特許第6961220号(P6961220)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小泉製作所の特許一覧

<>
  • 特許6961220-ハンマー 図000002
  • 特許6961220-ハンマー 図000003
  • 特許6961220-ハンマー 図000004
  • 特許6961220-ハンマー 図000005
  • 特許6961220-ハンマー 図000006
  • 特許6961220-ハンマー 図000007
  • 特許6961220-ハンマー 図000008
  • 特許6961220-ハンマー 図000009
  • 特許6961220-ハンマー 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961220
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ハンマー
(51)【国際特許分類】
   B25D 1/02 20060101AFI20211025BHJP
【FI】
   B25D1/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-219609(P2017-219609)
(22)【出願日】2017年11月15日
(65)【公開番号】特開2019-89163(P2019-89163A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】392031790
【氏名又は名称】株式会社小泉製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】特許業務法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダンカン・アレクサンダー・エリック・ショットン
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0314970(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0251302(US,A1)
【文献】 実開昭62−072065(JP,U)
【文献】 特開2006−051563(JP,A)
【文献】 実開昭58−150482(JP,U)
【文献】 実開昭58−027079(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 1/00 − 1/16
B25F 1/00 − 3/00
B28D 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部と、ビットを備え、
該ビットは、打撃部と、固定部を有しており、
前記ヘッド部はヘッド側作用部を有しており、前記固定部はビット側作用部を有していて、前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部は磁力により相互に吸引又は反発するものであって相互に離隔しており、
前記ビット側作用部と前記ヘッド側作用部の間に作用する磁力により、前記ビットを前記ヘッド部に対して固定してあるものであって、前記ビットが取替自在であることを特徴とするハンマー。
【請求項2】
前記ヘッド側作用部が磁石からなるものであり、
前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部の間に、空隙を設けてあることを特徴とする請求項1記載のハンマー。
【請求項3】
前記ヘッド部および前記ビットが銅合金からなるものであり、
前記ヘッド部は、取付穴を有しており、前記ビットの前記固定部が前記取付穴に挿入されており、
前記ヘッド側作用部は、前記取付穴の内周面に取り付けてあり、前記ビット側作用部は、前記固定部の外周面に取り付けてあり、
前記ヘッド側作用部が前記ビット側作用部よりも前記取付穴の奥側に位置していて、前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部は相互に吸引するものであることを特徴とする請求項1記載のハンマー。
【請求項4】
前記ヘッド部および前記ビットが銅合金からなるものであり、
