(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961163
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】電熱式ヒータ
(51)【国際特許分類】
B64D 15/12 20060101AFI20211025BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
B64D15/12
H05B3/00 310C
H05B3/00 370
H05B3/00 320C
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-555946(P2019-555946)
(86)(22)【出願日】2018年4月12日
(65)【公表番号】特表2020-516534(P2020-516534A)
(43)【公表日】2020年6月11日
(86)【国際出願番号】EP2018059469
(87)【国際公開番号】WO2018189341
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2020年1月22日
(31)【優先権主張番号】1705997.3
(32)【優先日】2017年4月13日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519359479
【氏名又は名称】ジーケーエヌ エアロスペース サービシズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イングリッシュ,ピーター
【審査官】
久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0108661(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0243811(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0043342(US,A1)
【文献】
米国特許第05710408(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 15/12
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機または空気力学的構造物内の防除氷システム用の電熱式ヒータであって、前記ヒータは、
一次ヒータ素子層、二次ヒータ素子層、および前記一次ヒータ素子層と前記二次ヒータ素子層との間に配置された少なくとも1つの誘電体層を備えたラミネート加工されたヒータマットと、
電源装置および電流検出器を備える制御装置と、
を備えており、
前記制御装置は第1モードと第2モードとを有するように構成されており、(i)前記第1モードでは、前記電源装置が前記一次ヒータ素子層にヒータ電流を供給し、前記二次ヒータ素子層にはヒータ電流を供給せず、前記電流検出器は、前記一次ヒータ素子層の焼損を示す前記一次ヒータ素子層のヒータ電流の漏れ電流を検出するために前記二次ヒータ素子層を監視し、(ii)前記第2モードでは、前記電源装置が前記二次ヒータ素子層にヒータ電流を供給し、前記一次ヒータ素子層にはヒータ電流を供給せず、
前記制御装置は、前記電流検出器による前記漏れ電流の検出に応答して前記第1モードから前記第2モードへと切り替えるように構成されている、
航空機または空気力学的構造物内の防除氷システム用の電熱式ヒータ。
【請求項2】
前記二次ヒータ素子層は、複数のヒータ素子を備えており、
前記制御装置は、前記第1モードでは、複数の前記ヒータ素子をまとめて電気的に接続し、前記第1モードから前記第2モードへと切替える際に、複数の前記ヒータ素子を電気的に分離された複数のヒータ素子として再構成するように構成されている、請求項1に記載の電熱式ヒータ。
【請求項3】
前記制御装置はスイッチ装置を含み、前記スイッチ装置は前記第1モードでは、前記二次ヒータ素子層をアースラインに接続し、前記第2モードでは、前記二次ヒータ素子層を前記電源装置の電力供給ラインに接続する、請求項1または請求項2に記載の電熱式ヒータ。
【請求項4】
前記制御装置は、制御ユニットを備え、
前記スイッチ装置は、スイッチとリレーとを備え、前記電流検出器による前記漏れ電流の検出に応じて生成される制御ユニットの指令信号に応答して、前記スイッチを前記第1モードから前記第2モードへと切り替えるように構成されている、請求項3に記載の電熱式ヒータ。
【請求項5】
前記電流検出器は、前記アースライン内の漏れ電流を検出するように配置されたセンサを備える、請求項3または請求項4に記載の電熱式ヒータ。
【請求項6】
