(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス等の微細化、高集積化に伴い、微細構造体における表面の平坦性の向上が要求されている。例えば、微細構造体の表面上に形成された微細の凹凸部(数Å〜数10nm)が、加工精度の低下や、電気的特性等の低下を引き起こし得る。このような微細の凹凸部を除去する方法として、特許文献1、2には、近接場光を用いた表面平坦化方法が開示されている。
【0003】
特許文献1には、近接場光を用いた表面平坦化方法として、塩素系ガスを導入した真空チャンバ内に、基板等のエッチング対象物を載置して行う旨が開示されている。塩素系ガスのガス分子の吸収端波長よりも長波長からなる光をエッチング対象物に照射することで、エッチング対象物の表面の凹凸部に近接場光を発生させ、近接場光により塩素系ガスが解離し生成された活性種により、上記凹凸部を化学反応させることで、エッチングが行われる。
【0004】
特許文献2には、近接場光を用いた表面平坦化方法として、表面に微細の凹凸部が形成された平坦化対象物の表面に、反応性溶液を塗布し、反応性溶液が塗布された平滑化対象物に対し、凹凸部に近接場光を発生しうる波長の光を照射する。発生した近接場光によりClO
-イオンが励起され、生成された塩素ラジカルが凹凸部を形成する分子と反応することで、基板を平坦化させる旨が開示されている。また、反応性溶液として、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素水、及びヨウ化カリウムとヨウ素との混合物等の水溶液が用いられる旨が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示された表面平坦化方法では、真空チャンバ内でエッチングが行われる。このため、エッチング実施前後の準備に費やす時間が課題として挙げられ、作業時間を短縮できる方法が望まれている。また、塩素系ガスを用いるため、安全性においても懸念があった。
【0007】
この点、特許文献2で開示された表面平坦化方法では、真空装置を用いずにエッチングするため、作業時間の短縮を図ることができる。また、塩素系ガスを用いないため、安全性の懸念を解決できる。しかしながら、特許文献2で開示された方法では、反応性溶液内にClO
-イオンが分散された状態で光を照射する。このとき、近接場光の発生は凹凸部周辺に限られるため、ClO
-イオンを励起する確率が低い。すなわち、特許文献2で開示された表面平坦化方法では、長時間のエッチングを行う必要があり、凹凸部以外の表面に対して悪影響を及ぼす懸念がある。このため、表面の平坦化に費やす時間の短縮が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、近接場光を用い、表面の平坦化を短時間で実現できる表面平坦化方法及び微細構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る表面平坦化方法は、近接場光を用いた表面平坦化方法であって、極性基と、フッ素とを含む極性溶液を、微細の凹凸部が形成された被処理体の表面に塗布し、前記極性基と前記凹凸部とを結合させる塗布工程と、前記被処理体の表面に光を照射し、前記凹凸部周辺に近接場光を発生させる照射工程と、を備え、前記極性溶液は、
OH−CH2−CF2−O−(CF2−CF2−O)p−(CF2O)q−CF2−CH2−OHを示す有機高分子を含
むことを特徴とする。
【0012】
第
2発明に係る微細構造体の製造方法は、近接場光を用いた微細構造体の製造方法であって、極性基と、フッ素とを含む極性溶液を、微細の凹凸部が形成された被処理体の表面に塗布し、前記極性基と前記凹凸部とを結合させる塗布工程と、前記被処理体の表面に光を照射し、前記凹凸部周辺に近接場光を発生させる照射工程と、前記極性溶液を除去する除去工程と、を備え、前記極性溶液は、
OH−CH2−CF2−O−(CF2−CF2−O)p−(CF2O)q−CF2−CH2−OHを示す有機高分子を含
むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述した構成からなる本発明によれば、極性基と、ハロゲンとを含む極性溶液を用いることで、近接場光を用い、表面の平坦化を短時間で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る、近接場光を用いたエッチングによる表面平坦化方法の実施形態について説明する。
