(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスセラミックス組成物であって、前記ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で4回焼結して得られる焼結体をJIS T 6526(2012)に準拠して測定した熱膨張係数が、8.8×10-6K-1以上11.0×10-6K-1以下である、ガラスセラミックス組成物。
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスセラミックス組成物であって、前記ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で1回焼結して得られる焼結体をJIS T 6526(2012)に準拠して測定した第1の熱膨張係数と、前記ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で4回焼結して得られる焼結体をJIS T 6526(2012)に準拠して測定した第2の熱膨張係数との差(絶対値)が0.6×10-6K-1未満である、ガラスセラミックス組成物。
請求項10の歯科用調整材を基材上に塗布又は築盛する工程、及び基材と歯科用調整材とを焼結する工程を含み、前記基材がセラミックス製コアである、歯科用補綴物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラスセラミックス組成物を歯科用調整材(以下、単に「調整材」ともいう)として使用する方法の一例について説明する。例えば、歯科分野においては、機械加工等により得られたセラミックス加工物がそのまま歯科用補綴物として患者に適用されると、咬合不良、隣在歯との干渉不足等の不具合が生じることがある。この場合、セラミックス加工物上に、別のセラミックス材料(アドオン陶材と呼ばれることがある)を築盛して外形又は大きさを調整することが行われている。また、セラミックス加工物単体では、天然歯と同様の色調を再現することは困難である。そのため、着色材を含有するセラミックス材料(ステイン陶材と呼ばれることがある)を基材としてのセラミックス加工物に塗布して色調を調整して、天然歯と同様の色調を再現することが行われている。
【0007】
上記のような調整は、例えば、調整材としてのガラスセラミックス組成物の粉末を溶媒に分散させた液状物を基材上に塗布して、基材上で前記セラミックス組成物を焼結(焼成)させることによって行われる。したがって、調整材の性状は、基材の性状に対して制約されることがある。例えば、調整材の焼結温度が、基材の変形及び熱歪みの発生を防ぐため、基材の歪み点以下の温度で焼結させる必要がある。特に、基材がリチウムシリケート系セラミックスで形成される場合、調整材の焼結温度が低温でなければならない。また、調整材の熱膨張係数が基材の熱膨張係数よりも高すぎると、調整材に変形、割れ、剥がれ等の欠陥が生じてしまう。さらに、調整材の塗布及び焼結は複数回行われることがある。この場合には、調整材は、複数回の焼結によっても熱膨張係数が大きく変動しないことが望まれる。
【0008】
上述のような調整材としては、非晶質材料が用いられる場合がある。しかしながら、非晶質材料は調整材として十分な靭性を有していないと考えられる。そのため、結晶を含有するセラミックス材料が調整材として使用されている。具体例としては、リューサイト結晶を含有するセラミックス材料が多く用いられている。しかしながら、リューサイト結晶は熱膨張係数が大きいため、リューサイト結晶を含有する陶材を適用できる基材は限られている。そこで、リューサイト結晶に代わるセラミックス材料としては、シリケートガラスの主成分シリカの結晶体であるクリストバライト(cristobalite)結晶を適用することが考えられる。しかしながら、これまで知られているクリストバライト結晶を含むセラミックス材料は、焼結温度が高温である。
【0009】
特許文献1に記載の結晶質石英焼結体は、焼結温度が1400℃以上と高温であるため、仮に、特許文献1に記載の結晶質石英焼結体を基材上で焼結できたとしても、焼結の際の加熱により基材に変形が生じたり、また基材が損傷することが推測される。
【0010】
特許文献2には、ガラスセラミックスはクリストバライト結晶を含有すると開示されている。しかしながら、ガラスセラミックスを構成するガラス相が、75mol%〜83mol%のSiO
2成分、3mol%〜5mol%のAl
2O
3成分、2mol%〜10mol%のB
2O
3成分、2mol%〜3mol%のLi
2O成分、3mol%〜5mol%のNa
2O成分、2mol%〜4mol%のK
2O成分、0.01mol%〜1mol%のCaO成分、及び0.01mol%〜2mol%のZnO成分を含有している。そのため、この組成系ではクリストバライト結晶相は得られるものの、適正焼結温度が840℃以上になり、特に基材がリチウムシリケート系セラミックスで形成される場合などにおいて、加熱により基材に変形が生じたり、また損傷することが推測される。
【0011】
そこで、例えば、上記問題を有しないセラミックス材料が望まれている。
【0012】
本発明は、適正焼結温度が低いと共に、複数回焼結しても熱膨張係数の変動が小さいガラスセラミックス組成物並びにこれを用いた焼結体及び歯科用調整材を提供することを目的とする。また、本発明は、破壊靭性に優れたガラスセラミックス組成物並びにこれを用いた焼結体及び歯科用調整材を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記した歯科用調整材の使用方法、前記歯科用調整材の焼結体と基材とを含む歯科用補綴物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、クリストバライト結晶を有するシリケートガラスを含むガラスセラミックス組成物において、前記シリケートガラスにおける、SiO