前記電流検出器は、ホール効果電流センサおよび/または電流変成器を備える、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電熱式ヒータ。
【請求項7】
前記電源装置は、前記一次ヒータ素子層に電力を供給するための第1の電力供給ラインと、前記二次ヒータ素子層に電力を供給するための第2の電力供給ラインと、を有している、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の電熱式ヒータ。
【請求項8】
前記制御装置の制御ユニットは、前記第1モードで、前記第1の電力供給ラインを接続し前記第2の電力供給ラインを切断するように、かつ前記第2モードで、前記第1の電力供給ラインを切断し前記第2の電力供給ラインを接続するように構成されている、請求項7に記載の電熱式ヒータ。
【請求項9】
前記ヒータマットは、前記二次ヒータ素子層に付加されるグラウンド層を含んでいない、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の電熱式ヒータ。
【請求項10】
空気力学的な外側パネルと、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の電熱式ヒータと、を備える航空機構成要素であって、前記電熱式ヒータのヒータマットは、前記外側パネルの表面に接合されている、航空機構成要素。
【請求項11】
前記外側パネルはエロージョンシールドである、請求項10に記載の航空機構成要素。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の航空機構成要素を備える航空機であって、前記航空機は、航空機アースを含み、制御装置は、第1モードでは、二次ヒータ素子層が前記航空機アースに接続され、第2モードでは、二次ヒータ素子層が前記航空機アースに接続されないように構成されている、航空機。
【請求項13】
航空機アースを有する航空機の防除氷システム用の電熱式ヒータであって、一次ヒータ素子層、二次ヒータ素子層、および前記一次ヒータ素子層と前記二次ヒータ素子層との間に配置された少なくとも1つの誘電体層を有するラミネート加工されたヒータマットを備えている電熱式ヒータを作動させる方法であって、
前記二次ヒータ素子層にヒータ電流が供給されておらず、前記二次ヒータ素子層が前記航空機アースに接続されているときに、前記一次ヒータ素子層にヒータ電流を供給する工程と、
前記一次ヒータ素子層に由来する、前記一次ヒータ素子層の焼損を示す漏れ電流のために、前記二次ヒータ素子層から前記航空機アースへの電流経路を監視する工程と、
前記漏れ電流の検出に応答して、前記一次ヒータ素子層へのヒータ電流の供給を停止する工程と、前記二次ヒータ素子層を前記航空機アースから切断する工程と、前記二次ヒータ素子層へのヒータ電流の供給を開始する工程と、
を含む、航空機の防除氷システム用の電熱式ヒータを作動させる方法。
【請求項14】
前記二次ヒータ素子層は、複数のヒータ素子を備えていて、
前記監視する工程において、前記ヒータ素子は、まとめて電気的に接続されており、全ての前記ヒータ素子は、前記航空機アースへの電流経路を介して接続されており、
前記漏れ電流の検出に応答して、前記ヒータ素子は、電気的に分離されたヒータ素子として再構成され、前記二次ヒータ素子層へと供給されるヒータ電流は、前記分離されたヒータ素子間で分流される、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記監視する工程において、スイッチが、二次ヒータ素子層を前記航空機アースに前記電流経路を介して接続し、
前記漏れ電流の検出に応答して、前記スイッチは、前記二次ヒータ素子層を前記航空機アースから切断するように作動させられる、
請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記漏れ電流の検出に応答して、前記スイッチの動作はさらに、前記二次ヒータ素子層を電力供給ラインに接続するように機能する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記漏れ電流の検出に応答して、前記航空機のコックピット内に、前記ヒータマットが焼損したと推測されること、および前記ヒータマットが目下バックアップモードで動作していることが知らされる、請求項13から請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記航空機アースに接続されている間、一時的なグラウンド層として機能する二次ヒータ素子層に加えて付加的なグラウンド層は、前記ヒータマットに設けられていない、請求項13から請求項17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、防除氷システムの電熱式ヒータに関し、航空機、または風力タービンのブレードのようなその他の空気力学的構造物において、氷の形成を阻止するために、かつ/または既に形成された氷を除去するために使用するのに適している。これら2つの機能は、それぞれ防氷および除氷と呼ぶこともできる。
