【実施例】
【0138】
[例1]ANFエポキシ複合体、又はANF/EPX複合体
分岐状ANF分散液は、特定の濃度の水及び塩基と混合したDMSO中にアラミドマイクロファイバー(又は一般にケブラー繊維として知られている)を分散させることによって、調製することができる。その後の水との溶媒交換により、相変換と呼ばれるプロセス工程において、ANFヒドロゲルが形成する。ANFヒドロゲルコーティングの形態の3DPNを作製するために、分岐状ANF分散液の薄い液体層をガラス基材上にスピンコートし、溶媒交換する。得られた薄いANFヒドロゲルは、基材から慎重に剥がすことができ(
図23)、超臨界CO
2で乾燥してその構造を調べることができる(
図24)。非限定的な例では、得られた3DPNは、57μm厚の平板(slab)であり、相互接続されたANFによって画定された広範囲の細孔を有する(
図25)。
【0139】
ANF/EPX複合材を製造するために、分岐状ANFヒドロゲル層を基材上に残して、EPXの拡散を可能にする。ヒドロゲルは、しわを生じさせることなくEPXを3次元パーコレーションネットワークに拡散させるのに十分なほど、基材に対して接着性を有する。水混和性溶媒(例えばアセトン)中の0.1〜2%のEPXが使用される。余分なEPX溶液は、基板をスピンオフすることによって除去することができる。コーティング後、基材を100℃のオーブンに2分間入れて溶媒を除去することにより、膜を予備アニールする。次いで、固化したコーティング上に堆積される分岐状ANFヒドロゲルを用いて別のサイクルを行うことができる。このサイクルは、従来のLBLアセンブリと同様に、必要な厚さを得るために連続的に繰り返すことができる(参考文献7)。nサイクル後に作製された膜は、[ANF/EPX]
nとして示される。LBLプロセスの概略を
図26に示す。
【0140】
その膜(フィルム)が線形的に成長することが、吸光度と厚さの変化によって、確認される(
図27〜
図29)。ANF/EPXフィルムの場合、330nmを中心とする吸光度バンドが示され、その強度はサイクル数とともに線形的に増加する。同様の線形的な傾向が厚さについて観察され、ANFとEPXの濃度によって細かく調整することができる。同じスピン速度1000rpmで各成分の濃度が0.1%、0.2%又は1%である場合、1サイクル当たりの平均厚さはそれぞれ7.5nm、18nm及び342nmである。この結果は、gaLBL技術が、1層当たり数ナノメートルから数百ナノメートルの厚さ制御をすることができることを実証している。
【0141】
次に、各サイクルで形成された厚い層について、1%分岐状ANF溶液に焦点を当てて以下の検討を行う。EPXの濃度を0.1%から2%に変更して、複合体中のANF体積分率を制御する。熱重量分析によって決定されるように、EPXが0.1%、0.5%、1%及び2%で変化する場合、ANXの重量分率は、90%、87%、64%及び38%である。TGAはまた、250℃の高い分解温度を示す。
【0142】
ANF/EPX複合体は、典型的には透明である(
図30)。[1%ANF/1%EPX]
6の透明度は、700nmで88%である(
図31)。その膜の高い均一性は、吸光度スペクトルに表示されたファブリーペローパターンによって示される。ANF/EPX複合膜は、希HFを用いてガラス基材から容易に剥離することもできる(参考文献8)。
【0143】
得られた透明な自立膜は、ペンの周りに巻き付けられるほど十分に柔軟である(
図32)。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)により、複合体中のANF及びEPXの両方の化学的特徴を確認する。
【0144】
ある条件の下では、複合体中にANFの層状化(
図33〜
図35)が観察され、これは三次元パーコレーションネットワークが崩壊する間に圧縮によって誘発される整列(alignment)のためである可能性が高い。複合体中のEPXの増加に伴い、層状構造はあまり明確に区別できなくなる(
図36)。この観察は、分岐形態及びアミド官能基との豊富な水素結合の結果として、複合体中の強いANF−ANF相互作用を示す。このような強い相互作用によって、応力(stress)を受けているANFのストランド(strand)は他のストランドに容易に移動し、その結果、隣接するネットワーク全体が負荷を受けて引き抜かれ、次いで破損する可能性がある。EPXは、乾燥中に形成されたナノ細孔に充填するときに、ANF接触部への架橋として役立つ(
図37)。しかしながら、EPX含有量が閾値を上回る場合は、EPXによって個々のANFが完全に囲まれ得る。ANF−ANF相互作用は、ANF−EPX−ANF相互作用に置き換えられる。次いで、積層集合モード(layered collective mode)ではなく、個々のANFごとに、破断(fracture)が発生する(
図36)。2%EPXを湿潤に使用した場合に、EPXの過剰充填はまた、約2μmから2.7μmへの膜厚の突然の変化において明らかである。過剰充填されたEPX複合体の表面もまた、外観によれば多孔性が低い(
図38対
図39)。これらの構造的差異は、複合体の機械的及び熱膨張特性に影響を及ぼす可能性がある。
【0145】
マイクロ複合体の脆弱な挙動というよりもむしろ、ANF/EPX複合体はかなり延性があり、初期の弾性領域の後に塑性変形を示す(
図40)。この特性は、チタン、鋼、アルミニウムなどの高性能航空宇宙用合金と似ている。特に、[1%ANF/1%EPX]
6は、505±47MPaの極限強度(σ
u)、0.16±0.03の極限ひずみ(ε
u)を示し、わずかに1.5±0.1g/cm
3の密度(ρ)を有する。応力/ひずみ曲線下の面積を積分することによって計算された靭性(K)は、50.1±9.8MJ/m
