(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961241
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】ディジタルホログラフィック顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20211025BHJP
G02B 3/08 20060101ALI20211025BHJP
G03H 1/22 20060101ALI20211025BHJP
G03H 1/12 20060101ALI20211025BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B3/08
G03H1/22
G03H1/12
G01N21/64 E
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-545039(P2018-545039)
(86)(22)【出願日】2017年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2017036894
(87)【国際公開番号】WO2018070451
(87)【国際公開日】20180419
【審査請求日】2020年9月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-200457(P2016-200457)
(32)【優先日】2016年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】的場 修
【審査官】
岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−538451(JP,A)
【文献】
特開2015−1726(JP,A)
【文献】
特開2000−98243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて観察対象試料を通過する物体光と通過しない参照光とを重ね合せた干渉光による位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系と、蛍光励起光を用いて前記観察対象試料の蛍光信号光による蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系を備え、第1のホログラフィック光学系による位相測定と第2のホログラフィック光学系による蛍光測定を同時に行うディジタルホログラフィック顕微鏡において、
第2のホログラフィック光学系は、
回折格子が重畳された2重焦点レンズを有し、
前記2重焦点レンズと前記回折格子が共に偏光依存性を有し、
前記偏光依存性により前記蛍光信号光をノイズ光から分離させ、
上記の回折格子が重畳された2重焦点レンズにより、分離させた前記蛍光信号光を光軸からズレた位置に集光させ、集光させた前記蛍光信号光を自己干渉させて蛍光3次元像を取得することを特徴とするディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項2】
前記2重焦点レンズを通過する前記蛍光信号光は、変調成分と非変調成分の光に分けられ、
変調成分の光は、
前記回折格子により回折され、光軸からズレて斜行し、光軸上から外れた位置に開口位置が設けられたシャッターを通過し、
非変調成分のノイズ光は、
前記回折格子により回折されず、光軸上を直進し、前記シャッターにより遮られる、
ことを特徴とする請求項1に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項3】
前記回折格子は、前記2重焦点レンズのそれぞれの焦点距離に対して、異なる周期構造を有し、
前記2重焦点レンズを通過した前記蛍光信号光の変調成分の光を、異なる回折角の2つの光波とし、これら2つの光波の干渉縞の干渉強度分布から蛍光信号光を再構成することにより、SN比を向上させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項4】
前記2重焦点レンズは、サブ波長周期構造の2焦点フレネルレンズであり、前記回折格子と一体化されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項5】
上記の回折格子が重畳された2重焦点レンズが、液晶空間光変調素子により構成されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項6】
前記2重焦点レンズは、第2のホログラフィック光学系にのみ作用し、第1のホログラフィック光学系には作用しないものであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項7】
第2のホログラフィック光学系において、
多数のマイクロミラーが平面に配列された表示素子を用いて、少なくとも1つのマイクロミラーをオン状態にし、前記蛍光励起光または前記蛍光信号光を部分的に透過させて、前記撮像手段として単一検出器を用いて、蛍光3次元像を取得する、
ことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項8】
前記蛍光励起光の波長が、切替可能であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項9】
第1のホログラフィック光学系が透過型であり、第2のホログラフィック光学系が反射型であることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項10】
第1のホログラフィック光学系の撮像手段と、第2のホログラフィック光学系の撮像手段が共用化され、
前記撮像手段は、
蛍光3次元像と位相3次元像をホログラムとして同時に取得し、
同心円状ホログラムの蛍光3次元像と、等傾角ホログラムの位相3次元像とを、空間周波数面において分離し、
それぞれの干渉強度分布から物体光と蛍光信号光を再構成する、
ことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項11】
第1のホログラフィック光学系の撮像手段と、第2のホログラフィック光学系の撮像手段が共用化され、
前記撮像手段は、
蛍光3次元像と位相3次元像をホログラムとして同時に取得し、
オフアクシス型干渉による等傾角ホログラムの蛍光3次元像と、等傾角ホログラムの位相3次元像とを、空間周波数面において分離し、
それぞれの干渉強度分布から物体光と蛍光信号光を再構成する、
ことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項12】
蛍光3次元像により細胞核の時空間情報を、
位相3次元像により細胞核および細胞壁の時空間構造を同時に取得する、
ことを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項13】
請求項1〜11の何れかのディジタルホログラフィック顕微鏡を用いて、
蛍光3次元像により細胞核の時空間情報と、位相3次元像により細胞核および細胞壁の時空間構造とを同時に取得する細胞観察方法。
【請求項14】
蛍光励起光を用いて前記観察対象試料の蛍光信号光による蛍光3次元像を取得するホログラフィック光学系を備えるディジタルホログラフィック顕微鏡において、
前記ホログラフィック光学系は、
回折格子が重畳された2重焦点レンズを有し、
前記2重焦点レンズと前記回折格子が共に偏光依存性を有し、
前記偏光依存性により前記蛍光信号光をノイズ光から分離させ、
上記の回折格子が重畳された2重焦点レンズにより、分離させた前記蛍光信号光を光軸からズレた位置に集光させ、集光させた前記蛍光信号光を自己干渉させて蛍光3次元像を取得することを特徴とするディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項15】
前記回折格子は、前記2重焦点レンズのそれぞれの焦点距離に対して、異なる周期構造を有し、
前記2重焦点レンズを通過した前記蛍光信号光の変調成分の光を、異なる回折角の2つの光波とし、これら2つの光波の干渉縞の干渉強度分布から蛍光信号光を再構成することにより、SN比を向上させる、
