(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(詳細な説明)
本発明は概して、表面弾性波などの弾性波を用いた種の搬送に関する。いくつかの態様では、マイクロ流体のチャネルなどのチャネルは、2つ以上の出口と、どの出口に種が向けられる(directed)か決定するようにチャネル内の種に適用される弾性波とを有して提供され得る。例えば、表面弾性波は、細胞又は粒子などの種に対して、チャネルから、それを異なる出口に向ける溝又は他の部分に、それを偏向させるように、適用されてもよい。驚くべきことに、いくつかのケースでは、種のこの偏向は、チャネル上の入射弾性波とは異なる方向にあってもよい。本発明の他の実施形態は概してそのようなシステムを含むキット、そのようなシステムを生み出す技術等を対象とする。
【0017】
本発明の1つの態様では、説明のための非限定的な例として、
図6Aを参照してここで記載される。この図では、細胞又は粒子のような種10は、分離される(sorted)ことになり、又はそうでなければ搬送される(又は操作される:manipulated)ことになる。種10はマイクロ流体のチャネルなどのチャネル20内の流体15の中に含まれる。例えば流体は水又は生理食塩水(saline)などの他の水性液体でもよい。一連の実施形態では、種は第1の出口21又は第2の出口22に分離されることになる。
【0018】
通常は、この図において点線により指示されるように出口21を通ってチャネル20を出るまで(例えば他のチャネル、リアクター、収集チャンバー等に入るまで)、矢印18で指示されるように種10はチャネル20を通って左から右へ流れるだろう。しかし、いくつかのケースでは、弾性波30はトランスデューサー35、又は他の弾性波発生器によって適用されてもよい。例えば、トランスデューサーは、傾斜櫛形トランスデューサー(例えば
図7参照のこと)などの櫛形トランスデューサー(interdigitated transducer)でもよい。
図6Aに示すように、トランスデューサーは、チャネルの側面及び表面40に弾性波を適用するように配置されてもよい。
【0019】
弾性波は分離を容易にするように種10の偏向を引き起こすことができる。例えば、ある種10が(例えば、蛍光信号で)検出され又は決定されるときに弾性波を適用することができる。驚くべきことに、トランスデューサー35から直接反発するように(repulsively)離れて単に偏向されるよりも、トランスデューサー35の位置及びトランスデューサーからの弾性波の伝播に対して、種10はトランスデューサー35から離れて上方に又はある角度で偏向されてもよい。偏向は2つの成分:トランスデューサーからの弾性波の伝播によって規定される軸方向成分と、例えば
図1に示す上向きの、軸方向成分から直行して規定される横方向成分と、を有すると考えることができる。いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、いくつかの条件下では、弾性波が流体15に入るような弾性波30の屈折は、波がトランスデューサーから単に直接離れて伝播せず、かわりに、その初期方向に対してある角度で伝播するように、弾性波を方向変化させてもよいと考えられる。
【0020】
いくつかの実施形態では、このことは、例えば、チャネル20内の流体15の中に含まれる種を移動させるのに使用されてもよい。従って、例えば、このことは、第2のチャネル部分に種を移動させるのに使用されてもよい。
図6Aでは、このチャネル部分は溝50として表され、弾性波が適用される表面に隣接した表面45の上に配置される。単一の溝50だけがこの例では存在する。溝50は出口22に対してある角度で配置される。しかし、他の実施形態では、第2のチャネルに関して他の形態も可能性であり、偏向は必ずしも上方である必要はない(“上方”は
図6Aで単に説明の容易さのために示される)。この図では、種10は溝50に移動することができ、及び溝50内に含むことができ、従って、出口21よりも出口22に向けることができる。それに応じて、適切な弾性波の用途では、種10は、続けて出口21まで通るよりも、出口22に向かって溝50に向けられてもよい。このように、複数の種は分離され得る。
【0021】
上述の検討は、細胞又は粒子などの種を分離するのに使用可能な、本発明の1つの実施形態の非限定的な例である。しかし、他の実施形態も可能である。それに応じて、より一般的に、本発明の様々な態様は、表面弾性波などの弾性波を用いた様々な種の搬送のためのシステム及び方法を対象とする。
【0022】
例えば、1つの態様では、本発明は概して、表面弾性波などの弾性波を用いたチャネル中の種の搬送を対象とする。例えば、種は、弾性波を用いて同じ方法で搬送され得る(例えば移動される、反発される、偏向される等)細胞又は粒子、又は本明細書で記載されるような他の種でもよい。例えば、種は、弾性波の影響下で、チャネルの第1の部分からチャネルの第2の部分まで移動されてもよい。
【0023】
一連の実施形態では、弾性波はチャネル内に(又はチャネル内の:within the channel)、流体中に含まれる種を搬送するようにチャネルの表面で適用される。驚くべきことに、弾性波は、チャネルに到達する弾性波の伝播方向から異なる方向に種を移動させ得る。いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、弾性波は流体に入ったところで屈折し得ると考えられる(すなわち、チャネルを通して、それによって異なる方向に伝播する)。弾性波が偏向される角度は、流体中及びチャネルの壁中の音速などの因子により支配され得る。例えば、
図6Bに示すように、壁33を通って流体15に入る弾性波30は、屈折され、それにより、軸方向において伝播方向(矢印62で指示されている)から離れるよりも、種10の横方向(矢印61で指示されている)における移動又は偏向が起こり得る。
【0024】
この偏向は、2つのベクトル成分:
図6Cに示すような(弾性波の伝播方向により規定される)軸方向成分と、軸方向成分と直交して規定される横方向成分75と、を有するものと考えることができる。2つのこれらのベクトル成分の間の比率が偏向の角度を規定する。いくつかのケースでは、横方向成分は軸方向成分と同等かそれよりも大きく、いくつかのケースでは、横方向成分は少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約30倍、少なくとも約50倍、少なくとも約75倍、又は、少なくとも約100倍大きい。さらに、他の実施形態では、横方向成分は軸方向成分より小さくてもよい。“上方に(upwardly)”はここで単に便宜及び説明の容易さのためだけに使用されると注意されたい。すなわち、実際にチャネル及びチャネルの壁は、必ずしも下地と平行ではなく、どの適した配向で配置されてもよい。又、いくつかのケースでは、偏向が“上方(up)”のかわりに“下方(down)”でもよい。
【0025】
一連の実施形態では、1つ以上の種は第1のチャネル部分に存在してもよいが、第2のチャネルには存在しなくてもよい。例えば、物理的な障害(obstruction)又は他の取り除き得る障害(obstacle)は、
図8Aに示されるように、種を第1のチャネル部分にそらす(divert)のに使用されてもよい。すなわち、他の非限定的な例として、種は第1のチャネル部分内の流体の中に単に入れられ(inserted)てもよいが、第2のチャネル部分には入れられなくてもよい。適した弾性波を適用することによって、第1のチャネル部分の中の種は第2のチャネル部分、例えば
図8Aに示されるような溝にそらされてもよい。いくつかのケースでは、弾性波は第1のチャネル部分だけに適用されてもよく、又は、第2のチャネル部分に到達する弾性波が第1のチャネル部分を通過しないように両部分を通過してもよい。いくつかの実施形態では、第2のチャネル部分は、第2のチャネル部分の少なくとも一部が、弾性波の伝播方向に関連した第1のチャネル部分に対して、横に(laterally)配置されるように、配置されてもよい。任意に、第1の部分及び第2の部分は、弾性波の伝播方向に実質的に直行しないように配置され得る複素平面により分離され得る。
【0026】
第2のチャネル部分はチャネルの表面上に存在してもよく、又はチャネルの表面により規定されてもよい。第2のチャネル部分は溝、窪み、又は他の表面の特徴でもよい。第2のチャネル部分は直線状の側面、曲がった側面などを有することができる。第2のチャネル部分は、種が入ることができるような、及び/又は出口、すなわち第2の出口に移動させるような形状、又はサイズでもよい。そのような方法で、1つ以上の種は弾性波の用途に基づいて、第1の出口又は第2の出口のいずれに望ましく向けられてもよい。
【0027】
一連の実施形態では、第2のチャネル部分は溝の形状を有し得る。非限定的な例は
図8で示される。第2のチャネル部分は、例えば種を出口に向けるように、種が第2のチャネル部分内に入れる、断面寸法を有するサイズでもよい。さらにいくつかのケースでは、第2のチャネル部分は、種を出口に向けるように、例えばチャネルに対してゼロではない角度で、傾斜されてもよく又は配置されてもよい。例えば、約0°、約5°、約10°、約20°、約30°、約40°、約50°、約60°、約70°、約80°、約90°、約100°、約110°、約120°、約130°、約140°、約150°、約160°、約170°、約175°、約180°等、いずれの適した角度を使用することができる。このように、例として、第2のチャネル部分はチャネルとは平行ではない、又は垂直ではない少なくとも1つの壁を含んでもよい。
【0028】
しかし、
図8Aに傾斜溝が示されるが、これは例のためだけであると理解すべきである。他の実施形態では、第2のチャネル部分は、
図8B及び8Cに示されるような、様々な他の形状を有してもよい。さらに、述べたように、いくつかのケースでは、出口21、22、及び23を有する
図8D(上面図)に示すように、3、4、又はそれ以上の出口が存在してもよい。1つ以上の種の分離又は搬送は1つ以上の弾性波発生器により制御され得る。例えば、いくつかのケースでは、第1の弾性波は第2の部分50に種を偏向させてもよく、一方で、(同じ又は異なる弾性波発生器からの)第2の弾性波は第3の部分53に種を偏向させてもよい。適した弾性波を適用すること(又は、弾性波を適用しないこと)によって、種はいずれの所望の出口にも向けられ得る。
【0029】
述べたように、少なくともある実施形態では、第2のチャネル部分は、そこに種が入ることを受けいれるようなサイズでもよい。第2のチャネル部分は、(すなわち、第2のチャネル部分内の平均流体流れに関連して)例えば、少なくとも約10マイクロメートル、少なくとも約15マイクロメートル、少なくとも約20マイクロメートル、少なくとも約25マイクロメートル、少なくとも約30マイクロメートル、少なくとも約40マイクロメートル、少なくとも約50マイクロメートル、少なくとも約75マイクロメートル、少なくとも約100マイクロメートル、少なくとも約150マイクロメートル、少なくとも約200マイクロメートル、少なくとも約250マイクロメートル、少なくとも約500マイクロメートル等の断面寸法を有してもよい。いくつかのケースでは、第2のチャネル部分は、チャネルの最大断面寸法よりも小さい最大断面寸法を有してもよい。
【0030】
従って、本発明のある態様では、例えばマイクロ流体システムにおける種の制御又は搬送に関する。例えば、一連の実施形態によれば、細胞又は粒子などの種は弾性波を用いて分離され得る。種は弾性波を適用することによって、搬送され得るどの適した種でもよい。非限定的な例は、細胞(例えば人間の細胞、哺乳類の細胞、バクテリア細胞、等)、粒子、小滴(droplets)、ゲル、泡、量子ドット、ビーズ(例えば蛍光ビーズ)、ウイルス、等を含む。いくつかのケースでは、種は他の物質(例えばsiRNA、RNAi、及びDNAなどの核酸、プロテイン、ペプチド、又は酵素、化学物質、高分子、薬、等)をそこに含んでもよい。
【0031】
いくつかのケースでは、例えば、種は比較的高レートで分離されてもよく、又はそうでなければ搬送されてもよい。例えば、種の特性は、(例えば、さらに本明細書で記載するような)いくつかの方法で感知されてもよく、及び/又は決定されてもよく、それから種はチャネル又は出口のようなデバイスの特定の領域に、例えば分離の目的のために向けられてもよい。
【0032】
ある実施形態では、チャネルは少なくとも第1の出口及び第2の出口を含んでもよい。いくつかのケースでは、2つ以上の入口チャネル(inlet channel)及び/又は2つ以上の出口チャネル(outlet channel)が存在してもよい。表面弾性波の適した用途によって、チャネルを通って流れる流体内に含まれる小滴は第1の出口又は第2の出口に向けられてもよい。しかし、他の実施形態では、例えば本明細書で記載するような、チャネル及び接合(又は接合点:junctions)の他の形態が使用されてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、細胞又は粒子などの種は、比較的高レートで分離され得る。例えば、いくつかのケースでは、毎秒少なくとも約10種が分離されてもよく、いくつかのケースでは、毎秒少なくとも約20種、毎秒少なくとも約30種、毎秒少なくとも約100種、毎秒少なくとも約200種、毎秒少なくとも約300種、毎秒少なくとも約500種、毎秒少なくとも約750種、毎秒少なくとも約1,000種、毎秒少なくとも約1,500種、毎秒少なくとも約2,000種、毎秒少なくとも約3,000種、毎秒少なくとも約5,000種、毎秒少なくとも約7,500種、毎秒少なくとも約10,000種、毎秒少なくとも約20,000種、毎秒少なくとも約30,000種、毎秒少なくとも約50,000種、毎秒少なくとも約75,000種、毎秒少なくとも約100,000種、毎秒少なくとも約150,000種、毎秒少なくとも約200,000種、毎秒少なくとも約300,000種、毎秒少なくとも約500,000種、毎秒少なくとも約750,000種、毎秒少なくとも約1,000,000種、毎秒少なくとも約1,500,000種、毎秒少なくとも約2,000,000種以上、又は毎秒少なくとも約3,000,000種以上が分離されてもよく、又はそうでなければ搬送されてもよい。いくつかのケースでは、検討するように、この制御は、例えば適した弾性波の使用を通した、単一の種に基づいてもよい。
