特許第6961293号(P6961293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6961293-無段変速機の制御装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961293
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20211025BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20211025BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20211025BHJP
   F16H 59/14 20060101ALN20211025BHJP
【FI】
   F16H61/12
   F16H61/662
   F16H59/68
   !F16H59/14
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-73309(P2017-73309)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-173153(P2018-173153A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】瓦田 遥
(72)【発明者】
【氏名】川上 辰喜
(72)【発明者】
【氏名】宇戸 亮太
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−199116(JP,A)
【文献】 特開2014−199115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/66−61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧によりロックアップオン/オフが切り替えられるロックアップ機構付きのトルクコンバータと、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有し、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに対する油圧が制御されて、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリの各溝幅が変更されることにより変速比を無段階に変速可能な無段変速機とを搭載した車両に用いられて、前記無段変速機を制御する制御装置であって、
前記ロックアップ機構への供給油圧が前記ロックアップ機構のロックアップオンに必要な油圧を下回るロックアップ外れ領域に入ることを予測する予測手段と、
前記予測手段により前記供給油圧が前記ロックアップ外れ領域に入ることが予測されると、前記無段変速機の変速比をロー側に変速する制約を課す制約手段とを含む、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される変速機として、CVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)が広く知られている。
【0003】
ベルト式の無段変速機は、無段変速機の一例であり、入力側のプライマリプーリと出力側のセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有している。プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各プーリは、固定シーブと、固定シーブにベルトを挟んで対向し、その対向方向(回転軸線方向)に移動可能な可動シーブと、可動シーブに対して固定シーブと反対側に設けられ、可動シーブとの間にピストン室(油室)を形成するピストンとを備えている。
【0004】
無段変速機では、各プーリのピストン室への油の出入りが制御されて、各プーリの固定シーブと可動シーブとの間隔(溝幅)が変更されることにより、変速比が連続的に無段階で変更される。また、各プーリの推力には、各プーリとベルトとの間で滑りが生じない大きさが必要とされ、その必要な推力が得られるよう、各プーリのピストン室に供給される油圧が制御される。
【0005】
無段変速機は、通常、トルクコンバータとともにユニット化されている。トルクコンバータには、トルク伝達効率の向上による車両の燃費の向上を図るため、ロックアップ機構(ロックアップクラッチ)が組み込まれている。ロックアップ機構は、油圧により、ポンプインペラとタービンランナとが直結されるロックアップオンの状態と、トルクコンバータのポンプインペラとタービンランナとが分離されるロックアップオフの状態とに切り替えられる。ロックアップオンの状態では、ポンプインペラとタービンランナとが直結されるので、ポンプインペラとタービンランナとの間でのエネルギ損失が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−117242号公報
【特許文献2】特開2014−199115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
たとえば、下り勾配路における車両の高速走行時など、無段変速機に入力される回転が高回転・低トルクかつ無段変速機が変速比ハイ(ハイギヤ)である状態での車両の走行時には、セカンダリプーリの高速回転による大きな遠心油圧が可動シーブに作用する。そのため、変速比を維持するには、プライマリプーリに大きな油圧を供給しなければならない。
【0008】
