(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961371
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】微生物製剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20211025BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
C12N1/20 D
C12N1/20 FZNA
B09B3/00 DZAB
B09B3/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-54535(P2017-54535)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-153156(P2018-153156A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年3月4日
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02444
(73)【特許権者】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】大黒 そのみ
(72)【発明者】
【氏名】上▲崎▼ 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 幸男
【審査官】
中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】
Annamalai N. et al.,Thermostable, haloalkaline cellulose from Bacillus halodurans CAS 1 by conversion of lignocellulosic wastes.,Carbohydrate Polymers,2013年01月28日,94,409-415
【文献】
Trivedi N. et al.,An alkali-halotolerant cellulase from Bacillus flexus isolated from green seaweed Ulva lactuca.,Carbohydrate Polymers,2010年09月06日,83,891-897
【文献】
坂井拓夫,微生物を担持させた担体を用いる新規生ごみ処理法,日本醸造協会誌,2012年10月,107, 10,760-768
【文献】
Ghani M. et al.,Isolation and characterization of different strains of Bacillus licheniformis for the production of commercially significant enzymes.,Pakistan Journal of Pharmaceutical Sciences,2013年07月,26, 4,691-697
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
B09B 1/00−5/00
B09C 1/00−1/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維性炭水化物を含有する被処理物を処理するための微生物製剤であって、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育し、前記環境下において繊維性炭水化物を分解するバチルス属の微生物を含有し、
前記バチルス属の微生物は、温度が15〜60℃の範囲のいずれの温度でも生育することを特徴とする、微生物製剤。
【請求項2】
繊維性炭水化物を含有する被処理物を処理するための微生物製剤であって、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育し、前記環境下において繊維性炭水化物を分解するバチルス属の微生物を含有し、
前記バチルス属の微生物は、pHが3.0〜9.0の範囲のいずれのpHでも生育することを特徴とする、微生物製剤。
【請求項3】
前記バチルス属の微生物は、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株(受託番号:NITE P−02444)又はその変異株の微生物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の微生物製剤。
【請求項4】
前記繊維性炭水化物は、セルロース又はペクチンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物製剤。
【請求項5】
前記被処理物は、有機性廃棄物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微生物製剤。
【請求項6】
前記有機性廃棄物は、野菜を含有する生ごみであることを特徴とする、請求項5に記載の微生物製剤。
【請求項7】
前記野菜は、根菜類であることを特徴とする、請求項6に記載の微生物製剤。
【請求項8】
繊維性炭水化物を含有する被処理物を処理する方法であって、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育するバチルス属の微生物を用いて、前記環境下において繊維性炭水化物を分解し、
前記バチルス属の微生物は、温度が15〜60℃の範囲のいずれの温度でも生育することを特徴とする、繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法。
