【文献】
徳田隆彦 他,脳脊髄液および血液中のTDP-43定量とその臨床的有用性,最新医学,日本,2010年07月,Vol.65, No.7,p.1642-1647
【文献】
DENG, H-X et al.,Mutations in UBQLN2 cause dominant X-linked juvenile and adult-onset ALS and ALS/dementia,nature,2011年09月08日,Vol.477,p.211-215
【文献】
SUZUKI, H. et al.,Nuclear TDP-43 causes neuronal toxicity by escaping from the inhibitory regulation by hnRNPs,Human Molecular Genetics,2014年11月06日,Vol.24/No.6,p.1513-1527
【文献】
SERAFIN, V. et al.,Disposable immunoplatforms for the simultaneous determination of biomarkers for neurodegenerative disorders using poly(amidoamine) dendrimer/gold nanoparticle nanocomposite,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2020年05月30日,Vol.413,p.799-811
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記免疫複合体が、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズに結合した捕捉抗体と、TDP−43を含む生体試料と、検出抗体とを混合することによって形成される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
被験者から採取された生体試料中のTDP−43に由来するシグナルの強度に基づいて、前記被験者がTDP−43プロテイノパチーであるか否かの情報を取得する装置であって、
前記装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のTDP−43と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させて調製された、前記非捕捉ビーズと前記免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、前記免疫複合体に由来するシグナルを取得し、
前記非捕捉ビーズは前記免疫複合体と結合せず、
前記検出抗体及び捕捉抗体の少なくとも一方は、TDP−43を特異的に認識し、
前記捕捉抗体のエピトープと前記検出抗体のエピトープが異なり、
前記シグナルの強度に基づいて、前記被験者がTDP−43プロテイノパチーであるか否かの情報を取得し、
前記捕捉ビーズと前記非捕捉ビーズとの個数比が、捕捉ビーズ1に対して非捕捉ビーズ2.3以上9以下であり、
前記捕捉ビーズ及び前記非捕捉ビーズの濃度が、前記測定試料90μLに対して40万個以上50万個以下である、
装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1.TDP−43の測定方法〕
本発明のTDP−43の測定方法(以下、「本発明の測定方法」と略記する場合がある)は、被験者から採取された生体試料中のTDP−43を測定する方法である。
【0012】
TDP−43はTAR DNA結合タンパク質43(TAR DNA-binding protein 43)のことであり、2つのRNA認識モチーフを有するRNA/DNA結合タンパク質である。配列番号1はヒト由来のTDP−43のアミノ酸配列である。転写、翻訳及びスプライシングの制御を含むRNA代謝にTDP−43は関与している。TDP−43は、正常ニューロンでは主に核に局在している。一方、FTLD及びALS等のTDP−43プロテイノパチー患者のニューロンでは、リン酸化されたTDP−43が細胞質又は神経突起に局在する。
【0013】
例えば、ヒト由来のTDP−43として、NCBI Reference Sequence NP_031401として登録されているアミノ酸配列から成る、タンパク質が挙げられる。
【0014】
本発明の測定方法によって、生体試料中の、非リン酸化TDP−43及びリン酸化TDP−43の少なくとも一方を測定することができる。本明細書において、特に断り書きがない限り、TDP−43は、非リン酸化TDP−43及びリン酸化TDP−43の両方を表す。リン酸化TDP−43は、TDP−43がリン酸化されている限り限定されない。リン酸化TDP−43の例として、NCBI Reference Sequence NP_031401として登録されているアミノ酸配列の403番目のセリン(Ser403)、404番目のセリン(Ser404)、409番目のセリン(Ser409)及び410番目のセリン(Ser410)の少なくとも1つのセリンがリン酸化されているTDP−43が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
被験者の例として、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類等が挙げられ、中でも哺乳動物が好ましい。哺乳類としては、ヒト及びヒト以外の動物が挙げられる。ヒト以外の動物として、ウシ、ウマ、ブタ及びヒツジ等のような家畜、並びに、犬、猫、ラット、マウス、ハムスター、サル及びウサギ等のような愛玩動物又は実験動物が挙げられる。好ましくはヒトが挙げられる。また、鳥類としてはニワトリ、カモ、アヒル等の家禽類が挙げられる。
【0016】
被験者から採取される生体試料は、TDP−43を含み得る試料であれば特に限定されない。生体試料の例として、血液試料及び髄液(脳脊髄液)等が挙げられる。血液試料には、全血、血漿、血清等が含まれ、血液試料は血漿又は血清であることが好ましく、血漿であることがより好ましい。血漿は、ヘパリン塩(好ましくは、ナトリウム塩)採血、クエン酸塩(好ましくは、ナトリウム塩)採血、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩(好ましくは、ナトリウム塩又はカリウム塩)採血された全血から分離することができる。血漿は、EDTA塩採血、又はヘパリン塩採血された全血から分離された血漿であることがより好ましい。
【0017】
本発明の測定方法は、調製工程と、検出工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0018】
(調製工程)
調製工程においては、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズ上に、生体試料中のTDP−43と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を形成させて、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料を調製する。
【0019】
<抗体>
抗体は、TDP−43(非リン酸化TDP−43及び/又はリン酸化TDP−43)を認識できる限り、抗体は特に限定されない。TDP−43を認識できる抗体は、TDP−43と特異的に結合する抗体であることが好ましい。リン酸化TDP−43を認識する抗体は、非リン酸化TDP−43とは結合せず、リン酸化TDP−43に特異的に結合する抗体であることがより好ましい。
