特許第6961379号(P6961379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961379
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20211025BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20211025BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20211025BHJP
【FI】
   B41J2/17
   B41J2/01 451
   B41J2/14 201
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-86281(P2017-86281)
(22)【出願日】2017年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-213871(P2017-213871A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2020年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-106528(P2016-106528)
(32)【優先日】2016年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥島 真吾
(72)【発明者】
【氏名】岩永 周三
(72)【発明者】
【氏名】刈田 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】為永 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 輝
(72)【発明者】
【氏名】森 達郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 議靖
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昭男
(72)【発明者】
【氏名】葛西 亮
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝綱
【審査官】 長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−016230(JP,A)
【文献】 特開2010−052261(JP,A)
【文献】 特開2011−178055(JP,A)
【文献】 特開2011−240521(JP,A)
【文献】 米国特許第06612673(US,B1)
【文献】 中国特許出願公開第1880075(CN,A)
【文献】 特開昭61−227059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための複数の吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数の圧力発生素子と、前記複数の吐出口に連通する複数の圧力室と、を備える液体吐出ヘッドを用いて記録を行う液体吐出装置であって、
前記圧力室の内部の液体は、前記圧力室の外部の経路に流出し、再び前記圧力室の内部に流入するように前記圧力室の内部と外部との間で循環しており、
複数の吐出口が配設される領域に対応する前記液体吐出ヘッドの領域を分割して得られる複数の分割領域に配設された加熱素子を加熱することによって当該液体吐出ヘッドの温度を制御する制御手段であって、前記複数の分割領域の夫々には、前記加熱素子を駆動するためのドライバが設けられており、前記分割領域の吐出口に対応する記録データが有るときは当該分割領域の前記加熱素子を加熱させ、記録データが無いときは当該分割領域の前記加熱素子を加熱しない制御手段
を具えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記液体吐出ヘッドは前記複数の分割領域のそれぞれに温度検出素子を備え、
前記温度検出素子の値を検出する検出手段を、さらに具え、
前記制御手段は、前記検出手段で検出された温度が所定の閾値以下の場合は、当該温度を検出した前記分割領域の加熱素子を加熱させることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記圧力発生素子は加熱をすることにより液体中に気泡を発生させ液体を吐出するために利用される前記エネルギーを発生し、
前記複数の加熱素子のそれぞれは前記圧力発生素子とは別形態の複数の加熱素子であることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記分割領域は、複数の前記圧力室、複数の前記圧力発生素子、複数の前記加熱素子が形成された記録素子基板に対応することを特徴とする請求項2または3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記分割領域は、複数の前記圧力室と、前記複数の圧力室とそれぞれ連通している複数の供給口を含む領域であることを特徴とする請求項2または3に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記分割領域は、1つの前記加熱素子を含む領域であることを特徴とする請求項2または3に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記制御手段は、記録が開始される時間から所定の時間遡ったタイミングで前記複数の加熱素子に加熱を行わせる加熱を開始することを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記吐出口の配列方向に沿った方向において前記加熱素子が配置されている数は、前記圧力発生素子が配置されている数よりも少ないことを特徴とする請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記液体吐出ヘッドは、複数の前記圧力室、複数の前記圧力発生素子、複数の前記加熱素子が形成された記録素子基板と、前記記録素子基板を支持する支持部材と、を含み、