【請求項9】
繊維性炭水化物を含有する被処理物を処理する方法であって、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育するバチルス属の微生物を用いて、前記環境下において繊維性炭水化物を分解し、
前記バチルス属の微生物は、pHが3.0〜9.0の範囲のいずれのpHでも生育することを特徴とする、繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法。
【請求項10】
前記バチルス属の微生物は、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株(受託番号:NITE P−02444)又はその変異株の微生物であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法。
【請求項11】
前記繊維性炭水化物は、セルロース又はペクチンであることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一項に記載の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法。
【請求項12】
前記被処理物は、有機性廃棄物であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一項に記載の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法。
【請求項13】
前記有機性廃棄物は、野菜を含有する生ごみであることを特徴とする、請求項12に記載の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法。
【請求項14】
前記野菜は、根菜類であることを特徴とする、請求項13に記載の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス属の微生物を含有する微生物製剤において、高塩分濃度の環境下で繊維性炭水化物を分解することが可能な微生物製剤、及びこの微生物製剤を用いた繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭、食堂、スーパー等から発生する生ごみや、醤油粕や焼酎粕等の食品工場から発生する食品製造廃棄物等の有機性廃棄物には、繊維性炭水化物が多量に含まれている。このような繊維性炭水化物を多量に含有する有機性廃棄物は、通常、焼却により処分されている。しかしながら、焼却による処理方法では、大型の焼却炉の建設にかかる処理コスト負担や、地球温暖化等の環境に対する影響等の問題がある。
【0003】
このような問題を解決するべく、繊維性炭水化物を含有する有機性廃棄物の処理方法として、微生物による処理方法が開発されている。例えば、特許文献1には、野菜廃棄物をバチルス・ズブチルスC−3102株(FERM BP−1096)若しくはその変異株の微生物を用いて発酵処理することにより、野菜廃棄物を堆肥化する処理方法が開示されている。また、特許文献2には、イナワラ、バーク、畜産廃棄物などの有機物の堆肥化や生ごみの分解促進などの有機物の分解に有用な微生物として、リグニン分解能を有するバチルス・エスピーLB−5株が開示され、特許文献3には、黒飴の製造過程で産出される黒飴粕の分解に有効な酵素を産生する微生物として、バチルスET62株(FERM P−19389)が開示されている。
【0004】
特許文献4には、塩に対して耐性を有するバチルス属の微生物を含有する微生物製剤が開示されている。この特許文献4における耐塩性の評価では、当該微生物製剤を含む汚泥15kgに対して、食塩濃度が2.25体積%の食品5.5kgを、1日に0.5kgずつに分けて投入した結果、食塩の分解率が72.2質量%であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−113257号公報
【特許文献2】特開平11−225747号公報
【特許文献3】特開2005−52140号公報
【特許文献4】特開2002−51767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
家庭、食堂、スーパー等から発生する生ごみでは、食品の味付けや食材の種類等によって、生ごみ中の食塩濃度に変動が生じる。また、醤油粕や焼酎粕等の食品工場から発生する食品製造廃棄物では、食品工場によって食品製造廃棄物中の食塩濃度に差異がある。
一方で、一般的なバチルス属の微生物では、高塩分濃度の環境下では生育できない。そのため、従来の繊維性炭水化物を分解するバチルス属の微生物では、生ごみの食塩濃度の変動によって処理能力が変化するという問題や、食品製造廃棄物の種類によっては処理できないものがあり、汎用性が低いという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、高塩分濃度の環境下で繊維性炭水化物を分解することが可能なバチルス属の微生物を含有する微生物製剤、及びこの微生物製剤を用いた繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、繊維性炭水化物の分解能を有する微生物を選別し、その中からさらに高塩分濃度の環境下で生育する微生物を選別することにより、高塩分濃度の環境下でも生育可能であり、繊維性炭水化物を分解することが可能なバチルス属の微生物を見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下の微生物製剤、及び、繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の微生物製剤は、繊維性炭水化物を含有する被処理物を処理するための微生物製剤であって、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育し、前記環境下において繊維性炭水化物を分解するバチルス属の微生物を含有することを特徴とする。
