【実施例】
【0015】
以下、図面と共に本発明によるアナログ信号のディジタル変換方法の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を付して説明する。
図1において、符号30で示される2相励磁2相出力型の回転検出器であり、前記回転検出器30には、電流アンプ31からなる励磁回路32から出力される2相励磁信号(
E・sinω
Rt 、E・cosω
Rt )が入力されている。
【0016】
前記回転検出器30は、位相が直交した2相の励磁信号Esinω
Rt
,Ecosω
Rt を入力すると、角度θに応じた位相を持った位相変調信号E
R1-R3(=K・E・sin(ω
Rt-θ))、E
R2-R4(=K・E・cos(ω
Rt-θ))を回転検出信号として出力する巻線型の検出器である(Kは変圧比)。前記回転検出信号E
R1-R3・E
R2-R4はそれぞれの励磁信号Esinω
Rt 及びEcosω
Rt により発生した磁束を検出コイル1で検出することで成り立っており、角度θに応じて振幅を変化させる振幅変調信号の重ね合わせにより構成される。式で説明すると下式の通りである。
E
R1−R3=K・Esinω
Rt・cosθ−K・Ecosω
Rt・sinθ=K・E・sin(ω
Rt-θ)… (式1)
E
R2−R4=K・Esinω
Rt・sinθ+K・Ecosω
Rt・cosθ=K・E・cos(ω
Rt-θ)… (式2)
【0017】
2相の前記回転検出信号E
R1-R3・E
R2-R4は回転検出信号E
R1-R3 ・E
R2-R4のディジタル変換を行うと共に、
図1の後段側の第1、第2乗算器40,41と、前記第1、第2乗算器40,41に接続された第1減算器42及び三角関数信号変換部43と、前記回転検出器30に2相の励磁信号E・sinω
Rt 、E・cosω
Rt を供給する励磁回路33と、前記励磁回路33に接続された基準信号発生部34と、前記第1減算器42から出力される制御偏差εが入力されるA/D変換部44、制御則45及びアキュムレータ46と、前記アキュムレータ46からのディジタル角度出力φが入力され前記三角関数信号変換部43、前記励磁回路33及び基準信号発生部34と、から構成される信号処理部31に入力されており、前記回転検出器30の2相の励磁信号Esinω
Rt 及びEcosω
Rt は信号処理部31の励磁回路33より供給されている。前記信号処理部31は負帰還制御系の構成になっており、ディジタル角度出力φは回転検出器30に乗算される2相の周波数信号にフィードバックされる。負帰還制御系は2相の回転検出信号E
R1-R3、E
R2-R4に、フィードバックされたディジタル角度に応じた周波数ω
Lを有する2相の周波数信号sinω
Lt、cosω
Lt をそれぞれ乗算し、差分を取ることで得られる制御偏差εを零にするべく機能しており、負帰還制御系が機能した結果として、ディジタル角度出力φが得られる構成となっている。また、フィードバック信号ω
Lt をω
Lt=ω
Rt−φとすると、制御偏差εの導出式は下式の通りである。
ε=K・E・cos(ω
Rt-θ)・sinω
Lt- K・E・sin(ω
Rt-θ)・cosω
Lt
=K・E・sin(ω
Lt-ω
Rt+θ)=K・E・sin(θ−φ)… (式3)
よってεが零となるように機能すれば、sin(θ−φ)=0よりφ=θとなり回転検出器30の角度θに一致したディジタル角度φが得られる。
【0018】
前記信号処理部31の前記フィードバックループ内には積分特性を有する前記アキュムレータ46と、同じく積分特性を有しフィードバックループの特性改善と安定性を確保するために挿入された前記制御則45が配置されている。これらによりフィードバックループは2型の制御系となり、回転検出器30が高速回転しても、ディジタル角度出力φは定常誤差を生じることなく回転検出器30の角度θに追従する。また、前記制御則45より出力される信号45aは等価的に角速度信号となる。
【0019】
尚、前記アキュムレータ46の出力を周波数信号としてフィードバックする際に前記基準周波数信号ω
Rtを第2減算器50にて加算しているが、これは第2減算器50の故障をフィードバックループの異常として検出させるための手段である。この構成がない場合、フィードバック信号ωtはω