前記記録素子基板に形成されている基板内の流路と、
前記支持部材に形成されている共通流路と、
前記基板内の流路と前記共通流路を連通する前記支持部材の連通孔と、において、前記加熱素子の数は前記連通孔の数以上に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記液体吐出ヘッドは、複数の前記圧力室、複数の前記圧力発生素子、複数の前記加熱素子が形成された記録素子基板と、前記記録素子基板を支持する支持部材と、を含み、
前記記録素子基板に形成されている複数の圧力室と連通している第1の基板内の流路と、
前記記録素子基板に形成されている複数の圧力室と連通している第2の基板内の流路と、
前記記録素子基板の第1の基板内の流路と連通する第1連通孔と、
前記記録素子基板の第2の基板内の流路と連通する第2連通孔と、において、前記加熱素子の数は前記第1連通孔および前記第2連通孔の数以上に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記第1連通孔における圧力は、前記第2連通孔における圧力よりも高いことを特徴とする請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記支持部材の熱拡散率が、前記記録素子基板の熱拡散率よりも小さいことを特徴とする請求項10または11に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
前記液体吐出ヘッドは、前記支持部材の上に複数の記録素子基板が配列されおり、隣接する前記記録素子基板の間において内包する前記圧力発生素子が記録媒体の搬送方向において重複することを特徴とする請求項12に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関し、詳しくは、液体吐出ヘッドの温度制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に代表される液体吐出装置で使用される記録ヘッドなどの液体吐出ヘッドにおけるインクなど液体の温度制御の一形態として、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、吐出口ごとの記録データに応じて、吐出が行われる吐出口と吐出が行われない吐出口とに対応するインクを加熱制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−21944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される温度制御は、その制御による目標とする温度が、通常、環境温度より高く設定されるものである。このため、その温度制御によって吐出を行わない吐出口のインクも加熱されることになり、揮発性成分などのインク成分の蒸発が促される。その結果、インクの色材濃度や粘度が増し、記録する画像の色ムラや、インクの吐出速度変化による着弾精度低下が生じ、記録画像の品位を低下させる場合がある。特に、配列する吐出口が多い、いわゆるフルラインタイプの液体吐出ヘッドにおいてこの問題が顕著になる。
【0005】
本発明の目的は、液体吐出ヘッドの温度を加熱制御する構成において、吐出口からの揮発性成分の蒸発を抑制しつつ配列する複数の吐出口について温度分布の偏りを抑制することを可能とする液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、液体を吐出するための複数の吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数の圧力発生素子と、前記複数の吐出口に連通する複数の圧力室と、を備える液体吐出ヘッドを用いて記録を行う液体吐出装置であって、前記圧力室の内部の液体は、前記圧力室の外部の経路に流出し、再び前記圧力室の内部に流入するように前記圧力室の内部と外部との間で循環しており、複数の吐出口が配設される領域に対応する前記液体吐出ヘッドの領域を分割して得られる複数の分割領域に配設された加熱素子を加熱することによって当該液体吐出ヘッドの温度を制御する制御手段であって、前記複数の分割領域の夫々には、前記加熱素子を駆動するためのドライバが設けられており、前記分割領域の吐出口に対応する記録データが有るときは当該分割領域の前記加熱素子を加熱させ、記録データが無いときは当該分割領域の前記加熱素子を加熱しない制御手段を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、液体吐出ヘッドの温度を加熱制御する構成において、吐出口からの揮発性成分の蒸発を抑制しつつ配列する複数の吐出口について温度分布の偏りを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形に係る液体吐出装置を示す斜視図である。
図2図1に示した記録ヘッドの制御構成を示すブロック図である。
図3】(a)および(b)は、本発明の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドを構成する記録素子基板を示す図である。
図4】液体吐出ヘッドの温度制御による加熱によって圧力室内のインク中に含まれる不揮発性成分濃度が時間的に変化する様子を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る温度制御を伴う記録動作を示すフローチャートである。
図6】(a)および(b)は、図5に示す温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲における加熱範囲を説明する図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る温度制御を伴う記録動作を示すフローチャートである。