2成分、Al
2O
3成分、Na
2O成分、K
2O成分及びCaO成分の各含有量を所定範囲とすることによって、適正焼結温度を低くでき、かつ複数回焼結した際の熱膨張係数の変動を小さくすることができることを見い出し、これらの知見に基づいてさらに研究を進めて、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1]クリストバライト結晶を有するシリケートガラスを含むガラスセラミックス組成物であって、前記シリケートガラスが、
65.0〜74.4mol%のSiO
2成分、
2.0〜7.0mol%のAl
2O
3成分、
2.0〜10.0mol%のNa
2O成分、
2.0〜8.0mol%のK
2O成分、及び、
0.1〜4.0mol%のCaO成分
を含有する、ガラスセラミックス組成物。
[2]前記シリケートガラスが、B
2O
3成分、CeO
2成分、F成分、Li
2O成分及びZnO成分からなる群から選択される少なくとも1つの成分をさらに含有し、B
2O
3成分の含有量が12.0mol%以下であり、CeO
2成分の含有量が1.0mol%以下であり、F成分の含有量が4.0mol%以下であり、Li
2O成分の含有量が6.0mol%以下であり、ZnO成分の含有量が2.0mol%以下である、前記[1]のガラスセラミックス組成物。
[3]適正焼結温度が770℃以下である、前記[1]又は[2]のガラスセラミックス組成物。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかのガラスセラミックス組成物であって、前記ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で4回焼結して得られる焼結体をJIS T 6526(2012)に準拠して測定した熱膨張係数が、5.0×10
-6K
-1以上11.0×10
-6K
-1以下である、ガラスセラミックス組成物。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかのガラスセラミックス組成物であって、前記ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で1回焼結して得られる焼結体をJIS T 6526(2012)に準拠して測定した第1の熱膨張係数と、前記ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で4回焼結して得られる焼結体をJIS T 6526(2012)に準拠して測定した第2の熱膨張係数との差(絶対値)が0.6×10
-6K
-1未満である、ガラスセラミックス組成物。
[6][Al
2O
3成分のモル数]/[SiO
2成分のモル数]が0.062を超える、前記[1]〜[5]のいずれかのガラスセラミックス組成物。
[7][Al
2O
3成分のモル数]/[SiO
2成分のモル数]が0.062以下であり、かつ4.2〜6.0mol%のLi
2O成分、及び/又は、1.5〜3.8mol%のF成分を含む、前記[1]〜[5]のいずれかのガラスセラミックス組成物。
[8]顔料及び不透明剤のうちの少なくとも1つをさらに含有する、前記[1]〜[7]のいずれかのガラスセラミックス組成物。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかのガラスセラミックス組成物を焼結してなる焼結体。
[10]前記[1]〜[8]のいずれかのガラスセラミックス組成物からなる歯科用調整材。
[11]前記[10]の歯科用調整材の焼結体と基材を含み、前記基材がセラミックス製コアである、歯科用補綴物。
[12]前記セラミックス製コアが、リチウムシリケート系セラミックス製コアである、前記[11]の歯科用補綴物。
[13]前記[10]の歯科用調整材を基材上に塗布又は築盛する工程を含み、前記基材がセラミックス製コアである、歯科用調整材の使用方法。
[14]前記セラミックス製コアが、リチウムシリケート系セラミックス製コアである、前記[13]の歯科用調整材の使用方法。
[15]前記[10]の歯科用調整材を基材上に塗布又は築盛する工程、及び基材と歯科用調整材とを焼結する工程を含み、前記基材がセラミックス製コアである、歯科用補綴物の製造方法。
[16]前記セラミックス製コアが、リチウムシリケート系セラミックス製コアである、前記[15]の歯科用補綴物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラスセラミックス組成物は、適正焼結温度が低く、低温焼結が可能である。また、本発明のガラスセラミックス組成物は、複数回(例えば4回以上)焼結しても熱膨張係数の変動を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガラスセラミックス組成物は、クリストバライト結晶(典型的にはα−クリストバライト結晶)を有するシリケートガラスを含む。そして当該シリケートガラスは、65.0〜74.4mol%のSiO
2成分、2.0〜7.0mol%のAl
2O
3成分、2.0〜10.0mol%のNa
2O成分、2.0〜8.0mol%のK
2O成分、及び、0.1〜4.0mol%のCaO成分を含有する。
【0017】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。本明細書において、一般式:M
2Oはアルカリ金属酸化物を表し、一般式:MOはアルカリ土類金属酸化物を表す(ここでMはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表す)。M
2Oに含まれるアルカリ金属酸化物としては、Na
2O、Li
2O、K
2Oが挙げられる。MOに含まれるアルカリ土類金属酸化物としては、CaO、ZnO、MgO等が挙げられる。さらに、明細書において、M
