【実施例1】
【0012】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるギア装置は、ハイブリッド車両の駆動系に設けられるエンジンと第2モータジェネレータを連結するエンジントルク伝達ギア機構として適用したものである。以下、実施例1のエンジントルク伝達ギア機構(ギア装置)の構成を、「全体システム構成」、「エンジントルク伝達ギア機構の構成」、「サブギアの詳細構成」に分けて説明する。
【0013】
[全体システム構成]
図1は、実施例1のエンジントルク伝達ギア機構が適用されたハイブリッド車両の駆動系及び制御系を示す。以下、
図1に基づき、全体システム構成を説明する。
【0014】
ハイブリッド車両の駆動系は、
図1に示すように、エンジン1(ENG)と、第1モータジェネレータ2(MG1)と、第2モータジェネレータ3(MG2)と、動力分割装置4と、左右ドライブシャフト5L,5Rと、左右前輪6L,6Rと、を備えている。
【0015】
前記エンジン1は、例えば、クランク軸方向を車幅方向として車両のフロントルームに配置したガソリンエンジンやディーゼルエンジン等である。このエンジン1は、動力分割装置4の装置ケース10に連結されると共に、エンジン出力軸が、動力分割装置4の第1軸31に接続される。なお、エンジン1は、第2モータジェネレータ3をスタータモータとしてMG2始動する。
【0016】
前記第1モータジェネレータ2は、強電バッテリ7を電源とし、主に走行用駆動源として用いられる三相交流の永久磁石型同期回転電機である。第1モータジェネレータ2のステータは、モータケースに固定され、そのケースが動力分割装置4の装置ケース10に固定される。そして、第1モータジェネレータ2のロータに一体のモータ軸が、動力分割装置4の入力軸21に接続される。第1モータジェネレータ2のステータに巻き付けられているコイルは、三相交流/直流を変換する第1インバータ81と、直流低電圧/直流高電圧を変換する第1コンバータ91とを介して、強電バッテリ7に接続される。
【0017】
前記第2モータジェネレータ3は、主にエンジン1により駆動されることで発電するジェネレータとして用いられ、発電電力を強電バッテリ7に充電する三相交流の永久磁石型同期回転電機である。第2モータジェネレータ3のステータは、ジェネレータケースに固定され、そのケースが動力分割装置4の装置ケース10に固定される。そして、第2モータジェネレータ3のロータに一体のジェネレータ軸が、動力分割装置4の第2軸32に接続される。第2モータジェネレータ3のステータに巻き付けられているコイルは、発電時に三相交流を直流に変換する第2インバータ82と、直流電圧を変換する第2コンバータ92とを介して、強電バッテリ7に接続される。
【0018】
前記動力分割装置4は、「シリーズEVモード」と「パラレルHEVモード」との切り替えが可能であり、発進時、トルクコンバータ等の回転差吸収機構を持たないことで、第1モータジェネレータ2を駆動源とする「EVモード」で発進する平行軸歯車装置である。この動力分割装置4は、装置ケース10の内部に、終減速機構20と、エンジントルク伝達ギア機構30と、ドグクラッチ40と、を備える。なお、装置ケース10は、車体に対して防振機能を持つ弾性マウント部材を介して弾性支持されている。
【0019】
前記終減速機構20は、ドグクラッチ40の切り離し解放による「EVモード」または「シリーズEVモード」の選択時、第1モータジェネレータ2から左右前輪6L,6Rへの駆動力伝達系を構成する。この終減速機構20は、入力軸21に設けられた入力ギア22と、入力ギア22と噛み合うリングギア23と、差動を許容しながらリングギア23への入力回転を左右ドライブシャフト5L,5Rに伝達するフロントデファレンシャルギア24と、を有する。
【0020】
前記エンジントルク伝達ギア機構30は、エンジン始動時や「シリーズEVモード」の選択時や「パラレルHEVモード」の選択時、エンジン1と第2モータジェネレータ3との間でトルクを伝達するギア列である。このエンジントルク伝達ギア機構30は、第1軸31に設けられた第1ギア34と、第2軸32に設けられた第2ギア35と、アイドラー軸33に設けられ、第1ギア34と第2ギア35とに噛み合うアイドラーギア36と、を有する。さらに、アイドラーギア36は、第1ギア34と第2ギア35とに噛み合うメインギア50と、メインギア50の隣接位置に同軸にて組み付けられ、メインギア50と共に第1ギア34と第2ギア35とに噛み合うサブギア60と、を備える。
