(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の溝の前記負極集電体の長手方向の間隔は、前記複数の溝の各底部の前記負極集電体の長手方向に垂直な中心線を基準として150μm〜250μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述のように、非水電解質二次電池では、充放電に伴う電極の膨張により電極体内から周囲に電解液が押し出される。特に、高容量の負極活物質を用いた場合は、充電時に負極が大きく膨張する。そして、電極体内の電解液が減少すると、電極体内で不均一な電池反応が起こる場合があり、サイクル特性の低下を招くと考えられる。
【0009】
図6は、従来の負極100を示す断面図である。
図6に例示する負極100は、電極体内から押し出された電解液を電極体内に素早く戻すために、負極合剤層101の表面に形成された複数の溝102を有する。しかし、本発明者らの検討の結果、
図6に示すような溝102を負極合剤層101の表面に形成しても、サイクル特性の改善効果は小さい、或いは殆ど得られないことが分かった。
【0010】
本発明者らの更なる検討の結果、負極合剤層の表面に複数の溝を形成し、複数の溝の底部に区画された帯状領域における負極合剤層の表面を負極集電体と反対側に凸となるように湾曲させることで、電池のサイクル特性が特異的に向上することが判明した。帯状領域における負極合剤層の表面を湾曲させ、溝の縁部に角ばった部分を無くすことで、溝に沿って電解液が電極体内に素早く戻りやすくなると考えられる。このため、電解液の減少に伴う不均一な電池反応が抑制され、サイクル特性が向上するものと推定される。
【0011】
以下、実施形態の一例として、円筒形の金属製ケースを備えた円筒形電池である非水電解質二次電池10を例示するが、本開示の非水電解質二次電池はこれに限定されない。本開示の非水電解質二次電池は、例えば角形の金属製ケースを備えた角形電池、樹脂製シートからなる外装体を備えたラミネート電池などであってもよい。
【0012】
図1は、非水電解質二次電池10の断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回構造を有する電極体14と、非水電解質(図示せず)とを備える。電極体14は、正極11と、負極12と、セパレータ13とを有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻状に巻回されてなる。以下では、電極体14の軸方向一方側を「上」、軸方向他方側を「下」という場合がある。
【0013】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解又は分散した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0014】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも長尺状に形成されている。これら各部材は、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層された状態となる。電極体14において、各電極の長手方向が巻回方向となり、各電極の幅方向が軸方向となる。正極11と正極端子とを電気的に接続する正極リード19は、例えば正極11の長手方向中央部に接続され、電極群の上端から延出している。負極12と負極端子とを電気的に接続する負極リード20は、例えば負極12の長手方向端部に接続され、電極群の下端から延出している。
【0015】
図1に示す例では、ケース本体15と封口体16によって、電極体14及び非水電解質を収容する金属製の電池ケースが構成されている。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って封口体16側に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。非水電解質二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16のキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20はケース本体15の底部側に延び、ケース本体15の底部内面に溶接される。非水電解質二次電池10では、ケース本体15が負極端子となる。
【0016】
ケース本体15は、有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、電池ケース内の密閉性が確保されている。ケース本体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する張り出し部21を有する。張り出し部21は、ケース本体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体16を支持する。
【0017】