2O及びMOを塩基性成分と称することもある。B
2O
3は塩基性であるが、本明細書において、M
2O及びMOを含む塩基性成分はB
2O
3を含まない。
【0018】
また、本明細書において、シリケートガラスに含有される各成分の表記(例えば、「SiO
2成分」等)は、当該シリケートガラスに含有される金属等の各元素(例えば、Si等)が酸化物として存在するものと見なした場合のものである(ただし、F成分の場合はシリケートガラスに含有されるF元素そのものを意味する。当該F元素は典型的には別の元素と化合物を形成している)。すなわち、例えば、ある金属元素が別の金属元素と複合体を形成していたとしても、各金属元素が酸化物を形成しているものと見なして表記する。シリケートガラスに含有される各成分の含有量についても、上記のとおり各元素が酸化物を形成していると見なした際の当該酸化物の含有量(ただし、F成分の場合はF元素そのものの含有量)を意味する。
【0019】
本発明のガラスセラミックス組成物は、クリストバライト結晶を有するシリケートガラス(結晶化ガラス)を含み、好ましくは、室温においてα−クリストバライト結晶を主たる結晶相として有するシリケートガラスを含有する。クリストバライト結晶の存在は、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)パターンによって確認することができる。ガラスセラミックス組成物は、XRDパターンによってクリストバライト結晶以外の結晶相を検出できなくてもよい。X線回折の検出装置は、特に限定されず、公知の検出装置を用いることができる。
【0020】
本発明のガラスセラミックス組成物のCuKα線によるX線回折パターンにおいては、2θが20°〜25°の範囲にクリストバライトの結晶のシャープなピークが確認できると好ましい。
【0021】
ガラスセラミックス組成物は、シリケートガラスを構成する成分として、SiO
2成分を含有する。SiO
2成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、65.0mol%以上であり、66.1mol%以上が好ましい。SiO
2成分の含有量が65.0mol%未満の場合は、適正焼結温度は下がるが、化学溶解性が悪くなる。SiO
2成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、74.4mol%以下であり、72.7mol%以下が好ましい。SiO
2成分の含有量が74.4mol%を超える場合、適正焼結温度が高くなる。
【0022】
ガラスセラミックス組成物は、シリケートガラスを構成する成分として、Al
2O
3成分を含有する。Al
2O
3成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、2.0mol%以上であり、3.0mol%以上が好ましい。Al
2O
3成分の含有量が2.0mol%未満の場合は、適正焼結温度は下がるが、ガラスとして不安定になる。Al
2O
3成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、7.0mol%以下であり、6.5mol%以下が好ましい。Al
2O
3成分の含有量が7.0mol%を超える場合、適正焼結温度が高くなる。
【0023】
ガラスセラミックス組成物は、シリケートガラスを構成する成分として、Na
2O成分を含有する。Na
2O成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、2.0mol%以上であり、3.0mol%以上が好ましく、3.6mol%以上がより好ましい。Na
2O成分の含有量が2.0mol%未満の場合は、ガラスにおいて融剤としての働きが不十分である。Na
2O成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、10.0mol%以下であり、9.3mol%以下が好ましい。Na
2O成分の含有量が10.0mol%を超える場合、熱膨張係数が高くなる。
【0024】
ガラスセラミックス組成物は、シリケートガラスを構成する成分として、K
2O成分を含有する。K
2O成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、2.0mol%以上であり、2.6mol%以上が好ましい。K
2O成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、8.0mol%以下であり、7.9mol%以下が好ましい。K
2O成分の含有量が8.0mol%を超える場合、熱膨張係数が高くなる。
【0025】
ガラスセラミックス組成物は、シリケートガラスを構成する成分として、CaO成分を含有する。CaO成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、0.1mol%以上であり、0.5mol%以上が好ましい。CaO成分は、ガラス原料に加えられることで、ガラスにおいて融剤として働くことができる。CaO成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、4.0mol%以下であり、3.6mol%以下が好ましい。これにより、後述する性状を有するガラスセラミックス組成物を得ることができる。
【0026】
本発明のガラスセラミックス組成物が含むシリケートガラスは、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、B
2O
3成分、CeO
2成分、F成分、Li
2O成分及びZnO成分からなる群から選択される少なくとも1つの成分を、任意成分としてさらに含有することが好ましい。
【0027】
B
2O
