特許第6961383号(P6961383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6961383
(24)【登録日】2021年10月15日
(45)【発行日】2021年11月5日
(54)【発明の名称】振動型アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/12 20060101AFI20211025BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20211025BHJP
【FI】
   H02N2/12
   G02B7/04 E
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-87516(P2017-87516)
(22)【出願日】2017年4月26日
(65)【公開番号】特開2018-186656(P2018-186656A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】島田 亮
【審査官】 三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−263769(JP,A)
【文献】 特開2003−224987(JP,A)
【文献】 特開平05−211783(JP,A)
【文献】 特開平11−089258(JP,A)
【文献】 特開2012−125070(JP,A)
【文献】 特開2014−057447(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0262031(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0089334(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/12
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動型アクチュエータであって、
電気−機械エネルギー変換素子と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子に電圧を印加することにより振動する振動体と、
前記振動体に接触し、前記振動により摩擦駆動する被駆動体と、を有し、
前記被駆動体は、前記振動体の内径側に向けて前記被駆動体の本体部から延出している第一の延出部、前記振動体の外径側に向けて前記第一の延出部から延出している第二の延出部を備え、
前記第二の延出部の端面は、前記振動体と接触し、
前記第一の延出部及び前記第二の延出部のそれぞれは、前記被駆動体の回転軸方向に弾性変形可能に構成され、
前記第一の延出部と前記端面とがなす鋭角の角度θ1は、25度以上65度以下であり、
前記第二の延出部と前記端面とがなす鋭角の角度θ2は、25度以上65度以下であり、
前記角度θ1と前記角度θ2との角度差は、10度以下である
ことを特徴とする振動型アクチュエータ。
【請求項2】
前記第一の延出部と前記第二の延出部との間に、湾曲部が配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項3】
前記被駆動体は、前記被駆動体の本体部から前記回転軸方向に延出する支持部を有し、
前記第一の延出部は、前記支持部を介して前記本体部と接続している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項4】
前記支持部は、前記本体部と接触している第一の部分と、前記第一の部分よりも前記振動体側に延出している第二の部分と、を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項5】
前記角度θ1と前記角度θ2との角度差は、3度以下である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項6】
前記回転軸方向を含む断面において、前記振動が発生していない状態における前記面の内径側の端部と前記振動により前記振動体が前記面を加圧している状態における前記内径側の端部とを結ぶ直線と、前記振動体の前記面と接触する面と、がなす鋭角の角度θinは、40度以上60度以下である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項7】
