(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
<樹脂微粒子分散体(B)>
まず、プライマー用の樹脂微粒子分散体(B)について説明する。
本発明の樹脂微粒子分散体(B)は、乳化剤(A)によって、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体が水性媒体中に分散した形態をとっている。凝集剤 が共存する下においても、一般式(1)で表される単量体(b−1)を含有することにより樹脂微粒子分散体(B)の凝集を抑制し、優れた分散安定性を付与する。
【0023】
<乳化剤(A)>
本発明で使用する乳化剤(A)として、低分子界面活性剤(A−1)や、アクリル樹脂、スチレン・マレイン酸樹脂、オレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の水溶性樹脂(A−2)を使用することができる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても構わない。また「水溶性樹脂」とは、25℃の水100gに対する溶解度が1g/100gH
2O以上である樹脂を意味する。
【0024】
低分子界面活性剤(A−1)としては例えば、
ポリオキシエチレンアリルオキシメチルアルキルエーテル硫酸塩系(第一工業製薬社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、ADEKA社製アデカリアソープSR−10N、SR−20N等);
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩系(花王社製ラテムルPD−104等);
アルキルアリルスルホコハク酸塩系(三洋化成社製エレミノールJS−2、花王社製ラムテルS−180A等);
メタクリロイルオキシポリオキシプロピレン硫酸エステル塩系(三洋化成社製エレミノールエレミノールRS‐3000);
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸塩系(第一工業製薬社製アクアロンHS−10、HS−1025、BC−0515、BC−10、BC−1025、BC−20、BC−2020等);
ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸塩系(第一工業製薬社製アクアロンAR−10、AR−20、AR−30);
ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル塩系(日本乳化剤社製アントックスMS−60、MS−2N);
不飽和リン酸エステル系(クローダ社製マキシマルシリーズ);
等のアニオン系反応性乳化剤;
ポリオキシエチレンアリルオキシメチルアルキルエーテル系(ADEKA社製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40);
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル系(ラムテルPD−420、PD−430、PD−450など);
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル系(第一工業製薬社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、ADEKA社製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40など);
ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル(メタ)アクリレート系(日本乳化剤社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114など)等のノニオン系反応性乳化剤;
オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類、ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類等のアニオン性非反応性乳化剤;
ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等のノニオン性非反応性乳化剤;
アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン性非反応性乳化剤;
アルキルベタインやアルキルアミンオキサイド等の両性非反応性界面活性剤;
等が挙げられる。
【0025】
本発明の樹脂微粒子分散体は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体界面に効率的に吸着し、樹脂微粒子分散体(B)の分散安定性に優れる点から、水溶性樹脂(A−2)を乳化剤(A)として使用する事が好ましい。これにより得られた樹脂微粒子分散体は、水溶性樹脂(A−2)がシェル、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体が粒子核のコアシェル型樹脂微粒子分散体の形態をとる。この樹脂微粒子分散体は分散安定性に優れるうえ、フィルム基材を始めとした記録媒体への塗工性や造膜性が良好である。更に記録媒体への濡れ性や樹脂の造膜性を促進する目的でアルコールのような両親媒性の溶剤が一定量添加されても、低分子界面活性剤(A−1)の場合よりも、脱離が起こりにくいので不安定化しにくい。したがって、より過酷な条件下においても、プライマーが変質せず、フィルム基材に対して良好な塗工性と造膜性を発現できる。更に、乳化剤(A)に低分子界面活性剤(A−1)を使用する場合と比較して、インキ塗膜の記録媒体への密着性やラミネート積層体のラミネート強度にも優れる。
【0026】
水溶性樹脂(A−2)を用いる場合、その重量平均分子量は、5000〜25000の範囲であることが好ましく、5000〜20000の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が5000以上であると、樹脂微粒子分散体が安定化して、プライマー中の樹脂微粒子分散体の分散安定性が向上する。また印刷物の密着性やラミネート積層体としたときのラミネート強度が優れる。更に、樹脂微粒子分散体の粒径が大きくなり過ぎず、樹脂の造膜性が向上するため、プライマー塗膜の透明性やインキ塗膜の色合いに悪影響を及ぼさない。また、重量平均分子量が25000以下であると、プライマー中の樹脂微粒子分散体の分散安定性が向上し、前記プライマーの塗工性や記録媒体に対する密着性に優れる。また、凝集剤やインキ中の樹脂成分との相溶性が向上してプライマー塗膜やインキ塗膜が白化しにくい。ここで重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値をいう。
【0027】
水溶性樹脂(A−2)がアニオン性基を有する場合、樹脂の親水性を高める目的で、中和剤として塩基性化合物を使用する事ができる。上記塩基性化合物としては、例えば、
アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンなどのアミン類;
水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの水酸化物塩;
等が挙げられる。
【0028】
エチレン性不飽和単量体(b)の重合体との相溶性に優れる点から、水溶性樹脂(A−2)はエチレン性不飽和単量体(a)の重合体であるアクリル樹脂であることが更に好ましい。なお本明細書におけるアクリル樹脂とは、(メタ)アクリル系不飽和単量体に加えて、(メタ)アクリル系不飽和単量体と共重合可能な他の不飽和単量体(スチレン系不飽和単量体、(メタ)アクリルアミド系不飽和単量体、マレイン酸等)を共重合したものを含む。
【0029】
造膜性がより向上し、コアとシェル間、多価金属塩の相溶に優れる樹脂微粒子分散体が得られる事から、エチレン性不飽和単量体(a)は、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(a−1)を含有することが更に好ましい。この樹脂微粒子分散体(B)を用いたプライマー塗工物は、各種フィルム基材への塗工性や透明性、インキの画像形成能により優れる。更にインキ中に含まれる顔料分散樹脂との相溶性にも優れる事から、印刷物の色合いも良好である。また、樹脂同士が十分に融着して強靭なインキ塗工物が形成されることから、各種フィルム基材への密着性、ラミネート積層体としたときのラミネート強度にも優れる。
【0030】
芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(a−1)としては、例えば、
スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン等のスチレン類、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香環を有する(メタ)アクリレート類、ビニルナフタレン、スチレンマクロモノマー
等が挙げられる。好ましくは、スチレン類、及び/又は、芳香環を有する(メタ)アクリレート類である。なお本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0031】
芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(a−1)と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体(a)としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートの直鎖又は分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、又は、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシビニルベンゼン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられる。
【0032】
アクリル樹脂は、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(a−1)と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体類との共重合体であることが好ましい。
【0033】
アクリル樹脂酸価は、100〜300mgKOH/gであることが好ましく、150〜270mgKOH/gがより好ましい。
【0034】
アクリル樹脂は、公知の方法により合成しても構わないし、市販品を使用する事も可能である。市販品としては例えば、
星光PMC社製;X−1、RS−1193、VS−1259、TS−1318、YS−1274、VS−1047、RS−1191;
BASF社製;JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL693、JONCRYL690、JONCRYL52J、JONCRYL57J、JONCRYL60J、JONCRYL61J、JONCRYL62J、JONCRYL63J、JONCRYL HPD−96J;
等が挙げられる。
【0035】
本発明の樹脂微粒子分散体において、水溶性樹脂(A−2)を使用する場合の添加量は、エチレン性不飽和単量体(b)100重量%に対して、10〜60重量部の範囲である事が好ましく、25〜50重量部がより好ましい。添加量が20重量%以上であると、凝集剤との混合時の安定性やプライマーの分散安定性が良好で、更にプライマー塗膜物やインキ塗工物の諸物性も優れる。一方で添加量が60重量%以下であると、プライマー塗工物の透明性やインキ塗膜の色合いが良化するとともに、印刷物の記録媒体に対する密着性や、ラミネート積層体としたときのラミネート強度が優れたものとなる。
【0036】
<エチレン性不飽和単量体(b)の重合体>
上記の通り、本発明の樹脂微粒子分散体(B)は、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体が水性媒体中に分散した形態をとっている。
【0037】