図8】(a)および(b)は、図7に示す温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲に対する加熱範囲を説明する図である。
図9】本発明の第3実施形態に関し、記録が行われない白地が占める面積が比較的大きいが記録方向にわたって記録をする領域が存在する画像データの例を示す図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る温度制御を伴う記録動作を示すフローチャートである。
図11】(a)および(b)は、図10に示す温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲に対する加熱範囲を説明する図である。
図12】(a)および(b)は、本発明の第4実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける1つの圧力室周辺の構造を示す図である。
図13】(a)および(b)は、本発明の第5実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す図である。
図14】第5実施形態に係る液体吐出ヘッド内に形成されている流路を切り出して示す図である。
図15】(a)および(b)は、本発明の第5実施形態に係る液体吐出ヘッドの記録素子基板における加熱エリアと連通孔との位置関係を説明する図である。
図16】(a)および(b)は、本発明の第6実施形態に係る液体吐出ヘッド3の斜視図およびその分解図である。
図17】第6実施形態の液体吐出装置に適用されるインク経路の一形態を示す模式図である。
図18】(a)および(b)は、図18に示す温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲に対する加熱範囲を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、インク等の液体を吐出する本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置に適用可能である。さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷や半導体基板作製などの用途としても用いることができる。また、以下に述べる各実施形態は、本発明の適切な具体例であるから、技術的に好ましい様々の限定が付けられている。しかし、本発明の思想に沿うものであれば、本実施形態は、本明細書の実施形態やその他の具体的方法に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出装置を示す斜視図である。一実施形態に係る記録装置1000は、記録媒体2を搬送する搬送部1と、それぞれが記録媒体2の搬送方向と略直交して配置される液体吐出ヘッド3Bk、3C、3M、3Yとを備える。液体吐出ヘッド3Bk、3C、3M、3Yは、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各インクに対応する。以下では、それぞれのヘッドまたは4つのヘッドまとめて参照符号3で示す場合もある。各液体吐出ヘッド3は記録媒体2の幅に対応した長さを有する、いわゆるライン型の液体吐出ヘッドである。記録装置1000は搬送部1によって連続的にもしくは間欠的に搬送される記録媒体2に対してそれぞれの液体吐出ヘッド3からインクを吐出し画像などを記録する。なお、記録媒体2は、カット紙に限られず、連続したロール紙の形態の記録媒体であってもよい。以下、液体吐出ヘッドに関して、ライン型の形態で説明するが本発明はこれに限られず、記録媒体に対して移動しながら記録を行う、所謂シリアルタイプの液体吐出ヘッドにも適用可能である。
【0011】
図2は、図1に示した記録ヘッドの制御構成を示すブロック図であり、特に、図5などで後述される液体吐出ヘッド3の温度制御のための構成を示している。図2に示すように、記録装置1000は、PC等のホスト装置から送られる記録コマンドや記録データをI/F1005を介して受信し、それぞれのインク色ごとの記録データバッファ1006Bk、1006C、1006M、1006Yに一時的に格納する。そして、上記記録コマンドおよびバッファに格納された記録データに基づいて、ヘッドドライバ30Bk、30C、30M、30Yを介して、液体吐出ヘッド3Bk、3C、3M、3Yをそれぞれ駆動してインク吐出を行う。CPU1001は、上述の液体吐出ヘッドの駆動や以下に示す液体吐出ヘッドの温度制御を所定のプログラムに従って実行する。ROM1002はその実行されるプログラムなどを格納し、また、RAM1003は、上記処理実行の際のワークエリアとして使用される。
【0012】
それぞれの液体吐出ヘッド3は、図3にて後述される基板10を複数配列して構成されるものであり、それぞれの基板10には、液体吐出ヘッドの温度制御に用いられる、加熱素子5、この素子を駆動するドライバ6、温度検出素子9が設けられている。なお、図2では、これらの要素は模式的に示されており、実際の配置、サイズを示すものではない。また、液体吐出ヘッドは、複数の基板10を備えるのではなく、1枚の基板10を備えるものでも良い。記録装置1000における加熱制御部1004は、図5などで後述されるように、記録データに基づいて、液体吐出ヘッドの加熱素子5を、ドライバ6を介して駆動、制御する。また、加熱制御部1004は、温度検出素子9からの温度情報を参照して温度制御を行う。加熱制御部1004は、RAM1003に展開されたプログラムをCPU1001が実行することによって機能する。
【0013】
以下では、以上説明した基本的な構成を有する液体吐出装置における液体吐出ヘッドの温度制御に関するいくつかの実施形態について説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図3は、本発明の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドを構成する記録素子基板10を示す図であり、図3(b)は、図3(a)に示す基板における一部を拡大した図である。図1に示した液体吐出ヘッド3は、図3(a)に示す記録素子基板10を複数配列して、吐出口13が記録媒体の搬送方向に略直交する方向に配列するように構成される。すなわち、図3(a)は複数の記録素子基板のうち、1つの記録素子基板を示している。