3成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、0mol%以上とすることができ、0.3mol%以上が好ましい。B
2O
3成分は、ガラス原料に加えられることで、ガラスにおいて融剤として働くことができる。B
2O
3成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、12.0mol%以下が好ましく、11.9mol%以下がより好ましい。B
2O
3成分の含有量が12.0mol%を超える場合、化学溶解性が低下する傾向がある。
【0028】
CeO
2成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、0mol%以上とすることができ、0.3mol%以上が好ましい。CeO
2成分は、ガラス原料に加えられることで、ガラスにおいて変色防止として働くことができる。CeO
2成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、1.0mol%以下が好ましく、0.5mol%以下がより好ましい。これにより、後述する性状を有するガラスセラミックス組成物を得るのがより容易になる。
【0029】
F成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、0mol%以上とすることができ、0.6mol%以上が好ましい。F成分は、ガラス原料に加えられることで、ガラスにおいて融剤としての働きを持たせることができる。F成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、4.0mol%以下が好ましく、3.8mol%以下がより好ましい。F成分の含有量が4.0mol%を超える場合、得られるガラスセラミックス組成物の安定性が低下して焼結体の透明性等の物性が低下する場合がある。
【0030】
Li
2O成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、0mol%以上とすることができ、4.2mol%以上が好ましい。Li
2O成分は、ガラス原料に加えられることで、ガラスにおいて融剤として働くことができる。Li
2O成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、6.0mol%以下が好ましく、5.0mol%以下がより好ましい。Li
2O成分の含有量が6.0mol%を超える場合、得られるガラスセラミックス組成物の安定性が低下して焼結体の透明性等の物性が低下する場合がある
【0031】
ZnO成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、0mol%以上とすることができ、0.8mol%以上が好ましい。ZnO成分は、ガラス原料に加えられることで、ガラスにおいて融剤として働くことができる。ZnO成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、2.0mol%以下が好ましく、1.0mol%以下がより好ましい。ZnO成分の含有量が2.0mol%を超える場合、得られるガラスセラミックス組成物の安定性が低下して焼結体の透明性等の物性が低下する場合がある。
【0032】
本発明のガラスセラミックス組成物は、当該ガラスセラミックス組成物やそれから得られる焼結体の色、蛍光性、透過率等を調整するなどの目的のため、顔料及び不透明剤(乳白剤)のうちの少なくとも1つの成分をさらに含有してもよい。顔料及び不透明剤(乳白剤)のうちの少なくとも1つの成分は、シリケートガラスを構成しなくてもよい。顔料としては、例えば、P、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物を利用することができる。顔料は、蛍光顔料であってもよいし、蛍光顔料でなくてもよい。不透明剤としては、例えば、TiO
2、ZrO
2、ZrSiO
4、SnO
2及びCeO
2からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を利用することができる。ガラスセラミックス組成物に添加される顔料及び不透明剤は、1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物であってもよい。
【0033】
本発明のガラスセラミックス組成物のある実施形態において、ガラス相を構成する成分としてのシリカ成分とアルミナ成分のモル比([Al
2O
3成分のモル数]/[SiO
2成分のモル数])は、0.062を超えることが好ましく、0.065以上がより好ましく、0.068以上がさらに好ましい。この比が0.062を超えることで、熱膨張係数の差を小さくすることができ、破壊靭性に優れたガラスセラミックス組成物が得られる。また、他の実施形態において、シリカ成分とアルミナ成分のモル比([Al
2O
3成分のモル数]/[SiO
2成分のモル数])が0.062以下であってもよい。この比が0.062以下である場合、本発明のガラスセラミックス組成物は、4.2〜6.0mol%のLi
2O成分、及び/又は、1.5〜3.8mol%のF成分を含むことが好ましい。前記シリカ成分とアルミナ成分のモル比が0.062以下のガラスセラミックス組成物において、4.2〜5.0mol%のLi
2O成分、及び/又は、2.0〜3.8mol%のF成分を含むことがより好ましい。
【0034】
本発明のガラスセラミックス組成物のある実施形態において、SiO
2成分の配合割合について、ガラスセラミックス組成物の組成をモル比率で表わしたとき、ガラス相を構成する成分のうちの塩基性成分(MO成分+M
2O成分)のモル数の総量に対するSiO
2成分の比([SiO
2成分のモル数]/[MO成分+M