【0034】
1つの態様では、本発明は概して、マイクロ流体のチャネルなどのチャネル中に流れる種を含む流体に、表面弾性波などの弾性波を適用することを対象とする。弾性波は適した弾性波発生器によって適用され得る。表面弾性波(“SAW”)は、一般的に言えば、材料中の深さに応じて典型的な指数関数で減衰する振幅を有して、弾性を示す材料の表面に沿って移動可能な、弾性波である。適した弾性波を選択することによって、圧力変化が流体内に引き起こされてもよく、それはいくつかのケースで流体を搬送するのに使用されてもよい。例えば、流体に適用される弾性波は流体上の圧力を増加又は減少させ、それにより、弾性波の無い状態の流体流れと比較して、圧力変化のために流体がより早く又はより遅く流れ得る。他の例としては、弾性波は流体を偏向させる、又は流体を異なる場所に流れさせるのに使用されてもよい。
【0035】
いくつかのケースでは、圧力変化の強度は、適用された弾性波の電力(power)又は振幅に関連する。ある実施形態では、弾性波、流体の流れ特性、例えば、その流量(flow rate)又は流れの方向、を変更するように選択された振幅及び/又は方向で適用されてもよい。このように、例えば、弾性波は細胞又は粒子、又は本明細書で記載される他の種のような種を分離するのに使用されてもよい。
【0036】
いくつかのケースでは、弾性波は異なる振幅又は電力で適用されてもよい。いくつかのケースでは、流体中で生じる圧力変化は、弾性波の電力と相関し得る。例えば、弾性波は少なくとも約0dBm、少なくとも約3dBm、少なくとも約6dBm、少なくとも約9dBm、少なくとも約12dBm、少なくとも約15dBm、少なくとも約20dBm、等の電力を有してもよい。又、弾性波は様々な実施形態でどの適した平均周波数も有してもよい。例えば、弾性波の平均周波数は約100MHz〜約200MHz、約130MHz〜約160MHz、約140MHz〜約150MHz、約100MHz〜約120MHz、約120MHz〜約140MHz、約140MHz〜約160MHz、約160MHz〜約180MHz、又は約180MHz〜約200MHz等、及び/又はそれらの組み合わせでもよい。他の実施形態では、その周波数は、約50Hz〜約100kHz、約100Hz〜約2kHz、約100Hz〜約1,000Hz、約1,000Hz〜約10,000Hz、約10,000Hz〜約100,000Hz等、及び/又はそれらの組み合わせでもよい。いくつかのケースでは、その周波数は少なくとも約10Hz、少なくとも約30Hz、少なくとも約50Hz、少なくとも約100Hz、少なくとも約300Hz、少なくとも約1,000Hz、少なくとも約3,000Hz、少なくとも約10,000Hz、少なくとも約30,000Hz、少なくとも約100,000Hz、少なくとも約300,000Hz、少なくとも約1MHz、少なくとも約3MHz、少なくとも約10MHz、少なくとも約30MHz、少なくとも約100MHz、少なくとも約300MHz、又は少なくとも約1GHz、又はいくつかの実施形態ではそれ以上でもよい。ある例では、その周波数は約1GHz以下、約300MHz以下、約100MHz以下、約30MHz以下、約10MHz以下、約3MHz以下、約1MHz以下、約300,000Hz以下、約100,000Hz以下、約10,000Hz以下、約3,000Hz以下、約1,000Hz以下、約300Hz以下、約100Hz以下等でもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、弾性波はチャネル中の流体の流れに対して、下流方向又は上流方向に適用されてもよく、それはチャネル内の流体流れを増加又は減少させるのに使用することができる。例えば、弾性波はマイクロ流体のチャネルなどのチャネルに対して、そのチャネル内の流体流れの方向に、そのチャネル内の流体流れの反対方向に、又は他の方向に(例えばそのチャネル内の流体流れと垂直に)適用されてもよい。他の実施形態では、弾性波は、チャネルに対して、どの適した角度(例えば、約0°、約5°、約10°、約20°、約30°、約40°、約50°、約60°、約70°、約80°、約90°、約100°、約110°、約120°、約130°、約140°、約150°、約160°、約170°、約175°、約180°等)で適用されてもよい。本明細書で記載するように、この角度に加えて、屈折によって起こる角度変化もあり得ると注意されたい。
【0038】
いくつかのケースでは、2つ以上の弾性波は、例えば細胞又は粒子などの種を分離するように、チャネル内の流体流れを制御するのに適用されてもよい。例えば、(例えば、弾性波が存在しない時の圧力と比較して)第1の弾性波発生器はチャネル内の圧力を増加させるのに使用され、第2はチャネル内の圧力を減少させるのに使用されてもよく、第1の弾性波発生器は流体流れを(例えば、弾性波が存在しない時の流体流れと比較して)増加させるのに使用され、第2の弾性波発生器は流体流れを減少させるのに使用されてもよい、等である。弾性波は、用途に依存して、チャネルの同じ、又は異なる領域に適用されてもよい。例えば、いくつかのケースでは、第1の弾性波及び第2の弾性波は流体の重なる部分に適用されてもよく、又は第1の弾性波はチャネル内の流体の第1の部分に適用されてもよく、及び第2の弾性波はチャネル内の流体の第2の部分に適用されてもよい。もし2つ以上の弾性波が流体に適用されると、弾性波はどの適した順序、例えば同時に、順番に、周期的に等で適用されてもよい。
【0039】
いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、弾性波は、非常に高速で、例えば電気的に制御されてもよく、典型的に非常に短い時間スケールで流体に適用されてもよい。このように、(例えば、チャネル内の)流体の個々の領域は任意の程度に(例えば、流体の他の領域に、それが近い又は隣接するものだとしても、影響を与えることなしに)制御され得る。このように、例えば、単一の種は流体内の他の種から独立して分離されてもよい。いくつかのケースでは、弾性波は、第1の領域に適用することができ、それから弾性波は適用されなくてもよく、又は、異なる強度及び/又は周波数の弾性波が、隣接した又は近くの第2の領域に適用されてもよい。このように、各領域は、例えば分離の目的のために、隣接した又は近くの領域に影響を与えることなしに、独立して制御することができる。
【0040】
一連の実施形態では、特有の応答時間、すなわち弾性波の存在によって生じる流体領域中の変化をみるのに必要な時間は、流体領域がチャネル内の特定の場所を完全に通るのに必要な時間よりも短くてもよく、それによって流体流れの高度の制御が可能になる。このように、細胞又は細胞のような単一の種は他の近くの種に影響を与えることなしに制御され得る。対照的に、マイクロ流体のチャネルのようなチャネル内の流体を制御するための多くの他のシステム又は方法は、典型的に流体の特性又はチャネルの特性に依存し、それは、例えば個々の小滴又は領域が独立して制御することができないような、かなり長い特有の応答時間を有することが多い。
【0041】
さらに、いくつかのケースでは、弾性波は連続的に又は断続的に又は“パルス状に”適用されてもよい。さらに、いくつかのケースでは、弾性波は一定で(すなわち、固定の強度を有して)もよく、又は弾性波は時間内に強度が変化する振幅を有してもよく、例えば弾性波は、弾性波の周波数から独立して変化する振幅を有してもよい。
【0042】
検討するように、弾性波はどの適したチャネルに適用されてもよい。一連の実施形態では、弾性波はマイクロ流体のチャネルなどのチャネル内に含まれる流体に、種を分離するように適用されてもよい。マイクロ流体のチャネルの様々な例は、本明細書で検討される。2つ以上の流体がチャネル内に存在してもよく、いくつかの例では、例えばそれらは、分離相(例えば、並んで(side by side)、第2の流体内に含まれる第1の流体の小滴として、等)として流れる。そのようなチャネルの非限定的な例は、直線状のチャネル、曲がったチャネル、小滴を作るチャネルの形態、等を含む。
【0043】
さらに、いくつかの実施形態では、弾性波は同様の変調周波数、すなわち少なくとも約10Hz、少なくとも約20Hz、少なくとも約30Hz、少なくとも約100Hz、少なくとも約200Hz、少なくとも約300Hz、少なくとも約500Hz、少なくとも約750Hz、少なくとも約1,000Hz、少なくとも約1,500Hz、少なくとも約2,000Hz、少なくとも約3,000Hz、少なくとも約5,000Hz、少なくとも約7,500Hz、少なくとも約10,000Hz、少なくとも約15,000Hz、少なくとも約20,000Hz、少なくとも約30,000Hz、少なくとも約50,000Hz、少なくとも約75,000Hz、少なくとも約100,000Hz、少なくとも約150,000Hz、少なくとも約200,000Hz、少なくとも約300,000Hz、少なくとも約500,000Hz、少なくとも約750,000Hz、少なくとも約1,000,000Hz、少なくとも約1,500,000Hz、少なくとも約2,000,000Hz、又は少なくとも約3,000,000Hz、で適用されてもよい。
【0044】
いくつかのケースでは、弾性波は表面弾性波でもよい。表面弾性波は、櫛形トランスデューサーなどの表面弾性波発生器、及び/又は圧電基板などの材料を用いて作り出されてもよい。一連の実施形態では、圧電基板は、例えば近接した第1又は第2のチャネル、近接した2つ以上のチャネルの接合等、すなわち弾性波が適用されるべき近接した場所を除いて基板から隔離されてもよい。そのような場所で、基板は圧電基板(又は他の材料)と1つ以上の結合領域によって結合してもよい。
【0045】
表面弾性波を作り出すのにどの適した技術が使用されてもよい。例えば、表面弾性波は材料表面に取り付けられた発生器によって作り出されてもよい。ある実施形態では、表面弾性波は、材料表面に沿って移動できる弾性波に電気信号を変換できる櫛形電極(interdigitated electrode)又は櫛形トランスデューサーを用いて作り出され、いくつかのケースでは、表面弾性波の周波数は、櫛形電極又は櫛形トランスデューサーのフィンガー電極(fingers)の繰り返し距離の間隔を制御することによって制御されてもよい。表面弾性波は、圧電基板上に、又は例えば、分離が行われるマイクロ流体の基板内の場所のような特定の場所で、マイクロ流体の基板と結合し得る他の材料上に形成することができる。適切な電圧(例えば正弦の(sinusoidal)又は他の周期的に変化する電圧)は機械的な振動、すなわち表面弾性波又は音波に電気信号を変換する圧電基板に適用される。音波はそれから、例えば材料表面からマイクロ流体の基板に加わる。マイクロ流体の基板では、振動はマイクロ流体の基板におけるマイクロ流体のチャネル内の液体(例えば、細胞又は分離されるべき他の種を含む液体)の中に進み、それは液体内の内部の流動又は散乱を引き起こす。いくつかのケースでは、散乱量は流動よりも大きくてもよい。従って、印加電圧を制御することによって、マイクロ流体のチャネル内の流動及び/又は散乱が制御されてもよく、それはいくつかの実施形態では、マイクロ流体内の種をある方向に向ける又は分離するのに使用されてもよい。
【0046】
櫛形トランスデューサーは典型的に、電極から離れて延在する複数の“フィンガー電極”を含む1つ、2つ、又はそれ以上の電極を含み、少なくともフィンガー電極のいくつかは互いに組み合わさっている(又は櫛形である:interdigitated)。フィンガー電極はどの長さからなってもよく、独立して同じ又は異なる長さを有してもよい。いくつかのケースでは、フィンガー電極は、トランスデューサー上に、規則的に、又は不規則的に間隔をあけて配置してもよい。フィンガー電極は、実質的に平行でもよいが、いくつかの実施形態では、それらは実質的に平行である必要はない。例えば、一連の実施形態では、櫛形トランスデューサーは傾斜櫛形トランスデューサーである。いくつかのケースでは、傾斜櫛形トランスデューサーのフィンガー電極は、例えば
図7に示すように、フィンガー電極が内向きに角度を有する(angled inwardly)ように配列されてもよい。そのようなトランスデューサーの例は例えば、ワイツ(Weitz)らにより2011年8月23日に出願され、WO2012/027366として2012年3月1日に公開された、国際特許出願PCT/US2011/048804、発明の名称“マイクロ流体における弾性波”、及びワイツらにより2012年6月27日に出願された米国仮特許出願第61/665,087号、発明の名称“弾性波を用いた小滴及び細胞などの物質の制御”で見られてもよく、各々はその全体を参照して本明細書に組み込まれる。
【0047】
櫛形電極は典型的に接触していないが互いに組み合わさっている、2つの組み合う櫛形の(comb-shaped)金属電極を含む。電極は例えば、金、銀、銅、ニッケル等いずれの電極材料から形成されてもよい。櫛形電極の動作周波数はいくつかの実施形態では、フィンガー電極の間隔の2倍に対する基板における音波の速度の比率により、決定され得る。例えば、一連の実施形態では、フィンガー電極の繰り返しの距離(repeat distance)は約10マイクロメートル〜約40マイクロメートル、約10マイクロメートル〜約30マイクロメートル、約20マイクロメートル〜約40マイクロメートル、約20マイクロメートル〜約30マイクロメートル、又は約23マイクロメートル〜約28マイクロメートルでもよい。
【0048】
櫛形電極は、圧電基板又は表面弾性波を、例えば結合領域に伝送することができる他の材料上に、配置されてもよい。圧電基板はいずれの適した圧電材料、例えば石英、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ランタンガリウムシリケート、等から形成されてもよい。一連の実施形態では、圧電基板は異方性であり、いくつかの実施形態では、圧電基板はY−カットLiNbO
