際、Y=−aX+b(a、bは定数であり、2.2≦a≦3.5、2300≦b≦5000)であること。
【0011】
また、本発明は、カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1560〜1600cm−1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310〜1350cm−1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5〜4.5であることを特徴とする前記カーボンナノチューブに関する。
【0012】
また、本発明は、カーボンナノチューブの平均外径が、5〜20nmであることを特徴とする前記カーボンナノチューブに関する。
【0013】
また、本発明は、カーボンナノチューブの体積抵抗率が1.0×10−2〜3.0×10−2Ω・cmであることを特徴とする前記カーボンナノチューブに関する。
【0014】
また、本発明は、カーボンナノチューブと、分散剤と、水性液状媒体とを含む前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0015】
また、本発明は、カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率が1〜100Paであることを特徴とする前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0016】
また、本発明は、カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液に関する。
【0017】
また、本発明は、分散剤が、カーボンナノチューブ100質量部に対して、10〜100質量部含まれることを特徴とする前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0018】
また、本発明は、pHが、7〜11であることを特徴とする前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0019】
また、本発明は、レーザー回折式粒度分布測定によって算出される50%粒子径(D50)が1〜20μmであることを特徴とする、前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0020】
また、本発明は、カーボンナノチューブ分散液100質量部中に、0.4質量部以上2.5質量部以下のカーボンナノチューブを含む分散液であって、カーボンナノチューブ分散液の粘度をB型粘度計を用いて、6rpmで測定した粘度をα、60rpmで測定した粘度をβとした際に、α/βが、2.0≦α/β≦6.0を満たすことを特徴とする前記カーボンナノチューブ分散液に関する。
【0021】
また、本発明は、カーボンナノチューブ分散液と、バインダー樹脂とを含むカーボンナノチューブ樹脂組成物に関する。
【0022】
また、本発明は、バインダー樹脂が、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムおよびポリアクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記カーボンナノチューブ樹脂組成物に関する。
【0023】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブ樹脂組成物と、活物質とを含む合材スラリーに関する。
【0024】
また、本発明は、合材スラリーの塗工膜である電極膜に関する。
【0025】
また、本発明は、正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極または負極の少なくとも一方が、前記電極膜を含んでなる非水電解質二次電池に関する。
【0026】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブを含んでなる前記非水電解質二次電池に関する。
【0027】
また、本発明は、前記非水電解質二次電池を含んでなる車両に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明のカーボンナノチューブを使用することにより、導電性および密着性に優れた樹脂組成物、合材スラリー、電極膜が得られる。また、レート特性およびサイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。よって、優れた非水二次電解質二次電池が求められる車両等の様々な用途分野において、本発明のカーボンナノチューブおよびカーボンナノチューブ分散液を使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は本発明の実施例で作製されたカーボンナノチューブと、比較例および参考例に使用したカーボンナノチューブのBET比表面積とCNT繊維長の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、樹脂組成物、合材スラリーおよびそれを膜状に形成してなる電極膜、非水電解質二次電池について詳しく説明する。
【0031】
(1)カーボンナノチューブ
本実施形態のカーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状を有している。カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブが混在するものであってもよい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブをカーボンナノチューブとして用いることもできる。
【0032】
本実施形態のカーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてカーボンナノチューブの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0033】
本実施形態のカーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されない。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0034】
本実施形態のカーボンナノチューブは、水分散液のpHは8.0〜10.0であり、8.5〜9.5であることがより好ましい。カーボンナノチューブ水分散液のpHはイオン交換水100質量部中に1質量部のカーボンナノチューブを添加した後、超音波ホモジナイザーで分散処理して作製した液のpHを測定することで測定することができる。遠心分離やフィルターにより、CNTと水を分離して測定を行うことが好ましい。pH8.0〜10.0のカーボンナノチューブは、水やNMPに代表される、水溶性液状媒体への濡れ性が高く、非水電解質二次電池用のカーボンナノチューブとして適している。
【0035】
本実施形態のカーボンナノチューブのBET比表面積は200〜800m/gであり、200〜400m/gであってもよく、401〜600m/gであってもよく、601〜800m/gであってもよい。
【0036】
本実施形態のカーボンナノチューブの繊維長は1000nm以上5000nm未満であることが好ましく、1000nm以上2000nm未満でもあってもよく、2000nm以上4000nm未満であってもよい。
【0037】
本実施形態のカーボンナノチューブは、繊維長およびBET比表面積の値を下記式で規定することができる。
本実施形態のカーボンナノチューブの繊維長(nm)をY、カーボンナノチューブのBET比表面積(m/g)をXとした際、下記式1を満たす。
(式1)Y=−aX+b
式1において、a、bは定数であり、2.2≦a≦3.5、2300≦b≦5000である。
さらに好ましくは、下記式2を満たす。
(式2)Y=−aX+b
式2において、a、bは定数であり、1.2≦a≦3.5、2600≦b≦4000である。
すなわち、本発明のCNTは、図1に示すように繊維長とBET比表面積の間に負の相関関係を有しており、上記関係式を満たしていることを特徴とする。
【0038】
ここで、aは1.2〜2.2、または2.2〜3.5の定数であってもよく、bは2300〜3300、または3300〜5000であってもよい。
【0039】
カーボンナノチューブは、G/D比(G-bandとD-bandのピーク比)で評価される。本実施形態のカーボンナノチューブのG/D比はラマン分光分析法により求められる。本実施形態のカーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560〜1600cm−1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310〜1350cm−1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、0.5〜10であることが好ましく、0.5〜4.5であることがより好ましく、0.5〜2.0であることがさらに好ましい。
【0040】
本実施形態のカーボンナノチューブは、平均外径が5〜25nmであることが好ましく、5〜20nmであることがより好ましく、5〜15nmであることがさらに好ましい。
