特許第6961358号(P6961358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6961358酸化物触媒、酸化物触媒の製造方法及び不飽和アルデヒドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961358
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】酸化物触媒、酸化物触媒の製造方法及び不飽和アルデヒドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20211025BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20211025BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20211025BHJP
   C07C 45/33 20060101ALI20211025BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20211025BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B01J23/887 Z
   B01J37/04 102
   B01J37/08
   C07C45/33
   C07C47/22 A
   C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-34626(P2017-34626)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-140326(P2018-140326A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】松下 健
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5908595(JP,B2)
【文献】 特開2014−94353(JP,A)
【文献】 National Institute of Standards & Technology,Certificate,Standard Reference Material 660a,2000年09月13日,p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07C 1/00−409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブチレン、イソブタノール及びt−ブチルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を気相接触酸化することにより不飽和アルデヒドを製造する際に用いる酸化物触媒であって、
モリブデン、ビスマス、鉄、及びコバルトを含有し、
CuKα線をX線源として得られるX線回折パターンにおいて、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れるCoMoO4相の回折ピーク(c)の強度Pcに対する、2θ=27.4°±0.2°に現れるBi10Mo324相の回折ピーク(a)の強度Paの比Ri=Pa/Pcが0.2≦Ri≦1.0であり、
CuKα線をX線源として得られるX線回折図における回折角(2θ)が、少なくとも2θ=10.3°±0.2°、27.4°±0.2°、31.0°±0.2°、及び52.9°±0.2°の範囲に回折ピークを有し、
下記組成式(1)で表される組成を有する複合金属の酸化物を含む、酸化物触媒。
Mo12BiaFebCocCedef (1)
(組成式(1)において、Aはカリウム、セシウム及びルビジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Bは、ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、錫、鉛、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、及びユウロピウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、1≦a≦5、1≦b≦5、2≦c≦10、0<d≦3、0<e≦2.0、0≦f≦2である。)
【請求項2】
請求項に記載の酸化物触媒の製造方法であって、
モリブデン元素を含む化合物、ビスマス元素を含む化合物、鉄元素を含む化合物、及びコバルト元素を含む化合物を液相で混合し、前駆体スラリーを調製する工程と、
前記前駆体スラリーを噴霧乾燥し、乾燥体を得る工程と、
前記乾燥体を、200〜300℃の範囲内で設定した第一の温度まで室温から昇温し、200〜300℃の範囲内の温度で1時間以上保持して第一焼成体を得る工程と、
前記第一焼成体と有機物とを混合成型して成型体を得る工程と、
前記成型体を、不活性ガス中で200〜400℃の範囲内で設定した第二の温度まで室温から1時間以上かけて昇温し、200〜400℃の範囲内の温度で1時間以上保持して第二焼成体を得る工程と、
前記第二焼成体を、不活性ガス中で400〜600℃の範囲内で設定した第三の温度まで、第二の温度から1時間以上かけて昇温し、400〜600℃の範囲内の温度で1時間以上保持して酸化物触媒を得る工程と、
を有する、酸化物触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項に記載の酸化物触媒を用いて、プロピレン、イソブチレン、イソブタノール及びt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化する工程を含む、不飽和アルデヒドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物触媒及びその製造方法、並びに該酸化物触媒を用いた不飽和アルデヒドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリレートを製造する方法においては、中間体である不飽和アルデヒドの製造方法が必要となる。具体的には、プロピレン、イソブチレン、イソブタノール、及びt−ブチルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を原料とし、アクロレイン又はメタクロレイン等の不飽和アルデヒドを製造する方法である。該不飽和アルデヒドは、酸化的エステル化反応によって、アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリレートを製造する方法などに用いられる。
この(メタ)アクリレートを製造する方法としては、直メタ法と呼ばれる2つの反応工程からなる方法と、直酸法と呼ばれる3つの反応工程からなる方法と、が知られている。直酸法は、3つの工程で(メタ)アクリレートを製造するプロセスである(例えば、非特許文献1参照。)。直酸法の第1工程は、触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレン、イソブタノール、及びt−ブチルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一つの出発物質と、分子状酸素と、を気相接触酸化反応させて、アクロレイン、又はメタクロレイン等の不飽和アルデヒドを製造する第1酸化工程である。また、第2工程は、触媒の存在下で、第1酸化工程で得られた不飽和アルデヒドと、分子状酸素と、を気相接触酸化反応させて、(メタ)アクリル酸を製造する第2酸化工程である。最後の工程は、第2酸化工程で得られた(メタ)アクリル酸をさらにエステル化して、(メタ)アクリレートを得るエステル化工程である。エステル化の際に、アルコールとしてメタノールなどを用いた場合には、アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチルを得ることができる。