エチレン性不飽和単量体(b)は、一般式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体(b-1)を、エチレン性不飽和単量体(b)100重量%中、15〜40重量%含有する。エチレン性不飽和単量体(b-1)が15重量%以上であると、水性プライマー中で樹脂微粒子分散体(B)が優れた分散安定性を発現でき、記録媒体への塗工性や、プライマー塗工物の透明性が優れる。また、40重量%以下であると、水溶性樹脂(A−2)等の乳化剤(A)と、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体と、凝集剤成分との相溶性が向上し、プライマー塗工物の透明性に優れる。また前記プライマー塗工物が吸湿しにくく、経時での耐白化性に優れる。したがって、インキの画像形成能、印刷物の色合い、記録媒体への密着性、ラミネート積層体のラミネート強度がより優れたものとなる。
【0038】
エチレン性不飽和単量体(b-1)中のエチレンオキサイド(以下、EOとも呼ぶ)の付加モル数は8〜50の範囲であり、好ましくは15〜50の範囲である。付加モル数が8以上であると、水性プライマー中で樹脂微粒子分散体(B)が優れた分散安定性を発現でき、記録媒体への塗工性や、プライマー塗工物の透明性が優れる。また、EO付加モル数が50以下であると、水溶性樹脂(A−2)とエチレン性不飽和単量体(b)の重合体、凝集剤成分の相溶性が向上してプライマー塗工物の透明性が優れる。また前記プライマー塗工物が吸湿しにくくなるため、経時での耐白化性に優れる。したがって、インキの画像形成能、印刷物の色合い、記録媒体への密着性、ラミネート積層体としたときのラミネート強度がより優れたものとなる。
【0039】
エチレン性不飽和単量体(b-1)は 、例えば、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの単量体は合成しても構わないし、市販品を使用する事もできる。
【0040】
市販されているエチレン性不飽和単量体(b-1)としては、
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとして日油社製ブレンマーPME−400(EO付加モル数9)、PME−1000(EO付加モル数23)、AME−400(EO付加モル数9)、共栄社化学社製ライトエステル130MA(EO付加モル数9)、ライトエステル041MA(EO付加モル数30)等、
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとして日油社製ブレンマーPE−350(EO付加モル数8)、AE−400(EO付加モル数10)
等が例示できる。
【0041】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体は、エチレン性不飽和単量体(b-1)以外のエチレン性不飽和単量体を含む。例えば、前記単量体(b−1)以外の、EO鎖含有エチレン性不飽和単量体を使用してもよい。
【0042】
中でも、エチレン性不飽和単量体(b)として、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(b-2)を、エチレン性不飽和単量体(b)100重量%中、1〜30 重量%含有する事が好ましい。1〜30重量%の範囲である事により、乳化剤(A) との親和性が向上し、分散安定性に優れた樹脂微粒子分散体が得られる。また、乳化剤(A)との相溶に優れるため、プライマー塗工物の白化もより抑制され、透明性や保存安定性(経時での耐白化性)に優れたものとなる。
【0043】
芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(b-2)としては、エチレン性不飽和単量体(a−1)で挙げたものと同じものを使用する事ができる。
【0044】
更にエチレン性不飽和単量体(b)は、エチレン性不飽和単量体(b-1)、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(b-2)の他に、炭素数1〜8
の直鎖又は分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(b−3)(ただし、(b−1)である場合を除く)を、エチレン性不飽和単量体(b)100重量%中、30〜80重量%含有する事が好ましい。なお前記単量体(b−3)は、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体である。30〜80重量%の範囲で単量体(b−3)を含有する事により、乳化剤(A)との相溶性がより高まり、プライマー塗工物の透明性が向上する。更に、インキ塗工物(印刷物)の記録媒体に対する密着性や、ラミネート積層体としたときのラミネート強度もより優れたものとなる。
【0045】
炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルキル基を有するエチレン性不飽和単量体(b−3)としては、具体的には、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート
等が挙げられる。
【0046】
次に、樹脂微粒子分散体(B)の製造法について説明する。
【0047】
樹脂微粒子分散体(B)は、従来既知の乳化重合法により合成される。乳化剤(A)として水溶性樹脂(A−2)を使用する場合は、まず、加熱しながら水溶性樹脂(A−2)を水性媒体中に溶解させる。この際、樹脂の溶解性を上げるために上記の塩基性化合物を併用しても構わない。次に所望の反応温度にして、窒素雰囲気下、開始剤を加え反応を開始する。そこにエチレン性不飽和単量体(b)を滴下し、重合させていく。エチレン性不飽和単量体(b)は単量体溶液をそのまま滴下しても良いし、水及び低分子界面活性剤(A−1)等の乳化剤(A)を添加して乳化液の状態で滴下しても良い。エチレン性不飽和単量体(b)は反応の進行に伴い、粒子核として析出し、核成長していく。その際、水溶性樹脂(A−2)は粒子核界面に吸着・安定化するため、水溶性樹脂(A−2)がシェル、エチレン性不飽和単量体(b)の重合体がコアのコアシェル型樹脂微粒子分散体が調製できる。
【0048】
乳化重合の際の重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
【0049】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1'−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0050】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。
【0051】
また、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、重合速度を促進したり、低温において重合を行ったりすることが容易になる。
【0052】
このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常80℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0053】
更に必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、また、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0054】
<樹脂微粒子分散体(B)の特性>
以下に、樹脂微粒子分散体(B)の固形成分(樹脂微粒子)の特性について示す。
樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)は、−40〜30℃の範囲である事が好ましく−40〜0℃である事がより好ましい。Tgが−40〜30℃の範囲である事により、樹脂微粒子分散体(B)と、凝集剤成分やインキ中の樹脂成分との相溶、フィルム基材を始めとした記録媒体に対する前記樹脂微粒子分散体の濡れ性に優れる。したがって、プライマー塗工物の透明性、印刷物の記録媒体に対する密着性、ラミネート積層体としたときのラミネート強度がより優れたものとなる。なお本発明におけるガラス転移温度は、後述する実施例に記載した方法により測定できる。
【0055】
樹脂微粒子の平均粒子径は、40〜150nmの範囲である事が好ましく、40〜100nmがより好ましい。粒子径が40〜150nmの範囲である事により、樹脂微粒子分散体(B)の造膜性がより向上し、凝集剤成分との相溶、フィルム基材への濡れ性、インキ層への相溶が向上する。したがって、プライマー塗膜の透明性、記録媒体に対する密着性、ラミネート積層体のラミネート強度もより優れたものとなる。なお本発明における平均粒子径は、後述する実施例に記載した方法により測定できる。
【0056】
樹脂微粒子の酸価は、25〜75mgKOH/gの範囲である事が好ましく、25〜50mgKOH/gがより好ましい。酸価が25〜75mgKOH/gの範囲である事により、画像形成能に悪影響を及ぼさない適度な領域で樹脂微粒子分散体(B)と凝集剤成分との相溶に優れた透明なプライマー塗膜を形成できる。またインキ中に含まれる樹脂成分との相溶も良好であるため、印刷物の色合いが良好で、記録媒体に対する密着性、ラミネート積層体のラミネート強度もより優れたものとなる。なお本発明における酸価は、後述する実施例に記載した方法により測定できる。
【0057】
<プライマー>
次に本発明のプライマーについて説明する。
本発明のプライマーは、樹脂微粒子分散体(B)と、凝集剤(C)を含有する。また、溶媒としてプロトン性有機溶剤(D)及び水を含有する。このプライマーを用いて対象の記録媒体を処理する事により、フィルム基材等の非浸透性基材に対する密着性に優れ、印刷時に混色滲みや色むらが抑えられた良好な画質の印刷物を得る事ができる。更に接着剤(G)を介してシーラント基材で貼り合せたラミネート積層体については、優れたラミネート強度を発現する。
【0058】
本発明のプライマーは、樹脂微粒子分散体(B)をバインダー樹脂として含むため、凝集剤との混合時の安定性や長期の分散安定性に優れており、プライマーの調製直後ならびに経時の分散安定性試験後において、樹脂微粒子分散体(B)の粒子径変化が小さい。
【0059】
本発明のプライマーは、インキを塗工する前に、対象記録媒体上に塗工して用いる。その際、乾燥工程を入れて乾燥塗工物(プライマー塗工物)を形成させた後、水性インクジェットインキを塗工する事が好ましい。乾燥工程で余計な液体成分を除去する事で混色滲みが抑制され、より高品位な画質を得る事ができる。
【0060】
前記のプライマー塗工物は、凝集剤成分(金属塩、カチオン性高分子、酸性化合物)が、樹脂微粒子分散体からなるバインダーに結着された複合塗工物である。前記凝集剤として金属塩やカチオン性高分子を含む場合は、プライマー塗工物上にインキ滴が着弾した際、凝集剤由来の金属イオンやカチオン性高分子が溶け出してインキ層に移行し、顔料分散体のアニオン性基(顔料分散樹脂のアニオン性基)を中和する。また前記凝集剤として酸性化合物を含む場合は、プライマー塗工物上に着弾したインキ滴のpHが変化し、顔料分散体の分散平衡状態が変化する。これらにより、顔料分散体が凝集・析出し、混色が抑制され、優れた画像形成を発現できるようになる。
【0061】
本発明のプライマーは、乾燥塗工物を形成する際、樹脂成分と凝集剤成分との相溶が良好であるため、塗膜が白化せず、透明性に優れた均質な複合塗膜を得る事ができる。したがってむらがなく、高品位な印刷画質が実現する。更にこのプライマー塗工物は吸湿性が小さく、経時で白化する等の変質がおこらないため、長期にわたって優れた性能を維持する。また、インキを付与して、プライマー塗工物上にインキ層を形成する際も、プライマー成分とインキ中に含まれる樹脂成分の相溶に優れるため、色合いに悪影響を及ぼさない。均質で各樹脂成分がしっかりと絡み合った強靭な塗膜を形成できるため、印刷物の記録媒体に対する密着性に優れ、そのラミネート積層体についてもラミネート強度も優れる。
【0062】
以上のように、プライマーの分散安定性、プライマー塗工物の透明性、保存安定性(経時での耐白化性)、インキの画像形成能、インキ塗工物の色合い、各種フィルム基材を始めとした記録媒体に対する密着性、ラミネート積層体のラミネート強度を実用レベルに相当する十分なスペックで両立するためには樹脂微粒子分散体(B)及び凝集剤(C)が必須不可欠である。
【0063】
続いて以下に、本発明のプライマーの構成成分について詳細に説明する。
【0064】
<凝集剤(C)>
凝集剤(C)は、顔料分散体を凝集させる機能を有するものであれば特に限定されず、金属塩、カチオン性高分子、酸性化合物など従来既知の材料を使用できる。中でも、金属塩及びカチオン性高分子化合物から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好適である。なお、本発明のプライマーでは、上記材料のどちらかを選択して用いても良いし、組み合わせて用いても良い。樹脂微粒子分散体との相溶がより良い事を考慮すると、凝集剤には金属塩を使用する方がより好ましい。