3である。マイクロ複合体と同様に、このANF/EPX複合体の比強度(σ
u/ρ)は、チタン、鋼又はアルミニウム合金の比強度(σ
u/ρ)よりもかなり大きい(
図41)。その絶対強度σ
uは、SAE1010鋼の絶対強度σ
u(365MPa)及び6061−T6アルミニウム合金の絶対強度σ
u(310MPa)よりもはるかに高い。[1%ANF/1%EPX]
6のσ
uは、配向(0°)方向の一方向性マイクロ複合体のσ
uには匹敵しないが、90°方向の従来の複数のマイクロ複合体におけるσuよりも、それぞれ10倍及び16倍高い(
図42)。また、炭素繊維マイクロ複合体とアラミド繊維マイクロ複合体の準等方性薄層は両方とも、本研究で検討したANF/EPXよりもσ
uが劣っている(それぞれ、303MPaと141MPa)。当該ANF/EPXは、ナノファイバー強化材と本質的により等方性である。
【0146】
しかし、ANF/EPX複合体のこのような高いσ
uは、多くの複合材料が遭遇した脆性又は低靭性と関連していない。ANF/EPXの靭性(K)は、0°方向で測定された一方向性マイクロ複合体の靭性(K)よりも4〜5倍高い(
図43)。そのKはまた、より大きいか又は同等のσ
uを有するアルミナナノプレート(参考文献9)又はカーボンナノチューブ(参考文献8)によって作られた層状複合体よりも、はるかに高い。σ
uとKは、多くの場合、相互に排他的な性質であると考えられている(参考文献10)。
【0147】
しかしながら、両方の特性の最適な組合せは、構造材料が荷重下での壊滅的破壊を回避するために重要である。このジレンマに対する解決策は、多くの天然素材と同様の階層的複合アーキテクチャの設計に依存している。ここでは、ANFの層状構造、それらの強力な相互作用、及びEPXによって形成された架橋は、強い耐荷力をもたらす。集合的な層状破壊モードと、水素結合によってもたらされる「スティックスリップ」(“stick−slip”)相互作用はまた、伸張中のエネルギー消散を容易にし、ひいては高い靱性を促進する。
【0148】
多かれ少なかれ複合体中のEPXは、[1%ANF/1%EPX]
6よりも機械的性能の劣化をもたらす(
図44及び
図45)。上述したように、この条件は、ナノ細孔が過充填され始める遷移点である。この構造的進化は、σ
u及びKに直接的に影響を及ぼし、これに加えて、材料の弾性剛性の指標である貯蔵弾性率E’にも直接的に影響を及ぼす(
図46)。これらの特性はすべて、[1%ANF/1%EPX]
6の膜の最大値を示す(
図44〜
図46)。
【0149】
EPXのない純粋なANF膜は、387±25MPaのσ
u、0.16±0.03のε
u、11.5±0.5GPaのE’を示し、これらはVAF製のANF膜よりも高い(σ
u〜160MPa、ε
u〜0.1、E〜7.1)(参考文献11)。機械的性能の向上が、このgaLBL処理技術から生じる可能性がある。VAFプロセスでは、長いろ過工程が溶液品質の低下をもたらし、最終的な膜(フィルム)に欠陥が生じる可能性がある。また、ANF膜を多孔質膜から手で剥がすと、膜の微細構造が破壊されることもある。gaLBLでは、これら全ての欠点−導入工程が回避される。さらに、スピンコーティングプロセスにおけるいくつかの機械的要因(例えば、遠心力及び空気せん断力)は、通常、ある程度の側鎖配向及び層別化をもたらす可能性がある。これらの要因は、同一の化学組成を有するが異なるマイクロアーキテクチャを有するgaLBL製の膜の機械的性能の向上をもたらす可能性がある。
【0150】
減衰比、すなわちtanδ、これは損失弾性率と貯蔵弾性率との比である。tanδは、材料が振動エネルギーを熱に散逸させる程度を測るものである。高い減衰能力は、多くの自動車及びスポーツ用品用途に有用である。炭素マイクロ複合体及びアラミドマイクロ複合体は、典型的には、それぞれ0.0024及び0.018の非常に低いtanδを有する。ANF/EPX複合体は、より高いtanδを示す(
図47)。興味深いことに、純粋なANF膜は、0.1〜1Hzの範囲で最大のtanδを示す。0.1Hzでは、ANF膜のtanδは0.14と高く、1Hzでは、0.06に減少する。EPXの添加により、tanδは徐々に低下する。純粋なANF膜の最大のtanδは、豊富な未充填ナノ細孔の周辺部におけるANFの自由度と関連している可能性がある。強いがロックされていないANF−ANF界面は、高い機械的減衰を引き起こす。PNNにEPXを導入すると、弱い減衰のEPXによって接触界面が徐々にロックされ、tanδが低下する。[1%ANF/1%EPX]
6は、0.1Hzで0.11、1Hzで0.5のわずかに低いtanδを有する。tanδの有意な低下は、[1%ANF/1%EPX]
6について起こり、これはEPXよりもさらに小さなtanδを有する。この知見は、前述の構造遷移と実際には一致している。この膜では、ANFは、ANF−EPX−ANFの界面でEPXによって囲まれている。ここでは、ANF−ANFの摩擦による消散機構がなくなり、一方で、ANFはEPXの補強剤として機能し、その鎖の移動性をさらに向上させる。
【0151】
低熱膨張係数(CTE)は、従来の炭素マイクロ複合体又はアラミドマイクロ複合体の別の重要な特徴である。低いCTEは、広い温度範囲にわたってより良好な寸法安定性を示すことができる。一方向性炭素マイクロ複合体は、0°方向に−0.44〜0.16ppmK
−1、及び90°方向に0.36〜4.02ppmK
−1のCTEを有し、準等方性のCTEは0.36〜4.02ppmK
−1である。他方、一方向性アラミドマイクロ複合体は、0°方向に−2.57〜−1.74ppmK
−1、及び90°方向に21.4〜27.5ppmK
−1のCTEを有し、準等方性のCTEは9.5〜12.9ppmK
−1である。ここで、[1%ANF/1%EPX]