前記回転軸方向を含む断面において、前記振動が発生していない状態における前記面の外径側の端部と前記振動により前記振動体が前記面を加圧している状態における前記外径側の端部とを結ぶ直線と、前記振動体の前記面と接触する面と、がなす鋭角の角度θoutは、40度以上60度以下である
ことを特徴とする請求項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項8】
前記角度θinと前記角度θoutとの差は、6度以下である
ことを特徴とする請求項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項9】
前記角度θinと前記角度θoutとの差は、3度以下である
ことを特徴とする請求項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項10】
前記第一の延出部の厚みと前記第二の延出部の厚みとの差は、20μm以下である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項11】
前記第一の延出部は、前記振動体側に延出している請求項1から10のいずれか一項に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項12】
前記第二の延出部は、前記振動体側に延出している請求項1から11のいずれか一項に記載の振動型アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
振動型アクチュエータは、カメラレンズの駆動用などに製品応用がなされている。特許文献1には、棒状型の振動型アクチュエータが記載されている。
【0003】
図7は、特許文献1に記載の従来の棒状の振動型アクチュエータの構成を説明する模式図である。一般に、棒状型の振動型アクチュエータは、駆動振動が形成される振動体を基本構成として有し、振動体に形成された振動により、振動体と振動体に加圧接触するロータとを相対的に移動させる。
【0004】
振動体214は、少なくとも2つの弾性体201、202とそれによって挟まれる圧電素子203とを有する。効率よく振動させるため、圧電素子203は、所定の挟持力が付与されるように締め付けられている。そして、圧電素子203に電界を印加し、直交する2つの曲げ振動を振動体214に励起させることによって弾性体201上に楕円運動を発生させ、これにロータ207を圧接して摩擦力により駆動力を得る。ロータ207は、接触部207aとロータ本環207bとを有する。ロータ207を加圧バネ209で加圧させることによって、ロータ207と振動体214とが加圧接触する。
【0005】
弾性体201のロータ207の接触部207aと接触する接触面は、振動体214に形成された振動によって図7(b)の矢印方向θsに変位する。ロータ207の接触部207aは、この弾性体201の接触面の変位方向と略一致する方向に変位するように構成されている。しかし、接触部207aの外径側と内径側とで変位方向が異なるため、例えば接触部207aの外径側の変位方向を弾性体201の接触面の変位方向に合わせた場合、内径側では変位方向がずれて、図7(c)に示したように内径側が浮いた状態となることがある。この結果、接触部207aの外径側に面圧が集中し、摩耗が進んだり、摩擦損失が大きくなったりしてしまう。
【0006】
これに対して、特許文献2では、ロータの接触部の弾性体と接触する接触面全面の変位方向が、弾性体の接触面の変位方向と略一致するように、ロータの接触部の形状を工夫している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−13009号公報
【特許文献2】特開2010−263769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載のロータは、例えば、プレス加工で製造した場合、接触部の接触面の平面度は0.03mm程度が限界である。しかし、例えば、ロータ径φ10程度の場合、接触面の平面度はサブミクロンレベルでないと十分な駆動効率を得られないのに対し、接触面のバネ性を考慮すると接触部の板厚は0.05mm前後が適切な値となる。このため、平面度0.03mmで仕上がった接触面を所望の平面度となるまで研削やラップした場合、接触面が薄肉になってしまい、所望のバネ性や変位方向が得られない恐れがある。また、摩耗により接触面が消失してしまう恐れもある。