【0065】
本発明のプライマーで好適に用いられる凝集剤(C)は、吸湿性が小さい。吸湿性が小さい凝集剤(C)を用いた場合、印刷物を高湿環境下や長期で保管した際に、大気中の水分を吸湿することがなく、長期にわたって優れた密着性や色合いが保持できる。
【0066】
上記「吸湿性が小さい凝集剤」とは、下記方法によって測定される吸湿重量増加率が50重量%以下であるものを指す。まず、凝集剤を温度100℃、相対湿度75%RH以下の環境下で24時間保管する。なお市販品など、凝集剤が水溶液の状態でしか入手できない場合は、あらかじめ水を揮発除去したのち、100℃・75%RH以下の環境下に保管する。100℃・75%RH以下の環境下に保管したのち、凝集剤の重量を測定し(W1(g)とする)、続いて温度40℃、相対湿度80%RHの環境下で24時間保管する。40℃・80%RH環境下保管後、再度重量を測定し(W2(g)とする)、下記式(1)により吸湿重量増加率を算出する。
【0067】
式(1):
吸湿重量増加率(重量%)=100×{(W2−W1)/W1}
【0068】
プライマーを付与した記録媒体を、高湿環境下で長期間保管した際であっても、密着性や色合いに優れた印刷物が得られる観点から、凝集剤(C)の吸湿重量増加率は、上記の通り50重量%以下であることが好ましく、35重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが特に好ましい。
【0069】
金属塩は、インキへの好適な溶解性と拡散性を有することが好ましい。本発明のプライマーにおいて、好適に用いられる金属塩の溶解度は、25℃の水100mLに対して5〜55g/100mLH
2Oであることが好ましく、10〜45g/100mLH
2Oであることがより好ましく、15〜40g/100mLH
2Oであることが特に好ましい。溶解度が上記の範囲であると、金属塩の吸湿性が少なく、記録媒体への密着性の低下や乾燥不良、画像形成が悪化する恐れが少ない。
【0070】
金属塩の溶解度の評価方法は、25℃の水100mLが入った容器に、金属塩を、撹拌しながら少しずつ添加する。容器底に金属塩が残留しない範囲で、溶液中に添加できた金属塩の最大量を、前記金属塩の溶解度とする。
【0071】
金属塩は、金属イオンと当該金属イオンに結合するアニオンから構成される金属塩であれば、その種類は特に限定されない。その中でも、顔料分散体と瞬時に相互作用することで、混色滲みを抑制し、色むらのない鮮明な画像を得ることができる点から、前記金属塩は多価金属塩を含有することが好ましい。また多価金属イオンの中でもCa
2+、Mg
2+、Zn
2+、Al
3+から選択される多価金属イオンは、イオン化しやすく凝集効果が大きいという利点を有しており、好ましく用いられる。更にCa
2+はインキ中での溶解・拡散性、凝集効果の点からより高品位な画質が得られるため好適である。
【0072】
無機金属塩の具体例として、例えば、
塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また有機金属塩の具体例として、例えば、パントテン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸などの有機酸の、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、亜鉛塩
等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いても構わない。これらの金属塩の中でも、適度な水への溶解度、凝集効果、安全性の観点から凝集剤はカルシウム塩が好ましく、乳酸及び/又は酢酸のカルシウム塩がより好ましい。
【0073】
金属塩の含有量は、プライマー全量に対し金属イオンとして0.5〜8重量%であることが好ましく、1〜6.5重量%であることがより好ましく、1.5〜5重量%であることが特に好ましい。配合量が上記の範囲である事により、プライマーの保存安定性、プライマー塗膜の透明性、保存安定性(経時での耐白化性)、インキの画像形成能、インキ塗膜の記録媒体密着性、ラミネート積層体のラミネート強度がより優れた状態で両立できる。
【0074】
なお、プライマー全量に対する金属イオンの含有量は、下記式(2)によって求められる。
【0075】
式(2):
(金属イオンの含有量)(重量%)=WD×MM÷MD
一般式(2)中、WDは、金属塩の、プライマー全量に対する含有量を表し、MMは、金属塩を構成する金属イオンのイオン量を表し、MDは、金属塩の分子量を表す。
【0076】
カチオン性高分子化合物は、プライマーやインキへの好適な溶解性と拡散性を有することが好ましい。カチオン性高分子化合物の溶解度は、25℃の水100mLに対して5g/100mLH
2O以上であることが好ましい。
【0077】
カチオン性高分子化合物に含まれるカチオン性基としては、1〜3級のアミノ基、4級アンモニウム塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
更にカチオン性高分子化合物は、ジアリルアミン、メチルジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニム塩の構造単位から選択される1種類以上の構造単位を含む化合物を用いることが好ましく、少なくともジアリルジメチルアンモニウム塩の構造単位を含んでいることがより好ましい。このカチオン性高分子化合物はインキ層への溶解・拡散性、凝集効果の点から好適である。
【0079】
上記カチオン性高分子化合物は、公知の方法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。なお、ジアリルアミン、メチルジアリルアミンの構造単位を含む市販品の具体例として、
PAS−21CL、PAS−21、PAS−M−1L、PAS−M−1、PAS−M−1A、PAS−92、PAS−92A(ニットーボーメディカル社製);ユニセンスKCA100L、KCA101L(センカ社製)を挙げることができる。またジアリルアンモニウム構造単位を含む樹脂の市販品として、PAS−H−1L、PAS−H−5L、PAS−H−10L、PAS−24、PAS−J−81L、PAS−J−81、PAS−J−41(ニットーボーメディカル社製);ユニセンスFPA100L、FPA101L、FPA102L、FPA1000L、FPA1001L、FPA1002L、FCA1000L、FCA1001L、FCA5000L(センカ社製)を挙げることができる。更に、ジアリルアミン構造単位、及びジアリルアンモニウム構造単位を共に含む樹脂の市販品として、PAS−880(ニットーボーメディカル社製)を挙げることができる。
【0080】
カチオン性高分子化合物の配合量は、プライマー全量に対し固形分換算で1〜30重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましく、5〜15重量%であることが特に好ましい。カチオン性高分子化合物の配合量が上記の範囲である事により、プライマー中での樹脂微粒子分散体の分散安定性、プライマー塗工物の透明性や保存安定性(経時での耐白化性)、インキの画像形成性、印刷物の記録媒体に対する密着性、ラミネート積層体のラミネート強度がより優れた状態で両立できる。
【0081】
<プロトン性有機溶媒(D)>
本発明のプライマーは、樹脂微粒子分散体の造膜性を促進し、フィルム基材等の記録媒体への濡れ性を促進する目的として、プロトン性有機溶媒(D)を使用することが好ましい。本実施形態のプライマーに使用できるプロトン性有機溶媒(D)は、水溶性の有機溶媒であれば任意のものを使用する事ができるが、乾燥性や安全性の観点からアルコール系の有機溶剤を使用する事が好ましい。
【0082】
本発明のプライマーに使用できるプロトン性有機溶媒としては、例えば、
メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、1,2−ブチレングリコールモノメチルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノメチルエーテル、などのグリコールモノアルキルエーテル類などの1価アルコール類;
1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール
などの2価アルコール類;
グリセリンなどの3価アルコール類;
2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−エチル−2−オキサゾリジノン等の含窒素系親水性溶剤;
を挙げることができる。
【0083】
プロトン性有機溶媒(D)の含有量は、樹脂微粒子分散体の記録媒体への濡れ性、造膜性、乾燥性等を鑑みて、プライマー全量に対して0.5〜15重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましい。
【0084】
本発明のプライマーは、記録媒体への濡れ性を制御するために、プライマー調製時に界面活性剤を添加して使用することができる。界面活性剤としては、前述の樹脂微粒子分散体の調製で挙げた低分子界面活性剤(A−1)の他に、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、アセチレンジオール系等の界面活性剤を使用する事ができる。中でも少量で表面張力を制御し、フィルム基材上において優れた濡れ性を付与させるという観点から、アセチレンジオール系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤を使用することが好ましく、特に好ましくはアセチレンジオール系界面活性剤である。
【0085】
シロキサン系界面活性剤としてBY16−201、FZ−77、FZ−2104、FZ−2110、FZ−2162、F−2123、L−7001、L−7002、SF8427、SF8428、SH3749、SH8400、8032ADDITIVE、SH3773M(東レ・ダウコーニング社製)、Tegoglide410、Tegoglide432、Tegoglide435、Tegoglide440、Tegoglide450、Tegotwin4000、Tegotwin4100、Tegowet250、Tegowet260、Tegowet270、Tegowet280(エボニックデグサ社製)、SAG−002、SAG−503A(日信化学工業社製)、BYK−331、BYK−333、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYKUV3500、BYK−UV3510(ビックケミー社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF355A、KF−615A、KF−640、KF−642、KF−643(信越化学工業社製)などを、
またアセチレン系界面活性剤としてサーフィノール61、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、420、440、465、485、SE、SE−F、ダイノール604、607(エアープロダクツ社製)、オルフィンE1004、E1010、E1020、PD−001、PD−002W、PD−004、PD−005、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300(日信化学工業社製)などを挙げることができる。
【0086】
本発明のプライマーには、プライマー塗工物が巻き取り等で重なる場合、塗膜間のブロッキングを抑制する目的で、塗膜物性に悪影響を及ぼさない範囲で市販のワックス微粒子分散体を併用する事ができる。
【0087】
本発明のプライマーの製造方法について説明する。本発明のプライマーは、水と、必要に応じて及びプロトン性有機溶媒(D)とを撹拌・混合した後、凝集剤(C)を溶解させ、更に樹脂微粒子分散体(B)、各種添加剤を撹拌しながら混合して調製する事ができる。但し、製造方法は上記に限定されるものではない。
【0088】
<インキセット>
本発明のプライマーは、水性インクジェットインキと組み合わせたインキセットの形態で用いることができる。以下に、本発明のインキセットを構成する水性インクジェットインキの構成要素について説明する。
【0089】
<顔料>