2O成分の合計モル数])は、8.0以下が好ましく、7.0以下がより好ましく、6.0以下がさらに好ましい。前記塩基性成分(MO成分+M
2O成分)のモル数の総量に対するSiO
2成分の比([SiO
2成分のモル数]/[MO成分+M
2O成分の合計モル数])は、2.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましい。なお、上記モル比率において、B
2O
3成分は塩基性成分から除外する。
【0035】
本発明のガラスセラミックス組成物のある実施形態において、Al
2O
3成分の配合割合について、ガラスセラミックス組成物の組成をモル比率で表わしたとき、ガラス相を構成する成分のうちの塩基性成分(MO成分+M
2O成分)のモル数の総量に対するAl
2O
3成分の比([Al
2O
3成分のモル数]/[MO成分+M
2O成分の合計モル数])は、0.41以下が好ましく、0.38以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。前記塩基性成分(MO成分+M
2O成分)のモル数の総量に対するAl
2O
3成分の比([Al
2O
3成分のモル数]/[MO成分+M
2O成分の合計モル数])は、0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましい。また、他の実施形態において、ガラス相を構成する成分のうちの塩基性成分(MO成分+M
2O成分)のモル数の総量に対するAl
2O
3成分の比([Al
2O
3成分のモル数]/[MO成分+M
2O成分の合計モル数])が0.40を超えて0.60以下であってもよい。前記塩基性成分(MO成分+M
2O成分)のモル数の総量に対するAl
2O
3成分の比が、0.40を超える場合、Li
2O成分の含有量は、ガラスセラミックス組成物において、シリケートガラスを構成する成分の合計モル数に対して、4.2〜6.0mol%であることが好ましい。なお、上記モル比率において、B
2O
3成分は塩基性成分から除外する。
【0036】
本発明のガラスセラミックス組成物は、例えば粉末の形状とすることができる。当該粉末の平均粒径(d50)は、75μm以下であると好ましく、50μm以下であるとより好ましく、40μm以下であるとさらに好ましい。当該粉末の平均粒径(d50)は、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社社製、MT3300EXII)で測定することができる。
【0037】
本発明のガラスセラミックス組成物は、適正焼結温度が低くて低温焼結が可能である。本発明のガラスセラミックス組成物の適正焼結温度は、例えば780℃未満であり、770℃以下が好ましく、760℃以下がより好ましく、740℃以下がさらに好ましく、700℃以下が特に好ましい。これにより、例えば、ガラスセラミックス組成物を歯科用調整材として用いて基材上で焼結させた場合に、基材が損傷することを抑制することができる。また、加熱による変形を抑制することができる。適正焼結温度は、ガラスセラミックス組成物からなる成形体を加熱昇温(例えば昇温速度45℃/分)した際に、当該成形体の表面に光沢が生じ始める光沢発生開始温度として捉えることができる。例えば粉末状のガラスセラミックス組成物を成形体にして加熱昇温すると、通常、加熱の初期に粉末同志が結合し始め、さらに昇温して適正焼結温度(光沢発生開始温度)に達すると成形体の表面に光沢が生じる。これをさらに昇温すると、多くの場合、成形体が熔融することでその形状が維持できなくなって表面張力による一体化などの変形が生じ始める。適正焼結温度は、具体的には後記する実施例に記載の方法により決定することができる。
【0038】
本発明のガラスセラミックス組成物は、複数回焼結しても熱膨張係数の変動を小さくすることができる。熱膨張係数は、ガラスセラミックス組成物を焼結してなる焼結体を試料片に用いて、JIS T 6526(2012)に準拠して測定できる。本明細書においては、ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で1回焼結して得られる焼結体(1回焼結体)について、上記のようにJIS T 6526(2012)に準拠して測定した熱膨張係数を「第1の熱膨張係数」という。また、ガラスセラミックス組成物を、前記1回目の焼結時と同じ焼結条件でさらに3回焼結(合計4回焼結;なお、各焼結の後には室温まで冷却する工程が含まれる)して得られる焼結体(4回焼結体)について、上記のようにJIS T 6526(2012)に準拠して測定した熱膨張係数を「第2の熱膨張係数」という。上記各焼結における焼結時間(適正焼結温度での焼結時間)としては、例えば60秒を採用することができる。熱膨張係数は、具体的には後記する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
前記第1の熱膨張係数は、11.0×10
-6K
-1以下が好ましく、10.5×10
-6K
-1以下がより好ましく、10.0×10
-6K
-1以下がさらに好ましく、9.9×10
-6K
-1以下が特に好ましい。また、前記第1の熱膨張係数は、5.0×10
-6K
-1以上が好ましく、5.3×10
-6K
-1以上がより好ましく、8.0×10
-6K
-1以上がさらに好ましく、8.5×10
-6K
-1以上が特に好ましい。これにより、本発明のガラスセラミックス組成物を基材に適用して加熱したとしても、変形等の欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。
【0040】
前記第2の熱膨張係数は、11.0×10
-6K
-1以下が好ましく、10.5×10
-6K
-1以下がより好ましく、10.0×10
-6K
-1以下がさらに好ましく、9.9×10
-6K
-1以下が特に好ましい。また、前記第2の熱膨張係数は、5.0×10