6は、220℃まで、−0.9ppmK
−1の準等方性のゼロに近いCTEを有することができる(
図48)。細かいチューニングを行うと、実際のゼロ拡張を実現できる。興味深いことに、アラミドマイクロ複合体は、繊維方向に対して90°で高い正のCTEを有し、この性質は、準等方性複合体ついてのCTEがわずかに低いが依然として正の値のCTEに寄与する。しかし、同じ化学組成であるが直径ははるかに小さいANFで作られた材料は、全体的に負であり、CTEもゼロである。
【0152】
この現象は、ナノ細孔の存在に関連している。アラミドマイクロファイバーは、−4.9ppmのCTEを有することが証明され、以前の研究に一致している。純粋なANF膜は、熱膨張の2つのレジームを示す:1つは、75℃までCTEが−6ppmK
−1であり、もう1つは、CTEが−0.5ppmK
1である。グラフェンと同様に、ANFにおける負のCTEは、軸に沿った横方向の音響曲げモード(又は一般に「膜効果」(“membrane effect”)として知られている)が寄与している。ANFのオーバーラップによって形成されたナノ細孔は、この曲げ効果を増強するためにより多くの自由空間を生じ、それによってより負のCTEをもたらす。しかし、温度が上昇すると、正のCTEに寄与する他のフォノンモードが有効になる可能性がある。ナノ細孔は、ANFの正の半径方向拡張に対応することもできる。また、機械的荷重は主にANFの軸方向に伝わるので、全体のCTEは、ANFのより軸方向の挙動を示す。複合体にEPXを使用すると、熱的挙動は両方の構成要素の複合効果になる。ナノ細孔が満たされていない場合、複合体中のCTEは、36%のEPXでも少し増加する。例えば、[1%ANF/2%EPX]
6の膜中において、ナノ細孔が過剰充填されると、CTEは11ppmに増加した。この膜では、正の半径方向の膨張に対応するための十分な空間がなく、マトリックスとしてのEPXは、ANF内の様々な方向に負荷を均一に分散することができる。したがって、半径方向の拡張は、全体的なCTEにより寄与する可能性がある。
【0153】
結論として、ANFゲルに基づくgaLBL法は、一例として、高い減衰及びゼロ拡張を有する透明で強くて強靭なANF/EPX複合体を作製する。複合体の最終的な破壊強度は、準内在炭素又はアラミドマイクロファイバー強化複合体(マイクロ複合体)の破壊強度よりも高い。この靭性は一方向性マイクロ複合体よりも優れている。このような機能を組み合わせたANF/EPX複合体は、バイオインプラント、包装材料、電子ボード、防弾窓などに使用できる。
【0154】
[例2]ANFヒドロゲルからの3DPN
高アスペクト比とその分岐形態によって、ANFは、3DPNを形成する独特なナノスケール材料になる。後者の分岐形態は、上記の溶媒交換プロセスを用いてヒドロゲルの形態で形成することができる(
図10、
図12及び
図49)。典型的な手順では、1重量%のANFを含有するDMSO系の分散相の上に、水の層を静かに置く。水の拡散が遅いため、脱プロトン化されたアラミド鎖が、プロトンを水から引き抜くことによって、その初期の化学構造に徐々に戻され、暗赤色から淡黄色への色の変化を伴う。得られたヒドロゲルは非常に強固であり、カミソリの刃で切断し且つせん断した後でも構造的完全性を維持することができる(
図11)。ヒドロゲル中のANFの内部構造をさらに明らかにするために、超臨界CO
2抽出によってエアロゲルに変換される(
図13〜
図15)。予想通り、エアロゲルは、互いに絡み合った高度に分岐したANFナノファイバーのネットワークを含有する。ANFエアロゲルは、測定密度が11mg/cm
3の超軽量で、帯電ガラスに付着する(
図13)。また、Brunauer−Emmet−Teller(BET)表面積は275m
2/gと大きく、20〜66m
2/gの範囲のBET面積を有するセルロースナノファイバーからのエアロゲルと比較することができる。
【0155】
分岐状ANFナノファイバーネットワークからの3DPNのもう1つの重要な特徴は、簡単なセットアップによって連続的に紡糸される能力である(
図17)。DI水を一定流量で流すことにより、超微細針を通して連続的に押し出された0.1重量%のANF溶液を、ANF 3DPNからなるファイバーに迅速に変換することができる(
図18〜
図20)。そのファイバーの内部では、ANF形態は、静的拡散プロセスによって得られるものと同様である。また、そのファイバーの寸法は、針の穴のサイズに近似しており、これは、相変換及び超臨界乾燥プロセス中の最小収縮を示す。このゲルは、1.1mg/cm
3の推定密度を有し、これは数少ない材料の1つである。このような低濃度で他の1Dナノ材料が堅牢なネットワークを形成できないことを考慮すると、我々は、分岐構造を介したANFの相互接続が3DPNの形成の鍵であると結論づける。
【0156】
さらに詳細に、ANF 3DPNの堅牢性は、せん断力、圧縮力及び張力に関する機械的特性を定量的に評価することによって実証され、非分岐状ナノ材料からの他のゲル/3DPNと比較することによって、分岐構造の役割をさらに明らかにし得る。
【0157】
1%ANFヒドロゲルのせん断応力−ひずみ曲線は、10%のひずみ振幅で終わる線形粘弾性領域を示し、ヒドロゲルが壊れて流れ始める軟化領域が続く(
図50)。転向点での最大応力(しばしば臨界せん断強度(τ
c)として知られる)は、ゲルの機械的堅牢性を示す。ANFヒドロゲルは、2.95±0.05kPaのτ
cを示し、これは同様の固形分でグラフェンヒドロゲル(τ
c= 0.4kPa)よりもはるかに大きい。動的せん断試験はまた、貯蔵弾性率(G’)及び損失係数(G’’)の点で弾性及び粘性の寄与を分離する。
図50の線形領域と一致して、G’は最初はひずみに依存せず、次いで10%を超えるひずみを減少させる(