3(Y-cut LiNbO
3)材料である。
【0049】
圧電基板は、圧電基板(又はその一部)に対する、どの適した電気入力信号又は電圧により活性化し得る。例えば、入力信号は、その周期的に変化する信号が、例えば対応する弾性波を生み出すのに使用されるものでもよい。例えば、信号は正弦波、矩形波、のこぎり波、三角波等でもよい。周波数は、例えば約50Hz〜約100kHz、約100Hz〜約2kHz、約100Hz〜約1,000Hz、約1,000Hz〜約10,000Hz、約10,000Hz〜約100,000Hz等、及び/又はそれらの組み合わせでもよい。いくつかのケースでは、周波数は、少なくとも約50Hz、少なくとも約100Hz、少なくとも約300Hz、少なくとも約1,000Hz、少なくとも約3,000Hz、少なくとも約10,000Hz、少なくとも約30,000Hz、少なくとも約100,000Hz、少なくとも約300,000Hz、少なくとも約1MHz、少なくとも約3MHz、少なくとも約10MHz、少なくとも約30MHz、少なくとも約100MHz、少なくとも約300MHz、又は少なくとも約1GHz、又はいくつかの実施形態ではそれ以上でもよい。ある例では、周波数は約1GHz以下、約300MHz以下、約100MHz以下、約30MHz以下、約10MHz以下、約3MHz以下、約1MHz以下、約300,000Hz以下、約100,000Hz以下、約30,000Hz以下、約10,000Hz以下、約3,000Hz以下、約1,000Hz以下、約300Hz以下、約100Hz以下等でもよい。
【0050】
櫛形電極は、櫛形電極によって生じた弾性波が、圧電基板とマイクロ流体の基板の間の音響結合(又は弾性結合:acoustic coupling)の領域に向けられるように、圧電基板(又は他の適した材料)上に配置されてもよい。例えば、圧電基板及びマイクロ流体の基板は、例えば、オゾンプラズマ処理又は他の適した技術を用いて結合してもよく、又は、物理的に互いに接着して(bonded)もよい。いくつかのケースでは、圧電基板及びマイクロ流体の基板の残りは、少なくとも音響的に(又は弾性的に:acoustically)互いから隔離され、ある実施形態では、圧電基板及びマイクロ流体の基板は物理的に互いに隔離される。いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、隔離のために、櫛形電極及び圧電基板により生じた弾性波は、弾性波が適用されると望まれる領域、例えばチャネル又は接合、を除いて、マイクロ流体の基板に影響を与えないと考えられる。
【0051】
結合領域は、もしそれが存在すれば、いずれの適した形状及び/又はサイズを有してもよい。結合領域は、実施形態に依存して、円形、楕円形、又は他の形状でもよい。いくつかのケースでは、2つ、3つ、又はそれ以上の結合領域が用いられてもよい。一連の実施形態では、結合領域は、マイクロ流体のチャネル内に含まれるようなサイズである。しかし、他の実施形態では、結合領域はより大きいものでもよい。結合領域は、いくつかの実施形態では、チャネル内又はチャネルに近接して配置されてもよい。例えば、参照として本明細書に組み込まれる、ワイツらによる2011年8月23日に出願され、WO2012/027366として2012年3月1日に公開された、国際特許出願PCT/US2011/048804、発明の名称“マイクロ流体における弾性波”を参照されたい。
【0052】
いくつかのケースでは、種の制御は傾斜櫛形トランスデューサーによりなし得る。傾斜櫛形トランスデューサーは、フィンガー電極の全てが互いに平行で電極間の間隙が一定である櫛形トランスデューサーと対照的に、表面弾性波(SAW:surface acoustic wave)がチャネルに適用される場所の比較的高度な制御を可能する。いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、櫛形トランスデューサーによってSAWを適用することができる場所は、少なくとも一部において電極間の間隔によって制御されると考えられる。櫛形トランスデューサーに適用される電位を制御すること、及び、適用されたSAWの共鳴周波数をそれによって制御することによって、櫛形トランスデューサーによって適用されるようなSAW波の位置及び/又は強度はそれに応じて制御されてもよい。従って、例えば第1の電圧を櫛形トランスデューサーに印加することは、その結果として生じる(例えばチャネル内に)適用されるべきSAWの第1の共鳴周波数を生じさせる可能性があり、一方で第2の電圧を印加することは、その結果として生じる(例えばチャネル内の)異なる場所に適用されるべきSAWの第2の共鳴周波数を生じさせる可能性がある。他の例として、複数の結合領域は、例えば、1つ以上の傾斜櫛形トランスデューサーと組み合わせて、使用されてもよい。
【0053】
マイクロ流体の基板は1つ以上のマイクロ流体のチャネルを含む又は規定するどの適した基板でもよい。例えば以下で検討するように、少なくとも様々な非限定的な例係る、マイクロ流体の基板はポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、又は他の適したエラストマーの高分子から形成されてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、種はいくつかの方法で決定又は感知されてもよく、及びその決定に基づいて、種は第1の場所(例えば第1の出口)又は第2の場所(第2の出口)に例えば弾性波を用いて、分離され又は向けられてもよい。種は例えば、種の1つ以上の特性の決定を可能にするような方法で、感知及び又は決定することができる1つ以上のセンサを用いて、種の1つ以上の特性、及び/又は種を含む流体システム(例えば種を囲んでいる液体)の一部の特性を、決定してもよい。種を決定できる特性は当業者によって認識することができる。そのような特性の非限定的な例は、蛍光、分光法(例えば、可視光、赤外光、紫外光等)、放射線、質量、体積、密度、温度、粘度、pH、生物学的物質(例えば、プロテイン、核酸等)などの物質の濃度、等を含む。いくつかのケースでは、センサはプロセッサーと接続されてもよく、そしてこのことが、弾性波を適用させる(又は適用させない)。
【0055】
1つ以上のセンサ及び/又はプロセッサーはチャネル内に存在すると思われる種とセンシングコミュニケーション(sensing communication)にあるように配置されてもよい。本明細書で使用するような“センシングコミュニケーション”は流体システム内の(例えばチャネル内の)種、及び/又は種を含む流体の一部が同じ方法で感知及び/又は決定され得るようないずれの位置にセンサが配置され得ることを意味する。例えばセンサは流体的、光学的又は可視的、熱的、空気圧的、電気的等に、種及び/又は種を含む流体の一部とセンシングコミュニケーションにあり得る。センサは、種を含む流体に近接して配置することができ、例えば、チャネルの壁内に埋め込むことができ又は一体的に接続することができ、又は流体から離れているが、種及び/又は種を含む流体の一部を感知及び/又は決定することができるように、物理的に、電気的に、及び/又は光学的に流体とコミュニーケーションを有して配置することができる。例えば、センサは種を含むチャネルとのいずれの物理的な関係を有さなくてもよいが、赤外線、紫外線、又は可視光などの種又は流体から生じる電磁放射を検出できるように配置されてもよい。電磁放射は種によって生じてもよく、及び/又は流体の他の部分から(又は流体の外部から)生じてもよく、例えば吸収、反射、散乱、屈折、蛍光、燐光、極性変化、相変化、時間に応じた変化等を通して、種の1つ以上の特性を示すための方法のように、種及び/又は種を含む流体の一部と相互作用してもよい。例として、レーザーが種及び/又は種を囲む流体に向けられてもよく、種及び/又は囲んでいる流体の蛍光が決定されてもよい。又、本明細書で使用するような“センシングコミュニケーション”は直接的又は間接的でもよい。例として、種からの光はセンサに向けられてもよく、又はセンサに向けられる前にまず光ファイバーシステム、ウェイブガイド等を通して向けられてもよい。
【0056】
本発明における有用なセンサの非限定的な例は光学的、又は電磁的に基づいたシステムを含む。例えば、センサは(例えばレーザーによって励起された)蛍光センサ、(カメラ又は他の記録デバイスを含んでもよい)顕微鏡システム、等でもよい。他の例として、センサは電気的なセンサ、例えば、電場又は他の電気的特性を決定できるセンサでもよい。例えば、センサは種及び/又は種を含む流体システムの部分の電気容量、インダクタンス等を検出し得る。
【0057】
本明細書で使用するように、“プロセッサ”又は“マイクロプロセッサ”は、例えば数式又は電気回路又はコンピュータ回路を用いて、1つ以上のセンサから信号を受信できる、信号を記録できる、及び/又は(例えば上述のような)1つ以上の応答を指示できる、任意の構成又はデバイスである。信号はセンサにより決定される環境因子を示したどの適した信号、例えば空気圧の信号、電気的な信号、光学的な信号、機械的な信号等でもよい。
【0058】
本発明の様々な態様を理解するのに役立つであろう様々な定義がここで与えられる。これらの定義が点在した以下のさらなる開示により、本発明がより完全に記載されるであろう。
【0059】
本明細書で使用するように、“流体”という用語は、一般的に、流動し、その容器の輪郭に合う傾向がある物質、すなわち液体、気体、粘弾性流体などを言う。典型的に、流体は静的せん断応力に耐えることができない材料であり、せん断応力が適用されるとき、流体は連続的且つ永久的な歪み(distortion)を受ける。流体は流動を可能にする任意の適した粘度を有し得る。2つ以上の流体が存在する場合、各流体は、流体間の関係性を考慮することにより、当業者によって、本質的に任意の流体(液体、ガス等)の中から独立して選択され得る。流体は各々混和性又は非混和性でもよい。例えば、2つの流体は、流体の流動形成の時間枠内、又は反応又は相互作用の時間枠内で本質的に非混和性であるように選択することができる。一部がかなりの期間液体のままである場合、流体はそのとき、本質的に非混和性であるはずである。接触及び/又は形成後、分散部分が重合等によりすぐに固まる場合、流体は非混和性である必要はない。当業者は、本発明の技術を実施するために、接触角測定等を用いて適切な混和性又は非混和性の流体を選択できる。
【0060】
本明細書で使用されるように、第2の物質だけを通って第1の物質の周りに閉じた平面ループを描くことができる場合、第1の物質は第2の物質により“囲まれて”いる。第2の物質だけを通った閉じたループを、方向(ループの向き)に関係なく第1の物質の周りに描くことができる場合、第1の物質は“完全に囲まれて”いる。1つの実施形態では、第1の物質は細胞であり、例えば媒体中に懸濁されている細胞は媒体によって囲まれている。他の実施形態では、第1の物質は粒子である。さらなる他の異実施形態では、第1の物質は流体である。又、第2の物質はいくつかのケースでは(例えば懸濁液中、エマルション中等のように)流体でもよく、例えば、親水性液体は疎水性液体中に懸濁されてもよく、疎水性液体は親水性液体中に懸濁されてもよく、ガスの泡は液体中に懸濁されてもよい等である。典型的に、疎水性液体及び親水性液体は互いに本質的に非混和性であり、その親水性液体は、水に対して、疎水性液体が有する親和性よりも、大きな親和性を有する。親水性液体の例は、これに限定されないが、水、及び細胞又は生態媒質(biological media)、食塩水などの水を含む他の水溶液、及びエタノールなどの他の親水性液体、を含む。疎水性液体の例は、これに限定されないが、炭化水素などのオイル、シリコーンオイル、鉱油、フッ化炭素のオイル、有機溶媒等を含む。適した液体の他の例は、以前に記載されてきた。
【0061】
同様に、本明細書で使用する“小滴”は、第2の流体によって完全に囲まれている第1の流体の孤立した部分である。小滴は必ずしも球状ではないが、例えば外部環境に依存して、他の形状をとってもよいことを注意されたい。1つの実施形態では、小滴は、小滴が位置している流体流れに垂直方向のチャネルの最大寸法と、実質的に等しい最小断面寸法を有する。
【0062】
述べたように、全ての実施形態ではないが、いくつかでは、本明細書で記載されるシステム及び方法は1つ以上のマイクロ流体の構成(又はマイクロ流体の部品:microfluidic components)、例えば、1つ以上のマイクロ流体のチャネルを含んでもよい。本明細書で使用される“マイクロ流体”は1mm未満の断面寸法を有し、及び長さ対最大断面寸法の比が3:1である少なくとも1つの流体のチャネル(fluid channel)を含むデバイス、装置、又はシステムを言う。本明細書で使用される“マイクロ流体のチャネル”はこれらの基準を満たすチャネルである。チャネルの“断面寸法”はチャネル内の流体流れの方向に対して垂直方向に測定される。従って、本発明のマイクロ流体の実施形態において、流体のチャネルのいくつか又は全ては、2mm未満の最大断面寸法を有してもよく、あるケースでは、1mm未満であってもよい。一連の実施形態では、本発明の実施形態を含む全ての流体のチャネルは、マイクロ流体であるか、又は2mm又は1mm未満の最大断面寸法を有する。ある実施形態では、流体のチャネルは一部において単一構成(例えばエッジのある基板又は型単位(molded unit))で形成されてもよい。もちろん、より大きなチャネル、チューブ、チャンバー、貯水池(reservoirs)、等は流体を蓄える及び/又は本発明の様々な構成又はシステムに流体を運ぶのに使用することができる。一連の実施形態では、本発明の実施形態を含むチャネルの最大断面寸法は、500ミクロン未満、200ミクロン未満、100ミクロン未満、50ミクロン未満、又は25ミクロン未満である。
【0063】