前記ヘッド部は、取付穴を有しており、前記ビットの前記固定部が前記取付穴に挿入されており、
前記ヘッド側作用部は、前記取付穴の内周面に取り付けてあり、前記ビット側作用部は、前記固定部の外周面に取り付けてあり、
前記ヘッド側作用部が前記ビット側作用部よりも前記取付穴の開口側に位置していて、前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部は相互に反発するものであることを特徴とする請求項1記載のハンマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を打ち延ばして成形する鎚起に用いられるハンマーに関する。
【背景技術】
【0002】
鎚起は、伝統的な金工技法の一種であり、薄い金属板をハンマー(鎚)で打ち延ばして立体的に成形するものである。この際、ハンマーで打つことにより金属の表面に形成される模様を鎚目模様といい、鎚起製品の特徴となっている。鎚目模様は、ハンマーの打撃面の大きさや形状によって異なったものとなるので、従来、打撃面の大きさや形状が異なる複数のハンマーを用意し、これらを適宜持ち替えながら加工を行っていた。しかしながら、模様のバリエーションを増やすとその分だけハンマーの数が増えるので、費用が高くなる点や、広い収納場所が必要となる点が問題であった。
【0003】
一方で、従来、特許文献1、2に示すように、種々のハンマーにおいて、打撃面となるヘッド部の先端部を取替自在にしたものがある。このような構成のものによれば、先端部のみを複数用意し、本体部は1つだけ用意すればよいから、費用が抑えられ、広い収納場所も必要ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭48−54770号公報
【特許文献2】実開昭57−13179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のハンマーは、先端部に直接雄ネジ部が形成されていてヘッド部に螺合するものであり、特許文献2のハンマーは、ヘッド部にボルトを螺合して先端部を押圧するものであり、何れもネジ回し作業が必要で、先端部の着脱に手間がかかるものであった。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みたものであり、ヘッド部の打撃面を含む部位を取替自在であって、その着脱が容易であるハンマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1の発明は、ヘッド部と、ビットを備え、該ビットは、打撃部と、固定部を有しており、前記ヘッド部はヘッド側作用部を有しており、前記固定部はビット側作用部を有していて、前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部は磁力により相互に吸引又は反発するものであって相互に離隔しており、前記ビット側作用部と前記ヘッド側作用部の間に作用する磁力により、前記ビットを前記ヘッド部に対して固定してあるものであって、前記ビットが取替自在であることを特徴とする。
【0008】
本発明のうち請求項2の発明は、前記ヘッド側作用部が磁石からなるものであり、前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部の間に、空隙を設けてあることを特徴とする。
【0009】
本発明のうち請求項3の発明は、前記ヘッド部および前記ビットが銅合金からなるものであり、前記ヘッド部は、取付穴を有しており、前記ビットの前記固定部が前記取付穴に挿入されており、前記ヘッド側作用部は、前記取付穴の内周面に取り付けてあり、前記ビット側作用部は、前記固定部の外周面に取り付けてあり、前記ヘッド側作用部が前記ビット側作用部よりも前記取付穴の奥側に位置していて、前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部は相互に吸引するものであることを特徴とする。
【0010】