【0009】
本発明は上述の課題を鑑み、製造の簡易化及び駆動効率の安定化を図ることが可能な振動型アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面としての振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子と、前記電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子に電圧を印加することにより振動する振動体と、前記振動体に接触し、前記振動により摩擦駆動する被駆動体と、を有し、前記被駆動体は、前記振動体の内径側に向けて前記被駆動体の本体部から延出している第一の延出部、前記振動体の外径側に向けて前記第一の延出部から延出している第二の延出部を備え、前記第二の延出部の端面は、前記振動体と接触し、
前記第一の延出部及び前記第二の延出部のそれぞれは、前記被駆動体の回転軸方向に弾性変形可能に構成され、前記第一の延出部と前記端面とがなす鋭角の角度θ1は、25度以上65度以下であり、前記第二の延出部と前記端面とがなす鋭角の角度θ2は、25度以上65度以下であり、前記角度θ1と前記角度θ2との角度差は、10度以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面としての振動型アクチュエータによれば、製造の簡易化及び駆動効率の安定化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一の実施形態に係る振動型アクチュエータの断面模式図。
図2】第一の実施形態に係る移動体の接触面の断面模式図。
図3】第一の実施形態に係る振動体の振動モードを示す断面模式図。
図4】第一の実施形態に係る移動体の接触面の変位を表す模式図。
図5】第二の実施形態に係る移動体の断面模式図。
図6】第三の実施形態に係る撮像装置の斜視図。
図7】(a)従来例における振動型アクチュエータの断面模式図、(b)従来例における移動体の接触面の変位を表す模式図、(c)従来例における移動体の接触面の変位を表す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第一の実施形態)
本実施形態の振動型アクチュエータ100(以下、単に「アクチュエータ100」と呼ぶ。)の構成について、図1を参照して説明する。図1は、アクチュエータ100の構成を示す断面模式図である。アクチュエータ100は、棒状の振動体(振動子)15を用いる棒状の振動型アクチュエータである。
【0014】
アクチュエータ100は、ゴム9、加圧バネ10、ギア(出力伝達部材)11、フランジキャップ12、フランジ13、上部ナット14、振動体15、及び被駆動体(ロータ)16、を有する。振動体15は、第一の弾性体1、第二の弾性体2、電気−機械エネルギー変換素子としての圧電素子3、フレキシブルプリント基板4、シャフト5、及びナット6、を有する。第一の弾性体1、第二の弾性体2、圧電素子3及びフレキシブルプリント基板4は、シャフト5及びナット6によって、所定の挟持力が付与されるように締め付けられ、棒状の振動体15を構成している。
【0015】
圧電素子3は、2つの電極からなる電極群を少なくとも2つ(A相とB相)を有する。A相とB相のそれぞれの電極群に、フレキシブルプリント基板4を介して不図示の電源から位相の異なる交流電界が印加されると、振動体15に、直交する2つの曲げ振動が励振される。
【0016】
振動体15に励振される2つの曲げ振動について図3を参照して説明する。図3は、振動体15に励振される2つの曲げ振動の振動モードを説明する模式図である。図3では、簡略化のために、フレキシブルプリント基板4の図示を省いている。図3から、第一の弾性体1が相対的に大きく曲がる曲げ振動が生じていることが分かる。この振動モードがA相に交流電界を印加したときに発生すると仮定すると、B相に交流電界を印加した場合には紙面垂直方向に同じような振動モードが発生する。これら2つの振動モードは軸方向まわりの空間的な位相が90度ずれている。これらの印加交流電界の位相を調整することにより、2つの曲げ振動に、90度の時間的な位相差を与えることができ、その結果、振動体15の曲げ振動が軸周りに回転し、第一の弾性体1上には楕円運動が形成される。
【0017】