【0015】
図3(b)に示すように、本実施形態の記録素子基板10上に、吐出口13、隔壁22が設けられた流路形成部材(不図示)が形成される。基板10上のヒータ15ごとの圧力室20およびこれらに連通する吐出口13が構成される。すなわち、本実施形態の吐出口近傍の流路構造は、ヒータ15の列の片側に設けられたインク供給口170に連通するようそれぞれの圧力室20が配置されるものである。そして、この圧力室20は、両側の隔壁22を含むコの字状の隔壁(図3(b)において右側の隔壁は不図示)によって囲まれ、インク供給口170側の一方のみが開いた形状となっている。
【0016】
図3(a)に示す記録素子基板10において、パッド16は、図2にて上述した記録装置1000のヘッドドライバ30との間で電気信号の接続を行う。これにより、記録に伴う記録データや、吐出口選択データ信号、電源電力などが記録素子基板10に供給される。記録素子基板10の中央部には、インクを各圧力室20(図3(a)では図示を省略)に供給するためのインク供給口170が設けられている。各圧力室20にはヒータ15(図3(a)では図示を省略)が配置されており、このヒータ15を記録データに応じて駆動し、加熱することにより液体中(インク中)に気泡を発生させ、その圧力で吐出口13から液体(インク)を吐出する。すなわち、ヒータ(圧力発生素子)15は吐出に利用されるエネルギーを発生する。
【0017】
記録素子基板10には、加熱素子5が配設される。この加熱素子5によって記録素子基板10およびインクを加熱、保温することができる。この加熱素子5による加熱では、インク中に気泡は発生しない。また、ドライバ6は加熱信号に応じて加熱素子5を駆動し加熱させる。また、記録素子基板10には、温度検出素子9が設けられる。温度検出素子9は、上記加熱素子5による加熱制御において基板などの温度を検知し、検知した温度を示す信号を加熱制御部1004へ供給する。本実施形態では、記録素子基板10における所定数のヒータ15(や吐出口13など)で規定される加熱エリア(「分割領域」ともいう)55が規定される。そして、この加熱エリア55ごとに図5で後述される温度制御を行う。この加熱エリア55には、図3(a)に示すように、1つの加熱素子5と1つの温度検出素子9とが設けられる。分割領域を区画する一例として、本実施形態では1つのドライバ6が配される領域を1つの領域とする。
【0018】
図4は、液体吐出ヘッドの温度制御による加熱によって圧力室内のインク中に含まれる不揮発性成分濃度が時間的に変化する様子を示す図である。図4は、吐出を行わない圧力室における変化を示している。図4に示すように、吐出動作が行われない圧力室のインクは、その温度が高いほど揮発成分の蒸発が多くなる。このため、溶媒濃度が高くなる。一方、吐出動作が行われる圧力室では、溶媒濃度が高くなる前にそのインクは吐出されるので、図4に示すような現象は生じない。液体吐出ヘッドの温度制御による加熱が、吐出動作が行われない圧力室のインクに対しても行われる場合は、インクの温度が高くなり、その結果、インクの溶媒濃度が高くなる。このため、前述したように、記録画像品位の低下をもたらす場合がある。本実施形態は、吐出動作が行われない圧力室については、加熱素子5を用いた温度制御を行わないようにする。すなわち、吐出される圧力室は所望の温度範囲に制御し、かつ吐出を行わない圧力室は加熱素子を用いた温度制御を行わないようにして、記録画質の低下を防止する。
【0019】
図5は、本発明の第1実施形態に係る温度制御を伴う記録動作を示すフローチャートである。また、図6は、図5に示す温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲に対する加熱範囲を説明する図である。
【0020】
図5において、記録が開始されると、加熱制御部1004は、記録データバッファ1006(図2)から記録データを読み込む(S101)。加熱制御部1004は、記録データのライン数をカウントし、このライン数をパラメータAの値に設定する(S102)。このラインとは、記録データのうち、記録素子基板10の1列分の吐出口に対応したデータのことである。以下では、このラインをカラムとも言う。つまり、1ラインは1カラムに対応する。なお、パラメータAは、図5のフローチャートの終了の判定において用いられる。
【0021】
次に、加熱制御部1004は、ステップS101で読み込んだ記録データの第1番目のカラムを示す値1をカラムパラメータBの値に設定する(S104)。ここまでが初期化処理である。次に、ステップS103で加熱制御部1004は、温度制御を伴う記録処理(図5では、「温調記録」と表記する)を開始する。加熱制御部1004は、パラメータB〜B+7までの8つのカラムについて記録データの有無を判断する(S105)。つまり、最初のステップS105の処理においては、第1番目のカラムから第8番目までのカラムのいずれかに記録データが有るか否かを判断する。本実施形態では、8つのカラムのことを総称してカラム範囲と呼ぶ。図6(a)を用いてカラム範囲を説明する。カラム範囲とは、複数のカラムのまとまった単位のことであり、図6(a)においては8つのカラムによって1つのカラム範囲が構成されているものとする。図6(a)に示す例では、カラム範囲#1〜#5と、カラム範囲#11〜#13に記録データが存在する(“Data有”)。ここで、1つのカラム範囲#k(ここで「k」は、任意の整数を示す)は、上記ステップS105の判断対象である8つのカラムから構成されているものであり、従って、ステップS105における記録データの有無の判断はカラム範囲ごとに行われる処理である。