本発明に使用する水性インクジェットインキは、耐水性、耐光性、耐候性、耐ガス性などを有する観点に加え、高速印刷において上記のプライマーを使用した際に染料と比較して凝集速度が速く高画質の画像が得られるという観点から、色材として顔料を含む。前記顔料として、公知の有機顔料、無機顔料のいずれも使用することができる。これらの顔料は、インキ全量に対して2重量%以上15重量%以下の範囲で含まれることが好ましく、2.5重量%以上15重量%以下の範囲で含まれることがより好ましく、3重量%以上10重量%以下の範囲で含まれることが特に好ましい。顔料の含有率を2重量%以上にすることで1パス印刷であっても十分な発色性を得ることができる。また顔料の含有率を15重量%以下とすることで、インキの粘度をインクジェット印刷に適した範囲に収めることができるとともに、インキの長期安定性も良好なまま維持でき、結果として長期の印字安定性を確保することができる。
【0090】
本発明に使用する水性インクジェットインキで使用することができるシアン有機顔料としては、例えば、
C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、66などが挙げられる。中でも発色性や耐光性に優れる点からC.I.ピグメントブルー15:3及び/又は15:4から選択される1種以上が好ましい。
【0091】
また、マゼンタ有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、22、23、31、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122、146、147、150、185、238、242、254、255、266、269、282、C.I.ピグメントバイオレッド19、23、29、30、37、40、43、50などが使用できる。中でも発色性や耐光性に優れる点からC.I.ピグメントレッド122、150、185、266、269及び/又はC.I.ピグメントバイオレッド19からなる群から選択される1種以上が好ましい。なお、発色性を更に高める観点で、マゼンタ有機顔料として、キナクリドン顔料を含む固溶体顔料を用いてもよい。
【0092】
また、イエロー有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー10、11、12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213などが使用できる。中でも発色性に優れる点からC.I.ピグメントイエロー13、14、74、120、180、185、213からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0093】
また、ブラック有機顔料としては、例えば、アニリンブラック、ルモゲンブラック、アゾメチンアゾブラックなどが使用できる。なお、上記のシアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料や、下記のオレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料などの有彩色顔料を複数使用し、ブラック顔料とすることもできる。
【0094】
本発明の水性インクジェットインキには、オレンジ顔料、グリーン顔料、ブラウン顔料などの特色を使用することもできる。具体的には、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、C.I.ピグメントグリーン7、36、43、58、ピグメントブラウン23、25、26などを挙げることができる。
【0095】
本発明に使用する水性インクジェットインキで用いる無機顔料としては特に限定されないが、例えば黒色顔料としてカーボンブラックや酸化鉄、白色顔料として酸化チタンを挙げることができる。
【0096】
本発明に使用する水性インクジェットインキで用いることができるカーボンブラックとしては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。中でも、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜50nm、BET法による比表面積が50〜400m
2/g、揮発分が0.5〜10重量%、pHが2〜10などの特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品として、例えばNo.25、30、33、40、44、45、52、850、900、950、960、970、980、1000、2200B、2300、2350、2600;MA7、MA8、MA77、MA100、MA230(三菱化学社製)、RAVEN760UP、780UP、860UP、900P、1000P、1060UP、1080UP、1255(コロンビアンカーボン社製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L(キャボット社製)、Nipex160IQ、170IQ、35、75;PrinteX30、35、40、45、55、75、80、85、90、95、300;SpecialBlack350、550;Nerox305、500、505、600、605(オリオンエンジニアドカーボンズ社製)などがあり、いずれも好ましく使用することができる。
【0097】
また、白色顔料として好適に用いられる酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型のいずれも使用することができるが、印刷物の隠蔽製を上げるためにもルチル型を用いるのが好ましい。また、塩素法、硫酸法などいずれの方法で製造したものでも良いが、塩素法にて製造された酸化チタンを使用した方が、白色度が高いことから好ましい。
【0098】
更に酸化チタンの顔料表面は、無機化合物及び/又は有機化合物により処理したものを使用することが好ましい。無機化合物の例として、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、チタンの化合物、及びこれらの水和酸化物を挙げることができる。また有機化合物の例として、多価アルコール、アルカノールアミン又はその誘導体、高級脂肪酸又はその金属塩、有機金属化合物などを挙げることができるが、中でも多価アルコール、又はその誘導体は酸化チタン表面を高度に疎水化し、分散安定性を向上させることが可能であり、好ましく用いられる。
【0099】
なお、本発明に使用する水性インクジェットインキでは、印刷物の色相や発色性を好適な範囲に収めるため、上記の顔料を複数混合して用いることができる。例えば、カーボンブラック顔料を使用したブラックインキに対し、低印字率における色味を改善するため、シアン有機顔料、マゼンタ有機顔料、オレンジ有機顔料、ブラウン有機顔料から選択される1種以上の顔料を少量添加することができる。
【0100】
上記の顔料を水性インクジェットインキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)水溶性顔料分散樹脂を顔料表面に吸着させ分散する方法、(2)水溶性及び/又は水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させ分散する方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、分散樹脂や界面活性剤なしでインキ中に分散する方法(自己分散顔料)、(4)水不溶性樹脂で顔料を被覆し、必要に応じて更に別の水溶性顔料分散樹脂や界面活性剤を用いてインキ中に分散させる方法などを挙げることができる。
【0101】
<顔料分散樹脂(E)>
本発明に使用する水性インクジェットインキは、上記のうち(1)又は(4)の方法、すなわち顔料分散樹脂(E)を用いる方法を選択することが好ましい。これは顔料分散樹脂の組成や分子量を選定・検討することにより、顔料に対する樹脂吸着能や顔料分散樹脂の電荷を容易に調整でき、結果として微細な顔料に対する分散安定性の付与や、プライマーによる顔料の凝集性の制御が可能となるためである。なお本発明において「顔料分散樹脂(E)」とは、上記(1)や(4)の方法において用いられる水溶性顔料分散樹脂や、上記(4)の方法において用いられる水不溶性樹脂を総称する用語として定義される。
【0102】
上記凝集剤として金属塩やカチオン性高分子を含む場合、顔料分散樹脂(E)は、カルボキシル基等のアニオン性基を有することが好ましい。アニオン性基が前記凝集剤成分により中和されることで、画質が優れた印刷物となるためである。
【0103】
顔料分散樹脂(E)を顔料表面に吸着させる方法としては、水に予め溶解させた水溶性顔料分散樹脂と顔料とを混合し、細かく粉砕しながら吸着安定化させる方法や、有機溶剤中で、塩基性化合物により中和された水不溶性樹脂と顔料とを混合して細かく粉砕した後、脱溶剤する方法などが挙げられる。
【0104】
顔料分散樹脂(E)が水溶性顔料分散樹脂である場合、その酸価は100〜300mgKOH/gであることが好ましい。100〜300mgKOH/gの範囲である事により、顔料の分散安定性に優れる一方、凝集剤成分によってアニオン性基が中和された際、速やかに顔料分散体が不安定化し、記録媒体上に凝集・析出する事ができる。したがって、画像形成能に優れたインキセットが実現できる。
【0105】
一方、顔料分散樹脂(E)として水不溶性樹脂を用いる場合、その酸価は0〜100mgKOH/gであることが好ましく、5〜90mgKOH/gであることがより好ましく、更に好ましくは、10〜80mgKOH/gである。酸価が前記範囲内であれば、耐ブロッキング性や耐擦性に優れた印刷物が得られるため好ましい。
【0106】
顔料分散樹脂(E)の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂(スチレン・アクリル樹脂を含む)、マレイン酸樹脂、スチレン・マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂など、顔料を分散し、アニオン性基の静電反発、及び/又は、立体反発によって安定化できるもので有れば任意のものを使用することができる。また顔料分散樹脂(E)は、公知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。
【0107】
中でも顔料分散樹脂(E)は、エチレン性不飽和単量体(e)を重合して得たものである事が好ましい。これらはランダム共重合体でもブロック共重合体でも構わない。
【0108】
エチレン性不飽和単量体(e)としては、上記のエチレン性不飽和単量体(a)で挙げたエチレン性不飽和単量体と同じものを使用する事ができる。
【0109】
更にエチレン性不飽和単量体(e)は、エチレン性不飽和単量体(e)100重量%中、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(e−1)を10〜60重量%含有する事が好ましい。10〜60重量%の範囲である事により、プライマー塗膜中の樹脂成分と顔料分散樹脂(E)の相溶がより優れ、インキ塗膜の色合いと記録媒体への密着性、ラミネート積層体のラミネート強度において、より良好な物性を発現する事ができる。
【0110】
芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(e−1)としては、エチレン性不飽和単量体(a−1)で挙げたエチレン性不飽和単量体と同じものを使用する事ができる。
【0111】
更にエチレン性不飽和単量体(e)100重量%中、炭素数10〜25の直鎖又は分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(e−2)を10〜40重量%含有する事が好ましい。10〜40重量%の範囲である事により、遊離の顔料分散樹脂が少なくなり、効率的に顔料表面に吸着して分散安定化する。したがって、凝集剤で中和して顔料分散体を凝集・析出させる際、遊離の顔料分散樹脂成分が少なく、余計に凝集剤が消費されることが無いため、少ない凝集剤量で顔料分散体を効率的に凝集・析出でき、良好な画質が得られる。プライマー塗膜を形成する樹脂成分と顔料分散樹脂(E)の相溶性もより優れるため、インキ塗膜の色合い及び記録媒体への密着性、ラミネート積層体のラミネート強度もより向上する。
【0112】
炭素数10〜25の直鎖又は分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(e−2)としては、例えば、
デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0113】
顔料分散樹脂(E)はアニオン性基を塩基性化合物で中和して使用する。中和に使用する
塩基性化合物には、上記の水溶性樹脂(A−2)の中和に用いられる塩基性化合物と同じものを使用する事ができる。
【0114】