本発明のうち請求項4の発明は、前記ヘッド部および前記ビットが銅合金からなるものであり、前記ヘッド部は、取付穴を有しており、前記ビットの前記固定部が前記取付穴に挿入されており、前記ヘッド側作用部は、前記取付穴の内周面に取り付けてあり、前記ビット側作用部は、前記固定部の外周面に取り付けてあり、前記ヘッド側作用部が前記ビット側作用部よりも前記取付穴の開口側に位置していて、前記ヘッド側作用部と前記ビット側作用部は相互に反発するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のうち請求項1の発明によれば、打撃部を有するビットがヘッド部に対して磁力で固定されるものなので、取り付ける際には、ビットをヘッド部の所定箇所へ設置するだけでよく、取り外す際には、磁力を上回る力でビットをヘッド部から引き離すだけでよいので、着脱が容易である。
【0014】
本発明のうち請求項2の発明によれば、ヘッド側作用部とビット側作用部の間に空隙を設けてあるので、打撃のエネルギによりビットの温度が上昇しても、その熱がヘッド側作用部に伝わらず、ヘッド側作用部が保護される。
【0015】
本発明のうち請求項3の発明によれば、ヘッド部が磁石に吸着しない銅合金からなるので、ビット側作用部が取付穴の内周面に吸着することはなく、ビット側作用部は、取付穴の奥側に位置するヘッド側作用部に吸引される。すなわち、ビットに対して取付穴の奥側向きの磁力が作用するので、ビットがヘッド部に対して磁力で固定されるものであり、ビットの着脱が容易である。
【0016】
本発明のうち請求項4の発明によれば、ヘッド部が磁石に吸着しない銅合金からなるので、ビット側作用部が取付穴の内周面に吸着することはなく、ビット側作用部は、取付穴の開口側に位置するヘッド側作用部に反発する。すなわち、ビットに対して取付穴の奥側向きの磁力が作用するので、ビットがヘッド部に対して磁力で固定されるものであり、ビットの着脱が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ハンマーの第一実施形態の正面図(一部断面図)である。
図2】第一実施形態の全体正面図である。
図3】第一実施形態の側面図である。
図4図1のA−A線断面図である。
図5】(a)はハンマーの第二実施形態の正面図(一部断面図)、(b)はハンマーの第三実施形態の正面図(一部断面図)である。
図6】ハンマーの第四実施形態の正面図(一部断面図)である。
図7】第四実施形態の全体正面図である。
図8】第四実施形態の側面図である。
図9】(a)は第四実施形態の分解正面図、(b)は第四実施形態の分解下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のハンマーの具体的な内容について説明する。なお、以下の第一実施形態の説明において、上下左右とは、図1に示すようにハンマーを正面視した状態における上下左右方向を示す。このハンマーの第一実施形態は、工芸製品を製造するための鎚起用のハンマーであって、特に錫製の板を対象とするものである。図1図3に示すように、ハンマーの第一実施形態は、ヘッド部1と、ビット2と、把持部10を備える。ヘッド部1は、鋼鉄製で略円柱形状であって、中心軸が左右方向を向いており、中心軸の中点を通り上下に延びる孔を開けてある。この孔に丸棒形状の把持部10を下側から差し込んで固定してあり(差し込まれる部分は丸棒形状でなくてもよい)、全体で略T字形となっている。ヘッド部1の右端面で対象を打撃するので、打撃方向は左右方向となる。そして、ヘッド部1の右端面に、ビット2を取り付けてある。
【0021】
より詳しくは、ヘッド部1の右端面に、取付穴11を形成してある。取付穴11は、図1及び図4に示すように、断面略円形で、内周面の上側部分に、下側に向けて開口する凹溝12を形成してある。また、取付穴11の底面の中央部に、取付穴11より小径の断面円形の穴を形成してあって、この穴に、略円柱形状の磁石からなるヘッド側作用部5を埋め込んで固定してある。
【0022】