ことを特徴とする請求項14に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【請求項16】
上記の回折格子が重畳された2重焦点レンズにおいて、
前記2重焦点レンズは、サブ波長周期構造の2焦点フレネルレンズであり、前記回折格子と一体化されている、
或は、
前記2重焦点レンズと前記回折格子が、液晶空間光変調素子により構成され一体化されている、
ことを特徴とする請求項14又は15に記載のディジタルホログラフィック顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光と位相を同時に3次元計測できるディジタルホログラフィック顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生きた細胞の動的3次元イメージングは、バイオ応用分野において重要な計測技術である。例えば、蛍光顕微鏡を使って細胞核中の特定DNAに蛍光分子を導入し、有糸分裂する細胞の変化を計測する蛍光標識技術が知られている。蛍光分子で染色された細胞内の核やタンパク質の相互作用を可視化することで様々な観測が可能になる。蛍光3次元像を高分解能かつ高コントラストで計測できるものとして、共焦点レーザ走査型顕微鏡が知られている。しかし、共焦点レーザ走査型顕微鏡では計測物体の一点ごとに集光点の走査が必要なため、蛍光3次元像を得るためには時間がかかり、動的物体の変化が速い現象の計測や奥行き位置が異なる複数の細胞の同時計測は不向きであるという本質的な限界がある。
また、蛍光像でだけでなく細胞核や細胞壁などの構造を同時に観察する技術も求められている。構造観察の手段として、位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡などがある。位相差像は透明物体の形状測定に有効である。
【0003】
蛍光像および位相像を同時観察することができれば、異なる情報を同時に取得することができるため、バイオ反応においてより詳細な情報を提供することが可能になる。
最近では、蛍光像および位相差像を同時観察可能な光学顕微鏡が市販されているが、フィルタの入れ替えが必要な上、一度の計測範囲は1点もしくは2次元に限られるといった制約がある。
【0004】
一方、瞬時的な3次元計測を可能とするツールとして、ディジタルホログラフィック顕微鏡(Digital Holographic Microscope;DHM)が知られている。ディジタルホログラフィック顕微鏡では、3次元情報をホログラム情報として取得し、計算機内で光波の逆伝搬計算を行うことで奥行き位置に対する物体の光波情報を再構成する。ディジタルホログラフィック顕微鏡の特徴としては、特殊な蛍光染色が必要なく生体細胞の3次元観察が可能であること(ラベルフリー)、計算機再構成により焦点位置を任意に変更できるオートフォーカシング機能を有すること、定量的位相計測が可能であることが挙げられる。このため、3次元的に細胞が動くような状況においても、再構成計算により自動的にピントの合った再構成画像を得ることができる。
【0005】
ディジタルホログラフィック顕微鏡を細胞観察に応用する場合、蛍光情報のホログラム取得が必要となるが、蛍光を用いてホログラフィー技術を実現するためには、蛍光が非常に干渉しにくいインコヒーレント光であるという問題がある。近年、インコヒーレント光からホログラムを作る方法が次々に提案されており、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡(Fluorescence Digital Holographic Microscope;FDHM)に向けた研究が世界中で活性化しているが、空間光変調素子や光学素子を多く有するものが大半である(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
特許文献1に開示されたホログラム記録装置は、干渉性の低い光(例えば自然光または蛍光等)を観察することができないといった問題を解決するものであり、空間光変調器(波面変調素子)を用いて、互いに偏光方向が異なる第1成分光および第2成分光を含む物体光を、第1成分光の波面形状と第2成分光の波面形状を異なる形状にし、第1成分光に対する第2成分光の位相シフト量に、空間的に周期的に変化する分布を生じさせて、第1成分光と第2成分光とを干渉させてホログラムを形成するものである。これにより、単一の光路を通る干渉性の低い光を用いて、1回の撮像で記録されるホログラムから、被写体の再構成像を得ることができるものである。しかしながら、この方法では、干渉性の低い蛍光3次元像の観察に限定されるといった問題がある。
【0007】
また、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡(FDHM)は、ターゲッティング計測には適しているが、蛍光を発生しない物質に対しては無力であるという問題がある。また、蛍光観察を行う場合に、有害な蛍光分子を使うために計測対象が制限される問題も生じる。そのため、ディジタルホログラフィック顕微鏡(DHM)の応用拡大といった視点で見ると、位相像や蛍光像さらには偏光などの多様な情報が観測可能なマルチモーダル(multimodal)ディジタルホログラフィック顕微鏡の登場が望まれている。
【0008】
本発明者らは、マルチモーダルディジタルホログラフィック顕微鏡の実現を目指し、蛍光2次元像と位相イメージングが可能なディジタルホログラフィック顕微鏡を既に試作して実験にホログラム画像から再構成している(非特許文献1を参照)。試作した顕微鏡は、蛍光像と位相像を逐次的に取得するものであり、蛍光像と位相像を同時に計測するものではない。
以下、本明細書において、蛍光像と蛍光3次元像、位相像と位相3次元像は、それぞれ同じ意味で用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−1726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の試作のディジタルホログラフィック顕微鏡では、蛍光顕微鏡と位相像検出ディジタルホログラフィック顕微鏡の機能を併せ持つが、シャッターを切替えてそれぞれの像を逐次的に取得するものであり、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡と位相像検出ディジタルホログラフィック顕微鏡が結合されたものではなく、蛍光像と位相像を同時に3次元計測できるというものではない。
【0011】
かかる状況に鑑みて、本発明は、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡と位相像検出ディジタルホログラフィック顕微鏡が結合され、蛍光3次元像と位相3次元像を同時に計測でき、かつ、ランダム偏光を含む全ての偏光状態に対して高いSN比(Signal to Noise Ratio)で蛍光3次元像を計測できるディジタルホログラフィック顕微鏡を提供することを目的とする。
また、本発明は、シングルショットの計測で、ランダム偏光を含む全ての偏光状態に対して高いSN比で蛍光3次元像を計測できるディジタルホログラフィック顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成すべく、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡は、レーザ光を用いて観察対象試料を通過する物体光と通過しない参照光とを重ね合せた干渉光による位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系と、蛍光励起光を用いて観察対象試料の蛍光信号光による蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系を備え、第1のホログラフィック光学系による位相測定と第2のホログラフィック光学系による蛍光測定を同時に行う。そして、第2のホログラフィック光学系は、回折格子が重畳された2重焦点レンズを有し、2重焦点レンズと回折格子が共に偏光依存性を有する。本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡によれば、偏光依存性により蛍光信号光をノイズ光から分離させ、上記の回折格子が重畳された2重焦点レンズにより、分離させた前記蛍光信号光を光軸からズレた位置に集光させ、集光させた蛍光信号光を自己干渉させて蛍光3次元像を取得する。すなわち、2重焦点レンズにより蛍光信号光を自己干渉させて蛍光3次元像を取得すると共に、2重焦点レンズに重畳させた回折格子により蛍光信号光を光軸からズレた位置に集光させることができ、蛍光信号光の自己干渉の際にSN比を高めて蛍光3次元像を取得することができる。偏光依存性により蛍光信号光をノイズ光から分離させるとは、蛍光信号光の変調成分の光を、2重焦点レンズに重畳させた回折格子により、光軸からズレた位置に集光させ、スリットなどにより蛍光信号光の非変調成分の光と分離を行うことである。そして、集光させた蛍光信号光を自己干渉させて蛍光3次元像を取得することで、非変調成分の光による影響を抑え、蛍光3次元像を鮮明に取得できるようにし、SN比を高めている。