この微生物製剤によれば、高塩分濃度の環境下で繊維性炭水化物を分解することが可能であるため、被処理物の食塩濃度の変動に対して優れた適用性を有する微生物製剤を提供することができる。また、多様な被処理物に対して優れた適用性を有し、汎用性の高い微生物製剤を提供することができる。
【0010】
また、上記課題を解決するための本発明の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法は、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育するバチルス属の微生物を用いて、前記環境下において繊維性炭水化物を分解することを特徴とする。
この繊維炭水化物を含有する被処理物の処理方法によれば、高塩分濃度の環境下で繊維性炭水化物を分解することが可能であるため、被処理物の食塩濃度の変動や、多様な被処理物に対して更に優れた適用性を有するという効果を奏する。
【0011】
更に、本発明の微生物製剤及び繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法の一実施態様によれば、バチルス属の微生物は、温度が15〜60℃の範囲のいずれの温度でも生育するという特徴を有する。
この特徴によれば、広範囲の温度において繊維性炭水化物を分解することができるため、生育環境の変動に対して更に優れた適用性を有する。
【0012】
更に、本発明の微生物製剤及び繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法の一実施態様によれば、バチルス属の微生物は、pHが3.0〜9.0の範囲のいずれのpHでも生育するという特徴を有する。
この特徴によれば、広範囲のpHにおいて繊維性炭水化物を分解することができるため、生育環境の変動に対して優れた適用性を有する。
【0013】
更に、本発明の微生物製剤及び繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法の一実施態様によれば、バチルス属の微生物は、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株又はその変異株の微生物であることを特徴とする。
このバチルス・ズブチルスPSC−B010113株は、塩化ナトリウム濃度が0.5〜10.0質量%の範囲、温度が15〜60℃の範囲、及び、pHが3.0〜9.0の範囲の環境下で生育し、当該環境下においてセルロース及びペクチンを分解する微生物である。このバチルス・ズブチルスPSC−B010113株を使用することにより、被処理物の処理条件の変動や、多様な被処理物に対する適用性に優れた微生物製剤及び繊維炭水化物の処理方法を提供することができる。
【0014】
更に、本発明の微生物製剤及び繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法の一実施態様によれば、繊維性炭水化物は、セルロース又はペクチンであることを特徴とする。
植物の細胞壁には、セルロース、ペクチンが多く含まれることから、この特徴によれば、植物の処理に適した微生物製剤及び繊維炭水化物の処理方法を提供することができる。
【0015】
更に、本発明の微生物製剤及び繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法の一実施態様によれば、被処理物は、有機性廃棄物であることを特徴とする。
この特徴によれば、家庭、食堂、スーパー等から発生する生ごみや、醤油粕や焼酎粕等の食品工場から発生する食品製造廃棄物の廃棄処分において、有機性廃棄物の分解処理や堆肥化等の有用化が可能となる。そのため、焼却せずに有機性廃棄物を処理できることから、処理コストの負担軽減や、環境保全の点で優れた効果を奏する。
【0016】
更に、本発明の微生物製剤及び繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法の一実施態様によれば、有機性廃棄物は、野菜を含有する生ごみであることを特徴とする。
この特徴によれば、繊維性炭水化物を分解するという本発明の作用効果をより発揮することができる。
【0017】
更に、本発明の微生物製剤及び繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法の一実施態様によれば、野菜は、根菜類であることを特徴とする。
この特徴によれば、繊維性炭水化物を分解するという本発明の作用効果を特に発揮することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高塩分濃度の環境下で繊維性炭水化物を分解することが可能なバチルス属の微生物を含有する微生物製剤、及びこの微生物製剤を用いた繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[微生物製剤]
本発明の微生物製剤は、繊維性炭水化物を含有する被処理物を処理するための微生物製剤であって、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育し、前記環境下において繊維性炭水化物を分解するバチルス属の微生物を含有することを特徴とするものである。
【0020】
(被処理物)