【0002】
発明の背景
航空機にとって、飛行中、航空機の外表面上に氷が形成されるのは望ましくない。氷は、航空機表面に沿った滑らかな空気の流れを破壊し、抗力を増加させ、意図した機能を実施するための翼形の能力を減少させる。
【0003】
さらに、形成された氷は、翼スラットまたはフラップのような可動の制御面の動きを妨げる恐れがある。エンジンの空気入口に形成された氷は、大きな塊となって突然、流されることがあり、このような塊は、エンジン内に吸い込まれ、損傷を引き起こす恐れがある。
【0004】
したがって、航空機、特に民間航空機では、防除氷システムを組み込むのが一般的である。民間航空機では、エンジンからの高温空気の抽出を含むシステムを使用されることがあり、この高温空気は、氷の形成を起こし易い翼の前縁および尾翼のような機体構成要素に送られる。さらに最近では、電熱式ヒータブランケットまたはマットを包含するノーズ外板を有する翼スラットを開示する欧州特許出願公開第1757519号明細書(GKN Aerospace)に記載されているような、電気動力システムが提案されている。ヒータマットは、ノーズ外板の前側の外面を備えた金属エロージョンシールドの背面に接着されている。
【0005】
ヒータマットは「Spraymat」(登録商標)型式であって、予め含浸されたガラスファイバクロスから成る誘電体層と、これらの誘電体層のうちの1つの誘電体層上に金属層を溶射することにより形成されるヒータ素子とを備えたラミネート製品である。「Spraymat」は、D. Napier & Sons Limited社による1950年代の最初の開発から(航空機のための電気除氷または防氷装置に関する当社の特許GB−833675参照)、GKN Aerospace社によるその後の使用まで、長い歴史を有する。
【0006】
翼スラットでの使用のために、近年、GKN Aerospace社によって生産された「Spraymat」は、雄型工具上に形成され、複数の層から成る積層体の積層を含み、この積層体は、(i)オートクレーブにおいて硬化されるエポキシが予め含浸された約10層のガラスファイバ織布、(ii)ヒータ素子パターンを形成するためにマスクを使用してラミネート上に溶射された伝導金属層(ヒータ素子)、(iii)ガラスファイバ織布から成る最後の3つ前後の層、を備える。配線は、航空機の電力系統への接続を可能にするように、ヒータ素子にはんだ付けされる。次いで、ヒータマットはオートクレーブにおいて硬化される。
【0007】
ヒータマットは、多くの場合、ヒータマットのヒータ素子に関する欠陥を検出するために安全装置として伝導性のグラウンド層を包含する。グラウンド層は、航空機のアースと、制御ユニットとに接続されている。
【0008】
ヒータマットは概して極めて信頼性が高い。しかしながら、万が一、ヒータマットのヒータ素子が、ヒータ焼損の形で故障した場合には、電流は、グラウンド層を経由して航空機のアースへと漏れて、制御ユニットにより、電流におけるこの変化を(ヒータ素子へと供給される電流の増加、いわゆる過電流、を検出することにより)検出することができ、ヒータマットの構造に対する熱的損傷を阻止するための措置を講じることができる。
【0009】
ノーズ外板のエロージョンシールドも航空機アースに接続されているので、エロージョンシールドへの落雷の間に、結果として生じる極めて短時間の極めて大きな直流が、エロージョンシールドを介して航空機アースへと放散される。
【0010】
長年にわたって、グラウンド層は、金属メッシュ、またはニッケル被覆された炭素組織のような導電性織物として提供されてきた。
【0011】
近年では、グラウンド層は、銅または銅合金のような、溶射された金属層として提供されており、グラウンド層は、以前に使用されていた熱硬化性材料(例えば、エポキシ樹脂)の代わりに熱可塑性材料から製作された誘電体層の上にスプレーされている。グラウンド層のための新しい形式の配置は、英国特許出願公開第2477338号明細書(GKN Aerospace)、および英国特許出願公開第2477339号明細書(GKN Aerospace)に記載されている。
【0012】
ヒータマットのヒータ素子層の焼損の検出に関連して、グラウンド層は、航空機の機体によって提供されるアースに電気的に接合されているので、損傷されたヒータ素子層からの漏れ電流を、航空機アースへと逸らす働きをする。
【0013】