【0003】
これに対し、直メタ法は、プロピレン、イソブチレン、イソブタノール、及びt−ブチルアルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の原料と、分子状酸素含有ガスと、を気相接触酸化反応させて、アクロレイン又はメタクロレイン等の不飽和アルデヒドを製造する第1反応工程と、得られた不飽和アルデヒドと、メタノール等のアルコールと、分子状酸素と、を反応させて、一挙にアクリル酸メチル又はメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリレートを製造する第2反応工程の2つの触媒反応工程からなる。
【0004】
上述の直酸法の第1酸化工程、及び直メタ法の第1反応工程において用いられる酸化物触媒としては、古くはソハイオ社によって見出され、必須成分としてMo、Bi、Feを含む複合酸化物触媒が数多く報告されている。
これらの触媒中の各金属の機能については、例えば、非特許文献2に記載されている。具体的には、Mo−Bi−Fe系触媒では、モリブデンがイソブチレンの吸着サイトとしての機能を担って、ビスマスがイソブチレンの活性化サイトとして働き、α位水素を引き抜いてπアリル種を生成させ、鉄はFe3+/Fe2+のレドックスにより気相から活性サイトへの酸素の授受に機能し、πアリル種に酸素が挿入され、メタクロレインが生成するとされている。
【0005】
上記酸化物触媒が用いられる反応方式には、固定層、流動層及び移動層がある。これらのうち、固定層反応方式は、原料ガスの流動状態が押し出し流れに近く、反応収率を高くできるという利点を活かし、工業的に多く採用されている。
ところが、固定層反応方式は伝熱性が低く、除熱や加熱が必要な発熱反応や吸熱反応には本来不向きである。特に酸化反応のような激しい発熱反応では、温度が急激に上昇し制御困難に陥り反応が暴走することがないように、安定な運転管理を行う必要がある。
【0006】
上記酸化物触媒に使用されるモリブデン、ビスマス、鉄等の遷移金属は、それぞれが単独で酸化された酸化物の他に、複数種の金属が固溶体となっているいわゆる複合酸化物になることが知られている。複合酸化物は、単独の金属の酸化物とは異なる特性を有し、その特性が金属種の選択や組成比等によっても大きく変化することから、顔料、電池の電極材料、触媒等、様々な分野で検討が進められている。
【0007】
モリブデン、ビスマス、及び鉄を含む酸化物触媒は、オレフィンやアルコールを酸化して、不飽和アルデヒドを製造する触媒としてこれまでに数多く報告されている。上述のように、組成比が異なれば酸化物触媒の特性も異なるので目的化合物の収率を向上させたりする目的で、様々な組成比を有する複合酸化物の触媒特性や調製条件が検討されている。
特許文献1には、長時間の運転においても触媒の還元劣化が抑制され、経時的な収率の低下が小さい触媒とすることを目的として、モリブデン、ビスマス、鉄及びイオン半径が0.96Åよりも大きな元素Aを含む結晶系からなるdisorder相Bi3-xxFe1Mo212を含む触媒が開示されている(ここで、特許文献1における「元素A」は、後述する元素Aとは異なるものである。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第05908595号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】石油化学プロセス 石油学会編、第172〜176頁、講談社サイエンティフィク
【非特許文献2】Grasselli,R.K. Handbook of Heterogeneous Catalysis 5, Wiley VCH 1997, 2302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らの研究によれば、特許文献1に記載の酸化物触媒は、固定層反応方式での気相接触酸化反応で運転中に活性が経時的に上がっていく傾向にあることが判明している。そのような酸化物触媒を用いて反応を長時間にわたって継続させると、触媒層の温度が徐々に上がっていき除熱律速となるため、固定層反応では安定運転が困難になると考えられる。すなわち、特許文献1及び非特許文献1〜2に記載の技術では、反応における経時的な活性上昇が少なく、且つ不飽和アルデヒドを高収率で生成させることのできる酸化物触媒を得ることができない。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、オレフィン及び/又はアルコールを原料とする不飽和アルデヒドの製造において、反応における経時的な活性上昇が少なく、且つ不飽和アルデヒドを高収率で生成させることのできる酸化物触媒及びその製造方法、並びに該酸化物触媒を用いた不飽和アルデヒドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、所定の元素から構成される複合金属酸化物の結晶構造を調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
プロピレン、イソブチレン、イソブタノール及びt−ブチルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を気相接触酸化することにより不飽和アルデヒドを製造する際に用いる酸化物触媒であって、
モリブデン、ビスマス、鉄、及びコバルトを含有し、
CuKα線をX線源として得られるX線回折パターンにおいて、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れるCoMoO4相の回折ピーク(c)の強度Pcに対する、2θ=27.4°±0.2°に現れるBi10Mo324相の回折ピーク(a)の強度Paの比Ri=Pa/Pcが0.2≦Ri≦1.0である、酸化物触媒。
[2]
CuKα線をX線源として得られるX線回折図における回折角(2θ)が、少なくとも2θ=10.3°±0.2°、27.4°±0.2°、31.0°±0.2°、及び52.9°±0.2°の範囲に回折ピークを有する、[1]記載の酸化物触媒。
[3]
下記組成式(1)で表される組成を有する複合金属の酸化物を含む、[1]又は[2]に記載の酸化物触媒。
Mo12BiaFebCocCedef (1)
(組成式(1)において、Aはカリウム、セシウム及びルビジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Bは、ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、錫、鉛、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、及びユウロピウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、1≦a≦5、1≦b≦5、2≦c≦10、0<d≦3、0<e≦2.0、0≦f≦2である。)
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法であって、
モリブデン元素を含む化合物、ビスマス元素を含む化合物、鉄元素を含む化合物、及びコバルト元素を含む化合物を液相で混合し、前駆体スラリーを調製する工程と、
前記前駆体スラリーを噴霧乾燥し、乾燥体を得る工程と、
前記乾燥体を、200〜300℃の範囲内で設定した第一の温度まで室温から昇温し、200〜300℃の範囲内の温度で1時間以上保持して第一焼成体を得る工程と、