【0016】
以下では、本実施形態の被処理体として基板が用いられた場合について説明する。
図1(A)及び
図1(B)は、基板2の表面21の形状を示す模式図である。
【0017】
基板2として、ガラス、プラスチック、シリコンウェハ(Si)、ダイヤモンド、ガリウムナイトライド(GaN)等の材料が用いられる。基板2の表面21には、微細の凹凸部22が形成される。凹凸部22の大きさは、数Å〜数10nm程度である。なお、各図では、凹凸部22のうち凹状部分を省略し、凸状部分を示して説明する。
【0018】
凹凸部22は、例えば
図1(A)に示すように、基板2の表面21の表面粗さ(R
a)により生じるものの他、例えば
図1(B)に示すように、基板2に対するエッチング等の各種加工を経た後に残存する、不要な酸化膜やフォトレジスト、金属薄膜等により生じるものであってもよい。すなわち、凹凸部22の材料は、基板2と同様の材料である他、基板2とは異なる材料であってもよい。
【0019】
本実施形態における表面平坦化方法では、不要な凹凸部22に近接場光を発生させ、近接場光によって極性溶液から活性種を生成する。生成した活性種を凹凸部22と反応させることで、基板2の他の部分に影響を及ぼすことなく、凹凸部22のみを選択的に除去することが可能となる。
【0020】
本実施形態における表面平坦化方法は、例えば
図2に模式的に示す表面平坦化装置1を用いて行われる。
【0021】
表面平坦化装置1は、基板2に光を照射する光源11と、光源11から照射された光を反射し基板2に導く反射ミラー12と、反射ミラー12と基板2との間に設けられ光の形状や偏向方向を制御する照射光学系13とを備える。
【0022】
光源11は、図示しない駆動電源による制御に基づき、所定の波長を有する光を照射する。この光源11からは、極性溶液3に含まれるハロゲンの吸収端波長よりも長い波長を有する光であって、凹凸部22に近接場光を発生させる波長を有する光が射出される。光源11として、例えば、He−Neレーザー発振器やArレーザー発振器が用いられる。
【0023】
なお、凹凸部22に近接場光が発生するのは、凹凸部22のみが周りの極性溶液3と屈折率が異なるためである。
【0024】
照射光学系13は、図示しない偏光レンズや集束レンズ等を備える。照射光学系13により、凹凸部22の位置、大きさ、範囲等に応じて、ビーム径やビーム形状を制御し、光を照射する範囲を絞ることができる。
【0025】
なお、反射ミラー12及び照射光学系13は本発明に係る表面平坦化方法を実行する上で必須の構成ではなく、表面平坦化装置1の構成は適宜変更することができる。
【0026】
表面平坦化装置1内には、基板2が載置される。基板2の表面21には、微細の凹凸部22が形成され、極性溶液3が塗布される。このため、凹凸部22は、極性溶液3に覆われる。基板2の表面21は、表面平坦化装置1を用いて平坦化される。
【0027】
極性溶液3は、極性を有する官能基(極性基)を含む溶液である。極性溶液3は、ハロゲンを含む高分子を含む。高分子は、末端基として極性基を持つ。高分子は、例えば下記式(1)で表される。
Z−CX
2−O−(CX
2−CX
2−O)
p−(CX
2O)
q−CX
2−Z (1)
ここで、式(1)におけるZは極性基を表し、Xはハロゲンを表し、p及びqは任意の整数を表す。
【0028】
ハロゲンは、近接場光と反応して活性種(ラジカル)を生成し、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素の何れかである。ハロゲンは、近接場光の有する波長に応じて選択され、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素の順に、短波長を有する近接場光と反応する。例えば、上述したハロゲンのうち、フッ素が最も高いエッチング量を得ることができ、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の順番で、高いエッチング量が得られる。
【0029】
極性基は、凹凸部22と結合する官能基が用いられ、例えばチオール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、及びエポキシ基の少なくとも1つ以上を含む。極性基は、凹凸部22の材料に応じて選択される。例えば、凹凸部22がケイ素を含む場合(例えばシリコン基板やガラス)、極性基はヒドロキシ基を含む。このとき、ヒドロキシ基は、凹凸部22と水素結合により結合される。