【0013】
すなわち、上記構成によれば、蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系において、特定の偏光状態の光でホログラムを形成することによって、ランダムな偏光状態のノイズ光を排除し、ランダム偏光を含む全ての偏光状態に対して高いSN比で蛍光3次元像を計測できる。基本的に観察対象試料からでる蛍光信号光の偏光状態はランダム偏光しているが、2重焦点レンズ及び回折格子に対して不感な偏光状態以外のすべての入射偏光(ランダム偏光を含む)に対して高いSN比を実現できる。
本発明のホログラフィック光学系では、2重レンズ及び回折格子が偏光依存性を有するため、特定の偏光状態(偏光方向)でホログラムを形成でき、ホログラムを形成する光以外の非変調成分はスリット等で除去できるので、SN比を高くできるのである。
ここで、回折格子が重畳された2重焦点レンズは、2重焦点レンズと回折格子の2つの機能を同時に実現するものであり、例えば、2つの焦点距離を持つレンズの表面に、所定の周期間隔の多数の平行な溝が刻まれたレンズである。また、回折格子が重畳された2重焦点レンズは、回折格子を2重焦点レンズの軸方向に、レンズと重ねて並べたものでもよい。さらに、回折格子が重畳された2重焦点レンズは、液晶空間光変調素子(SLM;Spatial Light Modulator)で構成することも可能であるが、これについては後述する。位相変調型の液晶空間光変調素子では、電圧によって液晶分子の状態が変化し、位相遅延が発生するが、この位相遅延が起こらない偏光状態が存在する。その偏光状態の入射光が入ったときは2重焦点レンズと回折格子による効果が起こらないためホログラムが形成されないという問題が発生します。しかし、そのような位相遅延が起こらない偏光状態は、蛍光信号光では存在しないため、実質的には蛍光信号光に対しては高いSN比が実現されることになる。
また、蛍光励起光は、非可干渉(インコヒーレント)な光であっても、コヒーレント性を有するレーザ光の双方を用いることができる。また、ノイズ光とは、光学素子の表面反射、カバーガラスによる反射光、外光などであり、物体からの蛍光信号光以外の光を言う。
【0014】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡において、2重焦点レンズを通過する蛍光信号光は、変調成分と非変調成分の光に分けられる。その内、変調成分の光は、2重焦点レンズに重畳された回折格子により回折され、光軸からずれて斜行し、光軸上から外れた位置に開口位置が設けられたシャッターを通過する。一方、非変調成分のノイズ光は、回折格子により回折されず、光軸上を直進し、シャッターにより遮られる。
2重焦点レンズを通過する蛍光信号光は、偏光特性を有するため、試料サンプルに照射された励起された蛍光信号光が回折格子によって回折され、回折格子の垂線と回折角(θ)ずれた方向に進む。一方、ノイズ光は、ランダムで無偏光であり、回折格子によって回折されることなく、そのまま光軸上を直進する。シャッターの開口部を、回折格子の垂線と回折角(θ)ずれた方向に設けることにより、偏光特性のある物体光と蛍光信号光は、開口部を透過し、無偏光のノイズ光は、直進してシャッターにより遮断されることから、SN比が増加するのである。
【0015】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡における回折格子は、2重焦点レンズのそれぞれの焦点距離に対して、異なる周期構造を有することが好ましい。
2重焦点レンズのそれぞれの焦点距離に対して、異なる周期構造を有することにより、2重焦点レンズを通過した蛍光信号光の変調成分の光を、異なる回折角の2つの光波とし、これら2つの光波の干渉縞の干渉強度分布から蛍光信号光を再構成することにより、SN比を向上させることができる。
例えば、2重焦点レンズが焦点距離(f
1:200mm,f
2:100mm)とすると、回折格子は、焦点距離f
1である光に対しては2μm周期の格子間隔、焦点距離f
2である光に対しては1μm周期の格子間隔として機能するように、焦点距離に対して異なる周期構造を有する。
【0016】
2重焦点レンズは、サブ波長周期構造の2焦点フレネルレンズ(Sub-wavelength Periodic structured Fresnel Lens;SPFL)であり、回折格子と一体化されてもよい。サブ波長周期構造は偏光依存性を発現させるための構造である。光の波長よりも短い周期の回折格子構造であるサブ波長周期構造によって、光波の偏光状態によって回折を受けることになる。また、フレネルレンズは、通常のレンズを光の波長で折り返し厚みを減らしたレンズであり、断面は鋸状でありプリズムを並べたような形になる。2焦点フレネルレンズは、1つのビーム光を2つに分けて回折させ、異なる場所で焦点を合わせる機能を持つ。
【0017】
ここで、2重焦点レンズに重畳される回折格子が、2焦点フレネルレンズと同方位の偏光依存性を有する。
回折格子と2重焦点レンズが、共に偏光依存性を有することで、2重焦点レンズの変調を受けた信号光のみが回折されることになる。回折格子に変調依存性がない場合は、2重焦点レンズの変調を受けていないノイズ光も回折することになり、ノイズが増加する。
【0018】
また、回折格子が重畳された2重焦点レンズは、液晶空間光変調素子により構成されてもよい。液晶空間光素子では、液晶分子の配向により入射光電場の偏光状態に対して異なる働きを生じさせることができる。例えば、ある方向の直線偏光に対して常光線として作用するときに、それに垂直な直線偏光に対して異常光線として作用する。そのため、特定の直線偏光方向に対して(この場合は異常光線に対して)のみ作用する偏光依存性のある2重焦点レンズを実現できる。
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡における蛍光信号光は、液晶空間光変調素子で実現される2重レンズによって、2つの回折光が生じることになる。この2つの回折光は、共に同じ偏光であり、自己干渉が生じる。この点で、偏光方向が異なる第1成分光と第2成分光とを干渉させてホログラムを形成する上述の特許文献1における空間光変調素子とは機能が異なる(本発明の場合、蛍光ホログラム用の蛍光信号光、位相ホログラム用の物体光が、特許文献1の第1成分光と第2成分光に相当するものである。)。
【0019】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡において、偏光依存性を有する2重焦点レンズは、第2のホログラフィック光学系にのみ作用し、第1のホログラフィック光学系には作用しないように設計される。
位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系の物体光の偏光には感度がなく、レンズ作用を起こすことがないように2重焦点レンズを設計すると共に、蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系の蛍光の偏光には強い感度を持たせるように設計することにより、第2のホログラフィック光学系の蛍光の偏光だけが、2重焦点レンズによって、自己干渉が生じることになる。