【0041】
本実施形態のカーボンナノチューブの外径および平均外径は次のように求められる。まず透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に観測写真において、任意の300本のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測する。次に外径の数平均としてカーボンナノチューブの平均外径(nm)を算出する。
【0042】
本実施形態のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの層数が3層以上30層以下であることが好ましく、3層以上20層以下であることがさらに好ましく、3層以上10層以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態のカーボンナノチューブは、粉末X線回折分析を行った時に回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°以上6°未満であることが好ましく、2.5°以上6°未満であることがより好ましく、3°以上6°未満であることがさらに好ましい。
【0044】
本実施形態のカーボンナノチューブの体積抵抗率は、1.0×10−2〜3.0×10−2Ω・cmであることが好ましく、1.0×10−2〜2.0×10−2Ω・cmであることがより好ましい。カーボンナノチューブの体積抵抗率は粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体抵抗率測定システムMCP−PD−51))を用いて測定することができる。
【0045】
本実施形態のカーボンナノチューブの炭素純度はカーボンナノチューブ中の炭素原子の含有率(%)で表される。炭素純度はカーボンナノチューブ100質量%に対して、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。
【0046】
本実施形態のカーボンナノチューブ中に含まれる金属量はカーボンナノチューブ100質量%に対して、10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましく、2質量%未満がさらに好ましい。カーボンナノチューブに含まれる金属としては、カーボンナノチューブを合成する際に触媒として使用される金属や金属酸化物が挙げられる。具体的には、コバルト、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、シリカ、マンガンやモリブデン等の金属、金属酸化物やこれらの複合酸化物が挙げられる。
【0047】
本実施形態のカーボンナノチューブは、通常二次粒子として存在している。この二次粒子の形状は、例えば一般的な一次粒子であるカーボンナノチューブが複雑に絡み合っている状態でもよい。カーボンナノチューブを直線状にしたものの集合体であってもよい。直線状のカーボンナノチューブの集合体である二次粒子は、絡み合っているものと比べるとほぐれ易い。また直線状のものは、絡み合っているものに比べると分散性が良いのでカーボンナノチューブとして好適に利用できる。
【0048】
本実施形態のカーボンナノチューブは、表面処理を行ったカーボンナノチューブでもよい。またカーボンナノチューブは、カルボキシル基に代表される官能基を付与させたカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、有機化合物、金属原子、又はフラーレンに代表される物質を内包させたカーボンナノナノチューブも用いることができる。
【0049】
本実施形態のカーボンナノチューブはどのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。カーボンナノチューブは一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法及び燃焼法で製造できるが、これらに限定されない。例えば、酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中、500〜1000℃にて、炭素源を触媒と接触反応させることでカーボンナノチューブを製造することができる。炭素源は炭化水素及びアルコールの少なくともいずれか一方でもよい。
【0050】
カーボンナノチューブの炭素源となる原料ガスは、従来公知の任意のものを使用できる。例えば、炭素を含む原料ガスとしてメタン、エチレン、プロパン、ブタン及びアセチレンに代表される炭化水素、一酸化炭素、並びにアルコールを用いることができるが、これらに限定されない。特に使いやすさの観点から、炭化水素及びアルコールの少なくともいずれか一方を原料ガスとして用いることが望ましい。
【0051】
(2)分散剤
本実施形態の分散剤は、カーボンナノチューブを分散安定化できる範囲で特に限定されず、界面活性剤、樹脂型分散剤を使用することができる。界面活性剤は主にアニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性に分類される。カーボンナノチューブの分散に要求される特性に応じて適宜好適な種類の分散剤を、好適な配合量で使用することができる。
【0052】
アニオン性界面活性剤を選択する場合、その種類は特に限定されない。具体的には脂肪酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸スルホン酸塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル及びポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩及びβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
またカチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩類及び第四級アンモニウム塩類がある。具体的にはステアリルアミンアセテート、トリメチルヤシアンモニウムクロリド、トリメチル牛脂アンモニウムクロリド、ジメチルジオレイルアンモニウムクロリド、メチルオレイルジエタノールクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ラウリルピリジニウムジサルフェート、セチルピリジニウムブロマイド、4−アルキルメルカプトピリジン、ポリ(ビニルピリジン)−ドデシルブロマイド及びドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが挙げられるが、これらに限定されない。また両性界面活性剤としては、アミノカルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
またノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びアルキルアリルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
選択される界面活性剤は単独の界面活性剤に限定されない。このため二種以上の界面活性剤を組み合わせて使用することも可能である。例えばアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ、又はカチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが利用できる。その際の配合量は、それぞれの界面活性剤成分に対して好適な配合量とすることが好ましい。組み合わせとしてはアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが好ましい。アニオン性界面活性剤はポリカルボン酸塩であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤はポリオキシエチレンフェニルエーテルであることが好ましい。
【0056】
また樹脂型分散剤として具体的には、セルロース誘導体(セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、シアノエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル系重合体等が挙げられる。特にメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル系重合体が好ましい。樹脂型分散剤の分子量は1万〜15万であることが好ましく、1万〜10万であることがより好ましい。
【0057】
