(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961232
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】パワーエレメントおよびそれを有する膨張弁
(51)【国際特許分類】
F25B 41/335 20210101AFI20211025BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20211025BHJP
F16K 15/18 20060101ALI20211025BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
F25B41/335 A
B60H1/32 613B
F16K15/18 E
F16K31/68 S
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-51857(P2018-51857)
(22)【出願日】2018年3月20日
(65)【公開番号】特開2019-163896(P2019-163896A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2020年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】特許業務法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐亮
【審査官】
森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第102252469(CN,A)
【文献】
特開2016−196982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 41/335
B60H 1/32
F16K 15/18
F16K 31/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアフラムと、
前記ダイアフラムの一方の面に重ねられ、前記ダイアフラムとの間に圧力作動室を形成する上蓋部材と、
前記ダイアフラムの他方の面に重ねられ、前記ダイアフラムとの間に冷媒流入室を形成する受け部材と、
前記冷媒流入室に収容された樹脂製のストッパ部材と、を有し、
前記受け部材の中央部に貫通孔が設けられ、
前記ストッパ部材は、円柱部と、前記円柱部の一端部に設けられ、前記受け部材の前記貫通孔の周縁部に接する円環状のフランジ部と、を有し、
前記円柱部の他端部の端面には、穴状の受け部が設けられ、
前記上蓋部材、前記受け部材および前記ダイアフラムは、一体となるように外周部が溶接されており、
前記フランジ部における前記受け部材と接する部分と前記外周部の外周端との径方向の距離が6mm以上であり、
前記圧力作動室の圧力と前記冷媒流入室の圧力とが等しいとき、前記ダイアフラムと前記ストッパ部材との間に隙間が生じるように構成されていることを特徴とするパワーエレメント。
【請求項2】
前記受け部材が、中央部に前記貫通孔が設けられた、段部を有する円環状の部材のみで構成されている、請求項1に記載のパワーエレメント。
【請求項3】
弁室および弁孔を有する冷媒流路が設けられた弁本体と、
前記弁室に配置された弁部材と、
前記弁部材を前記弁孔の弁室側開口部に向けて押圧するコイルばねと、
前記弁孔に挿通され、前記弁部材を介して前記コイルばねと対向するように配置された弁棒と、
前記弁棒を介して前記弁部材を駆動するパワーエレメントと、を有し、
前記パワーエレメントが、請求項1または請求項2に記載のパワーエレメントで構成され、
前記ストッパ部材の前記受け部には、前記弁棒の端部が挿入されていることを特徴とする膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルに用いられる感温機構内蔵型の膨張弁、および、この膨張弁が有するパワーエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される空調装置等の冷凍サイクルにおいて、冷媒の通過量を温度に応じて調整する感温機構内蔵型の膨張弁が用いられている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