顔料分散樹脂(E)の重量平均分子量は、5000〜300000の範囲である事が好ましい。5000〜200000の範囲である事により、良好な顔料分散性(インキの保存安定性と吐出性)と優れた凝集性(画像形成能)を両立する事ができる。また、プライマー塗膜中の樹脂成分との相溶も良好であるためインキ塗膜の色合いも良い。
【0115】
顔料と顔料分散樹脂(E)との重量比率は1/1〜100/1であることが好ましい。顔料分散樹脂(E)の比率を1/1〜100/1とすることで、顔料分散体の粘度を抑え、前記顔料分散体や水性インクジェットインキの粘度安定性・分散安定性が良化するとともに、プライマーと接触した際に速やかに凝集することができる。顔料と顔料分散樹脂(E)の比率として2/1〜30/1である事が好ましく、20/7〜20/1である事が更に好ましい。
【0116】
<親水性溶剤(F)>
本発明に使用する水性インクジェットインキに用いられる親水性溶剤(F)は、公知のものを任意に用いることができるが、1気圧下で沸点が120℃以上280℃以下であるグリコールエーテル系溶剤及び/又はアルキルポリオール系溶剤を含有することが好ましい。上記の沸点範囲を満たす親水性溶剤を用いることにより、水性インクジェットインキの濡れ性と乾燥性を好適な範囲に制御することができ、吐出安定性が良好になる上に、プライマーと組み合わせた際、滲みなどの画質欠陥を防止することができる。
【0117】
なお、上記の1気圧下での沸点は、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることにより測定することができる。
【0118】
好適に用いられる、1気圧下の沸点が120℃以上280℃以下であるグリコールエーテル系溶剤を例示すると、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ブチレングリコールモノメチルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノメチルエーテル、などのグリコールモノアルキルエーテル類;
ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテルなどのグリコールジアルキルエーテル類となる。
【0119】
特に、優れた保湿性と乾燥性を両立することができる点で、上記グリコールエーテル系溶剤の中でも、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテルを選択することが好ましい。
【0120】
また1気圧下の沸点が180℃以上280℃以下であるアルキルポリオール系溶剤としては、例えば1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコールなどを挙げることができる。
【0121】
中でも、優れた保湿性と乾燥性を両立することができる点で、上記アルキルポリオール系溶剤の中でも1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオールを選択することが好ましい。
【0122】
本発明に使用する水性インクジェットインキに用いられる、上記1気圧下で沸点が120℃以上280℃以下であるグリコールエーテル系溶剤及び/又はアルキルポリオール系溶剤の総量は、水性インクジェットインキ全量に対し5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。上記溶剤の総量が5重量%以上であれば、インキの保湿性が好適なものとなり、吐出安定性が優れたインキとなる。また50重量%以下であれば、インキの粘度を低く抑えることができ、吐出安定性が向上するため好ましい。
【0123】
なお、水性インクジェットインキの保湿性や濡れ性を調整するため、上記1気圧下で沸点が120℃以上280℃以下であるグリコールエーテル系溶剤及び/又はアルキルポリオール系溶剤以外の有機溶剤も、併用することができる。具体的には、プライマーで使用できるプロトン性有機溶剤として上記に挙げた、1価アルコール類(上記に列挙したグリコールエーテル系溶剤を除く)、3価アルコール類、含窒素系親水性溶剤などを使用することができる。またこれらの溶剤は単独で使用しても良いし、複数を混合して使用してもよい。
【0124】
本発明に使用する水性インクジェットインキにおける親水性溶剤の総量は、インキの保湿性、乾燥性、濡れ性を両立する観点から、水性インクジェットインキ全量に対し5重量%以上70重量%以下であることが好ましく、10重量%以上60重量%以下であることがより好ましく、15重量%以上50重量%以下であることが特に好ましい。
【0125】
なお本発明に使用する水性インクジェットインキでは、1気圧下の沸点が240℃以上である親水性溶剤の量が、水性インクジェットインキ全量に対し10重量%以下(0重量%でもよい)であることがより好ましい。高沸点の親水性溶剤量を10重量%以下にすることで、水性インクジェットインキの乾燥性、吐出安定性が良好になる上に、プライマーと組み合わせた際、滲みなどの画質欠陥がなく、耐ブロッキング性も良好な水性インキが得られる。また印刷画質や耐ブロッキング性を更に向上させる観点から、1気圧下で沸点が280℃以上である親水性溶剤の量は、5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが特に好ましい(いずれも、0重量%であってもよい)。なお上記1気圧下における沸点が240℃以上である親水性溶剤の量は、1気圧下で沸点が120℃以上280℃以下であるグリコールエーテル系溶剤及び/又はアルキルポリオール系溶剤も含めて算出するものとする。
【0126】
<バインダー樹脂>
本発明に使用する水性インクジェットインキには前述の顔料分散樹脂(F)とは別に,インキ用のバインダー樹脂を併用する事ができる。バインダー樹脂との併用により、インキ塗工物の記録媒体に対する密着性、ラミネート積層体のラミネート強度がより向上する。インキ用のバインダー樹脂は、吐出性に悪影響を及ぼさない範囲で水溶性樹脂や樹脂微粒子分散体を使用する事ができる。樹脂の種類としては、アクリル樹脂(スチレン・アクリル樹脂を含む)、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂及びこれらの複合樹脂が挙げられる。中でもプライマー中の樹脂微粒子分散体、インキ中の顔料分散樹脂(F)との相溶に優れ、印刷物の色合いへの悪影響が少ない点から、バインダー樹脂には、スチレン・アクリル樹脂を用いる事がより好ましい。インキ用のバインダー樹脂を併用する事により、インキ塗工物の記録媒体に対する密着性、ラミネート積層体のラミネート強度がより向上する。
【0127】
前記バインダー樹脂の、水性インクジェットインキ全量中における含有量は、固形分で水性インクジェットインキ全量の1重量%以上20重量%以下の範囲であり、より好ましくは2重量%以上15重量%以下の範囲であり、特に好ましくは3重量%以上10重量%以下の範囲である。
【0128】
<界面活性剤>
本発明に使用する水性インクジェットインキは、表面張力を調整し画質を向上させる目的で界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤としては上記のプライマー調製時に使用する界面活性剤と同じものを使用する事ができる。インキの濡れ性と吐出安定性を両立しやすいという点から、界面活性剤には、シロキサン系、アセチレン系、フッ素系の界面活性剤を使用することが好ましく、シロキサン系、アセチレン系の界面活性剤を使用することが特に好ましい。界面活性剤の添加量としては、水性インクジェットインキ全量に対して、0.01重量%以上5.0重量%以下が好ましく、0.05重量%以上3.0重量%以下が更に好ましい。
【0129】
<その他の材料>
本発明に使用する水性インクジェットインキに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0130】
本発明に使用する水性インクジェットインキに使用することができる水の含有量としては、
インキの全重量の20〜90重量%の範囲であることが好ましい。
【0131】
本発明に使用する水性インクジェットインキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするためにpH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては前述した塩基性化合物や各種有機酸等、物性に悪影響を及ぼさない範囲で任意のものを使用する事ができる。上記のpH調整剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0132】
本発明に使用する水性インクジェットインキは、インキ塗工物間のブロッキングを抑制する目的で、塗膜物性に悪影響を及ぼさない範囲で市販のワックス微粒子分散体を使用する事ができる。
【0133】
本発明に使用する水性インクジェットインキは、必要に応じて消泡剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インキの全重量に対して、0.01重量%以上10重量%以下が好適である。
【0134】
本発明に使用する水性インクジェットインキは単色で使用してもよいが、用途に合わせて複数の色を組み合わせた水性インクジェットインキのセットとして使用することもできる。組み合わせは特に限定されないが、シアン、イエロー、マゼンタの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字などの視認性を上げることができる。更にオレンジ、グリーンなどの色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。白色以外の印刷媒体へ印刷を行う際にはホワイトインキを併用することで鮮明な画像を得ることができる。
【0135】
本発明に使用する水性インクジェットインキは、例えば、以下のプロセスを経て製造される。但し、製造方法は以下に限定されるものではない。
【0136】
・ 濃縮顔料分散液の製造
顔料分散樹脂(E)として水溶性顔料分散樹脂を用いる場合、前記水溶性顔料分散樹脂と水と、必要に応じて親水性溶剤とを混合・攪拌し、水溶性顔料分散樹脂混合液を作製する。前記水溶性顔料分散樹脂混合液に、顔料を添加し、混合・攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、必要に応じて遠心分離、濾過や、固形分濃度の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0137】
また、水不溶性樹脂により被覆された顔料の分散液を製造する場合、あらかじめ、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に水不溶性樹脂を溶解させ、必要に応じて前記水不溶性樹脂を中和した、水不溶性樹脂溶液を作製する。前記水不溶性樹脂溶液に、顔料と、水とを添加し、混合・撹拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により前記有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過や、固形分濃度の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0138】
顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザーなどが挙げられる。上記の中でもビーズミルが好ましく使用され、具体的にはスーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミルなどの商品名で市販されている。
【0139】
顔料のプレミキシング及び分散処理において、顔料分散剤は水のみに分散した場合であっても、有機溶剤と水の混合溶媒に分散した場合であっても良い。
【0140】
顔料分散体の粒度分布を制御する方法として、上記に挙げた分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの材質を変更すること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、撹拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理時間を長くすること、分散処理後フィルターや遠心分離機などで分級すること、及びこれらの手法の組み合わせが挙げられる。顔料を好適な粒度範囲に収めるためには、上記分散機の粉砕メディアの直径を0.1〜3mmとすることが好ましい。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニアが好ましく用いられる。