また、分散剤に加えて、アミン化合物や無機塩基を加えることが好ましい。アミン化合物としては、第1アミン(1級アミン)、第2アミン(2級アミン)、第3アミン(3級アミン)が用いられ、アンモニアや第4級アンモニウム化合物は含まない。アミン系化合物は、モノアミン以外にも、分子内に複数のアミノ基を有するジアミン、トリアミン、テトラミンといったアミン系化合物を用いることができる。具体的には、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミンなどの脂肪族1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミンなどの脂肪族2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミンなどの脂肪族3級アミン、アラニン、メチオニン、プロリン、セリン、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システインなどのアミノ酸、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、モルホリン、ピペリジンなどの脂環式含窒素複素環化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。無機塩基としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アルカリ土類金属のリン酸塩等が挙げられる。
【0058】
また、分散剤に加えて、消泡剤を添加してもよい。消泡剤は、市販の消泡剤、湿潤剤、親水性有機溶剤水溶性有機溶剤等、消泡効果を有するものであれば任意に用いることができ、1種類でも、複数を組み合わせて用いてもよい。
例えば、アルコール系;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等、
脂肪酸エステル系;ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等、
アミド系;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等、
リン酸エステル系;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等、
金属セッケン系;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等、
油脂系;動植物油、胡麻油、ひまし油等、
鉱油系:灯油、パラフィン等、
シリコーン系;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
【0059】
(3)水性液状媒体
本実施形態の水性液状媒体は、カーボンナノチューブが分散可能な範囲であれば特に限定されないが、水、及びまたは、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であることが好ましく、水を含むことがより好ましい。水を含む場合は、溶媒全体に対して95質量部以上であることが好ましく、98質量部以上であることがさらに好ましい。
【0060】
水溶性有機溶媒としては、アルコール系(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ベンジルアルコールなど)、多価アルコール系(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど)、多価アルコールエーテル系(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど)、アミン系(エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど)、アミド系(N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。
【0061】
(4)カーボンナノチューブ分散液
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと、分散剤と、水性液状媒体とを含むものである。
【0062】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は複素弾性率が1〜100Paであることが好ましく、3〜70Paであることがより好ましく、5〜50Paであることがさらに好ましい。また、位相角が5°以上60°以下であることが好ましく、5°以上40°以下であることがより好ましく、10°以上35°以下であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの複素弾性率及び位相角の測定は動的粘弾性測定により評価することができる。
【0063】
複素弾性率は、CNT分散液の硬さを示し、カーボンナノチューブの分散性が良好で、CNT分散液が低粘度であるほど小さくなる。しかし、カーボンナノチューブの繊維長が大きい場合、カーボンナノチューブが媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、カーボンナノチューブ自体の構造粘性があるため、複素弾性率が高い数値となる場合がある。また、位相角は、CNT分散液に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味し、すなわち分散液の流れ易さを示している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。一般的な粘弾性測定用試料では、位相角が0°より大きく90°より小さい正弦波となり、CNT分散液におけるCNTの分散性が良好であれば、位相角は純粘性体である90°に近づく。しかし、複素弾性率と同様に、カーボンナノチューブ自体の構造粘性がある場合には、導電材が媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、位相角が低い数値となる場合がある。上記範囲にあるカーボンナノチューブ分散液はカーボンナノチューブの分散粒径および分散性が良好であり、非水電解質二次電池用のカーボンナノチューブ分散液として適している。
【0064】
カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率および位相角は、カーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの分散性と、カーボンナノチューブ、および分散剤の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によって決まることから、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)を上記の好ましい範囲とし、かつ、これらの積(X×Y)が100以上1,500以下であると、分散安定性の優れたカーボンナノチューブ分散液を得ることができ、さらに優れた導電ネットワークを形成できることにより、導電性が非常に良好な電極膜を得ることができる。
【0065】
また、分散剤の重量平均分子量が1万〜15万である場合は、それ自身の粘弾性が小さいが、カーボンナノチューブ分散液とした場合の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であると、二次電池の電極組成物として使用される増粘剤やバインダーの役割を担うことができ、電極強度が向上し、電池性能が向上するものと思われる。単にカーボンナノチューブ分散液の粘度が低く(見かけ上の)分散性が良好であればよいのではなく、複素弾性率および位相角を、粘度等の従来の指標と組み合わせて分散状態を判断することが特に有効である。
【0066】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液中の分散剤の量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、10〜100質量部使用することが好ましく、20〜80質量部使用することがより好ましく、20〜50質量部使用することがさらに好ましい。
【0067】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの量は、カーボンナノチューブ分散液100質量部に対して、0.2〜20質量部が好ましく、0.4〜5質量部がより好ましく、0.4〜2.5質量部がさらに好ましく、0.5〜2.0質量部が特に好ましい。
【0068】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液のpHは6〜12であることが好ましく、7〜11であることがより好ましく、8〜10.5であることが特に好ましい。カーボンナノチューブ分散液のpHはpH計(株式会社堀場製作所社製、pH METER F−52)を用いて測定することができる。
【0069】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液のレーザー回折式粒度分布計によって算出される50%粒子径(D50)は、1〜20μmであることが好ましく、3〜15μmであることがより好ましい。
【0070】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の粘度は、B型粘度計を用いて、60rpmで測定した粘度が5000mPa・s未満であることが好ましく、2000mPa・s未満であることがより好ましい。