燃焼が、ヒータマットの構造内へと進行し、その構造的な完全性を損傷し始める前に、焼損を検出することが重要である。
【0014】
焼損が発生し始めると、ヒータ素子層へと供給されるヒータ電流は増加し、この増加は、ヒータ素子層に通じる電力供給ラインを監視することにより検出することができる。焼損が検出されると、そのヒータ素子層は分離され、シャットダウンされてもよい。
【0015】
しかしながら、ヒータ電流および検出能力において、ならびに適切なノイズ除去の適用において、誤差が生じているため、検出される閾値は必然的に極めて大まかである。結果として、ヒータ素子層のヒータ素子における故障に基づき、燃焼は、検出されシャットダウンされる前に、著しく進行する恐れがある。
【0016】
いくつかの用途では、ヒータ素子層が故障し、シャットダウンされた後でも、防除氷システムが、加熱機能を提供し続けることが重要である。したがって、ヒータマットには、万が一(一次)ヒータ素子層が故障してシャットダウンされた場合に使用するための二次(バックアップまたは緊急用)ヒータ素子層を設けることができる。
【0017】
しかしながら、一次ヒータ素子層に加えて付加的に二次ヒータ素子層を設けることは、ヒータマット内にグラウンド層のためのスペースがないことを意味する。何故ならば、全ての金属層(一次ヒータ素子層、二次ヒータ素子層、およびグラウンド層)、および関連する誘電絶縁層の存在は、ヒータマットの厚さを、許容できないレベルにまで増加させることになるからである。
【0018】
改善された電熱式ヒータを提供するのが望ましい。
【0019】
発明の概要
本発明の第1の態様によれば、防除氷システム用の電熱式ヒータが提供され、このヒータは、
一次ヒータ素子層、二次ヒータ素子層、および一次ヒータ素子層と二次ヒータ素子層との間に配置された少なくとも1つの誘電体層を備えたラミネート加工されたヒータマットと、
電源装置および電流検出器を備える制御装置と、を備えており、
この制御装置は第1モードと第2モードとを有するように構成されており、(i)第1モードでは、電源装置が一次ヒータ素子層にヒータ電流を供給し、二次ヒータ素子層にはヒータ電流を供給せず、電流検出器は、一次ヒータ素子層の焼損を示す一次ヒータ素子層のヒータ電流の漏れ電流を検出するために二次ヒータ素子層を監視し、(ii)第2モードでは、電源装置が二次ヒータ素子層にヒータ電流を供給し、一次ヒータ素子層にはヒータ電流を供給せず、
制御装置は、電流検出器による漏れ電流の検出に応答して第1モードから第2モードへと切り替えるように構成されている。
【0020】
事実上、二次ヒータ素子層は、第1モードでは一時的なグラウンド層として機能し、第2モードではヒータとして機能する。ヒータマットはもはや、ヒータマットの厚さを不都合にも増加させる専用の永続的なグラウンド層を(二次ヒータ素子層に加えて付加的に)含む必要はない。
【0021】
以前は、スペース的制約のため、二重の冗長的な防除氷システムのヒータマット内に故障検出層を包含させることは不可能であると考えられていた。
【0022】
第1モードは、ヒータの作動の通常モードに相当し、第2モードは、第1モードで一次ヒータ素子層の焼損故障が生じたときに使用される場合の、ヒータの作動の緊急(バックアップ)モードに相当する。
【0023】
現在考えられている実施の形態では、電流検出器は、ホール効果電流センサおよび/または電流変成器を備える。
【0024】
ACヒータシステムに関しては、一時的なグラウンド層(二次ヒータ素子層)における全ての電流は必ず、故障により生じた電流であるため、容易に検出することができるので、電流変成器がシンプルな解決手段である。電流変成器は、二次ヒータ素子層を航空機アース(航空機グラウンド)に接続する接続線の直列抵抗には、実質的な影響を与えない。
【0025】
電流変成器は、(予め規定されたノイズ閾値を超える)二次ヒータ素子層における電流の増加を検出するために、かつ/または一次ヒータ素子層で生じている燃焼プロセスにおけるアーク放電に起因する高周波のAC電流を検出するために使用することができる。
【0026】
DCヒータシステムに関しては、電流変成器による解決手段は、アーク放電検出機構として以外は不可能であるが、ホール効果電流センサは、電流変成器の場合と同様に、二次ヒータ素子層と航空機アースとの間の電気的接合部に殆ど影響を与えない。電流変成器と同様に、ホール効果電流センサを、(予め規定されたノイズ閾値を超える)二次ヒータ素子層における電流の増加を検出するために、かつ/または一次ヒータ素子層におけるアーク放電に起因する高周波のAC電流を検出するために使用することができる。
【0027】