そして、この判断では、カラム範囲のうち、8カラムの総てでなく1カラムでも、あるいは1カラム中の一部でも記録データが存在する場合(たとえば、カラム範囲#1、#2、#3、#11参照)も、加熱制御部1004は、記録データが有ると判断する。次に、ステップS106で加熱制御部1004は、記録データが有ると判定されたカラム範囲#kについては、図6(b)に示すように、記録素子基板10の対応する加熱エリア55をイネーブル(“Enable”)と設定する。記録データが無い(“Data無”)と判定されたカラム範囲55については、ステップS107にて加熱エリア55をディスイネーブル(“Disenable”)と設定する。次に加熱制御部1004はヘッドドライバ30を制御し、記録したカラム数を表すパラメータCを初期値1として、上記判断を行った8カラムの記録を開始する制御をする(S109)。なお、イネーブルとしたカラム範囲に関して、加熱素子5の加熱による制御温度に到達までに時間を要する場合は、カラム範囲について必要な所定の時間遡ったタイミングでのカラム範囲をイネーブルと設定してもよい。
【0022】
8カラムの記録を開始すると(S109)、加熱制御部1004は、この記録に伴って、各加熱エリア55の温度検出素子9が検出する温度を取得する(S110)。そして、ステップS111で、記録対象のカラム範囲(8カラム)がステップS106でイネーブルと設定されていた場合には、加熱制御部1004は、検出温度が所定の閾値以下であるか否かを判断する。そして、検出温度が所定の閾値以下であると判断された場合は、加熱制御部1004は、それぞれの加熱エリア55の加熱素子5によって加熱を行う(S112)。一方、検出温度が所定の閾値より高い場合は、加熱制御部1004は、加熱素子5による加熱を行わない(S113)。なお、記録対象のカラム範囲がステップS107でディスイネーブルと設定されている場合は、加熱制御部1004は、各温度検出素子9の検出値にかかわらず加熱素子5を駆動させない。ステップS114では加熱制御部1004は、記録素子基板10の吐出口列について時分割駆動を行う際に、吐出口列の吐出口について全てのブロックの駆動(インク吐出)を終了したか否かを判断する。全てのブロックの駆動を終了していない場合は、ステップS110以降の処理を繰り返す。
【0023】
1カラム分の吐出口からのインク吐出動作を終了すると、加熱制御部1004は、記録したカラム数を表すパラメータCの値を1だけインクリメントし(S115)、8カラム分の記録が終了したか判断する(S116)。8カラム分の記録が終了していない場合は、ステップ109からの処理を繰り返す。完了している場合は、加熱制御部1004は、カラムパラメータBの値を1カラム範囲だけ(すなわち、8カラム分)インクリメントする(S117)。加熱制御部1004は、ステップS102で設定したパラメータAとパラメータBとを比較し、記録対象であるライン数の記録が終了したか否かを判断する(S118)。終了している場合は本記録処理を終了し、上記ライン数の記録が終了していない場合は、ステップS103以降の処理を繰り返す。
【0024】
以上説明した温度制御を行うことにより、1ラインの中に記録データが無いカラム範囲は加熱を行わないことから、その吐出が行われない吐出口からインク中の揮発性成分の蒸発することを抑制することができる。なお、本実施形態では、温度制御用にインクを発泡させ吐出させるためのヒータとは別の加熱素子を用いるものとしたが、本発明の適用はこの形態に限られない。例えば、原理的に矛盾しなければ吐出用のヒータが兼用してもよい。また、供給口に関しては複数の圧力室に対して1つの供給口が備えられる例を説明したが、複数の圧力室に対して供給口が複数に分割されて備えられる構成でも本実施形態の効果を得ることは明らかである。
【0025】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態は、1つの記録素子基板にC、M、Y、Bkインクそれぞれのインク供給口および吐出口列などが設けられた液体吐出ヘッドの温度制御に関するものである。このような記録素子基板を用いる場合、C、M、Yインクの3色のみを使用するモードや、Bkインクのみを使用するモノクロモード、全4色インクを使用するモードなどの記録モードがある。例えば、モノクロモードが実行される場合は、他の3色分の吐出口列については吐出動作が行われない。従って、吐出動作が行われない吐出口列(加熱エリア)については温度制御をする必要がない。このため、本実施形態における加熱制御部1004は、吐出動作が行われない吐出口列に該当する加熱エリア55に対応するカラム範囲を、ディスイネーブルに設定する。
【0026】
図7は、本発明の第2実施形態に係る温度制御を伴う記録動作を示すフローチャートである。また、図8は、図7に示す温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲に対する加熱範囲を説明する図である。図7において、記録が開始されると、ステップS201で加熱制御部1004は、インク色ごとに展開された記録データを読み込む。そして、ステップS202以降で加熱制御部1004は、インク色ごとに第1実施形態に係る図5に示した処理と同じ処理を行う。図8に示す例は、Bkインクのみ記録が行われるモノクロモードにおける加熱範囲を示しており、この場合、加熱制御部1004は、Bkインクの加熱エリア55がイネーブルの場合に、その加熱エリア55に対して加熱制御を行う。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、多色一体の記録素子基板を用いた液体吐出ヘッドにおいても、適切に温度制御を実行することができる。特に、記録モードに応じて、例えば、吐出動作が行われないインク色については、その吐出口列(加熱エリア)については温度制御を行わないように制御することができる。このため、その吐出口列について揮発成分の蒸発を抑制することができる。なお、本実施形態では加熱エリア55のイネーブル/ディスイネーブルは記録データの有無で判定しているが、環境温度が低い場合など所望のエリアが制御温度まで昇温しないケースもあり得る。このようなケースに対しては、記録データ有りと判定された周囲の加熱エリア55もイネーブルと設定する制御を追加してもよい。つまり、加熱制御部1004は、環境温度に応じて記録データ有りと判定された周囲の加熱エリア55もイネーブルと設定してもよい。