図51)。G’’は最初に増加し、次いで減少する。これは、10%を超えるひずみについての材料の構造的再編成を反映する。G’は0.06〜60rad/sの角周波数でほとんど変化せず、1%の固定振動ひずみで約29kPaに留まる(
図52)。対照的に、G’’は、より高い周波数領域及びより低い周波数領域でより大きな値を有する浅い領域を示す。低周波数上昇は、遅い構造の再配列プロセスの存在を意味し、一方、高周波上昇は、ゲル中の水の粘性緩和に起因する。
【0158】
ヒドロゲルのレオロジー特性は、主として構成成分の固有の機械的挙動及びそれらの短距離又は長距離相互作用に依存する。
図53は、分岐状ANFからのヒドロゲルと、高い結晶弾性率を有する典型的な補強ナノ材料から作製された他のヒドロゲルとの間の比較を示す。比較するヒドロゲルは約1重量%の固形分を有する。分岐状ANFからのヒドロゲルは、カーボンナノチューブ又はグラフェンヒドロゲルよりも剛性であり(後者のグラフェンヒドロゲルが硬いナノ構成要素を有するにもかかわらず)、これは、ヒドロゲル中のポリマーナノファイバー間の分子親和性がより強いことを示す。さらに、分岐状ANFからのヒドロゲルは、セルロースナノファイバーからのヒドロゲルの3倍の高せん断G’を有する(それらの結晶弾性率の類似、又は分子レベルでの水素結合相互作用にもかかわらず)。ファイバーの直径又は長さを含むそれらの形態学的類似性を考慮すると、我々は分岐状ANFからのヒドロゲルのより高いG’を、相互接続する分岐状ナノファイバーパーコレーション構造に無難に帰することができる。分岐状ANFからのヒドロゲルと、他の化学的に架橋されたポリマーヒドロゲル(例えば、より大きな固形分を有するポリアクリルアミド(PAM)又はポリエチレングリコール(PEG)で作られたもの)とのさらなる比較もまた、それがより高い剛性であることを示している。この観察結果は、ネットワーク内の成分の弾性率もまた、結合性に加えてヒドロゲルのせん断特性に寄与することを示している。分岐状ANFからのヒドロゲルは、両方の性質を有する。
【0159】
分岐状ANFからの3DPNの一軸圧縮試験及び引張試験もまた、その高い機械的強度を示す(
図54〜
図56)。圧縮中のANF 3DPNの興味深い特性は、マクロスケール、マイクロスケール、又はナノスケールで亀裂を生じさせずに、ヒドロゲル及びエアロゲルの両方を、90%を超えるひずみまで圧縮することができることである(
図57〜
図61)。一方で、典型的なグラフェン又はセルロースネットワークは、巨視的な亀裂を生じさせるか、あるいは、はるかに小さい圧縮ひずみで破断さえする。さらに重要なことに、ANFは、圧縮応力の方向に垂直に整列する傾向があり、一方で、ネットワーク内の大きなボイド空間はそれらの変形に対応でき、ポアソン比がゼロにすることができる(
図57及び
図61)。圧縮エアロゲルはまた、気孔率の低下による改善された引張特性を示す(
図56)。これらの特性は全て、高性能材料を製造するためのマトリックス材料の3DPNへの湿潤にとって有利であろう。
【0160】
厚さにわたって分岐状ANFからの全ての破断した複合体の均一な断面は、ANF及びEPXの均一分布を示す(
図29、
図33〜
図36)。これは、EPXで埋め込まれた分岐状ANFからのネットワークの表面形態によっても証明される(
図38及び
図39)。断面画像の精密な検査は、層状ANFネットワークからの転移を示し、これは、圧縮されたANF 3DPN(
図61)と同様のもので、ランダムな個々のANFで散乱された表面に似ている。高含量のANF複合体の破断表面(
図34及び
図35)は、純粋なANF膜のものと類似しており、強いANF−ANF相互作用を破壊することによって同様の破壊メカニズムを示している。換言すれば、高度に分岐したANF 3DPNの固有の特性は、高いANF含有量を有する複合膜の全体的な機械的特性に支配的な寄与をもたらす。さらに、EPXの添加にもかかわらず、これらの複合体の厚さは、ANF含有量が38%に大幅に増加するまでほぼ不変である(
図62)。EPXは、ここでは、ナノ多孔性ANFネットワークの連続的な充填を伴うANF及びANF接触に対するバインダーの役割を果たす。ある閾値を上回ると、EPXはナノ細孔を過剰充填し、複合体中の支配的な相となり、ANFの周囲を完全に囲んでいる。その破断は、集合的なANF引き抜きではなく個々のANFで発生する(
図33〜
図36)。過剰充填されたEPX複合体の表面もまた、外観によれば多孔性が低い(
図39)。これらの構造的差異は、複合体の機械的及び熱膨張特性に影響を及ぼす可能性があり、この点については後述する。
【0161】
ANF 3DPNの高い固有の機械的特性と、gaLBLによって与えられる均一な複合構造のおかげで、ANF/EXP複合体は興味深い機械的特性を示す(
図40)。全体的に、ANF/EPX複合体は、初期の弾性領域の後に塑性変形を伴って、かなり延性がある。この特性は、チタン、鋼、アルミニウムなどの高性能航空宇宙用合金と似ている。これらの複合体の中で、[1%ANF/1%EPX]
6は、505±47MPaの極限強度(σ
u)、0.16±0.03の極限ひずみ(ε
u)を有し、わずかに1.5±0.1g/cm
3の密度(ρ)を有する、最適性能を示す。これらの複合体の動的機械的解析(DMA)に加えて、この観察結果は、複合体の構造的特徴付けに関するこれまでの議論とよく一致する。機械的特性の初期の改善は、ANFを取り囲むEPXのロックイン効果、及び複合体中の自由空間を充填する結果としての欠陥部位の減少によるものである。EPXのロックイン効果は、純粋なANF膜についての最初の0.14から減少する減衰比から推定できる。しかし、余分なEPXは、ANF−ANFからANF−EPXへの界面変化をもたらし、材料を弱くする可能性がある。他の一般的な構造材料と比較して、最適化されたANF/EPX複合体は、チタン、鋼又はアルミニウム合金よりも比強度(σ