Lt=ω
Rt+φであり、アキュムレータ出力をそのままフィードバックする構成となり、ディジタル角度出力φを得るにはアキュムレータ出力より基準周波数信号ω
Rt を減算器にて減算する必要があるが、この場合フィードバックループが正常に機能していても、フィードバックループ外の処理となる第2減算器50にて異常が発生した場合には、そのまま異常なデータが出力されることとなる(
図2)。これに対し、当該第2減算器50をフィードバックループ内に配置すれば、例えば制御偏差ε≠0となった場合を異常状態として検出する手段を設ければ、第2減算器動作の異常はフィードバックループの動作異常として検出が可能となる。
また、前記励磁回路33が電流アンプ32で構成され、入力信号に応じた励磁電流を出力することも本発明の特徴である。前記回転検出器30は位相変調方式回転検出器であり、入出力間の位相ずれはそのまま回転検出信号E
R1-R3・E
R2-R4の角度ずれになる。一方、回転検出器30は巻線型の検出器であり、励磁電流により発生した磁束を検出コイル1で検出することで回転検出信号E
R1-R3・E
R2-R4を得るが故に、励磁回路33が電圧アンプだと励磁電圧位相は入力インピーダンスの温度特性により励磁電流位相に対して変化してしまい、結果として励磁電圧と回転検出信号間の位相ずれが変化してしまうが、励磁回路33を電流アンプにすることで、励磁回路33に入力するフィードバック信号に対して、温度変化の影響のない回転検出位相を保つことが可能となる。
【0020】
次に、2相の励磁信号E・sinω
Rt 、E・cosω
Rt あるいは2相の回転検出信号E
R1-R3・E
R2-R4 の内、いずれかの信号の一つ、すなわち、E・sinω
Rt 、E・cosω
Rt の何れか1つ又は、E
R1-R3・E
R2-R4の何れか1つが喪失した場合の動作について説明する。まず、1つの励磁信号Esinωt が喪失した場合について説明する。この場合の回転検出信号は(式1)、(式2)において励磁信号Esinω
Rt を0として下式の通りとなる、
E
R1-R3 =−K・Ecosω
Rt・sinθ …(式4)
E
R2-R4 =K・Ecosω
Rt・cosθ …(式5)
(式4)、(式5)の回転検出信号に周波数ω
L(=ω
Rt−φ)を有する2相の基準信号sinω
Lt 、cosω
Lt をそれぞれ乗算し、差分を取ることで得られる制御偏差は下式の通りとなる。
ε=K・E・cosω
Rt・cosθ・sinω
Lt+K・E・cosω
Rt・sinθ・cosω
Lt
=K・E・1/2・{sin(θ−φ)+sin(2ω
Rt+θ−φ)} …(式6)
(式6)にてε=0とすると、φ≒θ+sin2ω
Rt と近似できるが、負帰還制御系は一般的に周波数特性を持っており、励磁周波数に対して適切な帯域幅をとれば、sin2ω
Rtは通常は励磁周波数の2倍の周波数成分であり、高周波数の成分故に減衰されて出力されるため、φはθを中心として微小振動する出力となる。つまり、励磁信号の一方が喪失した場合、誤差は持ちながらもディジタル変換は継続するということを示している。
【0021】
次に、他の1つの励磁信号Ecosωt が喪失した場合も類似の状況となる。この場合の回転検出信号は(式1)、(式2)において励磁信号Ecosω
Rt を0として下式の通りとなる、
E
R1-R3=K・E・sinω
Rt・cosθ …(式7)
E
R2-R4=K・E・sinω
Rt・sinθ …(式8)
(式7)、(式8)の回転検出信号に、周波数ω
L(=ω
Rt−φ)を有する2相の基準信号sinω
Lt、cosω
Ltをそれぞれ乗算し、差分を取ることで得られる制御偏差は下式の通りとなる。
ε=K・E・sinω
Rt・sinθ・sinω
Lt-K・E・sinω
Rt・cosθ・cosω
Lt
=K・E・1/2・{sin(θ−φ)-sin(2ω
Rt+θ−φ)} …(式9)
(式9)にてε=0とすると、φ≒θ−sin2ω
Rt と近似でき、負帰還制御系の周波数特性として、励磁周波数に対して適切な帯域幅をとれば、sin2ω
Rt は高周波数の成分故に減衰されて出力されるため、φはθを中心として微小振動する出力となる。つまり、励磁信号の他方が喪失した場合でも、誤差は持ちながらもディジタル変換は継続する。