-6K
-1以上が好ましく、5.3×10
-6K
-1以上がより好ましく、8.0×10
-6K
-1以上がさらに好ましく、8.5×10
-6K
-1以上が特に好ましい。例えば、本発明のガラスセラミックス組成物を歯科用調整材に使用する場合に、焼結を複数回繰り返したとしても変形等の欠陥の発生をより効果的に抑制できる。
【0041】
また、複数回の焼結による変形等の欠陥の発生を抑制するためには、複数回の焼結によっても焼結体の熱膨張係数の変動が小さい必要がある。したがって、第1の熱膨張係数と第2の熱膨張係数との差が小さいことが好ましい。具体的には、第1の熱膨張係数と第2の熱膨張係数との差(絶対値)は、例えば0.6×10
-6K
-1未満であり、0.5×10
-6K
-1未満が好ましく、0.4×10
-6K
-1以下がより好ましく、0.3×10
-6K
-1以下がさらに好ましく、0.1×10
-6K
-1以下が特に好ましい。
【0042】
本発明のガラスセラミックス組成物によれば、破壊靭性に優れる焼結体が得られる。本発明のガラスセラミックス組成物をφ13mm×7mmの円筒状の金型を用いて形成した成形体を、昇温速度30℃/分で適正焼結温度まで昇温し、その温度で60秒間保持した後、室温まで冷却することにより得られる焼結体について、JIS R 1607(2015)のIF法に準拠した、押込荷重49N、荷重印加速度70μm/秒、保持時間15秒の条件にて、押込み後3分経過したときの圧こん及びき裂長さから求められる破壊靭性(試験回数5回の平均値)は、0.80MPam
1/2以上が好ましく、1.00MPam
1/2以上がより好ましく、1.20MPam
1/2以上がさらに好ましく、1.25MPam
1/2以上が特に好ましい。本発明のガラスセラミックス組成物を焼結体とした際の上記破壊靭性が前記範囲に含まれることによって、例えばガラスセラミックス組成物を歯科用調整材として使用する場合、十分な耐久性を確保できる。破壊靱性は、具体的には後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
次に、ガラスセラミックス組成物の製造方法の一例について説明する。
【0044】
まず、目的とするガラスセラミックス組成物のシリケートガラスを構成する各成分に対応する酸化物等の原料を準備する。次に、これらの原料を乾燥させた後、組成に従い秤量する。次に、これらの原料を混合し、混合物を得る。次に、例えば、混合物を高温で熔融させて、熔融体を得た後、該熔融体を冷却することによってカレットを作製する。熔融温度は、特に限定されず、1200℃以上であってもよく、1400℃以上であってもよい。
【0045】
次に、得られたカレットを粉砕した後、粉砕物を所定の粒径範囲の粒子に分別するために篩によってふるい分けする。続いて、篩を通過した粉末を前記した適正焼結温度の決定方法と同様の方法により決定される適正熱処理温度(例えば780℃未満の温度)で熱処理して、クリストバライト結晶を析出させる。当該適正熱処理温度は得られるガラスセラミックス組成物の適正焼結温度と必ずしも一致するものではないが、両者が同じかまたは近い温度となることが比較的多い。前記熱処理の時間は、特に限定されず、例えば、10分〜2時間であってもよい。これにより、所望のクリストバライト結晶を有するシリケートガラスを得ることができる。これを必要に応じてさらに粉砕し、所定の粒径範囲となるように、ふるい分けすることにより、粉末状のガラスセラミックス組成物を得ることができる。
【0046】
前記のようにして得られたガラスセラミックス組成物は、そのまま後述の歯科用調整材などに使用してもよい。さらに、前記のようにして得られたガラスセラミックス組成物には、上述の如く、当該ガラスセラミックス組成物やそれから得られる焼結体の色、蛍光性、透過率等を調整するなどの目的のため、所望により顔料及び不透明剤のうちの少なくとも1つの成分を配合し、得られた混合物について、必要に応じて所定の粒径範囲となるようにふるい分けし、顔料及び不透明剤のうちの少なくとも1つの成分を含有するガラスセラミックス組成物としてもよい。
【0047】
また、本発明の他の実施形態としては、前記したいずれかのガラスセラミックス組成物(例えば粒子状のガラスセラミックス組成物)を焼結してなる焼結体が挙げられる。当該焼結体は、ガラスセラミックス組成物を適正焼結温度で少なくとも1回焼結した焼結体であってもよい。
【0048】
前記焼結体の製造方法の一例について説明する。ガラスセラミックス組成物を、アルコール、精製水等の溶媒に混合してスラリー化させる。続いて、必要に応じて、スラリー化したガラスセラミックス組成物を所定の形状及び大きさに成形し、成形体を得る。次に、前記成形体を乾燥させた後、前記成形体を加熱して焼結することによって焼結体を製造することができる。
【0049】
本発明の他の実施形態としては、前記したいずれかのガラスセラミックス組成物からなる歯科用調整材が挙げられる。前記歯科用調整材は、実質的にガラスセラミックス組成物のみからなるものであってもよい。実質的にガラスセラミックス組成物のみからなる歯科用調整材において、歯科用調整材に含まれるガラスセラミックス組成物以外の成分の含有量は10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明の他の実施形態としては、前記したいずれかのガラスセラミックス組成物の焼結体と基材を含み、前記基材がセラミックス製コアである、歯科用補綴物が挙げられる。基材(コア)の材質としては、歯科用途で使用できるものセラミックスであれば、特に限定されず、ジルコニア系セラミックス、リチウムシリケート系セラミックス等が挙げられ、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、リチウムシリケート系セラミックスが好ましい。本発明のガラスセラミックス組成物を、他の材料(基材)に対する調整材として使用する場合、本発明のガラスセラミックス組成物の焼結体は、基材の熱膨張係数と近い範囲にある熱膨張係数を有することが好ましい。特に、本発明のガラスセラミックス組成物を歯科用調整材として使用する場合、クリストバライト結晶のα−β変態時における焼結体の熱膨張係数は、基材となるジルコニア系セラミックス、リチウムシリケート系セラミックス等の基材の熱膨張係数との差がより小さいこと(例えば、0.5×10