ビット2は、銅合金製(BC3、銅を主成分として亜鉛や錫を含む合金)で、右側部分の打撃部3と、左側部分の固定部4が、一体に成形されている。図1図3に示すように、打撃部3は、略円盤形状であって、その直径は取付穴11の直径よりも大きく、周縁部が鍔部31となっている。また、打撃部3は、その右側面に形成した、右側視して三角形の突起部32を有する。この突起部32の形状は一例を示すものであり、対象に付す模様に応じて適宜変更できる。一方、図1及び図4に示すように、固定部4は、略円柱形状であって、その直径は取付穴11に丁度嵌まる大きさであり、外周面の上側部分に、左右に延びる断面矩形の突条41を形成してある。突条41は、取付穴11に形成された凹溝12に丁度嵌まる形状である。また、固定部4の左右方向長さは、取付穴11の深さ(左右方向長さ)よりも短く、固定部4の左端面に、断面円形の穴を形成してあって、この穴に、略円柱形状の鋼鉄からなるビット側作用部6を埋め込んで固定してある。
【0023】
そして、ビット2の固定部4を、右側からヘッド部1の取付穴11に挿入してある。固定部4は取付穴11に丁度嵌まり、さらに固定部4の突条41が取付穴11の凹溝12に丁度嵌まるので、ビット2は左右方向(打撃方向)軸周りに角度決めされる。すなわち、突条41と凹溝12が、角度決め機構として機能する。ビット2の固定部4を、鍔部31が取付穴11の周縁部に当接するまで挿入すると、固定部4の左右方向長さが取付穴11の深さよりも短いので、取付穴11の底面と固定部4の左端面の間に空隙7が形成される。すなわち、取付穴11の底面に設けたヘッド側作用部5と、固定部4の左端面に設けたビット側作用部6の間にも空隙7が形成される。この状態で、ヘッド側作用部5とビット側作用部6は、空隙7を隔てて左右に対向しており、ヘッド側作用部5は磁石からなり、ビット側作用部6は鋼鉄からなるので、両者は磁力により相互に吸引する。よって、ビット2は、ヘッド部1に対して磁力により固定される。
【0024】
このようにしてヘッド部1にビット2を固定したハンマーにより、対象である錫製の板を打撃して打ち延ばし、立体的に成形する。この際、打撃部3の突起部32により、対象の表面に模様が形成される。
【0025】
また、ビット2を取り外す際には、ヘッド側作用部5とビット側作用部6の間の磁力を上回る力で、ビット2の固定部4をヘッド部1の取付穴11から引き抜けばよい。そして、突起部32の形状のみが異なる複数のビット2を用意してあり、対象に付す模様に応じてビット2が取替自在となっている。
【0026】
このように構成したハンマーの第一実施形態によれば、打撃部3を有するビット2がヘッド部1に対して磁力で固定されるものなので、取り付ける際には、ビット2の固定部4をヘッド部1の取付穴11へ挿入するだけでよく、取り外す際には、磁力を上回る力でビット2をヘッド部1から引き離すだけでよいので、着脱が容易である。また、打撃すると、そのエネルギにより熱が生じ、特に第一実施形態においてはビット2が熱伝導率の高い銅合金からなるので、熱が打撃部3から固定部4へと伝わりやすい。そして、ヘッド側作用部5は磁石からなり、温度が上昇すると磁力が低下するおそれがあるが、ここではヘッド側作用部5とビット側作用部6の間に空隙7を設けてあるので、ビット2の熱がヘッド側作用部5に伝わらず、ヘッド側作用部5が保護される。さらに、ヘッド部1の取付穴11の凹溝12とビット2の固定部4の突条41からなる角度決め機構を設けてあるので、打撃部3の突起部32の形状に上下左右の向きがある場合であっても、容易かつ確実にビット2を取り付けることができる。また、ビット2が銅合金からなるもので、これは鋼鉄よりも柔らかい素材であるが、この第一実施形態は、銅合金よりも柔らかい錫製の板を対象としているので、問題なく加工できる。そして、ビット2(打撃部3)を銅合金製とすることで、鋼鉄よりも欠けにくく、また鋼鉄と異なり打撃時に火花が生じないので安全に作業できる。
【0027】
次に、本発明のハンマーの第二実施形態及び第三実施形態について説明する。第二実施形態及び第三実施形態は、何れも第一実施形態と比較して、ヘッド部1に取り付けたヘッド側作用部5とビット2に取り付けたビット側作用部6の構成、ヘッド部1が銅合金からなる点及び角度決め機構がない点が異なっている。以下、第一実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0028】