前記第一焼成体と有機物とを混合成型して成型体を得る工程と、
前記成型体を、不活性ガス中で200〜400℃の範囲内で設定した第二の温度まで室温から1時間以上かけて昇温し、200〜400℃の範囲内の温度で1時間以上保持して第二焼成体を得る工程と、
前記第二焼成体を、不活性ガス中で400〜600℃の範囲内で設定した第三の温度まで、第二の温度から1時間以上かけて昇温し、400〜600℃の範囲内の温度で1時間以上保持して酸化物触媒を得る工程と、
を有する、酸化物触媒の製造方法。
[5]
[1]〜[3]のいずれかに記載の酸化物触媒を用いて、プロピレン、イソブチレン、イソブタノール及びt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化する工程を含む、不飽和アルデヒドの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の酸化物触媒は、オレフィン及び/又はアルコールを原料とする不飽和アルデヒドの製造において、長時間の連続反応による経時的な活性上昇が少なく、且つ不飽和アルデヒドを高収率で生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1と比較例1の触媒のX線回折パターンの一部を示す図である。
図2】実施例1と比較例1の触媒を連続長時間反応に使用したときの転化率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0017】
本実施形態の酸化物触媒は、プロピレン、イソブチレン、イソブタノール及びt−ブチルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を気相接触酸化することにより不飽和アルデヒドを製造する際に用いる酸化物触媒であって、モリブデン、ビスマス、鉄、及びコバルトを含有し、CuKα線をX線源として得られるX線回折パターンにおいて、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れるCoMoO4相の回折ピーク(c)の強度Pcに対する、2θ=27.4°±0.2°に現れるBi10Mo324相の回折ピーク(a)の強度Paの比Ri=Pa/Pcが0.2≦Ri≦1.0である。このように構成されているため、本実施形態の酸化物触媒は、オレフィン及び/又はアルコールを原料とする不飽和アルデヒドの製造において、長時間の連続反応による経時的な活性上昇が少なく、且つ不飽和アルデヒドを高収率で生成させることができる。
【0018】
Mo−Bi−Fe系触媒では、前述のようにビスマスがイソブチレンの活性化サイトとして働く。この為、ビスマスを含む複合酸化物が活性種と推定される。本発明者らは、特許文献1では活性種は触媒に含まれるdisorder相Bi3-xxFe1Mo212を含む四成分複合酸化物であると推定し、反応における経時的な活性上昇の原因は、このdisorder相Bi3-xxFe1Mo212を含む四成分複合酸化物の還元に起因すると推定した。すなわち、金属の組成のみならず、上記結晶構造も複合酸化物の機能に影響していることを見出した。
さらに、本発明者らは、特許文献1の触媒に含まれるdisorder相Bi3-xxFe1Mo212を含む四成分複合酸化物は空気雰囲気下で製造しており、触媒が完全酸化状態である為に、反応雰囲気下で触媒が還元されて活性が上昇するのではないかと推測した。そこで、逆に反応雰囲気下で活性が上昇しない相がないかについて鋭意検討した結果、複合酸化物Bi10Mo324相を含む触媒が、反応における経時的な活性上昇を低減できることを見出した。
Bi10Mo324相が触媒中に含まれると反応における経時的な活性上昇を抑制できるメカニズムは明らかではないが、Bi10Mo324相が完全酸化状態ではなく、ある程度の酸素欠陥を有する部分的還元状態であるため、反応雰囲気における結晶構造が変化しにくい為であると推定している。なお、後述する比較例にて示すように、特許文献1に記載の技術では、Bi10Mo324相が形成された触媒が得られないことが判明している。
以上の観点より、本実施形態の酸化物触媒は、上記0.2≦Ri≦1.0で示唆される結晶構造を有するものとする。
【0019】
[酸化物触媒]
(1)組成
本実施形態の酸化物触媒は、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、コバルト(Co)を必須元素として含有する。
BiとMoは、Bi2Mo312やBi10Mo324等の複合酸化物を形成させるために必須であり、Mo12原子に対するBiの原子比aは、好ましくは1≦a≦5となるようにする。目的生成物の選択率をより高める観点で、原子比aは、より好ましくは1≦a≦3であり、さらに好ましくは1.5≦a≦2.5である。
【0020】
目的生成物の選択率を低下させることなく触媒活性を高める観点から、FeはMo、Biと同様に、工業的に目的生成物を合成する上で必須の元素である。Feは、Fe2Mo312やFeMoO4等の複合酸化物を形成し、気相から酸素を触媒の構造内に取り込み、反応で消費される格子酸素を補い、触媒が過還元されて劣化するのを抑制する働きがある。本実施形態の酸化物触媒のMo12原子に対するFeの原子比bは、Fe2Mo312の結晶を形成させる観点で、好ましくは1≦b≦5であり、より好ましくは1.5≦b≦4.0、さらに好ましくは2.0≦b≦3.5である。
【0021】
本実施形態の酸化物触媒において、Coは、Mo、Bi、Feと同様に工業的に目的生成物を合成する上で必須の元素である。Coは、複合酸化物CoMoO4を形成し、Bi−Mo−O等の活性種を高分散させるための担体としての役割と、気相から酸素を取り込み、Bi−Mo−O等に供給する役割を果たしている。不飽和アルデヒドを高収率で得るには、CoをMoと複合化させ、複合酸化物CoMoO4を形成させる必要がある。Co34やCoO等の単独酸化物の形成を少なくする観点から、Mo12原子に対するCoの原子比cは、好ましくは2≦c≦10であり、より好ましくは4≦c≦10であり、さらに好ましくは6≦c≦9である。
【0022】
(2)結晶構造
本実施形態の酸化物触媒は、CuKα線をX線源としてX線回折(XRD)で、X線回折角2θ=5°〜60°の範囲を測定するとき、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れるCoMoO4相の回折ピーク(c)の強度Pcに対する、2θ=27.4°±0.2°に現れるBi10Mo324相の回折ピーク(a)の強度Paの比Ri=Pa/Pcが0.2≦Ri≦1.0である。
CuKα線をX線源として得られるX線回折パターンにおいて、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れる回折ピークはCoMoO4の(220)に相当し、2θ=27.4°±0.2°の位置に現れる回折ピークはBi10Mo324の(511)に相当する。
【0023】
上記のとおり、本実施形態の酸化物触媒が、Bi10Mo324の結晶を有することは、X線回折を測定することによって確認できる。Bi10Mo324の結晶相を有する触媒のX線回折で2θ=5°〜60°の範囲を測定すると、典型的には、2θ=10.3°±0.2°、27.4°±0.2°、31.0°±0.2°、52.9°±0.2°の範囲に回折ピークを示す。しかしながら、酸化物触媒にはBi10Mo324以外にも様々な結晶構造が含まれるため、XRDの回折ピークは極めて複雑になり、必ずしも全てのピークが検出されなくてもよい。なお、2θ=27.4°±0.2°の位置に検出される回折ピークは、Bi10Mo324に固有のものであり、Bi10Mo324の結晶構造の生成の指標とすることができる。したがって、本実施形態の酸化物触媒におけるCuKα線をX線源として得られるX線回折図における回折角(2θ)は、少なくとも2θ=27.4°±0.2°の範囲に回折ピークが検出されることが好ましく、より好ましくは少なくとも2θ=10.3°±0.2°、27.4°±0.2°、31.0°±0.2°、及び52.9°±0.2°の範囲に回折ピークが検出される。