【0020】
抗体としては、TDP−43の全体又は一部を抗原としてヒト以外の動物に免疫して得られたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。また、免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に限定されない。また、ファージディスプレイ法等により抗体ライブラリから選択されたものを使用してもよい。
【0021】
さらに、抗体は市販のものを使用してもよい。非リン酸化TDP−43を認識する抗体としては、例えば、60019−2−Ig(Proteintech社)及び12892−1−AP(Proteintech社)等が挙げられる。リン酸化TDP−43を認識する抗体としては、例えば、配列番号1のTDP−43のアミノ酸配列(NCBI Reference Sequence NP_031401として登録されているアミノ酸配列)の404〜410番目に対応するペプチドであって、409番目及び410番目のセリン(S)がリン酸化されたリン酸化TDP−43のペプチドが抗原ペプチドである抗体等が挙げられる。
【0022】
上記60019−2−Igのエピトープは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の203〜209番目のアミノ酸までのペプチドである。上記12892−1−APのエピトープは、配列番号1で示されるアミノ酸配列の261〜414番目のアミノ酸までのペプチドである。
【0023】
本発明の測定方法において、捕捉抗体及び検出抗体の一方のエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の203〜209番目のアミノ酸までのペプチドを含むことが好ましい。そして、他方のエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の261〜414番目のアミノ酸からなるペプチド、又は、404〜410番目のアミノ酸からなるペプチドであって、409番目及び410番目のセリンがリン酸化されているペプチドを含むことが好ましい。非リン酸化TDP−43の測定において、捕捉抗体及び検出抗体の一方のエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の203〜209番目のアミノ酸までのペプチドを含むことがより好ましい。そして、他方のエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の261〜414番目のアミノ酸からなるペプチドを含むことがより好ましい。リン酸化TDP−43の測定において、捕捉抗体及び検出抗体の一方のエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列の203〜209番目のアミノ酸までのペプチドを含むことがより好ましい。そして、他方のエピトープが404〜410番目のアミノ酸からなるペプチドであって、409番目及び410番目のセリンがリン酸化されているペプチドを含むことが好ましい。
【0024】
本明細書において、捕捉抗体とは、TDP−43と結合し、後述のビーズ上に固定される抗体である。ビーズへの固定は、アビジン(又はストレプトアビジン)及びビオチン等の物質を介在した間接的な固定であってもよい。本明細書において、検出抗体とは、TDP−43と結合し、好ましくは後述の標識物質を有する抗体である。
【0025】
検出抗体及び捕捉抗体の少なくとも一方はTDP−43を特異的に認識する抗体であり、これにより、生体試料中のTDP−43を特異的に検出することができる。検出抗体及び捕捉抗体がTDP−43を特異的に認識する抗体であることが好ましい。
【0026】
TDP−43がリン酸化TDP−43である場合、検出抗体及び捕捉抗体の少なくとも一方はリン酸化TDP−43を特異的に認識する抗体である。もう一方の抗体は、リン酸化TDP−43を特異的に認識する抗体であっても、非リン酸化TDP−43を特異的に認識する抗体であってもよい。
【0027】
また、検出抗体のエピトープと捕捉抗体のエピトープとは異なる。
【0028】
<ビーズ>
ビーズは、個々のビーズを空間的に分離することができる特性を有する限り限定されない。ビーズは、複数の場所(例えば、ウェル)に空間的に分離することができるような形態で提供されてもよい。例えば、ビーズは、球形、ディスク、リング、立方体状等の形状としてもよい。また、ビーズは、微粒子(例えば、液体中に懸濁される複数の粒子)、ナノチューブ等であってもよい。
【0029】
ビーズのサイズ又は形状は、適宜設計することができる。例えば、ビーズの形状には、球体、立方体、楕円体、チューブ等が含まれる。ビーズの平均直径(実質的に球形の場合)、又は平均最大断面寸法(他の形状の場合)は、約0.1μm以上であってもよく、約1μm以上であってもよく、約10μm以上であってもよく、約100μm以上であってもよく、約1mm以上であってもよい。また、ビーズの平均直径又はビーズの最大外寸は、約0.1μm〜約100μmであってもよく、約1μm〜約100μmであってもよく、約10μm〜約100μmであってもよく、約0.1μm〜約1mmであってもよく、約1μm〜約10mmであってもよく、約0.1μm〜約10μmであってもよい。本実施態様において使用するビーズの平均直径又は平均最大断面寸法は、ビーズの直径/最大断面寸法の算術平均値である。
【0030】
ビーズの平均最大断面寸法は、例えば、レーザー光散乱、顕微鏡法、ふるい分析、電気抵抗方式、又は他の公知の技術を使用して測定することができる。ビーズの平均直径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置により測定される体積基準のメジアン径である。このような粒度分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製「マイクロトラックMT3000II」等が挙げられる。
【0031】
ビーズは、測定において使用される溶媒又は溶液に不溶性又は実質的に不溶性である。ビーズは、多孔質又は実質的に多孔質、中空、部分的に中空等であってもよい。ビーズは、非多孔質固体又は実質的に非多孔質の固体(例えば、本質的に孔がない)であることが好ましい。ビーズは、溶媒を実質的に吸収又は吸収してもよい。ビーズは、溶媒を非吸収又は実質的に非吸収であることが好ましい。
【0032】
さらに、ビーズの材料は、プラスチック又は合成ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、フェノールポリマー又はニトロセルロース等)、天然由来ポリマー(ラテックスゴム、多糖類金属、又は金属化合物(例えば、金、銀、スチール、アルミニウム、銅等を含む金属化合物)、無機ガラス、シリカ、及びこれらの混合物等を選択することができる。ビーズは、磁性材料を含むことが好ましい。さらに、ビーズは、光学的に検出できることが好ましい。
【0033】
ビーズは市販のビーズを使用してもよい。例えば、Agilent Technologies社のカルボキシル官能化常磁性ビーズ(直径2.7μm)を使用することができる。
【0034】
ビーズに使用される緩衝液(バッファ)は、抗原抗体反応の安定化等の点で、キレート剤が添加されていることが好ましく、EDTAが添加されていることがより好ましい。