【0020】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡の第2のホログラフィック光学系において、多数のマイクロミラーが平面に配列された表示素子を用いて、少なくとも1つのマイクロミラーをオン状態にし、蛍光励起光または蛍光信号光を部分的に透過させて、撮像手段として単一検出器を用いて、蛍光3次元像を取得する。
多数のマイクロミラーが平面に配列された表示素子とは、例えば、デジタルミラーデバイス(DMD;Digital Mirror Device)が好適に用いられる。
蛍光励起光または蛍光信号光の光源と撮像手段の間の光路の途中に、変調パターンを自由に設定できるDMDなどの表示素子を入れることにより、微弱な蛍光信号に対してホログラムを取得できる系を構築することができる。
【0021】
撮像手段は、画素マトリックスのイメージセンサではなく、単一検出器を用いて、DMDにより蛍光信号の空間パターンを変調し、その変調された蛍光信号の光エネルギーを取得する。 DMDによる変調パターンとその光エネルギーの組み合わせから圧縮センシングの手法(観察と圧縮を同時に行い、効率的にデータの取得を行って、観察対象となる信号をできるだけ少ない観察から復元する手法)により、ホログラムパターンを計算機上で再構成する。これにより、生体組織への応用時に、生体組織へ照射する光エネルギーを抑えることで、生体組織へのダメージを与えることなく、蛍光信号を取得することができる。
【0022】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡の第2のホログラフィック光学系において、蛍光励起光の波長が切替可能であることでもよい。観察対象試料の蛍光特性に応じて、蛍光励起光の波長を切り替えるようにする。これにより、蛍光染色試薬の種類に応じて、蛍光励起光の波長を切替えて使用することにより、ターゲットとなる細胞を選択して分裂や形状変化などの細胞の状態変化を計測できる。
すなわち、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡を用いて、一の蛍光励起光の波長を用いて取得した蛍光3次元像と、他の蛍光励起光の波長を用いて取得した蛍光3次元像と、同時に取得した位相3次元像とから、細胞の挙動を観察する細胞観察方法を実現できる。
【0023】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡では、第1のホログラフィック光学系が透過型であり、第2のホログラフィック光学系が反射型(落射型)にすることが好ましい。また、第1及び第2のホログラフィック光学系は、共に試料の設置状態により上下を反転させても構わない。
観察対象試料の蛍光励起光による蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系において、蛍光信号は微弱であるので、透過型にした場合に、強い蛍光励起光だけをカットするのは非常に困難になるからである。
第2のホログラフィック光学系を反射型(落射型)でなく透過型にする場合は、蛍光信号を励起する蛍光励起光を十分にカットし、蛍光信号のみを通過させるダイクロイックミラーや蛍光波長の特定の波長および位相計測のためのレーザ波長を通過させるバンドパスフィルタを用いる必要がある。
【0024】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡において、第1のホログラフィック光学系の撮像手段と、第2のホログラフィック光学系の撮像手段が共用化され、撮像手段は、蛍光3次元像と位相3次元像をホログラムとして同時に取得する。そして、同心円状ホログラムの蛍光3次元像と、等傾角ホログラムの位相3次元像とを、空間周波数面において分離し、それぞれの干渉強度分布から物体光と蛍光信号光を再構成する。
蛍光3次元像は、第2のホログラフィック光学系の蛍光の偏光が自己干渉するため、干渉パターンは同心円状となる。一方、位相3次元像は、等傾角干渉を用いることによってキャリア周波数をもつ干渉パターンにすることができる。同心円状干渉パターンと等傾角干渉パターンは、空間周波数面で分離することが可能であり、撮像手段により撮像した像から、蛍光3次元像と位相3次元像を空間周波数面で分離することができる。2つのホログラムパターンをフーリエ変換することで、空間周波数面で、等傾角干渉パターンの成分をバンドパスフィルタによって抽出することができる。予め、等傾角干渉パターンに用いた参照光強度分布を取得しておくことで、同心円状干渉パターンのみを抽出することが可能になる。
【0025】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡において、第1のホログラフィック光学系の撮像手段と、第2のホログラフィック光学系の撮像手段が共用化され、撮像手段は、蛍光3次元像と位相3次元像をホログラムとして同時に取得する。そして、オフアクシス型干渉による等傾角ホログラムの蛍光3次元像と、等傾角ホログラムの位相3次元像とを、空間周波数面において分離し、それぞれの干渉強度分布から物体光と蛍光信号光を再構成することでもよい。
【0026】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡において、細胞観察の際は、蛍光3次元像により細胞核の時空間情報を、位相3次元像により細胞核および細胞壁の時空間構造を同時に取得することが好ましい。
複数の物理量から得られる多次元情報は、従来のバイオイメージング分野における計測では得られておらず、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡によって、従来不可能であった観察を可能にする。本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡は、バイオイメージング分野における強力な計測ルールとして、蛍光3次元像と位相3次元像を同時かつ高速撮影することを可能にする。
すなわち、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡を用いて、蛍光3次元像により細胞核の時空間情報と、位相3次元像により細胞核や細胞壁の時空間構造とを同時に取得する細胞観察方法を実現できる。
【0027】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡は、蛍光励起光を用いて観察対象試料の蛍光信号光による蛍光3次元像を取得するホログラフィック光学系を備えるディジタルホログラフィック顕微鏡において、ホログラフィック光学系は、回折格子が重畳された2重焦点レンズを有し、2重焦点レンズと回折格子が共に偏光依存性を有し、偏光依存性により蛍光信号光をノイズ光から分離させ、上記の回折格子が重畳された2重焦点レンズにより、分離させた前記蛍光信号光を光軸からズレた位置に集光させ、集光させた蛍光信号光を自己干渉させて蛍光3次元像を取得する。すなわち、2重焦点レンズにより蛍光信号光を自己干渉させて蛍光3次元像を取得すると共に、偏光依存性を有する回折格子により蛍光信号光を光軸からズレた位置に集光させることができ、蛍光信号光の自己干渉の際にSN比を高めて蛍光3次元像を取得することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡によれば、蛍光ディジタルホログラフィック顕微鏡と位相像検出ディジタルホログラフィック顕微鏡が結合され、蛍光3次元像と位相3次元像を同時に計測できると共に、特定の偏光状態の光でホログラムを形成することによって、ランダム偏光を含む全ての偏光状態(ただし、2重焦点レンズ及び回折格子に対して不感な偏光状態を除く)に対して高いSN比で蛍光3次元像を計測できるといった効果がある。
また、本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡によれば、シングルショットの計測で、特定の偏光状態の光でホログラムを形成することによって、ランダム偏光を含む全ての偏光状態(ただし、2重焦点レンズ及び回折格子に対して不感な偏光状態を除く)に対して高いSN比で蛍光3次元像を計測できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施例1のディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系の構成図