繊維性炭水化物を含有する被処理物は、繊維性炭水化物を含有すれば特に制限されないが、例えば、根菜、野菜等を含む生ごみ、醤油粕や焼酎粕等の食品製造廃棄物、イナワラ、バーク、おが屑等の畜産廃棄物等の有機性廃棄物が挙げられる。また、有機性廃棄物だけでなく、紙、木材等の有用物でもよい。生ごみの処理では、処理条件が変動しやすいため、本発明の微生物製剤を好適に利用することができる。特に、野菜として根菜類を含む生ごみの処理では、食物繊維等の繊維性炭水化物が多く含まれるため、本発明の微生物製剤を好適に利用することができる。根菜類としては、例えば、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、レンコン等が挙げられる。
【0021】
繊維性炭水化物は、非デンプン性の多糖類であり、例えば、セルロース、ヘミセルロース、キチン等の水不溶性の繊維性炭水化物、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、キトサン、グルカン、グルコマンナン、ラミナラン、フコイダン、アルギン酸、ポルフィラン、カラギーナン、アガロース、ガラクタン等の水溶性の繊維性炭水化物が挙げられる。
【0022】
(バチルス属の微生物)
本発明におけるバチルス属の微生物は、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育可能であり、更に、当該環境下において繊維性炭水化物を分解することが可能であるものであれば、特に制限されない。ここで、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育可能であるとは、下記実施例の「(2)発育特性試験」において、「+」と判定されることを意味する。発育特性に優れるという観点から、強く発育する「++」と判定される菌株が好ましい。
【0023】
また、繊維性炭水化物を分解することが可能であるとは、下記実施例の「(1)分解活性試験」において、ペクチン加標準寒天培地またはCMC−Na加標準寒天培地のいずれかにおいて「+」以上と判断されることを意味する。繊維性炭水化物の分解性に優れるという観点から、好ましくは両方の寒天培地において「+」以上と判断される菌株であり、より好ましくは両方の寒天培地において「+」以上かついずれかの寒天培地において「++」と判断される菌株であり、特に好ましくは両方の寒天培地において「++」と判断される菌株である。
【0024】
バチルス属の微生物が生育可能である塩化ナトリウム濃度は、好ましくは6.0質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以上であり、更に好ましくは10.0質量%以上である。
また、特に好ましくは、塩化ナトリウム濃度が0.5〜10.0質量%のいずれの濃度でも生育可能なものである。これにより、広範囲の塩化ナトリウム濃度において繊維性炭水化物を分解することが可能となり、汎用性に優れた微生物製剤を提供することができる。
【0025】
更に、本発明におけるバチルス属の微生物は、温度が15〜60℃の範囲のいずれの温度でも生育可能であることが好ましい。これにより、発酵熱や外気温の変化等によって環境温度が変動した場合でも、繊維性炭水化物を分解することができる。ここで、温度が15〜60℃の範囲のいずれの温度でも生育可能であるとは、下記実施例の「(2)発育特性試験」において、「+」と判定されることを意味する。発育特性に優れるという観点から、強く発育する「++」と判定される菌株が好ましい。
【0026】
更に、本発明におけるバチルス属の微生物は、pHが3.0〜9.0の範囲のいずれのpHでも生育可能であることが好ましい。これにより、繊維性炭水化物を含む被処理物のpH環境が変動した場合でも、繊維性炭水化物を分解することができる。ここで、pHが3.0〜9.0の範囲のいずれのpHでも生育可能であるとは、下記実施例の「(2)発育特性試験」において、「+」と判定されることを意味する。発育特性に優れるという観点から、強く発育する「++」と判定される菌株が好ましい。
【0027】
本発明におけるバチルス属の微生物が分解可能な繊維性炭水化物は、特に制限されないが、セルロース又はペクチンであることが好ましい。特に、本発明におけるバチルス属の微生物は、セルロース及びペクチンのいずれに対しても分解能を有することが好ましい。これにより、野菜、特に根菜類の処理に適した微生物製剤を得ることができる。
【0028】
上記のバチルス属の微生物は、日本の各地土壌や生ごみ処理物からスクリーニングすることにより得ることができる。スクリーニングの方法としては、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下において、セルロース、ペクチン等の繊維性炭水化物の分解能の有無を確認する。その他、温度、pH等についても同様、所定の環境下において繊維性炭水化物の分解能の有無を確認すればよい。
【0029】
(バチルス・ズブチルスPSC−B010113株)
本発明におけるバチルス属の微生物は、特に、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株又はその変異株の微生物であることが好ましい。このバチルス・ズブチルスPSC−B010113株は、塩化ナトリウム濃度が0.5〜10.0質量%、温度が15〜60℃及びpHが3.0〜9.0の環境下で生育可能であり、特に優れた環境適用性を有している。また、このバチルス・ズブチルスPSC−B010113株は、セルロース及びペクチンのいずれも分解することが可能である。この菌株を利用することにより、被処理物の処理条件の変動や、多様な被処理物に対する適用性に優れ、汎用性の高い微生物製剤を提供することができる。なお、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許生物寄託センターに寄託されている(受