【0021】
前記ドグクラッチ40は、「EVモード」や「シリーズEVモード」を切り離し解放によって選択し、「パラレルHEVモード」を噛み合い締結によって選択するモード切り替えクラッチである。このドグクラッチ40は、入力軸21側に設けられた第1クラッチ部41と、第1軸31側に設けられた第2クラッチ部42と、ストローク駆動によりドグクラッチ40の解放/締結を切り替えるクラッチアクチュエータ43と、を有して構成される。なお、入力軸21と第1クラッチ部41との間や第1軸31と第2クラッチ部42との間にギア列を設けても良い。
【0022】
ハイブリッド車両の制御系は、
図1に示すように、ハイブリッドコントロールモジュール100と、エンジンコントロールユニット101と、ジェネレータコントロールユニット102と、クラッチコントロールユニット103と、バッテリコントロールユニット104と、モータコントロールユニット105と、を備えている。
【0023】
前記ハイブリッドコントロールモジュール100(HCM)は、車両全体の消費エネルギーを適切に管理する機能を担う統合制御手段である。このハイブリッドコントロールモジュール100は、他のコントロールユニットとCAN通信線106により双方向情報交換可能に接続されている。ハイブリッドコントロールモジュール100には、車速センサ107、アクセル開度センサ108、他のセンサ・スイッチ類109からの情報が入力される。加えて、バッテリコントロールユニット104からのバッテリ充電容量情報やバッテリ温度情報、他のコントロールユニット101,102,103,105からの様々な必要情報が入力される。
なお、CAN通信線106の「CAN」とは、「Controller Area Network」の略称である。
【0024】
前記エンジンコントロールユニット101(ECU)は、ハイブリッドコントロールモジュール100からの制御指示に基づき、点火プラグや燃料噴射アクチュエータなどへ制御指令を出力することにより、エンジン1の始動制御やエンジン1の停止制御や燃料カット制御などを行う。
【0025】
前記ジェネレータコントロールユニット102(GCU)は、ハイブリッドコントロールモジュール100からの制御指示に基づき、第2インバータ82と第2コンバータ92に対して制御指令を出力し、第2モータジェネレータ3の発電制御などを行う。
【0026】
前記クラッチコントロールユニット103(CCU)は、ハイブリッドコントロールモジュール100からの制御指示に基づき、クラッチアクチュエータ43に制御指令を出力し、ドククラッチ40の噛み合い解放・噛み合い締結を制御する。
【0027】
前記バッテリコントロールユニット104(BCU)は、充電容量情報や温度情報を入力して強電バッテリ7の充電容量管理や温度管理を行い、管理結果の情報をハイブリッドコントロールモジュール100に対して出力する。
【0028】
前記モータコントロールユニット105(MCU)は、ハイブリッドコントロールモジュール100からの制御指示に基づき、第1インバータ81と第1コンバータ91に対して制御指令を出力し、第1モータジェネレータ2の力行/回生制御などを行う。
【0029】
[エンジントルク伝達ギア機構の構成]
図2及び
図3は、実施例1のエンジントルク伝達ギア機構30においてメインギア50とサブギア60による組付けギア対により構成されたアイドラーギア36を示す。以下、
図2及び
図3に基づき、エンジントルク伝達ギア機構30の構成を説明する。
【0030】
前記エンジントルク伝達ギア機構30は、
図2に示すように、第1ギア34と、第2ギア35と、アイドラー軸33に設けられ、第1ギア34と第2ギア35とに噛み合うアイドラーギア36と、を備えている。
【0031】
前記アイドラーギア36は、
図2及び
図3に示すように、メインギア50と、メインギア50に付随するサブギア60と、による組付けギア対により構成されている。メインギア50は、第1ギア34と第2ギア35とに噛み合う。サブギア60は、メインギア50に対し隙間tを介した隣接位置に、ギア軸GLを共通として同軸にて組み付けられ、メインギア50と共に第1ギア34と第2ギア35とに噛み合う。
【0032】
前記メインギア50は、ギア素材として一般的なクロムモリブデン鋼などを用いて製造され、