【
図2】実施例1の位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系の構成図
【
図3】実施例1の蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系の構成図
【
図5】回折格子が重畳された2重焦点レンズの説明図
【
図6】2重焦点レンズによって自己干渉して生じるホログラムの説明図
【
図7】回折格子の有無によるホログラムの相違についての説明図
【
図8】実施例2の蛍光3次元像を取得するホログラフィック光学系の構成図
【
図9】異なる周期構造の回折格子が重畳された2重焦点レンズの説明図
【
図10】回折格子の有無による再構成像の相違についての説明図
【
図11】再構成像の明瞭性(明暗の度合い)を示すグラフ
【
図13】実施例4のディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系の構成図
【
図14】実施例4の位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系の構成図
【
図15】実施例4の蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系の構成図
【
図16】蛍光ホログラムと位相ホログラムの分離再生原理の説明図
【
図18】実施例5のディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系の構成図
【
図19】ホログラム面におけるSN比の比較グラフ(実施例1)
【
図21】2つの再構成像の再構成像距離における強度分布グラフ(実施例1)
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0031】
図1は、ディジタルホログラフィック顕微鏡の一実施形態の光学系の構成を示す。
図1に示すディジタルホログラフィック顕微鏡は、透過型ディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系(位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系)と、反射型蛍光顕微鏡の光学系(蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系)との2つの光学系において、一部共通光路として、物体光と蛍光信号光を試料ステージから対物レンズを透過するまで同軸に重畳させて、対物レンズを透過後に蛍光信号光と位相測定用の物体光を、波長と偏光方向の違いで分離し、それぞれ異なる撮像手段で位相3次元像と蛍光3次元像の2つのホログラムを同時に取得する。すなわち、撮像手段として用いるそれぞれの光学系のイメージセンサ3a,3bを同期させることにより、蛍光3次元像と位相3次元像の2つのホログラムを同時に取得する。
以下、第1のホログラフィック光学系と第2のホログラフィック光学系のそれぞれについて詳細に説明する。
【0032】
先ず、
図2に示す透過型ディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系(位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系)について説明する。
波長633(nm)のHe−Neレーザ光源5を用いて試料ステージ4上の観察対象試料の計測物体を照明する。He−Neレーザ光63は、ビームスプリッター12により、計測物体を透過する物体光(64,65,66)の経路と、何もない参照光(67,68)の経路に分けられる。この光学系は、マッハ・ツェンダー干渉計を構成する。計測物体を透過した物体光65は、対物レンズ25に入射した後、ダイクロイックミラー27に進む。計測物体を透過するHe−Neレーザ光の波長633(nm)が、波長355nmから550nmの帯域の蛍光励起光やそれより長波長の蛍光信号光の波長より長いことを利用し、ダイクロイックミラー27を用いて、計測物体を透過する物体光65のみを反射させ、その他の蛍光信号光61などを透過させることができる。計測物体を透過する物体光(65,66)は、ビームスプリッター18により参照光(67,68)と干渉する。この際、物体光と参照光の間にわずかに角度をつけることによって、オフアクシス(off-axis)ホログラム、すなわち等傾角干渉パターンのホログラムが生じることから、これをイメージセンサ3bで取得する。イメージセンサ3bで取得した等傾角干渉パターンのホログラム35から、フーリエ変換法を用いて物体光の振幅分布と位相分布を抽出する。オフアクシス法では元の物体位置まで逆伝搬させることにより、観察対象試料の物体光の波面が再生されることになり、物体光を再構成できる。
【0033】
次に、
図3に示す反射型蛍光顕微鏡の光学系(蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系)について説明する。
波長633(nm)のHe−Neレーザ光源5を用いて試料ステージ4上の観察対象試料の計測物体を照明すると同時に、波長355nmから550nmの帯域の蛍光励起光源6を用いて、試料ステージ4上の観察対象試料の蛍光分子(8a,8b)を励起する。励起された蛍光分子8aは、波長355nmから550nmの帯域の蛍光励起光より長波長の蛍光信号光を発し、試料ステージ4のガラス基板表面で反射された蛍光励起光とともに対物レンズ25に入射する。特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するダイクロイックミラー16を用いて、蛍光励起光60を十分に減衰させ、蛍光信号光61を強調する。
【0034】
そして、回折格子7が重畳された2重焦点レンズ2を用いて、蛍光信号光の自己干渉により蛍光3次元像を取得する。2重焦点レンズ2によって蛍光信号光61が自己干渉するため、蛍光3次元像は同心円状パターンのホログラム34となる。2重焦点レンズ2は、
図4及び
図5に示すように、2つの焦点距離(f
1,f
2)を持つ2焦点フレネルレンズである。1つの蛍光信号光は、2焦点フレネルレンズにより、2つの回折波が生成され、そして、2つの回折波は異なる場所で焦点が合うことになる。
【0035】
図5を参照して、回折格子が重畳された2重焦点レンズと、回折格子が重畳されていない2重焦点レンズの違いについて説明する。回折格子が重畳されていない2重焦点レンズの場合、
図5(2)に示すように、光軸と平行に入射する光は光軸上で集光する。偏光依存性を有する2重焦点レンズでは、特定の偏光方位の光を通過させて光軸上に集光し、偏光方位が異なる光は遮断する。一方、回折格子が重畳された2重焦点レンズでは、
図5(1)に示すように、光軸と平行に入射する光は光軸上で集光するのではなく、回折格子7によって集光点が光軸上からずれることになる。これは、光が回折格子7の各スリットによって回折し、横方向へ曲がって進む波を生ずるからである。異なるスリットによって回折してきた光波が干渉する結果、入射する光は特定の方向にのみ強く伝搬していく。隣り合ったスリットで回折した光波の間に光の波長の整数倍の光路長の差があるとき、強い回折光が生じることになる。この場合に、偏光依存性を有する2重焦点レンズでは、特定の偏光方位の光を通過させるので、回折格子7のスリットを通過する偏光方位も、2重焦点レンズの偏光方位に一致させて、回折格子7によって回折を受け、集光点が光軸上からずらすようにする。
【0036】
2重焦点レンズにより自己干渉して生じるホログラムについて、
図6を参照して説明する。
上述の如く、
図1の光学系において、蛍光励起光源6を用いて試料ステージ4上の観察対象試料の蛍光分子(8a,8b)を励起すると、励起された蛍光分子は蛍光励起光より長波長の蛍光信号光を発し、試料ステージ4のガラス基板表面で反射された蛍光励起光とともに対物レンズ25に入射する。
【0037】
レンズ25を通った蛍光信号光がダイクロイックミラー16により強調され、回折格子7が重畳された2重焦点レンズ2に入射する。