託番号:NITE
P−02444)。
【0030】
また、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株の変異株の微生物とは、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株に対して変異が導入された微生物であり、例えば、自然突然変異や、公知の人為的突然変異により作製することができる。変異株の微生物は、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株と同等又は同等以上の環境適用性を有することが好ましい。ここで、同等の環境適用性とは、塩化ナトリウム濃度が0.5〜10.0質量%、温度が15〜60℃及びpHが3.0〜9.0の範囲の環境下で生育可能であることを意味する。また、同等以上の環境適用性とは、塩化ナトリウム濃度、温度、pHのいずれかの生育条件がバチルス・ズブチルスPSC−B010113株より広い範囲を有することを意味する。
【0031】
本発明の微生物製剤には、上記バチルス属の微生物以外のその他の微生物を含有してもよい。例えば、非繊維性の炭水化物、タンパク質、脂質等を分解する微生物や、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニル等の有害物質を分解する微生物等を混合してもよい。
【0032】
本発明の微生物製剤の形態は、特に制限されないが、例えば、粉末状、スラリー状等が挙げられる。軽量で搬送性に優れるという点では、粉末状であることが好ましい。混合等の取り扱い性に優れるという点では、スラリー状であることが好ましい。
【0033】
[繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法]
本発明の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法は、塩化ナトリウム濃度が5質量%以上の環境下で生育するバチルス属の微生物を用いて、前記環境下において繊維性炭水化物を分解することを特徴とするものである。
なお、繊維性炭水化物を含有する被処理物およびバチルス属の微生物については、上述したものを利用する。
【0034】
本発明の繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法における処理条件としては、塩化ナトリウム濃度が0.5〜10.0質量%、温度が15〜60℃、pHが3.0〜9.0の範囲であることが好ましい。この処理条件によれば、繊維性炭水化物を十分に分解することができる。
【実施例】
【0035】
[菌株のスクリーニング]
日本各地の土壌、堆肥、草木等の自然環境中から採取した各試料を滅菌生理食塩水にて10倍に希釈後、ペクチンまたはセルロースを基質とした各種寒天培地(分離培地)に画線し、32℃で48時間培養した。培養後、出現したコロニーの中から254株の細菌を分離した。表1−1〜1−5に分離した菌株を示す。なお、分離培地において、「PP」はペクチン加標準寒天培地、「P」はペクチン寒天培地、「CP」はCMC−Na加標準寒天培地、「C」はCMC−Na寒天培地を表している。また、表1−1〜1−5の「N」は、各分離培地から分離した菌株の数である。
ペクチンまたはセルロース(カルボキシメチルセルロースナトリウム、以下「CMC−Na」という。)を基質とした各種の寒天培地の作製方法を以下に示す。
【0036】
<ペクチン加標準寒天培地「PP」の作製方法>
標準寒天培地(日水製薬(株))にペクチン(和光純薬工業(株))1.0%を加え加温溶解し、121℃で15分間滅菌を行った後、滅菌シャーレに分注し固化させた。
<ペクチン寒天培地「P」の作製方法>
蒸留水1Lにリン酸水素カリウム3.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.2g、硫酸アンモニウム0.2g、寒天15.0g、ペクチン10.0gを加え加温溶解し、121℃で15分間滅菌を行った後、滅菌シャーレに分注し固化させた。
【0037】
<CMC−Na加標準寒天培地「CP」の作製方法>
標準寒天培地(日水製薬(株))にCMC−Na(和光純薬工業(株))0.2%を加え加温溶解し、121℃で15分間滅菌を行った後、滅菌シャーレに分注し、固化させた。
<CMC−Na寒天培地「C」の作製方法>
蒸留水1Lにリン酸水素カリウム3.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.2g、硫酸アンモニウム0.2g、寒天15.0g、CMC−Na2.0gを加え加温溶解し、121℃で15分間滅菌を行った後、滅菌シャーレに分注し、固化させた。
【0038】
次に、表1−1〜1−5に示す分離菌株を用いて、以下の(1)分解活性試験、(2)発育特性試験、(3)フラスコの系による根菜類の分解試験、により段階的にスクリーニングを行った。
【0039】
(1)分解活性試験
ペクチン加標準寒天培地またはCMC−Na加標準寒天培地を作製し、各培地に直径5mmのウェルを無菌的にあけ、そのウェルに吸光値0.2(波長660nm)に調整した分離菌株をそれぞれ20μL注入し、32℃で48時間培養した。培養後、ペクチン加標準寒天培地に対して、蒸留水1Lにヨウ素3.0g、ヨウ化カリウム15.0gを溶解した溶液を重層して20分間染色した。また、CMC−Na加標準寒天培地には、蒸留水1Lにコンゴーレッド10.0gを溶解した溶液を重層して15分間染色した後、1M塩化ナトリウム溶液で10分間脱色した。この染色と脱色の操作を2回繰り返した。ペクチンまたはCMC−Naが分解されることにより形成されたクリアゾーンの大きさを指標とし分解活性を評価した。クリアゾーンを形成しなかったものを「−」、クリアゾーンを形成したものは、直径10mm未満を「+」、直径10mm以上を「++」の2段階で評価し、表1−1〜1−5に示した。分解活性試験の結果からペクチンとCMC−Naの両方または片方の基質に対して分解能力の高い21株(表1−1〜1−5の「*」印を付した菌株)を選抜し、次の(2)発育特性試験に供した。