【0024】
本実施形態の酸化物触媒のCuKα線をX線源として得られるX線回折パターンにおいて、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れるCoMoO4の回折ピーク(c)の強度Pcに対する、2θ=27.4°±0.2°に現れるBi10Mo324の回折ピーク(a)の強度Paの比Ri=Pa/Pcが0.2≦Ri≦1.0の範囲であれば、Bi10Mo324の結晶構造が充分に生成したと判断することができる。
Riの値が0.2以上であると、Bi10Mo324の結晶量が十分であり、触媒として使用した場合に反応中の活性上昇が抑制される。また、Riの値が1.0以下であると不飽和アルデヒドの収率に優れる。反応中の触媒の活性上昇を抑制する観点から、Riは、好ましくは0.25≦Ri≦0.75であり、より好ましくは0.30≦Ri≦0.60である。
【0025】
本実施形態の酸化物触媒は、好ましくは、下記組成式(1)で表される組成を有する複合金属の酸化物を含む。
Mo12BiaFebCocCedef (1)
(組成式(1)において、Aはカリウム、セシウム及びルビジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Bは、ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、錫、鉛、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、及びユウロピウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、1≦a≦5、1≦b≦5、2≦c≦10、0<d≦3、0<e≦2.0、0≦f≦2である。)
【0026】
上記組成式(1)において、Ceは、上記MoとBiの複合酸化物の構造安定化に寄与すると考えられている元素である。セリウムを含有するか否かは、後述するBi10Mo324の結晶構造には影響しない。耐熱性を高める観点で、Mo12原子に対するCeの原子比dは、好ましくは0<d≦3であり、より好ましくは0.2≦d≦3、さらに好ましくは0.4≦d≦2である。
【0027】
上記組成式(1)において、Aはカリウム、セシウム及びルビジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、酸化物触媒において、触媒で複合化されなかったMoO3等の酸点を中和する役割を示すと考えられる。カリウム、セシウム又はルビジウムを含有するか否かは、後述するBi10Mo324の結晶構造には影響しない。Mo12原子に対する元素Aの原子比は、触媒活性の観点から、好ましくは0<e≦2.0である。Aの原子比eをこの範囲に調整することにより、触媒が塩基性となるのを防ぎ、原料であるオレフィンやアルコールが触媒へ適度に吸着されるため、充分な触媒活性を発現する傾向にある。
【0028】
上記組成式(1)において、Bは、ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、錫、鉛、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、及びユウロピウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、錫、鉛は酸化物中で一部のコバルトに置換し、触媒中のCoMoO4の結晶構造を安定化させる傾向があり、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、ユウロピウムはモリブデンと複合酸化物を形成し、活性を向上させる傾向がある。触媒性能を示すBi10Mo324結晶の生成とのバランスを保つ観点で、Bの原子比fの上限は、f≦2であることがより好ましい。Bで示される元素は、触媒中のCoMoO4の結晶構造を安定化させるもの、又は触媒の活性を向上させるものであるため、Bi10Mo324の結晶構造には影響せず、含有量がゼロ(f=0)でもよい任意成分として位置づけられる。
【0029】
セリウム、A及びBで示される元素は、触媒中に含まれていても含まれていなくても、Bi10Mo324相の結晶構造とは別に結晶構造を形成するため、Bi10Mo324相の結晶構造には影響を及ぼさない。
【0030】
(3)金属酸化物以外の成分
本実施形態の酸化物触媒は、金属酸化物を担持するための担体を含有してもよい。担体を含む触媒は金属酸化物の高分散化及び担持された金属酸化物に、高い耐摩耗性を与えるという点で好ましいが、固定床反応器で不飽和アルデヒドを製造する際に、打錠成型した触媒を用いる場合には担体を含まなくてよい。押し出し成型法により触媒を成型する場合には、担体成分を含むことが好ましい。
担体としては、以下に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが挙げられる。一般的にシリカは、他の担体に比べそれ自身不活性であり、目的生成物に対する選択性を低下させることなく、金属酸化物に対して良好なバインド作用を有する点で好ましい担体である。さらに、シリカ担体は、担持された金属酸化物に、高い耐摩耗性を与え易いという点でも好ましい。押し出し成型法により触媒を成型する場合、触媒全体に対する担体の含有量は5〜10質量%であることが好ましい。
【0031】
触媒を流動床反応器で用いる場合も、上記と同様の観点から、シリカを担体として用いることが好ましい。Bi10Mo324の結晶構造への影響と、見掛け比重を適切にして流動性を良好にする観点から、触媒中の担体の含有量は、触媒の全質量に対して80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。流動床反応用触媒のように強度を要する触媒である場合には、実用上十分な耐破砕正や耐摩耗性等を有する観点から、担体の含有量は、触媒の全質量に対して20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。
【0032】
[2]酸化物触媒の製造方法
本実施形態の酸化物触媒は、以下に限定されないが、元素組成比、調製方法、及び焼成方法を後述する好ましい範囲で制御することによって、Bi10Mo324の結晶構造が充分に含まれる酸化物触媒を得ることができる。
本実施形態に係る酸化物触媒の製造方法は、モリブデン元素を含む化合物、ビスマス元素を含む化合物、鉄元素を含む化合物、及びコバルト元素を含む化合物を液相で混合し、前駆体スラリーを調製する工程と、前記前駆体スラリーを噴霧乾燥し、乾燥体を得る工程と、前記乾燥体を、200〜300℃の範囲内で設定した第一の温度まで室温から昇温し、200〜300℃の範囲内の温度で1時間以上保持して第一焼成体を得る工程と、前記第一焼成体と有機物とを混合成型して成型体を得る工程と、前記成型体を、不活性ガス中で200〜400℃の範囲内で設定した第二の温度まで室温から1時間以上かけて昇温し、200〜400℃の範囲内の温度で1時間以上保持して第二焼成体を得る工程と、前記第二焼成体を、不活性ガス中で400〜600℃の範囲内で設定した第三の温度まで、第二の温度から1時間以上かけて昇温し、400〜600℃の範囲内の温度で1時間以上保持して酸化物触媒を得る工程と、を有することが好ましい。
【0033】
本発明者らは、酸化物触媒の製造工程において、有機物を利用すること、及び還元焼成を利用することにより、Bi10Mo324相を十分に含む酸化物触媒を製造できることを見出し、これにより従来の酸化焼成では取りえない構造を有する酸化物触媒を実現した。