図6に示すように、蛍光信号光31から、2重焦点レンズ2により、2つの光波(32,33)が生成される。これらの光波(32,33)は異なる場所で焦点が合うため、蛍光信号光31が自己干渉することになる。自己干渉するため、干渉縞は同心円状となる。すなわち、イメージセンサ3で撮像される蛍光3次元像として、同心円状パターンのホログラム34が得られる。
【0038】
2重焦点レンズ2には、回折格子7が重畳されている。このため、2重焦点レンズ2を透過した蛍光信号光31は、回折格子7によって回折し、横方向へ曲がって回折光が進むために、集光点が光軸上からずれることになる。レンズ26は、2重焦点レンズ2から出射した光波を短い距離で集光させるための機能を果たす。
【0039】
回折格子が重畳された2重焦点レンズを用いた光学系について、再び、
図3を参照して説明する。試料ステージ4上の観察対象試料の内部にある2つの蛍光分子(8a,8b)が励起され、蛍光信号光が発生する。回折格子7が無い場合、蛍光分子8aから発生した蛍光信号光は、2重焦点レンズ2、レンズ(25,26)及びチューブレンズ(17a,17b)によって、図中の点線で描く光路をたどって、光軸60上に集光する。イメージセンサ3では、蛍光信号光61が自己干渉するため、同心円状パターンのホログラム34が蛍光3次元像として撮像される。図示しないが、蛍光分子8bから発生した蛍光信号光も同様な光路をたどることになる。なお、2つの蛍光分子(8a,8b)は、それぞれ空間的な位置が異なる(試料ステージ4の面方向、厚み方向が異なる)。
【0040】
ここで、回折格子7が有る場合、すなわち、2重焦点レンズに、回折格子7が重畳されている場合、蛍光分子8aから発生した蛍光信号光61は、2重焦点レンズ2を透過した後、回折格子7を透過する際に回折し、横方向へ曲がって回折波62が進むために集光点が光軸上からずれる。
回折波62は、シャッター9の開口を透過し、チューブレンズ(17a,17b)によって、回折格子7が無い場合と同様な光路をたどって、光軸60からずれたところで集光する。イメージセンサ3では、同様に同心円状パターンのホログラム34が蛍光3次元像として撮像される。ここで、シャッター9の開口は、光軸60の位置には存在しないので、光軸上に集まる光が遮断される。遮断される光としては、回折格子7の偏光方位と異なる偏光方位を有する光、例えば、2重焦点レンズ2で影響を受けない偏光成分の光や、光学素子での表面反射光、ランダム偏光のノイズ光などである。
【0041】
次に、蛍光分子を模擬した発光ダイオード(LED)を用い、LEDから射出した光を蛍光信号光とした実験結果について、
図7,19を参照して説明する。実験は、10μm径のピンホールをLED(波長580nm、半値幅50nm)で照明したものを物体とした。物体が1つ(LEDの集光スポットが1個の場合)で実験を行った。回折格子として、位相変調用の液晶空間光変調素子(SLM)(20μm pitch、800×600 pixels)を用いた。実験は、2重焦点レンズに重畳された回折格子が無い場合(比較例)と有る場合(実施例)で、ホログラム(干渉稿)をそれぞれ確認した。また、偏光板を用いて非変調成分のみ抽出した場合についても確認した。
実験結果のホログラムを、
図7に示す。
図7(a)(b)に示すように、実施例(回折格子有)は、比較例(回折格子無)と比べて、カバーガラスからの反射光と考えられる矩形状のパターンが弱くなっていることが確認できた。また、
図7(c)(d)に示すように、非変調成分のみ抽出した場合には、比較例(回折格子無)ではカバーガラスからの反射による矩形状ノイズが顕著であるのに対して、実施例(回折格子有)では矩形状ノイズが確認できなかった。これらの結果から、実施例(回折格子有)は、比較例(回折格子無)と比べて、SN比が向上していることが確認できた。
【0042】
図19は、ホログラム面におけるSN比の比較グラフである。
図19のグラフにおいて、横軸は撮像画像の水平方向のピクセルであり、縦軸はSN比である。
図19に示すように、比較例(回折格子無)では平均SN比が0.9であるのに対して、実施例(回折格子有)では平均SN比が2.0であり、SN比が2倍以上高くなっていることが確認できた。
【0043】
次に、
図10を参照して、本実施例の第2のホログラフィック光学系において、同じ周期構造を有する回折格子の有無による再構成像の相違について説明する。
図10に示す画像は、2つの蛍光分子を模擬した発光ダイオード(LED1,2)の蛍光信号光の再構成像である。左側の画像は、回折格子が重畳された(回折格子が有る)2重焦点レンズを用いて撮像された蛍光3次元像を再構成したものであり、右側の画像は、回折格子が重畳されていない(回折格子が無い)2重焦点レンズを用いて撮像された蛍光3次元像を再構成したものである。また、上の2つの画像は、発光ダイオード1(LED1)のインコヒーレント信号光を用いたものであり、下の2つの画像は、発光ダイオード2(LED2)のインコヒーレント信号光を用いたものである。LED1,2は共に同じ波長であるが、
図1の蛍光分子(8a,8b)のように空間的に異なる位置に存在している。
【0044】
LED1から照射されるインコヒーレント信号光と、LED2から照射されるインコヒーレント信号光は、共に、回折格子が重畳された2重焦点レンズを透過し回折する。2重焦点レンズの焦点距離(f
1,f
2)は、f
1=2000mm,f
2=1500mmであり、回折格子の格子間隔は0.04mmである。
図10及び
図11は、同じ周期構造を有する回折格子を用いてインコヒーレント信号光を用いた3次元像を計測した実験結果を示している。回折格子の位置は、回折格子の周期構造と変調光の波長によって決定される。また、スリット幅はできるだけ広くとることが望ましいが、変調を受けていない成分を除去する必要があるため、蛍光信号の空間的広がりによって適切な幅に調整する。
なお、
図11において、回折格子(1ST G)と回折格子(2ND G)は、同じ周期構造であり、回折格子の位置は同じであるが、LED1とLED2の場所が空間的に異なる位置としていることから、それぞれ分けている。
【0045】
図11の画像から、上の2つの再構成像においては、回折格子が有る方が、回折格子が無い方よりも、LED1(左側に位置するもの)の形状が明瞭である。また、下の2つの再構成像においては、回折格子が有る方が、回折格子が無い方よりも、LED2(右側に位置するもの)の形状が明瞭である。
再構成像の明瞭性(明暗の度合い)については、
図11のグラフから説明できる。
図11のグラフは、回折格子が有る場合(1ST G,2ND G)と回折格子が無い場合(1ST NG,2ND NG)の4ケースの再構成像における光強度のピーク位置から縦方向の距離に応じた強度分布を示している。回折格子(1ST G)を用いたときは、グラフにおいて左側に強度ピークが現れる。一方、回折格子(2ND G)を用いたときは、グラフにおいて右側に強度ピークが現れる。グラフでは、それぞれのピーク値を1として正規化している。左側に強度ピークが現れる強度分布、右側に強度ピークが現れる強度分布、何れも、回折格子が有る方(1ST G,2ND G)が、最大強度と最小強度の差が大きく、また強度ピークの形状もより鋭くなっており、再構成像が明瞭であることがわかる。
【0046】
図20は2つのLED1,2を同時に記録したホログラムからの再構成像とその拡大像、
図21は2つの再構成像の再構成像距離における強度分布グラフを示している。
図20は、2つのLED1,2のそれぞれの再構成像について、
図21のグラフからそれぞれの強度ピークが現れる再構成像距離におけるものを示している。
図21のグラフによれば、LED1の強度分布は再構成像距離が約620mmのところでピークとなり、LED2の強度分布は再構成像距離が約1190mmのところでピークとなる。なお、LED2の強度分布グラフでは、2ヶ所ピークがあるように見えるため、ガウス分布でフィッティングし、ピークを決定している。
図20の再構成像ではそれぞれの再構成像が明確に現れていることが確認できた。拡大像では、スケールが250μmである。この倍率は光学系の配置によって決定されることが理論的に導出されており、実験結果と一致していることを確認している。
【実施例2】
【0047】
図8は、本実施例の蛍光3次元像を取得するホログラフィック光学系の構成を示している。
図8に示すホログラフィック光学系は、反射型蛍光顕微鏡の光学系である。