【0141】
(2)水性インクジェットインキの調製
次いで、上記顔料分散体に、親水性溶剤、水、及び必要に応じて上記で挙げたバインダー樹脂、界面活性剤やその他の添加剤を加え、撹拌・混合する。
【0142】
なお、必要に応じて前記混合物を40〜100℃の範囲で加熱しながら撹拌・混合してもよい。ただしバインダー樹脂として樹脂微粒子を使用する際は、加熱温度は前記樹脂微粒子のMFT(最低造膜温度)以下とすることが好ましい。
【0143】
(3)粗大粒子の除去
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過分離、遠心分離などの手法により除去し、水性インクジェットインキとする。濾過分離の方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。またフィルター開孔径は、粗大粒子、ダストが除去できるものであれば、特に制限されないが、好ましくは0.3〜5μm、より好ましくは0.5〜3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0144】
本発明に使用する水性インクジェットインキは、25℃における粘度を3〜20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、特に通常の4〜10KHzの周波数を有するヘッドから10〜70KHzの高周波数のヘッドにおいても安定した吐出特性を示す。特に、25℃における粘度を4〜10mPa・sとすることで、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドに対して用いても、安定的に吐出させることができる。
【0145】
なお、上記粘度は常法により測定することができる。具体的にはE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)を用い、インキ1mLを使用して測定することができる。
【0146】
本発明に使用する水性インクジェットインキは、優れた発色性を有する印刷物を得るために、顔料の平均二次粒子径(D50)を40nm〜500nmとすることが好ましく、より好ましくは50nm〜400nmであり、特に好ましくは60nm〜300nmである。平均二次粒子径を上記好適な範囲内に収めるためには、上記のように顔料分散処理工程を制御すればよい。なお水性インクジェットインキ中の顔料の平均二次粒子径は、樹脂微粒子分散体(B)の平均粒子径と同様の方法により測定できる。
【0147】
<凝集層付記録媒体、印刷物>
インクジェット記録媒体(基材)上に、本発明のプライマーからなる凝集層を形成し、凝集層付記録媒体(プライマー塗工物)を得ることができる。また、前記凝集層付記録媒体上に、上記の水性インクジェットインキを印刷して印刷物(インキ塗工物)を得ることができる。
【0148】
プライマーの印刷方法としては、インクジェット印刷のように基材に対して非接触で印刷する方式と、基材に対しプライマーを当接させて印刷する方式が挙げられる。どちらの方式を採用しても構わない。なお、プライマーを当接させる方式を採用する場合、装置の単純性、均一塗工性、作業効率、経済性などの観点から、ローラ形式を採用することが好ましい。「ローラ形式」とは、回転するロールにあらかじめプライマーを付与したのち、基材に前記プライマーを転写する印刷形式を指し、オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターなどがある。
【0149】
本発明のインキセットでは、プライマーを基材に付与したのち、水性インクジェットインキを付与する前に、前記基材を乾燥させ、基材上のプライマーを乾燥させることが好ましい。また特に、水性インクジェットインキを付与する前にプライマーを完全に乾燥させる、すなわち、前記プライマーの液体成分を完全に除去された状態とすることが好ましい。プライマーが完全に乾燥する前に水性インクジェットインキが付与されると、着弾した水性インクジェットインキのドットが拡散しやすくなり、混色滲みにつながる可能性がある。
【0150】
本発明のプライマーの印刷で用いられる乾燥方法に特に制限はなく、例えば、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法などを挙げることができる。中でも、基材へのダメージを軽減し効率よく乾燥させるため、加熱乾燥法、及び/又は、熱風乾燥法を用いることが好ましい。特に、基材へのダメージやプライマー中の液体成分の突沸を防止する観点から、上記のうち加熱乾燥法を採用する場合は乾燥温度を35〜100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は熱風温度を50〜250℃とすることが好ましい。なお、上記の乾燥法は単独で用いても、複数を併用してもよい。例えば加熱乾燥法と熱風乾燥法とを併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、プライマーを乾燥させることができる。
【0151】
水性インクジェットインキは基材に対し1パス印刷方式により付与される方式が好ましい。また1パス印刷方式として、固定されたインクジェットヘッドの下部に基材を一度だけ通過させる方法が好ましく用いられる。その際、インクジェットヘッドの設計解像度は、印刷画質に優れた画像が得られる点から、600dpi(DotsPerInch)であることが好ましく、720dpi以上であることがより好ましい。また、前記水性インクジェットインキのドロップボリュームは、高品質の画像を実現するため1〜30pLであることが好ましい。
【0152】
プライマーが付与された基材上に水性インクジェットインキを印刷したあと、前記水性インクジェットインキ、及び未乾燥のプライマーを乾燥させるため、前記基材を乾燥させることが好ましい。その際、滲みや色むらを防止するため、乾燥機による熱エネルギーは印刷後30秒以内に付与することが好ましく、20秒以内に付与することがより好ましく、10秒以内に付与することが特に好ましい。
【0153】
本発明のインキセットを印刷する際、基材に対する本実施形態のプライマーの塗布量は、1〜25g/m
2であることが好ましい。塗布量を上記範囲に収めることで、混色滲み、ワレを抑えるとともに、塗布後のインキ凝集層の乾燥性が良好なものとなり、塗工装置内部への付着や、印刷後の基材を重ねた際の裏移りなどを防止し、タック感(べたつき)のない印刷物を得ることができる。
【0154】
また本発明のインキセットを印刷する際は、プライマーの付与量に対する水性インクジェットインキの付与量の比を0.1以上10以下とすることが好ましい。なお付与量の比としてより好ましくは0.5以上9以下であり、特に好ましくは1以上8以下である。付与量の比を上記範囲に収めることにより、プライマー量が過剰となることで起こる基材の風合いの変化や、水性インクジェットインキ量が過剰となりプライマーの効果が不十分となることで起こる滲みや色むらが起こることなく、高品質の印刷物を得ることができる。
【0155】
本発明のインキセットを用いて印刷物を製造する場合、その印刷速度は30m/分以上であることが好ましく、50m/分以上であることがより好ましく、75m/分以上であることが更に好ましく、100m/分以上であることが特に好ましい。
【0156】
本発明のインキセットを用いて印刷する際、使用する記録媒体としては公知のものを任意に用いることができるが、非吸収性基材であるフィルム基材が好ましい。例えば、ポリ塩化ビニルシート、PETフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムの様なプラスチック基材などが挙げられる。これらの記録媒体は表面を親水性にして濡れ性を上げるためにコロナ処理を施す事ができる。上記の記録媒体は表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層などを設けても良く、また印字後、印字面に粘着層などを設けても良い。また本発明のインキセットの印刷で用いられる記録媒体の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。
【0157】
前述のフィルム基材の中でも、本発明のプライマーの機能を十分に発現できる記録媒体として、コロナ処理されたPETフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムを使用する事が特に好ましい。
【0158】
<積層体>
本発明のインキセットを用いて作製した印刷物は、必要に応じて、印刷面をコーテ
ィング処理することができる。例えば、接着剤(G)を介したシーラント基材とのラミネート処理やホットメルトによるラミネート処理等が挙げられる。これらはいずれかを選択しても良いし、両者を組み合わせても良い。
【0159】
本発明のラミネート積層体に使用する接着剤(G)はポリオール成分(g−1)とポリイソシアネート成分(g−2)の混合物により構成される。
【0160】
ポリオール成分(g−1)は、水酸基を有する樹脂成分であり、塗工性や印刷物界面への濡れ性及び浸透性、エージング後に発現するラミネート強度を鑑み、各種ウレタン樹脂やポリエステル樹脂が好ましく用いられる。本発明のインキセットからなる印刷物の界面、例えばインキ層界面(印字部)、及び凝集剤層(非印字部)への濡れ性が良好で、ラミネート強度に優れる点から、上記の中でもポリオール成分(g−1)はポリエステルポリオールを含有する事好ましい。ポリオール成分(g−1)は単一成分でも構わないし、複数成分を併用しても構わない。
【0161】
ポリイソシアネート成分(g−2)は、ポリオール成分(g−1)と反応してウレタン結合を生成する事で、接着剤層を高分子量化させ、ラミネート強度を向上させる。ポリイソシアネート成分(h-2)には、低分子量の多官能ポリイソシアネートや樹脂末端にイソシアネート基が導入されたウレタンプレポリマーが使用される。これらの中でもポリオール成分(g−1)との相溶性、本発明のインキセットからなる印刷物界面、例えばインキ層界面(印字部)、凝集剤層(非印字部)への濡れ性が良好で、ラミネート強度にも優れる点から、ポリイソシアネート成分(g−2)にはイソシアネート基末端のポリエーテル系ウレタン樹脂を含有する事が好ましい。ポリイソシアネート成分(g−2)は単一成分でも構わないし、複数成分を併用しても構わない。
【0162】
ポリオール成分(g−1)100重量部に対して、ポリイソシアネート成分(g−2)の添加量は、65〜75重量部の範囲である事が好ましい。65〜75重量部の範囲である事で、接着剤層が、本発明の印刷物界面で充分に濡れ、反応して高分子量化する事で、優れたラミネート強度を発現する事ができる。
【0163】
印刷物のラミネート方法としては、例えば、ドライラミネート法、無溶剤ラミネート法、押出しラミネート法等が挙げられる。
【0164】
本発明の積層体に使用するシーラント基材としては、CPPやLLDPE等のポリプロピレンやポリエチレンフィルム及びそれらのAl蒸着膜等が挙げられる。
【実施例】
【0165】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態であるプライマー用樹脂微粒子分散体、及びそれを含むプライマー、更にプライマーを含むインキセット、印刷物、ラミネート積層体について、更に具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」及び「%」とあるものは特に断らない限りそれぞれ「重量部」、「重量%」を表す。
【0166】
<水溶性樹脂(A−2)の製造>
[製造例1]
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、n−ブタノール94.0部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度100℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン50.0部、アクリル酸26.0部、メチルメタクリレート18.0部、n−ブチルアクリレート6.0部を3時間かけて滴下した。もう一方からは、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート6.0部をn−ブタノール12.0部に溶解させ、4時間かけてそれを滴下した。滴下完了後、更に10時間反応させて反応を完了した。反応完了後、n−ブタノールを乾燥させて溶剤を除去し、固形の水溶性樹脂を得た。水溶性樹脂の酸価は191mgKOH/g、重量平均分子量は11800であった。