これまでは、グラウンド接合の完全性を維持しながら、グラウンド層電流を監視することは、可能であるとは考えられていなかった。これは、グラウンド層は、必ず、機体のグラウンド(アース)に電気的に接合されていて、したがってグラウンド層における電流検出は、これまで考慮されていなかったからである。しかしながら、(電流変成器、ホール効果電流センサ、または類似の間接検出技術を使用して)グラウンド接合接続部における電流を監視することにより、グラウンド接合接続部(例えば配線またはストラップ)を介してグラウンド層の電気的な接合完全性を維持しながら、グラウンド層における故障の検出は今や可能である。
【0028】
いくつかの実施の形態では、二次ヒータ素子層は、複数のヒータ素子を備えている。制御装置は、第1モードでは、複数のヒータ素子をまとめて電気的に接続し、第1モードから第2モードへと切り替える際には、複数のヒータ素子を電気的に分離された複数のヒータ素子として再構成するように構成されていてもよい。
【0029】
一次システムが故障した場合に、ただ加熱のためだけに使用される二次(緊急用)層における複数の加熱素子を、非作動時には、まとめて接続して、システムグラウンドに接合することができる。このように構成された二次層は、故障検出グラウンド層となり、グラウンド配線(航空機グラウンドまたはアースに接続可能な接合配線またはライン)における電流の監視を、故障検出のために利用することができる。故障が検出された場合、一次層を分離し、二次層を、緊急防除氷手段となるように再構成することができる。
【0030】
いくつかの実施の形態では、制御装置はスイッチ装置を含み、このスイッチ装置は第1モードでは、二次ヒータ素子層をアースラインに接続し、第2モードでは、二次ヒータ素子層を電源装置の電力供給ラインに接続する。
【0031】
いくつかの実施の形態では、制御装置は、制御ユニットを備え;スイッチ装置は、スイッチとリレーとを備え、電流検出器による前記漏れ電流の検出に応じて生成される制御ユニットの指令信号に応答して、スイッチを第1モードから第2モードへと切り替えるように構成されている。
【0032】
いくつかの実施の形態では、電流検出器は、二次ヒータ素子層から延び、航空機の機体アースのようなアースに接続可能なアースライン内の漏れ電流を検出するように配置されたセンサを備える。例えば、センサは、アースラインの周囲にまたはアースラインに隣接して配置されているがアースライン内に位置してはいないセンサエレメント(例えば、センサコイル)を備える。
【0033】
いくつかの実施の形態では、電源装置は、一次ヒータ素子層に電力を供給するための第1の電力供給ラインと、二次ヒータ素子層に電力を供給するための第2の電力供給ラインと、を有している。
【0034】
いくつかの実施の形態では、制御装置の制御ユニットは、第1モードで、第1の電力供給ラインを接続し第2の電力供給ラインを切断するように、かつ第2モードで、第1の電力供給ラインを切断し第2の電力供給ラインを接続するように構成されている。
【0035】
いくつかの実施の形態では、ヒータマットは、二次ヒータ素子層に対して付加的にグラウンド層を含んでいない。
【0036】
いくつかの実施の形態では、ヒータマットは、第1のグループの複数の誘電体層と、二次ヒータ素子層と、第2のグループの複数の誘電体層と、一次ヒータ素子層と、第3のグループの誘電体層とを備える、ラミネート加工された積層体を備えている。第1のグループの複数の誘電体層は、ヒータマットの底面(または背面)を提供してよく、第3のグループの複数の誘電体層は、ヒータマットの上面(または前面)を提供してもよい。
【0037】
製造のし易さのため、誘電体層は、全て、同じ材料から形成されていてもよい。
【0038】
一次ヒータ素子層および/または二次ヒータ素子層は多孔質であってもよい。多孔質であることにより、隣接する誘電体材料のヒータ素子層を通しての移動が容易になり、これによりヒータマットの構造的な一体性が向上し、ヒータ素子層においてラミネート剥離が生じる可能性が低くなる。多孔質のヒータ素子層を敷設するために溶射を使用することができる。
【0039】
航空機構成要素は、空気力学的な外側パネルと、本発明による電熱式ヒータと、を備えていてよく、電熱式ヒータの電熱式ヒータマットは、外側パネルの表面(例えば、背面)に接合されている。例えば、外側パネルは、エロージョンシールドであってもよい。
【0040】
航空機構成要素は、機体アースのような航空機アースを含む航空機に組み込まれてもよい。制御装置は、第1モードでは、二次ヒータ素子層が航空機アースに接続され、第2モードでは、二次ヒータ素子層が航空機アースに接続されないように構成されていてもよい。
【0041】
本発明の第2の態様によれば、航空機アースを有する航空機内の電熱式ヒータであって、一次ヒータ素子層、二次ヒータ素子層、および一次ヒータ素子層と二次ヒータ素子層との間に配置された少なくとも1つの誘電体層を有するラミネート加工されたヒータマットを備えている電熱式ヒータを作動させる方法が提供されており、当該方法は:
二次ヒータ素子層にヒータ電流が供給されておらず、二次ヒータ素子層が航空機アースに接続されているときに、一次ヒータ素子層にヒータ電流を供給する工程と、
一次ヒータ素子層に由来する、一次ヒータ素子層の焼損を示す漏れ電流のために、二次ヒータ素子層から航空機アースへの電流経路を監視する工程と、
漏れ電流の検出に応答して、一次ヒータ素子層へのヒータ電流の供給を停止し、二次ヒータ素子層を航空機アースから切断し、二次ヒータ素子層へのヒータ電流の供給を開始する工程と、を含む。
【0042】
いくつかの実施の形態では、二次ヒータ素子層は、複数のヒータ素子を備えている。監視する工程において、複数のヒータ素子は、まとめて電気的に接続されてよく、全てのヒータ素子は、航空機アースへの電流経路を介して接続されている。前記漏れ電流の検出に応答して、複数のヒータ素子は、電気的に分離された複数のヒータ素子として再構成されてよく、二次ヒータ素子層へと供給されるヒータ電流は、分離されたヒータ素子間に分流される。
【0043】
いくつかの実施の形態では、監視する工程において、スイッチが、二次ヒータ素子層を航空機アースに電流経路を介して接続する。前記漏れ電流の検出に応答して、スイッチは、二次ヒータ素子層を航空機アースから切断するように操作されてもよい。いくつかの実施の形態では、スイッチの操作によりさらに、二次ヒータ素子層が電力供給ラインに接続されてもよい。
【0044】
いくつかの実施の形態では、前記漏れ電流の検出に応答して、航空機のコックピット内に、ヒータマットが焼損したと推測されること、およびヒータマットが目下バックアップモードで作動していることについての通知が提供されてもよい。
【0045】
いくつかの実施の形態では、ヒータマットは、航空機アースに接続されている間、一時的なグラウンド層として機能する二次ヒータ素子層に加えて付加的なグラウンド層を有しない。
【0046】
ここで本発明のいくつかの実施の形態を、単なる例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】翼の前縁にスラットを有する航空機の図式的な平面図である。
【
図2】
図1の1つの翼スラットのノーズ外板の図式的な斜視図である。
【
図3】本発明による防除氷システムのための電熱式ヒータの実施の形態を図式的に示す図である。
【0048】
本発明は、様々な変更および代替形態が可能であるが、いくつかの実施の形態が、例として図面に示され、本明細書で詳細に説明される。しかし、これらの実施の形態の図面および詳細な説明は、開示された特定の形態に本発明を限定することを意図するものではないことを理解されたい。むしろ本発明は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の思想および範囲内にある全ての改変、等価物、および代替物を包含する。
【0049】
特定の実施の形態の説明
図1は、翼11を有する航空機1の平面図であって、翼11の前縁(前方縁)に沿って、5つの翼スラット12が配置されている。各翼スラット12は、電熱式防除氷システムを包含する。
【0050】
図2は、
図1の翼スラット12のうちの1つの取り外し可能なノーズ外板13の図式的な斜視図である。ノーズ外板13の構成は、ノーズ外板を備えた取り外し可能な前方部分を有する翼スラットが開示されている欧州特許出願公開第1757519号明細書(GKN Aerospace)に記載のものと概ね同様であってもよい。
【0051】
ノーズ外板13は、エロージョンシールド14と電動ヒータ2とを有している。
【0052】
ヒータ2は、ヒータブランケットまたはマット3と、このヒータマット3を、関連する電源および制御電子機器に接続するワイヤまたはライン4の束とを備えている。
【0053】
エロージョンシールド14は概ね長方形であり、凸状に湾曲した前面141と、凹状に湾曲した背面142とを有している。前面141の頂点1411は、航空機の翼11の前縁を成す。
【0054】
ヒータマット3は概ね長方形であり、凸状に湾曲した前面31と、凹状に湾曲した背面32とを有している。凸状の前面31は、エロージョンシールド14の背面142の形状に適合されていて、背面142に接合されている。このようにして、ヒータマット3が作動させられる際に発生する熱エネルギは、防除氷機能を提供するために、伝導によってエロージョンシールド14内へと通される。エロージョンシールド14は、金属であり、アルミニウム(標準的な材料である)またはチタン(高価であるが、いくつかの機能的利点および処理的利点を提供することができる)から成っていてもよい。エロージョンシールド14の重要な機能は、雷電流を吸収および分散することにより、落雷から航空機を保護することである。