このような膨張弁は、弁本体と、弁本体に取り付けられた弁部材駆動装置であるパワーエレメントと、を有している。弁本体には、入口ポート、弁室、弁孔および出口ポートが順に連なって構成された、高圧の冷媒が流れる第1の冷媒流路が設けられている。また、弁本体には、パワーエレメントに通じる第2の冷媒流路が設けられている。弁室には、球状の弁部材が配置されている。この弁部材は、コイルばねによって、弁孔の弁室側開口部に設けられた弁座に向けて押圧されている。また、弁孔には、弁棒が挿通されている。この弁棒は、一方の端部が弁部材を介してコイルばねと対向しており、他方の端部がパワーエレメントに取り付けられている。
【0004】
パワーエレメントは、上蓋部材と受け部材との間に、圧力を受けて弾性変形する薄板のダイアフラムを挟んで構成されている。上蓋部材とダイアフラムとの間には圧力作動室が形成されている。ダイアフラムと受け部材との間には金属製のストッパ部材が配置されている。ストッパ部材は、弁棒の他方の端部が当接される受け部が設けられている。パワーエレメントは、第2の冷媒流路を流れる冷媒の熱がストッパ部材およびダイアフラムを介して圧力作動室に伝わると、圧力作動室に充填されたガスが膨張する。これにより、ダイアフラムがストッパ部材側に膨らむように変形し、ストッパ部材および弁棒を介して弁部材を駆動して、弁部材と弁座との間の開度を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5100136号
【特許文献2】特開2016−196982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
膨張弁は、自動車に搭載する際のスペースおよび重量の制約から小型化が求められている。膨張弁を小型化すると、第2の冷媒流路とパワーエレメントとが近づくので、圧力作動室に冷媒の熱が伝わりやすくなり、パワーエレメントにおいて冷媒の温度変化に対する感度が高まる。これにより、冷媒の流量が短い周期で変動を繰り返すいわゆるハンチング現象が生じるおそれがある。このようなハンチング現象は、熱伝導率の低い樹脂製のストッパ部材を採用して冷媒の温度変化に対する感度を適正化することで抑制できる。
【0007】
ところで、パワーエレメントの受け部材は中央部に貫通孔が設けられており、ストッパ部材のフランジ部がこの貫通孔の周縁部に接することで、ストッパ部材の脱落を防いでいる。樹脂製のストッパ部材は、脱落を確実に防ぐためにフランジ部をより外側に広げることが望まれる。しかしながら、パワーエレメントは、上蓋部材とダイアフラムと受け部材とを重ね合わせてこれらが一体となるように外周部を溶接により接合している。そのため、ストッパ部材が溶接時の熱の影響を受けて変形してしまうおそれがある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、溶接の熱による樹脂製のストッパ部材の変形を抑制できるパワーエレメント、および、このパワーエレメントを有する膨張弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、溶接時の熱が主に受け部材を通じてストッパ部材に伝わることに着目し、受け部材の形状や厚さなどの異なるパワーエレメントを多数作製し、シミュレーションを併用しながら、溶接時の熱がストッパ部材に与える影響について鋭意検討を重ねた。その結果、受け部材の形状や厚さなどにかかわらず、上記影響を効果的に抑制できる構成を見いだし、本発明に至った。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るパワーエレメントは、ダイアフラムと、前記ダイアフラムの一方の面に重ねられ、前記ダイアフラムとの間に圧力作動室を形成する上蓋部材と、前記ダイアフラムの他方の面に重ねられ、前記ダイアフラムとの間に冷媒流入室を形成する受け部材と、前記冷媒流入室に収容された樹脂製のストッパ部材と、を有し、前記受け部材の中央部に貫通孔が設けられ、前記ストッパ部材は、
円柱部と、前記円柱部の一端部に設けられ、前記受け部材の前記貫通孔の周縁部に接する
円環状のフランジ部
と、を有し、