本明細書で使用される“チャネル”は流体の流れを少なくとも部分的にある方向に向ける物品(基板)の上又は中の特徴を意味する。チャネルは任意の断面形状(円、楕円、三角、不規則のもの、四角又は長方形、等)を有してもよく、及び覆われて(又は被覆されて:covered)もよく又は覆われなくてもよい。完全に覆われている実施形態では、チャネルの少なくとも一部は完全に閉じた断面を有してもよく、又は全てのチャネルが、入口及び/又は出口を除いた全ての長さに沿って完全に閉じられてもよい。又、チャネルは少なくとも2:1のアスペクト比(長さ対平均断面寸法)を有してもよく、さらに典型的には少なくとも3:1、5:1、10:1、15:1、20:1又はそれ以上でもよい。開いたチャネルは概して、流体輸送にわたる制御を容易にする特性、例えば構造的な特性(細長い凹み(indentation))及び/又は物理的又は化学的な特性(疎水性対親水性)又は流体上に力(例えば抑止力(containing force))を及ぼすことができる他の特性を含むだろう。チャネル内の流体は部分的に又は完全にチャネルを満たしてもよい。開いたチャネルが使用されるいくつかのケースでは、流体は、例えば表面張力(すなわち凹状又は凸状のメニスカス)を用いて、チャネル内に固定されてもよい。
【0064】
チャネルは、例えば、約5mm未満又2mm未満、又は約1mm未満、又は約500ミクロン未満、約200ミクロン未満、約100ミクロン未満、約60ミクロン未満、約50ミクロン未満、約40ミクロン未満、約30ミクロン未満、約25ミクロン未満、約10ミクロン未満、約3ミクロン未満、約1ミクロン未満、約300nm未満、約100nm未満、約30nm未満、又は約10nm未満の、流体流れに対して垂直方向の最大寸法を有する、いずれのサイズでもよい。いくつかのケースでは、チャネルの寸法は、流体が物品又は基板を通して自由に流れるように選択されてもよい。チャネルの寸法は、例えば、一定の容量又はチャネル内の流体のリニアな(又は線形の:linear)流量を可能にするように選択されてもよい。もちろん、チャネルの数及びチャネルの形状は当業者によって変えることができる。いくつかのケースでは、2つ以上のチャネル又は毛細管が使用されてもよい。例えば、2つ以上のチャネルが使用されてもよく、それらは互いに内部に配置され、互いに隣接して配置され、互いに交差して配置される。
【0065】
一連の実施形態では、種は細胞又はプロテイン、ウイルス、高分子、粒子などの他の物質である。本明細書で使用されるように“細胞”は、生物学で使用されるような通常の意味が与えられる。細胞はどの細胞でも細胞種でもよい。例えば、細胞はバクテリア、又は他の単一細胞の有機体(organism)、植物の細胞、又は動物の細胞でもよい。細胞が単一細胞の有機体である場合、そのとき細胞は例えば、原生動物、トリパノソーマ、アメーバ、酵母細胞、藻類等でもよい。細胞が動物の細胞である場合、細胞は例えば、無脊椎動物の細胞(例えば、ミバエからの細胞)、魚類の細胞(例えばゼブラフィッシュの細胞)、両生類の細胞(例えばカエルの細胞)、爬虫類の細胞、鳥類の細胞、又は霊長類の細胞、牛の細胞、馬の細胞、豚の細胞、山羊の細胞、犬の細胞、猫の細胞、又はラットやネズミなどの齧歯動物の細胞、などの哺乳類の細胞でもよい。細胞が多細胞性の有機体からのものである場合、細胞はその有機体のどの部分からのものでもよい。例えば、細胞が動物からのものである場合、細胞は心臓の細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、肝細胞、軟骨細胞、神経細胞、骨細胞、筋肉細胞、血液細胞、内皮細胞、免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞、マクロファージ、好中球、好塩基球、肥満細胞、好酸球)、幹細胞等でもよい。いくつかのケースでは、細胞は遺伝子工学的に構築された(genetically engineered)細胞でもよい。ある実施形態では、細胞はチャイニーズハムスターの卵巣(“CHO”)の細胞又は3T3細胞でもよい。
【0066】
様々な材料及び方法は、本発明のある態様に係る、本発明のシステム及びデバイスの上述の構成のいずれを形成するのに使用されてもよい。いくつかのケースでは、選択された様々な材料は、それらを様々な方法に役立てる。例えば、本発明の様々な構成は固体材料から形成することができ、そのうちチャネルは微細加工、スピンコーティング及び化学気相堆積(chemical vapor deposition)などの薄膜堆積処理、レーザー加工、フォトリソグラフィック技術、湿式化学又はプラズマ処理を含むエッチング方法、等を介して形成することができる。例えば、サイエンティフィック・アメリカン 248:44−55、1983年(エンジェルら)(Scientific American, 248:44-55, 1983 (Angell, et al)を参照されたい。1つの実施形態では、流体システムの少なくとも一部はシリコンチップにおけるエッチングの特徴(又はエッチングの特性:etching features)によってシリコンから形成される。シリコンからの本発明の様々な流体システム及びデバイスの正確で効率的な加工技術は既知である。他の実施形態では、本発明のシステム及びデバイスの様々な構成はポリマー、例えば、ポリジメチルシロキサン(“PDMS”)、ポリテトラフルオロエチレン(“PTFE又はテフロン”)等などのエラストマーのポリマーから形成することができる。
【0067】
異なる構成物は異なる材料から加工され得る。例えば、底壁及び側壁を含む基盤部分はシリコン又はPDMSなどの不透明な材料から加工することができ、上部は、観察及び/又は流体プロセスの制御のために、ガラス又は透明なポリマーのような、透明な又は少なくとも部分的に透明な材料から加工され得る。構成は、材料を支持する基盤が正しい所望の機能性を有さない場合、所望の化学機能性を内部のチャネル壁(interior channel walls)に接触する流体にさらすためにコーティング(又は被覆:coated)され得る。例えば、構成は、他の材料でコーティングされた内部のチャネル壁を有して、説明されるように加工することができる。本発明のシステム及びデバイスの様々な構成を加工するのに使用される材料、例えば、流体のチャネルの内部壁をコーティングするのに使用される材料は、悪影響を与えない又は流体システムを通る流体流れにより悪影響を受けない材料、例えば、デバイス内で使用されるために、流体の存在下において化学的に不活性である材料の中から望ましく選択されてもよい。
【0068】
1つの実施形態では、本発明の様々な構成はポリマーの及び/又は柔軟な及び/又はエラストマーの材料から加工され、成型(例えばレプリカ成型、射出成型(injection molding)、注型成型(cast molding)等)を介した加工を容易にする、硬化性流体(hardenable fluid)から都合良く形成することができる。硬化性流体は、流体のネットワークの中で及び流体のネットワークと共に使用することを意図した、流体を含む及び/又は輸送する事ができる固体へ、固化を引き起こすことができる、又は自発的に固化することができる、本質的に任意の流体であり得る。1つの実施形態では、硬化性流体はポリマーの液体又は液体ポリマーの前駆体(すなわち“プレポリマー”)を含む。例えば、適切なポリマーの液体は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、又は、融点以上に加熱されたそのようなポリマーの混合物を含むことができる。他の例として、適切なポリマーの液体は適切な溶媒中に1つ以上のポリマーの溶液を含んでもよく、その溶液は例えば、蒸発によって溶媒を除去すると固体のポリマー材料を形成する。例えば溶融状態から又は溶媒の蒸発によって固化することができるそのようなポリマー材料は、当業者にとって周知である。その多くがエラストマーでる様々なポリマー材料は、型又は元型(mold masters)の1つ又は両方がエラストマー材料からなる実施形態にとって適当であり、型又は元型を形成するのに適当でもある。そのようなポリマーの例の非限定的なリストは、シリコーンポリマー、エポキシポリマー、及びアクリレートポリマーの一般的な種類(classes)のポリマーを含む。エポキシポリマーは一般的にエポキシ基、1、2−エポキシド、又はオキシランと称される3員環のエーテル基の存在によって特徴付けられる。芳香族アミン、トリアジン、及び脂環式骨格に基づく化合物に加えて、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルを使用することができる。他の例では、周知のノボラックポリマーを含む。本発明に係る使用のために適したシリコーンエラストマーの非限定的な例はメチルクロロシラン、エチルクロロシラン、フェニルクロロシラン等などのクロロシランを含む前駆体から形成されるものを含む。
【0069】
例えば、一連の実施形態では、好ましくは、例えばシリコーンエラストマーのポリジメチルシロキサン(又はPDMS:polydimethylsiloxane)などのシリコーンポリマーである。PDMSの非限定的な例はミシガン州ミッドランドのダウケミカル社による商標Sylgard、具体的にSylgard182、Sylgard184、及びSylgard186として販売されているものを含む。PDMSを含むシリコーンポリマーは、本発明のマイクロ流体の構造の加工を単純化する様々な有益な特性を有する。例えば、そのような材料は安価で、容易に利用でき、プレポリマーの液体から熱硬化を介して、固化することができる。例えば、PDMSは典型的にプレポリマーの液体を、例えば約65℃から約75℃までの温度に、例えば約1時間さらすことで硬化できる。又、PDMSなどのシリコーンポリマーはエラストマーであってもよく、従って本発明の一定の実施形態で必要な、比較的高アスペクト比のかなり小さい特徴を形成するのに役立ち得る。柔軟な(例えばエラストマーの)型又は元型はこの点において利点があり得る。
【0070】
本発明のマイクロ流体構造などの構造をPDMSなどのシリコーンポリマーから形成する1つの利点は、そのようなポリマーの、例えば、エアプラズマなどの酸素を含むプラズマにさらすことで酸化される能力であり、それは酸化された構造がそれらの表面に、他の酸化されたシリコーンポリマーの表面と、又は様々な他のポリマーの及びポリマーではない材料の酸化された表面と架橋することができる化学基を含むためである。従って構成を加工することができ、次に酸化することができ、別の接着剤又は他のシーリング(sealing)方法を必要とすることなしに、他のシリコーンポリマーの表面、又は酸化されたシリコーンポリマー表面と反応する他の基板表面に、本質的に不可逆的にシール(sealed)することができる。ほとんどのケースでは、シールを形成するように補助的な圧力を適用する必要なしに、酸化されたシリコーン表面を他の表面に接触させることでシーリング(sealing)を容易になし得る。すなわち、予備酸化された(pre-oxidized)シリコーン表面は適した接着面(mating surface)に対してコンタクト接着剤(contact adhesive)として機能する。特に、それ自体に不可逆的にシールできることに加えて、酸化されたPDMSなどの酸化されたシリコーンは又、それとは別の、例えばガラス、ニオブ酸リチウム、ケイ素、酸化ケイ素、石英、窒化ケイ素、ポリエチレン、ポリスチレン、ガラス状炭素、及びエポキシポリマーを含む様々な酸化された材料と不可逆的にシールすることができ、それはPDMS表面と同様の方法で(例えば、酸素を含むプラズマにさらすことを介して)酸化されてきた。本明細書において有益な酸化及びシーリングの方法、並びに全ての成型技術は当技術分野で記載されている。
【0071】
酸化されたシリコーンポリマーから本発明のマイクロ流体構造(又は流体と接触する内部表面)を形成する他の利点は、(親水的な内部表面が望まれる場合)これらの表面が典型的なエラストマーのポリマーの表面よりかなり親水的であり得ることである。そのような親水性のチャネルの表面は、従って、典型的な、酸化していないエラストマーのポリマー又は他の疎水性材料からなる構造ができることと比較して、水溶液でより簡単に満たされ、湿潤し得る。
【0072】
1つの実施形態では、底壁は1つ以上の側壁又は上壁、又は他の構成とは異なる材料から形成される。例えば、底壁の内部表面はシリコンウエハ又はマイクロチップ、又は他の基板の表面を含むことができる。他の構成を、上述のように、そのような代替基板にシールすることができる。シリコーンポリマー(例えばPDMS)を含む構成を異なる材料の基板(底壁)にシールすることを望む場合、基板は酸化されたシリコーンポリマーが不可逆的にシールすることができる材料群(例えば酸化されたガラス、ケイ素、酸化ケイ素、石英、窒化ケイ素、ポリエチレン、ポリスチレン、エポキシポリマー、及びガラス状炭素の表面)から選択され得る。又は、これに限定されないが別の接着剤(又は分割式接着剤:separate adhesive)、熱接着、溶剤接着、超音波溶接等の使用を含む他のシーリング技術は当業者にとって明らかであろうものとして使用され得る。
【0073】
以下の文書を本明細書にその全体を参照して組み込む。米国特許出願公開番号2013/0213488号及び2015/0192546号、国際特許出願公開番号WO2012/027366号、WO2014/004630号、及びWO2014/066624号、及び米国特許出願62/017,301号。さらに、以下の文書を本明細書にその全体を参照して組み込む。米国特許第5,512,131号、第6,355,198号、第8,765,485号、及び第9,038,919号、米国特許出願公開番号2005/0172476号、2007/0003442号、及び2010/0248064号、国際特許出願公開番号WO96/29629号、WO01/89787号、WO2004/002627号、WO2004/091763号、及びWO2005/021151号。さらに2015年8月27日にワイツらによって出願された米国仮特許出願62/210,899号、発明の名称“弾性波による分離”を本明細書にその全体を参照して組み込む。