図2に示すように、アイドラー軸33と一体に構成される。メインギア50を一体に有するアイドラー軸33は、ベアリング80,81を介して装置ケース10に対し両端支持されている。このメインギア50は、外周に所定数のメインギア歯51が軸に対して傾いて設けられている“はすば歯車”である。なお、メインギア歯51の軸方向歯幅WMは、サブギア歯61の軸方向歯幅WSに比べて遥かに広く、第1ギア34や第2ギア35の軸方向歯幅WGより少し狭くしている。
【0033】
前記サブギア60は、ギア素材として、クロムモリブデン鋼に比べて高強度であって弾性変形性も高いバネ鋼などを用いて製造され、
図2及び
図3に示すように、メインギア50に固定されている。このサブギア60は、メインギア50と同様に、外周にメインギア50と同数のサブギア歯61が軸に対して傾いて設けられている“はすば歯車”であり、メインギア歯51に対してサブギア歯61の円周方向重なり位置が合わせられている。
なお、サブギア歯61の軸方向歯幅WSは、メインギア歯51の軸方向歯幅WMに比べて薄く、例えば、軸方向歯幅WS=1mm〜3mm程度とされる。
【0034】
ここで、「円周方向重なり位置合わせ」とは、
図3の共通径方向線dLに示すように、サブギア歯61の円周方向歯厚の中心点とギア軸GLを結ぶ径方向線と、メインギア歯51の円周方向歯厚の中心点とギア軸GLを結ぶ径方向線を一致させることをいう。
つまり、実施例1の場合には、サブギア歯61の円周方向歯厚SS(
図4参照)を、メインギア歯51の両歯面51a,51bから円周方向に拡大して設定している。このため、メインギア歯51とサブギア歯61の歯厚方向の中心を通る径方向線を一致させると、サブギア歯61は、メインギア歯51に対して円周方向の位置が重なる。
【0035】
前記サブギア60のメインギア50に対する固定構造は、メインギア歯51に対してサブギア歯61の円周方向重なり位置合わせ調整を行った後、4箇所の固定ボルト70によるボルト軸力にてサブギア60をメインギア50に対して固定する構造としている。
【0036】
前記メインギア50側の固定構造としては、
図2に示すように、ベアリング80との間の位置に、サブギア60を固定するためのサブギア被固定部52が形成される。このサブギア被固定部52には、アイドラー軸33の外径よりも大きな外径を持つギア挿入面52aと、ギア挿入面52aに直交するギア被固定面52bと、ギア被固定面52bに軸方向に開口したボルト穴52cと、を有する。
【0037】
前記サブギア60側の固定構造としては、
図2に示すように、ギア内周部の位置に、サブギア歯61が形成されるギア外周部の厚みに比べ、段階的に厚みを増したサブギア固定部62が形成される。このサブギア固定部62には、ギア挿入面52aに対応するギア固定穴62aと、ギア被固定面52bに対応するギア固定面62bと、ボルト穴52cに対応して円周方向に延ばして形成したボルト長穴62cと、ボルト長穴62cに対応するボルト頭凹部62dと、を有する。
【0038】
前記固定構造のうち、
図3に示すように、サブギア60側に有する円周方向のボルト長穴62cにより、メインギア歯51に対するサブギア歯61の円周方向重ね合わせ調整代として、例えば、10°程度の角度調整代が与えられる。また、固定ボルト70は、ボルト頭70aに六角レンチ穴70bを有し、六角レンチによってボルト軸力を出して締め付けると、
図2に示すように、ボルト頭70aがボルト頭凹部62d内に沈み込む。
【0039】
[サブギアの詳細構成]
図4は、実施例1のエンジントルク伝達ギア機構30において第1ギア34と噛み合うサブギア60の詳細構成を示し、
図5は、メインギアバックラッシMGBLを示し、
図6は、サブギアバックラッシSGBLを示す。以下、
図4〜
図6に基づき、サブギア60の詳細構成を説明する。
【0040】
前記第1ギア31とメインギア歯51とサブギア歯61に有する両歯面は、いずれもインボリュート曲線による歯面形状にしている。第1ギア34とメインギア歯51とサブギア歯61の両歯面のうち、エンジン回転方向とトルク伝達方向が同じであるドライブ状態で接触する歯面を、ドライブ歯面34a,51a,61aという。そして、ドライブ歯面34a,51a,61aと反対側の歯面であって、エンジン回転方向に対しトルク伝達方向が逆向きであるコースト状態で接触する歯面を、コースト歯面34b,51b,61bという。サブギア60の特徴とする構成は、以下に説明するように、サブギア歯61の円周方向歯厚の設定と、サブギア歯61の円周方向歯剛性の設定とにある。
【0041】
前記サブギア歯61の基準円上における両歯面61a,61bとの円周方向長さである円周方向歯厚SSは、