第二実施形態は、図5(a)に示すように、ヘッド部1の断面円形の取付穴11の内周面の左右方向中間部に、ヘッド側作用部5を埋め込んで取り付けてある。ヘッド側作用部5は、環状の磁石からなり、取付穴11の内周側に露出する面がN極となっている(図面では露出する面の極性のみ表示してあり、以下同じである)。一方、ビット2の固定部4の外周面の右側寄りの位置(ヘッド部1にビット2を取り付けた状態で、ヘッド側作用部5よりも右側の位置)に、ビット側作用部6を埋め込んで取り付けてある。ビット側作用部6は、環状の磁石からなり、円柱形状の固定部4の外周側に露出する面がS極となっている。そして、ビット2の固定部4を、右側からヘッド部1の取付穴11に挿入してある。ヘッド側作用部5とビット側作用部6は、露出する面の極性が異なるので、相互に吸引するものであり、この状態で、ビット側作用部6は、より左側(取付穴11の奥側)に位置するヘッド側作用部5に吸引される(ヘッド部1が磁石に吸着しない銅合金からなるので、ビット側作用部6が取付穴11の内周面に吸着することはない)。すなわち、ビット2に対して左側向き(取付穴11の奥側向き)の磁力が作用するので、ビット2がヘッド部1に対して磁力で固定される。このように構成した第二実施形態においても、第一実施形態と同様、ビット2の着脱が容易である。
【0029】
第三実施形態は、図5(b)に示すように、ヘッド部1の断面円形の取付穴11の内周面の左右方向中間部に、ヘッド側作用部5を埋め込んで取り付けてある。ヘッド側作用部5は、環状の磁石からなり、取付穴11の内周側に露出する面がN極となっている。一方、ビット2の固定部4の外周面の左側寄りの位置(ヘッド部1にビット2を取り付けた状態で、ヘッド側作用部5よりも左側の位置)に、ビット側作用部6を埋め込んで取り付けてある。ビット側作用部6は、環状の磁石からなり、円柱形状の固定部4の外周側に露出する面がN極となっている。そして、ビット2の固定部4を、右側からヘッド部1の取付穴11に挿入してある。ヘッド側作用部5とビット側作用部6は、露出する面の極性が同じなので、相互に反発するものであり、この状態で、ビット側作用部6は、より右側(取付穴11の開口側)に位置するヘッド側作用部5に反発する(ヘッド部1が磁石に吸着しない銅合金からなるので、ビット側作用部6が取付穴11の内周面に吸着することはない)。すなわち、ビット2に対して左側向き(取付穴11の奥側向き)の磁力が作用するので、ビット2がヘッド部1に対して磁力で固定される。このように構成した第三実施形態においても、第一実施形態と同様、ビット2の着脱が容易である。
【0030】
なお、第二実施形態及び第三実施形態において、ヘッド側作用部5とビット側作用部6は、複数個の磁石を極性の向きを揃えて環状に並べたものであってもよい。また、第二実施形態においては、ヘッド側作用部5とビット側作用部6の露出する面の極性が異なっていればよく、第三実施形態においては、ヘッド側作用部5とビット側作用部6の露出する面の極性が同じであればよく、N極とS極の何れかに限定されるものではない。
【0031】
次に、本発明のハンマーの第四実施形態について説明する。なお、以下の第四実施形態の説明において、上下左右とは、図6に示すようにハンマーを正面視した状態における上下左右方向を示し、前後とは、図6における手前側及び奥側を示す。このハンマーの第四実施形態は、第一実施形態と同様に、工芸製品を製造するための鎚起用のハンマーであって、特に錫製の板を対象とするものである。図6図8に示すように、ハンマーの第四実施形態は、ヘッド部1と、ビット2と、把持部10を備える。ヘッド部1は、鋼鉄製で正面視して略五角形、上面視及び側面視して略矩形であって、水平向きの上面1aと、垂直向きの左端面1b及び右端面1cと、中央側からそれぞれ左右へ向けて上向きに傾斜する左下面1d及び右下面1eを備える。右端面1cは左端面1bより上下に長く、左下面1dは右下面1eより左右に長くなっている。そして、左下面1dを通り上下に延びる孔を開けてある。この孔に丸棒形状の把持部10を下側から差し込んで固定してあり(差し込まれる部分は丸棒形状でなくてもよい)、全体で略T字形となっている。ヘッド部1の右端面1cで対象を打撃するので、打撃方向は左右方向となる。そして、ヘッド部1の右端面1c及び右下面1eに、ビット2を取り付けてある。
【0032】