封口体16は、電極体14側から順に、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、及びキャップ26が積層された構造を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。下弁体23には通気孔が設けられているため、異常発熱で電池の内圧が上昇すると、上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部からガスが排出される。
【0018】
以下、
図2及び
図3を適宜参照しながら、電極体14の各構成要素(正極11、負極12、セパレータ13)について、特に負極12について詳説する。
【0019】
[正極]
正極11は、長尺状の正極集電体11aと、正極集電体11a上に形成された正極合剤層11bとを有する。正極集電体11aは、例えば5μm〜20μmの厚みを有し、幅が略一定の帯状体である。正極集電体11aには、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層11bは、例えば正極活物質、導電剤、及び樹脂バインダーを含む。正極11は、例えば正極集電体11aの両面に正極活物質、導電剤、及び樹脂バインダー等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層11bを集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
正極合剤層11bは、例えば正極リード19が溶接される部分及びそのちょうど反対側に位置する部分を除く正極集電体11aの両面の全域に形成されている。正極合剤層11bの厚みは、特に限定されないが、好ましくは正極集電体11aの片側で40μm〜80μmである。正極合剤層11bに含まれる正極活物質としては、Ni、Co、Mn等の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属14酸化物が例示できる。リチウム含有遷移金属酸化物は、特に限定されないが、一般式Li
1+xMO
2(式中、−0.2<x≦0.2、MはNi、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含む)で表される複合酸化物であることが好ましい。
【0021】
正極合剤層11bに含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層11bに含まれる樹脂バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0022】
[負極]
負極12は、長尺状の負極集電体30と、負極集電体30上に形成された負極合剤層31とを有する。負極集電体30は、例えば5μm〜20μmの厚みを有し、幅が略一定の帯状体である。負極集電体30には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層31は、例えば負極活物質、及び樹脂バインダーを含む。負極12は、例えば負極集電体30の両面に負極活物質、樹脂バインダー等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層31を集電体の両面に形成することにより作製できる。詳しくは後述するが、負極合剤層31の圧縮は、例えば2回行われ、2回目の圧縮工程で溝32が形成される。
【0023】
負極合剤層31は、例えば負極リード20が溶接される部分及びそのちょうど反対側に位置する部分を除く負極集電体30の両面の全域に形成されている。負極合剤層31の厚みは特に限定されないが、好ましくは負極集電体30の片側において最も厚い部分の厚みT
31は40μm〜80μmである。負極合剤層31に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む酸化物などを用いることができる。
【0024】
負極活物質の好適な例としては、黒鉛、SiO
xで表される酸化ケイ素が挙げられる。負極合剤層31は、負極活物質として、黒鉛又はSiO
xで表される酸化ケイ素のいずれか一方を含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。黒鉛と当該酸化ケイ素が併用される場合、黒鉛と当該酸化ケイ素の質量比は、例えば99:1〜80:20であり、好ましくは97:3〜90:10である。
【0025】
SiO
xで表される酸化ケイ素は、例えば非晶質のSiO
2マトリックス中にSiの微粒子が分散した構造を有する。好適な酸化ケイ素の一例は、SiO
x(0.5≦x≦1.6)である。SiO
xで表される酸化ケイ素は、Li
2ySiO
(2+y)(0<y<2)で表されるリチウムシリケートを含有していてもよく、リチウムシリケート相中にSiの微粒子が分散した構造を有していてもよい。
【0026】
SiO