【0022】
次に1つの回転検出信号E
R1-R3 が喪失した場合について説明する。この場合の制御偏差は(式3)においてE
R1-R3 の成分を0とすることで導出できる。
ε=K・E・cos(ω
Rt-θ)・sinω
Lt-0・cosω
Rt=K・E・1/2{sin(ω
Lt-ω
Rt+θ)+sin
(ω
Lt+ω
Rt-θ)} =K・E・1/2{sin(θ-φ)+ sin(2ω
Rt-θ-φ)} …(式10)
(式10)にてε=0とすると、φ≒θ+sin2(ω
Rt-θ)と近似でき、負帰還制御系の周波数特性として、励磁周波数に対して適切な帯域幅をとれば、sin2(ω
Rt-θ)は高周波数の成分故に減衰されて出力されるため、φはθを中心として微小振動する出力となる。つまり、回転検出信号の一方が喪失した場合、誤差は持ちながらもディジタル変換は継続する。
また、他の1つのみの回転検出信号E
R2-R4 が喪失した場合も類似の状況となる。この場合の制御偏差は(式3)においてE
R2-R4 の成分を0とすることで導出できる。
ε=0・sinω
Lt- K・E・sin(ω
Rt-θ)・cosω
Lt=K・E・1/2{sin(ω
Lt-ω
Rt+θ)-sin
(ω
Lt+ω
Rt-θ)} =K・E・1/2{sin(θ-φ)- sin(2ω
Rt-θ-φ)} …(式11)
(式11)にてε=0とすると、φ≒θ−sin2(ω
Rt-θ)と近似でき、負帰還制御系の周波数特性として、励磁周波数に対して適切な帯域幅をとれば、sin2(ω
Rt-θ)は高周波数の成分故に減衰されて出力されるため、φはθを中心として微小振動する出力となる。つまり、回転検出信号の他方が喪失した場合も、誤差は持ちながらもディジタル変換は継続する。
以上の通り、本発明においては回転検出器の励磁信号、回転検出信号における何れか1つが喪失した場合にも、ディジタル変換が可能であり、正しい角度出力φを継続させることができることから、信頼性を高めたアナログ/ディジタル変換が可能である。
【0023】
次に本発明の実現構成について説明する。
図1においてはアナログ信号をディジタル信号化する手段は制御則45の手前のA/D変換部44であり、制御偏差εをA/D変換部44によりディジタル化しているが、アキュムレータ46よりも入力側であれば、ディジタル化の手段および、ディジタル化する場所の限定はない。ディジタル化する手段の例としてはA/D変換部44の他に、コンパレータ、VCOが挙げられる。
図3〜
図8に各種ディジタル化手段での本発明の実現手段を示す。尚、
図7の構成ではアキュムレータの代りにカウンタを用いる構成となる。
前述のように、
図2の構成においては、
図1の第2減算器50が除去され、前記アキュムレータ46からの出力ω
Rt-φが前記三角関数信号変換部43に入力され、前記アキュムレータ46の後段には、前記ディジタル角度出力φを出力するための前記第2減算器50が設けられている。
尚、
図2の各部の構成は、
図1と同等であるため、同一又は同等部分には同一符号を付し、その説明は、ここでは省略している。
【0024】
次に、本発明の他の形態である
図3の構成においては、
図1における前記A/D変換部44の代りにコンパレータ70を用いて、
図1の構成と同等の作用効果を得ることができる。
尚、
図3の各部の構成は、
図1と同等であるため、同一又は同等部分には同一符号を付し、その説明はここでは省略している。
【0025】
次に、本発明の他の形態である
図4の構成においては、
図1におけるA/D変換部44の代りに、電圧制御発振器(VCO)44aを用い、偏差εのディジタル化を行うことができる。
尚、
図4の構成は、
図1と同等であるため、
図1と同一又は同等部分には同一符号を付し、その説明はここでは省略している。
【0026】
次に、本発明の他の形態である
図5の構成においては、
図1の構成におけるA/D変換部44と制御則45とを逆配置とし、前記制御則45の出力45aをA/D変換部44でA/D変換することでも、
図1と同等の作用効果を得ることができる。
尚、
図5の構成は、
図1と同等であるため、
図1と同一又は同等部分には同一符号を付し、その説明はここでは省略している。