【0028】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態は、加熱制御部1004が、上述した各実施形態のように記録データの有無を記録動作の時系列に従って(カラム範囲ごとに)判断することに加え、記録素子基板10における加熱エリアごとにも判断する形態に関する。図9に示すように、記録が行われない白地が占める面積が比較的大きいが、記録方向(カラム配列方向)に記録をする領域900が存在する画像データを記録する場合がある。この場合、上述の各実施形態の加熱制御部1004では、領域900が存在するカラムは全てが記録データ有に対応したイネーブルに設定してしまう。この場合は、本来インクを吐出する必要のない白地が占める面積が比較的大きいにもかかわらず、加熱が行われることになる。このため、上述した各実施形態の効果を十分に得ることができない。そこで、本実施形態においては、加熱制御部1004は、記録素子基板10の吐出口配列方向に配列する複数の加熱エリア55についてもそれぞれの記録データの有無を判断し、温度制御の実行、または非実行を決定する。
【0029】
図10は、本発明の第3実施形態に係る温度制御を伴う記録動作を示すフローチャートである。また、図11は、図10に示す温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲に対する加熱範囲を説明する図である。
【0030】
本実施形態の加熱制御部1004は、カラム範囲のうちのさらにヒータ列ごと(あるいは加熱エリアごと)に記録データの有無を判断し、その判断に応じて温度制御を行うものである。以下では、図10に示すフローチャートにおいて、第1実施形態に係る図5に示す処理、または、第2実施形態に係る図7に示す処理と異なる点を説明する。まずステップS301において加熱制御部1004は、ヒータ列ごと(あるいは加熱エリアごと)に展開された記録データを読み込む。その後は、前述の実施形態と同様の処理を行う。そして、本実施形態の加熱制御部1004は、ステップS305の記録データの有無の判断において、8つのカラムからなるカラム範囲について記録データの有無を判断する。ここで加熱制御部1004は、カラム範囲のうち、記録素子基板10の吐出口列方向に配列する複数の加熱エリア55A〜55D(図11(a)参照)に対応する分割領域ごとに記録データの有無を判断する。その結果加熱制御部1004は、ステップS306、S307では、処理対象のカラム範囲のうちの分割範囲ごとにディスイネーブルまたイネーブルを設定する処理を行う(図11(b)参照)。この分割範囲ごとの判断は、加熱エリアの位置パラメータYに従って順次に行われる(S309、S308)。つまり図10には、示していないが、ステップS304の後に位置パラメータYを1に初期化する処理が行われ、ステップS305では加熱エリアYに記録データが有るか否かの判断がされる。そして、全加熱エリアに対してステップS305の判定が行われていない場合、位置パラメータYを更新してステップS305の処理が繰り返される。全ての分割範囲ごとの判断を終了すると(S309)、ステップS310以降の処理を行う.これらの処理は第1実施形態または第2実施形態で説明した処理と同様である。
【0031】
なお、同一吐出口列内でイネーブルになる領域とディスイネーブルになる領域が混在すると、低環境温度に装置が置かれる状況などではイネーブルとなっている加熱エリア55においても制御温度まで到達しない場合がある。そのような場合は、記録データが有ると判定された周囲の加熱エリア55もイネーブルに設定するステップを追加してもよい。これにより、より詳細に温度制御を実施でき、吐出口からの蒸発を効果的に抑制することが可能となる。
【0032】
(第4実施形態)
第4実施形態は、液体吐出ヘッドの構造が、上述した第1〜第3実施形態のものと異なり、液体吐出ヘッドにおいて圧力室の一方の側から他方の側へインクの流れを生じさせることで、圧力室内に貯留されるインクを循環させる構造の液体吐出ヘッドに関する。つまり本実施形態の液体吐出ヘッドは、圧力室内の液体が、この圧力室の外部との間で循環される構成の液体吐出ヘッドである。
【0033】
図12は、本実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける1つの圧力室周辺の構造を示す図であり、図12(b)は、図12(a)におけるXIIB−XIIB線断面を示している。これらの図に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッドは、ヒータ15が配設され吐出口13と連通する圧力室20の両側に、それぞれ基板内に形成された孔として供給個別流路17aと回収個別流路17bが設けられたものである。供給個別流路17aは圧力室20に対してインクを供給するための孔であり、回収個別流路17bは圧力室20からインクを排出するための孔である。これにより、特に、ヒータが駆動される吐出動作が行われていない圧力室20では、インクは供給個別流路17aから圧力室20に供給された後、回収個別流路17bを介して圧力室20からインクが排出される、インクの循環が行われる。なお、このようなインクの循環流はヒータ15が駆動されないとき発生しているが、ヒータ15が駆動されてインクを吐出する際にも継続して循環流は生じている。つまり、圧力室20内のインクが流れている状態でヒータの駆動が行われてインクを吐出させている。このような構成の液体吐出ヘッドの場合、常にフレッシュなインクを圧力室内へ供給することができるので圧力室内のインク成分を一定に保つことが可能となる。しかし、初期組成比のインクが流入してくるため、揮発性成分の比率が高い状態となり、吐出口から蒸発する量もそれだけ多くなる。その結果、液体吐出ヘッドから回収されたインクを再び液体吐出ヘッド3へ供給するという本実施形態のシステムの場合、長期間使用している間に、徐々にインク中の成分比が変化し、記録画像の品位低下を生じるおそれもある。