【0167】
[製造例2〜10]
製造例1と同様に、表1に示す組成で水溶性アクリル樹脂を合成し、溶剤を除去して固形の水溶性樹脂を得た。水溶性樹脂については、酸価ならびに重量平均分子量を測定した。
【0168】
[製造例11]
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、攪拌装置、温度計を備えた四ツ口の1000mlフラスコにPEG#2000(日油社製 ポリエチレングリコール)13.7部、ジメチロールブタン酸19.1部、メチルエチルケトン39.8部を仕込み、乾燥窒素で置換し、攪拌しながら60℃まで昇温した。攪拌下、イソホロンジイソシアネート27.4部、ジブチルスズジラウレート0.01部を加え80℃まで昇温し、4時間反応させて反応を完了した。反応完了後、メチルエチルケトンを乾燥させて溶剤を除去し、固形の水溶性ウレタン樹脂を得た。得られた水溶性樹脂の重量平均分子量は9994、酸価は123mgKOH/gであった。
【0169】
[製造例12]
PEG#2000(日油社製 ポリエチレングリコール)をP−2010(株式会社クラレ製 ポリエステルポリオール)に変更した以外は、製造例11と同様の組成と方法で、製造例12の水溶性樹脂を合成し、溶剤を除去して固形の水溶性ウレタン樹脂を得た。得られた水溶性樹脂の重量平均分子量は9879、酸価は120mgKOH/gであった。
【0170】
[酸価]
樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数。乾燥させた水溶性樹脂について、JIS K2501に記載の方法に従い、水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定をおこない算出した。
【0171】
[重量平均分子量]
乾燥させた水溶性樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%溶液を調製し、以下の装置ならびに測定条件により重量平均分子量を測定した。
装置:HLC−8320−GPCシステム(東ソー社製)
カラム;TSKgel-Super Multipore HZ−M0021488 4.6 mmI.D.×15cm×3本(分子量測定範囲2千〜約200万)
溶出溶媒;テトラヒドロフラン
標準物質;ポリスチレン(東ソー社製)
流速;0.6mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;40℃
【0172】
【表1】
【0173】
<樹脂微粒子分散体(B)の製造>
[実施例1]
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、製造例1で調製した水溶性樹脂38.0部、25%アンモニア水8.8部、イオン交換水250.0部を添加し、攪拌しながら60℃に昇温して水溶性樹脂を溶解させた。更に窒素還流下で温度を80℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(EO付加モル数23)34.0部、スチレン15.0部、メチルアクリレート27.0部、n−ブチルアクリレート18.0部、n−ブチルメタクリレート6.0部を2時間かけて滴下した。もう一方からは、過硫酸アンモニウム20%水溶液5.0部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、更に4時間反応させてコアシェル型樹脂微粒子分散体を得た。イオン交換水により、最終固形分を30.0%に調整した。得られた樹脂微粒子分散体について、平均粒子径、Tg、酸価を測定した。酸価は水溶性樹脂と同様の方法で測定した。得られた樹脂微粒子分散体の平均粒子径は56nm、Tgは6℃、酸価は53mgKOH/gであった。更に10%酢酸カルシウム水溶液に樹脂微粒子分散体(B)を添加して混合時の安定性を評価した。
【0174】
[実施例2〜33、比較例1〜6]
表2〜表4に示す配合組成で、実施例1と同様の方法で、実施例2〜33、比較例1〜6の樹脂微粒子分散体を得た。実施例3、33では、アジピン酸ジヒドラジドをダイアセトンアクリルアミドの半モルになるように添加した。中和剤である25%アンモニア水は、水溶性樹脂のカルボキシル基とアンモニアが等モルになるように添加した。得られた樹脂微粒子分散体について、実施例1と同様に平均粒子径、Tg、酸価、凝集剤との混合時の安定性を評価した。
【0175】
【表2】
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
[実施例34]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水150.0部と、低分子界面活性剤としてアデカ社製アデカリアソープSR−10を0.6部仕込み、別途、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート20.0部、スチレン15.0部、エチルアクリレート14.0部、n−ブチルアクリレート22.0部、メチルメタクリレート28.0部、アクリル酸1.0部および界面活性剤としてアデカリアソープSR−10 0.4部、イオン交換水50.0部をあらかじめ混合・乳化しておいたプレエマルジョンのうちの5%を更に加えた。内温を75℃に昇温し窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液12.0部、添加し重合を開始した。内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りを3時間かけて滴下し、更に4時間反応させた。反応完了後、中和剤として25%アンモニア水を1.0部添加してpHを8.5とし、樹脂微粒子水分散体を得た。更にイオン交換水で最終固形分を30.0%に調整した。樹脂の平均粒子径は85.0nm、Tgは4.6℃であった。
【0179】
[平均粒子径]
樹脂微粒子分散体を200倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(装置はNanotrac WaveIIマイクロトラックベル社製)により測定をおこなった。この時得られた粒度分布データ(ヒストグラム)のメジアン径を平均粒子径とした。
【0180】
[ガラス転移温度(Tg)]
ガラス転移温度(Tg)は、DSC(示差走査熱量計 TAインスツルメント社製)により測定した。樹脂微粒子分散体(B)を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取り、ガラス転移温度(Tg)を得た。
【0181】
[凝集剤との混合時の安定性(粒子径安定性)]
10%酢酸カルシウム水溶液10.0部に、調整した樹脂微粒子分散体を固形分換算で0.5部添加し、撹拌混合して安定性を評価した。評価水準は下記の通り。凝集して分散しないもの(×)については、次のプライマー及びインキセットによる評価を実施しなかった。
○:凝集せず分散していた
×:凝集して分散しなかった
【0182】
<プライマーの製造>
[実施例35]
イオン交換水48.0部、n−プロパノール2.0部を混合した後、酢酸カルシウム・1水和物10.0部添加して溶解するまで撹拌した。溶解後、実施例1で調製した樹脂微粒子分散体40.0部を撹拌しながらゆっくり添加して目的のプライマーを調製した。得られたプライマーについて、調製直後の樹脂微粒子分散体の平均粒子径を測定し、保存安定性を評価した。平均粒子径は樹脂微粒子分散体と同様の方法で測定した。
【0183】
[保存安定性]
調製したプライマーをインキュベータで40℃・1ヶ月静置した。経時前後でプライマーの樹脂微粒子分散体の平均粒子径を測定し、保存安定性を評価した。評価水準は下記の通り。実用レベルは○以上。
◎:平均粒子径の変化率が±25%未満であった。
○:平均粒子径の変化率が±25%以上、±50%未満であった。
△:平均粒子径の変化率が±50%以上であるが、分散状態が維持されていた。
×:凝集して測定できなかった。
【0184】
[実施例36〜74、比較例7〜11]
実施例35と同様の方法で実施例36〜74、比較例7〜11のプライマーを調製した。尚、実施例36では凝集剤をL−乳酸カルシウム・5水和物8.8部、実施例37ではアスコルビン酸カルシウム・2水和物12.1部に変更して調製した。得られたプライマーについて、実施例35と同様に、調製直後と経時後の平均粒子径を測定し、保存安定性を評価した。
【0185】
<顔料分散樹脂(E)の製造>
[製造例13]
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、n−ブタノール95.0部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度110℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン30.0部、アクリル酸30.0部、ラウリルメタクリレート40.0部を3時間かけて滴下した。もう一方からは、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート8.0部をn−ブタノール5.0部に溶解させ、4時間かけてそれを滴下した。滴下完了後、更に10時間反応させた。反応完了後、乾燥させて溶剤を除去し、固形の顔料分散樹脂(E)を得た。酸価ならびに重量平均分子量は水溶性樹脂と同様の方法で測定した。得られた顔料分散樹脂(E)の酸価は216mgKOH/g、重量平均分子量は13900であった。この顔料分散樹脂(E)に、カルボキシル基が100%中和されるようにジメチルアミノエタノールを34.4部加え、更にイオン交換水を加えて、加熱、攪拌しながら顔料分散樹脂(E)の25.0%水溶液を得た。
【0186】
[製造例14]
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、n−ブタノール95.0部を仕込み、撹拌しながら、窒素還流下で温度110℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン40.0部、スチレンマクロモノマー(東亞合成社製、数平均分子量6000)10.0部、メトキシエチルアクリレート25.0部、アクリル酸15.0部、メチルメタクリレート10.0部を3時間かけて滴下した。もう一方からは、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート8.0部をn−ブタノール5.0部に溶解させ、4時間かけてそれを滴下した。滴下完了後、更に10時間反応させ、n−ブタノールで希釈して30%の顔料分散樹脂(F)溶液を得た。酸価ならびに重量平均分子量は水溶性樹脂(A−2)と同様の方法で測定した。得られた顔料分散樹脂(F)の酸価は108mgKOH/g、重量平均分子量は21000であった。
【0187】
<濃縮顔料分散液1C、1M、1Y、1Kの製造>
[製造例15]
トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)を20部、製造例13で調製した顔料分散樹脂(E)の25%水溶液を40部、イオン交換水30.0部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、顔料分散液1Cを得た。また上記C.I.ピグメントブルー15:3を、以下に示す顔料にそれぞれ置き換える以外は顔料分散液1Cと同様にして、顔料分散液1M、1Y、1Kを得た。
Magenta:DIC社製FASTGEN Super Magenta RGT
(C.I.ピグメントレッド122)
Yellow:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT−1405G
(C.I.ピグメントイエロー14)
Black:オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85
(カーボンブラック)
【0188】
[製造例16]
トーヨーカラー社製LIONOL BLUE 7358G(C.I.ピグメントブルー15:3)を20.0部、製造例19で調製した顔料分散樹脂(F)の30.0%溶液を20部、更にカルボキシル基が100%中和されるようにジメチルアミノエタノールを1.1部、イオン交換水70.0部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行った。更にn−ブタノールを水との共沸により除去し、イオン交換水を加えて、固形分25.0%の顔料分散液2Cを得た。