圧電素子3は、複数の圧電層と電極層を交互に積層して同時焼成して形成した積層圧電素子でもよいし、単板の圧電素子を複数積層して弾性体で挟み込む構成でも構わない。
【0018】
振動体15は、圧電素子3のA相の一部に、振動体の曲げ振動により歪みを生じ、正圧電効果により電荷を発生し、この電荷を検出することで振動体の振動状態のモニターするためのセンサ相を設けることが好ましい。この時の周波数に対する、A相への印加電圧とセンサ相の出力信号との位相差の関係は、共振周波数において90度となり、共振周波数より高い側の周波数では徐々にずれていく。よって、振動を励振させている時に、位相差の値を検出することで入力の周波数と振動体の共振周波数との関係をモニターすることができ、振動体の駆動を安定して行うことが可能となる。
【0019】
被駆動体(ロータ)16は、接触部7と、ロータ本環(本体部)8と、を有する。接触部7は、第一の弾性体1側の面(下方端の面)が第一の弾性体1と接触している。
【0020】
ロータ本環8はゴム9を介して加圧バネ10で加圧されている。このように加圧されることで接触部7と第一の弾性体1との間に摩擦力が生まれ、第一の弾性体1に形成される楕円運動によって接触部7を摩擦駆動して回転させる。ロータ本環8には、接触部7が固定されており、接触部7とロータ本環8とは一体で回転する。なお、ゴム9は加圧力を均一化する働きをしている。
【0021】
ロータ本環8の上部の面にはギア11が設けられ、またロータ本環8の上面には凹部が形成され、ギア11に形成された凸部と係合することで、ギア11は、ロータ本環8と一緒に回転し、振動型アクチュエータの出力を外部に伝達する。またギア11は加圧の反力を受けながらフランジキャップ12に対して滑りながら回転することで軸受の役割も果たしている。
【0022】
そして、振動型アクチュエータを取り付けるためのフランジ13及び上部ナット14により、シャフト5の位置が固定されている。またフランジ13の摩耗を防止するために、フランジキャップ12が圧入されている。
【0023】
ここで接触部7の構成について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態の被駆動体16の接触部7の構成を説明する断面模式図である。接触部7は、支持部7a、第一の延出部7b、第二の延出部7c及び接触面7dを有する。第一の延出部7b、第二の延出部7c及び接触面7dのそれぞれは、ロータ16の回転軸方向に弾性変形可能に構成されている。接触部7は、適度なバネ性を有する構造となっている。また、第一の延出部7b、第二の延出部7c及び接触面7dのそれぞれは、ロータ16の径方向にも弾性変形可能であることが好ましい。
【0024】
さらに、接触面7dの回転軸方向及び径方向の変位が周方向で一様になるように、第一の延出部7b及び第二の延出部7cのそれぞれの厚みは周方向で均一に形成されていることが好ましい。なお、本明細書において、径方向とは、ロータ16の回転軸方向と垂直な方向を示す。
【0025】
支持部7aは、ロータ本環8と接触している第一の部分と、第一の部分よりも振動体15側(振動体側)でロータ本環8と接触していない第二の部分とを有する。第二の部分は、被駆動体16の回転軸方向に伸びていることが好ましいが、必ずしも回転軸方向に伸びていなくてもよい。
【0026】
第一の延出部7bは、支持部7aを介してロータ本環8と接続しており、ロータ本環8から振動体15の内径側に延出する。ここで「ロータ本環8から延出する」は、ロータ本環8と支持部7aとの接触部分から第一の延出部7bが延出している構成と、図2に示したようにロータ本環8と接触していない支持部7aの第二の部分から第一の延出部7bが延出している場合と、を含む。第一の延出部7bは、振動体15の内径側且つ振動体15側に斜めに延出する。第二の延出部7cは、第一の延出部7bから振動体15の外径側に延出しており、且つ、第一の延出部7bと交差する方向に延出している。第一の延出部7bと第二の延出部7cとの間は、接触部7の延出方向を変更するために湾曲した湾曲部が配置されている。なお、第一の延出部7bと第二の延出部7cとの間に振動体の回転軸方向に延出する部分を設けてもよいが、製造を簡易化するためには、本実施形態のように湾曲部を設けて延出方向を変更することが好ましい。
【0027】