【0071】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブ分散液100質量部中に、0.4質量部以上2.5質量部以下のカーボンナノチューブを含む分散液であって、カーボンナノチューブ分散液の粘度をB型粘度計を用いて、6rpmで測定した粘度をα、60rpmで測定した粘度をβとした際に、α/βが、2.0≦α/β≦6.0であることが好ましい。
【0072】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液を得るには、カーボンナノチューブを溶媒中に分散させる処理を行うことが好ましい。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。
【0073】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(BRANSON社製Advanced Digital Sonifer(登録商標)、MODEL 450DA、エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、高圧ホモジナイザー(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、導電材組成物にせん断応力をかけて、分散粒度を250μm以下とした後、高圧ホモジナイザーを用いて、60〜150Mpaの圧力で分散することが好ましい。
【0075】
(5)バインダー
バインダーとは、カーボンナノチューブなどの物質間に存在する樹脂である。
【0076】
本実施形態のバインダーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。この中でも、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸が好ましい。
【0077】
バインダー樹脂としてのカルボキシメチルセルロースは、高粘度であることが好ましく、例えば、1%水溶液を作製した際の粘度が500〜6000mPa・sであることが好ましく、1000〜3000mPa・sであることがさらに好ましい。カルボキシメチルセルロース1%水溶液の粘度は25℃の条件下で、B型粘度計ローター回転速度60rpmで測定することができる。
【0078】
バインダー樹脂としてのカルボキシメチルセルロースは、エーテル化度が高いことが好ましい。例えば、エーテル化度が0.6〜1.5であることが好ましく、0.8〜1.2であることがさらに好ましい。
【0079】
バインダーの種類や量比は、カーボンナノチューブ、活物質など共存する物質の性状に合わせて、適宜選択される。例えば、カルボキシメチルセルロースを使用する量については、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質の質量を100質量%とした場合、カルボキシメチルセルロースの割合が0.5〜3.0質量%が好ましく、1.0〜2.0質量%がさらに好ましい。
【0080】
スチレンブタジエンゴムは、水中油滴エマルションであれば、一般に黒鉛系負極の結着材として用いられているものを使用することができる。スチレンブタジエンゴムを使用する量については、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質の質量を100質量%とした場合、スチレンブタジエンゴムの割合が0.5〜3.0質量%が好ましく、1.0〜2.0質量%がさらに好ましい。
【0081】
ポリアクリル酸を使用する量については、黒鉛系負極活物質及びシリコン系負極活物質の質量を100質量%とした場合、ポリアクリル酸の割合が1〜25質量%が好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。
【0082】
(6)カーボンナノチューブ樹脂組成物
本実施形態のカーボンナノチューブ樹脂組成物は、カーボンナノチューブと分散剤と溶媒とバインダーとを含むものである。
【0083】
本実施形態のカーボンナノチューブ樹脂組成物を得るには、カーボンナノチューブ分散液とバインダーとを混合し、均一化することが好ましい。混合方法としては、従来公知の様々な方法を行うことができる。カーボンナノチューブ樹脂組成物は前記カーボンナノチューブ分散液で説明した分散装置を用いて作製することができる。
【0084】
(7)合材スラリー
本実施形態の合材スラリーとは、カーボンナノチューブと分散剤と水性液状媒体とバインダーと活物質とを含むものである。
<活物質>
本実施形態の活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は起電力から正極活物質と負極活物質に分けられる。
【0085】
正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V25、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0086】
負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2(xは0<x<1の数である。)、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0087】
本実施形態の負極活物質としては、上記シリコン系負極活物質に加えて、黒鉛系負極活物質を併用することが好ましい。
【0088】
シリコン系負極活物質としては、例えば、二酸化珪素を炭素で還元して作製される所謂冶金グレードシリコンや、冶金グレードシリコンを酸処理や一方向凝固などで不純物を低減した工業グレードシリコン、そしてシリコンを反応させて得られたシランから作製される高純度の単結晶、多結晶、アモルファスなど結晶状態の異なる高純度シリコンや、工業グレードシリコンをスパッタ法やEB蒸着(電子ビーム蒸着)法などで高純度にすると同時に、結晶状態や析出状態を調整したシリコンなどが挙げられる。
【0089】
また、シリコンと酸素の化合物である酸化珪素や、シリコンと各種合金及びそれらの結晶状態を急冷法などで調整したシリコン化合物も挙げられる。中でも、外側がカーボン皮膜で被覆された、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有するシリコン系負極活物質が好ましい。
【0090】
シリコン系負極活物質の量は、黒鉛系負極活物質100質量%とした場合、3〜50質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましい。
【0091】
本実施形態の活物質のBET比表面積は0.1〜10m2/gのものが好ましく、0.2〜5m2/gのものがより好ましく、0.3〜3m2/gのものがさらに好ましい。
【0092】
本実施形態の活物質の平均粒子径は0.5〜50μmの範囲内であることが好ましく、
2〜20μmであることがより好ましい。本明細書でいう活物質の平均粒子径とは、活物質を電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0093】
(7)合材スラリーの製造方法
【0094】
本実施形態の合材スラリーは従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、カーボンナノチューブ樹脂組成物に活物質を添加して作製する方法や、カーボンナノチューブ分散液に活物質を添加した後、バインダーを添加して作製する方法が挙げられる。
【0095】
本実施形態の合材スラリーを得るには、カーボンナノチューブ樹脂組成物に活物質を加えた後、分散させる処理を行うことが好ましい。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。合材スラリーは前記カーボンナノチューブ分散液で説明した分散装置を用いて、合材スラリーを得ることができる。
【0096】
本実施形態の合材スラリー中の活物質の量は合材スラリー100質量部に対して、20〜80質量部であることが好ましく、30〜70質量部であることがより好ましく、40〜60質量部であることがさらに好ましい。
【0097】
本実施形態の合材スラリー中のカーボンナノチューブの量は活物質100質量部に対して、0.05〜5質量部であることが好ましく、0.05〜1質量部であることがより好ましく0.1〜0.5質量部であることがさらに好ましい。
【0098】
本実施形態の合材スラリー中のバインダーの量は活物質100質量部に対して、0.5〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%であることがさらに好ましく、2〜20質量%であることが特に好ましい。
【0099】
本実施形態の合材スラリーの固形分の量は、合材スラリー100質量%に対して、30〜90質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましく、40〜70質量%であることが好ましい。
【0100】
(8)電極膜
本実施形態の電極膜とは、合材スラリーを膜状に形成してなるものである。例えば、集電体上に合材スラリーを塗工乾燥することで、電極合材層を形成した塗工膜である。
【0101】
本実施形態の電極膜に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0102】