ところが、各部に油圧を供給するための油圧回路のライン圧の制御およびその制御のためのライン圧の検出が行われないユニットでは、プライマリプーリに供給される油圧に応じてライン圧を上げることができないため、ロックアップ機構に供給される油圧に不足が生じ、ロックアップ機構がロックアップオフの状態になるおそれがある。ロックアップ機構に供給される油圧が不足している間、ロックアップオンにできない状態となり、エンジン回転数の吹き上がりやトルクコンバータでの油温上昇などの発生の懸念がある。
【0009】
本発明の目的は、ロックアップ機構に供給される油圧の不足によるロックアップオフを抑制できる、無段変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明に係る無段変速機の制御装置は、油圧によりロックアップオン/オフが切り替えられるロックアップ機構付きのトルクコンバータと、油圧により変速比を無段階に変速可能な無段変速機とを搭載した車両に用いられて、無段変速機を制御する制御装置であって、ロックアップ機構への供給油圧がロックアップ機構のロックアップオンに必要な油圧を下回るロックアップ外れ領域に入ることを予測する予測手段と、予測手段による予測に応じて、無段変速機の変速比に制約を課す制約手段とを含む。
【0011】
この構成によれば、ロックアップ機構に供給される油圧(ロックアップ圧)がロックアップ機構のロックアップオンに必要な油圧を下回るロックアップ外れ領域に入ることが予測されると、その予測に応じて、無段変速機の変速比に制約が課される。
【0012】
たとえば、無段変速機のセカンダリプーリの高速回転による大きな遠心油圧が可動シーブに作用し、無段変速機の変速比を維持するために、プライマリプーリに大きな油圧が供給されると、ロックアップ圧が低下し、ロックアップ圧がロックアップ外れ領域に入ることが予測される。この場合に、無段変速機の変速比の変速に強制的にロー側に変速する制約が課されることにより、プライマリプーリに供給される油圧を低減させることができる。その結果、ロックアップオンに必要なロックアップ圧を確保することができ、ロックアップ圧の不足によるロックアップオフを抑制することができる。
【0013】
ライン圧を制御可能な構成にすれば、ロックアップ圧を確保できるが、その構成には、ライン圧を変更するためのソレノイドバルブやライン圧制御のためにライン圧を検出するセンサなどの追加を要する。無段変速機の変速比に制約を課す手法では、ソレノイドバルブやセンサの追加が不要であるので、安価な構成でロックアップ圧を確保することができる。
【0014】
また、無段変速機の変速比が最ハイである状態で、必要な推力以上の推力がセカンダリプーリからベルトに加えられていると、ベルト応力の増加によりベルトがダメージを受けるおそれがある。無段変速機の変速比に制約が課されて、変速比がロー側に変速されることにより、かかるダメージをベルトが受けることを抑制でき、ベルトの寿命を延ばすことができる。
【0015】
しかも、ロックアップ圧がロックアップ外れ領域に入ることが予測される状況以外では、変速比に制約が課されないので、変速比を小さくすることによる燃費の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安価な構成により、ロックアップオンに必要なロックアップ圧を確保することができ、ロックアップ機構に供給される油圧の不足によるロックアップオフを抑制することができる。その結果、油圧不足に起因するロックアップオフによる各種の懸念を払拭できるのはもちろん、無段変速機の長寿命化および車両の燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
図2】本発明の一実施形態に係る制御系の構成を示すブロック図である。
図3】変速制約処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0020】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0021】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3およびベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0022】
トルクコンバータ3は、ポンプインペラ11、タービンランナ12およびロックアップ機構(ロックアップクラッチ)13を備えている。ポンプインペラ11には、エンジン2の出力軸(E/G出力軸)が連結されており、ポンプインペラ11は、E/G出力軸と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ12は、ポンプインペラ11と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。ロックアップ機構13は、ポンプインペラ11とタービンランナ12とを直結/分離するために設けられている。ロックアップ機構13に供給される油圧が上げられて、ロックアップ機構13が係合(ロックアップオン)されると、ポンプインペラ11とタービンランナ12とが直結され、ロックアップ機構13に供給される油圧が下げられて、ロックアップ機構13が解放(ロックアップオフ)されると、ポンプインペラ11とタービンランナ12とが分離される。
【0023】
ロックアップオフの状態において、E/G出力軸が回転されると、ポンプインペラ11が回転する。ポンプインペラ11が回転すると、ポンプインペラ11からタービンランナ12に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ12で受けられて、タービンランナ12が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ12には、E/G出力軸の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
【0024】