【0074】
以下の例は、本発明のある実施形態の説明を意図するが、本発明の全範囲を例示する物ではない。
【実施例1】
【0075】
垂直フローフォーカシング(vertical flow-focusing)の接合及び天井の傾斜溝(又は傾斜された天井の溝:slanted ceiling groove)を利用することで、本実施例は表面弾性波(又はSAW:surface acoustic wave)による細胞分離の強化(又は向上:enhancement)を説明する。これらのデバイスは、事象率(event rate)及び純度の観点から、人工FACS(又は人工蛍光活性化細胞分離装置:art fluorescence-activated cell sorters)の状態に届く性能レベルに到達することができ得る。本実施例は商業的に利用できるFACS(又は蛍光活性化細胞分離装置)に届く比率で細胞を分けるマイクロ流体細胞分離装置(microfluidic cell sorter)を説明する。このデバイスは、基板平面に垂直に配向したSAWの成分を利用してSAWのトランスデューサーの能力を強化するように、天井の傾斜溝を有する3次元フローフォーカシングノズル(three-dimensional flow-focusing nozzle)を組み込む。本実施例は、デバイス性能の条件(conditions)を決定し、これらの動作原理(principles)を使用して細胞分離装置を実施する。デバイスは9000events/sのレートで55%の純度を有する分離を達成し、1000events/sで動作する間90%の純度を生み出す。
【0076】
いずれの理論にも拘束されることを望むものではないが、SAWはマイクロ流体デバイス内の液体の流れに影響を与えるとき、それは、液体中で縦の弾性波を形成して屈折すると考えられる。細胞を偏向させることができるのはこの弾性波である。SAWに対する屈折角はレイリー角θ
Rとして知られ、液体中の音速v
l及びSAWの速度v
sに依存し、スネルの法則によれば、sinθ
R=v
l/v
sとなる。SAWのマイクロ流体に使用される材料において、SAWは基板表面に沿って、液体中で弾性波が伝播するよりも速く移動し、そのためレイリー角は小さく、屈折した波は基板平面よりも、基板表面の垂直方向に近くに向けられる。結果として屈折した弾性波の垂直成分は、一般的に平行成分よりも大きい。又、リソグラフィ技術により作られるマイクロ流体のチャネルは通常2次元であるマスクにより規定されるため、基板平面は流体のチャネルの設計を制約する。さらにマイクロ流体デバイスはリソグラフィの平面が基板平面に平行になるように組み立てられる。従って、ほとんどのマイクロ流体デバイスは、基板に平行な弾性波成分を粒子の搬送に利用する。
【0077】
基板に垂直な弾性波成分を有効に利用するために、本実施例は、多層のマイクロ流体デバイスを使用する。分離のためにSAWの垂直成分を有効に生かす多層のSAWのデバイスは、利用できる電力のより多くを細胞を作動させるのに向けるため、既存の設計と比較して向上した(又は強化された:enhanced)分離性能を得ることができる。
【0078】
本実施例は、
図1に示す細胞分離の用途に弾性波の垂直成分を利用する多層デバイスの幾何形状を実施する。ここで、傾斜した(tapered)櫛形トランスデューサー(interdigital transducer)(IDT)は粒子、細胞、又は他の種を作動可能なSAWを生み出すことができる。(本実施例と次の実施例では単なる例示として細胞が使用され、説明を意図しており、非限定的である。)傾斜IDTの設計では、電極のピッチによって規定される共鳴波長はトランスデューサーに沿って変化するため、様々な周波数によりトランスデューサーに沿った異なる位置でSAWを発生し得る。傾斜IDTの傾斜は、規定の周波数で共鳴するトランスデューサーの面積を制限することで、SAWの開口を決定する。
図1Aに示すように、SAWがチャネル中の液体に屈折する前に、SAWが移動しなければならない距離を最小化することで、液体に輸送させる電力量を増加させるように、IDTは、マイクロ流体デバイスの分離チャネル(sorting channel)に直接接して配置される。IDTのフィンガー電極はSAWによって運ばれる電力が途中でデバイスに漏れることを防ぐように、空隙の下に位置づけられる。マイクロ流体デバイスの流体のチャネルはマイクロ加工の特徴を含み、それによりデバイスは弾性波の垂直成分、天井の傾斜溝、及び垂直フローフォーカシングノズル(vertical flow-focusing nozzle)を利用することができる。IDT及び分離チャネル、並びに空隙と関連したそれらの位置は
図1Bに示される。
【0079】
傾斜溝は、天井の溝の高さ、溝の長さに沿った流体流れの高さにより強く変化する速度プロファイルを有する流れを生み出すが、一方で分離チャネルの底の流れは、主に依然として摂動されない(unperturbed)ままである。この結果、弾性波は細胞をチャネルの上部に押しやり、それらは溝内の流れと相互作用するため、弾性波の垂直成分を生かす(harnesses)のは傾斜溝である。従って、溝は、細胞が分離チャネルを通過する高さが、それが不要か保持する(retained)か決めるのを確保する。傾斜溝は
図1Cにおいてより詳細に示される。傾斜溝は、目標の細胞のみが溝と相互作用するように、垂直フローフォーカシングノズルと対でなければならない。垂直フローフォーカシングノズルの細胞入口チャネル(cell inlet channel)は、シース液(sheath fluid)を運ぶチャネルよりも低い高さで加工される。シース液チャネル(sheath channel)は分離チャネルへの入口で細胞入口(又は細胞の入り口:cell inlet)と交差するとき、シース液は細胞の流れを横方向に及び垂直方向に、分離チャネルの底の狭いスレッドに絞る。シース液チャネルは分離チャネルとY字型を形成し、ノズルのすぐ後の停滞場所を取り除く。ノズルはチャネルの正中線から相殺され(又はオフセットされ:offset)、そのため流量変化又は他の予測できない摂動(perturbations)により、細胞は不正に保持チャネル(retention channel)に入らないだろう。ノズルの幾何形状は
図1Dに示される。
【0080】
表面弾性波(又はSAW:surface acoustic waves)がない状態では、デバイスを通過する細胞は天井の溝と相互作用せず、それは分離チャネル、及びデバイスから排出口(waste outlet)まで摂動されないで直接通過する。対象の細胞が検出されるとき、SAWのパルスが加えられ、その結果として生じる弾性波の垂直成分が粒子を分離チャネルの上部へ押しやり、それは移流により分離チャネルを横切って運ばれる。すなわちこの細胞は、そのとき保持出口(retention outlet)を通してデバイスを抜け出て、それは回収され得る。流れ又は粒子を向かわせるのに傾斜溝のアレイを使用する以前の傾斜溝付マイクロ流体デバイスと対照的に、ここでは、細胞と溝との相互作用はSAWのパルスの用途に依存する。すなわち細胞は完全に溝に向けられ、単一の溝は(2つ以上の溝を使用することもできるが)所望の効果を達成するのに十分である。傾斜溝の角度は流れを作り出し、それにより、所望の粒子が垂直な障壁の後方に固定されるという設計に仕掛けるのとは異なり、細胞が分離されるように、持続的にデバイスから外へ流れるのを確保する。結果として、これは高速の細胞分離のために独自に適合したデバイスの幾何形状を提供する。
【0081】
図1は、この特定の実施例において使用される溝強化細胞分離(groove-enhanced cell sorting)の設計の概略図を示す。ここでは、流体のチャネル及び櫛形トランスデューサー(又はIDT:interdigital transducer)(左/中央のバー)の相対位置が示される(
図1A)。金属のパッド電極 (左端)はIDTのフィンガー電極とバスバー電極を通して連結する。流体のチャネルは細胞入口(中央上)及び2つのシース液入口(sheath inlet)(左上及び右上)並びに排出口(右下)及び保持出口(右下)を有する。拡大図はフローフォーカシングノズル(左)、分離チャネル(中央)、及び傾斜溝(分離チャネルの上方)、及び傾斜IDTのフィンガー電極(底部)を示す。フローフォーカシングノズルは2つのシース液の流れ(sheath flow)及び細胞入口が合流する場所に配置される。チャネルは傾斜溝の後に分岐する。上部のチャネルは保持出口に通じ、一方で下部の出口は排出口に通じる(
図1B)。傾斜溝及びノズルの設計のさらなる詳細は
図1C及び
図1Dでそれぞれ与えられる。
【実施例2】
【0082】
本実施例では、加えられたSAWパルスが目標の細胞を保持出口に再度向かわせることに通常成功する条件を決定することにより、細胞分離の用途に対する傾斜溝付デバイス(slanted groove device)の能力が試験された。試験の原則として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から作られ、幅50マイクロメートル、高さ25マイクロメートルの垂直フローフォーカシングノズル、幅250マイクロメートル、高さ50マイクロメートルの分離チャネル、及び幅120マイクロメートル、分離チャネルから25マイクロメートル上方に位置し(例えばそれは細胞を含むことができる)、及び全体の流れ方向から60°傾いている長方形の溝を有する、デバイスが使用された。これらの寸法を限定する意図はない。対象の細胞を、例えば蛍光により検出し、個々の細胞の軌道が高速カメラを用いてとらえられる度に、その機器はSAWパルスのトリガーとなる。結果として生じる各映像は、目標の細胞の軌道を抜粋して分析された。すなわち与えられる分離の事象として、所望の細胞が保持出口を通して分離チャネルを出る場合は成功であり、又は所望の細胞が排出口を通して分離チャネルを出る場合は失敗であるとみなした。
【0083】
蛍光がない細胞が分離チャネルを通して排出口まで進むことを示す細胞の進路、及びうまく溝に押しやられ、その次に溝の長さに沿って保持出口まで移動する目標の細胞を
図2に示す。試験されたパラメーターの各々にとって、デバイス性能と矛盾しない(又は一致する:consistent)閾値は、測定された事象の少なくとも90%が成功であることが最低値として規定される。各分離条件の閾値は少なくとも48の個々の事象を用いて独立した3日の実験で決定される。これらの実験は異なる条件下で本技術のロバスト性及び再現性を評価する。
【0084】
図2は傾斜溝が表面弾性波(SAW)の作動を強化させることを示す。2つの単一細胞の進路は、分離チャネルの上方25マイクロメートルの位置にある傾斜溝を有するデバイスからとらえられる。1つのケースでは、分離パルスが加えられず(
図2A)、一方他のケースでは、パルスが適用される(
図2B)。もしSAWが加えられない場合、細胞は細胞相の流体のかたまりとして、同じ軌道を続ける。細胞は分離チャネル及び傾斜溝の下を通過し、偏向されることなく、排出チャネル(右下)を通ってデバイスを出る。SAWパルスが適用される時、細胞は傾斜溝の方に偏向され、そこでそれは溝内のシース液の流れによって分離チャネルを横切って運ばれる。分離された細胞は横方向に150マイクロメートル以上移動し、保持出口(右上)を通ってデバイスを出る。細胞相の流体はリン酸緩衝生理食塩水のシース液相とオプティプレップを含む細胞相の間の屈折率差により可視である。ここで示される細胞の進路は高速カメラで11,267fpsでとらえた約20フレームの投影である。スケールバーは50マイクロメートルを表す。
【実施例3】
【0085】
本実施例は、様々な異なるRF電力レベル及び細胞種に対して再現性よく細胞を分離チャネルに作動させるように、傾斜溝付デバイスに要求されるSAWパルスの最小長さを決定する。SAWを生み出すのに使用される高周波(RF)電力は増加されるにつれて、十分なエネルギーを与えてより短いパルスが細胞を再度溝に向かわせる。20マイクロ秒程のパルスで細胞を効果的に作動させることができる。粘着性及び非粘着性の細胞種のモデルとして、
図3Aに示すように、細胞は、同様のSAWパルスのパラメーターを有して再現性よく溝に偏向される。しかし、1つの細胞の線は一貫してその他の細胞より弱い偏向のためのエネルギーを得ており、それは2つの細胞の線がそれらの平均サイズ又は音響コントラスト(acoustic contrast)における固有の違いを有し得ることを示唆する。それにもかかわらず、傾斜溝付デバイスは粘着性及び非粘着性の細胞の両方を作動させることができ、その作動が効果的となるパラメーターの幅は高速分離の用途に適合する。
【0086】
本実施例では、総流量は分離処理における平均流速の効果を決定するために変化された。各流量に対して、SAWパルスの長さは50マイクロ秒で一定であり、シース液の流れに対する細胞相の比率も又一定に固定された。印加された電力は変化され、細胞が矛盾なく成功して作動した事に対する最小電力が記録された。
【0087】
細胞の偏向が弾性波パルスにさらされる持続期間によって制限されるため、低流量では、閾値電力と流量は本質的に相関しなかったが、より高い流量では、流量と印加された電力の間に相関があった。SAWパルスの閾値電力と全体のデバイスの流量の間の関係を
図3Bに示す。これらの結果は、分離の効果は広範囲の細胞の速度でロバストがあることを示す。
【0088】
この設計における細胞の作動への溝の幾何形状の影響は、溝の幅、高さ、及び角度を独立して変化させることで定量化された。実験の各セットで、溝の1つの寸法のみが変化され、分離に要求される閾値電力が測定され、一方で流量及び分離パルスの長さ及び他の溝の寸法は全て固定されたままであった。
図3Cに示すように、溝の幅を広くするにつれて細胞を溝内の流れと相互作用させるのにより弱い電力が必要であった。全く溝が無くても又はかなり狭い溝で垂直フローフォーカシングノズルを用いて細胞を分離することができるが、