【0034】
そこで、本実施形態は、上述した各実施形態を同様、記録データに基づいて加熱エリア55のイネーブル/ディスイネーブルを設定し、イネーブルが設定された加熱エリア55に対応する温度検出素子9の値に基づき対応する加熱素子5のオン/オフ制御を行う。なお、記録データに基づく判定範囲に関しては記録素子基板単位でも、ヒータ列単位でも、加熱エリア単位でも適用可能である。この構成により、蒸発量が高くなる圧力室を流動するヘッド構造においても、液体吐出ヘッド全体の蒸発量を低く抑えることができ、結果として高画質な画像を記録することが可能となる。
【0035】
(第5実施形態)
図13は、本発明の第5実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す図であり、図13(b)は構成部材ごとに分解した示す図である。液体吐出ヘッド3には少なくとも記録素子基板10と流路部材210が含まれる。図13に示す例では記録素子基板10下の部材が3つの部材から構成されているが、流路部材210から記録素子基板10へインクが供給されるという目的が達成されれば構成数はいくつでもよい。図14は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド3内に形成されている流路のうち、1色分の共通供給流路211と共通回収流路212、そしてそれぞれに連通する分岐供給流路213aと213bを切り出して示す図である。
【0036】
以上のようなヘッド構造において吐出動作をすると、各分岐流路の連通孔51aを介して記録素子基板10内の個別流路にインクが流入してくる。その際に、加熱素子5により圧力室近傍のインク及び記録素子基板10を温度制御すると、それらより相対的に低い温度のインクが流入することになる。一方で、連通孔51aから流入したインクは個別流路内を流路長手方向に流動しながら記録素子基板10から伝熱されて昇温する。このため、連通孔51からの流動距離が長くなるほどインク温度は高温になる。その結果、記録素子基板10の加熱エリア55が複数の連通孔51にまたがった領域をカバーする場合は、加熱素子によって加熱されるインク温度が場所により異なる。このため、高温部ではより蒸発が促進され、同じヒータを使用しても吐出特性が異なり記録品位が低下する場合がある。
【0037】
これに対し、本実施形態では、連通孔51の位置に起因して生じる低温部と高温部の温度差を低減する制御をする。すなわち、分岐供給流路213aと連通する連通孔51aを内包する加熱エリア55aと、分岐供給流路213bと連通する連通孔51bを内包する加熱エリア55bとを個別に温度制御する。
【0038】
図15は、本発明の第5実施形態に係る液体吐出ヘッドの記録素子基板における加熱エリアと連通孔51a、51bとの位置関係を説明する図であり、図15(b)は、図15(a)に示すXVC部の拡大図である。液体供給路18内のインクが、供給個別流路17a、圧力室20、回収個別流路17bを経由して液体回収路19へ流れる。これら図に示すように、加熱エリア55内には加熱素子5と温度検出素子9とが配置されている。そして、入力される記録データに基づいて加熱エリア55についてイネーブルとディスイネーブルを設定し、対応する温度検出素子9の出力値に対して各加熱素子のオン/オフを制御する。これにより、必要箇所のみ吐出口近傍のインクを制御温度近傍で維持することができる。なお、記録データに基づく判定範囲に関しては記録素子基板単位でも、ヒータ列単位でも、加熱エリア単位でも適用可能である。本実施形態のなかであげた図には各連通孔51の間にも温度検出素子9を含む加熱エリアが配置されている。このような構成をとると制御の空間分解能が向上し、より効果が発現されるが制御回路規模とのトレードオフ関係にあるので無碍に細かくすることも避けることが望ましい。本実施形態の液体吐出ヘッドは、記録素子基板と、記録素子基板を支持する支持部材と、を含む。記録素子基板に形成されている基板内の流路と、支持部材に形成されている共通流路と、基板内の流路と共通流路を連通する支持部材の連通孔と、において、加熱素子5の数が連通孔51の数以上に配置されている。また、液体吐出ヘッドは、支持部材の上に複数の記録素子基板が配列されおり、隣接する記録素子基板間において内包する圧力発生素子が記録媒体の搬送方向において重複している。吐出口の配列方向に沿った方向において加熱素子5が配置されている数は、圧力発生素子(ヒータ15)が配置されている数よりも少ない。
【0039】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態も上記第4、第5実施形態と同様、液体吐出ヘッドの構造がインク循環式のものに関する。図16は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の斜視図およびその分解図である。液体吐出ヘッド3は、複数の記録素子基板10を直線状に、搬送される記録媒体の幅の範囲の記録をカバーするだけの数を配列したライン型の液体吐出ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92を備える。筐体80は、液体吐出ユニット支持部81および電気配線基板支持部82とから構成される。液体吐出ユニット支持部81には、ジョイントゴム100が挿入される開口83、84が設けられている。カバー部材130は、図16に示したように長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材である。液体吐出ユニット300は、複数の吐出モジュール200と、流路部材210とからなる。各記録素子基板10には、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して記録装置1000から吐出駆動信号及び吐出に必要な電力が供給される。この構成において、流路部材210の熱拡散率を記録素子基板10の熱拡散率よりも小さくする。これにより、各記録素子基板10から共通流路内を流動するインクに熱を伝え難くすることができる。その結果、各記録素子基板10の位置によらず温度を一定に保つことができ、吐出されるインクの吐出特性を均一化することが可能となる。また、加熱エリアにおいて対応する記録データの量が多い場合は対応する加熱素子5を加熱する電力を低減し、記録データの量が少ない場合は対応する加熱素子5の加熱のための電力を増加するようにしてもよい。