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸が回転されると、E/G出力軸、ポンプインペラ11およびタービンランナ12が一体となって回転する。
【0025】
無段変速機4は、ベルト式の無段変速機であり、トルクコンバータ3から入力される動力をデファレンシャルギヤ5に伝達する。無段変速機4は、インプット軸(入力軸)14、アウトプット軸(出力軸)15、ベルト伝達機構16および前後進切替機構17を備えている。
【0026】
インプット軸14は、トルクコンバータ3のタービンランナ12に連結され、タービンランナ12と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0027】
アウトプット軸15は、インプット軸14と平行に配置されている。アウトプット軸15には、出力ギヤ18が相対回転不能に支持されている。
【0028】
ベルト伝達機構16には、プライマリ軸21およびセカンダリ軸22が含まれる。プライマリ軸21およびセカンダリ軸22は、それぞれインプット軸14およびアウトプット軸15と同一軸線上に配置されている。
【0029】
そして、ベルト伝達機構16は、プライマリ軸21に支持されたプライマリプーリ23とセカンダリ軸22に支持されたセカンダリプーリ24とに、無端状のベルト25が巻き掛けられた構成を有している。
【0030】
プライマリプーリ23は、プライマリ軸21に固定された固定シーブ31と、固定シーブ31にベルト25を挟んで対向配置され、プライマリ軸21にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ32とを備えている。可動シーブ32に対して固定シーブ31と反対側には、プライマリ軸21に固定されたピストン33が設けられ、可動シーブ32とピストン33との間に、ピストン室(油室)34が形成されている。
【0031】
セカンダリプーリ24は、セカンダリ軸22に対して固定された固定シーブ35と、固定シーブ35にベルト25を挟んで対向配置され、セカンダリ軸22にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ36とを備えている。可動シーブ36に対して固定シーブ35と反対側には、セカンダリ軸22に固定されたピストン37が設けられ、可動シーブ36とピストン37との間に、ピストン室38が形成されている。
【0032】
なお、図示されていないが、可動シーブ36とピストン37との間には、ベルト25に初期挟圧(初期推力)を与えるためのバイアススプリングが介在されている。バイアススプリングの弾性力により、可動シーブ36およびピストン37は、互いに離間する方向に付勢されている。
【0033】
無段変速機4では、プライマリプーリ23のピストン室34およびセカンダリプーリ24のピストン室38にそれぞれに対する油の出入りが制御されて、プライマリプーリ23およびセカンダリプーリ24の各溝幅が変更されることにより、変速比が連続的に無段階で変更される。
【0034】
一方、プライマリプーリ23およびセカンダリプーリ24の推力は、プライマリプーリ23およびセカンダリプーリ24とベルト25との間で滑りが生じない大きさを必要とする。そのため、インプット軸14に入力されるトルクの大きさに応じた推力が得られるよう、プライマリプーリ23のピストン室34に供給される油圧(プライマリ圧)およびセカンダリプーリ24のピストン室38に供給される油圧(セカンダリ圧)が制御される。
【0035】
前後進切替機構17は、インプット軸14とベルト伝達機構16のプライマリ軸21との間に介装されている。前後進切替機構17は、遊星歯車機構41、クラッチC1およびクラッチ(ブレーキ)B1を備えている。
【0036】
遊星歯車機構41には、キャリア42、サンギヤ43およびリングギヤ44が含まれる。
【0037】
キャリア42は、インプット軸14に相対回転可能に外嵌されている。キャリア42は、複数のピニオンギヤ45を回転可能に支持している。複数のピニオンギヤ45は、円周上に配置されている。
【0038】
サンギヤ43は、インプット軸14に相対回転不能に支持されて、複数のピニオンギヤ45により取り囲まれる空間に配置されている。サンギヤ43のギヤ歯は、各ピニオンギヤ45のギヤ歯と噛合している。
【0039】
リングギヤ44は、その回転軸線がプライマリ軸21の軸心と一致するように設けられている。リングギヤ44には、ベルト伝達機構16のプライマリ軸21が連結されている。リングギヤ44のギヤ歯は、複数のピニオンギヤ45を一括して取り囲むように形成され、各ピニオンギヤ45のギヤ歯と噛合している。
【0040】
クラッチC1は、油圧により、キャリア42とサンギヤ43とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0041】
クラッチB1は、キャリア42とトルクコンバータ3および無段変速機4を収容するトランスミッションケースとの間に設けられ、油圧により、キャリア42を制動する係合状態(オン)と、キャリア42の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0042】
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジションおよびD(ドライブ)ポジションがこの順に一列に並べて設けられている。
【0043】