図3Dに示すように、良好な分離結果は25マイクロメートルの高さで加工された溝で達成された。異なる溝の角度は分離に要求される閾値電力にあまり効果がみられなかった。溝の効果的な隙間(又は開口:aperture)における変化により、又は低角度の溝中の流速がより高速であるため、わずかな変化があり得たが、これらは測定誤差の範囲内であり、分離に要求される閾値電力に与える効果は非常に小さかった。
【0089】
これらの結果は、溝の角度ではなく、溝の深さと幅の両方が幾何形状の調整パラメーターを与え、それは、SAWの作動後に、細胞と溝との相互作用に影響を及ぼすことができる。
【0090】
図3は溝強化デバイス(又は溝で強化されたデバイス:groove-enhanced device)の細胞分離性能を示す。傾斜溝付分離デバイスは広範囲の動作条件で、細胞を確実に作動させた。
図3の各プロットにおける記号は3つの独立した閾値の平均を中心とし、一方でエラーバーは閾値の全ての幅を示す。エラーバーが見えない点では、マーカーのサイズがエラーバーの範囲を超える。所定の細胞種を偏向させるのに必要なパルス長(又はパルスの長さ:length of the pulse)は印加されるRF電力が減少するにつれて増加する。デバイスは、粘着性のイヌ腎臓尿細管上皮細胞由来(Madin-Darby canine kidney)(MDCK;白抜きの記号)の細胞及び非粘着性の慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia)(K−562;黒塗りの記号)の細胞の両方を、高速細胞分離を達成するのに十分な性能レベルで作動させる(
図3A)。流量が変化するにつれて、分離に要求される閾値電力は、流量が低い範囲の場合を除き、増加し、それにより、分離に必要な最小電力量があったことが明らかとなる(
図3B)。分離のための閾値電力は溝幅が広くなるにつれて直線的に減少した(
図3C)。電力閾値は溝の高さが増加するにつれて非単調に変化した(
図3D)が、分離は最も高さのある試験溝の時に最も低い要求電力で行われる。
【実施例4】
【0091】
本実施例では、溝強化細胞分離装置(又は溝で強化された細胞分離装置:groove-enhanced cell sorter)は細胞の混合物から蛍光細胞を分離することにより現実的条件下で動作された。各実験では、参照ライブラリは、既知の細胞密度及び蛍光K−562細胞の一部(又はフラクション:fraction)で準備された。傾斜溝付分離装置は蛍光細胞のみ抜き出す。デバイスは、これらのパラメーターがどのように分離装置の性能に影響を与えるだろうか測定するように、2つの異なるシース液の流量及び2つの異なる溝の幅で動作された。精製されたサンプルは収集され、細胞の純度の独立した測定を得るように回収された細胞は共焦点顕微鏡を用いて撮像される。分離された一部の純度の、分離装置が動作された事象率への依存性を明らかにするために、このプロセスは同じサンプル流量で、様々な細胞密度で参照ライブラリのために繰り返された。
図4に示すように、分離装置は低い事象率で高い純度を達成することができたが、純度は細胞濃度が増加するにつれて直線状にみえる傾向で減少した。
【0092】
全ての傾向は直線にフィッティング(fits)し、それは93%の純度の軸と交差し、−4.3%/kHzの傾きを有する。このデバイスはSAWの電力の比較的高いレベルを使用したが、分離された細胞の一部の実行可能性は高いままであり、96%以上である。一見して、全てのデータのセットは適切に直線にフィッティングするが、そのフィッティングは異なる流量条件下又は異なる溝幅を用いたデバイスの動作から生じるいずれの効果を平均化する。
【0093】
異なる流量条件及び溝幅が回収されたサンプル純度への最小の影響を有するかどうか決定するために、まずシース液の流量により、次に溝幅によりデータがビニングされ(又はひとまとめに取り扱われ:binned)、各パラメーターの残差の分布、すなわち与えられたデータ点と、その点におけるフィッティングの違いを調査する。異なるシース液の流量で動作されたデバイスのために純度の間に明確な違いはなかったが、40マイクロメートルの狭い溝を有するデバイスは80マイクロメートルの溝を有するデバイスよりも一貫して高い純度のサンプルを抜き出し、この対比は
図4に示される四角のプロットにおいて明らかである。しかし、それにもかかわらず、分離は80マイクロメートルで達成されたことに注意されたい。最も狭い溝が改善された純度を与えるという結果は、溝が空間フィルターとして機能することを示唆する。すなわち溝に入る細胞のみが分離チャネルを横切って分離出口に運ばれ、弾性波が適用されるとき、それらが溝に沿う(又は一直線になる:aligned)場合、細胞は溝に入る。これは正しい細胞のみが溝に入る可能性を増加させる。この効果は、以前のSAWの分離設計と比較して利点を与え、SAWのトランスデューサーの設計、又は動作流量を変化させることにより、その分離純度を増加させることだけ可能である。
【0094】
図4は事象率に対する細胞の純度を示す。回収された各サンプルの純度はサンプルが分離される事象率に対してプロットされる。黒塗りの記号は40マイクロメートルの溝付デバイスで分離されたサンプルに使用され、一方で白抜きの記号は80マイクロメートルの溝で分離されたサンプルを表す。四角の記号は45ml/hの総シース液流量、丸は60ml/hのシース液流量で集められたデータを表す。データのセットの全ては同じ一般的な傾向に従う。
【0095】
図5は流量及び溝幅の変化に対して残差を説明する。各データ点に対して、残差値が決定され、それは、純度軸において、直線のフィッティングから全てのデータのセットまでの距離を測定する。残差のデータはパラメーターを動作させるデバイスに基づいた群に関連づけられ、全ての傾向線からの残差の分布は各群に対して箱ひげ図としてプロットされる。データは総シース液流量(
図5A)及び傾斜溝幅(
図5B)に応じて分類される。箱の中央線で表される中央値は本質的に2つの異なる流量条件で同一であり、一方でより狭い溝を有するデバイスはより大きい溝よりも平均して約5%高純度であるサンプルを生み出す。
【0096】
従って、上述の実施例で検討した傾斜溝強化細胞分離装置(傾斜溝で強化された細胞分離装置:slanted groove-enhanced cell sorter)はSAWを用いて高いレベルの純度に細胞を高速分離するマイクロ流体細胞分離装置の1つの実施形態を表す。これらの実施例で使用される設計は弾性波の垂直成分を細胞の動きの駆動に向ける新規な機構を特徴とした。分離装置は高いレートで動作し、商業的なFACS(又は蛍光活性化細胞分離装置)のそれに近づき、又、富化したサンプルの回収(又は回復:recovery)のために高純度を達成することもできた。傾斜溝付SAWデバイスは向上した性能に至る様々な手段を提供する。なぜなら、全ての性能をさらに向上させるように、櫛形トランスデューサー(IDT:interdigital transducer)、垂直フローフォーカシングノズル、及び傾斜溝自体の設計における改良について、全て調整し、統合することができるためである。例えば、細胞の速度における幅を減らすようにノズルの設計を調整することにより、分離純度の向上につなげることができた。すなわち、多層のノズルの設計を必要とすることなしに、慣性フォーカシングデバイス(inertial focusing devices)を、細胞を整列させるのに使用することができ、又はシース液チャネルの必要性を全て除外するように、完全にシース液がないフォーカシング技術を採用することができた。同様に、電力密度をより広範囲に広げて使用中にIDTが損傷する機会を減らすように、フォーカシングの幾何形状の使用を通してIDTの設計を改良することができた。他のマイクロ流体細胞分離装置のように、システム中の弾性波によって、流体処理領域は囲まれ、エアロゾルは生み出されず、従って、その分離装置は追加の拡散防止措置(containment measures)を必要とすることなしに、生体有害サンプルを検査する用途を見出すことができた。現在の設計は使い捨てであるが、完全に相互汚染の危険性を除外するように、IDTも廃棄され又は殺菌される必要がある。例えば、細胞を偏向可能な流体のチャネルに、IDTからのSAWを向けるマイクロ加工された支柱を有するポリジメチルシロキサン(又はPDMS: polydimethylsiloxane)の膜に、PDMSの流体のチャネルを結合させることにより、この問題を解決することができた。その時、PDMSの流体のチャネルは完全に使い捨てであり、一方で、殺菌した動作環境を全て維持したまま、IDTを保つことができる。又、SAW細胞分離装置は、収集性能が向上した単一の分離装置を作り出すように、多数のユニットセルが並列に共に機能する並列化に従う。各SAWのユニットセルは、ほんのわずかの構成、電圧制御発信器、RFスイッチ、及びRF増幅器のいずれかを必要とする。何十又は何百のユニットセルを結合することにより、並列化した装置は前例のない分離率を真に達成することができた。さらに同じSAWデバイスの場(platform)は細胞及び小滴の両方に適合し、それは単一装置がFACS及び小滴の分離能力の両方を利用するものを提供できたことを意味する。
【実施例5】
【0097】
本実施例は上述の実施例で使用される様々な実験技術を説明する。
【0098】
デバイス設計について。IDT及びマイクロ流体のチャネルの両方の線図はAutoCAD(オートデスク社、カルフォルニア州サンラフェル:Autodesk, Inc., San Rafael, CA)を用いて作り出される。IDTの設計におけるフィンガー電極の間隔は、161MHz〜171MHzで共鳴周波数がトランスデューサーに沿って直線的に変化するように選択される。IDTのいずれかの側面上にあるバスバー電極は1.5mmの辺長を有する四角のパッド電極と連結し、それを通して外部電圧は最小の抵抗を有する全てのIDTのフィンガー電極に印加される。追加のマーキングはIDTをウエハから辺長が17.4mmの個々の四角にカットすることができるように、各トランスデューサーの範囲を定める。その設計はクロムマスク(フォトサイエンス社、カリフォルニア州トーランス:Photo-Sciences Inc., Torrance, CA)にエッチングで描かれ、実際のフィンガー電極の幅が設計値とよく合うことを確保する。マイクロ流体デバイスは、各々別のリソグラフィのマスクを用いて加工される3層を有する。第1の層はノズルのみを含む。なぜなら、ノズルはデバイスの残りの部分より浅いためである。ノズルは、後に続く層のアライメントとは無関係であることを確保するように、細胞入口の領域及び分離チャネルの両方の下に延在する。ノズルは名目上40マイクロメートルの長さで設計され、細胞がノズルに詰まるであろう機会を減らす。他の特徴のほとんどはデバイスの第2の層上にあり、IDTのフィンガー電極のための空隙、シース液及び細胞入口、分離チャネル、及びデバイスの出口を含む。第3の層は傾斜溝を含むだけであり、それは分離チャネルの上部にパターン化される。溝は230マイクロメートルの幅で描かれ、分離チャネルの全幅よりもわずかに狭く、それは、例え溝が分離チャネルからわずかにずれて位置しても、弾性波が液体と衝突する場所であるチャネルの壁がひずまないであろうことを確保する。チャネルの壁のひずみ(Distortions)は、弾性波を予測できない角度に屈折させることができた。各層は左右非対称のクロスパターンからなる少なくとも2組のアライメントマークを含み、それらは異なる層が正確に同じ位置に揃うことを可能にする。個々のマイクロ流体デバイスの層に対するマスクはキャド/アートサービス社(オレゴン州、バンドン:CAD/Art Services, Inc. (Bandon, OR))に発注され、25,400dpiの解像度で描かれる。
【0099】
トランスデューサーの加工について。櫛形トランスデューサー(又はIDT:Interdigital transducers)はリフトオフプロセスを用いて加工され、それはハーバード大学のナノスケールシステムセンターのプロトコルにおいて記載される。基板は黒いニオブ酸リチウムの4インチ径、128°Yカット(128°Y-cut)のウエハ(プレシジョンマイクロ−オプティクス、合同会社、マサチューセッツ州ウーバン:Precision Micro-Optics, LLC, Woburn, MA)である。黒いニオブ酸リチウムはSAWの用途において効果的であり、より小さい焦電効果(pyroelectric effect)を示し、処理しやすくしている。ウエハはアセトン、次にイソプロピルアルコール用いてスピンコーター上で洗浄され、及びスピン乾燥される。残留水分は180℃1分間の脱水ベークで除去される。温度変化率は、ウエハを、180℃ベークの直前及び直後に115℃で1分間ホットプレート上に置くことで緩和された(eased)。レジストは使い捨てのスポイトを用いてウエハの上に施される。LOR3Aレジスト(マイクロケム、マサチューセッツ州ウェストボロー:MicroChem, Westborough, MA)の層がウエハ表面に追加され、次に、ウエハは4000rpmでスピンされ300nm厚の層を作り出す。レジストは脱水ベークと同じ温度傾斜の方法(temperature ramping method)を用いて180℃で4分間ベークされた。Shinpley1805(マイクロケム、マサチューセッツ州ウェストボロー)の層が追加され、4000rpmでスピンされた。この層は115℃で1分間ベークされた。フォトレジストはマスクアライナー(カールサス MJB4、ドイツ、ガーヒング:MJB4, Karl Suss, Garching, Germany)上でIDTのクロムマスクを用いてパターン化された。電子線堆積の用のシャドーマスクを形成するように、ウエハをCD−26現像液(マイクロポジット、テキサス州オースティン:Microposit, Austin, TX)に75秒間浸すことでそのパターンは現像された。ウエハを水できれいにすすぎ、窒素を吹き付けて乾燥した。ウエハの露出した表面は酸素プラズマクリーナー(SCE106、アナテック、カルフォルニア州ユニオンシティ:SCE106, Anatech, Union City, CA)を用いてRF電力75W、酸素ガス流量40sccm、20秒間で清浄化した。ウエハ表面上に電極を形成するように、電子線蒸着機(デントンバキューム社、ニュージャージー州ムアズタウン:Denton Vacuum LLC, Moorestown, NJ)を用いて、接着層として10nmのチタンを堆積し、次に50nmの金を堆積した。それからフォトレジストはRemover−PG(マイクロケム、マサチューセッツ州ウェストボロー)中に80℃で約60分間ウエハを浸すことでリフトオフされた。保護層を形成するように、Shipley1813の層が追加され、115℃で1分間ベークされた。ニオブ酸リチウムに深さ250マイクロメートルのカットを作るように、パターン化された基板はダイシングソー(ディスコ社 DAD321、日本、東京)を用いて切れ目がいれられた(scored)。ウエハは切れ目(scored lines)に沿ってきれいに割れて、ウエハ当たり21デバイスまで生み出した。使用前に保護層を除去するように、IDTはアセトンで清浄化された。