波長633(nm)のHe−Neレーザ光源5を用いて試料ステージ4上の観察対象試料の計測物体を照明すると同時に、波長355nmから550nmの帯域の蛍光励起光源6を用いて、試料ステージ4上の観察対象試料の蛍光分子(8a,8b)を励起する。励起された蛍光分子8aは、波長355nmから550nmの帯域の蛍光励起光より長波長の蛍光信号光を発し、試料ステージ4のガラス基板表面で反射された蛍光励起光とともに対物レンズ25に入射する。特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するダイクロイックミラー16を用いて、蛍光励起光60を十分に減衰させ、蛍光信号光61を強調する。
【0048】
そして、回折格子7が重畳された2重焦点レンズ2を用いて、蛍光信号光のオフアクシス型自己干渉により蛍光3次元像を取得する。2重焦点レンズ2によって蛍光信号光61が自己干渉するため、蛍光3次元像は等傾角干渉パターンのホログラム36が生じ、これをイメージセンサ3bで取得する。イメージセンサ3bで取得した等傾角干渉パターンのホログラム36から、フーリエ変換法を用いて蛍光信号光の振幅分布と位相分布を抽出する。オフアクシス法では元の蛍光体の位置まで逆伝搬させることにより、観察対象試料の蛍光信号光の波面が再生されることになり、蛍光信号光を再構成できる。
【0049】
図9を参照して、本実施例の2重焦点レンズのそれぞれの焦点距離(f
1,f
2)に対して、異なる周期(d
1,d
2)構造を有する回折格子が重畳された場合について説明する。
異なる周期構造(d
1,d
2)を有する回折格子は、回折角が変化するため、進行方向(角度)の異なる2つの光波の干渉が生じる。すなわち、異なる周期構造を有する回折格子が重畳された2重焦点レンズを通過した蛍光信号光の変調成分の光は、異なる回折角の2つの光波となり、これら2つの光波によって、縦縞または横縞の干渉縞が発生する。この干渉縞の干渉強度分布から信号処理によって蛍光信号光を再構成できる。
【0050】
蛍光信号光を再構成する際、異なる回折角の2つの光波の内、1方の光波だけを用い、他方の光波はノイズ光として処理できるため、SN比をさらに向上させることができるのである。
なお、
図9(3)において、同心円状に見えているのは回折格子が重畳された2重焦点レンズの平面図であり、拡大図に示すように、レンズ上に回折格子の格子溝が形成されている。
【0051】
図22は、本実施例のホログラフィック光学系における蛍光3次元像の再構成像を示している。
図22(1)はホログラムを示している。
図22(1)の点線部分において、コントラストを強調し、拡大した画像も示している。
図22(3)は再構成像距離(Reconstruction Distance)を横軸として、強度(ピーク強度に基づいて正規化した強度)を縦軸としたグラフであり、
図22(2)はそのピーク強度の再構成像距離の再生面での強度画像を示している。
図22(2)の強度画像は鮮明であり、1つの集光点になっていることからピンホールを通したLED光源が再生されていると言える。
【実施例3】
【0052】
本実施例では、DMD素子を用いて、1つ又は複数の窓を開けて、微弱な蛍光信号に対してホログラムを取得できるディジタルホログラフィック顕微鏡について説明する。
図12は、DMD素子の概念図である。DMD素子を、観察対象試料の蛍光励起光による蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系の光路上に配置する。例えば、DMD素子を、
図1に示す光学系におけるレンズ17aとレンズ17bの間に設置する。ここで、単一検出器をイメージセンサ3aの代わりとして用いる。DMD素子は、1つ又は複数のマイクロミラーをON状態にすることにより、ON状態のマイクロミラーの箇所が開口部となり、蛍光信号光を透過させる。
図12に示すDMD素子70は、縦6×横8の48個のマイクロミラーで構成され、ON状態のマイクロミラー72が1つあり、その他はOFF状態のマイクロミラー71である。DMD素子70では、ON状態のマイクロミラー72の位置から、蛍光信号光を通過させることが明確である。
【0053】
単一検出器からの蛍光ホログラムの再構成手順としては、単一検出器を用いて、DMDにより蛍光信号の空間パターンを変調し、その変調された蛍光信号の光エネルギーを取得する。 DMDによる変調パターンとその光エネルギーの組み合わせから圧縮センシングの手法により、ホログラムパターンを計算機上で再構成する。これにより、生体組織への応用時に、生体組織へ照射する光エネルギーを抑えることで、生体組織へのダメージを与えることなく、蛍光信号を取得することができる。
【実施例4】
【0054】
図13は、ディジタルホログラフィック顕微鏡の他の実施形態の光学系の構成を示す。
図13に示すディジタルホログラフィック顕微鏡は、
図14に示す透過型ディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系(位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系)と、
図15に示す反射型蛍光顕微鏡の光学系(蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系)との2つの光学系を共通光路として、物体光と蛍光信号光を同軸に重畳させて、1つの撮像手段で位相3次元像と蛍光3次元像の2つのホログラムを同時に取得できるようにしたものである。
【0055】
図14に示す透過型ディジタルホログラフィック顕微鏡の光学系(位相3次元像を取得する第1のホログラフィック光学系)について説明する。
波長633(nm)のHe−Neレーザ光源5を用いて試料ステージ4上の観察対象試料の計測物体を照明する。He−Neレーザ光はビームスプリッター12により、計測物体を透過する物体光の経路と、何もない参照光の経路に分けられ、マッハ・ツェンダー干渉計を構成する。計測物体を透過するHe−Neレーザ光の波長633(nm)が、波長355nmから550nmの帯域の励起用レーザ光の波長より長いため、ダイクロイックミラー16に影響されずに伝搬され、再びビームスプリッター18により参照光と干渉する。この際、物体光と参照光の間にわずかに角度をつけることによって、オフアクシス(off-axis)ホログラム、すなわち等傾角干渉パターンのホログラムを取得する。取得した等傾角干渉パターンのホログラムから、フーリエ変換法を用いて物体光の振幅分布と位相分布を抽出する。オフアクシス法では元の物体位置まで逆伝搬させることにより、観察対象試料の物体光の波面が再生されることになり、物体光を再構成できる。
【0056】
次に、
図15に示す反射型蛍光顕微鏡の光学系(蛍光3次元像を取得する第2のホログラフィック光学系)について説明する。
波長633(nm)のHe−Neレーザ光源5を用いて試料ステージ4上の観察対象試料の計測物体を照明すると同時に、波長355nmから550nmの帯域の蛍光励起光源6を用いて、試料ステージ4上の観察対象試料の蛍光分子を励起する。励起された蛍光分子は、波長355nmから550nmの帯域の蛍光励起光より長波長の蛍光信号光を発し、試料ステージ4のガラス基板表面で反射された蛍光励起光とともに対物レンズ15に入射する。特定の波長の光を反射し、その他の波長の光を透過するダイクロイックミラー16を用いて、蛍光励起光を十分に減衰させ、蛍光信号光を強調する。
そして、回折格子7が重畳された2重焦点レンズ2を用いて、蛍光信号光の自己干渉により蛍光3次元像を取得する。2重焦点レンズ2によって蛍光信号光が自己干渉するため、蛍光3次元像は同心円状パターンのホログラムとなる。
【0057】
撮像手段として用いるイメージセンサ3で、位相3次元像と蛍光3次元像の2つのホログラムを同時に取得する。
上述の如く、蛍光3次元像は、2重焦点レンズ2によって蛍光の偏光成分が自己干渉するため、干渉パターンは同心円状となる。一方、位相3次元像は、等傾角干渉パターンとなる。同心円状干渉パターンと等傾角干渉パターンは、空間周波数面で分離することが可能であり、イメージセンサ3により撮像した像から、位相3次元像の位相ホログラムと蛍光3次元像の蛍光ホログラムとを空間周波数面で分離することができる。
【0058】