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1およびクラッチB1の両方が解放され、パーキングロックギヤ(図示せず)が固定されることにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるPレンジが構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1およびクラッチB1の両方が解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるNレンジが構成される。クラッチC1およびクラッチB1の両方が解放された状態では、インプット軸14およびサンギヤ43が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
【0044】
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、クラッチB1が係合されて、クラッチC1が解放されることにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるDレンジが構成される。Dレンジでは、エンジン2の動力がインプット軸14に入力されると、キャリア42が静止した状態で、サンギヤ43がインプット軸14と一体に回転する。そのため、サンギヤ43の回転は、リングギヤ44に逆転かつ減速されて伝達される。これにより、リングギヤ44が回転し、ベルト伝達機構16のプライマリ軸21およびプライマリプーリ23がリングギヤ44と一体に回転する。プライマリプーリ23の回転は、ベルト25を介して、セカンダリプーリ24に伝達され、セカンダリプーリ24およびセカンダリ軸22を回転させる。そして、セカンダリ軸22と一体に、アウトプット軸15および出力ギヤ18が回転する。出力ギヤ18は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5の入力ギヤ)と噛合している。出力ギヤ18が回転すると、デファレンシャルギヤ5から左右に延びるドライブシャフト6L,6Rが回転して、駆動輪7L,7Rが回転することにより、車両1が前進する。
【0045】
なお、Dレンジでは、変速比を自動的に変速させる変速制御が行われる。
【0046】
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、クラッチB1が解放されて、クラッチC1が係合されることにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるRレンジが構成される。Rレンジでは、エンジン2の動力がインプット軸14に入力されると、キャリア42およびサンギヤ43がインプット軸14と一体に回転する。そのため、サンギヤ43の回転は、リングギヤ44に回転方向が逆転されずに伝達される。これにより、リングギヤ44が回転し、ベルト伝達機構16のプライマリ軸21およびプライマリプーリ23がリングギヤ44と一体に回転する。プライマリプーリ23の回転は、ベルト25を介して、セカンダリプーリ24に伝達され、セカンダリプーリ24およびセカンダリ軸22を回転させる。そして、セカンダリ軸22と一体に、アウトプット軸15および出力ギヤ18が回転する。出力ギヤ18が回転すると、デファレンシャルギヤ5から左右に延びるドライブシャフト6L,6Rが回転して、駆動輪7L,7Rが回転することにより、車両1が後進する。
【0047】
<車両の制御系>
図2は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0048】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)51が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、ROMおよびRAM、データフラッシュ(フラッシュメモリ)などが内蔵されている。図2には、無段変速機4を制御するための1つのECU51のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU51と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU51を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0049】
ECU51には、制御に必要な各種センサが接続されている。その一例として、ECU51には、無段変速機4のプライマリ軸21の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するプライマリ回転センサ61、無段変速機4のセカンダリ軸22の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセカンダリ回転センサ62および無段変速機4のセカンダリプーリ24の可動シーブ36に作用する油圧に応じた検出信号を出力する油圧センサ63が接続されている。
【0050】
ECU51では、プライマリ回転センサ61、セカンダリ回転センサ62および油圧センサ63の各検出信号から、プライマリ回転数(プライマリ軸21の回転数)、セカンダリ回転数(セカンダリ軸22の回転数)およびセカンダリ圧(セカンダリプーリ24の可動シーブ36に作用する油圧)が取得される。また、ECU51では、エンジン制御ロジックや他のECUから情報が取得される。そして、ECU51により、各種のセンサから取得される情報、エンジン制御ロジックや他のECUから入力される情報などに基づいて、無段変速機4の変速制御などのため、トルクコンバータ3および無段変速機4を含むユニットの各部に油圧を供給するための油圧回路に含まれる各種のバルブなどが制御される。
【0051】
<変速制約処理>
図3は、変速制約処理の流れを示すフローチャートである。
【0052】
たとえば、車両1の走行中は、ECU51により、図3に示される変速制約処理が実行される。
【0053】
変速制約処理では、ロックアップ機構13に供給される油圧であるロックアップ圧が取得される(ステップS1)。
【0054】