また上記C.I.ピグメントブルー15:3を、以下に示す顔料にそれぞれ置き換える以外は顔料分散液1Cと同様にして、顔料分散液2M、2Y、2Kを得た。
Magenta:DIC社製FASTGEN Super Magenta RGT
(C.I.ピグメントレッド122)
Yellow:トーヨーカラー社製LIONOL YELLOW TT−1405G
(C.I.ピグメントイエロー14)
Black:オリオンエンジニアドカーボンズ社製PrinteX85
(カーボンブラック)
【0189】
<インキ用バインダー樹脂の製造>
[製造例17]
攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、n−ブタノール95.0部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度100℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン10.0部、メチルメタクリレート67.0部、メタクリル酸8.0部、n−ステアリルメタクリレート15.0部を3時間かけて滴下した。もう一方からは、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート6.0部をn−ブタノール12.0部に溶解させ、4時間かけてそれを滴下した。滴下完了後、更に10時間反応させた。反応完了後、ジメチルアミノエタノールを8.3部添加して中和し、更にイオン交換水を添加して共沸によりブタノールを除去した。更にイオン交換水で最終固形分を25.0%に調整し、目的のバインダー樹脂の水溶液を得た。
【0190】
[製造例18]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水93.2部と反応性界面活性剤として、第一工業製薬社製アクアロンKH−10を0.5部仕込み、別途、スチレン20.0部、メチルメタクリレート15.0部、n−ブチルアクリレート33.0部、2−エチルヘキシルアクリレート30.0部、アクリル酸1.0部、アクリルアミド1.0部、KH−10 0.5部、イオン交換水48.0部をあらかじめ混合・乳化しておいたプレエマルジョンのうちの5%を更に加えた。内温を80℃に昇温し窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液12.0部、添加し重合を開始した。内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りを3時間かけて滴下し、更に4時間反応させた。反応完了後、中和剤としてジメチルアミノエタノールを1.2部添加してpHを8.5とし、樹脂微粒子水分散体を得た。更にイオン交換水で最終固形分を25.0%に調整し、目的のバインダー樹脂の分散体を得た。
【0191】
<水性インクジェットインキ(CMYK)の製造>
[製造例19]
ディスパーで撹拌しながら、製造例15で調製した濃縮顔料分散液1C 25.0部、イオン交換水 23.95部、1,2−プロパンジオール 10部、1,2−ブタンジオール 20部、Tegowet280 1部、プロキセルGXL 0.05部 を順に添加して混合した。更に製造例17で調製したバインダー樹脂の分散体(固形分25.0%)を20.0部添加して撹拌し、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行って水性インクジェットインキを得た。濃縮顔料分散液を1M、1Y、1Kに変えて同様の所作をおこない、CMYK4色の水性インクジェットインキを得た。
【0192】
[製造例20]
製造例17のバインダー樹脂を製造例18のバインダー樹脂に変更する以外は、製造例19と同様の配合処方と方法により、CMYK4色の水性インクジェットインキを得た。
【0193】
[製造例21]
製造例15の濃縮顔料分散液を製造例16の濃縮顔料分散液に変更する以外は、製造例20と同様の配合処方と方法により、CMYK4色の水性インクジェットインキを得た。
【0194】
実施例35〜76、比較例7〜11のプライマーについて下記の評価を行った。評価結果について表5〜8に示す。
【0195】
<プライマーを付与した記録媒体の作製>
前述で調製したプライマーを、松尾産業社製KコントロールコーターK202、ワイヤーバーNo.0を用いて下記フィルム基材(コロナ処理面)にウェット膜厚4μmで塗工した後、フィルム基材を70℃のエアオーブンにて3分間乾燥させて、プライマーを付与した記録媒体を作製した。
・OPP:三井化学東セロ社製2軸延伸ポリプロピレンフィルム「OPU−1」(厚さ20μm)
・PET:東レ社製ポリエチレンテレフタレートフィルム「ルミラーT60」(厚さ25μm)
・NY:東洋紡社製ナイロンフィルム「ハーデンフィルムN1100」(厚さ15μm)
上記のプライマーを付与した記録媒体について、塗工性、透明性、保存安定性(経時での外観の変化)を評価した。
【0196】
<プライマーの塗工適性>
プライマーを付与した記録媒体について、目視で塗工適性を評価した。評価基準は以下の通り。実用レベルは△以上。
〇:塗工むらが全くなくフィルム基材上に均一に塗工できていた(良好)
△:塗工むらが 僅かに確認できるがフィルム基材上に塗工できていた(実用可)
×:塗工むらが確認され、フィルム基材上に均一塗工できていなかった(不良)
【0197】
<プライマーを付与した記録媒体の透明性>
プライマーを付与した記録媒体について、目視で透明性を評価した。
評価基準は以下の通り。実用レベルは○以上。
◎:透明で全く白化していなかった(良好)
○:僅かに白化していた(実用可)
△:やや白化していた(不良)
×:白化していた(極めて不良)
【0198】
<プライマーを付与した記録媒体の保存安定性>
プライマーを付与した記録媒体を室温で1ヶ月放置し、目視で外観の変化を評価した。上記の透明性の評価で△以下のものは評価を除外した。実用レベルは○以上。
◎:全く変化していなかった(良好)
○:僅かに白化していた(実用可)
△:やや白化していた(不良)
×:白化していた(極めて不良)
【0199】
<インクジェットインキによる印刷物の作製>
記録媒体を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B−QA(京セラ社製)を設置し、製造例19〜21の水性インクジェットインキを充填した。なお上記インクジェットヘッドは設計解像度が600dpi、最大駆動周波数が30kHzであり、前記最大駆動周波数かつ印刷速度75m/分で印刷したとき、記録媒体搬送方向における記録解像度が600dpiとなる。次いで、コンベヤ上にプライマーを付与した記録媒体を固定したのち、前記コンベヤを一定速度で駆動させ、前記インクジェットヘッドの設置部を通過する際に、CMYKの順にインクジェットインキをドロップボリューム12pLで吐出し、印刷した。印刷後、10秒以内に前記印刷物を70℃エアオーブンに入れ3分間乾燥させることで、印刷物を作製した。作製した印刷物におけるプライマーとインクジェットインキの組合せを、表5〜8に示す。
【0200】
<混色滲みの評価>
上記の条件で印刷・乾燥を行い、プライマーを塗工したフィルム基材上に印字率を40〜320%まで諧調を変えた4C(CMYK)印刷物を作製し、印刷部のドット形状について光学顕微鏡を用いて200倍で観察し、混色滲みの評価を行った。評価基準は以下の通り。実用レベルは○以上。
◎:いずれの印字率においても4C印刷部のドットが独立しており、混色滲みが見られなかった(良好)
○:印字率40〜280%の4C印刷部のドットが独立しており、混色滲みが見られなかった(実用可)
△:印字率40〜240%の4C印刷部のドットが独立しており、混色滲みが見られなかった(不良)
×:印字率40〜200%の4C印刷部で明らかに混色滲みが見られた(極めて不良)
【0201】
<色むらの評価>
上記の条件で印刷・乾燥を行い、プライマーを塗工したフィルム基材上に印字率を40〜320%まで諧調を変えた4C(CMYK)印刷物を作製し、4C(CMYK)印刷物における色むらの程度を目視観察し、色むらの評価を行った。評価基準は以下の通り。実用レベルは○以上。
◎:いずれの印字率においても4C印刷部の色むらが見られなかった(良好)
○:印字率40〜280%の4C印刷部の色むらが見られなかった(実用可)
△:印字率40〜240%の4C印刷部の色むらが見られなかった(不良)
×:印字率40〜200%の4C印刷部で明らかに色むらが見られた(極めて不良)
【0202】
<色合い(明度)の評価>
上記の条件で印刷・乾燥を行い、プライマーを塗工したフィルム基材上に印字率100%のブラックのベタ印刷物を作製した。色差計(SE2000 日本電色製)により、L
*a
*b
*を測定し、L値(明度)から白化の程度を評価した。値が大きい程、白化する傾向である。
評価基準は以下の通りである。実用レベルは○以上。
【0203】
◎:L値が10未満であった(良好)
○:L値が10以上、15未満であった(実用可)
△:L値が15以上、20未満であった(不良)
×:L値が20以上であった(極めて不良)
【0204】
<テープ密着性>
上記の条件で印刷・乾燥を行い、プライマーを塗工したフィルム基材上に各色で印字率100%のベタ印刷物を作製した。作成した印刷物の表面にニチバン社製セロハンテープ(幅18mm又は24mm)を指の腹でしっかり貼り、密着状態を確認した後にセロハンテープの先端を持ち、45度の角度を保ちながら瞬間的に引張り剥がす。剥がした後の印刷物の表面及びセロハンテープ面を目視で確認し、密着性を評価した。
評価基準は以下の通りである。実用レベルは○以上。
◎:セロハンテープの密着面に対する剥離面積が0〜1%であった(良好)
〇:セロハンテープの密着面に対する剥離面積が1〜5%であった(実用可)
△:セロハンテープの密着面に対する剥離面積が5〜10%であった(不良)
×:セロハンテープの密着面に対する剥離面積が10%以上であった(極めて不良)
【0205】
<ラミネート積層体の作製>
上記で作製した印字率100%のベタ印刷物(各色)にラミネーターで下記のポリオール成分(g−1)、ポリイソシアネート成分(g−2)の成分からなる接着剤(G)塗工した後、シーラントである未延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムを貼り合わせた。貼り合わせ後、40℃で2日間保管して、目的のラミネート積層体を作製した。
ポリオール成分(g−1):
東洋モートン社製 EA−N6000(ポリエステル系ポリオール)
ポリイソシアネート成分(g−2):
東洋モートン社製 EA−N5500(イソシアネート末端ポリエーテル系ウレタン)
ポリオール成分(h−1)/ポリイソシアネート成分(g−2)=100/70(重量比)
【0206】
<ラミネート強度試験>
上記で作製したラミネート積層体について、15mm×20mmの大きさの試験片を作り、引張り試験機(島津社製EZ−SX)を用い、温度20℃、湿度60%の条件下で、T型剥離により、剥離速度300mm/分で、印刷物フィルム/シーラントフィルム間のラミネート強度(N/15mm)を測定した。評価基準は以下の通りである。実用レベルは○以上。
◎;ラミネート強度が1.5N/15mm以上であった(良好)
○;ラミネート強度が1.0N/15mm以上、1.5N/15mm未満であった(実用可)
△;ラミネート強度が0.5N/15mm以上、1.0N/15mm未満であった(不良)
×;ラミネート強度が0.5N/15mm未満であった(極めて不良)。
【0207】
【表5】
【0208】
【表6】
【0209】
【表7】
【0210】
【表8】
【0211】
以上の結果より、実施例1〜34のプライマー用樹脂微粒子分散体は凝集剤との混合時の安定性に優れる。また、これらの樹脂微粒子分散体を含む実施例35〜70のプライマーは、保存安定性、各種フィルム基材への塗工性に優れる。更に乾燥塗膜の透明性と保存安定性(経時での外観)が良く、インキを付与した際にも混色滲みや色むらが抑制され、画像形成能に優れている。更にインキで印字した印刷物は色合いが良好で、各フィルム基材に対してのテープ密着性も十分に発現する。該印刷物に対し、接着剤を介してシーラント基材を貼りあわせた積層体のラミネート強度も良好である。以上の結果から、本発明のプライマー用樹脂微粒子分散体ならびにそのプライマーは実用レベルに必要な全ての要求性能を十分に満たす事が証明された。一方で比較例1〜6の樹脂微粒子分散体は凝集剤との混合時の安定性に劣る。比較例2〜6を含む比較例7〜11のプライマーに関しても、プライマー塗膜物性が悪く、画像形成能も著しく悪い。インキ塗膜やそのラミネート積層体に関する必要物性に関しても不良であり、実用レベルに及ばない事が確認された。