前記円柱部の他端部の端面には、穴状の受け部が設けられ、前記上蓋部材、前記受け部材および前記ダイアフラムは、一体となるように外周部が溶接されており、前記フランジ部における前記受け部材と接する部分と前記外周部の外周端との径方向の距離が6mm以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記圧力作動室の圧力と前記冷媒流入室の圧力とが等しいとき、前記ダイアフラムと前記ストッパ部材との間に隙間が生じるように構成されている。
前記受け部材が、中央部に前記貫通孔が設けられた、段部を有する円環状の部材のみで構成されていてもよい。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の他の一態様に係る膨張弁は、弁室および弁孔を有する冷媒流路が設けられた弁本体と、前記弁室に配置された弁部材と、前記弁部材を前記弁孔の弁室側開口部に向けて押圧するコイルばねと、前記弁孔に挿通され、前記弁部材を介して前記コイルばねと対向するように配置された弁棒と、前記弁棒を介して前記弁部材を駆動するパワーエレメントと、を有し、前記パワーエレメントが、
上記パワーエレメントで構成され
、前記ストッパ部材の前記受け部には、前記弁棒の端部が挿入されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上蓋部材、受け部材およびダイアフラムは、一体となるように外周部が溶接されている。樹脂製のストッパ部材は、ダイアフラムと受け部材との間に形成された冷媒流入室に収容されているとともに、受け部材の中央部に設けられた貫通孔の周縁部に接するフランジ部を有している。そして、フランジ部における受け部材と接する部分と外周部の外周端との径方向の距離が6mm以上である。このようにしたことから、受け部材を通じてストッパ部材に伝わる溶接の熱を小さくして、溶接の熱によるストッパ部材の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施例に係る膨張弁の正面図である。
【
図3】
図1の膨張弁が有するパワーエレメントの断面図である。
【
図4】
図3のパワーエレメントの変形例の構成を示す断面図である。
【
図5】本発明の第2実施例に係る膨張弁の正面図である。
【
図7】
図5の膨張弁が有するパワーエレメントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施例)
以下に、本発明の第1実施例に係る膨張弁について、
図1〜
図4を参照して説明する。第1実施例に係る膨張弁は、パワーエレメントをねじ構造により弁本体に取り付けるものである。
【0016】
図1は、本発明の第1実施例に係る膨張弁の正面図である。
図2は、
図1の膨張弁の縦断面図である。
図3は、
図1の膨張弁が有するパワーエレメントの断面図である。
図4は、
図3のパワーエレメントの変形例の構成を示す断面図である。以下の説明において、「上下」とは、各図における上下のことを指す。
【0017】
図1および
図2に示すように、第1実施例に係る膨張弁1は、弁本体10と、パワーエレメント30、弁部材40と、支持部材45と、コイルばね50と、調整ねじ55と、弁棒60と、防振部材65と、を有している。
【0018】
弁本体10は、例えば、
図1の紙面と直交する方向にアルミニウム(またはアルミニウム合金)を押し出すことにより成形された略四角柱状の押出成形体に対して、機械加工を施すことによって得られる。弁本体10は、第1の冷媒流路11と、第2の冷媒流路12と、パワーエレメント取付部20と、調整ねじ取付部22と、が設けられている。
【0019】
第1の冷媒流路11は、入口ポート13、弁室14、弁孔15および出口ポート16を有している。これらは順に連なっている。入口ポート13は、弁本体10の前面10aに開口している。入口ポート13は、小径孔13aを介して弁室14に側方から通じている。出口ポート16は、弁本体10の後面10bに開口している。出口ポート16は、オリフィスとなる弁孔15を介して弁室14に上方から通じている。弁孔15の弁室側開口部には弁座17が設けられている。
【0020】
第2の冷媒流路12は、第1の冷媒流路11の上方に設けられている。第2の冷媒流路12は、弁本体10の後面10bに入口が設けられ、前面10aに出口が設けられている。第2の冷媒流路12は、弁本体10を後面10bから前面10aまで直線状に貫通している。
【0021】