【0035】
本明細書において、捕捉ビーズは、TDP−43を含む複合体を固定化できるビーズである。例えば、ビーズにTDP−43と結合できる分子(以下、「捕捉分子」ともいう)を直接的又は間接的に固定したものを捕捉ビーズとすることができる。捕捉分子としては、上述の捕捉抗体が例示される。
【0036】
捕捉ビーズの調製方法は、ビーズに捕捉分子を結合できる限り限定されない。例えば、Quanterix社のSimoa(商標)Homebrew Assay Development kit等の市販キットを使用して、捕捉ビーズを調製してもよい。捕捉ビーズは、非特異的結合を抑制するため、ウシ血清アルブミン(BSA)等でブロッキングされていてもよい。
【0037】
本明細書において、非捕捉ビーズは、TDP−43と実質的に結合しないビーズである。非捕捉ビーズは、捕捉分子を備えていない。非捕捉ビーズに使用されるビーズの材質は、捕捉ビーズに使用されるビーズと同じであってもよいが、異なっていてもよい。また、非捕捉ビーズとしては、例えば、Quanterix社のDye-Encoded Helper Beadsを使用してもよい。非捕捉ビーズは、非特異的結合を抑制するため、BSA等でブロッキングされていてもよい。
【0038】
捕捉ビーズ上に、生体試料中のTDP−43と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を形成させる方法は、本実施態様が実現できる限り限定されない。例えば以下のように免疫複合体を形成させることができる。まず、捕捉抗体に生体試料中のTDP−43を結合させて、TDP−43を捕捉ビーズ上に結合させる(好ましくは、捕捉する)。次に、検出抗体を、捕捉抗体に捕捉されたTDP−43に結合させて免疫複合体を形成させる。
【0039】
また、免疫複合体を形成させる方法として、生体試料中のTDP−43と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体を緩衝液中で形成させてから、捕捉ビーズに結合させてもよい。例えば、アビジン又はストレプトアビジンを固定化したビーズと、ビオチン標識した捕捉抗体、TDP−43及び検出抗体の複合体とを接触させることにより、免疫複合体を捕捉ビーズ上に固定することができる。
【0040】
免疫複合体は、非捕捉ビーズの存在下で形成される。測定試料を調製する際の捕捉ビーズと非捕捉ビーズの個数比は、捕捉ビーズを1としたときに、非捕捉ビーズが好ましくは2.3以上であり、より好ましくは3以上である。また、捕捉ビーズと非捕捉ビーズの個数比は、捕捉ビーズを1としたときに、非捕捉ビーズが好ましくは9以下である。捕捉ビーズと非捕捉ビーズの個数比が上記範囲内であると、TDP−43をより高感度に検出することができる。
【0041】
生体試料又は希釈した生体試料と混合されるビーズ全体(捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズ)の数は、例えば、測定試料90μLに対して、好ましくは40万〜50万個程度とすることができる。
【0042】
測定試料の調製は、免疫複合体が形成可能な緩衝液(例えば1〜5×PBS)中で行ってもよい。また、測定試料の調製中に、捕捉抗体で生体試料中のTDP−43を捕捉した後、検出抗体を結合させる前に、捕捉ビーズを緩衝液で洗浄してもよい。また、捕捉ビーズ上に、生体試料中のTDP−43と、検出抗体と、捕捉抗体との免疫複合体を形成させた後にも、捕捉ビーズを緩衝液で洗浄してもよい。
【0043】
検出抗体は、生体試料又は希釈した生体試料100μLに対して、最終濃度が0.05〜1μg/mL(好ましくは、0.1〜0.5μg/mL程度)となるように添加してもよい。検出抗体は、標識物質を備えることが好ましい。
【0044】
(検出工程)
検出工程においては、測定試料中の免疫複合体に由来するシグナルを検出する。
【0045】
測定試料中の免疫複合体に由来するシグナルの検出は、免疫複合体に含まれる標識物質を検出することにより行うことができる。標識物質は、検出可能なシグナルが生じる限り、特に限定されない。例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよく、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素等が挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素等が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)等の蛍光色素、GFP等の蛍光タンパク質等が挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32P等が挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、β−ガラクトシダーゼが特に好ましい。
【0046】
酵素の基質は、当該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP−Star(登録商標)(4−クロロ−3−(メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,2’−(5’−クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3−(4−メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,2−(5’−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)等の化学発光基質、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)、5−ブロモ−6−クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p−ニトロフェニルリン酸等の発色基質が挙げられる。酵素としてβ−ガラクトシダーゼを使用する場合には、レソルフィンβ−D−ガラクトピラノシドを使用することができる。酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP−Star(登録商標)(4−クロロ−3−(メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,2’−(5’−クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3−(4−メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,2−(5’−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)等の化学発光基質、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)、5−ブロモ−6−クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p−ニトロフェニルリン酸等の発色基質が挙げられる。酵素としてβ−ガラクトシダーゼを使用する場合には、レソルフィンβ−D−ガラクトピラノシドを使用することができる。酵素として、ペルオキシダーゼを用いる場合には、Thermo Fisher SCIENCE社のSuper Signal ELISAシリーズ等を使用することができる。これら酵素反応は、ビーズを後述するマイクロウェルに配置してから前に行うことが好ましいが、ビーズをマイクロウェルに配置してから酵素反応を行ってもよい。