【0030】
上記の他、例えば凹凸部22が金等の金属を含む場合、極性基はチオール基を含む。このとき、チオール基は、凹凸部22と配位結合により結合される。例えば凹凸部22がヒドロキシ基を含む場合、極性基はアルコキシ基を含む。このとき、アルコキシ基は、凹凸部22と水素結合により結合される。例えば凹凸部22がアニオン性の材料を含む場合、極性基はアミノ基を含む。このとき、アミノ基は、凹凸部22とイオン結合により結合される。例えば凹凸部22がヒドロキシ基を含む場合、極性基はエポキシ基を含む。なお、極性基は、例えば基板2と結合してもよい。
【0031】
極性溶液3は、基板2に対し、スポイト等を用いて液滴として滴下される他、スプレー塗布等を含む公知のコーティング技術を用いて塗布されてもよい。極性溶液3は、例えば凹凸部22を覆う程度の膜厚で塗布される。例えば、所定の容器に極性溶液3を入れ、その中に基板2を浸けることで、基板2の表面21に極性溶液3が塗布された状態としてもよい。
【0032】
次に、基板2及び凹凸部22としてケイ素を含むシリコン基板を用い、高分子としてヒドロキシ基(式(2))を含む極性溶液3(例えばFOMBLIN(登録商標)ZDOL2000)を用いた場合を例に、本実施形態に係る表面平坦化方法の一例について説明する。
OH−CH
2−CF
2−O−(CF
2−CF
2−O)
p−(CF
2O)
q−CF
2−CH
2−OH (2)
【0033】
図3は、凹凸部22の局所領域で起こる反応について説明する模式図である。先ず、極性溶液3を基板2の表面21に塗布する。これにより、凹凸部22が極性溶液3に覆われる。極性溶液3に含まれる高分子31は、末端基にヒドロキシ基(極性基)を持つ。このため、高分子31の持つヒドロキシ基は、凹凸部22と結合する(塗布工程)。例えば、高分子31の持つヒドロキシ基の一部は、基板2の表面21と結合してもよい。
【0034】
その後、光源11から基板2の表面21に光を照射し、凹凸部22周囲に近接場光を発生させる(照射工程)。凹凸部22周辺に発生した近接場光によって、高分子31内のフッ素が励起され、フッ素ラジカル(活性種)が生成される。このとき、凹凸部22周辺以外の基板2の表面21には、近接場光が発生しないため、近接場光の発生に伴うフッ素ラジカルが生成しない。即ち、フッ素ラジカルは、凹凸部22周辺に集中して生成される。
【0035】
照射工程において、生成されたフッ素ラジカルは、凹凸部22と反応する。これにより、凹凸部22が除去され、基板2の表面21が平坦化される。
【0036】
図4は、凹凸部22が形成された基板2の表面21を平坦化する工程を示し、極性溶液3を省略している。
図4(A)は平坦化前の基板2を示す模式図であり、
図4(B)は凹凸部22に近接場光が発生し、平坦化が行われている状態の基板2を示す模式図であり、
図4(C)は凹凸部22が除去されて、基板2が平坦化された状態を示す模式図である。
【0037】
凹凸部22の周辺に近接場光が発生し、近接場光により生成されたフッ素ラジカルが凹凸部22と反応する。これにより、凹凸部22を構成する分子が次第に脱離し、基板2の表面21が平坦化される。凹凸部22の周辺に近接場光が発生するとき、フッ素を含む高分子31の末端基が、凹凸部22と結合している。このため、フッ素が極性溶液3内に分散されている場合に比較して、近接場光によりフッ素ラジカルが生成され易くなる。また、生成されたフッ素ラジカルが、凹凸部22と反応し易くなる。これにより、基板2の表面21の平坦化を短時間で実現できる。
【0038】
なお、本実施形態における表面平坦化方法では、フッ素の他、塩素、臭素、ヨウ素の何れかを含む高分子31を用いても行うことができる。また、凹凸部22の材料に応じて、高分子31の有する極性基として、チオール基、アルコキシ基、アミノ基、及びエポキシ基の何れかが選択されてもよい。
【0039】
本実施形態における表面平坦化方法によれば、極性溶液3を用いることで、従来の塩素系ガスを用いた近接場光による表面平坦化方法よりも安全に表面平坦化を行うことができる。また、塩素系ガスを用いないため、従来必要であった真空チャンバ等が不要となり、エッチングを行うための設備を大幅に簡略化することができる。上記に加え、真空チャンバ内でエッチングを行わないため、エッチング実施前後の準備に費やす作業時間を短縮できる。