集電体上に合材スラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0103】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0104】
(9)非水電解質二次電池
本実施形態の非水電解質二次電池とは正極と、負極と、電解質とを含むものである。
【0105】
正極としては、集電体上に正極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0106】
負極としては、集電体上負極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0107】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されず、ナトリウム塩を含むものも使用できる。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0108】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0109】
本実施形態の非水電解質二次電池には、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0110】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、「カーボンナノチューブ」を「CNT」を略記することがある。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0112】
<物性の測定方法>
後述の各実施例及び比較例において使用されたCNTの物性は以下の方法により測定した。
【0113】
<CNT水分散液のpH>
450mLのSMサンプル瓶(株式会社三商社製)にCNT2gを計量し、イオン交換水200mLを加えて、超音波ホモジナイザー(Advanced Digital Sonifer(登録商標)、MODEL 450DA、BRANSON社製)を使用し、振幅50%で1分間氷冷下分散処理を行った。その後、目開き48μmのナイロンメッシュを通過させて、濾液を回収した。さらにその後、濾液を25℃の恒温槽に1時間以上静置した後、pH計(株式会社堀場製作所社製、pH METER F−52)を用いて測定した結果をCNT水分散液のpHとした。
【0114】
<CNTのBET比表面積>
CNTを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させた。その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM−model1208)を用いて、CNTのBET比表面積を測定した。
【0115】
<CNTの繊維長>
CNTを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、450mLのSMサンプル瓶(株式会社三商社製)に0.2gを計量し、トルエン200mLを加えて、超音波ホモジナイザー(Advanced Digital Sonifer(登録商標)、MODEL 450DA、BRANSON社製)を使用し、振幅50%で1分間分散処理し、CNT分散液を作製した。その後、マイカ基板上にCNT分散液を数μL滴下した後、120℃の電気オーブン中で乾燥して、粉末のCNT繊維長観察用の基板を作製した。その後、粉末のCNT繊維長観察用の作製した基盤表面を白金でスパッタリングした。さらにその後、SEMを用いて、観察した。観察はCNTの繊維長に合わせて5000倍または2万倍の倍率で、視野内に10本以上のCNTが含まれる写真を複数撮り、任意に抽出した100本のCNTの繊維長を測定し、その平均値をCNTの繊維長(μm)とした。
【0116】
<CNTのG/D比>
ラマン顕微鏡(XploRA、株式会社堀場製作所社製)にCNTを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。測定条件は取り込み時間60秒、積算回数2回、減光フィルタ10%、対物レンズの倍率20倍、コンフォーカスホール500、スリット幅100μm、測定波長は100〜3000cm−1とした。測定用のCNTはスライドガラス上に分取し、スパチュラを用いて平坦化した。得られたピークの内、スペクトルで1560〜1600cm−1の範囲内で最大ピーク強度をG、1310〜1350cm−1の範囲内で最大ピーク強度をDとし、G/Dの比をCNTのG/D比とした。
【0117】
<CNTの平均外径>
CNTを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、450mLのSMサンプル瓶(株式会社三商社製)にCNT0.2gを計量し、トルエン200mLを加えて、超音波ホモジナイザー(Advanced Digital Sonifer(登録商標)、MODEL 450DA、BRANSON社製)を使用し、振幅50%で5分間氷冷下分散処理を行い、CNT分散液を調整した。その後、CNT分散液を適宜希釈し、コロジオン膜状に数μL滴下し、室温で乾燥させた後、直接透過型電子顕微鏡(H−7650、株式会社日立製作所社製)を用いて、観察した。観察は5万倍の倍率で、視野内に10本以上のCNTが含まれる写真を複数撮り、任意に抽出した300本のCNTの外径を測定し、その平均値をCNTの平均外径(nm)とした。
【0118】
<CNTの体積抵抗率>
粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体抵抗率測定システムMCP−PD−51)を用い、試料質量1.2gとし、粉体用プローブユニット(四探針・リング電極、電極間隔5.0mm、電極半径1.0mm、試料半径12.5mm)により、印加電圧リミッタを90Vとして、種々加圧下の導電性粉体の体積抵抗率[Ω・cm]を測定した。1g/cmの密度におけるCNTの体積抵抗率の値について評価した。
【0119】
<CNTの炭素純度>
CNTをマイクロ波試料前処理装置(マイルストーンゼネラル社製、ETHOS1)を使用し、酸分解し、CNTに含まれる金属を抽出した。その後、マルチ型ICP発光分光分析装置(Agilent社製、720−ES)を用いて分析を行い、抽出液に含まれる金属量を算出した。CNTの炭素純度は次のようにして計算した。
(式3)炭素純度(%)=((CNT質量−CNT中の金属質量)÷CNT質量)×100%
【0120】
<CNT分散液の初期粘度>
CNT分散液を25℃の恒温槽に1時間以上静置した後、CNT分散液を十分に撹拌してから、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。初期粘度の評価は、◎:500mPa・s未満(優良)、〇:500以上2000mPa・s未満(良)、△:2000以上5000mPa・s以下(可)、×:5000mPa・sを超える(不可)とした。
【0121】
<CNT分散液の安定性>
CNT分散液を25℃の恒温槽に1週間静置した後、CNT分散液を十分に撹拌してから、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。安定性の評価は、◎:初期同等(優良)、○:粘度がやや変化した(良)、△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(可)、×:ゲル化している(不可)とした。
【0122】
<CNT分散液のチキソ性(α/β)>
CNT分散液を25℃の恒温槽に24時間静置した後、CNT分散液を十分に撹拌してから、B型粘度計ローター回転速度6rpmにて直ちに行った。その後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、直ちに行った。この時6rpmにて測定を行った粘度をα、60rpmで測定を行った粘度をβとした際、α/βの値が、◎:2以上4未満(優良)、
〇:4以上5未満(良)、△:5以上6以下(可)、×:2未満または6を超える(不可)とした。
【0123】
<CNT分散液の複素弾性率および位相角>
CNT分散液の複素弾性率および位相角は、直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。複素弾性率の判定基準は、◎:5Pa以上50Pa未満(優良)、○:1Pa以上5Pa未満、または50Pa以上100Pa未満(良)、×:1Pa未満、または100Paを超える(不可)とした。さらに、得られた複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)を算出した。複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)の判定基準は、〇:100以上1500以下(良)、×:100未満または1500を超える(不可)とした。
【0124】
<CNT分散液の50%粒子径(D50)>