【0047】
また、検出抗体をビオチン化しておき、標識物質を標識したアビジン又はストレプトアビジンと結合させてから、シグナルを検出してもよい。
【0048】
シグナルの検出は、測定試料に含まれている捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズを含むビーズについて、その全部又は一部について行うことができる。シグナルの検出は個々のビーズについて行うことが好ましい。ここで、捕捉ビーズと、非捕捉ビーズとは、そのシグナルの有無、強弱、波長等が異なるため、これらを識別できる検出装置を使用することが好ましい。
【0049】
個々のビーズのシグナルを検出する方法としては、例えば、シグナルが蛍光である場合には、フローサイトメータを用いて検出してもよい。また、複数のマイクロウェルを有する基板に測定試料を接触させて、測定試料中の捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズを、マイクロウェルに配置して、マイクロウェル内のシグナルを検出してもよい。
【0050】
基板上においてマイクロウェルは、実質的に平坦な表面上に、又は非平面の3次元配列で配置され得る。マイクロウェルは、規則的なパターンで配列されていてもよいし、ランダムに分布していてもよい。好ましくは、マイクロウェルは、実質的に平坦な表面上の部位の規則的なパターンであることが好ましい。
【0051】
基板に含まれるマイクロウェルの数は、1測定試料あたり1000〜1,000,000個程度としてもよく、好ましくは10,000〜500,000個、より好ましくは100,000〜500,000個程度である。
【0052】
基板の材料として、例えば、ガラス(修飾及び/又は官能化ガラスを含む)、プラスチック(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、テフロン(登録商標)、多糖類、ナイロン又はニトロセルロース等)、エラストマー(例えば、ジメチルシロキサン及びポリウレタン等))、複合材料、セラミックス、シリカ又はシリカ系材料(ケイ素及び変性シリコンを含む)、炭素、金属、及び、光ファイバー束等が挙げられる。
【0053】
個々のマイクロウェルの容量は、ビーズの大きさに合わせて、適宜設定してもよい。例えば、1ウェルに収容されるビーズの数は1〜5個程度、好ましくは1〜2個程度、より好ましくは1個である。このため、マイクロウェルの容積は、1ウェルに前記数のビーズが収容される大きさであることが好ましい(例えば、米国特許出願公開第2011/0212848号明細書、国際公開第2011/109364号)。より具体的には、マイクロウェルの容積は、100aL〜1pL、好ましくは1fL〜500fL、より好ましくは10fL〜90fLの範囲である。1つの基板上に存在する複数のマイクロウェルは、それぞれがほぼ同じ容積を有することが好ましい。
【0054】
マイクロウェルの形成方法は、所望の大きさのマイクロウェルが形成できる限り限定されない。例えば、フォトリソグラフィー、スタンピング技術、成形技術、エッチング技術等の公知の方法により形成してもよい。
【0055】
マイクロウェル内へのビーズの配置は、公知の方法を使用して行うことができる。ビーズは、基板上のマイクロウェルのすべてに配置されてもよく、一部に配置されてもよい。
【0056】
例えば、測定試料をマイクロウェルが設計された基板に接触させた後、基板及び溶液を遠心して、ビーズをマイクロウェルに配置してもよい。ビーズが磁気である場合、磁石を使用してビーズをマイクロウェルに配置してもよい。マイクロウェルが光ファイバー束の端部に形成されている場合、光ファイバーのもう一端の周りに測定試料を接触させた後、遠心力、圧力等の力を加えて、マイクロウェルにビーズを配置してもよい。
【0057】
ビーズをマイクロウェルに配置した後、マイクロウェルの周囲の基板に残った測定試料を除去し、基板の表面を洗浄及び/又は拭き取って余分な測定試料を除去してもよい。マイクロウェルを含む基板としては、例えば、Quanterix社のSimoa(商標)Diskを使用してもよい。
【0058】
また、ビーズを配置した後のマイクロウェルは、フルオラス液体、油(例えば、鉱油、フッ素化油)、強磁性流体、非水性ポリマー溶液(例えば、増粘剤)等でシールされてもよい。シールには、例えば、Quanterix社のSimoa(商標)Sealing Oilを使用してもよい。
【0059】
マイクロウェルに配置されたビーズの検出は、例えば標識物質が酵素又は蛍光色素である場合には、CCDカメラ等で、シグナルを撮像することにより行ってもよい。また、標識物質が放射性同位元素である場合には、オートラジオグラフィーを使用して検出してもよい。
【0060】
マイクロウェルに配置されるビーズは、捕捉ビーズ又は非捕捉ビーズである。TDP−43を捕捉した捕捉ビーズは、標識物質に由来するシグナル(すなわち、前記免疫複合体に由来するシグナル)を発するのに対して、標的タンパク質を捕捉しなかったビーズ及び非捕捉ビーズは、前記標識物質に由来するシグナルを発しない。このため、標識物質に由来するシグナルを発するウェルの数を計数することによって、標的タンパク質を定量することができる。シグナルを検出するマイクロウェルは、基板上のすべてのマイクロウェルであってもよく、一部でもよい。
【0061】
標識物質に由来するシグナルを発するウェルの数は、例えば、Quanterix社のSimoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzerで測定することができる。Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzerを使用した場合、シグナルの強さは、ビーズあたりの平均酵素(AEB:average enzymes per bead)値として表される。このため、AEB値を測定試料中の免疫複合体に由来するシグナル強度としてもよい。
【0062】
また、検量線を用いて、AEB値をTDP−43の測定値に換算してもよい。ここでTDP−43の測定値とは、TDP−43の量又は濃度を反映した値をいう。当該測定値を「量」で標記する場合には、モルであっても質量であってもよいが、質量で標記することが好ましい。また、値を「濃度」で表記する場合には、モル濃度であっても生体試料の一定容量あたりの質量の割合(質量/容量)であってもよいが、好ましくは質量/容量である。
【0063】
本実施態様の測定方法において、Quanterix社のプロトコールにしたがって、標識物質としてβ−ガラクトシダーゼを用い、レソルフィンβ−D−ガラクトピラノシドを基質として用いることが好ましい。また、ビーズはSimoa(商標)Diskにアプライされ、Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzerでシグナル強度を取得することが好ましい。
【0064】
本発明の測定方法の一態様は、TDP−43を含むサンドイッチ免疫複合体を形成し、TDP−43を検出するサンドイッチイムノアッセイ方法である。
【0065】