-6K
-1以下であること)が好ましい。
【0051】
また、本発明の他の実施形態としては、前記したいずれかのガラスセラミックス組成物からなる歯科用調整材を基材上に塗布又は築盛する工程を含み、前記基材がセラミックス製コアである、歯科用調整材の使用方法が挙げられる。前記歯科用調整材の使用方法において、前記セラミックス製コアは、リチウムシリケート系セラミックス製コアであることが好ましい。
【0052】
また、本発明の他の実施形態としては、前記したいずれかのガラスセラミックス組成物からなる歯科用調整材を基材上に塗布又は築盛する工程、及び基材と歯科用調整材とを焼結する工程を含み、前記基材がセラミックス製コアである、歯科用補綴物の製造方法が挙げられる。前記歯科用補綴物の製造方法において、前記セラミックス製コアは、リチウムシリケート系セラミックス製コアであることが好ましい。
【0053】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例】
【0054】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0055】
[実施例1〜6及び比較例1〜4]
ガラスセラミックス組成物及びそれを焼結してなる焼結体を作製し、各種物性を後記する方法で測定した。まず、シリケートガラスを構成する各成分を生成するための酸化物等の各化合物(原料)を120℃で加熱して乾燥した。次に、シリケートガラスの成分組成が表1のようになるように各化合物(原料)を秤量し、ボールミルを用いて混合し、混合物を得た。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、混合物を熔融坩堝に充填して、大気中において1500℃で熔融させて、熔融体を得た。得られた熔融体を冷却することによって、カレットを作製した。続いて、得られたカレットをボールミルを用いて粉砕した。次に、得られた粉砕物を#200メッシュ(目開き:75μm)の篩を通過させふるい分けして、粉末を得た。この粉末の一部(以下、サンプルAともいう)をサンプリングし、下記の適正焼結温度の決定方法と同様の方法により、ガラスセラミックス組成物を製造するための適性熱処理温度を求めた。結果を表2に示した。
【0058】
一方、残りの粉末の一部を耐火セラミックス製の容器内に入れ、上記のように決定した適正熱処理温度で60分間熱処理した。実施例1〜6においては、この熱処理により、クリストバライト結晶が析出し、クリストバライト結晶を有するシリケートガラスが得られた。得られたシリケートガラスをボールミルによって粉砕した。得られた粉砕物を200メッシュ(目開き:75μm)の篩を通過させることによってふるい分けして、粉末状のガラスセラミックス組成物を得た。
【0059】
この粉末状のガラスセラミックス組成物から一部(以下、サンプルBともいう)をサンプリングし、下記の方法で適正焼結温度、第1の熱膨張係数及び第2の熱膨張係数、並びに、破壊靱性を求めた。これらの結果を表2および表3に示した。なお、表2には、ガラスセラミックス組成物をX線回折法により確認した結晶系を示す。前記篩の目開きはJIS Z 8801−1−2006の公称目開きWに準拠するものである。
【0060】
[適正焼結温度の決定方法]
サンプリングした粉末(サンプルB;なお、適正熱処理温度の決定の際はサンプルAを用いる)を精製水に混合してスラリー化させた後、φ16mm×1.6mmの円筒状の金型に充填し、コンデンスと吸水を繰り返し、成形体を得た。次に、前記成形体を歯科技工用ポーセレン焼成炉(商品名:セラフュージョン BX、株式会社モリタ社製)を用いて焼結した。具体的には、前記成形体を予め450℃に保持された炉内に入れ7分乾燥させた。続いて、炉内を450℃から昇温速度45℃/分で96kPaの減圧下に、任意の特定の温度まで昇温し、その温度で60秒間大気中にて係留した。その後、即座に放冷し、室温まで放冷後に、焼き上がり状態を目視にて観察した。処理後の成形体(焼結体)の表面に光沢が出た状態(すなわち焼結に至った状態)であると共に、焼結前の形状が維持されている状態(すなわち、過剰焼結により変形が生じていない状態)の焼結体が得られた場合に、そのような状態の焼結体が得られる最低の温度を適正焼結温度とした。
【0061】
[熱膨張係数の測定方法]
熱膨張係数は、ガラスセラミックス組成物を焼結してなる焼結体を試料片に用いて、JIS T 6526(2012)に準拠して測定した。具体的には、以下の方法で測定した。
粉末状のガラスセラミックス組成物(サンプルB)を精製水に混合してスラリー化させた。その後、得られたスラリーをφ7mm×24mmの円筒状のシリコン枠に充填し、コンデンス(水分除去)と吸水を繰り返し、成形体を得た。次に、前記成形体を歯科技工用ポーセレン焼成炉(商品名:セラフュージョン BX、株式会社モリタ社製)を用いて焼結した。具体的には、前記成形体を予め450℃に保持された炉内に入れ10分乾燥させた。続いて、炉内を450℃から昇温速度30℃/分で96kPaの減圧中にて、上記のように決定した適正焼結温度まで昇温し、その温度で60秒間大気中にて係留した。その後、即座に放冷し、室温まで放冷して、1回焼結体を得た。また、同様にして得られた1回焼結体に対して、上記と同じ焼結条件でさらに3回焼結を行い、4回焼結体を得た。