また、弁本体10には、上下に延びる通し孔18が設けられている。弁室14、弁孔15、通し孔18および後述する均圧孔21は、それぞれの中心軸が同一直線上になるように配置されている。通し孔18の第2の冷媒流路12側の端部には大径部18aが設けられている。
【0022】
パワーエレメント取付部20は、弁本体10の上面10cに設けられた円柱状の穴部である。パワーエレメント取付部20の内周面には雌ねじが切られている。パワーエレメント取付部20の底面には、第2の冷媒流路12に通じる均圧孔21が設けられている。パワーエレメント取付部20の中心軸方向(
図2の上下方向)は、第2の冷媒流路12が延びる方向(
図2の左右方向)と直交している。
【0023】
調整ねじ取付部22は、弁本体10の下面10dに設けられた円形孔である。調整ねじ取付部22は、弁室14と通じている。調整ねじ取付部22の内周面には雌ねじが切られている。調整ねじ取付部22の開口部分を後述する調整ねじ55で塞ぐことにより、弁室14が外部に対して閉じられる。
【0024】
弁本体10の前面10aには、図示しない蒸発器や他の部品等に取り付けるための取付穴23が設けられている。取付穴23の内周面に雌ねじが切られていてもよい。
【0025】
図3に示すように、パワーエレメント30は、上蓋部材31と、受け部材32と、ダイアフラム33と、ストッパ部材34と、を有している。上蓋部材31、受け部材32およびダイアフラム33は、例えば、ステンレス鋼などの金属を材料として構成されている。ストッパ部材34は、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)またはポリアミドイミド(PAI)などの樹脂を材料として構成されている。パワーエレメント30の各部材は、本発明の目的に反しない限り、これら以外の材料で構成されていてもよい。
【0026】
上蓋部材31は、円環状の外周部31aと、外周部31aの内周縁に連接された略円錐形状の内側部31bと、を有している。内側部31bの中央部には作動ガス注入孔31cが設けられている。
【0027】
受け部材32は、中央部に貫通孔35が設けられた、段部を有する円環状の外周部32aと、外周部32aの内周縁(貫通孔35の周縁部35a)に連接された下方に延びる円筒部32bと、を有している。円筒部32bの外周面には、パワーエレメント取付部20の雌ねじに螺合する雄ねじが切られている。
【0028】
ダイアフラム33は、波形の断面を有する円環状の外周部33aと、外周部33aの内周縁に連接された円形平板状の中央部33bと、を有している。ダイアフラム33は、上蓋部材31および受け部材32挟まれている。
【0029】
上蓋部材31は、その外周部31aがダイアフラム33の外周部33aの上面(一方の面)に重ねられ、受け部材32は、その外周部32aがダイアフラム33の外周部33aの下面(他方の面)に重ねられる。これらを重ね合わせた状態で、上蓋部材31の外周部31a、受け部材32の外周部32aおよびダイアフラム33の外周部33aが全周にわたって溶接(周溶接)されている。溶接により、上蓋部材31、受け部材32およびダイアフラム33が一体化されている。溶接方法としては、局所的な加工に適したTIG(TUNGSTEN INERT GAS)溶接、またはレーザー溶接が好ましい。
【0030】
上蓋部材31は、ダイアフラム33との間に圧力作動室36を形成している。圧力作動室36には、作動ガス注入孔31cから作動ガスが注入される。作動ガス注入孔31cは、作動ガス注入後に封止栓38により塞がれる。受け部材32は、ダイアフラム33との間に冷媒流入室37を形成している。
【0031】
ストッパ部材34は、貫通孔35より若干小径の円柱部34aと、円柱部34aの上端部に設けられた、貫通孔35より大径の円環状のフランジ部34bと、を有している。ストッパ部材34は、円柱部34aが受け部材32の円筒部32bに挿通され、フランジ部34bが冷媒流入室37に収容される。
【0032】
フランジ部34bは、受け部材32の貫通孔35の周縁部35aに接しており、これにより、ストッパ部材34が貫通孔35からの脱落することを防いでいる。
【0033】