【0100】
ソフトリソグラフィーについて。多層のリソグラフィはポリジメチルシロキサン(又はPDMS: polydimethylsiloxane)のレプリカ用の型を作り出すように行われた。層はSU−8 3025レジスト(マイクロケム、マサチューセッツ州ウェストボロー)のメーカーのデータシートで推奨される次の方法で処理された。各層に対して、少量のレジストがウエハ上に施された。ウエハは3000rpmでスピンされ、25マイクロメートル厚のレジスト層が作り出された。各層は95℃で合計12分間プリベークされ、半分のベーク時間経過後、ウエハをホットプレート上で回転させた。それから層はいずれの下層の特徴(features)に揃えられ、マスクアライナー(ABM、カルフォルニア州スコッツバレー:ABM, Scotts Valley, CA)を用いて新たな特徴を露出させる。それからレジストは65℃で1分間及び95℃で5分間ベークされた。この時点で、追加の層を以前のものの上部に追加することができた。一旦全ての層が露出され、全てのベーク段階が完了すると、現像液を攪拌するためにオービタルシェイカー(Roto Mix 8x8、サーモフィッシャー社、マサチューセッツ州ウォルサム:Roto Mix 8x8, Waltham, MA)を用いて、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート中にウエハを5分間浸すことでその特徴は現像された。現像後、ウエハをイソプロパノールですすぎ、窒素で吹き付けて乾燥した。ウエハはここでPDMS中にレプリカを作り出すための型として役立った。PDMS(Sylgard184、ダウ−コーニング社、ミシガン州、ミッドランド)ベース及び架橋剤は10:1の割合でシンキーミキサー(AR−100、株式会社シンキー、日本、東京)で混合された。ミキサーをミキシングモードで30秒間動作し、デガスモード(degassing mode)でさらに30秒間動作した。型はプラスチックのシャーレ中に置かれ、未硬化のPDMSが上部に注がれた。PDMSは10分間デガスされ(degassed)、それから65℃で1晩オーブン中にシャーレを置いた。一旦PDMSが硬化されると、ウエハのエッジはメスを用いて周囲がカットされ、PDMSのレプリカは型からリフトオフされた。各PDMSのレプリカは16の独立したデバイスを含んだ。すなわちレプリカは使用前に個々の流体のチャネルにカットされた。接合部分の穴(interface holes)は生検パンチ(Uni−Core、GEヘルスケアライフサイエンス、ペンシルベニア州ピッツバーグ:Uni-Core, GE Healthcare Life Sciences, Pittsburgh, PA)で作り出された。直径0.75mmの穴が入口に使用され、直径1.5mmの穴が出口に使用された。一旦接合部分の穴が形成されると、個々のPDMSの流体のチャネルをサンプルホルダーに固定することができた。
【0101】
分離装置について。分離装置の顕微鏡本体はモジュールの光学的な構成要素から作り上げられた。蛍光は473nmのレーザー(レーザーグロウテクノロジー、オンタリオ州トロント:Laserglow Technologies, Toront, ON)、100mWの出力で励起された。レーザー光線はビームエキスパンダー(BE−05−10−A、ソーラボ社、ニュージャージー州ニュートン:BE-05-10-A, Thorlabs INc., Newton, NJ)で拡大され、顕微鏡本体に導かれた。励起光は対物レンズに至るまで、励起ダイクロイック(FF495−Di03−25x36、セムロック社、ニューヨーク州バッファロー:FF495-Di03-25x36, Semrock, Inc., Buffalo, NY)に反射した。シリンドリカルアクロマート(ACY254−200−A,ソーラボ社、ニュージャージー州ニュートン)は、顕微鏡対物レンズ(Nikon 10X/0.45NA)の後ろの絞りにおいて1つの光線軸を線に集中させた。対物レンズは顕微鏡の焦点面において励起光を線に集中させ、結果として生じる任意の蛍光発光をサンプルから収集した。発した蛍光は励起ダイクロイックを通過したが、蛍光ダイクロイック(FF605−Di01/25x36、セムロック社、ニューヨーク州バッファロー)に反射した。すなわち蛍光は、光電子増倍管(H10723−20、浜松ホトニクス、日本、浜松)の光電陰極に光を当てているロングパス色付きガラスフィルター(FGL495、ソーラボ社、ニュージャージー州ニュートン)及び誘電体バンドパスフィルター(FF01−520/44−25、セムロック社、ニューヨーク州バッファロー)を通過し、一方で光のノイズ源はフィルターで減衰された。顕微鏡の視界は赤外発光ダイオードを用いて照らされた。赤外光は顕微鏡のダイクロイックフィルターの両方を通過し、反射鏡(CM1−P01、ソーラボ社)から反射した。赤外線映像は、チューブレンズ(AC254−100−B−ML、ソーラボ社)により高速カメラ(HiSpec1、ファステックイメージング、カルフォルニア州サンディエゴ)のセンサに結像され、分離プロセスのビデオが高速で録画されるのを可能にした。光学系に関してサンプル位置の微動装置を与えることによって、ライカの手動ステージは顕微鏡に完備された。
【0102】
チャネルを通過する細胞からの蛍光は即時分析され、RFパルスは最小潜伏期間で所望の細胞を分離するようにトランスデューサーに加えられた。光電子増倍管モジュールは許容波長範囲で光強度を測定し、入射光強度に比例した電圧を発生させた。この電圧は、蛍光ピークの詳細を抜き出し、所望のピークのための分離パルスを生み出すように、データ収集カード(PCIe−7842R、ナショナルインスツルメンツ社、テキサス州オースティン)によりデジタル化され、オンボードフィールドプログラマブルゲートアレイを用いて即時分析された。装置設定及び装置性能のプロットは関連するPCで読み出された。ここで、分離パルスは、そのパルス変調入力を通して波形発生器(SMB100A、ローデ アンド シュワルツ、ドイツ、ミュンヘン:SMB100A, Rohde & Schwarz, Munich, Germany)の出力を調整するのに使用された5Vの信号であった。波形発生器の電力は高ゲインRFアンプ(LZY−22+、ミニサーキット、ニューヨーク州ブルックリン:LZY-22+, Mini-Circuits, Brooklyn, NY)を用いて増幅された。増幅されたRF信号はSAWを生み出すようにIDTを駆動させた。
【0103】
特注のサンプルホルダーは傾斜溝付デバイスを支持した。プリント回路基板(PCB)はMMCXのオスのカードエッジコネクタを用いてRFアンプに連結された。PCBはM3のねじを用いてメカニカルベースプレートにそれを固定することで設置された。ボードに取り付けられたポゴピンが金属のパッド電極に接触してトランスデューサーの表面上に押し付けられたとき、プリント回路基板からIDTまで電気接続が作り出された。収容できる取り付け穴に一致するように、3.7mmに粉砕され、レーザーカットされたアクリルのスペーサーは、ピンが所定の位置にIDTを固定し、一貫した電気接触をさせる十分な力だが、応力で基板が割れるほどではない力を発揮することを確保した。各PDMSのデバイスは機械的な力を用いて基板に接着された。PDMSのレプリカはデバイスの流体のチャネルの3つの側面を含み、一方でニオブ酸リチウム基板は流体のチャネルの底部を形成した。6mmのアクリルシートは、流体の連結がシートを通過させるようにレーザーカットされた。アクリルは、アクリル層をベースプレートに結合させるように、M2のねじを用いてPDMSを基板上に押し付けた。一旦組み立てられると、全てのサンプルホルダーは顕微鏡のステージに取り付けられた。
【0104】
特性評価の実験について。イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来(MDCK)及びヒト慢性骨髄性白血病(K−562、ATCC、バージニア州マナサス:K-562, ATCC, Manassas, VA)の細胞は毎日の実験の前に採取された。MDCKは、核の局在配列に結合した緑の蛍光を発するタンパク質を安定して導入された蛍光を発する核(nuclei)を有し、一方でK−562細胞はカルセインAM(ライフテクノロジーズ、ニューヨーク州グランドアイランド:Life Technologies, Grand Island, NY)を1マイクロモル濃度で細胞の懸濁液に添加することで染色され、その懸濁液は37℃で20分間インキュベートされた(又は培養された:incubated)。細胞は500万〜1000万個/mlでインジェクションバッファー中に再懸濁された。インジェクションバッファーは18容量%のオプティプレップ(Optiprep)(D1556、シグマ−アルドリッチ社、ミズーリ州セントルイス:D1556, Sigma-Aldrich Co. LLC, St.Louis, MO)、6U/mlのデオキシリボヌクレアーゼI(DNAse I)(ニューイングランドバイオラボ社、マサチューセッツ州イプスウィッチ:New England Biolabs Inc., Ipwich, MA)、3マイクロモル濃度の塩化マグネシウム及び1倍濃度(1X)のリン酸緩衝生理食塩水であった。
【0105】
別段の定めがない限り、試験条件は120マイクロメートル幅及びその長軸は全体の流れ方向から60°傾いた傾斜溝付デバイスに適用された。1倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、P3813、シグマ−アルドリッチ社、ミズーリ州セントルイス)が使用された。総シース液流量は典型的に45ml/hであり、その流れの4分の1が排出チャネル近くのシース液入口から来て、その流れの4分の3がデバイスの保持側にあるシース液入口からであった。細胞の相の流量は0.5ml/hであった。RFパルスの周波数は通常163.1MHzで維持されたが、溝幅が変わるとき、それから周波数はSAWの作動が溝に揃うことを確保するように変化した。各個別の条件に対する分離性能を試験する前に、装置はトリガーとなったが弾性波は適用されなかったときに細胞が分離されないことを確保するように対照実験が行われた。各特性評価実験は1度に標準状態の1つだけの要素を変化させ、各条件は独立した3日の実験で試験された。前述のように、個々の分離事象の速い映像は、細胞が分離チャネルを横切って保持出口に成功裏に偏向したか否かを決定するように分析された。
【0106】
分離実験について。特性評価実験の詳細として、K−562細胞は実験を実施する直前に、培養物から採取された。細胞の参照ライブラリを作り出すために、細胞のサンプルは丁寧に混合され、10容量%の細胞の懸濁液が収集された。この細胞の一部は1マイクロモル濃度のカルセインAMで37℃で20分間染色され、一方で残りの細胞は染色されないままであった。2つの一部はそれから混合され、細胞はインジェクションバッファー中で目標の細胞密度で再懸濁した。
【0107】
細胞は傾斜溝付分離デバイスを用いて分離された。標準のノズルの幾何形状及び38.26dBmの瞬時電力及び164MHzで100マイクロ秒周期を有するRFパルスが使用された。細胞の懸濁液の流量は0.5ml/hで一定に維持された。デバイスは、異なる事象率の試験を作り出すように、様々な細胞密度で動作された。全体の細胞密度幅にわたって、2つの異なるシース液流量45ml/h及び60ml/hを動作させているデバイスからの純度が、同じ分離条件下で、2つの異なる溝幅40マイクロメートル及び80マイクロメートルを用いて、測定された。ここでシース液の流れもまた1倍濃度のPBSであった。実際の蛍光の事象率は分離装置で測定され、計画された総事象率(projected total event rate)は、初期の参照ライブラリの測定純度でこれを割ることで得られた。分離のための閾値は、蛍光の下限値及び上限値を無視して、たった1つの蛍光細胞がチャネル内に存在すると予期されたときのみパルスが適用されることを確保するように設定された。さらに、分離率が高いとき、分離の閾値は500events/s以下の分離率を設定するようにさらに制限され、IDTが取り返しがつかないほどの(irreparably)損傷を受けるであろう機会を減らした。しかし、この制限は幾分か任意の設定であった。
【0108】
保持出口から回収された細胞の蛍光は、共焦点顕微鏡(SP5、ライカマイクロシステムズ社、イリノイ州バッファローグローブ:SP5, Leica Microsystems Inc., Buffalo Grove, IL)を用いて測定された。回収されたサンプル中の分類された細胞の割合を測定するのにカルセインを用いるのに加え、DRAQ5(ライフテクノロジーズ、ニューヨーク州グランドアイランド)が、各サンプル中に存在する全ての細胞のDNAを分類するように終濃度500nMで添加された。分離後の細胞の生存能力(viability)を測定するために、エチジウムホモダイマー(ライフテクノロジーズ、ニューヨーク州グランドアイランド)が終濃度2マイクロモル濃度で添加され、細胞は37℃で20分間インキュベートされた。画像は3つの別々の蛍光のチャネルにおいて蛍光を検出するように、カスタムMatlab(マスワークス社、マサチューセッツ州ネイティック:The Mathworks, Inc., Natick, MA)のスクリプトを用いて分析された。分離された一部分の純度は総細胞数に対するカルセインで分類された細胞の割合を決めることで決定され、生存能力は総細胞数に対する死亡した細胞の割合の補数として決定された。