xで表される酸化ケイ素の粒子表面には、酸化ケイ素よりも導電性の高い材料で構成される導電被膜が形成されていることが好ましい。導電被膜を構成する材料としては、炭素材料、金属、及び金属化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、炭素材料を用いることが特に好ましい。炭素被膜は、例えばSiO
x粒子の質量に対して0.5〜10質量%で形成される。
【0027】
負極合剤層31に含まれる樹脂バインダーには、正極の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いることができる。水系溶媒を用いて合剤スラリーを調製する場合は、CMC又はその塩、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどを用いることが好ましい。
【0028】
図2及び
図3に例示するように、負極合剤層31の表面には、負極集電体30の幅方向に延びる複数の溝32が形成されている。また、負極合剤層31には、溝32の底部33に区画されて負極集電体30の幅方向に延びた複数の帯状領域34が形成されている。そして、帯状領域34における負極合剤層31の表面は、各溝32の底部33に向かって、負極集電体30と反対側に凸となるように湾曲している。つまり、負極合剤層31では、溝縁部35が丸みを帯びており、溝縁部35に角が存在しない。これにより、充電により電極体14が膨張している場合でも、溝32に沿って電解液が電極体14内へ浸透しやすくなる。少なくとも一つの帯状領域34における負極合剤層31の表面が各溝32の底部33に向かって湾曲していれば本開示の効果が発揮されるように作用する。しかし、全ての帯状領域34における負極合剤層31の表面が溝32の底部33に向かって湾曲していることが好ましい。
【0029】
本実施形態では、負極集電体30の両面に形成された各負極合剤層31に複数の溝32がそれぞれ形成されている。各負極合剤層31において溝32の本数が同じであり、各負極合剤層31の溝32は互いに略同じ間隔、幅、深さで形成され、負極12の厚み方向に重なっているが、各負極合剤層31で溝32の本数は異なっていてもよい。また、各負極合剤層31の溝32の間隔、幅、深さは互いに異なっていてもよく、各溝32は負極12の厚み方向に重なっていなくてもよい。
【0030】
複数の溝32は、例えば負極合剤層31の幅方向両端から幅方向中央部の近傍までそれぞれ形成されていてもよいが、好ましくは負極合剤層31の全幅にわたって形成される(本実施形態では、負極集電体30の全幅にわたって形成される)。溝32は、負極集電体30の幅方向に対して傾斜していてもよいが、好ましくは幅方向と略平行に形成される。また、各溝32は互いに略平行に形成されていることが好ましい。
【0031】
複数の溝32の負極集電体30の長手方向の間隔P
32は、例えば各底部33の負極集電体30の長手方向に垂直な中心線αを基準として150μm〜250μmである(
図2参照)。溝32の間隔P
32は、150μm〜200μmがより好ましい。各間隔P
32は、不規則であってもよいが、好ましくは略一定である。各溝32の幅W
32(
図2参照)は、例えば5μm〜15μmである。なお、幅W
32とは溝32の底部33の幅である。
図3に示す例では、溝32の底部33が略平坦に形成されているが、底部33は負極集電体30側に凸となるように湾曲、又はV字状となるように突出していてもよい。その場合は湾曲部又は突出部の幅が溝の幅W
32に一致する。各溝32の幅W
32は互いに異なっていてもよいが、好ましくは略同じである。
【0032】
各溝32の深さD
32(
図3参照)は、例えば7μm〜20μmである。ここで、深さD
32とは、負極合剤層31の厚みが最も厚い部分の表面から溝32の最深部までの負極12の厚み方向に沿った長さである。各溝32の深さD
32は、例えば負極合剤層31の最も厚い部分の厚みT
31に対して5%〜40%となる。各溝32の深さD
32は互いに異なっていてもよいが、好ましくは略同じである。
【0033】
帯状領域34は、負極集電体30の長手方向に並んで形成されている。
図3に示す例では、帯状領域34における負極合剤層31の表面が、当該領域の全幅にわたって負極集電体30と反対側に凸となるように湾曲している。即ち、帯状領域34における負極合剤層31の表面全体が湾曲しており、負極12を長手方向に切断した断面において帯状領域34における負極合剤層31の表面は緩やかな曲線となっている。
【0034】
各帯状領域34は、当該領域の幅方向両端部から略等距離の位置、即ち帯状領域34の幅方向中央部が頂部となるように湾曲していることが好ましい。つまり、帯状領域34の厚みは、幅方向両端部から幅方向中央部に近づくほど厚くなる。換言すると、負極合剤層31は、帯状領域34の幅方向中央部から当該領域の両側に形成された各溝32の底部33に向かって次第に厚みが薄くなっている。溝縁部35には角が存在せず、溝32が形成された部分のみで負極合剤層31の厚みが急峻に減少するような表面形状を有さない。