【0034】
Bi10Mo324相を選択的に合成する方法としては、例えば、特定の焼成雰囲気ないし焼成温度等の各種の焼成条件を調整する方法を採用することが挙げられ、この方法によって、disorder相Bi3-xxFe1Mo212相の生成を抑制し、Bi10Mo324の結晶を選択的に形成することができる。すなわち、そのような結晶構造を有する本実施形態の酸化物触媒を好ましく得ることができる。
【0035】
本実施態様の酸化物触媒は、例えば、原料スラリー(以下、「前駆体スラリー」ともいう)を調製する第1の工程、原料スラリーを噴霧乾燥して乾燥体を得る第2の工程、乾燥体を焼成する第3の工程を包含する方法によって得ることができる。以下、第1〜第3の工程を有する酸化物触媒の製造方法の好ましい態様について説明する。
【0036】
(1)原料スラリーの調製
第1の工程では、触媒を構成する各金属元素を含む化合物からなる触媒原料を混合して原料スラリーを得る。
モリブデン、ビスマス、セリウム、鉄、コバルト、カリウム、ルビジウム、セシウム、ニッケル、マンガン、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、錫、鉛、ランタン、プラセオジウム、ネオジム、ユウロピウムの各元素源としては、水又は硝酸に可溶なアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、有機酸塩を挙げることができ、酸化物や水酸化物、炭酸塩等でもよい。シリカ担体を含有する触媒を製造する場合は、原料スラリーにシリカ原料としてシリカゾルを添加するのが好ましい。
【0037】
原料スラリーの調製方法は、通常用いられる方法であれば特に限定されず、例えば、モリブデンのアンモニウム塩を温水に溶解させた溶液と、ビスマス、鉄、コバルト、アルカリ金属を硝酸塩として水又は硝酸水溶液に溶解させた溶液を混合することにより調製することができる。混合後の原料スラリー中の金属元素濃度は、均一性と生産量のバランスの観点から、通常1〜50質量%であり、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
【0038】
アンモニウム塩と硝酸塩を混合すると沈殿を生じ、スラリーとなる。
原料スラリーが均質でない場合、焼成後の触媒組成が不均質になり、均質に複合化された結晶構造は形成され難くなるため、得られた酸化物の複合化が十分でない場合に、スラリーの調製工程の適正化を試みるのは好ましい態様である。なお、上述の原料スラリーの調製工程は一例であって限定的なものではなく、各元素源の添加の順序を変えてもよい。硝酸を原料スラリー中に添加して硝酸濃度を調整してもよい。原料スラリーを均一にする観点から原料スラリーの温度(「スラリー温度」)と撹拌時間(「スラリー撹拌時間」)を調整することが好ましい。スラリー温度は20〜80℃、好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは40〜60℃である。
スラリー攪拌時間は30分以上10時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上8時間以下、最も好ましくは2時間以上5時間以下である。
【0039】
(2)乾燥
第2の工程では、第1の工程で得られた原料スラリーを乾燥して乾燥体を得る。乾燥方法としては、特に制限はなく一般に用いられている方法によって行うことができ、蒸発乾涸法、噴霧乾燥法、減圧乾燥法などの任意の方法で行なうことができる。
噴霧乾燥法では、通常工業的に実施される遠心方式、二流体ノズル方式及び高圧ノズル方式等の方法によって行うことができ、乾燥熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。この際、噴霧乾燥装置の乾燥機入口の温度は、通常150〜400℃、好ましくは180〜400℃、より好ましくは200〜350℃である。噴霧乾燥装置の乾燥機出口の温度は、通常100〜200℃、好ましくは120〜180℃、より好ましくは130〜160℃である。
【0040】
(3)焼成
第3の工程では、第2の工程で得られた乾燥体を焼成する。焼成は、回転炉、トンネル炉、マッフル炉等の焼成炉を用いて行うことができる。乾燥体の焼成方法は、用いる原料によっても異なる。例えば、原料に硝酸イオンを含む場合には、以下の第一〜第三の焼成による3段階焼成を行うことが好ましい。
【0041】
[1]第一焼成工程
第一焼成工程においては、乾燥体を200℃〜300℃の範囲内で設定した第一の温度まで室温から昇温し、200℃〜300℃の範囲内の温度で1時間以上保持することにより第一焼成体を得る。第一の温度は、好ましくは220〜280℃、さらに好ましくは240℃〜260℃の温度範囲である。室温から第一の温度に到達するまでの昇温時間は1時間以上、好ましくは1〜10時間、より好ましくは1〜5時間である。室温は、例えば0〜40℃であり、20〜30℃であることが好ましい。
第一焼成工程は、乾燥体中に残存している硝酸アンモニウムや原料の金属硝酸塩由来の硝酸を徐々に燃焼させることを目的としており、200℃〜300℃の温度範囲で保持する時間は、好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。
第一焼成工程の温度が高すぎたり、時間が長すぎたりすると、第一焼成の段階で単純酸化物が成長し易くなる傾向にある。そのため、後述の第三焼成工程において、Bi10Mo324相の結晶構造を十分に生成する観点から、第一焼成工程における温度及び時間の上限を、単純酸化物の生成が起こらない程度に設定するのが好ましい。第一焼成温度を上記範囲にしたり、昇温時間及び保持時間にしたりすることにより、触媒粒子内での金属元素の移動が所望の領域となるため、後述の第三焼成工程において、Bi10Mo324相の結晶構造が生成しやすくなる。
【0042】
[2]成型工程
成型工程は、第一焼成体を成型して成型体を得る工程である。成型方法としては、特に限定されないが、例えば、公知の打錠成型法、押出成型法、転動造粒法等が挙げられる。このなかでも、成型触媒の生産性の観点から、打錠成型法又は押出成型法により、第一焼成体を成型して成型体を得ることが好ましい。成型形状は、特に限定されないが、例えば、球状、円柱状、リング(円筒状)、星型状等の形状が挙げられる。このなかでも、成型触媒の圧壊強度の高い観点で円柱状、リング状が好ましい。
【0043】
成型工程では、成型しやすくする観点や成型収率を高める観点で第一焼成体に成型助剤を加えてもよい。成型助剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、グラファイト、タルク、無機ケイ酸、炭素繊維などの無機ファイバー等が挙げられる。
【0044】
本実施態様においては、第一焼成体を成型する際に、有機物を混合することが好ましい。有機物を添加する目的は、Bi10Mo324相の結晶構造を十分に生成する為である。成型時に添加する有機物は特に限定はないが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、又は(メタ)アクリル酸イソブチルエステルの重合体やポリスチレン、セルロース、ポリビニルアルコールなど後述する第二焼成工程及び第三焼成工程によって容易に除去されるものが好ましい。ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリスチレン、セルロース、ポリビニルアルコールは比較的低い温度で単量体に分解し、気化蒸発するのでより好ましい。不飽和アルデヒドの収率を高める観点でセルロースがより好ましい。セルロースの中でも外形が球状である、すなわち、粒径が不均一なセルロースよりも、外形が棒状をした結晶セルロース(以下「棒状セルロース」ともいう。)を用いることが、均一なBi10Mo324相の結晶構造を形成させる観点から特に好ましい。棒状をした結晶セルロースとは、短径と長径を持つ結晶セルロースからなる粒子において、短径に対し長径が1.2倍以上長いものを個数として50%以上含有するものをいう。短径と長径は電子顕微鏡による観測で測定できる。具体的には、添加する結晶セルロースを一部採取し、電子顕微鏡を用いて粒子100個の短径、長径を測定する。