図4に示すように、メインギア歯51の基準円上における両歯面51a,51bとの円周方向長さである円周方向歯厚SMより広く設定している。
【0042】
このとき、円周方向歯厚SMと円周方向歯厚SSは、相手ギアである第1ギア34との歯面隙間寸法であるメインギアバックラッシMGBLとサブギアバックラッシSGBLを異ならせることにより、円周方向歯厚SS>円周方向歯厚SMという関係に決めている。以下、相手ギアを第1ギア34としてバックラッシの説明をするが、相手ギアである第2ギア35についても同様である。
【0043】
即ち、第1ギア34とメインギア歯51との歯面隙間であるメインギアバックラッシMGBLは、
図5に示すように、第1ギア34の両側のバックラッシをa,bとし、メインギア歯51の両側のバックラッシをc,dとしたとき、a+b(=BL)<c+d(=BL+ΔBL)という関係が成立する。このように、メインギアバックラッシMGBLを、ギア噛み合い運動を妨げない歯面隙間寸法、つまり、噛み合いギアにおいて通常の歯面隙間寸法によるバックラッシBLより隙間寸法ΔBLだけ広い歯面隙間寸法に設定している(MGBL=BL+ΔBL)。
【0044】
一方、第1ギア34とサブギア歯61との歯面隙間であるサブギアバックラッシSGBLは、
図6に示すように、第1ギア34の両側のバックラッシをa,bとし、サブギア歯61の両側のバックラッシをe,fとしたとき、a+b=e+f=BLという関係が成立する。このように、サブギアバックラッシSGBLとしては、ギア噛み合い運動を妨げない歯面隙間寸法、つまり、噛み合いギアにおいて通常の歯面隙間寸法によるバックラッシュBLに設定している(SGBL=BL)。
【0045】
このように、メインギアバックラッシMGBLを、サブギアバックラッシSGBLより大きな隙間寸法とする結果、サブギア歯61の円周方向歯厚SSが、メインギア歯51の円周方向歯厚SMより隙間寸法ΔBLだけ広く設定されることになる。つまり、サブギア歯61の円周方向歯厚SSを、メインギア歯51の両歯面51a,51bから円周方向に拡大して設定する実施例1の場合には、メインギア歯51の両歯面51a,51bから、それぞれ(1/2)・ΔBLだけ広く設定される。
【0046】
前記サブギア歯61の歯面に円周方向接線力が加わったときの円周方向歯剛性を、
図4に示すように、メインギア歯51の歯面に円周方向接線力が加わったときの円周方向歯剛性よりも低く設定している。
【0047】
このとき、メインギア歯51とサブギア歯61の円周方向歯剛性の設定は、メインギア50とサブギア60の歯幅や素材の決定以外に、サブギア歯61の歯形状を、通常の歯形状であるメインギア歯51と異ならせることにより決めている。これは、サブギア歯61を、メインギア歯51と同様に、ギア歯成形加工による通常の歯形状にすると円周方向歯剛性が高過ぎて、サブギア歯61に所定の円周方向接線力が加わっても、狙いのようにサブギア歯61が弾性変形しない場合がある。さらに、サブギア歯61の円周方向歯剛性の調整を、歯幅や素材の決定に依存せざるを得ず、歯剛性の調整自由度が低くなる。このため、狙いの円周方向接線力に対しサブギア歯61が確実に弾性変形するように円周方向歯剛性を低下させる調整代として、歯底切欠部63を設けている。
【0048】
即ち、サブギア60のうち円周方向に隣接するサブギア歯61,61の歯底領域には、
図4に示すように、2つの歯底位置P1,P2と、2つの歯底位置P1,P2より等距離で内径側に離れた離間位置P3と、を滑らかな線で繋いだ部分を切り欠いた歯底切欠部63を設けている。この歯底切欠部63は、2つの歯底位置P1,P2の間隔を徐々に拡げるように内径側に向かって描かれる直線部63a,63aと、離間位置P3を通り直線部63a,63aとは滑らかな接線繋がりとなるように描かれる円弧部63bと、を有する形状としている。
【0049】
前記歯底切欠部63を設けることによって、例えば、歯底切欠部63の離間位置P3を定位置に決めたとき、円弧部63bの内径を大きくするほど、サブギア歯61を支えるバネ支持部Aが細くなり、サブギア歯61の円周方向歯剛性が低く設定されることになる。例えば、歯底切欠部63の円弧部63bの内径を一定に決めたとき、離間位置P3が内径側の位置であるほど、サブギア歯61を支えるバネ支持部Aが長くなり、サブギア歯61の円周方向歯剛性が低く設定されることになる。
【0050】
次に、作用を説明する。