【0035】
負極合剤層31は、例えば帯状領域34における負極合剤層31の密度と、底部領域35における負極合剤層31の密度との差が5%以内である。ここで、底部領域35とは、各溝32の底部33と負極集電体30の間に位置する領域である。
図6に例示するような溝102を形成した場合は、底部領域106で他の領域よりも負極合剤層101の密度が高くなりやすいが、帯状領域34の表面を緩やかな曲面状とすることで、底部領域35における密度の上昇を抑制できる。負極合剤層31の密度を均一化することは、充電により膨張した電極体内への電解液の浸透を容易にするとともに不均一な電池反応を抑制し、サイクル特性の向上に寄与する。
【0036】
図4に示す例では、負極合剤層31Xの表面が、各帯状領域34Xの幅方向両端部の近傍のみで負極集電体30と反対側に凸となるように湾曲している。
図4に例示する負極12Xでは、各溝32Xの底部33Xが略平坦である。また、溝縁部35Xが湾曲し、溝縁部35Xに角が存在しない点で、負極12と共通する。他方、帯状領域34Xは、幅方向中央部が湾曲しておらず、その表面が略平坦である点で、負極12の帯状領域34と異なる。なお、溝32Xの寸法等は、負極12の溝32と同様とすることができる。
【0037】
図5は、負極合剤層31の表面に複数の溝32を形成するための押圧部材50を示す。複数の溝32は、表面に凹凸を有さないローラ等の押圧部材で負極合剤層31を圧縮した後、
図5に例示する押圧部材50を用いて負極合剤層31を再度圧縮することにより形成される。押圧部材50の表面には、複数の凸部51が形成されている。各凸部51は、互いに略一定の間隔をあけて、各凸部51が並ぶ方向と直交する方向に細長く形成されている。そして、各凸部51の両側には表面が緩やかに湾曲した凹部52が形成されている。押圧部材50は、例えば負極合剤層31に当接する表面に複数の凸部51と、複数の凹部52とが形成されたローラである。
【0038】
負極合剤層31は、凸部51によって圧縮された部分に溝32となり、凹部52によって圧縮された部分が帯状領域34となる。
図5に示す例では、凸部51の先端が略平坦であるため、溝32の底部33が略平坦となる。そして、凹部52の表面は、上述のように湾曲しているので、帯状領域34における負極合剤層31の表面全体が負極集電体30と反対側に凸となるように湾曲した形状となる。なお、凹部52の表面形状を変更することで、
図4に例示する帯状領域34Xを形成することができる。
【0039】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱性材料を含む耐熱層が形成されていてもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物を98質量部と、導電性炭素粉末を1質量部と、ポリフッ化ビニリデンを1質量部と、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを混合して、正極合剤スラリーを調製した。次に、正極合剤スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面にそれぞれ塗布し、塗膜を乾燥させた後、塗膜を圧縮して正極合剤層を形成した。正極合剤層が両面に形成された集電体を所定の電極サイズに切断し、集電体の表面が露出した部分にアルミニウム製リードを接続して正極を得た。正極の厚みは、正極合剤層が集電体の両面に形成された部分で143μmであった。
【0042】
[負極の作製]
黒鉛粉末を98質量部と、スチレンブタジエンゴムを1質量部と、カルボキシメチルセルロースを1質量部とを混合し、さらに水を適量加えて、負極合剤スラリーを調製した。次に、負極合剤スラリーを厚み10μmの銅箔からなる負極集電体の両面にそれぞれ塗布し、塗膜を乾燥させた後、塗膜を圧縮して負極合剤層を形成した。このときの負極合剤層の密度は、1.6g/ccであった。
【0043】
次に、
図5に示すような表面形状を有するエンボスロール(凸部51の頂点の幅:10μm、凸部51同士の間隔:200μm)を用いて負極合剤層を圧縮し、負極合剤層の表面に複数の溝を形成した。各溝は、幅:10μm、深さ:10μm、間隔:200μmで、負極集電体の全幅にわたって形成され、各溝の間には集電体と反対側に凸となるように表面が湾曲した複数の帯状領域が形成された。帯状領域は表面全体が緩やかに湾曲し、溝に沿った縁部に角は存在しない。帯状領域及び底部領域における負極合剤層の密度は、いずれも1.6g/ccであった。
【0044】
続いて、溝付きの負極合剤層が両面に形成された集電体を所定の電極サイズに切断し、集電体の表面が露出した部分にニッケル製リードを接続して負極を得た。負極の厚みは、負極合剤層が集電体の両面に形成された部分であって、帯状領域の頂部に対応する部分で160μmであった。
【0045】
[非水電解液の調製]