u/ρ)が高い(
図41)。ANF/EPX複合体の絶対強度σ
uは、SAE1010鋼の絶対強度σ
u(365MPa)及び6061−T6アルミニウム合金の絶対強度σ
u(310MPa)よりもはるかに高い。
【0162】
[例3]ANF連続ゲルファイバーの調製:
0.1%ANF分散液を、3ml/時の速度で28Gステンレス鋼針から12ml/時の速度を有するDI水の流れの中に押し出した。連続ゲルファイバーは、針の先端で直ちに形成され、0.58mm(ID)のガラス毛細管に導かれ、次いでDI水リザーバーに収集された。流量制御はシリンジポンプによって行い、軟質シリコンチューブを使用して接続を行った。
【0163】
[例4]分岐状ANFゲルからの薄いシートの調製:
1%分岐状ANF分散液を、2インチ×3インチの清浄なスライドガラスの2片の間に、〜0.2mmの距離で閉じ込め、次いで水中に入れた。ゲル膜の厚さは、スライドガラスの間のスペーサーによって制御されるか、又は分岐状ANF分散液の粘度によってバランスされたスライドガラスの上に置かれた重りに適合させた。12時間以内に、分岐状ANFの薄いシートゲルからの3DPNを、水中のスライドガラスから剥がすことができる。次いで、ゲルを、貯蔵のために真水の中に移した。
【0164】
[例5]PVA/ANF複合体の調製:
ポリマーを、分岐状ANFからの3DPNに含浸することにより、応力伝達を促進し、欠陥耐性及び靱性を改善することができる。このような含浸は、エアロゲル/ヒドロゲルを必要な成分の様々な溶液に浸漬することにより、分岐状ANFからの3DPNに対して、容易に実施することができる。ポリビニルアルコール(PVA)をソフトマトリックス成分として選択した。その豊富な−OH基が、ANFと水素結合できるためである。ANFゲルを1wt%PVA溶液で処理すると、ポリマー鎖がANFの露出した表面上に強く吸着し、長期間のすすぎはPVA含有量にほとんど影響を与えなかった。
【0165】
ANFの薄いシートのヒドロゲルを、1重量%PVA(Aldrich、Mowiol(登録商標)56−98、Mw約195000)に12時間浸漬し、次いで真水で5分間すすいだ。次いで、その薄いシートを、テフロンシート上に注意深く移し、70℃のオーブン中で30分間乾燥させた。
【0166】
PVA飽和ゲルを、70℃で乾燥して透明な固体膜にした(
図63及び
図64)。得られた膜の形態は、水分除去中に毛細管力から崩壊した相互貫入PVA及びANFネットワークと記述することができる(
図65及び
図66)。しかしながら、この乾燥プロセスによって残された構造中の不規則なミクロ/ナノ細孔(
図66)は、光の透過を減少させる散乱界面として作用することができる。その光散乱は、これらの細孔に透明エポキシを充填することによって最小化することができる;1.25μm厚の膜(フィルム)は600nmで86%の透明度を示す(
図67)。
【0167】
複合体中のANF含有量は、TGA及びDSC分析によって決定された35重量%である。材料中のそれらの均一な分布は、破断した複合体の断面画像で容易に観察することができる(
図65)。FTIRスペクトルは、分岐状ANFとPVAとの間の相互作用を確認する(
図6〜
図8)。水素結合の存在は、γ(C=O)位置の変化において明らかになる。ANF内水素結合に影響されるC=Oについての1646cm
−1のバンドは、明らかに変化しないが、繊維間水素結合についての他のC=Oバンドは0.8cm
−1だけアップシフトされる(
図10H)。この観察結果は、PVAからの−OH基が水素受容体としてC=Oと競合し、C=O単位の電子密度を増加させることを示唆している。−CH
2−基の屈曲(δ(CH
2))及びロッキングモード(δR(CH
2))は、複合体スペクトルにおいて消失する。ANF中のフェニレン基からの強力なファンデルワールス相互作用は、PVA中の−CH
2−単位の移動を制限する可能性がある。
【0168】
応力−ひずみ曲線から、PVA/ANF複合体は、σ
u=257±9MPa及びs
u=27±5%を有する。PVA/ANF複合体の靱性は46±3MJ/m
3であり、これはケブラーマイクロファイバーの約2倍である。これまでの研究では、より多くの時間と労力を要するボトムアップ法により、合理的に高いσ
u及びs
uパラメータが達成された。例えば、315±95MPaのσ
u及び21±5%のσ
uを有する積層キトサン/アルミナ板状複合体、並びに、225±25MPaのσ
u及び19±7%のs
uを有するLBL組み立てPVA及びCNT複合体が挙げられる。単純な含浸プロセスにより製造された本明細書に記載のPVA/ANF膜の機械的特性は、上記の既存の複合体の特性に匹敵するか、又はそれを上回る。
【0169】
軸方向にCTEの通常と異なる負の係数を有するANFを含むことにより、複合体の全体的なCTEを大幅に減少させることができる。ガラス転移温度(Tg)未満では、PVA/ANF複合体は、1.9ppmK
−1のCTEを有し、これはガラス、シリコン及び炭化ホウ素のような大部分のセラミックスよりも小さい。Tgより上の温度では、複合体は、32ppmK
−1のCTEを有し、ガラス状態の純粋なPVAのCTEに近い。
【0170】
[例6]スピンコーティングgaLBLプロセス:
2インチ×2インチのスライドガラスを、ピラニア溶液(3:1のH
2SO
4/H
2O