有機物の添加量は、第一焼成体と該有機物との合計に対し、0.5〜15wt%が好ましい。特に、棒状セルロースの添加量は、第一焼成体と該棒状セルロースとの合計に対し、0.5〜10wt%が好ましく、より好ましくは1〜5wt%であり、特に好ましくは1.5〜3wt%である。球状セルロースやPVAの場合は、棒状セルロースよりも多い添加量が好ましく、より好ましくは1〜5wt%であり、特に好ましくは1.5〜4wt%である。
第一焼成体と有機物を混合する方法としては、例えば、双腕式ニーダー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー等公知の装置を用いて行うことができる。
【0045】
[3]第二焼成工程
第二焼成工程では、成型体を不活性ガス中で200℃〜400℃の範囲内で設定した第二の温度まで室温から1時間以上かけて昇温し、200℃〜400℃の範囲内の温度で1時間以上保持することにより第二焼成体を得る。この第二焼成工程は不活性ガス雰囲気で行われる。第二焼成工程において、焼成温度を上記範囲に調整し、かつ、不活性ガス雰囲気下での焼成とすることにより、成型体に含まれる有機物をよりおだやかに燃焼し、十分にBi10Mo324相の前駆体が生成する傾向にある。なお、窒素等の不活性ガスではなく、窒素で希釈された酸素や空気でもBi10Mo324相の前駆体を得ることは可能である。しかし、第二焼成工程の熱処理中に酸素が含まれていると有機物が分解するときに発熱が起きる恐れがあるだけでなく、第二焼成時間の正確なコントロールが困難となるため、結果として得られうるBi10Mo324相の前駆体の量が減少する傾向にある。このような観点から、本実施形態に係る酸化物触媒の製造方法においては、第二焼成工程は不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。本実施形態で用いる不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素が挙げられる。このなかでも、経済的な面から窒素が好ましい。
第二焼成工程の温度は、より好ましくは230℃〜360℃であり、さらに好ましくは260℃〜330℃である。このような温度とすることにより、成型体に含まれる有機物をよりおだやかに燃焼させることができる傾向にある。
【0046】
第二焼成工程の保持時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5〜10時間、さらに好ましくは2〜5時間である。室温から第二の温度に到達するまでの昇温時間は1時間以上、好ましくは1.5〜10時間、より好ましくは2〜5時間である。室温は、例えば0〜40℃であり、20〜30℃であることが好ましい。
第二焼成工程の温度及び/又は時間が上記範囲内であることにより、第二焼成工程の段階でCoとMoとの2成分系酸化物の成長がより抑制される傾向にあり、後述の第三焼成工程においてBi10Mo324相の結晶構造がより生成しやすくなる傾向にある。
【0047】
[4]第三焼成工程
第三焼成工程においては、第二焼成体を、不活性ガス中で400℃〜600℃の範囲内で設定した第三の温度まで、第二の温度から1時間以上かけて昇温し、400℃〜600℃の範囲内の温度で1時間以上保持して酸化物触媒を得る。第三焼成工程においては、好ましくは1〜10時間かけて設定温度まで昇温する。昇温レートは常に一定である必要はない。第二焼成の温度から第三の温度に到達するまでの昇温時間は、Bi10Mo324相を均一に形成し易くする観点で好ましくは1.5〜7時間、より好ましくは2〜4時間である。昇温時間が1時間未満であるとBi10Mo324相の結晶が均一に形成せず、Bi23等の結晶が生成され易くなる傾向にある。
本発明者の知見によると、結晶構造は焼成温度と焼成時間の積の影響を受けるため、焼成温度と焼成時間を適切に設定することが好ましい。Bi10Mo324相を生成しやくする観点から、第三焼成工程における温度は、好ましくは480〜600℃、より好ましくは500℃〜580℃であり、さらに好ましくは510℃〜560℃である。第三焼成工程における保持時間は、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1.5〜20時間、さらに好ましくは2〜10時間である。第三焼成の保持時間が長すぎる場合、触媒の活性が下がる傾向にある。第三焼成の温度が480℃未満の低温では、Bi10Mo324相の結晶構造が形成しにくく、600℃より高温の場合、表面積が小さくなり触媒の活性が下がる傾向にある。
以上の工程を行うことで、Bi10Mo324相の結晶構造を十分に含む酸化物触媒が得られる。
【0048】
第三焼成工程後の酸化物触媒に、Bi10Mo324相の結晶構造が生成したことは、X線回折を測定することによって確認することができる。Bi10Mo324相の結晶構造が充分に成長していれば、0.2≦Ri≦1.0となる。
【0049】
[3]不飽和アルデヒドの製造方法
本実施形態の酸化物触媒を用い、プロピレン、イソブチレン、イソブタノール、及びt−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を酸化反応に供することにより、不飽和アルデヒドを製造することができる。以下、その具体例について説明するが、本実施形態に係る不飽和アルデヒドの製造方法は、以下の具体例に限定されるものではない。
【0050】
(1)メタクロレインの製造方法
メタクロレインは、例えば、本実施形態の酸化物触媒を用いて、イソブチレン、イソブタノール、t−ブチルアルコールの気相接触酸化反応を行うことにより得ることができる。気相接触酸化反応は、固定床反応器内の触媒層に、イソブチレン、イソブタノール若しくはt−ブチルアルコール単独か、又はこれらの混合ガスの濃度が1〜10容量%になり、分子状酸素の濃度が1〜20容量%になるように、分子状酸素含有ガスと希釈ガスを添加した混合ガスからなる原料ガスを導入する。イソブチレン、イソブタノール、t−ブチルアルコール、又はこれらの混合ガスの濃度は、通常1〜10容量%、好ましくは4〜9容量%、より好ましくは6〜9容量%である。反応温度は300〜480℃、好ましくは330℃〜450℃、より好ましくは350℃〜440℃である。圧力は、常圧〜5気圧であり、空間速度400〜4000/時間[Normal temperature pressure (NTP)条件下]で原料ガスを導入することで行うことができる。酸素と、イソブチレン、イソブタノール若しくはt−ブチルアルコール単独か、又はこれらの混合ガスとのモル比は、不飽和アルデヒドの収率を向上させるために反応器の出口酸素濃度を制御する観点から、通常1.0〜2.0であり、好ましくは1.1〜1.8、より好ましくは1.2〜1.8である。
【0051】
分子状酸素含有ガスとしては、特に限定されず、例えば、純酸素ガス、及び空気等の酸素を含むガス、またはN2O等の反応条件で分解して酸素を生成するガスが挙げられ、工業的観点から空気が好ましい。希釈ガスとしては、以下に限定されないが、例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気及びこれらの混合ガスが挙げられる。混合ガスにおける、分子状酸素含有ガスと希釈ガスの混合比は、体積比で0.01<分子状酸素含有ガス/(分子状酸素含有ガス+希釈ガス)<0.3の条件を満足することが好ましい。さらに、原料ガスにおける分子状酸素含有ガスの濃度は1〜20容量%であることが好ましい。