本発明の測定方法によって生体試料中のTDP−43を測定することに加えて、生体試料中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)を測定することによって、被験者がTDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報の精度をより向上させることができる。
【0066】
本発明の測定方法によって、実施例に示すように、測定試料に含まれるTDP−43の濃度が6.65pg/mL以下であっても、TDP−43の定量が可能である。また、本発明の測定方法は、測定試料中のTDP−43の濃度が6pg/mL以下、5pg/mL以下、4pg/mL以下、3pg/mL以下、又は、2pg/mL以下であっても、TDP−43の定量が可能である。測定試料に含まれるTDP−43の濃度の下限は特に限定されないが、定量の容易さの観点では、測定試料中のTDP−43の濃度が1pg/mL以上であることが好ましく、1.3pg/mL以上、又は1.4pg/mL以上であることがより好ましい場合がある。
【0067】
〔2.TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得する方法〕
本発明はまた、TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得する方法(以下、「情報取得方法」と略記する場合がある)に関する。本発明の情報取得方法は、上記測定方法によって取得されたシグナルの強度に基づいて、被験者がTDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得する。TDP−43プロテイノパチーの例として、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び前頭側頭葉変性症(FTLD)等が挙げられる。
【0068】
より具体的には、被験者の生体試料中のTDP−43に由来するシグナル強度を所定の基準値と比較する。そして、被験者の生体試料中のTDP−43に由来するシグナル強度が所定の基準値よりも高い場合に、被験者がTDP−43プロテイノパチーに罹患しているという情報を取得する。
【0069】
ここで、所定の基準値とは、TDP−43に由来するシグナル強度の基準値をいう。当該基準値は、TDP−43プロテイノパチーを発症していない者の生体試料中の
TDP−43に由来するシグナル強度(陰性対照値)に基づいて決定してもよい。または、TDP−43プロテイノパチーを発症した者の生体試料中のTDP−43に由来するシグナル強度(陽性対照値)に基づいて決定してもよい。当該基準値は、陰性対照値及び陽性対照値の双方から決定してもよい。例えば、複数の陽性対照値と、複数の陰性対照値とを取得し、これらの複数の値に基づいて陽性と陰性とを最も精度よく分類できる値を基準値としてもよい。ここで、最も精度よく分類できる値は、検査の目的によって感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率等の指標に基づいて適宜設定することができる。感度、特異度、陰性的中率、陽性的中率等の観点から、陽性と陰性とを最も精度よく分類できる基準値を設定してもよい。
【0070】
シグナル強度に代えて、TDP−43の測定値を用いて、被験者がTDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得してもよい。
【0071】
〔3.TDP−43を測定する装置〕
本発明はまた、TDP−43を測定する装置(以下、「測定装置」と略記する場合がある)に関する。本発明の一実施形態に係る測定装置について、
図8に基づき、詳細に説明する。
図8は、本発明の一実施形態に係る測定装置20の概略構成を示す図である。測定装置20は、被験者から採取された生体試料中のTDP−43を測定する装置である。
【0072】
図8に示すように、測定装置20は、入力部30と、出力部31と、記憶媒体32と接続されている。測定装置20は、処理部(CPU)21と、主記憶部22と、ROM(read only memory)23と、補助記憶部24と、通信インタフェース(I/F)28と、入力インタフェース(I/F)25と、出力インタフェース(I/F)26と、メディアインターフェース(I/F)27は、バス29によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0073】
CPU21は、測定装置20の処理部である。CPU21が、補助記憶部24又はROM23に記憶されているコンピュータプログラムを実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、測定装置20が機能する。
【0074】
ROM23は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM(登録商標)等によって構成され、CPU21により実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。CPU21はMPU21としてもよい。ROM23は、測定装置20の起動時に、CPU21によって実行されるブートプログラムや測定装置20ハードウェアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0075】
主記憶部22は、SRAM又はDRAM等のRAM(Random access memory)によって構成される。主記憶部22は、ROM23及び補助記憶部24に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、主記憶部22は、CPU21がこれらのコンピュータプログラムを実行するときの作業領域として利用される。
【0076】
補助記憶部24は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。補助記憶部24には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等の、CPU21に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、補助記憶部24は、後述する測定プログラム、シグナル強度の基準値、リン酸化タウタンパク質の測定値の基準値等を記憶する。
【0077】
通信I/F28は、USB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース、ネットワークインタフェースコントローラ(NIC:Network interface controller)等から構成される。通信I/F28は、CPU21の制御下で、測定ユニット又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて測定装置20が保存又は生成する情報を、測定ユニット又は外部に送信又は表示する。通信I/F28は、ネットワークを介して測定ユニット又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0078】
入力I/F25は、例えばUSB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成される。入力I/F25は、入力部30は文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、主記憶部22又は補助記憶部24に記憶される。
【0079】