50%粒子径は粒度分布測定装置(Partical LA−960V2、HORIBA製)を用いて測定した。循環/超音波の動作条件は、循環速度:3、超音波強度:7、超音波時間:1分、撹拌速度:1、撹拌モード:連続とした。また、空気抜き中は超音波強度7、超音波時間5秒で超音波作動を行った。水の屈折率は1.333、カーボン材料の屈折率は1.92とした。測定は、測定試料を赤色レーザーダイオードの透過率が60〜80%となるように希釈した後行い、粒子径基準は体積とした。50%粒子径の判定基準は、◎:3μm以上15μm以下(優良)、〇:1μm以上3μm未満、または15μmを超えて20μm以下(良)、×:1μm未満、または20μmを超える(不可)とした。
【0125】
<CNT分散液のpH測定>
CNT分散液を25℃の恒温槽に1時間以上静置した後、CNT分散液を十分に撹拌してから、pH計(株式会社堀場製作所社製、pH METER F−52)を用いて測定した。
【0126】
<電極膜の体積抵抗率>
合材スラリーを、アプリケーターを用いて、電極の単位当たりの目付量が8mg/cmとなるように銅箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させた。その後、(株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP、MCP−T610を用いて乾燥後の塗膜の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、銅箔上に形成した電極合材層の厚みを掛けて、負極用の電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)とした。電極合材層の厚みは、膜厚計(NIKON社製、DIGIMICRO MH−15M)を用いて、電極膜中の3点を測定した平均値から、銅箔の膜厚を引き算し、電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)とした。
【0127】
<電極膜の剥離強度>
合材スラリーを、アプリケーターを用いて、電極の単位当たりの目付量が8mg/cmとなるように銅箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させた。その後、塗工方向を長軸として90mm×20mmの長方形に2本カットした。剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所社製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×30mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ(株)製)をステンレス板上に貼り付け、作製した電池電極合材層を両面テープのもう一方の面に密着させ、一定速度(50mm/分)で下方から上方に引っ張りながら剥がし、このときの応力の平均値を剥離強度とした。
【0128】
<標準正極の作製>
後述の実施例および比較例で使用した標準正極は以下の方法により作製した。
【0129】
まず、正極活物質(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社製、HED(登録商標)NCM−111 1100)93質量部、アセチレンブラック(デンカ株式会社製、デンカブラック(登録商標)HS100)4質量部、PVDF(株式会社社クレハ・バッテリー・マテイラルズ・ジャパン社製、クレハKFポリマー W#1300)3質量部を容量150cmのプラスチック容器に加えた後、ヘラを用いて粉末が均一になるまで混合した。その後、NMPを20.5質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。その後、プラスチック容器内の混合物をヘラを用いて、均一になるまで混合し、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、NMPを14.6質量部添加し、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。最後に、高速攪拌機を用いて、3000rpmで10分間撹拌し、正極用合材スラリーを得た。その後、正極用合材スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cmとなるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル社製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が3.1g/cmとなる標準正極を作製した。
【0130】
<標準負極の作製>
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ製)0.5質量部と、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプ MAC500L、日本製紙社製、不揮発分100%)1質量部と、水98.4質量部とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB−20、日本黒鉛工業製)87質量部、シリコン10質量部添加し、高速撹拌機を用いて、3000rpmで10分間撹拌した。続いてSBR(TRD2001、JSR社製)を3.1質量部加えて、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌して、負極用合材スラリーを得た。その後、負極用合材スラリーを、アプリケーターを用いて、電極の単位当たりの目付量が8mg/cmとなるように銅箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させた。さらに、ロールプレス(株式会社サンクメタル社製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.7g/cmとなる標準負極を作製した。
【0131】
<リチウムイオン二次電池のレート特性評価>
ラミネート型リチウムイオン二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM−8)を用いて充放電測定を行った。充電電流11mA(0.2C)にて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1.1mA(0.02C))を行った後、放電電流11mA(0.2C)にて、放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流11mA(0.2C)にて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1.1mA0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧2.5Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の式4で表すことができる。
(式4) レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)
【0132】
<リチウムイオン二次電池のサイクル特性評価>
ラミネート型リチウムイオン二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM−8)を用いて充放電測定を行った。充電電流55mA(1C)にて充電終止電圧4.2Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1.38mA(0.025C))を行った後、放電電流55mA(1C)にて、放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。1Cは正極の理論容量を1時間で放電する電流値とした。サイクル特性は25℃における3回目の1C放電容量と200回目の1C放電容量の比、以下の式5で表すことができる。
(式5)サイクル特性 = 3回目の1C放電容量/200回目の1C放電容量×100(%)
【0133】
<アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体の合成>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、アセトニトリル100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を75℃に加熱して、アクリロニトリル90.0部、アクリル酸10.0部、および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を(日油社製;V−65)5.0部の混合物を3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに75℃で1時間反応させた後、パーブチルOを0.5部添加し、さらに75℃で1時間反応を続けた。その後、不揮発分測定にて転化率が98%超えたことを確認し、減圧濃縮して分散媒を完全に除去し、アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体を得た。アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体の重量平均分子量(Mw)は45,000であった。