【0040】
図17は、本実施形態の液体吐出装置に適用されるインク経路の一形態を示す模式図である。図17に示すように、液体吐出ヘッド3は、第1循環ポンプ(高圧側)1701、第1循環ポンプ(低圧側)1702、およびバッファタンク1703等と流体的に接続することにより、上述した各吐出口に対応した圧力室におけるインク循環を生じさせる。メインタンク1706内のインクは、補充ポンプ1705によってバッファタンク1703に供給され、その後、第2循環ポンプ1704によって液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3の液体供給ユニット220に供給される。液体吐出ユニット300には、共通供給流路211、共通回収流路212、各記録素子基板と連通する個別流路215(個別供給流路213、個別回収流路214)が設けられている。なお、図17は、図示および説明の簡略化のため、1色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には必要色分の循環経路がそれぞれの液体吐出ヘッド3について設けられる。2つの第1循環ポンプ1701,1702は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を引き出してバッファタンク1703へ流す役割を有している。第1循環ポンプとしては定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましく用いられる。具体的には、チューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば、一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。
【0041】
液体吐出ヘッド3の駆動時には、第1循環ポンプ(高圧側)1701および第1循環ポンプ(低圧側)1702によって、それぞれ共通供給流路211、共通回収流路212内を一定量のインクが流れる。負圧制御ユニット230は、第2循環ポンプ1704と液体吐出ユニット300との経路の間に設けられている。記録を行う際のデューティーの差によって循環系の流量が変動した場合でも負圧制御ユニット230よりも下流側(すなわち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持するように動作する機能を有している。負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構としては、ユニットより下流側の圧力を所望の設定圧を中心として一定の範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような機構を用いてもよい。一例として、所謂「減圧レギュレーター」と同様の機構を採用することができる。第2循環ポンプ1704としては、液体吐出ヘッド3の駆動時に使用するインク循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、具体的には、ダイヤフラムポンプ等が適用可能である。また、第2循環ポンプ1704の代わりに、例えば、負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクでも適用可能である。このような循環供給を行う場合、一般的に、比較的低温のインクが液体吐出ヘッドに流入し、液体吐出ヘッドから流出するインクの温度は相対的に高温である。このように循環供給を行う液体吐出装置に適用される液体吐出ヘッドは温度変化の影響が大きいので本発明を特に有効に適用可能である。
【0042】
図17に示すように、負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの圧力調整機構のうち、相対的に高圧設定側(Hと記載)、相対的に低圧側(Lと記載)は、それぞれ液体供給ユニット220内を経由して液体吐出ユニット300内の共通供給流路211、共通回収流路212に接続されている。圧力差を有する2つの負圧調整機構に連通している各共通流路間に差圧が生じるため、液体吐出ユニット300内の総ての圧力室20内にインクの流動が生じる。
【0043】
以上の構成においても、記録を実施する際、液体吐出ヘッドの吐出口配列方向の範囲に、使用しない吐出口を配列した記録素子基板が存在し得る。本実施形態では、この記録素子基板について加熱制御を行わないようにする。
【0044】
本実施形態の温度制御は、図10に示した第3実施形態に係る温度制御と同様の処理である。図18は、第6実施形態に係る温度制御における、記録データに応じた、吐出口範囲に対する加熱範囲を説明する図である。加熱制御部1004は、各記録素子基板の吐出口列ごとに展開されたデータを読み込み、カラム範囲ごとに記録データの有無を判断する。この本実施形態の構成により、使用されない記録素子基板数が多いフルライン型インクジェット記録ヘッドにおいても、液体吐出ヘッド全体の蒸発量を低く抑えることができる。
【0045】
なお、以上の本実施形態では、圧力差発生源として2つの圧力調整機構をあげたにすぎず思想に沿うものであれば別形態の構成でもよい。
【符号の説明】
【0046】
3 液体吐出ヘッド
5 加熱素子
9 度検出素子
10 記録素子基板
13 吐出口
15 ヒータ
20 圧力室
55 加熱エリア
1000 液体吐出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16
図17
図18