【0027】
次に、本発明の他の形態である
図6の構成においては、
図1の構成におけるA/D変換部44の代りにコンパレータ60を用い、制御則45の出力45aがコンパレータ60に入力され、ディジタル化された前記偏差εが前記アキュムレータ46からディジタル角度出力φとして出力される。
尚、
図6の構成は、
図1と同等であるため、
図1と同一又は同等部分には同一符号を付し、その説明はここでは省略している。
【0028】
次に、本発明の他の形態である
図7の構成においては、
図1におけるA/D変換部44代りに電圧制御発振器44aを用いると共に、この電圧制御発振器44aを前記制御則45の後段に配置しているが、
図1の構成と
図7の構成は、同じ作用効果が得られる。
【0029】
次に、本発明の他の形態である
図8の構成においては、
図1の構成におけるA/D変換部44を第1乗算器40、第2乗算器41の前段に配置し、乗算以降の信号処理をディジタル的に行う構成であり、制御偏差εを制御則45を経て角速度信号45aとしてアキュムレータ46で累算され、前記アキュムレータ46からディジタル角度出力φを得ている。
尚、
図8の構成においては、
図1の構成と同一又は同等部分には同一符号を付し、その説明は省略している。
【0030】
次に、本発明によるアナログ信号のディジタル変換方法の要旨とするところは、以下の通りである。
すなわち、2相励磁/2相出力の位相変調方式回転検出器より出力される回転検出信号によりディジタル角度出力を得るようにしたアナログ信号のディジタル変換方法において、前記位相変調方式回転検出器の回転検出信号は、2相の励磁信号に対して振幅変調された回転検出信号の重ね合わせにより得られ、前記回転検出信号のディジタル変換を行う信号処理部は負帰還制御系にて構成され、2相の位相変調信号にフィードバック信号に応じた周波数を有する2相の周波数信号をそれぞれ乗算し、差分を取ることで得られる制御偏差を零にすることにより、前記位相変調方式回転検出器の2相の励磁信号の何れか1つ、又は、前記位相変調方式回転検出器から出力される2相の回転検出信号の何れか1つが喪失しても、継続して前記ディジタル角度出力が得られる方法であり、また、前記ディジタル角度出力が前記周波数信号としてフィードバックされる際に基準周波数分だけフィードバック信号をオフセットさせる方法であり、また、前記制御偏差
は制御則を経て角速度信号としてアキュムレータに入力されて累算され、前記アキュムレータよりディジタル角度出力を得る方法であり、また、2相の前記周波数信号の間の位相は90°ずれている方法であり、また、ディジタル変換の対象となる2相の前記位相変調信号の間の位相は90°ずれている方法であり、また、2相の前記励磁信号の間の位相は90°ずれている方法であり、また、前記励磁信号の周波数
は基準周波数と同じ方法であり、また、前記制御偏差をディジタル信号化した後に前記制御則に入力する構成であって、ディジタル信号化の手段としてA/D変換部を用いた方法であり、また、前記制御偏差をディジタル信号化した後に制御則に入力する構成であって、ディジタル信号化の手段としてコンパレータを用いた方法であり、また、前記制御偏差をディジタル信号化した後に制御則に入力する構成であって、前記ディジタル信号化の手段として電圧制御発振器を用いた方法であり、また、前記制御則からの出力をディジタル信号化した後
にアキュムレータに入力する構成であって、ディジタル信号化の手段としてA/D変換部を用いた方法であり、また、前記制御則からの出力をディジタル信号化した後
にアキュムレータに入力する構成であって、ディジタル信号化の手段としてコンパレータを用いた方法であり、また、前記制御則からの出力をディジタル信号化する構成であって、前記ディジタル信号化の手段として電圧制御発振器を用い
、アキュムレータの代りにカウンタを用いた方法であり、また、前記回転検出信号をディジタル信号化した後に前記制御偏差を導出する構成であって、ディジタル信号化の手段としてA/D変換部を用いた方法であり、また、前記励磁信号を発生する励磁回路は入力信号に応じた励磁電流を出力する方法であり、また、前記制御則は積分特性を有し、フィードバックループが2型の制御系で構成される方法である。