なお、本明細書において、「内径側」とは、回転軸方向と直交する方向であっても直交する方向でなくてもよく、回転軸方向と交差し且つ任意の位置よりもロータ16の内側に近づく向きのことである。また、本明細書において、「外径側」とは、回転軸方向と直交する方向であっても直交する方向でなくてもよく、回転軸方向と交差し且つ任意の位置よりもロータ16の外側に近づく向きのことである。
【0028】
接触面7dは、第二の延出部7cの先端形成されており、振動体15と接触する面である。接触面7dは、振動体15の接触部7と接する面と略平行な面である。なお、ここで「略平行」とは、完全に平行でなくてもよく、製造誤差又はアクチュエータ100に許容される範囲で平行からずれていても良い。
【0029】
接触部7の材料は、金属材料を用いることが好ましい。具体的な材料としては、耐摩耗性や強度、耐食性を兼ね備えたステンレス鋼が好ましく、より好ましくはSUS420J2である。また、アルミ又は鉄等の材料を用いてもよい。
【0030】
接触部7は、旋盤加工又は3Dプリンター等で製造可能であるが、加工精度、コスト等の点からプレス加工で製造することが好ましい。接触部7は、樹脂接着剤による接着、半田などの金属ろう付け、レーザー溶接、抵抗溶接等の溶接、及び、圧入又はかしめ等の機械的接合等の方法のいずれかによって、支持部7aを介してロータ本環8に固定される。支持部7aは、ロータ本環8と接触しない第二の部分を有していなくてもよいが、ロータ本環8に支持部7を固定する工程をより容易にするために、第二の部分を有しても接触部として十分な機能を発揮できるように構成することが好ましい。
【0031】
アクチュエータ100を駆動した場合の振動部7の振動状態について、図4を参照して説明する。図4(a)は振動部7の変位を説明する模式図であり、図4(b)は接触面7dの変位を説明する拡大図である。上述したように、振動体15は、図3のような振動形状をしている。また、振動体15の接触部7と接触する接触面は、図4に示すように、振動体15の駆動振動に応じた変位方向に振動する。アクチュエータ100を駆動すると、振動体15の振動に応じて接触部7もある変位方向に振動する。以降の説明では、振動体15の接触面又は接触部7の任意の位置の振動による変位方向と、振動体15の接触面とがなす角の角度を「振動角度」と呼ぶ。例えば、アクチュエータ100を駆動する前の振動体15の接触面の任意の位置と、振動体15に振動が形成された状態での振動体15の接触面の該任意の位置とを結ぶ直線と平行な方向を変位方向とする。また、変位方向と振動体15の接触面とがなす角の角度を振動体15の振動角度とする。以降の説明では、振動体15の振動角度を振動角度θsと呼ぶ。
【0032】
比較として、まず従来の接触部での振動状態について、図7(b)、図7(c)を参照して説明する。従来の接触部では、接触部の接触面の外径側の振動角度θoutと、振動体の接触面の振動角度θsと、が略一致するように設計している。しかし、従来の接触部の構成では、接触部の接触面の内径側の端部の振動角度θinと外径側の端部の振動角度θoutとの差(θin−θout)が大きいため、振動が生じると内径側が浮いた状態となる。このため、外径側に面圧が集中し、接触部の外径側の摩耗が内径側と比較して大きくなってしまう。この状態が続くと、接触部の外径側が摩耗していき、やがて接触部と振動体とが全面で接触するようになる。しかし、その後も、接触部の内径側と外径側とで振動角度差があるために、振動体と接触部の接触面との間の滑りが大きく、摩擦損失が大きいため、振動型アクチュエータの駆動効率が低下する恐れがある。
【0033】
これに対し、本実施形態の接触部7では、接触面7dの内径側の端部の振動角度θinと外径側の端部の振動角度θoutとの差が小さく、振動が生じても内径側及び外径側のどちらか一方に面圧が集中することを低減できる。これは、接触部7が、振動体15の内径側に延出している第一の延出部7bと、振動体15の外径側に延出している第二の延出部7cとを有するために生じる。これについて、具体的に説明する。
【0034】