入力部30は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、測定装置20に文字入力又は音声入力を行う。入力部30は、測定装置20の外部から接続されても、測定装置20と一体となっていてもよい。
【0080】
出力I/F26は、例えば入力I/F25と同様のインタフェースから構成される。出力I/F26は、CPU21が生成した情報を出力部31に出力する。出力I/F26は、CPU21が生成し、補助記憶部24に記憶した情報を、出力部31に出力する。
【0081】
出力部31は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、測定ユニットから送信される測定結果及び測定装置20における各種操作ウインドウ、測定結果等を表示する。
【0082】
メディアI/F27は、記憶媒体32に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、主記憶部22又は補助記憶部24に記憶される。また、メディアI/F27は、CPU21が生成した情報を記憶媒体32に書き込む。メディアI/F27は、CPU21が生成し、補助記憶部24に記憶した情報を、記憶媒体32に書き込む。
【0083】
記憶媒体32は、フレキシブルディスク、CD−ROM、又はDVD−ROM等で構成される。記憶媒体32は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によってメディアI/F27と接続される。記憶媒体32には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0084】
CPU21は、測定装置20の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM23又は補助記憶部24からの読み出しに代えて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの補助記憶部24内に格納されており、このサーバコンピュータに測定装置20がアクセスして、コンピュータプログラムをダウンロードし、これをROM23又は補助記憶部24に記憶することも可能である。
【0085】
また、ROM23又は補助記憶部24には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされていてもよい。
【0086】
処理部21は、検査者が入力部30から行う、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するための入力を受け付ける。次に後述する測定ユニット等で検出された免疫複合体に由来するシグナルを取得する。そして、処理部21は、これらの取得したシグナルの強度を補助記憶部24等に記憶する。
【0087】
測定装置20は、パーソナルコンピュータ等であり得る。また、測定装置20は、後述する測定ユニットに内蔵されていてもよい。
【0088】
〔4.TDP−43を測定するシステム〕
本発明はまた、TDP−43を測定するシステムに関する。TDP−43を測定するシステムは、測定装置20と、測定ユニットと、を備える。TDP−43を測定するシステムは、被験者から採取された生体試料中のTDP−43を測定するシステムである。
【0089】
測定ユニットは、少なくともシグナルを検出するためのCCDカメラ等の撮像装置を備えた検出部を備え、場合によっては、さらに測定試料を調製するための試料調製部を備えていてもよい。また、検出部は、フローサイトメータであってもよい。検出部は、マイクロウェルに測定試料中のビーズを配置するための加圧装置、減圧装置、又は遠心装置を備えていてもよい。
【0090】
測定ユニットは、測定装置20と一体型となっていてもよい。検出部に撮像装置を備え、測定装置20と一体型となった装置としては、例えば、Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzer等が挙げられる。
【0091】
〔5.TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得する装置〕
本発明はまた、TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得する装置(以下、「情報取得装置」と略記する場合がある)に関する。本発明の一実施形態に係る情報取得装置を
図9に示す。情報取得装置50は、被験者から採取された生体試料中のTDP−43のシグナル強度に基づいて、被験者がTDP−43プロテイノパチーであるか否かの情報を取得する装置である。
【0092】
図9に示すように、情報取得装置50は、入力部60と、出力部61と、記憶媒体62と接続されている。情報取得装置50は、処理部(CPU)51と、主記憶部52と、ROM(read only memory)53と、補助記憶部54と、通信インタフェース(I/F)58と、入力インタフェース(I/F)55と、出力インタフェース(I/F)56と、メディアインターフェース(I/F)57は、バス59によって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0093】
図9の各構成の詳細は、
図8の各構成の詳細と同様である。
【0094】
処理部51は、検査者が入力部60から行う、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するための入力を受け付ける。次に後述する測定ユニット等で検出された免疫複合体に由来するシグナルを取得する。続いて、補助記憶部54等に記憶されているシグナル強度の基準値と、取得したシグナル強度を比較する。処理部51は、測定試料について取得されたシグナルが基準値より高い場合には、被験者がTDP−43プロテイノパチーに罹患している可能性があると決定する。測定試料について取得されたシグナルが基準値より低い場合には、処理部51は、被験者がTDP−43プロテイノパチーに罹患している可能性がないと決定する。処理部51は、これらの決定結果をTDP−43プロテイノパチーであるか否かの情報として補助記憶部54等に記憶する。処理部51は、これらの結果を出力部61に出力するか、又は記憶媒体62に記憶してもよい。
【0095】
〔6.TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得するシステム〕
本発明はまた、TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得するシステム(以下、「情報取得システム」と略記する場合がある)に関する。情報取得システムは、情報取得装置50と、測定ユニットと、を備える。情報取得システムは、被験者から採取された生体試料中のTDP−43を測定するシステムである。測定ユニットの詳細は、〔4.TDP−43を測定するシステム〕に記載される測定ユニットの詳細と同様である。
【0096】
測定ユニットは、情報取得装置50と一体型となっていてもよい。検出部に撮像装置を備え、情報取得装置50と一体型となった装置としては、例えば、Simoa(商標)HD-1 Analyzer及びSimoa(商標)HD-X Analyzer等が挙げられる。
【0097】
〔7.TDP−43を測定するためのコンピュータプログラム〕
本発明はまた、TDP−43を測定するためのコンピュータプログラム(以下、「測定プログラム」と略記する場合がある)に関する。測定プログラムは、測定装置20の動作を制御する測定プログラムとして使用される。測定プログラムは、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップをコンピュータに実行させる。