【0109】
本発明の様々な実施形態を本明細書で記載し、示してきたが、当業者はその機能を実行するために、及び/又はその結果を得るために、及び/又は本明細書で記載した1つ以上の利点のために、様々な他の方法及び/又は構造体をすぐに想像するであろう。当業者は、より一般的に、本明細書で検討された全てのパラメーター、寸法、材料、及び形態は、代表的なものであり、実際のパラメーター、寸法、材料、及び/又は形態は、特定の用途又は本発明の技術が使用される用途に依存すると、すぐに認識するであろう。当業者は、本明細書で検討された本発明の特定の実施形態と同等の多くのものを通常範囲内の実験で用いることを認める、又は確認することができるであろう。従って、前述の実施形態は例のためだけに示され、請求項及びそれと同等の範囲内で、本発明は特に検討された及び請求された通り以外に実施されると理解されたい。本発明は、本明細書で記載する各個別の特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法を対象とする。さらに、もしその特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法が互いに調和すれば、2つ以上のその特性、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法のいずれの組み合わせを本発明の範囲内に含む。
【0110】
本明細書で規定された、及び用いられた全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書中の定義、及び/又はその定義された用語の通常の意味よりも優先されると理解されたい。
【0111】
明細書中及び請求項中において、本明細書で使用される不定冠詞の“a”及び“an”は、明確に反対の指示がなければ、“少なくとも1つの”を意味すると理解されたい。
【0112】
明細書中及び請求項中において、本明細書で使用される“及び/又は(and/or)”という句は、 “一方又は両方(either or both)”の要素、が結合したもの、すなわちいくつかのケースでは結合して存在し、他のケースでは分離して存在する要素を意味すると理解すべきである。 “及び/又は(and/or)”で表された多くの要素は同様に、すなわち“1つ以上の(one or more)”の要素が結合されるように解釈されたい。他の要素は、特に識別されたそれらの要素に関係するか否かに関わらず、“及び/又は(and/or)”の節によって特に識別される以外は任意に存在する。このように、非限定的な例として、“含む(comprising)”のように最初と最後の語を接続して使用される時の“A及び/又はB(A and/or B)”への言及は、ある実施形態ではAのみに(任意にB以外の要素を含む)、別の実施形態ではBのみに(任意にA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、AにもBにも(任意に他の要素を含む)等に言及することができる。
【0113】
明細書中及び請求項中において、本明細書で使用される“又は(or)”は上述に規定されるような“及び/又は(and/or)”と同様の意味を有すると理解されたい。例えば、リスト中の項目を分離する時、“又は(or)”又は“及び/又は(and/or)”を含む、すなわち、1つ以上も含むが少なくとも1つの、要素の数又はリスト、及び追加のリストに任意の項目を含むと解釈される。反対に“1つだけの(only one of)”又は“丁度1つの(exactly one of)”のように明確に指示された用語のみ又は請求項で“〜からなる(consisting of)”が使用されるときは、丁度1つの要素の数又は要素のリストを含むことに言及する。一般的に“又は(or)”という用語は本明細書では、“一方(either)”、“1つの(one of)”、“1つだけの(only one of)”又は“丁度1つの(exactly one of)”のような排他的な用語が先行しない時、排他的な二者択一(すなわち“1つの又は他方の、しかし両方ではない(one or the other but not both)”)のみを指示すると解釈される。
【0114】
本明細書で使用されるように、明細書中及び請求項中において、1つ以上の要素のリストに関連する“少なくとも1つの(at least one)”という句は、要素のリスト中で特に示された各々及び全ての要素の少なくとも1つを必ずしも含まず、及び要素のリスト中の要素のいずれの組み合わせを除かないが、要素のリスト中のいずれの1つ以上の要素から少なくとも1つの要素を意味すると理解されたい。この定義はまた、“少なくとも1つの(at least one)”という句が言及して要素のリスト中で特に識別される以外は、特に識別されたそれらの要素に関連するか関連しないかに関わらず、任意に存在すること可能にする。このように、非限定的な例として、“A及びBのうち少なくとも1つの(at least one of A and B)”(又は同等に“少なくとも1つのA又はB(at least one of A or B)”又は同等に“少なくとも1つのA及び/又はB(at least one of A and/or B)”)は、1つの実施形態では、少なくとも1つの、任意に1つ以上のものを含む、Aであって、Bは存在しない(及び任意のB以外の要素を含む)、別の実施形態では少なくとも1つの、任意に1つ以上を含むBであって、Aは存在しない(及び任意にA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、少なくとも1つの、任意に1つ以上を含むA、及び少なくとも1つの、任意に1つ以上を含むB(及び任意に他の要素を含む)等に言及することができる。
【0115】
“約(about)”という単語は数に関連して本明細書で使用されるとき、本発明のさらに他の実施形態は、“約”という単語の存在によって変更されない数を含む。
【0116】
明確に反対の指示がなければ、1つ以上の段階又は反応を含む、本明細書で請求されるいずれの方法において、その方法の段階又は反応の順は、必ずしも請求項に記載した方法の段階又は反応の順に限定されない。
【0117】
上述の明細書中だけでなく、請求項には、“含む(comprising)”、“含む(including)”、“担持する(carrying)”、“有する(having)”、“含む(containing)”、“含む(involving)”、“保持する(holding)”、“〜を含む(composed of)”等の移行句は非限定である、すなわち含むことを意味するが限定されない。“〜からなる(consist of)”及び“基本的に〜からなる(consisting essentially of)”という移行句のみ、米国特許庁審査手順書第2111.03節に記載のように、限定又は半限定の移行句である。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
第1の表面に規定される溝を有するマイクロ流体のチャネルであって、前記溝は哺乳類の細胞が前記溝内に収まることが可能なサイズの断面寸法を有する、マイクロ流体のチャネルと、
前記マイクロ流体のチャネルの第2の表面に近接して配置された弾性波発生器であって、前記第2の表面が前記第1の表面に隣接している、弾性波発生器と、を含む装置。
(態様2)
前記マイクロ流体のチャネルは入口及び第1の出口を含み、
前記溝は種を第2の出口に向ける、態様1に記載の装置。
(態様3)
前記溝は前記マイクロ流体のチャネルに対してゼロではない角度で配置されている、態様1又は2に記載の装置。
(態様4)
前記溝は前記マイクロ流体のチャネルの前記第1の表面に平行又は垂直ではない少なくとも1つの壁により規定されている、態様1〜3のいずれか1つに記載の装置。
(態様5)
前記溝は少なくとも約20マイクロメートルの断面寸法を有する、態様1〜4のいずれか1つに記載の装置。
(態様6)
前記溝は少なくとも約25マイクロメートルの断面寸法を有する、態様1〜5のいずれか1つに記載の装置。
(態様7)
前記溝は少なくとも約30マイクロメートルの断面寸法を有する、態様1〜6のいずれか1つに記載の装置。
(態様8)
前記溝は、前記溝に隣接した前記マイクロ流体のチャネルの断面寸法よりも小さい断面寸法を有する、態様1〜7のいずれか1つに記載の装置。
(態様9)
前記弾性波発生器は、1つ以上の櫛形トランスデューサーを含む、態様1〜8のいずれか1つに記載の装置。
(態様10)
前記1つ以上の櫛形トランスデューサーの少なくとも1つは、約20マイクロメートル〜約30マイクロメートルの間隔をあけたフィンガー電極を有する、態様9に記載の装置。
(態様11)
前記1つ以上の櫛形トランスデューサーの少なくとも1つは傾斜櫛形トランスデューサーである、態様9又は10に記載の装置。
(態様12)
前記1つ以上の櫛形トランスデューサーの少なくとも1つは、互いに組み合わされた第1の電極及び第2の電極を含む、態様9〜11のいずれか1つに記載の装置。
(態様13)
前記マイクロ流体のチャネルは圧電基板中に規定される、態様1〜12のいずれか1つに記載の装置。
(態様14)
前記圧電基板はLiNbO
3を含む、態様13に記載の装置。
(態様15)
前記マイクロ流体のチャネルはポリマー中に規定される、態様1〜14のいずれか1つに記載の装置。
(態様16)
前記ポリマーはポリジメチルシロキサンを含む、態様15に記載の装置。
(態様17)
前記マイクロ流体のチャネルは約1mm未満の断面寸法を有する、態様1〜16のいずれか1つに記載の装置。
(態様18)
第1の表面に規定される溝を有するマイクロ流体のチャネルであって、前記溝は少なくとも約30マイクロメートルの断面寸法を有する、マイクロ流体のチャネルと、
前記マイクロ流体の第2の表面に近接して配置された弾性波発生器であって、前記第2の表面が前記第1の表面に隣接している、弾性波発生器と、を含む装置。
(態様19)
第1の出口及び第2の出口を有するマイクロ流体のチャネル内に、流体中に含まれる種を流す工程と、
前記種を偏向させて前記第2の出口に入るように弾性波を適用する工程であって、弾性波がないときには前記種は前記第1の出口に入る、適用する工程と、を含み、
前記弾性波発生器からの前記弾性波の伝播により規定される軸方向成分と、それと実質的に垂直に規定される横方向成分と、を有する方向に、前記マイクロ流体のチャネル内で前記種を偏向させるように、弾性波発生器を用いて前記弾性波が適用され、前記横方向成分は前記軸方向成分よりも大きい、分離方法。
(態様20)
前記種は粒子である、態様19に記載の方法。
(態様21)
前記種は細胞である、態様19に記載の方法。
(態様22)
前記横方向成分は前記軸方向成分よりも少なくとも2倍大きい、態様19〜21のいずれか1つに記載の方法。
(態様23)
前記横方向成分は前記軸方向成分よりも少なくとも3倍大きい、態様19〜22のいずれか1つに記載の方法。
(態様24)
前記横方向成分は前記軸方向成分よりも少なくとも10倍大きい、態様19〜23のいずれか1つに記載の方法。
(態様25)
前記横方向成分は前記軸方向成分よりも少なくとも30倍大きい、態様19〜24のいずれか1つに記載の方法。
(態様26)
前記横方向成分は前記軸方向成分よりも少なくとも100倍大きい、態様19〜25のいずれか1つに記載の方法。
(態様27)
前記マイクロ流体のチャネルは流体を前記第2の出口に向ける溝を有する、態様19〜26のいずれか1つに記載の方法。
(態様28)
前記溝は少なくとも約20マイクロメートルの断面寸法を有する、態様19〜27のいずれか1つに記載の方法。
(態様29)
前記溝は少なくとも約25マイクロメートルの断面寸法を有する、態様19〜28のいずれか1つに記載の方法。
(態様30)
前記溝は少なくとも約30マイクロメートルの断面寸法を有する、態様19〜29のいずれか1つに記載の方法。
(態様31)
前記溝は、前記溝に隣接した前記マイクロ流体のチャネルの平行な断面寸法よりも小さい断面寸法を有する、態様19〜30のいずれか1つに記載の方法。
(態様32)
前記種は約1mm以下の平均直径を有する、態様19〜31のいずれか1つに記載の方法。
(態様33)
前記種は約100マイクロメートル以下の平均直径を有する、態様19〜32のいずれか1つに記載の方法。
(態様34)
前記種は約30マイクロメートル以下の平均直径を有する、態様19〜33のいずれか1つに記載の方法。
(態様35)
前記種は約25マイクロメートル以下の平均直径を有する、態様19〜34のいずれか1つに記載の方法。
(態様36)
前記流体は水性である、態様19〜35のいずれか1つに記載の方法。
(態様37)
前記弾性波は表面弾性波である、態様19〜36のいずれか1つに記載の方法。
(態様38)
前記弾性波は少なくとも約3dBmの電力を有する、態様19〜37のいずれか1つに記載の方法。
(態様39)
前記弾性波は少なくとも約6dBmの電力を有する、態様19〜38のいずれか1つに記載の方法。
(態様40)
前記弾性波は少なくとも約15dBmの電力を有する、態様19〜39のいずれか1つに記載の方法。
(態様41)
前記弾性波は約160MHz〜約430MHzの平均周波数を有する、態様19〜40のいずれか1つに記載の方法。
(態様42)
前記弾性波は約140MHz〜約150MHzの平均周波数を有する、態様19〜41のいずれか1つに記載の方法。
(態様43)
前記弾性波は前記マイクロ流体のチャネル内の前記種の流れ方向に実質的に垂直に適用される、態様19〜42のいずれか1つに記載の方法。
(態様44)
前記弾性波発生器は1つ以上の櫛形トランスデューサーを含む、態様19〜43のいずれか1つに記載の方法。