より詳しくは、ヘッド部1の右端面1cに、凹部13を形成してある。凹部13は、図6及び図9に示すように、断面略円形で、直径よりも深さが短い窪みとなっている。また、凹部13の底面の中心よりやや下側の位置に、断面矩形で凹部13よりも深い差込穴14を形成してある。また、ヘッド部1の右下面1eの左右端部を除く略全域にわたって、一定厚さで削り取るように切り欠いてあり、さらにそこから連続してヘッド部1の前側面及び後側面も略三角形状に一定厚さで削り取るように切り欠いてあり、それらを合わせて切欠部15としてある。そして、切欠部15の下面の右側部には、垂直上向きに向けて延びる断面円形の挿入穴16を形成してある。挿入穴16は、差込穴14と連通していて、差込穴14よりさらに上側まで延びている。また、切欠部15の下面の中央部から左側部にかけては、上向きに向けて延びる断面矩形の固定穴17を形成してあり、固定穴17の底面に、矩形平板状の磁石からなるヘッド側作用部5を固定してある。
【0033】
ビット2は、銅合金製(BC3、銅を主成分として亜鉛や錫を含む合金)で、打撃部3と固定部4の2部材からなる。図6図9に示すように、打撃部3は、本体部33と、突起部32と、差込片34を有する。本体部33は、略円盤形状であって、その直径は凹部13に丁度嵌まる大きさである。また、本体部33の右側面に、右側視して三角形の突起部32を形成してある。この突起部32の形状は一例を示すものであり、対象に付す模様に応じて適宜変更できる。さらに、本体部33の左側面の下部に、舌片状で左側に向けて延びる差込片34を形成してある。差込片34は、本体部33を凹部13に嵌め込んだ状態で、差込穴14に差し込まれるものであって、差込穴14に丁度嵌まる大きさであり、先端部には上下方向に貫通する丸孔からなる被係合部35を形成してある。被係合部35は、差込片34を差込穴14に差し込んだ状態で、ヘッド部1の挿入穴16と連通するもので、挿入穴16と同径である。一方、固定部4は、本体部42と、係合部43と、台座部44を有する。本体部42は、略矩形平板状であって、前後辺から上側に向けて屈曲しており、ヘッド部1の切欠部15に下側から丁度嵌まる形状である。切欠部15に嵌まった状態で、本体部42は、切欠部15の下面の全部と前後面の下側一部を覆い、本体部42の下面はヘッド部1の右下面1eと面一になり、本体部42の前後面はヘッド部1の前後面と面一になる。そして、本体部42の上面の右側部には、垂直上向きに向けて突出する略円柱形状の係合部43を形成してある。係合部43は、ヘッド部1の挿入穴16及びこれに連通する被係合部35に丁度嵌まる大きさである。また、本体部42の上面の中央部から左側部にかけては、上向きに突出する断面矩形の台座部44を形成してある。台座部44は、ヘッド部1の固定穴17に丁度嵌まる大きさであり、台座部44の上面に、矩形平板状の鋼鉄からなるビット側作用部6を固定してある。
【0034】
そして、打撃部3の本体部33をヘッド部1の凹部13に右側から嵌め込むとともに、差込片34を差込穴14に差し込んである。この状態で、本体部33の右側面がヘッド部1の右端面1cと面一であり、突起部32が右端面1cよりも右側に突出している。またこの際、差込片34の位置が本体部33の中心からずれているので、打撃部3の左右方向(打撃方向)軸周りの取付角度は一意に定まる。すなわち、本体部33、差込片34、凹部13及び差込穴14が、角度決め機構として機能する。本体部33が凹部13の底面に当接した状態で、差込片34に形成した被係合部35が、ヘッド部1の挿入穴16に連通する。そして、固定部4の本体部42を、ヘッド部1の切欠部15に下側から嵌め込むとともに、係合部43を挿入穴16及び被係合部35に下側(打撃方向に直交する方向)から挿入し、さらに台座部44を固定穴17に挿入してある。これにより、係合部43が被係合部35に係合して、打撃部3と固定部4が一体になっている。また、本体部42の上面が切欠部15の下面に当接した状態で、固定穴17の底部に設けたヘッド側作用部5に、台座部44の上面に設けたビット側作用部6が下側から当接する。すなわち、ヘッド側作用部5とビット側作用部6が、打撃方向に平行な面で相互に当接している。ヘッド側作用部5は磁石からなり、ビット側作用部6は鋼鉄からなるので、両者は磁力により相互に吸引する。よって、固定部4はヘッド部1に対して固定され、打撃部3は固定部4に対して固定されるので、すなわち、ビット2は、ヘッド部1に対して磁力により固定される。なお、実際にビット2をヘッド部1に取り付ける手順としては、まず、打撃部3をヘッド部1に取り付けた後、固定部4をヘッド部1に取り付ければよい。