【0098】
〔8.TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得するためのコンピュータプログラム〕
本発明はまた、TDP−43プロテイノパチーに罹患しているか否かの情報を取得するためのコンピュータプログラム(以下、「情報取得プログラム」と略記する場合がある)に関する。情報取得プログラムは、情報取得装置50の動作を制御する測定プログラムとして使用される。情報取得プログラムは、非捕捉ビーズと免疫複合体が結合した捕捉ビーズとを含む測定試料について、免疫複合体に由来するシグナルを取得するステップをコンピュータに実行させる。
【0099】
さらに、測定プログラム及び情報取得プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶されていてもよい。記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、情報取得装置が前記プログラムを読み取り可能である限り限定されない。記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0100】
〔9.TDP−43の検出用試薬及び試薬キット〕
本発明はまた、TDP−43を検出するための試薬(以下、「検出用試薬」と略記する場合がある)に関する。検出用試薬は、本発明の測定方法に用いられ、捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズを含む。検出用試薬に含まれる捕捉ビーズと非捕捉ビーズの好ましい個数比は、〔1.TDP−43の測定方法〕に記載されるとおりである。
【0101】
本発明はまた、TDP−43を検出するための試薬キット(以下、「試薬キット」と略記する場合がある)に関する。試薬キットは、本発明の測定方法に用いられ、上記検出用試薬を含む。
【0102】
試薬キットは検出抗体をさらに含んでいてもよく、他の試薬及び器具等を含んでいてもよい。試薬キットは、ビーズに捕捉抗体が固定化されていない場合は、捕捉抗体を含有する試薬をさらに含んでいてもよい。また、試薬キットは、複数の異なる試薬を、適切な容量及び/又は形態で混合していてもよいし、それぞれ別の容器により提供してもよい。また、試薬キットには、TDP−43の測定手順等を記載した指示書を含んでいてもよい。紙若しくはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、又は、磁気テープ、コンピュータ等の読み取り可能なディスク若しくはCD−ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
【0103】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献のすべてが参考として援用される。
【実施例】
【0104】
〔材料〕
捕捉ビーズは、Quanterix社のSimoa(商標)Homebrew Assay Development kitのビーズを使用して、添付のプロトコールに従って調製した。非捕捉ビーズとして、Quanterix社のDye-Encoded Helper Beadsを使用した。ビーズバッファがEDTAを添加されたバッファを使用した。捕捉抗体として、60019−2−Ig(Proteintech社)を使用した。60019−2−Igの抗原ペプチドはTDP−43のアミノ酸配列(NCBI Reference Sequence NP_031401として登録されているアミノ酸配列)の203〜209番目に対応するペプチドである。検出抗体として、12892−1−AP(Proteintech社)を使用し、検出抗体のビオチン化は上記kitのプロトコールに従って調製した。12892−1−APの抗原ペプチドはTDP−43のアミノ酸配列(NCBI Reference Sequence NP_031401として登録されているアミノ酸配列)の261〜414番目に対応するペプチドである。12892−1−APはポリクローナル抗体である。以下、60019−2−Ig(捕捉抗体)及び12892−1−AP(検出抗体)の組み合わせを使用したTDP−43の測定方法を、実施例の測定方法と略記する場合がある。
【0105】
標的タンパク質として、非リン酸化TDP−43又はリン酸化TDP−43を使用した。また、標準曲線を作成するために標準ペプチドとしてヒトTDP−43標準ペプチドを使用した。標的タンパク質又は標準ペプチドは、Simoa(商標)Homebrew Assay Development kitのSample diluentを用いて希釈した。
【0106】
〔評価例1〕ヒトTDP−43標準ペプチドの検出下限濃度の測定
捕捉抗体として60019−2−Ig(Proteintech社)を使用した。検出抗体として検出抗体として12892−1−AP(Proteintech社)を使用した。そして、Simoa(商標)Homebrew Assay Development kitに添付のプロトコールを参照して、ヒトTDP−43標準ペプチドの測定を行った。また、Simoa(商標)Enzyme and Substrate kit、Simoa(商標)Disk kit、Simoa(商標)Sealing Oil、System buffer 1、System buffer 2、Simoa(商標)HD-1 Analyzerを使用し、メーカーのプロトコールに従って、測定を行った。測定は、測定用サンプルと、捕捉ビーズ、ビオチン標識抗体、非捕捉ビーズ等の必要な試薬をSimoa(商標)HD-1 Analyzerにセットした。そして、Simoa(商標)HD-1 Analyzerですべての測定工程を行った。
【0107】
評価例1においては、捕捉ビーズと非捕捉ビーズとの個数比は、捕捉ビーズ1に対して非捕捉ビーズが3〜9となるように調製した。また、ビーズ全体(捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズ)の濃度は、測定試料90μLに対して40万〜50万個となるように調製した。
【0108】
具体的な測定工程は以下の通りである。まず、非捕捉ビーズの存在下で、捕捉ビーズに結合されている捕捉抗体と標準ペプチドとを結合させた。次に、ビオチン化された検出抗体を、捕捉抗体と結合した標準ペプチドにさらに結合させ、捕捉ビーズ上に捕捉抗体と標準ペプチドとビオチン化検出抗体の免疫複合体を形成させた。
【0109】
免疫複合体の形成後、非捕捉ビーズの存在下で捕捉ビーズとβ−ガラクトシダーゼを結合させたストレプトアビジンとを反応させた。そして、非捕捉ビーズの存在下で捕捉ビーズをβ−ガラクトシダーゼの基質(RGP:レソルフィンβ−D−ガラクトピラノシド)と反応させた。RGPとの反応が終わった捕捉ビーズと非捕捉ビーズを、Simoa(商標)Diskにアプライした。その後、アプライされたビーズは、多数のフェムトリットル(fL)単位のウェルが配置されたアレイの各ウェルに一つずつ格納された。ウェルに格納された各ビーズをSimoa(商標)HD-1 Analyzerによって撮影し、蛍光強度(AEB)を測定した。蛍光強度の強いビーズの数を測定することにより、標的タンパク質を定量した。ブランクとしてバッファを使用した。
【0110】