2)中に12時間浸漬することによって洗浄し、次いで、使用する前にDI水で十分にすすいだ。1mlの1%ANF分散液を基材上に注ぎ、次いで、1000rpmの速度及び45のaclで30秒間回転させることにより、表面全体に均一に広げた。次いで、DI水をその表面上に素早く滴下し、コーティングの色を直ちにオレンジ色から白色に変化させ、薄層ヒドロゲルの形成を示した。その後、余分な水分を除去するために、同じ設定でさらに30秒間基材を回転させた。続いて、アセトン中の1mlの0.1〜1%EPXを、ヒドロゲル層上に置いて浸潤させ、余分なEPX溶液を30秒間回転除去した。
その後、スライドガラスをスピンコータから取り出し、100℃のオーブンに2分間入れてプレアニールを可能にした。この完全なサイクルには通常4分かかった。上記の手順を繰り返して、さらに別のANF/EPX層を上に置くことができた。典型的には、堆積の6サイクル後に作製された複数の膜を特性測定に使用した。試料は最終的に70℃で一晩アニーリングを行い、EPXを完全に硬化させ、溶媒を除去した。自立膜を、1%HFを用いて、ガラス基板から剥離した。エリプソメトリーによる厚さ測定のために、ガラスではなくシリコンを使用し、その他の手順は同じままとした。
【0171】
[例7]エアロゲルの気孔率の推定:
気孔率は、以下の式により推定した。
ここで、ρ
ゲル及びρ
固体は、それぞれエアロゲル及びその構成成分の密度である。本文中の比較目的には、以下の濃度が使用されている:Kevlar(1.44g/cm
3)、セルロース(1.5g/cm
3)、カーボンナノチューブ(1.3g/cm
3)、グラフェン(2.26g/cm
3)、ポリエチレングリコール(1g/cm
3)、アガロース(1.2g/cm
3)。
【0172】
[例9]特徴付け:
膜の透明度は、Agilent Technologiesの8453 UV−可視ChemStation分光光度計によって測定した。FEI NOVA Nanolab走査型電子顕微鏡(SEM)又はJEOL 2100FS/TEMにより、膜の断面及び形態を調べた。Veeco InstrumentsのNanoScope IIIa原子間力顕微鏡(AFM)を用いてタッピングモード原子間力顕微鏡(AFM)画像を得た。
【0173】
示差走査熱量測定(DSC)は、窒素雰囲気下、20℃/分の温度上昇速度で、TA instrument Discovery DSCで行った。熱履歴を排除するために、ASTM D3418−08のプロトコールに従って、試料について加熱冷却加熱工程を行った。第2の加熱工程を分析に使用した。次いで、PVA含有量は、複合体中のPVA溶融エンタルピーを純粋なPVA中のPVA溶融エンタルピーと比較することによって評価することができる。熱重量分析(TGA)は、窒素中で10℃/分の加熱速度で、TA instrument Discovery TGAで行った。膜の熱膨張係数(CTE)は、熱機械分析による固体材料の線形熱膨張のASTM試験方法(E831)に従って、パーキンエルマーTMA7の拡張モードを使用して測定し、薄膜を測定するためにわずかに修正した。延長プローブ及びグリップは、測定中のグリップの膨張を最小限に抑えるためにRT instruments、Inc.によってカスタマイズされていた。5℃/分の温度上昇速度を用い、第2の加熱工程を分析に使用した。
【0174】
レオロジー(せん剪断)測定は、25℃で25mmの円錐板形状を有するTA InstrumentsのAERSレオメーターで行った。動的振動掃引実験は、固定振動ひずみ1%で0.06〜60ラジアン/秒に設定した。ひずみ掃引実験は、固定周波数6ラジアン/秒で0.1%から100%に設定した。試料は、水の蒸発を防ぐために、シリコンオイルの薄い層で覆った。一軸引張試験は、TA instrumentsのRSAIII Rheometrics Systems Analyzerで行った。引張試験は、ASTM標準ASTM D882に準拠している。典型的な測定では、幅1mm、長さ6mmの試料ストリップをスチールグリップに固定した。ケブラーマイクロファイバーは、両端を6mmの距離で離れた2枚のステンレス鋼製金属シートに超接着することによって固定した。次いで、金属シートを、測定のためにグリップの間に置いた。試験速度は0.01mm/秒であった。
【0175】
(例9)分岐状ANFからの3DPNの機械的特性:
分岐状ANFヒドロゲル及びエアロゲルも、圧縮試験において満足のいく性能を示す。圧縮ひずみ−応力曲線は、多孔質材料に典型的な3つの段階を示す(
図8M)。線形弾性ステージが最初に観察された後、材料はその弾性限界に達し、その時点で3DPNはほぼ一定の応力で降伏し始めた。このプラトー段階の後に、多孔質網状構造が崩壊し始める緻密化領域が続く。両方のゲルは、マクロスケール、マイクロスケール、又はナノスケールで亀裂を生じることなく、90%以上のひずみまで圧縮できる(
図59〜
図61)。他の3DPNは、実質的により高い脆性を示す。例えば、グラフェンヒドロゲルは、42%のひずみで微小亀裂及び応力不連続性を示し、セルロースエアロゲルは、68%のひずみで完全に破断するようになる。
【0176】
ANFヒドロゲルの圧縮弾性率E及び降伏応力σ
yは、57±3kPa及び8±1kPaである。ANFエアロゲルは、E=90±5kPa、σ
y=18±1kPaの2倍の値を示す。しかしながら、ANFヒドロゲルに対する水の可塑化効果は、他の3DPNほど顕著ではないことに留意されたい。例えば、セルロースナノファイバー及びカーボンナノチューブからの非常に多孔性(>99%)のヒドロゲルは、それらが粘性流体を連想させるほどに柔軟である。それらの3D構造は、水中での膨潤及び/又は攪拌によって妨げられる。代わりに、ANFゲルは、目に見える流動化を伴わずに1年以上水中で安定である。強力な超音波処理でさえその構造的完全性を破壊することはできないが、他の未架橋セルロースナノファイバー及びカーボンナノチューブの場合は同じ処理で構造的完全性を維持することができない。
【0177】
