(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961370
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01G 11/56 20130101AFI20211025BHJP
H01G 9/032 20060101ALI20211025BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20211025BHJP
【FI】
H01G11/56
H01G9/032
H01G11/84
【請求項の数】13
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-49589(P2017-49589)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-152532(P2018-152532A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153018
【氏名又は名称】株式会社日本マイクロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】殿川 孝司
(72)【発明者】
【氏名】津國 和之
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 樹理
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐樹
【審査官】
北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−059516(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/114321(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/208116(WO,A1)
【文献】
特表2005−531922(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/038008(WO,A1)
【文献】
特開2014−154505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/56
H01G 9/032
H01G 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1酸化物半導体層と、
前記第1酸化物半導体層上に配置され、プロトンが移動可能な固体電解質を含む固体電解質層と、
前記固体電解質層上に配置された第2導電型の第2酸化物半導体層と
を備え、
前記固体電解質層と前記第1酸化物半導体層との間に、絶縁物層が配置されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記固体電解質層には、絶縁物が更に含まれていることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記固体電解質層の前記第2酸化物半導体層側には、前記絶縁物よりも前記固体電解質が多く存在することを特徴とする請求項2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記固体電解質層は、SiOxを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記絶縁物層は、SiNyを含むことを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記絶縁物層の厚さが、10nm以下であることを特徴とする請求項1又は5に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記絶縁物層は、非含水性であって多孔質でないプラズマ−SiNyであることを特徴とする請求項1,5若しくは6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記第1酸化物半導体層は、TiO2を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
前記第2酸化物半導体層は、NiOを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項10】
前記第1酸化物半導体層の前記絶縁物層と対向しない面に配置された第1電極と、
前記第2酸化物半導体層の前記固体電解質層と対向しない面に配置された第2電極と
を備えることを特徴とする請求項1,5若しくは6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記SiOxは、シリコーンオイルから形成されることを特徴とする請求項4に記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
前記SiOxは、シリコーンを含んだ金属から形成されることを特徴とする請求項4に記載の蓄電デバイス。
【請求項13】
前記固体電解質層は、
希釈したシリコーンオイルを、第1酸化物半導体層上に塗布する工程と、
塗布したシリコーンオイルを焼成する工程と、
焼成したシリコーンオイルに紫外線照射する工程と、
を含んで製造されることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施の形態は、
蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁層を両側から電極で挟んだ構造としては、キャパシタが一般的である。
【0003】
また、n型半導体層、含水性多孔質な絶縁層、p型半導体層を順次積層し、上下に電極を形成した構造の蓄電デバイスも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-82445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施の形態は、蓄電容量を増大し、かつ充電電圧を増加させても劣化せず充電可能な信頼性の向上した