実施例1のエンジントルク伝達ギア機構30における作用を、「歯打ち音抑制作用」、「エンジントルク伝達ギア機構の特徴作用」に分けて説明する。
【0051】
[歯打ち音抑制作用]
例えば、エンジン1により第2モータジェネレータ3を駆動し、第2モータジェネレータ3により発電する「シリーズEVモード」のときは、第2モータジェネレータ3での発電効率の良い回転数域とするようにエンジン1の回転数制御が行われる。このエンジン1の回転数制御では、エンジン回転数が発電効率の良い回転数域を維持するように、エンジントルクを発電負荷に応じて変動させる制御とされる。このように、エンジン回転数制御に伴ってエンジントルクが変動するときの第1ギア34とアイドラーギア36との噛み合い関係をみると、エンジントルクの上昇側と下降側では異なる。つまり、エンジントルクの上昇側では、第1ギア34とアイドラーギア36のドライブ歯面同士の噛み合いになるが、エンジントルクの下降側では第1ギア34とアイドラーギア36のコースト歯面同士の噛み合いになる。このため、エンジントルク(エンジントルク伝達ギア機構30への入力トルク)が変動するとき、トルク変動過渡期において、接触する歯面の組み合わせが入れ替わり、そのときバックラッシによる歯打ち音が発生する。
【0052】
この歯打ち音を抑制する対策としては、メインギアとサブギアによる組付けギア対を用いて直接的に歯打ち音を抑制する対策以外に、ケース弾性支持などにより歯打ち音が車内へ伝達するのを抑制する間接的な対策がある。このうち、歯打ち音抑制のために間接的対策だけ施すと、乗員にとって違和感となる歯打ち音を取り除くことができないエンジントルク変動領域が存在する。よって、歯打ち音を抑制する場合には、間接的対策と直接的対策とを併用し、間接的対策を施しても歯打ち音が残ってしまうエンジントルク変動領域に絞って、メインギアとサブギアによる組付けギア対を用いた直接的対策が施されることになる。
【0053】
これに対し、メインギアとサブギアによる組付けギア対を用いた直接的対策として、既に提案されている技術は、コイルスプリングを用いたサブギア(特開2006−77786号公報など)と、皿バネを用いたサブギア(特開平8−166055号公報など)である。
【0054】
このうち、コイルスプリングを用いたサブギアについては、分担トルクが小さくなると共に、組立性が難しい。皿バネを用いたサブギアについては、フリクショントルクによってトルク伝達効率が悪化する。
つまり、サブギアへの要求として、
(1)分担トルクが大きいこと
(2)フリクショントルクが小さいこと
(3)組立性が容易であること
を掲げた場合、何れの提案対策も(1)〜(3)の全てを満足しない。
【0055】
そこで、本発明者は、(1)〜(3)の全てを満足しない原因がどこに存在するのかを究明した。まず、機械要素であるギアは、装置や機構において変形しない剛体として取り扱うのが技術常識である。この技術常識に捉われ、サブギアも同様に変形しない剛体であるとの認識に基づき、これまでは歯打ち音を抑制する力を、別体による弾性体(コイルスプリング、皿バネなど)により得ようとする点に最大の原因があることが分かった。
【0056】
この原因究明にしたがって、サブギアが変形しない剛体であるという考え方を変え、サブギア歯そのものに弾性変形機能を持たせることが可能であるかの試みを繰り返したところ、バックラッシ程度の変位量であれば弾性変形可能であることを知見した。この知見に基づいて、本発明のメインギア50とサブギア60による組付けギア対は、歯打ち音を抑制する力を出すために別体の弾性体を用いない。その代わりに、サブギア60は、相手ギアに対してメインギア歯51よりも先にサブギア歯61が噛み合う不等ピッチ構成にすると共に、サブギア歯61そのものに円周方向接線力に対する弾性変形性を持たせる構成とした。
【0057】
以下、第1ギア34と、メインギア50とサブギア60による組付けギア対により構成されるアイドラーギア36との間での歯打ち音抑制作用を、
図7〜
図13に基づき説明する。なお、第1ギア34のドライブ歯面34aとアイドラーギア36を構成するメインギア50とサブギア60のドライブ歯面51a,61aが噛み合う状態を、通常のギア噛み合いという。
【0058】
まず、上昇するエンジントルクが第1ギア34に作用し、トルク伝達方向が第1ギア34からアイドラーギア36へ向かうときの歯打ち音抑制作用を説明する。トルク伝達方向がドライブ方向のときは、
図7の矢印Bの枠内に示すように、第1ギア34のドライブ歯面34aがサブギア歯61のドライブ歯面61aに接触する。