分岐状ANFからの3DPNと、エアロゲルの形態で一般的に使用される他の補強ネットワークとの圧縮特性の比較により、この技術の利点及び有用性が明らかになる。分岐状ANFからのエアロゲルのEは、セルロースナノファイバー又はカーボンナノチューブエアロゲルのEに類似しているが、同様の密度ではグラフェンエアロゲルのEよりも2桁大きい。せん断中のネットワーク変形とは異なり、圧縮中のリガメント(ligaments)間の負荷伝達が不十分であるため、類似性は考えられる。曲げ弾性率がE
fiber(繊維)d
4のオーダーであるので、ナノファイバー又はナノチューブは、その小さな直径に起因する応力の下で座屈し又は脱落する可能性がある。ここで、E
fiber(繊維)及びdは、ファイバー(繊維)の弾性率及び直径である。グラフェンエアロゲルは、その極端な薄さ(〜1nm)のため、特に曲がりやすい。
【0178】
靭性は、耐荷重材料及び他の材料のほとんどの用途を決定する重要な特性の1つである。重要なことに、分岐状ANFからの3DPNは、ヒドロゲル及びエアロゲルについて、それぞれ25kJ/m
3及び78kJ/m
3での圧縮において高い靱性を示す。この特性は、カーボンナノチューブ及びセルロースナノファイバーエアロゲル、及びはるかに高い固形分を有するいくつかのポリマーゲルよりも高い(表1)。
【表1】
【0179】
張力下の分岐状ANFからのヒドロゲルの、ヤング率E
y、極限応力σ
u及び極限ひずみs
uは、230±18kPa、24±4kPa、及び13±2%である。ANFエアロゲルの同じパラメータは、E
y=750±10kPa、σ
u=90±7kPa、s
u=12±3%である。延長した分岐状ANFからの3DPNのヤング率(E
y)は、圧縮時に得られたものよりもはるかに高い。セルロースナノファイバー、カーボンナノチューブ及びグラフェンヒドロゲルの類似の固形分での流動性のため、それらの引張特性を比較することはできない。さらに、分岐状ANFからのヒドロゲルのEyは、はるかに高い固形分を有するPEGヒドロゲルよりも10倍高い(表1)。
【0180】
実用的な観点からは、気孔率を犠牲にして引張特性を高めることは有用であろう。分岐状ANFのエアロゲルを初期体積の1/6に圧縮した後、E
y、s
u、及びσ
uは、16±2MPa、11±2%、及び1.3±0.7MPaをそれぞれ示す。これらの特性は、エアロゲルをさらに圧縮すると、136±11MPa、7±2%、及び6.2±0.5MPaにさらに改善することができる。このような増強は、水素結合架橋密度の増加及び膜中のナノファイバー整列に起因するようである。分岐状ANFからの緻密化された3DPNは、カーボンナノチューブからのバッキーペーパーのσ
uに匹敵する極限応力を有するが、7倍高い極限ひずみを有する。
【0181】
(例10)分岐状ANFからの3DPNを用いたANF/EPX複合体の動的機械的解析:
動力学的特性測定(
図46及び
図47)における別の興味深い特性は、減衰比又はtanδであり、これは損失弾力率と貯留弾性率との比である。tanδは、材料が振動エネルギーを熱に散逸させる程度を測定する。高い減衰能力は、多くの自動車及びスポーツ用品用途に有用である。炭素マイクロ複合体及びアラミドマイクロ複合体は、典型的には、それぞれ0.0024及び0.018の非常に低いtanδを有する。ANF/EPX複合体は、より高いtanδを示す(
図47)。興味深いことに、純粋なANF膜は、0.1〜1Hzの範囲で最大のtanδを示す。0.1Hzでは、ANF膜のtanδは0.14と高く、1Hzでは、0.06に減少する。EPXの添加により、tanδは徐々に低下する。純粋なANF膜の最大のtanδは、豊富な未充填ナノ細孔の周辺部におけるANFの自由度と関連している可能性がある。強いがロックされていないANF−ANF界面は、高い機械的減衰を引き起こす。3DPNにEPXを導入すると、弱い減衰のEPXによって接触界面が徐々にロックされ、tanδが低下する。[1%ANF/1%EPX]
6は、0.1Hzで0.11、1Hzで0.05のわずかに低いtanδを有する。tanδの有意な低下は、[1%ANF/1%EPX]
6について起こり、これはEPXよりもさらに小さなtanδを有する(
図47)。この知見は、前述の構造遷移と実際には一致している。この膜では、ANFは、ANF−EPX−ANFの界面でEPXによって囲まれている。ここでは、ANF−ANFの摩擦による消散機構がなくなり、一方で、ANFはEPXの補強剤として機能し、その鎖の移動性をさらに向上させる。
本願の出願当初の特許請求の範囲に係る発明の内容は、以下の通りである。
[1] a. プロトン性成分の制御された添加、及び塩基の制御された量(反応媒体とも称する)を用いて、非プロトン性溶媒中に懸濁した分岐状ANFを調製し、それにより、ポリマーのマイクロファイバー及びマイクロスケールファイバーを分岐状形態を有するナノファイバーに分割すること;
b. 95%を超える前記分岐状ナノファイバーの高収率を特徴とし;前記ナノファイバーの直径は100nmを超えない;
c. 反応媒体によって制御される直径分布を有し、90%の前記ナノファイバーが前記ナノファイバーの平均直径の20nm以内に分布している、前記ナノファイバーの高い単分散性;
d.非プロトン性成分の量及び/又は塩基の化学的性質のような、反応媒体によって制御される、ナノファイバーの分岐;各ナノファイバーの分岐数は3〜20の間で変化させ得る;
e.水、他のプロトン性溶媒、又はそれらの混合物を懸濁液中に拡散させることによって、分岐状ANFナノファイバーの懸濁液を変換し、3DPNを形成する分岐状ANFを含むヒドロゲルを作製すること;
f.ヒドロゲルを押し出し、及び分岐状ANFを分散して、分岐状ANFに基づく成形可能な3DPNの繊維、シート、及び他の形状制御された形態(manifestation)を形成すること;