【0134】
<分散剤>
・カルボキシメチルセルロース(日本製紙社製、サンローズA APP−84、重量平均分子量17600) 以下、CMCと略記する。
・カルボキシメチルセルロース(日本製紙社製、サンローズ(登録商標) F01MC、重量平均分子量55600) 以下、CMC2と略記する。
・カルボキシメチルセルロース(日本製紙社製、サンローズ(登録商標) F05MC、重量平均分子量104500) 以下、CMC3と略記する。
・ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K−30、重量平均分子量40000) 以下、PVPと略記する。
・アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体 以下、PANと略記する。
【0135】
<添加剤>
・2−アミノエタノール(富士フィルム和光純薬社製、和光1級)
・NaCO(富士フィルム和光純薬社製、和光1級)
・NaOH(富士フィルム和光純薬社製、和光1級)
【0136】
<消泡剤>
・サーフィノール104E(日信化学工業社製、HLB値4、表面張力33mN/m)
・サーフィノール440(日信化学工業社製、HLB値8、表面張力32mN/m)
・SNデフォーマー777(サンノプコ社製)
【0137】
<水酸化コバルトの合成>
特開2012−072050の[0091]記載の方法にて、板状の一次粒子が球状の二次粒子を形成した水酸化コバルトを作製した。作製した水酸化コバルト中に含まれる硫黄残量はICP分析により確認した結果1500ppmであった。
【0138】
<CNT合成用触媒の合成>
水酸化コバルト(II)30部の代わりに、前記板状の一次粒子が球状の二次粒子を形成した水酸化コバルト30部を使用した以外は、特開2019−108256の段落[0147]、段落[0148]記載の方法により、CNT合成用触媒(X)を作製した。
【0139】
水酸化コバルト(II)30部の代わりに、前記板状の一次粒子が球状の二次粒子を形成した水酸化コバルト30部を使用した以外は、特開2018−150218の段落[0117]記載の方法により、CNT合成用触媒(Y)を作製した。
【0140】
水酸化コバルト(II)30部の代わりに、酢酸コバルト4水和物60部を使用した以外はCNT合成用触媒(X)と同様の方法にて、CNT合成用触媒(Z)を得た。
【0141】
(実施例1−1)
<CNT(A)の合成>
加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10Lの横型反応管の中央部に、前記CNT合成用触媒(X)1gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。窒素ガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気を窒素ガスで置換し、横型反応管中の雰囲気温度が700℃になるまで加熱した。700℃に到達した後、炭化水素としてプロパンガスを毎分2Lの流速で反応管内に導入し、60分間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスを窒素ガスで置換し、反応管の温度を100℃以下になるまで冷却し取り出すことでCNT(A)を得た。
【0142】
(実施例1−2〜1−12)
<CNT(B)〜(L)の合成>
表1に掲載した、CNT合成用触媒、反応温度、炭素源、ガス流速に変更した以外は実施例1と同様の方法にて、CNT(B)〜(L)を作製した。
【0143】
【表1】
【0144】
(実施例1−13)
<CNT(GA)の合成>
CNT(G)を120Lの耐熱性容器に10kgを計量し、CNTが入った耐熱性容器を炉内に設置した。その後、炉内に窒素ガスを導入して、陽圧を保持しながら、炉内中の空気を排出した。炉内の酸素濃度が0.1%以下になった後、30時間かけて、1600℃まで加熱した。炉内温度を1600℃に保持しながら、塩素ガスを50L/分の速度で50時間導入した。その後、窒素ガスを50L/分で導入して陽圧を維持したまま冷却し、CNT(GA)を得た。
【0145】
(実施例1−14)
CNT(G)の代わりにCNT(I)を用いた以外は実施例1−13と同様の方法により、CNT(IA)を得た。
【0146】
(比較例1−1)
CNT(G)を1Lのガラス製容器に10gを計量し、20%塩酸(富士フィルム和光純薬製)を500g投入した後、スターラーを用いて十分に撹拌した。その後、イオン交換水を用いて十分に希釈し、メンブレンフィルターを用いて減圧濾過を行った。希釈と濾過の作業を繰り返し行った後、PTFE製のバットにCNTを移した後、オーブンを用いて、80℃で乾燥することにより、CNT(GB)を得た。CNT(GB)のpHは4.0であった。
【0147】
(比較例1−2〜1−4)
多層カーボンナノチューブ(ナノシル社製、NC7000)をCNT(M)、カーボンナノチューブ(昭和電工社製、VGCF−H)をCNT(N)、多層カーボンナノチューブ(TPR社製、ミリオーダーCNT)をCNT(O)とした。単層カーボンナノチューブ(OCSiAl社製、TUBALL)をCNT(P)とした。
【0148】
表2に実施例1〜14、比較例1〜4、参考例1−1のCNTを評価した結果を示す。
【表2】
【0149】
図1はBET比表面積とCNT繊維長との関係を示すグラフである。図1からわかるように、実施例1−1から1−6のCNTは、XとYが下記関係式と相関がある。
Y=−2.2X+2678.7
【0150】
実施例1−7から1−12のCNTは、XとYが下記関係式と相関がある。
Y=−3.5X+4791.4
【0151】
実施例1−13から1−14のCNTは、XとYが下記関係式と相関がある。
Y=−1.2X+2600.0
【0152】
実施例1−1から1−14のCNTは、XとYが下記関係式を満たしている。
Y=−aX+b (a、bは定数であり、2.2≦a≦3.5、2300≦b≦5000)
【0153】
また、実施例1−1から1−14のCNTは、XとYが下記関係式を満たしている。
Y=−aX+b (a、bは定数であり、1.2≦a≦3.5、2600≦b≦4000)
【0154】
(実施例2−1)
【0155】
表3に示す組成に従い、ステンレス容器にイオン交換水、分散剤、添加剤、消泡剤を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、CNT(A)をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M−A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP−17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、20回パス式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力80MPaにて行った。
【0156】
(実施例2−2〜比較例2−4)
CNT(A)をCNT(B)〜(O)に変更した以外は、表3に示す組成でCNT分散液(B)〜(N)を作製した。CNT分散液(O)は粘度が高く、高圧ホモジナイザーを用いて分散することができなかった。
【0157】
(実施例2−31〜実施例2−32)
表3に示す組成に従い、ステンレス容器にNMP、分散剤、添加剤を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、CNT(C)をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M−A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP−17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、20回パス式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力80MPaにて行った。
【0158】
【表3】
【0159】
【表3】
【0160】
<カーボンナノチューブ樹脂組成物および合材スラリーの作製>
(実施例3−1)
容量150cmのプラスチック容器にCNT分散液(CNT分散液A)と、CMC(ダイセルファインケム株式会社製、#1190)を2重量%溶解した水溶液と、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌して、カーボンナノチューブ樹脂組成物(A)を得た。その後、カーボンナノチューブ樹脂組成物中に一酸化珪素(大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm)を加えて、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで5分間撹拌した後、ヘラで良くかき混ぜた。さらにその後、黒鉛(日本黒鉛工業社製、CGB−20)を加えて、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで5分間撹拌した後、ヘラで良くかき混ぜた。最後に、SBR(JSR社製、スチレンブタジエンゴムTRD2001)を加えて、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌して、合材スラリー(A)を得た。負極合材組成物の不揮発分は48質量%とした。負極合材組成物の不揮発分の内、黒鉛:一酸化珪素:CNT:CMC(#1190):SBRの不揮発分比率は87:10:0.5:1:1.5とした。