【0059】
そして、第1ギア34のドライブ歯面34aからの円周方向接線力がサブギア歯61のドライブ歯面61aに作用すると、
図8に示すように、円周方向接線力にしたがってサブギア歯61が弾性変形する。このサブギア歯61が弾性変形するときは、第1ギア34からの円周方向接線力が、サブギア歯61のバネ力(=円周方向剛性×変位量)を上回っている関係にある。
【0060】
次に、サブギア歯61の弾性変形によりバックラッシ分が無くなると、
図9の矢印Cの枠内に示すように、サブギア歯61が弾性変形状態のままで、第1ギア34のドライブ歯面34aとメインギア歯51のドライブ歯面51aが接触する。つまり、第1ギア34とメインギア歯51の接触する歯面同士の組み合わせが、ドライブ歯面34a,51aである通常のギア噛み合い状態になる。
【0061】
よって、第1ギア34のドライブ歯面34aとメインギア歯51のドライブ歯面51aの歯面同士が一気に衝突することで発生する歯打ち音が、サブギア歯61の弾性変形によるバネ力により抑制される。つまり、歯打ち衝突エネルギーが、サブギア歯61の弾性変形エネルギー分だけ軽減される。
【0062】
その後、下降するエンジントルクが第1ギア34に作用し、トルク伝達方向がアイドラーギア36から第1ギア34へ向かう方向に切り替えられるときの歯打ち音抑制作用を説明する。トルク伝達方向がコースト方向に切り替えられると、
図10の矢印Dの枠内に示すように、第1ギア34のドライブ歯面34aが、接触していたメインギア歯51のドライブ歯51a及びサブギア歯61のドライブ歯面61aから離れる。そして、第1ギア34のコースト歯面34bが、
図11の矢印Eの枠内に示すように、サブギア歯61のコースト歯面61bに接触する。
【0063】
そして、第1ギア34のコースト歯面34bからの円周方向接線力がサブギア歯61のコースト歯面61bに作用すると、
図12に示すように、円周方向接線力にしたがってサブギア歯61が弾性変形する。このサブギア歯61が弾性変形するときは、第1ギア34からの円周方向接線力が、サブギア歯61のバネ力(=円周方向剛性×変位量)を上回っている関係にある。
【0064】
次に、サブギア歯61の弾性変形によりバックラッシ分が無くなると、
図13に示すように、サブギア歯61が弾性変形状態のままで、第1ギア34のコースト歯面34bとメインギア歯51のコースト歯面51bが接触する。つまり、第1ギア34とメインギア歯51の接触する歯面同士の組み合わせが、コースト歯面34b,51bである通常のギア噛み合いとは反対になる。
【0065】
よって、第1ギア34のコースト歯面34bとメインギア歯51のコースト歯面51bの歯面同士が一気に衝突することで発生する歯打ち音が、サブギア歯61の弾性変形によるバネ力により抑制される。つまり、歯打ち衝突エネルギーが、サブギア歯61の弾性変形エネルギー分だけ軽減される。
【0066】
[エンジントルク伝達ギア機構の特徴作用]
実施例1では、サブギア60を、メインギア歯51に対してサブギア歯61の円周方向重なり位置を合わせてメインギア50に固定する。そして、サブギア歯61の円周方向歯厚SSを、メインギア歯51の円周方向歯厚SMより広くすると共に、サブギア歯61の円周方向歯剛性を、メインギア歯51の円周方向歯剛性よりも低く設定する構成とした。
【0067】
よって、無負荷状態での第1ギア34からのトルク伝達の際、第1ギア34の歯面とサブギア歯61の歯面とが接触し、接触位置から円周方向接線力が与えられると、円周方向歯剛性が低いサブギア歯61が円周方向接線力によって弾性変形する。そして、サブギア歯61の弾性変形によりメインギア歯51との円周方向歯厚SS,SMの差分(SS−SM)が無くなると、メインギア50とサブギア60との組付けギア対によりトルク伝達される。
【0068】
即ち、第1ギア34に対してメインギア歯51よりも先にサブギア歯61が噛み合う歯厚構成にすると共に、サブギア歯61そのものに円周方向接線力に対する弾性変形性を持たせる構成にしている。このため、円周方向接線力によってサブギア歯61が弾性変形を開始すると、円周方向剛性(バネ定数)と変位量の積によるバネ力が、サブギア60の歯面から第1ギア34の歯面に向かって作用し、第1ギア34とメインギア50が歯面接触するときの歯打ち音が抑制される。
【0069】