本実施例において、上蓋部材31、受け部材32およびダイアフラム33は、一体となるように外周部31a、32a、33aが溶接されている。そして、フランジ部34bにおける受け部材32と接する部分Sと外周部31a、32a、33aの外周端Tとの径方向の距離Dが6mm以上である。本発明者らは、多数の試作品を用いて確認した結果、この距離Dを6mm以上にすることで、パワーエレメント作製時の溶接の熱によるストッパ部材34の変形を抑制できることをつきとめた。
【0034】
ストッパ部材34の上面34cは、ダイアフラム33の中央部33bと対向して配置される。圧力作動室36の圧力が高まるとダイアフラム33が膨らみ、中央部33bによってストッパ部材34の上面34cが下方に押される。ストッパ部材34の下面34dには、後述する弁棒60の上端部61(他方の端部)が挿入される穴状の受け部34eが設けられている。
【0035】
本実施例において、作動ガス注入孔31cを封止栓38で塞ぐ前など、圧力作動室36の圧力と冷媒流入室37の圧力とが等しいとき、ダイアフラム33とストッパ部材34との間に隙間が生じるように構成されている。このようにすることで、溶接の熱がダイアフラム33を通じてストッパ部材34に伝わることを防止することができる。また、上記隙間のない構成では、ダイアフラム33によってストッパ部材34が受け部材32に押しつけられ、受け部材32の熱の影響をより強く受けてしまうおそれがある。そのため、上記隙間を設けることで、溶接の熱によるストッパ部材34の変形をより効果的に抑制できる。
【0036】
パワーエレメント30は、受け部材32の雄ねじがパワーエレメント取付部20の雌ねじと螺合される。すなわち、弁本体10にネジ構造によってパワーエレメント30が取り付けられている。パワーエレメント30は、受け部材32と弁本体10との間に円環状のシール部材39を圧縮して挟み込んだ状態で弁本体10に取り付けられる。パワーエレメント30は、パワーエレメント取付部20に取り付けられると、均圧孔21を介して第2の冷媒流路12と冷媒流入室37とが通じる。
【0037】
弁部材40は、弁室14に配置された球状の部材である。
【0038】
支持部材45は、弁部材40を弁座17に対向するように支持する。弁部材40が支持部材45に固定された構成でもよい。
【0039】
コイルばね50は、支持部材45と調整ねじ55との間に圧縮状態で設置されている。コイルばね50は、支持部材45を介して弁部材40を弁座17に向けて押圧している。
【0040】
調整ねじ55は、弁本体10の調整ねじ取付部22に螺合されている。調整ねじ55のねじ込み量を調整することにより、コイルばね50の弾性力(押圧力)を調整できる。
【0041】
弁棒60は、弁本体10の弁孔15、通し孔18および均圧孔21のそれぞれに挿通されている。弁棒60の下端部62(一方の端部)は、弁部材40に接しており、弁部材40および支持部材45を介してコイルばね50と対向するように配置されている。弁棒60の上端部61は、パワーエレメント30のストッパ部材34の受け部34eに挿入される。これにより、パワーエレメント30によって、弁棒60を介して弁部材40が駆動される。
【0042】
防振部材65は、通し孔18の大径部18aに配置されている。防振部材65は、例えば、複数の板ばね状の部材で構成され、弁棒60を周囲から押圧する。これにより、弁棒60及び弁部材40の振動を防止する。
【0043】
次に、膨張弁1の動作について説明する。膨張弁1は、冷媒が入口ポート13に流入し、弁室14及び弁孔15を通過して膨張され、出口ポート16から流出して蒸発器(図示せず)へ送り出される。また、この蒸発器を通過した冷媒は、第2の冷媒流路12の入口から出口に抜けるように通過し、圧縮機(図示せず)へ戻る。このとき、第2の冷媒流路12を通過する冷媒の一部は均圧孔21からパワーエレメント30の冷媒流入室37に流入する。そして冷媒流入室37に流入した冷媒の温度変化に応じて圧力作動室36の圧力が変化する。圧力作動室36の圧力に応じて変形したダイアフラム33の動きを受け、ストッパ部材34が上下に移動する。そして、ストッパ部材34の移動が弁棒60を介して弁部材40に伝達される。これにより、膨張弁1は、冷媒の温度に応じて流量を自動的に調整する。
【0044】