【0035】
このようにしてヘッド部1にビット2を固定したハンマーにより、対象である錫製の板を打撃して打ち延ばし、立体的に成形する。この際、打撃部3の突起部32により、対象の表面に模様が形成される。
【0036】
また、ビット2を取り外す際には、ヘッド側作用部5とビット側作用部6の間の磁力を上回る力で、固定部4の台座部44をヘッド部1の固定穴17から引き抜くとともに、係合部43を被係合部35から引き抜き、さらに打撃部3をヘッド部1の凹部13から引き抜くとともに、差込片34を差込穴14から引き抜けばよい。そして、突起部32の形状のみが異なる複数の打撃部3を用意してあり、対象に付す模様に応じてビット2の打撃部3が取替自在となっている。
【0037】
このように構成したハンマーの第四実施形態によれば、打撃部3を有するビット2がヘッド部1に対して磁力で固定されるものなので、取り付ける際には、打撃部3をヘッド部1の右端面1cに設置した後、固定部4をヘッド部1の切欠部15に設置するだけでよく、取り外す際には、磁力を上回る力で固定部4をヘッド部1から引き離した後、打撃部3をヘッド部1から引き抜くだけでよいので、着脱が容易である。また、第四実施形態においては、固定部4の係合部43と台座部44がそれぞれヘッド部1の挿入穴16と固定穴17に挿入されているので、固定部4の打撃方向の移動が規制されているが、そのような構成がない場合において、打撃時の衝撃により、ヘッド部1に対してビット2が打撃方向に多少ずれたとしても、ずれがヘッド側作用部5とビット側作用部6の大きさよりも小さい範囲であれば、ヘッド側作用部5とビット側作用部6の少なくとも一部分同士が当接して吸着した状態が維持されるので、ヘッド部1からビット2が外れることがない。さらに、ヘッド部1の凹部13及び差込穴14とビット2の打撃部3の本体部33及び差込片34からなる角度決め機構を設けてあるので、打撃部3の突起部32の形状に上下左右の向きがある場合であっても、容易かつ確実にビット2を取り付けることができる。また、取り替えるのはビット2の打撃部3のみで、ビット側作用部6を有する固定部4は1つだけ用意すればよいから、より費用を抑えられる。さらに、固定部4は、係合部43がヘッド部1の挿入穴16に打撃方向に直交する方向から挿入されるので、ヘッド部1に対して打撃方向に固定される。また、打撃部3は、被係合部35に打撃方向に直交する方向から固定部4の係合部43が挿入されるので、固定部4及びヘッド部1に対して打撃方向に固定される。よって、打撃時に衝撃を受けても、ビット2がヘッド部1に対して動くことがない。また、ビット2が銅合金からなるもので、これは鋼鉄よりも柔らかい素材であるが、この第四実施形態は、銅合金よりも柔らかい錫製の板を対象としているので、問題なく加工できる。そして、ビット2(打撃部3)を銅合金製とすることで、鋼鉄よりも欠けにくく、また鋼鉄と異なり打撃時に火花が生じないので安全に作業できる。
【0038】
本発明は、前記の実施形態に限定されない。たとえば、ヘッド部とビットに設けられる角度決め機構は、ビットの断面多角形の部位を、ヘッド部の同断面形状の穴に挿入するものであってもよい。この際、ビットの打撃方向軸周りの角度は、一意に定まるものではなく、複数の角度から選択可能なものであってもよい。また、ヘッド部とビットの一方に形成した凸形部位が他方に形成した凹形部位に嵌まるラッチ機構を有していてもよい。この際、凸形部位が、凹形部位に対して突没自在でかつ凹形部位に向けて付勢されていてもよい。さらに、ヘッド部の左右両方の端面に、それぞれビットを取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 ヘッド部
2 ビット
3 打撃部
4 固定部
5 ヘッド側作用部
6 ビット側作用部
7 空隙
12 凹溝(第一実施形態の角度決め機構)
13 凹部(第四実施形態の角度決め機構)
14 差込穴(第四実施形態の角度決め機構)
16 挿入穴
33 本体部(第四実施形態の角度決め機構)
34 差込片(第四実施形態の角度決め機構)
35 被係合部
41 突条(第一実施形態の角度決め機構)
43 係合部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9