アルゴン雰囲気下で、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:7の体積比で混合した。当該混合溶媒に、1モル/Lの濃度になるようにLiPF
6を溶解させて非水電解液を調製した。
【0046】
[電池の作製]
上記正極と上記負極を、厚み20μmのポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して渦巻き状に巻回することで巻回型の電極体を作製した。当該電極体を、25℃、1気圧の窒素雰囲気下で有底円筒形状の電池ケース本体に収容し、上記非水電解液を注入した後、ガスケット及び封口体により電池ケース本体の開口部を封口して、円筒形非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
<実施例2>
負極活物質として、黒鉛を93質量部と、SiO
x(x=1)で表される酸化ケイ素を7質量部とを混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0048】
<比較例1>
図7に示すような表面形状を有するエンボスロール(凸部111の頂点の幅:10μm、凸部111同士の間隔:200μm)を用いて負極合剤層を圧縮し、負極合剤層の表面に複数の溝を形成した以外は、実施例1と同様にして負極及び電池を作製した。各溝は、幅:10μm、深さ:10μm、間隔:200μmで、負極集電体の全幅にわたって形成された。各溝の間には表面が略平坦な複数の帯状領域が形成され、溝に沿った縁部には角が形成された。帯状領域における負極合剤層の密度は1.6g/cc、底部領域における負極合剤層の密度は1.65g/ccであった。
【0049】
<比較例2>
エンボスロールを用いた負極合剤層の圧縮を行わず、負極合剤層の表面に溝を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして負極及び電池を作製した。
【0050】
<比較例3>
負極活物質として、黒鉛を93質量部と、SiO
x(x=1)で表される酸化ケイ素を7質量部とを混合したものを用いたこと以外は、比較例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0051】
<比較例4>
負極活物質として、黒鉛を93質量部と、SiO
x(x=1)で表される酸化ケイ素を7質量部とを混合したものを用いたこと以外は、比較例2と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0052】
上記各非水電解質二次電池について以下の方法で性能評価を行い、評価結果を表1に示した。表1には、当該評価結果と共に、負極活物質、充電時における電極体の膨張率、及び負極合剤層の表面に形成された溝の寸法等を示す。
【0053】
[サイクル特性の評価]
25℃の温度条件下において、1Cの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電した後、4.2Vの定電圧で終止電流が0.02Cになるまで充電した。1分間休止した後、1Cの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行い、1分間休止した。この充放電サイクルを500サイクル繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の比率(容量維持率)を求めた。なお、表1に示す実施例2及び各比較例の電池の容量維持率は、実施例1の電池の容量維持率を100としたときの値である。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、実施例1の電池は、比較例1,2の電池と比べて、サイクル特性に優れる。比較例1,2の電池ではサイクル特性に差がなく、比較例1の負極合剤層の表面に形成された溝はサイクル特性に寄与しないことが分かった。つまり、充電時における電極体の膨張率が120%である場合は、溝縁部に角が存在するような溝を形成してもサイクル特性の改善効果がなく、溝縁部に角が存在しない溝を形成した場合にのみ、サイクル特性が改善される。
【0056】
一方、充電時における電極体の膨張率が150%である場合は、負極合剤層の表面に溝が形成されていない比較例4の電池においてサイクル特性が大きく低下した。この場合は、溝縁部に角が存在するような溝であっても、これを負極合剤層の表面に形成することで(比較例3)、サイクル特性の改善効果が見られる。さらに、実施例2の電池では、比較例3の電池よりもサイクル特性が大きく向上し、実施例1の電池と同等以上のサイクル特性が得られた。
【0057】
以上のように、溝縁部に角が存在しない溝が負極合剤層の表面に形成された負極を用いることにより、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られる。特に、非水電解質二次電池が充放電に伴う体積変化が大きな電極体を備える場合に、サイクル特性の改善効果が顕著に現れる。