次に、前記1回焼結体および4回焼結体のそれぞれに対して、研削機(ハンドグラインダー)を用いて、φ5mm×20mmの焼結体に調整し、試験片を得た。次に、前記試験片を熱機械分析装置(商品名:Thermo plus TMA8310、株式会社リガク社製)を用いて、24℃以下から5℃/分で550℃まで昇温させ、25〜500℃までの熱膨張係数を測定した。
【0062】
[破壊靭性の測定方法]
破壊靭性は、ガラスセラミックス組成物を焼結してなる焼結体を試料片に用いて、JIS R 1607(2015)のIF法に準拠して測定した。具体的には、以下の方法で測定した。
粉末状のガラスセラミックス組成物(サンプルB)を精製水に混合してスラリー化させた。その後、得られたスラリーをφ13mm×7mmの円筒形の金型に充填し、コンデンス(水分除去)と吸水を繰り返し、成形体を得た。次に、前記成形体を歯科技工用ポーセレン焼成炉(商品名:セラフュージョン BX、株式会社モリタ社製)を用いて焼結した。具体的には、前記成形体を予め450℃に保持された炉内に入れ20分乾燥させた。続いて、炉内を450℃から昇温速度30℃/分で96kPaの減圧中にて、上記のように決定した適正焼結温度まで昇温し、その温度で60秒間大気中にて係留した。その後、即座に放冷し、室温まで冷却し、焼結体を得た。
次に、前記焼結体の円形の両面を試験機の圧子取付軸に垂直に設置できるように180番のサンドペーパーで研磨した。さらにそのうちの試験面のみ、600番、1000番、1500番、2000番の順に研磨し、破壊靱性測定用の試験片を得た。
次に、前記試験片をDVK−1(松沢精機株式会社製)を用いて、JIS R 1607(2015)のIF法に準拠して、押込荷重49N、荷重印加速度70μm/秒、保持時間15秒の条件にて、押込み後3分経過したときの圧こん及びき裂長さを測定し、破壊靱性(試験回数5回の平均値)を求めた。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
比較例1ではクリストバライト結晶が観測された。しかしながら、実施例1〜6の適正焼結温度が700〜770℃であったのに対し、比較例1の適正焼結温度は820℃であり、実施例1〜6に比べて高かった。
【0066】
また、第1の熱膨張係数と第2の熱膨張係数の差については、実施例1〜6では0.0×10
-6〜0.3×10
-6K
-1であったのに対し、比較例1では0.7×10
-6K
-1であった。比較例1は、実施例1〜6に比べて熱膨張係数の変動が大きかった。
【0067】
比較例1における適正焼結温度は、上記のとおり実施例1〜6における適正焼結温度よりも高くなった。例えば、ガラスセラミックス組成物を歯科用調整材に適用する場合、ガラスセラミックス組成物は、例えば、リチウムシリケート系セラミックス材料等の基材上で焼結させることになる。したがって、基材に不具合を発生させず、かつ歯科用調整材に変形が生じないようにするためには、ガラスセラミックス組成物の適正焼結温度は低いほうが好ましい。上記のように、実施例1〜6に係るガラスセラミックス組成物は、比較例1に係るセラミックス材料よりも、適正焼結温度を低くすることができた。したがって、本発明のガラスセラミックス組成物は、例えば、歯科用調整材に好適であることが分かる。
【0068】
比較例2では非晶質であった。また、実施例1〜6の適正焼結温度が700〜770℃であったのに対し、比較例2では980℃であり、実施例1〜6に比べて高かった。さらに、実施例1〜6の破壊靱性は1.25MPam
1/2以上であったのに対し、比較例2では0.79MPam
1/2であり、実施例1〜6に比べて低かった。したがって、実施例1〜6に係るガラスセラミックス組成物は、比較例2に係るセラミックス材料よりも、歯科用調整材に好適であることが分かる。
【0069】
比較例3では非晶質であった。また、実施例1〜6の第1の熱膨張係数及び第2の熱膨張係数が5.3×10
-6〜10.5×10
-6K
-1であったのに対し、比較例3では11.3×10
-6K
-1以上であり、実施例1〜6に比べて高かった。さらに、実施例1〜6の破壊靱性は1.25MPam
1/2以上であったのに対し、比較例3では0.65MPam
1/2であり、実施例1〜6に比べて低かった。したがって、実施例1〜6に係るガラスセラミックス組成物は、比較例3に係るセラミックス材料よりも、歯科用調整材に好適であることが分かる。
【0070】
比較例4では主としてリューサイト結晶が観測された。また、実施例1〜6の第1の熱膨張係数及び第2の熱膨張係数が5.3×10
-6〜10.5×10
-6K
-1であったのに対し、比較例4では11.2×10
-6K
-1以上であり、実施例1〜6に比べて高かった。さらに、第1の熱膨張係数と第2の熱膨張係数の差について、実施例1〜6では0.0×10
-6〜0.3×10
-6K
-1であったのに対し、比較例4では0.7×10
-6K
-1であり、実施例1〜6に比べて熱膨張係数の変動が大きかった。したがって、実施例1〜6に係るガラスセラミックス組成物は、比較例4に係るセラミックス材料よりも、歯科用調整材に好適であることが分かる。
【0071】
上記の特許文献及び非特許文献の各開示を、本書に引用をもって含むものとする。本発明のガラスセラミックス組成物、焼結体、歯科用調整材、歯科用補綴物、歯科用調整材の使用方法及び歯科用補綴物の製造方法は、上記実施形態に基づいて説明されているが、上記実施形態に限定されることなく、本発明の全開示に範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素等を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の全開示の枠内において、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、置換ないし選択が可能である。