【0052】
原料ガス中の水蒸気は、触媒へのコーキングを防ぐ観点からは含まれることが好ましいが、メタクリル酸、酢酸等のカルボン酸の副生を抑制するために、できるだけ希釈ガス中の水蒸気濃度を下げることが好ましい。原料ガス中の水蒸気は、通常0〜30容量%の範囲で使用される。同様に、アクロレインは、例えば、本実施形態の酸化物触媒を用いて、プロピレンの気相接触酸化反応を行うことにより得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して、本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。なお、酸化物触媒における酸素原子の原子比は、他の元素の原子価条件により決定されるものであり、実施例及び比較例においては、触媒の組成を表す式中、酸素原子の原子比は省略する。また、酸化物触媒における各元素の組成比は、仕込みの組成比から算出した。
【0054】
<X線回折角度の測定>
XRDの測定は、National Institute of Standards & Technologyが標準参照物質660として定めるところのLaB6化合物の(111)面、(200)面を測定し、それぞれの値を37.441°、43.506°となるように規準化した。
XRDの装置としては、リガク製 Ultima−IVを用いた。XRDの測定条件は、X線出力:40kV−40mA、Step幅:0.01°/step、測定範囲:2θ=5°〜60°とした。
CuKα線をX線源として得られるX線回折パターンにおいて、現れたピークの位置及び強度に基づき、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れるCoMoO4相の回折ピーク(c)の強度Pcに対する、2θ=27.4°±0.2°に現れるBi10Mo324相の回折ピーク(a)の強度Paの比Ri=Pa/Pcを算出した。なお、2θ=26.4°±0.2°の位置に現れるCoMoO4相の回折ピーク(c)の強度Pcに対する、あるピークの強度Pの比R=P/Pcが0.005未満の場合はノイズと判断し、ピークは検出されなかったものとした。
【0055】
<転化率と選択率>
反応成績を表すため、次式で定義される転化率と選択率を算出した。なお、転化率と選択率を算出するための分析はガスクロマトグラフィーで行った。なお、下記実施例及び比較例においては、原料はイソブチレンであり、生成した化合物はメタクロレインであった。
この反応は1次反応であると仮定し、活性は転化率に1次に比例するものとした。
また、下記式で示される転化率の変化率を算出した。反応の経時的な転化率の変化率が大きい程、反応の経時的な活性上昇が大きいものと評価した。
転化率=(反応した原料のモル数/供給した原料のモル数)×100
選択率=(生成した化合物のモル数/反応した原料のモル数)×100
収率=(生成した化合物のモル数/供給した原料のモル数)×100
転化率の変化率=(500時間反応後の転化率―2時間反応後の転化率)/2時間反応後の転化率×100
【0056】
[実施例1]
約90℃の温水2084.74gにヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O]694.91gを溶解させた(A液)。また、硝酸ビスマス[Bi(NO33・5H2O]348.27g、硝酸セリウム[Ce(NO33・6H2O]172.66g、硝酸鉄[Fe(NO33・9H2O]357.78g、硝酸コバルト[Co(NO32・6H2O]511.10g、硝酸カリウム[KNO3]1.326g、及び硝酸セシウム[CsNO3]12.671gを、18質量%の硝酸水溶液587.31gに溶解させ、約90℃の温水1389.83gを添加した(B液)。A液とB液の両液を混合し、約50℃で約2時間程度撹拌混合して原料スラリーを得た。
この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、乾燥体を得た。
得られた乾燥体を、空気中で室温から250℃まで1時間かけて昇温し、4時間250℃を保持して第一焼成体を得た(第一焼成工程)。
室温まで冷却した第一焼成体に棒状の結晶セルロース(短径に対する長径が2倍以上のものを90%以上含有)を、第一焼成体と結晶セルロースの合計に対し2.5wt%添加して混合し、直径5mm、高さ4mm、内径2mmのリング状に打錠成形し、成型体を得た(成型工程)。
この成型体を窒素雰囲気中で室温から300℃まで4時間かけて昇温し、2時間300℃を保持して第二焼成体を得た(第二焼成工程)。
更に第二焼成体を窒素雰囲気中で300℃から530℃まで2時間かけて昇温し、3時間530℃を保持して酸化物触媒を得た(第三焼成工程)。
得られた酸化物触媒の酸素以外の元素組成を表1に示し、粉末X線回折の測定結果を表2に示す。表2に示すとおり、実施例1の酸化物触媒は、2θ=26.37°,10.27°,27.47°,31.02°,52.88°であり、Ri=0.55となった。この酸化物触媒について、反応開始から500時間経過後にも同様の測定を行ったところ、2θ=10.26°、26.36°、27.49°、31.04°、52.89°であり、Ri=0.55となった。すなわち、実施例1の酸化物触媒は反応開始前と反応開始から500時間経過後でその結晶構造が維持されていることがわかった。
酸化物触媒の反応評価として、触媒5.5gを直径14mmのジャケット付SUS製反応管に充填し、反応温度430℃でイソブチレン8容量%、酸素12.8容量%、水蒸気3.0容量%及び窒素76.2容量%からなる混合ガスを120mL/分(NTP)の流量で通気し、メタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
また、図1に実施例1と後述する比較例1のXRD回折パターン(2θ=25°〜35°の範囲)を対比する拡大図を示す。
【0057】
[実施例2]
約90℃の温水2120.20gにヘプタモリブデン酸アンモニウム706.73gを溶解させた(A液)。また、硝酸ビスマス322.00g、硝酸セリウム131.69g、硝酸鉄309.96g、硝酸コバルト509.99g、硝酸カリウム3.373g、硝酸セシウム19.33g及び硝酸ニッケル[Ni(NO32・6H2O]48.997g、硝酸マグネシウム[Mg(NO32・6H2O]42.68g、及び硝酸ルビジウム[RbNO3]4.870gを、18質量%の硝酸水溶液593.65gに溶解させ、約90℃の温水1413.47gを添加した(B液)。A液とB液の両液を混合し、約50℃で約2時間程度撹拌混合して原料スラリーを得た。この原料スラリーを、噴霧乾燥器に送り、入口温度250℃、出口温度約140℃で噴霧乾燥し、乾燥体を得た。
得られた乾燥体を、空気中で室温から250℃まで2時間かけて昇温し、4時間250℃を保持して第一焼成体を得た。
室温まで冷却した第一焼成体に棒状の結晶セルロース(短径に対する長径が2倍以上のものを90%以上含有)を、第一焼成体と結晶セルロースの合計に対し2.0wt%添加して混合し、直径5mm、高さ4mm、内径2mmのリング状に打錠成形し、成型体を得た。
この成型体を窒素雰囲気中で室温から330℃まで3時間かけて昇温し、2時間330℃を保持して第二焼成体を得た。更に第二焼成体を窒素雰囲気中で330℃から530℃まで2時間かけて昇温し、3時間530℃を保持して酸化物触媒を得た。
得られた酸化物触媒の酸素以外の元素組成を表1に示し、粉末X線回折の測定結果を表2に示す。