このように、第1ギア34からの入力トルクを、弾性変形するサブギア歯61により発生するバネ力にて直接支えるため、大きな分担トルクが可能になるし、フリクショントルクの発生も小さく抑えられる。そして、サブギア60は、メインギア50に対する固定により組み付けられるため、組立性が容易である。
【0070】
実施例1では、サブギアバックラッシSGBLを、ギア噛み合い運動を妨げない歯面隙間寸法に設定し、メインギアバックラッシMGBLを、サブギアバックラッシSGBLより広い歯面隙間寸法に設定する構成とした。
即ち、サブギアバックラッシSGBLによりサブギア歯61の円周方向歯厚SSが決まる。そして、メインギアバックラッシMGBLとサブギアバックラッシSGBLとの差分が、サブギア歯61の円周方向歯厚SSとメインギア歯51の円周方向歯厚SMとの差(SS−SM)に一致するため、メインギア歯51の円周方向歯厚SMが決まる。このように、サブギア歯61の円周方向歯厚SSとメインギア歯51の円周方向歯厚SMとが、バックラッシに基づいて決められる。
従って、サブギア歯61とメインギア歯51の円周方向歯厚SS,SMを異ならせた設定にするとき、第1ギア34とサブギア60のスムーズなギア噛み合いを確保しながら、サブギア歯61の弾性変形量がバックラッシ差分に基づく適正量とされる。
【0071】
実施例1では、サブギア60のうち円周方向に隣接するサブギア歯61,61の歯底領域に、歯底部分を切り欠いた歯底切欠部63を設ける構成とした。
即ち、サブギア歯61の円周方向歯剛性を、メインギア歯51の円周方向歯剛性よりも低く設定する際、歯幅や素材よりも自由度が高い歯底切欠部63の形状変更が、サブギア歯61の円周方向歯剛性の調整代になる。
従って、サブギア歯61の円周方向歯剛性を設定するとき、歯底切欠部63の形状設定により、円周方向接線力により弾性変形する狙いの円周方向歯剛性が容易に得られる。
【0072】
実施例1では、歯底切欠部63は、隣接するサブギア歯61,61の2つの歯底位置P1,P2と、2つの歯底位置P1,P2より内径側に等距離だけ離れた離間位置P3と、を滑らかな線で繋いだ部分を切り欠いた形状とした。
例えば、隣接するサブギア歯の歯底領域に直線が交わる角を持つような歯底切欠部を設けると、サブギア歯が弾性変形するとき、歯底切欠部の角に応力集中が発生し、サブギア歯の耐久信頼性を損なう。
これに対し、隣接するサブギア歯61,61の2つの歯底部分に歯底切欠部63を設けるとき、3つの位置P1,P2,P3を滑らかな線で繋いだ部分を切り欠いて歯底切欠部63とすることで、サブギア歯61の耐久信頼性が確保される。
【0073】
実施例1では、サブギア歯61の円周方向歯厚SSを、メインギア歯51の両歯面51a,51bから円周方向に拡大して設定する構成とした。
即ち、歯打ち音の発生メカニズムで、以下の3つの状態があることが分かっている。
(A) 入力トルク変動が小さく、ドライブ歯面を離れるが、コースト歯面に接触せず、またドライブ歯面に衝突する際に発生する歯打ち音。
(B) 入力トルク変動が中程度で、ドライブ歯面を離れるが、コースト歯面に衝突する場合としない場合がある、またドライブ歯面とコースト歯面の両歯打ちの過渡状態。
(C) 入力トルク変動が大きく、ドライブ歯面を離れ、コースト歯面に衝突し、その後、またドライブ歯面に衝突する歯打ち音が定常的に発生する。
これに対し、サブギア歯61の円周方向歯厚SSを、メインギア歯51の両歯面51a,51bから円周方向に拡大した両側タイプでは、上記(A),(B),(C)の状態で歯打ち音の抑制が実現できる。
【0074】
実施例1では、ギア装置を、ハイブリッド車両の駆動系に設けられ、エンジン1と第2モータジェネレータ3とのエンジントルク伝達ギア機構30とする。エンジントルク伝達ギア機構30は、エンジン1に連結される第1軸31に設けられた第1ギア34と、第2モータジェネレータ3に連結される第2軸32に設けられた第2ギア35と、第1ギア34と第2ギア35に噛み合うアイドラーギア36と、を有する。エンジントルク伝達ギア機構30のアイドラーギア30を、メインギア50とサブギア60による組付けギア対とする構成とした。
即ち、エンジン駆動で第2モータジェネレータ3を発電するとき、エンジントルク伝達ギア機構30にトルク変動の大きなエンジントルクが伝達される。このとき、他の対策との併用で歯打ち音を抑制するとき、エンジントルク変動のうち、例えば、5Nm相当の変動による歯打ち音が残ってしまうため、これを解消したいという要求がある。これに対し、サブギア60のサブギア歯61の円周方向剛性を、解消したいエンジントルク変動で弾性変形するようにチューニングする。