位相ホログラム用の光が2重焦点レンズ2の影響を受けないように、1/2波長板20を設け、位相ホログラム用の光の偏光を2重焦点レンズ2によって影響しない偏光方位に合わせている。また、1/2波長板21を設けて、蛍光励起用光源の偏光方向を2重焦点レンズ2が働く偏光方位に合せている。したがって、蛍光励起用光源により生じる蛍光信号光のみが、2重焦点レンズ2の影響を受け、さらに回折格子7の影響を受け、集光点が光軸上からずれる。
【0059】
ここで、位相ホログラムと蛍光ホログラムが重畳した信号は、下記数式1のように示すことができる。
【0060】
【数1】
【0061】
上記数式1において、o
pは位相ホログラム用の物体光波の複素振幅分布を表し、r
pは参照光波の複素振幅分布を表す。また、o
Fは2重焦点レンズに入射する蛍光ホログラム用物体光波の複素振幅分布である。ここで、f
1,f
2は2重焦点レンズの2つの焦点距離を示す。また、gはレンズの位相関数および撮像面までのフレネル回折伝搬を表す関数である。
r
pが下記数2で表される平面波であるとすると、位相ホログラムはオフアクシス型ホログラムとなる。そこで、位相ホログラムの抽出は、上記数式1をフーリエ変換して、空間周波数面で行うことができる。
【0062】
【数2】
【0063】
上記数式1をフーリエ変換したものを下記数式3に示す。ここで、Aは位相ホログラム用の参照光の振幅である。
図16(1)は、位相ホログラムと蛍光ホログラムの2つのホログラムが重畳した干渉画像であり、下記数式3を図示化したものである。下記数式3の右辺の第1,2,5,6,7,8項は自己干渉の同心円状ホログラムによる項であり、空間周波数面で原点付近に現れる信号となる(
図16(2)を参照)。また、右辺の第3,4項はオフアクシスホログラムによる項であり、空間周波数面で原点からずれた位置に存在する信号となる(
図16(2)を参照)。このため、ウィンドウ関数を掛けることにより、
図16(2)に示す空間周波数面で、原点付近に現れる蛍光ホログラムと、原点からずれた位置に存在する位相ホログラムの2つのホログラムを分離する(
図16(3)を参照)。したがって、オフアクシスホログラムによる項である右辺の第3,4項を、それぞれ、下記数式4と数式5のように取り出すことができる。
【0064】
【数3】
【0065】
【数4】
【0066】
【数5】
【0067】
ここで、位相ホログラム用の参照光の振幅Aは、予め測定することが可能であるため、上記数式4と数式5から位相ホログラムの物体光o
pとその複素共役分布を求めることができる。上記数式3に上記数式4と数式5を代入して、蛍光ホログラムとして下記数式6を得る。
ここで、上記数式3における、G
1とG
2は、それぞれ、g(O
F(x,y),f
1)とg(O
F(x,y),f
2)のフーリエ変換を表している。
【0068】
【数6】
【0069】
上述の如く、位相ホログラムと蛍光ホログラムの2つのパターンをフーリエ変換することにより、空間周波数面で原点からずれた位置に存在する信号の等傾角干渉パターンの成分を、バンドパスフィルタによって抽出することができる。また、予め等傾角干渉パターンに用いた参照光の強度分布を取得しておくことで、同心円状の干渉パターンのみを抽出することが可能になる。
【0070】
観察対象試料として直径4μmの蛍光ビーズを使用し、蛍光3次元像と位相3次元像を個別にイメージセンサで取得したホログラムのイメージの一例を
図17に示す。
図17(1)が蛍光ビーズのホログラム画像であり(蛍光ビーズの部分を拡大した図も付記)、それをフーリエ変換して、
図17(2)の空間周波数面を得る。空間周波数面の原点からずれた位置に存在するホログラムを抽出し、
図17(3)の位相分布を取得する(拡大位相像も付記)。
図17(4)は、再構成された位相分布の3次元表示を示している。
図17(4)から、蛍光ビーズの位相変化量がわかる。
【実施例5】
【0071】
図18は、ディジタルホログラフィック顕微鏡の他の実施形態の光学系の構成を示す。実施例5のディジタルホログラフィック顕微鏡と同様、透過型ディジタルホログラフィック顕微鏡と反射型蛍光顕微鏡との2つの光学系を共通光路として、物体光と蛍光信号光を同軸に重畳させて、1つの撮像手段で位相3次元像と蛍光3次元像の2つのホログラムを同時に取得できるようにしたものである。
【0072】
実施例5のディジタルホログラフィック顕微鏡と異なる点は、2つの励起用レーザ光源(41,42)を備えている点である。具体的には、473nmの波長の青色レーザと、532nmの波長の緑色レーザを備える。青色レーザは、主に500〜530nmの蛍光を励起することを目的とする。一方、緑色レーザは、主に540〜600nmの蛍光を励起することを目的とする。観察対象の細胞によって、蛍光マーカーが異なることが想定される。そのため、蛍光マーカーが励起する波長のレーザを観察対象試料に照射できるようにする。
【0073】
図18に示す構成の場合、2つのシャッター(43,44)とビームスプリッター46によって、試料ステージ4上の観察対象試料の蛍光分子を励起する励起用レーザ光源(41,42)が切替えられる。シャッター(43,44)の切り替えは、シャッター制御装置50から出力されるシャッター制御信号(51,52)によって行われる。ビームスプリッター46の先になるND(Neutral Density)フィルタ47は、色彩に影響を与えることなくレーザ光量を低下させるためのものである。
【0074】
2つの励起用レーザ光源(41,42)の内、一方の励起用レーザ光源を用いて、試料ステージ4上の観察対象試料の蛍光分子を励起する。励起された蛍光分子は、励起用レーザ光源より長波長の蛍光信号を発し、試料ステージ4のガラス基板表面で反射された励起用レーザ光とともに対物レンズ15に入射する。また、シャッター制御装置50により、2つのシャッター(43,44)を切り替え、もう一方の励起用レーザ光源を用いて、試料ステージ4上の観察対象試料の蛍光分子を励起する。
2つの励起用レーザ光源(41,42)の各々の蛍光3次元像は、2重焦点レンズ2によって蛍光の偏光成分が自己干渉するため、干渉縞は同心円状パターンとなる。
なお、本実施例では、2つの励起用レーザ光源を用いているが、3つ以上であってもよい。また、シャッター制御装置から出力されるシャッター制御信号を高速に切り替えて、蛍光像を取得してもよい。
【0075】
蛍光3次元像の取得と同時に、波長633(nm)のHe−Neレーザ光源5を用いて試料ステージ4上の観察対象試料の計測物体を照明し、オフアクシス(off-axis)ホログラムを作成し、イメージセンサ3で、位相3次元像と蛍光3次元像の2つのホログラムを同時に取得する。
【0076】
本発明のディジタルホログラフィック顕微鏡では、リアルタイムで細胞の形状変化と細胞核の動きを計測可能であり、蛍光染色試薬の種類に応じて、励起用レーザ光源を切替えて使用することにより、ターゲットとなる細胞を選択して形状変化と動きを計測できる。
また、上述の実施例のディジタルホログラフィック顕微鏡は、位相ホログラムを取得する第1のホログラフィック光学系が透過型であり、蛍光ホログラムを取得する第2のホログラフィック光学系が反射型であるが、蛍光ホログラムを取得する第2のホログラフィック光学系が透過型であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、バイオイメージング分野の顕微鏡に有用である。
【符号の説明】
【0078】
1 ディジタルホログラフィック顕微鏡
2 2重焦点レンズ
3,3a,3b イメージセンサ
4 試料ステージ
5 He−Neレーザ光源
6,41,42 蛍光励起光源
7 回折格子
8a,8b 蛍光分子
9 シャッター
10,11,19,26,29 レンズ
12,18,46 ビームスプリッター
13,14,45 反射鏡
15,25 対物レンズ
16,27 ダイクロイックミラー
17 チューブレンズ
20,21 1/2波長板
31,61 蛍光信号光
32,33,62 回折波
34 同心円状パターンのホログラム
35,36 等傾角干渉パターンのホログラム
43,44 シャッター
47 NDフィルタ
50 シャッター制御装置
51,52 シャッター制御信号
59 2重焦点レンズの光軸
60 蛍光励起光
70 DMD素子
71 オフ状態のマイクロミラー
72 オン状態のマイクロミラー