【0161】
(実施例3−2〜比較例3−3)
表4に記載したCNT分散液を用いた以外は実施例3−1と同様の方法により、カーボンナノチューブ樹脂組成物(B)〜(N)、合材スラリー(B)〜(N)を得た。
【0162】
(実施例3−31)
容量150cmのプラスチック容器に、PVDF(ポリフッ化ビニリデン、Solvey社製、Solef#5130)を8質量%溶解したNMPを7.0質量部計量した。その後、CNT分散液(C4)18.7質量部を添加し、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2000rpmで30秒間撹拌して、CNT樹脂組成物(C4)を得た。
さらにその後、正極活物質(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社製、HED(登録商標)NCM−111 1100)を36.9部加えて、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2000rpmで2.5分間撹拌し、正極用合材スラリー(C4)を得た。
【0163】
(実施例3−32)
CNT分散液(C5)を用いた以外は、実施例3−31と同様の方法にて、CNT樹脂組成物(C5)、正極用合材スラリー(C5)を得た。
【0164】
【表4】
【0165】
(実施例4−1)
合材スラリー(A)を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させて負極用電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行って、負極(負極A)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量は8mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は1.6g/ccとした。
【0166】
(実施例4−2〜比較例4−3)
合材スラリー(A)の代わりに、合材スラリー(B)〜(N)を用いて、負極用電極膜(B)〜(N)、負極(B)〜(N)を作製した。
【0167】
(実施例4−31)
合材スラリー(C4)を、アプリケーターを用いて、電極の単位当たりの目付量が20mg/cmとなるようにアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させ、正極用電極膜(C4)を得た。その後、正極用電極膜(C4)をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行って、正極(C4)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量は20mg/cmであり、圧延処理後の合材層の密度は3.1g/ccとした。
【0168】
(実施例4−32)
合材スラリー(C4)を合材スラリー(C5)に変更した以外は、実施例4−31と同様の方法により、正極用電極膜(C5)、正極(C5)を作製した。
【0169】
表5に実施例4−1〜比較例4−3で作製した負極用電極膜および正極用電極膜の評価結果を示す。電極膜の評価基準は以下のとおりである。
(体積抵抗率)
◎(優良):電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)が0.15未満
〇(良):電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)が0.15以上0.3未満
×(不可):電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)が0.3以上
(密着性)
◎(優良):剥離強度(N/cm)が0.5以上
〇(良):剥離強度(N/cm)が0.3以上0.5未満
×(不可):剥離強度(N/cm)が0.3未満
正極用電極膜の評価基準は以下のとおりである。
(体積抵抗率)
◎(良):電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)が10未満
〇(可):電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)が10以上15未満
×(不可):電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)が15以上
(密着性)
◎(良):剥離強度(N/cm)が0.3以上
〇(可):剥離強度(N/cm)が0.2以上0.3未満
×(不可):剥離強度(N/cm)が0.2未満
【0170】
【表5】
【0171】
(実施例5−1)
負極(A)と標準正極を各々50mm×45mm、45mm×40mm、に打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、60℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートを3:5:2(体積比)の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)とFEC(フルオロエチレンカーボネート)を混合溶媒100質量部に対してそれぞれ1質量部加えた後、LiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口してラミネート型リチウムイオン二次電池(A)を作製した。
【0172】
(実施例5−2〜比較例5−3)
表6に記載した負極に変更した以外は実施例5−1と同様の方法により、ラミネート型リチウムイオン二次電池(B)〜(N)を作製した。レート特性は、レート特性が80%以上のものを◎(優良)、70%以上80%未満のものを〇(良)、60%以上70%未満のものを△(可)、60%未満のものを×(不可)とした。サイクル特性は、サイクル特性が90%以上を◎(優良)、85%以上90%未満を〇(良)、80%以上85%未満を△(可)、80%未満を×(不可)とした。
【0173】
(実施例5−31)
負極(A)の代わりに標準負極、標準正極の代わりに正極(C4)を使用した以外は、実施例5−1と同様の方法により、ラミネート型リチウムイオン二次電池(C4)を作製した。
【0174】
(実施例5−32)
正極(C4)の代わりに正極(C5)を使用した以外は、実施例5−31と同様の方法により、ラミネート型リチウムイオン二次電池(C5)を作製した。
【0175】
【表6】
【0176】
上記実施例では、pHが8.0〜10.0であり、BET比表面積が200〜800m/gであり、カーボンナノチューブの繊維長(nm)をY、カーボンナノチューブのBET比表面積(μm)をXとした際、Y=−aX+b(a、bは定数であり、−2.2≦a≦−3.5、2300≦b≦5000)であるカーボンナノチューブを用いた。実施例では、比較例に比べてレート特性およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られた。よって、本発明は従来のカーボンナノチューブおよびカーボンナノチューブ分散液では実現しがたい高容量、高出力かつ高耐久性を有するリチウムイオン二次電池を提供できることが明らかとなった。
【0177】
また、比較例において、比表面積が小さい場合は、繊維長が短いCNT(M)、または長いCNT(O)は、レート特性およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得られなかった。CNT(M)は、繊維長が短いため、電池の充放電に伴う活物質の体積膨張などにより、電池性能が劣化してしまったためであると考えられる。
【0178】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【要約】
【課題】密着性および導電性の高い電極膜を得るために、高い分散性を有するカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物および合材スラリーを提供することである。さらに詳しくは、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することである。
【解決手段】下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブに関する。
(1)カーボンナノチューブ水分散液のpHが8.0〜10.0であること
(2)カーボンナノチューブのBET比表面積が、200〜800m/gであること
(3)カーボンナノチューブの繊維長(nm)をY、カーボンナノチューブのBET比表面積(m/g)をXとした際、Y=−aX+b(a、bは定数であり、2.2≦a≦3.5、2300≦b≦5000)であること。
【選択図】図1
図1