以上より、膨張弁1によれば、パワーエレメント30の上蓋部材31、受け部材32およびダイアフラム33は、一体となるように外周部31a、32a、33aが溶接されている。樹脂製のストッパ部材34は、ダイアフラム33と受け部材32との間に形成された冷媒流入室37に収容されているとともに、受け部材32の中央部に設けられた貫通孔35の周縁部35aに接するフランジ部34bを有している。そして、フランジ部34bにおける受け部材32と接する部分Sと外周部31a、32a、33aの外周端Tとの径方向の距離Dが6mm以上である。このようにしたことから、受け部材32を通じてストッパ部材34に伝わる溶接の熱を小さくして、溶接の熱によるストッパ部材34の変形を抑制できる。
【0045】
なお、
図4に示すように、上述したパワーエレメント30を全体的に小型化したパワーエレメント30Aにおいても、フランジ部34bにおける受け部材32と接する部分Sと外周部31a、32a、33aの外周端Tとの径方向の距離Dを6mm以上にすることで、パワーエレメント作製時の溶接の熱によるストッパ部材34の変形を抑制することができる。
【0046】
(第2実施例)
以下に、本発明の第2実施例に係る膨張弁について、
図5〜
図7を参照して説明する。第2実施例に係る膨張弁は、パワーエレメントをカシメ構造により弁本体に取り付けるものである。
【0047】
図5は、本発明の第2実施例に係る膨張弁の正面図である。
図6は、
図5の膨張弁の縦断面図である。
図7は、
図5の膨張弁が有するパワーエレメントの断面図である。以下の説明においても、「上下」とは、各図における上下のことを指す。また、第1実施例と同等の機能を有する部材等については、第1実施例と同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図5および
図6に示すように、第2実施例に係る膨張弁2は、弁本体10Bと、パワーエレメント30Bと、弁部材40と、支持部材45と、コイルばね50と、調整ねじ55と、弁棒60と、防振部材65と、を有している。
【0049】
弁本体10Bは、内周面に雌ねじが切られた円柱状の穴部からなるパワーエレメント取付部20に代えて、カシメ構造を有するパワーエレメント取付部20Bを有していること以外は、第1実施例の弁本体10と同等の構成を有している。
【0050】
パワーエレメント取付部20Bは、弁本体10Bの上面10cに一体に設けられている。パワーエレメント取付部20Bは、パワーエレメント30Bを取り付ける前は円筒形状を有し、パワーエレメント30Bが内側に収容された後、上方を向く先端部を内側に折り曲げて、パワーエレメント30Bの外周部にかしめることにより、パワーエレメント30Bを弁本体10Bに取り付ける。
【0051】
パワーエレメント30Bは、外周部32aおよび円筒部32bを有する受け部材32に代えて、段部を有する外周部32aのみ有する受け部材32Bを有していること以外は、第1実施例のパワーエレメント30と同等の構成を有している。
【0052】
このパワーエレメント30Bにおいても、第1実施例と同様に、フランジ部34bにおける受け部材32と接する部分Sと外周部31a、32a、33aの外周端Tとの径方向の距離Dが6mm以上である。そのため、パワーエレメント作製時の溶接の熱によるストッパ部材34の変形を抑制することができる。
【0053】
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。前述の実施例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1、2…膨張弁、10、10B…弁本体、10a…前面、10b…後面、10c…上面、10d…下面、11…第1の冷媒流路、12…第2の冷媒流路、13…入口ポート、14…弁室、15…弁孔、16…出口ポート、17…弁座、18…通し孔、18a…大径部、20、20B…パワーエレメント取付部、21…均圧孔、22…調整ねじ取付部、23…取付穴、30、30A、30B…パワーエレメント、31…上蓋部材、31a…外周部、31b…内側部、31c…作動ガス注入孔、32、32B…受け部材、32a…外周部、32b…円筒部、33…ダイアフラム、33a…外周部、33b…中央部、34…ストッパ部材、34a…円柱部、34b…フランジ部、34c…上面、34d…下面、34e…受け部、35…貫通孔、35a…周縁部、36…圧力作動室、37…冷媒流入室、38…封止栓、39…シール部材、40…弁部材、45…支持部材、50…コイルばね、55…調整ねじ、60…弁棒、61…上端部、62…下端部、65…防振部材、S…フランジ部における受け部材に接する部分、T…外周端、D…距離