【0055】
ヒータマット3の凹状の背面32は、翼スラット12の支持構造に取り付けることができる。
【0056】
図3は、本発明による防除氷システムのための電熱式ヒータ2の実施の形態を図式的に示す図である。
【0057】
図3には、ヒータ2のヒータマット3が、図を単純なものとするため、湾曲されずに平面として図式的に示されている。ヒータマット3は、ヒータマットに構造体を提供する複数の誘電体層の第1のグループ33を備え、この第1のグループは、GRP(ガラス強化プラスチック)またはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)から形成されてもよい。誘電体層は、旧式の熱硬化性タイプ(エポキシ樹脂を含む)、または新式の熱可塑性タイプであってもよいことを想定している。 適切な高温エンジニアリング熱可塑性プラスチックの例は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEKK(ポリエーテルケトンケトン)、PPS(ポリフェニレンスルファイド)、PEI(ポリエーテルイミド)、およびPES(ポリエーテルスルホン)、およびこれらの混合物を含む。これらの材料は、大きな損傷なく溶射に耐えることができる。PEEKおよびPEKKが特に好適であり、PEEKは、必要な機械的性能を有し、かつ特に溶射される金属コーティングに対して受容性があり、またPEKKは同様の特性を有しているものの、金属材料に接合しやすい。
【0058】
ヒータマット3はさらに、複数の誘電体層の第1のグループ33と同様の複数の誘電体層である第2のグループ34と第3のグループ35とを備える。
【0059】
誘電体層の第2のグループ34と第3のグループ35との間に、溶射された一次ヒータ素子層36が位置している。誘電体層の第1のグループ33と第2のグループ34との間に、溶射された二次ヒータ素子層37が位置している。各ヒータ素子層36,37は銅または銅合金から作られていてもよい。
【0060】
誘電体層の第3のグループ35の上面は、アルミニウムエロージョンシールド14の背面に接合されている。
【0061】
ヒータ2はさらに、第1および第2の電源装置ユニット51,52を含む制御装置5を備える。第1の電源装置ユニット51は、制御装置5が第1モードのときに電力供給ライン41,511を通じてスイッチ装置53を介して一次ヒータ素子層36にヒータ電流を供給するように構成されている。制御装置5の第2モードでは、スイッチ装置53は、一次ヒータ素子層36へのヒータ電流を切断する。
【0062】
第2の電源装置ユニット52は、制御装置5の第2モードで、スイッチ装置54を介して二次ヒータ素子層37にヒータ電流を供給するように構成されている。
【0063】
スイッチ装置54は、リレー541とスイッチ542とを含む。制御装置5の第1モードでは、スイッチ542は、二次ヒータ素子層37を、アースライン55を介して航空機アース6に接続している。
【0064】
エロージョンシールド14も、アースライン143を介して航空機アース6に接続されている。
【0065】
制御装置5は、電流検出器56を含み、この電流検出器は、アースライン55内の電流を検出するために、アースライン55の周りに位置するセンサコイル561を有している。電流検出器56の出力は、ライン562を介して制御ユニット57へと供給される。
【0066】
制御ユニット57は、第1の電源装置ユニット51のスイッチをオンまたはオフにするために、ライン571を介して指令信号を送ることができ、かつスイッチ装置53を開閉するために、ライン572を介して指令信号を送ることができる。
【0067】
制御ユニット57はさらに、ライン573を介して、構成ユニット58を制御するために構成ユニット58に接続されており、構成ユニット58は、二次ヒータ素子層37を形成する個々のヒータ素子(図示せず)の電気的構成(直列または並列)を制御する。
【0068】
さらに、制御ユニット57は、ライン574を介して、リレー541を制御するためのスイッチ装置54に接続されていて、ライン575を介して、第2の電源装置ユニット52に、この第2の電源装置ユニットをスイッチオンおよびオフするために接続されている。
【0069】
二次ヒータ素子層37は、4つのヒータ素子を有しているものとして示されているが、ヒータ素子の数は変更されてもよい。各ライン421,422,423,424は、構成ユニット58から、二次ヒータ素子層37の複数のヒータ素子のうちのそれぞれ1つに到る。制御装置5の第1モードでは、制御ユニット57からのライン573を通じた指令信号により、構成ユニット58が、複数のヒータ素子を、一時的なグラウンド層として一体的に機能させるべく直列となるように構成する。