まず、接触部が第二の延出部7cを有さない場合について考える。その場合、接触部は、ロータ本環8から振動体15の内径側に延出する延出部とその先に形成されている接触面とを有する。このような構成の場合、接触部は従来例と同じように、図7(b)、図7(c)に示したように、接触面の内径側の端部の振動角度θinが外径側の端部の振動角度θoutよりも大きく、またその差が大きいため、外径側に外圧が集中してしまう。また、接触部が第一の延出部7bを有さない場合について考える。その場合、接触部は、ロータ本環8から振動体15の外径側に延出する延出部とその先に形成されている接触面とを有する。このような構成の場合、接触部は、接触面の外径側の端部の振動角度θoutが内径側の端部の振動角度θinよりも大きく、またその差が大きいため、内径側に外圧が集中してしまう。このように、振動体15の振動によって加圧された場合に、内径側及び外径側の振動角度の挙動が、第一の延出部7bと第二の延出部7cとのそれぞれで異なる。本実施形態の接触部7では、第一の延出部7bの変位と第二の延出部7cの変位との合成が、接触面7dの内径側の端部の振動角度θin及び外径側の端部の振動角度θoutとなる。そのため、振動角度の内外径差が相殺して、結果として接触面7dの内径側の端部の振動角度θinと接触面7dの外径側の端部の振動角度θoutとの差を従来よりも小さくすることが可能となる。
【0035】
このとき、接触面7dの内径側の端部の振動角度θinと外径側の端部の振動角度θoutのそれぞれが振動体15の振動角度θsと一致するように、第一の延出部7b及び第二の延出部7cのそれぞれの延出方向を決定することが好ましい。なお、振動角度θin及び振動角度θoutと振動角度θsとは完全に一致していなくてもよく、アクチュエータ100が駆動する上で従来技術と比較して駆動効率が大きく低下しない範囲で異なっていてもよい。
【0036】
接触面7dの内径側の端部の振動角度θin及び外径側の端部の振動角度θoutのそれぞれは、振動体15の振動角度θsと合わせることを容易にするために、40度以上60度以下であることが好ましい。
【0037】
なお、振動角度θinと振動角度θoutとは同じであることが好ましいが、完全に同じでなくてもよく、好ましい範囲内であればよい。具体的には、接触面7dの振動角度θin及び振動角度θoutのそれぞれと振動体15の振動角度θsとを合わせることを容易にするために、接触面7dにおける振動角度θinと振動角度θoutとの角度差は6度以下であることが好ましい。接触面7dにおける振動角度θinと振動角度θoutとの角度差が3度以下であれば、振動角度θin、θoutを振動体15の振動角度θsと略一致させることが可能となるためより好ましい。さらに、振動体15自体にも内径側と外径側とで振動角度に差があるため、接触面7dの全域において、各位置における接触面7dの振動角度と振動体15の振動角度との差が3度以下であることが好ましい。
【0038】
また、振動体15の振動角度θsと接触面7dの振動角度との一致を容易にするために、第一の延出部7bの延出方向と接触面7dとがなす鋭角の角度θ1と、第二の延出部7cの延出方向と接触面7dとがなす鋭角の角度θ2との差は小さいことが好ましい。具体的には、角度θ1と角度θ2との差が10度以下であることが好ましく、3度以下であることがより好ましい。また角度θ1と角度θ2のそれぞれは、25度以上65度以下であることが、適度なバネ性を持たせることや、振動体の振動角度に合わせる上で好ましい。角度θ1と角度θ2の値が近い場合、第一の延出部7bの厚みと第二の延出部7cの厚みとの差は、20μm以下であることが好ましい。しかしプレス工程の制約上、第一の延出部7bの厚みと第二の延出部7cの厚みとの差が大きくなる場合は、角度θ1と角度θ2を調整し、振動角度θin、θoutを一致させることも可能である。
【0039】
本実施形態のアクチュエータ100によれば、接触部7を上述の構成にしたことにより、従来例のような面圧の集中とそれに伴う局所的な摩耗の発生を低減できる。これに伴い、接触面7dと振動体15との滑りが従来例と比較して小さくなるため、アクチュエータの駆動効率を向上することができる。さらには、接触面7dと振動体15との接触状態が、使用初期と使用後とで変化しにくく、アクチュエータ100を長寿命にでき、また、使用過程において制御性の変化を小さくすることができる。
【0040】
本実施形態の接触部7は、プレス加工で製造可能である。また、プレス加工で製造した場合でも、板金の表面ではなく、断面をラップで仕上げて接触面7dを形成することができるため、プレス加工による仕上がりの平面度を考慮せずに、所望の平面度の接触面7を有する接触部7を提供できる。そのため、本実施形態のアクチュエータ100によれば、従来よりも駆動効率を製造の簡易化及び駆動効率の安定化を図ることが可能である。また、プレス加工による仕上がりの平面度を考慮する必要がないため、加工性にも優れている。