ECU51のROMなどの不揮発性メモリには、セカンダリ圧、油圧回路のライン圧およびプライマリプーリ23の可動シーブ32に作用する油圧であるプライマリ圧とロックアップ圧との関係が予め求められて記憶されており、その関係からセカンダリ圧、ライン圧およびプライマリ圧に応じたロックアップ圧が取得される。セカンダリ圧は、上述したように、油圧センサ63の検出信号から取得される。セカンダリ圧が挟圧コントロールバルブに入力されるライン圧を調圧して生成されることから、ライン圧は、セカンダリ圧から求めることができる。プライマリ圧は、プライマリプーリの推力とセカンダリプーリの推力との推力比およびセカンダリ圧から求められてもよいし、プライマリ圧に応じた検出信号を出力する油圧センサが設けられ、その油圧センサの検出信号から取得されてもよい。前者の場合、ECU51の不揮発性メモリには、セカンダリ圧および変速比(プーリ比)と推力比との関係が予め求められて記憶されており、推力比は、その関係から求められるとよい。変速比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求めることができる。
【0055】
また、ロックアップ機構13のロックアップオンに必要な油圧である必要ロックアップ圧が取得される(ステップS2)。
【0056】
必要ロックアップ圧は、エンジントルクの入力によるロックアップ機構13に滑りを防止できる油圧であるから、エンジントルクから求めることができる。エンジントルクは、エンジン2を制御するECUによりアクセル開度およびエンジン回転数から推定され、そのECUからECU51に送信される。アクセル開度およびエンジン回転数は、それぞれ公知のアクセルセンサおよびエンジン回転数センサの検出信号から取得される。
【0057】
その後、ロックアップ圧が必要ロックアップ圧に所定値を加えることにより設定された閾値以下であるか否かが判別される(ステップS3)。
【0058】
ロックアップ圧が閾値以下である場合、ロックアップ圧が必要ロックアップ圧を下回るロックアップ外れ領域に入る可能性がある。そこで、ロックアップ圧が閾値以下である場合(ステップS3のYES)、ロックアップ圧がロックアップ外れ領域に入るとの予測のもと、ロックアップ圧がロックアップ外れ領域に入ることを抑制するため、無段変速機4の変速比が強制的にロー側に変速されて(ステップS4)、変速制約処理が終了される。
【0059】
ロー側への変速は、変速比が所定値だけ上げることにより達成されてもよいし、変速比が一定値まで上げられることにより達成されてもよい。「強制的に」とは、「変速制御で設定される目標変速比(変速線図に基づいて設定される目標変速比)にかかわらず」という意味である。
【0060】
一方、ロックアップ圧が閾値よりも大きい場合には(ステップS3のNO)、無段変速機4の変速比にロー側に変速させるといった制約が課されずに(ステップS4のスキップ)、変速制約処理が終了される。
【0061】
<作用効果>
以上のように、ロックアップ圧が必要ロックアップ圧を下回るロックアップ外れ領域に入ることが予測されると、その予測に応じて、無段変速機4の変速比にロー側への変速の制約が課される。
【0062】
無段変速機4のセカンダリプーリ24の高速回転による大きな遠心油圧が可動シーブ36に作用し、無段変速機4の変速比を維持するために、プライマリプーリ23に大きな油圧が供給されると、ロックアップ圧が低下し、ロックアップ圧がロックアップ外れ領域に入ることが予測される。この場合に、無段変速機4の変速比に強制的にロー側に変速する制約が課されることにより、プライマリプーリ23に供給される油圧を低減させることができる。その結果、ロックアップ圧を確保することができ、ロックアップ圧の不足によるロックアップオフを抑制することができる。
【0063】
ライン圧を制御可能な構成にすれば、ロックアップ圧を確保できるが、その構成には、ライン圧を変更するためのソレノイドバルブやライン圧制御のためにライン圧を検出するセンサなどの追加を要する。無段変速機4の変速比に制約を課す手法では、ソレノイドバルブやセンサの追加が不要であるので、安価な構成でロックアップ圧を確保することができる。
【0064】
また、無段変速機4の変速比が最ハイである状態で、必要な推力以上の推力がセカンダリプーリ24からベルト25に加えられていると、ベルト応力の増加によりベルト25がダメージを受けるおそれがある。無段変速機4の変速比に制約が課されて、変速比がロー側に変速されることにより、かかるダメージをベルト25が受けることを抑制でき、ベルト25の寿命を延ばすことができる。
【0065】
しかも、ロックアップ圧がロックアップ外れ領域に入ることが予測される状況以外では、変速比に制約が課されないので、変速比を小さくすることによる燃費の向上を図ることができる。
【0066】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0067】
たとえば、ECU51には、図2に示される各種のセンサ61〜63以外のセンサが接続されていてもよいし、センサ61〜63のうちの一部は、他のECUに接続されていてもよい。
【0068】
また、無段変速機4を取り上げたが、本発明に係る制御装置は、動力分割式無段変速機に用いることもできる。動力分割式無段変速機は、変速比の変更により動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構と、動力を一定の変速比で変速する一定変速機構とを備え、駆動源の動力を2系統に分割して伝達可能な変速機である。
【0069】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1:車両
3:トルクコンバータ
4:無段変速機
13:ロックアップ機構
51:ECU(制御装置、予測手段、制約手段)
図1
図2
図3