蓄電デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施の形態の一態様によれば、第1導電型の第1酸化物半導体層と、前記第1酸化物半導体層上に配置され、プロトンが移動可能な固体電解質を含む固体電解質層と、前記固体電解質層上に配置された第2導電型の第2酸化物半導体層とを備え
、前記固体電解質層と前記第1酸化物半導体層との間に、絶縁物層が配置されている蓄電デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本実施の形態によれば、蓄電容量を増大し、かつ充電電圧を増加させても劣化せず充電可能な信頼性の向上した
蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)比較例1に係る蓄電デバイスの模式的断面構造図、(b)比較例1に係る蓄電デバイスの充放電特性図。
【
図2】(a)比較例2に係る蓄電デバイスの模式的断面構造図、(b)比較例2に係る蓄電デバイスの充放電特性図。
【
図3】(a)実施の形態に係る蓄電デバイスの模式的断面構造図、(b)実施の形態に係る蓄電デバイスの充放電特性図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本実施の形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係などは現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置などを特定するものではない。この実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
以下の実施の形態の説明において、第1導電型とは、例えば、n型、第2導電型とは、第1導電型と反対導電型のp型であることを示す。
【0013】
(比較例1)
比較例1に係る蓄電デバイス30Aの模式的に断面構造は、
図1(a)に示すように表され、その充放電特性は、
図1(b)に示すように模式的に表される。
【0014】
比較例1に係る蓄電デバイス30Aは、
図1(a)に示すように、第1電極(E1)12と第2電極(E2)26との間に、第1酸化物半導体層14と、第1酸化物半導体層14上に配置された絶縁物層15Nと、絶縁物層15N上に配置された第2酸化物半導体層24とを備える。
【0015】
絶縁物層15Nは、例えば、SiN
yによって形成可能である。
【0016】
第2酸化物半導体層24は、p型の酸化物半導体である酸化ニッケル(NiO)によって形成可能である。
【0017】
比較例1に係る蓄電デバイスの充放電特性は、例えば
図1(b)に示すように、充電時の電圧V(V
1〜V
5)に対して、時刻t
0後の時刻t
1において電圧V
1は0Vへと変化し、時刻t
2において電圧V
2は0Vへと変化し、時刻
3において電圧V
3は0Vへと変化し、時刻t
4において電圧V
4は0Vへと変化し、時刻t
5において電圧V
5は0Vへと変化し、それぞれ放電状態となる。すなわち、
図1(b)に示す充放電特性は、キャパシタの充放電特性に対応している。比較例1に係る蓄電デバイスの放電特性は、
図1(b)に示すように、直線的な特性を示す。
【0018】
比較例1に係る蓄電デバイスによれば、絶縁物層15Nのみではキャパシタが形成されるにすぎず、蓄電量も小さい。
【0019】
(比較例2)
比較例2に係る蓄電デバイス30Aの模式的断面構造は、
図2(a)に示すように表され、その充放電特性は、
図2(b)に示すように模式的に表される。
【0020】
比較例2に係る蓄電デバイス30Aは、
図2(a)に示すように、第1電極(E1)12と第2電極(E2)26との間に、第1酸化物半導体層14と、第1酸化物半導体層14上に配置され、プロトンが移動可能な固体電解質を有する固体電解質層16Kと、固体電解質層16K上に配置された第2酸化物半導体層24とを備える。
【0021】
固体電解質層16Kは、例えば、酸化ケイ素(SiO
x)によって形成可能である。その他の構成は、比較例1と同様である。
【0022】
比較例2に係る蓄電デバイスの充放電特性は、
図2(b)に示すように、充電時の電圧V(V
1〜V
5)に対して、時刻t
0後の時刻t
3において電圧V
3は0Vへと変化し、時刻t
4において電圧V
4は0Vへと変化し、時刻t
5において電圧V
5は0Vへと変化し、それぞれ放電状態となる。比較例2に係る蓄電デバイスの放電特性は、
図2(b)に示すように、減少する特性を示す。
【0023】
比較例2に係る蓄電デバイスの充放電特性によれば、定電流での長時間充電の場合でも、比較例1に係る蓄電デバイスよりも大きい蓄電量が得られている。
【0024】
比較例1に係る蓄電デバイス30Aは、キャパシタ特性を示すため蓄電量が小さい。しかし、比較例2に係る蓄電デバイス30Aは比較例1に係る蓄電デバイス30Aに比べて、第2酸化物半導体層24に固体電解質層16Kが接触する構造を備えるため、第1電極(E1)12に対して、第2電極(E2)26を高電位とする電圧印加状態において、第2酸化物半導体層24から、プロトンが、第1酸化物半導体層14に向かって移動し易くなる。従って、比較例1の蓄電デバイス30Aに対して比較例2の蓄電デバイス30Aの方が多く蓄電できる。
【0025】
比較例1に係る蓄電デバイス30Aでは、第2酸化物半導体層24に絶縁物層15Nが接触する構造を備えるため、第2酸化物半導体層24からのプロトン移動が、絶縁物層15Nによって妨げられ、第1酸化物半導体層14に向かっての移動が困難になると考えられている。
【0026】
しかしながら、比較例2に係る蓄電デバイス30Aにおいては、
図2(b)に示すように、リーク試験においても充電時の電圧VがV
3(例えば、約3.0V)以上になると、固体電解質層16Kが電圧に耐えられなくなるため、蓄電量の低下が著しい。
【0027】
(実施の形態)
実施の形態に係る蓄電デバイス30の模式的断面構造は、
図3(a)に示すように表され、その充放電特性は、
図3(b)に示すように模式的に表される。
【0028】
実施の形態に係る蓄電デバイス30は、