Simoa(商標)Homebrew Assay Development kitの捕捉抗体及び検出抗体を使用した測定方法を比較例の測定方法として、実施例の測定方法と比較した。実施例の測定方法の測定結果を
図1、比較例の測定方法の測定結果を
図2に示す。
図1及び2の横軸は、TDP−43濃度(pg/mL)を示し、縦軸は測定により得られた実測値(AEB)を示す。
【0111】
図2の比較例の測定方法の検出下限濃度は6.65pg/mLであった。一方、
図1の実施例の測定方法の検出下限濃度は1.43pg/mLと、比較例の測定方法に比べてTDP−43標準ペプチドの検出感度が明らかに向上していた。
【0112】
また、ビーズバッファとしてEDTAが添加されたバッファを使用することによって、抗原抗体反応の安定化させることができた。
【0113】
〔評価例2〕ヒト脳脊髄液(CSF)のTDP−43の定量
ヒトCSFをサンプルとして、実施例の測定方法と比較例の測定方法を比較した。実施例の測定方法において、ビーズ全体の濃度及びは捕捉ビーズと非捕捉ビーズとの個数比は評価例1と同様の条件で行った。異常凝集したTDP−43が中枢神経系内に蓄積する筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者4名及び対照患者(CTRL)4名のCSF中の非リン酸化TDP−43を測定した。CSFはSimoa(商標)Homebrew Assay Development kitのSample diluentで4倍に希釈して測定した。また、ブランクとしてバッファを用いた。
【0114】
実施例の測定方法の測定結果を
図3、比較例の測定方法の測定結果を
図4に示す。
図3及び4の縦軸はCSF中のTDP−43濃度(pg/mL)を示す。
【0115】
比較例の測定方法と実施例の測定方法においてそれぞれ同じ8例の患者のCSFサンプルを測定した。
図4に示すように、比較例の測定方法では、8例中7例のサンプルにおいて、TDP−43の測定値が検出感度下限(6.65pg/mL)以下だった。さらに、5例のサンプルでは測定値が得られなかった(
図4において0として表示)。また、比較例の測定方法では、かろうじて測定されたTDP−43濃度について、ALS患者と対照患者(CTRL)で明らかな差はなかった。
【0116】
一方、
図3に示すように、実施例の測定方法においては、すべてのCSFサンプルでTDP−43濃度を測定することができた。また、ALS患者と対照患者(CTRL)の間でCSF中のTDP−43濃度に明らかな差が認められた。
【0117】
評価例2より、実施例の測定方法は、従来の比較例の測定方法では不可能であった、ヒトの脳脊髄液中のTDP−43の定量ができるようになったことが分かった。また、実施例の測定方法によって得られたヒト体液中のTDP−43濃度(測定値)を用いることによって、従来では不可能であった、ALS又はFTLD等のTDP−43プロテイノパチーの生化学的診断に利用可能な情報が得られることが示唆された。
【0118】
〔評価例3〕捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズの割合の検討
実施例の測定方法によって、ヒト生体試料中のTDP−43の高感度での定量が可能となった理由の1つに、TDP−43の特異抗体が結合している捕捉ビーズと、TDP−43の特異抗体が結合しておらず免疫複合体を捕捉しない非捕捉ビーズ(ヘルパービーズ)の混合比(個数比)が考えられる。そこで、捕捉ビーズ及び非捕捉ビーズの最適な混合比を検討することにした。
【0119】
TDP−43の測定は、評価例1と同様の手順で行った。ヒトTDP−43標準ペプチドを標的タンパク質として使用した。ヒトTDP−43標準ペプチドは1.67pg/mL又は5.0pg/mLとなるように、Simoa(商標)Homebrew Assay Development kitのSample diluentで希釈したものを測定用サンプルとして使用した。測定試料90μLに対して捕捉ビーズと非捕捉ビーズの合計数が40万〜50万個程度となるようにした。そして、捕捉ビーズと非捕捉ビーズの合計数を100%とし、非捕捉ビーズの数の割合を0、50、75%と変化させて、TDP−43を測定した際のAEBを比較した。1回の測定には、ヒトTDP−43標準ペプチド溶液を152μL使用した。
【0120】
TDP−43の濃度が1.67pg/mLのときの検討結果を
図5、TDP−43の濃度が5.0pg/mLのときの検討結果を
図6に示す。
【0121】
図5及び6に示すように、非捕捉ビーズの数の割合が75%の時に最も強いAEBが得られた。評価例3の結果及びこれまでの経験から、TDP−43を検出するためには、捕捉ビーズと非捕捉ビーズとの割合(捕捉ビーズ:非捕捉ビーズ)を25:75〜10:90(すなわち、1:3〜1:9)の範囲とすることが好ましいことが示唆された。
【0122】
〔評価例4〕ヒト脳脊髄液(CSF)のリン酸化TDP−43の定量
ヒトCSFをサンプルとして、実施例の測定方法においてリン酸化TDP−43の定量を行った。検出抗体として5−22−2抗体を使用した。5−22−2抗体は、リン酸化TDP−43を特異的に認識するモノクローナル抗体であって、東京都医学総合研究所 長谷川成人博士から提供を受けた。5−22−2抗体の抗原ペプチドはTDP−43のアミノ酸配列(NCBI Reference Sequence NP_031401として登録されているアミノ酸配列)の404〜410番目に対応するペプチドであって、409及び410番目のセリン(S)がリン酸化されたリン酸化TDP−43のペプチドである。実施例の測定方法において、ビーズ全体の濃度及びは捕捉ビーズと非捕捉ビーズとの個数比は評価例1と同様の条件で行った。
【0123】
異常凝集したリン酸化TDP−43が中枢神経系内に蓄積する筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者5名及び対照患者(non−ALS)4名のCSF中のリン酸化TDP−43を測定した。CSFはSimoa(商標)Homebrew Assay Development kitのSample diluentで4倍に希釈して測定した。また、ブランクとしてバッファを用いた。リン酸化TDP−43の定量結果を
図7に示す。
図7の縦軸はCSF中から検出されたリン酸化TDP−43のシグナル値(arbitrary unit)を示す。
【0124】
図7に示すように、実施例の測定方法によって、10例のサンプルすべてでヒトCSF中のリン酸化TDP−43を検出することができた。また、ALS患者と対照患者(non−ALS)の間でCSF中のリン酸化TDP−43濃度に明らかな差が認められた。
【0125】
評価例2より、実施例の測定方法は、従来の比較例の測定方法では不可能であった、ヒトの脳脊髄液中の非リン酸化TDP−43の定量に加えて、リン酸化TDP−43の定量もできることが分かった。非リン酸化TDP−43及びリン酸化TDP−43の定量が可能である実施例の測定方法によって、従来では不可能であった、ALS又はFTLD等のTDP−43プロテイノパチーの生化学的診断に利用可能な情報が得られることが示唆された。
【解決手段】生体試料中のTDP−43を測定する方法に関する。当該方法に使用される非捕捉ビーズは、生体試料中のTDP−43と、捕捉抗体と、検出抗体との免疫複合体とは結合しない。捕捉ビーズ上に免疫複合体が形成されている。検出抗体及び捕捉抗体の少なくとも一方はTDP−43を特異的に認識し、捕捉抗体のエピトープと検出抗体のエピトープとが異なる。