【0040】
(2)発育特性試験
選抜した21菌株について食塩濃度、pH、培養温度における発育特性試験を行った。トリプトソイブイヨン(日水製薬(株)、食塩濃度0.5%、pH7.3)を基本培地として用い、食塩濃度を0.5、2.0、4.0、6.0、8.0%に調整した培地、またpHを3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0に調整した培地を各々10ml作製した。各培地に1.0×10
3CFU/mlに調整した各菌液を100μl添加し、32℃で48時間培養した。また、基本培地を用いて20、30、40、50、60℃の各温度にて48時間培養した後の発育程度を評価した。発育の評価は、吸光度計(波長660nm)を用いて濁度により評価した。濁度0.0を発育なし「−」、濁度が検出されたものは、濁度0.01〜0.30を発育「+」、濁度0.31以上を強く発育「++」の2段階で評価し、表2に示した。
【0041】
発育特性試験の結果から、食塩濃度0.5〜8.0%、pH3.0〜8.0、温度20〜50℃で発育が見られたNo.16株、No.20株、No.173株、および、食塩濃度0.5〜8.0%、pH3.0〜8.0、温度20〜60℃で発育が確認されたNo.230株を選抜した(表2の「*」印を付した菌株)。選抜した4株についてさらに食塩濃度10.0%、pH9.0、培養温度15℃での発育程度を評価した。
【0042】
(3)フラスコの系による根菜類の分解試験
選抜した4株についてフラスコの系による根菜類の分解試験を実施した。500ml容の三角フラスコに、担体(多孔質硬プラスチック)50g、水70gを入れ、アルミ箔で蓋をして121℃で15分間滅菌を行った後、分解対象物として野菜残渣30gを加えたものを試験系として用いた。分解対象物として用いた野菜残渣は、大根と人参を10mm厚、2.0cm四方に細切し、重量比率が大根50%、人参50%となるように混合したものを用いた。発育特性試験で選抜した4株の各菌株をそれぞれ担体あたり1.0×10
6CFU/gとなるようにフラスコ内に添加した。また対照には滅菌水を同量添加した。各フラスコを32℃で4日間培養し、外観変化を観察した。培養中は毎日1回、フラスコ全体を撹拌し、内容物中に酸素が十分にいきわたるようにした。培養4日目に内容物に変化が認められないものを「−」、微生物の分解作用により内容物の液状化が認められたものを「+」、強く認められたものを「++」の2段階で評価し、表3に示した。フラスコの系による根菜類の分解試験の結果から、根菜類の分解能力が高いNo.230株を選抜した。
【0043】
[No.230株のフラスコの系による根菜類分解能力の定量]
選抜したNo.230株について、分解能力を詳細に評価するため処理後のセルロース量の定量化を行った。上記「(3)フラスコの系による根菜類の分解試験」の記載の評価系で処理を行った。菌株添加区は、No.230株を担体あたり1.0×10
6CFU/gとなるようにフラスコ内に添加した。また対照区には滅菌水を同量添加した。処理後の内容物全量を80℃で5時間乾燥させたのち、ミルにて2mm以下まで粉砕した。粉砕した試料を、飼料分析法に従い酸性デタージェント分析を行い、酸性デタージェント繊維(ADF)量を求め、表4に示した。対照区と比較し菌株添加区では、分解物中のADF量は低下する結果となった。
これらの結果から、得られたNo.230株は、根菜類を構成するセルロース、ペクチンの分解能力が高く、かつ塩化ナトリウム濃度が0.5〜10.0質量%、温度が15〜60℃、及び、pHが3.0〜9.0の範囲の環境下で生育する特徴を有することがわかる。
【0044】
[菌株の同定]
選抜したNo.230株について、常法に従い形態学的および生理学的性質から属の同定を行った結果、バチルス(Bacillus)属であった。また、バチルス属同定キットであるAPI 50CHB(シスメックス・ビオメリュー(株))を用いた生化学的性質調査および16SrDNAの塩基配列の相同性から種の判別を行った結果、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)と同定された。その結果を表5に示した。また、16SrDNAの塩基配列を配列表に記載する(配列番号1)。No.230株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8号122号室)に、バチルス・ズブチルスPSC−B010113株(受
託番号:NITE
P−02444)として寄託されている。
【0045】
【表1-1】
【0046】
【表1-2】
【0047】
【表1-3】
【0048】
【表1-4】
【0049】
【表1-5】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の微生物製剤および繊維性炭水化物を含有する被処理物の処理方法は、根菜、野菜等を含む生ごみ、醤油粕や焼酎粕等の食品製造廃棄物、イナワラ、バーク、おが屑等の畜産廃棄物等の有機性廃棄物の処理に利用することができる。好ましくは、有機性廃棄物の堆肥化処理に利用することができる。また、下水処理場、食品工場、製紙工場等から発生する有機性排水の処理に利用してもよい。
その他、家庭用の生ごみ処理機用の微生物製剤として提供することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]