【0070】
制御装置5の第2モードでは、制御ユニット57からのライン573を通じた指令信号により、構成ユニット58が、複数のヒータ素子を並列となるように再構成し、これにより、緊急時のヒータ素子層としてまたはバックアップ用ヒータ素子層として機能することができるように、電力を二次ヒータ素子層37の複数のヒータ素子へと個別に供給することができる。
【0071】
電力供給ライン521は、第2の電源装置ユニット52をスイッチ装置54に接続する。
【0072】
スイッチ542がリレー541によって操作される際に、スイッチは、ライン575(構成ユニット58とスイッチ装置54との間)の、アースライン55への接続(第1モード)と、電力供給ライン521への接続(第2モード)とを切り替える。
【0073】
制御装置5の第1モードで、一次ヒータ素子層36が、焼損の形で故障すると、電力供給ライン41,511を通じて一次ヒータ素子層36に供給されるヒータ電流の一部は、誘電体層34を通って二次ヒータ素子層37へと漏れる。第1モードでは、二次ヒータ素子層37は、一時的なグラウンド層として機能するように構成されている。
【0074】
二次ヒータ素子層37に達した漏れ電流は、ライン421〜424を通じて、構成ユニット58を通り、ライン575を通じて、スイッチ542を通り、アースライン55を通じて航空機アース6に到る。
【0075】
漏れ電流は、アースライン55を通じて通過し、ホール効果電流センサタイプのまたは電流変成器タイプの電流検出器56のセンサコイル561によって検知される。電流検出器56の出力は、ライン562を通じて制御ユニット57へと供給される。制御ユニット57は、漏れ電流が、一次ヒータ素子層36の焼損が発生したことを示す閾値を上回って増加したと判定すると、制御ユニット57は、ライン571〜575を通じて指令信号を発することにより、制御装置5を第1モードから第2モードへと切り替える。
【0076】
第2モードへの切替の際に、制御ユニット57は、一次ヒータ素子層36へのヒータ電流の供給を停止するために第1の電源装置ユニット51を休止させるように指示し、スイッチ装置53を閉じるように指示する。
【0077】
第2モードへの切替のさらなる部分として、制御ユニット57は、二次ヒータ素子層37を、グラウンド層から個々のヒータ素子へと戻すように再構成することを構成ユニットに指示する。スイッチ装置54は指示を受けて、リレー541を操作して、スイッチ542により、ライン575をアースライン55から切断し、その代わりにライン575を電力供給ライン521に接続させ、これにより第2の電源装置ユニット52は、スイッチ装置54、構成ユニット58、およびライン421〜424を介して二次ヒータ素子層37へのヒータ電流の供給を開始することができる。
【0078】
したがって、ヒータマット3は、一次ヒータ素子層36が焼損して故障し、もはや、ヒータマット3の構造を損傷することなく安全に動作ができなくなると、二次ヒータ素子層37を使用することによりバックアップ用(緊急)加熱機能を提供することができる。バックアップ用(緊急)加熱機能は、動作の第2(緊急)モードとして提供される。動作の通常の(第1)モードで、一次ヒータ素子層36が損傷されておらず、通常通り作動しているときには、二次ヒータ素子層37は、焼損故障の発生の可能性を示す一次ヒータ素子層36からの漏れ電流を検出する準備ができている一時的なグラウンド層として動作することができる。殆どの時間、動作は、第1モードである見込みが高く、したがって殆どの時間、ヒータマット3は、二次ヒータ素子層37によって提供される一時的なグラウンド層の形態のグラウンド層の保証された提供を受けることになる。第2モードは、故障したヒータマット3が修理または交換できるまでの短時間だけ作動させられる見込みである。したがって、第2モードにおけるグラウンド層の欠如は、関与する短期間だけ許容可能であると考えることができそうである。この短期間において、二次ヒータ素子層37自体が焼損故障を発生する可能性は、許容できる程度に低い。したがって、ヒータマット3は、ヒータ素子層36,37を補足する専用の永続的なグラウンド層を有していないにもかかわらず、許容可能とみなすことができる。
【0079】
本発明の電熱式ヒータのヒータマットは、飛行中に氷が形成されるおそれのある航空機のいずれの(例えば前方に面した)表面にも組み込むことができる。例えば、ヒータマットを翼の前縁に組み込むことに対して選択的に、フィンまたは水平尾翼の前縁に、またはエンジンの給気部に、または後縁フラップに、その展開時にフラップ上での氷形成を阻止するために、または補助翼内に、またはプロペラ翼のような回転するブレードに、組み込むことが含まれる。