【0041】
(第二の実施形態)
本実施形態では、第一の実施形態の被駆動体16の代わりに、接触部の構成が第一の実施形態と異なる被駆動体(ロータ)27を有する振動型アクチュエータについて、図を参照して説明する。図は、本実施形態のロータ27の構成を説明する断面模式図であり、ロータ27の接触部付近の断面を示している。なお、以降の説明では、ロータ27以外の構成は第一の実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。本実施例形態の被駆動体27は、ロータ本環(本体部)27aと接触部とが一体に構成されている。
【0042】
ロータ27は、ロータ本環(本体部)27aと、支持部27b、第一の延出部27c、第二の延出部27d及び接触面27eを備える接触部と、を有する。第一の延出部27c、第二の延出部27c及び接触面27eの構成は、第一の実施形態と同様であり、接触面27eが振動体15と摩擦接触している。第一の延出部27c、第二の延出部27c及び接触面27eのそれぞれは、回転軸方向に弾性変形可能に構成されている。
【0043】
本実施形態のロータ27は、ロータ本環27aと接触部27b〜27eとを、金属材料を旋盤によって切削加工することにより製造することができる。そのため、本実施形態の構成であれば、接触部とロータ本環の接合工程が必要ない。また切削加工による製造が可能なため、振動型アクチュエータの生産数量が少ない場合に、プレス加工よりも製造コストを低減することができる。
【0044】
ロータ27の材料としては、第一の実施形態と同様に金属材料を用いることが好ましい。具体的な材料としては、例えば、アルミニウム合金、又はステンレス鋼等の金属材料を用いる。ロータ27の材料として切削性が良好なアルミニウム合金を採用する場合は、硬質アルマイト等の処理によって耐摩耗性を高めておくことが好ましい。ロータ27の材料としてステンレス鋼を採用する場合は、加工後に焼入れによって硬度を高めることが可能なSUS420J2等のマルテンサイト系ステンレスを用いることが好ましい。
【0045】
(第三の実施形態)
第三の実施形態では、上述の振動型アクチュエータを有する電子機器の一例である撮像装置について、図6を参照して説明する。図6は、撮像装置の一例であるデジタルカメラ101の概略構造を示す斜視図である。
【0046】
デジタルカメラ101の前面には、レンズ鏡筒102が取り付けられており、レンズ鏡筒102の内部には、光軸方向に移動可能な不図示のレンズ群が配置されている。第一の実施形態の振動型アクチュエータ100は、不図示のギア列を介して、レンズ鏡筒102に配置されたレンズ群と接続しており、第一の実施形態で説明した駆動方法によってアクチュエータ100を駆動することにより、レンズ鏡筒のレンズ群を駆動する。例えば、アクチュエータ100は、ズームレンズの駆動用及び/又はフォーカスレンズの駆動用等に任意に用いることができる。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。また、その要旨の範囲内で、上述の各実施形態の構成を互いに組み合わせてもよい。
【0048】
例えば、上述の第三の実施形態では、駆動装置として第一の実施形態のアクチュエータ100を用いたが、これに限らず、第二の実施形態の振動型アクチュエータを用いてもよい。
【0049】
また、上述の各実施形態では、棒状の振動体15を有する棒状の振動型アクチュエータを例にとって説明したが、リング型の振動体を有するリング型の振動型アクチュエータにも本発明を適用することができる。リング型の振動型アクチュエータの構成については、先行文献2に詳細に記載されている。具体例としては、リング型の振動型アクチュエータの移動体の本体部に、第一の実施形態の接触部7の支持部7aが接触して、接触部7が本体部3aに固定されている構成でもよい。この場合、接触部7の接触面7dがリング型の振動型アクチュエータの振動体と接触し、接触面7を介して振動体に形成された進行性の振動波によって被駆動体としての移動体が駆動される。
【符号の説明】
【0050】
電気−機械エネルギー変換素子(圧電素子)
7 接触部
7b 第一の延出部
7c 第二の延出部
7d 接触面(端面)
8 本体部(ロータ本環)
15 振動体
16 被駆動体
100 振動型アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7