図3(a)に示すように、第1電極(E1)12と第2電極(E2)26との間に、第1導電型の第1酸化物半導体層14と、第1酸化物半導体層14上に配置され、プロトンが移動可能な固体電解質を有する固体電解質層18Kと、固体電解質層18K上に配置された第2導電型の第2酸化物半導体層24とを備える。
【0029】
ここで、第1導電型の第1酸化物半導体層14とは、第1導電型の第1酸化物半導体からなる酸化物半導体層であることを表す。第2導電型の第2酸化物半導体層24とは、第2導電型の第2酸化物半導体からなる酸化物半導体層であることを表す。以下同様である。
【0030】
また、固体電解質層18Kと第1酸化物半導体層14との間に、絶縁物を備えた絶縁物層18Nが配置されていても良い。
【0031】
また、固体電解質層18Kには、絶縁物が更に含まれていても良い。ここで、固体電解質層18Kには、例えば、SiOからなる固体電解質とSiNからなる絶縁物が含まれていても良い。
【0032】
また、固体電解質層18Kの第2酸化物半導体層24側には、絶縁物よりも固体電解質が多く存在していても良い。すなわち、固体電解質層18Kの第2酸化物半導体層24側には、例えばSiNからなる絶縁物よりも、SiOからなる固体電解質が多く存在していても良い。
【0033】
実施の形態に係る蓄電デバイス30においては、比較例2に係る蓄電デバイス30Aと比べて、固体電解質層18Kに絶縁物層18Nが接触しているため、耐圧が上昇している。
【0034】
固体電解質層16Kは、例えば、SiO
xによって形成可能である。絶縁物層18Nは、例えば、非含水性であり、多孔質でないP(プラズマ)−SiN
y(第2絶縁物)を備える。絶縁物層18Nは、膜密度の高い層を備え、SiO
xに比べて含水し難い性質を有する。
【0035】
SiO
xの厚さは、例えば、約20nm〜70nm程度である。
【0036】
絶縁物層18Nは、例えば、SiN
yによって形成可能である。ここで、SiN
yとして、プラズマ―窒化ケイ素(P−SiN
y)を形成した場合その厚さは、例えば、約10nm以下である。更に望ましくは、例えば、約7nm〜10nm程度である。
【0037】
第1電極12は、例えば、WとTiとの積層またはクロム(Cr)によって、第2電極26は、例えば、Alによって、それぞれ形成可能である。第1電極12は、第1酸化物半導体層14の絶縁物層18Nと対向しない面に配置されている。また、第2電極26は、第2酸化物半導体層24の固体電解質層18Kと対向しない面に配置されている。
【0038】
第1酸化物半導体層14は、例えば、n型の酸化物半導体である酸化チタン(TiO
2)によって形成可能である。
【0039】
第2酸化物半導体層24は、p型の酸化物半導体である酸化ニッケル(NiO)によって形成可能である。酸化ニッケル(NiO)の厚さは、例えば約200nmである。
【0040】
実施の形態に係る蓄電デバイス30によれば、
図3(b)に示すように、充電時の電圧V(V
1〜V
5)に対して、時刻t
0後の時刻t
5において電圧V
5は0Vへと変化し、放電状態となる。
【0041】
実施の形態に係る蓄電デバイス30の場合、例えば
図3(b)に示すように、充電時の電圧VがV
5(例えば、約5.0V)以上になってはじめて固体電解質層18Kの劣化による蓄電量の低下が観測される。また、実施の形態に係る蓄電デバイス30の場合、比較例2に係る蓄電デバイス30Aにおいて見られた酸化ケイ素(SiO
x)、単層のときの減少が、5Vで見られる。
【0042】
実施の形態に係る蓄電デバイス30の放電特性は、
図3(b)に示すように、充電時の電圧Vが(V
1〜V
4)に対し略平坦な特性を示し、充電時の電圧VがV
5(例えば、約5.0V)以上になってはじめて、放電時間が減少する特性を示す(比較例2では3Vで放電時間が減少する)。
【0043】
実施の形態に係る蓄電デバイス30によれば、定電流での長時間充電の場合でも、比較例1や比較例2に係る蓄電デバイスよりも大きい蓄電量を確認できた。
【0044】
実施の形態に係る蓄電デバイス30によれば、絶縁物層18Nを挿入したSiN
y/SiO
xの2層構造で、キャパシタより大幅に増大した蓄電量を維持しつつ充電時の耐圧も向上可能である。定電流での長時間充電でも、キャパシタより大きい蓄電量が確認された。これは、2層にすることで、SiO
xの電圧による劣化が低減した結果である。
【0045】
また、SiN
yの膜耐圧が高いため、絶縁物層18Nを挿入したSiN
y/SiO
xの2層構造とすることで耐圧が向上し、蓄電デバイス30全体の耐圧が向上する。
【0046】
また、SiO
xは、シリコーンオイルから形成可能である。
【0047】
また、SiO
xは、シリコーンを含んだ金属から形成されていても良い。
【0048】
また、固体電解質層18Kは、希釈したシリコーンオイルを、第1酸化物半導体層14上に塗布する工程と、塗布したシリコーンオイルを焼成する工程と、焼成したシリコーンオイルに紫外線照射する工程と、を含んで製造されていても良い。
【0049】
また、上記の固体電解質層18Kの製造方法は、希釈したシリコーンオイルを塗布する工程と、塗布したシリコーンオイルを焼成する工程と、焼成したシリコーンオイルに紫外線照射する工程と、を含んでいても良い。
【0050】
実施の形態によれば、蓄電容量を増大し、かつ充電電圧を増加させても劣化せず充電可能な信頼性の向上した蓄電デバイスを提供することができる。
【0051】
[その他の実施の形態]
上記のように、実施の形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0052】
このように、本実施の形態は、ここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本実施の形態の蓄電デバイスは、様々な民生用機器、産業機器に利用することができ、通信端末、無線センサネットワーク向けの蓄電デバイスなど、各種センサ情報を低消費電力伝送可能なシステム応用向けの蓄電デバイスなど、幅広い応用分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
12…第1電極(E1)
14…第1酸化物半導体層(TiO
2層)
15N、18N…絶縁物層
16K,18K…固体電解質層
24…第2酸化物半導体層(NiO)
26…第2電極(E2)
30、30A…蓄電デバイス