【0040】
図5は、本実施形態における表面平坦化方法(
図5の実施例1−3)、及び従来の表面平坦化方法(
図5の比較例1、2)を用いたエッチングの結果を示すグラフである。
図5の横軸は時間[min]を示し、縦軸は表面粗さR
a[nm]を対数で示し、表面平坦化方法を実施する前後における表面粗さの変化を各線で示す。
【0041】
実施例1−3は、FOMBLIN(登録商標)ZDOL2000を極性溶液3として用い、波長:213nm、エネルギー:4mJの条件で実施した。実施例1、2は、光のスポット径:1mm、照射時間:5minの条件で実施した。実施例3は、光のスポット径:4mm、照射時間:30minの条件で実施した。比較例1は、塩素ガスを用いた真空装置内で実施し、波長:532nm、エネルギー:15W、光のスポット径:4mm、照射時間:60minの条件で実施した。比較例2は、次亜塩素酸カルシウム溶液を用いて実施し、波長:532nm、エネルギー:15W、光のスポット径:4mm、照射時間:約40minの条件で実施した。
【0042】
図5に示すように、実施例1では、実施前の表面粗さが9.171nmに対し、実施後の表面粗さが0.792nmであり、実施前後の差が8.379nmであった。実施例2では、実施前の表面粗さが9.171nmに対し、実施後の表面粗さが1.277nmであり、実施前後の差が7.894nmであった。実施例3では、実施前の表面粗さが9.171nmに対し、実施後の表面粗さが8.595nmであり、実施前後の差が0.576nmであった。
【0043】
これに対し、比較例1、2では、何れも30min以上の照射時間にも関わらず、表面粗さが0.1nm以下の変化であった。このため、実施例1−3は、比較例1、2と比べて、短時間で表面粗さを低減させることができる。従って、本実施形態における表面平坦化方法では、表面平坦化を短時間で実現することが可能である。
【0044】
次に、
図6を参照して、本発明に係る近接場光を用いた微細構造体の製造方法の一例について説明する。
【0045】
図6(A)に示すように、基板2の非処理部23に、フォトレジスト4等を形成する。フォトレジスト4としては、広く一般に用いられるフォトレジストであればよく、ポジ型、ネガ型何れのタイプでもよい。その後、フォトレジスト4を露光し、エッチングする部分の基板2上に形成されたフォトレジスト4を除去する。
【0046】
次に、
図6(B)に示すように、エッチングを用いて基板2を後退させ、スペース2sを形成する。このとき、スペース2sの底面に露出した表面21に、微細の凹凸部22が形成される。凹凸部22は、表面21の表面粗さにより生じるものの他、基板2に対するエッチング等の各種加工を経た後に残存する、不要な酸化膜やフォトレジスト4、金属薄膜等により生じるものであってもよい。
【0047】
次に、
図6(C)に示すように、凹凸部22が形成された表面21に、極性溶液3を塗布する。このとき、凹凸部22は、極性溶液3に覆われる。極性溶液3に含まれる高分子31は、末端基に極性基を持つ。このため、高分子31の持つ極性基は、凹凸部22と結合する(塗布工程)。
【0048】
その後、表面21に光を照射し、凹凸部22周辺に近接場光を発生させる(照射工程)。近接場光により、極性溶液3に含まれる高分子31のハロゲンが励起され、ハロゲンラジカルが生成される。生成されたハロゲンラジカルは、凹凸部22を形成する分子と反応する。これにより、凹凸部22が除去され、表面21が平坦化される。
【0049】
図6(D)に示すように、極性溶液3を除去する(除去工程)。このとき、極性溶液3と同時にフォトレジスト4を除去してもよい。これにより、微細構造体が形成される。
【0050】
なお、凹凸部22は、例えばスペース2sの側面に形成された場合においても、上述と同様の方法により除去することができる。
【0051】
このように、本発明に係る表面平坦化方法によれば、極性溶液3を用いることで、凹凸部22周辺に集中して活性種を生成することができる。これにより、簡易な設備で安全に、かつ短時間で表面平坦化を行うことができる。
【0052】
また、本発明に係る微細構造体の製造方法によれば、極性溶液3を用いることで、凹凸部22周辺に集中して活性種を生成することができる。これにより、簡易な設備で安全に、かつ短時間で表面平坦化を行うことができる。
【0053】
本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。