この結果、エンジン駆動で第2モータジェネレータ3を発電する際、他の歯打ち音抑制対策との併用で歯打ち音を抑制するとき、他の対策では残ってしまう歯打ち音が整然と抑制される。
【0075】
次に、効果を説明する。
実施例1におけるエンジントルク伝達ギア機構30にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0076】
(1) 相手ギア(第1ギア34、第2ギア35)と、
相手ギア(第1ギア34、第2ギア35)に噛み合うメインギア50と、
メインギア50の隣接位置に同軸にて組み付けられ、メインギア50と共に相手ギア(第1ギア34、第2ギア35)に噛み合うサブギア60と、
を備えるギア装置(エンジントルク伝達ギア機構30)において、
サブギア60は、メインギア歯51に対してサブギア歯61の円周方向重なり位置を合わせてメインギア50に固定し、
サブギア歯61の円周方向歯厚SSを、メインギア歯51の円周方向歯厚SMより広くすると共に、サブギア歯61の円周方向歯剛性を、メインギア歯51の円周方向歯剛性よりも低く設定する(
図4)。
このため、分担トルク大・フリクショントルク小・組立性容易というサブギア60への要求を満足しつつ、入力トルク変動による歯打ち音を抑制することができる。
【0077】
(2) 相手ギア(第1ギア34、第2ギア35)とメインギア歯51との歯面隙間であるバックラッシをメインギアバックラッシMGBLといい、相手ギア(第1ギア34、第2ギア35)とサブギア歯61との歯面隙間であるバックラッシをサブギアバックラッシSGBLというとき、
サブギアバックラッシSBGLを、ギア噛み合い運動を妨げない歯面隙間寸法に設定し、
メインギアバックラッシMGBLを、サブギアバックラッシSGBLより広い歯面隙間寸法に設定する(
図4)。
このため、(1)の効果に加え、サブギア歯61とメインギア歯51の円周方向歯厚SS,SMを異ならせた設定にするとき、相手ギア(第1ギア34、第2ギア35)とサブギア60のスムーズなギア噛み合いを確保しながら、サブギア歯61の弾性変形量をバックラッシ差分に基づいて適正量にすることができる。
【0078】
(3) サブギア60のうち円周方向に隣接するサブギア歯61,61の歯底領域に、歯底部分を切り欠いた歯底切欠部63を設ける(
図4)。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、サブギア歯61の円周方向歯剛性を設定するとき、歯底切欠部63の形状設定により、円周方向接線力により弾性変形する狙いの円周方向歯剛性を容易に得ることができる。
【0079】
(4) 歯底切欠部63は、隣接するサブギア歯61,61の2つの歯底位置P1,P2と、2つの歯底位置P1,P2より内径側に等距離だけ離れた離間位置P3と、を滑らかな線で繋いだ部分を切り欠いた形状とする(
図4)。
このため、(3)の効果に加え、隣接するサブギア歯61,61の2つの歯底部分に歯底切欠部63を設けるとき、サブギア歯61の耐久信頼性を確保することができる。
【0080】
(5) サブギア歯61の円周方向歯厚SSを、メインギア歯51の両歯面51a,51bから円周方向に拡大して設定する(
図4)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、サブギア歯61の弾性変形が両歯面で得られる両側タイプとしたことで、入力トルク変動が小さい状態から大きい状態までの全ての状態で歯打ち音の抑制を実現することができる。
【0081】
(6) ギア装置は、ハイブリッド車両の駆動系に設けられ、エンジン1とモータジェネレータ(第2モータジェネレータ3)とのエンジントルク伝達ギア機構30であり、
エンジントルク伝達ギア機構30は、エンジン1に連結される第1軸31に設けられた第1ギア34と、モータジェネレータ(第2モータジェネレータ3)に連結される第2軸32に設けられた第2ギア35と、第1ギア34と第2ギア35に噛み合うアイドラーギア36と、を有し、
エンジントルク伝達ギア機構30のアイドラーギア36を、メインギア50とサブギア60による組付けギア対とする(
図1)。
このため、(1)〜(5)の効果に加え、エンジン駆動でモータジェネレータ(第2モータジェネレータ3)を発電する際、他の歯打ち音抑制対策との併用で歯打ち音を抑制するとき、他の対策では残ってしまう歯打ち音を整然と抑制することができる。