酸化物触媒の反応評価として、酸化物触媒5.3gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0058】
[実施例3]
棒状セルロース添加量を0.5wt%にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.3gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0059】
[実施例4]
棒状セルロース添加量を3.5wt%にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.3gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0060】
[実施例5]
第二焼成工程の設定温度(第二の温度)と保持温度とを300℃から200℃にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0061】
[実施例6]
第二焼成工程の設定温度(第二の温度)と保持温度とを300℃から360℃にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0062】
[実施例7]
第二焼成工程の昇温時間を1時間にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0063】
[実施例8]
第三焼成工程の設定温度(第三の温度)と保持温度とを530℃から480℃にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0064】
[実施例9]
第三焼成工程の設定温度(第三の温度)と保持温度とを530℃から570℃にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0065】
[実施例10]
第三焼成工程の昇温時間を1時間にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0066】
[実施例11]
添加する有機物をポリビニルアルコール(和光純薬製、試薬特級)にし、添加量を3.5wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の製造法で酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0067】
[実施例12]
添加する有機物を球状の結晶セルロース(短径に対する長径が1.1倍以下のものを90%以上含有)にし、添加量を3.5wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の製造法で酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0068】
[比較例1]
棒状セルロースを添加しなかったこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.3gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0069】
[比較例2]
棒状セルロース添加量を0.3wt%にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.3gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0070】
[比較例3]
棒状セルロース添加量を11.0wt%にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.3gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0071】
[比較例4]
第二焼成工程を空気雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0072】
[比較例5]
第三焼成工程を空気雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0073】
[比較例6]
第二焼成工程の設定温度(第二の温度)と保持温度とを300℃から180℃にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0074】
[比較例7]
第三焼成工程の設定温度(第三の温度)と保持温度とを530℃から620℃にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0075】
[比較例8]
第二焼成工程の昇温時間を0.5時間にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0076】
[比較例9]
第三焼成工程の昇温時間を0.5時間にしたこと以外は実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0077】
[比較例10]
添加する有機物をポリビニルアルコール(和光純薬製、試薬特級)2.5wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0078】
[比較例11]
添加する有機物を球状の結晶セルロース(短径に対する長径が1.1倍以下のものを90%以上含有)2.5wt%にしたこと以外は、実施例1と同様の製造法で、酸化物触媒を得た。酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0079】
[比較例12]
特許第05908595号の実施例A2記載の酸化物触媒を製造して、酸化物触媒の反応評価として、触媒5.4gを反応管に充填し、実施例1と同様にメタクロレイン合成反応を行った。反応初期(反応開始2時間)の反応評価結果を表3に示し、転化率の経時変化を表4に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
実施例1における転化率と比較例1における転化率との反応時間に対する変化を対比したグラフを図2に示す。実施例1の酸化物触媒を用いた反応は経時的に転化率が変化しないのに対し、比較例1の酸化物触媒を用いた反応は経時的に転化率が上昇していくことがわかる。実施例1の反応の転化率の変化率は0%であるのに対し、比較例1の反応の転化率の変化率は5.3%と大きいため、比較例1の酸化物触媒は実施例1の酸化物触媒よりも反応による経時的な活性上昇が大きいことが示唆される。
なお、実施例1の酸化物触媒は500時間の反応で、転化率94.7%、メタクロレイン選択率は89.1%、メタクロレイン収率は84.4%であり、初期と変化がなかった。
一方、比較例1の酸化物触媒は500時間の反応で、転化率は99.5%まで上昇し、メタクロレイン選択率は80.1%まで低下し、メタクロレイン収率は79.7%まで低下した。これは、実施例1では、反応開始から500時間後において反応器内の温度は、430℃付近で変化が少ないのに対し、比較例1では、反応開始から500時間後において反応器内の温度が480℃まで上昇し、触媒が劣化した為であると推測される。このように、比較例1において触媒の熱劣化及びそれに伴う収率低下を防止する上では温度を430℃程度に降下させる温度制御が必要となり、従来技術では長期にわたる安定運転が難しいことがわかる。これに対して、実施例1では大きな温度変化が生ずることなく高い収率を維持することができ、長期にわたる安定運転が可能となっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の酸化物触媒は、不飽和アルデヒドの製造プロセスに使用でき、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2