g. 3DPNを形成する分岐状ANFから、ヒドロゲルをエアロゲルに変換すること;
i. ヒドロゲルからの変換の間、又は変換の後に、エアロゲルを所望の形状に成形すること;
h. 分岐状ANFからのヒドロゲル及びエアロゲルへの、ポリマー成分及びナノスケール成分の取り込み;
を含む、方法。
[2] 非プロトン性成分がジメチルスルホキシド(DMSO)で表され、プロトン性成分が水で表され、塩基がKOH又はEtOKで表される、[1]に記載の方法。
[3] 前記懸濁液が、0.1〜5重量%の分岐状ANFを含む、[1]に記載の方法。
[4] 分岐状ANFを含むエアロゲルを作製するために、ヒドロゲルから水を除去することをさらに含む、[1]に記載の方法。
[5] 前記の水の除去が、超臨界二酸化炭素を用いて抽出することを含む、[4]に記載の方法。
[6] 前記方法が連続的に実施される、[1]に記載の方法。
[7] ポリマーマトリックスと、該ポリマーマトリックス中に分散された分岐状ANFとを含む複合材料。
[8] エアロゲルと該エアロゲルの細孔内のポリマーとを含み、該エアロゲルは分岐状ANFを含む、[7]に記載の複合材料。
[9] 前記ポリマーが、硬化エポキシ樹脂を含む、[7]に記載の複合材料。
[10] 3DPNを形成する分岐状ANFのゲル化によって補助される交互積層堆積プロセスによる、複合体の製造方法であって、以下の工程:
a. 基材上に分岐状ANFを分散させることによる基材コーティング工程;
b. 3DPNを有するヒドロゲルを生成するために、プロトン性溶媒を用いて、工程aのコーティングを相変換させる工程;
c. 機能性ポリマー又はナノスケール成分を用いて、ヒドロゲルを浸潤する工程;
d. 工程cの生成物から溶媒を除去する工程;
からなる、製造方法。
[11] 所望の厚さの複合体を構築し、該複合体を剥離させるために、工程a〜工程dを1回以上繰り返す工程を含む、[10]に記載の方法。
[12] 3DPNを形成する分岐状ANFのゲル化によって補助される交互積層堆積プロセスによる、複合体の製造方法であって、以下の工程:
a. 基材上に分岐状ANFを分散させることによる基材コーティング工程;
b. 3DPNを有するヒドロゲルを生成するために、プロトン性溶媒を用いて、工程aのコーティングを相変換させる工程;
c. 工程bの3DPN中にその場での重合のための溶媒に溶解したポリマーの前駆体を侵入させる工程;
d. 工程cからの材料中のポリマー前駆体をその場で重合させる工程;
e. 工程dの生成物から溶媒を除去する工程;
からなる、製造方法。
[13] 所望の厚さの複合体を構築し、該複合体を剥離させるために、工程a〜工程eを1回以上繰り返す工程を含む、[11]に記載の方法。
[14] 非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドを含み、プロトン性溶媒が水を含み、塩基がKOH又はEtOKを含む、[10]〜[14]のいずれかに記載の方法。
[15] ポリマー前駆体が、エポキシ樹脂及びエポキシ硬化剤を含む、[12]に記載の方法。
[16] 前記の溶媒を除去する工程が、超臨界二酸化炭素を用いて抽出することを含む、[10]〜[14]のいずれかに記載の方法。
[17] a. DMSO系反応媒体中の分岐状ANF分散液を基材上にスピンコーティングする工程;
b. 厚さが100nmを超える紡糸ANF系膜を作製するために、DMSO系反応媒体を水と交換する工程;
c. 余分な液相を紡糸によって除去する工程;
d. 分岐状ANFから紡糸3DPNコーティングの上に、エポキシ溶液をスピンコーティングする工程;
e. 所望の厚さを構築するために、必要に応じて上記の工程を繰り返す工程;
を含む、[12]に記載の方法。
[18] 水と分岐状ANFとを含むヒドロゲル。
[19] 繊維の形態の、[15]に記載のヒドロゲル。
[20] 薄いシートの形態の、[15]に記載のヒドロゲル。
[21] 分岐状ANFを含むエアロゲル。
[22] 分岐状ANFからの3DPN及び複合体を使用する、電池用のイオン伝導膜(ICM)、セパレータ、アノード及びカソードの製造方法。
[23] 電池が、コイン電池、ボタン電池、パウチ電池、薄膜電池、巻形式電池、円筒形電池、角形電池、及び他の電池を含む、[22]に記載の方法。
[24] 絶縁基材又は導電性基材上に、分岐状ANFに基づく流体混合物を直接塗布することによって、[22]に記載の電池部品(電極)を製造する方法であって、連続的に実施することができる、上記方法
[25] 非限定的な例としてICM及びセパレータの両方として実施されるANF系膜を有する、[22]に記載の多機能電池部品の製造方法
[26] 他の機能的成分及びポリマー成分の添加を用いる、[22]に記載の電池部品の製造方法。
[27] 追加部品が、セラミックナノ粒子、ナノワイヤ、電解質、セルロースナノファイバー、ポリマー、高分子電解質、ポリマーナノ粒子、カーボンナノチューブ、及び他の形態のナノカーボンを含む、[24]に記載の方法。
[28] 導電性基材が、シリコン、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マンガン、半導体/金属ナノカーボン膜、ナノ粒子膜、ナノワイヤ膜である、[24]に記載の方法。
[29] 絶縁基材が、硫黄、プラスチック、セラミック、高バンドギャップ半導体、及びナノ複合体である、[24]に記載の方法。
[30] 超臨界乾燥を使用する、空気及び水に敏感な電池部品のための[22]〜[27]に記載の電池部品の製造方法。
[31] 分岐状ANFからの3DPN及び複合体を使用する、高い機械的性能を有する材料の調製。
【0182】
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